JP2011055764A - イネ変異体、澱粉の製造方法、澱粉、及びイネ変異体の製造方法 - Google Patents

イネ変異体、澱粉の製造方法、澱粉、及びイネ変異体の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】イネスターチシンターゼの変異した新規イネ変異体を提供する。
【解決手段】
イネスターチシンターゼIIIa型(SSIIIa)と、イネスターチシンターゼIVb型(SSIVb)の遺伝子座が劣性ホモであり、遺伝的に固定されているイネ変異体を得る。このイネ変異体は、SSIIIa活性が野生型に比べて低下することを特徴とする。この上で、野生型や親系統と比べて、種子重量が8割以上維持され、農業形質が維持することを特徴とするイネ変異体を得る。また、このイネ変異体により生成される澱粉は、野生型イネやSSIIIaの活性低下に起因する親系統イネを用いて製造される澱粉とは形状が異なる。
【選択図】図2

Description

本発明は、イネ変異体、澱粉の製造方法、澱粉、及びイネ変異体の製造方法に係り、特にイネスターチシンターゼに変異をもったイネ変異体、澱粉の製造方法、澱粉、及びイネ変異体の製造方法に関する。
澱粉は不溶性であり、植物に特有の貯蔵多糖である。また、地球上のほとんどの生物が炭水化物源として、澱粉を利用している。
澱粉は、グルコースのα1,4による直鎖およびα1,6グルコシド結合による枝分かれ構造を含むグルコースポリマーである。
また、澱粉は、主として直鎖からなるアミロースと枝分かれ構造をもつアミロペクチンの高分子の集合体である。
澱粉の生合成には、4種類の酵素が関与している。この酵素としては、基質供給酵素であるADPグルコースピロホスホリラーゼ(AGPase)、α1,4グルコシド結合を伸長するスターチシンターゼ(SS)、α1,6グルコシド結合からなる枝分かれ構造を形成する枝作り酵素(BE)、アミロペクチンの特徴であるクラスター構造を維持するためにBEが付けた余分な枝をトリミングする枝切り酵素(DBE)が知られている。
しかしながら、澱粉生合成に関与する酵素は他にもあると考えられている(非特許文献1)。
このように、植物の澱粉生合成には少なくとも4種類の酵素が関与している。
加えて、高等植物の場合、これらの酵素には多数のアイソザイム、すなわち同様の酵素反応を触媒するアミノ酸配列の異なる酵素群が関与していることがわかっている。たとえば、イネには、10種類ものSS、3種類ものBE、4種類ものDBEが存在する。
近年、これらのアイソザイムは、組織特異性や、微妙な基質特異性によって、役割分担をしていることが分かってきた。
アイソザイムの機能解明は、澱粉生合成メカニズムの解明には欠かせない。このために、従来から、各アイソザイムの変異体が開発されてきた。すなわち、特定のアイソザイムが欠失した変異体の表現型を調べることで、そのアイソザイムの働きや役割を知ることができる。
たとえば、イネにおいて既に単離され、分析されている変異体には、SSI(非特許文献2、特許文献1)、SSIIa(非特許文献3、特許文献2)、SSIIIa(非特許文献4、特許文献3)、GBSSI(非特許文献5)、BEI(非特許文献6)、BEIIb(非特許文献7、特許文献2)、ISA1(非特許文献8)、PUL(非特許文献9、特許文献4)、PHO(非特許文献10)などがある。
これらの変異体は各アイソザイムの機能を明確にするだけでなく、それらが胚乳に蓄積する澱粉の構造が野生型とは異なる場合が多い。その構造の違いに伴い、独特の物性を示したり、澱粉粒の大きさ等が異なることがある。
特開2003−79260号公報 特開2005−269928号公報 特開2006−51023号公報 特開2007−20475号公報
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しかしながら、従来の澱粉生合成に関与する酵素に変異を持つイネ変異体において、イネの多数あるSSアイソザイムの中で、SSIVb遺伝子の胚乳における発現量は多くはなく、SSIVbの機能は不明であった。
このため、SSIVbが劣性のイネ変異体は、形状や性質が違う澱粉を製造するとは考えられなかった。
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の課題を解消することを課題とする。
本発明のイネ変異体は、イネスターチシンターゼIIIa型(SSIIIa)及びイネスターチシンターゼIVb型(SSIVb)の遺伝子座が劣性ホモであり、遺伝的に固定されていることを特徴とする。
本発明のイネ変異体は、更に、前記SSIIIaの活性が野生型に比べて低下したことを特徴とする。
本発明のイネ変異体は、野生型や親系統と比べて、種子重量が8割以上維持され、農業形質が維持されていることを特徴とする。
本発明の澱粉の製造方法は、前記イネ変異体を用いたことを特徴とする。
本発明の澱粉の製造方法は、前記イネ変異体の胚乳を用いたことを特徴とする。
本発明の澱粉は、前記澱粉の製造方法により製造されたことを特徴とする。
本発明の澱粉は、野生型イネや前記SSIIIaの活性低下に起因する親系統イネを用いて製造される澱粉とは形状が異なることを特徴とする。
本発明の澱粉は、前記野生型イネや前記親系統イネを用いて製造される澱粉と比べて、澱粉粒が球状であることを特徴とする。
本発明の澱粉は、前記野生型イネや前記親系統イネを用いて製造される澱粉と比べて、アミロペクチンのDP≧37、又はアミロペクチンのクラスターを連結するB2鎖より長い鎖が少ないことを特徴とする。
本発明の澱粉は、前記野生型イネや前記親系統イネを用いて製造される澱粉と比べて、糊化粘度特性が異なることを特徴とする。
本発明のイネ変異体の製造方法は、イネスターチシンターゼIIIa型(SSIIIa)変異体とイネスターチシンターゼIVb型(SSIVb)変異体との二重劣性ホモであることを特徴とする。
本発明のイネ変異体の製造方法は、前記イネスターチシンターゼIIIa型(SSIIIa)変異体のイネ及び前記イネスターチシンターゼIVb型(SSIVb)変異体のイネは、レトロトランスポゾンTos17の挿入によって得られることを特徴とする。
本発明のイネ変異体は、前記イネ変異体の製造方法により製造することを特徴とする。
本発明によれば、SSIIIaとSSIVbの両方の遺伝子座が劣性ホモであることで、SSIIIa単独の変異体、SSIVb単独の変異体、野生型とは形状や性質が違う澱粉を製造できるイネ変異体を提供することができる。
本発明の実施の形態に係るイネスターチシンターゼアイソザイムの系統樹を示す図である。 本発明の実施の形態に係るΔSSIIIa/ΔSSIVbの二重変異体(#2012、#2013)及びΔSSIIIa又ΔSSIVbであるそれらの親変異体(e1、e8、e14)とWild typeである野生型(日本晴)の完熟玄米および切片の形態を示す写真である。 本発明の実施の形態に係るΔSSIIIa/ΔSSIVb(#2012、#2013)及びそれらの親変異体(e1、e8、e14)との完熟胚乳のアミロペクチンの鎖長分布について、それぞれから野生型(日本晴)のパターンを引いた差分(ΔMole %)を示すグラフである。 本発明の実施の形態に係るΔSSIIIa/ΔSSIVb(#2013)及びそれらの親変異体(e1、e14)と野生型(日本晴)のゲル濾過パターンを示すグラフである。 本発明の実施の形態に係るΔSSIIIa/ΔSSIVb(#2012、#2013)及びそれらの親変異体(e1、e8、e14)と野生型(日本晴)の澱粉粒を走査型電子顕微鏡で観察した写真である。 本発明の実施の形態に係るΔSSIIIa/ΔSSIVb(#2013)及びそれらの親変異体(e1)と野生型(日本晴)の粒径を示すグラフである。 本発明の実施の形態に係るΔSSIIIa/ΔSSIVb(#2012、#2013)及びそれらの親変異体(e1、e8、e14)と野生型(日本晴)の澱粉粒のX線回折パターンを示す図である。 本発明の実施の形態に係るΔSSIIIa/ΔSSIVb(#2013)及びそれらの親変異体(e1、e14)と野生型(日本晴)の胚乳澱粉のラピッドビスコアナラーザーで測定した糊化粘度パターンを示すグラフである。Tempは温度を示す。 本発明の実施の形態に係るイネSSIVb遺伝子の構造を示す概念図である。 本発明の実施の形態に係るΔSSIIIa/ΔSSIVb(#2013)のPCR選抜の写真である。 本発明の実施の形態に係るΔSSIIIa/ΔSSIVb(#2013)のNative−PAGE/SS活性染色法の結果を示す図である。
<実施の形態>
まずは図1を参照して、イネのスターチシンターゼ(SS)のアイソザイムについて説明する。
図1は、各アイソザイムのアミノ酸配列を元に、近接結合法で系統樹を描いたものである。図1に記載の10種類のアイソザイムは、SSI、SSII、SSIII、SSIV、GBSSの5つのグループに分類できる。括弧内の番号は、各アイソザイム遺伝子のアクセッション番号を示す。
このように、SSは、澱粉生合成関連酵素の中でも最も多くのアイソザイムをもち、未だ機能が不明なアイソザイムも数多く存在する。
10種類あるイネのSSアイソザイムは、そのアミノ酸配列から5つのグループ(SSI、SSII、SSIII、SSIV、GBSS)に分けられ、SSI以外のグループ内にさらに複数のアイソザイムが存在する。
本発明の発明者は、いまだに機能が不明なSSIVbの機能を解明するために、SSIVbを欠損した二重変異体を作出することを考えた。
本発明の発明者は、まず、イネの内在性レトロトランスポゾンであるTos17が挿入されたミュータントパネルからSSIVb単一変異体を単離し、その性質を野生型と比較することで、SSIVbの機能を解明しようと試みた。
しかしながら、SSIVb単一変異体は、アミロペクチン構造(図3参照)、種子形態、大きさ(図2参照)、澱粉粒の形態(図5参照)において、野生型(Wild type)の日本晴とほとんど変わりがなかった。
本発明の発明者は、これは、野生型との表現型の変化が明確な他のSSアイソザイムの単一変異体と比べて、SSIVb単一変異体は胚乳における発現が非常に少ないか、SSIVbのみが欠失しても他のSSアイソザイムが相補することでその機能がマスク(抑制)されていることが原因ではないかと考えた。
そこで、本発明の発明者は、比較的表現型の変化が大きいSSIIIa変異体を同時に欠損させることで、マスクされた変化が出現し親変異体よりも大きな変化が出ることを期待して、SSIIIaとSSIVbの二重変異体を作出した。
その結果、本発明の発明者が作出したSSIIIaとSSIVbの二重変異体(ΔSSIIIa/ΔSSIVb)は、両親変異体及び野生型と比べて、以下の特徴があった。
まず、図2を参照して、SSIIIaとSSIVbの二重変異体のクローンである#2012、#2013と、それらの親変異体(ΔSSIIIa、又はΔSSIVb)のクローンであるe1、e8、e14と、野生型(Wild type)である日本晴のクローンの完熟玄米および切片の形態について説明する。以下、同一の符号を付したクローンは、同一のものを示す。
まず、図2において、上述のように、SSIVb単一変異体のクローンであるe8、e14の種子は、野生型の日本晴と同様に半透明で正常の形態を示した。
これに対して、SSIIIa単一変異体のクローンであるe1の種子は、玄米の中央が白く濁る「心白」形態を示した。
更に、SSIIIaとSSIVbの二重変異体のクローンである#2012、#2013の種子は、玄米全体が白く濁る「白濁」の形態を示した。このように、SSIIIaとSSIVbの二重変異体の種子は、形態的に顕著な特徴を備えており、野生型と区別しやすいという効果が得られる。
また、このΔSSIIIa/ΔSSIVbの種子重量を測定したところ、野生型の8割以上であった。この測定結果を以下の表1に示す。
Figure 2011055764
表1は、SSIIIaとSSIVbの二重変異体のクローンである#2012、#2013、それらの親変異体のクローンであるe1、e8、e14、野生型(Wild type)の日本晴の玄米の粒型(mm)及び玄米重量(mg)について計測したデータを示す。粒型は、粒長(長さ)、粒幅(幅)、粒厚(厚さ)について計測した。
この表1に示すように、SSIIIa単一変異体のクローンであるe1は、日本晴とほぼ同一の大きさであった。
また、SSIVb単一変異体のクローンであるe8は、e1と同様の大きさを示した。
これに対して、SSIVb単一変異体のクローンであるe14は日本晴と比べてやや小さかった。e14は、SSIVb遺伝子にTos17は挿入されていないが、e14と同一のバックグランドを持つイネ(e14+/+)の重量も15.9mgと小さかった。このため、e14の小ささは、SSIVb遺伝子以外の箇所に挿入されたTos17の影響であると考えられる。
#2012の玄米重量は、野生型の8割以上の86%とやや小さかった。粒長は野生型よりむしろ長く、粒厚がやや薄かった。
#2013の玄米重量は、野生型の8割以上の81%とやや小さかった。また、#2012と同様に、粒長は野生型よりむしろ長く、粒厚がやや薄かった。
次に、図3を参照して、SSIIIa変異体のアミロペクチンの鎖長分布について説明する。
図3は、ΔSSIIIa/ΔSSIVb(#2012、#2013)、それらの親変異体(e1、e8、e14)、完熟胚乳のアミロペクチンの鎖長分布を示す。図3においては、それぞれから野生型(日本晴)のパターンを引いた差分をモル比(ΔMole %)にて示す。DP(degree of polymerization)は、グルコースの重合度を示す値である。
まず、SSIVb単一変異体のクローンであるe8、e14では、野生型(日本晴)と鎖長では大差がなかった。
これに対して、SSIIIaの単一変異体のクローンであるe1は、代表的な特徴として、鎖長DP≧37の長鎖が野生型と比べて減少していた。
また、ΔSSIIIa/ΔSSIVbのクローン#2012、#2013共、アミロペクチンの鎖長分布は、SSIIIa単一変異体のクローンe1よりもさらにDP≧37の長鎖が減少していた。加えて、#2012および#2013のパターンはe1のパターンに類似しているが、DP6〜10およびDP40〜55の減少が大きいのが特徴である。
このことから、SSIVbは、胚乳アミロペクチンの長鎖を伸長するSSIIIaの機能と類似している可能性がある。
次に、図4を参照して、ΔSSIIIa/ΔSSIVb(#2013)、これらの親変異体(e1、e14)、野生型(日本晴)の各クローンのデンプンを枝切りしたもののゲル濾過パターンについて説明する。
澱粉を枝切りしたもののゲル濾過パターンは、3つのピークにわかれ、最も速く検出されるピーク(Fraction I)が見かけのアミロース、2番目に検出されるピーク(Fraction II)がクラスターを連結するB2鎖より長いアミロペクチンの長鎖、3番目に検出されるピーク(Fraction III)がアミロペクチンのクラスター内の短鎖である。
これらを数値化したものを、以下の表2に示す。この表2では、各フラクションの割合と、アミロペクチンの長鎖に対する短鎖の割合(III/II)を示す。
Figure 2011055764
非特許文献4を参照すると、SSIIIa単一変異体は、枝切りしたデンプンのゲル濾過の結果,見かけのアミロース含量が日本晴に比べて約1.5倍高かった。今回の結果でも、日本晴の見かけのアミロース含量は21.3%であるのに対し、e1は29.9%と約1.4倍の値を示した。
これに対して、ΔSSIIIa/ΔSSIVbのアミロース含量は33.7%と、SSIIIa変異体よりもさらに高かった。また、アミロペクチンの長鎖の減少がSSIIIa変異体よりも顕著であった。#2013では、III/II値が6.7とe1の4.7に比べても非常に高くなっている。この結果は、鎖長分布でDP≧37の長鎖が減少していたことと一致する。
これにより、ΔSSIIIa/ΔSSIVbの澱粉は、結晶化が少なく独特の食感が得られ、酒造や菓子製造に用いて特徴的な製品を製造できると考えられる。
次に、図5、図6を参照して、ΔSSIIIa/ΔSSIVbの澱粉粒の形状と粒径について説明する。
野生型の澱粉粒は、約3〜5μmの多角形であるが、ΔSSIIIa/ΔSSIVbの澱粉粒は、平均粒径が3.95±6.94μmのほぼ完全な球形であった(図5、表3参照)。
また、ΔSSIIIa/ΔSSIVbの澱粉粒の大きさのばらつきは、日本晴やSSIIIa変異体より小さく、更に表面積も最も大きい値を示した(図5、表3参照)。
図5は、走査型電子顕微鏡で観察したΔSSIIIa/ΔSSIVbのクローン#2012、#2013、それらの親変異体のクローンe1、e8、e14、及び野生型の日本晴の澱粉粒を示す図である。
図5を参照すると、野生型(Wild type)である日本晴の澱粉粒は、約3〜5μmの多角形であり、SSIVb単一変異体のe8とe14もこれに類似していた。これに対して、SSIIIa単一変異体のe1の澱粉粒は、日本晴のそれよりやや小さく、丸みを帯びていた。さらに、SSIIIaとSSIVbの二重変異体である#2012と#2013の澱粉粒は、ほぼ完全な球体であり、大きさは直径3〜5μmであった。
ここで、図6を参照して、各クローンの粒径について説明する。
図6は、ΔSSIIIa/ΔSSIVbのクローンの#2013、親変異体のクローンのe1、野生型の日本晴のデンプンの粒径分布を計測したグラフである。
このように、#2013のピークが最も鋭いことから、粒径がより均質であることがわかった。
Figure 2011055764
次に、図7を参照して、ΔSSIIIa/ΔSSIVbの胚乳澱粉の結晶性について説明する。図7は、ΔSSIIIa/ΔSSIVbのクローン#2012、#2013、親変異体のクローンe1、e8、e14、及び野生型の日本晴の澱粉粒のX線回折パターンを示す。
この図7においては、グラフの縦軸の差の絶対値により、結晶性の高さを知ることができる。すなわち、溝が深い又は山が鋭いと結晶性が高い。
図7のグラフの縦軸の差の絶対値によると、親変異体のクローンe1が最も結晶性が低く、次いでΔSSIIIa/ΔSSIVbクローン#2012、#2013が低く、日本晴と親変異体のクローンe8とe14が同じくらいあった。
すなわち、ΔSSIIIa/ΔSSIVbの胚乳澱粉のX線回折による結晶性は、野生型より低く、親変異体であるSSIIIa変異体より高かった。
また、いずれのクローンも、典型的なA形結晶を示した。
次に、図8を参照して、ΔSSIIIa/ΔSSIVbの糊化粘度について説明する。ΔSSIIIa/ΔSSIVbの胚乳澱粉の熱糊化粘度パターンは、野生型やSSIIIa変異体とも異なっている。
ΔSSIIIa/ΔSSIVbのクローンである#2013は、親系統のクローンより糊化ピーク値が低く、粘度上昇温度が高い特徴があった。すなわち、粘度が上昇する温度がグラフ右にずれる、つまり高くなった。また、粘度ピーク値が野生型の半分程度と低かった。
より具体的には、ΔSSIIIa/ΔSSIVbの吸水率と加熱膨潤度は野生型やSSIIIa変異体のそれより低く、加熱溶解度は高かった。
この吸水率と加熱膨潤度について、以下の表4を参照して説明する。
Figure 2011055764
表4は、ΔSSIIIa/ΔSSIVbのクローン#2013、親変異体のクローンe1、及び野生型の日本晴の澱粉粒の吸水性、加熱溶解度、及び加熱膨潤度を示す。スラリー調製限界濃度は、高いほど吸水性が低くなる。
すなわち、#2013は吸水性、加熱膨潤度が低く、加熱溶解度が高いという特徴があった。
以上のような本発明の実施の形態に係るΔSSIIIa/ΔSSIVbから、以下のような性質、効果を得ることができる。
まず、従来の澱粉生合成に関与する酵素に変異を持つイネ変異体において、イネの多数あるSSアイソザイムの中で、SSIVbの機能は不明であった。
これに対して、本発明の発明者らは、SSIVbが劣性のイネ変異体を作出したが、種子の形態、澱粉粒の形状や大きさが野生型と非常に類似していたため、SSIVb変異体の解析によるSSIVbの機能解明には到らなかった。
このため、本発明の発明者らは、ΔSSIIIa/ΔSSIVbの二重変異体を作成することでSSIVbの機能を解明し、これにより産業上利用することを可能にした。
また、従来のイネのスターチシンターゼの変異体は、様々な性質を持つものがあるものの、澱粉自体の性質や形状は、それほど変化していなかった。
これに対して本発明の実施の形態に係るΔSSIIIa/ΔSSIVbの変異体からは、特に通常のイネの澱粉とは異なった性質と形状をもつ特性の澱粉を得られる。
これらの特性の中で、特にユニークであるのは、澱粉粒の形状である。
通常、イネの澱粉粒は、多角形を示し、他の植物の澱粉粒も、多くは楕円型あるいは平板型であり、完全な球形を示す澱粉粒は、非常に珍しい。
自然の澱粉において、球体に近い形状のものにキャッサバの澱粉粒があるが、粒径が約10μmと、本発明の実施の形態に係る澱粉粒より大きく、また、均質性で劣っている。
これに対して、直径が3〜5μmの球形微粒子の天然素材は、本発明の実施の形態に係る澱粉の他にはない。
このサイズと形状により、本発明の実施の形態に係る澱粉は、肌のキメを整えるなどの化粧品素材、顔料、プリント基板回路用トナー、クロマトグラフィー用資材、製紙用など工業利用に応用可能である。
また、澱粉は熱を加えて可溶化して洗い流すことも可能であり、電子回路等にも利用できる可能性がある。
また、トナーには、通常5.5μmの微粒子顔料が用いられるが、さらに細かい球形微粒子があれば、画質が向上する。加えて、トナーの定着時に、通常は150℃の熱をかけるが、さらに低い温度、例えば100℃程度の定着が望まれている。これらの材料として、本発明の実施の形態に係る澱粉粒を用いることができる可能性がある。
また、本発明の実施の形態に係るΔSSIIIa/ΔSSIVbのイネ変異体から作成された澱粉は、糊化粘度パターンが通常のイネの澱粉とは異なっている。
これにより、通常とは食感が違う食品や加工品にΔSSIIIa/ΔSSIVbを用いることが考えられる。
また、本発明の実施の形態に係る澱粉は、吸水性や膨潤度が低いことから、石膏ボード等の建築資材の添加剤や、糊に使用しても良好な性能を得られると考えられる。
さらに、本発明の実施の形態に係るΔSSIIIa/ΔSSIVbのイネ変異体は、既に遺伝的に固定された系統であり、この種子を植えて自殖によって稔った種子は、全て同型質になる。
すなわち、イネは自殖性植物であり、稀に開花時期が一致し、接触する機会があれば他殖することもある。
しかしながら、万一、稀に他殖によって稔ったとしても、種子が白濁であるという特徴を示すため、誤って他殖したこともわかりやすく、形質を維持した種子を選抜することが容易である。
また、SSのうち二つの酵素を欠失しているにもかかわらず、種子重量は8割以上を維持しており、稔性、生育も野生型と遜色ない。すなわち、農業的形質に低下がみられず、農業形質が維持されている。
さらに、遺伝子組換体ではないので、一般の水田に植えることが可能であり、大規模栽培も可能である。
以上のように、本発明の実施の形態に係るイネ変異体の製造方法においては、限りなく球形に近い澱粉粒をもつジャポニカ米品種のイネ(Oryza sativa)変異体およびその製造方法、並びに該イネ変異体に由来する澱粉およびその製造方法を得ることができる。さらに、本発明は、該澱粉を利用する飲食品及び工業品に用いることができる。
以下で、図を参照しながら本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
(SSIVb変異体の単離)
上述したように、イネの10個程度あるSSアイソザイムは、その発現パターンは精密に研究されているものの(非特許文献11、12参照)、変異体が既に単離され、その機能が解明されているのは、SSI、SSIIa、SSIIIa、GBSSIのわずか4種類である。
そこで、図9を参照すると、本発明の発明者らは、まず全く機能が不明であるSSIVbの変異体を単離した。このため、既に配列がデータベースに登録済みのSSIVb遺伝子(AY100471)のゲノミックDNA配列およびTos17のDNA配列を元に、プライマーを設計し、ミュータントパネルの配列を鋳型に2本のプライマー・ペアを用いてネステッドPCRを行った。
図10を参照すると、Tos17のDNA配列を元に設計したプライマーT1R(配列表の配列番号1)、T2R(配列表の配列番号2)とSSIVb遺伝子のゲノミックDNA配列を元に設計したプライマーSSIVb−5R(配列表の配列番号8)、SSIVb−6R(配列表の配列番号9)で選抜を行ったところ、SSIVb遺伝子のエキソン8にTos17が挿入された変異体であるクローンのe8が単離された。図10においては、アローヘッド(三角印)で示すバンドが、挿入を確認するためのPCR産物である。また、非挿入確認のPCRにおいては、非挿入の長さのバンドが検出されないことで非挿入であることを確認できる。
また、Tos17のDNA配列を元に設計したプライマーT1R(配列表の配列番号1)、T2R(配列表の配列番号2)とSSIVb遺伝子のゲノミックDNA配列を元に設計したプライマーSSIVb−2R(配列表の配列番号7)、SSIVb−10R(配列表の配列番号10)で選抜を行ったところ、SSIVb遺伝子のエキソン14にTos17が挿入された変異体(e14)が、単離された。
SSIVbは、SSIやSSIIIaの様に、種子が次第に発育・肥大した登熟状態の胚乳から抽出した可溶性画分をNative−PAGE/SS活性染色で、明確にSS活性バンドを検出することができなかった。このため、葉本体である葉身のDNAを鋳型としたPCR選抜のみを選抜に用いて材料を確保した。
図10を参照して、Tos17の挿入を確認する検出結果を示す。
すなわち、Tos17挿入を確かめるPCRでバンドが検出され、非挿入を確かめるPCRでバンドが検出されなければ、劣性ホモであることが確認できる。
e8のTos17挿入を確かめるためのプライマーとして、T1R(配列表の配列番号1)、T2R(配列表の配列番号2)とSSIVb−5R(配列表の配列番号8)、SSIVb−6R(配列表の配列番号9)を用いた。
また、e8のTos17非挿入を確かめるためのプライマーとして、SSIVb−3F(配列表の配列番号3)、SSIVb−4F(配列表の配列番号4)とSSIVb−5R(配列表の配列番号8)、SSIVb−6R(配列表の配列番号9)を用いた。
e14のTos17挿入を確かめるためのプライマーとして、T1R(配列表の配列番号1)、T2R(配列表の配列番号2)とSSIVb−2R(配列表の配列番号7)、SSIVb−10R(配列表の配列番号10)を用いた。
また、e14のTos17非挿入を確かめるためのプライマーとして、SSIVb−7F(配列表の配列番号5)、SSIVb−8F(配列表の配列番号6)とSSIVb−2R(配列表の配列番号7)、SSIVb−10R(配列表の配列番号10)を用いた。
e8は、いかなるイネの個体からもヘテロのバンドパターン、即ち、挿入および非挿入PCRのいずれでもバンドが検出されたため、選抜は困難であった。
一方、e14では、劣性ホモをうまく選抜することが可能であり、図10のようなバンドパターンを示す個体を栽培することで、SSIVb変異体を確立することができた。
(SSIIIaとSSIVbが欠損した二重変異体の単離)
次に、SSIVbの澱粉生合成における機能を明確にする目的で、さまざまな性質を調べて野生型である日本晴と比較した。しかしながら、胚乳澱粉の性質においては、明確な違いは見られなかった(図2〜8を参照)。
このため、SSIVb変異体とSSIIIa変異体を交配することで、二重変異体を作出し、その性質を調べた。
以下で、図10と図11を参照して二重変異体の交配について説明する。本発明の発明者らは、SSIIIa変異体であるe1にSSIVb変異体であるe8またはe14を交配し、交配当代のF1種子を次年度に播種し、F2種子を得た。この中には、両親変異体には無い白濁種子が約20%含まれていた。次年度に白濁種子を播種し、その後、SSIIIa遺伝子とSSIVb遺伝子が劣性ホモであるクローン#2013を上述のPCR法で選抜した。#2013のF3種子は、全て白濁種子が出現した。
一方、PCR法ではSSIVb遺伝子の劣性ホモの確認が困難なe8を片親としたクローン#2012では、F3種子は、正常、心白、白濁の形態の種子が混在していた。#2012については、さらに次年度に白濁種子を播種したところ、そのイネに稔実した種子は全て白濁種子になった。これらの登熟種子から得た可溶性画分のSSIIIa活性をNative−PAGE/SS活性染色法(Activity staining)を用いて検討したところ、#2013においてSSIIIa活性の欠失が認められた。すなわち、図11によると、#2013の登熟種子の各クローンにおいて、欠失していないSSIはI2で染色されており活性があるものの、SSIIIaはI2で染色されておらず活性がほぼないことが分かる。
具体的に、SSIIIa活性の検出は、非特許文献2に記載の方法に従って、以下のように行った。
開花後10〜15日くらいの登熟種子1粒のもみ、胚、果皮を除去し、3倍体積の抽出バッファー[50mMのImidazol(pH7.4)、12.5%のglycerol、8mMの塩化マグネシウム、500mMの2−メルカプトエタノール]を加え、マイクロチューブ内でプラスチック製ホモジナイザー(グライナー社製)を用いてホモジナイズし、15,000rpm、10分、4℃で遠心分離して得た上清にNative−PAGE用サンプルバッファー[0.3MのTris−HCl(pH7.0)、0.1%のブロモフェノールブルー、50%のグリセロール]を1/2体積加えて電気泳動に用いた。
電気泳動にはグルコシルトランスフェラーゼ反応に必要なプライマーとしてカキグリコーゲンを60℃で溶かし込んだ7.5%のアクリルアミドゲルを用いた。フロントが濃縮ゲルを通過するまで7.5mA、通過してから15mAの定常電流で4℃下で電気泳動し、フロントが出てから60分で電流を止めた。
その後、基質であるADPグルコースを除いた反応液[クエン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)、0.5MのCitrate−Na、100mMのBicine−NaOH(pH7.5)、0.5mMのEDTA、10%のGlycerol、2mMのジチオスレイトール、1mMのADPグルコース]で2回洗浄し(各15分)、ADPGを加えて20時間、30℃でシーソーで反応させた。反応後、ヨード・ヨードカリ液(1%のKI/0.1%のI2)で染色した。
以上のようにして、2種類のΔSSIIIa/ΔSSIVbの系統を確立できた。
(ラピッドビスコアナライザー(RVA)による熱糊化粘度特性の測定)
精製した胚乳澱粉の水分含量を赤外線水分含量測定器(ザルトリウス・メカトロニクス・ジャパン株式会社製、ベーシック水分計MA150)で測定し、実質の乾燥重量が3.5gになるように計算し、RVA用アルミカップに測りとった。これに合計28.5gになるように蒸留水を加えた。
プラスチック製の羽を入れ、RVA(フォスジャパン社製、RVA4)で粘度を測定した。温度プログラムは、図8の温度Tempのラインで示すTemperture(℃)の通りである。具体的には非特許文献4に記載の方法に従って測定を行った。
(走査型電子顕微鏡(SEM)による澱粉粒の観察)
精製した胚乳澱粉を銀製両面テープを貼り付けた真鍮製ステージの上に貼り付け、金蒸着した。
SEM(IET社製、Jeol 5600)で1000倍および4000倍に拡大して観察した。具体的には非特許文献4に記載の方法に従って観察を行った。
(X線回折装置による胚乳澱粉の結晶性)
精製した胚乳澱粉0.5gを蒸留水の入った密封容器の中で、24時間100%湿度にさらした。
その後、深さ0.5mmのスリットに澱粉を貼り付けて、X線回折装置(理学RINT2000)で2θ=4〜40°の回折パターンを検出した。
具体的には、非特許文献4に記載の方法に従って同様に観察を行った。
(澱粉の精製法)
澱粉の精製は、冷アルカリ浸せき法(Yamamoto他、Denpun Kagaku 28:241−244(1981))を用いた。10gの玄米を80%まで精米し、0.1%のNaOHを200ml加えて一晩4℃で放置した。
翌日、上清を捨て、乳鉢ですりつぶし、150μmのメッシュに通して、3,000g、4℃で10分間遠心分離した。
沈殿に0.1%のNaOHを600ml加えて氷中で3時間振とうし、一晩4℃で放置した。翌日、上清を捨て、蒸留水でけん濁し、1Nの酢酸で中和した。さらに、蒸留水で5回洗浄し、乾燥させ、乳鉢で粉体にした。
(澱粉の枝切り及びゲル濾過)
精製した澱粉22.5mgに蒸留水0.25ml加えて混合し、2NのNaOHを0.25ml加えて37℃で2時間糊化させた。
これに蒸留水3.26mlを加え、5NのHClを90μl加えて中和させた。次に、100mMの酢酸緩衝液(pH3.5)を5ml加え、P.amyloderamosaイソアミラーゼ(EC3.2.1.68、林原生物化学研究所製)を12.5μl(約875unit)加え、40℃で24時間揺らしながら反応させた。
そして、エタノールを5ml加え、ロータリーエバポレーターで乾固させた。これに蒸留水を0.4ml及び2NのNaOHを0.4ml加えて、5℃で30分間糊化させ、5μmのフィルターで濾過した後、ろ液をゲル濾過カラムに投入(アプライ)した。
使用したカラムは、TSKgel toyopearl HW55S(300x20mm)1本にTSKgel toyopearl HW50S(300x20mm)3本(両カラムともTOSOH社製)を直列に接続したものであり、溶離液は0.2%のNaCl/0.05NのNaOHを用いた。試験管1本あたり3mlずつ分取し、68本に分画し、各フラクションの澱粉ヨウ素複合体のλmaxを求めた。糖量は、カラムに接続したRIディテクター(TOSOH RI8020)で検出した。
(鎖長分布解析)
図3を参照して、鎖長分布解析について説明する。
試料は、完熟種子1粒から外内穎及び胚を取り除き、ペンチで胚乳を粉砕した後、エッペンドルフチューブ内でプラスチック製ホモジナイザー(グライナー社製)を用いてさらに磨砕した粉末あるいは、Native−PAGE/SS活性染色に用いた上清を採取した後に残った沈殿を蒸留水とアセトンで洗浄したものを用いた。
各々に5mlのメタノールを加え、10分間煮沸した。次に、2、500xgで10分間遠心分離し、上清を除去し、90%のメタノールを5ml加え2度洗浄した。
さらに、沈殿に5Nの水酸化ナトリウムを15μl加え、5分間煮沸して澱粉を糊化させた。
その糊化液を氷酢酸9.6μlで中和した後、蒸留水を1089μl、0.6Mの酢酸緩衝液(pH4.4)を100μl、2%のアジ化ナトリウムを15μl、P.amyloderamosaイソアミラーゼ(EC3.2.1.68、林原生物化学研究所)を2μl(約210unit)加え、スターラーバーで撹拌しながら37℃で8時間以上反応した。
次に、イソアミラーゼを2μl追加して8時間以上反応した後、常温で10,000xgで遠心分離し、上清を脱イオンカラム(AG501−X8(D)、Bio−Rad)で濾過した。
次に、α−グルカン鎖の非還元末端を蛍光標識するため、Hizukuriら(Carbohydrate Research、94、205−213(1981))の方法により試料中の糖含量を定量し5nmol相当の還元末端をもつα−グルカン鎖を遠心濃縮機で乾燥させ、1−アミノピレン−3,6,8−三硫酸塩(APTS)溶液[2.5%のAPTS、15%の酢酸]を2μl、シアン化ホウ素ナトリウム溶液[1Mのシアン化ホウ素ナトリウム、100%のテトラヒドロフラン]を2μl添加し、55℃で90分間反応させた。
分析時には12.5倍に蒸留水で希釈して用いた。鎖長分布解析は、キャピラリー電気泳動装置(P/ACE MDQ、Beckman Coulters)を用いて行った。
グルコース重合度(DP)3以上の各ピーク面積を数値化し、DP60までのピーク面積の合計を100%としたときの各DPの割合(Mole %)を算出した。さらに、各変異体イネから野生型イネのパターンを引いた差分(ΔMole %)のグラフを作成した。
(粒径分布)
(株)堀場製作所社製の超遠心式自動粒度分析測定装置(CAPA−700)を用いて粒径分布の測定を行った。本機の初期吸光度が0.7〜0.9になる程度の濃度(約0.07 g/100 ml)で澱粉を水に分散し、10分間の超音波処理を施して測定試料を調製した。測定方法は遠心沈降測定(CS測定)を用いた。
(吸水性)
無水物換算で30.00gの澱粉を、200ml容積のトールビーカーに量り取り、マグネットスターラーで攪拌が可能となる時点まで蒸留水を僅かずつ添加した。
攪拌が可能となった時点の蒸留水添加量から、スラリー調製限界濃度を算出し、これを吸水性の指標とした。このスラリー調製限界濃度は以下の式(1)で求めた:

スラリー調整限界濃度(%) = 澱粉無水物重量(30g)/(含水澱粉重量 + 蒸留水添加量) × 100 …… 式(1)
(加熱膨潤度・加熱溶解度)
密栓式50ml容積のファルコン(登録商標)チューブに、無水物換算1%(w/w)の澱粉懸濁液を30.00g調製し、沸騰浴中に30分間保った。この際に、澱粉が沈殿しないように時々振盪した。次に、このチューブを冷水浴中に30分間保ち放冷した。
その後、ベックマン(株)社製Centrifuge GS−6を用いて処理液を3000 rpmで10分間遠心分離した後、上澄液の一部をアルミ皿に広げて重量を測定した(A)。
一方でゲル層の一部もアルミ皿に広げて重量を測定した(B)。
上澄液とゲル層を105℃で4時間以上保って乾固させた後、上澄液乾固後重量(C)及びゲル層乾固後重量(D)を測定した。
この上で、以下の式(2)で溶解度を、式(3)で膨潤度を求めた:

溶解度(%) = 10000 × C / A …… 式(2)
膨潤度(倍) = B / D …… 式(3)
なお、上記実施の形態の構成及び動作は例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実行することができることは言うまでもない。
本発明は、イネスターチシンターゼIIIa型(SSIIIa)活性と、イネスターチシンターゼIVb型(SSIVb)の活性とが低下したイネ変異体を提供でき、このイネ変異体の澱粉は形状や物理的性質がこれまでの澱粉と異なっており、産業上利用可能である。
配列番号1:PCRプライマー(T1R)5'−cggtgaaaaggacagtggag−3'
配列番号2:PCRプライマー(T2R)5'−ggacatgggccaactatacag−3'
配列番号3:PCRプライマー(SSIVb−3F)5'−cccggttgtgattactg−3'
配列番号4:PCRプライマー(SSIVb−4F)5'−cgttcgttcgttctcagtag−3'
配列番号5:PCRプライマー(SSIVb−7F)5'−tgtaagcgaagtctgttggc−3'
配列番号6:PCRプライマー(SSIVb−8F)5'−gacaagctcttctggtgctc−3'
配列番号7:PCRプライマー(SSIVb−2R)5'−aatctgtgcctgtggcatca−3'
配列番号8:PCRプライマー(SSIVb−5R)5'−atcagagaaggcactagacg−3'
配列番号9:PCRプライマー(SSIVb−6R)5'−tagatggtcggcaagacgct−3'
配列番号10:PCRプライマー(SSIVb−10R)5'−gcgtcagagaaaggctcagg−3'

Claims (13)

  1. イネスターチシンターゼIIIa型(SSIIIa)及びイネスターチシンターゼIVb型(SSIVb)の遺伝子座が劣性ホモであり、遺伝的に固定されている
    ことを特徴とするイネ変異体。
  2. 更に、前記SSIIIaの活性が野生型に比べて低下した
    ことを特徴とする請求項1に記載のイネ変異体。
  3. 野生型や親系統と比べて、種子重量が8割以上維持され、農業形質が維持されている
    ことを特徴とする請求項1又は2に記載のイネ変異体。
  4. 請求項1乃至3のいずれか1項に記載のイネ変異体を用いた
    ことを特徴とする澱粉の製造方法。
  5. 請求項1乃至3のいずれか1項に記載のイネ変異体の胚乳を用いた
    ことを特徴とする澱粉の製造方法。
  6. 請求項4又は5に記載の澱粉の製造方法により製造された
    ことを特徴とする澱粉。
  7. 野生型イネや前記SSIIIaの活性低下に起因する親系統イネを用いて製造される澱粉とは形状が異なる
    ことを特徴とする請求項6に記載の澱粉。
  8. 前記野生型イネや前記親系統イネを用いて製造される澱粉と比べて、澱粉粒が球状である
    ことを特徴とする請求項6又は7に記載の澱粉。
  9. 前記野生型イネや前記親系統イネを用いて製造される澱粉と比べて、アミロペクチンのDP≧37、又はアミロペクチンのクラスターを連結するB2鎖より長い鎖が少ない
    ことを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項に記載の澱粉。
  10. 前記野生型イネや前記親系統イネを用いて製造される澱粉と比べて、糊化粘度特性が異なる
    ことを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項に記載の澱粉。
  11. イネスターチシンターゼIIIa型(SSIIIa)変異体と
    イネスターチシンターゼIVb型(SSIVb)変異体との二重劣性ホモである
    ことを特徴とするイネ変異体の製造方法。
  12. 前記イネスターチシンターゼIIIa型(SSIIIa)変異体のイネ及び前記イネスターチシンターゼIVb型(SSIVb)変異体のイネは、レトロトランスポゾンTos17の挿入によって得られる
    ことを特徴とする請求項11に記載のイネ変異体の製造方法。
  13. 請求項11又は12に記載のイネ変異体の製造方法により製造する
    ことを特徴とするイネ変異体。
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