JP2011026695A - 電縫溶接部の耐サワー特性に優れた高強度厚肉ラインパイプ向け電縫鋼管 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】電縫溶接部中の、溶接シーム面内の長辺最大長さ:50μm以下、前記溶接シーム面に垂直な方向の厚さ:3μm以下、前記長辺最大長さと前記厚さの比であるアスペクト比:5以上の酸化物の存在面積率を20%以下に制限し、かつ電縫溶接部および母材部の化学組成を規制した、電縫溶接部の耐サワー特性に優れた高強度厚肉ラインパイプ向け電縫鋼管である。
【選択図】図1
Description
ここで、「耐サワー特性に優れた」とは、NACEのSol.A浸漬試験による電縫溶接部のHIC試験で測定される板厚方向割れ率(CTR)が3%未満であることを意味し、「高強度」とはAPI規格X65級以上の強度を意味し、「厚肉」とは肉厚が10mm以上であることを意味する。
(1)質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:0.005〜0.9%、Mn:0.2〜2.0%、P:0.01%以下、S:0.01%以下、Al:0.1%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の電縫鋼管であって、その電縫溶接部における、溶接シーム面内の長辺最大長さ:50μm以下、前記溶接シーム面に垂直な方向の厚さ:3μm以下、前記長辺最大長さと前記厚さの比であるアスペクト比:5以上の酸化物の存在面積率が20%以下であることを特徴とする、電縫溶接部の耐サワー特性に優れた高強度厚肉ラインパイプ向け電縫鋼管。
(2)前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:0.5%以下の中から選ばれる1種または2種を含有することを特徴とする(1)に記載の電縫溶接部の耐サワー特性に優れた高強度厚肉ラインパイプ向け電縫鋼管。
(3)前記組成に加えてさらに、質量%で、Cr:3.0%以下、Mo:2.0%以下の中から選ばれる1種または2種を含有することを特徴とする(1)または(2)に記載の電縫溶接部の耐サワー特性に優れた高強度厚肉ラインパイプ向け電縫鋼管。
(4)前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb:0.1%以下、V:0.1%以下、Ti:0.1%以下の中から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の電縫溶接部の耐サワー特性に優れた高強度厚肉ラインパイプ向け電縫鋼管。
(5)前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.005%以下を含有することを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の電縫溶接部の耐サワー特性に優れた高強度厚肉ラインパイプ向け電縫鋼管。
[基本製造プロセス]
本発明に係る電縫鋼管は、基本的に、初期形状が帯板状である管素材を管状に成形し、形成したVシェイプの縁(帯幅端部に相当)同士を衝合して電縫溶接するというプロセスで製造される。この基本製造プロセスで製造された電縫鋼管の電縫溶接部(以下、単に、溶接部ともいう)の清浄度は、一般に0.5%以下であり、ラインパイプとして必要な強度、靭性を確保するのを阻害しないレベルである。
d={n/(p×f)}×100
ここに、d:清浄度(%)、n:f個の視野における全介在物によって占められた格子点中心の数、p:視野内のガラス板上の総格子点数、f:視野数
[電縫溶接部の酸化物分散状態の適正化]
本発明者らは、強度がAPI規格X65グレード以上の高強度厚肉ラインパイプ向け電縫鋼管の耐サワー特性向上の観点から、電縫溶接部において酸化物の分散状態を種々変化させ、母材部の化学成分も同様に変更した電縫鋼管を実験的に作製した。この作製実験において、図1に示す管素材1の衝合端部形状(開先形状)パラメータt1(管内面側の開先深さ)、θ1(管内面側の開先角度)、t2(管外面側の開先深さ)、θ2(管外面側の開先角度)を種々変化させることで、溶接部における酸化物の分散状態を変化させうることを見出した。作製した電縫鋼管の溶接部から試験片を採取し、後述の実施例に示すHIC試験により耐サワー特性を評価するとともに、後述の実施例に示す酸化物調査方法で溶接部における酸化物の分散状態(形状、サイズ、面積率)を調査し、両者の関係を求めた。
酸化物の長辺最大長さが50μm以下であると、その酸化物にH原子が集積して分子状気体へ変態した場合、亀裂伝播が起こり易いが、前記酸化物の長辺最大長さが50μmを超えると、その酸化物上で水素分子が安定して亀裂伝播が起こり難い。
また、酸化物のアスペクト比(=長辺最大長さ/厚さ)が5以上と大きい場合、結果として酸化物端部における応力集中が厳しくなり、割れの起点となる。
そこで、本発明では、耐サワー特性確保、すなわち水素誘起割れ防止の観点から、電縫溶接部における、溶接シーム面内の長辺最大長さ:50μm以下、前記溶接シーム面に垂直な方向の厚さ:3μm以下、前記長辺最大長さと前記厚さの比であるアスペクト比:5以上の酸化物の存在面積率を20%以下に限定した。
[化学組成]
本発明に係る電縫鋼管において、化学組成(略して組成)は、敷設時の総合的な低コスト化を考慮し、特に鋼管の輸送費低下を重要視している顧客の要求を考慮し、高強度(API規格X65級以上)を達成可能な組成を基本として設計された。個々の成分についての限定理由を以下に述べる。組成の各成分含有量単位は質量%であり、%と略記される。母材部の組成は、管素材の溶製段階で調整される。溶接部の組成は、電縫溶接プロセスが合金元素の添加を伴わないものであるから、母材部の組成とほとんど変わらない。
(C:0.01〜0.15%) Cは炭化物として析出強化に寄与する元素であるが、C含有量が0.01%未満では十分な強度が確保できず、一方、0.15%を超えるとパーライト、ベイナイト、マルテンサイト等の第二相の組織分率が増加し、ラインパイプへの耐サワー特性の要求レベルの確保が困難となる。このため、C:0.01〜0.15%とする。なお、より良好な強度と耐サワー特性のバランスを確保するには、C:0.02〜0.07%が好ましい。
(Si:0.005〜0.9%) Siは脱酸のため添加するが、0.005%未満では脱酸効果が十分でなく、一方、0.9%を超えると電縫溶接時に溶接部にSi系酸化物が多量に残存し易くなり、耐サワー特性を劣化させるため、Si:0.005〜0.9%とする。なお、好ましくは、Si:0.01〜0.5%である。
(Mn:0.2〜2.0%) Mnは強度、靭性を確保するため添加するが、0.2%未満ではその効果が十分でなく、一方、2.0%を超えると第二相分率が増加し、ラインパイプとして必要な優れた耐サワー特性を確保し難いため、Mn:0.2〜2.0%とする。なお、好ましくは、Mn:0.6〜1.8%である。
(P:0.01%以下) Pは粒界に偏析して粒界強度を弱くし、HICの割れを進展させる不可避的不純物元素であるため、P含有量の上限を0.01%とする。
(S:0.01%以下) Sは一般的には鋼中においてはMnS介在物となり、HICの起点となるため少ないほどよい。しかし、0.01%以下であれば問題ないため、S含有量の上限を0.01%とする。
(Al:0.1%以下) Alは脱酸剤として添加されるが、0.1%を超えると鋼の清浄度が悪化し、靭性を劣化させるため、Al含有量は0.1%以下とする。
(Cu:0.5%以下) Cuは一部の環境における耐サワー特性の向上と、靭性の改善と強度の上昇に有効な元素であるが、多く添加すると溶接性が劣化するため、添加する場合は0.5%を上限とする。
(Ni:0.5%以下) Niは靭性の改善と強度の上昇に有効な元素であるが、多く添加すると硬化第二相が生成し易くなり素材靭性の低下、耐サワー特性の劣化につながるため、添加する場合は0.5%を上限とする。
(Cr:3.0%以下) CrはMnと同様に低Cでも十分な強度を得るために有効な元素であるが、多く添加すると第二相が生成し易くなり素材靭性の低下、耐サワー特性の劣化につながるため、添加する場合は3.0%を上限とする。
(Mo:2.0%以下) MoはMn,Crと同様に低Cでも十分な強度を得るために有効な元素であるが、多く添加すると第二相が生成しやすくなり素材靭性を低下させ、耐サワー特性を劣化させるため、添加する場合は2.0%を上限とする。
(Nb:0.1%以下) Nbは炭窒化物の微細析出と組織の微細粒化により強度と靭性を向上させる。しかし、0.1%を超えると硬化した第二相が増加しやすくなり、耐サワー特性を劣化させるため、Nb含有量は0.1%以下とする。
(V:0.1%以下) VもNbと同様に炭窒化物の微細析出により強度上昇に寄与する。しかし、0.1%を超えるとNbと同様に硬化した第二相分率が増加し、耐サワー特性を劣化させるため、V含有量は0.1%以下とする。
(Ti:0.1%以下) TiもNb,Vと同様に炭窒化物の微細析出により強度上昇に寄与する。しかし、0.1%を超えるとNbと同様に硬化した第二相分率が増加し、耐サワー特性を劣化させるため、Ti含有量は0.1%以下とする。
(Ca:0.005%以下) Caは、HICの起点となり易い伸長したMnSの形態制御に必要な元素である。しかし0.005%を超えて添加すると過剰なCa酸化物、硫化物が生成し、逆に耐サワー特性を劣化させるため、Ca含有量は0.005%以下とする。
[好ましい製造方法]
本発明に係る電縫鋼管の好ましい製造方法は、前記基本製造プロセスにおいて、電縫溶接部における、溶接シーム面内の長辺最大長さ:50μm以下、前記溶接シーム面に垂直な方向の厚さ:3μm以下、前記長辺最大長さと前記厚さの比であるアスペクト比:5以上の酸化物の存在面積率が20%以下となるように、管素材の衝合端部形状を最適化すること、すなわち図1に示す管素材1の衝合端部形状(開先形状)パラメータt1、θ1、t2、θ2を最適化することである。この最適化を行うには、予め、これらのパラメータと溶接部における酸化物のサイズおよび分散量との関係特性を実験により決定しておき、その関係特性に基づいて衝合端部成形加工を行なうことが好ましい。
いずれの帯鋼も、鋼片を熱間圧延にて所定の板厚に圧延したのち、巻き取ってホットコイルにするという方法で製造された。
[HIC試験]
(試験片採取位置) 電縫溶接部中心位置(溶接シーム面)からの管周方向角度で、母材部は180°の位置、溶接部は0°の位置とした。
(試験片) 全厚、幅20mm、長さ(管長方向)100mmのHIC試験片を10本ずつ採取した。
(試験方法) NACEのSol.A浸漬試験を行い、CTRを測定した。
[酸化物調査方法]
(1) 溶接部を含む管厚さ方向3箇所において管厚さ方向直交断面を被観察面として、SEM(走査電子顕微鏡)で、倍率を100〜1000倍、視野数を10視野以上にとって観察し、存在した酸化物の個々の長辺最大長さ、厚さ、アスペクト比、面積を測定する。
(3) 溶接シーム面を被観察面として、SEMで、倍率を100〜1000倍、視野数を10視野以上にとって観察し、存在した酸化物の個々の長辺最大長さ、面積を測定する。
それらの結果を表3に示す。なお、表3には、前記酸化物調査方法の(1)で測定した長辺最大長さ、厚さ、アスペクト比の測定データの平均値も参考のため記した。
なお、比較例において、No.1,2は、C量の点でも本発明範囲を逸脱しており、鋼組織がフェライト‐ベイナイト系となった。No.3,4は、MnあるいはNb量の点でも本発明範囲を逸脱しており、著しく高強度の第二相が生成した。No.7,9,11は、鋼組成の点では本発明範囲に入るが、溶接部における酸化物分散状態の点で本発明範囲を逸脱した。
Claims (5)
- 質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:0.005〜0.9%、Mn:0.2〜2.0%、P:0.01%以下、S:0.01%以下、Al:0.1%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の電縫鋼管であって、その電縫溶接部における、溶接シーム面内の長辺最大長さ:50μm以下、前記溶接シーム面に垂直な方向の厚さ:3μm以下、前記長辺最大長さと前記厚さの比であるアスペクト比:5以上の酸化物の存在面積率が20%以下であることを特徴とする、電縫溶接部の耐サワー特性に優れた高強度厚肉ラインパイプ向け電縫鋼管。
- 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:0.5%以下の中から選ばれる1種または2種を含有することを特徴とする請求項1に記載の電縫溶接部の耐サワー特性に優れた高強度厚肉ラインパイプ向け電縫鋼管。
- 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cr:3.0%以下、Mo:2.0%以下の中から選ばれる1種または2種を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の電縫溶接部の耐サワー特性に優れた高強度厚肉ラインパイプ向け電縫鋼管。
- 前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb:0.1%以下、V:0.1%以下、Ti:0.1%以下の中から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電縫溶接部の耐サワー特性に優れた高強度厚肉ラインパイプ向け電縫鋼管。
- 前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.005%以下を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電縫溶接部の耐サワー特性に優れた高強度厚肉ラインパイプ向け電縫鋼管。
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