JP2011183400A - 薄鋼板の重ねすみ肉アーク溶接方法及び重ねすみ肉アーク溶接継手 - Google Patents
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Abstract
【課題】板厚1〜2.6mmの薄鋼板をアーク溶接する際に、溶接変形を抑制し、かつ溶着金属のぬれ性が良好でなだらかな溶接ビード形状を達成でき、さらにスパッタが発生しないアーク溶接技術を提供する。
【解決手段】薄鋼板の重ねすみ肉アーク溶接方法において、アーク溶接電源として、溶接ワイヤの送給を前進及び後退させる機能を有し、溶接ワイヤと被溶接材の間にアークを発生させる期間、溶接電流値を低くして溶接ワイヤを前進させ先端を被溶接材に接触させる期間、溶接ワイヤ先端と被溶接材が接触している状態で溶接ワイヤを通電し発熱させる期間、及び、溶接電流値を低くして溶接ワイヤを後退させ被溶接材から引き離す期間を制御することができるアーク溶接電源を用い、CO2シールドガス中で、低熱膨張溶接材料を用いて溶接することを特徴とする薄鋼板の重ねすみ肉アーク溶接方法。
【選択図】図2
【解決手段】薄鋼板の重ねすみ肉アーク溶接方法において、アーク溶接電源として、溶接ワイヤの送給を前進及び後退させる機能を有し、溶接ワイヤと被溶接材の間にアークを発生させる期間、溶接電流値を低くして溶接ワイヤを前進させ先端を被溶接材に接触させる期間、溶接ワイヤ先端と被溶接材が接触している状態で溶接ワイヤを通電し発熱させる期間、及び、溶接電流値を低くして溶接ワイヤを後退させ被溶接材から引き離す期間を制御することができるアーク溶接電源を用い、CO2シールドガス中で、低熱膨張溶接材料を用いて溶接することを特徴とする薄鋼板の重ねすみ肉アーク溶接方法。
【選択図】図2
Description
本発明は、自動車関連部品等に用いられる鋼板の溶接に関するものであり、特に、板厚1〜2.6mmの薄鋼板を溶接する際に発生する溶接変形を低減させ、良好な溶接部形状を得る、重ねすみ肉アーク溶接方法に関するものである。
近年、自動車分野では低燃費化やCO2排出量削減を目的とした車体の軽量化のため、薄鋼板を使用するニーズが高まっている。一般に、自動車車体のように部材同士を組み合わせ溶接する構造体の場合、溶接継手の形状として重ね継手が基本となる。
鋼板を溶接した際に、溶接金属の熱収縮によって発生する残留応力は、角変形や縦曲がり変形などの溶接変形を引き起こしてしまい、薄鋼板の溶接の場合には、厚鋼板の溶接以上にその溶接変形が顕著に発生する。そこで、残留応力をゼロ又は低減させる技術として、溶接時の冷却過程の平均熱膨張係数を低減した低熱膨張溶接材料を用いた溶接技術が開発された(特許文献1)。
低熱膨張溶接材料を用いた溶接技術により、溶接変形を抑えることができるようになった。しかし、この技術を用いて、薄鋼板の重ねすみ肉アーク溶接継手を作製したところ、一般的なMAG溶接材料であるJIS YGW15や、JIS YGW12を用いた場合に比べ溶接変形は低減したが、スパッタが多発するという新たな問題が生じた。
さらに、低熱膨張溶接材料は溶着金属としてのぬれ性が悪く、溶接金属が過大な凸形状となってしまうという問題が生じた。この現象は、JIS YGW15やJIS YGW12を用いたときには見られなかったものである。
スパッタと溶接時のシールドガスとの関係について、シールドガス中のCO2濃度が増加するに従いスパッタが増加することが知られている。そのため、シールドガスとしてArとCO2の混合ガス(Ar+20%CO2)を用い、さらにパルス電流と組み合わせることでスパッタを低減する技術がある(例えば、特許文献2)。
しかし、低熱膨張溶接材料を用いた溶接では、シールドガスにArとCO2の混合ガスを使用し、パルス電流と組み合わせた溶接条件であっても、スパッタを十分に低減させることができなかった。
ところで、スパッタフリーを謳う電源としてCMT(Cold Metal Transfer)(登録商標)電源がある(例えば、特許文献3)。CMT電源は、溶接ワイヤの送給を前進及び後退させる機能を有し、(1)溶接ワイヤと被溶接材の間にアークを発生させる期間、(2)溶接電流を低くして溶接ワイヤを前進させ先端を被溶接材に接触させる期間、(3)溶接ワイヤ先端と被溶接材が接触している状態で溶接ワイヤを通電し発熱させる期間、及び、(4)溶接電流を低くして溶接ワイヤを後退させ被溶接材から引き離す期間を制御することができるアーク溶接電源であり、スパッタの低減だけでなく、溶接時の入熱をも低減した電源である。入熱の低減は、溶接変形低減にも高い効果を発揮する。
そこで、CMT電源を、低熱膨張溶接材料を用いた溶接に適用したところ、スパッタの抑制は可能となったが、ぬれ性は改善できなかった。
本発明は、上記の問題に鑑み、板厚1.0〜2.6mmの薄鋼板をアーク溶接する際に、溶接変形を抑制し、かつ溶接金属のぬれ性が良好でなだらかなビード形状を形成でき、さらにスパッタが発生しないアーク溶接技術を提供することを課題とする。
本発明者らは、溶接部の形状に及ぼす条件を鋭意調査、検討し、得られた知見に基づき本発明を完成させた。本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)薄鋼板の重ねすみ肉アーク溶接方法において、
アーク溶接電源として、溶接ワイヤの送給を前進及び後退させる機能を有し、溶接ワイヤと被溶接材の間にアークを発生させる期間、溶接電流を低くして溶接ワイヤを前進させ先端を被溶接材に接触させる期間、溶接ワイヤ先端と被溶接材が接触している状態で溶接ワイヤを通電し発熱させる期間、及び、溶接電流を低くして溶接ワイヤを後退させ被溶接材から引き離す期間を制御することができるアーク溶接電源を用い、CO2シールドガス中で、低熱膨張溶接材料を用いて溶接することを特徴とする薄鋼板の重ねすみ肉アーク溶接方法。
アーク溶接電源として、溶接ワイヤの送給を前進及び後退させる機能を有し、溶接ワイヤと被溶接材の間にアークを発生させる期間、溶接電流を低くして溶接ワイヤを前進させ先端を被溶接材に接触させる期間、溶接ワイヤ先端と被溶接材が接触している状態で溶接ワイヤを通電し発熱させる期間、及び、溶接電流を低くして溶接ワイヤを後退させ被溶接材から引き離す期間を制御することができるアーク溶接電源を用い、CO2シールドガス中で、低熱膨張溶接材料を用いて溶接することを特徴とする薄鋼板の重ねすみ肉アーク溶接方法。
(2)溶接電流I(A)、溶接電圧V(V)、ワイヤ送給速度WFR(m/min)、ワイヤ直径D(mm)としたとき、Q=I×V/WFR/(πD2/4)/1000で表されるQ(W/mm3/min)が、0.40≦Q≦0.55を満たすことを特徴とする前記(1)の薄鋼板の重ねすみ肉アーク溶接方法。
(3)溶接する前記薄鋼板の厚さが、共に1.0mm以上2.6mm以下であることを特徴とする前記(1)又は(2)の薄鋼板の重ねすみ肉アーク溶接方法。
(4)前記低熱膨張溶接材料は、30〜400℃の平均熱膨張係数が2×10-6〜10×10-6/℃である溶接金属を形成させることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかの薄鋼板の重ねすみ肉アーク溶接方法。
(5)前記(1)〜(4)のいずれかの重ねすみ肉アーク溶接方法により製造した薄鋼板の重ねすみ肉アーク溶接継手。
本発明の重ねすみ肉アーク溶接方法によれば、特に、板厚の薄い薄鋼板を溶接する際に、溶接変形を抑制し、かつ溶接金属のぬれ性が良好でなだらかな溶接部形状を形成することができ、さらに溶接中のスパッタの発生を抑制することができる。
本発明では、スパッタの発生を低減させるために、溶接電源として、一般的な直流電源や、パルス電源は適用できず、溶接ワイヤの送給を前進及び後退させる機能を有したアーク溶接電源、例えば、CMT電源を使用することが必要である。
また、薄鋼板の溶接変形を防ぐために、低熱膨張溶接材料を使用する。低熱膨張溶接材料としては、例えば特許文献1に記載の、公知の材料を用いることができる。
さらに、本発明ではシールドガスとしてCO2を使用する。一般的には、シールドガス中のCO2濃度が増加するに従いスパッタが増加することが知られている。本発明でシールドガスとしてCO2が有効なのは、他のシールドガスと比べ、鋼板や溶融金属をより効率よく加熱できるためであると考えられる。
本発明で使用するCMT電源のようなアーク溶接電源は、スパッタが発生しないことに加えて、低入熱・高溶着量である特徴を有し、低入熱であるため鋼板表面の加熱及び溶融金属の加熱が過度に抑えられてしまう傾向がある。一方、CO2雰囲気中で発生するアークは、Arや、ArとCO2の混合ガス雰囲気中で発生するアークよりも高温であり、鋼板表面が加熱され、ぬれ性が高まり、溶接金属が幅広くなじむので、その結果、凸ビードが解消され、なだらかな形状の溶接ビードを得ることができる。
ここで、溶接ビードがなだらかな形状であるとは、上板11の表面から盛り上がった溶接金属13の高さhが上板11の厚さの30%以下であり、かつ、下板12の溶融境界Aと下板12の表面からの高さtが上板11の厚さの1/2である溶接金属13の表面Bを結ぶ直線ABと下板12の表面がなす角θ(以下、フランク角ともいう)が115°以上であることをいうものとする。
図1に、凸形状となった溶接部、図2に、なだらかな形状の良好な溶接部の概略を示す。凸形状となった溶接部は良好な形状に比べて、hが大きく、θが小さくなっている。
本発明では、溶接電源の電流I(A)、電圧V(V)、ワイヤ送給速度WFR(m/min)、ワイヤ直径D(mm)としたとき、Q=I×V/WFR/(πD2/4)/1000で表されるワイヤ送給体積あたりの入熱Q(W/mm3/min)が、0.40≦Q≦0.55を満たす範囲とすることが好ましい。
Qが0.40未満では、入熱が小さすぎるため溶接部の架橋性が悪くなり、0.55を超えると入熱が大きくなりすぎ、溶接金属の溶け落ちが発生しやすくなるためである。
図3に、同じ溶接材料で、溶接方法、ワイヤ径を変えたときの、ワイヤ送給速度とワイヤ送給体積あたりの入熱Qとの関係を示す。ワイヤ送給速度以外の条件は、上板にアンダカットが生じず、かつ下板の裏側に溶接金属が抜けて溶け落ちないような適切な条件とした。CMT電源を用いた場合は、ワイヤ送給速度によらず入熱が低く抑えられており、溶接変形の低減に有効であることがわかる。
本発明は、特に、厚さ1.0〜2.6mmの薄鋼板の重ねすみ肉溶接に適用すると有効である。
また、上記低熱膨張溶接材料は、30〜400℃における溶接金属の平均熱膨張係数が2×10-6〜10×10-6/℃であることが、溶接される薄鋼板との特性の整合の観点から望ましい。
以下、本発明の効果を、実施例に基づいて説明する。以下の実施例における条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一例であり、本発明は、以下の実施例に示した条件に限定されるものではない。
表1に示す溶接条件で種々の重ねすみ肉アーク溶接継手を作製し、その外観を調査した。ワイヤ送給速度、及び、溶接電圧は、上板にアンダカットが生じず、かつ下板の裏側に溶接金属が抜けて溶け落ちないよう板厚に応じて適切な範囲に組み合わせを変化させた。結果を表2に示す。
ビード状態の判定について、溶接変形は、重ねすみ肉継手の縦曲がり変形にて評価した。試験片長さ150mmあたりの縦曲がり変形量fが、±1.5mm以内であるものを○、±1.5mmより大きいものを×とした。(図3、参照)。
スパッタについては、継手表面に0.5mm以上の大きさのスパッタが付着したものを×、付着しなかったものを○とした。
凸形状は、上板表面から盛り上がった溶接金属の高さが上板厚さの30%以下、かつ、フランク角が115°以上のものを○、上板表面から盛り上がった溶接金属の高さが上板厚さの30%超、又は、フランク角が115°未満のものを×とした。
表2の1〜5が本発明の実施例であり、溶接変形は生じず、溶接金属の外観は良好であり、溶接中のスパッタの発生も見られなかった。
比較例6〜23は本発明の条件を満たさない方法により作製されたものである。溶接材料としてYM−28、YM−28Sを使用したものは、溶接金属が過大な凸形状となることはなかったが、溶接変形が生じた。
溶接材料として、低熱膨張溶接材料を使用した例では、溶接モードがCMTでない場合はスパッタの発生を抑えることができなかった。さらに、本発明の条件を満たさない場合は、上板のアンダカットを防ぐためにはワイヤ送給速度を大きくしなければならず、かつ、ぬれ性も劣るので、溶接ビードは過大な凸形状となった。
以上示したように、本発明の重ねすみ肉アーク溶接方法によれば、薄鋼板を溶接において、鋼板の強度、タイプに依存せず、溶接変形を抑制し、かつ溶接金属のぬれ性が良好でなだらかな溶接部形状を得ることができ、さらに溶接中のスパッタの発生を抑制することができることが確認できた。
本発明の重ねすみ肉アーク溶接方法によれば、薄鋼板を溶接において、鋼板の強度、タイプに依存せず、溶接変形を抑制し、かつ溶接金属のぬれ性が良好でなだらかな溶接部形状を得ることができ、さらに溶接中のスパッタの発生を抑制することができる。そのため本発明を、例えば自動車関連部品や薄板建材関連製品等の製作に適用することで、それらの外観、信頼性を向上させることができる。さらに、本発明は、溶接継手作製時の生産性を低下させることがなく、シールドガスとして安価なCO2を用いることができるため、産業上の貢献は多大なものである。
11 上板
12 下板
13 溶接金属
h 上板表面から盛り上がった溶接金属の高さ
t 溶接金属表面の下板表面からの高さ
A 下板の溶融境界
B 下板表面からの高さtが上板厚の1/2である溶接金属表面
θ 下板の溶融境界Aと下板表面からの高さtが上板厚の1/2である溶接金属表面Bを結ぶ直線ABと下板表面がなす角(フランク角)
f 重ねすみ肉継手の下板側自由端面における、弦の中央部から弧までの高さ
12 下板
13 溶接金属
h 上板表面から盛り上がった溶接金属の高さ
t 溶接金属表面の下板表面からの高さ
A 下板の溶融境界
B 下板表面からの高さtが上板厚の1/2である溶接金属表面
θ 下板の溶融境界Aと下板表面からの高さtが上板厚の1/2である溶接金属表面Bを結ぶ直線ABと下板表面がなす角(フランク角)
f 重ねすみ肉継手の下板側自由端面における、弦の中央部から弧までの高さ
Claims (5)
- 薄鋼板の重ねすみ肉アーク溶接方法において、
アーク溶接電源として、溶接ワイヤの送給を前進及び後退させる機能を有し、溶接ワイヤと被溶接材の間にアークを発生させる期間、溶接電流値を低くして溶接ワイヤを前進させ先端を被溶接材に接触させる期間、溶接ワイヤ先端と被溶接材が接触している状態で溶接ワイヤを通電し発熱させる期間、及び、溶接電流値を低くして溶接ワイヤを後退させ被溶接材から引き離す期間を制御することができるアーク溶接電源を用い、CO2シールドガス中で、低熱膨張溶接材料を用いて溶接することを特徴とする薄鋼板の重ねすみ肉アーク溶接方法。 - 溶接電流I(A)、溶接電圧V(V)、ワイヤ送給速度WFR(m/min)、ワイヤ直径D(mm)としたとき、Q=I×V/WFR/(πD2/4)/1000で表されるQ(W/mm3/min)が、0.40≦Q≦0.55を満たすことを特徴とする請求項1に記載の薄鋼板の重ねすみ肉アーク溶接方法。
- 溶接する前記薄鋼板の厚さが、共に1.0mm以上2.6mm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の薄鋼板の重ねすみ肉アーク溶接方法。
- 前記低熱膨張溶接材料は、30〜400℃における溶接金属の平均熱膨張係数が2×10-6〜10×10-6/℃であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の薄鋼板の重ねすみ肉アーク溶接方法。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載の薄鋼板の重ねすみ肉アーク溶接方法により製造した重ねすみ肉アーク溶接継手。
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CN105108363A (zh) * | 2015-08-24 | 2015-12-02 | 北京星航机电装备有限公司 | 一种大型薄壁弹翼对接焊变形控制方法 |
JP2019188406A (ja) * | 2018-04-19 | 2019-10-31 | 株式会社ダイヘン | 消耗電極式アーク溶接方法、及び消耗電極式アーク溶接装置 |
CN114473145A (zh) * | 2021-12-20 | 2022-05-13 | 上海工程技术大学 | 一种铝钢异质金属电弧焊接焊缝成形的控制方法 |
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2010
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