第1の発明は、1,1,2−トリフルオロエチレンを含む冷媒を作動流体として用い、ポリオールエステル油を圧縮機用潤滑油として用い、鏡板から渦巻き状のラップが立ち上がる固定スクロール及び旋回スクロールを噛み合わせて双方向に形成される圧縮室を備え、前記旋回スクロールのラップ外壁側に形成される第1の圧縮室の吸入容積が、前記旋回スクロールのラップ内壁側に形成される第2の圧縮室の吸入容積より大きいものである。これによれば、第1の圧縮室15aの閉じ込み位置に至るまでの経路において、冷媒が加熱されることを抑制できるので、R1123の不均化反応を抑制できる。また、ポリオールエステル油のカルボニル基が、不均化反応が開始するきっかけとなるラジカルを補足するので、R1123の不均化反応を抑制できる。
第2の発明は、第1の発明において、前記作動流体は、ジフルオロメタンを含む混合作動流体であって、前記ジフルオロメタンは30重量%以上60重量%以下である、または、テトラフルオロエタンを含む混合作動流体であって、前記テトラフルオロエタンは30重量%以上60重量%以下である、または、ジフルオロメタンとテトラフルオロエタンを含む混合作動流体であって、前記ジフルオロメタンとテトラフルオロエタンとを混合し、
前記ジフルオロメタンとテトラフルオロエタンを合わせた混合割合は30重量%以上60重量%以下であるものである。これによれば、R1123の不均化反応を抑制するとともに、冷凍能力やCOPを向上できる。
第3の発明は、第1または2の発明において、前記ポリオールエステル油が、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールからなる群から選ばれた少なくとも1種を構成アルコールとするものである。これによれば、冷凍機油の粘度を自由に調整することができるため、ベーンとピストンの間の油膜を確保することができ摺動熱の発生を抑制できる。
第4の発明は、第1〜3のいずれか1つの発明において、前記ポリオールエステル油が、リン酸エステル系摩耗防止剤を含有するものである。これによれば摩耗防止剤が摺動部表面に吸着し摩擦を低減することで発熱を抑制することで、R1123冷媒の自己分解反応を抑制する。
第5の発明は、第1〜3のいずれか1つの発明において、前記ポリオールエステル油が、フェノール系酸化防止剤を含有するものである。これによればフェノール系酸化防止剤が摺動部にて発生したラジカルを速やかに捕捉するため、ラジカルが冷媒R1123と反応するのを防止する。
第6の発明は、第1〜3のいずれか1つの発明において、前記ポリオールエステル油が、1%以上50%未満のテルペン類またはテルペノイド類に基油より高粘度の潤滑油を混ぜるか、もしくはテルペン類またはテルペノイド類と同等量以上の超高粘度の潤滑油をあらかじめ混ぜて基油と同等の粘度に調整した添加油を基油と混合した潤滑油であるものである。これによれば、R1123の不均化反応を抑制できる。
第7の発明は、第1〜3のいずれか1つの発明において、前記旋回スクロールを駆動するモータ部を備え、前記モータ部は、熱硬化性絶縁材が導体上に絶縁被膜を介して塗布焼き付けされてなる電線をコイルに用いたものである。これによれば、圧縮機内の電動機用コイルの巻線に熱硬化性絶縁材を塗布することで、コイルが液冷媒に浸漬した状態でも巻線間の抵抗を高いまま保ち、放電を抑制しその結果R1123冷媒の分解を抑制できる。
第8の発明は、第1〜3のいずれか1つの発明において、前記圧縮室と前記モータ部とを収納する密閉容器を備え、前記密閉容器は、口部に絶縁部材を介して設置された給電ターミナルと、前記給電ターミナルをリード線と接続するための接続端子を有し、前記密閉容器の内側の給電ターミナル上に前記絶縁部材に密着させてドーナツ状の絶縁部材を配接するものである。これによれば、金属筐体内側の給電ターミナルに絶縁物を付加したため、導体間の最短距離を延長することで給電ターミナルの絶縁不良を抑制することができ、R1123の放電エネルギーによる着火を防止する。また、R1123が分解した際に発生するフッ化水素がガラス絶縁物と接触することを防止し、ガラス絶縁物が腐食して破損することを防止する。
第9の発明は、第1〜8のいずれか1つの発明の圧縮機と、前記圧縮機により圧縮されて高圧になった冷媒ガスを冷却する凝縮器と、前記凝縮器により液化された高圧冷媒を減圧する絞り機構と、前記絞り機構により減圧された冷媒をガス化する蒸発器と、を配管により連結して構成した冷凍サイクル装置である。これによれば、R1123の不均化反応を抑制するとともに、冷凍能力やCOPを向上できる。
第10の発明は、第9の発明において、凝縮器に設けられた凝縮温度検知手段を備え、前記作動流体の臨界温度と前記凝縮温度検知手段で検知される凝縮温度の差が、5K以上
になるように、前記絞り機構の開度を制御するものである。これによれば、温度検知手段によって測定される作動流体温度をその圧力に相当するとして、臨界圧力から安全性の余裕を考えた5K以上に高圧側作動流体温度(圧力)を制限するように、絞り機構の開度を制御することで、より高圧の凝縮圧力を過度に高まらないようにできるので、過度の圧力上昇の結果(分子間距離が近接した結果)、発生する恐れのある不均化反応を抑制することができ、装置の信頼性を確保することが可能となる。
第11の発明は、第9の発明において、圧縮機の吐出部と前記絞り機構の入口との間に設けられた高圧側圧力検知手段を備え、前記作動流体の臨界圧力と前記高圧側圧力検知手段で検知される圧力との差が、0.4MPa以上となるように、前記絞り機構の開度を制御するものである。これによれば、R1123を含む作動流体について、特に、温度勾配が大きい非共沸冷媒を使用する場合において、冷媒圧力をより正確に検知できること、さらには、その検知結果を用いて、絞り機構の開度制御を行い、冷凍サイクル装置内の高圧側圧力(凝縮圧力)を下げることができるので、不均化反応を抑制でき、装置の信頼性を向上することが可能となる。
第12の発明は、第9の発明において、凝縮器と前記絞り機構との間に設けられた凝縮器出口温度検知手段を備え、前記凝縮温度検知手段で検知される凝縮温度と前記凝縮器出口温度検知手段で検知される凝縮器出口温度の差が15K以下にするように、前記絞り機構の開度を制御するものである。
これによれば、凝縮温度検知手段と凝縮器出口温度検知手段との差で示される過冷度の検知結果を用いて絞り機構の開度制御を行うことで、冷凍サイクル装置内の作動流体の過度な圧力上昇を防ぐことができるので、不均化反応を抑制でき、装置の信頼性を向上することができる。
第13の発明は、第9の発明において、前記凝縮器で熱交換する第1媒体を搬送する第1搬送手段と、前記蒸発器で熱交換する第2媒体を搬送する第2搬送手段と、前記凝縮器に設けられた凝縮温度検知手段と、前記凝縮器に流入する前の第1の媒体の温度を検知する第1媒体温度検知手段と、前記蒸発器に流入する前の第2の媒体の温度を検知する第2媒体温度検知手段とを備え、前記圧縮機の入力の単位時間あたりの変化量、前記第1搬送手段の入力の単位時間当たりの変化量、前記第2搬送手段の入力の単位時間当たりの変化量があらかじめ定めた所定値より小さい場合に、前記凝縮温度検知手段で検知される凝縮温度の単位時間当たりの変化量が、前記第1媒体温度検知手段で検知される第1媒体の温度の単位時間当たりの変化量と、前記第2媒体温度検知手段で検知される第2媒体の温度の単位時間当たりの変化量のいずれよりも大きい場合には、前記絞り機構を開方向に制御するものである。これによれば、周囲媒体の様相が変化しない場合に、凝縮温度に急峻な変化が生じた場合には、不均化反応による圧力上昇が生じたと考えられるので、絞り機構の開度を開く方向に制御する。そうすることで、装置の信頼性を向上することが可能となる。
第14の発明は、第9〜13のいずれか1つの発明において、冷凍サイクルを構成する配管の継手の外周を、重合促進剤を含んだシール剤で覆ったものである。これによれば、継手から作動流体が漏れた場合には、シール剤に含まれる重合促進剤と、R1123を含む作動流体とが重合反応をして、重合生成物が発生するので、視覚的に漏れを確認しやすくなるとともに、その重合生成物が外部へ放出される冷媒流の妨げとして作用し、冷媒漏えい抑制が可能となる。
第15の発明は、第1〜8のいずれか1つの発明において、吐出室は、吐出孔を介して常に圧縮室と連通しているものである。これによれば、圧縮機構が圧縮動作を行わずに電
動機に電力供給され、電動機が発熱体として密閉容器内部の冷媒を加熱し、冷媒圧力が上昇したとしても、吐出孔を介して圧縮室にその圧力が作用し、圧縮機構を逆回転させて冷凍サイクルの低圧側へと密閉容器内の圧力を逃すため、不均化反応の発生条件となる異常圧力上昇を回避することが可能となる。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
(実施の形態1)
図6は、本発明の第1の実施の形態にかかる圧縮機を用いた冷凍サイクル装置のシステム構成図を示している。
図6に示されるように、本実施の形態の冷凍サイクル装置は、例えば冷房専用のサイクルとして説明した場合、主として圧縮機61、凝縮器62、絞り機構63および蒸発器64から構成されており、これらの機器は配管により作動流体(冷媒)が循環するように連結されている。
以上のように構成された冷凍サイクル装置においては、冷媒は加圧、冷却により液体に変化し減圧、加熱により気体に変化する。圧縮機61はモータにより駆動され、低温低圧の気体冷媒を高温高圧の気体冷媒に加圧し凝縮器62に搬送される。凝縮器62においてはファン等により送風される空気により冷却され凝縮し低温高圧の液体冷媒になる。この液体冷媒は絞り機構63により減圧されて一部は低温低圧の気体冷媒に、残りは低温低圧の液体冷媒となって、蒸発器64に搬送される。蒸発器64においてファン等により送風される空気により加熱されて蒸発し、低温低圧の気体冷媒となって再び圧縮機61に吸入され加圧されるサイクルを繰り返す。
また、上記実施の形態では冷房専用の冷凍サイクル装置として説明したが、四方弁等を介して暖房サイクル装置として作動させて実施できることはもちろん可能である。
なお、凝縮器62、蒸発器64の少なくともいずれか一方の熱交換器の冷媒流路を構成する伝熱管は、アルミニウム又はアルミニウム合金を含むアルミニウム製冷媒管であることが望ましく、特に、複数の冷媒流通孔を備えた偏平管であることが、凝縮温度を低下させる、または、蒸発温度を上昇させる上で望ましい。
本実施の形態の冷凍サイクル装置に封入される作動流体(冷媒)は、(1)R1123(1,1,2−トリフルオロエチレン)と、(2)R32(ジフオロメタン)からなる2成分系の混合作動流体であり、特に、R32が30重量%以上60重量%以下の混合作動流体である。
後述する圧縮機への適用においては、R1123にR32を30重量%以上混合することで、R1123の不均化反応を抑制できる。また、R32の濃度が高いほど不均化反応をより抑制できる。これは、R32のフッ素原子への分極が小さいことによる不均化反応を緩和する作用と、R1123とR32は物理特性が似ていることから凝縮・蒸発など相変化時の挙動が一体となることによる不均化の反応機会を減少させる作用とにより、R1123の不均化反応を抑制することができる。
また、R1123とR32の混合冷媒は、R32が30重量%、R1123が70%で共沸点を持ち、温度すべりがなくなる為、単一冷媒と同様な取り扱いが可能である。つまり、R32を60重量%以上混合すると、温度すべりが大きくなり、単一冷媒と同様な取り扱いが困難となる可能性があるため、R32を60重量%以下で混合することが望まし
い。特に、不均化を防止するとともに、共沸点に近づくため温度すべりをより小さくし、機器の設計が容易とするために、R32を40重量%以上50重量%以下で混合することが望ましい。
表1、表2は、R1123とR32の混合作動流体のうち、R32が30重量%以上60重量%以下となる混合割合での、冷凍サイクルの圧力、温度、圧縮機の押しのけ容積が同じ場合の冷凍能力およびサイクル効率(COP)を計算し、R410AとR1123と比較したものである。
まず、表1、表2の計算条件について説明する。近年、機器のサイクル効率を向上するため、熱交換器の高性能化が進み、実際の運転状態では、凝縮温度は低下し、蒸発温度は上昇する傾向にあり、吐出温度も低下する傾向にある。このため、実際の運転条件を考慮し、表1の冷房計算条件は、空気調和機器の冷房運転時(室内乾球温度 27℃、湿球温度 19℃、室外乾球温度 35℃)に対応し、蒸発温度は15℃、凝縮温度は45℃、圧縮機の吸入冷媒の過熱度は5℃、凝縮器出口の過冷却度は8℃とした。また、表2の暖房計算条件は、空気調和機器の暖房運転時(室内乾球温度 20℃、室外乾球温度 7℃、湿球温度 6℃)に対応した計算条件で、蒸発温度は2℃、凝縮温度は38℃、圧縮機の吸入冷媒の過熱度は2℃、凝縮器出口の過冷却度は12℃とした。
表1、表2より、R32を30重量%以上60重量%以下で混合することにより、冷房および暖房運転時に、R410Aと比較して、冷凍能力は約20%増加し、サイクル効率(COP)は94〜97%となり、温暖化係数はR410Aの10〜20%に低減できる。
以上説明したように、R1123とR32の2成分系において、不均化の防止、温度すべりの大きさ、冷房運転時・暖房運転時の能力、COPを総合的に鑑みると(すなわち、後述する圧縮機を用いた空気調和機器に適した混合割合を特定すると)、30重量%以上60重量%以下のR32を含む混合物が望ましく、さらに望ましくは、40重量%以上5
0重量%以下のR32を含む混合物が望ましい。
<作動流体の変形例1>
本実施の形態の冷凍サイクル装置に封入される作動流体は、(1)R1123(1,1,2−トリフルオロエチレン)と、(2)R125(テトラフオロエタン)からなる2成分系の混合作動流体であり特に、R125が30重量%以上60重量%以下の混合作動流体であってもよい。
後述する圧縮機への適用においては、R125を30重量%以上混合することで、R1123の不均化反応を抑制できる。また、R125の濃度が高いほど不均化反応をより抑制できる。これは、R125のフッ素原子への分極が小さいことによる不均化反応を緩和する作用と、R1123とR125は物理特性が似ていることから凝縮・蒸発など相変化時の挙動が一体となることによる不均化の反応機会を減少させる作用とにより、R1123の不均化反応を抑制することができる。また、R125は不燃性冷媒であるため、R125はR1123の燃焼性を低減できる。
表3、表4は、R1123とR125の混合作動流体のうち、R125が30重量%以上60重量%以下となる混合割合での、冷凍サイクルの圧力、温度、圧縮機の押しのけ容積が同じ場合の冷凍能力およびサイクル効率(COP)を計算し、R410AとR1123と比較したものである。なお、計算条件については、表1、表2と同様である。
表3、表4より、R125を30重量%以上60重量%以下で混合することにより、R410Aと比較して、冷凍能力は96〜110%となり、サイクル効率(COP)は94〜97%となる。
特に、R125を40重量%以上50重量%以下で混合することにより、R1123の不均化を防止するとともに、吐出温度を低減できるため、吐出温度が上昇する高付加運転
時や冷凍冷蔵機器の設計が容易となる。さらに、温暖化係数はR410Aの50〜100%に低減できる。
以上説明したように、R1123とR125の2成分系において、不均化の防止、燃焼性の低減、冷房運転時・暖房運転時の能力、COP、吐出温度を総合的に鑑みると(すなわち、後述する圧縮機を用いた空気調和機器に適した混合割合を特定すると)、30重量%以上60重量%以下のR125を含む混合物が望ましく、さらに望ましくは、40重量%以上50重量%以下のR125を含む混合物が望ましい。
<作動流体の変形例2>
本実施の形態の冷凍サイクル装置に封入される作動流体は、(1)R1123(1,1,2−トリフルオロエチレン)と、(2)R32(ジフオロメタン)、(3)R125(テトラフオロエタン)からなる3成分系の混合作動流体であり、特に、R32とR125を合わせた混合割合が30以上60重量%未満であり、R1123の混合割合が40重量%以上70重量%未満である混合作動流体であってもよい。
後述する圧縮機への適用においては、R32とR125を合わせた混合割合が30重量%以上で、R1123の不均化反応を抑制できる。また、R32とR125を合わせた混合割合が高いほど不均化反応をより抑制できる。また、R125はR1123の燃焼性を低減する。
表5、表6は、R32とR125の混合割合をそれぞれ50重量%と固定し、R1123と混合した場合の冷凍サイクルの圧力、温度、圧縮機の押しのけ容積が同じ場合の冷凍能力およびサイクル効率(COP)を計算し、R410AとR1123と比較したものである。なお、計算条件については、表1、表2と同様である。
表5、表6より、R32とR125を合わせた混合割合が30重量%以上60重量%以下で、R410Aと比較して、冷凍能力は107〜116%となり、サイクル効率(COP)は93〜96%となる。
特に、R32とR125を合わせた混合割合が40重量%以上50重量%以下で、不均化を防止するとともに、吐出温度を低減でき、燃焼性も低減できる。さらに、温暖化係数はR410Aの60〜30%に低減できる。
なお、<作動流体の変形例2>では、3成分系の作動流体のR32とR125の混合割合をそれぞれ50重量%として説明したが、R32の混合割合を0重量%以上100重量%以下でとしてもよく、冷凍能力を増加させたい場合はR32の混合割合を増加させ、反対にR32の混合割合を減少させ、R125の混合割合を増加させると、吐出温度を低減させ、そして燃焼性を低減さることができる。
以上説明したように、R1123とR32とR125の3成分系において、不均化の防止、燃焼性の低減、冷房運転時・暖房運転時の能力、COP、吐出温度を総合的に鑑みると(すなわち、後述する圧縮機を用いた空気調和機器に適した混合割合を特定すると)、R32とR125を混合し、R32とR125との和を30重量%以上60重量%以下とした混合物が望ましく、さらに望ましくは、R32とR125との和を40重量%以上50重量%以下を含む混合物が望ましい。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るスクロール圧縮機の縦断面図、図2は図1の圧縮機構部の要部拡大断面図である。以下、スクロール圧縮機について、その動作、作用を説明する。
図1に示すように第1の実施の形態に係るスクロール圧縮機は、密閉容器1と、その内部に圧縮機構2、モータ部3、貯油部20を備えて構成されている。図2を用いて圧縮機構部の詳細を説明すると、密閉容器1内に溶接や焼き嵌めなどして固定したシャフト4の主軸受部材11と、この主軸受部材11上にボルト止めした固定スクロール12との間に、固定スクロール12と噛み合う旋回スクロール13を挟み込んでスクロール式の圧縮機構2を構成している。固定スクロール12および旋回スクロール13は、それぞれ鏡板から渦巻き状のラップが立ち上がった(突出した)構造を有している。
旋回スクロール13と主軸受部材11との間には、旋回スクロール13の自転を防止して円軌道運動するように案内するオルダムリングなどによる自転拘束機構14を設け、シャフト4の上端にある偏心軸部4aにて旋回スクロール13を偏心駆動することにより、旋回スクロール13を円軌道運動させる。これにより固定スクロール12と旋回スクロール13との間に形成している圧縮室15が、外周側から中央部に向かって容積を縮めながら移動することを利用して、密閉容器1外に通じた吸入パイプ16及び固定スクロール12の外周部の吸入口17から作動流体を吸入して、圧縮室15に閉じ込んだのち圧縮を行う。所定の圧力に到達した作動流体は、固定スクロール12の中央部の吐出孔18からリード弁19を押し開いて、吐出室22に吐出される。吐出室22は、吐出孔18を覆うように固定スクロール12の鏡板面に設けられたマフラ24により形成された空間である。吐出室22に吐出された作動冷媒は、圧縮機構部に設けられた連通路を介して、密閉容器1内に吐出される。密閉容器1内に吐出された作動冷媒は、吐出管23を介して、密閉容器1から冷凍サイクルへと吐出される。
なお、リード弁19の過剰な変形による損傷を避けるため、リフト量を規制するバルブストップ21を設けている。なお、リード弁19は、例えば、固定スクロール12の鏡板のバイパス孔68の形成位置における鏡板面に設けられている。
図3は固定スクロール12に旋回スクロール13を噛み合わせた図である。図3に示すように、固定スクロール12と旋回スクロール13により形成される圧縮室15には、旋回スクロール13のラップ外壁側に形成される第1の圧縮室15aと、ラップ内壁側に形成される第2の圧縮室15bがあり、第1の圧縮室15aの吸入容積の方が、第2の圧縮室15bの吸入容積より大きい。すなわち作動流体を閉じ込めるタイミングが異なるため、対となる第1の圧縮室15aと第2の圧縮室15bの圧力も異なる。
図4は第1の圧縮室15aと第2の圧縮室15bの圧力上昇カーブを示したものである。本来は第1の圧縮室15aと第2の圧縮室15bは閉じ込みのタイミングが異なるので、圧力カーブの開始点は一致しないが、ここでは違いを明確にするため閉じ込みのタイミングを一致させたグラフを用いて説明する。図4より、吸入容積の小さい第2の圧縮室15bの方が、第1の圧縮室15aに比べ、圧力変化率が大きいことが分かる。すなわち1つ前に形成された第2の圧縮室15b−1と、次に形成された第2の圧縮室15b−0の圧力差ΔPbが、同じく第1の圧縮室の圧力差ΔPaより大きいということになり、第2の圧縮室15bに関してはラップの径方向接点部を介して作動流体が漏れやすいことになる。
またシャフト4の一端にはポンプ25が設けられ、ポンプ25の吸い込み口が貯油部20内に存在するように配置する。ポンプ25はスクロール圧縮機と同時に駆動されるため、ポンプ25は密閉容器1の底部に設けられた貯油部20にあるオイル(圧縮機用潤滑油、冷凍機油)6を、圧力条件や運転速度に関係なく、確実に吸い上げることができ、オイル切れの心配も解消される。ポンプ25で吸い上げたオイル6は、シャフト4内を通縦しているオイル供給穴26を通じて圧縮機構2に供給される。なお、オイル6をポンプ25で吸い上げる前もしくは吸い上げた後に、オイルフィルタ等でオイル6から異物を除去すると、圧縮機構2への異物混入が防止でき、更なる信頼性向上を図ることができる。
圧縮機構2に導かれたオイル6は、スクロール圧縮機の吐出圧力とほぼ同等であり、旋回スクロール13に対する背圧源ともなる。これにより、旋回スクロール13は固定スクロール12から離れたり片当たりしたりするようなことはなく、所定の圧縮機能を安定して発揮する。さらにオイル6の一部は、供給圧や自重によって、逃げ場を求めるようにして偏心軸部4aと旋回スクロール13との嵌合部、シャフト4と主軸受部材11との間の軸受部66に進入してそれぞれの部分を潤滑した後落下し、貯油部20へ戻る。
また第1の圧縮室15aと第2の圧縮室15bの作動流体を閉じ込める位置に関して、一般的な対称スクロールでは、図3の破線で示すように固定スクロール12の渦巻きの巻き終わり部が外側へと逃がしてあり、旋回スクロール13と接点をもたないように形成されている。この場合、第1の圧縮室15aの閉じ込み位置は図3のT点となり、作動流体がT点に至る経路で加熱されてしまい、R1123は、R410Aなどの従来の冷媒に比べて安定性が低く、重合反応や大きな熱放出を伴う不均化反応を生じる恐れがある。
そこで第1の圧縮室15aと第2の圧縮室15bの作動流体を閉じ込める位置が、略180度ずれるよう渦巻きラップを構成する。具体的には、固定スクロール12と旋回スクロール13を噛み合わせた状態で、固定スクロール12の渦巻きラップを旋回スクロール13の渦巻きラップと同等まで延長するものである。この場合、第1の圧縮室15aが作動流体を閉じ込める位置は図3のS点となり、第1の圧縮室15aを閉じ込めた後、シャフト4の回転が180度程度進んでから第2の圧縮室15bを閉じ込めることになる。これにより、第1の圧縮室15aに対して吸入加熱による冷媒温度上昇の影響を最も小さくすることができ、さらに最大吸入容積を確保することができる。すなわちラップ高さを低く設定でき、その結果ラップの径方向接点部の漏れ隙間(=漏れ断面積)を縮小すること
ができるので、漏れ損失の更なる低減が可能となる。
また旋回スクロール13の背面13eに、高圧領域30と、高圧と低圧の中間圧に設定された背圧室29を形成し、給油経路50を複数設け、その一部もしくは全てが背圧室29を経由するよう構成する。背面13eから圧力付加により、旋回スクロール13は固定スクロール12に安定的に押し付けられ、背圧室29から圧縮室15への漏れを低減するとともに、安定した運転を行うことができる。さらに給油経路50を複数にすることで、必要な箇所へ必要な分だけ給油を行うことができる。例えば圧縮室15を閉じ込める前の吸入行程においては、ある程度のシールオイルは必要であるものの、大量のオイルが供給されると作動流体の吸入過熱が起こり、体積効率低下を引き起こしてしまう。また圧縮途中においても同様に、大量に供給されると粘性損失による入力増大を引き起こしてしまう。そこで、各箇所に必要な分だけ給油するのが理想的で、それを実現するために給油経路50を複数形成する。また背圧室29を経由することで供給する圧縮室15との圧力差を小さくできる。例えば、吸入行程もしくは圧縮途中に対し、高圧領域30からのオイルを直接供給するより、中間圧に設定された背圧室29からのオイルを供給する方が、圧力差が小さくなるため、必要最低限の極小給油が可能となる。すなわち過剰な給油を防止でき、吸入加熱による性能低下や粘性損失による入力増大等を抑制することができる。
また旋回スクロール13の背面13eにシール部材78を配置し、シール部材78の内側を高圧領域30、シール部材78の外側を背圧室29に区画し、給油経路50の少なくとも1つを、高圧領域30から背圧室29への背圧室給油経路51と、背圧室29から第2の圧縮室15bへの圧縮室給油経路52から構成させる。シール部材78を用いることにより、高圧領域30と背圧室29の圧力が完全に分離できるため、旋回スクロール13の背面13eからの圧力付加を安定的に制御することが可能となる。また高圧領域30から背圧室29への背圧室給油経路51を設けることで、自転拘束機構14の摺動部や、固定スクロール12と旋回スクロール13のスラスト摺動部にオイル6を供給することができる。また背圧室29から第2の圧縮室15bへの圧縮室給油経路52を設けることで、第2の圧縮室15bへの給油量を積極的に増やすことができ、第2の圧縮室15bにおける漏れ損失を抑制することが可能となる。
また背圧室給油経路51の一開口端51bを旋回スクロール13の背面13eに形成し、シール部材78を往来させ、他方の開口端51aは常時高圧領域30に開口させておく。これにより間欠給油が実現できる。
図5は固定スクロール12に旋回スクロール13を噛み合わせ、旋回スクロール13の背面から見た状態であり、位相を90度ずつずらした図である。図5に示すように、シール部材78で旋回スクロール13の背面領域は内側の高圧領域30と外側の背圧室29に仕切られている。(II)の状態で開口端51bがシール部材78の外側である背圧室29に開口しているため、オイルが供給される。これに対し(I)(III)(IV)では、開口端51bはシール部材78の内側に開口しているため、オイルが供給されることはない。
すなわち背圧室給油経路51の一開口端51bが高圧領域30と背圧室29を往来することになるが、背圧室給油経路51の両開口端51a、51bで圧力差が生じたときのみ背圧室29へとオイル6は供給される。この構成にすると、給油量は開口端51bがシール部材78を往来する割合で調整できるため、背圧室給油経路51の通路径をオイルフィルタに対し10倍以上の寸法で構成することが可能となる。
これにより、通路に異物が噛み込んで閉塞する恐れがなくなるため、安定した背圧の印加と同時にスラスト摺動部及び自転拘束機構14の潤滑も良好な状態を維持でき、高効率
かつ高信頼性を実現するスクロール圧縮機を提供することができる。なお本実施の形態では、開口端51aが常時高圧領域30にあり、開口端51bが高圧領域30と背圧室29を往来する場合を例として説明したが、開口端51aが高圧領域30と背圧室29を往来し、開口端51bが常時背圧室29にある場合でも、両開口端51a、51bで圧力差が生じるため、間欠給油が実現でき同様の効果が得られる。
旋回スクロール13の背面13eからの圧力付加が不十分な場合、旋回スクロール13が固定スクロール12から離れるチルティング現象を引き起こす恐れがある。チルティング状態では、背圧室29から閉じ込み前の圧縮室15へ作動流体が漏れるため、体積効率が悪化する。これを発生させないために、背圧室29は所定の圧力を維持する必要がある。そこで、作動流体を閉じ込んだ後の第2の圧縮室15bと背圧室29が連通するように圧縮室給油経路52を構成する。これにより、背圧室29の圧力は吸入圧力より高い所定の圧力となるため、チルティング現象を防止することができ、高効率を実現することが可能となる。また仮にチルティングが発生しても、第2の圧縮室15bの圧力を背圧室29へと導くことが可能であるため、正常運転への早期復帰が可能となる。
本実施の形態では、旋回スクロール13のラップ外壁側に形成される第1の圧縮室15aの吸入容積を、旋回スクロール13のラップ内壁側に形成される第2の圧縮室15bの吸入容積より大きくしている。これにより、第1の圧縮室15aの閉じ込み位置に至るまでの経路を短く構成することができ、圧縮開始前に冷媒が加熱されることを抑制できるので、R1123の不均化反応を抑制できる。
また、本実施の形態の圧縮機は、圧縮機用潤滑油(冷凍機油)として、ポリオールエステル油が使用されている。本発明のポリオールエステルはとくに限定されるものではないが、構成アルコールとしてネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールからなる群から選ばれた少なくとも1種を用いることで冷凍機油の粘度を幅広く調整することができて好ましい。これによれば、冷凍機油の粘度を自由に調整することができるため、ベーンとピストンの間の油膜を確保することができ摺動熱の発生を抑制できる。ポリオールエステル油のカルボニル基が、不均化反応が開始するきっかけとなるラジカルを補足するので、R1123の不均化反応を抑制できる。
また、本発明のポリオールエステルの構成脂肪酸としては特に限定されるものではないが、炭素数6から12の脂肪酸を用いるのが最適である。構成脂肪酸が直鎖脂肪酸であっても分岐鎖脂肪酸であっても構わないが、直鎖脂肪酸の方がカルボニル基がアルキル基に立体的に遮蔽されていないためにラジカルをトラップする能力が高い。
また、圧縮機用潤滑油に添加される添加剤としては摩耗防止剤、酸化防止剤、重合抑制剤、反応物吸着剤を用いることができる。摩耗防止剤としては、リン酸エステル系・亜リン酸エステル系・チオリン酸塩系等があるが、冷凍サイクルに悪影響を及ぼしにくい、リン酸エステル系が最適である。
リン酸エステル系として具体的にはトリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリヘプチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリノニルホスフェート、トリデシルホスフェート、トリウンデシルホスフェート、トリドデシルホスフェート、トリトリデシルホスフェート、トリテトラデシルホスフェート、トリペンタデシルホスフェート、トリヘキサデシルホスフェート、トリヘプタデシルホスフェート、トリオクタデシルホスフェート、トリオレイルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート等が挙げられる。通常、リン酸
エステル系摩耗防止剤は冷凍機油中に0.1〜3wt%添加することで、摺動部表面に効率的に吸着して摺動面でせん断力の小さな膜を作成することで摩耗防止効果が得られる。
これによれば、摩耗防止剤が摺動部表面に吸着し摩擦を低減することで発熱を抑制することで、R1123冷媒の自己分解反応を抑制する。
また、フェノール系酸化防止剤としては、具体的にプロピルガレート、2,4,5−トリヒドロキシブチロフェノン、t−ブチルヒドロキノン、ノルジヒドログアイヤレチン酸、ブチルヒドロキシアニソール、4−ヒドロキシメチル−2,6−ジ−t−ブチルフェノール、オクチルガレート、ブチルヒドロキシトルエン、ドデシルガレート等を用いることができる。これら酸化防止剤は基油に対して0.1〜1wt%添加することでラジカルを効率的に捕捉し反応を防止することができる。また酸化防止剤による基油自体の着色を最小限に抑えることができる。
これによれば、フェノール系酸化防止剤が、密閉容器1内で発生したラジカルを効率的に捕捉することで、R1123の分解反応を抑制する効果が得られる。
またR1123のような2重結合とフッ素原子を含む反応性の高い分子の反応を防ぐために、R1123の冷媒量に対して5%程度のリモネンを添加してもよい。本発明の圧縮機およびそれを用いた冷凍サイクル装置は密閉系であり、前述したように潤滑油が基油として封入されている。一般的にこのような圧縮機に封入される基油となる潤滑油の粘度は32mm2/sから68mm2/s程度が一般的であり、一方リモネンの粘度は0.8mm2/s程度とかなり低粘度であり、5%程度混ぜた場合には60mm2/s、15%混ぜた場合には48mm2/s、35%混ぜた場合には32mm2/sと急激に粘度が下がる。そのためR1123の反応を防ぐために多量のリモネンを混ぜると、潤滑油の粘度低下から潤滑不良による磨耗や、摺動面の金属接触による金属せっけんの生成など、圧縮機や冷凍サイクル装置の信頼性に影響する。
本実施の形態の圧縮機の潤滑油は、反応を防ぐに適した量のリモネンの混合によって生じる基油の粘度低下を補うために、あらかじめ高粘度の潤滑油をベースにするか、リモネンの混合量と同等以上の量の超高粘度の潤滑油を混ぜることによって適正な潤滑油粘度を確保するものである。
具体的には5%リモネンを混合する場合の潤滑油の粘度は78mm2/s、35%リモネンを混合する場合の潤滑油の粘度は230mm2/s程度のものを選択すれば68mm2/sを確保できる。なおリモネンによるR1123の反応を防ぐ効果を最大とするため、リモネンの混合量を70%や80%に増やすなど極端な例も考えられるが、ベースとなる高粘度の潤滑油の粘度がそれぞれ8500mm2/sや25000mm2/sとなりISO規格の最大値である3200mm2/sを超え、またリモネンとの均一な混合も難しく実用的な適用は困難と考えられる。
また超高粘度潤滑油をリモネンと等量混合する場合には、800mm2/sから1000mm2/sの潤滑油を混合すれば32mm2/sから68mm2/sの粘度が得られる。なお、粘度差の異なるリモネンと超高粘度油を混合する場合に、リモネンに超高粘度油を少量ずつ添加しながら混合すれば比較的均一な組成粘度の潤滑油が得られる。
なお本実施の形態ではリモネンを例にしたが、テルペン類またはテルペノイド類ならば同様の効果が得られ、例えばヘミテルペン類のイソプレン、プレノール、3−メチルブタン酸やモノテルペン類のゲラニル二リン酸、シネオール、ピネンやセスキテルペン類のファルネシル二リン酸、アーテミシニン、ビサボロール、ジテルペン類のゲラニルゲラニル
二リン酸、レチノール、レチナール、フィトール、パクリタキセル、ホルスコリン、アフィジコリンやトリテルペン類のスクアレン、ラノステロールなど圧縮機や冷凍サイクル装置の使用温度や要求される潤滑油粘度に応じて選択することができる。
また、例記した粘度については高圧容器を有する圧縮機での具体例であり、さらに5mm2/sから32mm2/sの低い潤滑油の粘度で使用される低圧容器の圧縮機でも同様の実施が可能であり、同様の効果が得られることは言うまでもない。
なお、リモネンなどのテルペン類とテルペノイド類はプラスチックに対して溶解性を有するが、30%以下程度の混合ならばその影響は僅かであり、圧縮機内のプラスチックに要求される電気絶縁性が問題となるレベルではない。しかし長期的な信頼性が要求される場合や、常時使用温度が高い場合など、問題がある場合には耐薬品性を有するポリイミド、ポリイミドアミドやポリフェニレンスルファイドを使用することが望ましい。
また、本実施の形態の圧縮機のモータ部3の巻き線は、ワニス(熱硬化性絶縁材)が、導体上に絶縁被膜を介して塗布焼き付けされている。熱硬化性絶縁材は、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられる。この中でポリイミド樹脂は、前駆体であるポリアミド酸の状態で塗布し300℃前後で焼き付けることによりポリイミド化することができる。イミド化反応はアミンとカルボン酸無水物の反応により起こることが知られている。R1123冷媒は電極間のショートでも反応する可能性があるため、モータ巻線上に芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物とを反応させてできるポリイミド前駆体を主成分とするポリイミド酸ワニスを塗布することで電極間のショートを防止できる。
このため、モータ部3のコイルが液冷媒に浸漬した状態でも巻線間の抵抗を高いままに保つことが可能になり、巻線間の放電を抑制しその結果R1123冷媒の自己分解反応を抑制する効果が得られる。
図4は本実施の形態に係る圧縮機の給電ターミナル付近の構造を示した部分断面図である。図4において、71は給電ターミナル、72はガラス絶縁物、73は給電用端子を保持する金属製蓋体、74は給電ターミナルに接続した旗型端子、75はリード線である。本実施の形態に係る圧縮機では、圧縮機の密閉容器1の内側の給電ターミナル上に前記絶縁部材と密着させたドーナツ状の絶縁部材76を配接している。ドーナツ状の絶縁部材は絶縁性を保つものでフッ酸に耐性を有するものが最適である。たとえば、セラミック製ガイシやHNBRゴム製ドーナツ型スペーサなどが挙げられる。ドーナツ状の絶縁部材はガラス絶縁物と密着することは必須であるが、接続端子とも密着している方が好ましい。
このように構成された給電ターミナルは、ドーナツ状の絶縁部材により給電端子と蓋体の圧縮機内面での沿面距離が長くなっており、ターミナルトラッキングを防止しR1123の放電エネルギーによる着火を防止することができる。またR1123の分解により発生したフッ酸がガラス絶縁物を腐食することを防止する。
なお、本実施の形態の圧縮機は、吐出孔18が密閉容器1内に開放され、密閉容器1内が圧縮室15で圧縮された冷媒で満たされる、いわゆる高圧シェル型の圧縮機でもよいが、吸入孔18が密閉容器1内に開放され、密閉容器1内が圧縮室15で圧縮される前の冷媒で満たされる、いわゆる低圧シェル型の圧縮機であれば、密閉容器1内で加熱されて圧縮室15内に導入されるまでの間に温度上昇が生じやすい構成において、圧縮室15での低温冷媒導入による低温化がより顕著となり、R1123の不均化反応を抑制する上で望ましい。
また、高圧シェル型の圧縮機でも、吐出孔18から吐出された冷媒をモータ部3の周囲を通過させ、密閉容器1内でモータ部3で加熱された後に、吐出管23から密閉容器1の外へ吐出されるように構成してもよい。これによれば、吐出管23から吐出される冷媒の温度が同等としても、圧縮室15での冷媒温度を低下させることができるため、R1123の不均化反応を抑制する上で望ましい。
(実施の形態2)
図8に、本発明の第2の実施の形態に係る冷凍サイクル装置101を示す。本実施の形態の冷凍サイクル装置101は、圧縮機102、凝縮器103、絞り機構である膨張弁104、蒸発器105の順に冷媒配管106で接続し、冷凍サイクル回路を構成している。冷凍サイクル回路内には、作動流体(冷媒)が封入されている。
次に、冷凍サイクル装置の構成について説明する。
凝縮器103、蒸発器105には、周囲媒体が空気の場合には、フィンアンドチューブ型熱交換器やパラレルフロー形(マイクロチューブ型)熱交換器などが用いられる。
一方、周囲媒体がブライン、もしくは、二元式冷凍サイクルの冷媒の場合の凝縮器103、蒸発器105には、二重管熱交換器やプレート式熱交換器、シェルアンドチューブ熱交換器が用いられる。
膨張弁104には、例えば、パルスモータ駆動方式の電子膨張弁などが使用される。
冷凍サイクル装置101には、凝縮器103において、冷媒と熱交換する周囲媒体(第1の媒体)を、凝縮器103の熱交換面へと駆動(流動)する流体機械(第1搬送手段)107aが設置されている。また、冷凍サイクル装置101には、蒸発器105において、冷媒と熱交換する周囲媒体(第2の媒体)を、蒸発器105の熱交換面へと駆動(流動)する流体機械(第2搬送手段)107bが設置されている。
周囲媒体としては、大気中の空気が用いられることもあれば、水、もしくは、エチルグリコールなどのブラインが用いられる場合もあるし、冷凍サイクル装置101が二元式冷凍サイクルの場合には、冷凍サイクルおよび作動温度域に好ましい冷媒、例えば、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、ハイドロカーボン(HC)、二酸化炭素などが用いられる。
周囲媒体を駆動する流体機械107a、bには、周囲媒体が空気の場合、プロペラファンなどの軸流送風機、横流送風機、ターボ送風機などの遠心送風機が使用され、周囲媒体がブラインの場合には、遠心ポンプなどが使用される。
なお、冷凍サイクル装置101が二元式冷凍サイクルの場合には、周囲媒体搬送用の流体機械107a、107bは圧縮機がその役目を負う。
凝縮器103において、その内部を流れる冷媒が二相(ガスと液が混合した状態)で流れる箇所(以下、本明細書では「凝縮器の二相管」と称する)には、凝縮温度検知手段110aが設置されており、冷媒温度が測定可能となっている。
また、凝縮器103出口と膨張弁104入口との間には、凝縮器出口温度検知手段110bが設置されている。凝縮器出口温度検知手段110bは、膨張弁104入口の過冷度(膨張弁入口温度から凝縮器温度を引いた値)を検出可能としている。
蒸発器105において、その内部を流れる冷媒が二相で流れる箇所(以下、本明細書では「蒸発器の二相管」と称する)には、蒸発温度検知手段110cが設けられ、蒸発器105内の冷媒の温度の計測が可能となっている。
圧縮機102吸入部(蒸発器105出口と圧縮機102入口との間)には、吸入温度検知手段110dが設けられている。これにより、圧縮機102に吸入される冷媒の温度(吸入温度)の計測が可能となっている。
温度検知手段110a〜110dには、例えば、冷媒が流れる配管や伝熱管の外管で接触接続された電子式サーモスタットが使用されている場合もあれば、直接、作動流体と接触するさや管方式の電子式サーモスタットが使用されている場合もある。
凝縮器103出口と膨張弁104入口との間には、冷凍サイクルの高圧(圧縮機102出口から膨張弁104入口までの冷媒が高圧で存在する領域)側の圧力を検知する高圧側圧力検知手段115aが設置されている。
膨張弁104出口には、冷凍サイクルの低圧(膨張弁104出口から圧縮機102入口までの冷媒が低圧で存在する領域)側の圧力を検知する低圧側圧力検知手段115bが設置されている。
圧力検知手段115a、115bとしては、例えば、ダイヤフラムの変位を電気的信号に変換するものなどが用いられる。なお、高圧側圧力検知手段115aと低圧側圧力検知手段115bに替えて、差圧計(膨張弁104出入口の圧力差を計測する計測手段)を使用してもよい。
なお、以上の構成の説明において、温度検知手段110a〜110d、圧力検知手段115a、115bをすべて備えるものとして説明しているが、後述する制御において、検出値を用いない検知手段を省略できることは、いうまでもない。
冷凍サイクル装置101の制御方法について説明する。まず、通常の運転時での制御について説明する。
通常の運転時には、吸入温度検知手段110dと蒸発温度検知手段110cとの温度差である、圧縮機102の吸入部での作動流体の過熱度を計算する。そして、この過熱度があらかじめ定められた目標過熱度(例えば、5K)となるように、膨張弁104を制御する。
あるいは、圧縮機102の吐出部に吐出温度検知手段(図示せず)をさらに設け、その検出値を用いて、制御を行うことも可能である。この場合には、吐出温度検知手段と凝縮温度検知手段110aとの温度差である、圧縮機102の吐出部での作動流体の過熱度を計算する。そして、この過熱度があらかじめ定められた目標過熱度となるように、膨張弁104を制御する。
次に、不均化反応が起こる可能性が高まる特異な運転状態となった場合の制御について説明する。
本実施の形態においては、凝縮温度検知手段110aの温度検出値が過大になった場合には、膨張弁104を開き、冷凍サイクル装置101内の高圧側作動流体圧力・温度を下げる制御を行う。
一般的に、二酸化炭素を除いた冷媒では、臨界点(後述の図9においてTcriと記載された点)を超えた超臨界条件とならないようにする必要がある。超臨界状態においては、物質はガスでも液体でもない状態となり、その挙動は不安定かつ活発である。
ここで、本実施の形態においては、この臨界点での温度(臨界温度)を一つの目安として、この温度より、あらかじめ定められた値(5K)以内には凝縮温度が近づかないように、膨張弁104の開度を制御するものである。なお、R1123を含む作動流体(混合冷媒)を使用する場合には、その混合冷媒の臨界温度を用いて、作動流体の温度が(臨界温度−5)℃以上にならないように制御される。
具体的には、図9のモリエル線図を用いて説明する。図9において、不均化反応発生の原因となる過大な圧力条件下にある冷凍サイクルを実線(EP)で示し、破線(NP)で正常運転下にある冷凍サイクルを示す。
もし、凝縮器103の二相管に設けられた凝縮温度検知手段110aでの温度値が、あらかじめ制御装置に記憶された臨界温度に対して、5K以内となると(図9中のEP)、膨張弁104開度を開く側に制御する。その結果、図9のNPのように、冷凍サイクル装置101の高圧側である凝縮圧力が低下するので、冷媒圧力の過度な上昇によって生じる不均化反応を抑制することが可能となるか、不均化反応が生じた場合においては、圧力上昇を抑制することが可能となる。
なお、凝縮温度検知手段110aによって計測された凝縮温度から、間接的に凝縮器103内圧力を把握し、膨張弁104開度を制御する上述の制御方法は、R1123を含んだ作動流体が共沸、もしくは、擬共沸で、凝縮器103内のR1123を含む作動流体の露点と沸点に温度差(温度勾配)がないか、小さい場合には、凝縮圧力の代わりに、凝縮温度を指標として用いることができるので、特に好ましい。
<制御方法の変形例1>
あるいは、上述のように、臨界点温度と凝縮温度とを比較することで、間接的に、冷凍サイクル装置101の高圧(凝縮器内冷媒圧力)状態を検知して、適切な動作を膨張弁104などに指示する制御方法に替えて、直接測定した圧力を元にして、膨張弁104開度制御を行うものであってもよい。
図10は、この制御動作をモリエル線図に示した図である。図10において、圧縮機吐出部から凝縮器、膨張弁入口にかけて、過度な圧力上昇が生じつつある状態の冷凍サイクルを実線(EP)で示し、破線(NP)で上述の過度な圧力状態から脱した状態の冷凍サイクルを示す。
運転中において、あらかじめ制御装置に記憶された臨界点での圧力(臨界圧力)Pcriから、例えば高圧側圧力検知手段115aで検知される凝縮器出口圧力Pcondを引いた圧力差があらかじめ定められた値(Δp=0.4MPa)より小さくなった場合(図10中のEP)には、圧縮機102吐出から膨張弁104入口にかけて、R1123を含む作動流体にて不均化反応が生じたか、もしくは、生じる恐れが高いと判定して、この高圧条件下の持続を避けるように、膨張弁104開度を開く側に制御する。
その結果、図10中の冷凍サイクルは図中のNPのように高圧(凝縮圧力)が下がる側に作用し、不均化反応発生の原因となる、もしくは、不均化反応後生じる圧力上昇を抑制する。
本制御方法は、R1123を含む作動流体において、非共沸状態である場合、とりわけ
、凝縮圧力において温度勾配が大きい場合に使用するのが好ましい。
<制御方法の変形例2>
あるいは、臨界温度や臨界圧力を基準とした制御方法に替えて、過冷度に基づく制御方法であってもよい。図11は、この制御動作をモリエル線図に示した図である。図11において、不均化反応発生の原因となる過大な圧力条件下にある冷凍サイクルをEPとし、実線で示し、正常運転下にある冷凍サイクルをNPとし、破線で示す。
一般に、冷凍サイクル装置において、膨張弁、圧縮機等の冷凍サイクルの適正な制御、熱交換器サイズ、冷媒充填量適正化によって、凝縮器内冷媒の温度は、周囲媒体に対して、一定程度温度が高くなるように設置される。過冷度については、5K程度の値をとるのが一般的である。同様の冷凍サイクル装置を使用するR1123を含む作動流体においても同様な措置がとられる。
上記のような措置がとられた冷凍サイクル装置において、もし、冷媒圧力が過度に高くなると、図11のEPに示す通り、膨張弁104入口の過冷度も上昇する傾向がある。そこで、本実施の形態では、膨張弁104入口の冷媒の過冷度を基準として、膨張弁104の開度を制御している。
なお、本実施形態においては、正常運転時の膨張弁104入口での冷媒の過冷度を5Kと考え、その値の3倍の15Kを目安として、膨張弁104開度を制御することにしている。閾値とする過冷度を3倍としたのは、運転条件によっては、その範囲で過冷度が変化する可能性があるからである。
具体的に、まず、過冷度を凝縮温度検知手段110aと凝縮器出口温度検知手段110bの検出値から算出する。過冷度は、凝縮温度検知手段110aに検出値から凝縮器出口温度検知手段110bの検出値を引いた値である。そして、膨張弁104入口での過冷度があらかじめ定められた値(15K)に達すると、膨張弁104開度を開く方向に動作し、冷凍サイクル装置101の高圧部分である凝縮圧力を下げる方向に制御する(図11の実線から破線)。凝縮圧力が低下することは、凝縮温度が低下することと同じであるので、凝縮温度Tcond1からTcond2へと減少し、膨張弁104入口での過冷度は、Tcond1−Texin から、Tcond2−Texinへと過冷度が減少(ここで、膨張弁104入口の作動流体温度は変わらずTexinであるとする)する。上述の通り、冷凍サイクル装置内の凝縮圧力低下に伴って過冷度も低下するので、過冷度を基準とした場合でも、冷凍サイクル装置内の凝縮圧力の制御が可能であることがわかる。
図12には、本実施の形態の冷凍サイクルの配管の一部を構成する配管継手117を示す。本発明の冷凍サイクル装置101を、例えば、家庭用のスプリット型の空気調和装置(空調装置)に使用する場合、室外熱交換器を有する室外ユニットと室内熱交換器を有する室内ユニットから構成される。室外ユニットと室内ユニットはその構成上、一体とすることはできないので、図12に示したユニオンフレア111のような機械的継手を用いて、設置場所で接続される。
もし、作業の不手際などの原因によって、機械的継手の接続状態が悪くなると、継手部分から冷媒が漏えいし、機器性能に悪影響を及ぼす。また、R1123を含む作動流体自身は温暖化効果を有する温室効果ガスであるので、地球環境に悪い影響を与える恐れがある。それゆえ、冷媒漏えいを迅速に検知し、修繕することが求められる。
冷媒漏えいの検知には、検知剤を当該部位に塗布して、バブルが発生したら検知する方法や、検知センサーを用いる方法などがあるが、これらはいずれも作業の手間が大きい。
そこで、本実施の形態においては、ユニオンフレア111外周に重合促進剤を含んだシール112を巻くことで冷媒漏えい検知を容易にするとともに、漏れ量の低減を図っている。
具体的には、R1123を含む作動流体において、重合反応が生じると、フッ素化炭素樹脂の一つであるポリテトラフルオロエチレンが発生することを利用する。R1123を含む作動流体と重合促進剤とを漏えい箇所で意図的に接触させて、当該漏えい箇所で、ポリテトラフルオロエチレンが析出・固化するようにしている。その結果、視覚的に漏れを容易に検知しやすくなるので、漏えいの発見と修繕までにかかる時間を短縮できる。
さらに、ポリテトラフルオロエチレンの発生部位は、R1123を含む作動流体の漏えい部位であるために、おのずと、漏えいを妨げる部位に重合生成物が発生・付着するので、漏れ量を抑止することもまた可能となる。
(実施の形態3)
図13には、本発明の第3の実施の形態に係る冷凍サイクル装置130を示す。図13に示した冷凍サイクル装置130と実施の形態2の冷凍サイクル装置101との構成の差異は、新たに、膨張弁104入口、出口と接続された開閉弁を備えたバイパス管113が設置された点と、凝縮器103出口と膨張弁104入口との間には、リリーフ弁114を有するパージラインが備えられている点である。そして、リリーフ弁114の開口側は室外に配置されている。なお、図13においては、図8を用いて説明した温度検知手段110a〜d、圧力検知手段115a、115b等の記載は省略した。
実施の形態2で説明した制御方法(例えば、R1123を含む作動流体の臨界温度から凝縮器103の二相管で測定される作動流体温度を差し引いた値が5K以上となるように、膨張弁104開度を制御する制御方法や、作動流体の臨界圧力と高圧側圧力検知手段115aで検知される圧力との差が、0.4MPa以上となるように制御する制御方法)を行い、膨張弁104開度を開いた場合においても、圧力降下に改善が見られない場合や、圧力降下速度を速めたい状況が生じる可能性がある。
そこで、上記のような状況がもし発生した場合においては、本実施の形態のバイパス管113に設けた開閉弁を開き、バイパス管113に冷媒を流すことで、急速に高圧側の作動流体圧力を下げ、冷凍サイクル装置130の破損を抑制することが可能となる。
さらに、膨張弁104開度の開度大とする制御と、バイパス管113に設けた開閉弁の制御に加えて、圧縮機102を非常停止すれば、冷凍サイクル装置130の破損を防ぐ上でさらに好ましい。なお、圧縮機102を非常停止する場合において、第1搬送手段117aや第2搬送手段117bは停止させないことが、急速に高圧側の作動流体圧力を下げる上で望ましい。
以上の対応を行った場合においても、なお不均化反応が抑制されなければ、具体的には、作動流体の臨界温度と凝縮温度検知手段110aで検知される凝縮温度の差が5K未満である、または、作動流体の臨界圧力と高圧側圧力検知手段115aで検知される圧力との差が、0.4MPa未満である、場合には、さらに冷凍サイクル装置130内の冷媒圧力が上昇してしまう恐れがあるので、高圧となった冷媒を外部に逃し、冷凍サイクル装置130の破損を防ぐ必要性が生じる。そこで、冷凍サイクル装置130内のR1123を含む作動流体を外部空間にパージするリリーフ弁114を開く。
リリーフ弁114の冷凍サイクル装置での設置位置は高圧側が好ましく、さらに、本実
施例で示した凝縮器出口から膨張弁入口(この位置で、作動流体は、高圧の過冷液状態であるので、不均化反応に伴う急峻な圧力上昇の結果生じる水撃作用が起こりやすい)にかけて設置するか、圧縮機吐出部から凝縮器入口(この位置で、作動流体は、高温高圧のガスであり、分子運動が活発になり、不均化反応そのものが発生しやすい)にかけての設置が特に好ましい。
リリーフ弁114は、室外ユニット側に設けられている。この形態の場合、空調装置であれば、室内側の居住スペースへの作動流体放出がないように、冷凍冷蔵ユニットであれば、ショーケースなど商品陳列側への作動流体放出をしないようにする構成として、人間や商材や直接影響が及ぼさないように考慮されている。
なお、リリーフ弁114を開くとともに、冷凍サイクル装置130を停止する、例えば、電源をOFFすることが、安全上望ましい。
(実施の形態4)
図14には、本発明の第4の実施の形態に係る冷凍サイクル装置140を示す。図14に示した冷凍サイクル装置140と実施の形態1の冷凍サイクル装置101との構成の差異は、凝縮器103に流入する前の第1の媒体の温度を検知する第1媒体温度検知手段110eと、蒸発器105に流入する前の第2の媒体の温度を検知する第2媒体温度検知手段110fとを設けた点と、温度検知手段110a〜110f、圧力検知手段115a、115bの検出値や、圧縮機102、流体機械107a、107bの入力電力が一定時間、電子記録装置(図示せず)に記録される点である。
図15は、本実施の形態の冷凍サイクル装置140の動作をモリエル線図上に示した図である。図15において、EPで示した冷凍サイクルが不均化反応発生時の凝縮圧力、NPで示した冷凍サイクルが正常運転時の冷凍サイクルを示す。なお、図15において、凝縮圧力上昇時のサイクル変化(例:NPとEPの蒸発圧力の差異など)については、説明の簡単のため、記載していない。
凝縮器103内の二相管で測定されるR1123を含む作動流体の凝縮温度が急激に上昇する原因としては、(1)周囲媒体温度Tmcon,Tmevaの急激な上昇、(2)圧縮機102の動力上昇による昇圧作用、(3)周囲媒体の流動変化(周囲媒体を駆動する流体機械107a、107bのいずれかの動力上昇)が考えられる。これらの要因以外、R1123を含む作動流体特有の事象としては、(4)不均化反応による昇圧作用が挙げられる。そこで、不均化反応が生じたと特定するために、(1)から(3)の事象が生じていないことを判別して制御することが本実施の形態の特徴である。
そこで、本実施の形態の制御方法としては、(1)〜(3)の温度あるいは入力電力の変化量に対して、R1123を含む作動流体の凝縮温度の変化量が大きい場合に膨張弁が開く側に制御する。
以下に具体的な制御方法について説明する。まず、温度変化量と入力電力値の変化量とを同じ基準の下で比較するのは困難なので、温度変化量を計測する際は、入力電力が変化しないように制御する。つまり、温度変化量の計測時には、圧縮機102や流体機械107a、107bのモータ回転数を一定に保つ。
例えば、温度変化量は、ある時間間隔で、例えば、10秒〜1分間計測される。この計測に先立って、たとえば、10秒〜1分程度前から、圧縮機102、および、流体機械107a、7bの入力電力量を一定値に保つ。このとき、圧縮機102、および、流体機械107a、107bの入力電力量の単位時間当たりの変化量は概ねゼロとなる。ここで、
概ねゼロとしたのは、圧縮機102においては、冷媒偏りによる圧縮機吸入状態の変化や、流体機械107a、107bにおいては、第1、2媒体が周囲空気の場合には、風の吹き込み等の影響によって、入力電力に若干の変動が生じるためである。つまり、この概ねゼロとは、若干の変動を含んであらかじめ定めた所定値より小さいことを意味する。
以上のような条件下において、凝縮温度検知手段110aで測定される凝縮温度の単位時間当たりの変化量が、第1媒体温度検知手段110eで検知される第1媒体の温度の単位時間当たりの変化量と、第2媒体温度検知手段110fで検知される第2媒体の温度の単位時間のいずれかよりも大きい場合には、不均化反応が発生したとみなして、膨張弁104を開方向に制御する。
なお、膨張弁104開度制御のみで、不均化反応に伴って発生する圧力上昇が制御できない場合に備えて、実施の形態2で示したような、膨張弁104と並列にバイパス管113を備えたり、圧縮機102の非常停止、さらに、外部への冷媒放出して圧力を下げるリリーフ弁114などの手段を設けてもよい。
また、本実施形態においては、凝縮器103の二相管に設置した温度検知手段の変化量を基準として実施する膨張弁104の制御例を示したが、圧縮機102吐出部から膨張弁104入口にかけて、どこかのポイントでの圧力の変化量を基準としてもかまわないし、膨張弁104入口の過冷度の変化量を基準としてもかまわない。
なお、本実施の形態を上述の本発明の実施の形態2または3のいずれかと組み合わせて用いると、さらなる信頼性の向上を得ることが可能となり好ましい。
(実施の形態5)
図16には、本発明の第5の実施の形態に係るスクロール圧縮機の断面図である。吐出孔18に設けたリード弁19の有無以外は、実施の形態1と同じであるため、その他の構成については説明を省略する。
実施の形態1においては、吐出孔18に、リード弁19(逆止弁)を設けていたが、本実施の形態5においては、吐出孔18にはリード弁19を設けていない。このため、吐出室22は吐出孔18を介して近傍の圧縮室15とは常に連通しており、吐出室22と圧縮室15とは、ほぼ等しい圧力状態となっている。なお、本実施の形態5では、吐出孔18には、リード弁19を設けていないため、バルブストップ21も設けてない。
不均化反応が特に発生しやすい条件は過度な高温高圧下の条件であるため、所定の運転条件下ではない状態、例えば、冷凍サイクル中の冷媒配管のつまりや凝縮器の送風停止、二方弁や三方弁の開け忘れ等によって吐出圧力(冷凍サイクルの高圧側)が過度に上昇した状態や、圧縮機の電動機(モータ部3)のトルク不足により圧縮機構が冷媒を昇圧する圧縮仕事を行わない状態が生じる場合がある。
この条件下において、圧縮機へ電力供給を続けると、圧縮機を構成する電動機へ電流が過剰に供給され、電動機が発熱する。その結果、圧縮機内の電動機が冷媒に対して、発熱体として作用し、内部の冷媒圧力および温度が過度に上昇する。この結果、電動機の固定子を構成する巻き線の絶縁体が溶解して、巻き線の芯線(電導線)同士が接触し、レイヤーショートと呼ばれる現象を引き起こす。レイヤーショートは瞬間的に高エネルギーを周囲冷媒へと伝播させるので、不均化反応の起点となり得る。
そこで、本実施の形態においては、圧縮機構が昇圧動作を行わないまま電動機への電力供給を続けた場合にも、冷凍サイクルの高圧側、つまり電動機を収容する密閉容器1の圧
力上昇を抑制し、不均化反応の発生条件を圧力で回避する形態としている。具体的には、吐出室22は吐出孔18を介して近傍の圧縮室15と常に連通させた構成としている。
本発明により、圧縮機構が圧縮動作を行わずに電動機に電力供給された場合には、電動機が発熱体として密閉容器1内部の冷媒を加熱するが、加熱により冷媒圧力が上昇したとしても、吐出孔18を介して圧縮室15にその圧力が作用し、圧縮機構を逆回転させて冷凍サイクルの低圧側へと密閉容器1内の圧力を逃すため、不均化反応の発生条件となる異常圧力上昇を回避することが可能となる。