JP2011179150A - 繊維成形体およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】生体吸収性ポリマーとシクロデキストリンからなる均一性に優れた繊維成形体を提供する。
【解決手段】シクロデキストリンまたはその誘導体のプロトン性溶媒分散液に、生体吸収性ポリマーおよびその溶媒を添加してポリマー溶液を調製し、これを静電紡糸する繊維成形体の製造方法およびそれにより得られた繊維成形体。
【選択図】なし

Description

本発明は、生体吸収性ポリマーとシクロデキストリン類からなり、均一な繊維径を有する繊維成形体に関する。
シクロデキストリンは、α1、4−グルコシド結合によって数個のグルコースが結合し、環状構造をとった環状オリゴ糖の一種である。環状構造の内部は他の比較的小さな分子を包接できる程度の大きさの空孔となっているだけでなく、シクロデキストリンのヒドロキシ基はこの空孔の外側を向いているため、空孔内部は疎水性となっており、疎水性の分子を包接しやすいことが知られている。これまで、低分子から高分子まで種々の化合物を包接することが試みられており、包接された化合物を固定化、安定化させることから、食品添加剤、医薬品・医療材料組成物、衛生用品添加剤等さまざまな用途への応用が検討され、実用化されている。
一方、エレクトロスピニング法(静電紡糸法、電界紡糸法ともいう)は、従来の繊維成形方法よりも繊維径の細い糸を簡便に作成できるメリットがあり、繊維成形体の表面積を大きくすることができることから、フィルター基材、細胞培養用の担体や再生医療のための足場材料などへの応用が検討されている。
これらシクロデキストリンの多機能とエレクトロスピニング法で得られる繊維成形体の大きい比表面積を活用すべく、近年、シクロデキストリンとエレクトロスピニング法を組み合わせて新規繊維成形体を得る試みがなされている(非特許文献1〜7)。例えば、非特許文献1には、β−シクロデキストリンを含有したポリ塩化ビニルからなる繊維成形体が、代表的な神経ガスである有機リン化合物を分解することが開示されている。また、非特許文献2には、β−シクロデキストリンを含有したポリスチレンからなる繊維成形体が、フェノールフタレインを効率良く吸着し、フィルター能を有することが開示されている。さらには、非特許文献3には、香料としてメントールを包接したシクロデキストリンを含有したポリメタクリル酸メチルからなる繊維成形体が、メントールの耐熱性を向上し、香料の安定性を高めることが開示されている。
エレクトロスピニング法で作製された繊維成形体の用途として、再生医療のための足場材料が近年特に注目を浴びており、材料特性としては、1)生体吸収性、2)接着性(細胞およびタンパク質)、3)多孔質性、4)力学強度などが求められている。これらの特性を満足する材料として、生体吸収性ポリマーである脂肪族ポリエステル(例えばポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトンなど)、およびこれらの共重合体、複合体などがこれまで検討されており、繊維に加工した成形体は、縫合糸や生体吸収性シートなど様々な応用がなされている。しかし、ポリ乳酸およびポリ乳酸成分が多いポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体、特にはL体100%からなるこれらポリマーは、結晶性が高く、疎水性であるがために加水分解速度が遅く、生体吸収性が向上させることが望まれていた。
上記エレクトロスピニング法で得られたシクロデキストリンを含有する繊維成形体で使用されているポリマーは、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリ塩化ビニルであり、生体吸収性ポリマーについては検討されていない。また、ポリマーを溶解するのに使用されている溶媒は、水、N、N−ジメチルホルムアミド等シクロデキストリンの良溶媒であり、ハロゲン化溶媒のようなシクロデキストリンの貧溶媒を使用した例はこれまでない。
特許文献1にはシクロデキストリン含有ポリエステル系重合体からなる繊維および不織布が開示されているが、含有されるシクロデキストリンはポリエステル系重合体の末端と結合している。こうした修飾シクロデキストリンを製造するのは煩雑であり、高コストである。特許文献1には修飾シクロデキストリンの効果は全く記載されていない。
一方、特許文献2にはポリ乳酸とβ−シクロデキストリンからなる組成物が開示されており、シクロデキストリンが結晶化核剤として機能し、ポリ乳酸の結晶化度が大幅に向上することが記載されている。一般的に、結晶性が高くなると加水分解速度が遅くなることが知られている。
いずれにしても、生体吸収性ポリマーとシクロデキストリン類を含み、繊維径のばらつきが少ない繊維成形体は簡便な方法では得られておらず、またシクロデキストリン類の具体的な効果については知られていないのが現状である。
特開2007−277754号公報 US2009/0060860号明細書
Ramakrishnan Ramaseshan.; Subramanian Sundarrajan. Nanotechnology, 20 (2006), 2947 Tamer Uyar.; Rasmus Havelund. J of membrane Sci, 332 (2009), 129-137 Tamer Uyar.; Yusuf Nur. Nanotechnology, 20 (2009), 125703 Tamer Uyar.; Peter Kingshott. Angew chem int ed, 2008, 47, 9108 Tamer Uyar.; Abidin Balan. Polymer, vol.50, 475-480 (2009) Tamer Uyar.; Rasmus Havelund. Nanotechnology, 20 (2009), 125605 Tamer Uyar.; Flemming Besenbacher. Euro Polym J, 45 (2009) 1032-1037
本発明の目的は、均一な繊維径を有するシクロデキストリン含有生体吸収性ポリマーの繊維成形体を提供することである。
また、本発明の目的は加水分解性の高い生体吸収性ポリマーの繊維成形体を提供することである。
さらに、本発明の目的は、かかる繊維成形体の簡便な製造方法を提供することである。
本発明の発明者らは前記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定条件で製造することで生体吸収性ポリマーとシクロデキストリンからなる均一な繊維成形体が簡便に得られること、驚くべきことに該繊維成形体の加水分解性が高くなることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、生体吸収性ポリマーと、これとは共有結合をしていないシクロデキストリンまたはその誘導体からなる繊維成形体であって、平均繊維径が0.05〜50μmであり、(繊維径の標準偏差)/(平均繊維径)<0.5である繊維成形体である。
また、本発明は、以下の工程を含む繊維成形体の製造方法である。
工程1:シクロデキストリンまたはその誘導体をプロトン性溶媒に分散することでシクロデキストリンまたはその誘導体の分散液を得る工程
工程2:工程1で得られた分散液に生体吸収性ポリマーを溶解する溶媒および生体吸収性ポリマーを添加して溶解することで、シクロデキストリンまたはその誘導体が分散したポリマー溶液を得る工程
工程3:工程2で得られたポリマー溶液を使用してエレクトロスピニング法により紡糸することで繊維成形体を得る工程
本発明の繊維成形体は、均一な繊維径を有し、加水分解性の点で優れている。また、本発明の製造方法によれば、かかる繊維成形体を簡便に得ることができる。
本発明において、繊維成形体とは、得られた一本または複数本の繊維が積層され、織り、編まれ、もしくはその他の手法により形成された3次元の成形体を指す。具体的な繊維成形体の形態としては、例えば不織布が挙げられる。さらに、それをもとに加工したチューブ、メッシュなども再生医療分野において好ましく用いることができ、繊維成形体に含まれる。
本発明の繊維成形体の平均繊維径は0.05〜50μmである。平均繊維径が、0.05μmよりも小さいと、該繊維成形体の強度が保てないため好ましくない。また平均繊維径が50μmよりも大きいと、再生医療のための足場材料としては、繊維の比表面積が小さく生着する細胞数が少なくなるため好ましくない。さらに好ましくは、平均繊維径が0.2〜20μmである。なお、繊維径とは繊維断面の直径を表す。繊維断面の形状は円形に限らず、楕円形や異形になることもありうる。この場合の繊維径とは、該楕円形の長軸方向の長さと短軸方向の長さの平均をその繊維径として算出する。また、繊維断面が円形でも楕円形でもないときには、円または楕円に近似して繊維径を算出する。
本発明において、繊維成形体の繊維径は、(繊維径の標準偏差)/(平均繊維径)<0.5を満足する。シクロデキストリンまたはその誘導体が凝集した状態で繊維中に含まれる場合、該凝集部分の繊維径はビーズのように太くなり、繊維径の標準偏差は大きくなる。均一な繊維径を有さない繊維成形体の機械的性質は、脆くなるため好ましくない。
本発明において生体吸収性ポリマーとしては、具体的には、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、ポリグリセロールセバシン酸、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリブチレンサクシネートなどや、これらの誘導体が例示できる。
これらの中でも、好ましくはポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、およびそれらの共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、最も好ましいのはポリ乳酸、ポリ乳酸−グリコール酸共重合体である。
このとき、ポリ乳酸の共重合体は、伸縮性を付与するモノマー成分が少ないほうが好ましい。ここで伸縮性を付与するモノマー成分とは、カプロラクトンモノマーや、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリアルキレンカーボネートジオール、ポリエチレングリコールユニットなどの軟質成分が例示できる。これらの軟質成分はポリマー重量比で20%未満であることが好ましい。これよりも軟質成分が多いと自己支持性を失いやすく、やわらかすぎて取り扱いにくい繊維成形体になる。
ポリ乳酸におけるポリマーを構成するモノマーには、例えばL−乳酸およびD−乳酸があるが特に制限はない。またポリマーの光学純度や分子量、L体とD体の組成比、配列には特に制限はなく、ポリL乳酸とポリD乳酸のステレオコンプレックスを用いてもよい。好ましくはL体の多いポリマーであり、L体が100%であることがより好ましい。
また、ポリマーの分子量としては、1×10〜5×10であり、好ましくは1×10〜1×10、より好ましくは5×10〜5×10である。また、ポリマーの末端構造やポリマーを重合する触媒は任意に選択できる。
本発明の繊維成形体においては、その目的を損なわない範囲で、他のポリマーや他の化合物を併用してもよい。例えば、ポリマー共重合、ポリマーブレンド、化合物混合である。
ポリマーは高純度であることが好ましく、とりわけポリマー中に含まれる添加剤や可塑剤、残存触媒、残存モノマー、成形加工や後加工に用いた残留溶媒などの残留物は、少ないほうが好ましい。特に、医療に用いる場合は、安全性の基準値未満に抑える必要があることはいうまでもない。
本発明の繊維成形体は、シクロデキストリンまたはその誘導体をポリマー重量に対して0.01〜50重量%含有する繊維成形体である。シクロデキストリンまたはその誘導体の含有量が0.01重量%より少ないと、シクロデキストリン特有の効果を示さず、50重量%よりも多いと、繊維成形体自体の自己支持性が低下するため好ましくない。好ましい含有量は、0.02〜40重量%であり、さらに好ましくは、0.05〜30重量%である。
本発明におけるシクロデキストリンまたはその誘導体は特に限定されないが、例えば、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、またはシクロデキストリンの水酸基のうち一部の水素原子が直鎖または分岐のアルキル基、直鎖または分岐のアルケニル基、直鎖または分岐のヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアリール基、アシル基、グリコシル基、マルトシル基、イミダゾリル基などで置換された誘導体、分岐シクロデキストリン、シクロデキストリンの2量体あるいは多量体などがシクロデキストリン誘導体として使用できる。またグルコース等の単糖類単位が5以下または9以上のシクロデキストリン類縁体も使用可能である。これらは単独または2種以上を組み合わせて使用可能である。これらの中でもα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、またはこれらの混合物がコスト、供給安定性の点から好ましい。
本発明において「生体吸収性ポリマーと結合していない」とは、シクロデキストリンまたはその誘導体が生体吸収性ポリマーと共有結合していないことを意味しており、水素結合、疎水性相互作用等で相互作用していてもよい。
本発明において、シクロデキストリンまたはその誘導体を使用する前に、凍結乾燥、熱風乾燥、減圧乾燥等により乾燥しておくことが好ましい。
本発明の繊維成形体は長繊維よりなる。長繊維とは、具体的には紡糸から繊維成形体への加工に至る工程の中で、繊維を切断する工程を加えずに形成される繊維成形体のことをいい、エレクトロスピニング法、スパンボンド法、メルトブロー法などで形成することができるが、エレクトロスピニング法が好ましく用いられる。ここで、エレクトロスピニング法とは、静電紡糸法、エレクトロスプレー法などともよばれる方法も原理的には同じであり、これらも本発明でいうエレクトロスピニング法に含まれる。
本発明の繊維成形体の全体の厚みに関しては、特に制限はないが、好ましくは25μm〜200μm、さらに好ましくは50〜100μmである。
本発明の繊維成形体は、例えば以下の工程を経て製造できる。
工程1:シクロデキストリンまたはその誘導体をプロトン性溶媒に分散することでシクロデキストリンまたはその誘導体分散液を得る工程
工程2:工程1で得られた分散液に生体吸収性ポリマーを溶解する溶媒および生体吸収性ポリマーを添加し、溶解することで、シクロデキストリンまたはその誘導体が分散したポリマー溶液を得る工程
工程3:工程2で得られたポリマー溶液を使用してエレクトロスピニング法により紡糸することで繊維成形体を得る工程
工程1において使用されるプロトン性溶媒として、その溶媒自体が解離してプロトンを生じる溶媒をいう。具体的には、水、メタノール、エタノールやプロパノールなどのアルコール類、酢酸などのカルボン酸類、フェノール類、液体アンモニア等から選ばれる少なくとも一種あるいは混合物が挙げられ、生体吸収性ポリマーを溶解する溶媒と相溶するのであれば特に限定はされない。これらの中でも、好ましくはアルコール類から選ばれる少なくとも1種あるいは混合物であり、安全性、取り扱い性の点で最も好ましいのはエタノールである。
シクロデキストリンまたはその誘導体をプロトン性溶媒に分散させる方法としては、特に限定されないが、超音波や各種攪拌方法を用いることができる。攪拌方法としては、ホモジナイザーのような高速攪拌やアトライター、ボールミル等の攪拌方法も使用することができる。なかでも超音波処理による分散方法が好ましい。プロトン性溶媒中で上記分散方法により分散させることにより、シクロデキストリンまたはその誘導体の分散性が飛躍的に向上し、均一な繊維成形体を得ることが可能となる。
シクロデキストリンまたはその誘導体をプロトン性溶媒に分散する濃度として、特に限定されるものではないが、0.05〜50重量%が好ましく、0.1〜20重量%がより好ましい。
工程2において生体吸収性ポリマーを溶解する溶媒として、生体吸収性ポリマーを溶解可能で、かつ紡糸する段階で蒸発し、繊維を形成可能なものであれば特に限定されるものではないが、具体的にはジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロエチレン、四塩化炭素、トリクロロエタン、ヘキサフルオロ−2−プロパノール、ヘキサフルオロアセトンといったハロゲン化溶媒から選ばれる少なくとも一種または混合物が挙げられ、なかでもジクロロメタン、クロロホルムが最も好ましい。例えば、生体吸収性ポリマーが、ポリ乳酸、ポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体、およびポリカプロラクトン−ポリ乳酸共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、L体100%からなる場合、ジクロロメタン、クロロホルムを主成分とする溶媒に良好に溶解する。また、ポリマーの溶解性を阻害しない範囲で、アセトン、エタノール、2−プロパノール、メタノール、トルエン、テトラヒドロフラン、ベンゼン、ベンジルアルコール、1,4−ジオキサン、1−プロパノール、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、フェノール、ピリジン、酢酸、蟻酸、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、N−メチル−2−ピロリジノン、N−メチルモルホリン−N−オキシド、1,3−ジオキソラン、メチルエチルケトン等から選ばれる少なくとも一種または混合物が含まれていてもよい。
工程2におけるポリマー溶液中の溶媒に対する生体吸収性ポリマーの濃度は1〜30重量%であることが好ましい。生体吸収性の濃度が1重量%より小さいと、濃度が低すぎるため繊維成形体を形成することが困難となり好ましくない。また、30重量%より大きいと、得られる繊維成形体の繊維径が大きくなり好ましくない。より好ましい溶液中の溶媒に対する生体吸収性ポリマーの濃度は2〜20重量%である。
工程1と工程2を経て得られたポリマー溶液中では、シクロデキストリンまたはその誘導体は良好に分散している。例えば、光学顕微鏡にてポリマー溶液中のシクロデキストリンを観察すると、5μm以上の凝集物は観察されない。一方、工程1を経ることなく調製したポリマー溶液中では、シクロデキストリンの50μm以上の凝集物が観察される。
工程3におけるエレクトロスピニング法は、ポリマーや添加剤を溶媒に溶解または分散させた溶液に高電圧を印加することで、電極上に繊維成形体を得る方法である。より詳しくは、該溶液に高電圧を印加させる工程と、該溶液を噴出させる工程と、噴出させた溶液から溶媒を蒸発させて繊維成形体を形成させる工程と、任意に実施しうる工程として形成された繊維成形体の電荷を消失させる工程と、電荷消失によって繊維成形体を累積させる工程を含む。かかるエレクトロスピニング法は公知であり、本発明の繊維構造体が調製できるかぎり、その装置や条件は限定されないが、後述する実施例のほか、例えば国際公開WO2004/072336号明細書や国際公開WO2005/087988号明細書の記載を参考にすることができる。
本発明の繊維成形体の表面に、さらに綿状の繊維構造物を積層することや、綿状構造物を本発明の繊維成形体ではさんでサンドイッチ構造にするなどの加工は、本発明の目的を損ねない範囲で任意に実施しうる。
医療応用においては、さらに抗血栓性を付与するためのコーティング処理、抗体や生理活性物質で表面をコーティングすることも任意に実施できる。このときのコーティング方法や処理条件、その処理に用いる化学薬品は、繊維の構造を極端に破壊せず、本発明の目的を損なわない範囲で任意に選択できる。
本発明の繊維成形体において、予めシクロデキストリンに所望の化合物を包接したものを使用することができる。包接される化合物として特に限定されるものではなく、包接させることができる公知のものを適用できる。例えば、薬剤、抗菌剤、防虫剤、脱臭剤、消臭剤、香料、農薬、肥料等が挙げられる。
また、本発明の繊維成形体の繊維内部にも任意に薬剤を含ませることができる。エレクトロスピニング法で成形する場合は、揮発性溶媒に可溶であり、溶解によりその生理活性を損なわないものであれば、使用する薬剤に特に制限はない。
以下に記載する実施例においては、次のような方法で評価を行った。
1.紡糸用ポリマー溶液中のシクロデキストリンの分散性:
得られた生体吸収性ポリマーとシクロデキストリンまたはその誘導体からなる紡糸用ポリマー溶液を光学電子顕微鏡(オリンパス株式会社:商品名「VE8800」)により、倍率100倍で観察してシクロデキストリンまたはその誘導体の分散性を確認した。
2.繊維成形体の厚み:
高精度デジタル測長機(株式会社ミツトヨ:商品名「ライトマチックVL−50」)を用いて測長力0.01Nによりn=10にて繊維成形体の膜厚を測定した平均値を算出した。なお、本測定においては、測定機器が使用可能な最小の測定力で測定を行った。
3.平均繊維径および繊維径の標準偏差:
得られた繊維成形体の表面を走査型電子顕微鏡(キーエンス株式会社:商品名「VE8800」)により、倍率2000倍で撮影して得た写真から無作為に20箇所を選んで繊維の径を測定し、すべての繊維径の平均値を求めて平均繊維径とした。また、標準偏差を算出した。
4.結晶化度:
TAs Instrument製DSC2920を用いて、窒素雰囲気下、20℃/分で室温から200℃まで加熱し、得られた繊維成形体の示差走査熱量分析(DSC)測定を行い、生体吸収性ポリマーの結晶化エンタルピー(ΔHc)と融解エンタルピー(ΔHm)を得た。そして文献(Fischer, E. M; Sterzel, H. J; Wegner, G. Colliod Polym. Sci. 1973, 251, 980)を参考に、下記式により生体吸収性ポリマーの結晶化度を算出した。
結晶化度(χc)=(ΔHm−ΔHc)/93×100
5.加速分解性試験:
ISO13781を参考に加速分解性試験を実施した。得られた繊維成形体を2.5cm×5cmにカットし(約20mg)、リン酸緩衝液に70℃で9日間浸漬した。この繊維成形体(分解後)をイオン交換水で洗浄、室温にて重量変化がなくなるまで真空乾燥を行った。そして、以下の式により重量変化を算出し、n=3で平均値を計算した。
(重量変化)=(分解後の繊維成形体重量)/(分解前の繊維成形体重量)×100
[実施例1]
α−シクロデキストリン16.5mg(和光純薬(株)製)をエタノール1.48g(和光純薬(株)製)に添加し、超音波洗浄機械(SHARP製 UT105S)を用いて、超音波処理を10分間(出力50〜100%)実施し、分散性に優れたシクロデキストリン分散液を調製した。得られた分散液にジクロロメタン11.88g(和光純薬(株)製)とL体100%ポリ乳酸1.6562g(Purasorb PL18、Purac社製)を添加してポリマーを溶解し、均一な溶液を調製した。得られた紡糸用ポリマー溶液を光学顕微鏡により観察した結果、5μm以上のシクロデキストリンからなる凝集物は観察されなかった。得られたポリマー溶液を湿度25%以下でエレクトロスピニング法により紡糸し、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は8.5kV、噴出ノズルから平板までの距離は25cmであった。上記平板は、紡糸時は陰極として用いた。得られた繊維成形体の平均繊維径は4.6μm、標準偏差は0.6μm、厚さは82.4μmであり、均一な繊維成形体が得られていることがわかった。DSC測定から算出したポリ乳酸の結晶化度は34%であった。
[比較例1]
α−シクロデキストリン16.5mg(和光純薬(株)製)をジクロロメタン2.50g(和光純薬(株)製)に添加し、超音波洗浄機械(SHARP製 UT105S)を用いて、超音波処理を10分間(出力50〜100%)実施することでシクロデキストリン分散液を調製したが、α−シクロデキストリンは結晶状態で沈降していた。得られた分散液に、ジクロロメタン9.37gおよびエタノール1.4873g(和光純薬(株)製)とL体100%ポリ乳酸1.6562g(Purasorb PL18、Purac社製)を添加してポリマーを溶解した。得られた紡糸用ポリマー溶液を光学顕微鏡により観察した結果、20μm以上のシクロデキストリンからなる凝集物が数多く観察された。得られたポリマー溶液を湿度25%以下でエレクトロスピニング法により紡糸し、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は8.5kV、噴出ノズルから平板までの距離は25cmであった。上記平板は、紡糸時は陰極として用いた。得られた繊維成形体の平均繊維径は4.5μm、標準偏差は1.6μm、厚さは94.6μmであり、ビーズ状繊維が観察された。DSC測定から算出したポリ乳酸の結晶化度は34%であった。
[比較例2]
α−シクロデキストリン16.5mg(和光純薬(株)製)をN,N−ジメチルホルムアミド0.80g(和光純薬(株)製)に溶解し、均一透明なシクロデキストリン溶液を得た。得られた溶液にジクロロメタン12.66g(和光純薬(株)製)とL体100%ポリ乳酸1.6515g(Purasorb PL18、Purac社製)を添加してポリマーを溶解したが、シクロデキストリン溶液にジクロロメタンを添加直後、α−シクロデキストリンが析出した。得られた紡糸用ポリマー溶液を光学顕微鏡により観察した結果、50μm以上のシクロデキストリンからなる凝集物が数多く観察された。得られたポリマー溶液を湿度25%以下でエレクトロスピニング法により紡糸し、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は8.5kV、噴出ノズルから平板までの距離は25cmであった。上記平板は、紡糸時は陰極として用いた。得られた繊維成形体の平均繊維径は3.3μm、標準偏差は1.8μm、厚さは87.6μmであり、ビーズ状繊維が観察され、機械的強度に劣っていた。DSC測定から算出したポリ乳酸の結晶化度は50%であり、ポリ乳酸単体よりも結晶性が高くなっていた。
[比較例3]
ジクロロメタン11.87g(和光純薬(株)製)とエタノール1.48g(和光純薬(株)製)の混合溶媒をL体100%ポリ乳酸1.65g(Purasorb PL18、Purac社製)に添加してポリマーを溶解し、均一な溶液を調製した。得られたポリマー溶液を湿度25%以下でエレクトロスピニング法により紡糸し、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は8.5kV、噴出ノズルから平板までの距離は25cmであった。上記平板は、紡糸時は陰極として用いた。得られた繊維成形体の平均繊維径は4.4μm、標準偏差は0.6μm、厚さは80.7μmであり、均一な繊維成形体が得られていることがわかった。DSC測定から算出したポリ乳酸の結晶化度は34%であった。
[実施例2]
α−シクロデキストリン1.6mg(和光純薬(株)製)をエタノール1.48g(和光純薬(株)製)に添加し、超音波洗浄機械(SHARP製 UT105S)を用いて、超音波処理を10分間(出力50〜100%)実施し、分散性に優れたシクロデキストリン分散液を調製した。得られた分散液にジクロロメタン11.87g(和光純薬(株)製)とL体100%ポリ乳酸1.6511g(Purasorb PL18、Purac社製)を添加してポリマーを溶解し、均一な溶液を調製した。得られた紡糸用ポリマー溶液を光学顕微鏡により観察した結果、1μm以上のシクロデキストリンからなる凝集物は観察されなかった。得られたポリマー溶液を湿度25%以下でエレクトロスピニング法により紡糸し、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は8.5kV、噴出ノズルから平板までの距離は25cmであった。上記平板は、紡糸時は陰極として用いた。得られた繊維成形体の平均繊維径は5.2μm、標準偏差は1.5μm、厚さは77.8μmであり、均一な繊維成形体が得られていることがわかった。DSC測定から算出したポリ乳酸の結晶化度は34%であった。
[実施例3]
α−シクロデキストリン82.5mg(和光純薬(株)製)をエタノール1.48g(和光純薬(株)製)に添加し、超音波洗浄機械(SHARP製 UT105S)を用いて、超音波処理を10分間(出力50〜100%)実施し、分散性に優れたシクロデキストリン分散液を調製した。得られた分散液にジクロロメタン11.87g(和光純薬(株)製)とL体100%ポリ乳酸1.6502g(Purasorb PL18、Purac社製)を添加してポリマーを溶解し、均一な溶液を調製した。得られた紡糸用ポリマー溶液を光学顕微鏡により観察した結果、1μm以上のシクロデキストリンからなる凝集物は観察されなかった。得られたポリマー溶液を湿度25%以下でエレクトロスピニング法により紡糸し、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は8.5kV、噴出ノズルから平板までの距離は25cmであった。上記平板は、紡糸時は陰極として用いた。得られた繊維成形体の平均繊維径は4.7μm、標準偏差は1.5μm、厚さは93.3μmであり、均一な繊維成形体が得られていることがわかった。DSC測定から算出したポリ乳酸の結晶化度は34%であった。
[実施例4]
β−シクロデキストリン82.5mg(和光純薬(株)製)をエタノール1.49g(和光純薬(株)製)に添加し、超音波洗浄機械(SHARP製 UT105S)を用いて、超音波処理を10分間(出力50〜100%)実施し、分散性に優れたシクロデキストリン分散液を調製した。得られた分散液にジクロロメタン11.88g(和光純薬(株)製)とL体100%ポリ乳酸1.6501g(Purasorb PL18、Purac社製)を添加してポリマーを溶解し、均一な溶液を調製した。得られた紡糸用ポリマー溶液を光学顕微鏡により観察した結果、1μm以上のシクロデキストリンからなる凝集物は観察されなかった。得られたポリマー溶液を湿度25%以下でエレクトロスピニング法により紡糸し、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は8.5kV、噴出ノズルから平板までの距離は25cmであった。上記平板は、紡糸時は陰極として用いた。得られた繊維成形体の平均繊維径は5.6μm、標準偏差は0.81μm、厚さは86.5μmであり、均一な繊維成形体が得られていることがわかった。DSC測定から算出したポリ乳酸の結晶化度は34%であった。
[実施例5]
γ−シクロデキストリン82.5mg(和光純薬(株)製)をエタノール1.49g(和光純薬(株)製)に添加し、超音波洗浄機械(SHARP製 UT105S)を用いて、超音波処理を10分間(出力50〜100%)実施し、分散性に優れたシクロデキストリン分散液を調製した。得られた分散液にジクロロメタン11.87g(和光純薬(株)製)とL体100%ポリ乳酸1.6500g(Purasorb PL18、Purac社製)を添加してポリマーを溶解し、均一な溶液を調製した。得られた紡糸用ポリマー溶液を光学顕微鏡により観察した結果、1μm以上のシクロデキストリンからなる凝集物は観察されなかった。得られたポリマー溶液を湿度25%以下でエレクトロスピニング法により紡糸し、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は8.5kV、噴出ノズルから平板までの距離は25cmであった。上記平板は、紡糸時は陰極として用いた。得られた繊維成形体の平均繊維径は6.0μm、標準偏差は0.61μm、厚さは82.3μmであり、均一な繊維成形体が得られていることがわかった。DSC測定から算出したポリ乳酸の結晶化度は34%であった。
[実施例6、7、および比較例4、5]
実施例1、2および比較例1、3で得られた繊維成形体を用いて、加速分解性試験を実施した。得られた結果を表1に示す。表1に示すようにシクロデキストリンが均一に分散した繊維成形体において、分解後の重量減少が大きいことがわかる。以上のことから、DSC測定から算出した結晶化度からも示されるように、本発明の繊維成形体は特許文献2に記載のものとは異なり、シクロデキストリンが結晶化核剤としては機能していない、換言すれば分解速度を抑制しないばかりか、分解促進剤として機能していることが確認された。
Figure 2011179150
本発明の繊維成形体は加水分解性に優れており、医療用品、とりわけ臓器表面や創傷部位の保護材、被覆材、シール材として、人工硬膜、癒着防止材、止血材などに有用である。

Claims (9)

  1. 生体吸収性ポリマーと、これとは共有結合をしていないシクロデキストリンまたはその誘導体からなる繊維成形体であって、平均繊維径が0.05〜50μmであり、(繊維径の標準偏差)/(平均繊維径)<0.5である繊維成形体。
  2. 繊維成形体の平均繊維径よりも大きなシクロデキストリンまたはその誘導体の凝集物を含まない請求項1に記載の繊維成形体。
  3. 繊維成形体100重量部に対して、シクロデキストリンまたはその誘導体を0.01〜50重量部含む請求項1または2に記載の繊維成形体。
  4. 生体吸収性ポリマーが、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、およびそれらの共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の繊維成形体。
  5. 生体吸収性ポリマーが、ポリ乳酸、ポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体、およびポリカプロラクトン−ポリ乳酸共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、L体100%である請求項1〜3のいずれかに記載の繊維成形体。
  6. シクロデキストリンまたはその誘導体が、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜5のいずれかに記載の繊維成形体。
  7. 以下の工程を含む繊維成形体の製造方法。
    工程1:シクロデキストリンまたはその誘導体をプロトン性溶媒に分散することでシクロデキストリンまたはその誘導体の分散液を得る工程
    工程2:工程1で得られた分散液に生体吸収性ポリマーを溶解する溶媒および生体吸収性ポリマーを添加して溶解することで、シクロデキストリンまたはその誘導体が分散したポリマー溶液を得る工程
    工程3:工程2で得られたポリマー溶液を使用してエレクトロスピニング法により紡糸することで繊維成形体を得る工程
  8. プロトン性溶媒がアルコール類であり、生体吸収性ポリマーを溶解する溶媒がハロゲン化溶媒である請求項7に記載の製造方法。
  9. 請求項7または8に記載の製造方法で得られる請求項1〜6のいずれかに記載の繊維成形体。
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