JP2010508283A - リン酸塩吸収の低減方法 - Google Patents

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Abstract

高リン血症を発症する危険のある、または、発症したヒト対象またはヒト以外の動物対象のリン酸塩吸収を低減する方法を開示する。この方法は、前記対象の血清リン酸塩濃度を低減または維持するのに有効な量の抗腸ナトリウム・リン酸共輸送体タイプ(Npt2B)抗体を、前記対象に経口投与するステップを具えることを特徴とする方法。
【選択図】図1

Description

関連出願の相互参照
本出願は、2006年10月25日に出願された米国仮出願番号60/862,876の優先権を主張し、参照することによってその全体を本明細書に組み込む。
連邦政府の支援を受けた研究または開発に関する宣言
適用なし。
リン(燐)は、人の栄養における必須の要素であり、生化学、細胞の完全性(integrity)および身体の生理学的プロセスにおいて、必須の構造的役割および機能的役割を果たしている。動物性物質または植物性物質を含む食物において、リンは、胃腸管から容易に吸収される無機リン(Pi)として(例えば、リン酸(PO 3−)として酸素と結合した5価の形態で)みることができる。さらに、リン酸は、タンパク質、核酸、脂質および糖などの生体巨大分子の成分としてみることができる。植物性物質には、多くの植物組織(例えば、ブラン(bran)や種子)において、リン酸(フィチン態リン酸)の主な保存形態であるフィチン酸(C[OPO(OH))が豊富であり、植物におけるリン酸の70から80%となる。フィチン酸またはその塩(フィチン酸塩)は、通常、単胃性動物によっては吸収されず、排出物として排泄される。フィチン酸/フィチン酸塩は、成体の1日の食事によるリン酸摂取の約25%にのぼる。
成体の約85%のリン酸は骨や歯などの石灰化した細胞外マトリックス中にあるので、リン酸は骨塩の必須成分である。約15%のリン酸塩は、細胞内(例えば、柔組織)にあり、約0.1%が細胞外の流体にみられる(Tenenhouse等,Vitamin D,第二版、Elserier、2005)。細胞性リン酸は、細胞膜の構造体を構成するリン脂質の形状で使用されている。リン酸塩は、DNAおよびRNAなどの核酸の必須な構成成分であり、エネルギの保存および分子輸送に重要なアデノシン三リン酸(ATP)、および、細胞のシグナル伝達分子として重要なサイクリックアデノシン一リン酸などのヌクレオチドの必須な構成成分でもある。細胞内リン酸塩のその他の生理学的機能は、(1)多数のタンパク質酵素、ホルモンおよび細胞シグナル伝達分子を活性化するためのリン酸化、(2)生理学的緩衝剤としての酸−塩基のバランスの維持、(3)赤血球中でのリン酸塩含有分子、2,3−ジホスホグリセリン酸塩(2,3−DPG)の維持、を含む。平均的なヒトは、約700乃至1000gのリン酸を有しており(Lau L.,リン酸塩障害。Saunders;1986:398−470)、約1gから3gのリン酸をPO 3−の形状で消費し、排出する。
ヒトは、少なくとも3つの経路、胃腸管、腎臓および骨によってリン酸塩のホメオスタシスを維持している。胃腸管は、リン酸塩の吸収および排出/再吸収を行う器官として、リン酸塩のホメオスタシスに関係している。骨は、種々の生理学的シグナルに応答して、移動(mobilize)することができるリン酸塩の貯蔵場所として機能する。摂食によるリン酸塩の胃腸管での吸収は効率が非常に良く、吸収の主な部位は、十二指腸および空腸である(Delmez JA et al.,Am J Kidney Dis,1992、19:303−317)。摂食によるリン酸塩の可変量(摂取量の10%から80%)は、食物が植物性由来(ほとんど吸収しづらいリン酸塩)または度物組織由来(ほとんど消化可能)であるかに応じて、排泄物として排泄される。食物中の無機リン酸塩は、2つの経路、すなわち刷子縁膜を介して活性化経細胞(transcellular)経路、および、細胞間のタイトジャンクションを介した傍細胞経路(paracellular)で吸収される(Cross et al.,Miner Electrolyte Metab 1990,16:115−124、および、Walton J et al.,Clin Sci 1979,56:407−412)。ラット研究に基づいたいくつかのレポートは、結腸のリン酸塩輸送は、拡散性傍細胞経路を主に介して仲介されることを示している(Hu et al.,Miner Electrolyte Metab,1997、23:7−12およびPeters et al.,Res Exp Med(Berl),1988,188:139−149)。ラットに基づいたその他のレポートは、経細胞活性化輸送が、小腸に亘ってリン酸塩吸収の主な経路であることを示唆している(Eto et al.,Drug Metab Pharmacokinet,2006,21:217−221)。
腎臓は、リン酸塩をろ過、再吸収および排泄する器官として、リン酸塩のホメオスタシスに関係している。腎臓は、リン酸塩のホメオスタシスを維持する主な調節器官である。健康な成人では、毎日の腎臓のリン酸塩排出は、毎日の胃腸のリン酸塩吸収量に等しい。しかしながら、リン酸塩欠損状態では、腎臓は、尿のリン酸排出を実質的にゼロに低減する(Knox F et al.,Am.J.Physiol.1977,233:F261−F268)。腎臓のリン酸塩再吸収は、近位尿細管(proximal tubule)で主に行われる。リン酸塩の部分的な排出は、0.1%乃至20%の間で変化し、このように、強力な恒常性機構を示す。慢性腎臓病などによる重度の腎臓欠陥では、高リン血症が、腎臓のリン酸塩排出が不十分であることにより生じる。
リン酸塩ホメオスタシスの主な調節因子は、血清リン酸塩および甲状腺ホルモン(PTH)である。上昇した血清リン酸塩レベルは、リン酸塩の尿排出を促進する。PTHは、小管のリン酸塩再吸収を低減し、尿への可溶性リン酸塩の排出を増加させる。リン酸塩ホメオスタシスに影響を与えるその他の因子は、限定するものではないが、年齢、食物(すなわち、消化されたリン酸塩および/または消化されたリン酸塩の化学的形態の量)、疾患、薬剤および日内変動を含む。
特に、活性形態の1,25−ジヒドロキシビタミンD(カルシトリオールとも呼ばれる)など、ビタミンDは、リン酸塩の腸吸収を直接刺激することによって、リン酸塩のホメオスタシスに影響を与えることができる。さらに、ビタミンDは、カルシウムおよびリン酸塩をプラズマに移動させることで、骨吸収を促進する(Albaaj F & Hutchison A,Drugs 2003,63:577−596)。
リン酸塩ホメオスタシスの異常の例は、1又はそれ以上の次に挙げる3つの機構によって生じる可能性のある高リン血症である。第1の機構は、過剰なリン酸塩吸収である。第2の機構は、リン酸塩排出の低下である。第3の機構は、リン酸塩が細胞内空間から細胞外空間へと移行することである。重度の高リン血症は、麻痺、痙攣および心停止を引き起こす可能性がある。高リン酸酸塩血症は、死の危険性の高い、5mg/dlより高い血清リン酸塩濃度で生じる(Block G et al.,J. Am.Soc.Nephrol.2004,15:2208−2218)。正常な生理学的な血清リン酸塩濃度は、一般的に、約2.4mg/dlから約4.5mg/dl血清リン酸塩濃度であると考えられている(Block G & Port F,Am.J.Kidney Dis.2000,35:1226−1237)。
腎臓機能が悪化した患者は、腎臓によるリン酸塩の排出が低下することによって、高リン血症になる可能性がある。高リン血症は、腎臓への血管供給が低減した場合、または、糸球体が損傷し、血液からリン酸塩をろ過するのを停止した場合、高リン血症が起こる。このように、高リン血症は、腎臓病の予見可能な結果であり、ほとんどの腎臓病の患者は、高リン血症になるか、または、高リン血症が進行する。このような腎臓病の例は、限定するものではないが、末期腎臓病、急性腎不全、慢性腎不全、多嚢胞症腎臓病、慢性腎臓病、急性尿細管壊死(例えば、腎動脈狭窄症)、腎機能を低減する感染症(例えば、敗血症または急性腎盂腎炎などの腎臓感染)、腎臓移植拒絶反応、および、尿管閉塞を含む。
慢性腎臓病に関連した高リン血症は、特に、長期に亘る場合、カルシウムおよびリン酸塩のホメオスタシスに関して重度の病態生理学異常となる。このような病態生理学的異常は、限定するものではないが、上皮小体機能亢進症、骨疾患(例えば、腎性骨異栄養症(renal osteodystrophy))および関節部、肺、目および血管の石灰化を含む。慢性腎臓病の患者の高リン血症は、死の危険性と独立的に関連しているが、高リン血症が死の危険性を増加する厳密な機構は未解明である。腎不全を患う人にとって、正常範囲内の血清リン酸塩の上昇は、腎不全の進行と関連しており、心血管障害の危険性が上昇する。骨代謝および慢性腎臓病に関する米国国立腎臓財団の腎臓病結果品質の初期治療ガイドライン(The National Kidney Foundation Kidney Disease Outcomes Quality Initiative Clinical Practice Guidelines)は、血清リン酸塩を5.5mg/dl、リン酸カルシウム(CaXP)性生物を55mg/dl、インタクト(intact)副甲状腺ホルモン(iPTH)を150pg/mlから300pg/mlの間に維持することを推奨している。病因論は十分に示されていないが、高濃度カルシウム−リン酸塩生成物が、柔組織石灰化および心血管疾患の原因とされている。心血管の疾患は、透析患者のほぼ半数が死に到る。
多くの腎不全患者は、活性化ビタミンDが不足しているので、カルシウムのホメオスタシスを維持し、および/または、低カルシウム血症および/または二次的な上皮小体機能亢進症を治療または予防するために、1α、25−ジヒドロキシビタミンDなど、ビタミンDの活性形態で摂取する必要がある。まず、ビタミンDは、肝臓で代謝されて25ヒドロキシビタミンD(カルシジオールとも呼ばれる)となり、続いて、腎臓で、1α、25−ジヒドロキシビタミンDとなる。1α、25−ジヒドロキシビタミンDは、25ヒドロキシビタミンDよりも反応性がかなり高い。機能不全の腎臓は、25−ジヒドロキシビタミンDを1α、25−ジヒドロキシビタミンDに変換できない。低濃度の1α、25−ジヒドロキシビタミンDは副甲状腺を刺激し、より多くのPTHを分泌し、これに上皮小体の過形成および二次的上皮小体機能亢進症が続く。慢性腎臓病を患う人の二次的上皮小体機能亢進症の標準的な治療は、活性化ビタミンDまたはその類似体を含む。同様に、末期腎臓病または腎不全の約70%の人は、いくつかの形態のビタミンDを摂取する。上述したように、ビタミンDは、リン酸塩の腸吸収を刺激する。従って、1α、25−ジヒドロキシビタミンDなどのビタミンDを摂取する腎臓病患者は、高リン血症の影響を受けやすく、リン酸塩の吸収の上昇と、付随したリン酸塩排出の低下の組み合わせによって高リン血症が悪化する可能性がある。
血清リン酸塩濃度を低下させる治療効果は、限定するものではないが、透析、透析リン酸塩摂取量の低減、ニコチンアミドの投与、不溶性リン酸塩結合剤の経口投与を含む。不溶性リン酸塩結合剤の例は、限定するものではないが、アルミニウム化合物(例えば、Amphojel(登録商標)アルミニウムヒドロキシドゲル)、カルシウム化合物(例えば、カルシウムカーボネート、PhosLo(登録商標)酢酸カルシウムタブレットなどの酢酸塩、クエン酸塩、アルギン酸塩およびケト酸塩)、陰イオン交換ポリマ(例えば、米国特許第5,985,938号、第5,980,881号、第6,180,094号、第6,423,754号、および、PCT公開公報WO95/05184に記載のアミン機能化ポリマ、塩化物形態のDowex(登録商標)陰イオン交換樹脂、RenaGel(登録商標)、および、グアニジニウム塩酸塩に結合するポリマ)ランタンカーボネート4水和物(FosrenalTM)などの無機化合物、クエン酸塩および酢酸塩からなる鉄の塩(ferric salt)およびランタンベースの多孔性セラミック材料(RenaZorbTM)を含む。
本発明は、一側面において、高リン血症が発症する危険性があるか、または、発症しているヒトまたはヒト以外の動物でのリン酸塩吸収を低減する方法に関する。この方法は、対象の血清リン酸塩濃度を低減または維持するのに有効な量の抗腸共輸送体タイプ2B(Npt2B)抗体(例えば、腸Npt2Bの細胞外ループに結合する抗体)を、対象に経口投与するステップを具える。抗体は、IgY抗体、あるいは、配列番号1で規定されるヒト腸Npt2Bタンパク質のアミノ酸234−362またはアミノ酸429−485内のエピトープに結合する抗体、でもよい。この方法は、更に、血清リン酸塩濃度の減少または安定化を観察するステップを具える。例えば、抗体治療の前後の血清リン酸塩濃度を測定し比較することができる。
他の側面において、本発明は、対象であるヒト(例えば、腎臓病、ビタミンD不足またはその両者を患う対象であるヒト)においてビタミンD治療の副作用を低減する方法に関する。この方法は、(a)ビタミンD化合物、および(b)抗ヒト腸Npt2B(配列番号1)抗体など抗腸Npt2B抗体を対象に経口投与するステップを具え、ここで、抗体は、ビタミンD治療によって誘導される高リン血症を低減するのに有効な量を投与される。例えば、対象の血清リン酸塩濃度は、低減されるか、または、一定に維持される。一実施例においては、抗体はIgY抗体である。他の実施例では、抗体は、配列番号1で規定されるヒト腸Npt2Bタンパク質のアミノ酸234−362またはアミノ酸429−485内のエピトープに結合する。この方法は、更に、血清リン酸塩濃度の低下または安定化を観察するステップを具える。例えば、抗体治療の前後の血清リン酸濃度を測定し比較することができる。
本明細書に記載される方法は、高リン血症を減弱または予防するために使用することができる。いくつかの実施例においては、血清リン酸塩濃度は、許容される正常範囲における生理学的血清リン酸塩の最大濃度の約150%、125%、120%、115%、110%、または、105%のレベルまたはそれ未満に低減されるか、維持される。いくつかの実施例において、血清リン酸塩濃度は、正常範囲内のレベルまで低減されるか、維持される。対象がヒトの場合、正常血清リン酸塩最大高濃度は、5.0mg/dlである。好適な実施例においては、血清リン酸塩濃度は、ヒト対象において、5.5mg/dlまたはそれ未満、あるいは、5.0mg/dlまたはそれ未満に低減されるか、維持される。
本明細書で開示される方法のいくつかの実施例において、対象は、腎臓病を患っているか、ビタミンD化合物(例えば、1α、25−ジヒドロキシビタミンD)を摂取しているか、または、その両方である。いくつかの実施例においては、対象は、ビタミンD化合物(1α、25−ジヒドロキシビタミンD)を摂取するヒト腎臓病患者であり、5.0mg/dlまたは5.5mg/dl以上の血清リン酸塩濃度を有する。腎臓病の例は、末期腎臓病、急性腎不全、多嚢胞性腎臓病、慢性腎臓病、急性腎尿細管壊死、腎機能を低下させる感染症(例えば、敗血症または急性腎盂腎炎などの腎臓感染症)、腎移植の拒絶反応または尿管閉塞を具える。
本明細書で開示されるいくつかの実施例において、抗腸Npt2B抗体を、リン酸塩結合材と共に投与する。いくつかの実施例においては、抗腸Npt2B抗体は、食物と共に投与され、食物の消費に近い時間(すなわち、約1時間前後以内)で投与される。
図1は、ヒト腸Npt2Bのペプチド抗原マップである。細胞外ループ(ECL1−ECL4)および細胞内ループ(ICL1−ICL3)ならびにヒト腸Npt2Bのトランスメンブランドメイン(1−8)が示されている。数字11−20および31−35は、抗体を生成するために使用される抗原ペプチドが細胞外ループで配置されるところを示している。
図2は、ニコチンアミドの効果(リンの摂取を阻害するポジティブコントロール)およびインビトロでCaco−2細胞によるリンの摂取に関する種々の腸Npt2B抗ペプチド抗体の効果を示す。左から右へ、治療は、2A、コントロール(アジュバントを注射したニワトリからの抗体)、ニコチンアミド、および、抗ペプチド抗体(黄身から精製したPEG)16、17、18および19:2B、コントロール、ニコチンアミドおよび抗ペプチド抗体(黄身から精製したPEG)12、13、14および15である。
所定の抗腸Npt2B抗体を、ヒト対象またはヒト以外の動物対象に経口投与して、対象のリン酸塩吸収を低減できることが開示されている。Npt2Bは、腸刷子縁膜と関連している(Hilfiker H et al.,Proc Natl Acad Sci USA.1998,95:14564−14569)。先行技術は、抗腸Npt2B抗体が、インビボでNpt2Bをブロッキングするのに有効でないのは、腸刷子縁膜が、腸内腔のタンパク質分解酵素による分解から粘液表面を保護するために、大きな巨大分子(例えば、抗体/タンパク質)は通さず、低分子量の溶質のみを通すことができる粘液層で被覆されているためである、ということを示唆している(Atuma et al,Am J「Physiol Gastrointest Liver Physiol」2001,280:922;M.Mantle and A.Allen,1989,Gastrointestinal mucus,pp202−229 in Gastrointestinal Secretions,J.S.Davison,ed.,Butterworth and Co.,Great Britain)。さらに、経口投与される特定の抗体は、胃の酸環境に耐えることができ、活性を維持することができることができるかは、不確かである。先行技術の証拠とは逆に、本発明者らは、腸Npt2Bに対する抗体および他の腸刷子縁膜関連タンパク質であるアルカリフホスファターゼを使用して(Nakano et al.,Arch Histol Cytol2001,64:483−491)、経口投与された抗体が送られ、腸刷子縁膜関連タンパク質(例は下に示す)の活性を阻害することができることを示した。以下の例においては、本発明者らは、経口投与された抗腸Npt2B抗体は、血漿リン酸塩濃度を低減し、体重増加を抑制し、骨灰(bone ash)を低下させ、排出リン酸塩を増加させることができることを示した。
特別に指定のない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明の属する分野の当業者が普通に理解するのと同一の意味を有する。本明細書に記載される方法および物質と同様または等しい方法および物質を実際に使用することができ、または、本発明を試験することができ、好適な方法および物質をこれから記載する。
本発明の実施例および請求項を記載する際、次の専門用語は、以下に記載する定義に従って使用される。
本明細書で使用されるように、「抗体」は、特定の抗原に対して免疫学的に活性のあるイミュノグロブリン分子を含み、ポリクロナール抗体およびモノクロナール抗体の両方を含む。この用語は、さらに、キメラ抗体(例えば、ヒトマウス抗体)およびヘテロコンジュゲート抗体(例えば、二重特異抗体)など、一般的な工学処理をした形態を具える。この用語は、二価(bivalent)または二重特異性(bispecific)分子、ダイアボディ(diabodies)、トリアボディ(triabodies)、および、テトラボディ(tetrabodies)を具える。二価および二重特異性分子は、例えば、Kostelny et al.,J Immunol 1992,148:1547;Pack and Pluckthun,Biochemistry 1992,31:1579;Zhu et al.,Protein Sci 1997,6:781;Hu et al.,Cancer Res.1996,56:3055;Adams et al.,Cancer Res.1993,53:4026;および、McCartney et al.,Protein Eng.1995,8:301に記載されている。用語「抗体」は、さらに、抗体結合能力を有するフラグメントなど(例えば、Fab’、F(ab)、Fab、FvおよびrIgG)抗体の抗原結合形体を具える。この用語は、リコンビナント一本鎖Fvフラグメント(scFv)を意味する。さらに、用語「抗体」は、抗体をより安定にするために、共有結合した安定化基を有する抗体を包含する。親和定数Kdが10−4Mまたはそれ未満の抗体を本発明に使用することができる。好ましくは、親和定数Kdが10−5M以下または10−6以下の抗体を使用する。より好ましくは、親和定数Kdが10−7M以下、10−8M以下または10−9M以下の抗体を使用する。
本明細書で使用されるように、用語「高リン血症(hyperphosphatemia)」は、対象の症状を示すために広く使用されており、血清リン酸塩は、医学的に許容される正常範囲よりも高い濃度を示す。
本明細書で使用されるように、用語「減弱」または「予防」は、治療効果または予防効果を得ることを意味する。治療効果は、治療した潜在的障害の改善または完治(eradication)を意味する。例えば、高リン血症の対象において、治療効果は、潜在的な高リン血症の改善または完治を含む。さらに、治療効果は、潜在的な障害に関連した1又はそれ以上の病態生理学的な症状の改善または完治を具え、潜在的な疾患を依然として患っているものの、対象では改善がみられる。例えば、腎不全および/または高リン血症で苦しんでいる患者では、治療効果は、患者の血清リン酸塩濃度を低下させるだけでなく、異所性石灰化および腎不全および/または高リン血症を伴う他の障害に関して、患者における改善を意味する。予防効果に関して、本発明による抗体は、高リン血症を発症する危険のある患者、または、高リン血症の診断がなされていない場合であっても1又はそれ以上の高リン血症の病態生理学的徴候を示す患者に投与される。例えば、本発明による抗体は、高リン血症と診断されていない慢性腎臓病を患う患者に投与することができる。予防効果は、高リン血症の予防または遅延を含む。
本明細書で使用されるように、有効量の抗体は、高リン血症を患う患者の血清リン酸塩よりも低濃度の量であり、これは、高リン血症を患っている患者またはその危険性のある患者で血清リン酸塩が上昇するのを予防するか、または、食物からのリン酸塩の吸収を低下させ、これらは、例えば、排泄リン酸塩の上昇、あるいは、血清リン酸塩濃度の低下または安定化によって測定可能である。
本明細書で使用されるように、「腎臓病」は、リン酸塩のろ過機能の低下となる腎臓病を含む腎臓機能に影響を及ぼす疾患または障害、ならびに、腎臓に供給される血液および腎臓における機能的欠陥および構造的欠陥に影響を与える疾患を具える。腎臓病の例は、限定するものではないが、末期腎臓病、急性腎不全、慢性腎不全、多嚢胞性腎臓病、慢性腎臓病(例えば、腎不全および末期腎不全について明示している米国国立腎臓財団の腎臓病結果品質の初期治療ガイドラインの下で分類された慢性腎臓病のI、II、III、IVまたはVステージ)、急性腎尿細管壊死(acute tubular necrosis)(例えば、腎臓動脈狭窄)、腎機能を低下させる感染症(例えば、敗血症または急性腎盂腎炎などの腎臓感染症)、腎臓移植の拒絶反応、尿管閉塞を具える。
本明細書で使用されるように、「ビタミンD」は、ビタミンD、ビタミンD、ビタミンDなどと命名された有機化合物を広く意味し、カルシウムおよびリン酸塩のホメオスタシスに影響を与える代謝物およびホルモン形態を意味する。ビタミンDの例は、限定するものではないが、ビタミンD(エルゴカルシフェロール)、25−ヒドロキシビタミンD、1α,25−ジヒドロキシビタミンD、ビタミンD(コレカルシフェロール)、25−ヒドロキシビタミンD、1α,25−ジヒドロキシビタミンD、上記のいずれかの類似体、または、細胞内ビタミンDレセプタを実質的に占有することができる類似体、参照することで本明細書に組み込むBouillon et al.,Endocrine Reviews 1995,16:200−257に記載されたもの、を含む。ビタミンDの化合物は、現在購入可能または臨床試験中のものであり、限定するものではないが、19−nor−1α,25ジヒドロキシビタミンD(パリカルシトール)、1α−ジヒドロキシビタミンD(ドキセルカルシフェロール)、1α−ジヒドロキシビタミンD(アルファカルシドール)、Leo Pharmaceuticalからの試験検査中の薬(EB1089(セオカルシトール)、KH1060(20−epi−22−oxa−24a,26a,27a−trihomo−1α,25ジヒドロキシビタミンD)、MC1288およびMC903(カルシポートリオール))、ロシュ製薬の薬(1,25−ジヒドロキシ−16−ene−D、1,25−ジヒドロキシ−16−ene−23−yne−D、および、25−ジヒドロキシ−16−ene−23−yne−D)、中外製薬の薬(22−オキサカルシトリオール(22−oxa−1α,25−ジヒドロキシ−D))、イリノイ州立大学の1αヒドロキシD、シェリング社の医化学研究所の薬(ZK161422およびZK157202)を具える。
一側面においては、本発明は、高リン血症を発症する危険性のある、または、発症している、ヒト対象またはヒト以外の動物対象でリン酸塩の吸収を低減する方法に関連している。この方法は、対象の血清リン酸塩濃度を減少または維持するのに有効な量の抗腸ナトリウム・リン酸共輸送体タイプ2B(Npt2B)抗体(例えば、腸Npt2Bの細胞外ループに結合する抗体)を対象に経口投与するステップを具える。この抗体は、IgY抗体でもよく、または、配列番号1によって規定されるヒト腸Npt2Bタンパク質のアミノ酸234−362またはアミノ酸429−485内のエピトープに結合する抗体でもよい。この方法は更に、血清リン酸塩濃度の低下または安定化を観察するステップを具える。例えば、抗体治療前後の血清リン酸塩濃度を測定し比較することができる。
他の側面においては、本発明は、ヒト対象(例えば、腎臓病、ビタミンD不足またはその両方のヒト対象など)のビタミンD治療の副作用を低減する方法に関する。この方法は、(a)ビタミンD化合物、および(b)抗ヒト腸Npt2B(配列番号1)抗体など抗腸Npt2B抗体を対象に経口投与するステップを具え、抗体は、ビタミンD治療によって誘引される高リン血症を低減させるのに有効な量を投与される。例えば、対象の血清リン酸塩濃度は、低減し維持することができる。一実施例においては、抗体はIgY抗体である。他の実施例においては、抗体は、配列番号1によって規定されるヒト腸Npt2Bタンパク質のアミノ酸234−362またはアミノ酸429−485内のエピトープに結合する。この方法は更に、血清リン酸塩濃度の低下または安定化を観察するステップを具える。例えば、抗体治療前後の血清リン酸塩濃度を測定し比較することができる。
ここで開示される方法は、高リン血症を減弱又は予防するために使用することができる。いくつかの実施例においては、血清リン酸塩濃度を、許容される正常範囲の生理学的血清リン酸塩の最大濃度の約150%、125%、120%、115%、110%または105%の濃度またはそれ以下に低減するか、維持される。いくつかの実施例においては、血清リン酸塩濃度は、正常範囲内の濃度に低減または維持される。ヒト対象に関して、正常血清リン酸塩の最大高濃度は、5.0mg/dlである。好適な実施例においては、血清理リン酸塩濃度は、ヒト対象において、5.5mg/dlまたはそれ以下、あるいは、5.0mg/dlまたはそれ以下に低減されるか、維持される。
高リン血症の発症する危険性のある患者、または、既に発症している患者は、限定するものではないが、ビタミンD化合物の過剰摂取によるビタミンD中毒;リン酸含有の下剤または浣腸の過剰使用など、過剰なリン酸塩摂取;本明細書で記載されるように、急性または慢性の腎不全などの腎臓病または機能不全;第一次上皮小体機能亢進症;PTH分泌を低下させ、末梢性PTH耐性(peripheral PTH resistance)を生じさせる種々の種類の偽性副甲状腺機能低下症(1a、1b、1cおよび2)または重度の低マグネシウム血症など、PTHに耐性のある尿細管の徴候などPTH耐性状態;および/または、横紋筋融解症、腫瘍崩壊症、インスリン欠乏または急性アシドーシスなど、細胞内リン酸塩が細胞外空間に移行する症状、を含む。
いくつかの実施例においては、本発明の方法は、腎臓病を患っているか、ビタミンD化合物(例えば、1α,25−ジヒドロキシビタミンD)を摂取しているか、またはその両方であるヒト対象またはヒト以外の対象でリン酸塩の吸収を低下させるために使用される。
様々な種の腸Npt2Bのアミノ酸配列が周知である。例えば、ヒト腸Npt2B(配列番号1)、マウス腸Npt2B(配列番号2)、ラット腸Npt2B(配列番号3)、ニワトリ腸(配列番号4)のアミノ酸配列は、それぞれ、NCBI GenBankアクセス番号O95436、Q9DBP0、Q9JJ09、および、AAQ90408で見ることができる。腸Npt2Bタンパク質は、4つの保存されている細胞外ループを示す。例えば、上述した4つの種における全てのループの配列の類似性は高く(ループ1:>76%、ループ2:>64%、ループ3:>82.5%およびループ4:>87.5%)、3つの哺乳類の配列は、ニワトリの配列よりも同一性の割合が高い。ヒト腸Npt2B(配列番号1)に関して、細胞外ループ1−4は、それぞれ、アミノ酸122−135、234−362、429−485および547−552である。マウス腸Npt2B(配列番号2)に関して、細胞外ループ1−4は、それぞれ、125−138、188−361、440−461、および、549−554である。ラット腸Npt2B(配列番号3)に関して、細胞外ループ1−4は、それぞれ、112−136、235−363、430−486および548−551である。ニワトリ腸Npt2B(配列番号4)に関して、細胞外ループ1−4は、それぞれ、109−133、185−358、427−482および544−551である。
好ましくは、腸Npt2Bタンパク質の細胞外ループ2または3内のエピトープに結合する抗体を、本発明の方法を実施するために使用する。例えば、配列番号1のアミノ酸234−362(すなわち、ループ2)または配列番号1のアミノ酸429−485(すなわち、ループ3)のエピトープに結合する抗体を使用する。この点に関して、抗体は、配列番号1のアミノ酸234−362または429−485の少なくとも4、5、6、7または8の連続するアミノ酸に結合し、選択的に、約10−4M、10−5M、10−6M、10−7M、10−8M、10−9Mまたはそれ未満の親和定数Kdを有する。いくつかの実施例においては、配列番号1のアミノ酸245−340、配列番号1のアミノ酸252−330、配列番号1のアミノ酸445−480、配列番号1のアミノ酸455−474内のエピトープに結合する抗体を、本発明を実施するのに使用する。いくつかの実施例においては、以下の腸Npt2Bループ2または3フラグメント内のエピトープに対する抗体を、本発明を実施するために使用する:ヒト腸Npt2B(配列番号1)のアミノ酸ペプチド252−259、278−285、297−304、323−330、455−462および467−474;上記ヒト腸Npt2Bフラグメントに対応するマウス腸Npt2B(配列番号2)のフラグメント、上記ヒト腸Npt2Bフラグメントに対応するラット腸Npt2B(配列番号3)のフラグメント;上記ヒト腸Npt2Bフラグメントに対応するニワトリ腸Npt2B(配列番号4)のフラグメント。一実施例においては、ヒト腸Npt2Bタンパク質(配列番号1)のアミノ酸323−330または455−462、あるいは、マウス、ラットまたはニワトリ腸Npt2Bタンパク質の対応するフラグメント内のエピトープに対する抗体を、本発明を実施するために使用する。
対応するフラグメントは、当分野の当業者に周知なアライメントプログラムによって容易に同定することができる。例えば、Altschul et al.に記載されるように(Nucleic Acids Res.25,3389−3402、1997)、Gapped BLASTを使用してもよい。Gapped BLASTはNCBIのウェブサイトから入手可能である。Gapped BLASTプログラムを使用するとき、プログラムのデフォルトのパラメータを使用してもよい。
IgY抗体またはNpt2Bの細胞外ループ内のエピトープに結合する抗体など、抗腸Npt2B抗体を作成することは、明らかに当分野の当業者の能力の範囲内である。いくつかの実施例にこの方法で使用される抗体は、特に、ニワトリの卵など鳥類の卵など、卵(例えば黄身)に由来する。参照することでその全体を本明細書に組み込む、Polson,A.,M.B.von Wechmar and M.H.van Regenmortelの方法「Isolation of Viral IgY Antibodies from Yolks of Immunized Hens」Immunological Communications 9:475−493(1980)を使用して、卵黄抗体の製剤を生成できる。産卵する雌鳥に、腸Npt2Bタンパク質または細胞外ループの免疫フラグメントを播種することができる。好ましくは、適切なアジュバントを、免疫処置を促進するために播種とともに投与することができる。この目的に有用なアジュバントは、完全なFreund(フロイント)のアジュバントなど、油中水滴エマルジョンアジュバントである。細胞外ループの腸Npt2Bタンパク質またはその免疫原フラグメントは、雌鳥に、雌鳥が産んだ卵の卵黄に受動的に移行する抗腸Npt2B抗体を産生させる。抗体を含む黄身または全卵が収集され、ホモジナイズされて、エマルジョンが形成される。得られたエマルジョンを乾燥して、抗体を含む粉末を得ることができる。この粉末は、次いで、経口投与に適した様態に製剤化することができ、ヒト対象またはヒト以外の動物対象に経口投与することができる。この製剤を食品または食物サプリメントとして経口投与してもよい。
イソタイプクラスまたはサブクラスの抗体(例えば、IgY、IgG、IgM、IgD、IgA、IgE、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)ならびにそのフラグメント(上記抗体の酵素消化または化学消化によって生成される)、および、合成手段による上記抗体の製剤、または、上記抗体またはそのフラグメントをコードしている遺伝子配列の発現による上記抗体の製剤、が含まれる。IgYの一実施例においては、鳥類動物(例えば、ニワトリ、キジ、アヒル、七面鳥、ガチョウなど)の卵黄の抗体を、本発明を実施するために使用する(参照することで全体を組み込む、米国特許第5,080,895号、第5,989,584号、および、第6,213,930号参照)。EGGsract(登録商標)IgY精製システム(Promega);Madison、WI)、または、Eggcellent(登録商標)ニワトリIgY精製(Pierce Biotechnology社;Rockford,IL)など、商業的に入手可能な卵抗体精製キットを使用して抗体を精製できる。抗体を、親和精製のための標準的手段を用いて、ペプチドまたはタンパク質フラグメントに対する親和力に基づいて精製することができる。代替としては、抗体を含む卵、卵黄または乾燥卵黄粉末を、経口摂取のために食品と直接混ぜて、ピル、タブレットまたはカプセルに容易に導入することができる。抗体などをコーディングする遺伝子を、確立した分子クローニング技術またはファージ提示法を介して上記抗体などを使用して同定することができ、単独または組み合わせて使用可能な、上記抗体の全または部分モノクロナール形態を得ることができる。
本発明による抗腸Npt2B抗体を含む組成物は、例えば、1日に1回、2回または3回で投与されてもよい。処方される量の一部が、食物または飲料の消費の前に消化され、他の部分は、食品または飲料とともに消化され、さらに他の部分は、食物または飲料の消化後近辺で消費されるように、投与は、数回に分けられてもよい。活性成分を、食品の上に、または、食品中に散在または分散させた;飲料中に溶解したまたは懸濁した;タブレット、カプセルおよび粉末など医薬固形製剤、または、エリキシル剤、シロップおよび懸濁液など液状製剤中にある;粒子または粉末として経口経路で投与することができる。いくつかの実施例においては、食物と同時に、または、食物中のリン酸塩を有する食物の消費に近接した時間で(約1時間前後以内)抗体を投与する。いくつかの実施例においては、抗体をリン酸塩結合剤とともに投与する。
本発明による例示的な医薬組成物は、選択可能な付加的な安定剤または薬学的に許容される賦形剤と共に、IgYおよび選択可能な卵成分、または、IgYおよび選択可能な卵黄成分を具える。液体が部分的にまたは大半が除去された全卵、卵黄、または、卵黄を乳化して、選択的に、カプセル化用化合物またはリオプロテクタント(lyoprotectant)とともに混合し、粉末を形成するようにスプレードライまたはフリーズドライを行ってもよい。
例えば、大量の液体を除去するために卵黄抗体を部分的に精製することができる。Camenisch C et al.,FASEB J.1999,13:81−88;Akita E & Nakai S,J.Immunol.Methods 1993、160:207−214参照。この文献は、参照することによって、全体が記載されているように、本明細書に組み込まれ、米国特許出願公開第2004/0087522も、参照することで、全体が記載されるように、本明細書に組み込まれる。
カプセルまたはタブレットは、放出調節製剤(controlled−release formulation)を含み、この放出調節製剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース中の活性化合物の分散剤として提供されるか、または、活性因子の放出速度を変化させるものとして周知な物質に関連している。固形製剤は、周知な製薬技術を用いて、所定時間に亘り継続的な医薬品の放出を提供するように、徐放性製剤として製造可能である。圧縮錠剤は、不快な味を遮断し、周辺空気からタブレットを保護するために糖でコーティング、またはフィルムコーティング可能であり、胃腸管での選択的に分解されるように腸溶性にコーティングできる。固形および液状の経口投与形態の双方は、患者の許容性を向上させるために、着色剤および香料を含めることができる。
安定化剤は、熱や酸など、変性条件下で、抗体の結合能力を維持する保護因子である。この安定剤は、標的抗原を有する抗体の相互作用を阻害せず、所望の生物学的効果も得られる。例示的な安定化剤は、卵白、アルブミンまたはサッカライド化合物を具える。好ましくは、サッカライド化合物は、全卵白液の約5%乃至30%(重量%)であり、より好ましくは、10%乃至20%(重量%)である。液体懸濁液中に抗体をサッカライド化合物とともに混合し、次いで、この懸濁液を乾燥し、タンパク質とサッカライドを含む固体を得た。安定化剤として有用なサッカライド化合物は、モノサッカライド、ジサッカライド、ポリサッカライド、アルキル化モノサッカライド、アルキル化ジサッカライド、アルキル化ポリサッカライド、モノサッカライドアルコールおよびアルキル化モノサッカライドアルコールを具える。好ましくは、このようなサッカライド化合物は、5または6の炭素のモノサッカライドユニットから構成される、または、基づいている。モノサッカライドは、nが3以上の式(CHO)を有する単糖残基である。モノサッカライドの例は、限定するものではないが、グルコース、リボース、フルクトース、ガラクトース、タロース(talose)、アラビノース、フコース、マンノース、キシロースおよびエリスロースを含む。α異性体、β異性体、D異性体およびL異性体など全ての異性体形態におけるモノサッカライドは活性を有する。ジサッカライドは、グリコシド結合によって結合された2つのモノサッカライド残基を有する分子である。本発明で使用できるジサッカライドの例は、限定するものではないが、トレハロース、マルトース、スクロース、ラクトース、マルトースおよびラクツロースを含む。ポリサッカライドは、直線状の未分岐鎖または分岐鎖の状態で、3又はそれ以上のモノサッカライドが結合された分子である。スターチ(デンプン)、グリコーゲンおよびセルロースは、数百または数千のモノサッカライド残基を有するポリサッカライドの例である。スターチは、直線状の未分岐鎖(アミロース)または高度に分岐した鎖(アミロペクチン)を含む。グリコーゲンは、分岐鎖を含み、セルロースは、直線状の未分岐鎖を含む。アルキル化モノサッカライド、アルキル化ジサッカライドおよびアルキル化ポリサッカライドは、アルキル基によって少なくとも1つの水素基が置換された、モノサッカライド、ジサッカライドおよびポリサッカライドである。モノサッカライドアルコールは、3又はそれ以上のヒドロキシル基を含むアクリルポリマである。これらは、モノサッカライドのケトン基またはアルデヒド基を、ヒドロキシル基に変換することで形成される。モノサッカライドアルコールの例は、限定するものではないが、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、ラクチトール、イソマルト、マルチトールおよび水素添加デンプン加水分解物である。アルキル化モノサッカライドアルコールは、少なくとも1つの水素基がアルキル基で置換されたモノサッカライドアルコールである。
抗体は、抗体の効力または安定性を向上するためにマトリックス(ポリマ性または非ポリマ性)物質に結合可能であり、次いで、投与される。
本発明は、以下の非限定的な例を検討することで、より完全に理解されるであろう。
実験例1:抗腸Npt2B抗体によるリン酸塩輸送の阻害
材料および方法
動物:単冠白色レグホーンの産卵性雌鳥を使用して抗体を産生した(ペプチド抗原あたり3羽の雌鳥)。ヒト腸Npt2Bペプチド抗原の各々(配列に関しては下の表1、共輸送体タンパク質に関する位置に関しては図1を参照)を、標準グルタルアルデヒド法を用いて、ウシガンマグロブリンにペプチドをコンジュゲート(結合)することで調製した。

表1:卵抗体を産生するために使用したペプチドのアミノ酸配列。アミノ配列は、動物種の腸Npt2Bの予測される保存領域に基づいている。対象となる領域は、細胞外ループ1−3の親水性表面を含む。
Figure 2010508283
ECL=細胞外ループ。腸Npt2Bに対する8つのトランスメンブランドメイン(D)と4つの細胞外ループ(ECL)がある。「Near D」は、ドメインに最も近接していることを意味する。T=Topであり、示されるドメイン間で、等間隔である。図1参照。
コンジュゲートの調製:運搬体タンパク質に対するペプチドのコンジュゲートに関する処置および運搬体タンパク質の性質は、大幅に変更可能であり(多数のコンジュゲート用キットは、Pierce Scientificから得ることができる)、この実験例に記載される研究に使用される方法は、運搬体タンパク質ウシガンマグロブリン(BgG)との所望のペプチドのコンジュゲートに関するグルタルアルデヒド法の使用を含む。0.8mlの0.1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH=7)中のBgG(4mg)を4mgの所望のペプチドと混合した。0.52mlの0.02Mグルタルアルデヒド(0.1M酢酸ナトリウム緩衝液中)をペプチド運搬体タンパク質混合液に滴下した(発泡しないように)。この混合液を2時間撹拌した。次いで、20mgグリシンを加えて反応を止めた。この混合液を1時間放置し、次いで、リン酸塩緩衝食塩水(pH=7)に対して一晩透析した(MW=6000−8000)。透析したコンジュゲートを使用するまで−80℃で凍結した。
ワクチンの調製および使用:各雌鳥用のワクチンを調製するために、0.5mgのコンジュゲートを0.5mlPBSの終濃度に希釈し、0.5mlのフロイントの完全アジュバント(最初の注射)または不完全アジュバント(追加免疫(booster)ワクチン)と混合し、氷水の上にドリップする場合、ビーズを保持することができる油中水型乳化剤を形成した。次いで、雌鳥の4つの部位(両脚および両胸(breast))に、0.25mlのワクチンエマルジョンを筋肉内注射した。不完全アジュバントの追加免疫注射は7日後であった。表1に示されているペプチドの各々をBgGと別々にコンジュゲートして、3羽の産卵する雌鳥に注射した。
抗体サンプルの調製:抗体のピークは、21日で得られたので、卵を21日目から110日目にかけて回収した。おおよそ30日目のロットにおいて、各雌鳥からの黄身を全卵から分離して、混合して凍結乾燥した。各面鳥からの卵のサンプルを採取し、黄身を分離して、IgYは、Polson et al.,Immunol.Commun.1980,9:475−493に記載された方法を用いてポリエチレン精製した。この方法を用いて調製された抗体を凍結し(−20℃)、細胞培養用の試薬およびインビトロ酵素アッセイの試薬として保存した。
細胞:Caco−2細胞をATCCから得た(#HTB−37、ATCC)。Caco−2細胞系は、結腸直腸の腺癌細胞系であり、この研究において腸細胞を模擬実験(model)するために使用した。
リン酸塩吸収アッセイ:Caco−2細胞のサブコンフルーエントな単層から培地を除去し、緩衝液A(137mMのNaCl、5.4mMのKCl、2.8mMのCaCl、1.2mMのMgSO、14mMトリスHCl pH7.4=ナトリウム緩衝液)または緩衝液B(137mMの塩化コリン、5.4mMのKCl、2.8mMのCaCl、1.2mMのMgSO、14mMのトリスHCl pH7.4=ナトリウムフリー緩衝液)で洗浄した。0.1mg/mlの抗体を含む1mlの緩衝液AまたはBを細胞に加えて37℃で1時間培養した。1時間培養した後、緩衝液AまたはBを吸引して、K32PO(1μCi/mL)を含む100μlの緩衝液Aまたは緩衝液Bを加えた。細胞をさらに20分間、37℃で培養した。培養期間中、プレートを100rpm/分で継続的に振動させた。リン酸塩吸収を、吸収緩衝液を除去し、氷冷却停止溶液(ice−cold stop solution)(14mM)トリスHCl pH7.4および137mM塩化物コリン)で細胞を洗浄することによって決定した。細胞を遊離させ、1%TritonX−100溶液を使用して採取した。アリコートをシンチレーション液に加え、放射能活性を液体シンチレーション計測によって決定した。2つの緩衝液(緩衝液Aおよび緩衝液B)を用いてアッセイ間で回復された放射能活性の差は、ナトリウム依存性リン酸塩輸送を示す。
結果
Caco−2細胞を用いた図2に示されるように、ペプチド12、14、15、16、17および18の抗体はリン酸塩輸送を阻害した。阻害の相対的効果は、16>17>18>12>15=14だった。ペプチド16およびペプチド17に対する抗体は、リン酸塩輸送を阻害するニコチンアミド(リン酸塩吸収の阻害のポジティブコントロール)よりもより効率的だった。
実験例2:体重増加、血漿リン酸塩濃度および排出リン酸塩に関する抗腸Npt2B抗体の効果
材料および方法
種々のNpt2Bペプチドを用いた抗ヒト腸Npt2B抗体の産生は、上記実験例1に記載した。精製したIgY抗体のかわりに、抗体を含む乾燥した卵黄を、この実験例で示される摂食研究で直接使用した。
雄鳥の1日齢の単冠白色レグホーンニワトリ(5羽の雛の2つの囲い(pen))に、コントロール用食餌、または、Npt2Bの14ペプチド(表1のペプチド11−20および31−34)の1つに対する抗体用食餌(1g/kgの凍結乾燥卵黄抗体の食餌)を割り当てた。コントロール用食餌は、十分なコーン大豆ベースの標準栄養食餌であり、1g/kgのアジュバント注射したコントロール用乾燥卵黄粉末の食餌を含む。抗体食餌は、コントロール粉末を置換したペプチド特異的抗体粉末を除いて、コントロール食餌と同様である。雛には21日間、これらの食餌を与えた。次いで、体重を測定し、Roche/Hitachi分析器(モリブデン酸アンモニウムとリン酸塩の反応に基づき、還元(reduction)なしでリン酸アンモニウムを形成する)を用いて、血漿中のリン総濃度を測定するために血液サンプルを採取し、食餌の最後の三日間の排泄サンプルを、各々の囲いから採取し、リンの総量(乾燥重量ベース)を分析した。
結果
表2に示されるように、抗ペプチド(anti−peptide)11、13、15−17、20、31および32は、体重増加を抑制し、抗ペプチド20、32および34は、血漿リン酸塩濃度を減少させ;抗ペプチド11、12、14、17−20および32は排出リンを増加させた。

表2:体重増加、血漿リン濃度および排出リンに関して腸Npt2Bのペプチドを選択するための卵抗体供給効果(1g/kg食餌)
Figure 2010508283
1日齢の単冠白色レグホーンの雄の雛、5羽からなる2つの囲いに、コントロール用卵黄粉末(アジュバントのみを注射した雌鳥からの1g/kgの乾燥卵黄の食餌)、または、示されたペプチド抗原で免役した雌鳥の卵黄粉末(1g/kgの食餌)とともに、十分な養分(UW−標準的な食用雛の開始食)を与えた。雛を3週間成長させ、この期間の体重増加(開始時の体重を引く)を測定した。21日齢で、全ての雛からサンプルを採血し、プラズマ(血漿)を採取して、リンを分析した。実験の最後の3日間にかけて全ての排泄物を、雌鳥の下にある肥料用便器(manure pan)から回収し、リンの総量を分析した。
増加±標準誤差=開始時の体重を引いた21日目の体重。
血漿リン±標準誤差
2つの囲いを採取し、分析した。生の値(乾燥した状態での%)および平均値を示した。
、5**、7***は、コントロールに対して、p<0.05**、p<0.07、p<0.1***を示す。
p<0.05;p<0.07;p<0.1;p=0.07;p=0.13および10p=0.16
実験例3:体重増加、血漿リン酸塩濃度および骨灰に関する抗腸Npt2B黄体の効果
材料および方法
ペプチド16を用いた抗ヒト腸Npt2B抗体の産生は、上記実験例1に示している。精製したIgY抗体のかわりに、抗体を含む乾燥卵黄粉末を、この実験例に示される食餌実験で直接使用した。
7日齢のブロイラ雛を、コントロール食餌(5羽のブロイラ雛の4つの囲い)または抗体食餌(1g/kgの凍結乾燥卵黄抗体の食餌)(5羽のブロイラ雛の8つの囲い)に割り振った。コントロール食餌は、栄養十分な標準食餌であり、1g/kgの乾燥卵黄粉末の食餌を含む。抗体食餌は、コントロール粉末を置換した抗ペプチド16抗体粉末を除いて、コントロール食餌と同一である。雛が7日齢のときに食餌を開始し、21日齢まで食餌した。14日目および21日目で体重を測定した。21日目に、Roche/Hitachi分析器(モリブデン酸アンモニウムとリン酸塩反応をベースにして、還元なしでリンモリブデン酸アンモニウムを形成する)を用いて、血漿リン総濃度を決定するために血液サンプルを採取し、右側の頸骨を回収し、脂肪フリー乾燥骨灰を測定した(マッフル炉でエーテル抽出、乾燥および灰化し、灰/脂肪フリー乾燥骨の比率を決定し、%に変換した)。
結果
表3に示されるように、ペプチド16に対する抗体を与えたブロイラは、アジュバントコントロール抗体卵黄粉末を与えたブロイラと比べて、14日間の体重増加が減少した(413g対495g、それぞれ、抗ペプチド16食餌群およびコントロール食餌群、p=0.08)。血漿リンは、2つの処置群の間では、差がなかった(6.12mg/dl対6.14mg/dlは、それぞれ、抗ペプチド16食餌群およびコントロール食餌群)。ペプチド16に対する抗体を与えたブロイラは、アジュバントコントロール抗体卵黄粉末を与えたブロイラと比べて、骨塩含有量(bone mineral content)が減少した(0.524%対0.539%は、それぞれ、抗ペプチド16食餌群およびコントロール食餌群)。ブロイラは、レグホーンと比べて成長が大幅に早い品種である。最初の三週間のブロイラの体重は、35gから約500−600gまで増加し(15倍以上)、レグホーンにおいては、35gから約180gまでしか増加しない(5−6倍の増加)。従って、ブロイラの体重増加は、食餌の摂取可能リンの感度の良い指標となる。骨灰データから、血液リン酸塩を維持する優先順位は、この品種では、骨を形成し筋肉を成長させるよりも高い。このことは、成長がこの品種における最も感度の良い指標であることを支持する。

表3 体重増加、血漿リン濃度および骨灰に関して、腸Npt2Bのペプチド16に対する卵抗体(1g/kg食餌)を与えた効果
Figure 2010508283
ペプチド16に対する抗体を与えたブロイラは、アジュバントコントロール抗体卵黄粉末を与えたブロイラと比べて、14日目の体重増加が減少した(p=0.0003)。
**ペプチド16の抗体を与えたブロイラは、アジュバントコントロール抗体卵黄粉末を与えたブロイラと比べて、骨塩含有量が減少した(p=0.02)。
実験例4:経口投与した抗体は、腸刷子縁膜タンパク質に到達し、その活性をブロックする。
材料および方法
抗体調製:単冠白色レグホーンの産卵雌鳥を抗体産生に使用した(ペプチド抗原あたり3羽の雌鳥)。ニワトリ腸アルカリホスファターゼを、Worthingtonから購入した。各雌鳥のワクチンを調製するために0.5mgのニワトリ腸アルカリホスファターゼを、0.5mlPBSの終濃度に希釈し、0.5mlのフロイント完全アジュバント(最初の注射)または不完全アジュバント(追加免疫ワクチン)と混合し、氷水の上にドリップするとき、ビーズを保持することができる油中水型乳化剤を形成した。雌鳥の4つの部位(両脚および両胸)に、0.25mlのワクチンエマルジョンを筋肉内注射した。不完全アジュバントの追加免疫注射は、7日後であった。
抗体のピークは21日目に得られたので、卵は21日目から110日目で採取した。おおよそ30日目のロットにおいて、各雌鳥からの卵黄を全卵から分離し、混合して、凍結乾燥した。抗体を含む乾燥卵黄粉末を動物食餌実験に使用するまで室温で貯蔵した。
動物実験:この実験に使用したニワトリモデルは、腸アルカリホスファターゼに対する抗体を除いて、Biehl and Baker,J.Nutr.1997,127:2054−2059に記載されている。この実験に使用したネガティブコントロールは、Pi欠乏食餌(Pi=無機リン酸塩、牛乳や卵など、大半が、動物組織や製品からの無機(mineral)リン酸塩またはリン酸塩である)であり、ここで、使用される食餌のリンは、フィチン酸リン酸塩だった。以下の結果に示されるように、この食餌処置は、低血漿リンとなる。ポジティブコントロールは、1α−ヒドロキシビタミンD(20μg/kg食餌、Sigma)を追加した点を除き、ネガティブコントロールの食餌と同一だった。下記の結果に示されるように、この食餌処置は、ネガティブコントロールと比較して血中リン濃度を上昇させた。残りの食餌処置の全ては、抗体(上述した1gの乾燥卵黄粉末)を加えたポジティブコントロールだった。ネガティブコントロールおよびポジティブコントロールをアジュバント注射した雌鳥から得た1g/kg乾燥卵黄粉末の食餌を与えた。これらの卵黄粉末は特定の抗体はなかった。
3つの処置全てを使用した(ネガティブコントロール、ポジティブコントロール、抗ニワトリ腸アルカリホスファターゼ抗体を加えたポジティブコントロール)。6羽の1日齢の単冠白色の雄の雛を、各々の食餌処置に割り当てた。10日間、雛を食餌処置して、体重を量り、Roche/Hitachi分析器(モリブデン酸アンモニウムとリン酸塩の反応に基づき、還元なしでリンモリブデン酸アンモニウムを形成する)を用いて、血漿リン濃度を測定するために血液を採取した。
結果
ニワトリ腸アルカリホスファターゼに対する抗体は、血漿リン濃度を減少させる効果があった(表4)。

表4:活性ビタミンDの存在下での抗腸アルカリホスファターゼ(IAP)を与えたニワトリの血漿リン
Figure 2010508283
1日齢のレグホーン雛(n=6)に、1α−ヒドロキシビタミンD(活性ビタミンD、20μg/kg食餌)のみを、または、1α−ヒドロキシビタミンDと、ニワトリ腸アルカリホスファターゼに対する卵抗体(1g/kgの乾燥卵黄抗体粉末の食餌)を加え、フィチン酸リンを含んだPi欠乏食餌を与えた。血漿リンを食餌を与えてから10日後に測定した。
活性ビタミンD食餌(1α−ヒドロキシビタミンD)のニワトリは、Pi欠損食餌(p=0.0004)に関するニワトリに対して、血漿リンを上昇させる。
**ニワトリ腸アルカリホスファターゼに対する抗体を追加したビタミンD食餌(1α−ヒドロキシビタミンD)を与えられた雛は、p<0.05で、活性ビタミンDのみの処置に対して、血漿リンが減少した。
実験5:アデニン誘導尿毒症動物の血清リン酸濃度の低下
この実験例に使用される動物モデルは、アデニン誘導尿毒症ラットモデルである。(例えば、Yokazawa et al.,Nephron 1986,44:230−234;Katsumata et al.,Kid Intl 2003,64:441−450;および、Levi R et al.,J Am Soc Nephrol 2006,17:107−112参照。各々は、参照することで本明細書に組み込む。)
ラット(例えば、約175−250gの雄のSprague Dawleyラット、群当たり10ラット)に、コントロール食餌、または、尿毒症誘導アデニン食餌(例えば、0.75%アデニンを含有)を数週間(例えば、3乃至5週間またはそれ以上)にわたって与えた。アデニン食餌を与えたラットは、4.4mmol/Lよりも高い血清リン酸塩濃度を有する高リン血症を発症する。これらのラットは、さらに、ビタミンD(1α−ヒドロキシビタミンDおよび1α,25−ジヒドロキシビタミンD)不足となる。実験例1に記載した抗腸Npt2B抗体など、抗腸Npt2B抗体の量を増大させながら、アデニン食餌を与えた上記ラットを一日ごとの経口投与処置することによって、血清リン酸塩濃度は投与量に応じて減少した。これらの抗体がアデニン処置の最初の4週間内およびその後に与えられた場合、上記抗腸Npt2B抗体は、これらのラットの高リン血症の発症を予防し、遅らせ、回復させる。
他の群において、アデニン食餌を与えたラットに、活性ビタミンD不足を予防または改善するために、ビタミンD形態(例えば、25−ヒドロキシビタミンDまたはその誘導体、あるいは、1α,25−ジヒドロキシビタミンDなどの活性ビタミンD)で給餌した。この処置によって、ラットは、高リン血症に対して感受性が増し、これらのラットで一度発症すると、高リン血症が悪化する。実験例1に記載した抗腸Npt2B抗体など、抗腸Npt2B抗体の投与量を増やしながらビタミンDを経口摂取した上記ラットを処置することによって、投与量に応じて、これらのラットにおける血清リン酸塩濃度は低下する。抗体が、アデニン処置の最初の4週間内およびその後に与えられた場合、これらの抗腸Npt2B抗体は、高リン血症の発症または悪化を予防または遅らせる。
同様の実験を、犬、ブタおよび猿など、その他のアデニン誘導尿毒症動物を用いて行った。
実験例6:5/6腎摘出したラットの血清リン酸塩濃度の低下
5/6腎摘出に関して(例えば、Cozzolino M et al.,Kidney Int.2003,64:1653−61)、左側腎動脈のいくつかの分岐を縛り、右側の腎臓を摘出した。5/6腎摘出したラット(例えば、雄のSprague Dawleryラット、約175−250g、1群あたり最大10ラット)に高リン酸塩食餌(例えば、0.9%リン酸塩)を与える。これらのラットは、手術後数週間で(4乃至8週間)尿毒症になり、腎不全、高リン血症および活性ビタミンD(1α−ヒドロキシビタミンDおよび1α,25−ジヒドロキシビタミンD)不足を発症する。実験例1に記載された抗腸Nptt2B抗体など、抗腸Npt2B抗体の量を増やした高リン酸塩食餌を与えた上記5/6腎摘出ラットの毎日の経口投与処置によって、上記ラットにおいて、投与量に応じて、血清リン酸塩濃度が低減した。実験例1に記載された抗体など、抗体を、手術後最初の数週間内、および、その後に与える場合、これらの抗体は、上記ラットの高リン酸塩血漿の発症を予防または遅延する。
その他の群において、高リン酸塩食餌を与えられた5/6腎摘出ラットに、活性ビタミンD不足を予防または改善するために、ビタミンDの形態(例えば、1α−ヒドロキシビタミンDまたはその誘導体、あるいは、1α,25−ジヒドロキシビタミンDなど活性ビタミンD剤)を与えた。しかしながら、この処置によって、ラットはより高リン血症の感受性が高くなり、一度発症した上記ラットでは、高リン血症が悪化した。実験例1に記載した抗腸Npt2B抗体の投与量を増やしてビタミンD(例えば、1α,25−ジヒドロキシビタミンD)を経口摂取している上記ラットを処置することで、血清リン酸塩濃度が低減する。抗体が、手術の最初の数週間内またはその後で与えられる場合、上記抗腸Npt2B抗体は、上記ラットで、高リン酸塩血漿の発症または悪化を予防または遅らせる。
本発明は、上述の実験例に限定することを意図せず、添付の特許請求の範囲内となる修正や変形など全てを包含する。

Claims (33)

  1. 高リン血症を発症する危険性のある、または、発症したヒト対象またはヒト以外の動物対象のリン酸塩吸収を低減する方法において、当該方法が、
    前記対象の血清リン酸塩濃度を低減または維持するのに有効な量の、配列番号1のIgY抗腸ナトリウム・リン酸共輸送体タイプ2B(Npt2B)抗体を、前記対象に経口投与するステップを具えることを特徴とする方法。
  2. 前記対象がヒト対象であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  3. 前記対象が腎臓病を患っていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  4. 前記腎臓病が、末期腎臓病、急性腎不全、慢性腎不全、多嚢胞性腎臓病、慢性腎臓病、急性腎尿細管壊死、腎臓機能を低下させる感染症および尿管閉塞から選択されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
  5. 前記対象がビタミンD化合物を摂取していることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  6. 前記抗体を鳥類の卵から得ることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  7. 前記抗体をリン酸塩結合剤とともに投与することを特徴とする請求項1に記載の方法。
  8. 抗腸Npt2B抗体が投与された後、前記血清リン酸塩濃度を測定するステップと、前記濃度を抗腸Npt2B抗体が投与される前の濃度と比較するステップと、を更に具えることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  9. 高リン血症を発症する危険性のある、または、発症したヒト対象またはヒト以外の動物対象のリン酸塩吸収を低減する方法において、当該方法が、
    前記対象の血清リン酸塩濃度を低減または維持するのに有効な量の、配列番号1のアミノ酸234−362内のエピトープに結合する抗腸ナトリウム・リン酸共輸送体タイプ2B(Npt2B)抗体を、対象に経口投与するステップを具えることを特徴とする方法。
  10. 前記抗腸Npt2B抗体が、配列番号1のアミノ酸245−340内のエピトープに結合することを特徴とする請求項9に記載の方法。
  11. 前記抗腸Npt2B抗体が、配列番号1のアミノ酸252−330内のエピトープに結合することを特徴とする請求項9に記載の方法。
  12. 前記対象がヒト対象であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
  13. 前記対象が腎臓病を患っていることを特徴とする請求項9に記載の方法。
  14. 前記腎臓病が、末期腎臓病、急性腎不全、慢性腎不全、多嚢胞性腎臓病、慢性腎臓病、急性腎尿細管壊死、腎機能を低下させる感染症、尿管閉塞から選択されることを特徴とする請求項13に記載の方法。
  15. 前記対象がビタミンD化合物を摂取していることを特徴とする請求項9に記載の方法。
  16. 前記抗体がIgY抗体であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
  17. 前記抗体がリン酸塩結合剤とともに投与されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
  18. 抗腸Npt2B抗体が投与された後、前記血清リン酸塩濃度を測定するステップと、前記濃度を、前記抗腸Npt2B抗体が投与される前の濃度と比較するステップと、を更に具えることを特徴とする請求項9に記載の方法。
  19. 高リン血症を発症する危険性のある、または、発症したヒト対象またはヒト以外の動物対象のリン酸塩吸収を低減する方法において、当該方法が、
    前記対象の血清リン酸塩濃度を低下または維持するのに有効な量の、配列番号1のアミノ酸429−485内のエピトープに結合する抗腸ナトリウム・リン酸共輸送体タイプ2B(Npt2B)抗体を、前記対象に経口投与するステップを具えることを特徴とする方法。
  20. 前記抗腸Npt2B抗体が、配列番号1のアミノ酸445−480内のエピトープに結合することを特徴とする請求項19に記載の方法。
  21. 前記抗腸Npt2B抗体が、配列番号1のアミノ酸455−474内のエピトープに結合することを特徴とする請求項19に記載の方法。
  22. 前記対象がヒト対象であることを特徴とする請求項19に記載の方法。
  23. 前記対象が腎臓病を患っていることを特徴とする請求項19に記載の方法。
  24. 前記腎臓病が、末期腎臓病、急性腎不全、慢性腎不全、多嚢胞性腎臓病、慢性腎臓病、急性腎尿細管壊死、腎機能を低下させる感染症および尿管閉塞から選択されることを特徴とする請求項23に記載の方法。
  25. 前記対象が、ビタミンD化合物を摂取していることを特徴とする請求項19に記載の方法。
  26. 前記抗体がIgY抗体であることを特徴とする請求項19に記載の方法。
  27. 前記抗体がリン酸塩結合剤とともに投与されることを特徴とする請求項19に記載の方法。
  28. 前記抗腸Npt2B抗体が投与された後、前記血清リン酸塩濃度を測定するステップと、前記濃度を、前記抗腸Npt2B抗体が投与される前の濃度と比較するステップと、を更に具えることを特徴とする請求項19に記載の方法。
  29. ヒトのビタミンD治療の副作用を低減する方法において、当該方法が、
    (a)ビタミンD化合物、および、(b)ビタミンD治療によって誘発される高リン血症を低減するのに有効な量の、配列番号1のNpt2Bに結合する抗腸ナトリウム・リン酸共輸送体タイプ2B(Npt2B)抗体を、対象に経口投与するステップを具えることを特徴とする方法。
  30. 前記対象が腎臓病を患っていることを特徴とする請求項29に記載の方法。
  31. 前記ヒトがビタミンD不足であることを特徴とする請求項29に記載の方法。
  32. 前記抗体がリン酸塩結合剤とともに投与されることを特徴とする請求項29に記載の方法。
  33. 前記抗腸Npt2B抗体が投与された後の血清リン酸塩濃度を測定するステップと、前記濃度を前記抗腸Npt2B抗体が投与される前の濃度と比較するステップと、を更に具えることを特徴とする請求項29に記載の方法。
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