JP2017195777A - エイコサペンタエン酸を高含有する脂質の生産方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】EPAを効率よく生産することができる脂質生産微生物の提供。【解決手段】ω9系高度不飽和脂肪酸の産生能を有する微生物または脂肪酸組成中にアラキドン酸を高含量で含む微生物に、外来のΔ17不飽和化酵素遺伝子と、外来のΔ5不飽和化酵素遺伝子および外来のΔ12不飽和化酵素遺伝子から選択されるいずれか1以上とを導入した変異微生物であって、20℃以上の条件下で10日間培養後における脂肪酸組成中のエイコサペンタエン酸含量が20%以上である変異微生物。【選択図】なし

Description

本発明は、脂質生産微生物を用いたエイコサペンタエン酸を高含有する脂質の生産方法に関する。詳細には、ω9系高度不飽和脂肪酸産生能を有する微生物または脂肪酸組成中にアラキドン酸を高含量で含む微生物に脂肪酸不飽和化酵素の遺伝子を導入した変異微生物を用いて、エイコサペンタエン酸を高含有する脂質を生産する方法に関する。
高度不飽和脂肪酸は、不飽和結合を2つ以上持つ脂肪酸であり、ω6系脂肪酸(n−6系脂肪酸ともいう)のリノール酸(LA、18:2n−6)、γ−リノレン酸(GLA、18:3n−6)、アラキドン酸(ARA、20:4n−6)、ω3系脂肪酸(n−3系脂肪酸ともいう)のα−リノレン酸(ALA、18:3n−3)、エイコサペンタエン酸(EPA、20:5n−3)、ドコサヘキサエン酸(DHA、22:6n−3)等が存在する。高度不飽和脂肪酸は、生体膜の主要構成成分として膜の流動性の調節に関与するほか、生体機能性成分の前駆体としても重要である。ARAやEPAは、高等動物内においてプロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエンなどの前駆体であり、DHAは脳内に最も多量に存在する高度不飽和脂肪酸である。EPAは、血小板凝集阻害作用、血中中性脂肪低下作用、抗動脈硬化作用、血液粘度低下作用、血圧降下作用、抗炎症作用、抗腫瘍作用等の生理作用を有し、医薬品、食品、化粧品、飼料等の様々な分野に利用されている。また、近年では、生活習慣病予防の観点から、ω3系脂肪酸の積極的な摂取が推奨され、需要の拡大が著しい脂質分子種である。
生体のDHAやEPAは、食物から摂取される以外に、一部の生物ではALAから生合成される。一方、ヒトはALAを生合成できないため、DHAやEPAはヒトにとって栄養学的に必須の脂肪酸である。EPAは主にタラ、ニシン、サバ、サケ、イワシ、オキアミ等の魚油、シュワネラ・リビングストネンシス(Shewanella livingstonensis)等の海洋性低温細菌、ラビリンチュラ綱(Labyrinthulomycetes)等の藻類に多く含まれている。これらの生物資源からEPAを抽出または精製する方法が知られている。最も一般的に行われているのは、魚油からのEPA精製である。しかしながら、魚油中のEPA含量は低い上に、魚油由来のEPAは、抽出または精製の方法によっては、魚臭が残ったり、心疾患の原因とされるエルカ酸の含量が多くなったりする等の問題を有している。
近年、エネルギー問題などに関連して、細胞内に脂質を蓄積する脂質生産微生物が注目されており、種々の脂質を微生物学的に生産する方法が開発されている。糸状菌は糸状の菌糸を有する微生物の総称であり、カビやキノコ等を含め、空気中、土壌中、水中のいたるところに存在する菌であるが、その中の1種であるモルティエレラ(Mortierella)属に属する糸状菌は、ω3系やω6系高度不飽和脂肪酸代謝経路を有し、EPAを生産することが知られている(非特許文献1)。モルティエレラ属微生物を利用した高度不飽和脂肪酸の生産方法の研究が進められている。例えば、特許文献1には、EPAを産生するモルティエレラ属微生物を培養してEPAを得る方法が開示されている。特許文献2には、モルティエレラ・アルピナに変異処理を施したω9系高度不飽和脂肪酸産生能を有する微生物を用いてARAやEPAを生産する方法が開示されている。特許文献3には、モルティエレラ・アルピナから単離したω3脂肪酸不飽和化ポリペプチドの遺伝子を酵母に導入した形質転換株を用いて、EPAなどの高度不飽和脂肪酸を生産する方法が開示されている。しかし、モルティエレラ属微生物は、菌が増殖しにくい低温条件下(20℃以下)で培養されなければEPAを効率よく生産することができない。さらにモルティエレラ・アルピナ由来ω3不飽和化酵素は、炭素鎖長18の脂肪酸に優先的に作用するため、炭素鎖長20のEPAは合成されにくい。したがって、上記従来の方法ではEPAを効率よく生産することは難しかった。
特開昭63−14697号公報 特開平11−243981号公報 特開2006−055104号公報
Appl. Microbiol. Biotecnol., 1989, Vol.32, p.1-4
本発明は、20℃以上の常温下でEPAを効率よく生産することができる変異微生物、および当該変異微生物を用いてEPAを高濃度で含有する脂質を生産する方法を提供することに関する。
本発明者らは、ω9系高度不飽和脂肪酸の産生能を有する微生物、または脂肪酸組成中にアラキドン酸を高含量で含む微生物に、Δ17不飽和化酵素遺伝子と、Δ5不飽和化酵素遺伝子およびΔ12不飽和化酵素遺伝子から選択されるいずれか1以上とを導入することにより作製された変異微生物が、常温下においても、EPAを高濃度で含有する脂質を効率よく生産することができることを見出した。さらに本発明者らは、当該変異微生物の飽和脂肪酸合成酵素活性を低下させることにより、該変異微生物に産生された脂質中のEPA濃度がさらに向上することを見出した。上記変異微生物から得られたEPA含有脂質は、アラキドン酸等のEPA以外の他の高度不飽和脂肪酸の蓄積量が低減されており、これを原料としてEPAを効率よく精製することができるため有用である。
すなわち本発明は、ω9系高度不飽和脂肪酸の産生能を有する微生物または脂肪酸組成中にアラキドン酸を高含量で含む微生物に、外来のΔ17不飽和化酵素遺伝子と、外来のΔ5不飽和化酵素遺伝子および外来のΔ12不飽和化酵素遺伝子から選択されるいずれか1以上とを導入した変異微生物であって、20℃以上の条件下で10日間培養後における脂肪酸組成中のエイコサペンタエン酸含量が20%以上である変異微生物を提供する。
さらに本発明は、上記変異微生物を20℃以上の条件下で培養することを含む、エイコサペンタエン酸を含有する脂質の生産方法を提供する。
さらに本発明は、上記方法により生産されたエイコサペンタエン酸を含有する脂質を精製することを含む、エイコサペンタエン酸の生産方法を提供する。
本発明の変異微生物は、常温で働く外来のΔ17不飽和化酵素遺伝子と、外来のΔ5不飽和化酵素遺伝子または外来のΔ12不飽和化酵素遺伝子とが導入されており、微生物が増殖しやすい20℃以上の常温条件下においてもEPAを生産することができるばかりか、微生物細胞内でのアラキドン酸の蓄積を抑えて、効率のよいEPA生産を可能にする。特に、少なくともΔ17不飽和化酵素遺伝子およびΔ5不飽和化酵素遺伝子の両遺伝子を発現させた変異微生物では、エイコサテトラエン酸(ETA、20:4n−3)およびジホモ-γ-リノレン酸(DGLA、20:3n−6)の蓄積が抑制されているため、高純度のEPA含有脂質の生産を可能にする。したがって、これら本発明の変異微生物を常温条件下で培養すれば、EPAを高含有する脂質を効率よく生産することができる。EPAは、医薬品、食品、化粧品、飼料等の様々な分野で使用される重要な高度不飽和脂肪酸であり、EPAの工業規模での生産に適用し得る本発明は、極めて有用である。
M. alpina 1S-4における脂肪酸生合成経路。 形質転換バイナリーベクターpBIG35HSCpMAELORNAiの構造。 形質転換バイナリーベクターpBIG35hispPsD5mの構造。 形質転換バイナリーベクターpBIG35PP3pCopD12mの構造。 形質転換バイナリーベクターpBIG35SSA2pD17mの構造。 形質転換バイナリーベクターpBIG35PP3pCopD12mSSA2pD17mhispPsD5mHSCpMAELORNAiの構造。 形質転換バイナリーベクターpBIG35PP3pCopD12mSSA2pD17mhispPsD5mHSCpMAELORNAiを導入したM. alpina 1S-4株、ST1358変異株、JT180変異株の株形質転換体により生産された脂肪酸の組成および生産量。
本明細書において、別途定義されない限り、アミノ酸配列またはヌクレオチド配列におけるアミノ酸またはヌクレオチドの欠失、置換、付加または挿入に関して使用される「1個または複数個」とは、例えば、1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜4個、なお好ましくは1〜3個、さらになお好ましくは1〜2個であり得る。また本明細書において、アミノ酸またはヌクレオチドの「付加」には、配列の一末端および両末端への1または複数個のアミノ酸またはヌクレオチドの付加が含まれる。
本明細書において、アミノ酸配列やヌクレオチド配列の同一性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 1993, 90, 5873)、またはFASTA(Methods Enzymol., 1990, 183, 63)を用いて決定することができる。このアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTNやBLASTXとよばれるプログラムが開発されている(J. Mol. Biol., 1990, 215, 403)。BLASTに基づいてBLASTNによってヌクレオチド配列を解析する場合には、パラメータは例えばScore=100、wordlength=12とする。また、BLASTに基づいてBLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメータは例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(www.ncbi.nlm.nih.gov参照)。
本明細書において、「ストリンジェントな条件」とは、同一性が高いヌクレオチド配列同士、例えば70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上または99%以上の同一性を有するヌクレオチド配列同士がハイブリダイズし、それより同一性が低いヌクレオチド配列同士がハイブリダイズしない条件をいう。具体的には、本明細書における「ストリンジェントな条件」とは、通常のサザンハイブリダイゼーションの洗浄条件である60℃、1×SSC、0.1% SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1% SDS、さらに好ましくは、68℃、0.1×SSC、0.1% SDSに相当する塩濃度および温度で、1回、より好ましくは2〜3回洗浄する条件等が挙げられる。
本明細書において、「高度不飽和脂肪酸」(PUFA)とは、炭素鎖長が18以上で不飽和結合数が2以上の長鎖脂肪酸をいう。
本明細書において、「ω6系高度不飽和脂肪酸代謝経路」とは、リノール酸(LA、18:2n−6)から、γ−リノレン酸(GLA、18:3n−6)、ジホモ−γ−リノレン酸(DGLA、20:3n−6)、アラキドン酸(ARA、20:4n−6)に至るω6系高度不飽和脂肪酸を生産する代謝経路をいい、「ω9系高度不飽和脂肪酸代謝経路」とは、オレイン酸(18:n−9)から、n−9オクタジエン酸(18:2n−9)、n−9エイコジエン酸(20:2n−9)、ミード酸(20:3n−9)に至るω9系高度不飽和脂肪酸を生産する代謝経路をいう(図1参照)。
本明細書において、「ω9系高度不飽和脂肪酸の産生能を有する微生物」とは、ω9系高度不飽和脂肪酸代謝経路を保有し、当該微生物が産生する脂肪酸の全質量中における上述のω9系の高度不飽和脂肪酸のいずれかの含有量が該微生物の野生株と比べて向上している微生物、または、当該微生物が産生する脂肪酸全質量中における上述のω9系の高度不飽和脂肪酸のいずれかの含有量が高い、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である微生物のことをいう。さらに好ましくは、該「ω9系高度不飽和脂肪酸の産生能を有する微生物」は、ミード酸の産生能を有し、脂肪酸全質量中にミード酸を10質量%以上含有する微生物である。
本明細書において、「脂肪酸組成中にアラキドン酸を高含量で含む微生物」とは、当該微生物が産生する脂肪酸の全質量中におけるアラキドン酸の含有量が該微生物の野生株と比べて向上している微生物、または、当該微生物が産生する脂肪酸全質量中におけるアラキドン酸の含有量が高い、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上である微生物のことをいう。
本明細書において、ある微生物に対して使用する用語「本来」とは、ある機能や形質が天然に存在する当該微生物(野生型)が保有するものであることを表すために使用される。対照的に、用語「外来」とは、当該微生物に元から存在するのではなく、外部から導入された機能や形質を表すために使用される。例えば、ある微生物に外部から導入された遺伝子は、外来遺伝子である。外来遺伝子は、それが導入された微生物と同種の微生物由来の遺伝子であっても、異種の生物由来の遺伝子であってもよい。
本発明の変異微生物の親株となる微生物(以下、「親微生物」ということがある)は、ω9系高度不飽和脂肪酸の産生能を有する微生物または脂肪酸組成中にアラキドン酸を高含量で含む微生物であればよい。好ましくは、ω9系高度不飽和脂肪酸の産生能を有する微生物としては、ω9高度不飽和脂肪酸代謝経路およびω6高度不飽和脂肪酸代謝経路を有し、かつω9高度不飽和脂肪酸代謝経路が優位である脂質生産菌(oleaginous microorganisms)である。ここで「ω9高度不飽和脂肪酸代謝経路が優位である」とは、オレイン酸からリノール酸に変換される経路が抑制または停止している結果として、ω6系高度不飽和脂肪酸代謝経路の進行が停滞し、ω9系高度不飽和脂肪酸代謝経路が活発化されている状態をいう。
本発明の変異微生物の親微生物として使用することができるω9系高度不飽和脂肪酸の産生能を有する微生物または脂肪酸組成中にアラキドン酸を高含量で含む微生物としては、当該性質を有する天然の微生物、および人工的な変異処理によって作製された微生物が挙げられる。人工的な変異処理によって作製された微生物としては、自然からまたは機関等から入手可能な微生物に対して、ω9系高度不飽和脂肪酸の産生能を向上させる変異、または細胞内へのアラキドン酸蓄積を促進させる変異をもたらすように変異処理を施した微生物が挙げられるが、これらに限定されない。当該変異処理を施すことができる微生物としては、例えば、モルティエレラ(Mortierella)属、コニディオボラス(Conidiobolus)属、フィチウム(Pythium)属、フィトフトラ(Phytophthora)属、ペニシリューム(Penicillium)属、クラドスポリューム(Cladosporium)属、ムコール(Mucor)属、ウンベロプシス(Umbelopsis)属、フザリューム(Fusarium)属、アスペルギルス(Aspergillus )属、ロードトルラ(Rhodotorula)属、エントモフトラ(Entomophthora)属、エキノスポランジウム(Echinosporangium)属、サプロレグニア(Saprolegnia)属等の微生物が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の変異微生物の親微生物としては、例えば、特許文献2に記載のモルティエレラ・アルピナに変異処理を施したω9系高度不飽和脂肪酸産生能を有する微生物などが例示できる。
上記に挙げた微生物への変異処理としては、常法、例えば、メタンスルホン酸エチル(EMS)、メタンスルホン酸メチル(MMS)、N−メチル−N−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(MMNG)(J. Gen. Microbiol., 1992, 138:997-1002)、5−ブロモデオキシウリジン(BrdU)、シスプラチン、マイトマイシンC等の変異原処理、またはRNAi(Appl. Environ. Microbiol., 2005, 71:5124-5128)等が挙げられる。あるいは、放射線照射、紫外線照射または高熱処理等により突然変異を誘発させる方法等が挙げられる。
ω9系高度不飽和脂肪酸の産生能を有する微生物を得るための変異としては、Δ12不飽和化酵素活性を低下または欠失させる変異が好ましい例として挙げられる。一方、脂肪酸組成中にアラキドン酸を高含量で含む微生物を得るための変異としては、ω3不飽和化酵素の働きを低下させる変異を例示することができる。しかし、本発明の変異微生物の親微生物として所望の性質を有する微生物が得られる限り、これらの変異に限定されない。変異処理では、一般的に種々の性質を有する変異微生物が得られる。これらの中から、産生する脂肪酸の組成を指標に、ω9系高度不飽和脂肪酸の産生能を有する微生物または脂肪酸組成中にアラキドン酸を高含量で含む微生物を選択することができる。具体的には、前者の場合はn−9オクタジエン酸、n−9エイコジエン酸、ミード酸等のω9系高度不飽和脂肪酸の産生を指標として微生物を選択すればよく、好ましくは、さらにγ−リノレン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸等のω6系高度不飽和脂肪酸を生産しないか、または産生量がω9系高度不飽和脂肪酸よりも少ないことを指標として、微生物を選択するとよい。一方、後者の場合は、アラキドン酸の産生を指標として微生物を選択すればよい。さらに、上記の指標に従って選択された微生物に再度1回または複数回の変異処理を施し、よりω9系高度不飽和脂肪酸の産生量が高い微生物、またはアラキドン酸をより高含量で含む微生物を選択してもよい。
一実施形態において、本発明の変異微生物は、上記親微生物に、外来のΔ17不飽和化酵素をコードする遺伝子と、外来のΔ5不飽和化酵素をコードする遺伝子および外来のΔ12不飽和化酵素をコードする遺伝子のいずれか1以上とを導入することによって作製される。導入された遺伝子にコードされたΔ17不飽和化酵素、Δ5不飽和化酵素、Δ12不飽和化酵素は、それぞれ単独または共調して高度不飽和脂肪酸に不飽和結合を導入する活性を発揮する。この活性と親微生物由来の脂肪酸代謝経路とが働く結果、変異微生物中のEPAの生合成量を高めることができる。
別の実施形態において、本発明の変異微生物は、上記親微生物に対し、外来のΔ17不飽和化酵素をコードする遺伝子と、外来のΔ5不飽和化酵素をコードする遺伝子および外来のΔ12不飽和化酵素をコードする遺伝子のいずれか1以上とを導入することに加え、その飽和脂肪酸合成酵素活性を低下させることによって作製される。ここで「飽和脂肪酸合成酵素活性を低下させること」とは、飽和脂肪酸合成酵素の発現を低下または抑制すること、飽和脂肪酸合成酵素の酵素活性を低下または抑制すること、及びそれらの組み合わせを含む。炭素数20以上の飽和脂肪酸は、ω9系高度不飽和脂肪酸経路にもω6系高度不飽和脂肪酸経路にも含まれないため、EPAの産生を高めようとする場合、必ずしも必要ではない。したがって、飽和脂肪酸の炭素鎖長を延長する反応(例えば、C18→C20)を触媒する飽和脂肪酸合成酵素の活性を低下させることで、EPAの産生効率が一層向上し、本発明の効果をより高めることができる。
図1にM. alpina 1S-4の脂肪酸の生合成経路を示す。通常、1S-4株では、ω9系高度不飽和脂肪酸経路(図中点線で囲まれた経路)はほとんど進行せず、ω6系高度不飽和脂肪酸経路が進行する。また前述のように、低温条件で培養しなければ、ω3系高度不飽和脂肪酸経路が働かず、EPAは産生されない。しかしながら本発明者らは、1S-4株に変異処理を行い、ω9系高度不飽和脂肪酸の産生能を有する微生物または脂肪酸組成中にアラキドン酸を高含量で含む微生物を作製し、これを親微生物として上記の遺伝子導入等の操作を行うことで、20℃以上の常温条件下においても、EPAを効率よく生産することができる変異微生物が得られることを見出した。
Δ5不飽和化酵素は、Δ5不飽和化酵素活性を示すタンパク質である。Δ5不飽和化酵素活性とは、脂肪酸分子のカルボキシル末端から数えて5番目と6番目の炭素原子間で脂肪酸を不飽和化する活性をいう。例えば、Δ5不飽和化酵素活性は、ジホモ−γ−リノレン酸からアラキドン酸への変換活性、エイコサテトラエン酸からエイコサペンタエン酸への変換活性を含み得る。好ましくは、本発明の変異微生物に導入される遺伝子にコードされるΔ5不飽和化酵素は、炭素鎖長20の高度不飽和脂肪酸に対して優先的にΔ5不飽和化酵素活性を示す酵素である。
Δ12不飽和化酵素は、Δ12不飽和化酵素活性を示すタンパク質である。Δ12不飽和化酵素活性とは、脂肪酸分子のカルボキシル末端から数えて12番目と13番目の炭素原子間で脂肪酸を不飽和化する活性をいう。当該酵素が炭素数18の高度不飽和脂肪酸に作用すれば、メチル末端から見るとω6位が不飽和化されることになるので、ω6不飽和化酵素の機能を代替し得る。例えば、Δ12不飽和化酵素活性は、オレイン酸から、リノール酸への変換活性を含み得る。好ましくは、本発明の変異微生物に導入される遺伝子にコードされるΔ12不飽和化酵素は、炭素鎖長18の高度不飽和脂肪酸に対して優先的にΔ12不飽和化酵素活性を示す酵素である。
Δ17不飽和化酵素は、Δ17不飽和化酵素活性を示すタンパク質である。Δ17不飽和化酵素活性とは、脂肪酸分子のカルボキシル末端から数えて17番目と18番目の炭素原子間で脂肪酸を不飽和化する活性をいう。当該酵素が炭素数20の高度不飽和脂肪酸に作用すれば、メチル末端から見るとω3位が不飽和化されることになるので、ω3不飽和化酵素の機能を代替し得る。例えば、Δ17不飽和化酵素活性は、アラキドン酸からエイコサペンタエン酸への変換活性、ジホモ−γ−リノレン酸からエイコサテトラエン酸への変換活性を含み得る。好ましくは、本発明の変異微生物に導入される遺伝子にコードされるΔ17不飽和化酵素は、炭素鎖長20の高度不飽和脂肪酸に対して優先的に作用するΔ17不飽和化酵素活性を示す酵素である。
好ましくは、本発明で使用される上記Δ17不飽和化酵素、Δ5不飽和化酵素およびΔ12不飽和化酵素(以下、「本発明で使用される不飽和化酵素」ということがある)は、常温下でそれらの酵素活性を示す。本明細書において、「常温下で酵素活性を示す」とは、酵素活性の至適温度が20℃以上、好ましくは20〜40℃であるか、または20℃において至適温度での活性の70%以上、好ましくは80%以上の活性を有することをいう。
本発明の変異微生物に導入される遺伝子にコードされるΔ5不飽和化酵素としては、例えば、ハプト藻(例えば、Isochrysis galbana)由来、ヤブレツボカビ(Thraustochytrium aureum)由来、トリパノソーマ科リーシュマニア(Leishmania major)由来、プラシノ藻オストレオコッカス属(例えば、Ostreococcus tauri、Ostreococcus lucimarinus)由来、ゾウリムシ(Paramecium tetraurelia)由来、パブロバ属(例えば、Pavlova salinaまたはRebecca salina)由来のΔ5不飽和化酵素が挙げられる。これらの酵素のアミノ酸配列は公知である(例えば、特表2007-504839号公報、Appl. Environ. Microbiol., 2011, 77, 5:1854-1861、Phytochemistry, 2007, 68, 6:785-796、Marine biotechnology, 2009, 11, 3:410-418、Appl. Environ. Microbiol., 2009, 75:529-5535)。好ましくは、本発明で使用されるΔ5不飽和化酵素は、配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるPavlova salina由来のΔ5不飽和化酵素である。
したがって、本発明で使用されるΔ5不飽和化酵素の好ましい例としては、以下のものが挙げられる。
(a)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1個または複数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入および付加から選択される変異を施されたアミノ酸配列からなり、かつΔ5不飽和化酵素活性を有するタンパク質
(c)配列番号3で示されるアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつΔ5不飽和化酵素活性を有するタンパク質
(d)配列番号2のヌクレオチド番号7〜1285に示されるヌクレオチド配列の相補鎖配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドにコードされ、かつΔ5不飽和化酵素活性を有するタンパク質
(e)配列番号2のヌクレオチド番号7〜1285で示されるヌクレオチド配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、なお好ましくは99%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドにコードされ、かつΔ5不飽和化素活性を有するタンパク質
本発明の変異微生物に導入される遺伝子にコードされるΔ12不飽和化酵素としては、例えば、Coprinus cinereus由来Δ12不飽和化酵素が挙げられる。この酵素のアミノ酸配列は公知であり(例えば、FEBS Lett., 2007, 581:315-319)、配列番号6で示される。
したがって、本発明で使用されるΔ12不飽和化酵素の好ましい例としては、以下のものが挙げられる。
(a')配列番号6に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b')配列番号6に示されるアミノ酸配列において、1個または複数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入および付加から選択される変異を施されたアミノ酸配列からなり、かつΔ12不飽和化酵素活性を有するタンパク質
(c')配列番号6で示されるアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつΔ12不飽和化酵素活性を有するタンパク質
(d')配列番号5のヌクレオチド番号52〜1377に示されるヌクレオチド配列の相補鎖配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドにコードされ、かつΔ12不飽和化酵素活性を有するタンパク質
(e')配列番号5のヌクレオチド番号52〜1377で示されるヌクレオチド配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、なお好ましくは99%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドにコードされ、かつΔ12不飽和化素活性を有するタンパク質
本発明の変異微生物に導入される遺伝子にコードされるΔ17不飽和化酵素としては、例えば、サプロレグニア(Saprolegnia)属由来またはフィトフトラ(Phytophthora)属由来のΔ17不飽和化酵素が挙げられる。これらの酵素のアミノ酸配列は公知である(例えば、Biochem. J., 2004, 378:665-671 doi:10.1042/BJ20031319、EP2010648B1)。好ましくは、本発明で使用されるΔ17不飽和化酵素は、配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるサプロレグニア・ディクリナ(Saprolegnia diclina)由来のΔ17不飽和化酵素である。
したがって、本発明で使用されるΔ17不飽和化酵素の好ましい例としては、以下のものが挙げられる。
(a'')配列番号9に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b'')配列番号9に示されるアミノ酸配列において、1個または複数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入および付加から選択される変異を施されたアミノ酸配列からなり、かつΔ17不飽和化酵素活性を有するタンパク質
(c'')配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつΔ17不飽和化酵素活性を有するタンパク質
(d'')配列番号8のヌクレオチド番号100〜1176に示されるヌクレオチド配列の相補鎖配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドにコードされ、かつΔ17不飽和化酵素活性を有するタンパク質
(e'')配列番号8のヌクレオチド番号100〜1176で示されるヌクレオチド配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、なお好ましくは99%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドにコードされ、かつΔ17不飽和化素活性を有するタンパク質
上述、(b)、(b')、(b'')に関し、「1個または複数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入および付加から選択される変異」としては、以下が挙げられる。
(b1)配列番号3、6もしくは9に示されるアミノ酸配列における、1個または複数個のアミノ酸の欠失、
(b2)配列番号3、6もしくは9に示されるアミノ酸配列における、1個または複数個のアミノ酸の他のアミノ酸への置換、
(b3)配列番号3、6もしくは9に示されるアミノ酸配列における、1個または複数個のアミノ酸の挿入、
(b4)配列番号3、6もしくは9に示されるアミノ酸配列の一末端または両末端への、合計で、1個または複数個のアミノ酸の付加、
(b5)上記(b1)〜(b4)の組み合わせであって、欠失、置換、挿入および付加されたアミノ酸の数が、合計で、1個または複数個である変異
アミノ酸配列に対するアミノ酸の欠失、置換、挿入の位置は、変異後のタンパク質に上述の不飽和化酵素活性が保持される限り、特に限定されない。
さらに、本発明で使用される不飽和化酵素は、上述した(a)〜(e)、(a')〜(e')、または(a'')〜(e'')で示されるタンパク質において、性質の類似するアミノ酸(例えば、グリシンとアラニン、バリンとロイシンとイソロイシン、セリンとトレオニン、アスパラギン酸とグルタミン酸、アスパラギンとグルタミン、リシンとアルギニン、システインとメチオニン、フェニルアラニンとチロシン等)同士の置換がさらになされたタンパク質であり得る。類似するアミノ酸による置換の位置および数は、置換後のタンパク質に所望の不飽和化酵素活性が保持される限り、特に限定されない。
上記本発明で使用される不飽和化酵素をコードする遺伝子は、上述した各酵素についての公知のアミノ酸配列や、上述した(a)〜(e)、(a')〜(e')、または(a'')〜(e'')で示されるタンパク質のアミノ酸配列に基づいて取得することができる。例えば、当該遺伝子は、上述した本発明で使用される不飽和化酵素を有する微生物から常法により単離することができる。または上述した本発明で使用される不飽和化酵素のアミノ酸配列をもとに化学的に合成することができる。
さらに、得られた本発明で使用される不飽和化酵素をコードする遺伝子の中から、一般的なスクリーニング方法により、所望の基質特異性を有する酵素をコードする遺伝子をさらに選択し、本発明に使用することができる。例えば、常温条件において不飽和結合の導入活性が高い不飽和化酵素遺伝子、炭素鎖長18の高度不飽和脂肪酸に対して基質特異性が高いΔ12不飽和化酵素をコードする遺伝子、または炭素鎖長20の高度不飽和脂肪酸に対して基質特異性が高いΔ5不飽和化酵素もしくはΔ17不飽和化酵素をコードする遺伝子を選択し、本発明に使用することができる。
本発明の変異微生物に導入されるΔ5不飽和化酵素をコードする遺伝子としては、配列番号1で示されるヌクレオチド配列からなるPavlova salina由来のΔ5不飽和化酵素をコードする遺伝子が挙げられる。
本発明の変異微生物に導入されるΔ12不飽和化酵素をコードする遺伝子としては、配列番号4で示されるヌクレオチド配列からなる上述したCoprinus cinereus由来のΔ12不飽和化酵素をコードする遺伝子が挙げられる。
本発明の変異微生物に導入されるΔ17不飽和化酵素をコードする遺伝子としては、上述したサプロレグニア(Saprolegnia)属由来またはフィトフトラ(Phytophthora)属由来のΔ17不飽和化酵素をコードする遺伝子が挙げられるが、好ましくは、配列番号7で示されるヌクレオチド配列からなるサプロレグニア・ディクリナ(Saprolegnia diclina)由来のΔ17不飽和化酵素をコードする遺伝子である。
さらに、上記で挙げたΔ5不飽和化酵素、Δ12不飽和化酵素またはΔ17不飽和化酵素をコードする遺伝子は、当該遺伝子が導入される微生物種におけるコドン使用頻度にあわせて、コドンを至適化されていることが好ましい。各種微生物種が使用するコドンの情報は、Codon Usage Database(www.kazusa.or.jp/codon/)から入手可能である。例えば、モルティエレラ属微生物に不飽和化酵素遺伝子を導入する際には、モルティエレラ属微生物のコドン使用頻度(www.kazusa.or.jp/codon/cgi-bin/showcodon.cgi?species=64518)を参考に当該遺伝子のヌクレオチド配列を改変し、コドンの至適化を行うことができる。具体的には、配列番号1で示されるΔ5不飽和化酵素遺伝子をM. alpinaのコドン使用頻度にあわせて改変すると、配列番号2のヌクレオチド番号7〜1285で示される配列のポリヌクレオチドを得ることができる。配列番号4で示されるΔ12不飽和化酵素遺伝子をM. alpinaのコドン使用頻度にあわせて改変すると、配列番号5のヌクレオチド番号52〜1377で示される配列のポリヌクレオチドを得ることができる。配列番号7で示されるΔ17不飽和化酵素遺伝子をM. alpinaのコドン使用頻度にあわせて改変すると、配列番号8のヌクレオチド番号100〜1176で示される配列のポリヌクレオチドを得ることができる。
したがって、本発明で使用されるΔ5不飽和化酵素をコードする遺伝子の好ましい例としては、以下が挙げられる。
(i) 配列番号2のヌクレオチド番号7〜1285で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド
(ii) 配列番号2のヌクレオチド番号7〜1285で示されるヌクレオチド配列において、1個または複数個のヌクレオチドの欠失、置換、挿入および付加から選択される変異を施されたヌクレオチド配列からなり、かつΔ5不飽和化酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(iii)配列番号2のヌクレオチド番号7〜1285で示されるヌクレオチド配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、なお好ましくは99%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、かつΔ5不飽和化酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(iv) 配列番号2のヌクレオチド番号7〜1285に示されるヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつΔ5不飽和化酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
本発明で使用されるΔ12不飽和化酵素をコードする遺伝子の好ましい例としては、以下が挙げられる。
(i') 配列番号5のヌクレオチド番号52〜1377で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド
(ii') 配列番号5のヌクレオチド番号52〜1377で示されるヌクレオチド配列において、1個または複数個のヌクレオチドの欠失、置換、挿入および付加から選択される変異を施されたヌクレオチド配列からなり、かつΔ12不飽和化酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(iii')配列番号5のヌクレオチド番号52〜1377で示されるヌクレオチド配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、なお好ましくは99%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、かつΔ12不飽和化酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(iv') 配列番号5のヌクレオチド番号52〜1377に示されるヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつΔ12不飽和化酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
本発明で使用されるΔ17不飽和化酵素をコードする遺伝子の好ましい例としては、以下が挙げられる。
(i'') 配列番号8のヌクレオチド番号100〜1176で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド
(ii'') 配列番号8のヌクレオチド番号100〜1176で示されるヌクレオチド配列において、1個または複数個のヌクレオチドの欠失、置換、挿入および付加から選択される変異を施されたヌクレオチド配列からなり、かつΔ17不飽和化酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(iii'')配列番号8のヌクレオチド番号100〜1176で示されるヌクレオチド配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、なお好ましくは99%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、かつΔ17不飽和化酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(iv'') 配列番号8のヌクレオチド番号100〜1176に示されるヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつΔ17不飽和化酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
本発明において、上記(i)〜(iv)、(i')〜(iv')および(i'')〜(iv'')のポリヌクレオチドは、好ましくは、モルティエレラ属微生物、より好ましくはM. alpina、またはM. alpinaに変異処理を施すことによって作製された微生物に導入される。
さらに、上記(ii)〜(iv)、(ii')〜(iv')および(ii'')〜(iv'')のポリヌクレオチドのコドンは、モルティエレラ属微生物で使用される別のコドンに置き換えられていてもよい。モルティエレラ属微生物のコドンおよびその頻度を下記表1に示す。置き換えられるコドンはモルティエレラ属微生物において使用頻度の高いコドンであることが望ましく、頻度5%以上のものであることが好ましい。したがって、本発明においては、上記(i)〜(iv)、(i')〜(iv')および(i'')〜(iv'')のポリヌクレオチドの代わりに、そのコドンの少なくとも一部(例えば、90%以下、好ましくは50%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下)が、下記表1に従って同じアミノ酸をコードする別のコドンに置き換えられたポリヌクレオチドが使用されてもよい。
本発明において、親微生物に対して上記の外来の不飽和化酵素遺伝子を導入することに加え、その飽和脂肪酸合成酵素の活性を低下させると、得られた変異微生物中における飽和脂肪酸の蓄積を少なくすることができ、その結果、不飽和脂肪酸の蓄積量を向上させることができ、EPAの蓄積を向上させることができる。飽和脂肪酸の産生に関わる微生物の飽和脂肪酸合成酵素は種々のものが知られている。例えば、モルティエレラ属微生物のM. alpina 1S-4株の飽和脂肪酸合成酵素としては、Appl Microbiol Biotechnol (2008) 81:497-503に記載されている、C18飽和脂肪酸からC20飽和脂肪酸の合成を触媒する酵素である飽和脂肪酸鎖長延長酵素(Mortierella alpina saturated fatty acid elongase;MAELO)が挙げられる。
飽和脂肪酸合成酵素の活性を低下させる手段としては、例えば、微生物に上述した変異処理を施し、当該酵素の発現が欠失又は低下した変異株、または当該酵素の活性が低下または消失した変異株を作製すればよい。あるいは、飽和脂肪酸合成酵素の発現に対してRNA干渉(RNAi)を誘導することも可能である。例えば、上記酵素の転写産物と相補的になるような当該酵素の部分配列を設計し、これを恒常的発現プロモーターにて導入して微生物中でshRNAを誘導するか、または当該shRNAを微生物に直接導入することで、当該酵素の発現を抑制する。またあるいは、上記酵素の遺伝子のノックアウトによる方法を採用することもできる。
本発明で使用される不飽和化酵素をコードする遺伝子は、ベクターを用いて親微生物へ導入することができる。さらに、上述したRNAiを誘導する配列(以下、RNAi誘導コンストラクトともいう)も、ベクターを用いて親微生物へ導入することができる。導入に使用されるベクターの種類は、特に限定されず、親微生物、クローニングの方法、遺伝子発現の目的等に応じて適宜選択して使用することができる。例えば、ベクターとしては、親微生物がモルティエレラ属微生物の場合、pD4ベクター(Appl. Environ. Microbiol., November 2000, 66(11):4655-4661)、pDZeoベクター(J. Biosci. Bioeng., December 2005, 100(6):617-622)、pDura5ベクター(Appl. Microbiol. Biotechnol., 2004, 65(4):419-425)、pDXベクター(Curr. Genet., 2009, 55(3):349-356)、pBIG3ura5(Appl. Environ. Microbiol., 2009, 75:5529-5535)等が挙げられるが、親微生物内で導入した遺伝子を発現させることができるベクターであれば、これらに限定されない。
さらに上記ベクターには、組み込んだ不飽和化酵素遺伝子またはRNAi誘導コンストラクトを発現させるためのプロモーター配列もしくは転写終結シグナル配列、または不飽和化酵素遺伝子またはRNAi誘導コンストラクトが導入された形質転換体を選択するための選択マーカー遺伝子が含まれていることが好ましい。プロモーターとしては、親微生物がモルティエレラ属微生物の場合、高発現プロモーターを利用することができる。モルティエレラ属微生物用の好ましい高発現プロモーターとしては、M. alpina由来のSSA2プロモーター(配列番号12)、PP3プロモーター(配列番号13)、HSCプロモーター(配列番号14)、hisプロモーター(配列番号15)、およびこれらのプロモーターの配列に置換、欠失、付加等を加えて改変したプロモーターが挙げられるが、導入した遺伝子を高発現させることができれば、これらに限定されない。選択マーカー遺伝子としては、例えば、カナマイシン耐性遺伝子、ストレプトマイシン耐性遺伝子、カルボキシン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子、ロイシン、ヒスチジン、メチオニン、アルギニン、トリプトファン、リジン等のアミノ酸要求変異を相補する遺伝子等、ウラシル、アデニン等の核酸塩基要求性変異を相補する遺伝子等を挙げることができる。好ましい選択マーカー遺伝子の例としては、ウラシル要求性変異を相補する遺伝子が挙げられる。例えば、M. alpinaのウラシル要求性変異株(Biosci Biotechnol Biochem., 2004, 68, p.277-285)が開発されている。このようなウラシル要求株に対しては、選択マーカー遺伝子としてオロチジン−5'−リン酸デカルボキシラーゼ遺伝子(ura3遺伝子)、またはオロチジル酸ピロホスホリラーゼ遺伝子(ura5遺伝子)を使用することができる。ベクターを構築するための手順や使用する試薬類、例えば制限酵素またはライゲーション酵素等の種類については、特に限定されるものではない。当業者は、通常の知識に従って、または市販品を適宜用いてベクターを構築することができる。
上記ベクターには、Δ5不飽和化酵素をコードする遺伝子、Δ12不飽和化酵素をコードする遺伝子、またはΔ17不飽和化酵素をコードする遺伝子のいずれか1つが含まれていればよいが、それらの遺伝子の複数、例えばΔ5不飽和化酵素の遺伝子とΔ17不飽和化酵素の遺伝子、Δ12不飽和化酵素の遺伝子とΔ17不飽和化酵素の遺伝子、またはΔ12不飽和化酵素の遺伝子とΔ5不飽和化酵素の遺伝子とΔ17不飽和化酵素の遺伝子が含まれていてもよい。したがって、本発明の変異微生物には、上記不飽和化酵素遺伝子のいずれか1つを含むベクターが導入されていてもよく、複数の上記不飽和化酵素を含むベクターが導入されていてもよく、または異なる不飽和化酵素を含む2種類以上のベクターが導入されていてもよい。さらに、本発明の変異微生物には、RNAi誘導コンストラクトを含むベクターが導入されていてもよい。当該RNAi誘導コンストラクトは、上述した不飽和化酵素を含むベクターと同じベクター中に組み込まれていてもよく、上述した不飽和化酵素を含むベクターとは別のベクター中に組み込まれていてもよい。
本発明の変異微生物の作製用に構築された形質転換バイナリーベクターの一例の構造を、図2〜6に示す。当該ベクターにおいては、恒常的高発現プロモーターであるPP3プロモーター、SSA2プロモーター、hisプロモーターまたはHSCプロモーターの下流に、Δ17不飽和化酵素、Δ5不飽和化酵素もしくはΔ12不飽和化酵素、または飽和脂肪酸鎖長延長化酵素MAELOの発現を抑制するRNA(MAELORNAi)をコードするポリヌクレオチドが連結されており、さらにターミネーターとしてsdhBターミネーター、形質転換体の選択マーカーとしてura5遺伝子が組み込まれている。
上記ベクターを本発明の微生物に導入するには、エレクトロポレーション法、パーティクルガン(遺伝子銃)法、コンピテント細胞法、プロトプラスト法、リン酸カルシウム共沈法、等の公知の方法を使用することができる。さらに、親微生物としてモルティエレラ属微生物を用いた場合の遺伝子導入法としては、後述の実施例に記載のアグロバクテリウムを介したATMT法(Appl. Environ. Microbiol., 2009, 75:5529-5535)を好適に例示することができ、あるいはATMT法の改変法等を挙げることができる。しかし、目的の形質を安定して保持する形質転換体を得ることができれば、遺伝子導入法はこれらの方法に限定されない。
あるいは、上述の不飽和化酵素をコードする遺伝子は、親微生物のゲノムに直接導入されてもよい。不飽和化酵素の遺伝子とともに、上述したプロモーター配列、転写終結シグナル配列または選択マーカー遺伝子をともに導入してもよい。さらに、異なる不飽和化酵素をコードする複数の遺伝子を一緒に導入してもよい。遺伝子をゲノムに直接導入する方法としては、相同組換え法が挙げられる。
以上の手順により親微生物に、外来のΔ17不飽和化酵素遺伝子と、外来のΔ5不飽和化酵素遺伝子および外来のΔ12不飽和化酵素遺伝子から選択されるいずれか1以上とを導入することによって、本発明の変異微生物を作製することができる。あるいは、親微生物に、外来のΔ17不飽和化酵素遺伝子と、外来のΔ5不飽和化酵素遺伝子および外来のΔ12不飽和化酵素遺伝子から選択されるいずれか1以上とを導入するとともに、飽和脂肪酸合成酵素の活性を低下させる改変を加えることによって、本発明の変異微生物を作製することができる。本発明の変異微生物は、導入された遺伝子にコードされる不飽和化酵素と、親微生物が有するω9系高度不飽和脂肪酸代謝経路またはアラキドン酸を高発現する脂肪酸代謝経路との働きによって、常温下でも、高度不飽和脂肪酸に対するω3不飽和化酵素活性を示し、高いEPA生合成能を発揮することができる。さらに、飽和脂肪酸合成酵素を抑えた場合、一層高いEPA生合成能を発揮することができる。したがって、本発明の変異微生物を培養することによって、当該微生物の細胞内にEPAを高含有する脂質が生産される。さらに、本発明の変異微生物が産生するEPAを高含有する脂質は、オレイン酸やアラキドン酸の蓄積量が低減されているため、生産された脂質を精製することにより、純度の高いEPAを効率よく生産することが可能になる。
したがって、本発明のさらなる実施形態は、上記本発明の変異微生物を培養することを含む、EPAを含有する脂質の生産方法である。また本発明の別のさらなる実施形態は、上記本発明の変異微生物により生産されたEPAを含有する脂質を精製することを含む、EPAの生産方法である。
本発明のEPAを含有する脂質の生産方法において、本発明の変異微生物は、液体培地または固体培地に接種し培養することができる。例えば、当該変異微生物が菌類の場合、菌株の胞子、菌糸、または予め培養して得られた前培養液を、上記培地に接種して培養することができる。培地の炭素源としてはグルコース、フルクトース、キシロース、サッカロース、マルトース、可溶性デンプン、コーンスターチ、グリセロール、マンニトール、脂質、アルカン、アルケン、有機酸、各種アルコール類等が挙げられるが、これらに限定されない。窒素源としてはペプトン、酵母エキス、麦芽エキス、肉エキス、カザミノ酸、コーンスティープリカー、大豆タンパク、脱脂ダイズ、綿実カス、小麦フスマ等の天然窒素源の他に、尿素等の有機窒素源、並びに、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム等の無機窒素源が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、大豆油、ココナッツ、コーン油等の脂質を添加してもよい。また、微量栄養源として、リン酸塩、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸銅等の無機塩、またはビタミン等も適宜添加することができる。これらの培地成分は、本発明の変異微生物の生育を害しない濃度であれば特に制限されない。例えば、炭素源は培地中0.1〜40質量%、好ましくは1〜25質量%、窒素源は0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜10質量%の濃度とすることができる。M. alpinaまたはその変異株を培養する場合、後述のCzapek培地、Czapek-dox培地、グルコース・酵母エキス(以下、「GY」ともいう)培地、SC培地等を使用することができる。あるいは、モルティエレラ属微生物用の培地については、公知の文献(例えば国際公開番号第98/29558号)を参考にすることもできる。培地のpHは4〜10、好ましくは6〜9であり得る。培養は、通気撹拌培養、振盪培養または静置培養であり得る。
本発明の変異微生物の培養は、至適生育温度で行われる。例えば、本発明の変異微生物は、約5〜60℃、好ましくは約10〜50℃、より好ましくは約10〜40℃、さらに好ましくは約20〜40℃、なお好ましくは約20〜30℃で培養することができる。例えば、M. alpinaまたはその変異株は、約10〜40℃、好ましくは約20〜40℃、より好ましくは約20〜30℃で培養することができる。本発明の変異微生物にEPAを効率よく生産させるためには、培養温度は20℃以上、好ましくは約20〜40℃、なお好ましくは約20〜30℃にするのがよい。
培養期間は、2〜20日間、好ましくは2〜14日間である。モルティエレラ属微生物の培養法については、公知の文献(例えば、特開平6−153970号公報)を参考にすることもできる。あるいは、清水ら(J. Am. Oil. Chem. Soc., 1989, 66:342-347、Appl. Microbiol. Biotechnol., 1989, 32:1-4)記載の方法に従って、培地に外部より脂質を添加して培養する方法を採用することもできる。
上記条件で本発明の変異微生物を培養することによって、当該微生物の細胞内にEPAを高含有する脂質が生産される。本発明の変異微生物を20℃以上の条件下で10日間培養した場合、当該微生物に含まれる脂質の脂肪酸組成中のEPA含量は、20質量%以上である。微生物細胞中の脂肪酸組成は、ガスクロマトグラフィー分析により測定することができる。
培養終了後、培養液を遠心分離、ろ過等の常用の手段にかけ、微生物細胞を分離する。例えば、培養液を遠心分離またはろ過して液体分を除き、分離された細胞を洗浄後、凍結乾燥、風乾等により乾燥させ、乾燥細胞を得る。当該乾燥細胞から、有機溶媒抽出等の公知の手法により、目的とする脂質を抽出することができる。有機溶媒としてはヘキサン、エーテル、酢酸エチル、酢酸ブチル、クロロホルム、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン等の、高度不飽和脂肪酸の溶解性が高く、かつ水と分離可能な溶媒が挙げられる。または、これらの有機溶媒を組み合わせて使用することもできる。抽出物から減圧等で有機溶媒を留去することにより、目的の脂質を抽出することができる。あるいは、細胞を乾燥させずに、湿細胞から脂質の抽出を行うこともできる。得られた脂質は、脱ガム、脱酸、脱臭、脱色、カラム処理、蒸留等一般的な方法を適宜用いてさらに精製されてもよい。
上記抽出した脂質の中には、目的物であるEPA以外に、共雑物となる各種脂肪酸が含まれている。したがって、上記脂質をさらに精製してより純度の高いEPAを取得することができる。EPAは、脂質から直接分離することもできるが、一旦脂質中の脂肪酸を低級アルコールとのエステル誘導体に変換した後に、目的とするEPAのエステル誘導体を分離することが好ましい。エステル誘導体は、炭素数、二重結合の数、位置の違い等に応じて、各種分離精製操作を用いることによって分離することができるため、容易に目的の脂肪酸のエステル誘導体を得ることができる。しかしながら、EPAと炭素数が同一で二重結合数が一つ異なるアラキドン酸は、EPAとの分離が難しいため、EPAを含有する脂質中にアラキドン酸は少ないことが好ましい。エステル誘導体は、エチルエステル誘導体が好ましい。エステル化には、塩酸、硫酸、BF3等の酸触媒、またはナトリウムメトキシド、水酸化カリウム等の塩基触媒を含む低級アルコールを使用することができる。得られたエステル誘導体から、カラムクロマトグラフィー、低温結晶化法、尿素付加分別法等を単独または組み合わせて、目的とするEPAのエステル誘導体を分離することができる。分離したEPAのエステル誘導体を、アルカリで加水分解した後、エーテル、酢酸エチル等の有機溶媒で抽出することにより、EPAを精製することができる。EPAは塩の形態で精製されてもよい。
本発明によるEPAを高含有する脂質の生産を工業的な規模で行う場合、例えば、本発明の変異微生物をタンク中等で大規模培養し、フィルタープレス等でろ過し、細胞を回収して乾燥後、ボールミル等で細胞を破砕し、有機溶媒で脂質を抽出することができる。また、工業規模で微生物中の成分を抽出して利用する方法や、脂質からEPAを精製する方法は、数多く知られており、これらを適宜改変して本発明の方法に利用することもできる。
本発明で得られたEPAは、ヒトまたは非ヒト動物用の医薬品、化粧料、食品、飼料等の製造に使用することができる。当該医薬品の剤型としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、ドライシロップ剤、液剤、懸濁剤等の経口剤;吸入剤、坐剤等の経腸製剤;点滴剤;注射剤;外用剤;経皮、経粘膜、経鼻剤;吸入薬;貼布剤等が挙げられる。また当該化粧料の形態としては、クリーム、乳液、ローション、懸濁液、ジェル、パウダー、パック、シート、パッチ、スティック、ケーキ等、化粧品が通常とり得る任意の形態が挙げられる。
上記医薬品または化粧料は、EPAまたはその塩を有効成分として含有する。上記医薬品または化粧料はまた、医薬として許容される担体または化粧料として許容される担体、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、pH調整剤、分散剤、乳化剤、防腐剤、酸化防止剤、着色剤、アルコール、水、水溶性高分子、香料、甘味料、矯味剤、酸味料等を含有していてもよく、さらに必要に応じて他の有効成分、例えば薬効成分、化粧成分等を含有していてもよい。上記医薬または化粧料は、EPAまたはその塩に、上記担体や他の有効成分を剤型に応じて配合し、常法に従って調製することにより、製造することができる。上記医薬または化粧料におけるEPAの含有量は、その剤型により異なるが、通常は、0.1〜99質量%、好ましくは1〜80質量%の範囲である。
上記飲食品または飼料は、EPAまたはその塩を有効成分として含有する。これらの飲食品または飼料は、血小板凝集阻害作用、血中中性脂肪低下作用、抗動脈硬化作用、血液粘度低下作用、血圧降下作用、抗炎症作用、抗腫瘍作用等の効果を企図して、その旨を表示した健康食品、機能性飲食品、特定保健用飲食品、病者用飲食品、家畜、養殖、競走馬、鑑賞動物等のための飼料、ペットフード等であり得る。
上記飲食品または飼料の形態は特に制限されず、EPAまたはその塩を配合できる全ての形態が含まれる。例えば、当該飲食品の形態としては、固形、半固形または液状であり得、あるいは、錠剤、チュアブル錠、粉剤、カプセル、顆粒、ドリンク、ゲル、シロップ、経管経腸栄養用流動食等の各種形態が挙げられる。具体的な飲食品の形態の例としては、緑茶、ウーロン茶や紅茶等の茶飲料、コーヒー飲料、清涼飲料、ゼリー飲料、スポーツ飲料、乳飲料、炭酸飲料、果汁飲料、乳酸菌飲料、発酵乳飲料、粉末飲料、ココア飲料、アルコール飲料、精製水等の飲料、バター、ジャム、ふりかけ、マーガリン等のスプレッド類、マヨネーズ、ショートニング、カスタードクリーム、ドレッシング類、パン類、米飯類、麺類、パスタ、味噌汁、豆腐、牛乳、ヨーグルト、スープまたはソース類、菓子(例えばビスケットやクッキー類、チョコレート、キャンディ、ケーキ、アイスクリーム、チューインガム、タブレット)等が挙げられる。上記飼料は、飲食品とほぼ同様の組成や形態で利用できることから、本明細書における飲食品に関する記載は、飼料についても同様に当てはめることが出来る。
上記飲食品または飼料は、EPAまたはその塩、ならびに飲食品や飼料の製造に用いられる他の飲食品素材、各種栄養素、各種ビタミン、ミネラル、アミノ酸、各種油脂、種々の添加剤(たとえば呈味成分、甘味料、有機酸等の酸味料、界面活性剤、pH調整剤、安定剤、酸化防止剤、色素、フレーバー)等を配合して、常法に従って調製することにより製造することができる。あるいは、通常食されている飲食品または飼料にEPAまたはその塩を配合することにより、本発明に係る飲食品または飼料を製造することができる。上記飲食品または飼料におけるEPAまたはその塩の含有量は、食品の形態により異なるが、通常は、0.01〜80質量%、好ましくは0.1〜50質量%、より好ましくは1〜30質量%の範囲である。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
(試薬および培地)
Czapek-Dox寒天培地(3%(w/v)スクロース、0.2% NaNO3、0.1% KH2PO4、0.05% KCl、0.05% MgSO4・7H2O、0.001% FeSO4・7H2O、2%(w/v)寒天、pH6.0);
GY培地(2%(w/v)グルコース、1%(w/v)酵母エキス、pH6.0);
寒天培地(1% glucose、0.5%酵母エキス、0.005% Triton X-100、2% agar);
LB-Mg寒天培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス、85mM NaCl、0.5mM MgSO4・7H2O、0.5mM NaOH、1.5%寒天、pH7.0);
最少培地(MM)(10mM K2HPO4、10mM KH2PO4、2.5mM NaCl、2mM MgSO4・7H2O、0.7mM CaCl2、9μM FeSO4・7H2O、4mM (NH4)2SO4、10mM グルコース、pH7.0);
誘導培地(IM)(MMに0.5%(w/v)グリセロール、200μM アセトシリンゴン、40mM 2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)を加えて、pH5.3に調製);
SC培地(5.0g Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids and Ammonium Sulfate(Difco)、1.7g (NH4)2SO4、20gグルコース、20g寒天、20mgアデニン、30mgチロシン、1.0mgメチオニン、2.0mgアルギニン、2.0mgヒスチジン、4.0mgリジン、4.0mgトリプトファン、5.0mgスレオニン、6.0mgイソロイシン、6.0mgロイシン、6.Omg/Lフェニルアラニン);
セフォタキシム、スペクチノマイシン、Nile blue A(Sigma)
制限酵素、ライゲーション用酵素等:タカラバイオまたはNew England BioLabs製
(参考例1)Δ5不飽和化酵素遺伝子(PsD5m; Pavlova (Rebecca) salina由来)のコドン至適化
パブロバ(レベッカ)・サリーナ(Pavlova (Rebecca) salina)由来のΔ5不飽和化酵素遺伝子(C PsD5m;配列番号1)のコドンを、M. alpinaのコドン使用頻度に基づいて至適化し、得られた遺伝子配列のCDS前後にSpeIおよびBamHIサイトを構築し、全合成を行った(Life Technologies社)。当該遺伝子の至適化および制限酵素切断部位構築後のヌクレオチド配列を配列番号2に示す。当該遺伝子は、SpMA-RQ(ampR)プラスミドにクローニングした。
(参考例2)Δ12不飽和化酵素遺伝子(CopΔ12m; Coprinus cinereus由来)のコドン至適化
参考例1と同様に、コプリナス・シネレウス(Coprinus cinereus)由来のΔ12不飽和化酵素遺伝子(CopΔ12m;配列番号4)のコドンを、M. alpinaのコドン使用頻度に基づいて至適化し、得られた遺伝子配列のCDS前後にSpeIおよびBamHIサイトを構築し、全合成を行った(Life Technologies社)。当該遺伝子の至適化および制限酵素切断部位構築後のヌクレオチド配列を配列番号5に示す。当該遺伝子は、SpMA-RQ(ampR)プラスミドにクローニングした。
(参考例3)Δ17不飽和化酵素遺伝子(Saprolegnia diclina由来)のコドン至適化
参考例1と同様に、糸状菌サプロレグニア(Saprolegnia diclina)由来のΔ17不飽和化酵素遺伝子(Δ17m;配列番号7)のコドンを、M. alpinaのコドン使用頻度に基づいて至適化し、得られた遺伝子配列のCDS前後にSpeIおよびBamHIサイトを構築し、全合成を行った(Life Technologies社)。当該遺伝子の至適化および制限酵素切断部位構築後のヌクレオチド配列を配列番号8に示す。当該遺伝子は、SpMA-RQ(ampR)プラスミドにクローニングした。
(参考例4)飽和脂肪酸鎖長延長酵素MAELOの単離、およびRNAi誘導コンストラクトの構築
文献(Eur. J. Biochem., 1999, 260:208-16)記載の方法に基づき、Mortierella alpina 1S-4のゲノムを鋳型に、特許文献(特開2008-073030)を参考にMAELOに特異的なプライマーを設計し、MAELOの遺伝子の全長をサブクローニングした。当該遺伝子の全長を配列番号10に示す。MAELO発現をRNAiにより抑制するために、文献(Appl. Environ. Microbiol., 2005, 71:5124-5128)に基づきMAELO部分配列を互いに相補的になる向きでpBIG35HSCpプラスミドにクローニングし、MAELORNAiをコードするDNA(MAELOのRNAi誘導コンストラクト)を含むpBIG35HSCpMAELORNAiを構築した(図2参照)。MAELORNAiの配列を配列番号11に示す。
(参考例5〜8)遺伝子導入用バイナリーベクターの構築
参考例1〜3で調製した各プラスミドを、SpeIおよびBamHI制限酵素で処理し、得られたΔ5不飽和化酵素遺伝子、Δ12不飽和化酵素遺伝子、Δ17不飽和化酵素遺伝子の断片を、恒常的高発現プロモーターであるhis プロモーター(配列番号15)、PP3プロモーター(配列番号13)またはSSA2プロモーター(配列番号12)を含むプラスミドpBIG35(京都府立大学から提供されたpBIG2RHPH2を改変、Appl. Environ. Microbiol., 2009, 75:5529-5535に記載)に連結し、発現カセットを構築した。当該発現カセットを、さらに、ウラシル要求性のマーカー遺伝子(ura5)とタンデムに連結させ、形質転換用バイナリーベクター、pBIG35hispPsD5m(Δ5不飽和化酵素遺伝子:参考例5)pBIG35PP3pCopD12m(Δ12不飽和化酵素遺伝子:参考例6)、pBIG35SSA2pD17m(Δ17不飽和化酵素遺伝子:参考例7)を構築した。さらに、これらと参考例4のpBIG35HSCpMAELORNAiとを連結し、pBIG35PP3pCopD12mSSA2pD17mhispPsD5mHSCpMAELORNAi(Δ5不飽和化酵素遺伝子、Δ12不飽和化酵素遺伝子、Δ17不飽和化酵素遺伝子およびMAELORNAi:参考例8)を構築した。図3〜6に参考例4〜8の各ベクターの構造をそれぞれ示す。
(参考例9)脂肪酸組成中にアラキドン酸を高含量で含む微生物の調製
M. alpina 1S-4株をCzapek-Dox寒天培地に接種し、28℃で2週間培養し、胞子を形成させた。Tween 40を1滴含む滅菌水50mLを培地に注ぎ、胞子を採取した。得られた胞子懸濁液を4枚重ねのガーゼによりろ過し、ろ液を遠心分離(5,000rpm、10分間)後、上清を除去し、胞子を得た。胞子を50mM Trisマレイン酸緩衝液(pH7.5)に1×106/mLになるように懸濁し、次いで、MNNG(N-Methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine)を100pg/mLの濃度になるように添加した。 この胞子懸濁液を28℃、20分間往復振とう培養に供した。10% sodium thiosulphate(w/v)3mLを胞子懸濁液1mLに加え、遠心分離(5,000rpm、10分間)を行った。上清を除去後、滅菌蒸留水を加え、遠心分離、その後の上清除去により胞子の洗浄を行った。胞子の洗浄操作(滅菌蒸留水添加、遠心分離、上清除去)をもう1回繰り返した。
MNNG処理胞子をGY培地に接種し、12℃で2〜3日間培養した。培養液をガラスフィルター(ポアサイズ20-30μm)によりろ過し、発芽前の胞子を得た。 これをGY寒天培地に接種し、28℃で2日間培養した。出現したコロニーについては、1回の変異処理実験当たり、100個のコロニーをランダムにピックアップし、胞子懸濁液の液体培養を行った。液体培養では、胞子懸濁液を2mL GY培地含有10mL容三角フラスコに接種し、往復振とう(120ストローク/分)しながら培養した。
28℃で5日間培養後、遠心分離により得られた菌体を、蒸留水で洗浄後、100℃で乾燥し、菌体脂肪組成をガス液体クロマトグラフィー(GLC)(5% Advanced DS on 80/100 mesh Chromosorb W、3mm×2m、カラム温度:190℃)により測定した。合計1300点のコロニーから得られた菌体の脂肪酸組成を測定した。測定した菌体のアラキドン酸の産生量を指標に、アラキドン酸を脂肪酸組成中に約55%産生するST1358株を選択した。
(参考例10)ω9系高度不飽和脂肪酸の産生能を有する微生物の調製
製造例1と同様に、M. alpina 1S-4株より調製した胞子懸濁液をMNNG処理し、MNNG処理胞子から得られたコロニーを液体培養し、得られた菌体の脂肪酸組成をGLCにより測定した。測定した菌体のω9脂肪酸の産生を指標に、ミード酸を脂肪酸組成中に約17%産生するJT180株を選択した。
(製造例1)Δ5不飽和化酵素遺伝子、Δ12不飽和化酵素遺伝子、Δ17不飽和化酵素遺伝子およびMAELORNAi導入株の作製
安藤らの報告に基づき(Appl. Environ. Microbiol., 2009, 75:5529-5535)、参考例8のΔ5不飽和化酵素遺伝子、Δ12不飽和化酵素遺伝子、Δ17不飽和化酵素遺伝子およびMAELORNAi導入用バイナリーベクターpBIG35PP3pCopD12mSSA2pD17mhispPsD5mMAELORNAiを、アグロバクテリウムを介したATMT法でホスト株であるM. alpina 1S-4(ウラシル要求性株)に以下の手順で導入した。
M. alpina 1S-4株(ウラシル要求性株)を0.05mg/mLウラシル含有Czapek-Dox寒天培地で培養して得た培養物を集菌し、Miracloth(Calbiochem)でろ過することで、M. alpinaの胞子懸濁液を新たに調製した。
アグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens C58C1、京都府立大学から提供)に、参考例8で作製したΔ5不飽和化酵素遺伝子、Δ12不飽和化酵素遺伝子、Δ17不飽和化酵素遺伝子およびMAELORNAi導入用バイナリーベクターをエレクトロポレーションで形質転換し、LB-Mg寒天培地上で28℃、48時間培養した。PCR法で当該ベクターを含むアグロバクテリウムを確認した。当該ベクターを有するアグロバクテリウムを最小培地(MM)で2日間培養し、5,800×gで遠心分離し、新鮮なIMを加えて懸濁液を調製した。当該懸濁液を、8〜12時間、28℃でOD660が0.4から3.7になるまでロータリーシェーカーで誘導培養した。
上記アグロバクテリウムの菌懸濁液100μLを、等量の上記M. alpina懸濁液(108mL-1)と混合し、ニトロセルロース膜(直径70mm;hardened low-ash grade 50、Whatman)を載せた共培養培地(IMと同様の組成、ただし、10mMグルコースの代わりに5mMグルコースおよび1.5%寒天を含む)上に塗布し、23℃で2〜5日間培養した。共培養後、当該膜をウラシルフリー、50g/mLセフォタキシムおよび50g/mLスペクチノマイシン、0.03% Nile blue A(Sigma)を含むSC寒天培地に移し、28℃で5日間培養した。可視可能な真菌コロニーからの菌糸を、新鮮なウラシルフリーSC培地に移した。ウラシルフリーSC寒天培地で増殖することができるが、5-フルオロオロチン酸(5-FOA)を含むGY寒天培地では増殖できない菌体を、形質を安定して保持するΔ5不飽和化酵素遺伝子、Δ12不飽和化酵素遺伝子、Δ17不飽和化酵素遺伝子およびMAELORNAi導入株と判断した。形質を安定して保持する形質転換体を選抜するために当該作業を3回行った。
(製造例2)
ホスト株としてM. alpina 1S-4の代わりにST1358株(参考例9)を用いた以外は、製造例1と同様にして、Δ5不飽和化酵素遺伝子、Δ12不飽和化酵素遺伝子、Δ17不飽和化酵素遺伝子およびMAELORNAi導入株を製造した。
(製造例3)
ホスト株としてM. alpina 1S-4の代わりにJT180株(参考例10)を用いた以外は、製造例1と同様にして、Δ5不飽和化酵素遺伝子、Δ12不飽和化酵素遺伝子、Δ17不飽和化酵素遺伝子およびMAELORNAi導入株を製造した。
(試験例1)遺伝子導入株における脂肪酸組成および生産量
製造例1〜3で得られた変異株を、それぞれ10mL GY培地中、28℃で10日間、300rpmで好気的に培養した。対照として、M. alpina 1S-4野生株も同様に培養した。それぞれの培養液から、吸引ろ過にて遺伝子導入M. alpina菌体を回収し、120℃で3時間乾燥した。乾燥菌体に、0.5mg/mLの濃度にて内部標準(M. alpinaが生合成できない炭素数23の飽和脂肪酸)を含むジクロロメタン溶液1 mL、塩酸メタノール2 mLを加え、55℃、2時間の温浴にて脂肪酸のメチルエステル化処理を行った。その後、蒸留水1 mLとヘキサン4 mLを加え、ヘキサン層を抽出し、減圧遠心して脂肪酸メチルエステルを回収した。それぞれのサンプルをクロロホルムに溶解し、ガス液体クロマトグラフィー(GLC)にてサンプル中の脂肪酸組成を測定した。GLCは、島津社製GC-2010を用い、GLサイエンス社製キャピラリーカラムTC70(0.25mm×60m)を用い、カラム温度180℃、気化室温度250℃、検出器温度250℃、キャリアガスHe、メイクアップガスN2、H2流量40 mL/min、Air流量400 mL/min、スプリット比50、分析時間30minの条件にて行った。抽出された脂肪酸量を、GLCのチャートのピーク面積値から、内部標準の脂肪酸量を基準として定量した。
結果を図7に示す。M. alpina 1S-4にΔ5不飽和化酵素遺伝子、Δ12不飽和化酵素遺伝子、Δ17不飽和化酵素遺伝子およびMAELORNAiを導入しても、ほとんどの形質転換株においてエイコサペンタエン酸(EPA)の蓄積が見られなかったことに対して、ST1358株の形質転換株ではEPAの蓄積が総脂肪酸あたり最大52%、またJT180株の形質転換株では、EPAの蓄積が総脂肪酸あたり最大58%以上を示した。さらに、ST1358株およびJT180株の形質転換株では、エイコサテトラエン酸(ETA)の蓄積が1%以下に抑えられており、かつアラキドン酸(ARA)もST1358株で5%以下、JT180株で10%以下に抑えられていた。さらに、ST1358株およびJT180株の形質転換株による脂肪酸産生量は、M. alpina 1S-4野生株に比べて増加しており、自身のホスト株と比較しても同等またはそれ以上であった。

Claims (13)

  1. ω9系高度不飽和脂肪酸の産生能を有する微生物または脂肪酸組成中にアラキドン酸を高含量で含む微生物に、外来のΔ17不飽和化酵素遺伝子と、外来のΔ5不飽和化酵素遺伝子および外来のΔ12不飽和化酵素遺伝子から選択されるいずれか1以上とを導入した変異微生物であって、20℃以上の条件下で10日間培養後における脂肪酸組成中のエイコサペンタエン酸含量が20%以上である変異微生物。
  2. さらに飽和脂肪酸合成酵素活性が低下されている、請求項1記載の変異微生物。
  3. 微生物がモルティエレラ(Mortierella)属微生物である、請求項1または2記載の変異微生物。
  4. 微生物がモルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)である、請求項1〜3のいずれか1項記載の変異微生物。
  5. Δ5不飽和化酵素遺伝子が、パブロバ・サリナ(Pavlova salina)に由来する、請求項1〜4のいずれか1項記載の変異微生物。
  6. Δ5不飽和化酵素遺伝子が以下のタンパク質をコードする遺伝子である、請求項1〜4のいずれか1項記載の変異微生物:
    (a)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
    (b)配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1個または複数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入および付加から選択される変異を施されたアミノ酸配列からなり、かつΔ5不飽和化酵素活性を有するタンパク質;
    (c)配列番号3で示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつΔ5不飽和化酵素活性を有するタンパク質;
    (d)配列番号2のヌクレオチド番号7〜1285に示されるヌクレオチド配列の相補鎖配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドにコードされ、かつΔ5不飽和化酵素活性を有するタンパク質;あるいは、
    (e)配列番号2のヌクレオチド番号7〜1285で示されるヌクレオチド配列と80%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドにコードされ、かつΔ5不飽和化素活性を有するタンパク質。
  7. Δ12不飽和化酵素遺伝子が、コプリナス・シネレウス(Coprinus cinereus)に由来する、請求項1〜6のいずれか1項記載の変異微生物。
  8. Δ12不飽和化酵素遺伝子が以下のタンパク質をコードする遺伝子である、請求項1〜6のいずれか1項記載の変異微生物:
    (a')配列番号6に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
    (b')配列番号6に示されるアミノ酸配列において、1個または複数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入および付加から選択される変異を施されたアミノ酸配列からなり、かつΔ12不飽和化酵素活性を有するタンパク質;
    (c')配列番号6で示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつΔ12不飽和化酵素活性を有するタンパク質;
    (d')配列番号5のヌクレオチド番号52〜1377に示されるヌクレオチド配列の相補鎖配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドにコードされ、かつΔ12不飽和化酵素活性を有するタンパク質;あるいは、
    (e')配列番号5のヌクレオチド番号52〜1377で示されるヌクレオチド配列と80%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドにコードされ、かつΔ12不飽和化素活性を有するタンパク質。
  9. Δ17不飽和化酵素遺伝子が、サプロレグニア・ディクリナ(Saprolegnia diclina)に由来する、請求項1〜8のいずれか1項記載の変異微生物。
  10. Δ17不飽和化酵素遺伝子が下のタンパク質をコードする遺伝子である、請求項1〜8のいずれか1項記載の変異微生物:
    (a'')配列番号9に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
    (b'')配列番号9に示されるアミノ酸配列において、1個または複数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入および付加から選択される変異を施されたアミノ酸配列からなり、かつΔ17不飽和化酵素活性を有するタンパク質;
    (c'')配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつΔ17不飽和化酵素活性を有するタンパク質;
    (d'')配列番号8のヌクレオチド番号100〜1176に示されるヌクレオチド配列の相補鎖配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドにコードされ、かつΔ17不飽和化酵素活性を有するタンパク質;あるいは、
    (e'')配列番号8のヌクレオチド番号100〜1176で示されるヌクレオチド配列と80%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドにコードされ、かつΔ17不飽和化素活性を有するタンパク質。
  11. 飽和脂肪酸合成酵素が、Mortierella alpinaの飽和脂肪酸鎖長延長酵素である、請求項2〜10のいずれか1項記載の変異微生物。
  12. 請求項1〜11のいずれか1項記載の変異微生物を20℃以上の条件下で培養することを含む、エイコサペンタエン酸を含有する脂質の生産方法。
  13. 請求項12記載の方法により生産されたエイコサペンタエン酸を含有する脂質を精製することを含む、エイコサペンタエン酸の生産方法。
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