本明細書に引用する全ての特許、特許出願、および公報は、その全体を参照によって援用する。これは具体的には、次の出願人らの譲受人の同時係属出願を含む。米国特許第7,125,672号明細書、米国特許第7,189,559号明細書、米国特許第7,192,762号明細書、米国特許第7,198,937号明細書、米国特許第7,202,356号明細書、米国特許出願第10/840579号明細書および米国特許出願第10/840325号明細書(2004年5月6日出願)、米国特許出願第10/869630号明細書(2004年6月16日出願)、米国特許出願第10/882760号明細書(2004年7月1日出願)、米国特許出願第10/985254号明細書および米国特許出願第10/985691号明細書(2004年11月10日出願)、米国特許出願第11/024544号明細書(2004年12月29日出願)、米国特許出願第11/166993号明細書(2005年6月24日出願)、米国特許出願第11/183664号明細書(2005年7月18日出願)、米国特許出願第11/185301号明細書(2005年7月20日出願)、米国特許出願第11/190750号明細書(2005年7月27日出願)、米国特許出願第11/198975号明細書(2005年8月8日出願)、米国特許出願第11/225354号明細書(2005年9月13日出願)、米国特許出願第11/253882号明細書(2005年10月19日出願)、米国特許出願第11/264784号明細書および米国特許出願第11/264737号明細書(2005年11月1日出願)、米国特許出願第11/265761号明細書(2005年11月2日出願)、米国仮特許出願第60/853563号明細書(2006年10月23日出願)、米国仮特許出願第60/855177号明細書(2006年10月30日出願)、米国特許出願第11/601563号明細書および米国特許出願第11/601564号明細書(2006年11月16日出願)、米国特許出願第11/635258号明細書(2006年12月7日出願)、米国特許出願第11/613420号明細書(2006年12月20日出願)、米国仮特許出願第60/909790号明細書(2007年4月3日出願)、米国仮特許出願第60/910831号明細書(2007年4月10日出願)、米国仮特許出願第60/911925号明細書(2007年4月16日出願)、米国特許出願第11/787772号明細書(2007年4月18日出願)、米国特許出願第11/737772号明細書(2007年4月20日出願)、米国特許出願第11/740298号明細書(2007年4月26日出願)、米国仮特許出願第60/915733号明細書(2007年5月3日出願)、および米国特許出願第11/748629号明細書および米国特許出願第11/748637号明細書(2007年5月15日出願)。
本発明は、健康に良いPUFAを生成するために生化学的経路を操作するために使用してもよい、新しい卵菌門(Oomycota)Δ17デサチュラーゼ、および同酵素をコードする遺伝子を提供する。
本明細書で開示される方法によって作られるPUFA、またはその誘導体は、食事代用物、または栄養補給剤、特に乳児用調製粉乳として、静脈内栄養補給を受ける患者のために、または栄養失調を予防しまたは治療するために使用できる。代案としては、通常の使用において受容者が所望量の食事補給を受け入れるように調合された、料理用油、脂肪またはマーガリン中に、純化されたPUFA(またはその誘導体)を組み込んでもよい。PUFAはまた、乳児用調製粉乳、栄養補給剤またはその他の食品中に組み込んでもよく、抗炎症薬またはコレステロール低下剤としての用途があるかもしれない。場合により組成物は、製薬用途(ヒトまたは獣医)のために使用してもよい。
組み換え手段によって生成されるPUFAをヒトまたは動物に補給することは、添加PUFA、ならびにそれらの代謝子孫のレベル増大をもたらすことができる。例えばEPAによる処置は、EPAのみでなく、エイコサノイドなどのEPAの下流生成物(すなわちプロスタグランジン、ロイコトリエン、トロンボキサン)のレベル増大もまたもたらす。複雑な調節機序は、このような機序を防止、調節または克服して、個体において特定PUFAの所望のレベルを達成するために、様々なPUFAを組み合わせ、または異なるPUFA抱合体を添加することを望ましくする。
定義
本開示では、いくつかの用語および略語を使用する。以下の定義が提供される。
「読み取り枠」はORFと略記される。
「ポリメラーゼ連鎖反応」はPCRと略記される。
「米国微生物系統保存機関」はATCCと略記される。
「多価不飽和脂肪酸」はPUFAと略記される。
「トリアシルグリセロール」はTAGと略記される。
ここでの用法では「発明」または「本発明」と言う用語は、本特許請求の範囲および本明細書で述べられる本発明の全ての態様および実施態様を指すことが意図され、いかなる特定の実施態様または態様にも限定されない。
「脂肪酸」という用語は、(より長い、およびより短い鎖長の酸の双方も知られているが)約C12〜C22の様々な鎖長の長鎖脂肪族酸(アルカン酸)を指す。優勢な鎖長は
C16〜C22の間である。脂肪酸の構造は単純な表記体系「X:Y」で表され、式中、Xは特定の脂肪酸中の炭素(C)原子総数であり、Yは二重結合数である。「飽和脂肪酸」対「不飽和脂肪酸」、「一価不飽和脂肪酸」対「多価不飽和脂肪酸」(または「PUFA」)、および「オメガ−6脂肪酸」(ω−6またはn−6)」対「オメガ−3脂肪酸」(ω−3またはn−3)の違いについて、さらに詳しくは国際公開第2004/101757号パンフレットで規定される。
本開示においてPUFAを既述するのに使用される命名法を下の表2に示す。「略記法」と題された欄では、オメガ−参照システムが使用されて炭素数、二重結合数、およびオメガ炭素(この目的では番号1)から数えて、オメガ炭素に最も近い二重結合の位置を示唆する。表の残りは、ω−3およびω−6脂肪酸およびそれらの前駆物質の一般名、本明細書全体で使用される略語、および各化合物の化学名を要約する。
「トリアシルグリセロール」、「油」、および「TAG」という用語は、グリセロール分子とエステル化する3個の脂肪酸アシル残基から構成される中性脂質を指す(そしてこのような用語は、本開示の全体を通して区別なく使用される)。このような油は、長鎖PUFA、ならびにより短い飽和および不飽和脂肪酸、および鎖長のより長い飽和脂肪酸を含有できる。したがって「油生合成」は、一般に細胞中でのTAG合成を指す。「微生物油」または「単細胞油」とは、微生物がそれらの生涯において天然に産生する油である。
「総脂質および油画分中のパーセント(%)PUFA」とは、これらの画分中の全脂肪酸に対するPUFAのパーセントを指す。「全脂質画分」または「脂質画分」という用語は、どちらも油性生物中の全脂質(すなわち中性および極性)の合計を指すので、ホスファチジルコリン(PC)画分、ホスファチジルエタノールアミン(PE)画分、およびトリアシルグリセロール(TAGまたは油)画分内に位置する脂質を含む。しかし「脂質」および「油」という用語は、本明細書全体で同義的に使用される。
代謝経路または生合成経路は、生化学的意味において、細胞内で起きて酵素によって触媒され、細胞によって使用されまたは保存される代謝産物の形成、または別の代謝経路の開始(流束発生工程と称される)のどちらかを達成する一連の化学反応と見なすことができる。これらの経路の多くは複雑であり、開始物質を所望の正確な化学構造を有する生成物に成形する段階を追った改変を伴う。
「PUFA生合成経路」という用語は、オレイン酸をLA、EDA、GLA、DGLA、ARA、ALA、STA、ETrA、ETA、EPA、DPA、およびDHAに転換する代謝過程を指す。この過程は、文献で詳しく述べられる(例えば国際公開第2006/052870号パンフレットを参照されたい)。簡単に述べると、この過程は、小胞体膜中に存在する一連の特別な不飽和化酵素および延長酵素(すなわち「PUFA生合成経路酵素」)による、炭素原子の添加を通じた炭素鎖延長、および二重結合付加を通じた分子不飽和化を伴う。より具体的には、「PUFA生合成経路酵素」は、Δ4デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ6デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼ、Δ15デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、Δ9デサチュラーゼ、Δ8デサチュラーゼ、Δ9エロンガーゼ、C14/16エロンガーゼ、C16/18エロンガーゼ、C18/20エロンガーゼおよび/またはC20/22エロンガーゼをはじめとする、PUFA生合成に関与するいずれかの酵素(および前記酵素をコードする遺伝子)を指す。
「ω−3/ω−6脂肪酸生合成経路」という用語は、適切な条件下で発現すると、ω−3およびω−6脂肪酸の片方または双方の生成を触媒する酵素をコードする一組の遺伝子を指す。典型的にω−3/ω−6脂肪酸生合成経路に関与する遺伝子は、PUFA生合成経路酵素をコードする。代表的な経路を図1に示し、様々な中間体を経由するミリスチン酸のDHAへの変換を提供して、ω−3およびω−6脂肪酸の双方が共通の原料からどのように生成できるかを実証する。経路は自然に2つの部分に別れ、1つの部分はω−3脂肪酸、別の部分はω−6脂肪酸のみを発生させる。ω−3脂肪酸のみを発生させる部分をここでω−3脂肪酸生合成経路と称する一方、ω−6脂肪酸のみを発生させる部分はここでω−6脂肪酸生合成経路と称する。
「機能性」という用語は、ここでω−3/ω−6脂肪酸生合成経路に関する文脈で、経路中の遺伝子のいくつか(または全て)が、活性酵素を発現し、生体内触媒作用または基質変換をもたらすことを意味する。いくつかの脂肪酸生成物は、この経路の遺伝子のサブセットの発現のみを必要とするので、「ω−3/ω−6脂肪酸生合成経路」または「機能性ω−3/ω−6脂肪酸生合成経路」は、上の段落の全ての遺伝子が必要とされることを暗示しないものとする。
「デサチュラーゼ」と言う用語は、不飽和化できる、すなわち1個もしくはそれ以上の脂肪酸に二重結合を導入して、対象とする脂肪酸または前駆物質を生じさせるポリペプチドを指す。特定の脂肪酸を指すために、本明細書全体を通じたω参照システムの使用にもかかわらず、デルタシステムを使用して基質のカルボキシル末端から数えることで、デサチュラーゼの活性を示す方が都合よい。ここで興味深いのは、1.)EDAからDGLAへのおよび/またはETrAからETAへの変換を触媒するΔ8デサチュラーゼ、2.)DGLAからARAへのおよび/またはETAからEPAへの変換を触媒するΔ5デサチュラーゼ、3.)LAからGLAへのおよび/またはALAからSTAへの変換を触媒するΔ6デサチュラーゼ、4.)DPAからDHAへの変換を触媒するΔ4デサチュラーゼ、5.)オレイン酸からLAへの変換を触媒するΔ12デサチュラーゼ、6.)LAからALAへのおよび/またはGLAからSTAへの変換を触媒するΔ15デサチュラーゼ、および7.)パルミチン酸からパルミトレイン酸(16:1)および/またはステアリン酸からオレイン酸(18:1)への変換を触媒するΔ9デサチュラーゼである。
ここで特に興味深いのは、分子のカルボキシル−末端から数えて17番目と18番目の炭素原子間で脂肪酸を不飽和化する、Δ17デサチュラーゼであり、それは例えばARAからEPA(そして場合によりDGLAからETA)への変換を触媒する。当該技術分野で、Δ17デサチュラーゼ(そしてまたΔ15デサチュラーゼ)は、また時としてω−6脂肪酸をそれらのω−3対応物に変換する能力(例えばそれぞれLAからALAへのまたはDGLAからETAへのおよびARAからEPAへの変換)に基づいて「オメガ−3デサチュラーゼ」、「w−3デサチュラーゼ」、および/または「ω−3デサチュラーゼ」と称される。
いくつかのデサチュラーゼは、2つ以上の基質に対する活性を有する。この能力に基づいて、これらの酵素は、それらのデサチュラーゼ活性について「単機能性」または「二機能性」のどちらかとしてさらに分類できる。いくつかの実施態様では、適切な宿主を脂肪酸デサチュラーゼの遺伝子で形質転換して、宿主の脂肪酸プロフィールに対するその効果を判定することで、脂肪酸デサチュラーゼの特異性を経験的に判定することが最も望ましい。
より具体的には、Δ17デサチュラーゼは、ここで単機能性または二機能性Δ17デサチュラーゼ活性を有する脂肪酸デサチュラーゼと定義され、Δ17デサチュラーゼ活性はARAからEPAへのおよび/またはDGLAからETAへの変換である。「単機能性Δ17デサチュラーゼ」、「単機能性Δ17デサチュラーゼ活性」または「排他的Δ17デサチュラーゼ活性」という用語は、ARAからEPAにおよび/またはDGLAからETAに変換できるが、LAからALAには変換できないΔ17デサチュラーゼを指す。対照的に「二機能性Δ17デサチュラーゼ」、「二機能性Δ17デサチュラーゼ活性」または「一次Δ17デサチュラーゼ活性」は、ARAからEPAおよび/またはDGLAからETAを優先的に変換するが、さらにLAからALAに変換する限られた能力を有するΔ17デサチュラーゼを指す(したがって主としてΔ17デサチュラーゼ活性、および限られたΔ15デサチュラーゼ活性を示す)。
Δ17デサチュラーゼは、Δ17およびΔ15不飽和化以外の、この分類には関連性がない特異性を有することができることに留意すべきである。
ここでの目的では、「PaD17」という用語は、配列番号1によってコードされるピシウム・アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)から単離されたΔ17デサチュラーゼ酵素(配列番号2)を指す。同様に、「PaD17*」という用語は、配列番号2に関して2個までの(およびそれを含む)保存的アミノ酸変異(すなわち155SからPへおよび351AからTへ)を含んでなるΔ17デサチュラーゼ酵素(配列番号3)を指す。対照的に「PaD17S」という用語は、ピシウム・アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)に由来してヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中での発現のためにコドン最適化された合成Δ17デサチュラーゼを指す(すなわち配列番号4および2)。ここで述べられている分析に基づいて、PaD17およびPaD17Sは二機能性Δ17デサチュラーゼにさらに分類される。
ここでの目的で、「PsD17」という用語は、配列番号44によってコードされる、フィトフトラ・ソジャ(Phytophthora sojae)から単離されたΔ17デサチュラーゼ(配列番号45)を指す。対照的に「PsD17S」という用語は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中での発現のためにコドン最適化された、フィトフトラ・ソジャ(Phytophthora sojae)由来の合成Δ17デサチュラーゼを指す(すなわち配列番号81および82)。ここで述べられる分析に基づいて、PsD17およびPsD17Sはさらに二機能性Δ17デサチュラーゼに分類される。
同様に「PrD17」という用語は、配列番号46によってコードされるフィトフトラ・ラモルム(Phytophthora ramorum)から単離されたΔ17デサチュラーゼ酵素(配列番号47)を指す。対照的に「PrD17S」という用語は、フィトフトラ・ラモルム(Phytophthora ramorum)に由来してヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中での発現のためにコドン最適化された合成Δ17デサチュラーゼを指す(すなわち配列番号84および47)。米国特許出願第11/787772号明細書で述べられている以前の分析は、PrD17およびPrD17Sを単機能性Δ17デサチュラーゼとして分類したが、ここで述べられている分析に基づいて、PrD17およびPrD17Sは今や二機能性Δ17デサチュラーゼと同定された。
それに関連して「PiD17」という用語は、配列番号42によってコードされる、フィトフトラ・インフェスタンス(Phytophthora infestans)から単離されたΔ17デサチュラーゼ(配列番号43)を指す。
「変換効率」および「%基質変換」という用語は、それによって特定の酵素(例えばデサチュラーゼ)が基質を生成物に変換できる効率を指す。変換効率は以下の式に従って評価される。([生成物]/[基質+生成物])×100。式中、「生成物」には、直接生成物およびそれに由来する経路中の全生成物が含まれる。
「エロンガーゼ」という用語は、脂肪酸炭素鎖を延長して、エロンガーゼが作用する脂肪酸基質よりも炭素2個分長い酸を生成できるポリペプチドを指す。この延長過程は、国際公開第2004/101757号パンフレットで述べられているように、脂肪酸シンターゼと関連している多段階機序で起きる。エロンガーゼ系によって触媒される反応の例は、GLAからDGLA、STAからETA、およびEPAからDPAへの変換である。一般にエロンガーゼの基質選択性はいくぶん広いが、鎖長および不飽和の程度とタイプの双方によって区別される。例えばC14/16エロンガーゼはC14基質(例えばミリスチン酸)を利用し、C16/18エロンガーゼはC16基質(例えばパルミチン酸)を利用し、C18/20エロンガーゼ(同義的に使用できる用語としてΔ6エロンガーゼとしてもまた知られている)はC18基質(例えばGLA、STA)を利用し、C20/22エロンガーゼはC20基質(例えばEPA)を利用する。同様にしてΔ9エロンガーゼはまた、それぞれLAおよびALAからEDAおよびETrAへの変換も触媒できる。いくつかのエロンガーゼは幅広い特異性を有し、したがって単一酵素がいくつかのエロンガーゼ反応を触媒できてもよいことに留意することが重要である(例えばC16/18エロンガーゼおよびaC18/20エロンガーゼの双方として作用する)。
「卵菌綱(oomycetes)」という用語は、水生菌類およびべと病として一般に知られている一群の従属栄養生物を指す。それらは繊維状原生生物であり、周囲の水や土壌からそれらの食物を吸収しなくてはならず、または食べるために別の生物の身体に侵入するかもしれない。したがって卵菌綱は、腐敗物の分解と再循環に重要な役割を果たす。卵菌綱は収束進化を通じて真菌との類似性を有するが、それらは(以前考えられていたように)真菌でない。そうではなく卵菌綱はストラメノパイル(Stramenopiles)界の一部であり、その結果、植物、真菌、および動物とは異なる。珪藻および黄藻類および褐藻類(例えば昆布)もまた、ストラメノパイル(Stramenopiles)界に含まれる。
ピシウム(Pythium)は卵菌綱の属であり、約85種を含んでなる。ピシウム(Pythium)種は、植物および魚において病害を引き起こす一般的な病原体である。この属の種は最も破壊的な植物病原体であり、種子、貯蔵器官、根、およびその他の植物組織を破壊することで農作物に重篤な経済的損失を与える。ピシウム(Pythium)属の構成員は、「水生菌類」といわれてきた。
「油性」と言う用語は、それらのエネルギー源を脂質の形態で保存する傾向がある生物を指す(Weete、「Fungal Lipid Biochemistry」、第2版、Plenum、1980年)。「油性酵母菌」と言う用語は、油を生成できる酵母菌として分類される微生物を指す。一般に油性微生物の細胞油またはTAG含量はS字形曲線に従い、対数増殖後期または定常増殖初期において脂質濃度が最大に達するまで増大し、次に定常増殖後期および死滅期において徐々に減少する(YongmanitchaiおよびWard、Appl.Environ.Microbiol.57:419〜25(1991年))。油性微生物が約25%を超えるその乾燥細胞重量を油として蓄積するのは珍しくない。油性酵母菌の例としては、ヤロウィア(Yarrowia)、カンジダ(Candida)、ロドトルラ(Rhodotorula)、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)、クリプトコッカス(Cryptococcus)、トリコスポロン(Trichosporon)、およびリポマイセス(Lipomyces)属が挙げられるが、決してこれに限定されるものではない。
「アミノ酸」という用語は、タンパク質またはポリペプチドの基本的化学構造単位を指す。アミノ酸は、参照によって本明細書に援用するNucleic Acids Research、13:3021〜3030(1985年)およびBiochemical Journal、219(2):345〜373(1984年)で述べられているIUPAC−IYUB基準に準拠して、アミノ酸のための1文字コードまたは3文字コードのどちらかによって同定される。
「保存的アミノ酸置換」という用語は、タンパク質の化学的または機能的性質を変化させることなしに、特定のタンパク質中のアミノ酸残基を別のアミノ酸で置換することを指す。例えば特定の部位において化学的に等価なアミノ酸の生成をもたらす(しかしをコードされた折り畳みタンパク質の構造および機能特性に影響しない)遺伝子中の変更が一般的であることは、当該技術分野でよく知られている。本発明の目的で、「保存的アミノ酸置換」は次の5群の1つ内の交換として定義される。
1.小型脂肪族の非極性またはわずかに極性の残基:Ala[A]、Ser[S]、Thr[T](Pro[P]、Gly[G])
2.極性の負に帯電した残基およびそれらのアミド:Asp[D]、Asn[N]、Glu[E]、Gln[Q]
3.極性の正に帯電した残基:His[H]、Arg[R]、Lys[K]
4.大型脂肪族非極性残基:Met[M]、Leu[L]、Ile[I]、Val[V](Cys[C])および
5.大型芳香族残基:Phe[F]、Tyr[Y]、Trp[W]
保存的アミノ酸置換は、一般に、1.)置換領域内のポリペプチド主鎖の構造、2.)標的部位における分子の電荷または疎水性、または3.)側鎖の大半を維持する。さらに多くの場合、タンパク質分子のN末端およびC末端部分の変更もまた、タンパク質の活性を変更することは予期されない。
「非保存的アミノ酸置換」という用語は、タンパク質特性に最大変化を生じることが一般に予期されるアミノ酸置換を指す。したがって例えば非保存的アミノ酸置換は、次の1つである。1.)親水性残基が疎水性残基を置換し、またはそれによって置換される(例えばSerまたはThrがLeu、Ile、Valを置換し、またはそれによって置換される)、2.)CysまたはProがあらゆるその他の残基を置換し、またはそれによって置換される、3.)電気陽性側鎖を有する残基が電気陰性残基を置換し、またはそれによって置換される(例えばLys、ArgまたはHisがAspまたはGluを置換し、またはそれによって置換される)、または4.)かさ高い側鎖を有する残基が側鎖を有さないものを置換し、またはそれによって置換される(例えばPheがGlyを置換し、またはそれによって置換される)。時として5群中の2群間の非保存的アミノ酸置換は、コードされるタンパク質の活性に影響しない。
ここでの用法では「単離された核酸断片」または「単離された核酸分子」は同義的に使用されて、一本鎖または二本鎖で、場合により合成、非天然または改変ヌクレオチド塩基を含有するRNAまたはDNAのポリマーを指す。DNAポリマーの形態の単離された核酸断片は、cDNA、ゲノムDNAまたは合成DNAの1つ以上のセグメントを含んでなってもよい。
核酸断片は、適切な温度および溶液イオン強度条件下で、核酸断片の一本鎖形態がその他の核酸断片とアニールできる場合、cDNA、ゲノムDNA、またはRNAなどの別の核酸断片と「ハイブリダイズ可能」である。ハイブリダイゼーションおよび洗浄条件については良く知られており、Sambrook,J.、Fritsch,E.F.およびManiatis,T.「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、第二版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、NY(1989年)の特に第11章およびその表11.1で例証される(参照によってその内容全体を本明細書に援用する)。温度およびイオン強度条件が、ハイブリダイゼーションの「ストリンジェンシー」を定める。ストリンジェントな条件は、(遠縁の生物からの相同的配列などの)中程度に類似の断片をスクリーニングするため、そして(近縁の生物からの機能性酵素を複製する遺伝子などの)高度に類似した断片をスクリーニングするために調節できる。ハイブリダイゼーション後の洗浄が、ストリンジェンシー条件を決定する。1つの好ましい条件のセットは、室温において6×SSC、0.5%SDSで15分間に始まり、次に45℃において2×SSC、0.5%SDSで30分間を反復し、次に50℃において0.2×SSC、0.5%SDSを30分間を2回反復する、一連の洗浄を使用する。より好ましいストリンジェントな条件のセットはより高い温度を使用し、そこでは洗浄は、最後の0.2×SSC、0.5%SDS中での2回の30分間の洗浄の温度を60℃に増大させること以外は上述したのと同一である。別の好ましい高度にストリンジェントな条件のセットは、65℃において0.1×SSC、0.1%SDS中での2回の最終洗浄を使用する。さらに別のストリンジェントな条件のセットは、例えば0.1×SSC、0.1%SDSで65℃、そして2×SSC、0.1%SDSで洗浄後、0.1×SSC、0.1%SDSでのハイブリダイゼーションを含む。
ハイブリダイゼーションのストリンジェンシー次第で塩基間のミスマッチは可能であるが、ハイブリダイゼーションは、2つの核酸が相補的配列を含有することを必要とする。核酸がハイブリダイゼーションする適切なストリンジェンシーは、技術分野で良く知られた変数である核酸の長さおよび相補性の程度に左右される。2つのヌクレオチド配列間の類似性または相同性の程度が高い程、これらの配列を有する核酸ハイブリッドのTm値は大きくなる。核酸ハイブリダイゼーションの相対安定性(より高いTmに対応する)は、次の順で低下する。RNA:RNA、DNA:RNA、DNA:DNA。長さがヌクレオチド100個を超えるハイブリッドでは、Tmを計算する式が導かれている(Sambrookら、前出9.50〜9.51参照)。より短かい核酸、すなわちオリゴヌクレオチドによるハイブリダイゼーションのためにはミスマッチの配置がより重要になり、オリゴヌクレオチドの長さがその特異性を決定する(Sambrookら、前出11.7〜11.8参照)。一実施態様では、ハイブリダイズ可能な核酸の長さは少なくともヌクレオチド約10個である。ハイブリダイズ可能な核酸の好ましい最小の長さは少なくともヌクレオチド約15個、より好ましくは少なくともヌクレオチド約20個、そして最も好ましくは長さが少なくともヌクレオチド約30個である。さらに当業者は、プローブの長さなどの要因次第で、温度および洗浄液の塩濃度を必要に応じて調節してもよいことを認識する。
アミノ酸またはヌクレオチド配列の「かなりの部分」とは、当業者による配列の手動評価によって、あるいはBLAST(「基礎的局在性配列検索ツール(Basic Local Alignment Search Tool」、Altschul,S.F.ら、J.Mol.Biol.215:403〜410(1993年))などのアルゴリズムを使用したコンピュータ自動化アラインメントおよび同定によって、遺伝子またはポリペプチドの推定上の同定を得るのに十分なポリペプチドまたは遺伝子のヌクレオチド配列のアミノ酸配列を含んでなる部分である。一般に推定的にポリペプチドまたは核酸配列が既知のタンパク質または遺伝子に相同的であると同定するためには、10個以上の隣接するアミノ酸または30個以上のヌクレオチド配列が必要である。さらにヌクレオチド配列に関して、配列依存遺伝子同定法(例えばサザンハイブリダイゼーション)および単離(例えば細菌コロニーまたはバクテリオファージプラークの原位置ハイブリダイゼーション)において、20〜30個の隣接するヌクレオチドを含んでなる遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプローブを使用しても良い。さらにプライマーを含んでなる特定の核酸断片を得るために、塩基12〜15個の短いオリゴヌクレオチドを増幅プライマーとしてPCRで使用しても良い。したがってヌクレオチド配列の「かなりの部分」は、配列を含んでなる核酸断片を特異的に同定、および/または単離できるようにする十分な配列を含んでなる。本明細書は、特定の卵菌タンパク質をコードする完全なアミノ酸およびヌクレオチド配列を教示する。当業者はここで報告される配列の恩恵を被り、当業者に既知の目的のために、今や開示された配列の全てまたはかなりの部分を使用できる。したがって本発明は、添付の配列表で報告される完全な配列、ならびに上で定義される配列のかなりの部分を含んでなる。
「相補的」と言う用語は、互いにハイブリダイズできるヌクレオチド塩基間の関係について述べるために使用される。例えばDNAについて、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。したがって本発明は添付の配列表で報告される完全な配列、ならびに実質的に類似した核酸配列に相補的な単離された核酸断片も含む。
「相同性」、および「相同的」という用語は、区別なく使用され、その中において1個もしくはそれ以上のヌクレオチド塩基の変化が、遺伝子発現を仲介するまたは特定の表現型を生成する核酸断片の能力に影響しない核酸断片を指す。これらの用語はまた、最初の未変性断片と比べて、得られる核酸断片の機能特性を実質的に変化させない、1個もしくはそれ以上のヌクレオチドの欠失または挿入などの本発明の核酸断片の変更も指す。したがって当業者によって理解されるように、本発明は具体的な例示的配列を超えるものを包含する。
さらに当業者は、本発明によって包含される相同的な核酸配列が、中程度にストリンジェントな条件下(例えば0.5×SSC、0.1%SDS、60℃)において、ここで例示される配列と、またはここで開示される核酸配列のいずれかの機能的同等物である本ヌクレオチド配列のあらゆる部分とハイブリダイズする、それらの能力によってもまた定義されることを認識する。
「コドン縮重」とは、コードされるポリペプチドのアミノ酸配列に影響しないヌクレオチド配列の変動を可能にする遺伝子コードの性質を指す。当業者は、特定のアミノ酸を特定化するヌクレオチドコドンの使用における、特定の宿主細胞によって示される「コドンバイアス」についてよく知っている。したがって宿主細胞中の改善された発現のために遺伝子を合成する場合、そのコドン使用頻度が、宿主細胞の好むコドン使用頻度に近くなるように遺伝子をデザインすることが望ましい。
DNA配列に関連して「化学的に合成された」とは、構成要素ヌクレオチドが、生体外で構築されたことを意味する。DNAの手動化学合成は確立された手順を使用して達成されてもよく、あるいはいくつかの市販の機器の1つを使用して自動化学合成を実施できる。「合成遺伝子」は、当業者に公知の手順を使用して化学的に合成されるオリゴヌクレオチド構成単位からアセンブルできる。これらの構成単位をライゲーションしアニールして遺伝子セグメントを形成し、次にそれを酵素的にアセンブルして遺伝子全体を構築する。したがって遺伝子をヌクレオチド配列の最適化に基づいて、最適な遺伝子発現のために個別に調整し、宿主細胞のコドンバイアスを反映させることができる。当業者は、コドン利用が宿主によって好まれるコドンに偏っている場合の遺伝子発現成功の可能性を理解する。好ましいコドンの判定は、配列情報が利用できる宿主細胞由来の遺伝子の調査に基づくことができる。
「遺伝子」とは特定のタンパク質を発現する核酸断片を指し、それはコード領域のみを指してもよく、またはコード配列に先行する(5’非コード配列)およびそれに続く(3’非コード配列)制御配列を含んでもよい。「天然遺伝子」とは、自然界にそれ自体の制御配列と共に見られる遺伝子を指す。「キメラ遺伝子」とは、自然界に共に見られない制御およびコード配列を含んでなる天然遺伝子でないあらゆる遺伝子を指す。したがってキメラ遺伝子は、異なる起源由来の制御配列およびコード配列、あるいは同一起源由来であるが、自然界に見られるのとは異なる様式で配列される制御配列およびコード配列を含んでなってもよい。「内在性遺伝子」とは、生物ゲノム中のその天然位置にある天然遺伝子を指す。「外来性」遺伝子とは、遺伝子移入によって宿主生物に導入された遺伝子を指す。外来性遺伝子は、非天然生物中に挿入された天然遺伝子、天然宿主内の新しい位置に導入された天然遺伝子、あるいはキメラ遺伝子を含んでなることができる。「導入遺伝子」とは、形質転換によってゲノム中に導入された遺伝子である。「コドン最適化遺伝子」とは、そのコドン使用頻度が宿主細胞の好むコドン使用頻度を模倣するようにデザインされた遺伝子である。
「コード配列」とは、特定のアミノ酸配列をコードするDNA配列を指す。「適した制御配列」とは、コード配列の上流(5’非コード配列)、配列内、または下流(3’非コード配列)に位置して、転写、RNAプロセシングまたは安定性、または関連コード配列の翻訳に影響を及ぼすヌクレオチド配列を指す。制御配列は次を含んでも良い。プロモーター、翻訳リーダー配列、イントロン、ポリアデニル化認識配列、RNAプロセッシング部位、エフェクター結合部位、およびステム−ループ構造。
「プロモーター」とは、コード配列または機能性RNAの発現を調節できるDNA配列を指す。一般にコード配列はプロモーター配列に対して3’に位置する。プロモーターはその全体が天然遺伝子に由来しても良く、あるいは自然界に見られる異なるプロモーター由来の異なる要素からなっても良く、あるいは合成DNAセグメントを含んでなってさえ良い。異なるプロモーターが、異なる組織または細胞タイプ中で、あるいは異なる発育段階で、あるいは異なる環境または生理学的条件に呼応して、遺伝子の発現を導いても良いことが当業者には理解される。ほとんどの場合にほとんどの細胞タイプ中で遺伝子の発現を引き起こすプロモーターは、一般に「構造プロモーター」と称される。ほとんどの場合、制御配列の正確な境界は完全に画定されていないので、異なる長さのDNA断片が、同一プロモーター活性を有してもよいこともさらに認識される。
「3’非翻訳配列」および「転写ターミネーター」と言う用語は、コード配列下流に位置するDNA配列を指す。これには、mRNAプロセッシングまたは遺伝子発現に影響できる調節シグナルをコードするポリアデニル化認識配列、およびその他の配列が含まれる。ポリアデニル化シグナルは、通常、mRNA前駆物質の3’末端へのポリアデニル酸トラクトの付加に影響することで特徴づけられる。3’領域は、関連したコード配列の転写、RNAプロセシングまたは安定性、または翻訳に影響できる。
「RNA転写物」とは、RNAポリメラーゼが触媒するDNA配列転写から得られる生成物を指す。RNA転写物がDNA配列の完全な相補的コピーである場合、それは一次転写物と称され、あるいはそれは一次転写物の転写後プロセッシング由来のRNA配列であってもよく、成熟RNAと称される。「メッセンジャーRNA」または「mRNA」とは、イントロンがなく、細胞によってタンパク質に翻訳されることができるRNAを指す。「cDNA」とは、mRNAに対して相補的であり、それに由来する二重鎖DNAを指す。「センスRNA」とは、mRNAを含み、細胞によってタンパク質に翻訳されることができるRNA転写物を指す。「アンチセンスRNA」とは、標的一次転写物またはmRNAの全部または一部に相補的であり、標的遺伝子の発現をブロックするRNA転写物を指す(米国特許第50,170,065号明細書、国際公開第99/28508号パンフレット)。アンチセンスRNAの相補性は、特定の遺伝子転写物のあらゆる部分、すなわち5’非コード配列、3’非コード配列、またはコード配列にあっても良い。「機能性RNA」とは、翻訳されないがそれでもなお細胞プロセスに影響するアンチセンスRNA、リボザイムRNA、またはその他のRNAを指す。
「作動的に結合した」と言う用語は、1つの機能が他方の機能による影響を受けるような、単一核酸断片上の核酸配列のつながりを指す。例えばプロモーターがコード配列の発現に影響を及ぼすことができる(すなわちコード配列がプロモーターの転写調節下にある)場合、それはそのコード配列と作動的に結合する。コード配列は、センスまたはアンチセンス方向で制御配列に作動的に結合できる。
「発現」という用語は、ここでの用法では、本発明の核酸断片由来のセンス(mRNA)またはアンチセンスRNAの転写と安定した蓄積を指す。発現はまた、mRNAのポリペプチドへの翻訳も指す。
「成熟」タンパク質とは、翻訳後処理されたポリペプチド、すなわち一次翻訳生成物中に存在するあらゆるプレまたはプロペプチドがそれから除去されたものを指す。「前駆」タンパク質とは、mRNAの翻訳の一次生成物、すなわちプレまたはプロペプチドが依然として存在するものを指す。プレまたはプロペプチドは、細胞内局在化シグナルであってもよい(が、これに限定されるものではない)。
「形質転換」とは、遺伝的に安定した遺伝形質をもたらす核酸分子の宿主生物中への転移を指す。核酸分子は、例えば自律的に複製するプラスミドであってもよく、またはそれは宿主生物のゲノムに組み込まれてもよい。形質転換された核酸断片を含有する宿主生物は、「遺伝子導入」または「組み換え」または「形質転換」生物と称される。
「プラスミド」、「ベクター」、および「カセット」と言う用語は、細胞の中心的代謝の一部ではない遺伝子を運ぶことが多く、通常環状二本鎖DNA断片の形態である染色体外要素を指す。このような要素は、あらゆる供給源に由来する一本鎖または二本鎖DNAまたはRNAの配列、ゲノム一体化配列、直鎖または環状のファージまたはヌクレオチド配列を自律的に複製するかもしれず、そこではいくつかのヌクレオチド配列が独自の構成に結合または組み換えされ、それは選択された遺伝子産物のために、適切な3’非翻訳配列と共にプロモーター断片およびDNA配列を細胞中に導入することができる。「発現カセット」とは、外来性遺伝子を含有し、外来性遺伝子に加えて外来性宿主におけるその遺伝子の促進された発現を可能にする要素を有する特定のベクターを指す。
当該技術分野で知られている「%同一性」と言う用語は、配列を比較して判定される2つ以上のポリペプチド配列または2つ以上のポリヌクレオチド配列の関係である。当該技術分野で「同一性」は、場合によってはこのような配列ストリング間の整合によって判定される、ポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列間の配列関連性の程度も意味する。「同一性」および「類似性」は、1.)「計算分子生物学(Computational Molecular Biology)Lesk,A.M.編)Oxford University、NY(1988年)、2.)「Biocomputing:Informatics and Genome Projects」(Smith,D.W.編)Academic、NY(1993年)、3.)「Computer Analysis of Sequence Data」、第一部、(Griffin,A.M.、およびGriffin,H.G.編)Humania、NJ(1994年)、4.)「Sequence Analysis in Molecular Biology」von Heinje,G.編、Academic、NY(1987年)、5.)「Sequence Analysis Primer」(Gribskov,M.およびDevereux,J.編)Stockton、NY(1991年)で述べられているものをはじめとするが、これに限定されるものではない公知の方法によって容易に計算できる。
同一性を判定する好ましい方法は、試験される配列間に最良の整合を与えるようにデザインされる。同一性および類似性を判定する方法は、一般に入手できるコンピュータプログラムで体系化されている。アラインメントおよび同一性百分率の計算は、DNASTAR Inc.(Madison,WI)からのLASERGENEバイオインフォマティクス計算スイートのMegAlign(商標)プログラムを使用して実施してもよい。配列の多重アラインメントは「Clustal法のアラインメント」を使用して実施され、これは「Clustal V法のアラインメント」をはじめとするアルゴリズムのいくつかの変種を包含して、Clustal Vとラベルされたアラインメント法に相当し(HigginsおよびSharp、CABIOS.5:151〜153(1989年);Higgins,D.G.ら、Comput.Appl.Biosci.8:189〜191(1992年)で述べられている)、DNASTAR Inc.からのLASERGENEバイオインフォマティクス計算スイートのMegAlign(商標)プログラムにある。多重アラインメントでは、デフォルト値はGAP PENALTY=10、GAP LENGTH PENALTY=10に相当する。Clustal V法を使用した、タンパク質配列のペアワイズアラインメントおよび%同一性計算のデフォルトパラメーターは、KTUPLE=1、GAP PENALTY=3、WINDOW=5、およびDIAGONALS SAVED=5である。核酸ではこれらのパラメーターは、KTUPLE=2、GAP PENALTY=5、WINDOW=4、およびDIAGONALS SAVED=4である。Clustal Vプログラムを使用したアラインメント後、同プログラムの「配列距離」表を見ることで「%同一性」を得ることが可能である。さらに「クラスタルダブル(Clustal W)を用いたアライメント法のアラインメント」を利用でき、これはClustal Wとラベルされたアラインメント法に相当し(HigginsおよびSharp、CABIOS.5:151〜153(1989年);Higgins,D.G.ら、Comput.Appl.Biosci.8:189〜191(1992年)で述べられている)、DNASTAR Inc.からのLASERGENEバイオインフォマティクス計算スイートのMegAlign(商標)v6.1プログラムにある。多重アラインメントのデフォルトパラメーターは、GAP PENALTY=10、GAP LENGTH PENALTY=0.2、Delay Divergen Seqs(%)=30、DNA Transition Weight=0.5、Protein Weight Matrix=Gonnet SeriesおよびDNA Weight Matrix=IUBに対応する。Clustal Wプログラムを使用したアラインメント後、同プログラムの「配列距離」表を見ることで「%同一性」を得ることが可能である。
「BLASTN法のアラインメント」は、デフォルトパラメーターを使用してヌクレオチド配列を比較する、国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)が提供するアルゴリズムである。
その他の種から同一または同様の機能または活性を有するポリペプチドを同定する上で、多くのレベルの配列同一性が有用であることを当業者はよく理解している。適切な核酸断片(本発明の単離されたポリヌクレオチド)は、ここで報告されるアミノ酸配列と少なくとも約70%同一、好ましくは少なくとも約75%同一、より好ましくは少なくとも約80%同一のポリペプチドをコードする。好ましい核酸断片は、ここで報告するアミノ酸配列と少なくとも約85%同一のアミノ酸配列をコードする。より好ましい核酸断片は、ここで報告するアミノ酸配列と少なくとも約90%同一のアミノ酸配列をコードする。最も好ましいのは、ここで報告するアミノ酸配列と少なくとも約95%同一のアミノ酸配列をコードする核酸断片である。確かに本発明について述べるのに、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%などの70%〜100%のあらゆる整数のアミノ酸同一性が有用かもしれない。適切な核酸断片は上の相同性を有するだけでなく、典型的に少なくとも50個のアミノ酸、好ましくは少なくとも100個のアミノ酸、より好ましくは少なくとも150個のアミノ酸、なおもより好ましくは少なくとも200個のアミノ酸、最も好ましくは少なくとも250個のアミノ酸を有するポリペプチドをコードする。
「配列分析ソフトウェア」と言う用語は、ヌクレオチドまたはアミノ酸配列の分析のために有用なあらゆるコンピュータアルゴリズムまたはソフトウェアプログラムを指す。「配列分析ソフトウェア」は、市販のものでも、あるいは独立して開発されても良い。典型的な配列分析ソフトウェアとしては、1.)Genetics Computer Group(GCG)(Madison,WI)からのGCGプログラム一式(Wisconsin Package Version 9.0)、2.)BLASTP、BLASTN、BLASTX(Altschulら、J.Mol.Biol.215:403〜410(1990年))、および3.)DNASTAR,Inc.(Madison、WI)からのDNASTAR、4.)Gene Codes Corporation(Ann Arbor、MI)からのSequencher、および5.)スミス−ウォーターマン・アルゴリズムを組み入れたFASTAプログラム(W.R.Pearson、Comput.Methods Genome Res.[Proc.Int.Symp.](1994年)、1992年会議、111〜20、編集者:Suhai,Sandor、Plenum、New York,NY)が挙げられるが、これに限定されるものではない。本明細書の文脈では、配列分析ソフトウェアを分析のために使用する場合、分析結果は特に断りのない限り、言及されるプログラムの「デフォルト値」に基づくものと理解される。ここでの用法では、「デフォルト値」とは、最初に初期化されるときにソフトウェアに元からロードされる、あらゆる値またはパラメータの組を意味する。
「保存ドメイン」または「モチーフ」という用語は、進化的に関連したタンパク質の整合配列に沿った特定位置で保存されたアミノ酸のセットを意味する。別の位置のアミノ酸が相同的なタンパク質間で変動できる一方、特定位置で高度に保存されたアミノ酸は、タンパク質の構造、安定性、または活性に必須のアミノ酸を示唆する。それらはタンパク質相同体ファミリーの整合配列におけるそれらの高度の保存によって同定されるので、それらを識別子または「シグネチャー」として使用して、新たに判定された配列があるタンパク質が以前同定されたタンパク質ファミリーに属するかどうかを判定できる。ここでの目的で、次の表はΔ17デサチュラーゼ活性を有するタンパク質の徴候である本発明のモチーフを示す。
「His Box」という用語は、H(X)3H(配列番号99)、H(X)2HH(配列番号100)、およびH/Q(X)2HH(配列番号101)からなる群から選択されるモチーフを有するヒスチジンボックスを指す。
ここで使用される標準リコンビナントDNAおよび分子クローニング技術については技術分野で良く知られており、Sambrook,J.、Fritsch,E.F.、およびManiatis,T.、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」第二版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、NY(1989年)(下文においてManiatis);Silhavy,T.J.、Bennan,M.L.およびEnquist,L.W.、「Experiments with Gene Fusions」Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring Harbor、NY(1984年);およびAusubel,F.M.ら、「Current Protocols in Molecular Biology」Greene Publishing Assoc.and Wiley−Interscience、Hoboken,NJによる出版(1987年)で述べられている。
概説:脂肪酸およびトリアシルグリセロールの微生物生合成
一般に、油性微生物中の脂質蓄積は、増殖培地中に存在する全体的な炭素対窒素比に応えて誘発される。油性微生物中に遊離パルミチン酸(16:0)の新規(de novo)合成をもたらすこのプロセスについては、国際公開第2004/101757号パンフレットで詳細に述べられる。パルミチン酸は、エロンガーゼおよびデサチュラーゼの作用を通じて形成される、より長鎖の飽和および不飽和脂肪酸誘導体の前駆物質である(図1)。
TAG(脂肪酸の主要な貯蔵単位)は、以下が関与する一連の反応によって形成される。1.)アシルトランスフェラーゼによる1分子のアシル−CoAのグリセロール−3−リン酸塩へのエステル化がリゾホスファチジン酸を生じ、2.)アシルトランスフェラーゼによる第2のアシル−CoA分子のエステル化が1,2−ジアシルグリセロールリン酸塩(一般にホスファチジン酸として同定される)を生じ、3.)ホスファチジン酸ホスファターゼによるリン酸塩の除去が1,2−ジアシルグリセロール(DAG)を生じ、4.)アシルトランスフェラーゼの作用による第3の脂肪酸の付加がTAGを形成する。飽和および不飽和脂肪酸および短鎖および長鎖脂肪酸をはじめとする、幅広い脂肪酸をTAGに組み込むことができる。
オメガ脂肪酸の生合成
オレイン酸がω−3/ω−6脂肪酸に変換される代謝プロセスは、炭素原子付加を通じた炭素鎖の延長、および二重結合添加を通じた分子の不飽和化を伴う。これは、小胞体膜内に存在する一連の特別な不飽和化酵素および延長酵素を必要とする。しかし図1に示され下で述べられるように、特定ω−3/ω−6脂肪酸生成のための複数の代案の経路があることが多い。
具体的には全ての経路は、Δ12デサチュラーゼによる、オレイン酸から第1のω−6脂肪酸であるLAへの最初の変換を必要とする。次に「Δ6デサチュラーゼ/Δ6エロンガーゼ経路」を使用して、ω−6脂肪酸が次のようにして形成される。(1)Δ6デサチュラーゼによってLAがGLAに転換され、(2)C18/20エロンガーゼによってGLAがDGLAに転換され、3)Δ5デサチュラーゼによってDGLAがARAに転換される。代案としては次のようにして、ω−3脂肪酸形成のために「Δ6デサチュラーゼ/Δ6エロンガーゼ経路」を利用することができる。(1)Δ15デサチュラーゼによってLAが第1のω−3脂肪酸であるALAに転換され、(2)Δ6デサチュラーゼによってALAがSTAに転換され、(3)C18/20エロンガーゼによってSTAがETAに転換され、(4)Δ5デサチュラーゼによってETAがEPAに転換され、(5)C20/22エロンガーゼによってEPAがDPAに転換され、(6)Δ4デサチュラーゼによってDPAがDHAに転換される。場合により、ω−6脂肪酸がω−3脂肪酸に転換されてもよい。例えばΔ17デサチュラーゼ活性によって、ETAおよびEPAがそれぞれDGLAおよびARAから生成される。
ω−3/ω−6脂肪酸生合成のための代案の経路は、Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ生合成経路を利用する。より具体的には、LAおよびALAは、Δ9エロンガーゼによってそれぞれEDAおよびETrAに変換されもよく、次にΔ8デサチュラーゼがEDAをDGLAに、および/またはETrAをETAに変換する。
ω−3/ω−6脂肪酸の生成のために特定の宿主生物中に発現することが必要とされる特定の機能性は、宿主細胞(およびその天然PUFAプロフィールおよび/またはデサチュラーゼ/エロンガーゼプロフィール)、基質の可用性、および所望の最終産物に左右されることが考察される。当業者は、ω−3/ω−6脂肪酸生合成のために所望される各酵素をコードする、様々な候補遺伝子を同定できるであろう。有用なデサチュラーゼおよびエロンガーゼ配列はあらゆる供給源に由来してもよく、例えば天然供給源(細菌、藻類、真菌、卵菌綱、植物、動物など)から単離され、半合成経路によって生成され、または新規(de novo)合成される。宿主中に導入されるデサチュラーゼおよびエロンガーゼ遺伝子の特定の供給源は重大でないが、デサチュラーゼまたはエロンガーゼ活性を有する特異的ポリペプチド選択のための考慮事項としては以下が挙げられる。1.)ポリペプチドの基質特異性、2.)ポリペプチドまたはその構成要素が律速酵素であるかどうか、3.)デサチュラーゼまたはエロンガーゼが所望のPUFA合成に必須であるかどうか、4.)ポリペプチドが必要とする補助因子、および/または、5.)ポリペプチドが、その生成後に修飾されたかどうか(例えば、キナーゼによって)。発現したポリペプチドは、好ましくは宿主細胞中のその位置の生化学的環境に適合したパラメーターを有する(より詳しくは国際公開第2004/101757号パンフレットを参照されたい)。
追加的実施態様では、特定の各デサチュラーゼおよび/またはエロンガーゼの変換効率を考慮することもまた有用であろう。より具体的には、各酵素が基質を生成物に変換するのに100%の効率で機能することは稀なので、宿主細胞中に生成される未精製油の最終脂質プロフィールは、典型的に所望のω−3/ω−6脂肪酸、ならびに様々な上流中間PUFAからなる様々なPUFAの混合物である。したがって所望の脂肪酸生合成を最適化するのに際し、各酵素の変換効率の考慮もまた有益である。
上のそれぞれの考慮を念頭に、公的に入手可能な文献(例えばGenBank)、特許文献、およびPUFA生成能力を有する生物の実験的分析に従って、適切なデサチュラーゼおよびエロンガーゼ活性(例えばΔ6デサチュラーゼ、C18/20エロンガーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、Δ15デサチュラーゼ、Δ9デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼ、C14/16エロンガーゼ、C16/18エロンガーゼ、Δ9エロンガーゼ、Δ8デサチュラーゼ、Δ4デサチュラーゼ、およびC20/22エロンガーゼ)を有する候補遺伝子を同定できる。これらの遺伝子は、特定宿主生物に導入して、生物のPUFA合成を可能にしまたは増強するのに適する。
新しいΔ17デサチュラーゼの同定
本発明では、ピシウム・アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)からΔ17デサチュラーゼをコードするヌクレオチド配列が単離され、ここで「PaD17」と称される。
PaD17ヌクレオチド塩基および推定アミノ酸配列の公共データベースとの比較は、最も類似した既知の配列が、配列比較アルゴリズムのクラスタルダブル(Clustal W)を用いたアライメント法を使用して、359個のアミノ酸の長さにわたってここで報告されるPaD17のアミノ酸配列と約75.3%同一であることを明らかにする。より好ましいアミノ酸断片はここでの配列と少なくとも約70%〜85%同一であり、少なくとも約85%〜90%同一の配列が特に適切であり、少なくとも約90%〜95%同一の配列が最も好ましい。同様に本Δ17デサチュラーゼORFに対応する好ましいPaD17をコードする核酸配列は、活性タンパク質をコードして、ここで報告されるPaD17の核酸配列と少なくとも約70%〜85%と同一のものであり、少なくとも約85%〜90%同一の配列が特に適切であり、少なくとも約90%〜95%同一の配列が最も好ましい。
代案の実施態様では、本PaD17配列は、特定の宿主生物中での発現のためにコドン最適化できる。当該技術分野でよく知られているように、宿主が好むコドンの使用はポリペプチドをコードする外来遺伝子の発現を実質的に増強できるので、これは代案宿主中での酵素の発現をさらに最適化する有用な手段であり得る。一般に宿主が好むコドンは、対象とする特定の宿主種中で、タンパク質(好ましくは最大量で発現するもの)中のコドン使用頻度を調べ、どのコドンが最高頻度で使用されるかを判定することで判定できる。次に宿主種中で好まれるコドンを使用して、例えばデサチュラーゼ活性を有する対象とするポリペプチドのコード配列が、全体的にまたは部分的に合成できる。
好ましい本発明の一実施態様では、PaD17をヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中での発現のためにコドン最適化した。これはY.リポリティカ(lipolytica)コドン使用頻度プロフィール(国際公開第04/101757号パンフレット、米国特許第7,125,672号明細書を参照されたい)を最初に判定して、好ましいコドンを同定することで可能であった。Y.リポリティカ(lipolytica)中の遺伝子発現のさらなる最適化は、「ATG」開始コドン周辺の共通配列を判定することで達成された。この最適化は1080bpコード領域の188bp(17.4%)の修正、および175コドン(48.6%)の最適化をもたらした。コドン最適化された遺伝子(「PaD17S」、配列番号4)中の修正のいずれも、コードされたタンパク質(配列番号2)のアミノ酸配列を変化させなかった。実施例10で述べられているように、コドン最適化された遺伝子は、Y.リポリティカ(lipolytica)中で発現すると、ARAをEPAに不飽和化させるのに野生型遺伝子よりも効率的であった。
当業者は、ここでの教示を使用して、野生型PaD17配列(すなわち配列番号2)または配列番号3に記載のその変異型に基づいて、代案の宿主(すなわちヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)以外)中での最適発現に適した様々なその他のコドン最適化されたΔ17デサチュラーゼタンパク質を作り出すことができるであろう。したがって本発明は、配列番号2または配列番号3のどちらかに由来するあらゆるコドン最適化されたΔ17デサチュラーゼタンパク質に関する。これとしては、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中での発現のためにコドン最適化された合成Δ17デサチュラーゼタンパク質をコードする配列番号4に記載のヌクレオチド配列(すなわちPaD17S)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
上述の卵菌ポリペプチドの同定に際して、野生型およびコドン最適化された脂肪酸デサチュラーゼの活性は、適切な宿主(すなわちヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica))中への形質転換、および宿主の脂肪酸プロフィールに対するその影響の判定により判定された(実施例7、10、および17)。予期されたようにPaD17およびPaD17SはどちらもΔ17デサチュラーゼ活性を有し、酵素はARAからEPAへの変換を触媒できた。具体的にはPaD17のARAからEPAへの変換効率が18.4〜19.5%の範囲であるのに対し、PaD17SのARAからEPAへの変換効率は54.1〜55.8%の範囲であった(2つの異なるY.リポリティカ(lipolytica)株における、および異なる成長条件下での判定を基準にして)。変換効率は([生成物]/[基質+生成物])*100の式に従って測定され、「生成物」は即時の生成物および経路中のそれに由来する全ての生成物を含む。
しかし意外にも、PaD17Sは限られたΔ15デサチュラーゼ活性をさらに有した(すなわちLAからALAへの変換効率が34.6%であった)(実施例17)。したがってピシウム・アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)デサチュラーゼは、ここで二機能性Δ17デサチュラーゼと定義される。
PaD17Sのさらなる分析は、ω−6脂肪酸基質EDAおよびDGLAを使用しての25%を超える変換効率に基づいて、酵素が広範な触媒無差別性を示すことを明らかにした(実施例17)。したがってPaD17Sのω−6脂肪酸基質特異性は、フィトフトラ・ソジャ(Phytophthora sojae)に由来してヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中での発現のためにコドン最適化された合成Δ17デサチュラーゼ(すなわちPsD17S、米国特許出願第11/787772号明細書、および本明細書の実施例17)、およびフィトフトラ・ラモルム(Phytophthora ramorum)に由来してヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中での発現のためにコドン最適化された合成Δ17デサチュラーゼ(すなわちPrD17S、米国特許出願第11/787772号明細書、および本明細書の実施例17)と類似している。これらの結果は、単機能性Δ17デサチュラーゼとしてC20ω−6脂肪酸基質に排他的に機能することが報告されている近縁のサプロレグニア・ディクリナ(Saprolegnia diclina)のω−3デサチュラーゼについて実証されたものとは対照的である(Pereira,S.L.ら、Biochem.J.、378:665(2004年))。
別の態様では本発明は、配列番号43(すなわち「PiD17」、フィトフトラ・インフェスタンス(Phytophthora infestans)からのω−3デサチュラーゼ(GenBank登録番号CAJ30870))、および配列番号95(すなわち「SdD17」、サプロレグニア・ディクリナ(Saprolegnia diclina)からのΔ17デサチュラーゼ(GenBank登録番号AAR20444))を除く、Δ17デサチュラーゼをコードする核酸配列を含んでなる単離された核酸断片に関し、前記Δ17デサチュラーゼを含んでなるアミノ酸配列は、
a)FTXGHDXGH(Δ17デサチュラーゼモチーフ#1、配列番号96)、
b)HRHHHKNTG(Δ17デサチュラーゼモチーフ#2、配列番号97)、および
c)IGTHQXHHLFP(Δ17デサチュラーゼモチーフ#3、配列番号98)
からなる群から選択されるアミノ酸配列モチーフの少なくとも1つを含有し、Xはあらゆるアミノ酸であることができる。
下線付きアミノ酸は、デサチュラーゼHis Boxモチーフの一部であるヒスチジン残基を表す。His Boxモチーフは、H(X)3H(配列番号99)、H(X)2HH(配列番号100)、およびH/Q(X)2HH(配列番号101)として述べられている。図14は、Clustal V配列比較(デフォルトパラメーター)を使用した、本発明のΔ17デサチュラーゼとその他の公共的に開示されているΔ17デサチュラーゼとの比較を記載する。具体的には配列番号2(PaD17)、配列番号43(PiD17)、配列番号47(PrD17)、配列番号82(PsD17S)、および配列番号95(SdD17)を比較した。本発明のモチーフを含んでなる領域(すなわちそれぞれΔ17デサチュラーゼモチーフ#1、Δ17デサチュラーゼモチーフ#2、およびΔ17デサチュラーゼモチーフ#3)を枠内に示す。
相同体の同定および単離
配列分析ソフトウェアを使用して、本デサチュラーゼ配列(すなわちPaD17、PaD17*、PaD17S)またはその部分(すなわちΔ17デサチュラーゼモチーフ#1、Δ17デサチュラーゼモチーフ#2、および/またはΔ17デサチュラーゼモチーフ#3)のいずれかを使用して、同一または別の細菌、藻類、真菌、卵菌綱または植物種中で、Δ17デサチュラーゼ相同体を検索してよい。一般には、このようなコンピューターソフトウェアは、様々な置換、欠失、およびその他の改変に相同性の程度を割り当てて同様の配列をマッチする。
代案としてはΔ17デサチュラーゼ相同体の同定のために、本デサチュラーゼ配列またはその部分のいずれかをハイブリダイゼーション試薬として用いてもよい。核酸ハイブリダイゼーション試験の基本的構成要素には、プローブ、対象とする遺伝子または遺伝子断片を含有することが疑われるサンプル、および特定のハイブリダイゼーション法が含まれる。本発明のプローブは、典型的に、検出される核酸配列に相補的な一本鎖核酸配列である。プローブは、検出される核酸配列と「ハイブリダイズ可能」である。プローブの長さは、5個の塩基から数万個の塩基の間で変動してもよいが、典型的に約15個の塩基から約30個の塩基のプローブ長が適切である。プローブ分子の一部のみが、検出される核酸配列に相補的であればよい。さらにプローブと標的配列との間の相補性は完璧でなくてもよい。ハイブリダイゼーションは不完全に相補的な分子間でも生じ、その結果、ハイブリダイズした領域の特定塩基の一部は、適切な相補的塩基と対合形成しない。
ハイブリダイゼーション法については、良く定義されている。典型的には、プローブおよびサンプルは、核酸ハイブリダイゼーションを可能にする条件下で混合されなくてはならない。これは適切な濃度および温度条件下において、無機または有機塩存在下で、プローブとサンプルを接触させることを伴う。プローブとサンプル核酸の間であらゆる可能なハイブリダイゼーションが起きるように、プローブおよびサンプル核酸は、十分長い時間接触しなくてはならない。混合物中のプローブまたは標的濃度が、ハイブリダイゼーションが生じるのに必要な時間を決定する。プローブまたは標的濃度が高いほど、必要なハイブリダイゼーションインキュベーション時間は短くなる。場合により、カオトロピック剤を添加してもよい(塩化グアニジニウム、グアニジニウムチオシアネート、ナトリウムチオシアネート、テトラクロロ酢酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、テトラクロロ酢酸ルビジウム、ヨウ化カリウム、およびトリフルオロ酢酸セシウム)。所望するならば、ハイブリダイゼーション混合物にホルムアミドを典型的に30〜50%(v/v)添加できる。
様々なハイブリダイゼーション溶液を用いることができる。それらは典型的に約20〜60容量%、好ましくは30容量%の極性有機溶剤からなる。一般的なハイブリダイゼーション溶液は、約30〜50%v/vのホルムアミドと、約0.15〜1Mの塩化ナトリウムと、(例えばクエン酸ナトリウム、トリス−HCl、PIPESまたはHEPES(pH範囲約6〜9)などの)約0.05〜0.1Mの緩衝液と、(例えばドデシル硫酸ナトリウムなどの)約0.05〜0.2%の洗剤、または0.5〜20mMのEDTA、ファーマシア(Pharmacia Inc.)からのFICOLL(約300〜500kdal)、ポリビニルピロリドン(約250〜500kdal)、および血清アルブミンを用いる。また典型的なハイブリダイゼーション溶液には、約0.1〜5mg/mLの非標識の担体核酸、(例えば仔ウシ胸腺またはサケ精子DNA、または酵母菌RNAなどの)核酸DNA断片、および場合により約0.5〜2%重量/体積のグリシンも含まれる。様々な(例えばポリエチレングリコールなどの)極性水溶性または水性膨張剤、(例えばポリアクリレートまたはポリメチルアクリレートなどの)陰イオンポリマー、(例えば硫酸デキストランなどの)陰イオン糖類ポリマーをはじめとする体積排除剤などのその他の添加剤を含めてもよい。
核酸ハイブリダイゼーションは多様なアッセイ型式に適合できる。最も適切なもの1つは、サンドイッチアッセイ型式である。サンドイッチアッセイは、特に非変性条件下でのハイブリダイゼーションに適合できる。サンドイッチタイプのアッセイの主要構成要素は、固体担体である。固体担体は、未標識で配列の一部と相補的である固定化核酸プローブをそれに吸着し、またはそれと共有結合する。
さらに別の実施態様では、ここで述べられるΔ17デサチュラーゼ核酸断片(または同定されたそのあらゆる相同体)のいずれかを使用して、同一または別の細菌、藻類、真菌、卵菌綱または植物種から、相同的なタンパク質をコードする遺伝子を単離してもよい。配列依存プロトコルを使用した相同的遺伝子の単離は、当該技術分野で周知である。配列依存プロトコルの例としては以下が挙げられるが、これに限定されるものではない。1.)核酸ハイブリダイゼーション法、2.)核酸増幅技術の様々な使用で例示されるようなDNAおよびRNA増幅法[例えばMullisらに付与された米国特許第4,683,202号明細書のポリメラーゼ連鎖反)(PCR);Tabor,S.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、82、1074(1985年)のリガーゼ連鎖反応(LCR);または(Walkerら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、89、392(1992年)の連鎖置換増幅(SDA)]、および3.)相補性によるライブラリー構築およびスクリーニング法。
例えば本明細書で述べられるΔ17デサチュラーゼに類似したタンパク質またはポリペプチドをコードする遺伝子は、当業者によく知られている方法を使用して、本核酸断片の全てまたは一部をDNAハイブリダイゼーションプローブとして使用して、あらゆる所望の酵母菌または卵菌からライブラリーをスクリーニングして直接単離できる(EPA[またはその誘導体]を産生する酵母または真菌が好ましい)。本核酸配列に基づく特異的オリゴヌクレオチドプローブは、技術分野で既知の方法によってデザインおよび合成できる(Maniatis、前出)。さらに当業者に既知の方法(例えばランダムプライマーDNA標識、ニック翻訳または末端標識技術)によって、配列全体を直接使用してDNAプローブを合成でき、または利用できる生体外転写システムを使用してRNAプローブを合成できる。さらに特異的プライマーをデザインして使用し、本配列の一部(または全長)を増幅できる。得られた増幅生成物を増幅反応中に直接標識し、または増幅反応後に標識して、適切なストリンジェンシー条件下でプローブとして使用し、完全長DNA断片を単離できる。
典型的にPCR−タイプ増幅技術では、プライマーは異なる配列を有し、互いに相補的でない。所望の試験条件次第で、プライマーの配列は、標的核酸の効率的かつ忠実な複製を提供するようにデザインされるべきである。PCRプライマーデザインの方法は当該技術分野で一般的であり、よく知られている。(K.E.Davis編、「Human Genetic Diseases:A Practical Approach」よりTheinおよびWallace、「The use of oligonucleotide as specific hybridization probes in the Diagnosis of Genetic Disorders」(1986年)33〜50、IRL:Herndon,VA;およびWhite,B.A.編、「Methods in Molecular Biology」よりRychlik,W.、「PCR Protocols:Current Methods and Applications」(1993年)第15巻、31〜39、Humana:Totowa,NJ)。
一般に本デサチュラーゼ配列の2本の短い断片をPCRプロトコルで使用して、DNAまたはRNAからの相同遺伝子をコードするより長い核酸断片を増幅してもよい。またクローンされた核酸断片ライブラリーに対して、1つのプライマーの配列が本核酸断片に由来し、別のプライマーの配列が真核生物の遺伝子をコードするmRNA前駆物質の3’末端のポリアデニル酸トラクトの存在を利用する、PCRを実施してもよい。
代案としては第2のプライマー配列は、クローニングベクターに由来する配列に基づいてもよい。例えば当業者は、RACEプロトコル(Frohmanら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、85:8998(1988年))に従って、PCRを使用して転写物の一点と3’または5’末端との間の領域のコピーを増幅し、cDNAを作り出すことができる。3’および5’方向を向いたプライマーは、本配列からデザインできる。Gibco/BRL(Gaithersburg,MD)から市販される3’RACEまたは5’RACEシステムを使用して、特定の3’または5’cDNA断片を単離できる(Oharaら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、86:5673(1989年);Lohら、Science 243:217(1989年))。
別の実施態様では、新しい改善された脂肪酸デサチュラーゼを作り出すために、ここで述べられるいずれのΔ17デサチュラーゼ核酸断片(または同定されるそのいずれの相同体)を使用してもよい。当該技術分野でよく知られているように、生体外変異誘発および選択、化学的突然変異誘発、「遺伝子シャフリング」法またはその他の手段を使用して、天然のデサチュラーゼ遺伝子の突然変異を得ることができる。代案としては改善された脂肪酸がドメイン交換によって合成されてもよく、そこではここで述べられるΔ17デサチュラーゼ核酸断片のいずれかからの機能性ドメインが代案のデサチュラーゼ遺伝子中の機能性ドメインと交換され、それによって新しいタンパク質がもたらされる。
様々なω−3および/またはω−6脂肪酸の生成方法
ここで述べられるΔ17デサチュラーゼをコードするキメラ遺伝子(すなわちPaD17、PaD17*、PaD17Sまたはその他の突然変異酵素、コドン最適化酵素またはその相同体)の導入は、適切なプロモーター制御下において、形質転換された宿主生物体中でそれぞれEPAの生成増大をもたらすことが期待される。したがって本発明は、基質が所望の脂肪酸生成物(すなわちEPA)に転換されるように、脂肪酸基質(すなわちARA)をここで述べられるデサチュラーゼ(例えばPaD17、PaD17*、PaD17S)に曝す工程を含んでなる、PUFAの直接的生成方法を包含する。
より具体的には、本発明の目的は、以下をを含んでなる宿主細胞(例えば油性酵母)中でEPAを製造する方法を提供することである。
a.)クラスタルダブル(Clustal W)を用いたアライメント法に基づいて配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドと比較すると、少なくとも75.3%の同一性を有するΔ17デサチュラーゼポリペプチドをコードする単離されたヌクレオチド分子、および
b)ARA源、
c.)Δ17デサチュラーゼポリペプチドをコードする核酸分子が発現してARAがEPAに変換される条件下で、工程(a)の宿主細胞を成長させる工程と、
d.)場合により工程(c)のEPAを回収する工程。
当業者は、Δ17デサチュラーゼの広範な基質範囲が、DGLAからETAへの変換のための酵素の使用を可能にすることを認識するであろう。したがって本発明は、以下を含んでなる宿主細胞中でETAを生成する方法を提供する。
a.)クラスタルダブル(Clustal W)を用いたアライメント法に基づいて配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドと比較すると、少なくとも75.3%の同一性を有するΔ17デサチュラーゼポリペプチドをコードする単離されたヌクレオチド分子、および
b.)DGLA源、
c.)Δ17デサチュラーゼポリペプチドをコードする核酸分子が発現して、DGLAがETAに変換される条件下で、工程(a)の宿主細胞を成長させる工程と、
d.)場合により工程(c)のETAを回収する工程。
代案の実施態様では、ピシウム・アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)Δ17デサチュラーゼの二機能性に基づいて、
a.)クラスタルダブル(Clustal W)を用いたアライメント法に基づいて配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドと比較すると、少なくとも75.3%の同一性を有する二機能性Δ17デサチュラーゼポリペプチドをコードする単離されたヌクレオチド分子、および
b.)リノール酸およびエイコサジエン酸からなる群から選択される脂肪酸起源
を含んでなる宿主細胞(例えば油性酵母)中で多価不飽和脂肪酸を生成する方法を提供することが本発明の目的であり、
二機能性Δ17デサチュラーゼポリペプチドをコードする核酸分子が発現して、リノール酸がα−リノレン酸に変換されてエイコサジエン酸がエイコサトリエン酸に変換される条件下で宿主細胞を成長させ、次に場合により前記脂肪酸が回収される。
上述の方法のいずれかで、基質供給が必要とされるかもしれない。
代案としては、ここで述べられるΔ17デサチュラーゼ遺伝子およびその対応する酵素生成物を、ω−3脂肪酸を生成するために間接的に使用できる(国際公開第2004/101757号パンフレットおよび国際公開第2006/052870号パンフレット参照)。ω−3/ω−6PUFAの間接的生成は、中間工程または経路中間体の手段を通じて、脂肪酸基質が所望の脂肪酸生成物に間接的に転換する場合に起きる。したがってここで述べられるΔ17デサチュラーゼ(例えばPaD17、PaD17*、PaD17Sまたはその他の突然変異酵素、コドン最適化酵素またはそれらの相同体)をPUFA生合成経路の酵素(例えばΔ6デサチュラーゼ、C18/20エロンガーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ15デサチュラーゼ、Δ9デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼ、C14/16エロンガーゼ、C16/18エロンガーゼ、Δ9エロンガーゼ、Δ8デサチュラーゼ、Δ4デサチュラーゼ、C20/22エロンガーゼ)をコードする追加的遺伝子と併せて発現して、より高いレベルのより鎖長の長いω−3脂肪酸(例えばEPA、DPA、およびDHA)の生成をもたらしてもよいことが考察された。特定発現カセット内に含まれる特定遺伝子は、宿主細胞(およびそのPUFAプロフィールおよび/またはデサチュラーゼ/エロンガーゼプロフィール)、基質可用性、および所望最終産物に左右される。
代案の実施態様では、ここで述べられる完全な配列、これらの完全な配列の相補体、これらの配列のかなりの部分、それに由来するコドン最適化デサチュラーゼ、およびそれらと実質的に相同的な配列に基づいて、宿主生物の天然Δ17デサチュラーゼを中断することが有用かもしれない。例えば宿主生物における標的を定めたΔ17デサチュラーゼ(そして場合によりΔ15デサチュラーゼ)の中断は、ω−3脂肪酸を合成する能力低下を有する突然変異株を生じる。この突然変異株は、「純粋な」ω−6脂肪酸(ω−3脂肪酸の同時合成なし)を生成するために有用であるかもしれない。
発現システム、カセット、およびベクター
本明細書で述べられる本配列の遺伝子および遺伝子生成物は、異種の宿主細胞の細胞中で発現されてもよい。組み換え宿主中での発現は、様々なPUFA経路中間体を生成するために、または宿主を使用して従来可能でなかった新しい生成物を合成するのに宿主に既存のPUFA経路を調節するために有用かもしれない。
外来タンパク質の高レベル発現を導く制御配列を含有する、発現システムおよび発現ベクターは、当業者によく知られている。これらのいずれも本配列の遺伝子生成物のいずれかを生成するためのキメラ遺伝子を構築するのに使用できる。次に形質転換を通じてこれらのキメラ遺伝子を適切な宿主細胞に導入して、コードされた酵素の高レベル発現を提供できる。
適切な宿主細胞の形質転換に有用なベクターまたはDNAカセットは、当該技術分野でよく知られている。コンストラクト中に存在する配列の特定の選択は、所望の発現生成物(上述)、宿主細胞の性質、および提案される形質転換細胞と非形質転換細胞とを分離する手段に左右される。しかし典型的にベクターまたはカセットは、関連遺伝子の転写および翻訳を導く配列、選択性標識、および自律性複製または染色体組み込みを可能にする配列を含有する。適切なベクターは、転写開始を制御する遺伝子の5’領域(例えばプロモーター)、および転写終結を制御するDNA断片の3’領域(すなわちターミネーター)を含んでなる。双方の制御領域が形質転換された宿主細胞の遺伝子由来であることが最も好ましいが、このような制御領域は、必ずしも生成宿主として選択された特定種に天然の遺伝子に由来しなくてよいものと理解される。
所望の宿主細胞中で、本Δ17デサチュラーゼORFの発現を推進するのに有用な開始制御領域またはプロモーターは多数あり、当業者にはなじみが深い。選択された宿主細胞中でこれらの遺伝子の発現を導くことができる、実質的にあらゆるプロモーターが本発明に適する。宿主細胞中での発現は、一時的または安定様式で達成できる。一時的発現は、対象とする遺伝子に作動的に結合された、調節可能プロモーターの活性を誘導することで達成できる。安定発現は、対象とする遺伝子に作動的に結合された構成的プロモーターの使用によって達成できる。一例として宿主細胞が酵母菌の場合、酵母菌細胞中で機能する転写および翻訳領域は、特に宿主種から提供される(例えばヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中で使用するための好ましい転写開始調節領域については、国際公開第2006/052870号パンフレット[米国特許出願公開第2006−0115881−A1号明細書]を参照されたい)。構成的または誘導的転写が所望されるかどうか、対象とするORFを発現する上でのプロモーター効率、構築の容易さなど次第で、いくつかの調節配列のいずれか1つを使用できる。
終結領域は、それから開始領域が得られた遺伝子の3’領域に、または異なる遺伝子に由来することができる。多数の終結領域が知られており、(それらが由来するのと同一および異なる属および種の双方で使用した際に)多様な宿主において満足に機能する。終結領域は、通常特定の特性のためと言うよりも便宜的に選択される。終結制御領域もまた、好ましい宿主に天然の様々な遺伝子に由来してもよい。場合により終結部位は不必要かもしれないが、含まれることが最も好ましい。
当業者は認識しているように、遺伝子をクローニングベクターに単に挿入するだけでは、それが必要なレベルで成功裏に発現することは確証されない。高発現率の必要性に答えて、転写、翻訳、タンパク質安定性、酸素限界、および宿主細胞からの分泌の側面を制御するいくつかの異なる遺伝的要素を操作することで、多くの特殊化した発現ベクターが作り出されている。より具体的には、遺伝子発現を制御するように操作される分子の特徴のいくつかとして以下が挙げられる。1.)関連転写プロモーターおよびターミネーター配列の性質、2.)クローンされる遺伝子のコピー数、および遺伝子がプラスミド上にあるかまたは宿主細胞のゲノム内に組み込まれるかどうか、3.)合成された外来タンパク質の最終的細胞内位置、4.)宿主生物体中の翻訳効率およびタンパク質の正しい折りたたみ、5.)宿主細胞内のmRNAおよびクローン遺伝子タンパク質の本質的な安定性、および6.)頻度が宿主細胞の好むコドン使用頻度に近づくようなクローン遺伝子内のコドン使用。これらの各タイプの改変は、ここで述べられるΔ17デサチュラーゼの発現をさらに最適化する手段として、本発明中に包含される。
宿主細胞の形質転換
適切な宿主細胞中での発現に適したポリペプチドをコードするDNAがひとたび得られたら、それを宿主細胞中で自律複製できるプラスミドベクターに入れ、またはそれを宿主細胞のゲノムに直接組み込む。発現カセットの組み込みは、宿主ゲノム中で無作為に起きることができ、または宿主遺伝子座での遺伝子組み換えを標的とするのに十分な宿主ゲノムとの相同性領域を含有するコンストラクトの使用を通じて、標的を定めることができる。コンストラクトが内在性遺伝子座に標的を定めれば、全てまたはいくつかの転写および翻訳調節領域を内在性遺伝子座によって提供できる。
別々の複製ベクターから2つ以上の遺伝子が発現する場合、各ベクターは異なる選択手段を有することが望ましく、他のコンストラクトに対する相同性を欠いて、安定した発現を維持し、コンストラクト中の要素の再集合を防止すべきである。調節領域、選択手段、および導入コンストラクト増殖方法の思慮深い選択は、全ての導入された遺伝子が必要なレベルで発現して、所望の生成物の合成を提供するように実験的に判定できる。
対象とする遺伝子を含んでなるコンストラクトは、あらゆる標準的技術によって宿主細胞に導入してもよい。これらの技術としては、形質転換(例えば酢酸リチウム形質転換[Methods in Enzymology、194:186〜187(1991年)])、プロトプラスト融合、微粒子銃衝撃、電気穿孔、マイクロインジェクション、または宿主細胞中に対象とする遺伝子を導入するその他のあらゆる方法が挙げられる。
便宜上、DNA配列(例えば発現カセット)を取り込むように、あらゆる方法によって操作されている宿主細胞を「形質転換された」または「組み換え」とここで称する。形質転換された宿主は、遺伝子がゲノム中に組み込まれるか、増幅されるか、または複数のコピー数を有する染色体外要素上に存在するかどうか次第で、発現コンストラクトの少なくとも1つのコピーを有し、2つ以上を有してもよい。形質転換宿主細胞は、国際公開第2004/101757号パンフレット、国際公開第2005/003310号パンフレットおよび国際公開第2006/052780号パンフレットで述べられるようにして、様々な選択技術によって同定できる。
形質転換に続いて、本Δ17デサチュラーゼ(そして場合により、宿主細胞内で同時発現するその他のPUFA酵素)に適した基質が、宿主によって自然にまたは遺伝子導入的に生成されてもよく、またはそれらは外来性に提供されてもよい。
ω−3および/またはω−6脂肪酸生合成の代謝エンジニアリング
本Δ17デサチュラーゼの配列の知識は、様々な宿主細胞中でのω−3および/またはω−6脂肪酸生合成を操作するために有用であろう。これは直接にPUFA生合成経路内での代謝エンジニアリング、または炭素をPUFA生合成経路に与える経路の追加的操作を必要とするかもしれない。望ましい生化学的経路をアップレギュレートし、望ましくない生化学的経路をダウンレギュレートするのに有用な方法は、当業者にはよく知られている。例えばエネルギーまたは炭素についてω−3および/またはω−6脂肪酸生合成経路と競合する生化学的経路、または特定のPUFA最終産物の生成を妨げる天然PUFA生合成経路酵素を遺伝子中断によって排除し、またはその他の手段(例えばアンチセンスmRNAおよびジンクフィンガー標的技術)によってダウンレギュレートしてもよい。
ARA、EPAまたはDHAを増大させる手段としてのPUFA生合成経路内の操作の詳細な考察(およびその関連技術)は、国際公開第2006/055322号パンフレット[米国特許出願公開第2006−0094092−A1号明細書]、国際公開第2006/052870号パンフレット[米国特許出願公開第2006−0115881−A1号明細書]、および国際公開第2006/052871号パンフレット[米国特許出願公開第2006−0110806−A1号明細書]でそれぞれ示され、TAG生合成経路およびTAG分解経路中の望ましい操作(およびその関連技術)についても同様である。
Δ17デサチュラーゼの組み換え発現のための好ましい宿主
本遺伝子および核酸断片の発現のための宿主細胞としては、広範な温度およびpHで、単純または複合糖質、脂肪酸,有機酸、油、およびアルコール、および/または炭化水素をはじめとする多様な原材料上で生育する宿主が挙げられる。出願人らの譲受人のニーズに基づいて、本発明で述べられる遺伝子は、油性酵母菌(および特にヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica))中での発現のために単離された。しかし転写、翻訳、およびタンパク質生合成器官は高度に保存されているので、あらゆる植物、細菌、酵母菌、藻類、卵菌および/または糸状菌が、本核酸断片の発現のための適切な宿主になることが考察される。
好ましい宿主は、油性酵母菌などの油性生物体である。これらの油性生物体は自然に油の合成および蓄積ができ、油は細胞乾燥重量の約25%を超え、より好ましくは細胞乾燥重量の約30%を超え、最も好ましくは細胞乾燥重量の約40%を超える量を構成できる。油性酵母菌として典型的に同定されている属としては、ヤロウィア(Yarrowia)、カンジダ(Candida)、ロドトルラ(Rhodotorula)、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)、クリプトコッカス(Cryptococcus)、トリコスポロン(Trichosporon)、およびリポマイセス(Lipomyces)が挙げられるが、これに限定されるものではない。より具体的には、例証的な油合成酵母菌としては、ロドスポリジウム・トルイデス(Rhodosporidium toruloides)、リポマイセス・スターケイ(Lipomyces starkeyii)、L.リポフェラス(L.lipoferus)、カンジダ・レブカウフィ(Candida revkaufi)、C.プルケリマ(C.pulcherrima)、C.トロピカリス(C.tropicalis)、C.ユチリス(C.utilis)、トリコスポロン・プランス(Trichosporon pullans)、T.クタネウム(T.cutaneum)、ロドトルラ・グルティナス(Rhodotorula glutinus)、R.グラミニス(R.graminis)、およびヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)(以前はカンジダ・リポリティカ(Candida lipolytica)として分類されていた)が挙げられる。
最も好ましいのは油性酵母菌ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)であり、さらなる実施態様で最も好ましいのは、ATCC#76982、ATCC#20362、ATCC#8862、ATCC#18944、および/またはLGAMS(7)1と称されるY.リポリティカ(lipolytica)株である(Papanikolaou S.、およびAggelis G.、Bioresour.Technol.82(1):43〜9(2002年))。
Y.リポリティカ(lipolytica)におけるEPAおよびDHAのエンジニアリングのために適用できる特定の教示は、それぞれ米国特許出願第11/265761号明細書(国際公開第2006/052870号パンフレット、米国特許出願公開第2006−0115881−A1号明細書)および米国特許出願第11/264737号明細書(国際公開第2006/052871号パンフレット、米国特許出願公開第2006−0110806−A1号明細書)で提供される。油性酵母(すなわちヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica))中でのΔ17デサチュラーゼを含んでなる発現ベクターの合成および形質転換のための詳細な手段は、国際公開第2004/101757号パンフレットおよび国際公開第2006/052870号パンフレットで提供される。この酵母中で遺伝子を発現する好ましい方法は、宿主のゲノム中への線状DNAの組み込みによる。ゲノム中の複数位置への組み込みは、遺伝子の高レベル発現が所望される場合に特に有用であることができる[例えばUra3遺伝子座(GenBank登録番号AJ306421)、Leu2遺伝子遺伝子座(GenBank登録番号AF260230)、Lys5遺伝子遺伝子座(GenBank登録番号M34929)、Aco2遺伝子遺伝子座(GenBank登録番号AJ001300)、Pox3遺伝子遺伝子座(Pox3:GenBank登録番号XP_503244;またはAco3:GenBank登録番号AJ001301)、Δ12デサチュラーゼ遺伝子遺伝子座(国際公開第2004/104167号パンフレット)、Lip1遺伝子遺伝子座(GenBank登録番号Z50020)および/またはLip2遺伝子遺伝子座(GenBank登録番号AJ012632)中への]。
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)において使用される好ましい選択方法は、カナマイシン、ハイグロマイシン、およびアミノグリコシドG418に対する抵抗性、ならびにウラシル、ロイシン、リジン、トリプトファンまたはヒスチジンを欠く培地に生育する能力である。代案の実施態様では、5−フルオロオロト酸(5−フルオロウラシル−6−カルボン酸一水和物、「5−FOA」)が、酵母Ura−突然変異体の選択のために使用される。化合物はオロチジン5’−一リン酸デカルボキシラーゼ(OMPデカルボキシラーゼ)をコードする機能性URA3遺伝子を有する酵母細胞に対して有毒である。したがってこの毒性に基づいて、5−FOAはUra−突然変異酵母株の選択および同定のために特に有用である(Bartel,P.L.およびFields,S.、「Yeast 2−Hybrid System」、Oxford University:New York、第7巻、109〜147、1997年)。
その他の好ましい微生物宿主としては、油性の細菌、藻類、卵菌綱、およびその他の真菌が挙げられ、この幅広い微生物宿主郡中で特に興味深いのはω−3/ω−6脂肪酸(または、この目的のために遺伝子操作可能なもの[例えば、サッカロミセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)などの他の酵母])を合成する微生物である。したがって例えば誘導性プロモーターまたは調節プロモーター制御下にある本Δ17デサチュラーゼ遺伝子のいずれかによる、(商業的にARAの生成のために使用される)モルティエラ・アルピナ(Mortierella alpina)の形質転換は、さらに多量のEPAを合成できる形質転換生物を生じるかもしれない。M.アルピナ(alpina)の形質転換法については、Mackenzieら、Appl.Environ.Microbiol.、66:4655(2000年)で述べられている。同様にヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)微生物の形質転換法について米国特許第7,001,772号明細書で開示されている。
ここで述べられるΔ17デサチュラーゼの発現のために、どの特定の宿主が選択されようとも、所望の発現レベルおよびパターンを示す株を得るためには、複数の形質転換体をスクリーンするのが望ましい。このようなスクリーニングは、DNAブロットのサザン分析(Southern、J.Mol.Biol.、98:503(1975年))、mRNA発現のノーザン分析(Kroczek、J.Chromatogr.Biomed.Appl.、618(1〜2):133〜145(1993年))、タンパク質発現のウエスタンおよび/またはエライサ分析、PUFA生成物の表現型分析またはGC分析を伴ってもよい。
ω脂肪酸生成のための発酵過程
形質転換された宿主細胞は、キメラデサチュラーゼ遺伝子の発現を最適化する条件下で生育させて、最大かつ最も経済的な所望のPUFA収率を生じさせる。一般に、最適化されてもよい培地条件としては、炭素源のタイプおよび量、窒素源のタイプおよび量、炭素−対−窒素比、異なる無機イオンの量、酸素レベル、生育温度、pH、バイオマス生成相の長さ、油蓄積相の長さ、および細胞収穫時間および方法が挙げられる。ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)は、一般に複合培地(例えば酵母菌抽出物−ペプトン−デキストロース液体培地(YPD))で、または生育に必要な構成要素が欠如することで所望の発現カセットの選択を強要する合成最少培地(例えばDIFCO Laboratories(Detroit,MI)からの酵母菌窒素ベース)上で生育させる。
本発明における発酵培地は適切な炭素源を含有しなくてはならない。適切な炭素源については、国際公開第2004/101757号パンフレットで教示されている。本発明で利用される炭素源は多種多様な炭素含有源を包含してもよいことが考察されるが、好ましい炭素源は糖、グリセロール、および/または脂肪酸である。最も好ましいのはグルコースおよび/または10〜22個の炭素を含有する脂肪酸である。
窒素は、無機(例えば(NH4)2SO4)または有機(例えば尿素またはグルタミン酸)源から供給されてもよい。適切な炭素および窒素源に加えて、発酵培地はまた、適切なミネラル、塩、補助因子、緩衝液、ビタミン、および油性宿主の生育と、PUFA生成に必須の酵素的経路の促進とに適した、当業者に既知であるその他の構成要素を含有しなくてはならない。脂質およびPUFAの合成を促進するいくつかの金属イオン(例えばFe+2、Cu+2、Mn+2、Co+2、Zn+2、Mg+2)が注目されている(D.J.KyleおよびR.Colin編、「Ind.Appl.Single Cell Oil」より、Nakahara,T.ら、61〜97(1992年)。
本発明における好ましい増殖培地は、DIFCO Laboratories(Detroit,MI)からの酵母菌窒素ベースなどの一般的な市販の調製培地である。その他の合成または人工増殖培地もまた使用されてもよく、形質転換宿主細胞の生育に適する培地は、微生物学または発酵科学の当業者に知られている。発酵に適したpH範囲は、典型的に約pH4.0〜pH8.0の間であり、pH5.5〜pH7.5が初期生育条件の範囲として好ましい。発酵は好気性または好気性条件下で実施されてもよく、微好気条件が好ましい。
典型的に油性酵母菌細胞中のPUFAの高レベルの蓄積は、代謝状態が生育と脂肪合成/貯蔵との間で「平衡状態」でなくてはならないので、二段階過程を必要とする。したがって最も好ましくは、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)におけるPUFA生成には、二段階発酵過程が必要である。このアプローチについては国際公開第2004/101757号パンフレットで述べられ、様々な適切な発酵過程デザイン(すなわちバッチ、供給バッチ、および連続)および成育中の考察事項についても同様に述べられる。
食材、健康食品、医薬品、および動物飼料で使用するための油
市場は目下ω−3および/またはω−6脂肪酸(特にALA、GLA、ARA、EPA、DPA、およびDHA)を組み込んだ多岐にわたる食物および飼料製品をサポートする。長鎖PUFAを含んでなる本発明の油は、食物および飼料製品中で機能して本調合物の健康上の利点を与えることが考察される。より具体的にはω−3および/またはω−6脂肪酸を含有する本発明の油は、類似食品、飲料、肉製品、穀物製品、ベークド食品、スナック食品、および乳製品をはじめとするが、これに限定されるものではない多様な食物および飼料製品中で使用するのに適する(詳細については米国特許出願公開第2006/0094092号明細書を参照されたい)。
さらに本油を調合物中で使用して、医療栄養物、栄養補助食品、乳児用調製粉乳ならびに医薬品をはじめとするメディカルフードに健康上の利点を与えてもよい。食物加工および食物調合の当業者は、どのように食物または飼料製品に本油の量および組成物を添加してもよいかを理解するであろう。このような量はここで「効果的」量と称され、食物または飼料製品、製品が栄養補給することが意図される食餌またはメディカルフード、または医療栄養物が矯正または治療することが意図される疾患に左右される。
以下の実施例で、本発明をさらに定義する。これらの実施例は、発明の好ましい実施態様を示しながら、あくまで例示のために提供されるものとする。上の考察およびこれらの実施例から、当業者は本発明の必須特性を把握でき、その趣旨と範囲を逸脱することなく、本発明の様々な変更および改変を行って、それを様々な使用法および条件に適合できる。
一般方法
実施例で使用する標準組み換えDNAおよび分子クローニング技術は、当該技術分野でよく知られており、1.)Sambrook,J.、Fritsch,E.F.およびManiatis,T.、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring Harbor,NY(1989年)(Maniatis);2.)T.J.Silhavy、M.L.Bennan、およびL.W.Enquist、「Experiments with Gene Fusions」、Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring Harbor,NY(1984年);および3.)Ausubel,F.M.ら、「Current Protocols in Molecular Biology」、Greene Publishing Assoc.and Wiley−Interscienceによる出版、Hoboken,NJ(1987年)で述べられる。
微生物培養の維持および生育に適した材料および方法は、技術分野でよく知られている。以下の実施例で使用するのに適した技術については、次で述べられている。Phillipp Gerhardt、R.G.E.Murray、Ralph N.Costilow、Eugene W.Nester、Willis A.Wood、Noel R.Krieg、およびG.Briggs Phillips編、「Manual of Methods for General Bacteriology」、American Society for Microbiology、Washington,D.C.(1994年)、またはThomas,D.Brock、「Biotechnology:A Textbook of Industrial Microbiology」、第2版、Sinauer Associates:Sunderland,MA(1989年)。微生物細胞の生育および維持のために使用される全ての試薬制限酵素および材料は、特に断りのない限り、Aldrich Chemicals(Milwaukee,WI)、DIFCO Laboratories(Detroit,MI)、GIBCO/BRL(Gaithersburg,MD)、またはSigma Chemical Company(St.Louis,MO)から得た。大腸菌(E.coli)(XL1−Blue)コンピテント細胞は、Stratagene Company(San Diego,CA)から購入した。大腸菌(E.coli)株は、典型的にルリア・ベルターニ(Luria Bertani)(LB)プレート上で37℃で生育させた。
一般分子クローニングは、標準法に従って実施した(Sambrookら、前出)。DNA配列は、ベクターとインサート特異的プライマーとの組み合わせを使用して、染料ターミネーター技術(米国特許第5,366,860号明細書、欧州特許第272,007号明細書)を使用して、ABI自動シーケンサー上で生成した。遺伝的配列の比較は、DNASTAR Inc.からのDNASTARソフトウェアを使用して達成された。
特に断りのない限り、BLAST(「基礎的局在性配列検索ツール(Basic Local Alignment Search Tool)」Altschul,S.F.ら、J.Mol.Biol.215:403〜410(1993年)およびNucleic Acid Res.25:3389〜3402(1997年))を検索を実施して、BLAST「nr」データベース(全ての非冗長GenBankCDS翻訳、3次元構造ブルックヘブンタンパク質データバンク由来配列、スイスPROTタンパク質配列データベース、EMBLおよびDDBJデータベースを含んでなる)に含まれる配列に対する類似性を有する単離配列を同定した。国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)によって提供されるBLASTNアルゴリズムを使用して、「nr」データベース中に含まれる公的に入手可能なDNA配列との類似性についてクエリー配列を分析した。配列を全ての読み枠で翻訳し、NCBIによって提供されるBLASTXアルゴリズム(Gish,W.およびStates,D.J.、Nature Genetics 3:266〜272(1993年))を使用して、「nr」データベースに含まれる全ての公的に入手できるタンパク質配列との類似性について比較した。クエリー配列がそれに対して最も高い類似性を有する配列を要約するBLAST比較の結果を%同一性、%類似性、および期待値に従って報告する。「%同一性」は、2つのタンパク質間で同一のアミノ酸の百分率として定義される。「%類似性」は、2つのタンパク質間で同一のまたは保存されたアミノ酸の百分率として定義される。「期待値」は、この大きさのデータベース検索で期待される、絶対的に偶然の特定スコアでのマッチ数を明記して、マッチの統計学的有意さを推定する。
略語の意味は以下の通り。「sec」は秒を意味し、「min」は分を意味し、「h」は時間を意味し、「d」は日を意味し、「μL」はマイクロリットルを意味し、「mL」はミリリットルを意味し、「L」はリットルを意味し、「μM」はマイクロモル濃度を意味し、「mM」はミリモル濃度を意味し、「M」はモル濃度を意味し、「mmol」はミリモルを意味し、「μmole」はマイクロモルを意味し、「g」はグラムを意味し、「μg」はマイクログラムを意味し、「ng」はナノグラムを意味し、「U」は単位を意味し、「bp」は塩基対を意味し、「kB」はキロベースを意味する。
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の形質転換および培養
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株ATCC登録番号#20362は、American Type Culture Collection(Rockville, MD)から購入した。Y.リポリティカ(Y.lipolytica)株は、通常YPD寒天(1%酵母菌抽出物、2%バクトペプトン、2%グルコース、2%寒天)上で28℃で生育させた。
Y.リポリティカ(lipolytica)の形質転換は、特に断りのない限りChen,D.C.ら、Appl Microbiol Biotechnol.48(2):232〜235(1997年)の方法に従って実施した。簡単に述べると、ヤロウィア(Yarrowia)をYPDプレート上に画線培養し、30℃でおよそ18時間生育させた。いくつかの大型白金耳を満たす細胞をプレートからこすり取り、平均分子量3350の2.25mLの50%PEG、pH6.0の0.125mLの2M酢酸Li、および0.125mLの2M DTTを含有する1mLの形質転換緩衝液に再懸濁した。次に約500ngの直線化プラスミドDNAを100μLの再懸濁細胞内でインキュベートし、15分間隔でボルテックス混合しながら39℃に1時間保った。細胞を選択培地プレートに蒔いて、30℃に2〜3日間保った。
形質転換体の選択のためには、一般に最少培地(「MM」)を使用した。MMの組成は以下のとおり。DIFCO Laboratories(Detroit,MI)からの硫酸アンモニウムまたはアミノ酸を含まない0.17%酵母菌窒素ベース、2%グルコース、0.1%プロリン、pH6.1。必要に応じてロイシン、リジンおよび/またはウラシルのサプリメントを最終濃度0.01%に添加した(それによってそれぞれ20g/Lの寒天で調製される「MMLeu」、「MMLys」、および「MMU」選択培地を生成した)。
代案としては、次を含んでなる5−フルオロオロチン酸(「FOA」、また5−フルオロウラシル−6−カルボン酸一水和物とも)選択培地上で形質転換体を選択した。DIFCO Laboratoriesからの硫酸アンモニウムまたはアミノ酸を含まない0.17%酵母窒素ベース、2%グルコース、0.1%プロリン、75mg/Lのウラシル、75mg/Lのウリジン、Zymo Research Corp.(Orange,CA)からの900mg/L FOA、および20g/Lの寒天。
最終的に、高グルコース培地(「HGM」)を、油性の状態を促進する手段として、次のように調製した。6.3g/L KH2PO4、27g/L K2HPO4、および80g/L グルコース(pH7.5)。
ここでY4001U1、Y4036U、およびL38と同定された株を作り出すのに使用された方法は、部位特異的リコンビナーゼ系に依存する。簡単に述べると、部位特異的組み換え系は、(1)特徴的なDNA配列[例えば、LoxP]を有する組み換え部位、および(2)2つ以上の組み換え部位が同一DNA分子上の特定の間隔で同一方向を向く場合に、DNA配列と特異的に結合してDNA配列間の組み換え(すなわち切除)を触媒するリコンビナーゼ酵素[例えばCre]、の2つの要素からなる。ここでの目的で、組み換え部位で挟まれた、宿主ゲノムに挿入することが望ましい標的遺伝子(すなわち第1の選択マーカー[すなわちUra3またはLeu2])を含んでなる組み込みコンストラクトを作り出した。形質転換、および形質転換体の選択に続いて、第2の選択マーカー(すなわちLeu2またはスルホニル尿素抵抗性[AHAS])、およびゲノムに導入された部位特異的組み換え部位認識するのに適したリコンビナーゼ(すなわちCre)を持つ複製型プラスミドを導入して、第1の選択マーカーを染色体から切除した。第2のマーカーを持つ形質転換体を選択したら、次に複製型プラスミドを選択の不在下で宿主からキュアリングして、キュアリング株の宿主ゲノムからの第1の選択マーカーの切除をUraまたはLeu原栄養性の喪失によって確認した。これによって第1または第2の選択マーカーのどちらも持たない形質転換体が生成し、したがって第1の選択マーカーを使用した次回の形質転換のためのキュアリング株が入手できた。ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)で使用するための部位特異的リコンビナーゼベースの方法に関する追加的な詳細については、国際公開第2006/052870号パンフレットで述べられている。
pY117(実施例16)で利用された第2の選択マーカー遺伝子は、スルホニル尿素除草剤抵抗性(SUR、国際公開第2006/052870号パンフレットで述べられている)を与える単一アミノ酸変化(W497L)を含有する、天然ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)アセトヒドロキシ酸シンターゼ(AHASまたはアセト乳酸シンターゼ、E.C.4.1.3.18、GenBank登録番号XM_501277)であった。AHASは分枝−鎖アミノ酸の生合成のための経路内の第1の共通の酵素であり、それはスルホニル尿素およびイミダゾリノン除草剤の標的である。
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の脂肪酸分析
脂肪酸分析のために、Bligh,E.G.およびDyer,W.J.、Can.J.Biochem.Physiol.37:911〜917(1959年)で述べられるように、細胞を遠心分離して収集し、脂質を抽出した。ナトリウムメトキシドでの脂質抽出物のエステル交換反応によって、脂肪酸メチルエステルを調製し(Roughan,G.およびNishida,I.、Arch Biochem Biophys.276(1):38〜46(1990年))、引き続きHewlett−Packardからの30m×0.25mm(内径)HP−INNOWAXカラムを装着したHewlett−Packard 6890 GCで分析した。オーブン温度は3.5℃/分で、170℃(25分間保持)から185℃であった。
直接塩基エステル交換のために、ヤロウィア(Yarrowia)培養物(3mL)を収集し、蒸留水で1回洗浄し、スピードバック(Speed−Vac)内で真空下において5〜10分乾燥させた。ナトリウムメトキシド(100μLの1%)をサンプルに添加して、次にサンプルをボルテックスし20分間振盪した。3滴の1M NaClおよび400μLのヘキサンを添加した後、サンプルをボルテックスして遠心分離した。上層を除去して上述のようにGCで分析した。
実施例1
ピシウム・アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)脂質プロフィール、総RNA単離、およびゲノムDNA単離
Lisa Hoffman(E.I.duPont de Nemours,Inc.,Wlimington,DE)からピシウム・アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)株を得た。
麦芽エキス寒天培地(Difco Laboratories,Detroit,MI)上で室温で3日間株を成長させた。細胞をプレートから掻き取って、メタノールに溶解した600μlのナトリウムメトキシドに再懸濁した。サンプルを20分間振盪して、50μlの1M NaClを添加した。混合後、600μlのヘプタンを添加した。サンプルをボルテックスして、エッペンドルフ微量遠心管内で1分間遠心分離した。上層を下層から注意深く分離して、GC分析のためにガラスバイアルに入れた。分析結果を下の表4に示す。脂肪酸は16:0(パルミチン酸)、16:1(パルミトレイン酸)、18:0、18:1(オレイン酸)、18:2、GLA、20:1、20:2、DGLA、ARA、EPA、およびDHAと同定され、それぞれの組成は総脂肪酸の%で表される。
ARAおよびEPAの存在に基づいて、P.アファニデルマタム(aphanidermatum)株は、恐らくΔ5デサチュラーゼ(DGLAをARAに変換できる)およびΔ17デサチュラーゼ(ARAをEPAに変換できる)の双方を有したと結論された。
総RNAおよびゲノムDNAは、トリゾール試薬(Invitrogen,Carlsbad,CA)を使用して、麦芽エキス寒天プレートから掻き取った細胞から単離された。具体的には掻き取った細胞を1mLの水に再懸濁して、エッペンドルフ微量遠心管内で30秒間遠心分離した。細胞ペレットを0.75mLのトリゾール試薬に再懸濁し、0.75mLの0.5mmガラスビーズと混合して、Biospec mini beadbeater(Bartlesville,OK)内で最強設定で3分間均質化した。混合物をエッペンドルフ遠心機内で14,000rpmで30秒間遠心分離して、残骸片およびガラスビーズを除去した。上清を150μlの24:1のクロロホルム:イソアミルアルコール(Invitrogen)で抽出した。上部水相をRNA単離のために、下部有機相をDNA単離のために使用した。
RNA単離のために、水相を0.375mLのイソプロピルアルコールと混合し、室温で5分間インキュベートした。沈殿したRNAを8000rpmおよび4℃で5分間の遠心分離によって収集した。ペレットを0.7mLの80%エタノールで1回洗浄し、風乾した。総RNA(59μg)が得られた(すなわち29.5μg/μlで200μlのサンプル)。
ゲノムDNA単離のために、サンプルの下部有機相を225μlのエタノールと混合して、室温で5分間インキュベートした。次にサンプルをエッペンドルフ遠心機内で5000rpmで2分間遠心分離した。ペレットを0.75mLの0.1Mクエン酸ナトリウム/10%エタノールで2回洗浄した。毎回サンプルを洗浄液中で室温で15分間インキュベートして、エッペンドルフ遠心機内での5000rpmおよび4℃で5分間の遠心分離がそれに続いた。ペレットを風乾して、300μlの8mM NaOHに再溶解した。サンプルのpHを1M HEPESで7.5に調節して、次にQiagen PCR精製キットを用いて、厳密に製造業者のプロトコールで述べられているようにしてさらに精製した。合計7.2μgのP.アファニデルマタム(aphanidermatum)ゲノムDNAが得られた。
実施例2
ピシウム・アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)cDNAの合成
BD−ClontechCreator(商標)Smart(商標)cDNAライブラリーキット(Mississauga,ON,Canada)を使用して、ピシウム・アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)総RNAから二本鎖cDNAを直接に合成した。具体的には、3μlの総RNAサンプル(0.9μg)を1μlのSMART(商標)IVオリゴヌクレオチド(配列番号9)および1μlのCDSIII/3’PCRプライマー(配列番号10)と混合した。混合物を75℃で5分間加熱して、氷上で5分間冷却した。2μlの5×第1ストランド緩衝液、1μlの20mM DTT、1μlのdNTPミックス(各10mMのdATP、dCTP、dGTP、およびdTTP)、および1μlのPowerScript逆転写酵素を混合物に添加した。サンプルを42℃で1時間インキュベートした。
次に得られた第1ストランドcDNA合成混合物をPCR増幅のためのテンプレートとして使用した。反応混合物は、2μlの上記第1ストランドcDNAサンプル、80μlの水、10μlの10×Advantage 2PCR緩衝液、2μlの50×dNTPミックス(各10mMのdATP、dCTP、dGTP、およびdTTP)、2μlの5’PCRプライマー(配列番号11)、2μlのCDSIII/3’PCRプライマー(配列番号10)および2μlの50×Advantage 2ポリメラーゼミックスを含有した。サーモサイクラー条件を95℃で1分間、次に95℃で10秒間および68℃で6分間を20サイクルに設定した。
Qiagen PCR精製キットを用いて製造業者のプロトコールに厳格に従って、増幅生成物を精製した。精製されたcDNA生成物を50μlの水で溶出した。
実施例3
ピシウム・アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)Δ17デサチュラーゼ遺伝子のコード領域の一部の単離
本実施例は、その他の既知のΔ17デサチュラーゼ配列の保存領域に由来するプライマーの使用による、Δ17デサチュラーゼをコードするピシウム・アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)遺伝子(ここで「PaD17」と称する(配列番号1および2))の一部の同定について述べる。
フィトフトラ・ソジャ(Phytophthora sojae)(配列番号45、2007年4月18日出願の米国特許出願第11/787772号明細書、下の実施例11も参照されたい)およびフィトフトラ・ラモルム(Phytophthora ramorum)(配列番号47、2007年4月18日出願の米国特許出願第11/787772号明細書、下の実施例13も参照されたい)のΔ17脂肪酸デサチュラーゼ配列に基づいて、有望なΔ17デサチュラーゼ遺伝子の一部を増幅するようにデザインされた縮重プライマーを使用したPCRのためのテンプレートとして、実施例2からのP.アファニデルマタム(aphanidermatum)cDNAサンプルを使用した。ここで図2として提供される配列比較に基づいて、縮重プライマーを表5に示すように命名した(配列番号45および47に対するプライマーの位置は、図2に点線枠として示す)。
7つの順方向および7つの逆方向プライマーの全ての可能な組み合わせを使用して、合計49の異なるPCR増幅反応を実施した。各反応混合物は、1μlの1:10希釈P.アファニデルマタム(aphanidermatum)cDNA、各5μlの順方向および逆方向プライマー(20μM)、14μlの水、および25μlのTaKaRa ExTaq 2×プレミックス(TaKaRa Bio,Mountain View,CA)を含有した。サーモサイクラー条件を94℃で1分間、次に94℃で20秒間、55℃で20秒間、および72℃で1分間を30サイクルと、それに続く72℃で7分間の最終延長に設定した。PCR産物を標準アガロースゲル上での電気泳動法によって分析し、推定上のΔ17デサチュラーゼ断片が下の表6に示すように検出された。
上の表6で述べられる各断片は、Qiagen PCR精製キット(Valencia,CA)を用いて精製し、pCR2.1−TOPO(Invitrogen)中にクローニングして配列決定した。
BLAST配列分析は、各断片が、その他の生物からの既知のΔ17デサチュラーゼと大きな相同性を示す単一遺伝子からのものであることを示した。P.アファニデルマタム(aphanidermatum)からの推定上のΔ17デサチュラーゼをコードすると想定される614bpコンティグ(配列番号5)中に配列をアセンブルした。
実施例4
ピシウム・アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)からの全長Δ17デサチュラーゼの単離
配列番号5に記載のおよび実施例3で述べられている部分的配列に基づいて、P.アファニデルマタム(aphanidermatum)のcDNAおよびゲノムDNAサンプルから推定上のΔ17デサチュラーゼ遺伝子の5’および3’末端を単離するように、プライマーがデザインされた。
P.アファニデルマタム(aphanidermatum)からの推定上のΔ17デサチュラーゼの5’領域は、Universal GenomeWalker(商標)キット(BD Biosciences)Clonetech,Palo Alto,CA)を使用して、製造業者のプロトコールに従ってゲノム歩行によって単離した。最初にP.アファニデルマタム(aphanidermatum)からのゲノムDNA(消化あたり1μg)をDraI、EcoRV、PvuII、およびStuIで別々に消化した。消化されたDNAサンプルをQiagen酵素反応クリーンアップキットを用いて製造業者のプロトコールに従って精製し、各サンプルを20μlの水で溶出した。
消化されたゲノムDNAサンプルを下図のようにUniversal GenomeWalker(商標)アダプター(配列番号34[上側ストランド]および35[下側ストランド])とライゲートした。
5'-GTAATACGACTCACTATAGGGCACGCGTGGTCGACGGCCCGGGCTGGT-3’
3'-H2N-CCCGACCA-5’
具体的には、各4μlの消化されたDNAを1.9μlの25μM GenomeWalke(商標)アダプター、1.6μlの10×ライゲーション緩衝液、および0.5μlのT4DNAリガーゼと混合した。反応を16℃で一晩実施した。70℃で5分間の加熱後、72μlの10mMトリス、1mMのEDTA、pH7.4緩衝液を各反応混合物に添加した。次にこれらの反応混合物をPCR増幅のためのテンプレートとして使用した。
第1回目のPCRのために、プライマーPUD17−5−1(配列番号36)およびキットからのUniversal GenomeWalker(商標)プライマーAP1(配列番号37)を使用した。反応混合物は、各1μlの10μM プライマー、テンプレートとしての2μlの精製されたライゲーション生成物、21μlの水、および25μlのTaKaRa ExTaq 2×プレミックスを含有した。サーモサイクラー条件を94℃で90秒間、次に94℃で20秒間、55℃で20秒間、および72℃で2分間を30サイクルと、それに続く72℃で5分間の最終延長に設定した。
PCR産物を1:20に希釈して、1μlの希釈されたPCR産物をプライマーPUD17−5−3(配列番号38)およびUniversal GenomeWalker(商標)プライマーAP2(配列番号39)を使用した第2回目のPCRのためのテンプレートとして使用した。PCR構成要素および増幅条件は上述のとおりであった。
第2回目のPCRから約750bpのDNA断片が作り出された。この断片をQiagen PCR精製キットを用いて精製し、pCR2.1−TOPO(Invitrogen)中にクローニングして配列決定した。引き続く配列分析は、この断片が翻訳開始コドンおよび387bpの追加的非翻訳5’配列を含む、推定上のΔ17デサチュラーゼ遺伝子の5’末端を含有することを示した。5’断片(配列番号6)は、サプロレグニア・ディクリナ(Saprolegnia diclina)Δ17デサチュラーゼ(GenBank登録番号AAR20444、配列番号95)と顕著な相同性を有した。
P.アファニデルマタム(aphanidermatum)cDNAをテンプレートとして使用し、PCR増幅によって推定上のΔ17デサチュラーゼの3’領域を単離した。プライマーPUD17−3−1(配列番号40)およびCDSIII/3’PCRプライマー(配列番号10、BD−Clontech Creator(商標)Smart(商標)cDNAライブラリー構築キットから、実施例1参照)を第1回目の増幅のために使用した。反応混合物は、各1μlのプライマー(10μM)、1μlのP.アファニデルマタム(aphanidermatum)cDNA、22μlの水、および25μlのTaKaRa ExTaq2×プレミックスを含有した。サーモサイクラー条件を94℃で90秒間、次に94℃で30秒間、55℃で30秒間、および72℃で30秒間を30サイクルと、それに続く72℃で5分間の最終延長に設定した。
PCR産物を1:20に希釈し、上述のような構成要素および増幅条件を使用して、1μlの希釈生成物をPUD17−3−2(配列番号41)およびCDSIII/3’PCRプライマー(配列番号10)を使用した第2回目のPCRのためのテンプレートとして使用した。第2回目のPCRからは約550bpのDNA断片が作り出された。これをQiagen PCR精製キット用いて精製し、pCR2.1−TOPO中にクローニングして配列決定した。配列分析はこの断片が、ポリAテイルを含む推定上のΔ17デサチュラーゼcDNAの3’−領域を含有したことを示した。3’断片(配列番号7)は、サプロレグニア・ディクリナ(Saprolegnia diclina)Δ17デサチュラーゼ(GenBank登録番号AAR20444、配列番号95)と顕著な相同性を有した。
5’ゲノムの領域(配列番号6)、オリジナルの部分的cDNA配列(配列番号5)、および3’cDNA配列(配列番号7)のアセンブリーは、P.アファニデルマタム(aphanidermatum)からの推定上のΔ17デサチュラーゼの完全な配列、および追加的な非翻訳5’および3’末端を含んでなる1533bpのコンティグ(配列番号8)をもたらした。配列番号1として記載される配列番号8のコード領域は、1080bpの長さであり(配列番号8の塩基388〜1467に対応する)、359個のアミノ酸のペプチド(配列番号2)をコードする。ピシウム・アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)のコード配列は、ここで「PaD17」と称された。
全長PaD17遺伝子(すなわち配列番号1)をクエリー配列として使用したBLAST検索の結果は、それがサプロレグニア・ディクリナ(Saprolegnia diclina)のΔ17デサチュラーゼ(GenBank登録番号AAR20444)のアミノ酸配列と、期待値e−121で58%の同一性および71%類似性を有し、さらにそれがその他のω−3デサチュラーゼとの同一性および類似性を有したことを示した。
同様に、Clustal W分析(DNASTARソフトウェアのMegAlign(商標)プログラム)を使用した、フィトフトラ・インフェスタンス(Phytophthora infestans)(「PiD17」、配列番号43)、フィトフトラ・ソジャ(Phytophthora sojae)(「PsD17」、配列番号45)、フィトフトラ・ラモルム(Phytophthora ramorum)(「PrD17」、配列番号47)、およびピシウム・アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)(「PaD17」、配列番号2)からのΔ17デサチュラーゼタンパク質の間のペアワイズ比較は、PiD17およびPaD17の間で74.5%、PrD17およびPaD17の間で75.0%、およびPsD17およびPaD17の間で75.3%の%類似性をもたらした。
実施例5
ピシウム・アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)Δ17デサチュラーゼ(「PaD17」)を含んでなるヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)発現ベクターの産生
本実施例は、それぞれキメラFBAINm::PaD17*::XPR遺伝子を含んでなるプラスミドpFmD17−1、pFmD17−2、pFmD17−3m、およびpFmD17−4の構築について述べ、PaD17*(配列番号3)は配列番号2に関して2個までの(およびそれを含む)アミノ酸変異を含んでなる。プラスミドpFmD17−1、pFmD17−2、pFmD17−3、およびpFmD17−4は、下の実施例7で述べられているようにPaD17*の機能発現を試験するために利用された。
プラスミドpFmD17−1、pFmD17−2、pFmD17−3、およびpFmD17−4は、プラスミドpFmD8S、PaD17の5’部分、およびPaD17の3’部分からの断片を使用して、三元ライゲーションによって構築された。プラスミドpFmD8S(配列番号51、図3D)は、プラスミドpKUNFmkF2、pDMW287F、およびpDMW214からの断片を使用して、三元ライゲーションによって構築された。
プラスミドpKUNFmkF2
pKUNFmkF2(配列番号48、図3A、国際公開第2006/012326号パンフレット)は、キメラFBAINm::F.D12::Lip2遺伝子(「FBAINmK」はヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)FBAINmプロモーター[国際公開第2005/049805号パンフレット、米国特許第7,202,356号明細書]であり、「F.D12」はフザリウム・モニリフォルメ(Fusarium moniliforme)Δ12デサチュラーゼ[国際公開第2005/047485号パンフレット]であり、「Lip2」はヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Lip2ターミネーター配列(GenBank登録番号AJ012632)である)を含んでなるコンストラクトである。
プラスミドpDMW287F
pDMW287F(配列番号49、図3B、国際公開第2006/012326号パンフレット)は、野生型ミドリムシ(Euglena gracilis)に由来してヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中での発現のためにコドン最適化された合成Δ8デサチュラーゼ(「EgD8S」、ここでの配列番号52)を含んでなるコンストラクトである(図中でEgD8Sは「D8SF」と同定される)。デサチュラーゼ遺伝子は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)FBAINプロモーター(国際公開第2005/049805号パンフレット、米国特許第7,202,356号明細書、図中では「FBA1+イントロン」と同定される)およびヤロウィア(Yarrowia)Pex16遺伝子(GenBank登録番号U75433)のPex16ターミネーター配列で挟まれる。
プラスミドpDMW214
pDMW214(配列番号50、図3C、国際公開第2005/049805号パンフレット、米国特許第7,202,356号明細書)は、大腸菌(E.coli)およびヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)双方の中で複製するシャトルプラスミドである。それは次の構成要素を含有した。
プラスミドpFmD8S
プラスミドpKUNFmkF2のPmeI/NcoI断片(図3A、FBAINmプロモーターを含んでなる)およびプラスミドpDMW287FのNcoI/NotI断片(図3B、合成Δ8デサチュラーゼ遺伝子「EgD8S」を含んでなる)を一方向性に使用して、pDMW214(図3C)のPmeI/NotI断片を置換した。これはキメラFBAINm::EgD8S::XPR遺伝子を含んでなるpFmD8S(配列番号51、図3D)の産生をもたらした。したがってpFmD8Sの構成要素は下の表8で述べられているようである。
プラスミドpFmD17−1、pFmD17−2、pFmD17−3、およびpFmD17−4の産生
P.アファニデルマタム(aphanidermatum)Δ17デサチュラーゼを次を含有する反応混合物によってcDNAから増幅した。1μlの20μM順方向プライマーPUD17−F(配列番号54)、1μlの20μM逆方向プライマーPUD17−R(配列番号55)、1μlのP.アファニデルマタム(aphanidermatum)cDNA、10μlの5×PCR緩衝液、1μlのdNTPミックス(各10μM)、35μlの水、および1μlのPhusionポリメラーゼ(New England Biolabs)。サーモサイクラー条件を98℃で1分間、次に98℃で10秒間、55℃で10秒間、および72℃で30秒間を30サイクルと、それに続く72℃で5分間の最終延長に設定した。
PCR産物をpCR2.1−TOPO(Invitrogen)にクローニングして、8つの個々のクローンを配列決定した。配列結果に基づいて、2つのクローン(すなわちクローン2およびクローン4)を使用して、最終発現プラスミドを構築した。クローン2が配列番号2に関して351AからTへの変異を含有したのに対して、クローン4は配列番号2に関して155SからPへの変異を含有した。したがってそれらは2個の保存的アミノ酸置換について互いに異なり、それらは1個の保存的アミノ酸置換について、配列番号2に記載の野生型cDNAPaD17配列とそれぞれ異なった。
各クローンをNcoIおよびBglIIで消化して、Δ17デサチュラーゼcDNAの5’領域を含有する約370bpの断片を作り出した。各クローンをBglIIおよびNotIでも消化して、cDNAの3’領域を含有する710bpの断片を作り出した。Δ17デサチュラーゼの5’領域を含んでなる約370bpの断片、およびΔ17デサチュラーゼの3’領域を含んでなる710bpの断片を三元ライゲーション反応において、(コドン最適化されたΔ8デサチュラーゼ遺伝子[「EgD8S」]がプラスミドから切除されるように)NcoIおよびNotIで前消化されたpFmD8S中にライゲートした。反応混合物は、10μlの2×ライゲーション緩衝液および1μlのT4DNAリガーゼ(Prω)、各4μlの5’および3’Δ17デサチュラーゼ断片(各約300ng)、および1μlのpFmD8S(約150ng)を含有した。
上の方法を使用して、新たに作り出された発現プラスミドpFmD17−1、pFmD17−2、pFmD17−3、およびpFmD17−4の構成要素は、pFmD17ベクターがpFmD8S中でキメラFBAINm::EgD8S::XPR遺伝子の代わりにキメラFBAINm::PaD17*::XPR遺伝子を有したことを除いて、pFmD8S(配列番号51)について表8で述べられているものと同一である。「PaD17*」の表記法は、配列番号2に関する下の変異に対応する(すなわち実施例4で述べられているようなPaD17のアミノ酸)。null変異、155SからPへの変異、351AからTへの変異、および155SからPへのおよび351AからTへの変異はそれぞれ配列番号3に包含され、下文においてPaD17*と称される。下の表9に示すように、4つの変異型発現プラスミドは、2つのクローンの組み合わせに基づいて次の変異を含有した。
各反応混合物を室温で2時間インキュベートして、大腸菌(E.coli)Top10コンピテント細胞を形質転換するのに使用した。形質転換体からのプラスミドDNAは、Qiagen Miniprepキットを用いて回収した。
実施例6
Δ6デサチュラーゼ/Δ6エロンガーゼ経路を通じて総脂質の約11%ARAを生成するヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y2047株の産生
本実施例は、Δ6デサチュラーゼ/Δ6エロンガーゼ経路の発現を通じて、総脂質に対して11%のARAを生成できる、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC#20362に由来するY2047株の構築について述べる(図4A)。この株を利用して、下の実施例7のPaD17*の機能発現を試験した。
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y2047株はブダペスト条約の条項に従って寄託され、ATCC番号PTA−7186を有する。さらにY2047の構築については、参照によって本明細書に援用する、同時係属米国特許出願第11/265761号明細書(米国特許出願公開第2006−0115881 A1号明細書および国際公開第2006/052870号パンフレット)で述べられている。
Y2047株の発生には、最初にM4株(8%のDGLAを生成する)の構築を必要とする。
総脂質の約8%のDGLAを生成するためのM4株の発生
コンストラクトpKUNF12T6E(図4B;配列番号56)を発生させて4個のキメラ遺伝子(Δ12デサチュラーゼ、Δ6デサチュラーゼ、および2個のC18/20エロンガーゼを含んでなる)を野性型ヤロウィア(Yarrowia)ATCC#20362株のUra3遺伝子座に組み込み、それによってDGLAの生成を可能にした。pKUNF12T6Eプラスミドは、以下の構成要素を含有した。
一般方法に従ってpKUNF12T6EプラスミドをAscI/SphIで消化し、次に野性型Y.リポリティカ(lipolytica)ATCC#20362の形質転換のために使用した。形質転換体細胞をFOA選択培地プレート上に播種し、30℃に2〜3日間保った。FOA抵抗性コロニーを拾って、MMおよびMMU選択プレート上に画線培養した。MMUプレート上に生育できたが、MMプレート上には生育できなかったコロニーをUra−株として選択した。次にUra−株の単一コロニーを30℃の液体MMUに接種して、250rpm/分で2日間振盪した。遠心分離によって細胞を収集し、脂質を抽出してエステル交換により脂肪酸メチルエステルを調製して、引き続いてHewlett−Packard 6890 GCで分析した。
GC分析は、pKUNF12T6Eの4個のキメラ遺伝子を含有する形質転換体中にDGLAの存在を示したが、野性型ヤロウィア(Yarrowia)対照株では示されなかった。選択された32個のUra−株のほとんどが総脂質の約6%のDGLAを生成した。総脂質の約8%のDGLAを生成した2株(すなわちM4株および13−8)があった。
総脂質の約11%ARAを生成するY2047株の発生
コンストラクトpDMW271(図4C;配列番号59)を発生させて、3個のΔ5キメラ遺伝をヤロウィア(Yarrowia)M4株のLeu2遺伝子に組み込んだ。表11で述べられるように、プラスミドpDMW271は以下の構成要素を含有した。
一般方法に従ってプラスミドpDMW271をAscI/SphIで消化し、次にM4株に形質転換した。形質転換に続いて、細胞をMMLeuプレート上に播種し、30℃に2〜3日間保った。MMLeuプレートの上で生育した個々のコロニーを拾って、MMおよびMMLeuプレート上に画線培養した。MMLeuプレート上では生育できたが、MMプレート上では生育できなかったコロニーをLeu2−株として選択した。次にLeu2−株の単一コロニーを30℃の液体MMLeu培地に接種して、250rpm/分で2日間振盪した。遠心分離によって細胞を収集し、脂質を抽出してエステル交換により脂肪酸メチルエステルを調製して、引き続いてHewlett−Packard 6890 GCで分析した。
GC分析はpDMW271形質転換体中のARAの存在を示したが、親M4株中には示されなかった。具体的には、pDMW271がある48個の選択されたLeu2−形質転換体中に、改変されたヤロウィア(Yarrowia)中の総脂質の5%未満のARAを生成した35株、6〜8%のARAを生成した12株、および総脂質の約11%のARAを生成した1株があった。11%のARAを生成した株を「Y2047」と命名した。
実施例7
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y2047株中のピシウム・アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)Δ17デサチュラーゼ(「PaD17*」)の機能解析
本実施例は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y2047株中のPaD17*の機能解析について述べる(実施例6)。したがってPaD17*を含んでなる変異型pFmD17プラスミド(実施例5から)の形質転換に続いて、形質転換生物中の脂質プロフィールを比較した。
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の形質転換
一般方法で述べられているようにして、プラスミドpFmD17−1、pFmD17−2、pFm17−3、およびpFmD17−4(キメラFBAINm::PaD17*::XPR遺伝子を含んでなる)をヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y2047株中に形質転換した。形質転換細胞をウラシルを欠くMMプレート上に播種して、30℃に2〜3日間保った。次に形質転換ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の単一コロニーをウラシルを欠く新鮮なMMプレート上にパッチして、30℃で1日間成長させた。次にパッチを使用して3mLのMM液状媒体に接種した。細胞をMM培地中で2日間、次にHGM培地中で4日間成長させた。細胞を遠心分離によって収集し、脂質を抽出してエステル交換により脂肪酸メチルエステルを調製し、引き続いて一般方法で述べられているようにHewlett−Packard 6890GCを用いて分析した。
表12に示すように、GC分析は、pFmD17−1、pFmD17−2、pFmD17−3、およびpFmD17−4をそれぞれ含んでなる各クローン中でのARAからEPAへの変換を実証した。ARAおよびEPAの組成は、総脂肪酸の%として表す。変換効率(「Conv.Effic.」)は([生成物]/[基質+生成物])*100の式に従って測定され、「生成物」は即時の生成物および経路中のそれに由来する全ての生成物を含む。
PaD17*がARAをEPAに変換する変換効率は18.4〜24.6%の範囲であった。より具体的には実験的データは、ベクターpFmD17−3中に存在したP.アファニデルマタム(aphanidermatum)からのクローニングcDNA(配列番号2、PaD17)がΔ17デサチュラーゼとして機能し、ARAをPAに効率的に不飽和化することを実証した(変換効率は18.4%〜19.52%の範囲)。しかし配列番号2のアミノ酸位置155のSerまたは配列番号2のアミノ酸位置351のAlaのどちらも酵素活性のためには必要でなかった。155SからPへの変異、351AからTへの変異、または双方の変異(それぞれpFmD17−2、pFmD17−1、およびpFmD17−4で表される)を含んでなる、配列番号3によってコードされるPaD17*変異型は全て、pFmD17−3中のPaD17(配列番号2)よりも大きな変換効率を有した。最も高いΔ17デサチュラーゼ変換効率を示した形質転換細胞は、S155からPおよびA351からTへの変異があるPaD17*変異型(配列番号3)を含んでなるベクターpFmD17−4を発現したものであった。
実施例8
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)のためにコドン最適化されたピシウム・アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)のΔ17デサチュラーゼ遺伝子(「PaD17S」)の合成
国際公開第2004/101753号パンフレットおよび米国特許第7,125,672号明細書で述べられているのと同様の方法で、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中での発現のためにピシウム・アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)のΔ17デサチュラーゼ遺伝子(配列番号1および2)のコドン使用頻度を最適化した。具体的にはヤロウィア(Yarrowia)コドン使用頻度パターン(国際公開第2004/101753号パンフレット)、「ATG」翻訳開始コドン周辺の共通配列、およびRNA安定性の原則(Guhaniyogi,G.およびJ.Brewer、Gene、265(1〜2):11〜23(2001年))に従って、PaD17のコード配列に基づいて、ピシウム・アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)のコドン最適化されたΔ17デサチュラーゼ遺伝子(「PaD17S」と称される、配列番号4)をデザインした。翻訳開始部位の修正に加えて、188bpの1080bpコード領域(停止コドンを含む)を改変し(17.4%、図5Aおよび5B)、175コドンを最適化した(48.6%)。GC含量を野性型遺伝子(すなわちPaD17)中の61.8%から合成遺伝子(すなわちPaD17S)中の54.5%に低下させた。NcoI部位およびNotI部位をそれぞれPaD17Sの翻訳開始コドン周辺および停止コドンの後に組み込んだ。コドン最適化された遺伝子中のいずれの修正もコードされたタンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)を変化させなかった。デザインされたPaD17S遺伝子(配列番号4)はGenScript Corporation(Piscataway,NJ)によって合成され、pUC57(GenBank登録番号Y14837)にクローニングされてpPaD17S(配列番号62)が作り出された。
実施例9
Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路を通じて総脂質の約12%のARAを生成するためのヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y4070株の発生
本実施例は、Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路(図6A)の発現を通じて、総脂質に対して約12%のARAを生成できるヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC#20362由来のヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y4070株について述べる。Y4070株を利用して、下記の実施例10のPaD17Sの機能性発現を試験した。
Y4070株の発生には、Y2224株(野生型ヤロウィア(Yarrowia)ATCC#20362株のUra3遺伝子の自律性変異からのFOA抵抗性突然変異体)、Y4001株(Leu−フェノタイプで17%のEDAを生成する)、Y4001U株(Leu−およびUra−フェノタイプで17%のEDAを生成する)、Y4036株(Leu−フェノタイプで18%のDGLAを生成する)、およびY4036U株(Leu−およびUra−フェノタイプで18%のDGLAを生成する)の構築が必要であった。
Y2224株の発生
Y2224株を次の様式で単離した。YPD寒天プレート(1%酵母抽出物、2%バクトペプトン、2%グルコース、2%寒天)からのヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC#20362細胞を250mg/Lの5−FOA(Zymo Research)を含有するMMプレート(各75mg/Lのウラシルおよびウリジン、6.7g/L硫酸アンモニア添加YNB、アミノ酸無添加、および20g/Lグルコース)上に画線培養した。プレートを28℃でインキュベートし、得られたコロニーの内4つを200mg/mL 5−FOA含有MMプレート上、およびウラシルおよびウリジンを欠くMMプレート上に別々にパッチして、ウラシルUra3栄養要求性を確認した。
総脂質の約17%のEDAを生成するY4001株の発生
コンストラクトpZKLeuN−29E3(図6B)の組み込みを通じて、Y4001株を作り出した。4個のキメラ遺伝子(すなわちΔ12デサチュラーゼ、C16/18エロンガーゼ、および2個のΔ9エロンガーゼ)を含んでなるこのコンストラクトをY2224株のLeu2遺伝子座に組み込み、それによってEDAの生成を可能にした。
コンストラクトpZKLeuN−29E3は、表13に示す構成要素を含有した。
一般方法に従って、プラスミドpZKLeuN−29E3をAscI/SphIで消化し、次にY.リポリティカ(lipolytica)Y2224株(すなわちATCC#20362Ura3−)の形質転換のために使用した。形質転換体細胞をMMLeu培地プレート上に播種して30℃に2〜3日間保った。コロニーを拾って、MMおよびMMLeu選択プレート上に画線培養した。MMLeuプレート上では生育できたが、MMプレートでは生育できなかったコロニーをLeu−株として選択した。次にLeu−株の単一コロニーを30℃の液体MMLeuに接種して、250rpm/分で2日間振盪した。遠心分離によって細胞を収集し、脂質を抽出してエステル交換により脂肪酸メチルエステルを調製して、引き続いてHewlett−Packard 6890 GCで分析した。
GC分析は、pZKLeuN−29E3の4個のキメラ遺伝子を含有する形質転換体中のEDAの存在を示したが、ヤロウィア(Yarrowia)Y2224対照株中には示されなかった。選択された36個のLeu−株のほとんどは総脂質の約12〜16.9%のEDAを生成した。総脂質の約17.4%、17%、および17.5%のEDAを生成した3株(すなわち株#11、#30、および#34)があり、それらをそれぞれY4001、Y4002、およびY4003株と称した。
総脂質の約17%EDAを生成するためのY4001U株(Leu−、Ura−)の発生
Y4001株において、プラスミドpY116中でのCreリコンビナーゼ酵素の一時的な発現を通じてY4001U株を作り出し(図6C)、Leu−およびUra−フェノタイプを生成した。コンストラクトpY116は次の構成要素を含有した。
一般方法に従って、新鮮に生育させたY4001細胞の形質転換のためにプラスミドpY116を使用した。形質転換体を280μg/mLスルホニル尿素を含有するMMLeu+Uraプレート(ロイシン添加MMU)上に播種して、30℃に3〜4日間保った。4個のコロニーを拾って30℃の3mLの液体YPD培地に接種し、250rpm/分で1日間振盪した。培養を液体MMLeu+Ura培地で1:50,000に希釈し、100μLを新しいYPDプレート上に播種して30℃に2日間保った。コロニーを拾ってMMLeuおよびMMLeu+Ura選択プレート上に画線培養した。MMLeu+Uraプレート上では生育できたが、MMLeuプレートでは生育できなかったコロニーを選択し、GCによって分析してC20:2(EDA)の存在を確認した。Leu−およびUra−フェノタイプを有する1株は総脂質の約17%のEDAを生成し、Y4001Uと称された。
総脂質の約18%のDGLAを生成するためのY4036株の発生
コンストラクトpKO2UF8289(図7A;配列番号70)を発生させて、4個のキメラ遺伝子(1個のΔ12デサチュラーゼ、1個のΔ9エロンガーゼ、および2個の突然変異Δ8デサチュラーゼを含んでなる)をY4001U1株のΔ12遺伝子座に組み込み、それによってDGLAの生成を可能にした。コンストラクトpKO2UF8289は以下の構成要素を含有した。
一般方法に従って、pKO2UF8289プラスミドをAscI/SphIで消化し、次にY4001U1株の形質転換のために使用した。形質転換体をMMLeuプレート上に播種し、30℃に2〜3日間保った。コロニーを拾ってMMLeu選択プレート上において30℃で2日間画線培養した。次にこれらの細胞を30℃の液体MMLeuに接種して、250rpm/分で2日間振盪した。遠心分離によって細胞を収集し、脂質を抽出してエステル交換により脂肪酸メチルエステルを調製して、引き続いてHewlett−Packard 6890 GCで分析した。
GC分析は、pKO2UF8289の4キメラ遺伝子を含有する形質転換体中のDGLAの存在を示したが、親Y4001U1株中には示さなかった。選択された96株のほとんどは、総脂質の7〜13%のDGLAを生成した。総脂質の約15%、13.8%、18.2%、13.1%、15.6%、および13.9%のDGLAを生成した6株(すなわち#32、#42、#60、#68、#72、および#94)があった。これらの6株をそれぞれY4034、Y4035、Y4036、Y4037、Y4038、およびY4039と称した。
総脂質の約18%のDGLAを生成するためのY4036U株(Leu−、Ura3−)の発生
コンストラクトpY116(図6C;配列番号69)を利用して、Y4036株中で一時的にCreリコンビナーゼ酵素を発現した。これはゲノムからLoxPに挟まれたUra3遺伝子を放出した。
一般方法に従って、プラスミドpY116を使用してY4036株を形質転換した。形質転換に続いて細胞をMMLeu+Uraプレート(ロイシン添加MMU)上に播種し、30℃に2〜3日間保った。MLeu+Uraプレート上で生育した個々のコロニーを拾ってYPD液体培地に画線培養し、30℃および250rpm/分で1日間振盪してpY116プラスミドをキュアリングした。生育した培養物をMMLeu+Ura uプレート上に画線培養した。30℃で2日後、個々のコロニーをMMLeu+Ura、MMU、およびMMLeuプレート上に再度画線培養した。MMLeu+Ura上では生育できたがMMUまたはMMLeuプレート上では生育できなかったコロニーを選択した。Leu−およびUra−フェノタイプがあるこれらの株の1つをY4036U(Ura−、Leu−)と称した。
総脂質の約12%のARAを生成するためのY4070株の発生
コンストラクトpZKSL−555R(図7B;配列番号74)を発生させ、3個のΔ5デサチュラーゼ遺伝子をY4036U株のLys遺伝子座に組み込み、それによってARAの生成を可能にした。pZKSL−555Rプラスミドは次の構成要素を含有した。
一般方法に従って、pZKSL−555RプラスミドをAscI/SphIで消化し、次にY4036U株の形質転換のために使用した。形質転換体細胞をMMLeuLysプレート(リジン添加MMLeu)上に播種して、30℃に2〜3日間保った。次に単一コロニーをMMLeuLysプレート上に再度画線培養し、次に30℃の液体MMLeuLysに接種して250rpm/分で2日間振盪した。遠心分離によって細胞を収集し、脂質を抽出してエステル交換により脂肪酸メチルエステルを調製して、引き続いてHewlett−Packard 6890 GCで分析した。
GC分析はpZKSL−555Rの3個のキメラ遺伝子を含有する形質転換体中のARAの存在を示したが、親Y4036U株中には示されなかった。選択された96株のほとんどは総脂質の約10%のARAを生成した。総脂質の約11.7%、11.8%、11.9%、および11.7%のARAを生成した4株(すなわち#57、#58、#69、および#75)があった。これらの4株をそれぞれY4068、Y4069、Y4070、およびY4071と称する。さらなる分析は、pZKSL−555Rの3個のキメラ遺伝子が、Y4068、Y4069、Y4070、およびY4071株のLys5部位に組み込まれなかったことを示した。全ての株はLys+フェノタイプを有した。
野生型ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC#20362に関してY4070株の最終遺伝子型は、Ura3−、Leu+、Lys+、GPD::F.D12::Pex20、YAT::F.D12::OCT、YAT::ME3S::Pex16、GPAT::EgD9e::Lip2、Exp::EgD9eS::Lip1、FBAINm::EgD9eS::Lip2、FBAINm::EgD8M::Pex20、EXP::EgD8M::Pex16、FBAIN::EgD5WT::Aco、EXP::EgD5S::Pex20、YAT::RD5S::OCTであった。
実施例10
(コドン最適化されたΔ17デサチュラーゼ遺伝子「PaD17S」を含んでなる)コンストラクトpFBAINPaD17Sの産生およびヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中での発現
本実施例は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)4070株中のPaD17Sの機能解析について述べる(実施例9)。したがってキメラFBAINm::PaD17S::Pex20遺伝子を含んでなるプラスミドpFBAINPaD17S(配列番号102)の構築および形質転換に続いて、形質転換生物中の脂質プロフィールを比較した。
具体的にはプラスミドpFBAINPaD17Sは、プラスミドpPaD17Sからの5’PaD17Sおよび3’PaD17S断片(実施例8の5’PaD17S断片はNcoIおよびBglII消化によって作り出され、3’PaD17S断片は実施例5で述べられているようにBglIIおよびNotI消化によって作り出された)と、NcoIおよびNotIで前消化されたプラスミドpFBAIN−MOD−1(配列番号80、図8A)を使用して、三元ライゲーションによって構築された。したがってPaD17Sは、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)FBAINmプロモーター(国際公開第2005/049805号パンフレット、米国特許第7,202,356号明細書)およびヤロウィア(Yarrowia)Pex20遺伝子のPEX20−3’ターミネーター領域(GenBank登録番号AF054613)と作動的に連結する。
プラスミドpFBAINPaD17S(配列番号102)をヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)4070株中に形質転換し、形質転換体をSD−Uraプレート(20g/Lの寒天;アミノ酸を含まないが硫酸アンモニウムを含む6.7g/LのYNB;20g/Lのグルコース;各20mg/Lの硫酸アデニン、L−トリプトファン、L−ヒスチジン−HCl、L−アルギニン−HCl、L−メチオニン;各30mg/LのL−チロシン、L−ロイシン、L−イソロイシン、L−リジン−HCl;50mg/LのL−フェニルアラニン;各100mg/mLのL−グルタミン酸、L−アスパラギン酸;150mg/LのL−バリン;200mg/LのL−スレオニン;および400mg/LのL−セリンを含んでなる)上で選択した。
実施例7で述べられているようにして4つの形質転換体の脂肪酸プロフィールおよび変換効率を判定した。GC分析の結果を表17に示す。ARAおよびEPAの組成は総脂肪酸の%で表される。
GC結果はpFBAINPaD17Sを持つ形質転換体中ではARAおよびEPAが生成するが、対照プラスミドpFBAIN−MOD−1(図8A、ベクターのみ)を持つ形質転換体中ではARAのみが生成することを実証する。コドン最適化されたP.アファニデルマタム(aphanidermatum)Δ17デサチュラーゼ(PaD17S、配列番号4)の変換効率は、野生型PaD17(配列番号2)の18.4〜19.5%の変換効率と比較して、54.1%〜55.6%の範囲であった。
実施例11
Δ17デサチュラーゼをコードするフィトフトラ・ソジャ(Phytophthora sojae)遺伝子の同定
米国特許出願第11/787772号明細書で開示されている本実施例は、フィトフトラ・ソジャ(Phytophthora sojae)からのΔ17デサチュラーゼ(配列番号44および45)の同定について述べる。
米国エネルギー省の共同ゲノム研究所(「JGI」、WalnutCreek,CA)は、バージョン1.0のフィトフトラ・ソジャ(Phytophthora sojae)ゲノム(推定ゲノムサイズ95Mbp)を作り出した。このゲノム配列は全ゲノムショットガンストラテジーを使用して作り出され、合計19,276個の遺伝子モデルを含んでなる。
フィトフトラ・インフェスタンス(Phytophthora infestans)のΔ17デサチュラーゼ(GenBank登録番号CAJ30870、ここで「PiD17」と称され配列番号43に対応する)のアミノ酸配列をクエリー配列として使用して、JGIのフィトフトラ・ソジャ(Phytophthora sojae)データベースに対して、(JGIから入手できるデフォルトパラメーターを使用して)TBLASTN(BLASTタンパク質対翻訳ヌクレオチド)検索を行った。scaffold 17:338148〜339167に位置する1個のP.ソジャ(sojae)ORFは、PiD17と広範な相同性(すなわち期待値0で91.8%の同一性および95.6%の類似性)を有することが分かった。この相同性に基づいて、P.ソジャ(sojae)ORFはΔ17デサチュラーゼとして仮に同定され、「PsD17」と称された。データベースからPsD17(配列番号44)の1092bpのDNA配列を検索すると、それは長さ363個のアミノ酸のポリペプチド(配列番号45)をコードすることが分かった。Clustal W分析(DNASTARソフトウェアのMegAlign(商標)プログラム)を使用したアミノ酸配列アラインメントは、PiD17およびPsD17の間に90.9%の同一性があったのに対し、ヌクレオチド配列は86.6%の同一性のみを有した
ことを示した。
PsD17(配列番号45)をクエリー配列として使用して、タンパク質−タンパク質BLAST検索を行い、PsD17と「nr」データベース(一般方法参照)中に含まれる全ての公的に入手可能なタンパク質配列との配列相同性もまた判定した。この分析に基づいて、PsD17はサプロレグニア・ディクリナ(Saprolegnia diclina)のω−3脂肪酸デサチュラーゼ(GenBank登録番号AAR20444)と最高の相同性を有することが分かった。具体的にはPsD17は、期待値7E−117でGenBank登録番号AAR20444のアミノ酸配列と60%の同一性および74%の類似性を有した。さらにPsD17は、期待値4E−57でアナベナ・バリアビリス(Anabaena variabilis)ATCC#29413の脂肪酸デサチュラーゼのアミノ酸配列(GenBank登録番号ABA23809)と39%の同一性および57%の類似性を有した。
実施例12
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)のためにコドン最適化されたΔ17デサチュラーゼ遺伝子(「PsD17S」)の合成
米国特許出願第11/787772号明細書で開示されている本実施例は、フィトフトラ・ソジャ(Phytophthora sojae)に由来し(配列番号81および82)、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中での発現のためにコドン最適化された合成Δ17デサチュラーゼ(配列番号44および45)の作成について述べる。
米国特許第7,125,672号明細書で述べられているのと同様の方法で、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中での発現のためにフィトフトラ・ソジャ(Phytophthora sojae)のΔ17デサチュラーゼ遺伝子のコドン使用頻度を最適化した。具体的にはヤロウィア(Yarrowia)コドン使用頻度パターン(国際公開第2004/101753号パンフレット)、「ATG」翻訳開始コドン周辺の共通配列、およびRNA安定性の原則(Guhaniyogi,G.およびJ.Brewer、Gene、265(1〜2):11〜23(2001年))に従って、PsD17(配列番号44および45)のコード配列に基づいて、コドン最適化されたΔ17デサチュラーゼ遺伝子(「PsD17S」と命名される、配列番号81および82)をデザインした。翻訳開始部位修の正に加えて、175bpの1092bpコード領域を改変し(16.0%)、168個のコドンを最適化した(46.2%)。GC含量を野性型遺伝子(すなわちPsD17)中の65.1%から合成遺伝子(すなわちPsD17S)中の54.5%に低下させた。NcoI部位およびNotI部位をそれぞれ、PsD17S(配列番号81)の翻訳開始コドン周辺および停止コドンの後に組み込んだ。図9はPsD17およびPsD17Sのヌクレオチド配列の比較を示す。アミノ酸レベルでは、PsD17Sは野性型PsD17と比較して3番目および4番目のアミノ酸を欠いており、したがってPsD17S(配列番号82)の全長はアミノ酸361個である。デザインされたPsD17S遺伝子はGenScript Corporation(Piscataway,NJ)によって合成され、pUC57(GenBank登録番号Y14837)にクローニングされてPsD17S(配列番号83)が作り出された。
実施例13
Δ17デサチュラーゼをコードするフィトフトラ・ラモルム(Phytophthora ramorum)遺伝子の同定
米国特許出願第11/787772号明細書で開示されている本実施例は、フィトフトラ・ラモルム(Phytophthora ramorum)Δ17デサチュラーゼ(配列番号46および47)の同定について述べる。
U.S.Department of Energy’s Joint Genome Institute(JGI)(Walnut Creek,CA)はフィトフトラ・ラモルム(Phytophthora ramorum)ゲノム(推定ゲノムサイズ65Mbp)のバージョン1.0を作り出した。このゲノム配列は、全ゲノムショットガンストラテジーを使用して生成され、全部で16,066個の遺伝子モデルを含んでなる。
実施例11で述べられるのと類似した様式で、PiD17(配列番号43)のアミノ酸配列をクエリー配列として使用し、JGIのPhytophthora ramorumデータベースに対してTBLASTN検索を実施した(JGIから入手できるデフォルトパラメーターを使用)。
2個のORFが、フィトフトラ・ラモルム(Phytophthora ramorum)のゲノム配列中のPiD17と高度な相同性を有することが分かった。具体的にはORF80222は、期待値0で配列番号43と89%の同一性および94%の類似性を有する。同様にORF48790は、期待値6E−44で配列番号43と40%までの同一性および61%の類似性を有する。これらの結果に基づいて、ORF80222をΔ17デサチュラーゼと仮に同定し、「PrD17」と称した。
PrD17(配列番号46)の1086bpのDNA配列をデータベースから検索すると、それは長さが361個のアミノ酸のポリペプチド(配列番号47)をコードすることが分かった。Clustal W分析(DNASTARソフトウェアからのMegAlign(商標)プログラム)を使用したアミノ酸のアラインメントは、PiD17とPrD17の間に89.5%の同一性があったことを示し、対照的にヌクレオチド配列は85.7%の同一性のみを有した。
次にPrD17(配列番号47)をクエリー配列として使用してタンパク質−タンパク質BLAST検索を行うことで、「nr」データベース(一般方法参照)中に含まれる全ての公的に入手可能なタンパク質配列とPrD17の配列相同性を比較した。最高度の類似性を示した配列はサプロレグニア・ディクリナ(Saprolegnia diclina)のω−3脂肪酸デサチュラーゼ(GenBank登録番号AAR20444)であり、期待値E−124で59%の同一性および74%の類似性を有した。さらにPrD17はアナベナ・バリアビリス(Anabaena variabilis)ATCC#29413の脂肪酸デサチュラーゼのアミノ酸配列(GenBank登録番号ABA23809)と、期待値6E−61で38%の同一性および57%の類似性を有した。
実施例14
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)のためにコドン最適化されたΔ17デサチュラーゼ遺伝子(「PrD17S」)の合成
米国特許出願第11/787772号明細書で開示されている本実施例は、フィトフトラ・ラモルム(Phytophthora ramorum)に由来し(配列番号46および47)、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中での発現のためにコドン最適化された合成Δ17デサチュラーゼ(配列番号84および47)の作成について述べる。
米国特許第7,125,672号明細書で述べられたのと類似の様式で、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中での発現のために、フィトフトラ・ラモルム(Phytophthora ramorum)のΔ17デサチュラーゼ遺伝子のコドン使用頻度を最適化した。具体的には、ヤロウィア(Yarrowia)のコドン使用頻度パターン(国際公開第2004/101753号パンフレット)、「ATG」翻訳開始コドン周辺の共通配列、およびRNAの安定法則(Guhaniyogi,G.およびJ.Brewer、Gene 265(1〜2):11〜23(2001年))に従って、PrD17のコード配列(配列番号46および47)に基づいて、コドン最適化Δ17デサチュラーゼ遺伝子(「PrD17S」と称する、配列番号84)をデザインした。翻訳開始部位の修正に加えて、1086bpのコード領域の168bp(15.5%)を修正し、160個のコドン(44.2%)を最適化した。GC含量は、野性型遺伝子(すなわちPrD17)内の64.4%から、合成遺伝子(すなわちPrD17S)内の54.5%に低下した。NcoI部位およびNotI部位をPrD17S(配列番号84)の翻訳開始コドン周辺、および停止コドン後にそれぞれ組み込んだ。図10は、PrD17およびPrD17Sのヌクレオチド配列の比較を示す。コドン最適化遺伝子内の改変は、いずれもタンパク質(配列番号47)をコードするアミノ酸配列を変化させなかった。デザインされたPrD17S遺伝子はGenScript Corporation(Piscataway,NJ)によって合成され、pUC57(GenBank登録番号Y14837)中にクローンされて、pPrD17S(配列番号85)を生じた。
実施例15
ω−6脂肪酸基質特異性の比較のための(フザリウム・モニリフォルメ(Fusarium moniliforme)Δ15デサチュラーゼ、PrD17S、PsD17S、およびPaD17Sを含んでなる)コンストラクトpY130、pY138、pY139、およびpY140の産生
本実施例、および関連実施例16および17(下述)は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中のフザリウム・モニリフォルメ(Fusarium moniliforme)Δ15デサチュラーゼ(FmD15、配列番号86および87)と、PaD17S(配列番号4および2)、PrD17S(配列番号84および47)、およびPsD17S(配列番号81および82)との基質特異性の比較について述べる。
この研究は、次の工程を含む。(1)実施例15で述べられているようなヤロウィア(Yarrowia)発現ベクターpY130(FmD15を含んでなる)、pY138(PrD17Sを含んでなる)、pY139(PsD17Sを含んでなる)、およびpY140(PaD17Sを含んでなる)の構築、(2)実施例16で述べられているようなL38株と同定されたヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC#76982のΔ12デサチュラーゼ−中断株の構築、3.)実施例17で述べられているようなpY130、pY138、pY139および、pY140の野生型ヤロウィア(Yarrowia)およびヤロウィア(Yarrowia)L38株中への形質転換、4.)実施例17で述べられているような、脂肪酸基質供給後のpY130、pY138、pY139、またはpY140を含んでなる形質転換生物中の脂質プロフィールの比較。
実験の基礎
C18脂肪酸基質に作用するΔ15デサチュラーゼおよびC20脂肪酸基質に作用するΔ17デサチュラーゼの双方を含むω−3デサチュラーゼは、ω−6脂肪酸をそれらのω−3対応物に変換することにより、長鎖PUFAの生合成において重要な役割を果たす(図1)。いくつかの真菌ω−3デサチュラーゼは、広範な触媒無差別性を示すことがよく知られている。例えばフザリウム・モニリフォルメ(Fusarium moniliforme)(GenBank登録番号DQ272516.1)およびマグナポルテ・グリセア(Magnaporthe grisea)(GenBank登録番号XP_362963)のΔ15デサチュラーゼは、どちらも限られたΔ17デサチュラーゼ活性をさらに有する(国際公開第2005/047485号パンフレットおよび国際公開第2005/047480号パンフレット、米国特許出願第11/740298号明細書)。
同様に、フィトフトラ・ソジャ(Phytophthora sojae)に由来してヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中での発現のためにコドン最適化された合成Δ17デサチュラーゼ(すなわちPsD17S)は、以前、米国特許出願第11/787772号明細書でΔ17およびΔ15デサチュラーゼ活性のどちらも有することが実証された。より具体的にはPsD17Sは「二機能性Δ17デサチュラーゼ活性」または「一次Δ17デサチュラーゼ活性」を示し、デサチュラーゼはARAをEPAにおよび/またはDGLAをETAに優先的に変換するが、さらにLAをALAに変換する限られた能力を有する(したがって主としてΔ17デサチュラーゼ活性および限られたΔ15デサチュラーゼ活性を示す)。
上述の広範な触媒無差別性にもかかわらず、全てのω−3デサチュラーゼが二機能性を有するわけではない。例えばサプロレグニア・ディクリナ(Saprolegnia diclina)Δ17デサチュラーゼは、C20ω6脂肪酸基質に排他的に機能する(Pereira,S.L.ら、Biochem.J.、378:665(2004年))。
以下の実施例目的は、フィトフトラ・ソジャ(Phytophthora sojae)(PsD17S、配列番号81および82)、フィトフトラ・ラモルム(Phytophthora ramorum)(PrD17S、配列番号84および47)およびピシウム・アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)(PaD17S、配列番号4および2)からのΔ17デサチュラーゼと、以前に特性決定されたフザリウム・モニリフォルメ(Fusarium moniliforme)Δ15デサチュラーゼ(FmD15、配列番号86および87)との相対ω−6脂肪酸基質特異性を比較することである。LAからEPAへの変換に関与するデサチュラーゼおよびエロンガーゼの存在は長鎖PUFA生合成の代案の経路を可能にするので、米国特許出願第11/787772号明細書でPsD17SおよびPrD17Sについて以前実施された研究とは対照的に、ω−3デサチュラーゼはここではそれらを欠くヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株中で発現された(図1)。その結果、PrD17S、PsD17S、およびPaD17S中のω−6基質特異性に関する解釈は、以前の研究におけるよりも遙かに明瞭である。
FmD15を含んでなるヤロウィア(Yarrowia)発現ベクターpY130の構築
プラスミドpY6.GPD.Leu2(配列番号88)は、大腸菌(E.coli)およびヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)のどちらの中でも複製できるシャトルプラスミドであり、次を含有する。ヤロウィア(Yarrowia)自律複製配列(ARS18、GenBank登録番号M91600)、ColE1プラスミド複製起点、大腸菌(E.coli)f1複製起点、大腸菌(E.coli)中での選択のためのアンピシリン−抵抗性遺伝子(AmpR)、ヤロウィア(Yarrowia)中での選択のためのヤロウィア(Yarrowia)Leu2遺伝子(GenBank登録番号AF260230)、およびキメラGPD::NcoI/NotI::XPRカセット。ヤロウィア(Yarrowia)「GPDプロモーター」は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GPD)遺伝子によってコードされ、発現に必要なタンパク質の「ATG」翻訳開始コドン前の5’上流非翻訳領域を指す(国際公開第2005/003310号パンフレット)。「XPR」は、ヤロウィア(Yarrowia)Xpr遺伝子の約100bpの3’領域を指す(GenBank登録番号M17741)。プラスミドpY6.GPD.Leu2の構築については本明細書では詳細に述べられていないが、それはpY28GPD.YlD12dに由来した(2007年4月26日出願の米国特許出願第11/740298号明細書で以前述べられており、キメラGPD::ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Δ12デサチュラーゼ(Yld12d)::Lip1遺伝子カセットを含んでなる)。
フザリウム・モニリフォルメ(Fusarium moniliforme)Δ15デサチュラーゼは、以前、(その内容を参照によって本明細書に援用する)国際公開第2005/047485号パンフレットで述べられているプラスミドpY34に由来し、最初にFmD15デサチュラーゼORFの位置180を単一bp置換した。このC180T「サイレント」変異は、クローニング利便性のためにORFのNcoI部位の損失をもたらした。次にNcoIおよびNotI制限部位がある5’および3’PCRプライマーを使用してORFをPCRするために改変配列を使用し、NcoIおよびNotI部位を使用して上述のプラスミドpY28中のYld12d ORFを置き換えるために、FmD15デサチュラーゼORF(配列番号86)を含有する得られたNcoI−NotI断片を使用して、pY130(配列番号89、図11A[そこでは「pY130.GPD.Fmd15」と標識される])を生成した。
キメラGPD::FmD15::Lip1遺伝子を含有する発現ベクターpY130の9048bpの配列は配列番号89で開示され、下の表で述べられている。
ヤロウィア(Yarrowia)発現ベクターpY138(PrD17Sを含んでなる)、pY139(PsD17Sを含んでなる)、およびpY140(PaD17Sを含んでなる)の構築
起源プラスミドpPrD17S(配列番号85、前出の実施例14)およびpPsD17S(配列番号83、前出の実施例12)からのヤロウィア(Yarrowia)中での発現のためにコドン最適化されたフィトフトラ・ラモルム(Phytophthora ramorum)およびフィトフトラ・ソジャ(Phytophthora sojae)の合成Δ17デサチュラーゼORF(すなわちそれぞれPrD17SおよびPsD17S)を含んでなる同様に消化された断片によって、pY130中のFmD15を含んでなるNcoI−NotI断片を置換した。これによってプラスミドpY138(配列番号90、図11B[そこでは「pY138 GPD−PrD17」と標識される])およびpY139(配列番号91、図11C[そこでは「pY139 GPD PsD17」と標識される])がそれぞれ生成した。
同様のストラテジーを使用して、起源プラスミドpPaD17S(配列番号62、前出の実施例8)からのピシウム・アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)の合成Δ17デサチュラーゼORFで、pY130中のFmD15ORFを置き換えた。しかしPaD17Sは内部NcoI部位を含有したため、これはPaD17SのNcoI−BglIIおよびBglII−NotI断片のpY130ベクター主鎖への三元ライゲーションによって達成された。これは図11Dに示すようなプラスミドpY140(配列番号92)の形成をもたらした(ここでは「pY140GPD−PaD17」と標識される)。
実施例16
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Δ12ノックアウトL38株の産生
米国特許出願第11/740298号明細書で開示されている本実施例は、L38株と同定され、「d12KO株」と総称的に称される、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC#76982のΔ12デサチュラーゼ−中断[Δ12ノックアウト(KO)]株の作成について述べる。この株の唯一の天然Δ12デサチュラーゼ遺伝子は、相同的組換えを通じて中断バージョンでの置換によって中断された。
ここでL38と同定されたd12KO株を作り出すのに使用された方法は、一般方法で述べられているように部位特異的リコンビナーゼ系に依存した。
実験的方法
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC#76982をSphIおよびAscI直線化プラスミドpY137で形質転換した。プラスミドpY137(図12AではpY137.YlD12ko.Leu2と標識される)の配列は配列番号93として開示されており、pY137については下の表で述べられている。
11のLEU原栄養株pY137形質転換体をGCによって分析し、4つはGC分析時の検出可能な18:2(LA)の不在によってΔ12ノックアウト(d12KO)株と同定された。これらの1つをL37株と命名した。
d12KOL37株中のLEU2遺伝子は、ヤロウィア(Yarrowia)グリセロール−3−リン酸アシル基転移酵素(GPAT)プロモーターの制御下にあるCreリコンビナーゼの一過性発現によって切除された。具体的にはL37株をプラスミドpY117で形質転換した。変異プラスミドpY117中のヤロウィア(Yarrowia)AHAS酵素は、正のスクリーニングマーカーとして使用されるSURを与えた。
プラスミドpY117は、PacI−SwaI部位で挟まれた変異AHAS遺伝子をPacI−SwaI消化されたpY116に挿入し、それによってLEU選択可能なマーカーをスルホニル尿素マーカーで置き換えて、プラスミドpY116(表14、および米国特許出願第11/635258号明細書で述べられている)から誘導された。プラスミドpY117(配列番号94)は図12B(そこではpY117.Cre.AHASw497Lと標識される)に示され、下の表20で述べられている。
Leuおよび280μg/mLスルホニル尿素(クロリムロンエチル、E.I.duPont de Nemours & Co.,Inc.,Wilmington,DE)を含有する最小プレート上に、pY117によって形質転換されたL37を播種した。pY117の株をキュアリングするために、2個のSURコロニーを使用して3mLのYPDに接種した。30℃で一晩成長させた後、100μlの1:250,000希釈培養物をYPDプレート上に播種した。30℃で一晩成長させた後、6個の単一コロニーをYPDおよびMMプレートの双方の上に画線培養した。全てYPD上には成長したが、MMプレート上には成長せず、それらのLeu栄養要求性が確認された。これらの1つをL38株と称する。
実施例17
ω−6脂肪酸基質特異性の比較のためのヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株中でのコンストラクトpY130、pY138、pY139、およびpY140(FmD15、PrD17S、PsD17SおよびPaD17Sを含んでなる)の発現
本実施例は、発現プラスミドpY130、pY138、pY139、およびpY140のヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC#76982中への形質転換と、それに続く形質転換生物中の脂質プロフィールの比較について述べる。
形質転換
一般方法で述べられているように、次の発現プラスミドを野性型(WT)ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC#76982およびそのΔ12デサチュラーゼ−中断誘導体(Δ12KO)L38株(実施例16)中に形質転換した。1.)プラスミドpY130(FmD15を含んでなる)、2.)プラスミドpY138(PrD17Sを含んでなる)、3.)プラスミドpY139(PsD17Sを含んでなる)、4.)プラスミドpY140(PaD17Sを含んでなる)、および5.)プラスミドpY6.GPD.Leu2(あらゆる飽和化酵素ORFを欠く空ベクター対照、プラスミド「pY6」とも称される)。
基質供給なしの脂質プロフィールの比較
各形質転換からの3つの独立した形質転換体をMMプレート上に画線培養した。新鮮な培養物を使用して、3mLのMMに三連で別々に接種した。30℃で2日間振盪機内で成長させた後、それぞれの2mLアリコートからの細胞を遠心分離によって収集し、脂質を抽出して脂肪酸メチルエステルをエステル交換により調製し、引き続いてHewlett−Packard 6890 GCで分析した。
pY6(配列番号88)、pY130(配列番号89)、pY138(配列番号90)、pY139(配列番号91)、およびpY140(配列番号92)を発現するヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の脂肪酸プロフィールを下の表21に示す。表21では、脂肪酸は16:0(パルミチン酸)、16:1、18:0(ステアリン酸)、18:1(オレイン酸)、18:2(LA)、およびALAと同定される。脂肪酸組成は総脂肪酸の重量%として表される。変換効率は(「CE」)([生成物]/[基質+生成物])*100の式に従って測定され、「生成物」は即時の生成物および経路中のそれに由来する全ての生成物を含む。したがってΔ12活性(すなわち「d12d CE」)は([LA]/[オレイン酸+LA])*100に従って計算され、LAへの%基質変換を表す。「Δ15活性」(すなわち「d15d CE」)は式([ALA]/[LA+ALA])*100に従って計算され、ALAへの%基質変換を表す。標準偏差は「SD」と略記され、「nd」は不検出である。
基質供給ありの脂質プロフィールの比較
LA以外のω6基質に対する異なるω−3デサチュラーゼの相対基質特異性を研究するために、異なるプラスミド(すなわちpY6、pY130、pY138、pY139、およびpY140)で形質転換された12 KO株に、異なるFAの混合物を供給した。このために株をMMプレート上に画線培養し、新鮮な培養物を使用して3mLのMMに接種した。30℃で一晩成長させた後、全ての培養物をOD600=0.5に希釈してから、それらを3つの3mL培養物に等分した。さらに6時間成長させた後、培養物を収集して1%タージトールおよび各0.5mMのGLA、EDA、およびARAを含有する3mLMMに再懸濁して24時間成長させ、その時点でそれらを収集し、12mLの0.5%トリトン(Triton)X−100で1回、12mLの蒸留水で1回洗浄した。ペレットを脂肪酸組成について上述のように分析した。
pY6(配列番号88)、pY130(配列番号89)、pY138(配列番号90)、pY139(配列番号91)、およびpY140(配列番号92)を発現するd12 KOヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の脂肪酸プロフィールを下の表22に示す。表中、脂肪酸は、GLA(ω−6)、EDA(ω−6)、DGLA(ω−6)、ARA(ω−6)、ALA(ω−3)、STA(ω−3)、ETrA(ω−3)、ETA(ω−3)、およびEPA(ω−3)と同定される。脂肪酸組成は総脂肪酸の重量%として表される。ω−6基質GLA、EDA、DGLA、およびARAからそれらのω−3生成物STA、ETrA、ETA、およびEPAへのω−3デサチュラーゼの変換効率(「Conv.Effic.」)は、それぞれ式[生成物/(基質+生成物)]*100に従って計算される。標準偏差は「SD」と略記され、「nd」は不検出である。
FmD15、PsD17S、PrD17S、およびPaD17Sのω−6脂肪酸基質特異性に関する結果を図13に視覚的に要約した。具体的にはLAに関するデータは、表21に示すような野性型Y.リポリティカ(lipolytica)形質転換体からのものである。その他の全データは、表22に示すような異なるω−6脂肪酸基質を供給されたΔ12−デサチュラーゼ中断(d12KO)ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株からのものである。脂肪酸DGLAは図中で「HGLA」と略記される。
ここで示すデータに基づいて、FmD15はPsD17S、PrD17S、およびPaD17Sと比較して、最も高いΔ15デサチュラーゼ活性を有した(表21、図13)。しかしFmD15(二機能性Δ12/Δ15デサチュラーゼ活性を有する)とは異なり、試験された3つのΔ17デサチュラーゼのいずれもオレイン酸に対するいかなる検出可能なΔ12デサチュラーゼ活性も有さなかった(表21)。ω−6脂肪酸基質存在下での成長は、全てのΔ17デサチュラーゼが、ARAに対する最高の優先度、EDAおよびDGLAに対する比較的低い活性、およびGLAに対する最小の活性を有したことを示した。PaD17SはARAに対して最も高い活性を有した。Δ17デサチュラーゼはC18基質LAに対して顕著なΔ15デサチュラーゼ活性を有し、活性はC20基質EDAおよびDGLAに対するΔ17デサチュラーゼ活性と匹敵した(PsD17SおよびPrD17Sは、C20基質に対するΔ17デサチュラーゼ活性と比較して活性はわずかに低下しているが、LAに対してもまた顕著なΔ15デサチュラーゼ活性を示した)。3つのΔ17デサチュラーゼの広範な触媒無差別性は、C20ω−6脂肪酸基質に排他的に作用するサプロレグニア・ディクリナ(Saprolegnia diclina)Δ17デサチュラーゼからそれらを区別した。