上記の特許文献1に記載された油圧ダンパは、振動の状態に応じて減衰力を変化させている。これはピストンロッドの振幅が小さい場合にピストンロッドがピストンに対して移動することによって行われ、ピストンロッドの振幅が大きい場合にピストンロッドに対してピストンが移動端に達し、ピストンロッドと共にピストンがシリンダに対して移動し、油液がピストンの油路を流通させることにより行われる。このような構成であれば、ドラム式洗濯機の工程毎の振幅状態におよそ即した減衰作用を得ることができるが、しかしながら、減衰をされる部材の振動状態の時間的な変化がより複雑な場合には対応できない。
また、特許文献2に記載された低騒音ギア構造は、アイドラギアの内部にオイルが貯留されており、その貯留されたオイルをギアの回転時の遠心力によって、アイドラギアと噛み合う被動ギアとの噛み合い部にあわせて、オイルをアイドラギアに設けられた油路から射出して、ギア同士の噛み合い部の噛合面の潤滑をすることに加えて歯打音の抑制を行うものであり、オイルを回転体(ギア)の遠心力により作用させる点が記載されている。この低騒音ギア構造では、回転体の遠心力により、オイルを射出しているのみである。
さらに、特許文献3に記載されたトーショナルダンパは、回転軸に同心的に装着されたハウジングの内壁面と慣性体との間の隙間に、比重及び粘度が異なり相互に溶解しない磁気感応性流体が充填され、回転軸に対してハウジングおよび慣性体が回転する。また、相対的に比重の大きい磁気感応性流体に作用する遠心力の方が粘性流体に作用する遠心力よりも大きい。このように構成されていることから、その2種類の流体の遠心力の差による外周側への磁気感応性流体の移動力は、所定の回転速度以下では、磁石による吸引・保持力よりも小さいため、粘性流体は外周側に偏在し、磁気感応性流体は内周側に偏在するようになる。
一方、所定の回転速度を超えると、上記遠心力の差による外周側への磁気感応性流体の移動力が磁石による磁気的な吸引・保持力よりも大きくなるため、磁気感応性流体はハウジングと慣性体との間の隙間における外周側へ移動し、粘性流体は前述の隙間における内周側へ移動する。このように回転速度に応じて捩り減衰特性を異ならせることができるが、ハウジングと共に磁石や慣性体などを設けて、さらに磁気に反応するような流体を調合しなければならない。
以上のとおり、特許文献1ないし3に記載の発明では、簡易な構成で、かつ回転体の回転状態に応じた捩り振動減衰特性を相違させる作用を得ることができず、また、そのためには、より複雑な機構を設ける必要が生じる。また、一般的に近年採用されるロックアップクラッチ等を有するトーショナルダンパは、燃費向上のためにエンジン低回転使用時のこもり音対策として低バネ・低ヒス特性のものが採用されており、エンジンの過渡トルクに対してショックが発生しやすくトライバビリティが低下する。また、低バネ・低ヒス特性のものを採用するといったバネ特性を異ならせるのみでは、過渡的なショックの発現するタイミングが変更されるのみである。さらに、コイルスプリングに加えて油圧式の減衰機構を設ける場合であっても回転体の回転状態や捩り振動状態により減衰特性を変化させる必要がある。
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、簡易な構成によって回転体の回転状態および捩り振動状態に応じて捩り振動の減衰特性を相違させることのできる捩り振動減衰装置を提供することを目的とするものである。
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、相対的に回転することにより捩りが生じる入力側回転体と出力側回転体とのいずれか一方に連結されるシリンダと、そのシリンダの内部を二室に分割するように摺動自在に設けられかつ前記回転体のいずれか他方に連結されるピストンと、前記二室を連通させるように前記ピストンを貫通して形成された貫通孔と、前記シリンダ内に封入された流動体とを有し、その流動体が前記貫通孔を通過する際の流動抵抗力を前記入力側回転体と出力側回転体との相対回転に対する抵抗力として作用させる捩り振動減衰装置において、前記流動体は、前記各回転体の回転に伴う遠心力によって、前記各回転体の回転中心に対する内周側と外周側とで粘度が相違するように粘性が変化する流動体からなり、前記貫通孔は、遠心力によって流動抵抗力が相違するように設けられていることを特徴とするものである。
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記流動体は2種類の流動体からなる混合物であり、前記2種類の流動体は、一方が粘性抵抗および比重が大きい流動体であり、他方が粘性抵抗および比重が小さい流動体であり、かつ前記ピストンに設けられた前記貫通孔が、前記回転体の回転中心に対する前記シリンダの軸線よりも外周側に位置するように設けられることを特徴とする捩り振動減衰装置である。
また、請求項3の発明は、請求項1の発明において、前記流動体は2種類の流動体からなる混合物であり、前記2種類の流動体は、一方が粘性抵抗が大きく、比重が小さい流動体であり、他方が粘性抵抗が小さく、比重が大きい流動体であり、かつ前記ピストンに設けられた前記貫通孔が、前記回転体の回転中心に対する前記シリンダの軸線よりも内周側に位置するように設けられることを特徴とする捩り振動減衰装置である。
また、請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記流動体は気体と液体とからなる混合物を含むことを特徴とする記載の捩り振動減衰装置である。
また、請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれかの発明において、前記シリンダと前記ピストンとが相対的に回転しないように構成されていることを特徴とする捩り振動減衰装置である。
さらに、請求項6の発明は、請求項5の発明において、前記ピストンは、前記回転体のいずれか他方に連結されたピストンロッドと前記ピストンロッドに固定された取付具を介して前記回転体のいずれか他方に連結され、前記シリンダと前記ピストンとが相対的に回転しないように前記ピストンと前記取付具との間にキー構造が設けられていることを特徴とする捩り振動減衰装置である。
そして、請求項7の発明は、請求項6の発明において、前記ピストンは、前記取付具の外周面に接触しながら前記シリンダの軸線方向に所定の範囲内で移動可能となっていることを特徴とする捩り振動減衰装置である。
この発明によれば、回転体に生じる遠心力によって、回転体の回転中心に対するシリンダの軸線よりも内周側と外周側とで粘度が相違するように粘性が変化する流動体が、遠心力によって流動抵抗力が相違するように前記貫通孔を通過することから、回転体に生じる遠心力の状態すなわち捩り振動の特性によって、捩り振動に対する減衰効果を異ならせることができる。
つぎに、この発明の実施例を図面を参照して説明する。図2には、一例として、この発明の捩り振動減衰装置1を有するトルクコンバータ2が記載されている。以下、一例として、この発明の捩り振動減衰装置1が適用されたトルクコンバータ2について説明するが、この発明の捩り振動減衰装置1を適用できる装置は、一例としたトルクコンバータ2などに限定されず、車両の動力源から車輪までの動力伝達経路で発生する捩り振動を減衰して抑制する箇所に適用できる。また、捩り振動が発生する装置であれば、車両の動力伝達経路の捩り振動が発生する箇所にも限定されず、車両以外の装置にも適用できる。
この発明の捩り振動減衰装置1を有するトルクコンバータ2は、車両の動力源から自動変速機(いずれも図示せず)へとオイルなどの流体を用いて動力を伝達する装置である。つまり、図示しない動力源からの動力が伝達されて、軸線A1を中心として回転するケーシング3が設けられ、このケーシング3と一体で回転するポンプインペラ4が設けられている。このポンプインペラ4と向かい合わせた位置にタービンランナ5が配置されている。すなわち、トルクコンバータ2に備えられたポンプインペラ4とタービンランナ5とが、向き合って配置されている。タービンランナ5には、その内周側に設けられて、タービンランナ5に締結されて一体で回転してこれを支持するボス部5aが備えられている。このボス部5aは、図示しない自動変速機のインプットシャフト6に連結されて一体に回転する構成となっている。このポンプインペラ4とタービンランナ5とは、トルクコンバータ2のケーシング3の内部に収容されているオイルを流動させて、その運動エネルギを授受することにより動力源から自動変速機へと動力を伝達する構成となっている。
このポンプインペラ4とタービンランナ5と共に、ポンプインペラ4の回転を阻害しないようにオイルの流れを制御してトルクの増加を行うステータ7が、ポンプインペラ4とタービンランナ5との間に配置されている。ステータ7は、タービンランナ5の回転が大きくなってタービンランナ5から流れるオイルの方向が変わることによって、動力の伝達を阻害するようになるので、空転するように動作するためのワンウェイクラッチ(一方向クラッチ)8により、回転自在に支持されている。この一方向クラッチ8は、固定軸8aによって固定されて支持されている。
また、このトルクコンバータ2には、ポンプインペラ4とタービンランナ5とのオイルによる動力伝達ロスを回避するために摩擦係合により動力を伝達するロックアップクラッチ9が設けられている。このロックアップクラッチ9は、円盤状の摩擦係合部9aを備えている。このロックアップクラッチ9の摩擦係合部9aが、ポンプインペラ4と一体で回転するケーシング3の内壁面3aと対向して配置されている。この摩擦係合部9aは、同様にケーシング3の内壁面3aと対向して配置され、後述するトーショナルダンパ1とケーシング3との形状に適合するように断面が屈曲した円盤状のプレート9bの軸線A1に対する外周側に固定されている。プレート9bは、後述するプレート10bと一体で回転する構成となっている。このプレート9bは、タービンランナ5を支持するボス部5aの外周面に接触して回転自在に軸受け9cによって支持されている。つまり、プレート9bの内周面9dが、軸線A1に対して、ボス部5aの外周面を摺動して回転する構成となっている。また、ボス部5aは、インプットシャフト6に対して軸線A1の方向に前後動できる構成となっている。このボス部5aの前後動作は、インプットシャフト6の内部が中空状にされて油路6aが設けられて、この油路6aを介して油圧アクチュエータおよび油圧制御装置(共に図示せず)などによりオイルを駆動し、油圧を制御して行われる構成となっている。
さらに、このロックアップクラッチ9の摩擦係合時に発生するショックや捩り振動などを抑制もしくは減衰するために捩り振動減衰装置(トーショナルダンパ)1が設けられている。このトーショナルダンパ1には、後述するトーショナルスプリング12やシリンダ14などが収容される収容窓が円周上の複数箇所に設けられたプレート10aと、ロックアップクラッチ9のプレート9bに動力伝達可能に連結されたプレート10bと、タービンランナ5のボス部5aに連結されたプレート10cとからなるプレート10が備えられている。プレート10aは、軸線A1を中心に回転して、円周上の複数箇所に配置された収容窓10dのそれぞれにダンパ機構11が備えられている。
ダンパ機構11は、プレート10aの収容窓10dに収まって、プレート10bとプレート10cとに挟まれて装着されている。プレート10bは、プレート9bに対向して配置されて連結され、一体で回転する構成となっている。プレート10cは、ボス部5aに連結されて一体で回転する構成となっている。すなわち、プレート10bとプレート10cとが軸線A1に対する回転方向において、互いに位相がずれた状態で回転できる構成となっている。言い換えると、プレート10bとプレート10cとが軸線A1を中心とする回転方向に対して独立して回転して捩れ方向の状態もしくは位相がずれた状態とされる構成となっている。
そして、軸線A1を中心とする回転方向でこのプレート10bとプレート10cとがずれた状態が時間的に周期的に変化する捩り振動が発生している状態などに、このプレート10bとプレート10cとに対して、弾性力および減衰力を付与できるようにダンパ機構11は装着されている。ダンパ機構11は、前述のようにプレート10により挟まれて、図3に示すようにその一方の端部11aと他方の端部11bとがプレート10に支持されている。ダンパ機構11は、弾性振動部材(トーショナルスプリングもしくはコイルバネ)12と図5に示す油圧減衰機構13とにより構成されている。トーショナルスプリング12は、プレート10bとプレート10cとがずれた状態すなわちプレート10の捩り回転に対して弾性力を付与するように支持されている。つまりトーショナルスプリング12の一方端でプレート10に当接して支持され、他方端でもプレート10に当接して支持される構成となっている。また、図4には、トーショナルスプリング12が、プレート10に収容されている部分図が示されている。このトーショナルスプリング12に対して、図5に示すように、油圧減衰機構13がトーショナルスプリング12の弾性変形とともに収縮可能に並列的に、かつトーショナルスプリング12が螺旋状に形成されているその内周側に配置されている。この油圧減衰機構13には、トーショナルスプリング12の螺旋構造に所定の隙間を設けて収容されているシリンダ14が備えられている。このシリンダ14は、一方端側で前述のプレート10b(もしくはプレート10c)に当接して支持されている。
図1には、油圧減衰機構13の内部の構造が模式的に図示されている。シリンダ14には、粘性流体(オイル)15が内部に封入されて液密に保持されている。このシリンダ14の内壁面14aを軸線B1の方向に前後に摺動し、その内壁面14aの内周面に接触してシリンダ14を二室に分割するようにピストン16が設けられている。ピストン16には、シリンダ14の二室をオイルが流通可能なように前記二室を連通するオリフィス(貫通孔、または絞り)16aが設けられている。油圧減衰機構13の減衰力はオリフィス16aを通過するオイルの抵抗なので、このオリフィス16aの断面積などの形状や数量により、抵抗を増減して減衰力の状態を調整される構成となっている。また、ピストン16は、リテーナ(保持具または取付具)17を介してピストンロッド18が差し込まれてEリングなどの締結部材19により固定されている。リテーナ17は、ピストン16の内周面に接触し、ピストンロッド18の外周面に接触して挟まれてピストンロッド18に固定されている。
また、リテーナ17の軸線B1方向の一方端(図1の左側)には、爪部17aが設けられ、他方端(図1の右側)には、爪部17bが設けられている。このように両爪部17a,17bが設けられていることから、リテーナ17上でピストン16の軸線B1方向の移動範囲が規定されている。図6に示すように、オリフィス16aは、トーショナルダンパ1の回転中心となる軸線A1に対する、軸線B1に対してピストン16上の外周側(図6の上側)に設けられている。また、ピストンロッド18に固定されたリテーナ17とピストン16とは、前述のように軸線B1の方向を長手方向としたキー構造20により締結されている。すなわち、キー20aがピストン16の内周面に設けられたキー溝(図示せず)とリテーナ17の外周面に設けられたキー溝(図示せず)とに収容される構成となっている。なお、このキー20aは、ピストン16とリテーナ17とのいずれか一方と一体化した構成であってもよい。このようにリテーナ17は、ピストンロッド18と一体でシリンダ14に対して相対的に軸線B1の方向に前後動する構成となっている。一方、ピストン16は、キー構造20により軸線B1の周方向でその相対的な位置関係が保持され、両爪部17a,17bの間の規定された範囲で軸線B1の方向に前後動する構成となっている。
また、ピストンロッド18は、一方端が上述のようにピストン16が備えられて、シリンダ14内に浸漬された状態であり、他方端は、前述のプレート10c(もしくはプレート10b)に当接して支持されている。このピストンロッド18の他方端は、シリンダ14がプレート10に支持されている部位とは反対側となる。このようにダンパ機構11は、シリンダ14の他方端であるダンパ機構11の一方の端部11a(もしくは他方の端部11b)とピストンロッド18の他方端であるダンパ機構11の一方の端部11b(もしくは他方の端部11a)とがプレート10によって支持されている。
ここで、シリンダ14の内部に液密に収容されるオイル(粘性流体)15について説明する。このオイル15は、比重および粘度が異なり相互に溶解しない少なくとも二種類の粘性流体が混合されたものであってよい。例えば、オイル15が二種類の粘性流体からなり、一方の粘性流体が、他方の粘性流体に相対して比重および粘度がともに大きく、他方の粘性流体が、一方の粘性流体に相対して比重および粘度がともに小さい混合流体であってよい。そして、オイル15は、このように性質が相違した混合流体により構成されることから、トルクコンバータ2のロックアップクラッチ9を摩擦係合した状態でのトーショナルダンパ1の回転による遠心力によって、オイル15の状態すなわちシリンダ14内での一方の粘性流体と他方の粘性流体との偏在状態が変化させられる。なお、この少なくとも二種類の粘性流体のオイル15内での量の配分を調節することにより、減衰力を調整できる構成となっている。
さらに、オイル15は、上述のように少なくとも二種類の粘性流体が混合されたものであってもよいが、少なくとも一種類の粘性流体に気体(ガス)を混入してオイル15内にその気泡15aがある状態とした構成であってもよい。このように粘性流体に気体(ガス)が混入している場合であっても、オイル15は、性質が相違した混合流体により構成されたものと同様に機能する。すなわち、粘性流体に気体(ガス)が混入していることから、トルクコンバータ2のロックアップクラッチ9を摩擦係合した状態でのトーショナルダンパ1の回転による遠心力によって、オイル15の状態すなわちシリンダ14内での気泡15aが多い部分と気泡15aが少ない部分との偏在状態が変化させられる。図7に示すように、トーショナルダンパ1が停止および低回転状態である場合は、遠心力が小さいため、オイル15は、一様に気体と液体とが混合した気液混合状態となる。一方、図8に示すように、トーショナルダンパ1が高低回転状態である場合は、遠心力が大きいため、オイル15は、一様に気体と液体とが分離した気液分離状態となる。なお、少なくとも一種類の粘性流体に混入させる気体の量を調節することにより、減衰力を調整できる構成となっている。
つぎに、このトーショナルダンパ1の作用について説明する。車両の動力伝達経路で発生する捩り振動の強制力としては、動力源の構成により固有的に定まるそのトルク変動、プロペラシャフトユニバーサルジョイント部の取付角による角速度変動にもとづくトルク変動などがある。このような要因にもとづく捩り振動を抑制するために設けられるものが、この発明の捩り振動減衰装置1である。この捩り振動減衰装置1の一例として上記に記載したトーショナルダンパ1は、トルクコンバータ2のロックアップクラッチ9を摩擦係合した状態において作動する。
上述したようなトルク変動の要因から動力伝達経路内で発生した捩り振動などにより、トルクコンバータ2のロックアップクラッチ9にも捩り振動が伝達される。ロックアップクラッチ9に伝達された捩り振動は、プレート9bを介してトーショナルダンパ1のプレート10bからその捩り振動が伝達される。プレート10bに捩り振動が伝達されて、その捩り振動がダンパ機構11を介してプレート10cにも伝えられる。それとともに、逆にインプットシャフト6などから伝達される捩り振動がプレート10cに伝達されて、その捩り振動がダンパ機構11を介してプレート10bにも伝達される。このようにプレート10b,10cに捩り振動が伝達されて、プレート10bとプレート10cとの軸線A1を回転の中心とした相対的な回転の位置関係がずらされて、捩れの状態が時間的に変動する状態となり、トーショナルダンパ1において捩り振動が発生する。このトーショナルダンパ1で発生した捩り振動は、ダンパ機構11によって減衰される。
すなわち、ダンパ機構11のトーショナルスプリング12がプレート10に当接して支持されており、また、前述のとおりプレート10bとプレート10cとの軸線A1を回転の中心とした相対的な回転の位置関係がずらされて時間的に変動する状態すなわち捩れ振動の状態であることから、プレート10bとプレート10cとの両方からトーショナルスプリング12に力が作用し、トーショナルスプリング12が弾性変形して収縮された状態となる。逆にプレート10bとプレート10cとの両方に対しては、当接して支持された両端部において、弾性力を付与しつつ収縮する。このようにトーショナルスプリング12が弾性的に変形する過程で、トルク変動などによるショックが緩衝される。
一方、ダンパ機構11の油圧減衰機構13もシリンダ14の他方端とピストンロッド18の他方端とがプレート10に当接して支持されており、前述のとおりプレート10bとプレート10cとにおける軸線A1を回転の中心とした相対的な回転の位置関係のずれが時間的に変動する状態すなわち捩れ振動の状態であることから、プレート10bとプレート10cとの両方から油圧減衰機構13に力が作用する。油圧減衰機構13に力が作用するとともにトーショナルスプリング12にも力が作用して、油圧減衰機構13が伸縮をする。このように油圧減衰機構13が伸縮する過程で、シリンダ14の内部のオイルによるせん断抵抗(流動抵抗力)により捩り振動のエネルギが吸収されて、捩り振動状態が減衰されて、トルク変動などによるショックが緩衝される。
この油圧減衰機構13による捩り振動を減衰する過程は、トーショナルダンパ1の回転状態ならびに捩り振動の振幅により異なる。トーショナルダンパ1の捩り振動による振幅が小さい場合には、油圧減衰機構13による捩り振動の減衰時に、一方端がプレート10b(もしくはプレート10c)に当接して支持されているシリンダ14に相対して、他方端がプレート10c(もしくはプレート10b)に当接して支持されているピストンロッド18が軸線B1の方向で前後動する。それとともに、このピストンロッド18にリテーナ17を介して連結されているピストン16がシリンダ14内を軸線B1の方向に前後動する。しかし、ピストン16は、リテーナ17上の爪部17aと爪部17b間を移動するのみで、シリンダ14に対してそれ程相対的な位置関係を変えないため、オイル15による減衰効果は弱くなる。そのため、トーショナルスプリング12による減衰力により捩り振動が減衰される。
一方、トーショナルダンパ1の捩り振動による振幅が大きい場合には、油圧減衰機構13による捩り振動の減衰時に、一方端がプレート10b(もしくはプレート10c)に当接して支持されているシリンダ14に相対して、他方端がプレート10c(もしくはプレート10b)に当接して支持されているピストンロッド18が軸線B1の方向で前後動する。それとともに、このピストンロッド18にリテーナ17を介して連結されているピストン16がシリンダ14内を軸線B1の方向に前後動する。ピストン16は、リテーナ17上の爪部17aと爪部17b間を移動し、その爪部17a(もしくは17b)のいずれかに当接する。爪部17a(もしくは17b)のいずれかに当接すると、ピストン16は、シリンダ14に対して相対的な位置関係を変えて軸線B1の方向に前後動する。ピストン16がシリンダ14内を軸線B1の方向に前後動すると、ピストン16によってシリンダ14内が二室に分割されていることから、オイル15がピストン16のオリフィス16aを通過する。オイル15がピストン16のオリフィス16aを通過することから、シリンダ14内の二室をオイル15が移動する。このオイル15が、ピストン16のオリフィス16aを通過する際の抵抗によって捩り振動のエネルギが吸収される。
このオイル15の移動状態は、オリフィス16aを通過するオイル15の性質により変化する。シリンダ14内のオイル15は、トーショナルダンパ1が所定の回転数以上で回転している場合には、オイル(粘性流体)15が上述のとおり比重および粘性の異なる二種類の粘性流体が混合されたもの、もしくは少なくとも一種類の粘性流体に気体が混入されたものであることから、トーショナルダンパ1の回転中心となる軸線A1に対する、軸線B1に対してピストン16上の外周側(図6の上側)が粘度が大きい状態となる。それとともに、オリフィス16aが、トーショナルダンパ1の回転中心である軸線A1に対するシリンダ14の軸線B1の外周側(以下、単に軸線A1の外周側とも言う)に設けられていることから、オリフィス16aを通過させるオイルによる抵抗を増大させて減衰力が大きい状態となる。減衰力が大きい状態となったことから、捩り振動の振幅が大きくかつトーショナルダンパ1の回転数が所定の回転数以上である場合に適合した減衰が行われる。
一方、トーショナルダンパ1が所定の回転数以下で回転している場合には、オイル(粘性流体)15が上述のとおり比重および粘性の異なる二種類の粘性流体が混合されたもの、もしくは少なくとも一種類の粘性流体に気体が混入されたものであることから、トーショナルダンパ1の回転中心となる軸線A1に対する、軸線B1に対してピストン16上の外周側(図6の上側)が粘度が小さい状態となる。それとともに、オリフィス16aが、トーショナルダンパ1の回転中心である軸線A1に対するシリンダ14の軸線B1の外周側に設けられていることから、オリフィス16aを通過させるオイルによる抵抗を減少させて減衰力が小さい状態となる。減衰力が小さい状態となったことから、捩り振動の振幅が小さくかつトーショナルダンパ1の回転数が所定の回転数以下である場合に適合した減衰が行われる。
上記のとおり、この発明に係る実施例であるトーショナルダンパ1は、その構成および作用から以下の効果を奏する。オイル15が少なくとも二種類の粘性流体が混合されたもの、もしくは少なくとも一種類の粘性流体に気体を混入してオイル15内にその気泡15aがある状態としたものであることから、トーショナルダンパ1の回転状態すなわち遠心力によって、粘度が相違するように粘性を変化させることができる。例えば、トーショナルダンパ1が高回転時で大きな遠心力が発生している時、オイル15が二種類の粘性流体が混合されたもので、かつ一方の粘性流体が、他方の粘性流体に相対して比重および粘度がともに大きく、他方の粘性流体が、一方の粘性流体に相対して比重および粘度がともに小さい混合流体である場合、オイル15がトーショナルダンパ1の回転状態すなわち遠心力によって、トーショナルダンパ1の回転中心である軸線A1に対するシリンダ14の軸線B1の外周側で比重が大きく、粘度の大きい粘性流体を偏在させ、内周側で比重が小さく粘度が小さい粘性流体を偏在させることができる。
また、オイル15が少なくとも一種類の粘性流体に気体を混入して気泡15aがある状態としたものである場合、オイル15がトーショナルダンパ1の回転状態すなわち遠心力によって、トーショナルダンパ1の回転中心である軸線A1に対するシリンダ14の軸線B1の内周側で気泡15aを偏在させて、内周側の粘度を低く、外周側の粘度を大きくすることができる。
また、トーショナルダンパ1の回転中心である軸線A1に対する、シリンダ14の軸線B1の外周側でオイル15の粘度を大きくするとともに、前述のとおり、ピストンロッド18にリテーナ17が固定されており、ピストン16とリテーナ17とがキー構造20を有していることから、リテーナ17上を爪部17a,17bの間で移動される。捩り振動による振幅が小さい場合、ピストン16はリテーナ上を移動するが爪部17a,17bに当接せず、シリンダ14に対しては相対的に軸線B1の方向に移動せず、トーショナルスプリング12によって、捩り振動に対して減衰が行われる。これにより、例えば、動力源が一般的な内燃機関である場合などは、低回転時のトルク変動が大きいため、低回転の状態では低バネ・低ヒスが望ましく、油圧減衰機構13による減衰力は小さくしてこもり音などを抑制することができる。
一方、捩り振動による振幅が大きい場合、ピストン16はリテーナ上を移動して爪部17a,17bに当接する。爪部17a(もしくは17b)に当接した状態で、ピストン16はシリンダ14に対して相対的に移動する。この時、トーショナルダンパ1が高回転である場合は、オイル15がトーショナルダンパ1の回転中心となる軸線A1に対する、軸線B1に対してピストン16上の外周側で粘度が大きい状態とされ、それとともに、オリフィス16aは、トーショナルダンパ1の回転中心となる軸線A1に対する、軸線B1に対してピストン16上の外周側(図6の上側)に設けられていることから、オリフィス16aを通過させるオイルによる抵抗が増大する。これにより、高回転時のトルク変動が小さいため油圧減衰機構13による減衰力が大きくても、こもり音等の不具合を抑制することができる。また、それとともに過渡的なエンジントルクを効果的に減衰させることができる。
ここで、この発明の他の実施例について説明すると、上記に示した実施例では、オリフィス16aは、トーショナルダンパ1の回転中心となる軸線A1に対する、軸線B1に対してピストン16上の外周側(図6の上側)に設けられる構成であったが、オリフィス16aは、トーショナルダンパ1の回転中心となる軸線A1に対する、軸線B1に対してピストン16上の内周側(図6の下側)に設けられている構成であってもよい。このように構成されることにより、オイル15が粘度の小さい内周側でオリフィス16aを通過するため、ピストン16がシリンダ14に対して相対的に移動する場合に流動抵抗力が小さい状態とされる。捻り振動の発生状態やトーショナルスプリング12との関係からこのようにトーショナルダンパ1が高回転であっても流動抵抗力を小さくするのに好適な場合にこのような構成とする。
上記に示した実施例と同様にオリフィス16aは、トーショナルダンパ1の回転中心となる軸線A1に対する、軸線B1に対してピストン16上の外周側(図6の上側)に設けられて、オイル15がトーショナルダンパ1の回転中心となる軸線A1に対する、軸線B1に対してピストン16上の内周側で遠心力によって粘度が大きくなる構成であってもよい。このように構成されることにより、オイル15が粘度の小さい外周側でオリフィス16aを通過するため、ピストン16がシリンダ14に対して相対的に移動する場合に流動抵抗力が小さい状態とされる。捻り振動の発生状態やトーショナルスプリング12との関係からこのようにトーショナルダンパ1が高回転であっても流動抵抗力を小さくするのに好適な場合にこのような構成とする。
また、オイル15がトーショナルダンパ1の回転中心となる軸線A1に対する、軸線B1に対してピストン16上の外周側で粘度が大きくなる構成であったが、オイル15は、一方の粘性流体が他方の粘性流体に相対して比重が大きくかつ他方の粘性流体に相対して粘度が小さく、他方の粘性流体が一方の粘性流体に相対して比重が小さくかつ一方の粘性流体に相対して粘度が大きい混合流体であってよい。このようにオリフィス16aが、トーショナルダンパ1の回転中心となる軸線A1に対する、軸線B1に対してピストン16上の内周側(図6の下側)に設けられている構成であるとともに、オイル15が、一方の粘性流体が他方の粘性流体に相対して比重が大きくかつ他方の粘性流体に相対して粘度が小さく、他方の粘性流体が一方の粘性流体に相対して比重が小さくかつ一方の粘性流体に相対して粘度が大きい混合流体として上記の実施例と同様の効果を奏する構成であってもよい。