ところで、特許文献1に開示されている冷媒は、二重結合を有する等、比較的不安定な分子構造であるため、長期の冷凍サイクルに伴い冷媒が劣化して不純物等が生成することがある。このような不純物が生成されると、例えば圧縮機の可動スクロールの摺動部材やシール部材等の樹脂製の機能部品が不純物の影響により劣化し易くなる。その結果、このような機能部品の耐久性や信頼性が損なわれてしまう虞がある。
また、特許文献1に開示されているような圧縮機には、各摺動部の潤滑のために冷凍機油が設けられる。ところが、樹脂製の機能部品との関係性を何ら考慮せずに冷凍機油を選定してしまうと、その機能部品を変性させる虞がある。このため、上述した冷媒の劣化による不純物等の生成と相俟って、樹脂製の機能部品の劣化が顕著になるという問題があった。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、分子式:C3HmFn(但し、m及びnは1以上5以下の整数で、m+n=6の関係が成立する。)で表され且つ分子構造中に二重結合を1個有する冷媒から成る単一冷媒または該冷媒を含む混合冷媒が用いられる冷媒回路を備えた冷凍装置において、圧縮機の樹脂製機能部品の劣化を抑制することにある。
第1の発明は、所定の樹脂製機能部品(41,42,43,44,47)が冷媒および冷凍機油と接触可能に配設された圧縮機(30)によって冷媒を循環させて冷凍サイクルを行う冷媒回路(10)を備え、上記冷媒回路(10)の冷媒として、分子式:C3HmFn(但し、m及びnは1以上5以下の整数で、m+n=6の関係が成立する。)で表され且つ分子構造中に二重結合を1個有する冷媒、または該冷媒を含む混合冷媒が用いられる冷凍装置を前提としている。そして、上記圧縮機(30)の冷凍機油は、アニリン点が−100℃以上0℃以下のものである。
上記第1の発明では、冷媒回路(10)で冷媒が循環することによって蒸気圧縮式冷凍サイクルが行われる。圧縮機(30)では、冷媒および冷凍機油と接触する所定の樹脂製機能部品(41,42,43,44,47)が配設されている。冷凍機油のアニリン点が低すぎると、冷凍機油が樹脂製機能部品(41,42,43,44,47)を膨潤させてしまう。逆に、冷凍機油のアニリン点が高すぎると、冷凍機油が樹脂製機能部品(41,42,43,44,47)を収縮させてしまう。つまり、樹脂製機能部品(41,42,43,44,47)が冷凍機油によって変性/劣化してしまう。そこで、本発明では、樹脂製機能部品(41,42,43,44,47)が膨潤しない且つ収縮しない所定の範囲(−100℃以上0℃以下)のアニリン点を有する冷凍機油が用いられる。
第2の発明は、上記第1の発明において、上記樹脂製機能部品が上記圧縮機(30)の所定の摺動部に設けられる摺動部材(41,42,43,44)で構成されている。そして、この摺動部材(41,42,43,44)は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイドまたはポリアミド樹脂で構成されているものである。
上記第2の発明では、圧縮機(30)において摺動部に設けられる摺動部材(41,42,43,44)が樹脂製機能部品を構成する。そして、この摺動部材(41,42,43,44)が、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド樹脂の何れかで構成される。これらの樹脂材料は、冷媒から生成される不純物に対して比較的高い安定性を有する。そのため、冷媒から生成された不純物の影響により、摺動部材(41,42,43,44)が変性/劣化してしまうことが抑制される。
第3の発明は、上記第1の発明において、上記樹脂製機能部品が上記圧縮機(30)における所定の隙間での冷媒の漏れを防止するためのシール部材(47)で構成されている。そして、上記シール部材(47)は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド、クロロプレンゴム、シリコンゴム、水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム、ヒドリンゴムの何れかで構成されているものである。
上記第3の発明では、第3の発明では、所定の隙間での冷媒の漏れを防止するためのシール部材(47)が樹脂製機能部品を構成する。そして、シール部材(47)が、ポリフェニレンサルファイド、クロロプレンゴム、シリコンゴム、水素化ニトリルゴム、フッ素化ゴム、ヒドリンゴムの何れかで構成される。このため、冷媒から生成された不純物の影響により、シール部材(47)が変性/劣化してしまうことが抑制される。
第4の発明は、上記第1の発明において、上記圧縮機(30)が冷媒を圧縮する流体機械(82)と、絶縁材料が樹脂で構成され上記流体機械(82)を駆動する電動機(85)とを備えている。そして、上記樹脂製機能部品は、上記電動機(85)の絶縁材料で構成されているものである。
上記第4の発明では、圧縮機(30)において電動機(85)の樹脂製絶縁材料が樹脂製機能部品を構成する。そして、圧縮機(30)では、アニリン点が所定の範囲の冷凍機油が用いられるため、電動機(85)の絶縁材料がその冷凍機油によって膨潤/収縮することはない。そのため、電動機(85)の絶縁材料の変性/劣化が抑制される。
第5の発明は、上記第1乃至第4の何れか1の発明において、上記冷凍機油は温度30℃、相対湿度90%における飽和水分量が2000ppm以上のものである。
上記第5の発明では、圧縮機(30)において、温度30℃、相対湿度90%の条件下における飽和水分量が2000ppm以上の冷凍機油が用いられる。つまり、本発明では、吸湿性が比較的高い冷凍機油が用いられる。これにより、冷媒中の水分を冷凍機油に捕捉することができる。その結果、冷媒では水分の影響による劣化が抑制される。
第6の発明は、上記第5の発明において、上記冷凍機油はポリアルキレングリコール、ポリオールエステルおよびポリビニルエーテルのうち少なくとも1つを主成分とするものである。
上記第6の発明では、圧縮機(30)において、ポリアルキレングリコール、ポリオールエステル、ポリビニルエーテルの少なくとも1つを主成分とする冷凍機油が用いられる。これらの冷凍機油は、上記分子式で表され且つ分子構造中に二重結合を1個有する冷媒に対して相溶性を有するので、この冷媒が冷凍機油に溶解され易くなる。
第7の発明は、上記第5または第6の発明において、上記冷凍機油は動粘度が40℃において30cSt以上400cSt以下で、流動点が−30℃以下のものである。
上記第7の発明では、冷凍機油の動粘度が40℃において400cSt以下であため、冷媒が冷凍機油にある程度溶解する。また、冷凍機油の動粘度が40℃において30cSt以上であるため、動粘度が低すぎて油膜強度が不十分になることはなく、摺動部の潤滑性能が確保される。
さらに、上記第7の発明では、流動点が−30℃以下の冷凍機油が圧縮機(30)に設けられる。冷凍機油の流動点が−30℃よりも高いと、冷凍装置(20)のうち運転中に低温となる部分においても冷凍機油が流動しにくくなるおそれがある。冷凍機油の流動性が低下すると、摺動部に対する冷凍機油の供給量が少なくなり、摺動部の潤滑が不充分となる。また、摺動部に対する冷凍機油の供給量が減ると、摺動部での油膜強度が不足して異常摩耗や焼き付きに至るおそれがある。そこで、この発明では、流動点が−30℃以下の冷凍機油が用いられる。
第8の発明は、上記第5乃至第7の何れか1の発明において、上記冷凍機油は表面張力が20℃において0.02N/m以上0.04N/m以下のものである。
上記第8の発明では、冷凍機油の表面張力が20℃において0.02N/m以上0.04N/m以下となる。ここで、冷凍機油の表面張力が小さすぎると、圧縮機(30)内のガス冷媒中で冷凍機油が小さな油滴になりやすく、比較的多量の冷凍機油が冷媒と共に圧縮機(30)から吐出されてしまう。したがって、圧縮機(30)で油上がりが生じる虞がある。逆に、冷凍機油の表面張力が大きすぎると、圧縮機(30)から吐出された冷凍機油が、冷媒回路(10)において大きな油滴になり易い。このため、圧縮機(30)から吐出された冷凍機油は、冷媒によって押し流されず圧縮機(30)に戻りにくくなる。その結果、この場合にも、圧縮機(30)で油上がりが生じる虞がある。そこで、本発明では、冷凍機油の表面張力を所定の範囲にすることで、油滴の大きさが最適となり、上記のような油上がりが回避される。
第9の発明は、上記第5乃至第8の何れか1の発明において、上記冷凍機油は塩素濃度が50ppm以下のものである。
上記第9の発明では、冷凍機油の塩素濃度が50ppm以下であるため、塩素に起因する冷媒の劣化促進が抑制される。これにより、不純物の生成も抑制され、樹脂製機能部品(41,42,43,44,47)の劣化が抑制される。
第10の発明は、上記第5乃至第9の何れか1の発明において、上記冷凍機油は硫黄濃度が50ppm以下のものである。
上記第10の発明では、冷凍機油の硫黄濃度が50ppm以下であるため、硫黄に起因する冷媒の劣化が抑制される。これにより、不純物の生成も抑制され、樹脂製機能部品(41,42,43,44,47)の劣化が抑制される。
第11の発明は、上記第5乃至第10の何れか1の発明において、上記冷凍機油には、酸捕捉剤、極圧添加剤、酸化防止剤、酸素捕捉剤、消泡剤、油性剤および銅不活性化剤のうち少なくとも1種類の添加剤が添加されているものである。
上記第11の発明では、酸捕捉剤、極圧添加剤、酸化防止剤、酸素捕捉剤、消泡剤、油性剤および銅不活性化剤の添加剤のうち少なくとも1種類の添加剤が冷凍機油に含まれている。このため、冷凍機油や冷媒の安定化が図られ、不純物等の生成が抑制される。
第12の発明は、上記第11の発明において、上記冷凍機油では、1種類の添加剤が添加されている場合には該添加剤の割合が0.01質量%以上5質量%以下に、複数種類の添加剤が添加されている場合には各添加剤の割合が0.01質量%以上5質量%以下になっているものである。
上記第12の発明では、1種類の添加剤が冷凍機油に添加されている場合には、冷凍機油中の添加剤の割合が、0.01質量%以上5質量%以下になっている。複数種類の添加剤が冷凍機油に添加されている場合には、冷凍機油中の何れの添加剤も、その割合が0.01質量%以上5質量%以下になっている。
第13の発明は、上記第1乃至第12の何れか1の発明において、上記分子式:C3HmFn(但し、mおよびnは1以上5以下の整数で、m+n=6の関係が成立する。)で表され且つ分子構造中に二重結合を1個有する冷媒は、2,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペンである。
上記第13の発明では、冷媒回路(10)の冷媒として、2,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペンからなる単一冷媒、または2,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペンを含む混合冷媒が用いられる。
第14の発明は、上記第1乃至第13の何れか1の発明において、上記冷媒回路(10)の冷媒は、上記分子式:C3HmFn(但し、mおよびnは1以上5以下の整数で、m+n=6の関係が成立する。)で表され且つ分子構造中に二重結合を1個有する冷媒と、ジフルオロメタンとを含む混合冷媒である。
上記第14の発明では、冷媒回路(10)の冷媒として、上記分子式で表され且つ分子構造中に二重結合を1個有する冷媒とジフルオロメタンとを含む混合冷媒が用いられる。ここで、上記分子式で表され且つ分子構造中に二重結合を1個有する冷媒は、いわゆる低圧冷媒である。このため、例えば上記分子式で表され且つ分子構造中に二重結合を1個有する冷媒からなる単一冷媒を用いる場合には、冷媒の圧力損失が冷凍装置の運転効率に与える影響が比較的大きく、理論上の運転効率に対して実際の運転効率が低下してしまう。そこで、本発明では、上記分子式で表され且つ分子構造中に二重結合を1個有する冷媒に、いわゆる高圧冷媒であるジフルオロメタンが加えられている。
第15の発明は、上記第1乃至第13の何れか1の発明において、上記冷媒回路(10)の冷媒は、上記分子式:C3HmFn(但し、mおよびnは1以上5以下の整数で、m+n=6の関係が成立する。)で表され且つ分子構造中に二重結合を1個有する冷媒と、ペンタフルオロエタンとを含む混合冷媒である。
上記第15の発明では、冷媒回路(10)の冷媒として、上記分子式で表され且つ分子構造中に二重結合を1個有する冷媒とペンタフルオロエタンとを含む混合冷媒が用いられる。ここで、上記分子式で表され且つ分子構造中に二重結合を1個有する冷媒は、微燃性の冷媒ではあるが、発火するおそれがない訳ではない。そこで、本発明では、上記分子式で表され且つ分子構造中に二重結合を1個有する冷媒に、難燃性の冷媒であるペンタフルオロエタンが加えられている。
以上のように、本発明によれば、アニリン点が−100℃以上0℃以下の冷凍機油を用いるようにしたため、冷凍機油によって樹脂製機能部品(41,42,43,44,47)が膨潤/収縮することを抑制することができる。そのため、少なくとも冷凍機油に起因する樹脂製機能部品(41,42,43,44,47)の変性/劣化を抑制することができる。その結果、樹脂製機能部品(41,42,43,44,47)の耐久性が向上し、圧縮機(30)ないし冷凍装置の信頼性が向上する。
また、第2の発明では、樹脂製機能部品としての摺動部材(41,42,43,44)をポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド樹脂の何れかで構成している。これにより、冷媒から生成する不純物に起因する摺動部材(41,42,43,44)の変性/劣化を抑制することができる。つまり、冷凍機油だけでなく冷媒に起因する摺動部材(41,42,43,44)の劣化をも抑制することができる。そのため、摺動部材(41,42,43,44)の耐久性がさらに向上し、摺動部材(41,42,43,44)において所望の摺動性/耐摩耗性を得ることができる。
また、第3の発明では、樹脂製機能部品としてのシール部材(47)をポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド、クロロプレンゴム、シリコンゴム、水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム、ヒドリンゴムの何れかで構成している。これにより、冷媒から生成する不純物に起因するシール部材(47)の変性/劣化を回避することができる。つまり、冷凍機油だけでなく冷媒に起因するシール部材(47)の劣化をも抑制することができる。そのため、シール部材(47)の耐久性がさらに向上し、シール部材(47)において所望のシール性を得ることができる。
また、第4の発明では、圧縮機(30)の電動機(85)の絶縁材料を樹脂で構成しているが、その絶縁材料が冷凍機油によって膨潤/収縮することを抑制することができる。絶縁材料が膨潤するとその絶縁性が低下してしまうが、それを抑制することができる。また、絶縁材料が収縮して硬度が高くなると圧縮機(30)の振動によって破損しやすくなり、この場合もまた絶縁性が低下してしまうが、それを抑制することができる。このように、本発明では、電動機(85)において樹脂製絶縁材料が変性してしまうことを抑制できる。その結果、電動機(85)の耐久性が向上する。
また、第5の発明によれば、温度30℃、相対湿度90%における飽和水分量が2000ppm以上の冷凍機油を用いるようにしたため、冷媒中の水分を冷凍機油に捕捉させることができる。このため、水分の影響により冷媒が劣化してしまうのを防止することができる。
また、第6の発明によれば、ポリアルキレングリコール、ポリオールエステルおよびポリビニルエーテルのうち少なくとも1つを主成分とする冷凍機油を用いるようにしたため、冷媒と冷凍機油とが相互に溶け易くなる。そのため、冷媒回路(10)中に冷凍機油が流出しても、冷凍機油は冷媒に溶け込んで圧縮機(30)に戻りやすくなる。その結果、圧縮機(30)における油上がりを抑制することができ、冷凍装置の信頼性を向上させることができる。
また、第7の発明によれば、冷凍機油の動粘度を40℃において30cSt以上400cSt以下としたため、摺動部の潤滑性能を充分確保することができる。さらに、冷凍機油の流動点を−30℃以下としたので、冷媒回路(10)における比較的低温部位でも冷凍機油の流動性を確保することができる。これにより、圧縮機(30)の摺動部において冷凍機油の供給量や油膜強度を充分に確保することができる。その結果、圧縮機(30)における潤滑性能がさらに向上する。
また、第8の発明によれば、冷凍機油の表面張力を20℃において0.02N/m以上0.04N/m以下としたため、冷凍機油の油滴の大きさを最適にすることができる。これにより、冷凍機油の圧縮機(30)から多量に冷凍機油が吐出されることや、圧縮機(30)から吐出された冷凍機油が圧縮機(30)に戻りにくくなることがない。その結果、圧縮機(30)において油上がりを抑制することができ潤滑不良を防止することができる。
また、第9の発明によれば、冷凍機油の塩素濃度を50ppm以下としたため、塩素に起因して冷媒の劣化が促進してしまうことを防止することができる。その結果、樹脂製機能部品(41,42,43,44,47)の耐久性をさらに向上させることができる。
さらに、第10の発明によれば、冷凍機油の硫黄濃度を50ppm以下としたため、硫黄に起因して冷媒の劣化が促進してしまうことを防止することができる。その結果、樹脂製機能部品(41,42,43,44,47)の耐久性をさらに向上させることができる。
また、第11および第12の発明によれば、酸捕捉剤、極圧添加剤、酸化防止剤、消泡剤、油性剤および銅不活性化剤の6種類の添加剤のうち少なくとも1種類の添加剤を冷凍機油に添加するようにしたため、冷媒や冷凍機油を安定化させることができる。その結果、不純物の発生を抑制でき、樹脂製機能部品(41,42,43,44,47)の耐久性/信頼性がさらに向上する。
また、第14の発明によれば、上記分子式で表され且つ分子構造中に二重結合を1個有する冷媒に、いわゆる高圧冷媒としてのジフルオロメタンを加えるようにしたため、冷媒の圧力損失が冷凍装置の運転効率に与える影響を小さくすることができる。その結果、冷凍装置の実際の運転効率を向上させることができる。
また、第15の発明によれば、上記分子式で表され且つ分子構造中に二重結合を1個有する冷媒に、難燃性の冷媒としてのペンタフルオロエタンを加えるようにしたため、冷媒回路(10)の冷媒が燃えにくくなる。その結果、冷凍装置の信頼性を向上させることができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
本実施形態は、本発明に係る冷凍装置によって構成された空気調和装置(20)である。この空気調和装置(20)は、図1に示すように、室外機(22)と3台の室内機(23a,23b,23c)とを備えている。なお、室内機(23)の台数は、単なる例示である。
上記空気調和装置(20)は、冷媒が充填されて冷凍サイクルを行う冷媒回路(10)を備えている。冷媒回路(10)は、室外機(22)に収容される室外回路(9)と、各室内機(23a,23b,23c)に収容される室内回路(17a,17b,17c)とを備えている。これらの室内回路(17a,17b,17c)は、液側連絡配管(18)およびガス側連絡配管(19)を介して室外回路(9)に接続されている。これらの室内回路(17a,17b,17c)は、互いに並列に接続されている。
本実施形態の冷媒回路(10)に充填された冷媒は、2,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(以下、「HFO−1234yf」という。)だけで構成された単一成分の冷媒(単一冷媒)である。なお、HFO−1234yfの化学式は、CF3−CF=CH2で表され、その分子構造中に1つの二重結合を有する。
〈室外回路の構成〉
上記室外回路(9)には、圧縮機(30)、室外熱交換器(11)、室外膨張弁(12)および四路切換弁(13)が設けられている。
上記圧縮機(30)は、ケーシング(70)内に圧縮機構(82)と電動機(85)が収容された全密閉型のものである。圧縮機(30)の詳細な構造については後述する。圧縮機(30)の電動機(85)には、インバータを介して電力が供給される。圧縮機(30)の運転容量は、電動機(85)の回転速度を変更することによって変化する。圧縮機(30)は、吐出側が四路切換弁(13)の第2ポート(P2)に接続され、吸入側が四路切換弁(13)の第1ポート(P1)に接続されている。
上記室外熱交換器(11)は、クロスフィン型のフィン・アンド・チューブ熱交換器である。室外熱交換器(11)の近傍には、室外ファン(14)が設けられている。室外熱交換器(11)では、室外空気と冷媒との間で熱交換が行われる。室外熱交換器(11)は、一端が四路切換弁(13)の第3ポート(P3)に接続され、他端が室外膨張弁(12)に接続されている。また、四路切換弁(13)の第4ポート(P4)は、ガス側連絡配管(19)に接続されている。
上記室外膨張弁(12)は、室外熱交換器(11)と室外回路(9)の液側端との間に設けられている。室外膨張弁(12)は、開度可変の電子膨張弁である。
上記四路切換弁(13)は、第1ポート(P1)と第4ポート(P4)とが連通し且つ第2ポート(P2)と第3ポート(P3)とが連通する第1状態(図1に実線で示す状態)と、第1ポート(P1)と第3ポート(P3)とが連通し且つ第2ポート(P2)と第4ポート(P4)とが連通する第2状態(図1に破線で示す状態)とが切り換え自在に構成されている。
〈室内回路の構成〉
上記各室内回路(17a,17b,17c)には、そのガス側端から液側端へ向かって順に、室内熱交換器(15a,15b,15c)と、室内膨張弁(16a,16b,16c)とが設けられている。
上記室内熱交換器(15a,15b,15c)は、クロスフィン型のフィン・アンド・チューブ熱交換器である。室内熱交換器(15a,15b,15c)の近傍には、室内ファン(21a,21b,21c)が設けられている。各室内熱交換器(15a,15b,15c)では、室内空気と冷媒との間で熱交換が行われる。また、各室内膨張弁(16a,16b,16c)は、開度可変の電子膨張弁である。
〈圧縮機の構成〉
上記圧縮機(30)は、全密閉の高圧ドーム型のスクロール圧縮機である。ここでは、圧縮機(30)の構成について、図2および図3を参照しながら説明する。
上記圧縮機(30)は、いわゆる縦型の密閉容器であるケーシング(70)を備えている。ケーシング(70)の内部には、下から上へ向かって順に、下側軸受部材(86)、電動機(85)および圧縮機構(82)が配置されている。
上記電動機(85)は、ステータ(83)とロータ(84)を備えている。ステータ(83)は、ケーシング(70)の胴部に固定されている。一方、ロータ(84)は、ステータ(83)の内側に配置されている。また、ロータ(84)には、圧縮機構(82)のクランク軸(60)が連結されている。クランク軸(60)は、ロータ(84)と同軸になる姿勢で、ロータ(84)に挿通されている。
上記圧縮機構(82)は、可動スクロール(76)と、固定スクロール(75)と、駆動軸であるクランク軸(60)と、ハウジング(77)とを備え、本発明に係る流体機械を構成している。
上記クランク軸(60)は、主軸部(61)と偏心部(65)とによって構成されている。主軸部(61)は、互いに同軸上に配置された中間部(62)と大径部(63)と小径部(64)とによって構成されている。大径部(63)は、中間部(62)の上端に連続して形成されている。大径部(63)の外径は、中間部(62)の外径よりも大きくなっている。小径部(64)は、中間部(62)の下端に連続して形成されている。小径部(64)の外径は、中間部(62)の外径よりも小さくなっている。偏心部(65)は、主軸部(61)の大径部(63)の上端に連続して形成された円柱状の部分である。偏心部(65)の軸心は、主軸部(61)の軸心に対して偏心している。
上記可動スクロール(76)は、略円板状の可動側鏡板(76b)と、渦巻き状の可動側ラップ(76a)とを備えている。可動側ラップ(76a)は可動側鏡板(76b)の前面(上面)に立設されている。また、可動側鏡板(76b)の背面(下面)には、円筒状の筒状突部(76c)が立設されている。
上記可動スクロール(76)の筒状突部(76c)には、円筒状に形成された上部軸受(41)が内嵌めされている。この上部軸受(41)には、クランク軸(60)の偏心部(65)が挿入されている。上部軸受(41)の内周面は、偏心部(65)の外周面と摺接する。筒状突部(76c)と上部軸受(41)は、クランク軸(60)の偏心部(65)を支持する上部ジャーナル軸受部(31)を構成している。可動スクロール(76)は、オルダムリング(79)を介して、可動スクロール(76)の下側に配置されたハウジング(77)に支持されている。
一方、上記固定スクロール(75)は、略円板状の固定側鏡板(75b)と、渦巻き状の固定側ラップ(75a)とを備えている。固定側ラップ(75a)は固定側鏡板(75b)の前面(下面)に立設されている。
上記圧縮機構(82)では、固定側ラップ(75a)と可動側ラップ(76a)とが互いに噛み合うことによって、両ラップ(75a,76a)の接触部の間に複数の圧縮室(73a,73b)が形成されている。具体的に、圧縮機構(82)では、固定側ラップ(75a)の内周面と可動側ラップ(76a)の外周面との間に構成される第1圧縮室(73a)と、固定側ラップ(75a)の外周面と可動側ラップ(76a)の内周面との間に構成される第2圧縮室(73b)とが形成される。
なお、本実施形態の圧縮機構(82)では、いわゆる非対称渦巻き構造が採用されている(図3を参照)。つまり、この圧縮機構(82)では、固定側ラップ(75a)と可動側ラップ(76a)とで巻き数(渦巻きの長さ)が相違している。
上記圧縮機構(82)では、固定スクロール(75)の外縁部に吸入ポート(98)が形成されている。吸入ポート(98)には、ケーシング(70)の頂部を貫通する吸入管(57)が接続されている。吸入ポート(98)は、可動スクロール(76)の公転運動に伴って、第1圧縮室(73a)と第2圧縮室(73b)のそれぞれに間欠的に連通する。また、吸入ポート(98)には、圧縮室(73)から吸入管(57)へ戻る冷媒の流れを阻止する吸入逆止弁が設けられている(図示省略)。
また、上記圧縮機構(82)では、固定側鏡板(75b)の中央部に吐出ポート(93)が形成されている。吐出ポート(93)は、可動スクロール(76)の公転運動に伴って、第1圧縮室(73a)と第2圧縮室(73b)のそれぞれに間欠的に連通する。吐出ポート(93)は、固定スクロール(75)の上側に形成されたマフラー空間(96)に開口している。
上記ハウジング(77)は、本体部(77a)と膨出部(77b)とで構成されている。本体部(77a)は、肉厚の円板状に形成され、その外周面がケーシング(70)の胴部の内周面と密着している。また、本体部(77a)は、その上面の中央部が窪んでおり、その窪みに可動スクロール(76)の筒状突部(76c)が挿入される。そして、本体部(77a)の上面のうち可動スクロール(76)の可動側鏡板(76b)の背面が摺接する部位がスラスト軸受(44)を構成している。膨出部(77b)は、本体部(77a)の下面の中央部に形成され、本体部(77a)の下面から下方へ向かって膨出している。膨出部(77b)には、膨出部(77b)を上下に貫通する貫通孔(77c)が形成されている。
上記ハウジング(77)の貫通孔(77c)には、円筒状に形成された中間軸受(42)が内嵌めされている。この中間軸受(42)には、クランク軸(60)の大径部(63)が挿通されている。中間軸受(42)の内周面は、大径部(63)の外周面と摺接する。ハウジング(77)の膨出部(77b)と中間軸受(42)とは、クランク軸(60)の大径部(63)を支持する中間ジャーナル軸受部(32)を構成している。
上記ケーシング(70)の内部空間は、ハウジング(77)によって上下に仕切られている。ケーシング(70)の内部空間では、ハウジング(77)の上側が吸入空間(101)となり、ハウジング(77)の下側が吐出空間(100)となっている。吸入空間(101)は、図示しない連通ポートを通じて、吸入ポート(98)に連通している。吐出空間(100)は、固定スクロール(75)とハウジング(77)とに亘って形成された連絡通路(103)を通じて、マフラー空間(96)に連通している。運転中の吐出空間(100)は、吐出ポート(93)から吐出された冷媒がマフラー空間(96)を通じて流入するので、圧縮機構(82)で圧縮された冷媒で満たされる高圧空間となる。吐出空間(100)には、ケーシング(70)の胴部を貫通する吐出管(56)が開口している。
上記下側軸受部材(86)は、円筒部(87)とアーム部(88)とによって構成されている。円筒部(87)は、両端が開口した厚肉の円筒状に形成されている。下側軸受部材(86)には、3つのアーム部(88)が放射状に設けられている。各アーム部(88)は、円筒部(87)の外周面から外側へ向かって伸び、その突端面がケーシング(70)の胴部の内周面に密着している。
上記下側軸受部材(86)の円筒部(87)には、円筒状に形成された下部軸受(43)が内嵌めされている。この下部軸受(43)には、クランク軸(60)の小径部(64)が挿通されている。下部軸受(43)の内周面は、小径部(64)の外周面と摺接する。下側軸受部材(86)の円筒部(87)と下部軸受(43)とは、クランク軸(60)の小径部(64)を支持する下部ジャーナル軸受部(33)を構成している。
また、上記ケーシング(70)内の底部には、冷凍機油が貯留される油溜まりが形成されている。また、クランク軸(60)の内部には油溜まりに連通する第1給油通路(104)が形成され、可動スクロール(76)の可動側鏡板(76b)には第1給油通路(104)に接続する第2給油通路(105)が形成されている。油溜まりの冷凍機油は、第1給油通路(104)および第2給油通路(105)を通じて、各ジャーナル軸受部(31,32,33)やスラスト軸受(64)等の摺動部へ供給される。
上記圧縮機(30)では、上部軸受(41)、中間軸受(42)、下部軸受(43)、スラスト軸受(44)および電動機(85)の絶縁材料が本発明に係る樹脂製機能部品となっている。これら樹脂製機能部品は、冷媒および冷凍機油と接触可能に配設されている。
上記各軸受(41,42,43,44)は、本発明に係る摺動部材を構成している。これら各軸受(41,42,43,44)は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド樹脂の何れかで構成されている。
上記電動機(85)の絶縁材料は、ステータ(83)の巻き線の絶縁被覆材料や絶縁フィルム等である。これら絶縁被服材料および絶縁フィルムは、高温高圧の冷媒に接触した場合でも、冷媒により物理的や化学的に変性を受けない樹脂で、特に耐溶剤性、耐抽出性、熱的・化学的安定性、耐発泡性を有する樹脂が用いられている。
具体的に、上記ステータ(83)の巻き線の絶縁被覆材料には、ポリビニルフォルマール、ポリエステル、THEIC変性ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリエステルアミドイミドの何れかが用いられている。なお、好ましいのは、上層がポリアミドイミド、下層がポリエステルイミドの二重被覆線である。また、上記物質以外に、ガラス転移温度が120℃以上のエナメル被覆を用いてもよい。
また、上記絶縁フィルムには、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリブチレンテフタレート(PBT)の何れかが用いられている。なお、絶縁フィルムに、発泡材料が冷凍サイクルの冷媒と同じ発泡フィルムを用いることも可能である。インシュレーター等の巻き線を保持する絶縁材料には、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)または液晶ポリマー(LCP)が用いられている。ワニスには、エポキシ樹脂が用いられている。
〈冷凍機油について〉
本実施形態では、ポリアルキレングリコール、ポリオールエステルおよびポリビニルエーテルの3種類の基油のうち少なくとも1種類を主成分とする冷凍機油を圧縮機(30)に用いることが可能である。例えば、本実施形態の冷凍機油には、この3種類のうちポリビニルエーテルだけを主成分とする冷凍機油が用いられている。
本実施形態の冷凍機油では、下記一般式(I)で表される構成単位を有するポリビニルエーテルを主成分とする冷凍機油が用いられている。この構造のポリビニルエーテルは、ポリビニルエーテルの中でも、上記分子式1で表され且つ分子構造中に二重結合を1個有する冷媒との相溶性に優れている。
一般式(I)において、R1、R2およびR3は、水素または炭素数が1以上8以下の炭化水素基を表している。R1、R2およびR3は、同一でもよく、互いに異なっていてもよい。また、一般式(I)においては、構成単位毎において、R4が炭素数が1または2のアルキル基が40%以上100%以下、炭素数が3または4のアルキル基が0%以上60%以下の構成比を有している。
上記冷凍機油は、アニリン点が−100℃以上0℃以下となっている。ここで、「アニリン点」は、例えば炭化水素系溶剤等の溶解性を示す数値であり、試料(ここでは冷凍機油)を等容積のアニリンと混合して冷やしたときに、互いに溶解し合えなくなって濁りがみえ始めたときの温度を表すものである(JIS K 2256で規定)。なお、これらの値は、冷媒が溶解しない状態の冷凍機油自体の値である。この点は、後述する変形例1、変形例2およびその他の実施形態に記載する冷凍機油についても同じである。
このようにアニリン点を設定することで、上述した樹脂製機能部品を構成する各軸受(41,42,43,44)および電動機(85)の絶縁材料と冷凍機油との適合性が向上する。具体的に、アニリン点が低すぎると、冷凍機油が軸受(41,42,43,44)や絶縁材料に浸透し易くなり、軸受(41,42,43,44)等が膨潤し易くなる。一方、アニリン点が高すぎると、冷凍機油が軸受(41,42,43,44)や絶縁材料に浸透し難くなり、軸受(41,42,43,44)等が収縮し易くなる。そこで、冷凍機油のアニリン点を上述した所定の範囲(−100℃以上0℃以下)とすることで、軸受(41,42,43,44)や絶縁材料の膨潤/収縮変形を防止することができる。ここで、各軸受(41,42,43,44)が膨潤変形してしまうと、摺動部での隙間(ギャップ)を所望とする長さに維持することができない。その結果、摺動抵抗の増大を招く虞がある。各軸受(41,42,43,44)が収縮変形してしまうと、軸受(41,42,43,44)の硬度が高くなり圧縮機(30)の振動によって軸受(41,42,43,44)が破損する虞がある。つまり、各軸受(41,42,43,44)が収縮変形すると、摺動部の剛性の低下を招く虞がある。また、電動機(85)の絶縁材料(絶縁被服材料や絶縁フィルム等)が膨潤変形してしまうと、その絶縁材料の絶縁性が低下してしまう。絶縁材料が収縮変形してしまうと、上述した軸受(41,42,43,44)の場合と同様に絶縁材料が破損する虞があり、この場合もまた絶縁性が低下してしまう。ところが、上記のように冷凍機油のアニリン点を所定の範囲とすることで、軸受(41,42,43,44)や絶縁材料の膨潤/収縮変形を抑制できるため、このような不具合を回避することができる。
また、上記冷凍機油は、動粘度が40℃において30cSt以上400cSt以下で、流動点が−30℃以下で、表面張力が20℃において0.02N/m以上0.04N/m以下で、さらに密度が15℃において0.8g/cm3以上1.8g/cm3以下となっている。流動点の値は、「JIS K 2269」に規定された試験方法によって得られる。また、冷凍機油は、温度30℃、相対湿度90%における飽和水分量が2000ppm以上のものである。さらに、冷凍機油は、そこに含まれる塩素の濃度が50ppm以下になると共に、そこに含まれる硫黄の濃度が50ppm以下になっている。なお、これらの冷凍機油の物性値は、後述する変形例およびその他の実施形態に記載した冷凍機油についても同じである。これらの物性値は、冷媒が溶解しない状態の冷凍機油自体の値である。
本実施形態では、冷凍機油の主成分となるポリビニルエーテルが、HFO−1234yfに対して相溶性を有している。そして、冷凍機油の動粘度は、40℃において400cSt以下である。このため、HFO−1234yfが、冷凍機油にある程度溶解する。また、冷凍機油の流動点が−30℃以下であるため、冷媒回路(10)において低温部位でも冷凍機油の流動性が確保できる。また、表面張力が20℃において0.04N/m以下であるため、圧縮機(30)から吐出された冷凍機油が冷媒によって押し流されにくくなるような大きな油滴になりにくい。したがって、圧縮機(30)から吐出された冷凍機油は、HFO−1234yfに溶解してHFO−1234yfと共に圧縮機(30)に戻ってくる。そのため、圧縮機(30)における冷凍機油の貯留量を充分に確保することができる。
また、冷凍機油の動粘度が40℃において30cSt以上であるため、動粘度が低すぎて油膜強度が不十分になることはなく、潤滑性能が確保される。また、冷凍機油の表面張力が20℃において0.02N/m以上であるため、冷凍機油は圧縮機(30)内のガス冷媒中で小さな油滴になりにくく、圧縮機(30)から多量に冷凍機油が吐出されることがない。このため、圧縮機(30)における冷凍機油の貯留量をより確保することができる。
また、冷凍機油の飽和水分量が、温度30℃/相対湿度90%において2000ppm以上であるため、冷凍機油の吸湿性が比較的高いものとなる。これにより、HFO−1234yf中の水分を冷凍機油によって有る程度捕捉することが可能となる。HFO−1234yfは、含有される水分の影響により、変質/劣化し易い分子構造を有する。ところが、冷凍機油による吸湿効果により、このような劣化を抑制することができる。
また、塩素や硫黄は冷媒の安定性に悪影響を及ぼす虞がある。そこで、冷凍機油中における塩素および硫黄の濃度を50ppm以下に抑えているため、冷媒回路に充填されている冷媒のうち分解されるものの量が減少し、冷媒の分解により生成した物質に起因する樹脂製機能部品の劣化が抑えられる。
また、本実施形態の冷凍機油には、添加剤として、酸捕捉剤、極圧添加剤、酸化防止剤、消泡剤、油性剤および銅不活性化剤が添加されている。なお、本実施形態では上記6つの添加剤を全て使用しているが、各添加剤は必要に応じて添加すればよく、添加剤が1つだけであってもよい。個々の添加剤の配合量は、冷凍機油に含まれる割合が0.01質量%以上5質量%以下になるように設定されている。なお、酸捕捉剤の配合量および酸化防止剤の配合量は、0.05質量%以上3質量%以下の範囲が好ましい。
酸捕捉剤には、フェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、アルキレングリコールグリシジルエーテル、シクロヘキセンオキシド、α−オレフィンオキシド、エポキシ化大豆油などのエポキシ化合物を用いることができる。なお、これらの中で相溶性の観点から好ましい酸捕捉剤は、フェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、アルキレングリコールグリシジルエーテル、シクロヘキセンオキシド、α−オレフィンオキシドである。アルキルグリシジルエーテルのアルキル基およびアルキレングリコールグリシジルエーテルのアルキレン基は、分岐を有していてもよい。これらの炭素数は、3以上30以下であればよく、4以上24以下であればより好ましく、6以上16以下であればさらに好ましい。また、α−オレフィンオキシドは、全炭素数が4以上50以下であればよく、4以上24以下であればより好ましく、6以上16以下であればさらに好ましい。酸捕捉剤は、1種だけを用いてもよく、複数種類を併用することも可能である。
なお、極圧添加剤には、リン酸エステル類を含むものを用いることができる。リン酸エステル類としては、リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性リン酸エステルおよび酸性亜リン酸エステル等を用いることができる。また、極圧添加剤には、リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性リン酸エステルおよび酸性亜リン酸エステルのアミン塩を含むものを用いることもできる。
リン酸エステルには、トリアリールホスフェート、トリアルキルホスフェート、トリアルキルアリールホスフェート、トリアリールアルキルホスフェート、トリアルケニルホスフェート等がある。さらに、リン酸エステルを具体的に列挙すると、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、ベンジルジフェニルホスフェート、エチルジフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、エチルジブチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、エチルフェニルジフェニルホスフェート、ジエチルフェニルフェニルホスフェート、プロピルフェニルジフェニルホスフェート、ジプロピルフェニルフェニルホスフェート、トリエチルフェニルホスフェート、トリプロピルフェニルホスフェート、ブチルフェニルジフェニルホスフェート、ジブチルフェニルフェニルホスフェート、トリブチルフェニルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリデシルホスフェート、トリラウリルホスフェート、トリミリスチルホスフェート、トリパルミチルホスフェート、トリステアリルホスフェート、トリオレイルホスフェート等がある。
また、亜リン酸エステルの具体例としては、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリ(ノニルフェニル)ホスファイト、トリ(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、トリステアリルホスファイト、トリオレイルホスファイト等がある。
また、酸性リン酸エステルの具体例としては、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、テトラコシルアシッドホスフェート、イソデシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、トリデシルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、イソステアリルアシッドホスフェート等がある。
また、酸性亜リン酸エステルの具体例としては、ジブチルハイドロゲンホスファイト、ジラウリルハイドロゲンホスファイト、ジオレイルハイドゲンホスファイト、ジステアリルハイドロゲンホスファイト、ジフェニルハイドロゲンホスファイト等がある。以上のリン酸エステル類の中で、オレイルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェートが好適である。
また、リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性リン酸エステルまたは酸性亜リン酸エステルのアミン塩に用いられるアミンのうちモノ置換アミンの具体例としては、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ベンジルアミン等がある。また、ジ置換アミンの具体例としては、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジラウリルアミン、ジステアリルアミン、ジオレイルアミン、ジベンジルアミン、ステアリル・モノエタノールアミン、デシル・モノエタノールアミン、ヘキシル・モノプロパノールアミン、ベンジル・モノエタノールアミン、フェニル・モノエタノールアミン、トリル・モノプロパノール等がある。また、トリ置換アミンの具体例としては、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリシクロヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリラウリルアミン、トリステアリルアミン、トリオレイルアミン、トリベンジルアミン、ジオレイル・モノエタノールアミン、ジラウリル・モノプロパノールアミン、ジオクチル・モノエタノールアミン、ジヘキシル・モノプロパノールアミン、ジブチル・モノプロパノールアミン、オレイル・ジエタノールアミン、ステアリル・ジプロパノールアミン、ラウリル・ジエタノールアミン、オクチル・ジプロパノールアミン、ブチル・ジエタノールアミン、ベンジル・ジエタノールアミン、フェニル・ジエタノールアミン、トリル・ジプロパノールアミン、キシリル・ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン等がある。
また、上記以外の極圧添加剤を添加することも可能である。例えば、モノスルフィド類、ポリスルフィド類、スルホキシド類、スルホン類、チオスルフィネート類、硫化油脂、チオカーボネート類、チオフェン類、チアゾール類、メタンスルホン酸エステル類等の有機硫黄化合物系の極圧添加剤、チオリン酸トリエステル類等のチオリン酸エステル系の極圧添加剤、高級脂肪酸、ヒドロキシアリール脂肪酸類、多価アルコールエステル類、アクリル酸エステル類等のエステル系の極圧添加剤、塩素化炭化水素類、塩素化カルボン酸誘導体等の有機塩素系の極圧添加剤、フッ素化脂肪族カルボン酸類、フッ素化エチレン樹脂、フッ素化アルキルポリシロキサン類、フッ素化黒鉛等の有機フッ素化系の極圧添加剤、高級アルコール等のアルコール系の極圧添加剤、ナフテン酸塩類(ナフテン酸鉛等)、脂肪酸塩類(脂肪酸鉛等)、チオリン酸塩類(ジアルキルジチオリン酸亜鉛等)、チオカルバミン酸塩類、有機モリブデン化合物、有機スズ化合物、有機ゲルマニウム化合物、ホウ酸エステル等の金属化合物系の極圧添加剤を用いることが可能である。
また、酸化防止剤には、フェノール系の酸化防止剤やアミン系の酸化防止剤を用いることができる。フェノール系の酸化防止剤には、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(DBPC)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール等がある。また、アミン系の酸化防止剤には、N,N’−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、N.N’−ジ−フェニル−p−フェニレンジアミン等がある。なお、酸化防止剤には、酸素を捕捉する酸素捕捉剤も用いることができる。
また、銅不活性化剤としては、ベンゾトリアゾールやその誘導体等を用いることができる。消泡剤としては、ケイ素化合物を用いることができる。油性剤としては、高級アルコール類を用いることができる。
また、本実施形態の冷凍機油には、必要に応じて、耐荷重添加剤、酸素捕捉剤、塩素捕捉剤、清浄分散剤、粘度指数向上剤、防錆剤、安定剤、腐食防止剤および流動点降下剤等を添加することも可能である。酸素捕捉剤は、酸素を捕捉する添加剤である。個々の添加剤の配合量は、冷凍機油に含まれる割合が0.01質量%以上5質量%以下であればよく、0.05質量%以上3質量%以下であることが好ましい。
−運転動作−
上記空気調和装置(20)の運転動作について説明する。この空気調和装置(20)は、冷房運転と暖房運転とが実行可能になっており、四路切換弁(13)によって冷房運転と暖房運転との切り換えが行われる。
〈冷房運転〉
冷房運転時には、四路切換弁(13)が第1状態に設定される。この状態で、圧縮機(30)の運転が行われると、圧縮機(30)から吐出された高圧冷媒が、室外熱交換器(11)において室外空気へ放熱して凝縮する。室外熱交換器(11)で凝縮した冷媒は、各室内回路(17a,17b,17c)へ分配される。各室内回路(17a,17b,17c)では、流入した冷媒が、室内膨張弁(16a,16b,16c)で減圧された後に、室内熱交換器(15a,15b,15c)において室内空気から吸熱して蒸発する。一方、室内空気は冷却されて室内へ供給される。
各室内回路(17a,17b,17c)で蒸発した冷媒は、他の室内回路(17a,17b,17c)で蒸発した冷媒と合流して、室外回路(9)へ戻ってくる。室外回路(9)では、各室内回路(17a,17b,17c)から戻ってきた冷媒が、圧縮機(30)で再び圧縮されて吐出される。なお、冷房運転中は、各室内膨張弁(16a,16b,16c)の開度が、室内熱交換器(15a,15b,15c)の出口における冷媒の過熱度が一定値(例えば5℃)になるように過熱度制御される。
〈暖房運転〉
暖房運転時には、四路切換弁(13)が第2状態に設定される。この状態で、圧縮機(30)の運転が行われると、圧縮機(30)から吐出された高圧冷媒が、各室内回路(17a,17b,17c)へ分配される。各室内回路(17a,17b,17c)では、流入した冷媒が室内熱交換器(15a,15b,15c)において室内空気へ放熱して凝縮する。一方、室内空気は加熱されて室内へ供給される。室内熱交換器(15a,15b,15c)で凝縮した冷媒は、他の室内回路(17a,17b,17c)を通過した冷媒と合流し、室外回路(9)へ戻ってくる。
室外回路(9)では、各室内回路(17a,17b,17c)から戻ってきた冷媒が、室外膨張弁(12)で減圧された後に、室外熱交換器(11)において室外空気から吸熱して蒸発する。室外熱交換器(11)で蒸発した冷媒は、圧縮機(30)で再び圧縮されて吐出される。なお、暖房運転中は、各室内膨張弁(16a,16b,16c)の開度が、室内熱交換器(15a,15b,15c)の出口における冷媒の過冷却度が一定値(例えば5℃)になるようにサブクール制御される。
−実施形態の効果−
本実施形態では、アニリン点が−100℃以上0℃以下の冷凍機油を圧縮機(30)に用いるようにした。これにより、樹脂製機能部品である各軸受(41,42,43,44)や電動機(85)の絶縁材料が冷凍機油によって膨潤/収縮することを抑制することができる。そのため、冷凍機油に起因する樹脂製機能部品の変性/劣化を抑制することができる。つまり、各軸受(41,42,43,44)においては摺動性能の低下を抑制することができ、電動機(85)の絶縁材料においては絶縁性の低下を抑制することができる。その結果、樹脂製機能部品の耐久性が向上し、圧縮機(30)ないし冷凍装置の信頼性が向上する。
また、本実施形態では、冷媒回路(10)の冷媒として、分子式:C3HmFn(但し、m及びnは1以上5以下の整数で、m+n=6の関係が成立する。)で表され且つ分子構造中に二重結合を1個有する冷媒から成る冷媒(即ち、HFO−1234yf)を用いている。このHFO−1234yfは、二重結合を有する等の理由により比較的不安定な分子構造であり、冷媒が劣化して不純物等が生成され易い。そして、その生成した不純物等によって樹脂製機能部品である各軸受(41,42,43,44)が化学的/物理的に変性して劣化してしまう虞がある。ところが、本実施形態では、各軸受(41,42,43,44)をポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド樹脂の何れかで構成するようにした。これらの樹脂材料は、冷媒から生成される不純物に対して比較的高い安定性を有する。したがって、上記の不純物の影響により、軸受(41,42,43,44)が劣化してしまうのを回避でき、軸受(41,42,43,44)では所望とする摺動性能を得ることができる。
また、本実施形態では、温度30℃、相対湿度90%における飽和水分量が2000ppm以上の冷凍機油を用いるようにしたので、冷媒中の水分を冷凍機油に捕捉させることができる。このため、水分の影響によりHFO−1234yfが劣化してしまうのを防止することができる。
また、本実施形態では、ポリアルキレングリコール、ポリオールエステルおよびポリビニルエーテルのうち少なくとも1つを主成分とする冷凍機油を用いるようにした。これにより、冷媒と冷凍機油とが相互に溶け易くなる。そのため、冷媒回路(10)中に冷凍機油が流出しても、この冷凍機油は冷媒に溶け込んで圧縮機(30)に返送され易くなる。その結果、圧縮機(30)における油上がりを抑制することができ、圧縮機(30)の冷凍機油不足、更には潤滑不良を未然に回避することができる。よって、圧縮機(30)の信頼性を向上させることができる。
また、本実施形態では、冷凍機油の動粘度を40℃において30cSt以上400cSt以下としたため、摺動部の潤滑性能を充分確保することができる。さらに、冷凍機油の流動点を−30℃以下としたので、冷媒回路(10)における比較的低温部位でも冷凍機油の流動性を確保することができる。これらにより、圧縮機(30)の摺動部において冷凍機油の供給量や油膜強度を充分に確保することができる。その結果、圧縮機(30)における潤滑性能がさらに向上する。
また、本実施形態では、冷凍機油の表面張力を20℃において0.02N/m以上0.04N/m以下としたため、冷凍機油の油滴の大きさを最適にすることができる。これにより、冷凍機油の圧縮機(30)から多量に冷凍機油が吐出されることや、圧縮機(30)から吐出された冷凍機油が圧縮機(30)に戻りにくくなることを抑制することができる。その結果、圧縮機(30)において油上がりを抑制することができ潤滑不良を防止することができる。
また、本実施形態では、冷凍機油の塩素濃度および硫黄濃度をそれぞれ50ppm以下としたため、塩素および硫黄に起因する冷媒の劣化を抑制することができる。その結果、冷媒の劣化に伴う不純物の生成を抑制できるため、樹脂製機能部品である各軸受(41,42,43,44)や電動機(85)の絶縁材料の変性/劣化を効果的に抑制することができる。
また、本実施形態では、冷凍機油の潤滑性能が確保されるように、酸捕捉剤、極圧添加剤、酸化防止剤、消泡剤、油性剤および銅不活性化剤の6つの添加剤のうち少なくとも1つの添加剤が冷凍機油に添加されている。このため、冷凍機油の潤滑性能が低下することを抑制することができるので、圧縮機(30)において潤滑不良が生じることを抑制することができる。
また、本実施形態において、冷媒回路(10)の冷媒として、HFO−1234yfと高圧冷媒であるジフルオロメタンとの混合冷媒を用いることもできる。その場合、冷媒の圧力損失が空気調和装置(20)の運転効率に与える影響を小さくすることができる。よって、空気調和装置(20)の実際の運転効率を向上させることができる。
また、本実施形態において、冷媒回路(10)の冷媒として、HFO−1234yfと難燃性の冷媒であるペンタフルオロエタンとの混合冷媒を用いることもできる。その場合、冷媒回路(10)に充填された冷媒の燃焼性を充分に低下させることができ、空気調和装置(20)の信頼性を向上させることができる。
−実施形態の変形例1−
本実施形態の圧縮機(30)で用いられる冷凍機油は、ポリアルキレングリコール、ポリオールエステルおよびポリビニルエーテルの3種類の基油のうちポリオールエステルだけを主成分とする冷凍機油であってもよい。ポリオールエステルには、「脂肪族多価アルコールと直鎖状若しくは分岐鎖状の脂肪酸とのエステル」、「脂肪族多価アルコールと直鎖状若しくは分岐鎖状の脂肪酸との部分エステル」および「脂肪族多価アルコールと炭素数が3以上9以下の直鎖状若しくは分岐鎖状の脂肪酸との部分エステルと、脂肪族二塩基酸若しくは芳香族二塩基酸とのコンプレックスエステル」のうちの何れかが用いられている。これらのポリオールエステルは、ポリオールエステルの中でも、上記分子式で表され且つ分子構造中に二重結合を1個有する冷媒との相溶性に優れている。
「脂肪族多価アルコールと直鎖状または分岐鎖状の脂肪酸とのエステルまたは部分エステル」を形成する脂肪族多価アルコールには、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、ジトリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ソルビトール等を用いることができる。このうち脂肪族多価アルコールとしては、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールおよびトリペンタエリスリトールが好ましい。
また、脂肪酸には、炭素数が3以上12以下のものを用いることができ、例えばプロピオン酸、酪酸、ピバリン酸、吉草酸、カプロン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、イソ吉草酸、ネオペンタン酸、2−メチル酪酸、2−エチル酪酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルヘキサン酸、イソオクタン酸、イソノナン酸、イソデカン酸、2,2−ジメチルオクタン酸、2−ブチルオクタン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸を用いることができる。脂肪酸としては、炭素数が5以上12以下の脂肪酸が好ましく、炭素数が5以上9以下の脂肪酸がさらに好ましい。具体的には、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルヘキサン酸、イソオクタン酸、イソノナン酸、イソデカン酸、2,2−ジメチルオクタン酸、2−ブチルオクタン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸等が好ましい。
また、「脂肪族多価アルコールと炭素数が3以上9以下の直鎖状若しくは分岐鎖状の脂肪酸との部分エステルと、脂肪族二塩基酸若しくは芳香族二塩基酸とのコンプレックスエステル」では、炭素数が5以上7以下の脂肪酸が好ましく、炭素数が5または6の脂肪酸がさらに好ましい。具体的には、吉草酸、ヘキサン酸、イソ吉草酸、2−メチル酪酸、2−エチル酪酸またはその混合物が好ましい。また、炭素数が5の脂肪酸と炭素数が6の脂肪酸を重量比で10:90以上90:10以下の割合で混合した脂肪酸を使用することができる。
また、脂肪族二塩基酸には、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、ドコサンナ二酸がある。また、芳香族二塩基酸には、フタル酸、イソフタル酸がある。コンプレックスエステルを調製するためのエステル化反応は、多価アルコールと二塩基酸を所定の割合で反応させて部分エステル化した後に、その部分エステルと脂肪酸とを反応させる。なお、二塩基酸と脂肪酸の反応順序を逆にしてもよく、二塩基酸と脂肪酸を混合してエステル化に供してもよい。
−実施形態の変形例2−
本実施形態の圧縮機(30)で用いられる冷凍機油は、ポリアルキレングリコール、ポリオールエステルおよびポリビニルエーテルの3種類の基油のうちポリアルキレングリコールだけを主成分とする冷凍機油であってもよい。
この変形例2では、分子式:R1(R2)m(R3O)nR4(但し、mおよびnは整数で、R1およびR4は、水素、炭素数が1以上6以下のアルキル基、またはアリール基を表し、R2およびR3は、炭素数が1以上4以下のアルキル基を表す。)で表される分子構造のポリアルキレングリコールが用いられている。この分子構造のポリアルキレングリコールは、ポリアルキレングリコールの中でも、上記分子式で表され且つ分子構造中に二重結合を1個有する冷媒との相溶性に優れている。
−実施形態の変形例3−
本発明は、上述した軸受(41,42,43,44)や電動機(85)の絶縁材料以外のものも樹脂製機能部品とすることができる。
例えば、可動スクロール(76)、固定スクロール(75)、オルダムリング(79)等の摺動部の表面に、フッ素系樹脂、例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド樹脂の何れかから成る摺動部材を形成するようにしてもよい。また、四路切換弁(13)の弁体の摺動部に、フッ素系樹脂、例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド樹脂の何れかから成る摺動部材を適用してもよい。特に、弁体の摺動部では、上記ポリアミド樹脂として66ナイロンを用いることが好ましい。
また、本発明は、冷媒の漏れを防止するためのシール部材を樹脂製機能部品として適用することもできる。例えば図4では、可動スクロール(76)の可動側鏡板(76b)とハウジング(77)の上面との間にシール部材としてのシールリング(47)が介設されている。シールリング(47)は、ハウジング(77)の上側の空間を内外に仕切っている。つまり、シールリング(47)は、その内周側の高圧冷媒が、その外周側、即ち圧縮室(30)の吸入側に漏れるのを防止している。このシールリング(47)は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド、クロロプレンゴム、シリコンゴム、水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム、ヒドリンゴムの何れかで構成されるのが好ましい。これらの樹脂材料は、冷媒の劣化により生成した不純物に対して、比較的高い安定性を有する。その結果、上記の不純物の生成に伴って、シールリング(47)が劣化してしまうことを抑制することができる。
また、本発明が適用されるシール部材としては、例えばケーシング(70)の内周面とハウジング(77)の外周面との間に介設されるオーリングや、吸入管(56)や吐出管(57)の配管継手部に介設されるパッキン等も挙げられる。
《その他の実施形態》
上記実施形態は、以下のように構成してもよい。
例えば、上記実施形態において、ポリアルキレングリコール、ポリオールエステル、及びポリビニルエーテルのうち2つ以上を主成分とする冷凍機油を用いてもよい。
また、上記実施形態では、冷媒回路(10)の冷媒として、上記分子式:C3HmFn(但し、mおよびnは1以上5以下の整数で、m+n=6の関係が成立する。)で表され且つ分子構造中に二重結合を1個有する冷媒のうちHFO−1234yf以外の冷媒だけからなる単一組成の冷媒を用いてもよい。具体的には、1,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(「HFO−1234ze」といい、化学式はCF3−CH=CHFで表される。)、1,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(「HFO−1234ye」といい、化学式はCHF3−CF=CHFで表される。)、3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン(「HFO−1243zf」といい、化学式はCF3−CH=CH2で表される。)、1,2,2−トリフルオロ−1−プロペン(化学式はCH3−CF=CF2で表される。)、2−フルオロ−プロペン(化学式はCH3−CF=CH2で表される。)等を用いることができる。
また、上記実施形態では、冷媒回路(10)の冷媒として、上記分子式で表され且つ分子構造中に二重結合を1個有する冷媒(2,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン、1,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン、1,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン、3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン、1,2,2−トリフルオロ−1−プロペン、2−フルオロ−プロペン)に、それ以外の物質からなる副成分が混入された混合冷媒を用いてもよい。この混合冷媒を構成する副成分としては、例えば、1,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロペン(「HFO−1225ye」といい、化学式はCF3−CF=CHFで表される。)、1,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(「HFO−1234ze」といい、化学式はCF3−CH=CHFで表される。)、1,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(「HFO−1234ye」といい、化学式はCHF2−CF=CHFで表される。)、3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン(「HFO−1243zf」といい、化学式はCF3−CH=CH2で表される。)、1,2,2−トリフルオロ−1−プロペン(化学式はCH3−CF=CF2で表される。)、2−フルオロ−1−プロペン(化学式はCH3−CF=CH2で表される。)等を用いることができる。
また、上記実施形態では、上記分子式で表され且つ分子構造中に二重結合を1個有する冷媒(2,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン、1,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン、1,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン、3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン、1,2,2−トリフルオロ−1−プロペン、2−フルオロ−1−プロペン)に、HFC−32(ジフルオロメタン)、HFC−125(ペンタフルオロエタン)、HFC−134(1,1,2,2―テトラフルオロエタン)、HFC−134a(1,1,1,2―テトラフルオロエタン)、HFC−143a(1,1,1−トリフルオロエタン)、HFC−152a(1,1−ジフルオロエタン)、HFC−161、HFC−227ea、HFC−236ea、HFC−236fa、HFC−365mfc、メタン、エタン、プロパン、プロペン、ブタン、イソブタン、ペンタン、2−メチルブタン、シクロペンタン、ジメチルエーテル、ビス−トリフルオロメチル−サルファイド、二酸化炭素、ヘリウムのうち少なくとも1つを加えた混合冷媒を用いてもよい。
例えば、HFO−1234yfとHFC−32の2成分からなる混合冷媒を用いてもよい。例えば、78.2質量%のHFO−1234yfと、21.8質量%のHFC−32とからなる混合冷媒を用いることができる。なお、HFO−1234yfとHFC−32の混合冷媒は、HFO−1234yfの割合が70質量%以上94質量%以下でHFC−32の割合が6質量%以上30質量%以下であればよく、好ましくは、HFO−1234yfの割合が77質量%以上87質量%以下でHFC−32の割合が13質量%以上23質量%以下であればよく、さらに好ましくは、HFO−1234yfの割合が77質量%以上79質量%以下でHFC−32の割合が21質量%以上23質量%以下であるのがよい。
また、HFO−1234yfとHFC−125の混合冷媒を用いてもよい。この混合冷媒において、HFC−125の割合は、10質量%以上であるのが好ましく、10質量%以上20質量%以下であるのがさらに好ましい。
また、HFO−1234yfとHFC−32とHFC−125の3成分からなる混合冷媒を用いてもよい。この場合は、52質量%のHFO−1234yfと、23質量%のHFC−32と、25質量%のHFC−125とからなる混合冷媒を用いることができる。
また、上記実施形態について、ケイ酸や合成ゼオライトが乾燥剤として充填された乾燥器を冷媒回路(10)に設けてもよい。
また、上記実施形態では、圧縮機(30)がいわゆる横型に構成されていてもよい。さらに、上記実施形態について、圧縮機(30)が、レシプロ式、ロータリ式、スクリュー式などの他のタイプの圧縮機であってもよい。
また、上記実施形態では、冷房運転と暖房運転を選択的に行う空気調和装置(20)を冷凍装置によって構成しているが、冷凍装置の用途はこれに限定されるものではない。つまり、本発明の冷凍装置は、暖房専用の空気調和装置を構成するものであってもよいし、冷蔵庫や冷凍庫の庫内を冷却する冷却装置を構成するものであってもよいし、冷媒によって水を加熱する給湯装置を構成するものであってもよい。