JP2011170026A - 光フィルタ、その製造方法及びその設計方法 - Google Patents

光フィルタ、その製造方法及びその設計方法 Download PDF

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Abstract

【課題】傾斜グレーティングからなる光フィルタにおいて、コアの屈折率の変化を大きくして光の遮断性能を高めても、ブラッグ反射光の発生を抑制できること。
【解決手段】光フィルタ100における傾斜グレーティング3の傾斜角度θは、当該光フィルタ100のブラッグ反射量が、当該光フィルタ100における傾斜グレーティング3の形成に採用された第1の露光条件を基準にして紫外光の露光量のみを増減させた第2の露光条件によって傾斜グレーティングが形成されたコアを備える他の光フィルタのブラッグ反射の量と比較して極小となる角度である。
【選択図】図1

Description

本発明は、ファイバブラッググレーティングからなる光フィルタ、その製造方法及びその設計方法に関するものである。
ファイバブラッググレーティング(FBG:Fiber Bragg Grating)は、グレーティングが形成されたコア及びそのコアの周囲のクラッドを備えた光ファイバである。FBGにおけるコアのグレーティングは、紫外光による露光によって形成される。FBGのコアは、グレーティングが形成されることにより、その長手方向において例えば1μm程度の空間周期で屈折率が変化する特性を有している。
FBGは、ブラッグ反射の原理により、コアの屈折率の変化の周期(Λ)に合致した波長(λ=2nΛ)の光信号のみを反射して入射方向の逆の方向へ伝播し、他の波長の光信号を通過させる光フィルタとして機能する。狭帯域の光フィルタとして機能するFBGは、例えば、波長多重光通信において、信号光の合波器及び分波器などの用途へ利用可能である。
また、FBGは、不要な信号光を遮断するフィルタ、及び光増幅器の利得波長特性を平坦にする光利得等化器としても利用可能である。このような用途にFBGが利用される場合、FBGで生じた反射光が、FBGの前段側の機器へ伝播することを防止する必要がある。FBGで生じた反射光が、FBGの前段側の機器へ伝播することを防止するため、アイソレータを用いることが考えられる。
しかしながら、アイソレータは、コスト又は機器のサイズなどの制約により、利用が制限されることも多い。そのため、光フィルタとして利用されるFBGは、ブラッグ反射を抑制しつつ、特定の(不要な)信号光を遮断できることを要求されることがある。そのようなFBGとして、例えば、特許文献1(段落[0034]〜[0035]、図7など)及び特許文献2(段落[0016]〜[0017]、図1など)に示されるように、傾斜グレーティングが形成されたコアを備えるFBGが存在する。
FBGにおいて、コアのグレーティングが、そのグレーティングの格子縞に対する垂直方向がコアの長手方向に対して数度傾斜するように形成されることにより、ブラッグ反射光の発生は抑制される。さらに、FBGの透過特性におけるクラッドモードによって光の損失が生じることを利用することにより、不要な信号光の遮断が可能となる。FBGにおいて、不要な信号光は、クラッドモードによってコア外へ放射される。そのため、前段の機器への反射光の伝播を防止するためのアイソレータは不要となる。
また、FBGにおけるコアの屈折率の変化の周期が一定である場合、FBGの遮断光のスペクトルにおいて、複数のクラッドモードに対応する複数のリップルが生じる。このリップルの問題を解消する対策として、特許文献2(段落[0017]〜[0018]、図1など)に示されるように、FBGのコアにチャープされたグレーティングを形成することが挙げられる。コアにおける屈折率の周期性が変化すると、光スペクトルの波長軸の方向においてリップルのシフトが生じ、リップルのシフトが重ね合わさることによってリップルが打ち消し合う。
従って、FBGにおいて、チャープされたグレーティングがコアに形成されることにより、光の遮断特性におけるリップルを低減することができ、フィルタの広帯域化が可能となる。なお、チャープされたグレーティングとは、コアの屈折率変化の周期がコアの長手方向の位置に応じて変化するように形成されたグレーティングのことである。
以下、FBGにおけるグレーティングの形成方法の中で、非常に簡便な方法として知られる位相マスク法について説明する。
光通信などに用いられる一般的な光ファイバにおけるコア及びクラッドは、石英ガラスなどの透光性材料からなる部材である。光ファイバにおけるコアは、コア内に光を閉じ込めて伝播させるために、ゲルマニウムなどがドープされることにより、クラッドよりも屈折率が高められている。
ゲルマニウムがドープされたコアは、240nm付近の波長の紫外光によって露光されると、フォトリフラクティブ効果により、露光された位置の屈折率が上昇する。また、コアは、干渉縞が生じるように紫外光が照射されることにより、屈折率の周期性が付与される。
位相マスク法は、位相マスクを光ファイバに近接して配置し、その位相マスクを通じて、紫外レーザ光を光ファイバに照射する方法である。位相マスクは、周期的な格子が表面に形成された石英ガラス板などの透光性の部材である。紫外光がこの位相マスクを通じてコアに照射されると、位相マスクで生じる±1次の回折光の干渉により、コア上に紫外光の干渉縞が生じる。その結果、グレーティングがコアに形成される。
また、位相マスク法において、光ファイバの感光性を高め、コアの十分な屈折率変化を得るための方法も知られている。例えば、その方法は、光ファイバを約10Mpa以上の高圧水素又は重水素によって1週間以上の処理を行った後に紫外光による露光を行う方法、及びコアにホウ素又はリンなどをドープすることなどである。
特開平11−84117号公報 特開2001−51134号広報
ところで、光フィルタに要求される光の遮断性能が高い場合、そのような光フィルタとして機能するFBGを作製する際、紫外光によるコアの露光量を増大させることにより、クラッドモードをより成長させ、コアの屈折率の変化をより大きくする必要がある。
しかしながら、従来のFBGは、コアの屈折率変化の増大に伴い、クラッドモードによる光の遮断量が増大することに加え、ブラッグ反射の量も増大してしまうという問題点があった。この問題点は、傾斜グレーティングが採用されたFBGにおいても、光の遮断特性を高めるためにコアの屈折率変化が大きく設定されることによって顕在化する。
本発明の目的は、傾斜グレーティングからなる光フィルタにおいて、コアの屈折率の変化を大きくして光の遮断性能を高めても、ブラッグ反射光の発生を抑制できることである。
本発明に係る光フィルタは、傾斜グレーティングが紫外光による露光によって形成されたコア及びそのコアの周囲のクラッドを備え、さらに、当該光フィルタにおける前記傾斜グレーティングの傾斜角度は、以下に示される角度である。その傾斜角度は、当該光フィルタのブラッグ反射の量が、当該光フィルタにおける前記傾斜グレーティングの形成に採用された前記露光の条件である第1条件を基準にして紫外光の露光量のみを増減させた第2条件での前記露光によって前記傾斜グレーティングが形成された前記コアを備える他の光フィルタのブラッグ反射の量と比較して極小となる角度である。
また、本発明に係る光フィルタの製造方法は、本発明に係る光フィルタを製造する方法であり、以下の工程を有している。その工程は、紫外光の露光量及び前記傾斜グレーティングの傾斜角度の両条件を含む予め定められた紫外光による露光の条件である第1条件で前記コアを露光することによって前記コアに前記傾斜グレーティングを生成する露光工程である。ここで、前記第1条件における前記傾斜角度は、前記第1条件での前記露光によって前記傾斜グレーティングが形成されたコアを備える前記光フィルタのブラッグ反射の量が、前記第1条件を基準にして紫外光の露光量のみを増減させた第2条件での前記露光によって前記傾斜グレーティングが形成された前記コアを備える他の光フィルタのブラッグ反射の量と比較して極小となる角度である。
また、本発明に係る光フィルタの設計方法は、本発明に係る光フィルタを製造するときの紫外光の露光量及び前記傾斜グレーティングの傾斜角度の両条件を含む露光条件を決定する方法であり、以下の(1)〜(4)に示される各工程を有している。
(1)第1の工程(評価用露光工程)は、予め設定された前記露光条件を元に前記傾斜角度及び前記露光量の両条件の組合せを順次変更した複数の評価用露光条件各々での前記露光により、評価用光ファイバが備えるコアに対して前記傾斜グレーティングを形成する工程である。
(2)第2の工程(第1測定工程)は、前記評価用露光条件での前記露光が行われた前記評価用光ファイバのクラッドモードによる光の遮断量を測定する工程である。
(3)第3の工程(第2測定工程)は、前記評価用露光条件での前記露光が行われた前記評価用光ファイバのブラッグ反射の量を測定する工程である。
(4)第4の工程(決定工程)は、前記第1測定工程で測定される前記遮断量が予め定められた目標遮断量を満足する前記評価用露光条件の中で、前記第2測定工程で測定される前記ブラッグ反射の量が、前記露光量の変化又は前記傾斜角度の変化に対して極小となるときの前記評価用露光条件を、前記光フィルタを製造するときの前記露光条件として決定する工程である。
本発明に係る光フィルタは、傾斜グレーティングが形成されたコア及びそのコアの周囲のクラッドを備えるFBGである。後述するように、FBGにおけるクラッドモードによる光の遮断量は、コアの露光条件における露光量のみを変化させた場合、露光量の増大に応じて増大する。
一方、FBGにおけるブラッグ反射量は、露光条件における露光量のみを変化させた場合、露光量の増大に応じて減少傾向から増大傾向へ転じることがわかった。即ち、FBGは、作製時の露光量との関係において、ブラッグ反射量のディップが生じる(極小値が存在する)特性を有することがわかった。さらに、ブラッグ反射量の極小値は、傾斜グレーティングの傾斜角度の増大に応じて大きくなることがわかった。
本発明により提供される光フィルタは、要求される光の遮断量を満たすように露光量及び傾斜グレーティングの傾斜角度が設定された露光条件である前記第1条件での露光により作製される。また、その第1条件における傾斜角度は、当該光フィルタのブラッグ反射量あ、その第1条件を基準にして紫外光の露光量のみを増減させた前記第2条件での露光により作製される他の光フィルタのブラッグ反射の量と比較して極小となる角度に設定される。
従って、本発明によれば、傾斜グレーティングからなる光フィルタにおいて、コアの屈折率の変化を大きくして光の遮断性能を高めても、ブラッグ反射光の発生を最小限に抑制できる。
本発明の第1実施形態に係る光フィルタの製造方法における露光工程の様子を露光方向に直行する方向からの視点で示す模式図である。 本発明の第1実施形態に係る光フィルタの製造方法における露光工程の様子を露光方向からの視点で示す模式図である。 FBGにおける透過光のスペクトルのシミュレーション結果を示すグラフである。 FBGにおける屈折率変化の振幅とブラッグ反射量との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。 FBGにおいてブラッグ反射量が極小となる露光条件が採用されたときのブラッグ反射光のスペクトルのシミュレーション結果を示すグラフである。 本発明の第1実施形態に係る光フィルタの設計方法の第1例の手順を示すフローチャートである。 光フィルタの設計方法の第1例を実施する過程で得られる評価用光ファイバにおける、露光回数とクラッドモードによる光の遮断量及びブラッグ反射量との関係の一例を示すグラフである。 ブラッグ反射量が極小となる露光条件の下で作製された光フィルタにおける透過光及びブラッグ反射光のスペクトルを示すグラフである。 本発明の第1実施形態に係る光フィルタの設計方法の第2例の手順を示すフローチャートである。 光フィルタの設計方法の第2例を実施する過程で得られる評価用光ファイバにおける、傾斜グレーティングの傾斜角度とブラッグ反射量との関係を示すグラフである。 光フィルタの作製に用いられる位相マスクの模式図である。 位相マスクにおける連続する長い範囲を一度に用いる露光により得られる光フィルタにおける透過光及びブラッグ反射光のスペクトルを示すグラフである。 位相マスクにおける連続する長い範囲を一度に用いる露光により得られる光フィルタにおける露光回数とブラッグ反射量との関係を示すグラフである。 位相マスクにおける分離した3つの短い範囲を用いた露光により得られる光フィルタにおける露光回数とブラッグ反射量との関係を示すグラフである。 本発明の第2実施形態に係る光フィルタの透過光及びブラッグ反射光のスペクトルを示すグラフである。 本発明の第3実施形態に係る光フィルタの製造方法に用いられるマスクの模式図である。 本発明の第3実施形態に係る光フィルタの透過光及びブラッグ反射光のスペクトルを示すグラフである。 本発明の第4実施形態に係る光フィルタの透過光及びブラッグ反射光のスペクトルを示すグラフである。 露光工程及びアニール処理工程各々における光フィルタの光の遮断量及びブラッグ反射量の推移を示すグラフである。
以下添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
<第1実施形態>
まず、図1及び図2を参照しつつ、本発明の第1実施形態に係る光フィルタ100及びその製造方法について説明する。図1は、光フィルタ100の製造方法における露光工程の様子を露光方向に直行する方向からの視点で示す模式図である。また、図2は、図1により示される露光工程の様子を露光方向からの視点で示す模式図である。
光フィルタ100は、コア1及びコア1の周囲に形成されたクラッド2を備えた光ファイバである。但し、コア1には、紫外光を用いた露光によってチャープされた傾斜グレーティング3が形成されている。即ち、光フィルタ100は、チャープされた傾斜グレーティング3が形成されたコア1を備えるFBGである。以下、光フィルタ100の製造方法について説明する。
まず、光フィルタ100の元になる光ファイバが用意される。この光ファイバにおけるコア1及びクラッド2は、石英ガラスなどの透光性材料からなる部材である。また、コア1は、コア1内に光を閉じ込めて伝播させるために、ゲルマニウムなどがドープされることにより、クラッド2よりも屈折率が高められている。
光フィルタ100の元になる光ファイバは、例えば、光通信に用いられる一般的な光ファイバである。例えば、傾斜グレーティング3が形成される前のコア1の屈折率は、クラッド2の屈折率に対して0.005程度高められている。なお、光ファイバの製造方法は周知であるため、ここではその製造方法の説明は省略する。
次に、元になる光ファイバに対し、予め定められた紫外光による露光の条件でコア1を露光することによってコア1に傾斜グレーティング3を生成する露光工程が実行される。
図1及び図2に示される露光工程は、周知の位相マスク法による露光工程である。ゲルマニウムがドープされたコアは、例えば260nm付近の波長の紫外光によって露光されると、フォトリフラクティブ効果により、露光された位置の屈折率が上昇する。また、コア1は、干渉縞が生じるように紫外光が照射されることにより、屈折率の周期性が付与される。
位相マスク法は、位相マスク10を露光対象である光ファイバに近接して配置し、その位相マスク10を通じて、紫外レーザ光を光ファイバのコア1に照射する方法である。
また、紫外レーザ光は、例えば、コア1に対し、その長手方向において往復走査される。これにより、コア1に対する紫外光の露光量は、紫外レーザ光の走査回数によって制御される。即ち、コア1の露光量は、紫外レーザ光の走査回数に比例する。図1において、下方に向く直線の矢印は、紫外レーザ光の光路を表す。
位相マスク10は、周期的な格子11が表面に形成された石英ガラス板などの透光性の部材である。この格子11は、その配列方向における空間周期が徐々に変化するように、即ち、チャープされて形成されている。紫外光がこの位相マスク10を通じてコア1に照射されると、位相マスク10で生じる±1次の回折光の干渉により、コア1の部分で紫外光の干渉縞が生じる。その結果、グレーティングがコア1に形成される。
また、露光工程において、位相マスク10は、傾斜グレーティング3を形成するために、格子11の縞に対する垂直方向がコア1の長手方向(光軸方向)に対して角度θをなすように傾斜して配置される。これにより、コア1に、傾斜角度θの傾斜グレーティング3が形成される。即ち、傾斜グレーティング3は、その格子縞に対する垂直方向がコア1の長手方向に対して角度θだけ傾斜するように形成される。
板状の位相マスク10は、位相角度θの調節を可能とするため、不図示の治具により、その表面に直交する直線を回転中心線として回転可能に支持されている。
また、位相マスク10における格子11はチャープされているため、チャープされた傾斜グレーティング3がコア1に形成される。このように、チャープされた傾斜グレーティング3がコア1に形成されることにより、光の遮断帯域の広い光フィルタ100を作製することができる。なお、位相マスク法は、FBGにおけるグレーティングの形成方法の中で、非常に簡便な方法として知られている。
また、露光工程において、コア1の感光性を高め、コア1の十分な屈折率変化を得るための方法が採用されてもよい。例えば、その方法は、露光対象の光ファイバを約10Mpa以上の高圧水素又は重水素によって1週間以上の処理を行った後に紫外光による露光を行う方法、及びコア1にホウ素又はリンなどを予めドープしておく方法などである。
以上に示した露光工程を経て作製される光フィルタ100において、コア1の屈折率は、そのコア1を囲むクラッド2の屈折率より大きい。そのため、光フィルタ100のコア1に入射した光は、傾斜グレーティング3が形成されていない部分においては、コア1中に閉じ込められて伝搬する。
一方、コア1に入射した光は、傾斜グレーティング3が形成されている部分において、その一部がブラッグ反射によって入射方向の逆方向へ伝播し、また、他の一部がクラッドモードの作用によりコア1の外へ放射される。
光フィルタ100の特徴は、それが製造される際の露光工程において採用される露光条件における露光量及び傾斜角度θの条件にある。その露光条件が採用されることにより、光フィルタ100におけるブラッグ反射の量はごく小さく抑制される。
以下、光フィルタ100の製造時における露光条件の決定方法について説明する前に、このたび新たに見出されたFBGの特性について説明する。
図3は、FBGにおける透過光のスペクトルのシミュレーション結果を示すグラフである。図3のグラフにおいて、横軸は透過光の波長の座標軸であり、縦軸は、入射光を基準にした透過光の損失率(減衰率)の座標軸である。透過光の損失率の値(デシベル値)は、その負の値が小さいほど(絶対値が大きいほど)透過光の光量が小さいこと、即ち、クラッドモードによる光の遮断量が大きいことを示す。
なお、各グラフの図に記される記号g011〜g072は、各グラフにおけるグラフ線を識別する符号である。
図3のシミュレーションの条件において、クラッドの屈折率は1.4533、コアの屈折率は1.45856、クラッドとコアの比屈折率差Δnは0.36%である。この比屈折率差Δnの値は、光通信用の標準的なシングルモード光ファイバに採用される比屈折率差と同程度である。
さらに、図3のシミュレーションの条件において、FBGにおけるグレーティングの長さは45mmであり、グレーティングは、コアの屈折率変化の周期が537.75nmから538.65nmまで線形に変化するよう形成されたチャープトグレーティングである。また、グレーティングにおける屈折率変化の振幅δnは、0.00057、0.00095及び0.00018の3種類である。また、グレーティングの傾斜角度は6.1度である。
図3のグラフは、振幅δnが大きいほど、クラッドモードが成長し、FBGの光の遮断量が増大することを示している。振幅δnは、露光工程における紫外レーザ光の露光量(露光時間)に相当し、振幅δnと露光量とは比例関係にある。
図3のグラフによれば、FBGに要求される光の遮断量(目標遮断量)が10dB、20dB及び50dBの各々である場合、露光工程において、δn=0.00057、δn=0.00095及びδn=0.0018の各々に相当する紫外光の露光量が必要であることがわかる。
図4は、FBGにおける屈折率変化の振幅δnとブラッグ反射量との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。図4のグラフにおいて、横軸は傾斜グレーティングの屈折率変化の振幅δnの座標軸であり、縦軸は、入射光を基準にしたブラッグ反射光の反射率の座標軸である。ブラッグ反射光の反射率の値(デシベル値)は、その負の値が小さいほど(絶対値が大きいほど)ブラッグ反射量が小さいことを示す。
図4のシミュレーションの条件において、傾斜グレーティングの傾斜角度は、6.05度、6.1度及び6.2度の3種類である。また、ブラッグ反射光の反射率(ブラッグ反射量)は、それら3種類の傾斜角度各々の下で、振幅δnを変化させたときの計算結果である。その他のシミュレーションの条件は、図3のシミュレーションの条件と同じである。
図4のグラフは、FBGのブラッグ反射量が次の第1の特性を有することを示している。この第1の特性は、各傾斜角度の条件の下で、振幅δn(露光量)の変化に対してブラッグ反射量が急激に低下して極小となるディップが発生するという特性である。
さらに、振幅δnの値(露光量)ごとのフラッグ反射量に着目して図4を見た場合、図4のグラフは、FBGのブラッグ反射量が次の第2の特性も有することを示している。この第2の特性は、FBGのブラッグ反射量が、各振幅δn(露光量)の条件の下で、傾斜角度の変化に対してブラッグ反射量が極小となるディップが発生するという特性である。なお、ブラッグ反射量の極小値は、傾斜グレーティングの傾斜角度が小さいほど小さい。以上の特性は、従来知られていない特性である。
従って、ブラッグ反射が最も小さい光フィルタを得るためには、露光工程における露光量及び傾斜角度の組み合わせが、得られるFBG(光フィルタ)において、クラッドモードによる光の遮断量が要求される目標遮断量を満足し、かつ、ブラッグ反射量が、露光量の変化又は傾斜角度の変化に対して極小となるときの組み合わせに設定されればよい。
即ち、図3及び図4のシミュレーション結果の例では、以下の露光条件の採用が有効である。即ち、目標遮断量が10dBである場合、振幅δn=0.00057かつ傾斜角度θ=6.05度の露光条件の採用が有効である。目標遮断量が20dBである場合、振幅δn=0.00095かつ傾斜角度θ=6.1度の露光条件の採用が有効である。目標遮断量が50dBである場合、振幅δn=0.0018かつ傾斜角度θ=6.2度の露光条件の採用が有効である。
図5は、FBGにおいてブラッグ反射量が極小となる露光条件が採用されたときのブラッグ反射光のスペクトルのシミュレーション結果を示すグラフである。即ち、図5のグラフは、図4のグラフにおける3箇所のディップの位置に対応する露光条件が採用されたときに得られるFBGにおけるブラッグ反射光のスペクトルを示す。
図5のグラフにおいて、横軸はブラッグ反射光の波長の座標軸であり、縦軸は、入射光を基準にしたブラッグ反射光の反射率の座標軸である。ブラッグ反射光の反射率の値(デシベル値)は、その負の値が小さいほど(絶対値が大きいほど)ブラッグ反射量が小さいことを示す。
図4のシミュレーション結果は、以下のことを示している。例えば、光フィルタの目標遮断量が20dBである場合に、その目標遮断量を満たし、かつ、ブラッグ反射量が極小となるようにδn=0.00095及び傾斜角度6.1度の露光条件が採用されれば、ブラッグ反射量が概ね-55dB以下に低減される。同様に、光フィルタの目標遮断量が50dBである場合に、その目標遮断量を満たし、かつ、ブラッグ反射量が極小となるようにδn=0.0018及び傾斜角度6.2度の露光条件が採用されれば、ブラッグ反射量が概ね-50dB未満に低減される。
以上に示したシミュレーション結果は、実際に製造される光フィルタの特性と比較して、傾斜角度及び露光量などの値そのものは一致しないことが考えられる。その原因は、シミュレーションの条件と実際の露光工程の条件との間で、コア径、比屈折率差及び光ファイバの表面での紫外光の屈折の影響などの条件が必ずしも一致しないことにある。
しかしながら、以上に示したFBGの特性は、実際に製造される光フィルタの特性と整合すると考えられる。
本発明は、以上に示したFBGのブラッグ反射量の特性を利用して、大きな遮断量と小さなブラッグ反射量とを両立する露光条件を設定すること、及びその露光条件に基づき光フィルタを製造することを特徴とする。
即ち、光フィルタ100は、露光工程において、遮断量が目標遮断量を満足する露光条件の中で、ブラッグ反射量が、露光量の変化又は傾斜角度の変化に対して極小となるときの露光量と傾斜角度との組合せが採用されることにより製造されている。そのようにして製造された光フィルタ100は、当該光フィルタ100の製造に採用された露光条件を第1条件とした場合、以下のような特性を備えている。即ち、光フィルタ100において、傾斜グレーティング3の傾斜角度θは、ブラッグ反射量が、第1条件を基準にして露光量のみを増減させた露光条件(第2条件)での露光によって傾斜グレーティングが形成されたコアを備える他の光フィルタのブラッグ反の量と比較して極小となる角度となっている。
<第1実施形態の第1例>
以下、図6に示されるフローチャートを参照しつつ、光フィルタ100を製造するときの紫外光の露光量及び傾斜角度θの両条件を決定する方法(設計方法)の第1例の手順について説明する。なお、以下に示されるS1,S2,…,S19は、手順の識別符号である。
図6に示される手順の開始の前に、光フィルタ100の元になる光ファイバが用意される。以下、この光ファイバのことを評価用光ファイバと称する。評価用光ファイバは、光フィルタ100の製造時に用いられる光ファイバと同じものであり、例えば、光通信に用いられる一般的な光ファイバである。評価用光ファイバにおけるコア及びクラッドは、石英ガラスなどの透光性材料からなる部材である。また、そのコアは、ゲルマニウムなどがドープされることにより、クラッドよりも屈折率が高められている。
<ステップS1>
第1の例においては、まず、評価用光ファイバに露光工程を実施する際の露光条件の初期設定が行われる(S1)。この初期の露光条件は、光フィルタ100に要求される光の遮断帯域及び遮断量(目標遮断量)などの要求仕様に基づいて、過去の経験又は理論計算などにより予め設定される条件である。また、初期の露光条件は、任意に設定されてもよい。
露光条件には、紫外光の波長及び露光量と、使用する位相マスクにおける格子の空間周期及びその変化(チャープ率)と、位相マスクの傾斜角度と、コアの長手方向における露光領域の長さとが含まれる。露光量は、例えば、波長及び強度が所定の初期値に調整された紫外レーザ光のコアに対する往復走査の回数によって規定される。
位相マスクにおける格子の空間周期及びその変化は、傾斜グレーティングの屈折率の変化の大きさ及びその変化の周期に相当し、位相マスクの傾斜角度は傾斜グレーティングの傾斜角度に相当し、露光領域の長さは傾斜グレーティングの長さに相当する。
また、初期の露光条件における露光量は、要求仕様における目標遮断量から必要と想定される露光量に対して十分に小さい露光量が設定される。なお、後述するステップS6において、評価用光ファイバに対する露光量は、評価用光ファイバの所定の特性(第1の特性)が認められるまで順次増やされる。また、後述するステップS8において、グレーティングの傾斜角度θは、評価用光ファイバの遮断量が目標条件を満たすまで順次変更される。
<ステップS2>
次に、初期の露光条件に従って紫外光を評価用光ファイバに照射する露光工程が実行される(S2)。これにより、初期の露光条件に対応した傾斜グレーティングが、評価用光ファイバのコアに形成される。
<ステップS3,S4>
次に、ステップS2での露光により傾斜グレーティングが形成された評価用光ファイバにおけるクラッドモードによる光の遮断量とブラッグ反射の量とが測定され、その測定値が記録される(S3,S4)。ここで、遮断量は、クラッドモードによる光の損失量である。クラッドモードによる光の遮断量及びブラッグ反射量は、広帯域光源及びスペクトルアナライザなどを使用して測定できる。その測定は、広帯域光源の光が光ファイバを通して傾斜グレーティングに入射した状態で、透過光の波長スペクトルをスペクトルアナライザで測定することにより行われる。その測定結果と傾斜グレーティングが形成される前の波長スペクトルとの差分が、クラッドモードの損失量の波長スペクトルであり、その差分に基づいて遮断量の測定が可能である。また、ブラッグ反射に関し、反射光の波長スペクトルは、傾斜グレーティングの反射光を光サーキュレータなどで取り出すことによって測定可能である。反射の場合には、例えば、ファイバ端に取り付けた反射率100%の反射ミラーからの反射光の波長スペクトルとの差分が、反射量の波長スペクトルであり、その差分に基づいてブラッグ反射量の測定が可能である。
<ステップS5>
そして、ステップS3,S4での測定結果において、評価用光ファイバにおけるブラッグ反射量の測定値が、遮断量の測定値の変化に対して極小となる第1の特性が確認されるか否かが判定される(S5)。
<ステップS6>
そして、ステップS5において、評価用光ファイバの測定値に第1の特性が確認されるまで、同一の評価用光ファイバに対し、単位量ずつの紫外光の照射が順次重ねて行われ(S6)、その単位量の露光ごとに、ステップS3〜S5の手順が繰り返される。なお、ステップS6において、露光量以外の露光条件は変更されない。ステップS6での1回の露光における単位露光量は、例えば、紫外レーザ光の往復走査1回分の露光量である。
図7は、ステップS3〜S6の手順によって得られる評価用光ファイバにおける、露光回数とクラッドモードによる光の遮断量及びブラッグ反射量との関係の一例を示すグラフである。グラフにおける遮断量及びブラッグ反射量の値は、それぞれステップS3及びステップS4での測定値の一例である。
図7の結果が得られたときの露光条件は、以下の通りである。即ち、露光方法は位相マスク法であり、紫外レーザ光は、パルス発振のYAGレーザの4倍波(波長266nm)である。傾斜グレーティングの長さは10mm、位相マスク10の傾斜角度θは3.13度、位相マスク10のチャープ率は0.4nm/cmである。紫外レーザ光のビーム径は1mm以下であり、紫外レーザ光のビームは、ミラーが設けられた自動ステージにより、光ファイバの長手方向に走査される。これにより、コアの長手方向に長尺な傾斜グレーティングを形成することが可能である。紫外レーザ光の走査速度は、1mm/sである。
図7のグラフにおいて、横軸は露光量の座標軸であり、縦軸はクラッドモードによる光の遮断量及びブラッグ反射量の座標軸である。ここで、露光量は、コアに対する紫外レーザ光の往復走査の回数によって代替されている。
また、遮断量は、入射光を基準にした透過光の損失率(減衰率)である。透過光の損失率は、その負の値(デシベル値)が小さいほど(絶対値が大きいほど)透過光の光量が小さいこと、即ち、光の遮断量が大きいことを示す。
また、ブラッグ反射量は、ブラッグ反射光の反射率であり、その負の値(デシベル値)が小さいほど(絶対値が大きいほど)ブラッグ反射量が小さいことを示す。
また、図7のグラフにおける遮断量の測定値は、1552nm±0.5nmの範囲の波長についての測定値の平均値である。
図7のグラフは、評価用光ファイバのブラッグ反射量が、所定の傾斜角度の条件の下で、露光量の変化に対してブラッグ反射量が極小となるディップが発生するという第1の特性を示している。図7に示される例では、紫外レーザ光の往復走査の回数が30回である露光量において、ブラッグ反射が極小となるディップが認められる。
<ステップS7>
ステップS3及びS4において得られる評価用光ファイバの測定値に第1の特性が確認されると、次に、ブラッグ反射量の測定値が極小となるときの露光条件において、遮断量(クラッドモードによる光の損失量)の測定値が、要求仕様における目標遮断量を満たしているか否か、即ち、遮断量が目標範囲内であるか否かを判定する(S7)。
ここで、遮断量の目標範囲は、要求仕様を満たしつつ、過剰スペックにならない比較的狭い範囲に設定される。また、ある1つの遮断量の目標値が、遮断量の目標範囲として設定されること、即ち、目標範囲の幅がゼロに設定されることも考えられる。この場合、目標遮断量を満たす条件は、遮断量の測定値が目標値と一致することである。
<ステップS8>
そして、ブラッグ反射量の極小値に対応する遮断量が目標範囲内となるまで、その遮断量の測定値の目標遮断量に対する偏差に応じて、傾斜グレーティングの傾斜角度θ(位相マスクの傾斜角度)が変更され(S8)、変更後の露光条件を用いて、新たな評価用光ファイバに対してステップS2〜S7の手順が繰り返される。即ち、ステップS8において、評価用光ファイバは、露光工程(S2,S6)が未実施の新たな光ファイバへ取り替えられる。
より具体的には、偏差がマイナス(目標範囲よりも測定値の方が小さい)であるときは、傾斜角度は元の角度よりも大きな角度に変更され、偏差がプラス(目標範囲よりも測定値の方が大きい)であるときは、傾斜角度は元の角度よりも小さな角度に変更される。図4のグラフが示すように、傾斜角度が大きいほど、より大きな露光量においてブラッグ反射量の極小値が得られるため、上記のような傾斜角度の変更が行われる。
また、1回当たりの傾斜角度の変更幅は、常に予め設定された微小な単位幅に設定されること、或いは、予め設定された角度算出式に従って、偏差の大きさに応じた変更幅に設定されることなどが考えられる。
例えば、遮断量の目標範囲が-8dB±1dBである場合、図7の例は、ブラッグ反射量の測定値が極小となるときの往復走査回数30回の条件において、遮断量が目標範囲内に入ることを示している。
<ステップS9>
そして、評価用光ファイバの測定値に第1の特性が確認され、かつ、ブラッグ反射量の測定値が極小となるときの露光条件において、クラッドモードによる光の遮断量の測定値が目標遮断量を満たしている(目標範囲内である)場合、そのときの評価用光ファイバの露光条件を、光フィルタ100を製造するときの露光条件として設定する(S9)。これにより、光フィルタ100の露光条件の設計が終了する。
遮断量の目標範囲が-8dB±1dBである場合、図7の例では、紫外レーザ光の往復走査回数が30回、傾斜角度θが3.13度という露光条件が、光フィルタ100を製造する際の露光条件として設定される。
以上に示したように、設計手順の第1例では、ステップS2〜S8(評価用露光工程)において、予め設定された初期の露光条件を元に、傾斜角度及び露光量の両条件の組合せを順次変更した複数の評価用露光条件各々での紫外光による露光が行われる。これにより、評価用光ファイバが備えるコアに対してチャープされた傾斜グレーティングが形成される。
また、ステップS3,S4(第1測定工程、第2測定工程)において、評価用露光条件での露光が行われた評価用光ファイバの光の遮断量及びブラッグ反射の量が測定される。
そして、ステップS9(決定工程)において、ステップS3で測定される遮断量が予め定められた目標遮断量を満足する評価用露光条件の中で、ステップS4で測定されるブラッグ反射の量が、露光量の変化に対して極小となるときの評価用露光条件が、光フィルタ100を製造するときの露光条件として設定される(図7参照)。
また、設計手順の第1例においては、最適な露光条件を探索するための具体的な手順として、初期の露光条件を元に露光量のみを順次増大させた複数段階の評価用露光条件各々での露光により、評価用光ファイバが備えるコアに対して傾斜グレーティングを形成する段階的な露光工程(S6)が実施される。
さらに、遮断量の測定値が目標遮断量を満足し、かつ、ブラッグ反射の量の測定値が露光量の変更に対して極小値となる評価用露光条件が判明するまで、傾斜角度の条件を順次変更(S8)して段階的な露光工程(S6)が繰り返される。
図8は、図7のグラフにおいてブラッグ反射量が極小となる露光条件、即ち、紫外レーザ光の往復走査回数が30回、傾斜角度θが3.13度という露光条件の下で作製された光フィルタ100における透過光及びブラッグ反射光のスペクトルを示すグラフである。
図8のグラフにおいて、横軸は透過光及び反射光の波長、左の縦軸は、入射光を基準にした透過光の損失率(減衰率)の座標軸、右の縦軸は、入射光を基準にした反射光の損失率(減衰率)の座標軸である。
図8のグラフは、ブラッグ反射が極小となる露光条件の採用により、反射光を-26dB以下に減衰させることができる光フィルタ100を製造できることを示している。
なお、図8のグラフにおいて、1555nmの波長の付近において現れる透過光及び反射光のピークは、高次のコア伝搬モードに起因するゴーストモードが原因となって生じている。このゴーストモードは、紫外レーザ光の照射により、光ファイバにおけるクラッドとコアの比屈折率差Δnが大きくなるために生じる。
以上に示された手順により、光フィルタ100の露光条件は、コア1の屈折率の変化を大きくして光の遮断性能を高めても、ブラッグ反射光が抑制される最適な条件となる。
<第1実施形態の第2例>
次に、図9に示されるフローチャートを参照しつつ、光フィルタ100を製造するときの紫外光の露光量及び傾斜角度θの両条件を決定する方法(設計方法)の第2例の手順について説明する。
図9に示される手順の開始の前に、第1例の手順の開始前と同様に、光フィルタ100の元になる評価用光ファイバが用意される。
<ステップS11>
第2例においても、第1例の手順におけるステップS1と同様に、まず、評価用光ファイバに露光工程を実施する際の露光条件の初期設定が行われる(S11)。なお、後述するステップS15において、評価用光ファイバに対する露光量は、評価用光ファイバの遮断量が目標条件を満たすまで順次増やされる。また、後述するステップS18において、グレーティングの傾斜角度θは、評価用光ファイバの所定の特性(第2の特性)が認められるまで順次変更される。
<ステップS12>
次に、第2例の手順におけるステップS2と同様に、初期の露光条件に従って紫外光を評価用光ファイバに照射する露光工程が実行される(S12)。これにより、初期の露光条件に対応した傾斜グレーティングが、評価用光ファイバのコアに形成される。
<ステップS13>
次に、第1例の手順におけるステップS3と同様に、ステップS12での露光により傾斜グレーティングが形成された評価用光ファイバにおけるクラッドモードによる光の遮断量が測定され、その測定値が記録される(S13)。ここで、遮断量は、クラッドモードによる光の損失量である。クラッドモードによる光の遮断量は、広帯域光源及びスペクトルアナライザなどを使用して測定できる。その測定は、広帯域光源の光が光ファイバを通して傾斜グレーティングに入射した状態で、透過光の波長スペクトルをスペクトルアナライザで測定することにより行われる。傾斜グレーティングが形成される前の波長スペクトルとの差分がクラッドモードの損失量の波長スペクトルであり、その差分によって遮断量の測定が可能である。
<ステップS14>
次に、ステップS13で得られた遮断量(クラッドモードによる光の損失量)の測定値が、要求仕様における目標遮断量に達しているか否か、即ち、遮断量が目標範囲内であるか否かを判定する(S14)。遮断量の目標範囲は、第1例の手順におけるステップS7で用いられる目標範囲と同様の範囲である。
<ステップS15>
そして、評価用光ファイバの遮断量の測定値が目標範囲内に達するまで、同一の評価用光ファイバに対し、単位量ずつの紫外光の照射が行われ(S15)、その単位量の露光ごとに、ステップS13及びS14の手順が繰り返される。なお、ステップS15において、露光量以外の露光条件は変更されない。ステップS15での1回の露光における単位露光量は、例えば、紫外レーザ光の往復走査1回分の露光量である。
<ステップS16>
次に、遮断量の測定値が目標範囲内に達した評価用光ファイバについて、ブラッグ反射の量が測定され、その測定値が記録される(S16)。このとき、そのブラッグ反射量の測定値が得られるときの露光量の条件(往復走査回数など)も併せて記録される。これにより、遮断量が目標遮断量に達したときの評価用光ファイバについて、それが得られるときの露光量及び傾斜角度θの組合せの情報と、その組合せの条件下で得られる評価用光ファイバのブラッグ反射量とが判明する。ブラッグ反射量は、広帯域光源とスペクトルアナライザなどを使用して測定できる。その測定は、広帯域光源の光が光ファイバを通して傾斜グレーティングに入射した状態で、反射光を光サーキュレータなどで取り出すことにより行われる。反射の場合には、例えば、ファイバ端に取り付けられた反射率100%の反射ミラーからの反射光の波長スペクトルとの差分が、反射量の波長スペクトルであり、その差分によってブラッグ反射量の測定が可能である。
<ステップS17>
そして、ステップS13,S16での測定結果において、評価用光ファイバにおけるブラッグ反射量の測定値が、傾斜グレーティングの傾斜角度の変化に対して極小となる第2の特性が確認されるか否かが判定される(S17)。
<ステップS18>
そして、ステップS17において、評価用光ファイバの測定値に第2の特性が確認されるまで、単位角度ずつグレーティングの傾斜角度θを順次変更し(S18)、傾斜角度θの変更ごとに、新たな評価用光ファイバに対し、ステップS12〜S15の手順が繰り返される。傾斜角度θの変更幅(単位角度)は、例えば、0.05度程度以下のごく小さな角度幅とする。また、経験上、特に密に測定すべき傾斜角度がわかっている場合には、傾斜角度θの大きさに応じて単位角度を変更することも考えられる。
図10は、ステップS12〜S18の手順によって得られる評価用光ファイバにおける、傾斜グレーティングの傾斜角度とブラッグ反射量との関係の一例を示すグラフである。グラフにおける傾斜角度及びブラッグ反射量の値は、それぞれステップS18での設定角度及びステップS17での測定値の一例である。
図10の結果が得られたときの露光条件は、以下の通りである。即ち、露光方法は位相マスク法であり、紫外レーザ光は、パルス発振のYAGレーザの4倍波(波長266nm)である。傾斜グレーティングの長さは10mm、位相マスク10の傾斜角度θは3.05度から3.8度の間で順次変更され、位相マスク10のチャープ率は0.4nm/cmである。紫外レーザ光のビーム径は1mm以下であり、紫外レーザ光のビームは、ミラーが設けられた自動ステージにより、光ファイバの長手方向に走査される。これにより、コアの長手方向に長尺な傾斜グレーティングを形成することが可能である。紫外レーザ光の走査速度は、1mm/sである。各測定値が得られたときの露光量及び傾斜角度θの組合せは、ステップS14において遮断量が目標遮断量に達したときの露光量及び傾斜角度θの組合せである。
図10のグラフにおいて、横軸は傾斜角度θの座標軸であり、縦軸はブラッグ反射量の座標軸である。ブラッグ反射量は、ブラッグ反射光の反射率であり、その負の値(デシベル値)が小さいほど(絶対値が大きいほど)ブラッグ反射量が小さいことを示す。
図10のグラフは、評価用光ファイバのブラッグ反射量が、目標遮断量を満たす露光量の条件の下で、傾斜角度の変化に対してブラッグ反射量が極小となるディップが発生するという第2の特性を示している。図10に示される例では、傾斜角度が3.15である露光条件において、ブラッグ反射が極小となるディップが認められる。
<ステップS19>
そして、遮断量が目標遮断量を満たす(目標範囲内である)ときの評価用光ファイバの測定値に第2の特性が確認された場合、ブラッグ反射量の測定値が極小となるときの評価用光ファイバの露光条件を、光フィルタ100を製造するときの露光条件として設定する(S19)。これにより、光フィルタ100の露光条件の設計が終了する。
以上に示したように、設計手順の第2例では、ステップS12〜S18(評価用露光工程)において、予め設定された初期の露光条件を元に、傾斜角度及び露光量の両条件の組合せを順次変更した複数の評価用露光条件各々での紫外光による露光が行われる。これにより、評価用光ファイバが備えるコアに対してチャープされた傾斜グレーティングが形成される。
また、ステップS13,S16(第1測定工程、第2測定工程)において、評価用露光条件での露光が行われた評価用光ファイバの光の遮断量及びブラッグ反射の量が測定される。
そして、ステップS19(決定工程)において、ステップS13で測定される遮断量が予め定められた目標遮断量を満足する評価用露光条件の中で、ステップS16で測定されるブラッグ反射の量が、傾斜角度の変化に対して極小となるときの評価用露光条件が、光フィルタ100を製造するときの露光条件として設定される(図10参照)。
また、設計手順の第2例においても、第1例と同様に、最適な露光条件を探索するための具体的な手順として、初期の露光条件を元に露光量のみを順次増大させた複数段階の評価用露光条件各々での露光により、評価用光ファイバが備えるコアに対して傾斜グレーティングを形成する段階的な露光工程(S15)が実施される。
さらに、遮断量の測定値が目標遮断量を満足し、かつ、ブラッグ反射の量の測定値が傾斜角度の変更に対して極小値となる評価用露光条件が判明するまで、傾斜角度の条件を順次変更(S18)して段階的な露光工程(S15)が繰り返される。
以上に示された第2例の手順によっても、第1例の手順と同様に、光フィルタ100の露光条件は、コア1の屈折率の変化を大きくして光の遮断性能を高めても、ブラッグ反射光が抑制される最適な条件となる。
<第2実施形態>
ところで、光フィルタ100において、コアの長手方向における寸法が長い傾斜グレーティング3が形成される場合、第1の特性におけるブラッグ反射のディップが明確に現れない現象が生じる。以下、その現象について説明する。
図11は、光フィルタ100の作製に用いられる位相マスク10の格子11の部分の模式図である。図11において、向かって左右の方向が光ファイバのコアの長手方向である。
また、図11(a)は、位相マスク10における露光に用いられるコアの長手方向の長さがLである連続領域がコアの長手方向に6等分された各分割領域について、No.1からNo.6までのナンバリングがなされている様子を表す。No.1側に近い分割領域は、相対的に短波長側のフィルタ機能を実現する領域であり、No.6側に近い分割領域は、相対的に長波長側のフィルタ機能を実現する領域である。
なお、6つの分割領域は、あくまで説明の便宜のために区分された領域であり、位相マスク10が実際に6つに区分されているわけではない。
図11(b)は、No.1からNo.6までの分割領域のうち、No.2、No.3及びNo.5の各領域を通過する紫外光がマスクによって遮蔽され、No.1、No.4及びNo.6の3つの分割領域のみが、露光に用いられる様子を表す。
まず、図11(a)に示される位相マスク10により、長さLの連続領域全体が紫外光の露光に一度に用いられるときの例について説明する。以下、この例を連続領域露光の例と称する。
図12は、連続領域露光の例での露光によって得られる光フィルタにおける透過光及びブラッグ反射光のスペクトルを示すグラフである。図12の例は、位相マスク10における連続領域の全長Lが30mmである場合の例である。また、傾斜グレーティングの傾斜角度θは3.13度、チャープ率は0.4nm/cmである。紫外レーザ光は、パルス発振のYAGレーザの4倍波(波長266nm)である。紫外レーザ光の往復走査回数は10回である。
図12のグラフにおける横軸及び縦軸は、図8のグラフにおける横軸及び縦軸と同様の座標軸である。また、図12のグラフにおける縦の波線で区切られた6つの波長域は、それぞれ、短波長側から順にNo.1からNo.6の各分割領域に対応する波長域である。傾斜グレーティングにチャープが付加されているため、図12のグラフにおいて、2nm近い帯域においてブラッグ反射が発生している。
また、図13は、連続領域露光の例での露光によって得られる光フィルタにおける露光回数とブラッグ反射量との関係を示すグラフである。図13のグラフにおける横軸は紫外レーザ光の往復走査の回数の座標軸である。また、図13のグラフにおける縦軸は、ブラッグ反射量の座標軸であり、その測定値は、図12におけるNo.1〜No.6に相当する各帯域における最悪値である。
図13のグラフは、位相マスクの分割領域No.4からNo.6に対応する波長帯域においては、-30dB程度に低下するブラッグ反射光のディップが生じているが、他の分割領域No.1からNo.3に対応する波長帯域においては、ブラッグ反射光の顕著なディップは認められない。しかも、紫外光の往復走査回数30回におけるブラッグ反射の最悪値は、No.1の分割領域において-20dBという高い値を示している。
次に、図11(b)に示される位相マスク10により、長さLの連続領域のうちのNo.1、No.4及びNo.6の3つの分割領域のみが紫外光の露光に一度に用いられるときの例について説明する。以下、この例を分散領域露光の例と称する。
図14は、分散領域露光の例での露光によって得られる光フィルタにおける露光回数とブラッグ反射量との関係を示すグラフである。図14の例は、位相マスク10における全長30mmの連続領域が5mmずつ等分された6つの分割領域におけるNo.1、No.4及びNo.6の3つの分割領域のみが露光に使用された例である。
また、傾斜グレーティングの傾斜角度θは3.13度、チャープ率は0.4nm/cmである。紫外レーザ光は、パルス発振のYAGレーザの4倍波(波長266nm)である。
図14のグラフにおける横軸は紫外レーザ光の往復走査の回数の座標軸である。また、図14のグラフにおける縦軸は、ブラッグ反射量の座標軸であり、その測定値は、No.1、No.4及びNo.6の各々に相当する各帯域における最悪値である。
図14のグラフは、No.1、No.4及びNo.6のいずれの分割領域に対応する波長帯域においても、ブラッグ反射のディップが現れることを示している。即ち、評価用光ファイバの露光工程において、コアの長手方向の長さが5mm程度以下の短い傾斜グレーティングを形成することにより、図13のグラフが示すような、ブラッグ反射のディップが現れなくなる不都合は回避できる。
連続した長い傾斜グレーティングが形成される場合、位相マスクにおける格子の不均一性、及び位相マスクと光ファイバと紫外レーザ光との相対位置を決めるための治具の調整不良などの不慮の誤差が顕著となり、そのことが反射減衰量の劣化へ影響すると考えられる。一方、傾斜グレーティングの長さを短くすることにより、上記した不慮の誤差が小さくなり、そのことが反射減衰量の劣化を抑えると考えられる。
しかしながら、クラッドモードによる光の遮断量を十分に大きくするためには、傾斜グレーティングのトータル長さを比較的長くする必要がある。
そこで、第2実施形態に係る光フィルタは、以下の方法で露光条件が設定される。即ち、第2実施形態に係る光フィルタの設計では、図11(a)に示される位相マスク10のNo.1からNo.6までの分割領域各々を順番に用いて、コアに対して5mm以下の短い傾斜グレーティングを順番に形成し、短い傾斜グレーティングごとに、図6又は図9に示される手順が実行される。その際、短い傾斜グレーティングが形成されるごとに評価用光ファイバは交換され、1つの評価用光ファイバに対して1つの短い傾斜グレーティングが形成される。
そして、分割領域各々について得られた露光条件に基づき、代表する1つの露光条件を選択すること、又は、複数の露光条件を平均化などによって統合することにより、光フィルタの露光条件が設定される。
また、図11(a)に示される位相マスク10のNo.1からNo.6までの分割領域のうちの代表する1つを用いて、コアに対して5mm以下の短い傾斜グレーティングを1つ形成することにより、図6又は図9に示される手順が実行されることも考えられる。この場合、代表する1つの分割領域について得られた露光条件が、光フィルタの露光条件として設定される。
そして、第2実施形態に係る光フィルタの製造の際、露光工程において、コアに対し、コアの長手方向に並ぶ複数の領域各々を紫外光により順次露光することにより、コアに一つながりの傾斜グレーティングが生成される。このとき、複数の領域各々における露光条件は同じである。
図15は、以上に示した方法で設定された露光条件によって製造される本発明の第2実施形態に係る光フィルタの透過光及びブラッグ反射光のスペクトルを示すグラフである。
図15の例は、位相マスク10における全長30mmの連続領域が5mmずつ等分されたNo.1からNo.6までの6つの分割領域各々が順番に露光に使用された例である。その結果として、コアには、連続する30mmの長さの傾斜グレーティングが形成される。
傾斜グレーティングの傾斜角度θは3.13度、チャープ率は0.4nm/cmである。紫外レーザ光は、パルス発振のYAGレーザの4倍波(波長266nm)である。また、紫外レーザ光の往復走査の回数は30回である。
図15のグラフからわかるように、コアに対し、コアの長手方向に間隔を空けずに並ぶ複数の短い傾斜グレーティングが順次形成されることにより、光フィルタは、1552nmの波長帯域において-20dB以下の遮断量が確保され、反射光量も-23dB以下に抑制されている。この反射光量は、図12の例での反射光量(約-20dB以下)よりも低減されている。
<第3実施形態>
次に、第3実施形態に係る光フィルタについて説明する。第3実施形態に係る光フィルタは、第2実施形態に係る光フィルタの応用例である。
前述したように、光フィルタの要求仕様により長尺な傾斜グレーティングが必要な場合、複数の短い傾斜グレーティングが個別に形成されることにより、ブラッグ反射のディップが現れなくなる現象を回避でき、ブラッグ反射量を低減できることがわかった。
この第3実施形態においては、光フィルタの露光工程において、コアに対し、コアの長手方向に間隔を空けて並ぶ複数の短い傾斜グレーティングが形成される。以下、その内容について説明する。
図16は、第3実施形態に係る光フィルタの製造時の露光工程で用いられるマスク20の模式図である。このマスク20は、光フィルタの元となる光ファイバに近接配置されることによって用いられ、図16において、左右方向がコアの長手方向に相当する。
マスク20は、紫外光を遮断する板状の母材に、コアの長手方向における長さが各々L1である複数の開口21が形成された部材である。母材は、例えば、金属製の板状部材である。マスク20における複数の開口21は、コアの長手方向に間隔を空けて配列されている。複数の開口21各々のコアの長手方向における長さL1は、例えば5mm程度であり、複数の開口21の間隔L2は、例えば2mm程度である。
露光工程において、このマスク20は、コアに向かう紫外光の光路中に配置される。例えば、位相マスク法による露光工程において、マスク20は、位相マスク10に重ねて配置される。
第3実施形態に係る光フィルタは、以下の方法で露光条件が設定される。即ち、第3実施形態に係る光フィルタの設計では、図16に示されるマスク20が紫外光の光路中に配置された状態で、コアに対して5mm程度以下の複数の短い傾斜グレーティングを一度に形成することにより、図6又は図9に示される手順が実行される。これにより、複数の短い傾斜グレーティングが間隔を空けて並ぶ光フィルタの露光条件が設定される。
また、図16に示されるマスク20が紫外光の光路中に配置された状態で、そのマスク20における代表する1つの開口21のみを用いて、コアに対して5mm程度以下の1つの短い傾斜グレーティングを形成することにより、図6又は図9に示される手順が実行されることも考えられる。この場合、代表する1つの短い傾斜グレーティングが形成された評価用光ファイバについて得られた露光条件が、光フィルタの露光条件として設定される。
図17は、以上に示した方法で設定された露光条件によって製造される本発明の第3実施形態に係る光フィルタの透過光及びブラッグ反射光のスペクトルを示すグラフである。
図17の例は、6つの開口21が形成され、長さL1が5mm、間隔L2が2mmであるマスク20を用いて露光工程が実施された例である。これにより、光フィルタのコアには、その長手方向において各々の長さが5mmである6つの傾斜グレーティング3が2mmの間隔で並んで形成される。従って、傾斜グレーティング3の長さの合計は、図15の例と同様に30mmである。
複数の傾斜グレーティング各々の傾斜角度θは3.13度、チャープ率は0.4nm/cmである。紫外レーザ光は、パルス発振のYAGレーザの4倍波(波長266nm)である。また、紫外レーザ光の往復走査の回数は30回である。
図17のグラフからわかるように、コアに対し、コアの長手方向に間隔を空けて並ぶ複数の短い傾斜グレーティングが形成されることにより、光フィルタは、1552nmの波長帯域において-20dB以下の遮断量が確保され、反射光量も概ね-25dB以下に抑制されている。この反射光量は、図12の例での反射光量(約-20dB以下)よりも低減されている。
傾斜グレーティングの長さを短くしたことにより、位相マスクにおける格子の不均一性などの不慮の誤差が小さくなり、そのことが反射減衰量の劣化を抑え、図17の結果をもたらしたと考えられる。
<第4実施形態>
次に、第4実施形態に係る光フィルタについて説明する。第4実施形態に係る光フィルタは、第3実施形態に係る光フィルタの応用例である。
前述したように、光フィルタの要求仕様により長尺な傾斜グレーティングが必要な場合、複数の短い傾斜グレーティングが間隔を空けて並べて形成されることにより、ブラッグ反射のディップが現れなくなる現象を回避でき、ブラッグ反射量を低減できることがわかった。
一方、図14の例では、露光工程において位相マスク10におけるNo.1及びNo.6の各分割領域が用いられた場合、フラッグ反射のディップは、紫外光の往復走査回数が32回のときに現れているが、No.4の各分割領域が用いられた場合、フラッグ反射のディップは、紫外光の往復走査回数が25回のときに現れている。
図14のグラフが示すように、複数の傾斜グレーティングが形成されると、傾斜グレーティング各々において、ブラッグ反射のディップが生じるときの露光条件が一致しない場合がある。この現象は、位相マスクの作製誤差などに起因する位相マスクの格子の不均一性、及び位相マスクと光ファイバと紫外レーザ光との相対位置を決めるための治具の調整不良などの不慮の誤差が原因で発生すると考えられる。
そこで、この第4実施形態においては、第3実施形態と同様に、露光工程において、コアの長手方向に間隔を空けて並ぶ複数の短い傾斜グレーティングが形成されるとともに、複数の短い傾斜グレーティングごとに個別に露光条件が設定される。以下、その内容について説明する。
第4実施形態に係る光フィルタは、以下の方法で露光条件が設定される。即ち、第4実施形態に係る光フィルタの設計では、図16に示されるマスク20が紫外光の光路中に配置された状態で、コアに対して5mm程度以下の複数の短い傾斜グレーティングを順次1つずつ形成することにより、図6又は図9に示される手順が実行される。その際、短い傾斜グレーティングが形成されるごとに評価用光ファイバは交換され、1つの評価用光ファイバに対して1つの短い傾斜グレーティングが形成される。これにより、複数の短い傾斜グレーティングが間隔を空けて並ぶ光フィルタについて、短い傾斜グレーティングごとの露光条件が個別に設定される。
但し、傾斜角度は、複数の傾斜グレーティングそれぞれについて共通の角度が設定され、露光量(紫外レーザ光の走査回数)のみが個別に設定される。そのため、図6又は図9に示された第1例又は第2例の手順において、複数の傾斜グレーティングについて、共通の傾斜角度において十分な遮断量が得られる露光条件が設定されるように、遮断量の目標範囲は、要求仕様を満たす範囲で広めに設定される。
なお、複数の傾斜グレーティングそれぞれについて、傾斜角度のみ、又は傾斜角度及び露光量の両方が個別に設定された露光条件を採用することも考えられる。しかしながら、傾斜角度が個別に設定される場合、露光工程における位相マスクの角度調整の回数が増えるため、製造効率が低下する恐れがある。
図18は、以上に示した方法で設定された露光条件によって製造される本発明の第4実施形態に係る光フィルタの透過光及びブラッグ反射光のスペクトルを示すグラフである。
図18の例は、6つの開口21が形成され、長さL1が5mm、間隔L2が2mmであるマスク20を用いて露光工程が実施された例である。これにより、光フィルタのコアには、その長手方向において各々の長さが5mmである6つの傾斜グレーティング3が2mmの間隔で並んで形成される。従って、傾斜グレーティング3の長さの合計は、図15の例と同様に30mmである。
複数の傾斜グレーティング各々の傾斜角度θは3.13度、チャープ率は0.4nm/cmである。紫外レーザ光は、パルス発振のYAGレーザの4倍波(波長266nm)である。
また、図18の例では、露光工程において、6つの傾斜グレーティングそれぞれについて個別の露光量が採用された。具体的には、1つ目から6つ目までの開口21それぞれについて、紫外レーザ光の往復走査回数は、それぞれ32回、32回、25回、25回、32回及び32回である。
図18のグラフからわかるように、コアに対し、コアの長手方向に間隔を空けて並ぶ複数の短い傾斜グレーティングが形成され、それら複数の傾斜グレーティング各々について、個別の露光量が採用されることにより、光フィルタは、1552nmの波長帯域において概ね-18dB以下の遮断量が確保され、反射光量も概ね-30dB以下に抑制されている。この反射光量は、図12の例での反射光量(約-20dB以下)よりも大幅に低減されている。
第4実施形態においては、傾斜グレーティングの長さを短くしたことにより、位相マスクにおける格子の不均一性などの不慮の誤差が小さくなり、さらに、位相マスクにおける複数の傾斜グレーティング各々に対応する領域の特性のばらつきの影響が、個別の露光条件(露光量)の設定によって解消される。これらのことが、反射減衰量の劣化を抑え、図18の結果をもたらしたと考えられる。
以上に示した第4実施形態は、複数の短い傾斜グレーティングが間隔を空けて形成された例であるが、複数の短い傾斜グレーティングが間隔を空けずに形成され、それら複数の傾斜グレーティング各々について、個別の露光量が採用される例も考えられる。そのような例においても、光フィルタにおける光の反射量の低減効果を期待できる。
<第5実施形態>
次に、第5実施形態に係る光フィルタについて説明する。第5実施形態に係る光フィルタは、第1実施形態から第4実施形態における光フィルタの応用例である。
光フィルタは、光通信システムなどに適用される場合、経年劣化が小さく、耐用年数が長いことが要求される。一般に、FBGは、アニール処理が施されることにより、経年劣化が抑制されることが知られている。
そこで、第5実施形態に係る光フィルタは、第1実施形態から第4実施形態における光フィルタの露光工程が実施された後に、傾斜グレーティングに対してアニール処理を行う工程がさら実施されることによって製造される。
光フィルタの製造時のアニール処理は、例えば、光フィルタの雰囲気温度を、100分程度の期間、200℃程度の状態に保持する処理である。
しかしながら、光フィルタは、アニール処理が施されると、紫外光による露光工程によって増加したコアの屈折率が低下してしまう。
図19は、露光工程及びアニール処理工程各々における光フィルタの光の遮断量及びブラッグ反射量の推移を示すグラフである。図19のグラフにおいて、横軸は光の遮断量の座標軸、縦軸はブラッグ反射量の座標軸である。
また、図19において、実線の矢印は、露光工程において露光量を増大させたときの遮断量及びブラッグ反射量の推移の方向を示す。また、図19において、波線の矢印は、アニール処理工程において高温での保持時間を長くしたときの遮断量及びブラッグ反射量の推移の方向を示す。
図19のグラフにおいて、露光工程における露光量の増大に応じて、ブラッグ反射量の推移は低下から増大に転じている。これは、ブラッグ反射のディップが生じる第1の特性を示している。
図19が示すように、光フィルタは、アニール処理が施されると、露光工程により増大した遮断量が低下してしまう。同様に、光フィルタは、アニール処理が施されると、露光工程により増大したブラッグ反射量が減少する。
但し、図19が示すように、露光工程によって増大した遮断量及び増大したブラッグ反射量は、アニール処理における高温での保持時間の増加により、露光量の増大に応じてたどった推移にほぼ沿って逆方向に推移する。
即ち、アニール処理工程における保持温度が一定である場合、露光工程における露光量と、アニール処理工程における温度保持時間とは、光フィルタの遮断量及びブラッグ反射量に関し、高い負の相関関係を有している。
そこで、第5実施形態に係る光フィルタの露光条件は、以下のようにして設定される。
まず、図6又は図9に示された第1例又は第2例の手順によって露光条件を設定する。但し、ここで設定される露光条件は、最終的に設定される露光条件の基準となる露光条件である。
次に、第1例又は第2例の手順によって設定される基準の露光条件に対し、露光量のみが、予定されているアニール処理工程によって変化する光の遮断量に相当する分だけ増量された露光条件が、最終的な露光条件として設定される。
基準の露光条件に対する露光量の増量幅は、図19のグラフに示されるようなアニール処理工程の内容と露光量との相関関係に基づき設定される。その相関関係は、実験又はシミュレーション計算などによって予め特定される。
以上に示した方法により製造される第5実施形態に係る光フィルタは、第1実施形態から第4実施形態の各々における光フィルタと同様に、ブラッグ反射量が極小となるフィルタ特性を有する。さらに、第5実施形態に係る光フィルタは、アニール処理工程を経ることにより、経年劣化が小さく、耐用年数が長い。
以上に示した各実施形態において、露光工程は、位相マスク法による露光を行う工程である。しかしながら、二光束干渉法などの他の露光方法が、露光工程に採用されてもよい。
1 コア、2 クラッド、3 傾斜グレーティング、10 位相マスク、11 格子、20 マスク、21 開口、100 光フィルタ、S1−S19 ステップ、g011−g072 グラフ線の識別符号。

Claims (9)

  1. 傾斜グレーティングが紫外光による露光によって形成されたコア及び該コアの周囲のクラッドを備える光フィルタであって、
    当該光フィルタにおける前記傾斜グレーティングの傾斜角度は、
    当該光フィルタのブラッグ反射の量が、当該光フィルタにおける前記傾斜グレーティングの形成に採用された前記露光の条件である第1条件を基準にして紫外光の露光量のみを増減させた第2条件での前記露光によって前記傾斜グレーティングが形成された前記コアを備える他の光フィルタのブラッグ反射の量と比較して極小となる角度であることを特徴とする光フィルタ。
  2. 前記コアは、該コアの軸方向に間隔を空けて並ぶ複数の前記グレーティングが形成されている請求項1に記載の光フィルタ。
  3. 傾斜グレーティングが形成されたコア及び該コアの周囲のクラッドを備える光フィルタの製造方法であって、
    紫外光の露光量及び前記傾斜グレーティングの傾斜角度の両条件を含む予め定められた紫外光による露光の条件である第1条件で前記コアを露光することによって前記コアに前記傾斜グレーティングを生成する露光工程を有し、
    前記第1条件における前記傾斜角度は、
    前記第1条件での前記露光によって前記傾斜グレーティングが形成されたコアを備える前記光フィルタのブラッグ反射の量が、前記第1条件を基準にして紫外光の露光量のみを増減させた第2条件での前記露光によって前記傾斜グレーティングが形成された前記コアを備える他の光フィルタのブラッグ反射の量と比較して極小となる角度であることを特徴とする光フィルタの製造方法。
  4. 前記露光工程は、前記コアに対し該コアの軸方向に並ぶ複数の領域各々を紫外光により順次露光することによって前記コアに前記傾斜グレーティングを生成する工程である請求項3に記載の光フィルタの製造方法。
  5. 前記露光工程は、前記コアに対し該コアの軸方向に間隔を空けて並ぶ複数の領域各々を紫外光により露光することによって前記コアに複数の前記傾斜グレーティングを生成する工程である請求項3に記載の光フィルタの製造方法。
  6. 前記露光工程は、前記コアにおける前記複数の領域各々に対し個別の露光量で紫外光による露光を行う工程である請求項4又は請求項5に記載の光フィルタの製造方法。
  7. 前記露光工程の後に、前記傾斜グレーティングに対してアニール処理を行う工程をさらに有する請求項3から請求項6のいずれかに記載の光フィルタの製造方法。
  8. 傾斜グレーティングが紫外光による露光によって形成されたコア及び該コアの周囲のクラッドを備える光フィルタを製造するときの紫外光の露光量及び前記傾斜グレーティングの傾斜角度の両条件を含む露光条件を決定する光フィルタの設計方法であって、
    予め設定された前記露光条件を元に前記傾斜角度及び前記露光量の両条件の組合せを順次変更した複数の評価用露光条件各々での前記露光により、評価用光ファイバが備えるコアに対して前記傾斜グレーティングを形成する評価用露光工程と、
    前記評価用露光条件での前記露光が行われた前記評価用光ファイバのクラッドモードによる光の遮断量を測定する第1測定工程と、
    前記評価用露光条件での前記露光が行われた前記評価用光ファイバのブラッグ反射の量を測定する第2測定工程と、
    前記第1測定工程で測定される前記遮断量が予め定められた目標遮断量を満足する前記評価用露光条件の中で、前記第2測定工程で測定される前記ブラッグ反射の量が、前記露光量の変化又は前記傾斜角度の変化に対して極小となるときの前記評価用露光条件を、前記光フィルタを製造するときの前記露光条件として決定する決定工程と、
    を有することを特徴とする光フィルタの設計方法。
  9. 前記評価用露光工程は、予め設定された前記露光条件を元に前記露光量のみを順次増大させた複数段階の前記評価用露光条件各々での前記露光により、前記評価用光ファイバが備えるコアに対して前記傾斜グレーティングを形成する段階的な露光工程であり、
    前記段階的な露光工程は、前記第1測定工程で測定される前記遮断量が前記目標遮断量を満足し、かつ、前記第2測定工程で測定される前記ブラッグ反射の量が前記露光量の変更に対して極小値となる前記評価用露光条件が判明するまで、前記評価用露光条件における前記傾斜角度の条件を順次変更して繰り返される請求項8に記載の光フィルタの設計方法。
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