JP2010530371A - 神経学的機能を増強するための作用物質、組成物および方法 - Google Patents

神経学的機能を増強するための作用物質、組成物および方法 Download PDF

Info

Publication number
JP2010530371A
JP2010530371A JP2010512322A JP2010512322A JP2010530371A JP 2010530371 A JP2010530371 A JP 2010530371A JP 2010512322 A JP2010512322 A JP 2010512322A JP 2010512322 A JP2010512322 A JP 2010512322A JP 2010530371 A JP2010530371 A JP 2010530371A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
composition
thp
pregnan
hydroxy
cells
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP2010512322A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2010530371A5 (ja
Inventor
ロベルタ ディアス ブリントン,
ユン ミン ワン,
Original Assignee
ユニバーシティ オブ サザン カリフォルニア
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by ユニバーシティ オブ サザン カリフォルニア filed Critical ユニバーシティ オブ サザン カリフォルニア
Publication of JP2010530371A publication Critical patent/JP2010530371A/ja
Publication of JP2010530371A5 publication Critical patent/JP2010530371A5/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Images

Classifications

    • AHUMAN NECESSITIES
    • A61MEDICAL OR VETERINARY SCIENCE; HYGIENE
    • A61KPREPARATIONS FOR MEDICAL, DENTAL OR TOILETRY PURPOSES
    • A61K31/00Medicinal preparations containing organic active ingredients
    • A61K31/56Compounds containing cyclopenta[a]hydrophenanthrene ring systems; Derivatives thereof, e.g. steroids
    • A61K31/57Compounds containing cyclopenta[a]hydrophenanthrene ring systems; Derivatives thereof, e.g. steroids substituted in position 17 beta by a chain of two carbon atoms, e.g. pregnane or progesterone
    • AHUMAN NECESSITIES
    • A61MEDICAL OR VETERINARY SCIENCE; HYGIENE
    • A61PSPECIFIC THERAPEUTIC ACTIVITY OF CHEMICAL COMPOUNDS OR MEDICINAL PREPARATIONS
    • A61P25/00Drugs for disorders of the nervous system
    • AHUMAN NECESSITIES
    • A61MEDICAL OR VETERINARY SCIENCE; HYGIENE
    • A61PSPECIFIC THERAPEUTIC ACTIVITY OF CHEMICAL COMPOUNDS OR MEDICINAL PREPARATIONS
    • A61P25/00Drugs for disorders of the nervous system
    • A61P25/08Antiepileptics; Anticonvulsants
    • AHUMAN NECESSITIES
    • A61MEDICAL OR VETERINARY SCIENCE; HYGIENE
    • A61PSPECIFIC THERAPEUTIC ACTIVITY OF CHEMICAL COMPOUNDS OR MEDICINAL PREPARATIONS
    • A61P25/00Drugs for disorders of the nervous system
    • A61P25/14Drugs for disorders of the nervous system for treating abnormal movements, e.g. chorea, dyskinesia
    • A61P25/16Anti-Parkinson drugs
    • AHUMAN NECESSITIES
    • A61MEDICAL OR VETERINARY SCIENCE; HYGIENE
    • A61PSPECIFIC THERAPEUTIC ACTIVITY OF CHEMICAL COMPOUNDS OR MEDICINAL PREPARATIONS
    • A61P25/00Drugs for disorders of the nervous system
    • A61P25/28Drugs for disorders of the nervous system for treating neurodegenerative disorders of the central nervous system, e.g. nootropic agents, cognition enhancers, drugs for treating Alzheimer's disease or other forms of dementia
    • AHUMAN NECESSITIES
    • A61MEDICAL OR VETERINARY SCIENCE; HYGIENE
    • A61PSPECIFIC THERAPEUTIC ACTIVITY OF CHEMICAL COMPOUNDS OR MEDICINAL PREPARATIONS
    • A61P9/00Drugs for disorders of the cardiovascular system
    • A61P9/10Drugs for disorders of the cardiovascular system for treating ischaemic or atherosclerotic diseases, e.g. antianginal drugs, coronary vasodilators, drugs for myocardial infarction, retinopathy, cerebrovascula insufficiency, renal arteriosclerosis

Landscapes

  • Health & Medical Sciences (AREA)
  • Engineering & Computer Science (AREA)
  • Bioinformatics & Cheminformatics (AREA)
  • Life Sciences & Earth Sciences (AREA)
  • General Health & Medical Sciences (AREA)
  • Veterinary Medicine (AREA)
  • Public Health (AREA)
  • Chemical & Material Sciences (AREA)
  • Animal Behavior & Ethology (AREA)
  • Pharmacology & Pharmacy (AREA)
  • Medicinal Chemistry (AREA)
  • Neurosurgery (AREA)
  • Neurology (AREA)
  • Biomedical Technology (AREA)
  • Nuclear Medicine, Radiotherapy & Molecular Imaging (AREA)
  • Organic Chemistry (AREA)
  • General Chemical & Material Sciences (AREA)
  • Chemical Kinetics & Catalysis (AREA)
  • Epidemiology (AREA)
  • Pain & Pain Management (AREA)
  • Cardiology (AREA)
  • Heart & Thoracic Surgery (AREA)
  • Vascular Medicine (AREA)
  • Psychology (AREA)
  • Urology & Nephrology (AREA)
  • Hospice & Palliative Care (AREA)
  • Psychiatry (AREA)
  • Pharmaceuticals Containing Other Organic And Inorganic Compounds (AREA)
  • Medicines That Contain Protein Lipid Enzymes And Other Medicines (AREA)
  • Medicinal Preparation (AREA)

Abstract

神経増強物質、組成物および方法が本明細書で開示される。本発明の神経を増強する好ましい物質は、プロゲステロンと、3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP)のようなプロゲステロン代謝物とを含む。これらの作用物質は、神経前駆細胞および/または幹細胞を含む神経細胞に神経を増強する効果を与え、それによってこれらの作用物質は神経前駆細胞の有糸分裂を刺激し、神経突起の成長および組織化を刺激し、神経の脱落または1つ以上のこうした神経のプロセスを予防する。したがって、本明細書で開示される神経増強物質、組成物および方法は、アルツハイマー病と、放射線治療に起因する損傷を含む神経の損傷と、記憶および学習における障害を含む加齢に関係した神経の衰えとのような、神経の脱落もしくは変性に関連した神経疾患または神経障害を回復させたり予防したりするのに有益である。

Description

(発明の分野)
本発明は、神経機能を増強するための医薬組成物およびその使用方法に関し、特にアロプレグナノロンまたはその誘導体もしくは類似体を含む組成物に関する。
(関連する出願への相互参照)
本願は、2007年6月11日に出願された「Agents, Compositions, and Methods for Enhancing Neurological Function」と題するBrintonらによる米国仮特許出願第60/943,187号に対する優先権を主張する。
ほ乳類の神経系は、末梢神経系(PNS:peripheral nervous system)ならびに脳および脊髄を含む中枢神経系(CNS:central nervous system)を含み、2つの主要な種類の細胞、すなわち神経細胞およびグリア細胞で構成されている。グリア細胞は神経細胞間の間隙を満たし、神経細胞に栄養を与え、その機能を調節する。発育中に、中枢神経系および末梢神経系から分化する神経細胞は軸索を伸ばし、軸索は伸びて特定の標的細胞に接続する。いくつかのケースでは、軸索は末梢の中へかなり伸びて膨大な距離を網羅しなければならないが、一方で、中枢神経系の中に留まっているものもある。ほ乳類においては、神経発生のこの段階は、一生のうち胎児期に完成すると考えられている。さらには、神経細胞は一度完全に分化してしまうと増加はしないと通常は考えられている。
神経変性疾患を含む多くのニューロパチーがほ乳類の神経系に影響を及ぼすことが確認されている。これらのニューロパチーは、神経細胞それ自体または関連したグリア細胞に影響を及ぼす可能性があるもので、細胞の代謝機能不全、感染症、損傷、毒物への曝露、自己免疫、栄養障害、および/または虚血に起因するのかもしれないし、加齢に関係した神経の変化に起因するのかもしれない。いくつかのケースでは、ニューロパチーが直接細胞死を誘発すると考えられている。他のケースでは、ニューロパチーは体の免疫系/炎症系および初期の損傷に対する免疫応答を刺激するのに十分な組織壊死を誘発し、続いて神経路を破壊する可能性がある。さらに、身体的損傷または外傷の結果として神経組織が脱落する可能性もある。
成体の脳において新しい神経細胞の産生は起こらないと長く考えられてきたので、神経細胞の脱落は、直接的にせよ、間接的にせよ、成人したヒトの脳においては不可逆的であると考えられていた。脳の領域のほとんどにおいて、神経細胞の産生は、通常個々別々の発育期間中に制限されている。しかし、いくつかの種の歯状回および脳室下帯においては注目に値する例外が発見されている。そこでは出生後および成人期になっても新しい神経細胞が産生しているのが観察されているのである。げっ歯類の脳の歯状回の顆粒細胞下帯に存在する神経前駆細胞を絶えず分割している集団からは、顆粒神経細胞が生涯にわたって産生されている。
これらの神経前駆細胞から産生した「産生の」神経細胞は、顆粒細胞層の中に遊走し、分化し、軸索を伸ばし、神経細胞のマーカータンパク質を発現する。しかし、その機序および新しい神経細胞の産生を促進する適切な刺激についてはほとんど不明である。
脳および/もしくは脊髄の、急性または神経変性の病変の影響を低減する試みは、主として、脱落もしくは欠損した神経の機能または神経学的な機能を補償する目的で、胚の神経細胞の移植を含んでいた。しかしヒトの胎児細胞移植の研究は厳格に規制されている。神経成長因子およびインスリン様成長因子といった神経栄養因子の投与もCNS内の神経細胞成長を刺激することが示唆されてきた。
しかしこれまでは、パーキンソン病およびアルツハイマー病のようなニューロパチーに関係した神経障害を、神経損傷を、または神経学的な加齢に関係した衰えもしくは障害を修復あるいは中和するのに十分な薬剤も治療法も存在しない。それゆえ、ニューロパチーと、神経損傷と、加齢に関係した神経の衰えまたは障害とに関係した不都合な神経の状態を改善するための新たな治療法が求められている。
したがって、本発明の目的は、パーキンソン病およびアルツハイマー病のようなニューロパチーに関係した神経障害の、神経損傷の、または神経学的な加齢に関係した衰えもしくは障害の治療あるいは予防のための組成物と、その製造および使用方法とを提供することである。
本明細書において、パーキンソン病およびアルツハイマー病のようなニューロパチーに関係した神経障害の、神経損傷の、または神経学的な加齢に関係した衰えもしくは障害の治療あるいは予防のための組成物と、その製造および使用方法とが説明される。1つの実施形態において、組成物は、α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(アロプレグナノロン、THP、またはAPαとも呼称する)、その誘導体、類似体もしくはプロドラッグ、またはその薬学的に許容される塩を含む。THPの適切な類似体または誘導体は、3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オンの3ベータ−フェニルエチニル誘導体と、3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オンと実質的に同等の神経亢進作用を示す3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オンの諸分子の類似体もしくは誘導体と、プロゲステロンと、プロゲステロンの天然代謝産物もしくはプロゲステロンの合成バリアントのいずれか一方で、3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オンと実質的に同等の神経亢進作用を示すプロゲステロン様の諸分子とを含むがこれらに限定されない。
神経増強物質の効果的な治療量は、対象とする神経疾患または神経障害によるが、通常は約0.1mg〜1000mg、好ましくは約0.1〜500mg、より好ましくは約0.1〜約100mgの範囲である。1つの実施形態では、組成物は、少なくとも約10mgまたはそれを超える薬学的に活性な形態の3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オンまたはその類似体、誘導体、もしくはプロドラッグを含む。
組成物は、毎日、またはより少ない回数で、たとえば、1日おき、1週間に1度、1カ月に1度などで投与することができる。組成物は、単回投与または複数回投与することができる。効果的な投与期間は、対象とする個々の神経疾患または神経障害による。一般的に効果的な投与期間は約1カ月またはそれより長くであるが、約6カ月から約1年までまたはそれより長くなる可能性もある。
組成物は、経口投与、腸内投与、局所投与、または経皮投与用に調合することができる。組成物は、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤、担体、および/または添加剤をさらに含むことができる。1つの実施形態において、組成物は経口投与用に調合される。適切な経口投薬の形態は、錠剤と、軟タイプまたは硬タイプのゼラチンカプセル剤または非ゼラチンカプセル剤と、カプレット剤と、液剤と、シロップ剤と、懸濁剤とを含むがこれらに限定されない。
1つの実施形態では、組成物は、神経疾患、神経損傷または加齢に関係した神経の衰えもしくは障害を持つ個体において神経機能を増強するために投与される。組成物は、神経細胞の脱落またはその結合を防ぐために、神経の有糸分裂を刺激するのに効果的な期間にわたって投与される。対象とする神経障害および疾患の状態は、アルツハイマー病と、脳に関係したがんの放射線治療の結果として起こるものを含む神経損傷と、加齢に関係した記憶の低下および加齢に関係した学習障害とを含む。1つの実施形態では、組成物は、アルツハイマー病に関係したβ−アミロイドの脳内蓄積を減少させるために投与される。個体において神経機能を増強する方法は、インビボおよび/またはエキソビボで実施することができる。組成物は、新しい神経細胞の産生を誘導もしくは刺激すること、神経細胞の脱落を予防すること、神経突起の伸長および組織化を刺激もしくは誘導すること、または神経突起および神経回路網の脱落を防御すること、もしくはそれらを組合わせることによって、神経機能を改善または回復するためにも投与することができる。
有糸分裂の出現を示す、すなわち有糸分裂を示す2分裂の形の細胞体を示す海馬神経細胞の総数の割合に、3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP)の投与(ナノモル、nanomolar:nM)が及ぼす影響を表すグラフである。 有糸分裂が出現した対照神経細胞の数に対する有糸分裂が出現した海馬神経細胞の比率に、3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP)の濃度(nM)が及ぼす影響を表すグラフである。有糸分裂の出現を有糸分裂を示す2分裂の細胞体と定義した。 海馬神経細胞における細胞分裂調節タンパク質2(cdc2:cell division of control protein 2)の発現に、3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP、nM)が及ぼす影響を表すグラフである。神経細胞は24時間THPに曝露してから採取した。 海馬神経細胞の総数に3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP、nM)が及ぼす影響を表すグラフである。 MuLV−GFPに感染したマウスの神経細胞において評価された神経細胞の数に3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP)が及ぼす影響を表すグラフである。HT−22細胞の増殖にTHPが及ぼす影響が、MuLVに感染した細胞上に検知された。左の図はビヒクルのFACS分析結果を示す。右の図はMuLV−GFPに感染した細胞をTHPで処理したもののFACS分析結果を示す。付随する表(表1)はFACSの結果をまとめたものである。V=ビヒクル:vehicle、THP(250nM)。 3H−チミジンの取り込み(基礎培地に対する%)によって測定した、海馬神経細胞における3H−チミジンの取り込みに対する3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP、nM)の投与の用量反応を表すグラフである。 海馬神経細胞における、THPによって誘発された3H−チミジンの取り込みを測定することによって、構造的および化学的に類似した他のステロイドと比較したときの3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP)のステロイド特異性を表すグラフである。 1時間、8時間および24時間の時間間隔での、海馬神経細胞における3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP)に誘発された3H−チミジンの取り込み(基礎培地に対する%)の経時変化を表すグラフである。 ラットの神経幹/前駆細胞の増殖に3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP)の投与が及ぼす影響を表すグラフである。 ヒトの神経幹細胞の増殖に3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP、nM)が及ぼす影響を表すグラフである。 アルツハイマー病のトランスジェニック雄性マウスの年齢(月)による機能としてのAβ1−42(pg/mg)の濃度を表すグラフである。 9カ月齢と12カ月齢のアルツハイマー病のトランスジェニック雄性マウスの大脳皮質中のβ−アミロイド6E10(56KD)(平均強度)の発現にTHPが及ぼす影響を表すグラフである。 図13Aは、Aベータ56(赤外線強度の%)の濃度にTHPが及ぼす影響を表すグラフである。図13Bは、リン酸化タウ赤外線強度の%)の濃度にTHPが及ぼす影響を表すグラフである。
I.定義
本明細書で用いられる「類似体」という用語は、別の化合物(基準化合物)の構造と類似した構造を持つが、ある特定の成分、官能基、原子などの点で異なっている化合物を意味する。
本明細書で用いられる「誘導体」という用語は、1つ以上の化学反応によって親化合物から作られる化合物を意味する。
本明細書で用いられる「プロドラッグ」という用語は、それ自体が不活性な誘導体に化学的に変換され、化学的なまたは酵素の攻撃によって、作用する場所に到達する前または後に体内で親薬剤に転換される活性薬剤を意味する。プロドラッグは多くの場合(必ずしもそうとは限らないが)親薬剤に転換されるまで薬学的に不活性である。
本明細書で用いられる「薬学的に許容される塩」とは、その酸または塩基の塩を作ることで親化合物が改変されたもののことである。薬学的に許容される塩の例は、アミンなどの塩基性残基の鉱酸塩または有機酸塩と、カルボン酸などの酸性残基のアルカリ塩または有機塩とを含むがこれらに限定されない。薬学的に許容される塩は、従来の無毒性の塩、または、たとえば無毒性の無機酸または有機酸から作られた親化合物の4級アンモニウム塩を含む。このような従来の無毒性の塩は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、および硝酸などの無機酸に由来するもの、ならびに酢酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、グリコール酸塩、ステアリン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩、パモン酸塩、マレイン酸塩、ヒドロキシマレイン酸塩、フェニル酢酸塩、グルタミン酸塩、安息香酸塩、サリチル酸塩、スルファニル酸塩、2−アセトキシ安息香酸塩、フマル酸塩、トルンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンジスルホン酸塩、シュウ酸塩、およびイセチオン酸塩などの有機酸から調製された塩を含む。
化合物の薬学的に許容される塩は、従来の化学的方法によって、塩基性部分または酸性部分を含む親化合物から合成することができる。通常このような塩は、水中もしくは有機溶媒中、またはこの2つを混合したものの中で、これらの化合物の遊離酸型または遊離塩基型を化学量論的な量の適切な塩基または酸と反応させることで調製することができる。通常、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、またはアセトニトリルのような非水系の媒質が好ましい。適切な塩のリストについてはRemington’s Pharmaceutical Sciences, 20th ed.,Lippincott Williams & Wilkins, Baltimore,MD,2000,p.704および ”Handbook of Pharmaceutical Salts:Properties,Selection,and Use,”P.Heinrich Stahl and Camille G.Wermuth,Eds.,Wiley−VCH,Weinheim,2002に見出される。
本明細書で一般的に用いられる「薬学的に許容される」というのは、堅実な医学的判断の範囲内で、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症を伴わず、妥当なリスクベネフィット比に相応し、ヒトおよび動物の組織との接触において使用に適している化合物、材料、組成物、および/または剤形を意味する。
放出調節(modified release)剤形:放出調節剤形とは、液剤、軟膏剤、または迅速に溶ける剤形といった従来の剤形では提供されなかった、治療上のまたは利便性の目的を達成するために、時間、経路および/または場所に関する薬剤放出の特性が選ばれる剤形のことである。遅延放出剤形、徐放性剤形、およびパルス放出剤形、ならびにこれらの組み合わせが、放出調節剤形のタイプである。
遅延放出剤形:遅延放出剤形とは、単数の薬剤(または複数の薬剤)を、投与直後ではないときに一度に放出する剤形のことである。
徐放性剤形:徐放性剤形とは、従来の剤形として(たとえば液剤または迅速な薬剤の放出をする従来の固形の剤形として)提供される薬剤と比較して、投与回数において少なくとも2倍の減少を可能にする剤形のことである。
パルス放出剤形:パルス放出剤形とは、反復投与をすることなく複数回投与の特性を模倣し、従来の剤形として(たとえば液剤または迅速な薬剤の放出をする従来の固形の剤形として)提供される薬剤と比較して、投与回数において少なくとも2倍の減少を可能にする剤形のことである。パルス放出の特性は、非放出の時間(ラグタイム)または減少した放出の時間に続く急激な薬剤の放出によって特徴づけられる。
II.組成物
A.神経増強物質
本明細書に記載される組成物は、1つ以上の神経増強物質を含む。1つの実施形態では、1つ以上の神経増強物質は、プロゲステロンまたは、その代謝経路中のプロゲステロンの前駆物質、プロゲステロン代謝物およびプロゲステロン誘導体といった、プロゲステロンの類似体もしくは誘導体、ならびにこれらの類似体および誘導体の、塩もしくは水和物から選択される。好ましい実施形態では、組成物は天然のプロゲステロン代謝物、つまりテトラヒドロプロゲステロン(THP:tetrahydroprogesterone)としても知られている3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(APα)、および薬学的に許容されるその塩およびその水和物を含む。3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP)は中枢神経系で生成されるので、通常ニューロステロイドに分類され、GABA受容体のアロステリックモジュレーターであることが以前発見されている。例えば、米国特許第5,925,630号、米国特許第6,143,736号、および米国特許第6,277,838号を参照されたい。
他の適切な類似体および誘導体は、3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オンの変形諸分子または3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オンの置換誘導体を含む。例としては、Hawkinson,et al.J.Pharmacology & Experimental Therapeutics 287:198−207(1998)に記載されている、3α−オキシ誘導体、3α−アルキル誘導体、3α−アルケニル誘導体、3α−エステル誘導体、3α−エーテル誘導体、3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オンの3ss−フェニルエチニル誘導体、および3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オンの3p−フェニルエチニル誘導体、ならびに米国特許第5,925,630号、米国特許第6,143,736号、および米国特許第6,277,838号に記載されているもののような5αプレグナン−20−オンシリーズのステロイド誘導体が挙げられる。
3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オンの類似体または誘導体は、プロゲステロンの自然前駆物質か代謝物のいずれか一方、または3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オンと実質的に同等の神経性の活性を示すプロゲステロンの合成バリアントであるプロゲステロン様の諸分子を含む。実質的に同等の神経増強活性とは、3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オンの神経増強活性の約30%〜約300%と定義する。
神経増強物質は、個体において、神経の増殖を刺激もしくは誘発、および/または神経の脱落を防御するのに効果的な投与量および期間で投与される。投与計画は、投与される個別の組成物への治療反応を改善する目的で調整してよい。たとえば、数回分の分割投与量が毎日投与されてもよいし、治療状況の要件によって示されるのに相応じて投与量が低減されてもよい。1つ以上の神経増強物質の投与量は、約0.1mg〜約1000mgの範囲、より好ましくは約1mg〜約500mgの範囲、最も好ましくは約10mg〜約100mgの範囲である。しかし個別の投与量は、対象とする個別の神経疾患または神経障害に依存し、治療を担当する医師によって容易に決定することができる。
本明細書に記載される化合物は、1つ以上のキラル中心を有することができ、このため1つ以上の立体異性体として存在する。このような立体異性体は、単一エナンチオマー、ジアステレオマーの混合体、またはラセミ混合物として存在できる。本明細書で用いられる「立体異性体」という用語は、同じ結合次数を有する同じ原子からなるが、互換性のない、異なる3次元原子配置を有する化合物を意味する。この3次元構造は立体配置と呼ばれる。本明細書で用いられる「エナンチオマー」という用語は、重ね合わすことのできない互いの鏡像である2つの立体異性体を意味する。本明細書で用いられる「光学異性体」という用語は、「エナンチオマー」という用語と同義である。本明細書で用いられる「ジアステレオマー」という用語は、鏡像ではないが、やはり重ね合わすことができない2つの立体異性体を意味する。「ラセミ化合物」「ラセミ混合物」または「ラセミ体改変物(racemic modification)」という用語は、エナンチオマーの等しい部分の混合物を意味する。「キラル中心」という用語は、4つの異なる基がそれに結合している炭素原子を意味する。1対のエナンチオマーの効果的な分離に必要な、適切なキラルカラム、溶離液、および条件の選択は、標準的な技術を用いる当業者によく知られている(たとえば、Jacques,J.et al.,”Enantiomers,Racemates,and Resolutions”,John Wiley and Sons,Inc.1981を参照されたい)。
B.追加の活性物質
組成物は、1つ以上の追加の活性物質をさらに含むことができる。1つの実施形態では、追加の活性物質はステロイドである。適切なステロイドは、米国特許第4,897,388号および米国特許第5,939,407号に記載されているもののような、生物学的に活性な形態のビタミンD3およびビタミンD2を含む。ステロイドは、特にアルツハイマー病の治療用に、神経の刺激もしくは誘発、および/または神経の脱落の予防をさらに助けるために同時投与されてよい。Brinton(2001)Learning and Memory 8(3):121−133に記載されているように、神経保護を増強するために、エストロゲンおよびエストロゲンに関係した諸分子も、神経増強物質と同時投与されてよい。
米国特許第6,552,010号に記載されているデヒドロエピアンドロステロン(DHEA:dehydroepiandrosterone)のさまざまな形態のような他の神経活性ステロイドも、神経の刺激もしくは誘発、および/または神経の脱落の予防をさらに助けるために同時投与することができる。神経成長因子(NGF:Nerve Growth Factor)、脳由来神経栄養因子(BDNF:Brain−derived Neurotrophic Factor)といった神経の成長および神経回路網の成長を引き起こす他の作用物質も、THPの投与とともに、投与前に、または投与後に投与することができる。さらに、Haughey et al.(2002)J Neurochemistry 83:1509−1524に記載されているカルパイン阻害剤およびカパーゼ阻害剤といった神経アポトーシス阻害剤、ならびに壊死のような他の細胞死のメカニズムの阻害剤も、いくつかの神経疾患および神経障害に関係した神経の脱落をさらに予防するために、神経増強物質と同時投与することができる。
C.調合物
本明細書に記載される神経増強物質は、導入の仕方によってさまざまな方法で調合することができる。THPまたは他の実質的に同等な変形諸分子を含む調合物は、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、坐剤、散剤、放出制御調合物、懸濁剤、乳剤、クリーム、軟膏剤、膏薬、ローション剤、または噴霧剤など、さまざまな医薬品形態に調製することができる。好ましくは、これらの調合物は、簡単でしかも好ましくは経口の、正確な用量の投与に適した固形の剤形で使用される。経口投与用の固形の剤形は、錠剤と、軟タイプまたは硬タイプのゼラチンカプセル剤または非ゼラチンカプセル剤と、カプレット剤とを含むがこれらに限定されない。しかし、液剤、シロップ剤、懸濁剤、シェイクなどの液状の剤形も利用することができる。
1.賦形剤、担体、および添加剤
本明細書に記載される1つ以上の化合物を含む調合物は、安全で効果的と考えられる物質で構成される薬学的に許容される担体を用いて調製することができ、好ましくない生物学的副作用または不必要な相互作用を生じることなく個体に投与することができる。担体とは、医薬調合物の中に存在する活性成分(単数または複数)以外の全ての構成成分のことである。本明細書で通常用いられる「担体」は、希釈剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、増量剤、pH調整剤、防腐剤、酸化防止剤、溶解促進剤、およびコーティング組成物を含むがこれらに限定されない。
担体は、可塑剤、色素、着色剤、安定化剤、および流動促進剤を含む可能性のあるコーティング組成物の全ての成分も含む。遅延放出投薬調合物、徐放性投薬調合物、および/またはパルス放出投薬調合物は、”Pharmaceutical dosage form tablets”,eds.Liberman et.al.(New York,Marcel Dekker,Inc.,1989)、”Remington−The science and practice of pharmacy”,20th ed.,Lippincott Williams & Wilkins,Baltimore,MD,2000、および”Pharmaceutical dosage forms and drug delivery systems”,6th Edition,Ansel et al.,(Media,PA:Williams and Wilkins,1995)のような標準的な参考文献に記載されているように調製することができる。これらの参考文献は、担体と、材料と、錠剤およびカプセル剤を調製する装置および方法と、錠剤、カプセル剤、および顆粒剤の遅延放出剤形とに関する情報を提供している。
適切なコーティング材料の例は、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートなどのセルロース重合体と、ポリビニルアセテートフタレート、アクリル酸重合体およびアクリル酸共重合体、ならびにEUDRAGIT(登録商標)(Roth Pharma,Westerstadt,Germany)の商標で市販されているメタクリル樹脂と、ゼインと、シェラックと、多糖とを含むがこれらに限定されない。
さらに、コーティング材料は、可塑剤、色素、着色剤、流動促進剤、安定化剤、ポア形成剤および界面活性剤などの従来の担体を含んでもよい。
薬剤を含有した錠剤、ビーズ、顆粒剤または粒子の中に存在する任意の薬学的に許容される賦形剤は、希釈剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、安定剤、および界面活性剤を含むがこれらに限定されない。希釈剤は「増量剤」とも言われ、錠剤の圧縮またはビーズおよび顆粒剤の形成のために実用的なサイズが提供されるように、固形の剤形の体積を増すのに通常必要である。適切な希釈剤は、リン酸水素カルシウム2水和物、硫酸カルシウム、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース、微結晶セルロース、カオリン、塩化ナトリウム、乾燥デンプン、加水分解デンプン、アルファ化デンプン、二酸化シリコーン、酸化チタン、ケイ酸アルミニウムマグネシウムおよび粉末の糖を含むがこれらに限定されない。
結合剤は、固形の投薬調合物に結合の性質を与えるために用いられ、これにより錠剤、ビーズまたは顆粒剤が剤形の形成後に原形を保つのを確実にする。適切な結合剤の材料は、デンプンと、アルファ化デンプンと、ゼラチンと、糖(スクロース、グルコース、デキストロース、ラクトースおよびソルビトールを含む)と、ポリエチレングリコール(polyethylen e glycol)と、ワックスと、アラビアゴム、トラガントゴムなどの天然および合成ゴム、アルギン酸ナトリウム、セルロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロースを含む)、およびビーガムと、アクリル酸およびメタクリル酸の共重合体、メタクリル酸共重合体、メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸アミノアルキル共重合体、ポリアクリル酸/ポリメタクリル酸、およびポリビニルピロリドンといった合成重合体とを含むがこれらに限定されない。
滑沢剤は、錠剤の製造を容易にするために用いられる。適切な滑沢剤の例は、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、ベヘン酸グリセロール、ポリエチレングリコール、タルク、および鉱油を含むがこれらに限定されない。
崩壊剤は、投与後に剤形の崩壊すなわち「破壊」を容易にするために用いられ、デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、カルボキシメチルデンプンナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、アルファ化デンプン、クレー、セルロース、アルギニン、ゴム、または架橋PVP(GAF Chemical CorpからのPolyplasdone XL)のような架橋重合体を通常は含むがこれらに限定されない。
安定剤は、酸化反応を例として含む薬剤の分解反応を抑制する、または遅らせるために用いられる。
界面活性剤は、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、または非イオン性界面活性剤であり得る。適切な陰イオン界面活性剤は、カルボン酸イオン、スルホン酸イオンおよび硫酸イオンを含む界面活性剤を含むがこれらに限定されない。陰イオン界面活性剤の例は、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのような、長鎖アルキルスルホン酸およびアルキルアリルスルホン酸のナトリウム、カリウム、アンモニウムと、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのようなジアルキルスルホコハク酸ナトリウムと、スルホコハク酸ビス−(2−エチルチオキシル)ナトリウムのようなジアルキルスルホコハク酸ナトリウムと、ラウリル硫酸ナトリウムのようなアルキル硫酸塩とを含む。陽イオン界面活性剤は、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、臭化セトリモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、ポリオキシエチレンおよびココナッツアミンなどの4級アンモニウム化合物を含むがこれらに限定されない。非イオン界面活性剤の例は、モノステアリン酸エチレングリコール、ミリスチン酸プロピレングリコール、モノステアリン酸グリセリン、ステアリン酸グリセリン、ポリグリセリル−4−オレアート、アシル化ソルビタン、アシル化スクロース、ラウリン酸PEG−150、モノラウリン酸PEG−400、モノラウリン酸ポリオキシエチレン、ポリソルベート、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、PEG−1000セチルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリプロピレングリコールブチルエーテル、Poloxamer(登録商標)401、ステアロイルモノイソプロパノールアミド、およびポリオキシエチレン水素化獣脂アミドを含む。両性界面活性剤の例は、N−ドデシル−β−アラニンナトリウム、N−ラウリル−β−イミノジプロピオン酸ナトリウム、ミリストアンホアセテート、ラウリルベタインおよびラウリルスルホベタインを含む。
必要に応じて、錠剤、ビーズ、顆粒剤、または粒子は、湿潤剤もしくは乳化剤、色素、pH緩衝剤、または防腐剤などの少量の無毒性の補助物質を含んでもよい。
担体および/または他の物質に対する薬学的に活性な神経増強物質の割合は、約0.5wt.%から約100wt.%(weight percent:重量パーセント)までと変わり得る。経口使用の場合、医薬品調合物は通常、活性な物質を重量で約5%から約100%まで含む。他の使用の場合、医薬品調合物は通常、活性な物質を約0.5wt.%から約50wt.%まで含む。
2.放出調節調合物
本明細書に記載される組成物は、放出調節または放出制御の調合物であってよい。放出制御剤形の例は、徐放性剤形、遅延放出剤形、パルス放出剤形、およびこれらを組み合わせたものを含む。
徐放性剤形
徐放性調合物は通常、たとえば”Remington−The science and practice of pharmacy”(20th ed.,Lippincott Williams & Wilkins, Baltimore,MD,2000)に記載されているように、拡散システムまたは浸透システムとして調製される。拡散システムは通常、リザーバーおよびマトリックスの2つのタイプのデバイスからなり、当技術分野でよく知られ、説明されている。マトリックスデバイスは通常、ゆっくりと溶解する重合体担体と一緒に薬剤を圧縮して錠剤の形にすることで調製される。マトリックスデバイスの調製において用いられる主な3つのタイプの材料は、不溶性プラスチック、親水性ポリマー、および脂肪化合物である。プラスチックマトリックスは、アクリル酸メチル−メタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、およびポリエチレンを含むがこれらに限定されない。親水性ポリマーは、メチルセルロースおよびエチルセルロースといったセルロースのポリマー、ヒドロキシプロピル−セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースといったヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、およびCarbopol(登録商標)934、ポリエチレンオキシド、およびその混合物を含むがこれらに限定されない。脂肪化合物は、カルナウバロウおよびトリステアリン酸グリセリンのようなさまざまなワックス、ならびに水素添加ヒマシ油もしくは水素添加植物油を含むワックスタイプの物質、またはその混合物を含むがこれらに限定されない。
いくつかの好ましい実施形態では、プラスチック材料は、アクリル酸およびメタクリル酸の共重合体、メタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル共重合体、エトキシエチルメタクリレート、シアノエチルメタクリレート、アミノアルキルメタクリレート共重合体、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、メタクリル酸アルキルアミン共重合体ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸)(無水物)、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリ(メタクリル酸無水物)、ならびにグリシジルメタクリレート共重合体を含むがこれらに限定されない、薬学的に許容されるアクリル重合体である。
ある特定の好ましい実施形態では、アクリル重合体は、1つ以上の、アンモニオメタクリレート共重合体を含む。アンモニオメタクリレート共重合体は当技術分野でよく知られており、低含量の第4アンモニウム基を有するアクリル酸およびメタクリル酸エステルの完全重合した共重合体としてNF XVIIに記載されている。
1つの好ましい実施形態では、アクリル重合体は、Eudragit(登録商標)の商標名でRohm Pharmaから市販されているもののようなアクリル樹脂系塗料である。さらに好ましい実施形態では、アクリル重合体は、それぞれEudragit(登録商標)RL30DおよびEudragit(登録商標)RS30Dの商標名でRohm Pharmaから市販されている2つのアクリル樹脂系塗料の混合物を含む。Eudragit(登録商標)RL30DおよびEudragit(登録商標)RS30Dは、低含量の第4アンモニウム基を有するアクリル酸およびメタクリル酸エステルの共重合体で、アンモニウム基の、残りの中性(メタ)アクリル酸エステルに対するモル比がEudragit(登録商標)RL30Dで1:20、Eudragit(登録商標)RS30Dで1:40である。平均分子量は約150,000である。Edragit(登録商標)S―100およびEudragit(登録商標)L−100も好ましい。RL(高浸透性)およびRS(低浸透性)のコード表示は、これらの活性物質の浸透性の特徴を示す。Eudragit(登録商標)RL/RSの混合物は、水中および消化液中で溶解しない。しかし、同じものを含んで形成された多粒子系は、水溶液中および消化液中で膨潤性および浸透性がある。
上で述べたEudragit(登録商標)RL/RSのような重合体は、最終的に望ましい溶解特性を有する徐放性調合物を得るために、あらゆる望ましい比率で混合してよい。望ましい徐放性の多粒子システムは、たとえば、100%Eudragit(登録商標)RLと、50%Eudragit(登録商標)RLおよび50%Eudragit(登録商標)RSと、10%Eudragit(登録商標)RLおよび90%Eudragit(登録商標)RSとから得ることができる。当業者は、たとえばEudragit(登録商標)Lのような他のアクリル重合体も利用できることを承知しているであろう。
あるいは、徐放性調合物は、浸透システムを利用して、または、剤形に半浸透性のコーティングを適用することによって調製することができる。後者の場合、望ましい薬剤放出の特性は、低浸透性および高浸透性のコーティング材料を適切な割合で組合わせることによって得られる。
上で述べた、異なる薬剤放出のメカニズムを有するデバイスは、単一のユニットまたは複数のユニットを含む最終的な剤形の中で組み合わせることができる。複数のユニットの例は、多層錠と、錠剤、ビーズ、または顆粒剤を含むカプセル剤とを含むがこれらに限定されない。
コーティングプロセスまたは圧縮プロセスを用いて徐放性の核の表面に即時放出性の層を塗布することや、徐放性のビーズおよび即時放出性のビーズを含むカプセル剤のような複数ユニットのシステムを用いることによって、即時放出部分が徐放性系に加えられることが可能である。
親水性ポリマーを含む徐放性錠剤は、直接圧縮法、湿式造粒法、または乾式造粒法といった、通常当技術分野で公知の技術で調製される。これらの調合物は通常、重合体、希釈剤、結合剤、および滑沢剤、それに加えて医薬品有効成分を含む。通常の希釈剤は、デンプンと、粉末セルロース、特に結晶セルロースおよび微結晶セルロースと、フルクトース、マンニトールおよびスクロースのような糖と、穀物の粉末と、類似の食用粉末とのような不活性な粉末状の物質を含む。典型的な希釈剤は、たとえば、さまざまなタイプのデンプン、ラクトース、マンニトール、カオリン、リン酸カルシウムもしくは硫酸カルシウム、塩化ナトリウムのような無機塩類、および粉末の糖を含む。粉末セルロース誘導体も利用できる。典型的な錠剤結合剤は、デンプンと、ゼラチンと、ラクトース、フルクトースおよびグルコースのような糖と、などの物質を含む。アラビアゴムを含む天然ゴムおよび合成ゴム、アルギン酸塩、メチルセルロース、ならびにポリビニルピロリドンも利用できる。ポリエチレングリコール、親水性ポリマー、エチルセルロースおよびワックスも結合剤として有用である。滑沢剤は錠剤の調合において、錠剤およびパンチが型の中に付着するのを防ぐために必要である。滑沢剤は、タルクのような滑りやすい固形物、ステアリン酸マグネシウムおよびステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、ならびに水素添加植物油から選択される。
ワックス材料を含む徐放性錠剤は、通常、直接混合法、凝固法、および水分散法といった、当技術分野で公知の方法を用いて調製される。凝固法においては、薬剤はワックス材料と混合され、噴霧凝固または凝固され、ふるい分けられ、加工される。
遅延放出剤形
遅延放出調合物は、胃の酸性環境では不溶性で、小腸の中性環境では可溶性であるポリマー膜で、固形の剤形をコーティングすることによって作られる。
遅延放出剤形単位は、たとえば、薬剤または薬剤を含む組成物を、選択されたコーティング材料でコーティングすることによって調製することができる。薬剤を含む組成物とは、たとえば、カプセル剤の中に組み込む錠剤、「コーティングした核」の剤形において内核として用いられる錠剤、または錠剤もしくはカプセル剤の中に組み込む、薬剤を含む多数のビーズ、粒子もしくは顆粒剤のことであり得る。好ましいコーティング材料は、生体侵食可能であり、漸次加水分解性があり、漸次水溶性があり、および/または酵素によって分解可能な重合体を含み、従来の「腸溶性の」重合体であってもよい。腸溶性の重合体は、当業者にはよく理解されているように、下部胃腸管のより高いpH環境で可溶性になるか、または剤形が胃腸管を通過する間にゆっくりと腐食する。一方酵素によって分解可能な重合体は、下部胃腸管、特に結腸の中に存在する細菌酵素によって分解される。遅延放出を実現するために適切なコーティング材料は、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルセルロース、エチルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテートおよびカルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロースのポリマーと、好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチルおよび/またはメタクリル酸エチルから形成されたアクリル酸重合体ならびに共重合体と、Eudragit(登録商標)L30D−55およびL100−55(pH5.5以上で可溶性)、Eudragit(登録商標)L−100(pH6.0以上で可溶性)、Eudragit(登録商標)S(より高いエステル化度の結果としてpH7.0以上で可溶性)、およびEudragit(登録商標)NE、RL、RS(異なる程度の浸透度および膨張性を有する不水溶性の重合体)を含むEudragit(登録商標)(Rohm Pharma;Westerstadt,Germany)の商標で市販されている他のメタクリル樹脂と、ポリビニルピロリドン、酢酸ビニル、酢酸ビニルフタレート、酢酸ビニルクロトン酸共重合体、およびエチレン−酢酸ビニル共重合体などのビニル重合体ならびに共重合体と、アゾポリマー、ペクチン、キトサン、アミロースおよびグアーガムなどの酵素によって分解可能な重合体と、ゼインと、シェラックとを含むがこれらに限定されない。異なるコーティング材料の組み合わせを使用してもよい。異なる重合体を用いた多層コーティングを使用してもよい。
個々のコーティング材料の好ましいコーティング重量は、異なる量のさまざまなコーティング材料を用いて調製された錠剤、ビーズおよび顆粒剤の個々の放出特性を評価することで、当業者によって容易に決定することができる。望ましい放出特性を作り出すのは、材料、使用方法、および使用形態の組み合わせであり、望ましい放出特性は、臨床研究からのみ決定することができる。
コーティング組成物は、可塑剤、色素、着色剤、安定化剤、流動促進剤などの従来の添加剤を含んでもよい。可塑剤は通常、コーティングの脆弱性を低減するために存在し、一般的に、重合体の乾燥重量に対して約10wt.%〜50wt.%である。典型的な可塑剤の例は、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリアセチン、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、セバシン酸ジブチル、クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、クエン酸アセチルトリエチル、ヒマシ油およびアセチル化モノグリセリドを含む。安定化剤は、分散において粒子を安定化するために好ましく用いられる。典型的な安定化剤は、ソルビタンエステル、ポリソルベートおよびポリビニルピロリドンのような非イオン乳化剤である。流動促進剤は、膜形成および乾燥の間に付着作用を低減するために推奨され、通常、コーティング溶液中の重合体の重量の約25wt.%〜100wt.%である。1つの効果的な流動促進剤はタルクである。ステアリン酸マグネシウムおよびモノステアリン酸グリセロールといった他の流動促進剤も使用してよい。二酸化チタンのような色素も使用してよい。シリコーン(たとえばシメチコン)のような少量の消泡剤をコーティング組成物に加えてもよい。
パルス放出
調合物は、1つ以上の神経保護作用物質のパルス送達を提供することができる。「パルスの」という用語は、間隙を置いた離れた時間間隔で多量の薬剤用量が放出されることを表す。通常、剤形を摂取すると、初回の用量の放出は実質的に即時である。すなわち最初の薬剤放出の「パルス」が摂取の約1時間以内に発生する。この最初のパルスに続いて最初の休止期間(ラグタイム)があり、この間、剤形から薬剤はほとんど放出されないか、または全く放出されない。その後2回目の薬剤が放出される。同様に、2回目の用量放出パルスと3回目の薬剤放出パルスの間の、2回目の薬剤放出がほとんどない休止期間が設計され得る。薬剤放出がほとんどない休止期間の長さは、剤形の設計、たとえば1日2回の投薬特性、1日3回の投薬特性などによってさまざまである。1日2回の投薬特性を提供する剤形では、薬剤放出がほとんどない休止期間の長さは、1回目の放出と2回目の放出の間の約3時間から14時間である。1日3回の特性を提供する剤形では、薬剤放出がほとんどない休止期間の長さは、3回の放出の各々の間の約2時間から8時間までである。
1つの実施形態では、パルス放出特性は、薬剤を含む「投薬ユニット」を少なくとも2つ収容する、閉じられた、好ましくは密閉されたカプセル剤である剤形で得られる。カプセル剤の中の各投薬ユニットは異なる薬剤放出特性を提供する。遅延放出投薬ユニット(1つまたは複数)の制御は、投薬ユニットに放出制御重合体をコーティングすること、または放出制御重合体マトリックスの中に活性物質を組み込むことによって実現される。各投薬ユニットは圧縮錠または湿製錠を含み得、カプセル剤の中の各錠剤は異なる薬剤放出特性を提供する。1日2回の投薬特性を模倣する剤形では、第1の錠剤が剤形の摂取後実質的に即時に薬剤を放出し、一方第2の錠剤は剤形の摂取後約3時間から14時間未満までに薬剤を放出する。1日3回の投薬特性を模倣する剤形では、第1の錠剤が剤形の摂取後実質的に即時に薬剤を放出し、第2の錠剤が剤形の摂取後約3時間から10時間未満までに薬剤を放出し、第3の錠剤が剤形の摂取後少なくとも5時間から約18時間までに薬剤を放出する。剤形が3つを超える数の錠剤を含むことも可能である。剤形は一般的には第3の錠剤を超える数を含むものではないが、3つを超える錠剤を収容する剤形は利用できる。
もう1つの方法として、カプセル剤の中の各投薬ユニットは、薬剤を含む多量のビーズ、顆粒剤および粒子を含んでもよい。当技術分野で公知のように、薬剤を含む「ビーズ」とは、薬剤および1つ以上の賦形剤または重合体で構成されたビーズのことである。薬剤を含むビーズは、たとえば薬剤でコーティングされた不活性な糖のビーズのように、不活性な支持体に薬剤を塗布すること、または、薬剤と1つ以上の賦形剤の両方を含む「核」を作ることによって製造することができる。次も公知のように、薬剤を含む「顆粒剤」および「粒子」は、1つ以上の追加の賦形剤または重合体を含んでいても含んでいなくてもよい薬剤の粒子を含む。薬剤を含むビーズとは対照的に、顆粒剤および粒子は不活性な支持体を含まない。顆粒剤は通常、薬剤の粒子を含み、さらなる加工を必要とする。通常、粒子は顆粒剤より小さく、さらなる加工はされない。ビーズ、顆粒剤および粒子は即時放出を提供するために調合されるが、ビーズおよび顆粒剤は通常遅延放出を提供するために使用される。
III.使用方法
本明細書に記載される組成物は、個体に投与したとき、効果的な量の1つ以上の神経増強物質を提供する。この状況で用いられるとき、1つ以上の神経増強物質の「効果的な量」とは、個々の神経疾患、神経障害または加齢に関係した神経の衰えもしくは障害に関連した1つ以上の症状を改善または向上させるのに効果的な量のことである。この治療効果は通常、効果的な量の1つ以上の神経増強物質を含む組成物の投与を開始して約4週間から約6週間以内に観察されるが、この治療効果は4週間経過しないうちに、または6週間を過ぎてから観察されてもよい。
個体とは、好ましくはほ乳類で、より好ましくは、ほ乳類は、神経疾患、神経損傷または加齢に関係した神経の衰えもしくは障害の結果として、若干の神経機能を失ったヒトである。通常、神経の脱落とは、神経突起、神経組織または神経回路網における脱落を含む、細胞レベルでのあらゆる神経の脱落を含意する。治療することができる他の対象の例は、ヒト、イヌ、ネコ、ラット、およびマウスである。たとえばラットまたはマウスを用いた下等ほ乳類のモデルは、ヒトのような高等ほ乳類における一般的な脳の加齢および関連した神経細胞の脱落の仕方を予測するために利用できる。
組成物は、好ましくは、しかし必ずしもその通りでなくてもよいが、本明細書に記載される1つ以上の神経増強物質の血中濃度において約1%から約25%の増加を提供する量で、毎日投与される。通常、1日の投与量の合計は少なくとも約10mgで、より好ましくは少なくとも約50mgで、好ましくは1日あたり500mgを超えず、経口投与される。経口デリバリー用のカプセル剤または錠剤は、丸1日分の経口用量までを、たとえば100mgまたはそれを超えて含むことができる。投与が経口経路以外である場合、神経増強物質または組成物は、少なくとも1日の平均用量、たとえば50mgを産するのに効果的な量で、長期間、たとえば3〜10日にわたって送達され得る。あるいは、組成物は放出制御用に調合することができ、その場合組成物は1日1回、1週間に1回、または1カ月に1回投与される。組成物は通常長期間、たとえば少なくとも約10約、好ましくは少なくとも約30週間、より好ましくは少なくとも約60週間、および最も好ましくは患者がこの治療法から顕著な利益を受けている限り投与される。
好ましい実施形態では、1つ以上の神経増強物質を含む組成物は、以下に記述する判定基準のうち少なくとも1つにおける改善を生じるのに効果的な用量と期間で個体に投与される。判定基準とは、認知能力、記憶、運動能力、学習または同種のものにおける改善のような、神経疾患、神経障害または加齢に関係した神経の衰えもしくは障害における改善を示すものであり、好ましくは、改善はこれらの診断基準の少なくとも2つにおいて観察される。
個々の神経疾患、神経損傷または加齢に関係した神経の変化における改善を評価するための判定基準は、認知能力、運動能力、記憶力または同種のものを評価する方法と、磁気共鳴画像法(MRI:magnetic resonance imaging)およびコンピューター断層撮影法(CT:computed tomography scans)または他の画像検査法のような、中枢神経系の選択された領域における物理的な変化を評価するための方法とを含む。これらの評価方法は、医学、神経学、心理学などの分野でよく知られており、個々の神経障害の状態を診断するために適切に選択することができる。神経疾患、神経損傷または加齢に関係した神経の変化における変化を評価するために、本発明の神経増強物質または組成物の投与開始の前に、選択された評価(assessment)もしくは評価(evaluation)試験、または複数の試験が実施される。この最初の評価の後に、本発明の神経増強物質を投与する治療法が開始され、さまざまな時間間隔で継続される。神経欠損障害の最初の評価の後の選択された時間間隔で、同じ評価もしくは評価試験(単数または複数の試験)が、選択された神経に関する判定基準における変化または改善を再評価するために再び使用される。
本明細書に記載される組成物は、経口投与で、非経口投与で(たとえば、皮下、静脈内、筋肉内、動脈内、腹腔内、鞘内、心臓内、または胸骨内)、経皮投与で、経粘膜投与で、皮下投与で、吸入で、注入で、特に脳室内注入で、などのようにさまざまな方法で投与することができる。しかし経口投与が通常は好ましい。投与経路によって、組成物は、目的とする機能を遂行する能力に悪影響を及ぼす可能性のある自然条件から保護するための材料でコーティングまたは覆いをするとよい。本発明の組成物を投与する特に便利な方法は経口投与である。
A.治療される疾患および障害
本明細書に記載される組成物の投与の結果として得られる神経の増強は、新しい神経細胞の産生をもたらす神経の有糸分裂の刺激または誘発を含む。すなわち、神経脱落速度の低減を含む、神経的な効果を、神経の脱落の予防を、またはその遅延を示すこと、つまり、神経保護的な効果を、または1つ以上のこれらの作用形態を示すことを含む。「神経保護的な効果」という用語は、個体の神経細胞、神経突起および神経回路網の劣化、機能障害、または死の予防を、遅延を、および/または終了を含むこと意図している。本明細書に記載される組成物の投与は、神経疾患、神経損傷、または加齢に関係した神経の衰えもしくは障害を有する個体における神経機能の改善または増強につながる。
神経の劣化は、神経機能を弱め、神経の脱落を引き起こす可能性のあるあらゆる条件に起因する。神経機能は、たとえば、神経突起を含む神経細胞の、生化学、生理学、または解剖学的構造が変化することによって弱まる可能性がある。神経細胞の劣化は、正常な神経機能の機能に弊害をもたらす膜の、樹状突起の、またはシナプスの変化を含み得る。神経細胞の劣化、障害、および/または死の原因は不明である。あるいは、個体の神経系で発生する、加齢に関係した、損傷に関係した、および/または疾患に関係した神経学的変化に起因する可能性がある。
本明細書において神経の脱落が「加齢に関係した」として記載される場合、加齢を伴う個体の公知および不明の身体上の変化が原因で生じる神経の脱落を含む意図で用いられる。本明細書において神経の脱落が「疾患に関係した」として記載される場合、疾患を伴う個体の公知および不明の身体上の変化が原因で生じる神経の脱落を含む意図で用いられる。本明細書において神経の脱落が「損傷に関係した」として記載される場合、損傷または外傷を伴う個体の周知および不明の身体上の変化が原因で生じる神経の脱落を含む意図で用いられる。しかし、これらの用語は互いに矛盾するものではなく、事実、神経細胞の脱落および/または神経結合を生じさせる多くの条件が、加齢、疾患および/または損傷に関係している可能性があることを理解すべきである。
神経の形態における神経の脱落および変化を伴う、一部のより一般的な加齢に関係したニューロパチーは、たとえば、アルツハイマー病、ピック病、パーキンソン病、血管性疾患、ハンチントン病、および加齢に関係した記憶障害を含む。アルツハイマー病の患者では、神経の脱落は、海馬、前頭皮質、頭頂皮質、前側頭皮質、扁桃、および嗅覚系において最も顕著である。海馬の中で最も顕著に影響を受ける領域は、CA1領域、鉤状回、および内側嗅皮質を含む。海馬は記憶において重要な役割を果たすことがよく知られているので、記憶障害は、最も初期の、最も典型的な認知力の変化であると考えられている。ピック病は、ときどき線条体の神経細胞死を伴う前頭葉および前側頭葉の新皮質での重度の神経変性によって特徴づけられる。パーキンソン病は、黒質および青斑での神経細胞の脱落によって判別できる。
ハンチントン病は、線条体内の神経細胞、コルチカルコルメージック(corticalcholmergic)神経細胞、およびGABA−ergLc神経細胞の変性によって特徴づけられる。ラークンソン病およびハンチントン病は、通常、運動障害と関連しているが、多くの場合認知障害(記憶障害)も示す。
加齢による記憶障害(AAMI:Age−Associated Memory Impairment)は、人生の後期数十年間における健康で高齢の個体の記憶障害によって特徴づけられる、別の加齢に関係した傷害である。AAMIの神経基盤は現在正確には特定されていない。しかし多くの種において、大脳皮質、海馬、扁桃、大脳基底核、コリン作動性前脳基底部、青斑、縫線核、および小脳を含む、記憶に関係している脳の領域に、加齢に伴う神経細胞死が発生することが報告されている。
神経産生および/またはベータ−アミロイドの発現の低減を評価するための動物モデル
老化したげっ歯類の脳は老人斑および神経原線維変化を発生しない。しかし最近の研究のほとんどが、神経細胞、樹状突起、および/もしくはシナプスの脱落または収縮が、老人斑および神経原線維変化より密接に、認知症または加齢に相関性があることを示している。老化したラットは、海馬、特にCA1領域の錐体細胞において神経細胞の脱落と、他のいくつかの脳の領域において細胞の脱落または樹状突起/シナプスの変化とを示す。さらに、老化したげっ歯類には、老化したヒトがそうであるように、多数の海馬アストロサイトの肥大が現れる。加えて、海馬のCA1領域における神経細胞の脱落は、さまざまな種にわたり一貫して加齢と相関性があり、アルツハイマー病のようなヒトの神経変性疾患において顕著でもある。こうした理由から、老化したラットの神経の脱落を研究することで、たとえば、アルツハイマー病のような疾患を原因とした、ヒトの脳の老化および関連した神経の脱落の一般的なメカニズムを予測する。
米国特許第5,939,407号およびHaughey et al.,J.Neurochem.83:1509−1524(2002)に記載されているモデルのような動物モデルは、加齢に関係した疾患および衰えに対するモデルにおける改善を説明している。なぜならこの疾患および衰えは、通常組織培養モデルより好まれる、無傷動物に関係したものであるからだ。さらには、米国特許第5,939,407号に記載されている動物モデルは、ほ乳類の加齢の最初のモデルとしてthe National Institute on Agingで開発された品種のラットを使用している。この特定のラットの品種(Brown Norway/Fischer344F1の交雑種)は、異常な病状の兆候がほとんどなく、正常な加齢パターンを有するという理由で選択された。この品種も、加齢に伴って海馬のCA1領域で神経細胞が脱落し、記憶障害を示す。このシステムは、神経細胞の漸次脱落を反映しているので、神経の変性および/または劣化の最も自然な動物モデルのひとつである。その上、神経の脱落は実験の介入または異常な病状によって引き起こされたものではない。この品種の脳の加齢のパターンも、ヒトおよび他のほ乳類種の脳の加齢のパターンに非常に類似している。
1つの実施形態では、動物モデルは、アルツハイマー病のトランスジェニック動物において、ベータ−アミロイドの発現および/または神経産生に対する神経増強物質の効果を評価するために用いることができる。適切なモデルは、Borchelt et al.(1996)Neuron 17:1005−1013およびHaughey et al.(2002)J.Neurochemistry 83:1509−1524に記載されている動物モデルを含む。アミロイド前駆体タンパク質(APP:amyloid precursor protein)の突然変異型を過剰発現させているオスのマウス(12〜14カ月齢)が、エサと水を自由に摂取できる状況で12時間明期/12時間暗期の周期で飼育される。この系統のマウスは、可溶性のアミロイドベータタンパク質のレベルの増加を示し、加齢依存的にアミロイド沈着を発生する。約12カ月齢で散在性沈着が最初に現れ、その後、典型的には18〜22カ月齢までに老人斑様の沈着が発生する。3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THE)の有無による歯状回のNP/SCの増殖および生存を測定するために、マウスは5−ブロモ−2’デオキシウリジン(BruU:5−bromo−2’deoxyuridine;50mg/kg,i.p.)の注射が1日5回与えられる。12匹の実験マウスおよび6匹の対照マウスがアミロイド沈着の形成に対する3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP)の効果を評価するために使用される。12匹の実験マウスには、5−ブロモ−2’デオキシウリジン(BruU)の注射の前の1週間、2週間および4週間の間3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP)の注射(6匹のマウスは10mg/kgのTHPを投与され、6匹のマウスは100mg/kgのTHPを投与される)も毎日与えられる。6匹の対照マウスには、実験マウスに投与される体積と同じ体積の生理食塩水の注射が毎日与えられる。BruUの注射の12日後にマウスは全て屠殺される。
実験マウスおよび対照マウスの脳切片が準備されBruUの取り込みが比較される。神経増強を定量するために、12匹の実験マウスおよび6匹の対照マウスの各々における3つの切片から歯状回の免疫陽性(immunpositive)細胞がカウントされ比較される。細胞分裂速度は通常、ヌクレオチド(BrDU(bromodeoxy−uridine:ブロモデオキシ−ウリジン、または3H−チミジン)のDNAへの取り込みを用いて測定される。BrDUまたは3H−チミジンで標識した細胞対非標識細胞の比が分裂速度を示す。細胞へのDNAの取り込みは、分裂している細胞でのみ起こるのではなく、DNAの修復中にも起こり、ミスマッチDNA修復細胞をカウントすることで偽陽性の可能性が生じる。ミスマッチDNA修復細胞も比較的多量のBRDUまたは3H−チミジンを取り込むのである。BrDUの取り込みのこのソースを回避する目的で、MuLVで増強された緑色蛍光タンパク質(GFP:green fluorescent protein)が分裂している細胞を標識するために用いられる。細胞増殖率は、GFP発現細胞対GFP非発現細胞の比をFACSで測定して確定される。マウス白血病ウイルス(MuLV:Murine leukemia virus)は、有糸分裂中の細胞にのみ感染するが、分裂していない細胞には感染しないことが実証されている(Lewis and Emennan 1994)。さらにこの方法は、インビトロおよびインビボで、分裂している神経細胞の標識化において成功裏に用いられている(van Praag,H.,Schinder,A.F.,Christie,B.R.,Toni,N.,Palmer,T.D.,Gage,F.H.,Functional neurogenesis in the adult hippocampus.Nature.2002.415,p1030−1034)。感染した細胞は安定的にGFPを発現し、生体内で分裂した神経細胞が分化し脳内の各部位に遊走するときそれらを追跡するのを可能にする。加えてMuLV感染−GFP法は、FACS分析により、THPで処理された細胞と処理されていない細胞での分裂速度のより正確な比較を可能にする。さらには、このレトロウイルス感染法の使用は、将来の遺伝子治療の目的で、将来に適用するためのデータも提供し得る。
これらの実験において、env遺伝子と長い3’末端反復配列との間に配置された内部リボソーム進入部位−導入遺伝子カセットの標準の開始コドンとともにGFPがインフレームに挿入されたウイルス株が用いられた。このウイルスベクターは、野生型のMuLVの複製動態と類似の複製動態を示し、導入遺伝子の効果的な送達を媒介した(Logg,C.R.Tai,C.K.Logg,A.Anderson,W.F.Kasahara,N.,A uniquely stable replication−competent retrovirus vector acheives efficient gene delivery in vitro and in solid tumors.Human Gene Therapy.2001.8:p921−932)。
疾患、加齢に関係した衰えまたは身体的傷害による神経の脱落は、神経疾患および神経障害につながる。本明細書に記載される組成物は、新しい神経細胞、新しい神経突起および/または神経結合の発達を促進することで、神経の脱落の悪影響を防ぐことができ、生存している神経細胞、神経突起および/もしくは神経結合の神経保護、または1つ以上のこれらのプロセスをもたらす。このように、本明細書に記載される組成物の神経増強特性は、変性疾患と、加齢と、身体的損傷もしくは外傷とに関係した神経の脱落を一般的に逆転させるのに効果的な方法を提供する。
疾患、欠損、または加齢に関係した衰えが原因で、神経の脱落を起こしている、または起こしてしまった個体に、3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オンまたは実質的に同等の変形分子を投与することは、神経の脱落に起因する神経学的状態を処置するための効果的な治療方法を広く提供できる。本発明の作用物質、組成物および方法を適用することで利益を得られる欠損および疾患は、脊髄損傷、脳卒中、頭部外傷、てんかん、パーキンソン病およびアルツハイマー病を含むがこれらに限定されない。さらに、3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オンおよび実質的に同等の変形諸分子が神経増強活性を有していることを考慮すると、これらの作用物質および組成物は加齢に関係した記憶障害および学習障害を改善するためにも投与できる。
実施例は、α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オンまたはテトラヒドロプロゲステロン(THP:tetrahydroprogesteroneまたはAPα)の投与がアルツハイマー病のトランスジェニックマウス(3xTgADマウス)の学習障害を回復させることを実証している。データは、3カ月齢で、3xTgADマウスが正常な非Tgマウスの能力と比較して学習障害を生じていることを示す。正常な高機能を持つ非Tgマウスにおいては、高レベルの神経発生が伴い、APαが学習能力を高めることはなかった。対照的に、APαは、非Tgマウスと比較して、APαで処置された3xTgADマウスの能力が、正常な非Tgマウスと統計的に違いがないレベルまで、3xTgADマウスの学習能力を有意に高めた。学習試験の1週間後、マウスに、学習による関連付けの記憶を調べる試験を行った。非Tgマウスは50%にやや満たない条件反射率を示し、対して3xTgADマウスは28%という反射率を示した。APαは非Tgマウスの記憶能力を有意に高めることはなかった。しかし、APαで処置された3xTgADマウスは、正常な非Tgマウスと比較して遜色のないレベルまで記憶において有意な改善を示した。
以下も実施例に示されていることであるが、3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オンまたはテトラヒドロプロゲステロン(THP)、つまり天然のプロゲステロン代謝物は、新しい海馬神経細胞の形成を誘発または刺激することが発見された。この分析の結果は、有糸分裂をする神経細胞の数がテトラヒドロプロゲステロンの存在下で約2倍になったことを実証している。
いかなる理論にもとらわれずに述べると、本明細書に記載される神経増強物質は、神経前駆細胞および/または幹細胞(NP/SC:neural progenitor/stem cells)を通して作用するという仮説が立てられる。成体ほ乳類の脳のいくつかの領域において、NP/SCの小さな集団が、分裂し分化して神経細胞およびグリア細胞になる能力があることが発見されている。しかも、増殖および/または生存を増強させることで、頭部外傷および初発性の神経学的疾患の状態を含む変化する環境要件に反応するのはNP/SCの神経細胞集団なのである。加えて、NP/SCの増殖速度は加齢した集団では低下し、記憶障害および学習障害に向かわせる。しかしNP/SCの移植が、加齢に関係した記憶障害を逆転することがわかっている。最近になって、アミロイドベータタンパク質、つまりアルツハイマー病の発病を暗示するタンパク質がNP/SCの増殖および分化を変化させることが示された。このことはアルツハイマー病の病因において混乱したNP/SCの挙動に対する役割を示唆している。
神経前駆細胞の死に影響する正確なシグナルは現在特定され始めている。しかし本明細書で提示されるデータは、神経増強物質が神経前駆細胞および/または幹細胞に分裂するようシグナルを出すメカニズムを示している。この意味では、本発明における神経増強物質は、神経伸張信号の部類に属する。神経伸張信号は、生存しているNP/SCの集団を消耗せずに神経前駆細胞および/または幹細胞の分裂を引き起こすことで新しい神経細胞の成長の提供を可能にする。したがって、本発明における神経増強物質は、神経変性疾患と、加齢に関係した精神的な衰えおよび能力障害とが及ぼす影響と闘うために非常に重要になり得る。さらに、本明細書に記載される神経増強物質は、カルシウムおよび/もしくはリン酸塩のレベルおよび/もしくは恒常性を調整すること、ならびに/または調節不全のカルシウムを正常なレベルに回復することによって、NP/SCの分裂を誘発または刺激し得る。細胞内カルシウムおよび/またはタンパク質のリン酸化の状態における変化は、神経の脱落を防ぐこともでき、それによってアポト−シスまたは細胞死につながる他の類似のプロセスから神経細胞を保護するために作用する。最後に、3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オンのような特定のプロゲステロン代謝物は、ガンマ−アミノ酪酸A(GABAA:gamma−aminobutyric acid A)受容体複合体のポジティブアロステリックモジュレーターとして作用する神経活性のステロイドであることが公知であるが、これはNP/SCからの作用のメカニズムであり得るかまたは、そうでない可能性もある。
実施例は、3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP)の投与が加齢に関係したベータ−アミロイドの発現を低減することも実証している。神経細胞内ベータアミロイドの発生は、通常6カ月齢および9カ月齢の動物で観察され、斑の発生は12カ月齢の動物で観察される。斑は9カ月齢の動物にはほとんど観察されない。THP(1週間あたり10mg/kg、週1回6カ月間投与)を、9カ月齢および12カ月齢のオスのアルツハイマー病トランスジェニックマウス(3xTg−AD)に投与した。9カ月齢の動物はその中にベータアミロイドの蓄積が発生する前の3カ月齢でAPαの投与を開始した。一方12カ月齢の動物は、ベータアミロイドが既に神経細胞内に蓄積し始めた6カ月齢でAPαの投与を開始した。結果はTHPの投与がオスのアルツハイマー病のトランスジェニックマウスの大脳皮質内のベータアミロイドの量を有意に減少させたことを示している。ウェスタンブロット解析は、Aベータ56と呼ばれるベータアミロイドの形態を示した。Aベータ56は動物実験によると、アルツハイマー病のトランスジェニックマウスモデルとAベータ56を注射したラットとの両方で記憶障害を引き起こすオリゴマー(互いに結合した多価アミロイドベータペプチド)である。12カ月齢の動物では、Aベータ56のレベルは大幅に低かった。これは12カ月齢の動物にベータアミロイド斑が発生していることが原因である可能性がある。ベータアミロイド斑の発生はAベータ56の量を減少させる。ベータアミロイドの免疫細胞化学的検出は、APαの投与が海馬神経細胞内においてAベータ56を実質的に減少させることを示した。APαは、神経原線維変化の基礎となるリン酸化タウの免疫活性も低減する。
本明細書に記載される組成物は、脳を冒す特定の癌と戦うことを目的とした治療法が原因で生じた神経の損傷を治療するためにも効果的である。たとえば、頭の放射線照射治療は、多くの原発性脳腫瘍、脳への転移性のある癌、中枢神経系(CNS)関係の白血病/リンパ腫、頭部癌、および頸部癌の治療の成功に不可欠である。大脳に関係するこのような放射線治療は、小児および成人の両方に衰弱性の認知力低下を引き起こす。海馬に依存した学習および記憶は、神経前駆細胞および/または幹細胞ならびにそれらの増殖による子孫細胞の活動に強く影響されることが実験で示されている。海馬の顆粒細胞層は新しい神経細胞を追加することによって、継続的な再生および構築をしているので、より抵抗力のある脳の有糸分裂後の神経細胞およびグリア細胞を損傷する量より大幅に低い線量の放射線照射が、この増殖力の高い神経前駆細胞および/または幹細胞に深刻な影響を与えることがわかっている。したがって、神経前駆細胞および/または幹細胞は放射線照射に非常に敏感であるので、成体のラットの頭蓋への単回の低線量が海馬の神経発生を遮断するのに十分であると考えられている。最近の実験ではさらに、放射線照射後の進行性の学習障害および記憶障害が、正常な神経前駆細胞および/または幹細胞の活性が長期間失われたことに起因する累積的な海馬の機能不全により引き起こされることがわかった。Monje and Palmer(2003)Current Opinions in Neurology 16(2):129−134を参照されたい。したがって、本明細書に記載される、海馬の細胞培養に関して神経的に効果のある組成物を考慮すると、この組成物を利用した治療法は脳に関係した癌の放射線治療を受けている、または受けたことのある個体に有益であり得る。
IV.キット
本明細書に記載される組成物は、キットに梱包することができる。キットは、1つ以上の神経増強物質を含む組成物の単回用量または複数回用量と、組成物の投与の説明書とを含むことができる。具体的には説明書は、示された通りに、効果的な量の組成物が個々の神経疾患、神経障害または神経障害を有する個体に投与されるように指示する。組成物は個々の治療法に準拠して上で記載したように調合され、あらゆる利便的な形で梱包することができる。
説明書はパッケージ素材に取りつけたり、添付文書として含めたりすることができる。通常説明書は資料または印刷物を含むがこれらに限定されない。本発明では、この説明書を保存し、それをエンドユーザーに伝達できるあらゆる媒体が考慮されている。このような媒体は、電子保存媒体(たとえば磁気ディスク、テープ、カートリッジ、チップ)、光媒体(たとえばCD ROM)などを含むがこれらに限定されない。本明細書で用いられる「説明書」という用語は、説明書を提供するインターネットサイトのアドレスを含むことができる。本発明の実施形態は、神経疾患、神経障害または加齢に関係した神経の衰えもしくは障害を有するヒトの患者の治療に、上記の医薬品を使用することも含む。
以下に述べる実施例は、本発明の治療用作用物質、組成物および方法の、製造方法、使用方法および評価方法を当業者に完全公開するために開示され、本発明とみなされるものの範囲を制限しようとするものではない。提示される数値(たとえば量、濃度など)については正確さを期するために努力がなされたが、多少の実験誤差および偏差は許容されるべきである。
材料および方法
神経発生および/またはベータ−アミロイドの発現の低減を評価するための、以下に述べる動物試験を、アルツハイマー病のトリプルトランスジェニックマウスモデル(3xTgAD)を用いて行った。3xTgADマウスは、3つのヒト家族性AD(アルツハイマー病)遺伝子の変異(APPSwe、PS1M146VおよびtauP301L)を持ち、ベータ−アミロイド斑の形成と神経原線維変化との両方の、加齢による神経病理を顕在化している。3xTgADマウスは、ADの神経病理学的なマーカーを発現しているのに加えて、弱冠4カ月齢で学習障害および記憶障害を示しているが、2カ月齢では示していない。3xTgADと、ヒトのAPPswe、tauP301LおよびPS1M146Vの各ホモ変異体と、その変異体バックグラウンド(129/Sv x C57BL/6)とがDr.Frank Laferla(UC Irvine)から得られ、コロニーはUSCで確立された。この系統のマウスにおけるアミロイドおよびタウに関する症状ならびにシナプスの機能不全の特性解析は既に述べた通りで、発明者らの研究室で確認された。
このADモデルを用いて、以下の項目を評価した。1)3カ月齢における、THPの濃度、神経の状態および認知の状態、2)不偏立体解析学、表現型免疫細胞化学(phenotype immuncytochemistry)、リアルタイムRT−PCR、ウェスタンブロット法、瞬目痕跡条件づけ訓練および記憶を用いた、神経の状態および認知の状態の両方に対するTHPの影響。
(実施例1)
海馬神経細胞に対する3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP)の効果
海馬神経細胞を、胎齢18日のラットの海馬から得た。1サンプルあたり約12,000神経細胞である。サンプルは95%が神経細胞であった。神経細胞サブタイプの選択は行わなかった。海馬神経細胞を3a−ヒドロキシ−5a−プレグナン−20−オン(THP)で処理した。海馬神経細胞を含む2つのサンプルに、3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP)を、10ナノモル(nM)および100ナノモル(nM)のいずれかの濃度で加えた。細胞を24時間37℃で培養した。神経細胞は、限定培地、Neurobasal+B27補助添加物において、THPもしくは他の試験分子の非存在下(対照)、またはTHPもしくは他の試験分子の存在下(実験的)での条件で培養した。THPを加えたサンプルを、海馬神経細胞のみを含む対照サンプルと比較した。神経細胞の有糸分裂の出現における変化が観察された。個々の神経細胞の有糸分裂の出現は、神経細胞の細胞体における2分裂の形で定義される。2分裂の形は神経細胞が有糸分裂をしていることを示す。実験した3つのサンプルの比較のグラフが図1に示されている。このデータは、実験した神経細胞の有糸分裂の表現型において、10nmTHPでも100nmTHPでも対照サンプルと比較して約2倍の増加があることを示している。データは、有糸分裂の表現型を示す神経細胞総数のパーセントで、平均+標準誤差、**p<.01、***p<.001で示されている。
上記の実験を、海馬神経細胞を含む3つのサンプルに、THPのみを100ナノモル(nM)、250nMおよび500nMの濃度で加える形で繰返し行った。THPを加えたサンプルを、海馬神経細胞のみを含む対照サンプルと比較した。実験した4つのサンプル間の比較のグラフが図2に示されている。このデータは、実験した神経細胞の有糸分裂の表現型において、対照サンプルと比較して約2〜3倍の増加があることを示している。有糸分裂の表現型の誘発において最も大きな効果が500nmTHPで観察された。データは平均+標準誤差のパーセントで、**p<.01、***p<.001で示されている。
(実施例2)
細胞増殖マーカーの発現に対する3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP)の効果
THPは細胞増殖マーカーの発現を増加させることもわかった。細胞の増殖を評価するために、細胞周期タンパク質の発現を用いて成功した。このようなタンパク質の1つは、核増殖タンパク質、Ki−67であり、細胞周期のG1期、S期、G2期、およびM期に発現するが、G(休止)期には発現しない。Ki−67抗原は半減期が短いので、活発に増殖している細胞のマーカーとして利用できる。別の細胞周期タンパク質は、細胞分裂調節タンパク質2(cdc2)であり、これはG1/S期およびG2/M期に重要な役割を果たすサイクリン依存性キナーゼ(CDK1:cyclin dependent kinase 1とも呼称する)である。もしTHPが神経細胞の増殖を誘発するなら、細胞増殖マーカーが増加するはずである。
海馬神経細胞を濃度250nMのTHPで72時間処理し、核増殖マーカー、ki−67抗原を抗体で免疫染色した。これにより抗原は黄色になる。結果は、THPが核で増殖するマーカーKi−67の発現を誘発することを示している。このことは、ドナー細胞および娘細胞の細胞質が完全には分離していなかったという事実によって支持される。細胞周期タンパク質cdc2も用量依存的様式で観察されている(図3を参照)。図に示されているように、THPは海馬神経細胞における細胞分裂調節タンパク質2(cdc2)の発現を増加させる。
この実験では、神経細胞をTHPに24時間曝露した後で採取した。全細胞可溶化物の40μgのタンパク質を負荷し、具体的にはcdc2に対する抗体(Ahcom)を用いた12%SDS−ゲルで分離し、Un−Scan−It画像ソフトウェア(Ilk Scientific Corp.)を用いて分析した。この図は、同じ結果を有する3つの異なる実験の1つの代表的なウェスタンブロットを示している。
(実施例3)
神経細胞の生成に対する3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP)の効果
THPが細胞増殖マーカーの発現を増加させることを明らかにしたが、細胞増殖マーカーの増加が神経細胞の数の増加ということになるのかどうかについて判定が試みられた。THPは細胞の総数および分裂の速度を増加させることによって、神経細胞の増殖を誘発することがわかった。図4に示されているように、THPは神経細胞の数を約30%増加させた。この結果は、異なる複数の実験にわたって非常に一貫性があり、マウスの海馬神経細胞株(HT−22)を用いて得られた結果(図5およびその下の表1)とも一致している。図5および表1に示されているように、MuLV−GFPに感染したマウスの神経細胞において評価したところ、THPは神経細胞の数を増加させている。HT−22細胞の増殖に対するTHPの効果は、MuLVに感染した細胞で検出された。左の図はビヒクルのFACS分析結果を示す。右の図はTHPで処理したMuLV−GFP感染細胞のFACS分析結果を示す。
表はFACSの結果をまとめたものである。V=ビヒクル:vehicle、THP(250nM)。蛍光標示式細胞分取法(FACS:fluorescent associated cell sorting)で測定したところ、THP処理は分裂を起こしている細胞の数を22%増加させた。したがってこのデータは、THPが、ラットおよびマウスに由来する初代培養細胞でも連続継代性細胞株でも神経細胞の増殖を増加させることが可能であることを示している。
(実施例4)
3H−チミジンの取り込みに対する3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP)の効果
実施例1および実施例2で記載した形態学的な観察を確証するための実験的手法として、DNA合成の指標としての3H−チミジンの取り込みの生化学的な分析を用いた。図6に示されているように、THPは、約0.1nmTHPから約250nmTHPまでの間で、3H−チミジンの取り込みにおいて、対照(F=12.31,df3,19,p<.0001)に対して80%の増加を誘発した。このように、神経細胞に対してTHPが神経的な効果を及ぼす範囲は非常に鋭敏で非常に広範である。さらに図7に示されているように、他の構造的および化学的に類似のステロイドと比較したとき、DNA合成は、特にTHPの存在下で(F=9.15,df6,27,p<.0001)誘発される。
これらの実験では、胎齢18日のラットの胎仔に由来する培養海馬神経細胞を、ポリリジンコートしたプラスチックカバースリップに付着して血清を含む培地に入れ40分間保持した。その後、100〜500nMのTHPの存在下または非存在下という条件で、1Ci/mlの3H−チミジンに神経細胞を曝露し、示されたステロイドの存在下または非存在下という条件で37℃で24時間培養した。データは平均+標準誤差、p<.05、**p<.01、***p<.001で示されている。結果は、3H−チミジンの取り込みに関するTHPの誘発が特異的に高いことを実証した。プロゲステロンは3H−チミジンの取り込みにおいて適度な増加を誘発したが、THPの立体異性体、すなわち、5cc、3ss−THPと、5ss、3ss−THPと、5α、3P−プレグネンとは効果を示さなかった。
さらに、5α、3α−プレグナン−ジオール、5α、3α−プレグナン−トリオールおよび硫酸プレグネノロン(PS:pregnenolone sulfate)は、形態学的な分化を増加させることが知られているが、これらの分化に対する効果に合致する3H−チミジンの取り込みにおいては、有意な減少を誘発した。このステロイドの特異性分析は、THPによる有糸分裂誘発が特異的であることを証明している。さらにこの証明と合致するのは、これらの作用物質が3H−チミジンの取り込みにおいて減少を引き起こすという点において、分化因子は、THPの効果とは反対の効果を有するという所見である。
海馬神経細胞におけるTHPが誘発した3H−チミジンの取り込みの時間経過が図8に示されている。この実験では胎齢18日のラットの胎仔に由来する培養海馬神経細胞を、ポリリジンコートしたプラスチックカバースリップに付着して血清を含む培地に入れ40分間保持した。その後、10〜250nMのTHPの存在または非存在という条件下で血清を含む培地に1pCi/mlの3H−チミジンを加え、37で1時間、8時間または24時間培養した。データは平均±標準誤差、p<.05、**p<.01、***p<.001で示されている。
(実施例5)
神経幹細胞の生成に対する3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP)の効果
THPが神経幹細胞の成長を促進するかどうかを判定する実験も行った。図9において、胎齢18日のラットの胚の脳室周辺領域および海馬から、ニューロスフィア(neural spheres)が発生した。ラットの胚5個を、THP単独または、分裂促進因子としてEGFおよびFGF−2を加えて処理した。神経スフィアの実質的に継代3代目を採取し、各シャーレに均等に、無作為にばらして入れた。プロゲステロンなしで、表示された試薬で各シャーレを36時間処理した。その後細胞を採取し、トリプシン処理して単一細胞にした。細胞の数は、血球計を用いて計器のみでカウントし、エクセルでプロットした。
ヒトの神経幹細胞に対するTHP投与の神経性の効果を評価するために別の実験を行った。結果が図10に示されている。この実験では、ヒトの胎性皮質に由来する神経幹細胞を、さまざまな濃度のAPα[1〜1000nM]で、またはTHP陽性対照としてbFGF[20ng/ml]+ヘパリン[51lg/ml]で処理した。増殖マーカーであるBrdU[10uM]を、試験分子と同時に加え、細胞を37℃で24時間培養した。BrdUのシグナルの定量的なElisa化学発光を、基質添加の24時間後に行い、化学発光をLMaxマイクロプレートルミノメーター(Molecular Device)(Roche Diagnostics Corp.,Cell Proliferation ELISA,BrdU(化学発光)で測定した。250nMおよび500nMのTHPは、ビヒクル対照条件と比較してBrdUの化学発光を有意に増加させ、陽性対照のbFGF+ヘパリンよりも一様に大であった。データは平均±標準誤差で示されており、3つの別々の実験から得られたものである。
(実施例6)
歯状回におけるNP/SCの増殖および生存に対する3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP)の効果の評価
老化したマウスの集団が、本明細書に記載される治療方法の効果について、さまざまな期間で評価される。特定のラットの品種(Brown Norway/Fischer344F1の交雑種)が、異常な病状の兆候がほとんどなく、正常な加齢パターンを有するという理由で、この実験のモデルとして選択された。実験の治療方法は、本発明の1つ以上の神経増強物質を一連の老化したマウスに投与し、同じ集団で本発明の治療方法を受けていないマウスと比較することを含む。
例として、12匹の実験マウスには、治療のために選択された期間、毎日3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP)(6匹のマウスには10mg/kgのTHPが、6匹のマウスには50mg/kgのTHPが投与される)が注射される。対照マウスには、実験マウスに投与される体積と同じ体積の生理食塩水が毎日注射される。治療計画は、2週間、1カ月間、3カ月間および6カ月間の期間継続される。選択された治療期間が終了したとき、3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP)の存在および非存在という条件下での、歯状回におけるNP/SCの増殖および生存が測定される。実験マウスと対照マウスでの神経学的な差異を評価する目的で、全てのマウスに5−ブロモ−2’デオキシウリジン(BruU;50mg/kg、i.p.)の注射が1日5回与えられる。全てのマウスはBruUの注射の12日後に屠殺される。実験マウスおよび対照マウスの脳切片が準備され、神経細胞の発生および生存における変化が比較される。
神経の増強を定量するために、実験マウスおよび対照マウスの各々における3つの切片から歯状回領域の免疫陽性(immunpositive)細胞がカウントされ比較される。細胞へのDNAの取り込みは、分裂している細胞でのみ起こるのではなく、DNAの修復中にも起こり、比較的多量のBRDUまたは3H−チミジンをまた取り込むミスマッチDNA修復細胞をカウントすることで偽陽性の可能性が生じる。BrDUの取り込みのこのソースを回避する目的で、MuLVで増強された緑色蛍光タンパク質(GFP)が分裂している細胞を標識するために用いられた。細胞増殖率は、GFP発現細胞対GFP非発現細胞の比をFACSで測定して確定される。マウス白血病ウイルス(MuLV)は、有糸分裂中の細胞にのみ感染するが、分裂していない細胞には感染しないことが実証されている(Lewis and Emerman 1994)。さらにこの方法は、インビトロおよびインビボで、分裂している神経細胞の標識化において成功裏に用いられている(van Praag,H.,Schinder,A.F.,Christie,B.R.,Toni,N.,Palmer,T.D.,Gage,F.H.,Functional neurogenesis in the adult hippocampus.Nature.2002.415,p1030−1034)。感染した細胞は安定的にGFPを発現し、生体内で分裂した神経細胞が分化し脳内の各部位に遊走するときそれらを追跡するのを可能にする。加えてMuLV感染−GFP法は、FACS分析により、THPで処理された細胞と処理されていない細胞での分裂速度のより正確な比較を可能にする。さらには、このレトロウイルス感染法の使用は、将来の遺伝子治療の目的で、将来に適用するためのデータも提供し得る。
内部リボソーム進入部位−導入遺伝子カセット(env遺伝子と長い3’末端反復配列との間に配置されている)の標準の開始コドンとともにGFPがフレーム内に挿入されたウイルス株が用いられた。このウイルスベクターは、野生型のMuLVの複製動態と類似の複製動態を示し、導入遺伝子の効果的な送達を媒介した(Logg,C.R.Tai,C.K.Logg,A.Anderson,W.F.Kasahara,N.,A uniquely stable replication−competent retrovirus vector acheives efficient gene delivery in vitro and in solid tumors.Human Gene Therapy.2001.8:p921−932)。
神経前駆細胞および、または幹細胞(NP/SC)が、エキソビボ拡張のために、すなわち本発明に記載される1つ以上の神経増強物質で接触させるために用意される。NP/SCを入手し維持する方法は当技術分野で公知である(Eriksson,P.S.,E.Perfilieva,et al.(1998).”Neurogenesis in the adult human hippocampus.”Nat.Med.4(1313−7,Song,H.J.C.F.Stevens7 et al.(2002).”Neural stem cells from adult hippocampus develop essential properties of functional CNS neurons.[コメント].”Nature Neuroscience 5(5):438−45;van Praag,H.,A.F.Schinder,et al.(2002).”Functional neurogenesis in the adult hippocampus.”Nature 415(6875):1030−4;Erlandsson,A.,M.Enarsson,et al.(2001).”Immature neurons from CNS stem cells proliferate in response to platelet−derived growth factor”Journal of Neuroscience 21(10):3483−91)。この細胞の培養物に、約100nm〜約1000nmのTHPまたは別の実質的に同等な神経増強変形分子が加えられる。NP/SCの分化を最小限にしてNP/SCの有糸分裂を最大限にするために、適切な成長条件が保持される。こうして、本発明の1つ以上の神経増強物質を添加する前に、現状よりも多くのNP/SCを含む培養物が得られる。拡張した神経細胞の集団は、その後、神経の脱落または他の神経障害もしくは損傷を伴う個体に脳室内注入で注入される。拡張した細胞の注入は、さらなる増殖、分化および生存を評価するために観察される。
(実施例7)
ADの明確な病状の発症前の3カ月齢のオスの3xTgADマウスにおいて、歯状回顆粒細胞帯(DGZ:dentate granular zone)内の神経前駆細胞の増殖は不十分である
Aβの検出用にIHC標識された近隣の切片に対して、BrdU免疫組織化学法(IHC:inmmunohistochemistry)を実施した。切片はBrdU抗体(Novus Biologicals)で免疫染色し、Sony ICX−285 CCD CoolSnap HQカメラに接続したZeiss Axiovert200Mを備えた3I Marianas Imaging Systemと、SlideBook不偏定量的立体解析学ソフトウェアを装備したXenon 2−Gal Fast Excitation Sourceとを用いて画像化した。不偏定量的立体解析学的解析の結果は、アルツハイマー病(AD)の病状のマーカーが出現する前の3カ月齢では、3xTgADマウスの歯状回では、非Tgマウスの歯状回と比較して、BrdU陽性細胞の数が有意に少なかったことを示している。この結果は、明白なADの病状の進行の前に3xTgADマウスのDGZで基底神経発生が低減していることを示すものである。この結果は、Aβおよびリン酸化タウの出現より前に明白である早期の神経欠損が、ADの病因学に寄与する可能性があることも示唆している。
(実施例8)
3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP)は、3xTgADマウスの海馬歯状回内の神経欠損を回復させる
THPは非Tgマウスおよび3xTgADマウスの両方において、BrdUの取り込みを増加させた。より顕著で有意な増加は3xTgADマウスで観察され、最大の増加はビヒクル対照群に対して55+18%多く、これは10mg/kgBWでおこった。発生した細胞の総数の分析は、APαが細胞の増殖を正常な非トランスジェニックマウスの増殖のレベルまで回復させ、それにより神経欠損を逆転させたことを示した。
GC/MSによるTHPの測定のために屠殺したとき、THPまたはビヒクルで処置されたマウスの脳の片側切片から大脳皮質を採取した。血漿も屠殺の際に採取した。3カ月齢のオスの非Tgマウスおよび3xTgADマウスは、THP(1、10、および20mg/kgBW)またはビヒクル(PBS中に0.1%のエタノール、各グループにn=4)を皮下注射した。マウスは24時間後に屠殺した。血漿および脳内のTHP濃度をGC/MSで測定した。THPは血漿および大脳皮質内で、直線的な用量依存的様式で検出された。興味深い結果は、3xTgADマウスは、THPで処置された非トランスジェニックマウスと比較して、血漿および大脳皮質の両方におけるTHPのレベルが一貫して低かったことである。3xTgADマウスの皮質では、10mg/kgのTHP投与量が、注射の24時間後に、皮質レベルで20ng/gのタンパク質になっている。
(実施例9)
3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP)は、3xTgADマウスおよび非Tgマウスの海馬において、増殖性細胞核抗原(PCNA:proliferating cell nuclear antigen)およびサイクリン依存性キナーゼ1(CDK1/cdc2)の発現を増加させた
本発明者らは、不偏立体解析学的解析と比較して、海馬における細胞増殖の効率をより速く検知することを可能にする、ミディアムスループットの増殖マーカーを特定するために試行した。したがって発明者らは、2つの明確な細胞周期に関係したタンパク質であるPCNAおよびCDK1/cdc2が、海馬内の細胞増殖の生化学的な指標として役立つかどうかを判定するために、立体解析学的解析と同時に生化学的解析を実施した。
不偏立体解析学的解析およびTHPの検出のためのGC/MCを実施したのと同じ脳に由来する脳のサンプルに、PCNAmRNA、CDK1mRNA、PCNAタンパク質およびCDK1タンパク質の発現に対してリアルタイムRT−PCRならびにウェスタンブロット法で解析を行った。これらの分析の結果は、3xTgADマウスにおける立体解析学の結果と一致したパターンで、APαがPCNAmRNAの用量依存的な増加を誘発したことを示している。ウェスタンブロット解析の結果は、10mg/kgのAPαが、3xTgADマウスの海馬に、非Tgマウスと比較してより多量のPCNAタンパク質およびCDK1タンパク質の発現を誘発したことを示し、これは立体解析学のデータと一致している。重要なのは、これらのデータが、PCNAのmRNA発現でもタンパク質発現でも、海馬内の細胞増殖の指標として役立ち得るということを示し、複数回投与用量および局所調合物におよんでAPαの増殖効率の初回通過ミディアムスループット解析が可能になるということである。
(実施例10)
3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP)で処置した3xTgADマウスの歯状回で新たに形成された細胞の表現型は、神経細胞の表現型およびアストロサイトの表現型である
インビボのBrdU陽性細胞の表現型を検証するために、3xTgADマウスの海馬において、BrdU陽性細胞に、神経細胞マーカーであるTuj1、MAP2、NeuN、およびアストロサイトマーカーであるGFAPで二重または三重の免疫標識を行った。この3xTgADマウスは3カ月齢のときに10mg/kgのTHPで処置され、3〜12週間生存した。低倍率での拡大下で、BrdU陽性細胞の大部分はSGZまたはHilusで観察される。新たに形成された細胞の分布は、以前の研究で観察された分布と一致している。画像では、NeuN陽性細胞の中にBrdUの共局在が認められ、このことは、新たに発生した細胞が初期の神経細胞の表現型を示すことを意味する。画像は、新たに形成された顆粒細胞層が、BrdUおよびNeuNの共局在する核をともなう神経細胞を、BrdU陽性核およびGFAP陽性サイトゾルをともなうグリア細胞と統合したことを示した。
神経細胞およびグリア細胞は、成体期を通して、ラットの脳の2つの領域、つまり脳室下帯(SVZ:subventricular zone)および海馬のSGZで増殖する細胞から発生する。本発明者らは、対照群および10mg/kgのAPα投与群に分けて、3xTgADマウスのSVZを立体解析学的に解析した。これらの解析の結果は、THP処置されなかった3xTgADマウスの群と比較して、THPが、BrdU陽性細胞において58%の増加を誘発したことを示した。これらのデータはTHPがSVZおよびSGZの両方においてBrdUの取り込みを増加させるが、SVZにおいてより顕著であったことを示している。
(実施例11)
3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP)は3xTgADマウスの学習障害を回復させた
THPが誘発した細胞発生に機能的な重要性があるのかどうか、つまり、歯状回の新しい神経細胞の発生に依存すると見られている行動課題の学習および記憶の両方に対するTHPの影響を判定するために、遅延痕跡条件づけで評価した。3xTgADマウスおよび非Tgバックグラウンドマウスを行動試験用に用意し、学習試験開始の7日前にTHP(10mg/kg、1回)またはビヒクルの単回皮下注射をした。マウスは注射の後、訓練プロセスが開始されるまで7日間飼育された。THPへの曝露と行動実験開始との間の7日間の根拠は、新しく発生した神経細胞が歯状回の中に増殖し、遊走し、統合する時間の余裕をおくことであった。7日間おいた後、学習能力の速度と規模を評価するための5日間の学習フェーズ訓練(1日35試験)で行動試験を開始した。各試験においてマウスは最初に250ms間85dBの音という条件刺激を受け、次に250ms遅れて、100ms間60Hzのショックという無条件刺激を受けた。条件刺激と無条件刺激との間に250msの遅延を導入することは、音とショックとの間の関連づけを学習によって習得するよう海馬に要請することである。
学習試験の後、マウスをケージに戻してさらに7日間飼育し、続いて学習による関連づけの記憶の試験を行った。データは、3カ月齢で、3xTgADマウスが正常な非Tgマウスの能力と比較して学習障害を生じていることを示す。正常な高機能を持つ非Tgマウスにおいては、高レベルの神経発生が伴い、THPが学習能力を高めることはなかった。対照的に、THPは、非Tgマウスと比較して、APαで処置された3xTgADマウスの能力が、正常な非Tgマウスと統計的に差がないレベルまで、3xTgADマウスの学習能力を有意に高めた。
APは3xTgADマウスの記憶障害を逆転させた
学習試験の1週間後、マウスに、学習による関連付けの記憶を調べる試験を行った。非Tgマウスは50%にやや満たない条件反射率を示し、対して3xTgADマウスは28%という反射率を示した。THPは非Tgマウスの記憶能力を有意に高めることはなかった。しかし、THPで処置された3xTgADマウスは、正常な非Tgマウスと比較して遜色のないレベルまで記憶において有意な増加を示した。多変形ANOVA(Multivariant ANOVA)分析は、遺伝子型(p=0.004)および訓練の日々(0.04)における学習および記憶に有意差を示した。訓練の日々と遺伝子型との間には相互作用はおこらなかった(p=0.997)。行動分析の結果は、APαが3xTgADマウスの学習速度を上げ、学習能力の規模を拡大し、3xTgADマウスの記憶障害を回復させたことを示している。
(実施例12)
3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP)はBrdU標識された細胞の生存を有意に増加させた
発明者らは、細胞の生存が直接的にTHPの曝露に起因するのか、それとも細胞の生存は訓練の経験に依存するのかを決定するために探索を行った。そこで、行動試験の記憶フェーズに関して、BrdU陽性細胞の生存と認知能力との関係を分析した。学習試験が、我々が実施した1日あたり35試験の6〜7倍、つまり1日あたり>200+試験である行動パラダイムにおいて観察されているように、条件づけパラダイムがBrdU陽性細胞の増加に寄与したのかどうかを最初に判定した。訓練/学習の効果を判定するために、3xTgADマウスを1日あたり35試験、5日間訓練し、続いて学習フェーズが終了したときに屠殺し、不偏立体解析学的解析でBrdUを解析するために脳を処置した。データは、我々の行動解析において使用した訓練/学習パラダイムはBrdU陽性細胞の増加を誘発しなかったことを実証している。対照的に、THPで処置した3xTgADマウスは、屠殺の20日前に発生して生存している細胞の数が実質的に倍増していた。これらのデータはTHPの作用メカニズムは訓練条件とは無関係で、THPに特有であることを示している。
THPで高められた記憶機能は新たに形成されたBrdU陽性細胞数の数と高い相関性がある
発明者らは、行動試験の記憶フェーズに関して、BrdU陽性細胞の生存と認知能力との関係を決定するための探索を行った。相関解析は、ビヒクル処置した3xTgADマウスとAPα処置した3xTgADマウスとの両方で、生存しているBrdU陽性細胞の数と記憶能力との間の有意に高い相関性を示した(表1)。
Figure 2010530371
(実施例13)
3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP)は、6カ月齢のオスの3xTgADマウスの海馬のCA1領域で、免疫細胞化学的に検出可能なベータ−アミロイドおよびリン酸化タウの発現を減少させる
トリプルトランスジェニックマウスを先述のように異なる月齢で屠殺し、脳切片を抗アミロイドβ42抗体で免疫染色し、ペルオキシダーゼ−DABで観察した。我々が評価した病状の進展の結果は、LaFerlaグループの結果を再現しており、我々の研究室からの結果が過去に公表された特性解析と一致することを示している。3カ月齢では、細胞のAβ免疫反応性(IR:immunoreactivity)は辛うじて見える程度であった。6カ月齢、9カ月齢および12カ月齢では、細胞内部のAβIRが明らかで、強度は月齢に応じて増加していた。神経外のAβIRは9カ月齢の3xTgADマウスの海馬ではめったに観察されなかったが、12カ月齢の3xTgADマウスの海馬には一貫して存在していた。暫定的な結果は、皮質内のAβのレベルの年齢依存的な増加を示し、これも公表された報告と一致している。
APαの長期の曝露の影響を測定するための試験プロジェクトにおいて、週3回、3カ月間にわたるTHP10mg/kgの皮下注射が、3〜6カ月齢の3xTgADマウスにおけるアルツハイマー病(AD:Alzheimer’s disease)の病状の進行に及ぼす影響を調べた。マウスの脳の半球の切片を、Aβに対する特定の抗体(6E10)または、残基159と163との間のタウおよびPHF−タウを識別するHT7で免疫染色し、FITC結合2次抗体で可視化した。免疫反応性の観察の結果は、AβIRとリン酸化タウIRとの両方が主に神経細胞体の中に局在していることを示した。SlideBookが支持しているカラーマスクおよび自動カラー細胞カウントシステム(3i Intelligent Imaging System)を用いた定量分析は、APαが3xTgADマウスの海馬のCA1内のADの病状マーカーのレベルを減少させたことを示した。この試験プロジェクトの結果は、THPが、海馬の鉤状回領域においてADの病状による負担を軽減したことを示している。
別の実験では、THP(1週間あたり10mg/kg、週1回6カ月間投与)を、9カ月齢および12カ月齢のオスのアルツハイマー病トランスジェニックマウス(3xTg−AD)に投与した。9カ月齢の動物はベータアミロイドが発生する前の3カ月齢でTHPの投与を開始した。一方12カ月齢の動物は、ベータアミロイドが既に神経細胞内に蓄積し始めた6カ月齢でTHPの投与を開始した。通常、神経細胞内のベータアミロイドの発生は6カ月齢および9カ月齢の動物に見られ、老人斑の発生は12カ月齢の動物に見られる。老人斑は9カ月齢の動物にはほとんど見られない。これは図11に示されている。
THP投与の結果は図12に示されている。グラフは、THPがオスのアルツハイマー病のトランスジェニックマウスの大脳皮質内のベータアミロイドの量を有意に減少させたことを示している。ウェスタンブロット解析は、Aベータ56と呼ばれるベータアミロイドの形態を示した。Aベータ56は動物実験によると、アルツハイマー病のトランスジェニックマウスモデルとAベータ56を注射したラットとの両方で記憶障害を引き起こすオリゴマー(互いに結合した多価アミロイドベータペプチド)である(Lesne et al., Nature,440,352−357(March 16,2006))。したがってAベータ56を減少させることは、記憶障害を予防する、または回復させる可能性を有する。12カ月齢の動物では、Aベータ56のレベルは大幅に低かった。これは12カ月齢の動物にベータアミロイド斑が発生していることが原因である可能性がある。ベータアミロイド斑の発生はAベータ56の量を減少させるのである。
ベータアミロイドの免疫細胞化学的検出は、THPの投与が海馬神経細胞内のAベータ56を実質的に減少させることを示した。THPは、神経原線維変化の基礎であるリン酸化タウの免疫反応も低減する。Aベータ56およびリン酸化タウの免疫蛍光シグナルを定量化したものが図13に示されている。
(実施例14)
3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP)が誘発したヒト神経前駆細胞(hNPC:human neural progenitor cells)の増殖の用量反応および時間経過
hNPCの細胞増殖に対するTHPの影響を決定するために、用量反応(pM−nM)実験を最初に実施した。この分析結果は以下のことを示している。
a.実行可能な治療範囲内での用量で、THPはヒト神経前駆細胞の増殖を50%増加させた。用量反応解析の結果は、THPが、ヒト神経幹細胞の増殖を、二相性の用量依存的様式で促進したことを示している。
b.THPが誘発したヒト神経幹細胞の増殖は、最初1nMで明らかになり、100nMで最大であった。最大の増殖効力は、100nMで漸近的、250nMおよび500nMで持続的で、1000nMでは減少した。
c.THPが誘発したhNPCの増殖は直線的で、3時間で明白になり、6時間で最大に達した。
d.神経亢進因子としてのTHPの効力は、ヒト神経前駆細胞の増殖を促進することにおいて、bFGF+ヘパリンの効力より優れていた。
e.hNPCについて得られた結果は、APαが誘発したげっ歯類の海馬のNPCの増殖に関する結果を再現している。
(実施例15)
3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン(THP)は、hNPCの増殖を増加させるが、神経細胞の表現型は変化させない
hNPCの表現型の安定性にTHPが及ぼす影響を決定するために、hNPCをBrdU、Tuj1およびMAP2、またはGFAPで二重標識した。表現型の定量解析(細胞の総数のマーカーとしてのDAPI−陽性の青核)は、APαがBrdU陽性のhNPCの数を有意に増加させたが、Tuj1陽性細胞、MAP2陽性細胞またはGFAP陽性細胞対ビヒクルで処理したhNPCの割合を変えなかったことを示していた。
APαが誘発したhNPCの細胞増殖はGABAARアンタゴニストにブロックされる
以前本発明者らは、APαが誘発したラットのNPCの増殖はGABAARによって媒介されることを実証した。GABAARアンタゴニストであるビククリンが、APαが誘発したrNPCの細胞増殖に必要な、APαが誘発した細胞内部のカルシウム濃度の増加を阻害したからである。げっ歯類由来のNPCにおいてAPαが誘発した細胞増殖と同じメカニズムがヒトにも当てはまるのかどうかを判定するために、GABAARをビククリンでアンタゴナイズしてGABAARの必要性を調査し、続いてAPαが誘発したhNPCの細胞増殖の評価を行った。この分析の結果は、250nMのAPαが、陽性対照であるbFGFと同等に有効な増殖因子であったことを示す。アルコールおよびDMSOの両ビヒクルは、基底hNPCの増殖に有意な効果はなかった。ビククリンはAPαが誘発したhNPCの増殖を完全に阻害した。この結果は、rNPCの場合と同様に、APαが誘発した増殖はGABAARを必要としていることを示す。
ヒト神経前駆細胞(hNPC:human neural progenitor cells)は特有のGABAAR(GBRC)サブユニットの組み合わせを発現する
成熟神経細胞においてGABAARが活性化すると塩素イオンの流入によって過分極になる。反対に幼若神経細胞および神経前駆細胞においてGABAARが活性化すると、塩素イオンの流出によって脱分極になる。hNPCのAPαに対する反応は、シナプス外のGABAARと同様のGABAARの表現型を示すであろうと仮定される。シナプス外のGABAARの持続的なコンダクタンスは、電位依存性のL型カルシウムチャネルを開くのに必要な脱分極、および細胞周期活性化に必要な下流シグナル伝達カスケードに対して、より伝導性であり得る。
hNPC細胞におけるGABAAR受容体のサブユニットの発現を決定するために、培養hNPCと、ヒト胎児脳とから抽出した全RNAを用いて逆転写酵素PCR(RT−PCR:reverse transcriptase−PCR)を実施した。ヒト胎児脳の全RNAは、使用された全てのプライマーがRT−PCRにおいて機能的であることを確認するための対照として用いられた。ヒト胎児脳の全RNAの全てに由来するcDNAはGBRCのサブユニットの正の増幅を示した。反対に、hNPCでは、α2およびα5は発現したが、α1およびα4は発現しなかった。さらにhNPCにおいては、δサブユニットが非常に多く発現しているのも観察された。この結果は、GBRCの直接的活性化に必要なAPαの結合ポケットは、αサブユニットとβサブユニットの境界面によって形成されるポケットを必要としており、APαはこの2つのサブユニットの境界面にまたがることを示す最近の文献のデータと一致している。
本明細書で引用する全ての特許は、各特許が具体的かつ個別に援用されるべきであるものとして、その内容を本明細書に援用する。
先述した本発明の諸実施形態は、明快で正しい理解のために実例および例証としてある程度詳細に説明がなされたが、本発明の教示を踏まえると、添付する特許請求の範囲を逸脱することなく本発明にいくつかの変更および改善がなされてもよいことは、当業者には明らかである。
当業者はただ日常の実験を用いて、本明細書に記載される本発明の具体的な諸実施形態と同等の多くの実施形態を認識し、確実化することができるであろう。こうした同等の諸実施形態は以下の特許請求の範囲に含まれるものとする。

Claims (26)

  1. 個体の脳内のベータアミロイドの発現を低減する方法であって、
    該方法は、3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オンまたはその誘導体もしくは類似体を含む組成物を該個体に投与する工程を含み、
    該組成物が、該脳内のベータアミロイドの発現を低減するのに効果的な量の3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オンまたはその誘導体もしくは類似体を提供する方法。
  2. 前記投与の期間が約1カ月以上である請求項1に記載の方法。
  3. 前記投与の期間が約6カ月以上である請求項2に記載の方法。
  4. 前記投与の期間が約1年以上である請求項2に記載の方法。
  5. 前記組成物中の前記3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オンまたはその誘導体もしくは類似体の量が、約0.1〜約1000mg、好ましくは約0.1〜約500mg、より好ましくは約0.1〜約100mgである請求項1に記載の方法。
  6. 前記ベータアミロイドの発現がアルツハイマー病に関連している請求項1に記載の方法。
  7. 作用物質が注射によって、注入によって、移植によって、吸入によって、経口的にまたは局所的に投与される請求項1に記載の方法。
  8. 3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン、またはその類似体もしくは誘導体と、
    薬学的に許容される担体と、
    を含む、個体のベータ−アミロイドの発現を低減する医薬組成物であって、
    該組成物が、それを必要とする個体のベータ−アミロイドの発現を低減するのに効果的な量のα−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン、またはその類似体もしくは誘導体を提供する医薬組成物。
  9. 前記組成物内に含まれる神経増強物質の量が約0.1〜約1000mg、好ましくは約0.1〜約500mg、より好ましくは約0.1〜約100mgである請求項8に記載の医薬組成物。
  10. 前記組成物が、腸内投与、非経口投与、または局所投与用に調合される請求項8に記載の医薬組成物。
  11. 前記組成物が即時放出組成物である請求項8に記載の医薬組成物。
  12. 前記組成物が放出調節組成物である請求項8に記載の医薬組成物。
  13. 前記組成物が徐放性放出、遅延放出、パルス放出、またはこれらの組み合わせを提供する請求項8に記載の医薬組成物。
  14. 神経変性疾患または障害に罹っている個体の学習障害および/または記憶障害を回復させる方法であって、
    該方法は、3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン、またはその類似体もしくは誘導体を含む組成物を該個体に投与する工程を含み、
    該組成物が該学習障害および/または該記憶障害を回復させるのに効果的な量の3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン、またはその類似体もしくは誘導体を放出する方法。
  15. 前記障害がアルツハイマー病に関連している請求項14に記載の方法。
  16. 前記組成物内に含まれる前記神経増強物質の量が約0.1〜約1000mg、好ましくは約0.1〜約500mg、より好ましくは約0.1〜約100mgである請求項14に記載の方法。
  17. 前記組成物が、腸内投与、非経口投与、または局所投与用に調合される請求項14に記載の方法。
  18. 前記組成物が即時放出組成物である請求項14に記載の方法。
  19. 前記組成物が放出調節組成物である請求項14に記載の方法。
  20. 前記組成物が徐放性放出、遅延放出、パルス放出、またはこれらの組み合わせを提供する請求項19に記載の方法。
  21. 3α−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン、またはその類似体もしくは誘導体と、
    薬学的に許容される担体と、
    を含む、神経変性疾患または障害に罹っている個体の学習障害および/または記憶障害を回復させる医薬組成物であって、
    該組成物が該学習障害および/または該記憶障害を回復させるのに効果的な量のα−ヒドロキシ−5α−プレグナン−20−オン、またはその類似体もしくは誘導体を提供する医薬組成物。
  22. 前記組成物内に含まれる前記神経増強物質の量が約0.1〜約1000mg、好ましくは約0.1〜約500mg、より好ましくは約0.1〜約100mgである請求項21に記載の医薬組成物。
  23. 前記組成物が、腸内投与、非経口投与、または局所投与用に調合される請求項21に記載の医薬組成物。
  24. 前記組成物が即時放出組成物である請求項21に記載の医薬組成物。
  25. 前記組成物が放出調節組成物である請求項21に記載の医薬組成物。
  26. 前記組成物が徐放性放出、遅延放出、パルス放出、またはこれらの組み合わせを提供する請求項25に記載の医薬組成物。
JP2010512322A 2007-06-11 2008-06-11 神経学的機能を増強するための作用物質、組成物および方法 Pending JP2010530371A (ja)

Applications Claiming Priority (2)

Application Number Priority Date Filing Date Title
US94318707P 2007-06-11 2007-06-11
PCT/US2008/066558 WO2008154579A1 (en) 2007-06-11 2008-06-11 Allopregnanolone in a method for enhancing neurological function (alzheimer disease)

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2010530371A true JP2010530371A (ja) 2010-09-09
JP2010530371A5 JP2010530371A5 (ja) 2012-06-07

Family

ID=39672702

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2010512322A Pending JP2010530371A (ja) 2007-06-11 2008-06-11 神経学的機能を増強するための作用物質、組成物および方法

Country Status (4)

Country Link
US (1) US8969329B2 (ja)
EP (1) EP2167098B1 (ja)
JP (1) JP2010530371A (ja)
WO (1) WO2008154579A1 (ja)

Families Citing this family (7)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
EP2457923B1 (en) 2009-07-24 2016-01-27 Kyowa Hakko Kirin Co., Ltd. Sterol derivative
CN104736158A (zh) 2012-01-23 2015-06-24 萨奇治疗股份有限公司 神经活性类固醇制剂和治疗中枢神经系统障碍的方法
US9757391B2 (en) 2012-11-09 2017-09-12 Goodchild Investments Pty Ltd Neuroactive steroids and their use to facilitate neuroprotection
WO2014085668A1 (en) 2012-11-30 2014-06-05 The Regents Of The University Of California Anticonvulsant activity of steroids
JOP20170059B1 (ar) 2016-03-08 2021-08-17 Sage Therapeutics Inc ستيرويدات وتركيبات نشطة عصبيًا واستخداماتها
IL265225B (en) * 2016-09-07 2022-08-01 Glia Llc Treatment of symptoms related to neurodegenerative disorders through pharmacological dermal activation of cranial nerves
CA3151334C (en) * 2019-08-19 2024-04-09 Arizona Board Of Regents On Behalf Of The University Of Arizona Topical neurosteroid formulations

Citations (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2002506034A (ja) * 1998-03-11 2002-02-26 ベクストルム,トルビエーン Cns疾患の治療におけるエピアロプレグナノロン
JP2004532796A (ja) * 2000-10-11 2004-10-28 エモリー ユニバーシティ 外傷性中枢神経系損傷の処置のための方法
WO2005009359A2 (en) * 2003-07-15 2005-02-03 Roberta Diaz Brinton Agents, compositions and methods for enhancing neurological function
WO2006037016A2 (en) * 2004-09-27 2006-04-06 The Regents Of The University Of California Novel therapy for treatment of chronic degenerative brain diseases and nervous system injury

Family Cites Families (8)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
US4897388A (en) 1988-12-20 1990-01-30 Geriatric Research Institute, Inc. Method of treating Alzheimer's disease
IL110309A0 (en) 1993-07-15 1994-10-21 Univ Kentucky Res Found A method of protecting against neuron loss
US5939545A (en) 1994-02-14 1999-08-17 Cocensys, Inc. Method, compositions, and compounds for allosteric modulation of the gaba receptor by members of the androstane and pregnane series
ATE284895T1 (de) 1995-06-06 2005-01-15 Euro Celtique Sa Neuroaktive steroide der androstan- und pregnanreihe
US6552010B1 (en) 1999-11-12 2003-04-22 Genelabs Technologies, Inc. Treatment of SLE with dehydroepiandrosterone
NZ540971A (en) 2003-02-13 2008-04-30 Pfizer Prod Inc Uses of anti-insulin-like growth factor I receptor antibodies
US20050020552A1 (en) 2003-07-16 2005-01-27 Chaim Aschkenasy Pharmaceutical composition and method for transdermal drug delivery
US20070093460A1 (en) 2005-08-24 2007-04-26 Morris David J Methods of using selective 11beta-HSD inhibitors to treat gluocorticoid associated states

Patent Citations (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2002506034A (ja) * 1998-03-11 2002-02-26 ベクストルム,トルビエーン Cns疾患の治療におけるエピアロプレグナノロン
JP2004532796A (ja) * 2000-10-11 2004-10-28 エモリー ユニバーシティ 外傷性中枢神経系損傷の処置のための方法
WO2005009359A2 (en) * 2003-07-15 2005-02-03 Roberta Diaz Brinton Agents, compositions and methods for enhancing neurological function
WO2006037016A2 (en) * 2004-09-27 2006-04-06 The Regents Of The University Of California Novel therapy for treatment of chronic degenerative brain diseases and nervous system injury

Non-Patent Citations (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Title
JPN6013021963; BRINTON,R.D. et al: Current Alzheimer research Vol.3, No.1, 2006, p.11-7 *
JPN6013021965; BRINTON,R.D. et al: Current Alzheimer research Vol.3, No.3, 2006, p.185-90 *
JPN6013021967; DATABASE CAPLUS ON STN , 2006 *

Also Published As

Publication number Publication date
EP2167098B1 (en) 2018-09-05
EP2167098A1 (en) 2010-03-31
US8969329B2 (en) 2015-03-03
US20100105646A1 (en) 2010-04-29
WO2008154579A1 (en) 2008-12-18

Similar Documents

Publication Publication Date Title
Gamage et al. Cholinergic modulation of glial function during aging and chronic neuroinflammation
Sharma et al. Targeting PI3K-AKT/mTOR signaling in the prevention of autism
Nguyen et al. Small molecule p75 NTR ligands reduce pathological phosphorylation and misfolding of tau, inflammatory changes, cholinergic degeneration, and cognitive deficits in AβPP L/S transgenic mice
Tweedie et al. Tumor necrosis factor-α synthesis inhibitor 3, 6′-dithiothalidomide attenuates markers of inflammation, Alzheimer pathology and behavioral deficits in animal models of neuroinflammation and Alzheimer’s disease
JP2010530371A (ja) 神経学的機能を増強するための作用物質、組成物および方法
US20100178277A1 (en) Methods and compositions for stimulating cells
Cunningham et al. The cyclin-dependent kinase inhibitors p19Ink4d and p27Kip1 are coexpressed in select retinal cells and act cooperatively to control cell cycle exit
WO2009135091A1 (en) Use of asenapine and related compounds for the treatment of neuronal or non-neuronal diseases or conditions
US11207331B2 (en) Agents, compositions and methods for enhancing neurological function
Lei et al. L-3-n-butylphthalide regulates proliferation, migration, and differentiation of neural stem cell in vitro and promotes neurogenesis in APP/PS1 mouse model by regulating BDNF/TrkB/CREB/Akt pathway
EP3723756A1 (en) Compounds for treatment of diseases related to dux4 expression
WO2017199042A1 (en) Treatment of neurological pathologies with inhibitors of dna damage repair
CN102159215A (zh) 使用TrkB激动剂治疗各种病症
US10918697B2 (en) Co-activation of mTOR and STAT3 pathways to promote neuronal survival and regeneration
Llufriu-Dabén et al. Targeting demyelination via α-secretases promoting sAPPα release to enhance remyelination in central nervous system
Bartzokis Acetylcholinesterase inhibitors may improve myelin integrity
WO2020165802A1 (en) Compositions and methods relating to use of agonists of alpha5-containing gabaa receptors
Orciani et al. Early treatment with an M1 and sigma-1 receptor agonist prevents cognitive decline in a transgenic rat model displaying Alzheimer-like amyloid pathology
Vliet New insights in AD research as a result of 3D cell cultures
PT1638559E (pt) Utilização de pirazolidinas para o tratamento de défices cognitivos
WO2005009359A2 (en) Agents, compositions and methods for enhancing neurological function
TWI650121B (zh) 化合物用於製備Tau蛋白病變類疾病之醫藥組成物上之用途
Luk et al. Enjoyment and Comfort in Workshop
Szymaniak Loss of ATM Induces Glial Cell Dysfunction in a Novel Murine Model of Ataxia-telangiectasia
Lee Activity-dependent regulation of amyloid precursor protein (APP) by Polo-like kinase 2 (Plk2): Novel roles in synaptic plasticity

Legal Events

Date Code Title Description
A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20110525

A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20110525

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20120404

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20130509

A02 Decision of refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02

Effective date: 20131015