JP2011189498A - 硬質皮膜被覆工具 - Google Patents

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Abstract


【課題】第1硬質皮膜は残留圧縮応力の低減化により厚膜化と密着性の確保を可能とし、第2硬質皮膜は残留圧縮応力により亀裂の伝播抑制を図って、硬質皮膜被覆切削工具の長寿命化を実現する。
【解決手段】硬質皮膜被覆工具において、硬質皮膜は基体表面から第1硬質皮膜、第2硬質皮膜が被覆され、第1硬質皮膜は、(AlMe100−aで示され、但し、35≦a≦65、0.85≦e/f≦1.25、第2硬質皮膜は、(Ti100−hで示され、但し、1≦h≦30、0.85≦m/p≦1.25、であり、該第1硬質皮膜と該第2硬質皮膜のX線回折における(200)面の面間隔(nm)を夫々、d1、d2としたときに、1.01≦d2/d1≦1.05であり、該第2硬質皮膜は柱状組織を有し、該柱状組織の結晶粒はB成分に組成差を有する組成変調構造であることを特徴とする硬質皮膜被覆工具。
【選択図】なし

Description

本発明は、金属部品加工等に用いられる工具に関するものである。特に、耐摩耗性と密着性が必要とされる工具表面に、物理蒸着(以下、PVD法と記す。)を用いて硬質皮膜を被覆した硬質皮膜被覆工具に関する。
特許文献1には、PVD法により被覆した硬質皮膜のX線回折における(111)面の配向性と回折ピークの半価幅について開示されている。特許文献2には、(220)面、(111)面のピーク強度を制御する技術が開示されている。特許文献3には、硬質皮膜を構成する金属元素とガス成分元素の構成比率を調整する技術が開示されている。特許文献4には、エピタキシャル成長により皮膜界面の密着性改善に関する技術が開示されている。
特開2006−281363号公報 特開2003−71611号公報 特開平7−188901号公報 特開2001−181826号公報
本発明の解決しようとする課題は、厚膜化した硬質皮膜における圧縮応力の低減と密着性を確保しつつ、高硬度化による耐摩耗性に優れた硬質皮膜被覆工具を提供することである。
本発明は、超硬合金を基体に圧縮応力を有する硬質皮膜を5〜30μmの膜厚で被覆した硬質皮膜被覆工具において、該硬質皮膜は、該基体表面から第1硬質皮膜、第2硬質皮膜が被覆され、最外皮膜は該第2硬質皮膜が被覆され、該第1硬質皮膜は、(AlMe100−aで示され、但し、aは原子%、e、fは原子比を表し、35≦a≦65、0.85≦e/f≦1.25、であり、Meは4a、5a、6a族、Si、Bから選択される1種以上を有し、該第2硬質皮膜は、(Ti100−hで示され、但し、hは原子%、m、pは原子比を表し、1≦h≦30、0.85≦m/p≦1.25、であり、該第1硬質皮膜、該第2硬質皮膜の結晶構造は面心立方構造であり、該第1硬質皮膜のX線回折において(111)面のピーク強度をIr、(200)面のピーク強度をIs、(220)面のピーク強度をItとしたときに、1.5≦Is/Ir≦15.0、及び0.6≦It/Ir≦1.5、であり、該第2硬質皮膜のX線回折において(111)面のピーク強度Iu、(200)面のピーク強度Iv、及び(220)面のピーク強度Iwとしたとき、0.3≦Iv/Iu<1、及び0.3≦Iw/Iu<1であり、該第1硬質皮膜と該第2硬質皮膜のX線回折における(200)面の面間隔(nm)を夫々、d1、d2としたときに、1.01≦d2/d1≦1.05であり、該第2硬質皮膜は柱状組織を有し、該柱状組織の結晶粒はB成分に組成差を有する組成変調構造であることを特徴とする硬質皮膜被覆工具である。上記の構成を採用することによって、厚膜化した硬質皮膜における圧縮応力の低減と密着性を確保しつつ、高硬度化による耐摩耗性に優れた硬質膜被覆工具を提供することができる。
本発明の硬質膜被覆工具は、該第1硬質皮膜における非金属成分の窒素(N)元素について、その1部を炭素(C)元素、酸素(O)元素で置換し、該非金属成分全体を100とし、原子%でC元素の含有量をx、O元素の含有量をyとしたとき、0<x≦10、0<y≦10、0<x+y≦10、N元素の含有量は100−x−y、であることが好ましい。また、該第2硬質皮膜における金属成分のTi元素について、その1部を珪素(Si)元素で置換し、該金属成分全体を100としたとき、原子%でSi元素の含有量をk、としたとき、0<k≦20、Ti元素の含有量は100−h−k、であることが好ましい。圧縮応力を有する該硬質皮膜は、10μm〜30μmの膜厚であることが、より好ましい。
本発明によって、厚膜化した硬質皮膜における第1硬質皮膜の圧縮応力の低減と密着性を確保しつつ、第2硬質皮膜の高硬度化による耐摩耗性に優れた硬質皮膜被覆工具を提供することができた。
本発明の硬質皮膜被覆工具おける第1硬質皮膜は組成として、(AlMe100−aで示され、アルミニウム(Al)含有量を表すa値が35≦a≦65、の範囲のとき、耐熱性、耐摩耗性が優れる。a値が65%を超えて大きいと、第1皮膜断面組織が微細化して圧縮応力が増大し基体との密着性が劣化する不都合が生じる。a値が35%未満であると、耐摩耗性が劣ると言う不都合が生じる。元素をMeとして集合的に呼称するMe成分は、イオン半径が0.041〜0.1nmの4a、5a、6a族の元素や、イオン半径が0.002〜0.04nmの珪素(Si)、硼素(B)等を含有した窒化物として被覆することが好ましい。この理由は、Me成分、珪素や硼素のイオン半径と、アルミニウム元素のイオン半径との間に差が生じ、結晶構造に応力が作用して、皮膜の高硬度化に好都合だからである。Me成分として、例えばチタニウム(Ti)を選択することにより、第1硬質皮膜の高硬度化に有効である。また、例えばMeが珪素(Si)、硼素(B)では、固溶体を維持する含有量の範囲が1%から20%であり、優れた耐熱性や潤滑特性を得られる。また、MeとしてW、Nb、Crを含有することにより、第1硬質皮膜の耐熱性、高硬度化の改善に有効である。
第1硬質皮膜の金属成分と非金属成分との比e/f値を0.85〜1.25、とすることにより、硬質皮膜の圧縮応力を最適な範囲にすることができ、高い密着性を得ることができる。また、e/f値を0.85〜1.25とすると、第1硬質皮膜の組織は高靭性を有する柱状組織とすることができ、優れた欠損性と耐摩耗性を得ることができる。e/f値が0.85以上のとき、第1硬質皮膜の結晶格子歪を低減できるが、0.85未満になると、結晶格子歪が大きくなり、結晶格子縞の連続性が失われる現象や、第1硬質皮膜の断面組織が微細化し粒界欠陥が増大する。その結果、圧縮応力を増大して密着性が劣化する。例えば、切削工具用の硬質皮膜においては、この粒界欠陥が硬質皮膜の密度低下や、被加工物を構成する元素の硬質皮膜内部への内向拡散を招き、硬質皮膜の硬度低下や耐欠損性を劣化させる。e/f値が1.25を超えると第1硬質皮膜は柱状組織を有するが、結晶の粒界部に不純物を取り込みやすくなる。この不純物は被覆処理を行う装置内部に残留する成分である。その結果、結晶粒間の接合強度が劣化し、第1硬質皮膜は外部からの衝撃によって容易に破壊される。本発明の第1硬質皮膜は、0.85≦e/f≦1.25の範囲とすることにより、第1硬質皮膜の圧縮応力は1.5〜5.0GPaの範囲になる。産業的には、e/f値を本発明の範囲にすることで、第1硬質皮膜に圧縮応力を有しつつ、かつその圧縮応力が過度ではない範囲に管理することが可能である。
第2硬質皮膜が、Ti、Bを含有する面心立方構造の窒化物であることにより、優れた耐溶着性を実現できる。第2硬質皮膜におけるB含有量を示すh値(原子%)は、1≦h≦30である。h値のこの範囲は第2硬質皮膜を柱状組織とするために重要である。またB元素を含有させると、工具のすくい面の耐摩耗特性が向上する。切削初期において、Bは工具刃先がまだ低温である状態から酸化され、B含有酸化物を形成する。このB含有酸化物が、被加工物成分の第2硬質皮膜内部への拡散を抑制させる効果を発揮する。しかし、h値が30%を超えると、第2硬質皮膜の組織が微細化する。また、窒化硼素(BN)の結晶が出現し硬度が低下し、第2硬質皮膜の圧縮応力が増大して密着性が低下する欠点が現れる。h値は、1%程度でも効果が現れる。
また、第2硬質皮膜の金属成分と窒素成分の比m/p値を0.85〜1.25とすることにより、第2硬質皮膜の圧縮応力を最適な範囲にすることができ、高い密着性を得ることができる。また、m/p値が0.85〜1.25のときには第2硬質皮膜は高靭性を有する柱状組織とすることができ、優れた欠損性と耐摩耗性を両立することができる。第1硬質皮膜、第2硬質皮膜が面心立方構造であることにより、皮膜全体として高硬度を有する耐摩耗性に優れた硬質皮膜が得られる。
以下に、本発明の組成や組織の条件を達成するための製造条件について説明する。第1硬質皮膜である(AlMe100−aにおいて、0.85≦e/f≦1.25の範囲とするためには、成膜時の反応圧力を制御することが重要である。窒化物を得るために、窒素の反応圧力を3Pa〜8Paとする。より好ましくは3.5Pa〜7Paの範囲にするとよい。反応圧力が3Pa未満では、基体に入射するイオンの運動エネルギーが抑制できず、それが結晶格子歪となって現れ、圧縮応力が抑制できなくなり、e/f値は0.85未満となる。8Paを超えた条件で成膜を行うと、物理蒸着法におけるプラズマ密度が低下し、入射するイオンの運動エネルギーが低下し、e/f値は1.25を超える。
第1硬質皮膜を成膜する際の条件として、パルス化されたバイアス電圧印加を負と正に振幅させ、(200)面に強く配向させることで、第1硬質皮膜の圧縮応力を制御することができる。そのためには、バイアス電圧印加は、負の電圧20〜100V、正の電圧5〜10Vの間で振幅させることによって実現できる。
第1硬質皮膜のIs/Ir値を1.5≦Is/Ir≦15.0、とするためには、バイアス電圧の制御が必要であり、バイアス電圧をパルス化させて印加させることが好ましい。バイアス電圧がマイナス20V未満では、Is/Ir値は大きくなる傾向にあり、圧縮応力は低減されるものの、第1硬質皮膜の硬度が低下し、耐摩耗性が劣化する。マイナス100Vを超えて比較的高い負のバイアス電圧を印加させて成膜を行うと、基体に引きつけられるイオンの運動エネルギーが大きくなる。それが圧縮応力の増大をもたらす。バイアス電圧をパルス化させて印加させることにより、成膜時にプラズマ中でイオン化された第1硬質皮膜を構成する元素の基体に到達する際の運動エネルギーを調整することが必要となる。バイアス電圧をパルス化させた場合特に重要なのは、パルス周波数の制御である。バイアス電圧をパルス化させて印加させると、(111)面、(200)面や(220)面のピーク強度を変化させることが可能となり、特に(111)面への結晶成長を抑制することによって、圧縮応力を抑制し密着性を高めることができる。
パルス周波数が5〜35kHzのときに、It/Ir値は0.6≦It/Ir≦1.5となり、このときの第1硬質皮膜の圧縮応力を1.5〜5.0GPaの最適な範囲にすることができる。パルス周波数が5kHzより低くなると、It/Ir値は1.5を超える。また、35kHzを超えると、イオンが基体に到達する際の運動エネルギーが調整できないため、It/Ir値は0.6未満になる。
第2硬質皮膜の成膜時に印加するバイアス電圧を、第1硬質皮膜を成膜する際の条件と同様にパルス化させると、基体に到達する硼素(B)イオンの運動エネルギーが調整できるため、窒化チタン(代表的にTiNと表記する)の結晶格子に取り込まれ、第2硬質皮膜はBを含む単一の結晶化された組織を有する。
第2硬質皮膜を成膜する際の条件として、パルス化されたバイアス電圧印加を負と正に振幅させ、(111)面に強く配向させることで、第2硬質皮膜の圧縮応力を制御することができる。そのためには、バイアス電圧印加は、負の電圧100〜250V、パルス周波数を5〜35kHz、正の電圧5〜10Vの間で振幅させることによって実現できる。このとき、第2硬質皮膜のX線回折において(111)面のピーク強度Iu、(200)面のピーク強度Iv、及び(220)面のピーク強度Iwとしたとき、0.3≦Iv/Iu<1、及び0.3≦Iw/Iu<1の範囲になる。第2硬質皮膜を上記範囲に制御すると、硬質皮膜が高硬度化し、耐摩耗性が改善される。バイアス電圧の制御のほかには、反応圧力を2〜5Paの範囲に制御すれば可能である。第2硬質皮膜成膜時のバイアス電圧を100V未満にすると(200)のピークが強く出現し、耐摩耗性が劣る。また、250Vを超えて高いときは、硬質皮膜の残留圧縮応力が増大し、第1硬質皮膜との密着性が劣化する。
第2硬質皮膜のIv/Iu値を0.3≦Iv/Iu≦1、とするためには、バイアス電圧の制御が必要であり、バイアス電圧をパルス化させて印加させることが好ましい。バイアス電圧がマイナス100V未満では、Iv/Iu値は大きくなる傾向にあり、圧縮応力は低減されるものの、第2硬質皮膜の硬度が低下し、耐摩耗性が劣化する。マイナス250Vを超えて比較的高い負のバイアス電圧を印加させて成膜を行うと、基体に引きつけられるイオンの運動エネルギーが大きくなる。それが圧縮応力の増大をもたらす。バイアス電圧をパルス化させて印加させることにより、成膜時にプラズマ中でイオン化された第2硬質皮膜を構成する元素の基体に到達する際の運動エネルギーを調整することが必要となる。バイアス電圧をパルス化させた場合特に重要なのは、パルス周波数の制御である。バイアス電圧をパルス化させて印加させると、(111)面、(200)面や(220)面のピーク強度を変化させることが可能となり、特に(111)面への結晶成長を抑制することによって、圧縮応力を抑制し密着性を高めることができる。
パルス周波数が5〜35kHzのときに、Iw/Iu値は0.3≦Iw/Iu<1となり、このときの第2硬質皮膜の圧縮応力を1.5〜4.0GPaの最適な範囲にすることができる。パルス周波数が5kHz未満と低くなると、Iw/Iu値は1以上となる。また、35kHzを超えると、イオンが基体に到達する際の運動エネルギーが調整できないため、Iw/Iu値は0.3未満になる。
第2硬質皮膜を直流のバイアス電圧を印加させて成膜した場合、Bは、TiNの面心立方構造の格子に置換されるほかに、立方晶窒化硼素(c−BN)、六方晶窒化硼素(h−BN)、非晶質BNなどを第2硬質皮膜中に含むことが多くなる。プラズマ中でBのイオンは、Tiなどに比べ軽元素であるため、高い運動エネルギーを有した状態で基体に到達し、様々な不安定な結合が生じるものと考えられる。第2硬質皮膜にh−BNのみを含む場合は、潤滑特性が向上し、すくい面摩耗の抑制を実現できると期待されるが、h−BNを単独で含有させることは困難となる。c−BN等、他の結晶構造を有する化合物と共存するようになるため、圧縮応力が増大する。特にc−BNを多く含む場合は、第2硬質皮膜の高硬度化が実現できるものの、圧縮応力が増大し、密着性が劣化する欠点が現れるため好ましくない
次に、本発明の構成要件のうち、重要な(200)面ピーク強度の条件について説明する。本発明は、面心立方構造を有する第1硬質皮膜をX線回折で評価したときに、(200)面に最も強く配向していることが大きな特徴である。この特徴により、本発明は第1硬質皮膜の圧縮応力が低減されることによって、厚膜化したときでも密着性は維持され、また、切削におけるせん断方向からの切削力に対する耐久性が優れる。
一般的に言って、切削による外部からの衝撃に対し、硬質皮膜に破壊(以下、クラックと記す。)が生じる。そのクラックは、基体に対して垂直方向に硬質皮膜における組織の粒界を伝播し、基体に到達し、欠損や摩耗の原因となる。基体に接する第1硬質皮膜での(111)面への配向が強くなると、圧縮応力が高くなり高硬度となるものの、第1硬質皮膜の密着性が低下し、その結果として、耐欠損性や耐摩耗性が低下して不都合が生じる。本発明の硬質皮膜被覆工具は、第1硬質皮膜の耐摩耗性はもちろんのこと、基材との密着性を高め、第2硬質皮膜を高硬度化させることで優れた耐摩耗性を実現するものである。
本発明のように、第1硬質皮膜を、(200)面に強く配向させることにより、圧縮応力低減により厚膜化と密着性の改善が可能となり、耐摩耗性が高まる。また、切削におけるせん断方向からの切削力に対する耐久性が優れる。そこで本発明では、第1硬質皮膜のX線回折において(111)面のピーク強度をIr、(200)面のピーク強度をIs、(220)面のピーク強度をItとしたときに、第1硬質皮膜のIs/Ir値を、1.5≦Is/Ir≦15、It/Ir値を0.6≦It/Ir≦1.5に規定する。第1硬質皮膜を、1.5≦Is/Ir≦15、にすれば優れた耐摩耗性を実現でき、また、0.6≦It/Ir≦1.5、にすれば適正な圧縮応力の範囲を得ることができる。従って、厚膜化された皮膜が高い密着性を有しつつ、高硬度な第1硬質皮膜を得ることができる。しかし、Is/Ir値が1.5未満、It/Ir値が0.6未満のときは、第1硬質皮膜の断面組織が微細化し、圧縮応力が増大する。そのため、耐摩耗性は優れるが、容易に皮膜剥離が発生する。特にIt/Ir値が0.6未満では、第1硬質皮膜の内部欠陥が増加する。また、It/Ir値が0.6未満のときは、たとえIs/Ir値が1.5≦Is/Ir≦15、であっても、(111)面のピーク強度が大きく出現する。そのために、第1硬質皮膜の圧縮応力を制御することが困難となる。このときの第1硬質皮膜の圧縮応力は5.0GPa程度となり基体と第1硬質皮膜の密着性は確保できても、柱状結晶粒界間の密着強度が劣化し、耐摩耗性が低下する。そこで、0.6≦It/Ir≦1.5に規定する。Is/Ir値が15を超えて大きく、It/Ir値が1.5を超えて大きいときは、圧縮応力は低減されるが、第1硬質皮膜の断面組織における粒界の接合強度が低下して密着性と耐磨耗性が劣化する。また、It/Ir値が1.5を超えると、第1硬質皮膜は粒界における密着強度が低下し、皮膜表面から基体方向にほぼ垂直方向の亀裂破壊が発生しやすくなる。その結果、耐欠損性、耐摩耗性が改善されない。また、粒界に被加工物元素か拡散しやすくなる傾向にあり、機械的特性が劣化する。
第2硬質皮膜について、硬質皮膜のX線回折において(111)面のピーク強度Iu、(200)面のピーク強度Iv、及び(220)面のピーク強度Iwとしたとき、0.3≦Iv/Iu<1、及び0.3≦Iw/Iu<1の範囲に規定する。第2硬質皮膜を成膜する際の条件として、パルス化されたバイアス電圧印加を負と正に振幅させ、(111)面に強く配向させることで、第2硬質皮膜の圧縮応力を制御することができる。そのためには、バイアス電圧印加は、負の電圧100〜250V、パルス周波数を5〜35kHz、正の電圧5〜10Vの間で振幅させることによって実現できる。第2硬質皮膜を上記範囲に制御すると、硬質皮膜が高硬度化し、耐摩耗性が改善される。バイアス電圧の制御のほかには、反応圧力を2〜5Paの範囲に制御すれば可能である。第2硬質皮膜成膜時のバイアス電圧を100V未満にすると(200)のピークが強く出現し、耐摩耗性が劣る。また、250Vを超えて高いときは、硬質皮膜の残留圧縮応力が増大し、第1硬質皮膜との密着性が劣化する。
本発明に係る硬質皮膜において、第1硬質皮膜と第2硬質皮膜のX線回折における(200)面の面間隔(nm)をそれぞれ、d1、d2としたときに、1.01≦d2/d1≦1.05であり、d2/d1値を、1.01≦d2/d1≦1.05とすることにより、第1硬質皮膜と第2硬質皮膜との密着性が改善され、耐摩耗性が優れる。硬質皮膜間の密着性を高めるには結晶格子歪を低減させる必要がある。この歪を低減させるためには、硬質皮膜間の(200)面の面間隔の差を小さくしてミスフィットを低減させることにより、高い密着性が得られる。そこで、d2/d1値を、1.01≦d2/d1≦1.05の範囲に規定することで基体との密着性が損なわれることなく耐摩耗性に優れた硬質皮膜が得られる。d2/d1値が1.01未満では、硬質皮膜全体の圧縮応力が増大するため、基体との密着性が劣化する。1.05を超えると、皮膜界面の内部欠陥が多くなり、密着性が損なわれるだけでなく、圧縮応力が増大し、基体との密着性が低下する。成膜条件として1.01≦d2/d1≦1.05の範囲にする方法を例示すると、成膜条件であるバイアス印加におけるパルス周波数を、5kHzから35kHzの範囲で使用することである。
本発明に係る硬質皮膜について、第2硬質皮膜は柱状組織を有し、結晶粒は成長方向について界面を形成することなくB成分の組成変調構造を有し、B成分に組成差を有する層同士の境界領域で結晶格子縞が連続的に成長している。ここで、柱状組織とは、膜厚方向に伸びた縦長成長の結晶組織である。第2硬質皮膜は多結晶材料であるが、結晶粒1つ1つの単位で捉えれば、単結晶材料の成長に類似した形態となっている。本発明の特徴として、第2硬質皮膜の柱状組織の結晶粒は、成長方向に対してB成分の含有量が比較的多くなっているB富化層と、比較的少なくなっているB貧化層とが交互に存在し、B成分の組成差を有する組成変調構造を有していることである。このとき、この組成変調構造における組成変調境界部では結晶格子縞が連続していることが好ましい。第2硬質皮膜がB成分の組成変調構造を有し、圧縮応力を制御することによって機械的強度が高まる。例えば、B含有量の富化層では、比較的軟質な層が形成される。この軟質層が、他の比較的硬質な層との層間に存在すると緩衝効果を示し、第2硬質皮膜全体として圧縮応力を緩和して、靭性を有する。更に、B成分の潤滑特性によって、潤滑性を有する第2硬質皮膜を得ることができる。しかし、この時の好ましいB成分の組成差は、最大でも10%である。より好ましくは、0.1%以上、7%以下の範囲にすることである。
B成分の組成変調構造とするには、例えば、B含有量の比較的多い組成のターゲット材と、比較的少ない組成のターゲット材とを組み合わせるといったように、B含有量の異なるターゲット材を用いて、パルスバイアスを印加しながら成膜を行うことで実現できる。本発明に係る第2硬質皮膜は、パルスバイアスによる高バイアス電圧印加によって実現できる。そのため、特に第2硬質皮膜においてはTiよりもイオン半径の小さいBを面心立方構造TiNの結晶格子中に含有させるため、パルスバイアスの印加によりイオンの運動エネルギーを制御する必要がある。パルスバイアスを印加させることにより、柱状組織におけるB含有量が組成差を有する部分は、B成分が交互に組成変調する構造となり、B富化層とB貧化層との層間は結晶格子縞が連続して成長する。一方、直流の高バイアス電圧印加では、Bを第2硬質皮膜中に含有させることが困難となってしまう。層間の結晶格子縞が連続して成長した組成変調構造は、例えば、日本電子株式会社製JEM−2010F型の電界放出型透過型電子顕微鏡(以下、TEMと記す。)を用いて、加速電圧20kVの条件で柱状組織を観察することによって確認できる。
硬質皮膜全体の膜厚を5μm以上とすることにより、優れた耐摩耗性が得られる。一方、30μm超では、硬質皮膜は圧縮応力が高くなり、基体との密着性が劣化するため、30μm以下であるのが好ましい。また第1硬質皮膜の膜厚は第2硬質皮膜よりも厚く、より好ましくは第2硬質皮膜の膜厚は硬質皮膜全体の膜厚に対し、50%以下であることが好適である。より好ましい硬質皮膜全体の厚みは、10μm〜30μmの膜厚であることにより、優れた耐摩耗性が得られる。
第1硬質皮膜における非金属成分の窒素元素について、その1部を炭素元素、酸素元素で置換し、原子%で炭素元素の含有量をx値、酸素元素の含有量をy値としたとき、0<x≦10、0<y≦10、0<x+y≦10の範囲にすることが好ましい。これにより、高硬度、優れた耐酸化特性、密着性及び潤滑特性を有する第1硬質皮膜が得られる。炭素元素、酸素元素を含有させるときは、機械的強度劣化を回避するために、x値とy値との和を10%以下にすることで、優れた耐溶着性と摺動性を有する。より好ましくは、炭素元素を単独で含有させる場合は、2%〜10%とすることである。しかし、x値、y値が10%を超えると結晶組織が微細化し、結晶粒界における欠陥が増大する。その結果、たとえ第1硬質皮膜の潤滑特性が改善されても、圧縮応力が増大するため密着性や耐欠損性が低下する欠点が現れる。第1硬質皮膜に炭素元素、酸素元素を含有させる場合には、炭化水素系ガスや酸素含有ガスを使用することが好ましい。ガスを導入して成膜を行う場合、窒素ガスと併せた全圧は、3〜8Paの範囲にすることが好ましい。炭素元素の添加において、ガスを導入し成膜を行う場合は、窒素(N)とメタン(CH)やアセチレン(C2H2)、エチレン(C)などを用いた方が制御し易い。炭化水素系ガスを導入する場合は、窒素流量に対して20%程度までが安定して成膜を行うことが可能な範囲である。また酸素ガスを導入する場合は、窒素ガスと酸素ガス、又は、窒素ガス、酸素ガス、およびアルゴンを導入して成膜を行うことが好ましい。或いは、ターゲット蒸発源に炭素元素、酸素元素を含む化合物として含有させることも可能である。
第2硬質皮膜における金属成分のTi元素について、その1部をSi元素で置換し、該金属成分全体を1としたとき、原子%でSi元素の含有量をkとしたとき、0<k≦20とすることにより、耐摩耗性が向上する。第2硬質皮膜を柱状組織とするため、k値は20%以下にすることが好ましい。Siを含有させる場合は、TiNの単一な結晶質が固溶体となることで、例えば、切削工具のすくい面における耐摩耗性に優れた第2硬質皮膜を得られる。一方、k値が20%を超えると組織が微細化し、圧縮応力が増大し、密着性を低下させる欠点が現れる。また、第2硬質皮膜は、TiNの結晶質、SiN組成系の結晶質や非晶質といった形で、様々な構造が混在する。その結果、結晶粒界が増大し、結晶格子歪が発生して圧縮応力が増大する。
本発明の硬質皮膜の組成は、例えば、日本電子製のJXA8500F形EPMA分析装置を用いて測定できる。具体的には硬質皮膜の垂直断面もしくは膜断面を17度斜めに傾けて研磨した傾斜断面において、硬質皮膜を基体の影響を受けない位置から行い、加速電圧10kV、照射電流1.0μA、プローブ径を10μm程度に設定することにより組成の特定が可能である。硬質皮膜表面から測定する場合は、プローブ径を50μm程度に設定することが好ましい。また、炭素や酸素を含有させたときは、2%未満になると分析での検出が困難となる。硬質皮膜の膜厚は、例えば、株式会社日立製作所製S−4200型電解放射走査型電子顕微鏡を用いて、垂直方向の破断面をたとえば倍率2万5千倍で観察して測定できる。
第1、2硬質皮膜のX線回折における(111)、(200)、(220)面のピーク強度比の測定は、例えば、理学電気株式会社製RU−200BH型X線回折装置を用いて2θ−θ走査法により測定できる。本発明の実施例では、2θ(度)の範囲は、10〜145度、X線源はλ値が0.15405nmのCuKα1線を用い、バックグランドノイズは装置に内蔵されたソフトにより除去した。測定結果は、検出された2θのピーク位置が、結晶構造が面心立方構造であるTiNのX線回折パターン(JCPDSファイル番号38−1420)に略一致したので、その(111)、(200)、(220)ピークの強度を測定した。ピーク強度は、各指数面のピークトップの最大値をピーク強度とし、それを用いてピーク強度比を求めた。更に、面間隔は、上記(200)面を示すピーク位置の数値を適用した。また、CrNがベースとなるような第1硬質皮膜の場合も同様にして、ピーク強度を測定した。
本発明に係る硬質皮膜における圧縮応力は以下に示す曲率測定法で算出できる。即ち、ヤング率とポアッソン比が既知となっている基体を所定の形状に加工した試験片を用い、その表面に被覆を行うと、硬質皮膜中に発生する圧縮応力により、被覆された試験片がたわみ変形する。そのたわみ変形量を求め、数1を用いて、硬質皮膜全体の圧縮応力σ値を算出する。後述の実施例等ではこの方法で算出した数値を記載した。
Figure 2011189498
ここで、Es値(GPa)は、試験片に使用した基体のヤング率、D値(mm)は試験片の厚み、δ値(μm)は被覆前後で生じる試験片のたわみ量、l値(mm)は被覆によってたわみが生じた試験片の長さ方向端面から、最大たわみ部までの長さ、νs値は試験片に使用した基体のポアッソン比、d(μm)は試験片表面に被覆した硬質皮膜の膜厚である。また、試験片の形成材料としては、超硬合金材料が、測定数値のばらつきが少なく適している。試験片形状は、短冊型の形状が望ましく、例えば8mm幅、25mm長さ、0.5〜1.5mm厚さの形状を使用すると、測定数値のばらつきが少ない。試験片の面積の大きい上下面について、平行度±0.1mmになるよう、鏡面研磨を施した後、600〜1000℃の真空中で熱処理を行い、試験片に用いる材料の、特に表面部分の歪を除去することが重要である。この歪をある程度除去しなければ、得られる圧縮応力の値にばらつきが発生する。試験片面積の大きい、鏡面加工された一面のたわみ変形量を被覆前に測定した後、その面に被覆を行い、再度、得られた被覆試験片のたわみ量を測定する。被覆前後のたわみ量と、被覆によってたわみが生じた試験片の長さ方向端面から、最大たわみ部までの長さ、および被覆した硬質皮膜の膜厚を測定し、その数値を数1に代入すれば、硬質皮膜の組成や、成膜条件が変化しても、また、組成変調構造を有していても、圧縮応力の値を算出することが可能である。
硬質皮膜被覆工具は、基体として炭化タングステン基超硬合金、高速度工具鋼、またはサーメット等を用いると、より耐摩耗性と靱性のバランスが最適化される。ただし、高速度工具鋼を基体として用いる場合は、その熱処理特性を考慮し500〜550℃の範囲で物理蒸着により被覆することが好ましい。このような比較的低温で成膜する場合は、印加するバイアス電圧や成膜時の反応圧力を適宜最適化する。成膜方法としては、パルス化されたバイアス電圧が印加可能で、圧縮応力が付与される成膜方式が好ましい。アークイオンプレーティング(以下、AIPと記す。)法、スパッタリング法等のイオンプレーティング方式等が好ましい。適切な製造条件を適用すれば、各々の方式が一つの設備に設置された複合装置を用いてもよい。本発明を以下の実施例により更に詳細に説明するが、それにより本発明が限定されるものではない。
圧縮応力測定が行える試験片、旋削用インサート形状の超硬合金製基体表面に、本発明に係る硬質皮膜を被覆して、本発明例1のものを作製した。本発明例1では、AIP装置を用いて、金属成分の組成が、原子%で、Ti:50%、Al:50%のターゲット材1を用いた。金属成分のみの組成が原子%で、Ti:50%、Al:50%の(TiAl)N膜を第1硬質皮膜として膜厚6μmとなるように成膜した。その後、B含有量の異なる2種類のターゲット材を用いて、第2硬質皮膜を成膜した。即ち、金属成分の組成が、原子%で、Ti:92%、B:8%のターゲット材2と、Ti:88%、B:12%のターゲット材3とを用いた。金属成分のみの組成が、Ti:90%、B:10%の(TiB)N膜を6μmの膜厚で第2硬質皮膜として成膜し、総膜厚が12μmとした。この様に、第2硬質皮膜の成膜においては、旋削用インサートを装填した治具が、AIP装置内で遊星運動を行うことによって、旋削用インサートは、ターゲット材2とターゲット材3との間を通過するときに、接近と離脱とを交互におこなうことによって、柱状組織の結晶粒が、B成分の組成変調構造をもつように調整した。成膜温度は550℃、反応圧力は3.5Paとし、窒化物とするために窒素ガスを成膜時に導入させて作製した。第1硬質皮膜である(TiAl)N膜は直流で50Vの負のバイアス電圧で1μm成膜した後、パルス化したバイアス電圧を印加したものである。パルス周波数は10kHz、正のバイアス電圧を5Vに設定した。(TiAl)N膜を成膜後、第2硬質皮膜である(TiB)N膜を負のバイアス電圧150Vに設定し、その他の条件は(TiAl)Nと同条件にて成膜した。蒸発源は、本発明例と比較例に応じて、各種合金製ターゲットを選択して用い、窒化物、炭窒化物、酸窒化物、酸炭窒化物とするために窒素、酸素、メタンなどの炭化水素系のガスを単独、もしくは、混合させて成膜時に導入させて作製した。本発明例1の成膜条件を標準として、硬質皮膜の膜厚、組成、X線回折ピーク強度、ならびに圧縮応力を変化させた本発明例2〜42と比較例43〜63のものを作製した。
作製した試料の詳細と、硬質皮膜組成、硬質皮膜の製造条件、圧縮応力の測定値や被覆したインサートの切削試験の評価結果を表1、2、3、4に示す。また、TEMによる皮膜断面観察の結果、本発明例における第2硬質皮膜は全て柱状組織を有し、この柱状組織の結晶粒は結晶粒成長方向に対してB成分に組成差を有する組成変調構造を有していることを確認した。例えば、本発明例1の第2硬質皮膜は、TEMによる皮膜断面観察の結果、柱状組織を有し、結晶粒は成長方向に対してB成分に組成差を有する組成変調構造であった。これは、B含有量の異なるターゲット材を用いて第2硬質皮膜を成膜したことにより、B富化層とB貧化層とのB成分の組成差は、4%であった。また、層間は結晶格子縞が連続して成長していた。一方、比較例の中にもB成分に組成差を有する組成変調構造を有するものがあったが、この組成差の小さいものは、高い圧縮応力を示した。
Figure 2011189498














Figure 2011189498














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作製した旋削用インサートを刃先交換式バイトに取り付け、以下の条件で旋削加工試験を行い、耐摩耗性、耐欠損性、密着性の優劣を確認した。切削評価に使用したインサートは、汎用的なCNMG120408形状を用い、超硬合金を基体として、JIS規格におけるM20種相当でHRA91を使用した。旋削加工を行うに当たり、チップブレーカ付き、すくい角が1度の特殊形状のインサートを使用した。評価方法は、切削距離5m時に発生する硬質皮膜被覆インサートの逃げ面、すくい面に発生する摩耗を、光学顕微鏡で50倍に拡大して観察した。更に切削を継続し、10μm以上の微小チッピングを含む欠損が発生した時点、欠損がない場合は、逃げ面摩耗幅のVBmax値が0.3mmに到達した時点を工具寿命とし、この時の切削距離(m)によって性能を評価した。切削途中の刃先の損傷状態は、適宜観察を行った。
(切削試験条件)
切削方法:長手方向連続切削
被削材形状:直径160mm、長さ600mmの丸棒材
被削材:S53C、HB260、調質材
軸方向切込み量:2.0mm
切削速度:300m/分
1回転あたりの送り量:0.4mm/回転
切削油:なし
本発明例1〜5、比較例43、44は、硬質皮膜の膜厚の影響を見るために作製した。膜厚は被覆時間により調節した。第1硬質皮膜と第2硬質皮膜の膜厚比は1:1として同じとし、全体の膜厚のみを変化させた。硬質皮膜の膜厚が厚くなると圧縮応力は増大する傾向にあった。本発明例1〜5に示す総膜厚が5μm以上を有するものは、逃げ面摩耗、クレータ摩耗などの耐摩耗性に優れた。いずれの試料についても、切削初期5mにおける被加工物成分の刃先への溶着の発生はなかった。これは、本発明で規定する第2硬質皮膜を有することが、クレータ摩耗、耐溶着性に対し、大きな効果を持つものと考えられた。本発明例1の総膜厚は12μm、圧縮応力値は1.6GPaであり、工具寿命は16mという満足のいく結果を得た。切削距離5m時の刃先の損傷状態を確認した結果、逃げ面摩耗量は0.061mmとなり、薄い膜厚の本発明例4、5よりも耐摩耗性に優れ、更に比較例44に比して格段に優れていた。切削途中の刃先の損傷状態を確認した所、切刃近傍における硬質皮膜の脱落、剥離、チッピング等は観察されず、正常摩耗を呈していた。パルス化されたバイアス電圧を印加して成膜を行った本発明例は、工具寿命が長く優れた結果であった。
比較例43の総膜厚は42μmであり、圧縮応力は7.2GPaであり、本発明例1〜5に対して、工具寿命が劣った。比較例43は、切削前に刃先エッジ部で微細な皮膜破壊が観察された。切削途中の刃先エッジ部の損傷状態を確認したところ、皮膜破壊が9μmの幅に拡大しており、この破壊部分から欠損に至った。総膜厚が42μmという厚膜化により圧縮応力が増大したためである。比較例44の総膜厚は3μmであり、1.1GPaと低い圧縮応力を有していた。しかし、アブレッシブ摩耗が劣ったため工具寿命は短かった。
本発明例6、7は、第1硬質皮膜、第2硬質皮膜の膜厚比の影響を見るために作製した。本発明例6に示すように、第1硬質皮膜を厚くすることによって、本発明例1に比して工具寿命が優れた。これは、逃げ面摩耗の進行が抑制されたためと考えられた。しかし、本発明例6、7は、第2硬質皮膜が夫々2μm、5μmと薄く、特に本発明例6では、切削距離12mでクレータ摩耗が発生した。クレータ摩耗の進行によって刃先強度が失われ、欠損に至った。再現性確認のために、総膜厚を12μmとし、第2硬質皮膜を0.3μmに被覆したものについても切削評価を行ったが、逃げ面摩耗の進行は抑制されるものの、クレータ摩耗が主体に進行し、寿命に至った。
本発明例8〜20、比較例45、46は、第1硬質皮膜の組成の影響を見るために作製した。被覆用ターゲット材組成を変化させて作製した。工具寿命の最も優れた本発明例10は、タングステン(W)を10%含有し、本発明例1に比して、約1.6倍優れた。切削距離5m時の刃先状態を確認した所、刃先エッジ部においてチッピングは確認されず、逃げ面摩耗が0.019mmであった。切削部位における被加工物の溶着もほとんど発生しておらず、正常摩耗の進行のみで寿命に至った。逃げ面摩耗が優れた理由は、Wを含有させることによって、高硬度化したことであると考えられる。本発明例1における第1硬質皮膜の硬度が28GPa、本発明例10が32GPaであった。更に、耐酸化性が高まったため、逃げ面摩耗進行が抑制されたと考えられる。特に、耐酸化性が高まると、最も切削熱が高くなる工具境界部における損傷が低減される傾向にあった。また、溶着が発生しなかった理由は、最外皮膜の第2硬質皮膜に硼素(B)を含有し、潤滑特性が優れたためである。含有するBが、第2硬質皮膜中にBN結晶として存在すること、ならびに、一部TiN結晶格子に固溶したものが、スピノーダル分解し、硬質皮膜最表面に比較的軟らかいBの酸化物を形成するためである。本発明例12はニオブ(Nb)を10%含有し、本発明例13、14はクロム(Cr)、シリコン(Si)を含有したため、第1硬質皮膜の機械的特性が高まり、本発明例1に比して優れた。本発明例15に示すように、第1硬質皮膜にBを含有させても工具寿命は優れた。第2硬質皮膜が摩耗した後に露出する第1硬質皮膜の部分でも溶着が抑制された。第1硬質皮膜中にBを含有させても、溶着やクレータ摩耗に対し、格段な効果が得られた。本発明例8〜20は、第1硬質皮膜がAlと4a、5a、6a族元素、Si、Bから選択された元素の窒化物であるため、耐熱性、硬度が格段に高められた。
比較例45は、第1硬質皮膜のAl含有量が75%であり、切削初期から溶着現象や、工具逃げ面のアブレッシブ摩耗が進行した。第1硬質皮膜断面の組織観察では、組織は微細化していた。このため、圧縮応力が増大し密着性の劣化が考えられる。また、第1硬質皮膜の硬度は18GPaとなり、硬度低下が摩耗の早期進行をもたらした。比較例45についてX線回折を行った結果、面心立方構造のピークの他に六方晶構造のピークが出現した。調査の結果、AlN化合物に起因するピークであることが確認された。これにより、耐摩耗性が著しく劣化したものと考えられる。比較例46も同様の現象が確認された。Al含有は、硬質皮膜の耐酸化性を高める作用があり、切削における境界部の損傷を低減する。本発明の硬質皮膜被覆工具について、再現性確認も含め最適なAl含有量について調査を行ったが、金属成分のみでAlが65原子%を超えると耐摩耗性が劣化し、75%になると、急激に耐摩耗性が劣化した。さらに、比較例45は、It/Irが0.78となり、第1硬質皮膜の(111)面のピーク強度が強く、残留圧縮応力は7.2GPaであった。第1硬質皮膜の(111)面のピーク強度が強すぎると、残留圧縮応力が増大し、密着性も劣化させたものと考えられる。比較例45、46について第2硬質皮膜のTEMによる皮膜断面観察の結果、柱状組織を有し、結晶粒は成長方向に対してB成分に組成差を有する組成変調構造であった。しかし、B成分の組成差は小さく、本発明例45、46ともに0.1%未満であった。また、層間は結晶格子縞が連続して成長していた。
本発明例21〜24、比較例47、48は、第2硬質皮膜の組成の影響を見るために作製した。被覆用ターゲット材の組成を変化させて作製した。本発明例21、22は、第2硬質皮膜のB含有量を夫々1%、25%とした。本発明例23、24は、BとSiを含有させた。これらの第2硬質皮膜のTEMによる皮膜断面観察の結果、柱状組織を有し、結晶粒は成長方向に対してB成分に組成差を有する組成変調構造であった。B含有量の異なるターゲット材を用いて第2硬質皮膜を成膜したことにより、B成分の組成差は夫々、本発明例21が0.5%、本発明例22が7%、本発明例23が0.1%、本発明例24が4%であった。また、層間は結晶格子縞が連続して成長していた。一方、第2硬質皮膜のB含有量が40%の比較例47、Si含有量が30%の比較例48について、第2硬質皮膜の断面組織を観察して、何れも微細化組織であることを確認した。B、Si含有量が多くなると、切削初期から硬質皮膜の剥離とクレータ摩耗が発生した。皮膜組織の差が切削性能の優劣をもたらした。特に、Siの含有量が30%の比較例48は、切削途中段階から、第2硬質皮膜の表面に溶着物が多く観察された。また、硬質皮膜の剥離は、残留圧縮応力の増大化が原因であると考えられた。B、Siを単独で含有させる場合、B含有量は1〜25%の範囲のもの、また、Si含有量は20%までのものは、再現性が得られ、優れた耐摩耗性を示した。B、Si両者を含有させる場合について種々の検討を行った結果、第2硬質皮膜において、B+Si≦25%の領域で耐摩耗性が優れる傾向にあった。
本発明例25、26、比較例49、50は、第1硬質皮膜に含有される酸素元素、炭素元素の影響を見るために作製した。酸素、炭化水素系ガスを反応ガスの1部として用いた。酸素を含有させた本発明例26と比較例49については、成膜時に窒素、アルゴン(Ar)、酸素を同時に導入した。いずれも全圧を3.5Paとし、本発明例26の場合は、窒素85%:アルゴン10%:酸素5%のガス流量比率で導入した。これは酸素を多く導入したときに、成膜時に発生させるアーク放電が不安定になったため、不活性ガスのArを導入して、全圧を調整した。Arガスを使用しなくても放電は可能であるが、より安定化を図るためにArガスを導入した。比較例50は、酸素含有量を増やすために、全圧を3.5Paの状態で窒素量を減らし、Arガス、酸素ガス量を増やして作製した。本発明例25、26の工具寿命は、酸素元素、炭素元素を含有しない本発明例1に比して1.2倍程度優れた。また、切削距離5m時の刃先の損傷状態は、本発明例1に比して溶着、逃げ面摩耗が少ない傾向にあった。更に、すくい面のクレータ摩耗の発生も低減されていた。クレータ摩耗は、切削温度上昇に伴う化学反応によって発生することより、酸素元素、炭素元素を含有させることによって潤滑特性が高まり摩擦係数が低減される。その結果、すくい面を切屑が擦過する際の切削温度が抑制され、摩耗が低減したと考えられる。
比較例49、50は、第1硬質皮膜のx値、y値が10%以上であったため、切削初期から硬質皮膜の剥離とクレータ摩耗発生が確認され、同様に第1硬質皮膜断面の組織観察をした結果、微細化していた。炭素元素を含有しない本発明例1、炭素含有量が7%の本発明例25、15%の比較例49について、第1硬質皮膜のみの試料を作製し摩擦係数測定を行った。この摩擦係数測定は、ボールオンディスク方式で行い、コーティングした超硬合金製ディスクにSUJ2のφ6mmボールを摺動させ、大気中、無潤滑で測定した。測定温度600℃における、硬質皮膜の耐摩耗性、ならびに耐溶着性を調査した。本発明例1の摩擦係数は0.8、本発明例25は0.45、比較例49は0.8となった。第1硬質皮膜に炭素元素が多く含有しても、皮膜断面の組織が微細化すると、逃げ面摩耗、クレータ摩耗や被加工物の工具刃先への溶着といった損傷が切削初期から発生することが確認された。これは、酸素を含有させた場合も同様の傾向が観察された。酸素や炭素を多く含有させた場合、硬質皮膜の硬度が16GPaとなり、本発明例1に比して低い傾向にあった。比較例49、50について第2硬質皮膜のTEMによる皮膜断面観察の結果、柱状組織を有し、結晶粒は成長方向に対してB成分に組成差を有する組成変調構造であった。しかし、B成分の組成差は小さく、本発明例49、50ともに0.1%未満であった。また、層間は結晶格子縞が連続して成長していた。
本発明例27〜29、比較例51、52は、成膜時における反応圧力の組成への影響を見るために作製した。特にe/f値による圧縮応力への影響を調査した。この時、反応圧力を変化させ、1.6Pa〜13.5Paの範囲に設定した。反応圧力が2.2〜8.1Paで成膜を行った本発明例1、27〜29の場合、本発明例1に比して高圧力側で工具寿命が優れた。本発明例1に比して低圧力側である本発明例29は、比較例51、52に比して格段に工具寿命が優れたが、切削初期に極微小なチッピングが発生していた。特にe/f値が1.11の本発明例27が最も優れ、第1硬質皮膜のチッピングなど、不安定要素は発生しなかった。反応圧力が最も低い1.1Paで成膜を行った比較例51は、圧縮応力が7.3GPaであり、e/f値は0.83、工具寿命は5.5mとなった。これは本発明例1に比して約34%の短寿命であった。窒素圧力が低い程、圧縮応力が増大し、e/f値は、低い値を示す傾向にあった。この理由は、第1硬質皮膜の圧縮応力が高いためと考えられる。圧縮応力が6.0GPaを超える様になると、切削途中のインサート刃先損傷状態観察において、刃先エッジ部における第1硬質皮膜の破壊が確認された。再現性を確認するため、比較例51のインサートの新しいコーナーを用いて、数度の切削評価を行った結果、工具寿命は、2m、0.2mとばらつき、安定しなかった。
比較例52は、13.5Paで成膜を行った。圧縮応力が0.3GPaと比較的低い数値を示したが、工具寿命は4mであった。切削距離5m時の刃先の損傷状態を観察できなかったため、新しいコーナーを用いて、更に、初期の切削距離1mでの損傷を確認した結果、刃先エッジ部における基体と第1硬質皮膜界面からの膜剥離と、第1硬質皮膜が脱落した部位において多量の溶着が発生していた。また、逃げ面の大きな摩耗、クレータ摩耗が発生していた。これは、第1硬質皮膜の硬度の低下が原因であると考えられた。e/f値は1.32を示し、第1硬質皮膜の断面組織において柱状組織を有するものの、第1硬質皮膜中に欠陥が多く発生し、密着性や耐摩耗性が劣った。この理由は、反応圧力を13.5Paで行ったことにより、イオンが基体に入射する際の運動エネルギーが極度に低くなったためであると考えられる。
本発明例30〜33、比較例53、54は、Is/Ir値の影響を見るために作製した。成膜時、パルスバイアスのパルス周波数を10kHzに一定とし、バイアス電圧値を変化させ、30〜300Vの範囲に設定した。本発明例1、本発明例30〜33は、Is/Ir値が本発明の規定範囲内であり、圧縮応力も4GPa以下となり、工具寿命が優れた。また、バイアス電圧を変化させた場合、Is/Ir値が変化し、それに伴い圧縮応力も変化した。比較例53、54は、圧縮応力が8GPaを超え、切削初期から硬質皮膜の膜剥離が観察された。圧縮応力が大きくなると、工具寿命が劣る結果となった。比較例53、54について第2硬質皮膜のTEMによる皮膜断面観察の結果、柱状組織を有し、結晶粒は成長方向に対してB成分に組成差を有する組成変調構造であった。しかし、B成分の組成差は小さく、本発明例53、54ともに0.1%未満であった。また、層間は結晶格子縞が連続して成長していた。
本発明例34〜36、比較例55〜57は、It/Ir値の圧縮応力への影響を見るために作製した。この時、パルスバイアス電圧の正バイアス値を10〜40Vまで変化させた。正のバイアス電圧が大きくなると、相対的に(200)面への配向強度が強くなる傾向を示し、本発明例1、34〜36、比較例55〜57のIt/Ir値は、0.2〜1.5まで変化した。本発明例1、本発明例34〜36は、It/Ir値が本発明の規定範囲内であり、圧縮応力も比較的低くなり、満足のいく工具寿命が得られた。一方、比較例55〜57は正のバイアス電圧が20Vを超え、It/Ir値は0.6を下回り、切削距離5m時の刃先損傷状態観察において、第1硬質皮膜の剥離が多く観察された。圧縮応力が高くなり6GPaを超えたため、基体と第1硬質皮膜界面からの剥離だけでなく、貝殻状の破壊も多く観察され、これが工具寿命低下をもたらした。第1硬質皮膜と第2硬質皮膜の界面の密着性を高めるためには、パルスバイアス電圧における正のバイアス電圧値を高く制御して、第1硬質皮膜の(200)面の配向強度を強くすることが重要である。負の値のみのバイアス電圧印加では、成膜時のマイクロアーキングなどにより発生する欠陥の抑制に不十分となるからである。比較例55〜57について第2硬質皮膜のTEMによる皮膜断面観察の結果、柱状組織を有し、結晶粒は成長方向に対してB成分に組成差を有する組成変調構造であった。しかし、B成分の組成差は小さく、本発明例55〜57ともに0.1%未満であった。また、層間は結晶格子縞が連続して成長していた。
本発明例1、37〜38、比較例58、59は、Iv/Iu値の影響を見るために、第2硬質皮膜成膜時のバイアス電圧を80〜300Vまで変化させて作製した。本発明例1、37〜38は、バイアス電圧を低くすると、Iv/Iu値は大きくなる傾向にあった。また、バイアス電圧を大きくすると、残留圧縮応力が大きくなる傾向が確認された。本発明例1、37〜38は、比較例58、59に比して工具寿命が優れた。比較例58は、硬質皮膜の残留応力は本発明例1と同程度であったが、逃げ面摩耗の進行が早かった。これは、Iv/Iu値が1.10となり(200)面に強く配向したため、硬質皮膜の硬度が低下したためと考えられた。比較例59は、300Vのバイアス電圧で被覆を行った結果、硬質皮膜の残留圧縮応力が6.4GPaとなった。比較例59は、切削前から刃先に硬質皮膜の脱落が観察された。さらに切削を行うと、切削距離2mにも満たないうちに膜剥離が観察され、その部位を起点に欠損した。硬質皮膜の断面組織を観察した結果、微細組織と呈しており粒界欠陥が増加していると考えられた。これが、残留圧縮応力の増大化をもたらした原因であると考えられた。
本発明例1、39〜40、比較例60〜61は、Iw/Iu値の影響を見るために、第2硬質皮膜成膜時のパルス周波数を2〜40kHzに変化させて作製した。本発明例1、39〜40は、パルス周波数を大きくするとIw/Iu値が大きくなる傾向にあった。また、パルス周波数を大きくすると、残留圧縮応力が若干大きくなる傾向が確認された。本発明例1、39〜40は、比較例60、61に比して工具寿命が優れた。パルス周波数が2kHzの比較例60は、硬質皮膜の残留圧縮応力は1.3GPaと低い値を示したが、Iw/Iu値は、1.05となった。原因が不明であるが切削初期から基体と第1硬質皮膜間、第1硬質皮膜と第2硬質皮膜間の両方での剥離が観察された。比較例60については、複数の試料で切削性能の再現性を確認したが、いずれも本発明例1に比して工具寿命が短かった。これは、成膜時のバイアス電圧に対して印加したパルス周波数が2kHzであったことより、イオンが基体に到達する際の運動エネルギーが低く、特に硬質皮膜の密着性を劣化させたのではないかと考えられる。また、比較例61は、パルス周波数が40kHzであったことより、イオンの運動エネルギーが制御できず、それが硬質皮膜形成時に歪として蓄積され、残留圧縮応力が増大化したものと考えられる。そのため、切削初期に硬質皮膜の剥離が発生したのではないかと考えられる。
本発明例41、42、比較例62、63は、第1硬質皮膜、第2硬質皮膜のX線回折における(200)面の面間隔の影響を見るために作製した。面間隔はパルスバイアス電圧のパルス周波数を1〜40kHzの範囲で変化させることにより調節した。本発明例41、42は、パルス周波数が夫々30kHz、2kHzの場合であるが、d2/d1値は1.01〜1.02を示し、硬質皮膜全体の圧縮応力が低くなり、第1硬質皮膜と第2硬質皮膜の密着性に優れ、満足のいく工具寿命が得られた。一方、パルス周波数を1kHzで成膜を行った比較例62は、d2/d1値が1.07となり、第1硬質皮膜と第2硬質皮膜の面間隔のズレにより密着性が劣化した。比較例63は、切削初期に基体と硬質皮膜間の剥離よりも第1硬質皮膜と第2硬質皮膜の界面で剥離が多く観察された。これが短い工具寿命の原因であった。この理由は、40kHzで成膜を行ったためd2/d1値が0.99となり、硬質皮膜全体の圧縮応力が6.9GPaと増大して基体との密着性の他に、第1硬質皮膜と第2硬質皮膜の面間隔のミスフィットにより密着性が劣化したためである。また、パルス周波数の変化によってIt/Ir値も変化することが確認された。パルス周波数と圧縮応力の関係には相関性があると考えられ、パルス周波数が大きくなると、圧縮応力は大きくなる傾向にあった。パルス周波数が大きくなると、直流バイアス電圧が印加される状態に近づくためと考えられる。
本発明の硬質皮膜被覆工具は、例えば、耐摩耗性が要求される金属加工用の工具全般等において適用することができる。

Claims (5)

  1. 超硬合金を基体に圧縮応力を有する硬質皮膜を5〜30μmの膜厚で被覆した硬質皮膜被覆工具において、該硬質皮膜は、該基体表面から第1硬質皮膜、第2硬質皮膜が被覆され、最外皮膜は該第2硬質皮膜が被覆され、該第1硬質皮膜は、(AlMe100−aで示され、但し、aは原子%、e、fは原子比を表し、35≦a≦65、0.85≦e/f≦1.25、であり、Alはアルミニウム、Meは4a、5a、6a族、Si、Bから選択される1種以上の元素、Nは窒素であり、該第2硬質皮膜は、(Ti100−hで示され、但し、hは原子%、m、pは原子比を表し、1≦h≦30、0.85≦m/p≦1.25、であり、Tiはチタニウム、Bは硼素、Nは窒素であり、該第1硬質皮膜、該第2硬質皮膜の結晶構造は面心立方構造であり、該第1硬質皮膜のX線回折において(111)面のピーク強度をIr、(200)面のピーク強度をIs、(220)面のピーク強度をItとしたときに、1.5≦Is/Ir≦15.0、及び0.6≦It/Ir≦1.5、であり、該第2硬質皮膜のX線回折において(111)面のピーク強度Iu、(200)面のピーク強度Iv、及び(220)面のピーク強度Iwとしたとき、0.3≦Iv/Iu<1、及び0.3≦Iw/Iu<1であり、該第1硬質皮膜と該第2硬質皮膜のX線回折における(200)面の面間隔(nm)を夫々、d1、d2としたときに、1.01≦d2/d1≦1.05であり、該第2硬質皮膜は柱状組織を有し、該柱状組織の結晶粒はB成分に組成差を有する組成変調構造であることを特徴とする硬質皮膜被覆工具。
  2. 請求項1記載の硬質皮膜被覆工具において、該第1硬質皮膜における窒素について、その1部を炭素、酸素で置換し、非金属成分全体を100とし、原子%で炭素元素の含有量をx、酸素元素の含有量をyとしたとき、0<x≦10、0<y≦10、0<x+y≦10、窒素の含有量は100−x−y、であることを特徴とする硬質皮膜被覆工具。
  3. 請求項1または請求項2記載の硬質皮膜被覆工具において、該第2硬質皮膜におけるチタニウムについて、その1部をシリコンで置換し、金属成分全体を100としたとき、原子%でシリコンの含有量をk、としたとき、0<k≦20、チタニウムの含有量は100−h−k、であることを特徴とする硬質皮膜被覆工具。
  4. 請求項1ないし請求項3の何れかに記載の硬質皮膜被覆工具において、圧縮応力を有する該硬質皮膜の総膜厚は、10μm〜30μmであることを特徴とする硬質皮膜被覆工具。
  5. 請求項1記載の硬質皮膜被覆工具において、該第2硬質皮膜の結晶粒の該組成変調構造は、B成分の組成差が、原子%で、10%以下であり、該組成変調構造における組成変調境界部では結晶格子縞が連続していること、を特徴とする硬質皮膜被覆工具。
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