ガスタービンエンジンのタービンセクションは、燃焼器セクションの下流に位置し、ロータシャフト及び1つ以上のタービン段を含む。タービン段はそれぞれ、ロータシャフトに装着又は保持されたタービンディスク(ロータ)と、タービンディスクに取り付けられディスクの外周から半径方向に延在するタービンブレードとを有する。高温燃焼ガスに起因する高温状態にあるときでも妥当な機械特性を達成するために、燃焼器セクション及びタービンセクション内の部品は超合金材料から形成されることが多い。最新の高圧力比ガスタービンエンジンでは、圧縮機の出口温度が高温化しているので、圧縮機ディスク、ブリスクその他の部品にも、高性能ニッケル超合金の使用が必要となることがある。所与の部品に対する適当な合金組成及びミクロ組織は、その部品が受ける特定の温度、応力その他の条件に依存する。例えば、動翼、静翼などの翼形部品は、等軸、方向性凝固(DS)又は単結晶(SX)超合金から形成されることが多く、一方、タービンディスクを形成する超合金は、精密に制御された鍛造加工、熱処理及び表面処理(ピーニング処理など)を施して制御された結晶粒組織と望ましい機械的特性を有する多結晶ミクロ組織を生成しなければならない。
タービンディスクはガンマプライム析出強化ニッケル基超合金(以下γ′ニッケル基超合金という)から形成されることが多いが、この超合金は、クロム、タングステン、モリブデン、レニウム及び/又はコバルトを主要元素として含有し、これらがニッケルと結合してγマトリックスを形成し、さらにアルミニウム、チタン、タンタル、ニオブ及び/又はバナジウムを主要元素として含有し、これらがニッケルと化合して所望のγ′析出強化相、主としてNi3(Al,Ti)を形成する。著名なγ′ニッケル基超合金には、Rene88DT(R88DT、米国特許第4957567号)及びRene104(R104、米国特許第6521175号)があり、また登録商標Inconel、Nimonic及びUdimetにて市販されているニッケル基超合金もある。R88DTの組成は、クロム約15.0〜17.0重量%、コバルト約12.0〜14.0重量%、モリブデン約3.5〜4.5重量%、タングステン約3.5〜4.5重量%、アルミニウム約1.5〜2.5重量%、チタン約3.2〜4.2重量%、ニオブ約0.50〜1.0重量%、炭素約0.010〜0.060重量%、ジルコニウム約0.010〜0.060重量%、ホウ素約0.010〜0.040重量%、ハフニウム約0.0〜0.3重量%、バナジウム約0.0〜0.01重量%、イットリウム約0.0〜0.01重量%、並びに残部のニッケル及び不可避不純物である。R104の公称組成は、コバルト約16.0〜22.4重量%、クロム約6.6〜14.3重量%、アルミニウム約2.6〜4.8重量%、チタン約2.4〜4.6重量%、タンタル約1.4〜3.5重量%、ニオブ約0.9〜3.0重量%、タングステン約1.9〜4.0重量%、モリブデン約1.9〜3.9重量%、レニウム約0.0〜2.5重量%、炭素約0.02〜0.10重量%、ホウ素約0.02〜0.10重量%、ジルコニウム約0.03〜0.10重量%、並びに残部のニッケル及び不可避不純物である。別の重要なγ′ニッケル基超合金が、欧州特許出願EP1195446に開示されており、このγ′ニッケル基超合金の組成は、コバルト約14〜23重量%、クロム約11〜15重量%、タンタル約0.5〜4重量%、タングステン約0.5〜3重量%、モリブデン約2.7〜5重量%、ニオブ約0.25〜3重量%、チタン約3〜6重量%、アルミニウム約2〜5重量%、レニウム最大約2.5重量%、バナジウム最大約2重量%、鉄最大約2重量%、ハフニウム最大約2重量%、マグネシウム最大約0.1重量%、炭素約0.015〜0.1重量%、ホウ素約0.015〜0.045重量%、ジルコニウム約0.015〜0.15重量%、並びに残部のニッケル及び不可避不純物である。
ガスタービンエンジンのディスクその他の重要な部品はしばしば、粉末冶金(PM)、普通の鋳造及び鍛錬加工、及びスプレイキャスト又は核生成鋳造成形技術により製造したビレットから鍛造される。粉末冶金法で形成されたγ′ニッケル基超合金は特に、ガスタービンエンジンのタービンディスクや他の部品の性能要求を満足する良好なバランスのクリープ特性、引張特性及び疲労亀裂伝播特性を与えることができる。代表的な粉末冶金プロセスでは、所望の超合金の粉末を、例えば高温静水圧圧縮(HIP)及び/又は押出圧密化による圧密化(consolidation)に付す。得られたビレットを次に、超塑性加工条件に近い合金のγ′ソルバス温度より僅かに低い温度で等温鍛造し、これにより有意な金属学的歪みの累積なしに、高い幾何学的歪みの累積を通してダイキャビティを充填することができる。これらの加工工程はビレット内の微細結晶粒径を元のままに保持し(例えばASTM10〜13又はそれよりも微細)、高い可塑性を実現してニアネットシェイプ(できるだけ完成品に近い形状)鍛造ダイを充填し、鍛造中の破断を回避し、比較的低い鍛造及びダイ応力を維持するように設計されている。高温での耐疲労亀裂伝播性及び機械的特性を向上するために、これらの合金は次に、γ′ソルバス温度より高い温度で熱処理し(一般にスーパーソルバス熱処理という)、結晶粒の有意な均一な粗大化を図る。
R88DTやR104などの合金は超合金の高温性能を大幅に進歩させたが、さらなる改良が絶えず求められている。例えば、高温滞留能力が、最新の軍用及び商用エンジン用途と関連した高温及び高応力にとって重要な因子として浮上している。より高温の、より進歩したエンジンの開発に伴って、現在の合金のクリープ及び亀裂伝播特性は、最新のディスク用途の使途/寿命目標及び要件を満たすのに必要な能力に達しない傾向がある。この課題に対処する特定の一態様は、1200°F(約650℃)以上の温度におけるクリープ特性と保持時間(滞留)疲労亀裂伝播速度特性との所望のバランスのよい向上を示し、同時に、良好な生産性及び熱安定性を有する組成物を開発することであることが明らかになった。しかしながら、クリープ特性と亀裂伝播特性とを同時に向上させることが難しく、また、ある種の合金成分の存在の有無、及び超合金中に存在する合金成分のレベルの比較的小さな変化によって、クリープ特性及び亀裂伝播特性がかなりの影響を受けることがあることが、この課題を複雑にしている。
本発明は、γ′ニッケル基超合金、特に、熱間加工(例えば鍛造)操作によって多結晶ミクロ組織を有するように製造される部品に対し適したγ′ニッケル基超合金に関する。図1に示す具体的な例は、ガスタービンエンジン用の高圧タービンディスク10である。本発明を、ガスタービンエンジン用の高圧タービンディスクの加工に関して論じるが、本発明の教示及び恩恵は、ガスタービンエンジンの圧縮機ディスク及びブリスク、並びに高温において応力を受け、したがって高温滞留能力を必要とする他の多数の部品にも適用可能であることを当業者は理解するであろう。
図1に示すタイプのディスクは一般に、粉末冶金(PM)、鋳造/鍛錬加工、或いはスプレイキャスト型又は核生成鋳造型技術によって製造した微細結晶粒ビレットを、等温で鍛造することによって製造される。粉末冶金法を用いる好ましい実施形態では、超合金粉末を高温静水圧圧縮(HIP)又は押出圧密などで圧密化することによって、ビレットを形成することができる。ビレットを一般に、超塑性成形条件下で、合金の再結晶温度に等しいか近いが、合金のγ′ソルバス温度よりも低い温度で鍛造する。鍛造後、スーパーソルバス(溶体化)熱処理を行い、その間に結晶粒成長が起こる。スーパーソルバス熱処理は超合金のγ′ソルバス温度よりも高いが、溶解開始温度よりも低い温度で行って、鍛錬した結晶粒構造を再結晶させるとともに、γ′析出物を超合金中に溶解(溶体化)する。スーパーソルバス熱処理後、γマトリックス内又は結晶粒界にγ′を再析出させるのに適した速度で部品を速度で冷却し、所望の特定の機械特性を達成する。部品を、公知の技術を使用した時効処理に付してもよい。
本発明の超合金組成物は、既存のニッケル基超合金より良好な高温滞留能力を発揮することができる合金成分及びそのレベルを同定することを目的とする当社の解析的予測プロセスを用いることによって開発した。具体的には、解析と予測には、上述した方法で製造されるタービンディスクにふさわしい引張、クリープ、保持時間(滞留)亀裂伝播速度、密度その他の重要なもしくは望ましい機械的特性についての要素伝達関数の定義を含む当社の研究を利用した。これらの伝達関数を同時に解くことにより、組成物の評価を行って、最新のタービンエンジンニーズを満たす所望の機械的特性(クリープ及び保持時間疲労亀裂伝播速度(HTFCGR)など)を有すると思われる組成物を同定する。解析的検討では、当社のデータベースとともに市販のソフトウェアパッケージも利用して、組成物に基づく相体積分率を予測し、こうして望ましくない平衡相安定境界に近づくか、場合によっては僅かに超過する組成物をさらに定義した。最後に、溶体温度並びにγ′及び炭化物の好適な量を規定して、(供用中の環境特性のため平衡相が十分に生成するならば、供用中の能力を低減するおそれのある)望ましくない相を回避しながら、機械的特性、相組成及びγ′体積分率の望ましい組合せをもつ組成物を同定した。これらの研究では、歴史的なディスク合金開発業績から得られる選択データに基づいて、回帰方程式又は伝達関数を開発した。研究は、上述したニッケル基超合金R88DT及びR104の定性及び定量的データにも依拠した。
ある種の潜在的合金組成物を特定するために利用した具体的な基準は、R88DTと同様の又はR88DTよりも良好な低サイクル疲労(LCF)挙動を有するが、1400°F(約760℃)以上の温度における長期にわたる強度を助長するために、改良された高温保持時間(滞留)挙動及びγ′((Ni,Co)3(Al,Ti,Nb,Ta))のより大きな体積百分率を有する合金に対する要望を含む。さらに、R88DT組成物に対する潜在的な変更点として、高温強度のためのより高いハフニウムレベル、より最適なホウ素レベル、及びタンタルの追加を含む、いくつかの組成パラメータを特定した。本明細書では、この群に含まれる合金を合金08−03〜08−10として識別する。最後に、特定の機械特性に関する回帰因子を利用して、優れた高温保持時間(滞留)挙動を発揮することができ、通常は非常に多数の合金を用いた広範な実験でなければ特定できないであろう潜在的な合金組成物を狭い範囲で特定した。このような特性には、1200°F(約650℃)での引張強さ(UTS)、降伏強さ(YS)、伸び(EL)、絞り(RA)、クリープ(1200°F、115ksi(約650℃、約790MPa)での0.2%クリープまでの時間;CREEP)、1300°F(約700℃)及び最大応力強度25ksi√インチ(約27.5MPa√m)での保持時間(滞留)疲労亀裂伝播速度(HTFCGR;da/dt)、疲労亀裂伝播速度(FCGR)、γ′体積%(GAMMA′%)、及びγ′ソルバス温度(SOLVUS)があり、これらの特性は全て回帰ベースで評価した。本明細書で報告するこれらの特性の単位は、UTS及びYSについてはksi、EL、RA及びγ′体積%については%、クリープについては時間、亀裂伝播速度(HTFCGR及びFCGR)についてはインチ/秒、γ′ソルバス温度については°Fである。また熱力学的計算を行って、γ′、炭化物、ホウ化物及びTCP(トポロジー最密充填topologically close packed)相の相体積分率、安定性、ソルバスなどの合金特性を評価した。
専門家の意見及び指導を利用して、上記のプロセスを繰り返し実行して、製造及び評価のための好ましい組成物を定義した。このプロセスから、前述の一連の合金組成物08−03〜08−10を、図2の表に示すように(重量パーセントによって)定義した。参照のため、この表にはさらに、R88DTの組成範囲に含まれるが、最小限及び最大限のホウ素量を有する2つの合金(08−01及び08−02)が含まれている。図3の表は、図2の合金の回帰ベースの特性予測を含み、図4は、図3の保持時間疲労亀裂伝播速度(HTFCGR)データ及びクリープデータのグラフを含む。これらの予測は、約1550°F(約845℃)で約4時間、続いて約1400°F(約760℃)で約8時間の安定化スタイル2段階時効熱処理の利用に基づく。
参照のため、図4はさらに、R88DT及びR104の歴史的HTFCGRデータ及びクリープデータを含む。視覚的に描かれた図4から、ホウ素レベルが高い方が、R88DTのHTFCGR挙動は向上するようである、クリープ特性はそうではないようであることが分かる。提案した合金組成物に関して、08−04、08−05及び08−07では、R88DTの歴史的レベルと比較して、HTFCGR挙動が向上する可能性があるように思われた。
次いで、図2の合金を、1段階時効熱処理の利用に基づく回帰ベースの別の特性予測にかけた。図5の表は、得られた特性予測を含み、図6は、図5のHTFCGRデータ及びクリープデータのグラフを含む。参照のため、図6はさらに、R88DT及びR104の歴史的HTFCGRデータ及びクリープデータを含む。2段階熱処理に基づく以前の予測と同様に、図6から、ホウ素レベルが高い方が、R88DTのHTFCGR挙動は向上するようである、クリープ特性はそうではないようであることが分かる。提案した合金組成物に関して、この場合も、08−04、08−05及び08−07では、R88DTの歴史的レベルと比較して、HTFCGR挙動並びにクリープ挙動が向上する可能性があるように見えた。
次いで、上記の通り解析し、検討した各組成の合金を調製した。調製した合金の実際の化学組成(重量パーセント)を、図7の表に要約して示す。これらの合金から、有望な特性を有する合金を定義する合金範囲、並びに分析した合金組成物に対して予測される特性を反映する、より狭く定義された範囲を特定した。合金08−03〜08−10を包含する合金に対するより広い範囲及びより狭い範囲を、以下の表Iに要約して示す。これらの範囲は、部分的に、(R88DTと比べて)比較的低いクロムレベル、比較的高いチタン、ハフニウム及びタンタル+ニオブレベル、及びニオブに比べて高いタンタルが好ましいことを特徴とする。表Iの「Ta及びHf添加」の欄は、タンタル及びハフニウムを含む08−03〜08−10の合金に的を絞ることが意図されている。表Iに記載された元素の他に、望ましくない特性を与えない他の少量の合金成分が存在しうると考えられる。このような成分及びそれらの成分の量(重量%)には、レニウム最大2.5%、バナジウム最大2%、鉄最大2%、及びマグネシウム最大0.1%が含まれる。
図2及び図7で識別される合金組成物、並びに表Iで識別される合金及び合金範囲は全て分析予測に基づくが、予測を実行し、これらの合金組成物を特定するために依存する広範囲の分析及び資源は、これらの合金、特に表Iの合金組成物が、ガスタービンエンジンのタービンディスクに望ましい、クリープ特性及び保持時間疲労亀裂伝播速度特性の大幅な向上を達成する潜在性に対する強力な指示を提供する。
ニッケル基超合金の特定の組成物及び特性を含む特定の実施形態に関して本発明を説明したが、本発明の範囲はそれらに限定されない。本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲によってのみ限定される。