JP2011206203A - 神経再生チューブ及び神経再生チューブの製造方法 - Google Patents

神経再生チューブ及び神経再生チューブの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】耐キンク性や生体内での分解・吸収性に優れ、従来よりも神経再生能力に優れた神経再生チューブを提供する。
【解決手段】脂肪族エステル系樹脂からなり、かつ、管軸10ax方向に沿って山部12と谷部14とが連続した蛇腹構造を有する管状体10を備える神経再生チューブ1。管状体10の管壁には、管外面から管内面に通じる複数の貫通孔16が形成されている。複数の貫通孔16は、レーザ加工(例えばエキシマレーザ)によって形成された孔である。
【選択図】図1

Description

本発明は、神経の再生に用いられる神経再生チューブ及びその製造方法に関する。
事故や手術等で損傷・切断された末梢神経を再生するための神経再生チューブとして、従来、管軸方向に沿って山部と谷部とが連続した蛇腹構造を有する管状体からなる神経再生チューブが知られている(例えば、特許文献1参照。)。従来の神経再生チューブは、平均繊維径が0.05〜50μmの脂肪族ポリエステル繊維からなる。
従来の神経再生チューブによれば、蛇腹構造を有する管状体からなるため、神経再生チューブに過度の外力が加わった場合であっても折れ曲がりにくく、耐キンク性に優れる。また、脂肪族ポリエステルを材料としているため、神経再生後は、生体内での加水分解又は酵素の働きによって徐々に分解・吸収されることとなる。その結果、神経再生後に神経再生チューブを取り出すための再手術を行わなくても済む。
特開2007−167366号公報
ところで、耐キンク性や生体内での分解・吸収性に優れるだけではなく、神経を再生させる能力(以下、神経再生能力)にも優れた神経再生チューブの開発が望まれている。
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、耐キンク性や生体内での分解・吸収性に優れ、従来よりも神経再生能力に優れた神経再生チューブ及びその製造方法を提供することを目的とする。
[1]本発明の神経再生チューブ(1)は、脂肪族エステル系樹脂からなり、かつ、管軸(10ax)方向に沿って山部(12)と谷部(14)とが連続した蛇腹構造を有する管状体(10)を備え、前記管状体(10)の管壁には、管外面から管内面に通じる複数の貫通孔(16)が形成されており、前記複数の貫通孔(16)は、レーザ加工によって形成された孔であることを特徴とする。
このため、本発明の神経再生チューブによれば、蛇腹構造を有する管状体を備えるため、神経再生チューブに過度の外力が加わった場合であっても折れ曲がりにくく、耐キンク性に優れる。また、管状体が脂肪族エステル系樹脂からなるため、生体内での分解・吸収性にも優れる。
また、詳細については実施例で後述するが、本発明の神経再生チューブによれば、管状体の管壁にレーザ加工によって複数の貫通孔が形成されているため、管状体の内部で再生中の神経組織に対し、これら貫通孔を介して神経再生のために必要な栄養成分等を供給することができるようになる。その結果、管壁に貫通孔が形成されていない従来の神経再生チューブに比べて、優れた神経再生効果を得ることができる。
したがって、本発明の神経再生チューブは、耐キンク性や生体内での分解・吸収性に優れ、従来よりも神経再生能力に優れた神経再生チューブとなる。
[2]本発明の神経再生チューブ(1)においては、前記複数の貫通孔(16)は、エキシマレーザによって形成された孔であることが好ましい。
このように構成することにより、本発明の神経再生チューブは、加工精度及び加工品質の高い貫通孔が形成された、高品質の神経再生チューブとなる。
[3]本発明の神経再生チューブ(1)においては、前記管軸(10ax)に直交する仮想断面で視たときの、前記複数の貫通孔(16)が形成されている位置は、前記管軸(10ax)を中心として放射状であって、かつ、隣り合う前記貫通孔(16)が互いに等間隔となっていることが好ましい。
このように構成することにより、管状体の内部で再生中の神経組織に対し、栄養成分等を満遍なく行き渡らせることが可能となる。
[4]本発明の神経再生チューブ(1)においては、前記複数の貫通孔(16)の直径は、50μm〜200μmであることが好ましい。
詳細については実施例で後述するが、上記のように構成することにより、神経再生チューブ内へ毛細血管が侵入しやすくなる結果、耐キンク性や生体内での分解・吸収性に優れ、より一層、神経再生能力に優れた神経再生チューブを実現することができる。
[5]本発明の神経再生チューブ(1)においては、前記複数の貫通孔(16)は、前記管壁のうち前記谷部(14)に形成されていることが好ましい。
管状体の管軸(中心軸)から管壁までの距離を比べると、谷部の方が山部に比べて距離が短いことから、複数の貫通孔が谷部に形成されている方が、より管状体の内部に栄養成分等を行き渡らせ易くすることが可能となる。
[6]本発明の神経再生チューブの製造方法は、脂肪族エステル系樹脂からなり、かつ、管軸方向に沿って山部と谷部とが連続した蛇腹構造を有する管状体(10a)を準備する管状体準備工程(S1)と、前記管状体準備工程によって準備された前記管状体(10a)の管壁に、レーザ加工によって複数の貫通孔(16)を形成するレーザ加工工程(S2)とを含むことを特徴とする。
このため、本発明の神経再生チューブの製造方法によれば、脂肪族エステル系樹脂からなり、かつ、蛇腹構造を有する管状体をもとに、上記したレーザ加工工程を行うこととしていることから、上記[1]に記載した理由と同様に、本発明の神経再生チューブの製造方法によって製造された神経再生チューブは、耐キンク性や生体内での分解・吸収性に優れ、従来よりも神経再生能力に優れた神経再生チューブとなる。
[7]本発明の神経再生チューブの製造方法においては、前記レーザ加工工程(S2)で行う前記レーザ加工は、エキシマレーザ加工であることが好ましい。
このような方法とすることにより、高い加工精度及び加工品質でもって複数の貫通孔を形成することができ、結果として、高品質の神経再生チューブを製造することができる。
なお、特許請求の範囲及び本欄(課題を解決するための手段の欄)に記載した各部材等の文言下に括弧をもって付加された符号は、特許請求の範囲及び本欄に記載された内容の理解を容易にするために用いられたものであって、特許請求の範囲及び本欄に記載された内容を限定するものではない。
実施形態に係る神経再生チューブ1を説明するために示す図。 神経再生チューブ1の製造方法を説明するために示すフローチャート。 神経再生チューブ1の製造方法を模式的に示す図。 実施例1〜3及び比較例1に係る各試料のトルイジンブルー染色像を示す写真。 実施例4に係る試料のトルイジンブルー染色像を示す写真。 実施例5に係る試料のトルイジンブルー染色像を示す写真。 実施例6に係る試料のトルイジンブルー染色像を示す写真。 実施例6に係る試料のトルイジンブルー染色像を示す写真。 試験例3における各試料の軸索本数の測定結果を示す図。 試験例3における各試料の軸索総面積の測定結果を示す図。 変形例の神経再生チューブ2を説明するために示す図。
以下、本発明の神経再生チューブ及び神経再生チューブの製造方法について、図に示す実施の形態に基づいて説明する。
[実施形態]
まず、実施形態に係る神経再生チューブの構成について、図1を用いて詳細に説明する。
図1は、実施形態に係る神経再生チューブ1を説明するために示す図である。図1(a)は神経再生チューブ1の平面図であり、図1(b)は図1(a)のA−A線断面図であり、図1(c)は神経再生チューブ1の側面図であり、図1(d)は図1(a)のB−B線断面図である。
なお、図1(a)〜図1(d)においては、発明の理解を容易にするため、管状体10の直径や管壁の厚みなどをある程度誇張して表している。
実施形態に係る神経再生チューブ1は、図1に示すように、管軸(中心軸)10ax方向に沿って山部12と谷部14とが連続した蛇腹構造を有する断面円形の管状体10からなる。
管状体10は、長さが例えば15mm、管壁の厚みが例えば0.2mmに設定されている。また、管状体10は、山部12の部分の内径が例えば1.7mm、山部12の部分の外径が例えば2.1mm、谷部14の部分の内径が例えば1.5mm、谷部12の部分の外径が例えば1.9mmに設定されている。また、管状体10は、各山部12間の距離(すなわち管軸10ax方向に沿った谷部14の長さ)及び各谷部14間の距離(山部12の長さ)のそれぞれが、例えば0.8mmに設定されている。
なお、本発明の神経再生チューブにおける管状体の長さ等については、これらの数値に限定されるものではない。
管状体10は、脂肪族エステル系樹脂から構成されている。脂肪族エステル系樹脂としては、例えば、ポリ(ラクチド)類、ポリ(グリコリド)類、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)類、ポリ(乳酸)類、ポリ(グリコール酸)類、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)類、ポリカプロラクトン類、ポリカーボネート類、ポリエステルアミド類、ポリアンヒドリド類、ポリ(アミノ酸)類、ポリオルトエステル類、ポリアセタール類、ポリシアノアクリレート類、ポリエーテルエステル類、ポリ(ジオキサノン)類、ポリ(アルキレンアルキレート)類、ポリエチレングリコールとポリオルトエステルとのコポリマー、生分解性ポリウレタン混合物、その他これらの共重合体、ポリマーアロイなどの樹脂を好適に用いることができる。
管状体10の管壁には、管外面から管内面に通じる複数の貫通孔16が形成されている。複数の貫通孔16は、管壁のうち谷部14にのみ形成されており、山部12には形成されていない。複数の貫通孔16は、例えばエキシマレーザによって形成された丸孔であり、その直径は、50μm〜200μmに設定されている。
実施形態に係る神経再生チューブ1においては、図1(d)から分かるように、複数の貫通孔16は、各谷部14に、管軸10axを中心として放射状に8個ずつ形成されている。また、これら複数の貫通孔16は、隣り合う貫通孔16が互いに等間隔となっている。言い換えれば、本実施形態の場合、管軸10axを中心として45度の角度で回転した位置に、各貫通孔16が配置されている。
また、複数の貫通孔16の配置位置は、図1(a)に示すように、それぞれの谷部14ごとで分割して見たとき、管軸10axに沿って同じ位置となるように配置されている。具体的に説明すると、図1(a)の図面左端に位置する谷部14に形成されている貫通孔16の配置位置は、その右側に位置する他の谷部14に形成されている貫通孔16の配置位置と同じである。
以上のように構成された実施形態に係る神経再生チューブ1によれば、蛇腹構造を有する管状体10を備えるため、神経再生チューブ1に過度の外力が加わった場合であっても折れ曲がりにくく、耐キンク性に優れる。また、管状体10が脂肪族エステル系樹脂からなるため、生体内での分解・吸収性にも優れる。
また、実施形態に係る神経再生チューブ1によれば、管状体10の管壁にレーザ加工によって複数の貫通孔16が形成されているため、管状体10の内部で再生中の神経組織に対し、これら貫通孔16を介して神経再生のために必要な栄養成分等を供給することができるようになる。その結果、管壁に貫通孔が形成されていない従来の神経再生チューブに比べて、優れた神経再生効果を得ることができる。
したがって、実施形態に係る神経再生チューブ1は、耐キンク性や生体内での分解・吸収性に優れ、従来よりも神経再生能力に優れた神経再生チューブとなる。
実施形態に係る神経再生チューブ1においては、複数の貫通孔16は、エキシマレーザによって形成された孔であるため、加工精度及び加工品質の高い貫通孔が形成された、高品質の神経再生チューブとなる。
実施形態に係る神経再生チューブ1においては、管軸10axに直交する仮想断面で視たときの、複数の貫通孔16が形成されている位置は、管軸10axを中心として放射状であって、かつ、隣り合う貫通孔16が互いに等間隔となっている。これにより、管状体10の内部で再生中の神経組織に対し、栄養成分等を満遍なく行き渡らせることが可能となる。
実施形態に係る神経再生チューブ1においては、複数の貫通孔16の直径は、50μm〜200μmである。これにより、神経再生チューブ1内へ毛細血管が侵入しやすくなる結果、耐キンク性や生体内での分解・吸収性に優れ、より一層、神経再生能力に優れた神経再生チューブを実現することができる。なお、詳細については実施例で後述する。
実施形態に係る神経再生チューブ1においては、複数の貫通孔16は、管壁のうち谷部14に形成されている。管状体10の管軸(中心軸)10axから管壁までの距離を比べると、谷部14の方が山部12に比べて距離が短いことから、複数の貫通孔16が谷部14に形成されている方が、より管状体10の内部に栄養成分等を行き渡らせ易くすることが可能となる。
次に、神経再生チューブ1の製造方法について、図2及び図3を用いてさらに詳細に説明する。
図2は、神経再生チューブ1の製造方法を説明するために示すフローチャートである。
図3は、神経再生チューブ1の製造方法を模式的に示す図である。図3(a)は管状体準備工程S1によって準備される管状体10aを示す図であり、図3(b)はレーザ加工工程S2によって作製された管状体10(神経再生チューブ1)を示す図である。
神経再生チューブ1は、図2に示すように、管状体準備工程S1及びレーザ加工工程S2を行うことにより製造することができる。以下、これら各工程を順に説明する。
1.管状体準備工程S1
まず、図3(a)に示すように、脂肪族エステル系樹脂からなり、かつ、管軸方向に沿って山部と谷部とが連続した蛇腹構造を有する管状体10aを準備する。
2.レーザ加工工程S2
次に、管状体10aを所定の冶具(図示せず。)で固定した後、エキシマレーザ加工装置(図示せず。)を用いて、管状体10aの管壁に複数の貫通孔16を形成し、図3(b)に示す管状体10を作製する。
以上の工程を行うことにより、神経再生チューブ1を製造することができる。
実施形態に係る神経再生チューブの製造方法によれば、上記した管状体10aをもとにレーザ加工工程S2を行うこととしていることから、上述の製造方法によって製造された神経再生チューブ1は、耐キンク性や生体内での分解・吸収性に優れ、従来よりも神経再生能力に優れた神経再生チューブとなる。
実施形態に係る神経再生チューブの製造方法においては、レーザ加工工程S2で行うレーザ加工は、エキシマレーザ加工であるため、高い加工精度及び加工品質でもって複数の貫通孔16を形成することができ、結果として、高品質の神経再生チューブを製造することができる。
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明の神経再生チューブが従来の神経再生チューブ(管壁に貫通孔が形成されていない神経再生チューブ)に比べて、確かに優れた神経再生効果を得ることができることをより具体的に説明する。なお、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
[試験例1]
試験例1は、管状体全体に形成される貫通孔の数が神経再生効果に与える影響を評価するための試験である。当該評価を行うにあたっては、管状体の長さ1cmあたりに形成する貫通孔の数を、約20個、約40個、約80個の3段階で変更した試料(実施例1〜3に係る試料)と、管壁に貫通孔が形成されていない試料(比較例1に係る試料)とを準備し、各試料のトルイジンブルー染色像を観察することにより、貫通孔の数が神経再生効果に与える影響を評価した。
(1)試料の作製
まず、ポリ乳酸からなり、かつ、管軸方向に沿って山部と谷部とが連続した蛇腹構造を有する断面円形の管状体を複数本準備した。このとき準備した管状体は、長さ15mm、管壁の厚み0.2mm、山部の部分の内径1.7mm、山部の部分の外径2.1mm、谷部の部分の内径1.5mm、谷部の部分の外径1.9mm、各山部間の距離(管軸方向に沿った谷部の長さ)0.8mmに設定されたものである。
次に、エキシマレーザ加工装置を用いて、管状体の管壁のうち谷部の部分に複数の貫通孔を形成した。1つの谷部に形成する貫通孔の位置及び数については、実施形態で説明した神経再生チューブ1(管状体10)の場合と同様、管軸を中心として45度の配置間隔で放射状に8個形成した。
このとき、約20個/cmの貫通孔が形成された神経再生チューブを実施例1に係る試料とし、約40個/cmの貫通孔が形成された神経再生チューブを実施例2に係る試料とし、約80個/cmの貫通孔が形成された神経再生チューブを実施例3に係る試料とした。これら実施例1〜3に係る試料を、それぞれ2本ずつ作製した。これとは別に、貫通孔が形成されていない神経再生チューブを1本準備し、これを比較例1に係る試料とした。
(2)試験方法
まず、8週齢のSDラット(Sprague−Dawley rat)を計7匹用意し、各ラットの右側坐骨神経の一部を切除し、各試料の両端部に神経断端を各々1mm程度挿入して縫合糸で縫合固定した。次に、埋植から4週間経過後、各ラットから試料を取り出し、2.5%グルタールアルデヒド及び2.0%オスミウム酸で固定してエポン包埋した後、各試料の中央部分の横断面切片(管軸に直交するように切断したもの)を作製した。そして、当該切片に対しトルイジンブルー染色を行って染色像を光学顕微鏡で観察した。
(3)試験結果
図4は、実施例1〜3及び比較例1に係る各試料のトルイジンブルー染色像を示す写真(倍率40倍)である。図4(a)は実施例1のトルイジンブルー染色像であり、図4(b)は実施例2のトルイジンブルー染色像であり、図4(c)は実施例3のトルイジンブルー染色像であり、図4(d)は比較例1のトルイジンブルー染色像である。
実施例1〜3に係る試料においては、図4(a)〜図4(c)から分かるように、管内部に組織の形成が見られた。一方、比較例1に係る試料においては、図4(d)から分かるように、管内部に組織の形成は見られなかった。これより、管状体の管壁に貫通孔が形成されていると、管内部に組織が形成される(形成されやすい)ことが確認できた。
また、実施例1〜3に係る試料のトルイジンブルー染色像を比較してみると、実施例1(約20個/cmの貫通孔)よりも実施例2(約40個/cmの貫通孔)の方が管内部に形成される組織の太さが太く、実施例2よりも実施例3(約80個/cmの貫通孔)の方が管内部に形成される組織の太さが太かった。これより、管状体全体に形成される貫通孔の数が多いほど、組織を再生させる効果が大きいことが確認できた。
[試験例2]
試験例2は、貫通孔の大きさが神経再生効果に与える影響を評価するための試験である。当該評価を行うにあたっては、貫通孔の直径を、50μm、100μm、200μmの3段階で変更した試料(実施例4〜6に係る試料)と、管壁に貫通孔が形成されていない試料(比較例2に係る試料)とを準備し、各試料のトルイジンブルー染色像を観察するとともに、後述する表1に示す4項目(軸索の本数、軸索の総面積、軸索の平均短径及び神経束の面積)をそれぞれ計測した計測結果より、貫通孔の大きさが神経再生効果に与える影響を評価した。
(1)試料の作製
まず、ポリ乳酸からなり、かつ、管軸方向に沿って山部と谷部とが連続した蛇腹構造を有する断面円形の管状体を複数本準備した。管状体の長さ等については、試験例1で説明した数値と同じであるため、説明は省略する。
次に、エキシマレーザ加工装置を用いて、管状体の管壁のうち谷部の部分に複数の貫通孔を形成した。1つの谷部に形成する貫通孔の配置については、実施形態で説明した神経再生チューブ1(管状体10)の場合と同様、管軸を中心として45度の配置間隔で放射状に8個形成した。また、管状体全体に形成される貫通孔の数は、約80個/cmとした。
このとき、直径50μmの貫通孔が形成された神経再生チューブを実施例4に係る試料とし、直径100μmの貫通孔が形成された神経再生チューブを実施例5に係る試料とし、直径200μmの貫通孔が形成された神経再生チューブを実施例6に係る試料とした。これら実施例4〜6に係る試料を、それぞれ2本ずつ作製した。これとは別に、貫通孔が形成されていない神経再生チューブを2本準備し、これを比較例2に係る試料とした。
(2)試験方法
まず、8週齢のSDラットを計8匹用意し、各ラットの坐骨神経の一部を切除し、各試料の両端部に神経断端を各々1mm程度挿入して縫合糸で縫合固定した。次に、埋植から8週間経過後、各ラットから試料を取り出し、2.5%グルタールアルデヒド及び2.0%オスミウム酸で固定してエポン包埋した後、各試料の中央部分の横断面切片を作製した。そして、当該切片に対しトルイジンブルー染色を行って染色像を光学顕微鏡で観察した。
また、各試料のトルイジンブルー染色像を、光学顕微鏡に装着したCCDカメラで撮影してパーソナルコンピューターに取り込んだ後、画像解析ソフトを使用して神経再生チューブ内における「軸索の本数」、「軸索の総面積」、「軸索の平均短径」及び「軸索以外の組織を含む再生神経束の面積(以下、単に神経束の面積と略す)」の4項目について計測した。
(3)試験結果
図5は、実施例4に係る試料のトルイジンブルー染色像を示す写真である。図5(a)は実施例4における第1検体のトルイジンブルー染色像(倍率40倍)であり、図5(b)は実施例4における第2検体のトルイジンブルー染色像(倍率40倍)であり、図5(c)は図5(a)の白矢印で示す部分の拡大写真であり、図5(d)は図5(c)の要部拡大写真である。
図6は、実施例5に係る試料のトルイジンブルー染色像を示す写真である。図6(a)は実施例5における第1検体のトルイジンブルー染色像(倍率40倍)であり、図6(b)は実施例5における第2検体のトルイジンブルー染色像(倍率40倍)であり、図6(c)は図6(b)の白矢印で示す部分の拡大写真であり、図6(d)は図6(c)の要部拡大写真である。
図7及び図8は、実施例6に係る試料のトルイジンブルー染色像を示す写真である。図7は実施例6における第1検体のトルイジンブルー染色像を示す写真であって、図7(a)は第1検体のトルイジンブルー染色像(倍率40倍)であり、図7(b)は図7(a)の白矢印で示す部分の拡大写真であり、図7(c)は図7(b)の要部拡大写真である。図8は実施例6における第2検体のトルイジンブルー染色像を示す写真であって、図8(a)は第2検体のトルイジンブルー染色像(倍率40倍)であり、図8(b)は図8(a)の白矢印で示す部分の拡大写真であり、図8(c)は図8(b)の要部拡大写真である。
表1は、試験例2における各試料の測定結果を示す表である。
実施例4に係る試料(直径50μmの貫通孔)においては、図5(a)及び図5(b)から分かるように、第1検体については管内部に組織の形成が見られ、第2検体については組織の再生が見られなかった。管内部に組織の形成が見られた第1検体について、図5(d)からも分かるように、断面丸形状の髄鞘が複数確認できることから、管内部に形成された組織は神経組織であると考えられる。
実施例5に係る試料(直径100μmの貫通孔)においては、図6(a)及び図6(b)から分かるように、第1及び第2検体の両方に組織の形成が見られた。第1検体について見ると、図6(d)からも分かるように、断面丸形状の髄鞘が複数確認できることから、管内部に形成された組織は神経組織であると考えられる。なお、図示による説明は省略するが、第2検体についても同様に髄鞘が複数確認できたことから、管内部に形成された組織は神経組織であると考えられる。
また、実施例4及び5に係る試料について、管内部に形成された神経組織の太さを比較してみると、図5及び図6並びに表1から分かるように、実施例5に係る試料(直径100μmの貫通孔)の方が実施例4に係る試料(直径50μmの貫通孔)に比べて、管内部に形成される神経組織の太さが太かった。
実施例6に係る試料(直径200μmの貫通孔)においては、図7(a)及び図8(a)から分かるように、第1及び第2検体の両方に組織の形成が見られた。第1検体について見ると、図7(c)に示すように、確認できる髄鞘の数は少なかった。この理由としては、管内部に肉芽組織が比較的多く侵入したことにより、その肉芽組織の侵入が神経組織の再生に何らかの影響を及ぼした可能性が考えられる。一方、第2検体について見ると、図8(c)からも分かるように、断面丸形状の髄鞘が複数確認できることから、管内部に形成された組織は神経組織であると考えられる。
また、実施例4及び6に係る試料(実施例6については第2検体)について、管内部に形成された神経組織の太さを比較してみると、図5、図7及び図8並びに表1から分かるように、実施例6に係る試料(直径200μmの貫通孔)の方が実施例4に係る試料(直径50μmの貫通孔)に比べて、管内部に形成される神経組織の太さが太かった。
一方、比較例2に係る試料においては、再生神経の架橋は見られなかった。
以上より、直径50〜200μmの貫通孔が形成されていると、管内部に神経組織が再生されることが確認できた。また、貫通孔の直径を50μm、100μm、200μmの3段階としたときには、直径100μmの貫通孔が形成された神経再生チューブが最も神経再生能力に優れることが確認できた。
[試験例3]
試験例3は、貫通孔の大きさが神経再生効果に与える影響を評価するための試験である。当該評価を行うにあたっては、貫通孔の直径を、50μm、100μm、200μmの3段階で変更した試料(実施例7〜9に係る試料)を準備し、軸索の本数及び軸索の総面積の計測結果より、貫通孔の大きさが神経再生効果に与える影響を評価した。
(1)試料の作製
試料の作製手順については、上述した試験例2の場合と同様であるため、詳細な説明は省略する。実施例7〜9に係る試料を、それぞれ5本ずつ作製した。
(2)試験方法
まず、8週齢のSDラットを計15匹用意し、各ラットの坐骨神経の一部を切除し、各試料の両端部に神経断端を各々1mm程度挿入して縫合糸で縫合固定した。次に、埋植から12週間経過後、各ラットから試料を取り出し、2.5%グルタールアルデヒド及び2.0%オスミウム酸で固定してエポン包埋した後、各試料の中央部分の横断面切片を作製し、当該切片に対しトルイジンブルー染色を行った。そして、各試料のトルイジンブルー染色像を、光学顕微鏡に装着したCCDカメラで撮影してパーソナルコンピューターに取り込んだ後、画像解析ソフトを使用して神経再生チューブ内における「軸索の本数」及び「軸索の総面積」の2項目について計測した。
(3)試験結果
表2は、試験例3における各試料の軸索本数の測定結果を示す表である。
表3は、試験例3における各試料の軸索総面積の測定結果を示す表である。
図9は、試験例3における各試料の軸索本数の測定結果を示す図である。
図10は、試験例3における各試料の軸索総面積の測定結果を示す図である。
まず、表2及び表3から分かるように、実施例7〜9に係る試料のいずれの検体においても軸索の存在を確認できた。
また、軸索本数(平均軸索本数)で比較すると、表2及び図9から分かるように、実施例8に係る試料(直径100μmの貫通孔)の数値が最も多く、実施例7に係る試料(直径50μmの貫通孔)と実施例9に係る試料(直径200μmの貫通孔)とは平均軸索本数でみると同程度であった。
また、軸索総面積(平均軸索総面積)で比較すると、表3及び図10から分かるように、実施例8に係る試料(直径100μmの貫通孔)の数値が最も大きく、実施例9に係る試料(直径200μmの貫通孔)の数値が2番目に大きく、実施例7に係る試料(直径50μmの貫通孔)の数値は最も小さかった。
以上より、直径50〜200μmの貫通孔が形成されていると、管内部に神経組織が再生されることが確認できた。また、貫通孔の直径を50μm、100μm、200μmの3段階としたとき、軸索本数及び軸索総面積の観点で見ると、直径100μmの貫通孔が形成された神経再生チューブが最も神経再生能力に優れることが確認できた。
以上、本発明の神経再生チューブ及び神経再生チューブの製造方法を上記の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
(1)上記実施形態においては、図1(a)及び図1(b)に示したように、複数の貫通孔16の配置位置は、それぞれの谷部14ごとで分割して見たとき、管軸10axに沿って同じ位置となるように配置されている場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
図11は、変形例の神経再生チューブ2を説明するために示す図である。図11(a)は神経再生チューブ2の平面図であり、図11(b)は図11(a)のC−C線断面図であり、図11(c)は図11(a)のD−D線断面図である。なお、図11(a)〜図11(c)においては図1の場合と同様、発明の理解を容易にするため、管状体20の直径や管壁の厚みなどをある程度誇張して表している。
変形例の神経再生チューブ2においては、図11(a)に示すように、複数の貫通孔26の配置位置は、それぞれの谷部24ごとで分割して見たときに1つおきに同じ位置となるように(言い換えれば、互い違いになるように)配置されている。具体的に説明すると、図11(a)の図面左端に位置する谷部24に形成されている貫通孔26の配置位置は、図11(b)のC−C断面で示す谷部24に形成されている貫通孔26とは、管軸20axを中心として例えば22.5度回転した位置関係となっており、図11(c)のD−D断面で示す谷部24に形成されている貫通孔26とは同じ位置関係となっている。
このように、各谷部に形成される複数の貫通孔の配置位置は、それぞれの谷部ごとで分割して見たときに必ずしも同じ位置関係となっていなくてもよい。
(2)上記実施形態においては、各谷部に形成される貫通孔の数が8個である場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。各谷部に形成される貫通孔の数は、7個以下であってもよいし9個以上であってもよい。また、上記実施形態においては、丸孔の貫通孔を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば平面視楕円形の長丸孔であってもよいし、平面視多角形の角孔であってもよい。
(3)上記実施形態においては、複数の貫通孔が谷部にのみ形成されており、山部に形成されていない場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、山部にのみ複数の貫通孔が形成されていてもよいし、谷部と山部の両方に複数の貫通孔が形成されていてもよい。
(4)上記実施形態においては、図1(a)に示したように、各山部が独立して配置されている場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、管状体の管壁に沿って螺旋状に山部が配置されていてもよい。また、山部の外面形状については、図1(a)に示すような丸みを帯びた形状に限定されるものではなく、例えば三角状に尖った形状など、他の形状であってもよい。谷部の外面形状についても同様に、図1(a)に示す形状に限定されるものではなく、他の形状であってもよい。
(5)上記実施形態においては、円管である管状体を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、断面四角形の角管であってもよい。
(6)上記実施形態においては、複数の貫通孔が、エキシマレーザによって形成された孔である場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば炭酸ガスレーザ、YAGレーザ又は半導体レーザによって形成された孔であってもよい。
1,2 神経再生チューブ
10,10a,20 管状体
10ax,20ax 管軸
12,22 山部
14,24 谷部
16,26 貫通孔

Claims (7)

  1. 脂肪族エステル系樹脂からなり、かつ、管軸(10ax)方向に沿って山部(12)と谷部(14)とが連続した蛇腹構造を有する管状体(10)を備え、
    前記管状体(10)の管壁には、管外面から管内面に通じる複数の貫通孔(16)が形成されており、
    前記複数の貫通孔(16)は、レーザ加工によって形成された孔であることを特徴とする神経再生チューブ(1)。
  2. 請求項1に記載の神経再生チューブにおいて、
    前記複数の貫通孔(16)は、エキシマレーザによって形成された孔であることを特徴とする神経再生チューブ(1)。
  3. 請求項1又は2に記載の神経再生チューブにおいて、
    前記管軸(10ax)に直交する仮想断面で視たときの、前記複数の貫通孔(16)が形成されている位置は、
    前記管軸(10ax)を中心として放射状であって、かつ、隣り合う前記貫通孔(16)が互いに等間隔となっていることを特徴とする神経再生チューブ(1)。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の神経再生チューブにおいて、
    前記複数の貫通孔(16)の直径は、50μm〜200μmであることを特徴とする神経再生チューブ(1)。
  5. 請求項1〜4のいずれか一項に記載の神経再生チューブにおいて、
    前記複数の貫通孔(16)は、前記管壁のうち前記谷部(14)に形成されていることを特徴とする神経再生チューブ(1)。
  6. 脂肪族エステル系樹脂からなり、かつ、管軸方向に沿って山部と谷部とが連続した蛇腹構造を有する管状体(10a)を準備する管状体準備工程(S1)と、
    前記管状体準備工程によって準備された前記管状体(10a)の管壁に、レーザ加工によって複数の貫通孔(16)を形成するレーザ加工工程(S2)とを含むことを特徴とする神経再生チューブの製造方法。
  7. 請求項6に記載の神経再生チューブの製造方法において、
    前記レーザ加工工程(S2)で行う前記レーザ加工は、エキシマレーザ加工であることを特徴とする神経再生チューブの製造方法。
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