JP2011095132A - 乳幼児のアレルギー発症の予測・アレルギーの増悪、改善の判定法 - Google Patents

乳幼児のアレルギー発症の予測・アレルギーの増悪、改善の判定法 Download PDF

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Abstract

【課題】出産前にアレルギー症状を呈していた母親からその体質を引き継いで出生した新生児について、授乳中の生後6ヶ月以内に、特定のアレルゲンに対するアレルギー発症の有無を予測する方法、母乳を介して発症するアレルギーを避ける方法を提供する。また、卵や牛乳アレルゲン等の特定のアレルゲンに対して1歳未満でアレルギー症状を発症し、その後に食物除去療法や減感作療法などのアレルギー治療を受けている乳幼児を対象として、アレルギーの改善の程度や治療効果の程度、例えばアレルギーが増悪過程にあるのか、治癒過程にあるか、完治したかを的確に判断するための検査方法を提供する。
【解決手段】アレルゲンに対する臍帯血中のIgAを測定し、あらかじめ作成した判定評価スコアに基づき、乳児がアレルゲンに対して6ヶ月以内にアレルギーを発症するかを予測したり、母乳を介したアレルギーの発症リスクを検査する。また、特定のアレルゲンに対して1歳未満でアレルギーを発症したアレルギー発症児のアレルゲンに対する唾液の抗原特異的分泌型IgAを測定し、あらかじめ作成した判定評価スコアに基づき、幼児のアレルギー症状の改善の程度を検査する。
【選択図】なし

Description

本発明は、アレルゲンに対する臍帯血中のIgAを測定し、あらかじめ作成した判定評価スコアに基づき、乳児が6ヶ月以内にアレルゲンに対するアレルギーの発症を予測する方法に関する。また特定のアレルゲンに対して1歳未満でアレルギーを発症したアレルギー発症児の前記アレルゲンに対する唾液等の分泌型IgAを測定し、あらかじめ作成した判定評価スコアに基づき、幼児のアレルギー症状の増悪、改善、完治の程度を検査、その後の経過を予測する方法に関する。
アレルギーとは、原因物質が体内に侵入することによって起きる生体に不利益な反応の一つであり、アレルギーを引き起こす抗原特定のためには、例えば、食物、草木の花粉、カビの胞子、ほこり等の抽出物から希薄溶液を作製し、各溶液を皮膚の上に落とし、皮膚をランセット針で刺して、発赤反応の有無により即時型アレルギーの有無を判定するスキンプリックテストが通常行われ、また食物アレルギーの場合は原因食物の除去療法の後に、原因食物が引き起こすアレルギーの程度を判定したり、経口摂取が可能かを判定するために、食物負荷試験が行われることもある。しかし、スキンプリックテストの場合は、擬陽性、擬陰性など検査結果の判定の問題があり、食物負荷試験の場合は、医師の管理の下で入院して実施しなければ、原因物質の摂取によりアナフィラキシーショック等を起こす危険があり、アレルギー原因物質の特定において必ずしも最善の試験であるとは言えない。そこで、近年これらの方法に替わる非侵襲的な検査方法として、検査対象者の口中より採取した唾液などのサンプル中のIgEを測定するための基材であって、IgEに結合する表面上に固定化された抗原を含む基材(例えば特許文献1参照)等が報告されている。
また、アレルギーに関しては、IgE依存性反応だけではなく、血液のIgEレベルとアレルギー症状とが一致しない非IgE依存性反応も関与するとの認識や、アレルギー原因物質の体内侵入によって誘導される抗原特異的抗体は、IgE以外にもIgA、IgG、IgXがあり、これらの抗体の影響の総和がアレルギー症状を形成しているとの認識がある。そのため、1種以上の抗原を含むワクチン接種プログラムに供する工程と、試験個々人からの生物学的サンプル中の抗原に対して特異性のIgA、IgG、IgE及びIgXからなる群から選ばれたバイオマーカー抗体レベルを測定する工程と、得られた測定値を使用して、前記ワクチン接種プログラムの治療可能性の評価方法(例えば特許文献2参照)や、食餌性アレルゲン物質を加えて唾液中抗体との抗原・抗体反応をさせて生じた唾液中のアレルゲン特異Igとの反応性を測定し、健常者の特異IgEや特異IgG等の反応性の測定値を比較し、その相関関係によって免疫検定ができることが報告されている(例えば特許文献3参照)。
近年、IgAは母体から新生児に移行せず、したがって、新生児の臍帯血にはIgAが含まれていないと考えられてきた。新生児の臍帯血に母体由来のIgAが含まれていないことに関して、「母親の血液及び臍帯血は、aPL陰性であることを示し、そして検出されたIgM又はIgAがなかったので、これらの発見は、セロコンバージョンの後で、臍帯血にて観察されるIgG aPLは、起源は母であるという論点を支持している」(例えば、特許文献4参照)や、「アレルゲン特異的IgE抗体が、新生児の23.9%に検出されたが、その際母体の血清の混入は、いくつかの分析手段によって排除されており、その手段としてはIgA抗体を除くことをも含むものであった」(例えば非特許文献1参照)との報告もなされていた。なお、血液及び臍帯血のIgAと、以下に記載される唾液等の分泌型IgA(sIgA)とは、構成成分と生理的作用の異なる生体成分である。具体的には、sIgAはIgAの2量体化とJ鎖分子、分泌成分の複合体で、粘膜から分泌される主要抗体である。(非特許文献2参照)
アレルギーとsIgAについては、アレルギー患者のアレルギー抗原に対する特異的sIgAと血中IgEを測定し、その数値間の相対関係を指標としてアレルギーの重篤度を鑑別する方法(例えば特許文献5参照)や、生体試料が唾液又は口腔粘液である、花粉症、通年性アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、及び喘息から選択された疾患の検査方法であって、被検体から採取した生体試料中に存在するsIgAの測定値を、上記選択された疾患の非罹患体から採取した生体試料中に存在するsIgAの測定値と対比する検査方法や診断キット(例えば特許文献6参照)が報告されている。
しかしながら、現状ではアレルギーの原因物質の特定以外に、(1)生まれてきた乳児の約20%が牛乳や卵アレルギーを発症する現状を踏まえて、乳児が生後6ヶ月以内にアレルギーを発症するか否かを臍帯血で予測したり、アレルギーを発症した後、その進行状況を的確に判断できる検査方法、具体的には患者の体がアレルギー増悪過程にあるのか、治癒過程にあるのか、完治しているのかを客観的に判定する方法、あるいは今後患者のアレルギーは増悪するのか、治癒するのかを予測する方法、(2)医師が処方している治療薬や実施している治療方法の効果を、客観的に評価判定できる検査方法が強く望まれているが、これまでこれらの要求を満足させる検査方法は知られていなかった。
特開2008−164523号公報 特表2007−524096号公報 特開平11−142403号公報 特表2006−526027号公報 特開2002−303628号公報 特開2009−210554号公報
Pfefferie et al., Journal of Allergy and Clinical Immunology, Vol.122,711-716.2008 Morton HC, van Egmond M and van de Winkel JG. (1997) "Structure and function of human IgA Fc receptors (Fc alpha R).". Crit. Rev. Immunol. 16, 423-440.
本発明の課題は、乳児の約20%が牛乳や卵アレルギーを発症する現状を踏まえ、アレルゲンに対する臍帯血中のIgAを測定し、あらかじめ作成した判定評価スコアに基づき、乳児が6ヶ月以内にこれらのアレルギーの発症を予測する方法に関する。乳児のアレルギー原因物質は、母乳を介して母子移行することから、授乳中の母親の食事指導の指針を提供する。さらに、卵や牛乳アレルゲン等の特定のアレルゲンに対して1歳未満でアレルギーを発症し、その後に食物除去療法や減感作療法などのアレルギー治療を受けている幼児のアレルギー症状の改善・治療効果の程度、例えばアレルギー増悪過程にあるのか、治癒過程にあるのか、完治しているのかを的確に判断するための検査方法を提供することにある。
本発明者らは、化学修飾したダイヤモンド/DLC(Diamond-like Carbon)チップを活性化試薬により活性化した後、蛋白質/ペプチドを前記チップ上にスポッティングしてカップリング反応を行う、チップ上に蛋白質/ペプチドを固定する方法であって、スポッティング添加剤としてジメチルスルホキシド(DMSO)又はポリエチレングリコール(PEG)を用いる蛋白質/ペプチドの固定化方法(特開2006−267058号公報)や、アレルゲンエピトープ判定DLCコーティングチップに捕捉された検体中のアレルゲン認識抗体をイムノアッセイにより検出し、アレルゲンの拡大/縮小パターン及び/又はアレルゲンエピトープの拡大/縮小パターンを判定するアレルギー疾患の判定方法(特開2006−267063号公報)や、IgE,IgG,IgA,IgMについて、血清ではなく唾液等の非観血型の検体の場合であっても、微量検体で多角的・網羅的な解析を行うことができ、特に非特異的反応を極力抑制し、高感度で正確に測定することができる上に、微量検体で多角的・網羅的な解析を行うことができるアレルギー疾患の判定方法として、アレルゲン判定チップに捕捉された検体中のアレルゲン認識抗体を、標識二次抗体を用いるイムノアッセイにより検出するに際して、前記洗浄及びブロッキング操作に使用する洗浄液及び/又はブロッキング液にグリシン含有液を用いるDLCアレルギー疾患の判定方法(国際公開第2008/111281号パンフレット)を提案してきた。
本発明者らは、従来必ずしもその生理的意義、病態との関係が明確にされておらず、学会等で定まった評価がされていなかった唾液など体液中の抗原特異的sIgAや、出生時の臍帯血中のIgAに、1)乳児が出生後6ヶ月以内にアレルギーを発症するか否かを臍帯血で予測する方法や、発症したアレルギーの進行状況を的確に判断し、今後の進行状況を予測する新規な評価価値と、2)医師が行う治療薬、治療方法の効果を客観的に評価判定することができるための新規な評価価値を見いだし、さらに、これらの新規評価価値を付与できる程に精度の高い検査方法を確立した。本発明で新たに提案する評価価値のうちの1つは、出生時の臍帯血中の抗原特異的IgAの評価価値である。胎児は直接アレルギーの原因物質と触れることの無い環境であるが、胎盤を通過する血液を介してアレルギー原因物質と触れる可能性のある胎内環境下にあって、胎児のアレルギー状態を反映する臍帯血のIgE,IgA,IgGに関する本発明者らの先駆的研究から生まれた臍帯血のIgAの新規な評価価値である。すなわち、新生児の臍帯血にはIgAが含まれていないと考えられてきたが、新生児自身の抗原特異的IgA抗体が検出できること、その際母体の血液が混入していないことは、例えば母体血液のIgAが認識する抗原認識パターンと臍帯血や新生児血の抗原認識パターンが異なることから証明することができる。この評価価値は、出生後様々なアレルギーの原因物質と触れるとともに、IgAの示す評価が複雑になるとともにあいまいとなるため、生後約6ヶ月までの評価価値とすることが考えられる。もう1つは、胎内環境の影響がうすれ、ミルク以外の食物の積極的な接種や、外界からの様々なアレルギー原因物質と触れるようになる約1歳以後では、血液中のIgAに臍帯血の場合のように明確な評価価値を付与することが困難となるが、血液に代わって、唾液、涙液、鼻汁などの体液中の抗原特異的sIgAに、臍帯血の場合のような評価価値を付与することが可能であることを見いだした。これら臍帯血IgAや唾液等のsIgAの測定にはDLCコーティングチップを用いるアレルギータンパクチップ方法が特に適していることも確認した。本発明は、これら知見に基づいて完成するに至ったものである。
すなわち本発明は、(1)アレルゲンに対する臍帯血中のIgAを測定し、あらかじめ作成した判定評価スコアに基づき、乳児の前記アレルゲンに対するアレルギー発症を予測する方法や、(2)あらかじめ作成した判定評価スコアに基づき、危険率0.05の確率でアレルギーを発症しない(スコア3)乳児、危険率0.05の確率でアレルギーを発症する(スコア1)乳児、又は、危険率0.05の確率で治癒への移行期でアレルギー症状を伴う(スコア2)乳児であるかを予測することを特徴とする前記(1)記載の方法や、(3)乳児が、出産前にアレルギー症状を呈していた母親の乳児であることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の方法に関する。
また本発明は、(4)特定のアレルゲンに対して1歳未満でアレルギーを発症したアレルギー発症児の前記アレルゲンに対する分泌型IgA(sIgA)を測定し、あらかじめ作成した判定評価スコアに基づき、幼児のアレルギー症状の改善の程度を検査する方法や、(5)あらかじめ作成した判定評価スコアに基づき、アレルギーを危険率0.05の確率でアレルギーを発症しない(スコア3)幼児、危険率0.05の確率でアレルギー発症を持続する(スコア1)幼児、又は、危険率0.05の確率で治癒への移行期でアレルギー症状を伴う(スコア2)幼児であるかを判定することを特徴とする前記(4)記載の方法や、(6)幼児が、アレルギー治療を受けている幼児であることを特徴とする前記(4)又は(5)記載の方法や、(7)アレルゲンが、卵アレルゲン、乳アレルゲン、小麦アレルゲン、そばアレルゲン、落花生アレルゲンからなる群から選ばれる1種又は2種以上のアレルゲンであることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか記載の方法に関する。
本発明によると、アレルギー症状を呈していた母親から出産した新生児が、出生後6ヶ月以内にアレルギーを発症するか否かを臍帯血で予測する方法や、卵や牛乳等の特定のアレルゲンに対して1歳未満でアレルギーを発症し、その後に食物除去療法や減感作療法などのアレルギー治療を受けている幼児のアレルギー症状の改善・治療効果の程度、例えばアレルギー増悪過程にあるのか、治癒過程にあるのか、完治したかを医者が的確に判断する上での客観的データを提供したり、予測する検査方法を提供することができる。さらに、本発明の検査結果と、従来のアレルギーの原因物質を特定するデータとを合わせることで、アレルギーの原因物質の特定も格段にその精度を増すことが期待できる。また、現在行われている食物負荷試験は、医師の管理の下で入院して実施しなければアナフィラキシーショック等の危険が伴う試験であるが、そのリスクを予め評価する方法としても利用することができる。このように、本発明の方法は、臍帯血でアレルギーの発症を予測して、授乳中の母親の食事に含まれるアレレギー原因物質に関する指導を可能にしたり、乳幼児の食物負荷試験を行う必要性の判定や、リスクを予め評価して実施の可否を判定する検査方法としてもきわめて有用である。
DLCコーティングチップを用いたアレルゲン反応性抗体の検出法のプロトコールを示す。 臍帯血中の抗原特異的IgE量と、生後6か月以内に卵白に対しアレルギー症状を発症した乳児(有症群)と、発症しなかった乳児(無症候群)の相関関係。抗原は、卵由来抗原のオボアルブミン、オボムコイド、コンアルブミンと全卵白(Egg white)で、これらの抗原に対するIgE特異抗体量を測定した結果を示す。 臍帯血中の抗原特異的IgA量と、生後6か月以内に卵白に対しアレルギー症状を発症した乳児(有症群)と、発症しなかった乳児(無症候群)の相関関係。抗原は、卵由来抗原のオボアルブミン、オボムコイド、コンアルブミンと全卵白(Egg white) で、これらの抗原に対するIgA特異抗体量を測定した結果を示す。 食物負荷陽性群の被検者と食物負荷陰性群の被検者の唾液及び血清を用いて測定した、オボムコイドに対する、唾液の抗原特異的sIgA量と、血清の特異的IgE、IgG、IgA、IgG1、及びIgG4量の測定値を示す。 食物負荷陽性群の被検者と食物負荷陰性群の被検者との唾液及び血清を用いて測定した、卵白に対する、唾液の抗原特異的sIgA量と、血清の特異的IgE、IgG、IgA、IgG1、及びIgG4量の測定値を示す。
本発明の予測方法としては、アレルゲンに対する臍帯血中のIgAを測定し、あらかじめ作成した判定評価スコアに基づき、乳児の前記アレルゲンに対するアレルギー発症を予測する方法であれば特に制限されず、また本発明の検査方法としては、特定のアレルゲンに対して1歳未満でアレルギーを発症したアレルギー発症児の前記アレルゲンに対するsIgAを測定し、あらかじめ作成した判定評価スコアに基づき、幼児のアレルギー症状の改善の程度を検査する方法であれば特に制限されず、上記臍帯血中のIgAやsIgAの測定には、前述の特開2006−267058号公報や、特開2006−267063号公報や、国際公開第2008/111281号パンフレットに開示されているアレルゲン判定DLCコーティングチップを好適に用いることができる。
上記臍帯血を採取する新生児としては、出産前にアレルギー症状を呈していた母親から出生した新生児が、アレルギー発症を予測しうる本発明の効果を十分享受しうる点で好ましい。例えば、母親が卵アレルゲンに対して過去にアレルギー症状を呈している場合であって、新生児に卵アレルゲンに対するアレルギー発症が予想されたとき、母親が卵摂取を控えることにより乳児期のアレルギー発症を抑制しうることが期待できる。
本発明の予測方法において、判定の基準となる判定評価スコアをあらかじめ作成するには、生後約6ヶ月の乳児のアレルギー症状診断やIgE陽性テスト等を実施し、アレルギーを発症している乳児における臍帯血と、アレルギーを発症していない乳児における臍帯血のIgAの測定結果を統計処理し、危険率0.05の確率でアレルギーを発症しないIgA値(スコア3)、危険率0.05の確率でアレルギー発症を持続するIgA値(スコア1)、危険率0.05の確率で治癒への移行期でアレルギー症状を伴うIgA値(スコア2)をあらかじめ設定することにより行うことができる。例えば、臍帯血のオボアルブミン特異的IgA値が、0.029±0.012BU/mL以上に上昇していると、危険率0.05の確率でアレルギーを発症せず(スコア3)、0.014±0.010BU/mL以下では危険率0.05の確率でアレルギーを発症する(スコア1)、0.014−0.029BU/mLでは、危険率0.05の確率で治癒への移行期でアレルギー症状を伴う(スコア2)と予想することができる。
上記特定のアレルゲンに対して1歳未満でアレルギーを発症したアレルギー発症児としては、食物除去療法や減感作療法などのアレルギー治療を受けている幼児が、アレルギー症状の改善・治療効果の程度、例えばアレルギー増悪過程にあるのか、治癒過程にあるのか、完治したのかを、医者がアレルギーの進行状況を的確に診断するための客観的データとしうる点で好ましい。
上記sIgAとしては、唾液、涙液、鼻汁、尿等の非血液成分中のsIgAを例示することができるが、中でも唾液中のsIgAが好ましい。また、唾液等は前処理することが特に好ましく、かかる前処理としては、唾液等の体液の吸光波長600nmにおける濁度が25度以下、好ましくは20度以下、より好ましくは15度以下とすることが測定感度を向上させる上で望ましく、具体的には、遠沈処理でもよいが、低蛋白吸着性フィルターで加圧ろ過処理する方法が特に好ましい。低蛋白吸着性フィルターでの加圧ろ過により、唾液、涙液、鼻汁等の体液の吸光波長600nmにおける濁度を25度以下とし、前記のアレルゲン判定DLCコーティングチップに適用して、非特異的な吸着を抑制して高感度で各種アレルゲンを解析することができる。低蛋白吸着性フィルターとしては、市販の製品を使用することができ、例えば、MILLEX GV Filter Unit 0.22μmフィルター(MILLIPORE社製)、フィルターインサート<サイズ0.2>(TreffLab社製)、SEITZデプスフィルター(日本ポール株式会社製)を例示することができる。また、これら検体の希釈液に塩化カリウム(KCl)含有液を用いることで、バックグラウンドを低下させ、相対的に蛍光強度や発色強度を上昇させることができ、測定感度を向上させることができる。塩化カリウムの濃度としては、0.1〜0.5M、好ましくは0.2〜0.4Mである。
本発明の検査方法において、判定の基準となる判定評価スコアをあらかじめ作成するには、1歳未満でアレルギーを発症したアレルギー発症児に対して、アレルゲン摂取の負荷テストを実施し、即時型・遅発型アレルギー症状を起こした陽性幼児と、アレルギー反応を示さなかった陰性におけるsIgAの測定結果を統計処理し、危険率0.05の確率でアレルギーを発症しないsIgA値(スコア3)、危険率0.05の確率でアレルギー発症を持続するsIgA値(スコア1)、危険率0.05の確率で治癒への移行期でアレルギー症状を伴うsIgA値(スコア2)をあらかじめ設定することにより行うことができる。例えば、オボムコイドの抗原特異的IgA値が、0.056±0.007BU/mL以上にまで上昇すると危険率0.05の確率でアレルギーを発症せず(スコア3)、0.032±0.021BU/mL以下では危険率0.05の確率でアレルギーは持続した(スコア1)、0.032−0.056BU/mLの範囲では、アレルギーは治癒への移行期であるが、危険率0.05の確率でアレルギー症状を伴った(スコア2)と判定することができる。
上記アレルゲンとしては、免疫原性を有するものであれば特に制限されず、卵類、牛乳類、牛肉等の肉類、サケ、マグロ等の魚類、エビ、カニ等の甲殻類及び軟体動物類、穀類、豆類及びナッツ類、果実類、野菜類、ビール酵母、ゼラチンなどの食物アレルゲンを好適に例示することができ、中でも乳アレルゲンの主要成分としてのαs1−カゼイン、αs2−カゼイン、β−カゼイン、κ−カゼイン、α−ラクトアルブミンや、ホエーアレルゲンの主要成分であるβ−ラクトグロブリンや、卵白アレルゲンの主要成分としてのオボムコイド、オボアルブミン、コンアルブミンや卵黄アレルゲン、小麦アレルゲンの主要成分としてのグリアジンや、そばの主要タンパク質である分子量24kDaと76kDaのタンパク質や、落花生の主要タンパク質であるAra h1を具体的に例示することができる。
また、アレルゲンペプチドとして、糖鎖修飾ペプチド、リン酸化ペプチド、アシール化ペプチド、アセチル化ペプチド、メチル化ペプチド、ユビキチン化ペプチド等の化学修飾ペプチドを用いることもでき、かかる化学修飾ペプチドは、天然の化学修飾ペプチドであっても、人為的な化学修飾ペプチドであってもよい。さらに、アレルゲンエピトープを含むペプチドとして、MHCクラスII分子に結合する7〜15アミノ酸サイズ等のペプチド部分のN末端側及び/又はC末端側に少なくとも2個以上のアミノ酸が付加されたエピトープ含有ペプチドを用いると、患者抗体と数倍から数十倍高感度に反応する点で好ましい。かかるMHCクラスII分子に結合するペプチド部分のN末端側及び/又はC末端側に少なくとも2個以上のアミノ酸が付加されたエピトープ含有ペプチド等のアレルゲンエピトープを含むペプチドは、ペプチド合成により作製することもできるが、アレルゲンのエピトープを含むプロテアーゼ分解ペプチドとして作製することもできる。かかるプロテアーゼとしては、トリプシン、キモトリプシン、カテプシン、リジルエンドペプチダーゼを挙げることができる。特に、アレルゲンが食物アレルゲンのとき、トリプシン分解ペプチドをプロテアーゼ分解ペプチドとして好適に例示することができる。
上記化学修飾したダイヤモンド/DLCコーティングチップとしては、シリコン、ガラス、ステンレス、プラスチック等の基板上にダイヤモンド又はダイヤモンドライクカーボン(DLC)をコーティングしたダイヤモンド/DLCコーティングチップに、アレルゲンのアレルゲンエピトープ又はアレルゲンエピトープを含むペプチド(以下、「アレルゲンペプチド」ということがある)をカップリング反応等により結合させることができるような化学修飾がなされたダイヤモンド/DLCコーティングチップであれば特に制限されず、例えば、かかる化学修飾としては、ダイヤモンド/DLCコーティングチップ表面を塩素処理、アンモニア処理、ジカルボン酸処理等による塩素化、アミノ化、カルボキシル化等がなされたダイヤモンド/DLCコーティングチップを例示することができるが、中でも、カルボキシル化ダイヤモンド/DLCコーティングチップを好適に例示することができる。
上記化学修飾したダイヤモンド/DLCコーティングチップは、活性化試薬により活性化処理に付される。例えば、カルボキシル化ダイヤモンド/DLCコーティングチップにアレルゲンのアレルゲンペプチドを固定化させる方法として、基盤表面に導入されたカルボキシル基(−COOH基)を利用し、アミノ基(−NH基)を持つアレルゲンペプチドを1-Etyl-3-(3-dimethylamino Propyl)-carbodiimide, hydrochloride(WSCD・HCl)やN-Hydroxy-succinimide(NHS)やその他の化学架橋剤を用いて共有結合により固定化させることが好ましい。
上記活性化処理後のチップはMilliQ水(超純水)で洗浄され、ペプチドのカップリング反応(固定化操作)が行われるが、このペプチドの固定化操作の前処理として、十分な除湿、乾燥がペプチドの固定化量と固定化量の均一性に重要な因子であり、そのため真空デシケーターで1時間減圧乾燥処理することが好ましい。また、ペプチドのカップリング反応は、活性化処理後のチップ、好ましくは乾燥処理が施されたチップにアレルゲンペプチド溶液をスポッティングして、例えば37℃で3時間インキュベーションすることにより行うことができるが、かかるアレルゲンペプチド溶液として、ジメチルスルホキシド(DMSO)又はポリエチレングリコール(PEG)を含む溶液にアレルゲンペプチドを溶解した溶液を用いると、抗体の結合量が増加する点で好ましい。アレルゲンペプチドのカップリング反応後に、BSA等を用いた未反応活性基のブロッキング操作を行うことにより、本発明に好適に用いることができるアレルゲン(エピトープ)判定DLCコーティングチップを作製することができる。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない
(臍帯血を用いた6ヶ月乳児のアレルギー発症予測診断)
[検体採取]
生後6ヶ月検診時のアレルギー診断結果により特定された、出生後6ヶ月までに卵白に対してアレルギーを発症した乳児13名と、発症しなかった乳児7名における臍帯血中の卵白アレルゲン特異的IgE及びIgAの比較を行った。新生児の臍帯血とその母体の血液(血清)が、徳島大学の倫理委員会の承認と健康保険鳴門病院(徳島県)の倫理委員会の承認の上で、十分なインフォームドコンセントのもとに承認の得られた臨床検体として、健康保険鳴門病院小児科の市岡隆男先生及び産婦人科の鎌田正晴先生から供与された。このうち、生後半年以内に再来院した乳児のアレルギー発症の有無の確認を確認した。
生後半年以内に再来院した乳児20名のアレルギー発症の有無が確認された。卵白に対するIgE抗体を有する乳児の臍帯血13検体と、卵白に対するIgE抗体を有しない乳児の臍帯血の各検体について、臍帯血中のTotalIgE量がCAP−RASTで測定され、臍帯血中と母体血中のTotalIgA量がELISA法で測定された。結果を表1に示す。出生後6カ月までにアトピー等のアレルギー症状を確認されたのは13名で、かかる乳児の出生時の乳児臍帯血13検体において卵白に対するIgE抗体が検出された(うち6検体は、牛乳に対するIgE抗体も検出された)。また両親にアレルギーの既往歴がありアレルギーの発症が危惧された乳児であるが、出生後6カ月までにアレルギー症状を発症しなかった乳児は7名であった。
[測定手順]
アレルゲンとしての抗原タンパク質として、オボアルブミン(Sigma社製)、オボムコイド(Sigma社製)、コンアルブミン(Sigma社製)、及び全卵白(Egg White)(徳島大学製)を用い、臍帯血血清を2倍希釈して用いた。
[アレルゲンのカップリング反応]
活性化処理済のジーンスライド(登録商標)(東洋鋼鈑株式会社製)を購入し、基本バッファー(PBS pH7.5、0.1M HEPES pH8.0、0.1M CAPS pH10.0、0.1M CHES pH9.0等のグッドバッファー若しくはホウ酸バッファー)に、5〜30%DMSO又は5〜30%PEG300を添加した溶液に、抗原タンパク質としてオボムコイド(Sigma社製)及び全卵白(徳島大学製)を0.25〜1.0mg/mLの濃度に溶解して、抗原タンパク質溶液を調製した。かかる調製された各々の抗原タンパク質溶液を384穴プレート平底(CORMING社製)に分注し、マイクロアレイ作製装置(GeneMachines OmniGrid Accent、NIPPN TechnoCluster,Inc社製)により、上記ジーンスライド上に3nLスポット後、遮光下で37℃にて3時間乾燥し、抗原タンパク質を固定化した。
[未反応活性基のブロッキング反応]
上記抗原タンパク質と標準溶液とが固定化されたジーンスライドを、反応プレート(SANPLATEC社製)に移し、ブロッキング試薬(10mg/mL BSA,0.1M Glycine,25% NanoBio Blocker PBS溶液)を20μL/反応穴槽(ウェル)に添加し、遮光下冷蔵(4℃)にて静置し終夜反応させた。
[アレルゲン特異抗体との捕捉反応]
上記ブロッキング試薬をアスピレーター(VARIABLE SPEED PUMP、BIORAD社製)で吸引除去後、再度反応プレートに移し、洗浄液(50mM TTBS)を8mL添加後、5分間ゆらした後にアスピレーターで洗浄液を吸引除去した。同様に3回洗浄した後、さらに精製水(MilliQ水)で2回洗浄した。遠心機(Allegra(商標)、X-22R Centrifuge (BECKMAN COULTER社製))で、遠心水滴除去(2000rpmにて1分間)して、ジーンスライド表面の水滴を除去した。希釈液(10mg/mL BSA、0.05%Tween20、0.3MKClのPBS溶液)で適宜希釈して、希釈一次抗体液を調製し、かかる希釈一次抗体液を、20μL/反応穴槽に添加し、遮光下37℃にて1時間静置した。
また、段階希釈(0.24〜3.12unit/mL)した、IgE,IgG,IgA,IgG1,IgG4標準抗体として、WHOのIgG、IgA、IgM混合標準液(IgG1U=80.4μg,IgA1U=14.2μg)であるHuman Serum Immunoglobulins G,A and M (67/086)(NIBSC社製)、及び、WHOのIgE標準抗体(1IU=2.3ng)であるHuman Serum Immunoglobulins E(75/502) (NIBSC社製)を同様の方法で上記ジーンスライド上にスポット後固定化した。
[二次抗体との反応]
上記の操作で得られた希釈検体液(一次抗体)をアスピレーター(VARIABLE SPEED PUMP、BIORAD社製)で吸引除去後、ジーンスライドを洗浄用ケースに移し、洗浄液(50mM TTBS)を8mL添加後、Double−Shaker NR3を用いて洗浄作業を5分間行い、洗浄液を吸引除去した。同様に合計3回洗浄した後、さらに精製水(MilliQ水)を加えて1分間2回洗浄した。上記遠心機で遠心水滴除去(2000rpmにて1分間)してジーンスライド表面の水滴を除去した。次に蛍光標識した二次抗体(HiLyte Fluor(商標) 555 conjugated anti human IgE, HiLyte Fluor(商標)555 conjugated anti human IgA, HiLyte Fluor(登録商標)555 conjugated anti human IgG)を、抗体希釈液(10mg/mL BSA、0.05% Tween20、0.3M KClのPBS溶液)で1.5〜6μg/mLに希釈して、二次抗体液を調製した。かかる二次抗体液を、スライド上の各反応穴槽に20μLずつ分注し、遮光条件下にてanti humanIgEは遮光下37℃にて30分、IgA、IgG、IgG1、IgG4は遮光下37℃にて1時間静置した。
[抗原に捕捉された抗体の検出]
上記希釈二次抗体液をアスピレーターで吸引除去後、ジーンスライドを洗浄用ケースに入れDouble−ShakerNR3(TAITEC社製)を用いて洗浄作業を5分間2回繰返し行った。その後、精製水(MilliQ水)を加え1分間3回すすぎ、上記遠心機で水滴を除去し乾燥させた。蛍光スキャナー(FLA−8000、富士フィルム社製)で蛍光強度を測定(Ex:532nm、Em:570nm)し、各チップから得られたスポットの蛍光強度の数値化を行った。測定単位は、抗原に結合した抗体量をBinding Unit (BU)として、チップに固定化した既知の濃度のそれぞれの標準抗体の蛍光強度の検量線から測定して表した。IgEのBUをBUe、IgGのBUをBUg、IgAのBUをBUaとして表記した。なお用いたIgE標準抗体は、WHOのIgE標準抗体 1IU=2.3ngを用い、IgGとIgAについては、WHOのIgG、IgA、IgM混合標準液を用いたが、各々の抗体量は、IgG1U=80.4μg,IgA1U=14.2μgであった。なお、IgGについては、母子間で移行することが明らかなため判定の参考にしなかった。以上のアレルゲン反応性抗体の検出例のプロトコールを図1に示す。
[オボアルブミン、オボムコイド、コンアルブミン特異的抗体量比較]
有症群と無症候群間のアレルゲン特異的IgEとIgA抗体量についてt検定を行い、両群間での有意差を検討した。生後6か月以内に卵白に対しアレルギー症状を発症した乳児(有症群)の被検者と、発症しなかった乳児(無症候群)の被検者の、臍帯血血清を2倍希釈し、アレルギータンパクチップで、卵由来抗原のオボアルブミン、オボムコイド、コンアルブミンと全卵白(Egg white)抗原に対するIgEとIgAの特異抗体量を測定した結果を図2に示す。縦軸はBUe/mL(IgE Binding Unit)で表した。表1に示された有症群と無症候群ごとに、その平均値をグラフに表した。有意差検定(t検定)は、p <0.05をもって有意差ありと判断した。IgE抗体の場合、すべての抗原について両群間で有意差は見られなかった(p>0.05)。IgEは母子移行しない抗体であることから、臍帯血中のIgE抗体は、胎児期に胎児が産生したと考えられる。
生後6か月以内に卵白に対しアレルギー症状を発症した乳児(有症群)の被検者と、発症しなかった乳児(無症候群)の被検者とに分け、臍帯血血清を2倍希釈し、アレルギータンパクチップで、卵由来抗原のオボアルブミン、オボムコイド、コンアルブミンと全卵白抗原(Egg white)に対するIgA特異抗体量を測定した結果を図3に示す。縦軸はBUa/mL(IgABinding Unit×10−2)で表した。表1に示された有症群と無症候群ごとに、その平均値をグラフに表した。有意差検定(t検定)は、p <0.05をもって有意差ありと判断した。
[判定評価スコア]
臍帯血のオボアルブミン特異的IgA値が0.029±0.012BUa/mL以上に上昇している時、アレルギーは危険率0.05の確率で発症せず(スコア3)、0.014±0.010BUa/mL以下ではアレルギーは危険率0.05の確率でアレルギーは持続した(スコア1)。IgA値が0.014−0.029BUa/mLでは、アレルギーは危険率0.05の確率で治癒への移行期でアレルギー症状を伴った(スコア2)。
臍帯血のコンアルブミン特異的IgA値が0.032±0.008BUa/mL以上に上昇している時、アレルギーは危険率0.05の確率で発症せず(スコア3)、0.003±0.002BUa/mL以下ではアレルギーは危険率0.05の確率でアレルギーは持続する(スコアー1)、IgA値が0.032−0.003BUa/mLでは、アレルギーは危険率0.05の確率で治癒への移行期でアレルギー症状を伴う(スコア2)。
臍帯血のオボムコイド特異的IgA値が0.015±0.008BUa/mL以上に上昇している時、アレルギーは危険率0.05の確率で発症せず(スコア3)、0.005±0.003BUa/mL以下ではアレルギーは危険率0.05の確率でアレルギーは持続する(スコア1)、IgA値が0.015−0.005BUa/mLでは、アレルギーは危険率0.05の確率で治癒への移行期でアレルギー症状を伴う(スコア2)。
IgA抗体の場合、複数抗原が混入している卵白(Egg white)以外の全ての抗原で、無症候群のIgA抗体量が有症群に比べて有意に高く(p <0.05)、臍帯血中のIgA抗体量が出生時に高いレベルにある乳児では、生後6ヶ月までのアレルギーの発症が抑制されることが示された。直接アレルギーの原因物質にさらされることの無い胎児で、しかも母子移行しないIgAの場合、臍帯血に検出されたIgAは、胎盤を通過した抗原に反応して胎児が産生した抗体と考えられる。この場合新生児の体内で作られる抗原特異的IgA量が多い程、アレルギー発症への抵抗性が獲得していることを示す。したがって、出生時の臍帯血のアレルゲン特異的IgAの測定で、乳児のアレルギーの発症予測が可能になることがわかった。また臍帯血のアレルゲン特異的IgE,IgAの値から、小児の腸管免疫が十分発達するまでの間、授乳期の母親の食事からアレルゲン物質を除去することで、アレルギーを予防することが可能となる。具体的には、臍帯血の抗原特異的IgA値の低い乳児は、アレルギー発症への抵抗性が獲得されていないことから、母乳を介してアレルゲン物質が乳児に移行しないように、母親の食物指導をすることで、乳児のアレルギーの発症が防げるものと思われる。
(sIgA測定による幼児のアレルギー症状の改善程度の判定)
[検体採取]
生後12ヶ月以下において卵に対してアレルギー症状を示し、除去食療法や抗原による減感作療法の治療を受けており、ゆで卵を用いた食物負荷試験が実施可能と認定された、9ヶ月〜10歳7ヶ月の小児アレルギー患者34名を被検者として、アレルゲン特異抗体量測定及びゆで卵について食物負荷試験を行った。被検者の血清及び唾液が、徳島大学の倫理委員会の承認と健康保険鳴門病院(徳島県)の倫理委員会の承認の上で、十分なインフォームドコンセントのもとに承認の得られた臨床検体として、健康保険鳴門病院小児科の市岡隆男先生から供与され、アレルゲン判定DLCコーティングチップによる測定に供された。血清についてはアレルゲン特異的IgE、IgG、IgA、IgG1、及びIgG4抗体量を測定し、唾液についてはアレルゲン特異的sIgAを測定した。また、ゆで卵について食物負荷試験の結果に基づいて、アレルギー症状を示した患者群と、アレルギー症状を示さなかった患者群とに分類し、各群の各アレルゲン特異抗体量の比較検討を行った。
[ゆで卵を用いた食物負荷試験]
上記34名の被検者について、健康保険鳴門病院小児科にて、固くゆでた卵を経口摂取させることにより、食物負荷試験を行った。まず、卵黄1/16を経口摂取させ、20分後に湿疹、かゆみ等の即時型アレルギー症状が出ないかどうか確認した。卵黄1/16摂取後に症状が出ない場合、その翌日全卵1/16を経口摂取させ、30分後の様子を見て即時型アレルギー症状が出ないかどうか確認した。全卵1/16摂取後に症状が出ない場合、さらにその翌日卵黄1/8を経口摂取させ、30分後の様子を見て即時型アレルギー症状が出ないかどうか確認した。卵黄1/8経口摂取後に症状が出ない場合、その翌日全卵1/8を経口摂取させた。同様の手順で、全卵1/4、1/2まで毎日繰り返し、いずれかの時点で即時型アレルギー症状が見られた場合は、その時点で食物負荷試験を中止し、卵に対してアレルギー反応陽性と判断した。全卵1/2を摂取しても症状が出ない場合は、卵に対してアレルギー反応陰性、又は、卵アレルゲンに対して耐性になったと判断した。途中、遅延型(遅発型)アレルギー症状が見られた場合も食物負荷試験を中止し、卵に対してアレルギー反応陽性を示すと判断した。結果を以下の表1に示す。ゆで卵[卵黄・全卵]の食物負荷試験により、上記34名の被検者は、即時型・遅発型アレルギー症状を起こした陽性患者(17名)と、アレルギー反応を示さなかった陰性患者(17名)に分類された。
[アレルゲン特異抗体量測定]
患者(被験者)の食物負荷試験等の臨床症状データをブラインドにして、一律に血液と唾液の抗体価の測定を行った。なお上記食物負荷試験は、ゆで卵について行ったが、アレルゲン特異抗体量測定においては、検出対象となるアレルゲンとしては全卵白(徳島大学)と、加熱により構造が変化しにくいオボムコイド(Sigma社製)を選択し、加熱により抗原性の変化するオボアルブミンは検査対象としなかった。
[アレルゲンのカップリング反応]
活性化処理済のジーンスライド(登録商標)(東洋鋼鈑株式会社製)を購入し、基本バッファー(PBS pH7.5、0.1M HEPES pH8.0、0.1M CAPS pH10.0、0.1M CHES pH9.0等のグッドバッファー若しくはホウ酸バッファー)に、5〜30%DMSO又は5〜30%PEG300を添加した溶液に、抗原タンパク質としてオボムコイド(Sigma社製)及び全卵白(徳島大学製)を0.25〜1.0mg/mLの濃度に溶解して、抗原タンパク質溶液を調製した。かかる調製された各々の抗原タンパク質溶液を384穴プレート平底(CORMING社製)に分注し、マイクロアレイ作製装置(GeneMachines OmniGrid Accent、NIPPN TechnoCluster,Inc社製)により、上記ジーンスライド上に3nLスポット後、遮光下で37℃にて3時間乾燥し、抗原タンパク質を固定化した。
[未反応活性基のブロッキング反応]
上記抗原タンパク質と標準溶液とが固定化されたジーンスライドを、反応プレート(SANPLATEC社製)に移し、ブロッキング試薬(10mg/mL BSA,0.1M Glycine,25% NanoBio Blocker PBS溶液)を20μL/反応穴槽(ウェル)に添加し、遮光下冷蔵(4℃)にて静置し終夜反応させた。
[アレルゲン特異抗体との捕捉反応]
上記ブロッキング試薬をアスピレーター(VARIABLE SPEED PUMP、BIORAD社製)で吸引除去後、再度反応プレートに移し、洗浄液(50mM TTBS)を8mL添加後、5分間ゆらした後にアスピレーターで洗浄液を吸引除去した。同様に3回洗浄した後、さらに精製水(MilliQ水)で2回洗浄した。遠心機(Allegra(商標)、X-22R Centrifuge (BECKMAN COULTER社製))で、遠心水滴除去(2000rpmにて1分間)して、ジーンスライド表面の水滴を除去した。34名の小児アレルギー患者の血清及び唾液を検体として、希釈液(10mg/mL BSA、0.05% Tween20、0.3M KClのPBS溶液)で5〜50倍程度に適宜希釈して、希釈一次抗体液を調製し、かかる希釈一次抗体液を、20μL/反応穴槽に添加し、遮光下37℃にて1時間静置した。
また、段階希釈(0.24〜3.12unit/mL)した、IgE,IgG,IgA,IgG1,IgG4標準抗体として、WHOのIgG、IgA、IgM混合標準液(IgG1U=80.4μg,IgA1U=14.2μg)であるHuman Serum Immunoglobulins G,A and M (67/086)(NIBSC社製)、及び、WHOのIgE標準抗体(1IU=2.3ng)であるHuman Serum Immunoglobulins E(75/502) (NIBSC社製)を同様の方法で上記ジーンスライド上にスポット後固定化した。
[二次抗体との反応]
一時間静置後の上記希釈一次抗体液をアスピレーターで吸引除去後、ジーンスライドを反応プレートに移し、洗浄液(50mM TTBS−(50mM Tris-HCl,150mM NaCl containing 0.05% Tween20 (pH7.5)))を8mL添加後、5分間ゆらした後に、洗浄液を吸引除去した。同様に3回洗浄した後、さらに精製水(MilliQ水)で2回洗浄した。上記遠心機で遠心水滴除去(2000rpmにて1分間)してジーンスライド表面の水滴を除去した。二次抗体(Goat anti-human IgE(Millipore社製)、Mouse anti-human IgA(ZYMED社製)、Mouse anti-human IgG (ZYMED社製)、Mouse anti-human IgG1 (ZYMED社製)、Mouse anti-human IgG4 (ZYMED社製))を、希釈液(10mg/mL BSA、0.05% Tween20、0.3M KClのPBS溶液)で1.5〜6g/mLに希釈して、希釈二次抗体液を調製し、かかる希釈二次抗体液を、20μL/反応穴槽に添加し、遮光下37℃にて1時間静置した。
[抗原に捕捉された抗体の検出]
上記希釈二次抗体液をアスピレーターで吸引除去後、再度ジーンスライドを反応プレートに移し、50mM TTBSを8mL添加後、5分間ゆらした後に、洗浄液を吸引除去した。同様に3回洗浄した後、さらに精製水(MilliQ水)で2回洗浄した。上記遠心機で遠心水滴除去(2000rpmにて1分間)してスライド表面の水滴を除去した。蛍光スキャナー(FLA−8000、富士フィルム社製)で蛍光強度を測定(Ex:532nm、Em:570nm)し、各チップから得られたスポットの蛍光強度の数値化を行った。測定単位は、抗原に結合した抗体量をBinding Unit (BU)として、チップに固定化した上記標準抗体それぞれの既知の濃度の蛍光強度の検量線から測定して表した。IgEのBUをBUe、IgGのBUをBUg、IgG1のBUをBUg、IgG4のBUをBUg、IgAのBUをBUaとして表記した。
[オボムコイド特異的抗体量比較]
食物負荷試験において分類された、陽性の患者17名(食物負荷陽性群)と、陰性の患者17名(食物負荷陰性群)について、オボムコイド特異的抗体量及び卵白特異的抗体量の比較検討を行った。食物負荷陽性群の被検者と食物負荷陰性群の被検者の唾液及び血清を用いて測定した、オボムコイドに対する、唾液のsIgA量と、血清の特異的IgE、IgG、IgA、IgG1、及びIgG4量との平均値を図4に示す。各群の有意差検定(t検定)を行い、p<0.05をもって有意差のあるものと評価した。血清の特異的IgE、IgG、IgA、IgG1、及びIgG4量においては、食物負荷陽性群と食物負荷陰性群との間に有意差のある抗体種はみられなかったが、唾液のsIgAではp=0.00006をもって明らかな有意差が認められた。食物負荷試験において陰性と判断された被検者、即ち、卵アレルゲンに耐性になった患者群(被検者)は、血液の各種抗体価に比較して、唾液中のsIgA値が高いことが示された。
[判定評価スコア]
また、オボムコイドの抗原特異的sIgA値は0.056±0.007BUa/mL以上にまで上昇するとアレルギーは危険率0.05の確率で発症せず(スコア3)、0.032±0.021BUa/mL以下ではアレルギーは危険率0.05の確率で持続した(スコア1)。sIgA値が0.032−0.056BUa/mLの範囲では、アレルギーは治癒への移行期であるが、危険率0.05の確率でアレルギー症状を伴った(スコア2)。
[卵白特異的抗体量比較]
食物負荷陽性群の被検者と食物負荷陰性群の被検者との唾液及び血清を用いて測定した、卵白に対する、唾液のsIgA量と、血清の特異的IgE、IgG、IgA、IgG1、及びIgG4量との平均値を図5に示す。各群の有意差検定(t検定)を行い、p<0.05をもって有意差のあるものと評価した。血清の特異的IgE、IgG、IgA、IgG1、及びIgG4量においては、食物負荷陽性群と食物負荷陰性群との間に有意差のある抗体種はみられなかったが、唾液のsIgAではp=0.0045をもって明らかな有意差が認められた。食物負荷試験において陰性と判断された被検者、即ち、卵アレルゲンに耐性になった患者群は、血液の各種抗体価に比較して、唾液中のsIgA値が高いことが示された。
[判定評価スコア]
また、唾液中の卵白抗原特異的sIgA値が0.069±0.021BUa/mL以上にまで上昇するとアレルギーは危険率0.05の確率で発症せず(スコア3)、0.045±0.024BUa/mL以下ではアレルギーは危険率0.05の確率で持続した(スコア1)。sIgA値が0.045−0.069BUa/mLの範囲では、アレルギーは治癒への移行期ではあるが、危険率0.05の確率でアレルギー症状を伴った(スコア2)。
以上の結果から、生後6ヶ月以後のアレルギー患児の唾液sIgAがアレルギー進行状況の診断と、食物除去療法、減感作療法等のアレルギー治療の判定に有用とであると判断した。

Claims (7)

  1. アレルゲンに対する臍帯血中のIgAを測定し、あらかじめ作成した判定評価スコアに基づき、乳児の前記アレルゲンに対するアレルギー発症を予測する方法。
  2. あらかじめ作成した判定評価スコアに基づき、危険率0.05の確率でアレルギーを発症しない(スコア3)乳児、危険率0.05の確率でアレルギーを発症する(スコア1)乳児、又は、危険率0.05の確率で治癒への移行期でアレルギー症状を伴う(スコア2)乳児であるかを予測することを特徴とする請求項1記載の方法。
  3. 乳児が、出産前にアレルギー症状を呈していた母親の乳児であることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
  4. 特定のアレルゲンに対して1歳未満でアレルギーを発症したアレルギー発症児の前記アレルゲンに対する分泌型IgA(sIgA)を測定し、あらかじめ作成した判定評価スコアに基づき、幼児のアレルギー症状の改善の程度を検査する方法。
  5. あらかじめ作成した判定評価スコアに基づき、アレルギーを危険率0.05の確率でアレルギーを発症しない(スコア3)幼児、危険率0.05の確率でアレルギー発症を持続する(スコア1)幼児、又は、危険率0.05の確率で治癒への移行期でアレルギー症状を伴う(スコア2)幼児であるかを判定することを特徴とする請求項4記載の方法。
  6. 幼児が、アレルギー治療を受けている幼児であることを特徴とする請求項4又は5記載の方法。
  7. アレルゲンが、卵アレルゲン、乳アレルゲン、小麦アレルゲン、そばアレルゲン、落花生アレルゲンからなる群から選ばれる1種又は2種以上のアレルゲンであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の方法。
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