JP2010515915A - 臨床サンプルから分離された株を菌種および/または亜種のレベルで同定する手段 - Google Patents

臨床サンプルから分離された株を菌種および/または亜種のレベルで同定する手段 Download PDF

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Abstract

本発明は、MALDI−TOF−MS分析を用いて、臨床サンプルから分離された株を、種および/または亜種レベルで同定する方法であって、MALDI−TOF−MS分析を行う前に微生物を群に分類する工程を包含する方法に関する。

Description

本発明は、臨床サンプルから分離された株を同定する手段に関する。本発明は、より特定的には、マトリクス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(Matrix assisted Laser Desorption Ionization Time-Of-Flight Mass Spectrometry:MALDI−TOF−MS)を用いることによる、臨床分離株の種レベルおよび/または亜種レベルでの正確で迅速な同定方法に関する。本発明はまた、この同定のために用いられるデータベースに関する。
MALDI−TOF−MSは、無処置細菌細胞表面から直接的に検出されたタンパク質の特性を調べるために用いられる技術である。
これは、種々の培養微生物全体からのペプチドおよびタンパク質の脱離を可能にする相対的な分子量に基づくソフトなイオン化法である。イオンは、それらの分子質量および電荷に従って分離されかつ検出される。種は、それらの質量:電荷比(m/z)によって同定される。この接近法は、m/z500〜20000の一連のピークからなる、再現性のあるスペクトルを数分内にもたらす。各ピークは、レーザー脱離の間に細胞表面から放出された分子フラグメントに対応する。
MALDI−TOF−MSは、細菌の特徴化のために既に用いられている。しかしながら、スペクトルにおいて同定された種々の成分の中で、ほんの少しのみが、所与の遺伝種(genospecies)の微生物(germ)の大集団の中に存在し、他は、分離体特異的であるかまたは成育条件(培地、インキュベーション温度等)に応じて変動するかのいずれかであり、細菌、より一般的には微生物の種または亜種を同定するために用いられ得ない。
スペクトルの範囲内で種々の遺伝種の間で識別し得るようなピークを同定するための全体的な戦略の欠如により、日常の臨床微生物学研究所における遺伝種の診断のためのMALDI−TOF−MSの使用が妨げられた。確かに、これらのピークは、所与の遺伝種の分離株の大部分の中に存在し、かつ、細胞壁に大量に存在する成分に対応しなければならない。遺伝種の内側の可能性のある変動性を考慮すると、遺伝種の特徴は、単一ピークの存在ではなく、むしろ遺伝種中で多かれ少なかれ保存された一連のピークの存在に依存する可能性がある。
本発明者らは、このような問題は、(i)MALDI−TOF−MS分析の前に同定されるべき微生物の表現型分析を行うことおよび(ii)特定の条件下、特に、マトリクス溶液および基準データベースの選択に関して特定の条件下に、MALDI−TOF−MS分析を行うことによって克服され得ることを見出した。
そこで、本発明の目的は、MALDI−TOF−MS分析に基づく、臨床サンプルから分離された株を種および/または亜種レベルで同定するための新しい方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、所与の微生物に対する一連の株から確立されたデータベースを提供することにある。
本発明は、それ故に、MALDI−TOF−MS分析を用いて臨床サンプルから分離された株を種および/または亜種レベルで同定する方法であって、MALDI−TOF−MS分析を行う前に株を群に分類する工程を包含し、ここで、該分析は、試験された株のスペクトルに、任意に1に設定される最も高い強度を有するピークと比較して、0.02より高い、特定的には0.05より高い、より特定的には0.1より高い相対的な強度を有するピークを保持する工程を包含する、方法に関する。
本発明は、特に、前記MALDI−TOF−MS分析が、同定されるべき株のスペクトル特性を、該同定されるべき株が属する微生物の群の遺伝種を代表する株の特徴的MALDI−TOF−MSスペクトルを含むいわゆる基準データベースと比較する工程を包含し、該データベースは、各代表的な株について、少なくとも2、好ましくは5、さらには10以上の継体培養物に存在する範囲までは、任意に1に設定される最も高い強度を有するピークと比較して0.02より高い、特定的には0.05より高い、より特定的には0.1より高い相対強度を有するピークを含む、方法に関する。
本発明に従って行われるようなピークの選択によって、臨床サンプル中に存在する微生物の正確な同定が可能になる。
分類工程は、成育条件および/またはコロニーの特徴および/または顕微鏡検査の際の細菌の形態および/またはグラム染色および/または単純な表現型試験に基づいている。
MALDI−TOF−MS技術は、全体的に無処置の細胞または溶解後に得られたまたは細胞成分(細胞壁、細胞質等)の断片に対応するタンパク質抽出物について行われる。この技術は、理想的には、同定されるべき株の分離されたコロニーであって、適切な成育培地上で培養され、かつ、適切な温度でインキュベートされた臨床サンプルから得られたものについて行われる。
MALDI−TOF−MS技術を行う前にマトリクス媒体(matrix medium)が分離されたコロニーに加えられる。
例えば、適切なマトリクス媒体は、安息香酸誘導体、例えば、ヒドロキシ安息香酸、特に、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)を含む。
各スペクトルは、分析されるべき株を含むウェルの異なる領域からの少なくとも400、好ましくは1000超、さらには2000超のレーザショットの合計であり、該スペクトルは、m/z500〜50000、より好ましくは500〜20000、より好ましくは2000〜20000の範囲において分析される。
次いで、試験された株と、所与の遺伝種または遺伝亜種(genosubspecies)の特異的基準株の1以上を分析することによって得られた前記基準データベースの選択されたピークとの間で最良の一致を選ぶソフトウェアを用いて特性が比較される。各株は、研究下の群の1つの遺伝種または遺伝亜種の代表であり、その結果、一連の株は、1つの微生物群の関連する遺伝種または緯線亜種に対応する。各基準株のスペクトルは、MALDI−TOF−MS技術を用いて記録される。上記に言及されるように、最も高い強度を有するピークは、任意に1に設定され、全ての他のピークは、この最も高いピークの相対強度に対応する値を有する。目下0.02超またはより特定的には0.05超またはより特定的には0.1超の相対強度を有するピークは、それらが少なくとも2、好ましくは5さらには10以上の継体培養物において存在する限りにおいて保持される。これらのピークは、選択されたピークである。
いくつかの可能性のある変動を考慮して、ソフトウェアは、試験された株とデータベースとの間でm/z値の可能性のある誤差を考慮に入れて最良の一致を選ぶ。誤差の範囲は、±20以上、より好ましくは±10に任意に設定される。
ピークの有無は、特定の分離株についてのフィンガープリントとして考慮される。
前記方法は、微生物の迅速な同定のための強力なツールであり、研究所の日常の診断においてそれを用いることが可能になる。高価な機材の要件は、非常に簡単な手順によって相殺され、このことは、最小限の実践時間を必要とする。それは、多量のサンプルを受ける基準研究所または病院にとって特に適切である。
本発明に従って行われる場合のMALDI−TOF−MS法の高分解能により、例えば、所与の微生物のそれぞれの種さらには亜種についての特徴的なスペクトルフィンガープリントを得ることが可能になる。
有利には、前記方法は、細菌、酵母、カビを含む群において選択された微生物を種および/または亜種のレベルで同定するために用いられる。
特定の実施形態によると、本発明は、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negative Staphyloccocci:短くはCNS)の種および/または亜種の同定に関する。
種レベルでのCNSの同定は、日常的には行われない。それらは、しばしば、サンプル汚染物として考えられるからである。また、臨床的に重要な株について行われた表現型法の結果は期待はずれである。市販の同定キットは、CNS分離物を同定する際に制限された値打ちのものである。
SodA配列決定は、CNSの正確な種の同定のためのより正確な方法であるにもかかわらず、時間を必要とし、高価で、かつ技術的要求が厳しい。さらに、遺伝子型法は、表現型同定より明らかに優れているけれども、配列に基づく遺伝子型法の欠点は、データバンクに供託された配列の品質の欠如であり得る。
本発明の結果、亜種レベルの差異は、例えば、ブドウ球菌の亜種について、MALDI−TOF−MSを用いれば、SodA法を用いるのより正確である。SodA遺伝子は、亜種S.キャピティス(capitis)、S.ホミニス(hominis)、S.サプロフィチクス(saprophyticus)およびS.シュライフェリ(schleiferi)間を十分に区別しないことが示されたからである。
他の実施形態によると、本発明は、非発酵性グラム陰性桿菌の種または亜種の同定に関する。
前記方法において用いられるデータベースも、本発明の一部である。
それらは、同一の遺伝種に属する株の中で少なくとも部分的に保存された株のMALDI−TOF−MS分析によって得られた一連の選択されたピークからなる。
好ましくは、前記基準ピークは、第一の保存されたピークであって、0.02超、より特定的には0.05超、より特定的には0.1超のm/zを有するピークに対応する。
このようなデータベースは、有利には、一連の株を用いることによって微生物の各群について得られ、各株は、研究下の群の1つの遺伝種の代表であり、その結果、該一連の株は、微生物の1つの群の関連遺伝種に対応する。このような群の各株のスペクトルは、MALDI−TOF−MS技術を用いて記録される。各株は、微生物のこの群の遺伝種の代表であり、基準株としてさらに指定される。上記に言及されるように、最も高い強度を有するピークは、任意に1に設定され、全ての他のピークは、この最も高いピークの相対強度に対応する値を有する。主要なピークは保持され、そのようなピークは、好ましくは少なくとも0.02、より特定的には0.05超、より特定的には0.1超の相対強度を有する。所与の基準株について得られた一連のデータ全てにおいて存在する0.02超、より特定的には0.05超、より特定的には0.1超の相対強度を有するピークは、その時、それらが少なくとも2、好ましくは5さらには10以上の継体培養物に存在する限りは、保持される。
このようにして得られた一連のピークは、所与の成育条件(培地および継続時間)についておよび所与の分光計の特徴に対して遺伝種の特質である。
本発明の他の特徴および利点は、以下に、1)種レベルでのCNSの同定および2)嚢胞性線維症において分離された非発酵性グラム陰性桿菌に対して与えられる。それらは、本発明を例証するために与えられるが、その範囲を限定するものではない。それは、その時点で図1〜7が参照されることになる。
黄色ブドウ球菌(S.aureus) CIP 7625の同一株の10の分離株のMALDI−TOF−MS特性。 データベース1(Mueller Hinton 24H)および2(Mueller Hinton 48H)によるミクロコッカス(Micrococcacae)種のMALDI−TOF−MS樹状図;微生物のこの群において同定されるべき遺伝種を指定する。 ブドウ球菌株に関して0.1超の相対強度を有する値のm/z値。 同一の遺伝種に属する株の中で選択された株の一連のピークの保存。 同一の遺伝種に属する株の中で選択された株の一連のピークの保存。 好気性および通性嫌気性細菌の分類。 6のG陰性桿菌のMALDI−TOF−MS特性。
(1.種レベルでのCNSの同定)
材料および方法
細菌株
以降に与えられた結果は、パスツール研究所(パリ、フランス)の収集物から得られたミクロコッカス(Micrococcacae)に属する細菌の51株を分析することによって得られた。
MALDI−TOF−MSデータベースを確立するために用いられた選択株は、表1に与えられる。
Figure 2010515915
ミクロコッカス科に属する株は、表2に与えられる。
Figure 2010515915
116の臨床コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)分離株も研究された:血液培養から分離された74株、小児縦隔炎(children mediastinitis)(皮膚、縦隔液、電極)から分離された25株、骨感染(Necker-Enfants malades病院(パリ)、Raymond Poincare病院(Garches,フランス))から分離された12株および泌尿器感染から分離された5株。さらに、種々の感染から分離された黄色ブドウ球菌(Staphyloccocci aureus)の68の臨床株が分析された。
表現型および遺伝子型の同定
Slidexのラテックス凝集試験(bioMerieux,Marcy l’Etoile,フランス)およびDNAse試験を含む従来の表現型試験によってCNSの臨床株は、黄色ブドウ球菌株と区別された。最後2つの技術の間の不一致の場合にチューブ・コアギュラーゼ(tube coagulase)試験が行われた。CNSの正確な同定は、以前に記載されたようにSodA遺伝子の内部フラグメントを配列決定することによって得られた。簡単には、CNSの高純度培養物からのゲノムDNAの抽出が、Quiageneキット(Courtaboeuf,フランス)により行われた。一部のSodA遺伝子は増幅させられ、得られた単位複製配列は、ABI Big Dye Terminator v1.1 cycle sequencing ready reactionキット(Applied Biosystems,Foster City,CA,米国)を用いて、Poyart et al.,2001,J.Clin.Microbiol.,39:4296-4301によって以前に記載されたようにして配列決定された。ヌクレオチド配列は、種の帰属(assignment)のためにGenBankデータベースに送られた。
この戦略を用いて、表2に与えられた116の臨床CNS分離株は同定された。
MALDI−TOF−MS技術
株は、Mueller Hinton寒天またはColumbia寒天+5%ウマ血液(bioMerieux)上で成育させられ、24または48時間37℃でインキュベートされた。各同定のために、分離されたコロニーが100μLの滅菌水中に採集され;この混合物の1μLは、ターゲットプレート(Bruker Daltonics,ブレーメン,ドイツ)上の3つの複製物中に沈着させられ、室温で乾燥するようにされた。1μLの無水エタノールが、次いで、各ウェルに加えられ、1μLのマトリクス溶液DHB(2,5−ジヒドロキシ安息香酸50mg/mL、アセトニトリル30%、トリフルオロ酢酸0.1%)が加えられた。乾燥後、1μLのマトリクス溶液DHBが加えられた。次いで、サンプル量が、フレックスコントロールソフトウェア(Bruker Daltonics)付きの分光計MALDI−TOF−MSオートフレックス(Bruker Daltonics)において処理された。陽イオンは、線形モードの20Hzの加速電圧により抽出された。各スペクトルは、同一ウェルの異なる領域から来る5×200のレーザショットからのイオンの合計であり、m/z1000〜23000の範囲において分析された。分析は、フレックス分析ソフトウェアにより行われ、protein calibration standard T(Protein I,Bruker Daltonics)により較正された。3つの複製物より得られたデータは、変量効果を最少にするために加算された。ピークの有無は、特定の分離株のフィンガープリントとみなされた。特性は、ウェブサイトhttp://sourceforge.net/projects /bgp上で利用可能なソフトウェアBGP−データベースを用いて分析され、比較された。
結果
表1に列挙された株は、遺伝種の代表であるとして任意に選択されたものである。
これらの選択された株のそれぞれの10の分離株は、材料および方法のセクションにおいて記載されたようなMALDI−TOF−MSによって分析された。
各スペクトルについて、強度に対応する値が、各ピークに与えられた。
最も高いピークを有するピークは、任意に1に設定され、全ての他のピークは、この最も高いピークの相対強度に対応する値を有していた(図1)。
小さいピーク(0.1以下の相対強度)は、一定でなく存在する。そこで、分析は、続いて、所与の株について得られた10の一連のピーク全てに存在していた0.1超の相対強度を有するピーク上に集中された。
細菌同定についての成育条件の影響を決定するために、上記手順が、表1に列挙された全株により行われ、Mueller Hinton上または5%のウマ血液が補給されたColumbia寒天上で24または48時間にわたって成育させられた。
結果は、表3に与えられる。
データベースは、それぞれ、1〜4で指定された:それらはMueller Hinton 24H(データベース1)、Mueller Hinton 48H(データベース2)、columbia・ウマ血液培地 24H(データベース3)、columbia・ウマ血液培地 48H(データベース4)上の細菌培養物を用いて得られた。所与の株について、保存されたピークのそれぞれについてのm/z値の標準偏差は、決して7超ではない。0.1超の相対強度を有し、かつ、各成育条件についての10の一連のデータ全てに存在するピークのm/z値は図3に記録される。
Figure 2010515915
表3は、それぞれの選択された株およびそれぞれのデータベースについて、保持されたピーク数を示す。株について、培地または培養時間に関係なくいくつかのピークが保存されたのに対して、他のピークは、培養条件を変更した際に消失したかまたは現れたかのいずれかであった。しかしながら、所与の培地および培養時間について、一連のピークは、樹状図(図2)上に示されるように株特異的であった。
同一の遺伝種に属する株の中でそれぞれの選択された株の一連のピークの保存
この点に対処するために、Mueller Hinton上で24時間にわたって37℃で成育した細菌を用いてMALDI−TOF−MSが行われた。用いられた株は、表2に列挙された分離株である。
それぞれの株について、0.1超の値を有する唯一のピークが保持された。得られた特性は、次いで、これらの分離株のそれぞれについて、データベース1のピークの特性と比較された。
この作業課題を行うために、ソフトウェア(http://sourceforge.net/projects/bgp上で利用可能なBGP−データベース)が開発され、試験された株の値を有するデータベース中の最も近い一連の値の迅速な同定が可能にされた。このソフトウェアは、測定されたm/z値の可能性のある誤差を考慮に入れて、試験された株とデータベースの基準株との間で最良の一致を選ぶ。この値は、任意に7に設定される。
試験された株は、常に、データベースの同一の遺伝種に属する株と最良の一致を有していた。全てのデータは、図4および図5上に記録される。
各データベースのピーク数と比較された、Mueller Hinton上で24時間培養された試験株の保存されたピークの平均数
Mueller Hinton上で24時間試験細菌を成育させることによって得られた同一の一連のデータが、データベース2、3および4に対して試験された。
結果は、表4に与えられる。
Figure 2010515915
表4は、それぞれの遺伝種について、試験株と4つのデータベースのそれぞれとの間で保存されたピークの平均数を示す。
遺伝種同定のためにデータベースが用いられた時に保存されたピーク数が試験株のために用いられた成育条件とは異なる成育条件を用いて確立されたとしても、全ての場合において、種レベルでの同定は可能であった。
データベース1により得られたものとの、データベース2、3および4を用いることによって観察された唯一の相違は、亜種レベルでの同定は、S.ホミニスおよびS.サプロフィチクスについては、データベース1により得られた結果とは異なり不可能であることである。
要するに、前記データにより、適切な一連の株を選択し、0.1超のm/zを有する保存されたピークのみを保持することによって、遺伝種同定のために用いられ得るデータベースが巧みに処理され得ることが証明される。さらに、これらのピークの特異性により、同定されるべき株がデータベースを処理するために用いられたのとは異なる培養条件を用いて成育したとしても、遺伝種同定が依然として可能である。
(2.非発酵性グラム陰性桿菌の同定)
第一の工程は、ヒトにおいて回収された非発酵性グラム陰性桿菌の群に属する全ての種についての完全なデータベースを構築することであった。このデータベースは、次いで、MALDI−TOF−MSを用いて1年の期間内に嚢胞性繊維症(Cystic fibrosis:CF)患者から回収された全ての臨床非発酵性グラム陰性桿菌を同定するために認証された。
材料および方法
細菌株
MALDI−TOF−MSデータベースを処理するために用いられた基準株は、患者から場合によっては回収され得る非発酵性グラム陰性桿菌の52種に属していた。これらの株は表4に列挙される。
Figure 2010515915
Figure 2010515915
非発酵性グラム陰性桿菌の臨床分離株は、2006年1月1日から2006年12月31日の間にNecker-Enfants Malades病院(パリ,フランス)の小児科に通院するCF小児の痰から回収された。簡単には、陽性オキシダーゼ試験(positive oxidase test)で緑色または黄緑色の色素を示す、42℃成育、セトリミド寒天上で成育のコリマイシン(登録商標)感受性の分離株が、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)として同定された。これらの基準を呈しなかった分離株は、API 20NEシステムによって同定された。API 20NE試験の結果は、APILAB PLUSソフトウェアパッケージを用いて解釈された。このソフトウェアを用いて得られた結果が緑膿菌、A.キシロソオキシダンス(xylosoxydans)亜種キシロソオキシダンスおよびS.マルトフィリア(maltophilia)についての良好な同定に対応すると考えられなかった場合、細菌は、16S rDNA遺伝子の内部フラグメントを配列決定することによって同定された。
本研究において用いられた全ての細菌株は、−80℃で15%グリセロールにより補給されたtrypticase soy brothにおいて貯蔵された。
MALDI−TOF−MS。株は、Mueller-Hinton寒天上で成育させられ、24時間にわたって37℃でインキュベートされた。分離株の大部分は、24時間後に成育したが、24時間後に成育しなかったいくつかの株は、48時間または72時間にわたってさらにインキュベートされた。分離されたコロニーは100μLの滅菌水中に採集された;この混合物の1μLは、ターゲットプレート(Bruker Daltonics,ブレーメン,ドイツ)上の3つの複製物中に沈着させられ、室温で乾燥するようにされた。1μLの無水エタノールが、次いで、各ウェルに加えられ、混合物は乾燥するようにされた。1μLのマトリクス溶液DHB(2,5−ジヒドロキシ安息香酸,50mg/mL,30%アセトニトリル、0.1%トリフルオロ酢酸)が、次いで、加えられた。サンプル量が、フレックスコントロールソフトウェア(Bruker Daltonics)付きのMALDI−TOF−MS分光計(Autoflex;Bruker Daltonics)において処理された。陽イオンが、線形モードの20kVの加速電圧により抽出された。各スペクトルは、同一ウェルの5の異なる領域において行われた200のレーザショットから得られたイオンの合計であった。スペクトルは、m/z2,000〜20,000の範囲において分析された。分析は、フレックス分析ソフトウェアにより行われ、protein calibration standard T(Protein I;Bruker Daltonics)により較正された。3つの複製物により得られたデータは、変量効果を最少にするために加算された。ピークの有無は、特定の分離株についてのフィンガープリントとして考えられた。特性は、ウェブサイトhttp://sourceforge.net/projects/bgp上で利用可能な新たに開発されたソフトウェアBGPデータベースを用いて分析・比較された。
結果
非発酵性グラム陰性桿菌データベースのエンジニアリング
表4に列挙された基準株は、MALDI−TOF−MSによって得られたm/z値であって、各細菌種の特徴的スペクトルを構成し、かつ、その後に、細菌の同定のために用いられ得るものを測定するために用いられた。図7は、非発酵性グラム陰性桿菌の6種により得られたスペクトルを示す。Mueller Hinton 24H上で成育させられたこれらの選択された株のそれぞれの10の分離株は、材料および方法のセクションにおいて記載されたようにMALDI−TOF−MSによって分析された。各スペクトルについて、ミクロコッカスのために用いられたのと同一の戦略が採用された。この戦略に従い、所与の株について得られた10の一連のデータの全てにおいて一定的に存在していた0.1超の強度を有するようなピークのみが保持された。各株について、それぞれの保存されたピークについての標準偏差のm/z値(正規化データ)は、決して8を超えなかった。
表5は、8の種について、データベースのために保持されたピークの値を示す。
Figure 2010515915
各基準株のために保持された一連のピークは、特徴的なスペクトルを与える。
(臨床株の同定)
臨床非発酵性グラム陰性桿菌の同定のために上記データベースが用いられ得るかを決定するための実験が行われ、その結果、各選択された株の一連のピークは、少なくとも部分的に、同一種の分離株の中で保存されていることが証明された。2006年の1月から12月まで、非発酵性グラム陰性桿菌の811株が回収され、表現型試験または分子法によって同定された:699の緑膿菌株(120人の患者)、54のA.キシロソオキシダンス(12人の患者)、32のS.マルトフィリア(12の患者)、9のR.マンニトリリティカ(mannitolilytica)(1人の患者)、14のBcc(2人の患者)、1の首腐病菌(B.gladioli)、1のB.ヒンジイ(hinzii)および1のI.リモーサス(limosus)。これらの中で、MALDI−TOF−MS分析は、400の緑膿菌株パネル上および残っている非緑膿菌株全て上で行われた。各分離株について、スペクトルの全てのm/z値が考慮された。各株について、全てのピークは、それらの強度にかかわらず保持され、次いで、BGP−データベースソフトウェアを用いてデータベースのピークと比較された。このソフトウェアは、m/z値の可能な誤差を考慮に入れながら、試験株とデータベースとの間で最良の一致を選ぶ。この値は、設定された。株は、最良の一致を与えるデータベースの株の遺伝種に属するとして同定された。結果は、下記表6に与えられ、この表は、BGPソフトウェアによって提供された緑膿菌株について得られた一致を示す。
Figure 2010515915
表7は、種の同定の第二の選択と比較した、全部の臨床株について得られた同定を示す。
Figure 2010515915
MALDI−TOF−MSは、正確に、緑膿菌の100%、A.キシロソオキシダンスの100%およびS.マルトフィリア株の100%を同定した。MSは、A.キシロソオキシダンス臨床株を亜種レベルで同定した。MS分析は、正確に、11のBCC株をB.セノセパシア(B.cenosepacia)として同定した。残りの3のBCC株について、B.セノセパシアとB.cepacia sensu strictoとの間に相違はなかった。9のR.マンニトリリティカ株は、(MSによってR.ピッケティ(picketti)として同定された)1つを除いて、正確に、MSによって同定されたことが指摘されるべきである。
結論
これらの結果により証明されることは、本発明に従って設計されたデータベースは、非発酵性グラム陰性桿菌の正確な種の同定にも適していることである。MALDI−TOF−MSにより、したがって、非発酵性グラム陰性桿菌の1つのコロニー(コロニーの培養条件、特徴)から、数分内に、さらなる試験なしで正確な同定を得ることが可能である。試験されたCF臨床株は、3種のB.セノセパシア株およびR.マンニトリリティカを除いて種レベルで正確に同定された。首腐病菌として同定された株は、首腐病菌の同種異名であることが示された細菌種であるB.ココベネナンス(cocovenenans)の基準株とも一致すること留意することは興味深い。
API 20NEによる従来の生化学同定がしばしば24〜48時間超を必要とし、頻繁に誤同定を伴う一方で、MALDI−TOF−MSは非常に迅速な細菌同定を可能にする。MALDI−TOF−MSの株同定は、したがって、グラム陰性桿菌種の特徴化のための非常に興味深い方法であり、それらの臨床関連および分布の理解を十分に助けることになる。

Claims (29)

  1. MALDI−TOF−MS分析を用いて、臨床サンプルから分離された株を種および/または亜種レベルで同定する方法であって、MALDI−TOF−MS分析を行う前に微生物を群に分類する工程を包含し、
    前記分析は、試験された株のスペクトルに、任意に1に設定される最も高い強度を有するピークと比較して0.02より高い相対強度を有するピークを保持する工程を含む、方法。
  2. 0.05より高い相対強度を有するピークを保持する工程を含む、請求項1に記載の方法。
  3. 0.1より高い相対強度を有するピークを保持する工程を含む、請求項2に記載の方法。
  4. MALDI−TOF−MS分析を用いて、臨床サンプルから分離された株を種および/または亜種レベルで同定する方法であって、MALDI−TOF−MS分析を行う前に微生物を群に分類する工程を包含し、前記分析は、前記MALDI−TOF−MS分析を行うことによって得られた同定されるべき株のスペクトル特性を、同定されるべき株が属する微生物の群の種または亜種を代表する株の特徴的MALDI−TOF−MSスペクトルを含むデータベースと比較する工程を含み、前記データベースは、各代表株について、任意に1に設定される最も高い強度を有するピークと比較して、0.02より高い相対強度を有するピークを、それらが少なくとも2の継体培養物において存在する限りにおいて含む、方法。
  5. 前記データベースは、各代表株について、任意に1に設定される最も高い強度を有するピークと比較して0.05より高い相対強度を有するピークを含む、請求項4に記載の方法。
  6. 前記データベースは、各代表株について、任意に1に設定される最も高い強度を有するピークと比較して、0.1より高い相対強度を有するピークを含む、請求項5に記載の方法。
  7. 前記分類工程は、成育条件および/またはコロニーの特徴および/または顕微鏡検査の際の細菌の形態および/またはグラム染色および/または単純な表現型試験に基づく、請求項1〜6のいずれか1つに記載の方法。
  8. 無処理細胞全体または溶解後に得られた若しくは細胞成分の断片に対応するタンパク質抽出物にMALDI−TOF−MS技術を行う工程を包含する、請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法
  9. MALDI−TOF−MS分析を行う前に、マトリクス媒体として安息香酸誘導体を、分離されたコロニーに加える工程を包含し、該誘導体は、DHBを含む群において選択される、請求項1〜8のいずれか1つに記載の方法。
  10. 各スペクトルは、分析されるべき株を含むウェルの異なる領域から来る少なくとも400、好ましくは1000超、さらには2000超のレーザショットの合計であり、該スペクトルは、m/z500〜50000の範囲において分析される、請求項1〜9のいずれか1つに記載の方法。
  11. 少なくとも1000のレーザショットの使用を含む、請求項10に記載の方法。
  12. 少なくとも2000のレーザショットの使用を含む、請求項11に記載の方法。
  13. 前記スペクトルは、m/z500〜20000の範囲で分析される、請求項10〜12のいずれか1つに記載の方法。
  14. 前記スペクトルは、m/z2000〜20000の範囲で分析される、請求項13に記載の方法。
  15. 同定されるべき株は、細菌を含む群において選択される、請求項1〜14のいずれか1つに記載の方法。
  16. 前記細菌は、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌である、請求項15に記載の方法。
  17. 前記細菌は、非発酵性グラム陰性桿菌である、請求項15に記載の方法。
  18. 同定されるべき株は、酵母を含む群において選択される、請求項1〜14のいずれか1つに記載の方法。
  19. 同定されるべき株は、カビを含む群において選択される、請求項1〜14のいずれか1つに記載の方法。
  20. 種または亜種の代表株のMALDI−TOF−MS分析によって得られたスペクトルにおいて選択されたピークからなるデータベースであって、
    −一連の株であって、各種または亜種は、1以上の株によって表される、株を用いること、および
    − MALDI−TOF−MSを用いることによってそのような群の各株のスペクトルを記録し、0.02超の相対強度を有し、少なくとも2、好ましくは5、さらには10以上の継体培養物に存在するピークを保持すること
    によって得られる、データベース。
  21. 各代表株について、選択されたピークは、任意に1に設定される最も高い強度を有するピークと比較して0.05より高い相対強度を有する、請求項19に記載のデータベース。
  22. 各代表株について、選択されたピークは、任意に1に設定される最も高い強度を有するピークと比較して0.1より高い相対強度を有する、請求項20に記載のデータベース。
  23. 全体的な無処置細胞または溶解後に得られた若しくは細胞成分の断片に対応するタンパク質抽出物にMALDI−TOF−MS技術を行う工程を包含する、請求項20または21に記載の方法。
  24. MALDI−TOF−MS分析を行う前に、マトリクス媒体として安息香酸誘導体を、代表株の分離されたコロニーに加える工程を包含し、前記誘導体は、DHBを含む群において選択される、請求項20〜23のいずれか1つに記載の方法。
  25. 各スペクトルは、分析されるべき代表株を含むウェルの異なる領域から来る少なくとも400、好ましくは1000超、さらには2000超のレーザショットの合計であり、該スペクトルは、m/z500〜50000の範囲内で分析される、請求項20〜24のいずれか1つに記載の方法。
  26. 少なくとも1000のレーザショットの使用を含む、請求項25に記載の方法。
  27. 少なくとも2000のレーザショットの使用を含む、請求項25に記載の方法。
  28. 前記スペクトルは、m/z500〜20000の範囲内で分析される、請求項25〜27のいずれか1つに記載の方法。
  29. 前記スペクトルは、m/z2000〜20000の範囲内で分析される、請求項25〜27のいずれか1つに記載の方法。
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