JP2011200918A - 交流非消耗電極アーク溶接制御方法 - Google Patents

交流非消耗電極アーク溶接制御方法 Download PDF

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督士 藤井
Tomoyuki Kamiyama
智之 上山
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Abstract

【課題】交流非消耗電極アーク溶接において、母材表面の酸化皮膜の状態、母材の温度、シールドガスのシールド状態等の溶接条件に影響されることなくアーク長を適正値に維持すること。
【解決手段】電極マイナス極性期間Ten及び電極プラス極性期間Tepを1周期とする交流の溶接電圧Vwを検出して処理し、この溶接電圧処理値が予め定めた電圧設定値と等しくなるように溶接トーチの高さを制御してアーク長Laを一定値に維持する交流非消耗電極アーク溶接制御方法において、前記溶接電圧処理値が、電極マイナス極性期間Tenの開始自転から切換時変動期間Tsが経過した後の定常期間Tc中における溶接電圧の平均値である。この溶接電圧処理値は溶接条件に影響されることなくアーク長を正確に検出することができるので、溶接条件によらずアーク長を適正値に維持することができる。
【選択図】 図1

Description

本発明は、交流の溶接電圧を検出して処理し、この溶接電圧処理値が予め定めた電圧設定値と等しくなるように溶接トーチの高さを制御してアーク長を一定値に維持する交流非消耗電極アーク溶接制御方法に関するものである。
交流非消耗電極アーク溶接には、交流ティグ溶接、交流プラズマアーク溶接等がある。交流非消耗電極アーク溶接では、電極にタングステン電極等の非消耗電極を使用し、アルゴンガス等のシールドガスによって大気から遮蔽した状態中で、交流の溶接電流を通電してアークを発生させて溶接を行う。交流の溶接電流は、電極マイナス極性期間中の電極マイナス極性電流と電極プラス極性期間中の電極プラス極性電流とから形成される。電極マイナス極性と電極プラス極性とが交互に繰り返されることになり、電極マイナス極性と電極プラス極性とで1周期となる。直流の非消耗電極アーク溶接では、電極マイナス極性で溶接が行われる。これは、電極プラス極性ではアークによる非消耗電極の消耗が激しいので、実用的な溶接が困難であるためである。他方、交流非消耗電極アーク溶接では主にアルミニウムの溶接に使用される。母材であるアルミニウム材の表面には酸化皮膜があり、これを除去しなければ良好な溶接を行うことができない。交流非消耗電極アーク溶接では、電極プラス極性期間中は母材表面に陰極点が形成される。この陰極点が形成されるときのエネルギーによって酸化皮膜が除去される作用(クリーニング作用)が働く。すなわち、交流非消耗電極アーク溶接では、電極プラス極性期間を設けることによってクリーニング作用を働かせて酸化皮膜を除去している。このときに、電極プラス極性期間は非消耗電極の消耗が速いので、適正なクリーニング幅を確保することができる最短期間に設定される。1周期に占める電極マイナス極性期間の時間比率は20%程度である。以下の説明では、非消耗電極のことを単に電極と記載する。
良好な溶接品質を得るためには、溶接中のアーク長が適正値に維持されている必要がある。非消耗電極アーク溶接においては、アーク長は、電極の先端と母材との距離となる。したがって、溶接開始前に、電極の先端と母材との距離が適正値となるように、溶接トーチの高さを調整する。非消耗電極アーク溶接において、溶接中にアーク長が変化する要因としては、主に2つの場合がある。第1番目としては、母材の厚さ、形状が変化したことに伴い母材の表面高さが変化する場合である。母材の表面高さが変化すると、電極との距離が変化するので、アーク長が変化することになる。第2番目としては、アークによって電極の先端が消耗して短くなり、アーク長が変化する場合である。電極の消耗の進行は、平均溶接電流値、電極マイナス極性期間の時間比率等によって異なる。このようなアーク長の変化を抑制して一定値に維持するためのトーチ高さ制御が、従来から行われている(例えば、特許文献1、2等参照)。この従来技術のトーチ高さ制御では、アーク長を溶接電圧によって検出し、この検出値から高周波ノイズを除去する処理を行った溶接電圧処理値が予め定めた電圧設定値と等しくなるように溶接トーチの高さを制御するものである。
アーク長を溶接電圧によって検出するのは、アーク長と溶接電圧とが比例関係にあるためである。直流又は交流の非消耗電極アーク溶接では、一般的に、溶接電圧の平均値を検出してトーチ高さ制御に使用することが多い。これは、高周波ノイズを除去し、アーク長の短時間の変動を平均化して安定したトーチ高さ制御系を得るためである。
また、消耗電極パルスアーク溶接の場合であるが、ピーク電圧とベース電圧とから形成される溶接電圧を検出して、ピーク電圧のみを取り出す処理を行い、このピーク電圧によってアーク長制御を行う技術が慣用されている(例えば、特許文献3等参照)。アルミニウム材に対して消耗電極パルスアーク溶接を行う場合には、電極プラス極性で行う。このために、母材表面に陰極点が形成されることになる。陰極点は、母材表面の酸化皮膜のある場所に形成されやすい性質を有している。しかし、一旦陰極点が形成されるとその部分の酸化皮膜は除去されてしまう。このために、陰極点は酸化皮膜の残っている部分を求めて高速に移動して形成されることになる。溶接品質に影響を与えるアーク長とは、消耗電極先端と母材との距離である。これに対して、溶接電圧は、陽極点と陰極点との距離に比例する。陽極点は消耗電極の先端部に形成されるが、陰極点は酸化皮膜を求めて周辺部へと異動するのでアーク長とは比例しなくなる。この問題を解決するために、大電流値のピーク電流が通電するピーク電圧を使用するようにしている。電流値が大きくなるとアークの硬直性(電極の長手軸方向にアークが発生する性質)が強くなるために、陰極点は酸化皮膜が除去されていても消耗電極の直下の母材表面に形成されることになる。この結果、アーク長と陽極点・陰極点間距離とが等しくなり、アーク長をピーク電圧で正確に検出することができるようになる。
特開昭58−148077号公報 特開2002−239728号公報 特開2003−290924号公報
図4は、交流非消耗電極アーク溶接の一般的な電流及び電圧波形図である。同図(A)は溶接電流Iwの波形を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの波形を示す。同図において、0A及び0Vよりも上側(+側)が電極マイナス極性EN時を示し、下側(−側)が電極プラス極性EP時を示す。以下、同図を参照して説明する。
同図は、時刻t1〜t2の電極マイナス極性期間Ten及び時刻t2〜t3の電極プラス極性期間Tepから形成される第n回目の周期と、時刻t3〜t4の電極マイナス極性期間Ten及び時刻t4〜t5の電極プラス極性期間Tepから形成される第n+1回目の周期とを示している。時刻t1〜t2の電極マイナス極性期間Ten中は、同図(A)に示すように、予め定めた電極マイナス極性電流Ienがアーク中を通電し、同図(B)に示すように、アーク長に比例した電極マイナス極性電圧Venが電極と母材との間に印加する。時刻t2〜t3の電極プラス極性期間Tep中は、同図(A)に示すように、予め定めた電極プラス極性電流Iepが通電し、同図(B)に示すように、アーク長とは必ずしも比例しない電極プラス極性電圧Vepが印加する。上記の電極マイナス極性電流Ienは、電流設定信号によって設定される。電極プラス極性電流Iepは、電極マイナス極性電流Ienの電流設定信号を入力とする予め定めた関数によって設定される。但し、Iep≧Ienとなるように設定される。同図では、Iep>Ienの非対象波形の場合である。電極マイナス極性期間Tenは、7〜20ms程度の範囲で予め設定される。また、電極プラス極性期間Tepは、電極マイナス極性期間Tenの20%程度を標準値として設定され、クリーニング幅を調整するためにこの時間長さが微調整される。すなわち、クリーニング幅を広くしたいときは電極プラス極性期間Tepを長くし、反対に狭くしたいときは短くする。
電極マイナス極性期間Ten中は、電極が陰極となり電極先端に陰極点が形成され、母材が陽極となり電極直下の母材表面に陽極点が形成される。したがって、電極先端と母材との距離であるアーク長と、陰極点と陽極点との距離は略等しくなるので、電極マイナス極性電圧Venとアーク長とは比例関係にある。さらに、電極マイナス極性期間Ten中は、陰極点及び陽極点の形成状態が安定しているために、電極マイナス極性電圧Venは略一定値となる。但し、極性切換時にはアーク切れを防止するために数百Vの高電圧を電極と母材との間に瞬間的に印加する。さらには、時刻t1の極性切換時には、上記の陰極点及び陽極点が新たに形成されることになるので、極性切後の短時間の間(時刻t1〜t11の間)は電極マイナス極性電圧Venの値は定常値よりも大きくなる。このために、電極マイナス極性電圧Venは、同図(B)に示すように、時刻t1に高電圧が重畳し、時刻t1〜t11の間は定常値よりも大きな値となり、時刻t11において定常値に収束する。この時刻t1〜t11の電圧値が定常値に収束するまでの期間を、切換時変動期間Tsと呼ぶことにする。
次に、電極プラス極性期間Tep中は、電極が陽極となり電極先端に陽極点が形成され、母材が陰極となり電極表面の酸化被膜上に陰極点が形成される。上述したように、陰極点は、酸化被膜をクリーニングしながら、酸化被膜を求めて電極直下から周辺部へと拘束に移動する。この結果、電極プラス極性電圧Vepは、陽極点と陰極点との距離に比例するが、電極先端と母材との距離であるアーク長とは比例しなくなる。その上に、電極プラス極性電圧Vepは、陰極点が高速に移動するのに伴いその値が変動することになる。時刻t2の極性切換時にも、アーク切れを防止するために高電圧が印加される。このために、電極プラス極性電圧Vepは、時刻t2に高電圧が重畳し、その後は陰極点の移動に伴いその値が変動している。
電極マイナス極性電圧Venは、母材表面の酸化皮膜の状態、母材の温度、シールドガスによるシールド状態等にほとんど影響されることなくアーク長と比例した値となる。このために、時刻t3〜t4の電極マイナス極性電圧Venは、時刻t1〜t2の電極マイナス極性電圧Venと等しくなる。これに対して、電極プラス極性電圧Vepは、母材表面の酸化皮膜の状態、母材の温度、シールドガスによるシールド状態等によって大きく影響を受けてその値が変動する。このために、時刻t4〜t5の電極プラス極性電圧Vepと、時刻t2〜t3の電極プラス極性電圧Vepとは変動により異なった値となる場合も多い。
従来技術におけるアーク長を一定値に維持するためのトーチ高さ制御では、電極マイナス極性電圧Ven及び電極プラス極性電圧Vepの絶対値の平均値(溶接電圧平均値)を検出し、この溶接電圧平均値が電圧設定値と等しくなるように溶接トーチの高さを制御している。しかし、上述したように、電極プラス極性電圧Vepはアーク長と関係のない値となる場合が多いので、それを含む溶接電圧平均値ではアーク長を正確に検出することができなかった。この結果、従来技術では、アーク長が母材表面の酸化被膜の状態、母材の温度、シールドガスによるシールド状態等に影響されて変動することがあった。
そこで、本発明では、母材表面の酸化被膜の状態、母材の温度、シールドガスのシールド状態等に影響されることなく常にアーク長を所定値に維持することができる交流非消耗電極アーク溶接制御方法を提供することを目的とする。
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、電極マイナス極性期間及び電極プラス極性期間を1周期とする交流の溶接電圧を検出して処理し、この溶接電圧処理値が予め定めた電圧設定値と等しくなるように溶接トーチの高さを制御してアーク長を一定値に維持する交流非消耗電極アーク溶接制御方法において、
前記溶接電圧処理値が、前記電極マイナス極性期間中の溶接電圧値である、
ことを特徴とする交流非消耗電極アーク溶接制御方法である。
請求項2の発明は、前記溶接電圧処理値が、前記電極マイナス極性期間中の溶接電圧の平均値である、
ことを特徴とする請求項1記載の交流非消耗電極アーク溶接制御方法である。
請求項3の発明は、前記溶接電圧処理値が、1周期ごとの前記電極マイナス極性期間中の溶接電圧値を、所定周期にわたって移動平均した値である、
ことを特徴とする請求項1記載の交流非消耗電極アーク溶接制御方法である。
請求項4の発明は、前記溶接電圧処理値が、1周期ごとの前記電極マイナス極性期間中の溶接電圧の平均値を、所定周期にわたって移動平均した値である、
ことを特徴とする請求項2記載の交流非消耗電極アーク溶接制御方法である。
請求項5の発明は、前記電極マイナス極性期間中の溶接電圧が、前記電極マイナス極性期間開始時点から所定期間経過した後の電極マイナス極性期間中の溶接電圧である、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の交流非消耗電極アーク溶接制御方法である。
本発明によれば、電極マイナス極性期間中の溶接電圧値によってアーク長を検出しているので、母材表面の酸化被膜の状態、母材の温度、シールドガスのシールド状態等に影響されることなくアーク長を正確に検出することができる。このために、アーク長を常に適正値に維持することができ、高品質な溶接を行うことができる。
本発明の実施の形態において、アーク長を検出するために使用する溶接電圧処理値Vfを説明するための電流及び電圧波形図である。 本発明の実施の形態に係る交流非消耗電極アーク溶接制御方法を実施するための溶接装置の概要構成図である。 図2の溶接装置を構成する溶接電源PSの詳細なブロック図である。 従来技術の交流非消耗電極アーク溶接における電流及び電圧波形図である。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施の形態において、アーク長を検出するために使用する溶接電圧処理値Vfを説明するための電流及び電圧波形図である。同図(A)は溶接電流Iwの波形を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの波形を示す。同図において、0A及び0Vよりも上側(+側)が電極マイナス極性EN時を示し、下側(−側)が電極プラス極性EP時を示す。同図は、上述した図4と同一の波形であるので、波形の説明は省略する。以下、同図を参照して説明する。
本発明の実施の形態においては、アーク長を正確に検出するために、以下の6通りの溶接電圧処理値Vfを用いる。この溶接電圧処理値Vfは、同図(B)に示す溶接電圧Vwを検出し、以下のような処理を行って算出される。
(1)電極マイナス極性電圧定常値Va
第1番目の溶接電圧処理値Vfとしての電極マイナス極性電圧定常値Vaは、同図(B)に示すように、時刻t12における電極マイナス極性電圧Venの瞬時値である。時刻t12は、電極マイナス極性期間Ten中であって、切換時変動期間Tsが経過した後の定常期間Tc中の時刻である。すなわち、電極マイナス極性電圧定常値Vaは、電極マイナス極性期間Ten中の定常状態での瞬時値となる。上述したように、電極マイナス極性期間Tenの定常期間Tc中の電圧値は、変動も小さく、かつ、アーク長と比例関係にある。これは、電極先端に形成される陰極点及び電極直下の母材表面に形成される陽極点が安定した状態にあるためである。したがって、電極マイナス極性電圧定常値Vaを使用することによって、アーク長を常に正確に検出することができる。切換時変動期間Tsは、実験によって測定されるが、1ms程度である。したがって、時刻t12としては、電極マイナス極性期間Tenの中間の時点、終了時点等として設定することができる。
(2)電極マイナス極性電圧平均値Vb
第2番目の溶接電圧処理値Vfとしての電極マイナス極性電圧平均値Vbは、同図(B)に示すように、電極マイナス極性期間Ten中における溶接電圧値Vwの平均値である。すなわち、下式となる。
Vb=(1/Ten)・∫Vw・dt
但し、積分は電極マイナス極性期間Ten中行う。電極マイナス極性期間Tenは、切換時変動期間Ts及び定常期間Tcから形成される。切換時変動期間Ts中の溶接電圧値Vwにはアーク長と比例しない電圧も含んでいるが、平均値を取ることによってその影響は小さくなる。このために、電極マイナス極性電圧平均値Vbを使用することで、アーク長を十分に正確に検出することができる。
(3)電極マイナス極性電圧定常平均値Vc
第3番目の溶接電圧処理値Vfとしての電極マイナス極性電圧定常平均値Vcは、同図(B)に示すように、電極マイナス極性期間Tenの定常期間Tc中における溶接電圧値Vwの平均値である。すなわち、下式となる。
Vb=(1/Tc)・∫Vw・dt
但し、積分は定常期間Tc中行う。切換時変動期間Tsは、実験によって設定されるが、1ms程度である。したがって、積分は、電極マイナス極性期間Tenの開始時点から切換時変動期間Tsが経過した時点から開始されて、電極マイナス極性期間Tenの終了時点で終了する。この電極マイナス極性電圧定常平均値Vcも電極マイナス極性期間Ten中の定常期間Tcにおける電圧であるので、アーク長を常に正確に検出することができる。
(4)電極マイナス極性電圧定常値の移動平均値Vaa
第n版目の周期における電極マイナス極性電圧定常値をVa(n)と記載すると、過去の所定周期m(mは2以上の整数)にわたる移動平均値Vaaは、下式となる。
Vaa=(Va(n-m+1)+…+Va(n))/m
この電極マイナス極性電圧定常値の移動平均値Vaaが、第4番目の溶接電圧処理値Vfとなる。
(5)電極マイナス極性電圧平均値の移動平均値Vba
第n版目の周期における電極マイナス極性電圧平均値をVb(n)と記載すると、過去の所定周期m(mは2以上の整数)にわたる移動平均値Vaaは、下式となる。
Vba=(Vb(n-m+1)+…+Vb(n))/m
この電極マイナス極性電圧平均値の移動平均値Vbaが、第5番目の溶接電圧処理値Vfとなる。
(6)電極マイナス極性電圧定常平均値の移動平均値Vca
第n版目の周期における電極マイナス極性電圧定常平均値をVc(n)と記載すると、過去の所定周期m(mは2以上の整数)にわたる移動平均値Vaaは、下式となる。
Vca=(Vc(n-m+1)+…+Vc(n))/m
この電極マイナス極性電圧定常平均値の移動平均値Vcaが、第6番目の溶接電圧処理値Vfとなる。
(4)〜(6)において、移動平均値を算出してトーチ高さ制御に使用することによって、制御系の安定性を向上させることができる。上記の所定周期mは、3〜20程度の範囲で適正値に設定される。この設定においては、アーク長の変動が急峻であるときは小さくし、緩慢であるときは大きくする。また、溶接トーチの高さを昇降させるモータの応答性が速いときには小さくし、遅いときには大きくする。溶接条件が決まった状態で、実験によって適正値を算出する。
図2は、本発明の実施の形態に係る交流非消耗電極アーク溶接制御方法を実施するための溶接装置の概要構成図である。以下、同図を参照して、各構成物について説明する。
溶接電源PSは、アーク3を発生させるために、図1で上述したような交流の溶接電流Iw及び交流の溶接電圧Vwを出力すると共に、トーチ昇降モータMにトーチ昇降制御信号Mcを出力する。非消耗電極アーク溶接では、定電流特性が使用されるので、溶接電源PSは、図1に示す電極マイナス極性電流Ien及び電極プラス極性電流Iepが所定値になるように制御する。
溶接トーチ4の先端にはノズル41が装着されており、この内側からシールドガス(図示は省略)が噴出している。また、溶接トーチ4の先端には電極1が、ノズル41の先端から数mm突出した状態で装着されている。電極1と母材2との間にはアーク3が発生している。電極1の先端と母材2との距離が、アーク長Laとなる。溶接を開始する前に、この電極1と母材2との距離が適正値になるように調整しておく。
トーチ昇降機構5は、溶接トーチ4を上下方向に昇降するための機構である。トーチ昇降モータMは、溶接トーチ4を上下方向に昇降させるためのモータである。このトーチ昇降モータMは、上述したように溶接電源PSからのトーチ昇降制御信号Mcによって、昇降方向及び昇降距離が制御される。すなわち、トーチ昇降モータMによって電極1と母材2との距離(アーク長La)が調整される。図示は省略するが、母材2は自動台車上に設置されており、溶接中は自動台車が予め定めた溶接速度で移動する。
図3は、上述した図2の溶接装置を構成する溶接電源PSの詳細なブロック図である。同図において、極性切換時に数百Vの高電圧を印加する回路については、図示は省略している。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
インバータ回路INVは、3相200V等の交流商用電源(図示は省略)を入力として、整流及び平滑した直流電圧を、後述する電流誤差増幅信号Eiによるパルス幅変調制御によってインバータ制御を行い、高周波交流を出力する。インバータトランスINTは、高周波交流電圧をアーク溶接に適した電圧値に降圧する。2次整流器D2a〜D2dは、降圧された高周波交流を直流に整流する。電極プラス極性トランジスタPTRは後述する電極プラス極性駆動信号Pdによってオン状態になり、溶接電源の出力は電極プラス極性EPになる。電極マイナス極性トランジスタNTRは後述する電極マイナス極性駆動信号Ndによってオン状態になり、溶接電源の出力は電極マイナス極性ENになる。リアクトルWLは、リップルのある出力を平滑する。溶接トーチ4の先端には電極1が装着されており、電極1と母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4は、トーチ昇降モータMによってその高さが制御される。アーク3中を交流の溶接電流Iwが通電し、電極1と母材2との間に交流の溶接電圧Vwが印加する。溶接電流Iwは、母材2→アーク3→電極1の方向に通電するとき(電極マイナス極性期間Tenのとき)を+側としている。また、溶接電圧Vwは、電極1を0Vとしたときの母材2の電圧を+側としている。
電極マイナス極性期間設定回路TNRは、予め定めた電極マイナス極性期間設定信号Tnrを出力する。電極プラス極性期間設定回路TPRは、予め定めた電極プラス極性期間設定信号Tprを出力する。タイマ回路TMは、上記の電極マイナス極性期間設定信号Tnr及び上記の電極プラス極性期間設定信号Tprを入力として、電極マイナス極性期間設定信号Tnrによって定まる期間中はHighレベルになり、続いて電極プラス極性期間設定信号Tprによって定まる期間中はLowレベルになり、以後これらの動作を繰り返す、タイマ信号Tmを出力する。
電極マイナス極性電流設定回路INRは、予め定めた電極マイナス極性電流設定信号Inrを出力する。電極プラス極性電流設定回路IPRは、この電極マイナス極性電流設定信号Inrを入力として、予め定めた関数によって電極プラス極性電流設定信号Iprを算出して出力する。切換回路SWは、上記のタイマ信号Tm、上記の電極マイナス極性電流設定信号Inr及び上記の電極プラス極性電流設定信号Iprを入力として、タイマ信号TmがHighレベルのときは電極マイナス極性電流設定信号Inrを電流設定信号Irとして出力し、タイマ信号TmがLowレベルのときは電極プラス極性電流設定信号Iprを電流設定信号Irとして出力する。電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwの絶対値を検出して、電流検出信号Idを出力する。電流誤差増幅回路EIは、上記の電流設定信号Irと上記の電流検出信号Idとの誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。これにより、溶接電源は定電流特性となり、図1で上述した交流の溶接電流Iwが通電する。
2次側駆動回路DVは、上記のタイマ信号Tmを入力として、タイマ信号TmがHighレベルのときは上記の電極マイナス極性駆動信号Ndを出力し、タイマ信号TmがLowレベルのときは上記の電極プラス極性駆動信号Pdを出力する。これによって、電極マイナス極性期間中は電極マイナス極性になり、電極プラス極性期間中は電極プラス極性になる。
電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwの絶対値を検出して、電圧検出信号Vdを出力する。切換時変動期間設定回路TSRは、予め定めた切換時変動期間設定信号Tsrを出力する。電圧処理回路VFは、上記の電圧検出信号Vd、上記の切換時変動期間設定信号Tsr及び上記のタイマ信号Tmを入力として、電圧検出信号Vdに対して図1で上述したような処理を行い、電圧処理信号Vfを出力する。この回路の詳細については後述する。電圧設定回路VRは、適正なアーク長に対応した予め定めた電圧設定信号Vrを出力する。電圧誤差増幅回路EVは、上記の電圧設定信号Vrと上記の電圧処理信号Vfとの誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。
トーチ昇降制御回路MCは、上記の電圧誤差増幅信号Evを入力として、トーチ昇降制御信号Mcをトーチ昇降モータMに出力する。このトーチ昇降制御回路MCは、電圧誤差増幅信号Evが正の値のときはアーク長が長くなる方向にトーチ昇降モータMを回転させ、負の値のときはアーク長が短くなる方向にトーチ昇降モータMを回転させて、アーク長が設定値と等しくなるようにトーチ昇降モータMを制御する。
上述した電圧処理回路VFは、図1の第1〜第6電圧処理方法に対応して、以下のように動作する。
(1)電圧処理信号Vfの値を電極マイナス極性電圧定常値Vaとする場合
電圧処理回路Vfは、上記の電圧検出信号Vd及び上記のタイマ信号Tmを入力として、タイマ信号TmがHighレベルに変化した時点から予め定めた遅延時間が経過した時点での電圧検出信号Vdの値を電圧処理信号Vfとして出力する。遅延時間は、電極マイナス極性期間の半分の時間、電極マイナス極性期間と同一の時間等に設定する。すなわち、この電圧処理信号Vfの値を、電極マイナス極性期間の中間時点、終了時点等の電圧値とする。
(2)電圧処理信号Vfの値を電極マイナス極性電圧平均値Vbとする場合
電圧処理回路Vfは、上記の電圧検出信号Vd及び上記のタイマ信号Tmを入力として、タイマ信号TmがHighレベルである期間中の電圧検出信号Vdの平均値を算出して、電圧処理信号Vfとして出力する。
(3)電圧処理信号Vfの値を電極マイナス極性電圧定常平均値Vcとする場合
電圧処理回路Vfは、上記の電圧検出信号Vd、上記の切換時変動期間設定信号Tsr及び上記のタイマ信号Tmを入力として、タイマ信号TmがHighレベルであり、かつ、タイマ信号TmがHighレベルに変化した時点から切換時変動期間設定信号Tsrによって定まる期間が経過した後の電圧検出信号Vdの平均値を算出して、電圧処理信号Vfとして出力する。
(4)電圧処理信号Vfの値を電極マイナス極性電圧定常値の移動平均値Vaaとする場合
電圧処理回路Vfは、上記の電圧検出信号Vd及び上記のタイマ信号Tmを入力として、タイマ信号TmがHighレベルに変化した時点から予め定めた遅延時間が経過した時点での電圧検出信号Vdの値を第n回目の周期における電極マイナス極性電圧定常値Va(n)として記憶し、所定周期mにわたる移動平均値Vaa=(Va(n)+…+Va(n-m+1))/mを算出して、電圧処理信号Vfとして出力する。
(5)電圧処理信号Vfの値を電極マイナス極性電圧平均値の移動平均値Vbaとする場合
電圧処理回路Vfは、上記の電圧検出信号Vd及び上記のタイマ信号Tmを入力として、タイマ信号TmがHighレベルである期間中の電圧検出信号Vdの平均値を第n回目の周期における電極マイナス極性電圧平均値Vb(n)として記憶し、所定周期mにわたる移動平均値Vba=(Vb(n)+…+Vb(n-m+1))/mを算出して、電圧処理信号Vfとして出力する。
(6)電圧処理信号Vfの値を電極マイナス極性電圧定常平均値の移動平均値Vcaとする場合
電圧処理回路Vfは、上記の電圧検出信号Vd、上記の切換時変動期間設定信号Tsr及び上記のタイマ信号Tmを入力として、タイマ信号TmがHighレベルであり、かつ、タイマ信号TmがHighレベルに変化した時点から切換時変動期間設定信号Tsrによって定まる期間が経過した後の電圧検出信号Vdの平均値を第n回目の周期における電極マイナス極性電圧定常平均値Vc(n)として記憶し、所定周期mにわたる移動平均値Vca=(Vc(n)+…+Vc(n-m+1))/mを算出して、電圧処理信号Vfとして出力する。
上述した実施の形態によれば、電極マイナス極性期間中の溶接電圧値によってアーク長を検出しているので、母材表面の酸化被膜の状態、母材の温度、シールドガスのシールド状態等に影響されることなくアーク長を正確に検出することができる。このために、アーク長を常に適正値に維持することができ、高品質な溶接を行うことができる。
上述した実施の形態では、自動溶接装置の場合を例示したが、溶接トーチをロボットに把持させて行うロボット溶接装置の場合も同様である。この場合には、図2で上述したトーチ高さ制御に関するブロックである電圧設定回路VR、電圧検出回路VD、電圧処理回路VF、電圧誤差増幅回路EV及びトーチ昇降制御回路MCをロボット制御装置に内蔵するようにする。また、溶接トーチの高さ制御はロボットの各軸によって行うので、トーチ昇降モータMは不要となる。トーチ昇降制御回路MCからのトーチ昇降制御信号Mcによってロボットの各軸が制御されて溶接トーチの高さが変化する。
1 (非消耗)電極
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 トーチ昇降機構
41 ノズル
D2a〜D2d 2次整流器
DV 2次側駆動回路
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
EN 電極マイナス極性
EP 電極プラス極性
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
ID 電流検出回路
Id 電流検出信号
Ien 電極マイナス極性電流
Iep 電極プラス極性電流
INR 電極マイナス極性電流設定回路
Inr 電極マイナス極性電流設定信号
INT インバータトランス
INV インバータ回路
IPR 電極プラス極性電流設定回路
Ipr 電極プラス極性電流設定信号
Ir 電流設定信号
Iw 溶接電流
La アーク長
M トーチ昇降モータ
m 所定周期
MC トーチ昇降制御回路
Mc トーチ昇降制御信号
Nd 電極マイナス極性駆動信号
NTR 電極マイナス極性トランジスタ
Pd 電極プラス極性駆動信号
PS 溶接電源
PTR 電極プラス極性トランジスタ
SW 切換回路
Tc 定常期間
Ten 電極マイナス極性期間
Tep 電極プラス極性期間
TM タイマ回路
Tm タイマ信号
TNR 電極マイナス極性期間設定回路
Tnr 電極マイナス極性期間設定信号
TPR 電極プラス極性期間設定回路
Tpr 電極プラス極性期間設定信号
Ts 切換時変動期間
TSR 切換時変動期間設定回路
Tsr 切換時変動期間設定信号
Va 電極マイナス極性電圧定常値
Vaa 電極マイナス極性電圧定常値の移動平均値
Vb 電極マイナス極性電圧平均値
Vba 電極マイナス極性電圧平均値の移動平均値
Vc 電極マイナス極性電圧定常平均値
Vca 電極マイナス極性電圧定常平均値の移動平均値
VD 電圧検出回路
Vd 電圧検出信号
Ven 電極マイナス極性電圧
Vep 電極プラス極性電圧
VF 電圧処理回路
Vf 溶接電圧処理値/電圧処理信号
VR 電圧設定回路
Vr 電圧設定信号
Vw 溶接電圧
WL リアクトル

Claims (5)

  1. 電極マイナス極性期間及び電極プラス極性期間を1周期とする交流の溶接電圧を検出して処理し、この溶接電圧処理値が予め定めた電圧設定値と等しくなるように溶接トーチの高さを制御してアーク長を一定値に維持する交流非消耗電極アーク溶接制御方法において、
    前記溶接電圧処理値が、前記電極マイナス極性期間中の溶接電圧値である、
    ことを特徴とする交流非消耗電極アーク溶接制御方法。
  2. 前記溶接電圧処理値が、前記電極マイナス極性期間中の溶接電圧の平均値である、
    ことを特徴とする請求項1記載の交流非消耗電極アーク溶接制御方法。
  3. 前記溶接電圧処理値が、1周期ごとの前記電極マイナス極性期間中の溶接電圧値を、所定周期にわたって移動平均した値である、
    ことを特徴とする請求項1記載の交流非消耗電極アーク溶接制御方法。
  4. 前記溶接電圧処理値が、1周期ごとの前記電極マイナス極性期間中の溶接電圧の平均値を、所定周期にわたって移動平均した値である、
    ことを特徴とする請求項2記載の交流非消耗電極アーク溶接制御方法。
  5. 前記電極マイナス極性期間中の溶接電圧が、前記電極マイナス極性期間開始時点から所定期間経過した後の電極マイナス極性期間中の溶接電圧である、
    ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の交流非消耗電極アーク溶接制御方法。
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