定義
以下でさらに詳しく述べるように、求電子剤そのものだけではなく反応性酸素種(ROS)などフリーラジカルをも除去し、したがって神経変性を予防するニューロンによって「求電子剤反撃」を活性化する神経保護求電子剤を含んでなる組成物および関連方法が提供される。かかる求電子物質による神経保護は、Keap1/Nrf2シグナル伝達経路および第二相遺伝子の誘導を含む転写に基づく機序を伴うが、これらの遺伝子は、γ−GCLおよびHO−1など神経保護物質の細胞内レベルの増大を含む求電子剤に対する調整された反応を表す酵素をコード化する。かかる化合物はまた、細胞におけるフリーラジカル媒介事象による損傷を予防、削減または遅延させる。別の実施形態によれば、かかる方法は、組成物の投与が細胞の(例えば、アポトーシス、ネクローシスまたはオートファジーによる)ストレス誘発細胞損傷、傷害、または死を低下または遅延させるかを判定するステップを含んでなる。患者の体内で代謝されてかかる求電子化合物を産生するかかる神経保護求電子剤(または「プロ求電子剤」)のプロドラッグ形態を含んでなる組成物および関連使用方法も提供される。
図1は、神経保護求電子化合物(パラL−ドーパ、TBHQ、NEPP6、NEPP11、およびクルクミン)およびプロ求電子化合物(カルノシン酸(CA)、パラカルノシン酸、およびカルノシン酸誘導体)の例を示す。
本発明の一実施形態によれば、本発明による神経保護求電子化合物はエノン型求電子化合物であるが、これにはエノン類およびジエノン類が含まれるがこれらに限定されない(図2B)。エノン類の例がクルクミンである。ジエノン類の例としては、NEPP6およびNEPP11を含むがこれらに限定されない神経突起伸長促進プロスタグランジン類(NEPPs)など交差共役ジエノン類が含まれる。ジエノン類が好ましい。
本発明の別の実施形態によれば、本発明による神経保護求電子化合物はカテコール型求電子化合物である(図2A)。本発明による他のカテコール型神経保護求電子化合物の例としては、メチルおよびエチルエステルを含むがこれらに限定されない、化合物を細胞膜に通過させることが可能であるtert−ブチルヒドロキノン(TBHQ)、パラL−ドーパ、および3−(3,4)−ジヒドロキシフェニル]−2−プロペン酸(カフェ酸) または3−(2,5)−ジヒドロキシフェニル]−2−プロペン酸のエステルが含まれるがこれらに限定されない。
本発明の一実施形態によれば、本発明によるカテコール型神経保護求電子化合物、もしくはその薬学的に許容されるプロドラッグ、塩または溶媒は構造化学式I
[式中、
X
1、X
2、X
3、X
4、X
5およびX
6は、それぞれ独立して、X
1−X
6の少なくとも2つがOHであり、かつX
1−X
6の少なくとも1つがYであるという条件で、H、OH、アルキルまたはYであり、
YはB−C−DもしくはC−B−DまたはC−B−C−Dであり、そのいずれかはコアベンゼン環に付着され、縮合環を形成することができ、
Bは不存在、カルボニル、カルボキシ、エーテル、スルファニル、アミノ、−NHC(O)−および−C(O)NH−より成る群から選択され、そのいずれかは場合により置換され、
Cは不存在、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、アリール、アリールアルキル、およびアリールアルケニルより成る群から選択され、そのいずれかは場合により置換され、かつ縮合環を形成するためにコアベンゼン環に付着されうるとともに、
Dは不存在、カルボキシ、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、SO
3H、PO
3、NO
3、NO
2、NO、アミノ、ヒドロキシル、かつそのエーテルおよびエステル誘導体より成る群から選択される]を有する。
別の実施形態において、かかる化合物は構造化学式Iを有し、ここでX1、X2、X3、X4、X5およびX6は、それぞれ独立して、X1−X6の少なくとも2つがOHであり、かつX1−X6の少なくとも1つがYであるという条件で、H、OH、アルキルまたはYであり(すなわち、化合物は側鎖Yで一置換されたパラ、オルトまたはメタジヒドロキシベンゼン環構造を有する)、YはB−C−DもしくはC−B−DまたはC−B−C−Dであり、そのいずれかはコアベンゼン環に付着され、縮合環を形成することができ、Bは不存在、カルボニル、カルボキシ、エーテル、スルファニル、アミノ、−NHC(O)−および−C(O)NH−より成る群から選択され、そのいずれかは場合により置換され、Cは不存在、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、アリール、アリールアルキル、およびアリールアルケニルより成る群から選択され、そのいずれかは場合により置換され、かつ縮合環を形成するためにジヒドロキシベンゼン環に付着されうるとともに、Dは不存在、カルボキシ、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、SO3H、PO3、NO3、NO2、NO、アミノ、ヒドロキシル、かつそのエーテルおよびエステル誘導体より成る群から選択される。
別の実施形態において、かかる化合物は構造化学式Iを有し、ここでX1、X2、X3、X4、X5およびX6は、それぞれ独立して、X1−X6の2つがパラ配置でOHであり、かつX1−X6の1つがYであるという条件で、H、OH、アルキルまたはYであり(すなわち、化合物は側鎖Yで一置換されたp−ジヒドロキシベンゼン環構造を含む)、YはB−C−DもしくはC−B−DまたはC−B−C−Dであり、そのいずれかはコアベンゼン環に付着され、縮合環を形成することができ、Bは不存在、カルボニル、カルボキシ、エーテル、スルファニル、アミノ、−NHC(O)−および−C(O)NH−より成る群から選択され、そのいずれかは場合により置換され、Cは不存在、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、アリール、アリールアルキル、およびアリールアルケニルより成る群から選択され、そのいずれかは場合により置換され、かつ縮合環を形成するためにコアベンゼン環に付着されうるとともに、Dは不存在、カルボキシ、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、SO3H、PO3、NO3、NO2、NO、アミノ、ヒドロキシル、かつそのエーテルおよびエステル誘導体より成る群から選択される。
別の実施形態において、かかる化合物は構造化学式Iを有し、ここでX1、X2、X3、X4、X5およびX6は、それぞれ独立して、X1−X6の2つがパラ配置でOHであり、かつX1−X6の1つがYであるという条件で、H、OH、アルキルまたはYであり(すなわち、化合物は側鎖Yで一置換されたp−ジヒドロキシベンゼン環構造を含む)、YはB−C−DもしくはC−B−DまたはC−B−C−Dであり、そのいずれかはコアベンゼン環に付着され、縮合環を形成することができ、Bは不存在、カルボニル、カルボキシ、エーテル、スルファニル、アミノ、−NHC(O)−および−C(O)NH−より成る群から選択され、そのいずれかは場合により置換され、Cは不存在、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、アリール、アリールアルキル、およびアリールアルケニルより成る群から選択され、そのいずれかは場合により置換され、かつ縮合環を形成するためにジヒドロキシベンゼン環に付着されうるとともに、Dはカルボキシ、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、SO3H、PO3、NO3、NO2、NO、アミノ、ヒドロキシル、かつそのエーテルおよびエステル誘導体より成る群から選択される。
好ましくはYはB−C−Dである。
好ましくはBは不存在またはカルボニルである。
好ましくはDはカルボキシまたはそのエステル誘導体である。
本発明の別の実施形態によれば、本発明によるカテコール型神経保護求電子化合物、もしくはその薬学的に許容されるプロドラッグ、塩または溶媒は構造化学式IIまたは化学式III
[式中、
X
11、X
12、X
13、X
14、X
15、X
16、X
17、X
18、X
19、およびX
20は、それぞれ独立して、X
11−X
20の少なくとも2つがOHであるという条件でH、OH、またはYであり、
YはB−C−DもしくはC−B−DまたはC−B−C−Dであり、そのいずれかは環炭素に付着されて縮合環を形成することができ、
Bは不存在、カルボニル、カルボキシ、エーテル、スルファニル、アミノ、−NHC(O)−および−C(O)NH−より成る群から選択され、そのいずれかは場合により置換され、
Cは不存在、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、アリール、アリールアルキル、およびアリールアルケニルより成る群から選択され、そのいずれかは場合により置換され、かつ縮合環を形成するために環炭素に付着されうるとともに、
Dは不存在、カルボキシ、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、SO
3H、PO
3、NO
3、NO
2、NO、アミノ、ヒドロキシル、かつ
そのエーテルおよびエステル誘導体より成る群から選択される]によるコアフラボノイド構造を有する。
別の実施形態において、かかる化合物は構造化学式IIまたはIIIを有し、ここでX11、X12、X13、X14、X15、X16、X17、X18、X19、およびX20は、それぞれ独立して、X11−X15の2つがOHであり(すなわち、環Eはパラ、オルト、またはメタ配置で2つのOH基を有する)、またはX16−X19の2つがOHであり(すなわち、環Gはパラ、オルト、またはメタ配置で2つのOH基を有する)またはX11−X15の2つがOHであり、かつX16−X19の2つがOHであるという条件でOHである。
好ましくはX11−X20の少なくとも2つがYである。Yは親水性または不存在であることが好ましく、最も好ましくは親水性である。
好ましくは、環E上に2つのOH基を有する化合物のために、OH基はパラまたはオルト配置であり、より好ましくはパラ配置である。同様に、環G上に2つのOH基を有する化合物のために、OH基はパラまたはオルト配置であることが好ましく、より好ましくはパラ配置である。最も好ましくは、化合物は環E上のパラ配置で2つのOH基を有する。
本発明によるフラボノイド化合物の一例が以下の化合物である。
他の例としては、(CA指標別名)、すなわち、β−D−グルコピラノシドウロン酸、(2S)−2−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−3,4−ジヒドロ−5−ヒドロキシ−4−オキソ−2H−1−ベンゾピラン−7−イル;およびβ−D−グルコピラノシドウロン酸、2−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−5−ヒドロキシ−4−オキソ−4H−1−ベンゾピラン−7−イルを含むがこれに限定されない。
本発明の別の実施形態によれば、本発明による神経保護プロ求電子化合物、もしくはその薬学的に許容されるプロドラッグ、塩または溶媒は、構造化学式IV、化学式V、または化学式VI
[式中、
X
21、X
22、X
23、X
24、X
25、X
26およびX
27は、それぞれ独立してH、OH、オキソ(=O)、またはYであり、
YはB−C−DもしくはC−B−DまたはC−B−C−Dであり、そのいずれかは環炭素に付着されて縮合環を形成することができ、
Bは不存在、カルボニル、カルボキシ、エーテル、スルファニル、アミノ、−NHC(O)−および−C(O)NH−より成る群から選択され、そのいずれかは場合により置換され、
Cは不存在、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、アリール、アリールアルキル、およびアリールアルケニルより成る群から選択され、そのいずれかは場合により置換され、かつ縮合環を形成するために環炭素に付着されうるとともに、
Dは不存在、カルボキシ、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、SO
3H、PO
3、NO
3、NO
2、NO、アミノ、ヒドロキシル、かつそのエーテルおよびエステル誘導体より成る群から選択される]を有するカルノシン酸(CA)誘導体である。
好ましくは、Bは不存在である。化学式IV(環H上に示されている2つのOH基はパラ配置である)および化学式V(環H上に示されている2つのOH基はオルト配置である)が好ましく、かつ化学式IVの化合物がより好ましい。好ましくはX21およびX24は、それぞれ独立してメチル、カルボキシ、−C(O)OCH3、CH2OH、またはCH2OC(O)CH3である。好ましくはX22およびX23は、それぞれ独立してH、OH、オキソ(=O)、または−OCH3である。X25およびX27は好ましくはメチルである。好ましくは、X21、X26またはX27の少なくとも1つはカルボキシであり、かつより好ましくはX21およびX24の1つはCH3であるとともに、もう1つはカルボキシ、−C(O)OCH3、−CH2OH、または−CH2OC(O)CH3であり、かつX22およびX23の少なくとも1つはヒドロキシまたはオキソである。X26のRナンチオマーはSエナンチオマーであることが好ましい。化学式IV、VおよびVIの化合物は、例えば、上述したものと同様の置換基を有するカルノソールおよびカルノソール誘導体を含むと理解すべきである(すなわち、X26はYであり、ここでBおよびCは不存在であり、かつDはカルボキシであるとともに、カルボキシ基はX22と同じ環炭素に付着される)。
図3はカルノシン酸および種々の神経保護カルノシン酸誘導体の構造を示し、必要に応じて化学式IVまたはVに関して、カルノシン酸(化合物1)からの以下の変更を示す、すなわち、化合物2、X24はカルボキシであり、化合物3、X24はCOOCH3であり、化合物4、X24はCH2OHであり、化合物5、(オルト、化学式VI)X24はCOOCH3であり、(パラ、化学式IV)X21はCH2OHであり、化合物6、X22はオキソ(=O)であり、化合物7、X22はOHであり、かつX23はオキソ(=O)であるとともに、化合物8、X21は−CH2OAcである。
本明細書で使用される以下の用語は指示された意味を有する。
本明細書で使用される(Acと略されうる)「アシル」という語は、単独でまたは組合せて、アルケニル、アルキル、アリール、シクロアルキル、ヘテロアリール、複素環、または他の部分に付着したカルボニルを指し、ここでカルボニルに付着した原子は炭素である。「アセチル」基は−C(O)CH3基を指す。「アルキルカルボニル」または「アルカノイル」基は、カルボニル基を通じて親分子部分に付着したアルキル基を指す。かかる基の例として、メチルカルボニルおよびエチルカルボニルが含まれる。アシル基の例として、ホルミル、アルカノイルおよびアロイルが含まれる。
本明細書で使用される「アルケニル」という語は、単独でまたは組合せて、1つもしくはそれ以上の二重結合を有し、かつ2〜20個、好ましくは2〜6個の炭素原子を含有する直鎖または分岐鎖炭化水素ラジカルを指す。アルケニレンは、エテニレン[(−CH=CH-)、(−C::C−)]など2つもしくはそれ以上の位置で付着した炭素−炭素二重結合を指す。適切なアルケニルラジカルとして、エテニル、プロペニル、2−メチルプロペニル、1,4−ブタジニルなどが含まれる。
本明細書で使用される「アルコキシ」という語は、単独でまたは組合せて、アルキルエーテルラジカルを指し、ここでアルキルという語は以下で定義されている通りである。適切なアルキルエーテルラジカルとして、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソ−ブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシなどが含まれる。
本明細書で使用される「アルキル」という語は、単独でまたは組合せて、1ないし20個を含み、好ましくは1〜10個、かつより好ましくは1〜6個の炭素原子を含有する直鎖または分岐鎖アルキルラジカルを指す。アルキル基は、場合により、本明細書で定義されている通り置換されうる。アルキルラジカルの例として、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソ−アミル、へキシル、オクチル、ノイルなどが含まれる。
本明細書で使用される「アルキレン」という語は、単独でまたは組合せて、メチレン(−CH2−)など2つもしくはそれ以上の位置で付着した直鎖または分岐鎖飽和炭化水素由来の飽和脂肪族基を指す。
本明細書で使用される「アルキルアミノ」という語は、単独でまたは組合せて、アミノ基を通じて親分子部分に付着したアルキル基を指す。適切なアルキルアミノ基は、モノアルキル化またはジアルキル化され、例えば、N−メチルアミノ、N−エチルアミノ、N,N−ジメチルアミノ、N,N−エチルメチルアミノなどの基を形成しうる。
本明細書で使用される「アルキリデン」という語は、単独でまたは組合せて、炭素−炭素二重結合の1個の炭素原子がアルケニル基が付着されている部分に属するアルケニル基を指す。
本明細書で使用される「アルキルチオ」という語は、単独でまたは組合せて、アルキルチオエーテル(R−S−)ラジカルを指し、ここでアルキルという語は上記で定義されている通りであり、かつここで硫黄は単独または二重に酸化されうる。適切なアルキルチオエーテルラジカルの例として、メチルチオ、エチルチオ、n−プロピルチオ、イソプロピルチオ、n−ブチルチオ、イソ−ブチルチオ、sec−ブチルチオ、tert−ブチルチオ、メタンスルホニル、エタンスルフィニルなどが含まれる。
本明細書で使用される「アルキニル」という語は、単独でまたは組合せて、1つもしくはそれ以上の三重結合を有し、かつ2〜20個、好ましくは2〜6個、より好ましくは2〜4個の炭素原子を含有する直鎖または分岐鎖炭化水素ラジカルを指す。「アルキニレン」は、エチニレン(−C:::C−、−C≡C−)など2つの位置で付着した炭素−炭素三重結合を指す。アルキニルラジカルの例として、エチニル、プロピニル、ヒドロキシプロピニル、ブチン−1−イル、ブチン−2−イル、ペンチン−1−イル、3−メチルブチン−1−イル、ヘキシン−2−イルなどが含まれる。
本明細書で使用される「アミド」および「カルバモイル」という語は、単独でまたは組合せて、カルバモイル基を通じて、または逆に親分子部分に付着した以下で述べるアミノ基を指す。本明細書で使用される「Cアミド」という語は、単独でまたは組合せて、C(=O)NR2基を指し、Rは本明細書で定義されている通りである。本明細書で使用される「Nアミド」という語は、単独でまたは組合せて、RC(=O)NH基を指し、Rは本明細書で定義されている通りである。本明細書で使用される「アシルアミノ」という語は、単独でまたは組合せて、アミノ基を通じて親部分に付着したアシル基を包含する。「アシルアミノ」基の例がアセチルアミノ(CH3C(O)NH−)である。
本明細書で使用される「アミノ」という語は、単独でまたは組合せて、−NRR’を指し、ここでRおよびR’は独立して水素、アルキル、アシル、ヘテロアルキル、アリール、シクロアルキル、ヘテロアリール、およびヘテロシクロアルキルより成る群から選択され、そのいずれかはそれ自体、場合により置換されうる。
本明細書で使用される「アリール」という語は、単独でまたは組合せて、1つ、2つまたは3つの環を含有する炭素環芳香族系を意味し、ここでかかる環は懸垂方法でいっしょに付着され、または縮合されうる。「アリール」という語は、ベンジル、フェニル、ナフチル、アントラセニル、フェナントリル、インダニル、インデニル、アンヌレニル、アズレニル、テトラヒドロナフチル、およびビフェニルなど芳香族ラジカルを包含する。
本明細書で使用される「アリールアルケニル」または「アラルケニル」という語は、単独でまたは組合せて、アルケニル基を通じて親分子部分に付着したアリール基を指す。
本明細書で使用される「アリールアルコキシ」または「アラルコキシ」という語は、単独でまたは組合せて、アルコキシ基を通じて親分子部分に付着したアリール基を指す。
本明細書で使用される「アリールアルキル」または「アラルキル」という語は、単独でまたは組合せて、アルキル基を通じて親分子部分に付着したアリール基を指す。
本明細書で使用される「アリールアルキニル」または「アラルキニル」という語は、単独でまたは組合せて、アルキニル基を通じて親分子部分に付着したアリール基を指す。
本明細書で使用される「アリールアルカノイル」もしくは「アラルカノイル」または「アロイル」という語は、単独でまたは組合せて、ベンゾイル、ナフトイル、フェニルアセチル、3−フェニルプロピオニル(ヒドロシンナモイル)、4−フェニルブチリル、(2−ナフチル)アセチル、4−クロロヒドロシンナモイルなどアリール置換アルカンカルボン酸由来のアシルラジカルを指す。
本明細書で使用されるアリールオキシという語は、単独でまたは組合せて、オキシを通じて親分子部分に付着したアリール基を指す。
本明細書で使用される「ベンゾ」および「ベンズ」という語は、単独でまたは組合せて、ベンゼン由来の二価ラジカルC6H4=を指す。例としてベンゾチオフェンおよびベンズイミダゾールが含まれる。
本明細書で使用される「カルバミン酸塩」という語は、単独でまたは組合せて、カルバミン酸(−NHCOO−)のエステルを指し、これは窒素または酸末端のいずれかから親分子部分に付着されうるとともに、場合により本明細書で定義されている通り置換されうる。
本明細書で使用される「O−カルバミル」という語は、単独でまたは組合せて、OC(O)NRR’、基を指し、RおよびR’は本明細書で定義されている通りである。
本明細書で使用される「N−カルバミル」という語は、単独でまたは組合せて、ROC(O)NR’−基を指し、RおよびR’は本明細書で定義されている通りである。
本明細書で使用される「カルボニル」という語は、単独の場合にはホルミル[−C(O)H]を含み、かつ組合せた場合には−C(O)−基である。
本明細書で使用される「カルボキシ」という語は、−C(O)OH、またはカルボン酸素におけるような対応する「カルボキシレート」陰イオンを指す。「O−カルボキシ」基はRC(O)O−基を指し、ここでRは本明細書で定義されている通りである。「C−カルボキシ」基は−C(O)OR基を指し、ここでRは本明細書で定義されている通りである。
本明細書で使用される「シアノ」という語は、単独でまたは組合せて、−CNを指す。
本明細書で使用される「シクロアルキル」という語は、単独でまたは組合せて、飽和した、または部分的に飽和した単環、二環または三環式のアルキルラジカルを指し、ここでそれぞれの環部分は3〜12個、好ましくは5〜7個の炭素原子環員を含有し、かつ場合より、本明細書で定義されている通り場合により置換されたベンゾ縮合環系でありうる。かかるシクロアルキルの例として、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロへキシル、シクロヘプチル、オクタヒドロナフチル、2、3−ジヒドロ−1H−インデニル、アダマンチルなどが含まれる。本明細書で使用される「二環」および「三環」は、デカヒドロナフタレン、オクタヒドロナフタレンのほか、多環(多中心)式の飽和した、または部分的に不飽和の型など両方の縮合環系を含むことが意図されている。異性体の後者の型は、ビシクロ[1,1,1]ペンタン、ショウノウ、アダマンタン、およびビシクロ[3,2,1]オクタンによって一般に例示される。
本明細書で使用される「エステル」という語は、単独でまたは組合せて、炭素原子で連結された2つの部分を架橋するカルボキシ基を指す。
本明細書で使用される「エーテル」という語は、単独でまたは組合せて、炭素原子で連結された2つの部分を架橋するオキシ基を指す。
本明細書で使用される「ハロ」または「ハロゲン」という語は、単独でまたは組合せて、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素を指す。
本明細書で使用される「ハロアルコキシ」という語は、単独でまたは組合せて、酸素原子を通じて親分子部分に付着したハロアルキル基を指す。
本明細書で使用される「ハロアルキル」という語は、単独でまたは組合せて、上記の定義と同じ意味を有するアルキルラジカルを指し、ここで1つもしくはそれ以上の水素がハロゲンで置き換えられている。具体的に包含されるのは、モノハロアルキル、ジハロアルキルおよびポリハロアルキルラジカルである。モノハロアルキルラジカルは、例えば、ラジカル内にヨード、ブロモ、クロロまたはフルオロ原子を有しうる。ジハロアルキルおよびポリハロアルキルラジカルは2個もしくはそれ以上の同じ原子または異なる組合せのハロラジカルを有しうる。ハロラジカルの例として、フルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、クロロメチル、ジクロロメチル、トリクロロメチル、ペンタフルオロエチル、ヘプタフルオロプロピル、ジフルオロクロロメチル、ジクロロフルオロメチル、ジフルオロエチル、ジフルオロプロピル、ジクロロエチルおよびジクロロプロピルが含まれる。「ハロアルキレン」は2つもしくはそれ以上の位置で付着したハロアルキル基を指す。例として、フルオロメチレン(−CFH−)、ジフルオロメチレン(−CF2−)、クロロメチレン(−CHCl−)などが含まれる。
本明細書で使用される「ヘテロアルキル」という語は、単独でまたは組合せて、完全に飽和した、もしくは1〜3程度の不飽和を含有し、規定数の炭素原子およびO、N、およびSより成る群から選択される1〜3個のヘテロ原子から成る安定な直鎖もしくは分岐鎖、または環炭化水素ラジカル、またはその組合せを指し、ここで窒素および硫黄原子は場合により酸化されうるとともに、窒素へテロ原子は場合により四級化されうる。ヘテロ原子(類)O、NおよびSはヘテロアルキル基の任意の内部位置に配置されうる。例えば、−CH2−NH−OCH3など2個までのヘテロ原子が連続的でありうる。
本明細書で使用される「ヘテロアリール」という語は、単独でまたは組合せて、3〜7員の、好ましくは5〜7員の、不飽和のヘテロ単環式の環、または縮合多環式の環を指し、ここで縮合環の少なくとも1つは不飽和であり、ここで少なくとも1個の原子はO、S、およびNより成る群から選択される。この語は、複素環ラジカルがアリールラジカルと縮合し、ここでヘテロアリールラジカルが他のヘテロアリールラジカルと縮合し、またはここでヘテロアリールラジカルがシクロアルキルラジカルと縮合している縮合多環基をも包含する。ヘテロアリール基の例としては、ピロリル、ピロリニル、イミダゾリル、ピラゾリル、ピリジル、ピリミジニル、ピラジニル、ピリダジニル、トリアゾリル、ピラニル、フリル、チエニル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、オキサジアゾリル、チアゾリル、チアジアゾリル、イソチアゾリル、インドリル、イソインドリル、インドリジニル、ベンズイミダゾリル、キノリル、イソキノリル、キノキサリニル、キナゾリニル、インダゾリル、ベンゾトリアゾリル、ベンゾジオキソリル、ベンゾピラニル、ベンゾキサゾリル、ベンゾキサジアゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾチアジアゾリル、ベンゾフリル、ベンゾチエニル、クロモニル、クマリニル、ベンゾピラニル、テトラヒドロキノリニル、テトラゾロピリダジニル、テトラヒドロイソキノリニル、チエノピリジニル、フロピリジニル、ピロロピリジニルなどが含まれる。例となる三環式複素環基としてはカルバゾリル、ベンズイドリル、フェナントロリニル、ジベンゾフラニル、アクリジニル、フェナントリジニル、キサンテニルなどが含まれる。
本明細書で使用される「ヘテロシクロアルキル」という語および、同じ意味での「複素環」という語は、単独でまたは組合せて、それぞれ、少なくとも1個、好ましくは1〜4個、かつより好ましくは1〜2個のヘテロ原子を環員として含有する飽和した、部分的に不飽和の、または完全に不飽和の単環式、二環式、または三環式の複素環ラジカルを指し、ここでそれぞれ前記へテロ原子は独立して窒素、酸素、および硫黄より成る群から選択され、かつここで好ましくはそれぞれの環において3〜8個の環員、より好ましくはそれぞれの環において3〜7個の環員、かつ最も好ましくはそれぞれの環において5〜6個の環員が存在する。「ヘテロシクロアルキル」および「複素環」は、スルホン、スルホキシド、第三級窒素環員のN−オキシド、かつ炭素環縮合系およびベンゾ縮合環系を含むことが意図されており、また、両方の語は、複素環が、本明細書で定義されているアリール基に縮合している系、または追加の複素環基をも含む。本発明の複素環基は、アジリジニル、アゼチジニル、1,3−ベンゾジオキソリル、ジヒドロイソインドリル、ジヒドロイソキノリニル、ジヒドロシンノリニル、ジヒドロベンゾジオキシニル、ジヒドロ[1,3]オキサゾロ[4,5−b]ピリジニル、ベンゾチアゾリル、ジヒドロインドリル、ジヒドロピリジニル、1,3−ジオキサニル、1,4−ジオキサニル、1,3−ジオキソラニル、イソインドリニル、モルホリニル、ピペラジニル、ピロリジニル、テトラヒドロピリジニル、ピペリジニル、チオモルホリニル、などによって例示される。複素基は、特に禁止されていない限り、場合により置換されうる。
本明細書で使用される「ヒドラジニル」という語は、単独でまたは組合せて、単結合によって連結される2つのアミノ基、すなわち、−N−N−を指す。
本明細書で使用される「ヒドロキシ」という語は、単独でまたは組合せて、−OHを指す。
本明細書で使用される「ヒドロキシアルキル」という語は、単独でまたは組合せて、アルキル基を通じて親分子部分に付着したヒドロキシ基を指す。
本明細書で使用される「イミノ」という語は、単独でまたは組合せて、=N−を指す。
本明細書で使用される「イミノヒドロキシ」という語は、単独でまたは組合せて、=N(OH)および=N−O−を指す。
「主鎖における」という語句は、本発明の化合物への基の付着の点で開始する炭素原子の最長の隣接鎖または近接鎖を指す。
「イソシアナート」という語は、−NCO基を指す。
「イソチオシアナート」という語は、−NCS基を指す。
「原子の直鎖」という語句は、炭素、窒素、酸素および硫黄から独立して選択される原子の最長の直鎖を指す。
本明細書で使用される「低」という語句は、単独でまたは組合せて、1個ないし、かつ6個を含む炭素原子を含有することを意味する。
本明細書で使用される「メルカプチル」という語は、単独でまたは組合せて、RS基を指すが、Rは本明細書で定義されている通りである。
本明細書で使用される「ニトロ」という語は、単独でまたは組合せて、−NO2を指す。
本明細書で使用される「オキシ」または「オキサ」という語は、単独でまたは組合せて、−Oを指す。
本明細書で使用される「オキソ」という語は、単独でまたは組合せて、=Oを指す。
「ペルハロアルコキシ」という語は、水素原子のすべてがハロゲン原子によって置き換えられているアルコキシ基を指す。
本明細書で使用される「ペルハロアルキル」という語は、単独でまたは組合せて、水素原子のすべてがハロゲン原子によって置き換えられているアルキル基を指す。
本明細書で使用される「スルホン酸塩」、「スルホン酸」、および「スルホン」という語は、単独でまたは組合せて、−SO3H基およびスルホン酸が塩の生成で使用されるとその陰イオンを指す。
本明細書で使用される「スルファニル」という語は、単独でまたは組合せて、−S−を指す。
本明細書で使用される「スルフィニル」という語は、単独でまたは組合せて、−S(O)−を指す。
本明細書で使用される「スルホニル」という語は、単独でまたは組合せて、−S(O)2−を指す。
「N−スルホンアミド」という語は、RS(=O)2NRR’を指し、RおよびR’は本明細書で定義されている通りである。
「S−スルホンアミド」という語は、S(=O)2NRR’、基を指し、RおよびR’は本明細書で定義されている通りである。
本明細書で使用される「チア」および「チオ」という語は、単独でまたは組合せて、−S−基またはエーテルを指し、ここで酸素は硫黄で置き換えられている。チオ基の酸化誘導体、すなわちスルフィニルおよびスルホニルは、チアおよびチオの定義に含まれている。
本明細書で使用される「チオール」という語は、単独でまたは組合せて、−SH基を指す。
本明細書で使用される「チオカルボニル」という語は、単独の場合にはチオホルミル−C(S)Hを含み、かつ組合される場合には−C(S)−基である。
「N−チオカルバミル」という語は、ROC(S)NR’−基を指し、RおよびR’は本明細書で定義されている通りである。
「O−チオカルバミル」という語は、−OC(S)NRR’、基を指し、RおよびR’およびR’は本明細書で定義されている通りである。
「チオシアナート」という語は、−CNS基を指す。
「トリハロメタンスルホンアミド」という語は、X3CS(O)2NR−基を指し、Xはハロゲンであり、かつRは本明細書で定義されている通りである。
「トリハロメタンスルホニル」という語は、X3CS(O)2−基を指し、ここでXはハロゲンである。
「トリハロメトキシ」という語は、X3CO−基を指し、ここでXはハロゲンである。
本明細書で使用される「三置換シリル」という語は、単独でまたは組合せて、置換アミノの定義下に本明細書で示されている基によりその3つの自由原子価で置換されているシリコーン基を指す。例としては、トリメチシリル、tert−ブチルジメチルシリル、トリフェニルシリルなどが含まれる。
本明細書でのずれの定義も他の定義と組合せて使用し、複合構造基を記述することができる。慣例により、かかる定義の後続要素は、親部分に付着するものである。例えば、複合基アルキルアミドは、アミド基を通じて親分子に付着したアルキル基を表すことになり、かつアルコキシアルキルという語はアルキル基を通じて親分子に付着したアルコキシキ基を表すことになる。
基が「不存在」であることが定義されると、前記基がないことが意味される。
「場合により置換される」という語は、置換または非置換されうる先行する基を意味する。置換される場合、「場合により置換される」基の置換基としては、以下の基または特定の一連の基から、単独でまたは組合せて独立して選択される1つもしくはそれ以上の置換基を含むがこれらに限定されない。すなわち、低アルキル、低アルケニル、低アルキニル、低アルカノイル、低ヘテロアルキル、低ヘテロシクロアルキル、低ハロアルキル、低ハロアルケニル、低ハロアルキニル、低ペルハロアルキル、低ペルハロアルコキシ、低シクロアルキル、フェニル、アリール、アリールオキシ、低アルコキシ、低ハロアルコキシ、オキソ、低アシルオキシ、カルボニル、カルボキシル、低アルキルカルボニル、低カルボキシエステル、低カルボキサミド、シアノ、水素、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、低アルキルアミノ、アリールアミノ、アミド、ニトロ、チオl、低アルキルチオ、アリールチオ、低アルキルスルフィニル、低アルキルスルホニル、アリールスルフィニル、アリールスルホニル、アリールチオ、スルホン酸塩、スルホン酸、三置換シリル、N3、SH、SCH3、C(O)CH3、CO2CH3、CO2H、ピリジニル、チオフェン、フラニル、低カルバメート、および低尿素。2つの置換基が結合され、例えばメチレンジオキシまたはエチレンジオキシを形成するために0〜3個のヘテロ原子から成る5員、6員、または7員炭素鎖または複素環を形成しうる。場合により置換される基は非置換され(例えば、−CH2CH3)、完全に置換され(例えば、−CF2CF3)、一置換され(例えば、−CH2CH2F)または完全置換と一置換との中間のレベルで置換されうる(例えば、−CH2CF3)。置換基が置換について限定なしに開示されている場合、置換と非置換の両方の形態が包含されている。置換基が「置換した」としての資格がある場合、置換形態は具体的に意図されている。また、特定の部分に対する異なる一連の任意の置換基が必要と定義されうるが、これらの場合、任意の置換は、多くの場合に「と場合により置換した」という語句の直後に定義される。
特に別の規定がない限り、単独または数の指定なしに現れるRという語またはR’という語は、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリールおよびヘテロシクロアルキルより成る群から選択される部分を指し、そのいずれかは場合により置換されうる。かかるR基およびR’基は、本明細書で定義されている通り場合により置換されると理解すべきである。R基が数の指定を有するかどうかは、R、R’およびn=(1、2、3、...n)であるRnを含むすべてのR基、すべての置換基、およびすべての用語が、群から選択の点で他のすべてから独立していると理解すべきである。変数、置換基、または用語(例えば、アリール、複素環、R等)が化学式または一般的構造において2回以上発生することがあれば、それぞれの発生時のその定義は他のすべての発生時での定義から独立している。当業者は、特定の基が親分子に付着し、または記載通りいずれかの末端からの一連の原子の位置を占有しうることをさらに理解するであろう。したがって、ほんの一例として、−C(O)N(R)−など不斉基が炭素または窒素のいずれかで親部分に付着しうる。
不斉中心が本発明の化合物には存在する。これらの中心は、キラル炭素原子周囲の置換基の配置に応じて「R」または「S」の記号で示されている。本発明は、ジアステオレマー、エナンチオマー、およびエピマー形態のほか、d−異性体および1−異性体、およびその混合物を含めてすべての立体化学的異性体形態を包含することを理解すべきである。化合物の個々の立体化学的異性体は、キラル中心を含有する市販の出発原料から合成的に調製され、またはエナンチオマー製品の混合物の調製後にジアステレオマーの混合物への変換などの分離後に分離または再結晶化、クロマトグラフィー法、キラルクロマトグラフィーカラム上でのエナンチオマーの直接分離、または当業界で周知の適切な方法によって調製されうる。特定の立体化学の開始化合物は市販され、または当業界で周知の方法によって作製および分解されうる。また、本発明の化合物は幾何異性体として存在しうる。本発明は、すべてのcis、trans、syn、anti、entgegen(E)異性体、およびzusammen(Z)異性体のほか、その適切な混合物を含む。また、化合物は互変異性体として存在しうるが、すべての互変異性異性体が本発明によって提供される。また、本発明の化合物は、水、エタノールなど薬学的に許容される溶媒により非溶媒和形態および溶媒和形態で存在しうる。一般に、溶媒和形態は本発明のための非溶媒和形態と等価であると考えられている。
したがって、例えば、本明細書で考えられるのは、Rエナンチオマーを実質的に含んでいないSエナンチオマーを含んでなる組成物、またはSエナンチオマーを実質的に含んでいないRエナンチオマーを含んでなる組成物である。「実質的に含んでいない」によって、組成物は10%未満、または8%未満、または5%未満、または3%未満、または1%未満の微量エナンチオマーを含んでなることが意味される。特定の化合物が2個以上のキラル中心を含んでなる場合は、本開示の範囲は種々のジアステレオマーの混合物を含んでなる組成物のほか、他のジアステレオマーを実質的に含まないそれぞれのジアステレオマーを含んでなる組成物をも含む。その特定のジアステレオマーのいずれも考慮しない化合物の列挙には、4つのすべてのジアステレオマーを含んでなる組成物、R、RおよびS、S異性体のラセミ混合物を含んでなる組成物、R、SおよびS、R異性体のラセミ混合物を含んでなる組成物、その他のジアステレオマーを実質的に含まないR、Rエナンチオマーを含んでなる組成物、その他のジアステレオマーを実質的に含まないS、Sエナンチオマーを含んでなる組成物、その他のジアステレオマーを実質的に含まないR、Sエナンチオマーを含んでなる組成物、およびその他のジアステレオマーを実質的に含まないS、Rエナンチオマーを含んでなる組成物が含まれる。
「結合」という語は、結合によって連結された原子が大きめの下部構造の一部であると考えられる場合に2個の原子間、または2個の部分間の共有結合を指す。結合は、他に特に規定がなければ、単一、二重、または三重でありうる。分子の図面における2個の原子間の点線は、追加の結合がその位置で存在し、または存在しないことを示す。
カテコール型神経保護求電子剤の追加の例が表1に示されている。
表1:パラ配置で2つのOH基とともにコアベンゼン環を有する種々のカテコール型神経保護求電子化合物
本発明の神経保護求電子化合物には、例えば、上述した神経保護求電子化合物におけるヒドロキシル基およびカルボキシ基のエステルおよびエーテル誘導体も含まれるが、これらは、例えば、薬物送達および化学的安定性を増大させうる。
本発明によるプロ求電子剤(本明細書ではかかる神経保護求電子剤のプロドラッグとも称される)の例として、例えば、パラカルノシン酸、カルノソール等を含むカルノシン酸およびその誘導体(図1および図3を参照)が含まれるがこれらに限定されない。カルノシン酸の誘導体は当業界で公知であり、例えば、米国特許第6,479,549号明細書および米国特許出願第 20040014808号明細書を参照。
他の天然由来および合成テルペノイドおよびフラボノイド化合物も神経保護的である。
他の特徴を有する化合物を除外することを意図せず、かかるプロ求電子剤は、好ましくは、それらが血液−脳関門を通過させることを可能にするために親油性であり、かつ水溶性であるために親水性である。
かかるプロ電子剤の中には、「病理学的に活性化され」うる、すなわち、それらが治療を必要とするまさしく酸化的ストレスによって活性化されうる化合物が含まれる。したがって、(例えば、脳におけるなど)酸化的ストレス下の標的組織において、それらは神経保護求電子化合物に変換される。かかる病理学的に活性化されるプロ求電子剤の使用は、それらが損傷組織においてのみ、または主にそこで活性化されるため副作用を削減する。かかるプロ求電子剤の中には、例えば、本発明による神経保護求電子化合物のパラ類似体も含まれる。かかるパラ類似体は場合により病理学的に活性化されうる。
本明細書中で使用される場合、「神経防護作用物質」は、低酸素症、虚血、異常なミスフォールドしたタンパク質、興奮毒、フリーラジカル、小胞体ストレス因子、ミトコンドリアストレス因子(電子伝達系の阻害因子が挙げられるが、これに限定されない)、およびゴルジ装置拮抗物質によって引き起こされる神経ストレスを含めた(これらに限定されない)、ストレスからニューロンを保護する任意の物質である。同様に、本明細書中で使用される場合、用語「神経防護作用」は、ストレスからのニューロンの任意の検出可能な保護をいう。本発明の神経保護組成物および方法は、実施例において示されている通り、細胞の細胞傷害、損傷または死を防ぎ、または遅らせる。
神経防護作用は、例えば、ストレス後の大脳皮質培養物におけるアポトーシスニューロンの数の減少によるニューロン死の遅延または防止を測定することにより、直接測定されてよい。神経防護作用はまた、例えば、MCAO/再灌流傷害後の脳梗塞のサイズの減少を測定することにより、例えば、このようなストレス後の神経系の組織または器官に対する損傷の重症度もしくは程度、またはこのような組織または器官による機能喪失を測定することにより、直接測定されてもよい。神経防護作用は、ニューロンを保護するための1つ以上の生物学的機構の活性化を検出することにより間接的に測定されてもよく、この検出としては、Keap1/Nrf2経路の活性化および/または1種以上の第2相酵素(ヘムオキシゲナーゼ−1(HO−1)が挙げられるがこれに限定されない)の誘発を検出することが挙げられるが、これに限定されない。ニューロン保護を検出し測定する方法は、以下の実施例で提供され、そして他のこのような方法は当該技術分野で公知である。
本明細書中で使用される場合、「NEPP」は、神経突起伸長促進性プロスタグランジン(Δ7−プロスタグランジンA1類似体)ならびにその任意の誘導体および薬学的に許容可能な塩をいう。
本明細書中で使用される場合、「剤」は、所望の生物学的活性を有する任意の物質をいう。例えば、「神経防護作用剤」は、酸化ストレスからニューロンを保護することにおいて、検出可能な生物学的活性を有する。加えて、神経防護作用剤は、例えば、宿主において酸化ストレスによって引き起こされる状態およびその症状(脳虚血/再灌流傷害(発作)および種々の神経変性障害が挙げられるが、これらに限定されない)を処置することにおいて、検出可能な生物学的活性を有する。
本明細書中で使用される場合、「神経学的薬剤」は、神経系に対して効果を有する物質(例えば、化合物)、例えば、神経系に影響を及ぼす障害を処置、阻害もしくは予防することができる化合物、あるいは神経障害および/もしくは眼科障害またはそれらの症状を誘発することができる化合物をいう。
本明細書中で使用される場合、「有効量」は、観察可能な生物学的効果において検出可能な差(このような効果の統計的に有意な差が挙げられるが、これに限定されない)を引き起こす組成物の量をいう。この検出可能な差は、その組成物の単一の物質から、その組成物中の物質の組合せから、または複数の組成物の投与の組合せ効果から生じてもよい。例えば、「有効量」の本発明にかかる神経防護作用組成物は、適切なインビトロまたはインビボアッセイにおいて、ニューロン死の遅延、防止、または減少、あるいはストレス後の神経系の組織または器官に対する損傷の重症度もしくは程度、またはこのような組織または器官による機能喪失の減少を検出可能に測定するか、または別の態様で示す、その組成物の量をいう。また、本発明にかかる「有効量」の神経防護作用組成物は、適切なアッセイにおいて、ニューロンを保護するための1つ以上の生物学的機構を検出可能に活性化する(Keap1/Nrf2経路の活性化および/または1種以上の第2相酵素(ヘムオキシゲナーゼ−1(HO−1)が挙げられるがこれに限定されない)の誘発を検出することが挙げられるが、これに限定されない)、組成物の量をいう。
所与の組成物または処置における本発明の神経防護作用物質と別の活性成分との組合せは、相乗的な組合せであるかも知れない。用語「併用療法」とは、本開示に記載された治療的病態または障害を治療するために、2種以上の治療薬を投与することを意味する。このような投与は、一定比率の活性成分を有する単一カプセル、または各活性成分に関して複数の別個のカプセルなどにおいて、実質的に同時的様式におけるこれらの治療薬の同時投与を包含する。このような投与はまた、連続的様式における各タイプの治療薬の使用も包含する。いずれの場合でも、該治療法は、本明細書に記載された病態または障害の治療において、薬剤併用の有益な効果を提供する。
例えばChouおよびTalalay, Adv.Enzyme Regul.22:27−55(1984)によって記載される用語「相乗効果」は、組合せて投与された場合のその化合物の効果が、単一の薬剤として単独で投与された場合のそれらの化合物の加法的な効果より大きい場合に起こる。一般に、相乗効果は、化合物の次善の濃度で最もはっきりと示される。相乗効果は、個々の成分と比較したより低い細胞毒性、活性の上昇、または組合せの何らかの他の有益な効果という点であってよい。
本発明にかかる神経防護作用物質は、必要に応じて別の神経防護薬または他の活性成分と同時投与され得る。この他の活性成分としては、抗緑内障薬、βアドレナリン遮断薬、炭酸脱水酵素阻害剤、縮瞳薬、交感神経刺激薬、アセチルコリン遮断薬、抗ヒスタミン薬、抗ウイルス薬、キノロン、抗炎症薬、ステロイド系または非ステロイド系の抗炎症薬、抗鬱薬(例えば、セロトニン再取り込み阻害剤、SSRIなど)、精神治療薬、抗不安薬、鎮痛薬、抗てんかん薬、抗痙攣薬、ガバペンチン、降圧薬、ベンゾポルフィリン光増感剤、免疫抑制性代謝拮抗薬、抗痙攣薬、バルビツール酸系催眠薬、ベンゾジアゼピン系薬剤、GABA阻害剤、ヒダントイン、抗精神病薬、神経遮断薬(neurolaptic)、抗運動障害薬(antidysknetic)、アドレナリン系薬物、三環系抗鬱薬、抗低血糖薬(anti−hypoglycemic)、グルコース溶液、ポリペプチドホルモン、抗生物質、血小板溶解薬、抗凝血薬、抗不整脈薬、副腎皮質ステロイド薬、発作性疾患のための薬剤、抗コリンエステラーゼ薬、ドーパミンブロッカー、抗パーキンソン病薬、筋弛緩薬、抗不安性筋弛緩薬、CAN賦活薬、制吐薬、βアドレナリン遮断薬、麦角誘導体、イソメテプテン、抗セロトニン作用薬(antiserotonin agent)、鎮痛薬、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)、モノアミン酸化酵素阻害剤、AIDS補助薬、抗感染薬、全身性AIDS補助抗感染薬(systemic AIDS adjunct anti−infective)、AIDS化学療法薬、ヌクレオシド系逆転写酵素、およびプロテアーゼ阻害剤の1種以上が挙げられるが、これらに限定されない。
本明細書中で使用される場合、「処置する」ことは、(i)病的状態が発生することを防止すること(例えば、予防)、(ii)その病的状態を阻害すること、またはその進行を停止させること、および(iii)その病的状態を解放すること、ならびに/あるいはこのような病的状態に関連する1つ以上の症状を予防するか、またはその重症度を低下させることを含む。
本明細書中で使用される場合、用語「患者」は、本発明の組成物および方法によって治療されるべき生物をいう。このような生物としては、哺乳動物が挙げられるがこれに限定されず、哺乳動物としては、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウマ、ラット、マウスなどが挙げられるがこれらに限定されない。このような生物としてはまた、本発明にかかる神経防護作用物質のスクリーニングにおいて有用な、他の生物、ならびにこのような生物の細胞、組織および器官が挙げられる。本発明に関しては、用語「被検体」は、一般に、処置(例えば、本発明にかかる神経防護作用物質を含む組成物の投与)を将来受けるかまたはすでに受けた個体をいう。
本明細書中で使用される場合、「薬学的に許容可能な塩」は、本発明にかかる神経防護作用物質の誘導体であって、親化合物がその酸塩または塩基塩を作製することにより改変されている誘導体をいう。薬学的に許容可能な塩の例としては、塩基性残基(例えば、アミン)の鉱酸または有機酸の塩;酸性残基(例えば、カルボン酸など)のアルカリ塩もしくは有機塩が挙げられるが、これらに限定されない。この薬学的に許容可能な塩は、例えば、無毒の無機もしくは有機酸から形成される親化合物の従来の無毒の塩または四級アンモニウム塩を含む。例えば、このような従来の無毒の塩としては、塩化水素酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸などのような無機酸から誘導される塩;ならびに酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パモ酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、スルファニル酸、2−アセトキシ安息香酸、フマル酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、シュウ酸、イセチオン酸などのような有機酸から調製される塩が挙げられる。
本発明の組成物および方法において有用なNEPPまたは他の神経防護作用物質の薬学的に許容可能な塩は、塩基性部分または酸性部分を含有する親化合物から従来の化学的方法によって合成され得る。一般に、このような塩は、これらの化合物の遊離酸または遊離塩基の形態を、水中もしくは有機溶媒中、またはそれら2種の混合物中で化学量論量の適切な塩基または酸と反応させることにより調製され得る。一般に、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、またはアセトニトリルのような非水系媒体が好ましい。適切な塩の一覧は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 第17版, Mack Publishing Company,Easton,PA,1418頁(1985)に見出され、参照によりこれを本明細書に援用する。
語句「薬学的に許容可能な」は、本明細書において、妥当な医学的判断の範囲内で、適度な便益/リスク比と釣り合って過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題または合併症なしにヒトおよび動物の組織と接触して使用するために適切な化合物、物質、組成物、および/または剤形をいうために用いられる。
本発明にかかる神経防護作用物質は、親化合物、その親化合物のプロドラッグ、またはその親化合物の薬学的に許容可能な塩、溶媒和物、もしくは活性代謝産物として投与され得る。
「プロドラッグ」は、このようなプロドラッグが哺乳類の被検体に投与された場合にインビボで本発明の活性な親薬物または他の化学分子もしくは化合物を放出する、任意の共有結合された物質を包含することが意図されている。本発明の化合物のプロドラッグは、その化合物に存在する官能基を、このような改変部分がインビボでの慣用の操作のいずれかで親化合物に切断されるように改変することによって、調製される。プロドラッグの例としては、患者内で代謝され神経防護作用がある求電子化合物を形成するプロ求電子性のテルペノイドまたはフラボノイド化合物(ジテルペンまたはトリテルペン(例えば、カルノシン酸))が挙げられるが、これらに限定されない。一例として、このようなプロ求電子化合物は、(例えば、パーキンソン病において観察されるように、)酸化ストレス下にある神経系の細胞および組織において酸化によって活性化され得る(求電子性代謝産物へと代謝される)であろう。従って、このプロドラッグは、病理学的活性を介して活性化されて神経防護作用求電子性代謝産物を形成し、神経防護作用が必要とされる標的部位に神経防護作用をもたらすであろう。
「代謝産物」は、このような本発明の活性な親薬物または他の化学分子もしくは化合物が哺乳類の被検体に投与された場合に生細胞が本発明の活性な親薬物または他の化学分子もしくは化合物とインビボで相互作用する生化学的プロセスから生じる任意の物質をいう。代謝産物は、任意の代謝経路に由来する生成物または中間体を包含する。
本明細書中で使用される場合、「代謝経路」は、1つの化合物を別の化合物に変換して細胞機能のための中間体およびエネルギーを提供する一連の酵素が媒介する反応をいう。この代謝経路は、一方向(linear)またはサイクリック(cyclic)であり得る。
本明細書中で使用される場合、「神経障害」は、神経系および/または視覚系の任意の障害をいう。「神経障害」は、中枢神経系(脳、脳幹および小脳)、末梢神経系(脳神経を含む)、ならびに自律神経系(この一部は中枢神経系および末梢神経系の両方に存在する)が関与する障害を包含する。神経障害の主要な群としては、頭痛、昏迷および昏睡、認知症、てんかん、睡眠障害、外傷、感染、腫瘍(neoplasm)、神経眼科学、運動障害、脱髄性疾患、脊髄障害、ならびに末梢神経、筋肉、および神経筋接合部の障害が挙げられるが、これらに限定されない。嗜癖および精神疾患としては双極性障害が挙げられるが、これらに限定されず、そして統合失調症もまた、神経障害の定義内に包含される。以下に挙げるのは、本発明にかかる組成物および方法を用いて治療することができるいくつかの神経障害、症状、徴候および症候群の一覧である:後天性てんかん様失語症(acquired epileptiform aphasia);急性散在性脳脊髄炎;副腎白質ジストロフィー;加齢性黄斑変性症;脳梁欠損症;失認;アイカルディ症候群;アレキサンダー病;アルパース病;交代性片麻痺;アルツハイマー病;血管性認知症;筋萎縮性側策硬化症;無脳症;アンジェルマン症候群;血管腫症;無酸素症;失語症;失行症;くも膜嚢胞;くも膜炎;アーノルド−キアリ奇形;動静脈奇形;アスペルガー症候群;毛細血管拡張性運動失調症;注意欠陥多動性障害;自閉症;自律神経障害;背痛;バッテン病;ベーチェット病;ベル麻痺;良性本態性眼瞼けいれん;良性限局性筋萎縮症(benign focal amyotrophy);良性頭蓋内圧亢進症;ビンスワンガー病;眼瞼痙攣;ブロッホ−ズルツベルガー症候群;腕神経叢損傷;脳膿瘍;脳傷害;脳腫瘍(多形神経膠芽腫を含む);脊椎腫瘍;ブラウン・セカール症候群;カナバン病;手根管症候群;灼熱痛;中枢痛症候群;橋中心髄鞘融解;先天性脳障害(cephalic disorder);脳動脈瘤;脳動脈硬化症;大脳萎縮症;脳性巨人症;脳性麻痺;シャルコー−マリー−トゥース病;化学療法起因性のニューロパチーおよび神経因性疼痛;キアリ奇形;舞踏病;慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー;慢性痛;慢性局所性疼痛症候群(chronic regional pain syndrome);コフィン−ローリー症候群;昏睡(遷延性植物状態を含む);先天性顔面両側麻痺;皮質基底核変性症;頭部動脈炎;頭蓋骨癒合症;クロイツフェルト−ヤコブ病;累積外傷性障害;クッシング症候群;巨大細胞封入体症(cytomegalic inclusion body disease);サイトメガロウイルス感染症;ダンシングアイズ−ダンシングフィート症候群(dancing eyes−dancing feet syndrome);ダンディ・ウォーカー症候群;ドーソン病(Dawson disease);ド・モルシェ症候群(De Morsier’s syndrome);デジェリン−クルンプケ麻痺(Dejerine−Klumke palsy);認知症;皮膚筋炎;糖尿病性神経障害;広汎性硬化症;自律神経障害;書字障害;失読症;ジストニア;早期乳児てんかん性脳症;トルコ鞍空虚症候群;脳炎;脳ヘルニア;脳三叉神経領域血管腫症;癲癇;エルプ麻痺(Erb’s palsy);本態性振戦;ファブリー病;ファール症候群(Fahr’s syndrome);失神;家族性痙性麻痺;熱性痙攣;フィッシャー症候群;フリードライヒ運動失調症;前頭側頭型認知症および他の「タウオパチー」;ゴーシェ病;ゲルストマン症候群;巨細胞性動脈炎;巨細胞性封入体病;グロボイド細胞白質ジストロフィー;ギラン−バレー症候群;HTLV−1関連脊髄症;ハラーホルデン・スパッツ症候群;頭部傷害;頭痛;片側顔面攣縮;遺伝性痙性対麻痺;遺伝性多発神経炎性失調;耳帯状疱疹;帯状疱疹;平山症候群;HIV関連の認知症およびニューロパチー(AIDSの神経症状発現も);全前脳症;ハンチントン病および他のポリグルタミンリピート疾患;水無脳症;水頭症;副腎皮質ホルモン過剰症;低酸素症;免疫介在性脳脊髄炎;封入体筋炎;色素失調症;乳児フィタン酸蓄積症(infantile phytanic acid storage disease);乳児レフサム病;点頭てんかん;炎症性筋疾患;頭蓋内嚢胞;頭蓋内圧亢進;ジュベール症候群;カーンズ−セイヤー症候群;ケネディ病、キンズボーン症候群(Kinsbourne syndrome);クリッペル・ファイル症候群;クラッベ病;クーゲルベルク−ヴェランダー病;クールー;ラフォラ病;ランバート−イートン筋無力症症候群;ランドウ・クレフナー症候群;外側髄(ワレンベルク)症候群;学習障害;リー病;レノックス−ガストー症候群(Lennox−Gustaut syndrome);レッシュ−ナイハン症候群;白質ジストロフィー;レビー小体型認知症;脳回欠損;閉じ込め症候群;ルー・ゲーリック病(すなわち、運動ニューロン疾患または筋萎縮性側策硬化症);腰部椎間板症;ライム病−神経系後遺症;マシャド−ジョセフ病;大脳髄症;巨大脳髄症;メルカーソン−ローゼンタール症候群;メニエール病;髄膜炎;メンケス病;異染性白質ジストロフィー;小頭症;片頭痛;ミラー−フィッシャー症候群;小卒中;ミトコンドリア筋障害;ミトコンドリア筋疾患;メービウス症候群;単肢筋萎縮症(monomelic amyotrophy);運動ニューロン疾患;もやもや病;ムコ多糖症;多発性脳梗塞性認知症;多巣性運動ニューロパチー;多発性硬化症および他の脱髄性障害;体位性低血圧を伴う多系統萎縮症;筋ジストロフィー;重症筋無力症;ミエリン破壊性広汎性硬化症;乳児期ミオクロニー脳症;ミオクロニー;筋疾患;先天性筋強直症;ナルコレプシー;神経線維腫症;向精神薬悪性症候群;AIDSの神経症状発現;狼瘡の神経系後遺症;神経筋強直症;神経セロイドリポフスチン症;ニューロン遊走異常;ニーマン−ピック病;オサリバン−マックレオド症候群(O’Sullivan−McLeod syndrome);後頭神経痛;潜在性脊椎管列癒合異常(occult spinal dysraphism sequence);大田原症候群;オリーブ橋小脳萎縮症;眼球クローヌス・ミオクローヌス;視神経炎;起立性低血圧;過剰使用症候群;錯感覚;パーキンソン病;先天性パラミオトニア;腫瘍随伴性疾患;発作性発病;パリー−ロンベルク症候群(Parry Romberg syndrome);ペリツェウス−メルツバッハー病;周期性四肢麻痺;末梢神経障害;有痛性神経障害および神経因性疼痛;遷延性植物状態;広汎性発達障害;光性くしゃみ反射;フィタン酸蓄積症;ピック病;神経圧迫(pinched nerve);下垂体腫瘍;多発性筋炎;孔脳症;ポリオ後症候群;帯状疱疹後神経痛;麻疹後脳脊髄炎;体位性低血圧;プラダー−ウィリー症候群;原発性側索硬化症;プリオン病;進行性片側顔面萎縮症;進行性多病巣性白質脳症;進行性硬化性ポリオジストロフィー;進行性核上性麻痺;偽脳腫瘍;ラムゼイ−ハント症候群(I型およびII型);ラスムッセン脳炎(Rasmussen’s encephalitis);反射性交感神経性ジストロフィー;レフサム病;反復運動性疾患;反復性ストレス傷害;下肢静止不能症候群;レトロウイルス関連脊髄症;レット症候群;ライ症候群;聖ウィトゥス舞踏病(Saint Vitus dance);ザントホフ病;シルダー病;裂脳症;中隔視神経異形成症;揺さぶられっ子症候群;帯状疱疹;シャイ−ドレーガー症候群;シェーグレン症候群;睡眠時無呼吸;ソートー症候群;痙縮;二分脊椎;脊髄傷害;脊髄腫瘍;脊髄性筋萎縮症;全身硬直症候群;発作;スタージ−ウェーバー症候群;亜急性硬化性汎脳炎;皮質下動脈硬化性脳症;シデナム舞踏病;失神;脊髄空洞症;遅発性ジスキネジア;テイ−サックス病;側頭動脈炎;脊髄係留症候群(tethered spinal cord syndrome);トムゼン病(Thomsen disease);胸郭出口症候群;疼痛性チック;トッド麻痺;トゥレット症候群;一過性脳虚血発作;伝染性海綿状脳症;横断性脊髄炎;外傷性脳損傷;振戦;三叉神経痛;熱帯痙性不全対麻痺症;結節硬化症;血管性認知症(多発性脳梗塞性認知症);側頭動脈炎を含む脈管炎;フォンヒッペル−リンダウ病;ワレンベルク症候群;ウェルドニッヒ−ホフマン病;ウエスト症候群;むち打ち;ウィリアムズ症候群;ウィルソン病;ならびにツェルウェーガー症候群。
本明細書中で使用される場合、「眼科疾患」または「眼科障害」は、視覚系の生体構造および/または機能が関与する疾患または障害をいう。その例としては、緑内障、網膜動脈閉塞症、虚血性視神経症および黄斑変性症(滲出型または非滲出型)が挙げられるが、これらに限定されない。
神経障害は、感情障害(例えば、鬱病または不安症)であってもよい。本明細書中で使用される場合、「感情障害」または「気分障害」は、気分の障害(disturbance)を主な特徴とする種々の状態をいう。軽症で時おりのものであれば、感情は正常であるかも知れない。より重症な場合には、それらは大鬱病性障害または情緒異常反応の徴候であるかも知れないし、または双極性障害の症状を示しているかも知れない。他の気分障害は、一般的な医学的状態によって引き起こされ得る。例えば、Mosby’s Medical, Nursing & Allied Health Dictionary, 第5版(1998)を参照のこと。
本明細書中で使用される場合、「鬱病」は、悲しみ、失望、および落胆の感情を特徴とする異常な気分障害をいう。鬱病は、悲しみ、憂鬱、落胆(dejection)、無気力、空虚感、および絶望感の、不適切で現実とはかけ離れた誇張された感情を特徴とする異常な情動状態をいう。Mosby’s Medical, Nursing & Allied Health Dictionary, 第5版(1998)を参照のこと。鬱病としては、大鬱病性障害(一度の発症のもの、反復性のもの、軽症のもの、精神病性特徴を伴わずに重症のもの、精神病性特徴を伴って重症のもの、慢性のもの、緊張病の特徴を有するもの、憂鬱な特徴を有するもの、非定型的特徴を有するもの、産後の発症を伴うもの、一部寛解したもの、完全に寛解したもの)、気分変調性障害、押うつ気分をともなう適応障害、混合性の不安症および押うつ気分をともなう適応障害、月経前不快気分障害、軽症の鬱病性障害、反復性の短期間の鬱病性障害、統合失調症の精神病後鬱病性障害、パーキンソン病に関連する大鬱病性障害、および認知症に関連する大鬱病性障害が挙げられるが、これらに限定されない。
神経障害は、疼痛に関連する鬱病(pain−associated depression、PAD)であってもよい。本明細書中で使用される場合、「疼痛に関連する鬱病」または「PAD」は、疼痛および非定型鬱病の併存症を特徴とする鬱病性障害をいうことが意図されている。具体的には、疼痛は慢性疼痛、神経因性疼痛、またはこれらの組合せであってよい。具体的には、このPADは、慢性疼痛が非定型鬱病に先立つか、または非定型鬱病が慢性疼痛に先立つ、非定型鬱病および慢性疼痛を含み得る。
「慢性疼痛」は、種々の疾患または異常な状態、例えば関節リウマチなどによって引き起こされる、長時間にわたって(すなわち、3ヶ月より長く)継続するか繰り返される疼痛をいう。慢性疼痛は、急性疼痛よりも強度は低いかも知れない。慢性疼痛を抱える人は、疼痛に対する自動的な反応が長期間持続されることはあり得ないため、通常は心拍数の上昇および急激な発汗を示さない。慢性疼痛を抱える人の中には、その環境から閉じこもり、単にその苦痛のみに専念し、その家族、および友人、ならびに外的刺激をすべて無視している人もいるかも知れない。例えば、Mosby’s Medical, Nursing & Allied Health Dictionary, 第5版(1998)を参照のこと。
慢性疼痛としては、例えば、関節炎、顎関節機能不全症候群、外傷性脊髄損傷、多発性硬化症、過敏性腸症候群、慢性疲労症候群、月経前症候群、多種化学物質過敏症、閉鎖性頭部外傷、線維筋痛症、関節リウマチ、糖尿病、癌、HIV、間質性膀胱炎、片頭痛、緊張型頭痛、ヘルペス後神経痛,末梢神経損傷、灼熱痛、発作後症候群(post−stroke syndrome)、ファントム四肢症候群、および慢性骨盤痛などの疾患または状態によって引き起こされる腰痛、非定型胸部痛、頭痛、骨盤痛、筋筋膜痛、腹部痛、および頚部痛、または慢性疼痛が挙げられるが、これらに限定されない。
「非定型鬱病」は、前向きな生活の効果に反応して一時的に気が楽になる能力(気分反応性)、ならびに2種以上の自律神経系の症状(過眠症、食欲の上昇または体重増加、鉛様の麻痺(leaden paralysis)、および知覚された対人関係の拒否に対する極端な感度の長期にわたるパターンが挙げられるがこれらに限定されず、この自律神経系の症状は約2週間より長く存在する)を伴う鬱状態の情動をいう。このような自律神経系の症状は、他の鬱病性障害(例えば、メランコリー型鬱病)において見出される症状と比べて好転され得る。
「急性神経障害」は、迅速な発症と、それに続く短期間であるが重症な経過(熱性痙攣、ギラン−バレー症候群、発作、および脳内出血が挙げられるが、これらに限定されない)とを有する神経障害をいう。
「慢性神経障害」は長期間(例えば、約2週間より長く;具体的にはこの慢性神経障害は、約4週間より長く、約8週間より長く、または約12週間より長く続くかまたは繰り返すことがある)続く神経障害をいい、またはこれは頻繁な繰り返しを特徴とし、例としては、ナルコレプシー、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー、脳性麻痺、癲癇、多発性硬化症、失読症、アルツハイマー病、およびパーキンソン病が挙げられるが、これらに限定されない。
「外傷」は、暴力もしくは事故からのような身体に対する任意の傷害またはショックをいうか、または人の心理的な発達に対して実質的な、長く続く損傷を与える心の傷(wound)もしくはショックのような、任意の心の傷もしくはショックをいう。
「虚血状態」は、血管の狭窄もしくは閉塞によって引き起こされる身体の臓器、組織もしくは部分に対する血液供給の減少をもたらす任意の状態であり、これはしばしばその臓器、組織または部分への酸素の減少をもたらす。
「低酸素状態」は、空気、血液もしくは組織の中の酸素の量または濃度が低い(正常以下である)状態である。
「有痛性神経障害」または「ニューロパチー」は、末梢神経系もしくは中枢神経系に対する損傷、またはそれらの病理学的変化から生じる慢性疼痛である。末梢神経因性疼痛はまた、有痛性神経障害、神経痛、末梢性感覚ニューロパチー、もしくは末梢神経炎とも呼ばれる。ニューロパチーについては、疼痛は傷害の症状ではなく、むしろそれ自体が病気の経過である。ニューロパチーは、治癒のプロセスとは関連していない。どこかに傷害があることを伝えるのではなく、神経それ自体が機能障害を起こしており、疼痛の原因となる。
「神経因性疼痛」は、炎症または末梢神経、脳神経、脊髄神経の変性、あるいはこれらの組合せに関連する疼痛である。この疼痛は、典型的には、鋭いか、刺すようであるか、または突き刺すようである。この根底にある障害は、末梢神経組織の破壊をもたらすことがあり、皮膚の色、体温、および浮腫の変化を伴うことがある。例えば、Mosby’s Medical, Nursing & Allied Health Dictionary, 第5版(1998);およびStedman’s Medical Dictionary,第25版(1990)を参照のこと。
「糖尿病性神経障害」は、糖尿病によって引き起こされる末梢神経障害/神経損傷をいい、糖尿病に関連する末梢神経、自律神経、および脳神経の障害/損傷を含む。糖尿病性神経障害は、高血糖(高い血糖レベル)の結果として神経が損傷を受ける、真性糖尿病の一般的な合併症である。
「薬物依存」は、化学物質に対する習慣、化学物質の濫用、および/または化学物質に対する嗜癖をいう。たいていは心理的欲求に起因して、薬物依存性の人の生活は、気分または意識の状態に対する1種以上の化学物質の特異的な効果への要求を中心に展開する。このように、この用語は、嗜癖(これは生理学的依存性を強調する)だけでなく、薬物濫用(この状態では、薬物に対する病的欲求が身体的依存性に関係していないように見える)も含む。例としては、アルコール、アヘン薬、モルヒネ様の効果を有する合成鎮痛薬、バルビツール酸塩、催眠薬、鎮静薬、いくつかの抗不安薬、コカイン、精神刺激薬、マリファナ、ニコチン、および幻覚薬に対する依存性が挙げられるが、これらに限定されない。
「休薬」は、薬物摂取の停止をいう。休薬はまた、薬物が突然に中止された場合に、特定の薬物の持続的な使用から生じる心理的かつ、時折は、身体的な要因の臨床的症候群をいう。症状は、さまざまであるが、不安症、神経質、過敏性、発汗、吐き気、嘔吐、頻脈、呼吸促迫、およびてんかんを挙げることができる。
「薬物嗜癖」または依存性は、1つ以上の以下の徴候を有するとして定義される:薬物に対する耐性(同じ効果を達成するために増加された量を必要とする)、退薬症状、意図されたものより多い量で、または意図されたものより長い時間にわたってその薬物を摂取すること、消費された薬物の量を減らしたいという持続する欲望を有するかもしくは消費された薬物の量を減らすことができないこと、その薬物を入手しようと非常に多くの時間を費やすこと、あるいはその人がその薬物によって引き起こされる身体的または心理的な問題を分かっているにもかかわらず、その薬物の使用を継続すること。
「鬱病」は、悲しみ、失望および落胆の感情を特徴とする押うつ気分の精神状態をいう。鬱病は、抑うつの正常な感情から、気分変調症を経て、大鬱病までにわたる。
「不安障害」は、憂慮、不確実さ、または恐怖の感情を特徴とする過剰または不適切な興奮状態をいう。不安障害は、それらの症状の重症度および継続期間、ならびに固有の行動上の特徴に従って分類されてきた。分類としては、全般性不安障害(これは長く続くが低悪性度である)、パニック障害(これはより劇的な症状を有する)、恐怖症、強迫性障害、外傷後ストレス障害、および分離不安障害が挙げられる。
「遅発性ジスキネジア」(例えば、トゥレット症候群)は、任意の年齢で起こり得る重篤の、不可逆的神経障害をいう。遅発性ジスキネジアは、抗精神病薬/神経遮断薬の長期の使用の副作用であり得る。症状は、ほとんど目立たないか、または根深くない場合がある。症状は、身体、体幹、脚、腕、指、口、唇、または舌が挙げられる種々の身体部分の制御不可能な動きを伴う。
「運動障害」は、運動系(motor and movement system)が関与する神経障害の群をいい、例として、運動失調症、パーキンソン病、眼瞼痙攣、アンジェルマン症候群、毛細血管拡張性運動失調症、発声障害、筋緊張異常疾患、歩行障害、斜頸、書痙、進行性核上性麻痺、ハンチントン舞踏病、ウィルソン病、ミオクロニー、痙縮、遅発性ジスキネジア、チック、トゥレット症候群、および振戦が挙げられるがこれらに限定されない。
「血液脳関門を破壊する脳感染」は、血液脳関門の実効性の変化、物質および/もしくは生物が血流から出て中枢神経系へと通るのを防ぐその能力の上昇または低下のいずれかをもたらす、脳または大脳の感染をいう。
「血液脳関門」は、巨大分子、免疫細胞、多くの損傷を与える可能性がある物質、ならびに異質な生物(例えば、ウイルス)が血流から出て中枢神経系(例えば、脳および脊髄)へと通るのを防ぐ中枢神経系の毛細管内の内皮細胞の半透過性層をいう。血液脳関門の機能不全は、一部は、多発性硬化症の病気の経過の根底にあるかも知れない。
「髄膜炎」は脳および脊髄の髄膜の炎症をいい、最も頻繁には、細菌感染またはウイルス感染によって引き起こされ、発熱、嘔吐、激しい頭痛、および斜頸を特徴とする。
「髄膜脳炎」は、脳および髄膜の一方または両方の炎症をいう。
脳卒中または脳血管発作とも呼ばれる「発作」は、脳への血管の封鎖もしくは破裂によって引き起こされる(脳への酸素の欠乏を生じる)脳機能の突然の喪失をいい、筋制御の喪失、感覚もしくは意識の減少または喪失、眩暈、不明瞭な発語、または脳への損傷の程度および重症度によって変わる他の症状を特徴とする。
「低血糖症」は、血中のブドウ糖の異常に低いレベルをいう。
「脳虚血」(発作)は、脳への血液供給の不全をいい、しばしば脳への酸素の欠乏を生じる。
「心停止」は、心拍および心機能の突然の休止をいい、有効な循環の一時的または永久的な喪失を生じる。
脊髄傷害または圧迫症とも呼ばれる「脊髄外傷」は、脊髄自体に対する直接の傷害から生じるか、または骨および軟部組織ならびに脊髄を取り囲む血管への損傷によって間接的に生じる脊髄への損傷をいう。
「頭部外傷」は、頭皮、頭蓋骨、または脳の頭部傷害をいう。これらの傷害は、頭皮上の小さな瘤から壊滅的な脳傷害の範囲にわたり得る。頭部外傷は閉鎖性または穿通性のいずれかに分類することができる。閉鎖性頭部外傷では、頭部は物体と衝突することによる鈍力に耐える。脳震盪は脳が関与する閉鎖性頭部外傷である。穿通性頭部外傷では、物体(通常は高速で動いている。例えば、自動車のフロントガラスまたは他の部分)は頭蓋骨を貫いて破壊し、脳に到達する。
「周産期低酸素症」は、周産期(すなわち、出生のすぐ直前およびすぐ直後に短時間発生する期間、妊娠の第20〜28週の経過で始まり、出生の7〜28日後に終わるとして、様々に定義される)の間の酸素の欠乏をいう。
「低血糖神経障害」は低血糖状態(すなわち、異常に低い血糖値)から生じるニューロンの損傷、例えば、神経損傷をいう。
「神経変性障害」は、神経細胞の喪失を特徴とする神経疾患のタイプをいい、例としては、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側策硬化症、タウオパチー(前頭側頭型認知症を含む)、およびハンチントン病が挙げられるがこれらに限定されない。
「癲癇」は、意識の喪失または痙攣性てんかんを伴うか、もしくは伴わない、運動機能障害、感覚機能障害、または精神機能障害突然の再発性発作を特徴とする種々の神経障害いずれかをいう。
「アルツハイマー病」は、一般に10〜15年にわたり、かつ大脳皮質における異常な組織およびタンパク質沈着物(プラークまたは濃縮体)の発達を伴う、認知能力の喪失を特徴とする疾患をいう。
「ハンチントン病」は、成人期に発症し、最後には認知症になる遺伝性疾患をいう。それは、制御できない運動、知的能力の喪失、および感情障害を引き起こす、脳のある領域における遺伝子的プログラムされたニューロンの変性から生じる。
「パーキンソンニズム」は、パーキンソン病に類似しているが、薬物療法、異なる神経変性障害、または別の疾病の効果によって引き起こされる障害をいう。用語「パーキンソンニズム」はまた、脳のある領域でドーパミンニューロンを損傷または破壊することにより、パーキンソン病で観察される運動異常性のタイプの任意の組合せを引き起こす任意の状態をもいう。
ルー・ゲーリック病とも呼ばれる「筋萎縮性側策硬化症」(ALS)は、進行性で致命的な神経疾患をいう。ALSは、運動ニューロン疾患として公知の障害のクラスに属する。ALSは、随意運動を制御する脳および脊髄における特異的神経細胞が徐々に(通常は、「上位」(すなわち、大脳皮質にある)および「下位」(脊髄にある))の運動ニューロンを変性するときに発生する。これらの運動ニューロンの喪失は、それらの制御下にある筋肉を弱めて萎縮させ、麻痺へと導く。ALSは、どの筋肉が最初に弱まるかに依存して、様々な方法で現れる。症状としては、つまずき(tripping)および転倒(falling)、手足の運動制御の喪失、発話、嚥下および/または呼吸の困難さ、持続的な疲労、ならびに単収縮および筋痙攣を挙げることができ、非常に重篤になることもある。上位運動ニューロン異型(例えば、原発性側索硬化症)もまた包含される。
「緑内障」は、異常に高い眼内の流体圧、損傷した視神経乳頭、眼球の硬化、視力の完全な喪失から部分的な喪失を特徴とする一群の眼疾患のいずれかをいう。網膜神経節細胞は、緑内障では失われている。緑内障のいくつかの異型(低眼圧緑内障)は、正常な眼圧を有する。
「網膜虚血」は、網膜への血液供給の減少をいう。
「虚血性視神経症」は、一方向に減少した視力の突然の発症とともに通常存在する状態をいう。この状態は、視神経への血流量の減少(虚血)の結果である。動脈炎性虚血性視神経症および非動脈炎性虚血性視神経症の2つの基本のタイプが存在する。非動脈炎性虚血性視神経症は、一般に、心血管疾患の結果である。最も高いリスクの患者は、高血圧、高いコレステロール、喫煙、糖尿病またはこれらの組合せの病歴を有する。動脈炎性虚血性視神経症は、側頭動脈炎として公知の、視神経に血液を供給している血管の炎症によって引き起こされる。この状態は、通常、一方の眼において突然かつ重篤な視力喪失、咀嚼の際の顎の疼痛、こめかみ部の圧痛、食欲低下、および疲労または疾病全身的な感覚を伴って存在する。
「黄斑変性症」は、網膜黄斑と呼ばれている網膜の中央の物理的障害をいい、中心視の喪失に至るが、色覚および周辺視は明瞭なままであることもある。視力喪失は、通常徐々に発生して、典型的には異なる進度で両眼に影響を及ぼす。
「脱髄性障害」は、神経を取り囲みかつ神経インパルスを脳へと効率よく伝達することを担う髄鞘への損傷から生じる状態である。脱髄性障害は、筋肉の弱さ、協調性の乏しさおよび麻痺の可能性をもたらし得る。脱髄性障害の例としては、多発性硬化症、視神経炎、横断性神経炎およびギラン−バレー症候群が挙げられるが、これらに限定されない。脱髄性障害を処置する場合、本発明にかかる組成物は、N−メチル−D−アスパラギン酸型グルタミン酸受容体(NMDAR)拮抗薬(例えば、メマンチン)またはβインターフェロンアイソフォーム、コパクソン(copaxone)またはアンテグレン(Antegren)(ナタリズマブ(natalizumab))を含んでいてよい。ニューロン損傷は多発性硬化症などの脱髄性状態で起こり得るため、有用な薬物組成物は、ミエリンの代わりに、またはミエリンに加えてニューロンを保護を保護するかも知れない。
「多発性硬化症」は、主に若年成人に影響を及ぼし、かつ脱髄の領域および脳の白質におけるT−細胞が支配的な血管周囲の炎症を特徴とする、中枢神経系の慢性疾患をいう。いくつかの軸索がこれらの病理学的プロセスのために残されているかも知れない。この疾患は、最も一般的には、神経の異常性の急性もしくは亜急性の発症とともに始まる。最初およびそれに続く症状は、通常は多年にわたって継続するその疾患の過程にわたってその発現および重症度が劇的に異なる。早期の症状としては、しびれ感および/または錯感覚、不全単麻痺もしくは不全対麻痺症、複視、視神経炎、運動失調症ならびに膀胱の制御の問題を挙げることができる。それに続く症状としては、より目立つ上位運動ニューロン徴候、すなわち、痙縮の高まり、不全対麻痺または四肢不全麻痺の増大も挙げられる。回転性めまい、協調運動障害および他の小脳の問題、鬱病、情緒不安定、歩行の異常性、構語障害、疲労および疼痛もまた、一般的に観察される。
「高ホモシステイン血症の続発症」は、高ホモシステイン血症の結果として続く状態、すなわち、ホモシステインレベルの上昇をいう。
「痙攣」は、激しい無意識の収縮または一連の筋肉の収縮を指す。
「疼痛」は、脳への固有の神経線維によって媒介される現実の、または潜在的な組織損傷に関連する不快感をいい、その意識的な認識は、種々の要因によって修正され得る。例えば、Mosby’s Medical, Nursing & Allied Health Dictionary,第5版(1998);およびStedman’s Medical Dictionary, 第25版(1990)を参照のこと。
「不安症」は、現実的または空想的な切迫する事象または状況の予想から生じる憂慮、不確実さ、および/または恐怖の状態をいい、これはしばしば身体的および心理的な機能を損なう。
「統合失調症」は、通常、現実からの閉じこもり(離脱)、非論理的な思考パターン、妄想、および幻覚を特徴とし、様々な程度で他の情動障害、行動障害、または知的障害を伴う一群の精神障害のいずれかをいう。統合失調症は、脳のドーパミン不均衡および前頭葉の欠陥を伴う。
「筋痙攣」は、しばしば痛みを伴う不随意の筋収縮を指す。
「片頭痛」は、しばしば羞明およびかすみ目を伴う、重篤な衰弱させる頭痛をいう。
「尿失禁」は、尿の流れおよび不随意の排尿を制御することができないことを指す。
「ニコチン離脱」は、タバコで見出される嗜癖性化合物であるニコチンの休薬をいい、これは、頭痛、不安症、吐き気およびより多くのタバコを求める欲求が挙げられる症状を特徴とする。ニコチンは薬物依存を引き起こし、その結果、身体は常にニコチンのあるレベルの要求を呈する。そのレベルが維持されない限り、その身体は退薬症状を経験し始める。
「アヘン製剤耐性」は、高レベルのアヘン製剤、例えば、ヘロインまたはモルヒネへの継続した露出を補正するために、系の感度を減らす恒常性反応を指す。薬物が停止されると、その系はもはやエンケファリンニューロンの鎮静効果を感知できず、退薬症状の疼痛生成される。
「アヘン製剤離脱」は、それまで大量かつ長期(数週間以上)であったアヘン製剤薬物の使用の、休止もしくは劇的な減少によって引き起こされる急性状態をいう。アヘン製剤としては、ヘロイン、モルヒネ、コデイン、オキシコンチン、ジラウジッド、メサドンなどが挙げられる。アヘン製剤離脱は、しばしば、発汗、揺れ、頭痛、薬物欲求、吐き気、嘔吐、腹部痙攣、下痢、眠れないこと、錯乱、動揺、鬱病、不安症、および他の行動変化を含む。
「嘔吐」は、嘔吐の行動をいう。
「脳浮腫」は、脳における、脳での、脳の周囲での、および/または脳に関連した過剰な流体の蓄積をいう。
「AIDS−(またはHIV−)誘導性(または関連)認知症」は、後天性免疫不全症候群(AIDS)を引き起こすヒト免疫不全ウイルス(HIV)によって誘発される認知症(脳の器質性疾患または器質性障害から生じる、記憶、集中力、および判断などの知的能力の劣化)をいう。
「HIV関連のニューロパチー」は、ニューロパチーが例えばCMVまたはヘルペスファミリーの他のウイルスへの感染によって引き起こされる、HIVに感染している哺乳動物におけるニューロパチーをいう。ニューロパチーは、症状がつま先および指の刺すような痛みの感覚またはしびれ感から疼痛に、さらに麻痺にわたることがある一群の障害に与えられる名称である。
「眼損傷」は、眼に対する任意の損傷または眼に関する任意の損傷をいう。
「網膜症」は、網膜の任意の病理学的障害をいう。
「認知障害」は、任意の認知機能不全、例えば、記憶障害(例えば、健忘症)または学習障害をいう。
本発明の別の実施形態において、本発明の神経保護化合物はまた、フリーラジカルに誘導された損傷による老化を処置するために、例えば、生体の神経系の通常の老化の過程およびその症状を緩徐化するためにも用いられる(フィンケル(Finkel)、Nat.Rev.Mol.Cell Biol.6:971−976頁、2005年;フィンケル(Finkel)ら、Nature 408:239−247頁、2000年)。したがって、個体における老化過程の神経症状またはその症状の緩徐化に有効な本発明による化合物の量を含んでなる組成物が提供される。
(神経毒性求電子剤および神経防護作用求電子剤)
いくつかの求電子剤(本明細書中で「神経毒性」求電子剤と呼ばれる)と、還元型システイン残基、例えば、グルタチオン(GSH)の還元型システイン残基との反応は、その細胞の還元能を低下させることにより、神経毒性を誘発することができる(Suzukiら, J.Am.Chem.Soc.119:2376−2385,1997;Spencerら, FEBS Lett.24:246−250,1994)。このように、初期の研究は15d−PGJ2(Shibataら, J.Biol.Chem.281:1196−1204,2005)、カテコールアミン代謝産物(ドーパミンを含む)(Spencerら, FEBS Lett.24:246−250,1994)、および抗腫瘍薬(ドキソルビシンを含む)(Wetzelら, Eur.J.Neurosci.18:1050−1060,2003)のような内因性求電子剤の神経毒性効果に焦点を当てていた。この点に関して、求電子剤は、いくつかの機構:(1)GSH削除、(2)活性酸素種(ROS)産生、(3)DNA損傷、(4)p53活性化、(5)Fas/Fasリガンド誘発、および(6)ミトコンドリア機能不全(Suzukiら, J.Am.Chem.Soc.119:2376−2385,1997;Spencerら, FEBS Lett.24:246−250,1994;Shibataら, J.Biol.Chem.281:1196−1204,2005;Wetzelら, Eur.J.Neurosci.18:1050−1060,2003)、によってニューロン死に寄与することができる。求電子剤によるGSHシステインのアルキル化(Suzukiら, J.Am.Chem.Soc.119:2376−2385,1997)はその細胞の還元能を削除し(Suzukiら, J.Am.Chem.Soc.119:2376−2385,1997;Shibataら, J.Biol.Chem.281:1196−1204,2005;Wetzelら, Eur.J.Neurosci.18:1050−1060,2003)、同時にそのアルキル化された複合体は、多剤耐性関連タンパク質−1(MRP−1)によって、細胞膜を通って押し出される(Sekineら, Am.J.Physiol.Renal Physiol.290:F251−F261,2006)。GSH削除によって誘起された活性酸素種(ROS)の蓄積はミトコンドリア機能不全に寄与し、このミトコンドリア機能不全はアポトーシスの仕組みを活性化し、チトクロムc放出、ミトコンドリア内膜へのBax転座、およびカスパーゼ活性化をもたらす(Shibataら, J.Biol.Chem.281:1196−1204,2005;Wetzelら, Eur.J.Neurosci.18:1050−1060,2003)。加えて、グアニン残基のアルキル化はDNAの転写および複製を阻害し、p53依存性アポトーシス経路を活性化する(Spencerら, FEBS Lett.24:246−250,1994;Shibataら, J.Biol.Chem.281:1196−1204,2005)。
他方で、求電子剤に応答して、いくつかの細胞は、「求電子剤の逆襲」、すなわち求電子剤を解毒して直ちに除去する系、を埋め込んでいる(Egglerら, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 102:10070−10075,2005;Dinkova−Kostovaら, Chem.Res.Toxicol.18:1779−1791,2005;Talalay, Biofactors 12:5−11,2000;Hongら, Chem.Res.Toxicol.18:1917−1926,2005;Padmanabhanら, Mol.Cell 21:689−700,2006)。この求電子的逆襲は、通常は比較的休眠状態で存在しているが、求電子剤それ自体によって活性化された状態になる(Dinkova−Kostovaら, Chem.Res.Toxicol.18:1779−1791,2005;Talalay, Biofactors 12:5−11,2000;Hongら, Chem.Res.Toxicol.18:1917−1926,2005;Padmanabhanら, Mol.Cell 21:689−700,2006)。この求電子剤の逆襲は求電子剤だけではなくROSをも取り除くため、それは神経変性および腫瘍増殖を防止することができる(Dinkova−Kostovaら, Chem.Res.Toxicol.18:1779−1791,2005;Talalay, Biofactors 12:5−11,2000;Hongら, Chem.Res.Toxicol.18:1917−1926,2005;Padmanabhanら, Mol.Cell 21:689−700,2006)。このように、求電子剤は、抗腫瘍薬(Dinkova−Kostovaら, Chem.Res.Toxicol.18:1779−1791,2005;Talalay, Biofactors 12:5−11,2000;Hongら, Chem.Res.Toxicol.18:1917−1926,2005;Padmanabhanら, Mol.Cell 21:689−700,2006)および神経防護作用剤(Satohら, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 103:768−773,2006;Shihら, J.Neurosci.25:10321−10335,2005;Kraftら, J.Neurosci.24:1101−1112,2004;Shihら, J.Neurosci.23:3394−3406,2003)の両方として使用することが恐らくできるであろう。Talalay(Biofactors 12:5−11,2000)は、この概念を最初に導入した人であり、この現象をその癌と戦う特性を考慮して「化学防御」と名付けた。多くの化学防御剤は求電子性であり、酸化ストレスに対する細胞の耐性を高める(Dinkova−Kostovaら, Chem.Res.Toxicol.18:1779−1791,2005;Talalay, Biofactors 12:5−11,2000;Hongら, Chem.Res.Toxicol.18:1917−1926,2005;Padmanabhanら, Mol.Cell 21:689−700,2006)。この形態の化学防御は、特異的なシグナル経路(Keap1/Nrf2経路)、ならびに以下の酵素:抗酸化剤(ビリルビン)を生成する、ヘムオキシゲナーゼ1(HO−1);キノンをヒドロキノンに還元する、NADPH−キノンオキシドレダクターゼ(NQO1);GSH接合化合物を細胞から外へ輸送する、多剤耐性関連タンパク質(MRP−1);GSHの合成に関与する、γ−グルタミルシステインシンテターゼ(γ−GCS);およびシステインの前駆体であるシスチンの取り込みに関与する、システイン/グルタミン酸アンチポーター(xCT)をコードする遺伝子を含めた、求電子剤に対して協調した応答を示す酵素をコードする第2相遺伝子の誘発を伴う、転写に基づく機構がしばしば必要である。他の第2相酵素としては、求電子剤をGSHに接合する、グルタチオンS−トランスフェラーゼ;過酸化水素を解毒する、カタラーゼ;スーパーオキシドを解毒する、マンガンスーパーオキシドジスムターゼ;および重金属を解毒する、メタロチオネイン−1およびメタロチオネイン−2が挙げられる。第2相酵素は薬物解毒および酸化還元調節に関与し、求電子化合物によって誘発される(Dinkova−Kostovaら, Chem.Res.Toxicol.18:1779−1791,2005;Talalay, Biofactors 12:5−11,2000;Hongら, Chem.Res.Toxicol.18:1917−1926,2005;Padmanabhanら, Mol.Cell 21:689−700,2006)。
ニューロンにおいて、求電子剤は2つの本質的に異なる作用、全細胞還元能の低下によって媒介される神経毒性効果だけではなく、第2相遺伝子の誘発を介する求電子剤逆襲、も示す。神経毒性効果が支配的である場合、特定の求電子剤はニューロンを殺す[例えば、ドキソルビシン(Wetzelら, Eur.J.Neurosci.18:1050−1060,2003)およびメナジオン[Nguyenら, Antioxid.Redox Signal.5:629−634,2003)]。対照的に、求電子剤の逆襲が支配的である場合、これは弱い求電子剤に応答して特に起こるが、その場合にはこの求電子性応答は、ニューロンをフリーラジカル関連損傷から救出する[例えば、tert−ブチルヒドロキノン(TBHQ)(Shihら, J.Neurosci.25:10321−10335,2005;Kraftら, J.Neurosci.24:1101−1112,2004;Shihら, J.Neurosci.23:3394−3406,2003)および神経突起伸長促進性プロスタグランジン(NEPP)化合物に関して観察されるように]。このように、全細胞酸化還元状態を消耗させる求電子剤の神経毒性効果を最少にしつつ、求電子剤の逆襲の優先的な活性化することは、神経変性に対する新しい治療戦略として謳われている(Satohら, Proc.Natl.Acad.Sci.USA103:768−773,2006;Shihら, J.Neurosci.25:10321−10335,2005;Kraftら, J.Neurosci.24:1101−1112,2004;Shihら, J.Neurosci.23:3394−3406,2003)。Murphyら(J.Neurochem.56:990−995,1991)は、外因性の求電子剤が神経防護作用を果たし得ることを最初に実証した。例えば、TBHQおよびフマル酸ジメチルは、酸化ストレスからニューロンを保護した。この防護効果は、第2相酵素であるNADPH−キノンオキシドレダクターゼ−1(NQO1)の誘発に関連していた(Murphyら, J.Neurochem.56:990−995,1991;Shihら, J.Biol.Chem.280:22925−22936,2005)。求電子性神経防護作用は、以下のパラメータを示す:(1)この防護は転写依存性であり、従って前処理を必要とする;(2)この防護作用化合物それ自体は求電子剤であってもよいし、または求電子剤を生成してもよい;(3)これらの化合物はGSHなどの必須の細胞酸化還元因子を残す;および(4)これらの化合物は、しばしばKeap1/Nrf2転写因子経路を介してNQO1およびヘムオキシゲナーゼ−1(HO−1)などの第2相酵素の発現を誘発する(Satohら, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 103:768−773,2006;Shihら, J.Neurosci.25:10321−10335,2005;Kraftら, J.Neurosci.24:1101−1112,2004;Shihら, J.Neurosci.23:3394−3406,2003)。興味深いことに、Murphy,Johnsonおよび共同研究者らは、発作に対するTBHQの神経防護作用効果が星状膠細胞におけるKeap1/Nrf2経路の活性化、および生成するパラクリン効果が適正な濃度で使用される場合には、ニューロンに対する生成するパラクリン効果を介して媒介されることを示した(Shihら, J.Neurosci.25:10321−10335,2005;Kraftら, J.Neurosci.24:1101−1112,2004;Shihら, J.Neurosci.23:3394−3406,2003;Shihら, J.Biol.Chem.280:22925−22936,2005)。対照的に、ドキソルビシンおよびメナジオンは神経毒性キニーネに基づく求電子化合物であり、それらは、事実上任意の濃度で酸化ストレスを誘起することによって細胞内GSHを消耗させニューロンを殺す(Wetzelら, Eur.J.Neurosci.18:1050−1060,2003;Nguyenら, Antioxid.Redox Signal.5:629−634,2003)。このように、求電子剤は、神経毒性求電子剤および神経防護作用求電子剤の2つの群に分類することができる。低濃度では、NEPPファミリーの求電子剤、特にNEPP11は、酸化ストレスからニューロンを保護する(実施例1;Satohら, J.Neurochem.77:50−62,2001も参照のこと)。シクロペンテノンプロスタグランジンの化学構造に基づき生成されたNEPP化合物は、HO−1依存性の様式で酸化ストレスからニューロンを保護する(Satohら, J.Neurochem.77:50−62,2001;Satohら, J.Neurochem.75:1092−1102,2000;Satohら, Eur.J.Neurosci.17:2249−2255,2003)。本発明者らは、NEPPは求電子化合物であるため、それらの神経防護作用を理解するための鍵はそれらが反応するタンパク質チオールの同定であるとの結論を下した。この方針に沿って、多くの求電子剤が、KeapI/Nrf2転写経路と密接に結びついた神経防護作用効果を発揮することが見出された(実施例1;Shihら, J.Neurosci.25:10321−10335,2005;Kraftら, J.Neurosci.24:1101−1112,2004;Shihら, J.Neurosci.23:3394−3406,2003も参照のこと)。しかしながら、2つ目の重要な点は、このクラスの分子はニューロンに優先的に濃縮され、従って標的化されたやり方でニューロンで直接作用することである。
NEPPによって開始される化学反応およびシグナル伝達経路に関して、システイン残基(1個又は複数個)に結合する求電子剤は、以下の一連の証拠に基づき神経防護作用を開始することができる:(1)NEPPおよび関連化合物は無細胞系におけるシステインに結合する(Suzuki.ら, J.Am.Chem.Soc.119:2376−2385,1997);(2)スルフヒドリルアルキル化剤であるN−エチルマレイミドは、ウシ血清アルブミンのシステイン残基に対するNEPP化合物の結合を破壊する(実施例1);(3)NEPPの求電子性部分である交差共役型ジエノンは神経防護作用およびHO−1誘発のために必要とされる(Satohら, J.Neurochem.77:50−62,2001;Satohら, J.Neurochem.75:1092−1102,2000);(4)Keap1変異体(位置151のシステインがセリンによって置き換えられている)がNEPP11およびその神経防護作用効果によるHO−1誘発を停止させる(実施例1)。このように、NEPP11によるKeaplのアルキル化/酸化還元シグナル伝達は、第2相遺伝子の誘発を通して神経防護作用事象を開始するであろう(実施例1;Satohら, Eur.J.Neurosci.17:2249−2255,2003)。
多くの研究は、求電子剤がKeapl/Nrf2経路の活性化とその結果として起こるHO−1および他の第2相酵素の誘発を介して、ニューロンを保護することができるという証拠を与えている。これらの酵素は、細胞内酸化還元状態の調節を介して神経防護作用を生じさせる(実施例1;Shihら, J.Neurosci.25:10321−10335,2005;Kraftら, J.Neurosci.24:1101−1112,2004;Shihら, J.Neurosci.23:3394−3406,2003)。抗酸化剤応答配列(ARE)は、第2相酵素をコードする遺伝子の5’上流のプロモーター領域に存在する転写要素である。AREに結合する転写因子は、従って第2相酵素の誘発を媒介する(Dinkova−Kostovaら, Chem.Res.Toxicol.18:1779−1791,2005;Talalay, Biofactors 12:5−11,2000;Hongら, Chem.Res.Toxicol.18:1917−1926,2005;Padmanabhanら, Mol.Cell 21:689−700,2006)。Yamamotoのグループは、このKeap1/Nrf2経路がAREを活性化することを最初に実証した(Padmanabhanら, Mol.Cell 21:689−700,2006)。Keap1は、Nrf2のユビキチン化のためのアダプタータンパク質であり、従ってこの転写因子の連続的な分解を駆動する(Egglerら, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 102:10070−10075,2005;Dinkova−Kostovaら, Chem.Res.Toxicol.18:1779−1791,2005;Talalay, Biofactors 12:5−11,2000;Hongら, Chem.Res.Toxicol.18:1917−1926,2005;Padmanabhanら, Mol.Cell 21:689−700,2006)。求電子剤がKeap1上の重要なシステイン残基と反応して付加体を形成するとき、それらはこの系をかき乱し、Nrf2を安定化し、Nrf2の遊離を引き起こし、それが核の中へと転座することを可能にし、その核の中でNrf2はAREに結合して第2相遺伝子の発現を刺激する(Egglerら, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 102:10070−10075,2005;Dinkova−Kostovaら, Chem.Res.Toxicol.18:1779−1791,2005;Talalay, Biofactors 12:5−11,2000;Hongら, Chem.Res.Toxicol.18:1917−1926,2005;Padmanabhanら, Mol.Cell 21:689−700,2006)。実際、Nrf2は、脳における求電子剤の逆襲応答を担う一次転写因子である(Satohら, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 103:768−773,2006;Shihら, J.Neurosci.25:10321−10335,2005;Kraftら, J.Neurosci.24:1101−1112,2004;Shihら, J.Neurosci.23:3394−3406,2003;Johnsonら, J.Neurochem.81:1233−1241,2002,Leeら, J.Biol.Chem.278:37948−37956,2003)。AREレポーターマウスを用いた実験は、TBHQが星状膠細胞においてAREを活性化し、Keap1/Nrf2経路の活性化および後に続くニューロンの酸化的損傷からの保護をもたらし、従って、TBHQは星状膠細胞においてKeap1/Nrf2経路を活性化することによってニューロンを保護するということを実証した(Shihら, J.Neurosci.25:10321−10335,2005;Kraftら, J.Neurosci.24:1101−1112,2004;Shihら, J.Neurosci.23:3394−3406,2003;Johnsonら, J.Neurochem.81:1233−1241,2002;Leeら, J.Biol.Chem.278:37948−37956,2003)。Nrf2ノックアウトマウス由来の大脳皮質培養物を用いた実験から、星状膠細胞におけるTBHQによる第2相遺伝子の誘発およびその結果生じる神経防護作用効果についてのNrf2タンパク質の重要性が確認された(Johnsonら, J.Neurochem.81:1233−1241,2002,Leeら, J.Biol.Chem.278:37948−37956,2003)。
我々の研究は、求電子剤に誘発される神経防護作用についての経路を示唆する。求電子剤は、細胞質制御因子タンパク質Keap1に結合し、Keap1は次に転写因子Nrf2を遊離させる。次いでNrf2は核に転座し、その核でNrf2はHO−1プロモーター上のARE部位を活性化する。HO−1の転写はこのように活性化され、生じたHO−1タンパク質の増加はヘム分子の分解を導き、ビリベルジンおよび最終的にはビリルビンを産生する。強力な抗酸化剤分子であるビリルビンの蓄積は、少なくとも一部はHO−1の神経防護作用効果を媒介する。求電子剤THBQへの曝露の後に、この経路は星状膠細胞において開始されるが、NEPP化合物への曝露の後は、この経路はニューロンにおいて活性化される。
求電子性NEPP化合物は、星状膠細胞よりはむしろニューロンに蓄積し、Keap1/Nrf2経路を活性化し、HO−1などの第2相遺伝子を直接ニューロン中に誘発する(Satohら, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 103:768−773,2006)。TBHQ対NEPPの曝露後の活性化されたKeap1/Nrf2を現す細胞型の見かけ上の相違は、恐らくは、それらの細胞での取り込みに異なって影響を及ぼすことができるこれらの化合物の本質的に異なる化学構造に起因しているかもしれない(Satohら, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 103:768−773,2006)。(表1に挙げた化合物などのカテコール型求電子性化合物を、典型的には、ニューロンおよび星状細胞双方に入れる。)
植物は非常に広範な求電子剤を産生するため、いくつかの食物は化学防御作用化合物を含み得る(Talalay, Biofactors 12:5−11,2000)。例えば、Curcuma longa Linnの粉末化した根茎であるクルクミンは、神経防護作用剤として作用する植物起源の多くの潜在的な求電子剤のうちの1つを代表する(Talalay, Biofactors 12:5−11,2000)。クルクミンは、Keap1/Nrf2/HO−1経路を活性化し、脳虚血に対する防護効果を発揮する(Balogunら, Biochem.J.371:887−895,2003)。クルクミンはまた、アルツハイマー病のマウスモデルにおいて慢性神経変性からニューロンを保護する(Limら, J.Neurosci.21:8370−8377,2001)。さらに、クルクミンは抗腫瘍(アポトーシス促進)効果を示す(Talalay, Biofactors 12:5−11,2000)。これらの背景情報に基づき、Dinkova−Kostovaら(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:3404−3409,2001)はNQO1活性の誘発についてクルクミンの類似体をスクリーニングし、ビス(4−ヒドロキシベンジリデン)アセトン(4−HBA)が最も強力な抗癌活性を有することを見出した(Dinkova−Kostovaら, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:3404−3409,2001)。興味深いことに、本発明者らのグループ(Satohら, J.Neurochem.77:50−62,2001)は、独立に、ニューロンの生存を促進することにおけるNEPP11の活性に起因して、このクラスの化学構造、すなわち交差共役型ジエノンに関して同様の結論に到達した。従って、神経防護作用求電子剤の構造のクラスの1つは交差共役型ジエノンを含む。
Keap1/Nrf2経路の求電子的活性化によって誘発される1つの第2相遺伝子産物はHO−1である。この酵素は、ヘムをビリベルジンへと酸化的に切断し、一酸化炭素(CO)を形成し、かつキレートされたFe2+を放出する(MainesおよびGibbs, Biochem.Biophys.Res.Commun.338:568−577,2005)。ビリベルジンの還元の産物であるビリルビンは、強力なフリーラジカルスカベンジャーとしての役割を果たす(Stocker, Antioxid.Redox Signal.6:841−849,2004)。HO−1-/-マウス由来の線維芽細胞は酸化ストレスに敏感であるが(PossおよびTonegawa, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:10925−10930,1997)、他方、HO−1トランスジェニックマウス由来の小脳顆粒ニューロンは酸化ストレスに対して耐性である(Chenら, J.Neurochem.75:304−313,2000)という報告によって明らかなように、HO−1は、酸化ストレスに対する耐性において必須の役割を果たす。第2相酵素の中で、HO−1は、例えば炎症に対する治療効果に起因して、特に注目されてきた(Leeら, Nat.Med.8:240−246,2002)。BarananoおよびSnyder(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:10996−1002,2001)、MainesおよびGibbs(Biochem.Biophys.Res.Commun.338:568−577,2005)、および本発明者らのグループ(実施例1)はすべて、HO−1誘発因子は神経防護作用性であると提唱している。例えば、実施例1で実証されるように、HO−1タンパク質は、以下の事実から証明されるように、NEPP11の神経防護作用効果において中心的な役割を果たす:(1)HO−1は、NEPP11によって劇的に増加する(実施例1;Satohら, J.Neurochem.75:1092−1102,2000);(2)HO−1阻害剤はNEPP11の神経防護作用効果を無効にする(実施例1);(3)HO−1 cDNAでのトランスフェクションは神経防護作用性である(Satohら, J.Neurochem.75:1092−1102,2000);および、HO−1酵素活性から下流にあるビリルビンもまた神経防護作用性である(Satohら, J.Neurochem.75:1092−1102,2000)。
さらに、すでに明記したように、NEPP化合物はニューロンに蓄積し、HO−1は、NEPP11を用いたマウスの腹腔内注入の後に、皮質ニューロンで誘発される。従って、NEPP11または類似の薬剤を用いた処置によるHO−1の誘発は、神経変性障害についての標的化ニューロン療法の新規な方法を示す(実施例1)。HOはHO−1(誘発型)およびHO−2(構成型)の2種のイソザイムとして存在する(MainesおよびGibbs, Biochem.Biophys.Res.Commun.338:568−577,2005)。HO−2活性はまた、HO−2ノックアウトマウスに対する研究によって証明されるように、酸化ストレスからニューロンを保護するためにも必須である(Dore.ら, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:2445−3450,1999)。本発明者らは、HO−1およびHO−2が、酸化ストレスから、しかし異なった調節を介してニューロンを保護することにおいて中心的な役割を果たす、つまりHO−2が最初にリン酸化によって活性化され、HO−1は引き続いて転写機構を介して活性化されることを提唱した:(Satohら, Eur.J.Neurosci.17:2249−2255,2003)。
神経防護作用求電子剤は、しばしばGSHの基礎レベルを上昇させる(Sunら, Biochem.Biophys.Res.Commun.14:371−377,2005)。GSHは細胞の酸化ストレスから保護する主要な還元物質であるため、そのレベルの上昇は、求電子剤の神経防護作用を一部は説明することができるであろう(Sunら, Biochem.Biophys.Res.Commun.14:371−377,2005)。このGSHの上昇は、シスチン(システインの前駆体)取り込みとGSH合成との両方の上昇に起因する。AREは、シスチン/グルタミン酸アンチポーター(xCT)およびγ−グルタミルシステインシンテターゼ(γ−GCS)(これらは、それぞれ、シスチン取り込みおよびGSH合成についての律速段階を示す)の両方の発現を調節する(Talalay, Biofactors 12:5−11,2000)。従って、AREを介するxCTおよびγ−GCSの求電子的誘発は、GSHを増加させることによって神経防護作用に寄与し得る。
加えて、NQO1は、求電子剤によって誘発される第2相遺伝子産物である。NQO1は、いくつかのキノンから対応するヒドロキノンへの2電子還元を触媒する(Talalay, Biofactors 12:5−11,2000;Dinkova−Kostovaら, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:3404−3409,2001)。還元されたキノンは、潜在的には有効な抗酸化剤として機能することができるが、他の証拠は、(1)NQO1遺伝子を用いたニューロン細胞のトランスフェクションは防護をもたらさない(Murphyら, J.Neurochem.56:990−995,1991),および(2)NQO1は、逆説的に未知の機構によってニューロン細胞死を高めているかも知れない(Kapinyaら, J.Neurochem.84:1028−1039,2003)という理由で、NQO1活性は求電子剤の神経防護作用効果に関与しているらしいということを示唆する。
TBHQおよびNEPP11は、神経防護作用に特異的なシステインに対するTBHQおよびNEPP11の結合に起因して神経毒性効果を最小にしつつ、優先的に求電子性の逆襲を活性化する。1つのこのようなシステイン残基は、Keap1のCys151であるようである(Egglerら, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 102:10070−10075,2005;Hongら, Chem.Res.Toxicol.18:1917−1926,2005);このようなシステインチオールは神経変性疾患に対する新規な神経防護作用剤の開発のための潜在的な薬物標的である。
全身投与された際、NEPP11および4−HBAなどの求電子体とチオールは、該求電子体が脳内のそれらの意図された標的に到着する前に反応し得る可能性がある。したがって、プロドラッグとして作用し、意図された標的に到着した際に酸化によって求電子体に変換する化合物が望ましいと言える。例えば、カテコール環を有するテルペノイドは、酸化によってキノン型の求電子体に変換し得るプロ求電子性化合物である(ディンコバ−コストバ(Dinkova−Kostova)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 102:4584−4589頁、2005)。パーキンソン病では、酸化ストレスは疾患の進行において重要な役割を果たしている(ジェナー(Jener)、Ann.Neurol.53:S36−S38頁、2003年)が、標的部位にプロ求電子性化合物を、それらの酸化を介して活性化させるために用いて、必要な場所に神経保護を提供することはできなかった。このアプローチは、病的活性を介して求電子薬を活性化し得る神経変性障害に対する新規な戦略である。
カルノシン酸(CA)は、例えば、植物のローズマリー(Rosmarinus officinalis)およびセージ(Salvia officinalis L.)由来のポリフェノール抗酸化剤である。我々は、カルノシン酸(CA)が、酸化によって神経保護性のキノンに変換し得るテルペノイドであることを見出した。これは、NEPPsと同様な様式でKeap1/Nrf2経路を活性化する。CAはまたある利点を有する。CAは脳透過性である。また、これは酸化によって活性化され、したがって、すなわち、傷害の部位において、その神経保護性のキノン代謝物に変換し得る。さらにこれは、傷害組織により長期間留まる。インビトロでは、およそ0.1μMから101μMのCAが神経保護的である。インビボでは、1mg/kgから100mg/kgの間の用量範囲が最適であると考えられるが、他の用量も使用することができる。本発明の実施に有用な正確な用量は、過度の実験をせずに決定することができる。ローズマリーおよびセージからカルノシン酸を得るための方法は、例えば、米国特許第5,256,700号明細書;および米国特許第6,335,373号明細書に教示されており、精製された化合物は市販品が入手できる。
カルノシン酸誘導体もまた、本発明の実施に使用することができる。カルノシン酸誘導体およびそれらの化学的合成いくつかの例に関しては、例えば、米国特許第6,479,549号明細書を参照されたい。他のCA誘導体も当業界に知られており、過度の実験をせずに当業者によって製造することができる。例としては、ベンゼン環がオルト配位ではなく、パラ配位での2つのヒドロキシル基を有する以下の化合物およびそれらの誘導体が挙げられる(CAの指標名による)::1,4a(2H)−フェナントレンジカルボン酸、1,3,4,9,10,10a−ヘキサヒドロ−5,6−ジヒドロキシ−1メチル−7−(1−メチルエチル)−, (1R,4aR,10aS)−;1,4a(2H)−フェナントレンジカルボン酸、1,3,4,9,10,10a−ヘキシドロ−5,6−ジヒドロキシ−1−メチル−7−(1−メチルエチル)−,1−メチルエステル、(1R,4aR,10aS)−;4a(2H)−フェナントレンカルボン酸、1,3,4,9,10,10a−ヘキサヒドロ−5,6−ジヒドロキシ−1−(ヒドロキシメチル)−1−メチル−7−(1−メチルエチル)−、(1R,4aR,10aS)−;4a(2H)−フェナントレンカルボン酸、1,3,4,9,10,10a−ヘキサヒドロ−5,6−ジヒドロキシ−7−(2−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−1,1−ジメチル−,[4aR−[4aα,7(R*),10aβ]]−(9CI)(16−ヒドロキシカルノシン酸とも呼ばれる); 5ε,10ε−ポドカルパ−8,11,13−トリエン−17−オン酸、7,11,12−トリヒドロキシ−13−イソプロピル(7CI);4a(2H)−フェナントレンカルボン酸、1,3,4,9,10,10a−ヘキサヒドロ−5,6−ジヒドロキシ−1,1−、ジメチル−7−(1−メチルエチル)−9−オキソ−,(4aR−トランス)−(9CI);4a(2H)−フェナントレンカルボン酸、1,3,4,9,10,10a−ヘキサヒドロ−5,6,9−トリヒドロキシ−1,1−ジメチル−7−(1−メチルエチル)−10−オキソ−、[4aR−(4aα,9β,10aβ)]−(9CI);4a(2H)−フェナントレンカルボン酸、1,3,4,9,10,10a−ヘキサヒドロ−5,6,9−トリヒドロキシ−1,1−ジメチルl−7−(1−メチルエチル)−、(4aR,9S,10aS)−(カルノシン酸とも呼ばれる);および4a(2H)−フェナントレンカルボン酸、7−[2−(アセチルオキシ)−1−メチルエチル]−1,3,4,9,10a−ヘキサヒドロ−5,6−ジヒドロキシ−1,1−ジメチル(9CI)。
(スクリーニング方法)
多くのNEPPならびに他の求電子性およびプロ求電子性化合物が、文献に公知である。
実施例に詳細に記載されるように、神経防護作用について有効である他の物質についてスクリーニングするための方法が提供される。本明細書に教示される方法加えて、神経防護作用物質についてスクリーニングするための方法は当該分野で公知である。
(医薬組成物および方法)
本発明の組成物は、医薬組成物として処方することができ、そして哺乳類の宿主(例えば、ヒト患者)に、選択された投与経路、すなわち、経口または非経口による、静脈内経路、筋肉内経路、局所経路もしくは皮下経路によるに経路に適合された種々の形態で投与することができる。
このような組成物は、種々の経路によってインビボで全身投与され得る。例えば、それらは、不活性希釈剤または同化可能な可食担体などの薬学的に許容可能な賦形剤と組合せて経口投与され得る。それらは、軟殻または硬殻ゼラチンカプセルに封入されていてもよく、錠剤へと圧縮されていてもよく、または患者の食事の食物に直接組み込まれていてもよい。経口投与のために、活性成分(1種または複数種)は、1種以上の賦形剤と組み合わされ、体内摂取可能な錠剤、口腔錠、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ、ウェーハなどの形態で使用され得る。このような組成物および調製物は、少なくとも0.1%の活性化合物を含有する。組成物および調製物の割合(%)は当然変わり得るが、好都合には、所与の単位投与量形態の重量の約2〜約60%であってよい。このような有用な組成物における活性成分の量は、有効投与量レベルが得られるであろうような量である。
錠剤、トローチ剤、丸剤、カプセル剤などはまた、以下のものを含有し得る:トラガカント、アラビアゴム、トウモロコシデンプンまたはゼラチンなどの結合剤;第二リン酸カルシウムなどの賦形剤;トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、アルギン酸などの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤;そして、スクロース、フルクトース、ラクトースまたはアスパルテームなどの甘味剤、またはペパーミント、冬緑油、もしくはサクランボ香味料などの矯味矯臭剤が加えられ得る。単位投与量形態がカプセルである場合、それは、上記の種類の物質に加えて、植物油またはポリエチレングリコールなどの液体担体を含有し得る。種々の他の物質が、コーティングとして、または固体単位投与量形態の物理的形態を別の態様で変更するために、存在してよい。例えば、錠剤、丸剤、またはカプセル剤は、ゼラチン、ワックス、シェラックまたは糖類などでコーティングされ得る。シロップまたはエリキシル剤は、活性化合物、甘味剤としてのスクロースまたはフルクトー−ス、防腐剤としてのメチルパラベンおよびプロピルパラベン、色素かつ香味料としてのサクランボフレーバーまたはオレンジフレーバーを含み得る。当然、任意の単位投与量形態を調製する際に使用される任意の物質は、薬学的に許容可能なものであるべきであり、用いられる量において実質的に無毒であるべきである。加えて、上記化合物は、徐放性調製物および装置に組み込まれ得る。
上記組成物は、点滴または注射によって静脈内もしくは腹腔内投与され得る。本発明にかかる神経防護作用化合物、その塩または溶媒和物、ならびに他の活性成分の溶液は、水の中で、必要に応じて無毒の界面活性剤と混合されて調製され得る。分散液もまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、トリアセチン、およびこれらの混合物中、ならびに油中で調製され得る。通常の保存および使用の条件下で、これらの調製物は、微生物の増殖を防止するための防腐剤を含有する。
注射または点滴のために適切な薬理学的投与量形態は、滅菌された水溶液もしくは水系分散液、あるいは必要に応じてリポソームに封入された、滅菌された注射可能もしくは点滴可能な溶液または分散液の即席調製に適合された活性成分を含む滅菌された粉末を含み得る。すべての場合において、最終的な投与量形態は、滅菌され、流体であり、かつ製造および保存の条件下で安定であるべきである。液体担体またはビヒクルは、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、植物油、無毒のグリセリルエステル、およびこれらの適切な混合物を含む溶媒または液体分散液媒体であり得る。適正な流動性は、例えば、リポソームの形成によって、分散液の場合には必要とされる粒子径の維持によって、または界面活性剤の使用によって維持され得る。微生物の活動の防止は、種々の抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらされ得る。多くの場合、等張剤、例えば、糖類、緩衝液または塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射可能組成物の長期にわたる吸収は、その組成物における、吸収を遅らせる薬剤、例えば、アルミニウムモノステアレートおよびゼラチンなどの使用によってもたらされ得る。
滅菌された注射可能な溶液は、本発明にかかる神経防護作用化合物または他の活性成分を、適切な溶媒中に、必要とされる量で、必要に応じて上に列挙された種々の他の成分とともに組み込み、次いで濾過滅菌することにより調製される。滅菌された注射可能な溶液の調製のための滅菌された粉末の場合には、好ましい調製方法は、真空乾燥および凍結乾燥技術であり、これらは、それまでに滅菌濾過された溶液中に存在した任意の付加的な所望の成分を加えた活性成分の粉末を与える。
局所投与のために、本発明にかかる神経防護作用化合物および他の活性成分は、純粋形態で、すなわち、それらが液体であるときに適用され得る。しかしながら、それらを、組成物または処方物として、固体又は液体であってもよい皮膚科学的に受容可能な担体と組合せて、皮膚に投与することが一般に望ましい。
有用な固体担体としては、細かく分割された固体、例えばタルク、粘土、微結晶性セルロース、シリカ、アルミナなどが挙げられる。有用な液体担体としては、水、アルコールもしくはグリコール、または有効なレベルで、必要に応じて無毒の界面活性剤の助けを得て、本発明の化合物が溶解もしくは分散され得る水−アルコール/グリコールのブレンドが挙げられる。香料およびさらなる抗菌剤などのアジュバントは、所与の用途のための特性を最適化するために加えられ得る。得られる液体組成物は、吸収性パッドから適用されるか、絆創膏および他の包帯材を含浸するために使用されるか、またはポンプタイプの噴霧器もしくはエアロゾル噴霧器を用いて患部に噴霧され得る。
合成ポリマー、脂肪酸、脂肪酸塩およびエステル、脂肪アルコール、変性セルロースまたは変性無機質などの増粘剤もまた、液体担体と一緒に用いることができ、使用者の皮膚に直接塗布するための塗布できるペースト、ゲル、軟膏、石鹸などを形成することができる。
本発明にかかる神経防護作用化合物または他の活性成分の有用な投与量は、それらのインビトロにおける活性と動物モデルにおけるインビボ活性とを比較することにより決定され得る。マウス、および他の動物での有効投与量をヒトに外挿するための方法は、当該技術分野で公知である。例えば、米国特許第4,938,949号を参照のこと。
一般に、液体組成物における本発明にかかる神経防護作用化合物または本発明の他の活性成分の濃度は、約0.1〜25重量%、好ましくは約0.5〜10重量%である。ゲルまたは粉末などの半固体または固体の組成物の濃度は、約0.1〜5重量%、好ましくは約0.5〜2.5重量%である。
単独での使用または他の薬剤と一緒の使用のために必要とされる上記化合物、または活性塩もしくは誘導体の量は、選択された特定の塩に応じてだけでなく、投与経路、処置される状態の性質、およびその患者の年齢および状態に応じても変わり、最終的には主治医である医師または臨床医の裁量による。
しかしながら、一般に、適切な用量は、1日あたり、体重1kgにつき約0.5〜約100mg、例えば、約1〜約75mg、または1日あたり、レシピエントの体重1kgあたり1.5〜約50mg、または約2〜約30mg/kg/日、または約2.5〜約15mg/kg/日の範囲にある。
上記化合物は、例えば、1つの単位投与量形態あたり5〜1000mg、好都合には10〜750mg、最も好都合には50〜500mgの活性成分を含有する単位投与量形態で好都合に投与され得る。
上記活性成分は、約0.5〜約75μM、好ましくは、約1〜50μM、最も好ましくは約2〜約30μMの活性化合物のピーク血漿濃度を達成するように投与され得る。これは、例えば、必要に応じて生理食塩水中の活性成分の0.05〜5%溶液の静脈内注射により、または約1〜100mgの活性成分を含有するボーラスとして経口投与することにより達成され得る。望ましい血液レベルは、約0.01〜5.0mg/kg/時間を提供するための連続的な点滴によって、または約0.4〜15mg/kgの活性成分(1種または複数種)を含有する間欠的な点滴によって維持され得る。
所望の用量は、単一の用量で、または適切な間隔で投与される分割用量として(例えば、1日に2回、3回、4回、またはこれより多い回数の部分用量(sub−dose)で)好都合に提供され得る。この部分用量自体は、例えば、多くの別個のかなり間隔を空けた投与、例えば、吸入器からの多数回の吸入もしくは複数の液滴を眼に適用することによるように、さらに分割され得る。
本発明にかかる医薬組成物は、1種または1種より多い本発明にかかる神経防護作用物質を含み得る。本発明にかかる神経防護作用化合物を含む医薬組成物は、他の活性成分も含み得る。
本発明の数多くの変更態様およびバリエーションが、上記の教示を考慮すると可能である。それゆえ、添付の特許請求の範囲の範囲内で、本発明は、具体的に本明細書に記載されたものとは別の態様で実施され得るということが理解されるべきである。
本発明は、以下の非限定的な実施例によってさらに説明される。
(実施例1)
最近の研究は、Keap1/Nrf2/ARE経路の活性化が求電子剤によるHO−1誘発を媒介することを示した(Itohら, Mol.Cell.Biol.24:36−45,2004;Gongら, Antioxid.Redox Signal.4:249−257,2002)。従って、本発明者らは、神経突起伸長促進性プロスタグランジン(NEPP)がHO−1誘発および神経防護作用を促進する、可能性のある機構としてこの経路に焦点を当てた。本発明者らは、NEPPが、Keap1/Nrf2経路を活性化するための求電子剤として作用することにより、インビトロおよびインビボの両方において、ニューロン変性から皮質ニューロンを保護することを見出した。
(物質および方法)
細胞培養物、トランスフェクション、およびグルタチオン(GSH)測定
HT22細胞(Satohら, Eur.J.Neurosci.17:2249−2255,2003;Satohら, J.Neurochem.77:50−62,2001;Sagaraら, J.Biol.Chem.277:36204−36215,2002)および一次皮質ニューロン(Bonfocoら, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:7162−7166,1995)を、記載されているように培養した。トランスフェクションを、Lipofectamine 2000(Invitrogen)を用いて行った。レポーター遺伝子アッセイでは、細胞溶解物における蛍ルシフェラーゼ活性を照度計(Promega)を用いて測定した。全GSH(還元体および酸化体)を、記載されているように測定した(Leeら, Biochem.Biophys.Res.Commun.280:286−292,2001)。
免疫沈降、ウエスタンブロットおよび免疫蛍光法
これらのアッセイを、以下の抗体を用いることによって記載されているように行った(Guら, Science 297:1186−1190,2002):抗−HO−1(SPA895、1:1000、Santa Cruz Biotechnology)、抗−Keap1(1:100、Santa Cruz Biotechnology), または抗−アクチン(1:5,000、Oncogene Research Products、San Diego)。
電気泳動移動度シフト解析(EMSA)
二本鎖抗酸化剤応答配列(ARE)を、ビオチン3’−末端DNA標識キット(Pierce)を用いることによって標識した。核溶解物を、標識したプローブとともに室温で20分間インキュベーションし、8% 未変性ポリアクリルアミドゲルに展開させ、Hybond−N+(Amersham Pharmacia)に移した。シグナルを、ペルオキシダーゼ接合ストレプトアビジン(Pierce)を用いて視覚化した。
局所脳虚血および再灌流
記載されているように(Guら, Science 297:1186−1190,2002;支援テキスト(Supporting Text)の支援方法(Supporting Methods)を参照のこと)、中大脳動脈閉塞(MCAO)/再灌流の繊維モデルを用いた。
統計分析
提示した実験は、4つのサンプルを用いて少なくとも3回繰り返した。データを、(インビトロにおける実験については)平均±標準偏差(SD)として、(インビボでの実験については)平均±標準誤差(SEM)として提示する。
(結果)
求電子性NEPPの標的としてのチオール
本発明者らは、シクロペンテノンプロスタグランジンの化学構造に基づいて、NEPP関連化合物を生成させ、そしてNEPP6およびNEPP11が酸化ストレスからニューロンを保護すること(Satohら, Eur.J.Neurosci.17:2249−2255,2003;Satohら, J.Neurochem.77:50−62,2001)およびHO−1の誘発が神経防護作用効果において必須の役割を果たすこと(Satohら, Eur.J.Neurosci.17:2249−2255,2003)を見出した。NEPP11は、NEPP6よりも強力な神経防護作用を与え、これはおそらく、NEPP11がより親油性で、より良好なCNS浸透性を可能にするためである(Satohら, J.Neurochem.77:50−62,2001)。NEPPの交差共役型ジエノン構造はそれらの生物学的効果にとって非常に重要であり(Satohら, J.Neurochem.77:50−62,2001)、炭素#11の求電子性、およびひいてはそのチオールとの高い化学反応性の根拠をなす(Satohら, J.Neurochem.77:50−62,2001)。
(システイン残基#34上の)その単一の遊離チオール基によって、BSAは、求電子化合物による付加体形成についてのインビトロでの実験として使用されてきた。本発明者らは、ウシ血清アルブミン(BSA)の遊離システインがNEPP化合物と付加体を形成することができるかどうかを試験した。NEPP化合物上の炭素#11がBSAのこの遊離のシステインに結合する場合には、不可逆的チオールアルキル化剤であるN−エチルマレイミド(NEM)での前処理はこの結合を破壊するであろう。この発想を試験するための実験において、本発明者らは、NEPP6−ビオチンを合成した(Satohら, J.Neurochem.77:50−62,2001)。ビオチンを、化学リンカーを用いることによって、NEPP6上のC1炭酸部位に接合した。ストレプトアビジンをプローブとして用いると、本発明者らは、NEPP6−ビオチンに結合したタンパク質を検出することができた。NEPP結合の標的としてチオールを研究するために、BSA(1レーンあたリ1μg)を、種々の濃度(0〜1000μM)のN−エチルマレイミド(NEM)とともに室温で30分間インキュベーションした。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中のビヒクルまたはNEPP6−ビオチン(10μM)を加え、この混合物を室温で5時間インキュベーションし、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)にかけ、ペルオキシダーゼ接合ストレプトアビジンを用いてプローブした。またこのゲルを、クマシーブリリアントブルーで染色した。NEPP6−ビオチンへの曝露後、BSA/NEPP6−ビオチンに対応する単一のバンド(68kDa)を検出した。N−エチルマレイミド(NEM)での前処置は、用量依存性の様式でこのシグナルを低下させたが、タンパク質のレベルは、このゲルのクマシーブリリアントブルーによる染色から判断すると、事実上同じであった。NEMは、HT22細胞または脳の溶解物に対するNEPP6−ビオチンの結合も破壊した。これらの結果は、システインチオールが細胞タンパク質に結合するNEPP化合物の標的であることを示唆する。
NEPPは、AREを介するHO−1転写を活性化する。
本発明者らは、次に、NEPPによるHO−1プロモーターおよびAREの活性化を研究した。NEPP11によるHO−1タンパク質の誘発を試験するために、NEPP11の種々の濃度を、HT22細胞に24時間添加した。その後、細胞溶解物(1レーンあたり10μg)をSDS−PAGEにかけ、抗HO−1または抗βアクチンでプローブした。本発明者らは、NEPP11が、HO−1タンパク質レベルを、神経細胞死を防護する同じNEPP濃度での基準条件より約5倍誘発したことを見出した(Satohら、Eur.J.Neurosci.17:2249−2255,2003)。次に、本発明者らは、15−kbマウスHO−1プロモーター断片の制御下で、ルシフェラーゼレポーター構築物である、pHO15lucでトランスフェクトした、分化したニューロン細胞株である、HT22細胞においてNEPP11によるHO−1遺伝子の転写活性化を研究した。HT22細胞を、レポーターcDNA(ウェルあたり1μg)でトランスフェクトし、NEPP11の種々の濃度を培養物に添加した。24時間のインキュベーション後、細胞溶解物をルシフェラーゼレポーターアッセイにかけた。ルシフェラーゼ活性に基づいて、NEPP11は、用量依存的に5倍より多いHO−1転写の発現を促進した。同様の反応をNEPP6で得た。Gongら(Antioxid.Redox Signal.4:249−257,2002)は、15−デオキシ−Δ12,14−PGJ2による活性化に関与する要素を含む転写開始部位の約4および10kb上流に位置する2つのエンハンサー領域、E1およびE2を同定した(Gongら、Antioxid.Redox Signal.4:249−257,2002)。E1およびE2エンハンサーの役割を決定するために、本発明者らは、両方のエンハンサー部位を欠く変異プロモーター構築物を発現した[pHO15lucΔ(E1+E2)]。変異は、NEPP11にごくわずかに反応するだけであった(1.8倍誘発)。同様の結果をNEPP6で得た。
HO−1プロモーターにおけるE1およびE2エンハンサー部位は、各々、AREを含む。最近の証拠により、求電子剤が、Keap1/Nrf2経路を介してAREを活性化することができると示唆されている(Itohら、Mol.Cell.Biol.24:36−45,2004;Gongら、Antioxid.Redox Signal.4:249−257,2002)。NEPP化合物は、#11位に求電子的炭素を有し、細胞タンパク質のシステイン残基に結合することができるため、本発明者らは、ARE活性化のこの経路を研究した。NEPP11が、AREを介してHO−1エンハンサーを活性化できるという直接的証拠を提供するために、本発明者らは、野生型ARE核心要素(pAREluc)および変異型(pGC−AREluc)の転写活性化を研究した(Leeら、Biochem,Biophys.Res.Commun.280:286−292,2001)。cDNA構築物は、野生型pAREluc(5’−CTCAGCCTTCCAAATCGCAGTCACAGTGACTCAG−CAGAATC−3’)および変異型pGC−AREluc(5’−CTCAGCCTTCCAAATCGCAGTCACAGTGACTCAATAGAATC−3’)を示した(Kraftら、J.Neurosci.24:1101−1112,2004)。NEPP11は、用量依存的に野生型転写活性を7倍まで促進したが、変異型は影響を受けなかった。同様の反応を、NEPP6で得た。これらの結果は、NEPP化合物が、AREを活性化することによりHO−1エンハンサーを活性化するという概念を強く支持する。
E1およびE2領域はまた、他のエンハンサー要素を含むため、本発明者らは、cAMP応答要素(CRE;p3xCREluc)、AP−1結合部位(p3xAP1luc)、NF−κB結合部位(p3xNF−κBluc)、NFAT結合部位(p3xNFATluc)、ETS結合部位(p3xETSluc)、およびMEF2結合部位(p3xMEF2luc)を含む、これらの要素由来のルシフェラーゼ活性の発現に対するNEPP11(2μM)の効果を試験した。比較のために使用したプラスミドpHO15lucは、5倍より高いレポーター活性の誘発を示した。対照的に、NEPP11(2μM)は、p3xMEF2lucの活性に対する効果を有さず、p3xCREluc、p3xAP1luc、p3xNFATluc、p3xETSluc構築物の活性をわずかに低下させ、p3xNF−κBluc発現を最小限に活性化させた。これらの結果により、これらの転写要素の活性化が、NEPP11によるHO−1プロモーターの活性化においてそれほど重要な役割を果たしていないことが示唆される。
NEPP11が、Nrf2を含む、AREに結合する転写因子の増加を引き起こすことを確認するために、本発明者らは、EMSAを実施した。HT22細胞を、ビヒクルまたはNEPP11(1μM)とともに8時間インキュベーションした。EMSAを、1レーンにつき10μgの核溶解物およびビオチン標識したAREプローブを用いることによって実施した。1つのレーンにおいて、抗Nrf2抗体(100倍)を、AREプローブに結合するスーパーシフトNrf2タンパク質に添加した。別のレーンにおいて、過剰量の標識されていないプローブを、核溶解物におけるタンパク質への結合から標識したAREを競合させるために試料に添加した。標識したAREプローブを示すバンドをコントロールの細胞溶解物の存在下に移した。標識したAREプローブを示すバンドをコントロールの細胞溶解物の存在下に移し、これにより、AREに対する内因性転写因子の結合が示された。NEPP11(1μM)への曝露後に調製した溶解物は、このバンドの明度の著しい増加を示す。対照的に、バンドは、過剰の標識していないプローブの存在下において完全に消えた。重要なことに、抗Nrf2抗体の添加は、スーパーシフトされたバンドを生成し、これは、これらの条件下でAREに結合する転写因子の1つが、Nrf2を示すという概念と一致する。
ニューロン細胞株におけるNEPP化合物によるKeap1/Nrf2経路の活性化。
次に、本発明者らは、トランスフェクトされたHT22細胞におけるNrf2−緑色蛍光タンパク質(GFP)融合タンパク質(Numazawaら、Am.J.Physiol.285:C334−C342,2003)の局在化を試験した。pNrf2−GFPでトランスフェクトされたHT22細胞を、24時間、ビヒクルまたはNEPP11(2μM)で処理して、落射蛍光顕微鏡下で観察した。基本条件下で、Nrf2−GFP融合タンパク質は、大部分、細胞質に局在化したが、2μM NEPP11への曝露の際に核に転座した。一般に、Nrf2は急速にユビキチン化し、細胞質におけるプロテアソーム経路により分解するが、核内に転座した場合、安定化する(Itohら、Mol.Cell.Biol.24:36−45,2004;Gongら、Antioxid.Redox Signal 4:249−257,2002)。従って、本発明者らは、細胞が、核転座を促進するNEPPのような求電子剤に曝露される場合、Nrf2タンパク質の核レベルが増加するはずであるという仮説を立てた。この仮説を試験するために、24時間、ビヒクルまたは2μM NEPP11で処理した細胞由来の細胞質および核画分(200μgタンパク質)を沈殿させて、抗Nrf2抗体および抗NeuNでニューロン特異的な核タンパク質をプローブした。実際に、本発明者らはこの仮説を確認した。
これに関する求電子剤作用の機構を解明するために、本発明者らは、NEPP化合物がKeap1に結合するかどうか試験した。NEPP6−ビオチンによるHO−1タンパク質の誘発を試験するために、種々の濃度のNEPP5−ビオチンで処理したHT22細胞の溶解物(1レーンあたり10μg)を、抗HO−1または抗β−アクチンでプローブした。NEPP6およびNEPP11と同様に、本発明者らは、NEPP6とビオチンとの接合生成物(NEPP6−ビオチン)が、神経防護作用があることを見出した(Satohら、J.Neurochem.77:50−62,2001)。さらに、1−10μMの濃度で、NEPP6−ビオチンは、HO−1タンパク質の発現を誘発し、NEPP6−ビオチンが、その生物学的効果を保持することを確認した。次いで、本発明者らは、免疫沈降実験を実施して、NEPP化合物とKeap1との付加物形成の直接的な証拠を得た。HT22細胞を、ビヒクルまたは10μM NEPP6−ビオチンで処理し、24時間、インキュベーションした。続いて、溶解物を調製し、抗Keap1またはストレプトアビジンのいずれかで沈降に供した。沈殿物を電気泳動してプローブした。NEPP6−ビオチンに結合したKeap1に対応する73kDaタンパク質を、NEPP6−ビオチンで処理した細胞において観察したが、ビヒクルでは観察しなかった。沈殿物をまた、抗Keap1でプローブして、沈殿したKeap1の量が、ビヒクル−ビオチン処理した細胞とNEPP6−ビオチン処理した細胞との間で同じであることを確認した。次に、溶解物を逆の方法で処理した。すなわち、ストレプトアビジンで沈殿させて、次いで、抗Keap1抗体でプローブした。再び、NEPP6−ビオチンに結合したKeap1に対応する沈殿したタンパク質を、NEPP6−ビオチンで処理した細胞においてのみ検出したが、ビヒクルでは検出しなかった。総合すれば、これらの結果は、NEPP化合物が、細胞中のKeap1に結合するという概念と一致する。
Keap1タンパク質に対するNEPP化合物の結合が、NEPPの生物学的作用に関与することを示すために、本発明者らは、Keap1システイン変異(C151S、これは、システイン残基#151が、求電子剤によるNrf2−媒介性転写の活性化に必須であると報告されている(ZhangおよびHannink,Mol.Cell.Biol.23:8137−8151,2003))の効果を試験した。この変異の過剰発現は、Keap1とNrf2タンパク質との間の機能的連結を無効にするはずであり、それによって、NEPP11のような求電子剤に対する感度を減少させる。これらの方針にそって、本発明者らは、NEPP11によるHO−1プロモーター(pHO15luc)の活性化が、pKeap1(C151S)の同時トランスフェクションによって著しく低下することを見出したが、野生型pKeap1では見出さなかった。
一次皮質培養におけるKeap1/Nrf2経路の活性化。
一次大脳皮質ニューロンに対するNEPP化合物の効果を試験し始めるために、本発明者らは、混合したニューロン/膠細胞皮質培養物をNEPP6−ビオチンで処理し、次いで固定し、ストレプトアビジンと接合したローダミンで染色して、NEPP蓄積の部位を決定した。NEPP6−ビオチン(10μM)で処理した皮質培養物を、抗MAP−2モノクローナルおよびローダミン接合ストレプトアビジン抗体ならびにHoechst33,258染色で染色した。本発明者らは、NEPP6−ビオチン−ストレプトアビジンについて強く染色したMAP−2−陽性ニューロンにより、NEPP化合物がニューロンに蓄積することが示唆されていると見出した。ビオチンそれ自体によるインキュベーションは、ビオチン−ストレプトアビジンのニューロンの蓄積を生じず、NEPP6−ビオチンと過剰な遊離ビオチン(4mM)とにおけるインキュベーションは、ニューロン蓄積の程度に影響を与えず、NEPP6−ビオチン蓄積が、NEPPそれ自体よりむしろビオチンの存在により促進しなかったことを示した。
本発明者らは、他の求電子剤(Kraftら、J.Neurosci.24:1101−1112,2004)と違って、NEPPが、大部分ニューロンにおいて蓄積する場合、HO−1が、この細胞型において優先的に誘発する可能性があると理由付けた。この可能性を調べるために、本発明者らは、強力なNEPP化合物への曝露後、抗HO−1抗体で免疫蛍光研究を実施した。ビヒクルまたはNEPP11(0.7μM)で処理した皮質培養物(E17およびDIV14−21)を、抗MAP−2および抗HO−1ならびにHoechst染色で染色した。コントロール培養物において、非ニューロン細胞は、ニューロンよりベースラインでのHO−1を比較的よく発現した。NEPP11の添加後、HO−1免疫蛍光は、細胞質および核の両方において、ニューロンで主に増加した。NEPPに対する曝露後のHO−1タンパク質の誘発を試験するために、24時間、ビヒクルまたはNEPP11で処理した一次皮質培養物の溶解物(1レーンあたり10μg)を、免疫ブロット法において抗HO−1または抗β−アクチンでプローブした。NEPP11はまた、培養物において全HO−1タンパク質を増加させた。NEPP11によるHO−1の折り畳み誘発は、濃度測定によって評価した場合、2.2±0.25(0.5μM NEPP11について)および3.5±0.25(1.0μM NEPP11について)であった。
次に、NEPPによるHO−1プロモーターの転写活性を、一次ニューロンにおけるレポーター遺伝子アッセイによって試験した。皮質培養物を、レポーターcDNA(ウェルあたり1μg)でトランスフェクトし、0.7μM NEPP11を培養物に添加した。24時間のインキュベーション後、細胞溶解物を、ルシフェラーゼレポーターアッセイに供した。これらのトランスフェクトした皮質培養物において、NEPP11(0.7μM)は、HO−1プロモーターおよびARE核心要素の活性を著しく増加させ、その効果は、HO−1エンハンサー部位またはARE部位のそれぞれの変異によって無効にされた。これらの結果により、NEPP11は、HO−1プロモーターにおけるARE要素の活性化を介して一次皮質ニューロンにおいてHO−1タンパク質を誘発することが示唆される。実際に、Keap1/Nrf2経路が、NEPP11によってHO−1プロモーターの活性化を媒介する場合、変異Nrf2タンパク質が、この活性化を阻害するはずである。この目的のために、本発明者らは、変異した構築物のpNrf2(S40A)−GFP(#40位のセリン残基がアラニンによって置換されている)を使用した。コードされたタンパク質はAREを活性化しない。なぜなら、核の中に転座できないからである(Numazawaら、Am.J.Physiol.285:C334−C342,2003)。NEPP11は、HO−1プロモーターを著しく活性化させ、pNrf−GFPでの同時トランスフェクションは、活性化に影響を及ぼさなかった。対照的に、pNrf2(S40A)−GFPでの同時トランスフェクションは、ほとんど完全にNEPP11による活性化をノックダウンした(さらに、HO−1プロモーター活性の基礎レベルは減少した)。総合すれば、本発明者らの結果により、NEPP11は、ニューロンにおいてKeap1/Nrf2経路を選択的に活性化させることが示唆される。さらに、ニューロンにおける選択的活性化により、比較的小振幅の全HO−1活性化が、膠細胞優位である混合されたニューロン/膠細胞培養系において見られることが説明されるかもしれない。
NEPP11による神経防護作用。
NEPP化合物によるKeap1/Nrf2/Ho−1経路のニューロン選択的活性化は、神経防護作用を与えるはずである。ここで、興奮毒性パラダイムにおいて、本発明者らは、インビトロおよびインビボの両方におけるNEPP11の作用を、まず、NMDA−レポーター媒介性損傷からの防護剤として培養物において、次に、マウスにおける一過性局所的虚血/再潅流の腔内繊維モデルを用いることによって中大脳動脈閉塞(MCAO)後に試験した。
短期間(15分)の低濃度のNMDA(50μM)のような比較的軽度の損傷に対する一次皮質培養物の曝露は、遅発性および大部分のアポトーシスニューロン細胞死を引き起こすことが公知である(Bonfocoら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:7162−7166,1995)。本発明者らは、抗MAP−2および抗NeuNモノクローナロ抗体の両方で培養物を染色して、ニューロンの樹状突起および核のそれぞれを標識した。ビヒクルまたはNEPP11(0.7μM)を、15分間のNMDA(50μM)での処置の60分前に大脳皮質培養物(E17およびDIV14−21)に添加した。次いで、培養物を、20時間、インキュベーションし、続いて、抗MAP−2および抗NeuNならびにHoechse染色で染色した。アポトーシスニューロンを、Hoechst染色で見られる形態学的変化によって同定した。このシステムにおいて、NEPP11は、アポトーシス核の数を著しく減少させ、これにより、NEPP11は、インビトロにおける興奮毒性に対してニューロンを防護することが示唆される。本発明者らはまた、亜鉛プロトポルフィン(ZnPP、10μM)を、NEPP11と同時に比較的特異的なHO−1拮抗薬に添加した。アポトーシスニューロンの数を、Bonfocoら(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:7162−7166,1995)によって報告されているような、アポトーシス指標[(MAP−2における縮合核またはNeuN−陽性細胞の数)/(全MAP−2またはNeuN−陽性細胞の数)×100%]を測定することによって評価した。ZnPPは、これらの大脳皮質培養物におけるNEPP11の神経防護的効果を無効にした。この結果は、NEPP11が、HO−1の誘発を介して少なくとも部分的に興奮毒性に対する一次皮質ニューロンを防護するという概念と一致する。この抗酸化経路がNEPP作用に重要である場合、下流の事象もまた、影響を受けるはずである。これらの方針にそって、本発明者らは、NEPP11(1μM)が、NMDA誘発性カスパーゼ3活性化を阻害することを見出した。対照的に、これが主要な経路である場合、他の公知の抗アポトーシス遺伝子、例えば、bcl−xLおよびbcl−2は、NEPP化合物によって誘発されない可能性がある。実際に、本発明者らは、その場合にこれを見出した。
HO−1転写を誘発するためのKeap1のレベルで作用するNEPPおよび他の求電子剤化合物の機構に対する1つの警告は、NEPPが、細胞中の他のチオール含有化合物と見境なく潜在的に反応できることである。この問題にアプローチするために、本発明者らは、細胞グルタチオン(GSH)レベルを評価して、NEPP11が、この十分な抗酸化チオールに影響を与えるかどうかを決定した。Nepp11またはN−エチルマレイミド(NEM)をt=0で添加して、全GSHのレベルを指示した時間で測定した。コントロールの皮質培養物のGSH含有量(100%で任意にセット)は、46.8±4.5nmol/mgタンパク質であった。NEPP11と異なって、NEMは、これらの培養物において神経防護作用を生成せず、実際には、24時間後にニューロン死を生じた。この効果を有する多くの他の求電子剤(例えば、NEM)と異なって、NEPP11は、皮質培養物におけるGSHレベルを枯渇させなかった。実際に、GSHレベルは、NEPP11に対する曝露後に一時的に増加した。GSHにおけるこの増加は、γ−GCL(Sagaraら、J.Biol.Chem.277:36204−36215,2002)、GSH生合成における律速酵素の誘発により発生したかもしれず、細胞防護作用にも寄与することができる。実際に、この状況は起こりそうである。なぜなら、Keap1/Nrf2経路は、HO−1に加えてγ−GCLの発現を調節するからである(Itohら、Mol.Cell.Biol.24:36−45,2004)。GSH以外に、細胞は、チオレドキシン−グルタレドキシン系を示す別の主要な還元経路を有する。しかしながら、本発明者らは、NEPP11(1μM)が、本発明者らの条件下でチオレドキシンまたはグルタレドキシンの発現に著しい影響を与えなかったことを見出した(実施例2)。
次に、本発明者らは、NEPP11が、MCAO/再潅流障害後に脳梗塞の部位を減少できるかどうかを試験した。NEPP11またはビヒクルを、MCAOの1時間前および4時間後に腹腔内(i.p.)に注射した。脳梗塞の領域(可能な浮腫を補正した)を、再潅流の発症24時間後に2.5% 2,3,5−トリフェニルテトラゾリウムクロリドで染色したビヒクル処理およびNEPP11処理したマウス由来の冠状断面で評価した。本発明者らは、動脈圧、血液ガスおよびグルコース、中核体温、および局所脳血流を含めた生理学的変数をモニターした。これらのパラメータは、コントロールとNEPP11処理した群との間で同じであった。NEPP11は、冠状断面における梗塞領域を著しく減少させ、これにより、NEPP11が、インビボにおいて神経防護作用があることが示唆される。本発明者らは、この研究において梗塞後に投与されたNEPP11の効果を試験しなかった。なぜなら、この薬物は、転写活性化によってその神経防護的効果を与えるのに数時間必要とし、従って、前処置を必要とするからである(Satohら、Eur.J.Neurosci.17:2249−2255,2003;Satohら、J.Neurochem.77:50−62,2001)。
脳虚血に対するNEPP防護が、HO−1発現に関連するという仮説を試験するために、本発明者らは、ウェスタンブロッティングおよび免疫染色によってHO−1誘発を試験した。NEPP11またはビヒクルを、動物を殺傷する12時間前に腹腔内(i.p.)に注射した。脳溶解物(1レーンあたり10μg)を抽出し、抗HO−1および抗β−アクチン抗体を用いてウェスタンブロッティングに供した。免疫染色のために、マウスの脳の冠状断面を、抗MAP−2および抗HO−1抗体で染色した。本発明者らは、脳虚血の間にニューロン細胞死を防護した同じ濃度のNEPP11が、脳におけるHO−1タンパク質のレベルを増加させることを見出した。HO−1タンパク質の誘発を、ニューロン細胞体および樹状突起において観察した。
考察
この研究は、求電子剤薬物が、Keap1/Nrf2経路の活性化、ならびにその結果として起こるHO−1および場合によっては他のII類酵素の上流制御を介して神経防護作用に影響を及ぼすことができるという証拠を与える。HO−1の上流制御が、HO−1トランスジェニックマウスにおいて評価した場合、脳梗塞部位を減少させることは、公知であった(MainesおよびPanahian,「Hypoxia:From Genes to the Bedside」,Roachら編(New York:Kluwer),2001,pp.249−272)。ここで、本発明者らは、ニューロンにおけるHO−1転写を活性化させる低分子の求電子剤のセットを開発し、特徴付け、この経路が、脳における新薬の開発につながるような標的物を表すことを示した。NEPP化合物による首尾よい神経防護作用は、非毒性濃度でのKeap1/Nrf2経路の活性化に関与する。多くの他の求電子剤分子は、全身性副作用を引き起こし、神経防護作用性ではない。なぜなら、おそらく、それらはまた、GSHのような細胞における重要な還元物質を枯渇させるが、これは、NEPP薬物では起こらないからである。
NEPP化合物は、標識されたNEPP(NEPP−ビオチン)を用いてこの研究で示されているように、親油性であり、ニューロンにおけるそれらの蓄積に重要な特徴である。しかしながら、Kraftら(J.Neurosci.24:1101−1112,2004)は、別の求電子剤であるtert−ブチルヒドロキノン(TBHQ)が、星状膠細胞におけるAREを活性化させることを報告した。この事実は、本発明者らの観察と矛盾するように思われるかもしれない。それにもかかわらず、NEPPおよびTBHQのような求電子剤の化学構造が変化に富み、それらの細胞取り込みに影響を与えるかもしれないことは留意されるべきである(Kraftら、J.Neurosci.24:1101−1112,2004)。従って、1つの求電子剤は、星状膠細胞に非常によく局在化することができるが、一方、別のものは、NEPP化合物についてここで観察されるようにニューロンにおいて顕著である。NEPP化合物(Δ7−プロスタグランジンA1類似体)は、Δ12−プロスタグランジンJ2の化学構造に基づいて分子的に設計されており、これらの分子は、多くの化学および生物学的特性を共有する(Fukushima,Eicosanoids3:189−199,1990)。Δ12−プロスタグランジンJ2は、報告されているところによれば、細胞膜を通る能動輸送によって細胞中に輸送される(Narumiyaら、J.Pharmacol.Exp.Ther.239:506−511,1986)。従って、ニューロンは、膠細胞よりNEPP化合物についての能動輸送系を有することができる。なぜなら、本発明者らは、NEPP化合物が、ニューロンに優先的に蓄積することを観察したからである。対照的に、求電子剤TBHQは、細胞内に簡単に拡散することができ、それによって、ニューロンより非常に数が多い膠細胞に影響を与える。
本発明者らの発見により、NEPP作用の神経防護作用機構が示唆される。細胞内で、これらの薬物は、細胞質調節タンパク質Keap1に結合し、次いで、Nrf2を解放する。次いで、Nrf2が核内に転座し、HO−1プロモーターにおいてAREを活性化させる(Itohら、Mol.Cell.Biol.24:36−45,2004;Gongら、Antioxid.Redox Signal.4:249−257,2002)。従って、HO−1の転写は、ニューロンにおいて活性化され、HO−1タンパク質の増加は、ビリベルジンおよびビリルビンを生成する、ヘム分子の分解を引き起こす(Itohら、Mol.Cell.Biol.24:36−45,2004;Gongら、Antioxid.Redox Signal.4:249−257,2002)。強力な抗酸化分子である、ビリルビンの蓄積は、少なくとも部分的に、HO−1、およびそれによってNEPP化合物の神経防護的効果に関与する(Satohら、Eur.J.Neurosci.17:2249−2255,2003;Sagaraら、J.Biol.Chem.277:36204−36215,2002)。さらに、本発明者らは、亜鉛プロトポルフィンによるHO−1の阻害が、NEPPの防護効果を防ぐことを見出し、これは、これらの薬物の治療効果が、この経路によって主に媒介されるという概念と一致する。
最近、減少したNrf2転写活性はまた、GSH合成の加齢による喪失を引き起こすことが報告された(Suhら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 101:3381−3386,2004)。低分子量化合物は、AREの活性化を介してγ−GCLを誘発し、GSHレベルを増加させることができる。従って、Keap1/Nrf2経路を調節する化合物は、γ−GCLおよびHO−1(その両方は、活性酸素種の蓄積を防止するのに役立つ)の誘発を介するフリーラジカルストレスに対する神経防護作用についての有望な候補である可能性がある。
要約すれば、本発明者らは、NEPP化合物によるKeap1−Nrf2経路の調節が、Nrf2によるHO−1プロモーターの活性化を引き起こすことを見出した。HO−1タンパク質の誘発は、興奮毒性および脳虚血に対して重要な神経防護作用の役割を果たすことが公知である(MainesおよびPanahian,「Hypoxia:From Genes to the Bedside」,Roachら編(New York:Kluwer),2001,pp.249−272;Stockerら,Science235:1043−1046,1987;Doreら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:2445−2450,1999;PossおよびTanegawa,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:10925−10930,1997;Satohら,Eur.J.Neurosci.17:2249−2255,2003;Satohら,J.Neurochem.77:50−62,2001)。どのようにして臨床的に有用な薬物が、NEPPのようなシクロペンテノンプロスタグラジンの化学構造に基づいて開発できるのか。1つのアプローチは、必須の還元要素を分け与えるNEPPのような神経防護作用求電子剤薬物を合成することである。強力な求電子化合物は、GSHのような重要なチオール含有化合物をもつ細胞を枯渇させ、それによって、細胞死の原因となることが公知である。対照的に、NEPP化合物およびそれらの同種は、GSHを枯渇させずにKeap1と相互作用する。Keap1/Nrf2経路の選択的活性化因子は、HO−1を含めた第2相遺伝子の誘発を介して作用する神経防護作用剤である。
(実施例2)
(方法および物質)
局所的脳虚血および再潅流。NEPP11を、7.5% DMSOのPBS溶液において100mg/mlで注射した。コントロールを希釈剤単独で与えた。治験責任医師を、処置群に対して盲目にした。注射量は、1mg/kgに対応する体重の10ml/gであった。中大脳動脈閉塞(MCAO)/再潅流の腔内−繊維モデルを使用した(Guら、Science 297:1186−1190,2000)。6−8週齢および20−30g重量の雄性マウス(C57BL/6)を、12時間明/12時間暗サイクルに収容し、食物および水を自由に摂取させた。この動物を、鼻の錐体(nose cone)を通して送達されたイソフルレンおよび70%亜酸化窒素/30%酸素混合物で麻酔した。中核体温を37±1℃に維持した。全身血圧、グルコース、ならびに動脈血ガスおよびpHを含めた他の生理的パラメータをモニターした。マウスに2時間のMCAO、続いて、24時間の再潅流期間を受けさせた。血流の閉塞および再潅流を、レーザードップラー血流計によってモニターした。麻酔を手術処置の間、維持し、典型的には、本発明者らの手において10分かけた。
再潅流期間の後、動物を殺傷した。脳を取り出し、次いで、2mm厚の断面にスライスした。各スライスを、37℃で、2,3,5−トリフェニルテトラゾリウムクロリドの2.5%溶液において10分間、インキュベーションし、4%の緩衝化したホルムアルデヒド溶液に固定した。梗塞領域は、各脳スライスの右中大脳動脈領域に発生し、記載されるようなコンピュータ化された画像解析システム(NIHイメージ1.62)で定量化した(Guら、Science 297:1186−1190,2000)。
細胞培養物、トランスフェクション、およびグルタチオン(GSH)測定。HT22細胞を、記載されるように培養した(Satohら、Eur.J.Neurosci.17:2249−2255,2003;Satohら、J.Neurochem.77:50−62,2001;Sagaraら、J.Biol.Chem.277:36204−36215,2002)。大脳皮質培養物を、記載されるように、17日齢の胎児のSprague−Dawleyラットから調製し、インビトロで14−21日(DIV14−21)に使用した(Bonfocoら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:7162−7166,1995)。(壊死よりもむしろ)大部分のニューロンアポトーシスを誘発するために、本発明者らは、皮質培養物を50mM NMDAと、名目上は、MG2+を含まないアール平衡塩溶液(Earle’s balanced salt solution)中の5mM グリシン/1.8mM CaCl2とに15分間、曝露した(Bonfocoら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:7162−7166,1995)。NMDAに対する曝露後、培養物をビヒクルまたはNEPP11を含む通常の培地に戻し、20時間インキュベーションして、細胞生存を解析した。NMDA誘発性ニューロンアポトーシスをブロックするNEPP化合物の能力を評価するために、本発明者らは、特異的にニューロンを標識するための抗NeuNおよび抗MAP−2、ならびにアポトーシスを検出するための核形態学についてのHoechst染色を用いて二重免疫蛍光によってアポトーシスニューロンを同定した。本発明者らの培養物におけるニューロンおよび非ニューロン細胞の割合は、それぞれ、33.6±4.9%および66.4±4.4%(n=4)であった。
トランスフェクションを、Lipofectamine 2000(Invitrogen)を用いて実施し、細胞溶解物における蛍ルシフェラーゼ活性を、レポーター遺伝子アッセイにおける照度計(Promega)を用いて測定した。(還元および酸化された)全GSHを、記載されるように測定した(Sagaraら、J.Biol.Chem.277:36204−36215,2002)。
(結果)
TrxおよびGrx遺伝子の発現に対するNEPP化合物の効果の欠如。Trx1/2およびGrx1/2の発現を、以下のプライマー(Juradoら、J.Biol.Chem.278:45546−45554,2003):Trx1、フォワード:5’−CGT GGT GGA CTT CTC TGC TAC GTG GTG−3’;リバース:5’−GGT CGG CAT GCA TTT GAC TTC ACA GTC−3’;Trx2m、フォワード:5’−GCT AGA GAA GAT GGT CGC CAA GCA GCA−3’;リバース:5’−TCC TCG TCC TTG ATC CCC ACA AAC TTG−3’;Grx−1、フォワード:5’−TGC AGA AAG ACC CAA GAA ATC CTC AGT CA−3’;リバース:5’−TGG AGA TTA GAT CAC TGC ATC CGC CTA TG−3’;Grx−2、フォワード:5’−CAT CCT GCT CTT ACT GTT CCA TGG CCA A−3’;リバース:5’−TCA TCT TGT GAA GCG CAT CTT GAA ACT GG−3’を用いてRT−PCRを使用することによって、NEPP11(1mM)で24時間、インキュベーションした皮質培養物において試験した。本発明者らは、NEPP11(1mM)が、本発明者らのアッセイの条件下でTrxおよびGrx遺伝子の発現に有意な影響を及ぼさなかったことを見出した。
(実施例3)
脳中の主要興奮性アミノ酸であるグルタメートは、ニューロンに種々の作用を及ぼし、発育、可塑性、および生存に影響を及ぼす(ナカニシ(Nakanishi)、Trends Neurosci.28:93−100頁,2005年;バーコ(Barco)ら、J.Neurochem.97:1520−1533頁、2006年)。病的条件下、グルタメートは、NMDA受容体媒介経路を介して学習および記憶の一部において主要な役割を果たす(ナカニシ(Nakanishi)、Trends Neurosci.28:93−100頁、2005年;バーコ(Barco)ら、J.Neurochem.97:1520−1533頁、2006年)。しかしながら、生理的条件下、グルタメートは、主としてNMDA受容体の過度の活性化により(チョイ(Choi)、J.Neurosci.23:1261−1276頁、1992年;アンカークローナ(Ankarcrona)ら、Neuron 15:961−973頁、1995年;ハラおよびスナイダー(Hara and Snyder)、Annu.Rev.Pharmacol.Toxicol.47:117−141年、2007年)また、ある程度は酸化窒素(NO)ならびに反応性酸素種(ROS)などのフリーラジカルの引き続く発生により「興奮毒性」と称される神経細胞死を誘導することができる。機能性NMDA受容体をまだ発現していない未成熟ニューロンにおいて、高濃度のグルタメートは、「酸化的グルタメート毒性」と称される還元型グルタチオン(GSH)の枯渇により媒介される新規なタイプの神経細胞死を誘導する(マーフィ(Murphy)ら、Neuron 2:1547−1558頁、1989年;マーフィ(Murphy)ら、FASEB J.4:1624−1633頁、1990年;ダルグッシュおよびシューベルト(Dargusch and Schubert)、J.Neurochem.81:1394−1400頁、2002年)。グルタメートにより誘導されたこれら2つのタイプの神経細胞死は、互いに異なっているが、酸化的ストレスは、両方のタイプに関与している(マーフィ(Murphy)ら、Neuron 2:1547−1558頁、1989年;コイルおよびプットファルケン(Coyle and Puttfarcken)、Science 262:689−695、1993年;デュガン(Dugan)ら、J.Neurosci.15:6377−6388頁、1995年)。この理由から、興奮毒性および酸化的グルタメート毒性双方に対してニューロンを保護するために、幾つかの抗酸化剤分子が報告されている(マーフィ(Murphy)ら、FASEB J.4:1624−1633頁、1990年;アンカークローナ(Ankarcrona)ら、Neuron 15:961−973年、1995年;ダルグッシュおよびシューベルト(Dargusch and Schubert)、J.Neurochem.81:1394−1400頁、2002年)。したがって、神経保護薬物の開発のための戦略の1つは、レドックス状態を調節することができる低分子量化合物を探索し、それによって酸化的損傷に対抗することである(サトウおよびリプトン(Satoh and Lipton)、J.Neurochem.75:1092−1102頁、2007年)。
ジョンソンおよびマーフィ(Johnson and Murphy)のものに加えて,最近、一連の化合物が、それら自体必ずしも抗酸化活性を有さないにもかかわらず、転写的に抗酸化性酵素を誘導して神経保護をもたらし得ることを、我々のグループにより報告された(サトウ(Satoh)ら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 103:768−773頁、2006年;クラフト(Kraft)ら、J.Neurosci.24:1101−1112頁、2004年;シー(Shih)ら、J.Neurosci.25:10321−10335頁、2005年)。このような求電子性化合物は、それらの作用が、転写媒介シグナル伝達経路によりさらに保持され、増幅されることから、抗酸化分子に勝る利点がある(サトウおよびリプトン(Satoh and Lipton)、Trends Neurosci.30:38−45頁、2007年)。求電子体は、ヘムオキシゲナーゼ−1(HO−1)、NADPHキノンオキシドレダクターゼ 1(NQO1)、およびγ−グルタミルシステインリガーゼ(γ−GCL)など、「第二相酵素」と呼ばれる一組の抗酸化酵素の発現を誘導し、これら全ての酵素が、細胞内レドックス状態を調節することによって効率的な細胞保護作用を提供する(タラレイ(Talalay)、Biofactors 12:5−11頁、2000年;パドマナバーン(Padmanabhan)ら、Mol.Cell 21:689−700頁、2006年;イトウ(Itoh)ら、Free Radic.Biol.Med.36:1208−1213頁、2004年)。第二相酵素をコードする遺伝子の5’上流プロモーター領域に位置する特異的な転写要素に相当する抗酸化応答要素(ARE)は、このような酵素の誘導において中心的な役割を果たす(タラレイ(Talalay)、Biofactors 12:5−11頁、2000年;パドマナバーン(Padmanabhan)ら、Mol.Cell 21:689−700頁、2006年;イトウ(Itoh)ら、Free Radic.Biol.Med.36:1208−1213頁、2004年)。関与する重要なカスケードは、Keap1/Nrf2経路と称され、それは、調節タンパク質であるKeap1、およびARRに結合する転写因子であるNrf2を含んでなる。Keap1は、Nrf2のユビキチン結合を促進し、したがって、この転写因子の構成的分解を駆動するアダプタータンパク質である。付加体を形成するために、求電子体が、Keap1タンパク質上の重要なシステイン残基と反応すると、それらはこの系を乱し、それによってNrf2を安定化させ、それを細胞質から核へと移動させ、そこでAREsに結合し、第二相遺伝子の転写を刺激させる(タラレイ(Talalay)、Biofactors 12:5−11頁、2000年;Padmanabhanら、Mol.Cell 21:689−700頁、2006年;イトウ(Itoh)ら、Free Radic.Biol.Med.36:1208−1213頁、2004年)。
以前に報告された神経保護求電子性化合物は、図2に示された2つの主要グループ、カテコール型およびエノン型に分けることができる(クラフト(Kraft)ら、J.Neurosci.24:1101−1112頁、2004年;サトウ(Satoh)ら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 103:768−773頁、2006年;サトウおよびリプトン(Satoh and Lipton)、Trends Neurosci.30:38−45頁、2007年)。これら2つの化合物型は、異なった特徴を示す。違いの1つは、求電子性の程度にある。エノン型のクルクミン(ヤザワ(Yazawa)ら、FEBS Lett.580:6623−6628頁、2006年)およびジエノン型のNEPP11(サトウ(Satoh)ら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 103:768−773頁、2006年)などのエノン型求電子性化合物は、それら自体が求電子性である。対照的に、カテコール型の化合物は、それら自体が求電子性ではなくて、キノンへの酸化的変換によって求電子性になる(ナカムラ(Nakamura)ら、Biochem.15:4300−4309頁、2003年)。したがって、これらカテコールタイプの化合物は、神経保護効果を発揮するために、カテコールからキノンへの変換を必要とするプロドラッグとして機能する(サトウおよびリプトン(Satoh and Lipton)、Trends Neurosci.30:38−45頁、2007年)。カテコール型とエノン型との間の別の異なった特徴は、神経細胞培養物における分布である。カテコール型の神経保護求電子性化合物であるt−ブチルヒドロキノン(TBHQ)は、星状細胞において優先的に作用し、パラクリン機序によってニューロンを保護することが報告されている(アールグレン−ベッケンドルフ(Ahlgren−Beckendorf)ら、Glia 15:131−142頁、1999年;リー(Lee)ら、J.Biol.Chem.278:12029−12038頁、2003年;クラフト(Kraft)ら、J.Neurosci.24:1101−1112頁、2004年)。対照的に、エノン型の神経保護求電子性化合物であるNEPP11は、ニューロンに蓄積してHO−1を誘導し、それによってニューロンに対して直接的保護作用を発揮する(サトウ(Satoh)ら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 103:768−773頁、2006年)。
植物は、種々の求電子性化合物を産生するので、転写活性化によりニューロンを保護し得るカテコール型の植物中の天然求電子性化合物を、我々は探索した。カルノシン酸は、ローズマリー(Rosmarinus officinalis)(rosemary)から得られた天然カテコール型のポリフェノール性ジテルペンであり、ローズマリー葉の乾燥重量に約5%含まれている(コサカおよびヨコイ(Kosaka and Yokoi)、Bio.Pharm.Bull.26:1620−1622頁、2003年)。CAは、恐らくホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(マーチン(Martin)ら、J.Biol.Chem.279:8919−8929頁、2004年)、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)(ラウ(Rau)ら、Planta Med.72:881−887頁、2006年)、シクリンA/B1(ビサンジ(Visanji)ら、Cancer Lett.237:130−136頁、2006年)、およびフリーラジカル−スカベンジング活性(アルオーマ(Aruoma)ら、Xenobiotica 22:257−268頁、1992年)を介してもたらされる種々の生物学的作用を有することが報告されている。
求電子性化合物は、チオール(S−)アルキル化を介して標的タンパク質上の特定のシステイン残基と反応する電子不足求電子性炭素中心を有するレドックス活性神経保護化合物の新たに認識されたクラスである。植物は、種々の生理活性求電子性化合物を産生するが、これら化合物の詳細な作用機序は依然として不明である。カテコール環含有化合物類は、それら自体求電子性ではないが、酸化の際に求電子性キノンになることから注目されている。CAが、特定のKeap1システイン残基に結合することによってKeap1/Nrf2転写経路を活性化し、したがってニューロンを酸化的ストレスおよび興奮毒性から保護することを我々は見出した。大脳皮質培養物において、CA−ビオチンは、非神経細胞においては低濃度で、ニューロンにおいては高濃度で蓄積する。CAの神経細胞および非神経細胞双方の分布は、その神経保護効果に寄与すると言える。さらに、CAは、脳内に転位し、インビボで還元型グルタチオンのレベルを増加させ、中大脳動脈虚血/再灌流に対して脳を保護する。
材料および方法
化学薬品。フラクションVウシ血清アルブミン(BSA)、4’,6−ジアミノ−2−フェニルインドール(DAPI)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、フルオレセインジアセテート(FDA)、グルタメート、ヘキスト(Hoechst)33,258、還元型グルタチオン(GSH)、GSSG、酸化型グルタチオン(GSSG)、3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)、N−エチルマレイミド(NEM)、N−メチル−D−アスパルテート(NMDA)、ヨウ化プロピジウム(PI)、およびロテノン、2,3,5−トリフェニルテトラゾリウムクロリド(TTC)を、和光ケミカルズ(WAKO Chemicals)社(東京、日本国)またはシグマ(Sigma)(セントルイス、ミズーリ州)から購入した。
CAおよびCA−ビオチン(CAB)。以前に記載されたように(コサカおよびヨコイ(Kosaka and Yokoi)、Biol.Pharm.Bull.26:1620−1622頁、2003年)、CAを、ローズマリー葉から抽出した。 CA−ビオチン(CAB)は、以下の方法によりコサカおよびヨコイ(Kosaka and Yokoi)(Biol.Pharm.Bull.26:1620−1622頁、2003年)に従って合成した:カルノシン酸(90mg)、アセトニトリル(2ml)、およびジシクロヘキシルカルボジイミド(67mg;東京化成工業(Tokyo Kasei Kyogyo)社、東京、日本国)を、氷上で3分間混合した。次いで、80%のアセトニトリル中に溶解した5−(ビオチンアミド)ペンチルアミン(41 mg;ピアース(Pierce)、ロックフォード、イリノイ州)を、この混合物に加え、引き続き氷上で10分間インキュベートした。その後、塩酸を加えて反応を終了させた。反応生成物は、溶媒としてアセトニトリルと塩酸を用いて分取液体クロマトグラフィー(ODS−S−50c(丸善)(Maruzen)社、東京、日本国からなるODSカラム)により分離した。Both CAおよびCABの双方を、DMSO中10mMのストック液として調製した。
CABに関するウェスタンブロット。CAB有無のBSAを、10%SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離してから、電気泳動的にニトロセルロース膜(アマーシャム・ライフサイエンス、ピスカタウェイ、ニュージャージー州)に移した。次に、この膜を、0.1%ツイーン20(PBS−T)および5%の脱脂ドライミルクを含有するCa2+、Mg2+(−)−リン酸緩衝生理食塩水中、室温で1時間ブロックし、次いで西洋わさびペルオキシダーゼ複合化ストレプトアビジンと共に1時間インキュベートした。この膜をPBS−Tで3回洗浄した後、ECLウェスタンブロット検出剤(アマーシャム・ファルマシアバイオテック(Amersham Pharmacia Biotech)、ピスカタウェイ、ニュージャージー州)を用いて、シグナルを検出した。
抗体。抗Nrf2および抗Keap1モノクローナルマウスの複数IgGは、ケン・イトウ(Ken Itoh)(弘前大学)により作出された。使用した他の抗体は、FITC複合化抗マウスIgG、ローダミン複合化抗ウサギIgG、ペルオキシダーゼ複合化抗ウサギIgG、ローダミン複合化ストレプトアビジン(ジャクソン・イムノリサーチラボラトリーズ(Jackson Immuno Research Laboratories)、ウェストグローブ、ペンシルバニア州)、抗S100βモノクローナル抗体、ペルオキシダーゼ複合化ストレプトアビジン、4%ビードアガロースに固定化されたストレプトアビジン(ピアース(Pierce)、ロックフォード、イリノイ州)、抗HAモノクローナル抗体、および抗MAP−2、および抗NeuNモノクローナルマウスの複数IgG、およびセファロースCL−4Bに固定化されたタンパク質A(シグマ(Sigma)、セントルイス、ミズーリ州)であった。
プラスミド構成物
(1)pGL3−GSTYa AREコアルシフェラーゼベクター。我々は、GSTYa AREコア配列を含有する一本鎖オリゴヌクレオチド(ワッサーマンおよびファール(Wasserman and Fahl)、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 94:5361−5366頁、1997年)を用いた:センス、5’−CGC GTT AGC TTG GAA ATG ACA TTG CTA ATG GTG ACA AAG CAA CTT TA−3’、およびアンチセンス、5’−GAT CTA AAG TTG CTT TGT CAC CAT TAG CAA TGT CAT TTC CAA GCT AA−3’。このように得られたdsDNAを、pGL3−プロモーターベクター(プロメガ(Promega)社、マジソン、ウィスコンシン州)のMlu Iおよび Bgl II部位に挿入した。
(2)pEF6−Nrf2[野生型(Nrf2WT)]、pEF6−Nrf2 [ドミナントネガティブ(Nrf2DN)]、およびpEF6−Keap1ベクター。
Nrf2WT、およびNrf2DNを、マウスcDNAと以下のオリゴヌクレオチドとのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により作出した:Nrf2WTに関してセンス5’−GCC ATG ATG GAC TTG GAG TTG CCA CCG CCA−3’、Nrf2DNに関してセンス5’−GCC ATG GGT GAA TCC CAA TGT GAA AAT ACA−3’、および通常のアンチセンス5’−GTT TTT CTT TGT ATC TGG CTT CTT GCT TTT−3’(アラム(Alam)ら、J.Biol.Chem.274:26071−26077頁、1999年)。Keap1発現ベクターを得るために、センス5’−CCA CCA TGC AGC CCG AAC CCA AGC TTA GC−3’およびアンチセンス5’−AAG CAA ATT GAT CAA CAA AAC TGT ACC TGC−3’を用いてKeap1 cDNAを作出した。増幅産物を、pEF6ベクター(インビトロゲン(Invitrogen)、カールスバッド、カリフォルニア州)にクローン化した。
(3)HA−タグ化Keap1およびKeap1欠失変異体に関する発現ベクター。
これらの構成物を、東北大学のアキラ・コバヤシ(Akira Kobayashi)博士(ホソヤ(Hosoya)ら、J.Biol.Chem.29:27244−27250頁、2006年;コバヤシ(Kobayashi)ら、Mol.Cell.Biol.26:221−229頁、2006年)から入手した。
PC12hおよびCOS7細胞培養物。細胞系を培養し、以前に記載されたとおり、細胞死アッセイにより分析した(サトウ(Satoh)ら、J.Neurochem.75:1092−1102頁、2000;サトウ(Satoh)ら、J.Neurochem.77:50−62頁、2001年;サトウ(Satoh)ら、Eur.J.Neurosci.17:2249−2255頁、2003年)。安定な形質移入体の作出のために、PC12h細胞を、8%のウシ胎児血清および8%のウマ血清(インビトロゲン(Invitrogen)、カールスバッド、カリフォルニア州)で補足されたダルベッコー修飾イーグル培地の入っている100−mmペトリ皿上に接種した。次にこの細胞に、トランスファスト(TransFast)(プロメガ(Promega)社、マジソン、ウィスコンシン州)を用いてpEF6−Nrf2WTまたはpEF6−Nrf2DNを形質移入した。翌日この培地を、30μg/mlのブラストシジン(blastcidine)を含有する新鮮な培地に置き換えた。2週後、各タイプの形質移入体の5つのコロニーを単離した。RT−PCRにより高(PC12hW1B)および低(PC12hD5D)発現γ−GCLクローンをスクリーンした。我々は、ARE活性が、PC12hW1B細胞において高く、PC12hD5D細胞において低く、γ−GCLおよびARE活性のレベルがよく相関することを示唆していることを見出した。Nrf2WTおよびNrf2DNの構成物の発現を、RT−PCRにより確認した。
RT−PCR。PC12h細胞および脳溶解産物中のCAによる第二相誘導を調べるために、皮質培養物からの総RNAのRT−PCRを、以下のプライマー対を用いて実施した(ホソヤ(Hosoya)ら、J.Biol.Chem.29:27244−27250頁、2005年; コバヤシ(Kobayashi)ら、Mol.Cell.Biol.26:221−229頁、2006年):CypA(89bp)、5’−ACA GGT CCT GGC ATC TTG TC−3’(センス) and 5’−AGCCACTCAGTCTTGGCAGT−3’(アンチセンス);HO−1(284bp)、5’−CAG TCG CCT CCA GAG TTT CC −3’(センス)および5’− TAC AAG GAG GCC ATC ACC AGC−3’(アンチセンス);GCL−M(280bp)、5’− CTG CTA AAC TGT TCA TTG TAG G−3’(センス)および5’− CTA TTG GGT TTT ACC TGT G−3’(アンチセンス);GCL−C(213bp)、5’− GTC TTC AGG TGA ACA TTC CAA GC−3’(センス)および5’− TGT TCT TCA GGG GCT CCA GTC−3’(アンチセンス);およびNQO1(212bp)、5’− GTG TAC AGC ATT GGC CAC AC−3’(センス)および5’−AAA TGA TGG CCC ACA GAA AG−3’(アンチセンス)。
一次皮質培養物および2つのタイプのグルタメート毒性に関するアッセイ。グルタメートにより引き起こされる神経細胞死の細胞機序を調査するために、大脳皮質のニューロンをインビトロ系として用いた。機能性NMDA受容体の発現レベルは、興奮毒性が優勢かそれとも酸化的グルタメート毒性が優勢かを判定するために重要である。インビトロでの日数(DIV)が増すとともに、皮質培養物中のこれら受容体の発現レベルが増加する。機能性NMDA受容体を未だ発現していないこれら未成熟皮質培養物においては、酸化的グルタメート毒性が優勢であり;高濃度(2mM)のグルタメートは、酸化的ストレスを介して細胞死を誘導する(マーフィ(Murphy)ら、FASEB J.4:1624−1633頁、1990年;リー(Lee)ら、J.Biol.Chem.278:37948−37956頁、2003年)。当該研究におけるこの背景情報に鑑みて、我々は胎性17日目(E17)のSprague−Dawleyラットから大脳皮質培養物を調製し、酸化的グルタメート毒性に関する実験系としてDIV2にてそれらを調べた(マーフィ(Murphy)ら、FASEB J.4:1624−1633頁、1990年;リー(Lee)ら、J.Biol.Chem.278:37948−37956頁、2003年)。ミトコンドリアの電子輸送鎖の複合体I阻害剤であるロテノンもまた、未成熟皮質培養物において酸化的ストレスを誘導する(マーフィ(Murphy)ら、FASEB J.4:1624−1633頁、1990年;リー(Lee)ら、J.Biol.Chem.278:37948−37956頁、2003年)。
さらに、機能性NMDA受容体が、これらのニューロン上で発現することから、我々は、成熟皮質培養物(E17、DIV21)を用いて興奮毒性を評価した。短時間(15分)の低濃度(50μM)NMDAなどの比較的軽い傷害に対する成熟皮質培養物の暴露では、この系において遅延性で主としてアポトーシスの神経細胞死を引き起こすことが示され;対照的に、より高濃度NMDAの長時間暴露は、壊死をもたらす(ボンフォコ(Bonfoco)ら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 92:7162−7166頁、1995年;バッド(Budd)ら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 97:6161−6166頁、2000年)。主として神経細胞アポトーシス(壊死ではなく)を誘導するために、我々は、皮質培養物を50μMのNMDA(NMDA受容体操作チャンネルのマグネシウム媒介ブロックを防止するために1.8mMのCaCl2、名目上Mg2+の無いアール(Earle)の平衡塩類溶液(EBSS)中、プラス共アゴニスト5μMのグリシン)(ボンフォコ(Bonfoco)ら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 92:7162−7166頁、1995年)に15分間暴露させた。NMDAへの暴露後、この培養物を、媒体またはCAを含有する通常の培地に戻し、次いで20時間インキュベートしてから、それらを細胞生存に関して分析した。CAまたは媒体は、NMDAの添加1時間前に存在させ、この実験を通して残存した。CAが、NMDA誘導ニューロンアポトーシスをブロックする能力を評価するために、ニューロンを特異的に標識する抗NeuNおよび抗MAP−2による二重免疫蛍光標識、およびアポトーシスを検出するための核形態に関するヘキスト(Hoechst)染色によりアポトーシスのニューロンを我々は確認した。これらの成熟皮質培養物(E17、DIV21)中のニューロンおよび非神経細胞のパーセンテージは、特異的マーカーの使用によって判定した際に、それぞれ33.6±4.9%および66.4±4.4%であった。(サトウ(Satoh)ら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 103:768−773頁、2006年)。未成熟皮質培養物(E17、DIV2)において、神経細胞のパーセンテージは、90%超であった(サトウ(Satoh)ら、J.Neurochem.77:50−62頁、2001年)。
免疫細胞化学。培養物を、3%パラホルムルデヒドにより室温で20分間固定した。PBS中で3回洗浄後、細胞を0.3%のTriton X−100で5分間透過させた。PBS中でさらに3回洗浄後、細胞を、一次抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。次に細胞を0.2%のTween20を含有するPBS(PBS−T)中で3回洗浄し、次に二次抗体と共に室温で1時間インキュベートした。その後、細胞を再度洗浄し、それらの核を、ヘキスト(Hoechst)33,258(5μg/ml)またはDAPI(1μg/ml)により5分間染色した。染色された調製物を据付けて、エピ蛍光顕微鏡により調べた。以下の一次抗体を用いた:ニューロン(それぞれ樹状突起および核)を確認するために抗Nrf2抗体、抗MAP2および抗NeuN抗体、および星状細胞を確認するために抗S100β抗体。二次抗体として、我々は、FITC複合化抗マウスIgG、ローダミン複合化抗マウスIgG、またはローダミン複合化抗マウスIgG、またはローダミン複合化ストレプトアビジンを用いた。
一過性トランスフェクションおよびルシフェラーゼ活性の測定。PC12h細胞または大脳皮質培養物(E17、DIV21)を、1μgのプラスミドDNAプラスリポフェクタミン2000(インビトロゲン(Invitrogen)カールスバッド、カリフォルニア州)を含有するEBSS中で5時間インキュベートした。トランスフェクションの効率性は、pSV−β−gal(プロメガ(Promega))との共トランスフェクションにより発現されたβ−ガラクトシダーゼ活性に正規化された。レポーター遺伝子アッセイに関して、細胞に、1μgのレポーター構成物[ARE(GSTYa)−ルシフェラーゼ]および0.2μgのpSV−β−galを1時間トランスフェクトした。次いで細胞を、PBS単独中で洗浄し、CAの有無下の培養培地中、さらに24時間インキュベートした。細胞溶解物中のホタルルシフェラーゼ活性およびβ−ガラクトシダーゼ活性を、それぞれルシフェラーゼ系およびβ−ガラクトシダーゼ酵素アッセイ系を用いて測定した。(プロメガ(Promega)、マジソン、ウィスコンシン州)。
アガロース固定化ストレプトアビジンまたは抗体による免疫沈降。PC12h細胞(CAB処理または媒体処理)を、プロテアーゼ阻害剤カクテルで補足されたRIPA緩衝液中で溶解した。この溶解物を、4℃、15,000rpmで10分間遠心分離し、その後、上澄液を、アガロース固定化ストレプトアビジンと共に4°Cで1時間インキュベートした。あるいは、抗Keap1による免疫沈降に関して、細胞溶解物を、該抗体と共に4°Cで一晩インキュベートし、その後、セファロースCL−4B上に固定化されたタンパク質Aを添加し、インキュベーションを4°Cで1時間継続した。次に、この複合体をリンス用緩衝液(150mMのNaCl、0mMのトリス-HCl[pH 7.5]、0.1% NP−40、1mMのEDTA、および0.02%のNaN3)で3回洗浄した。SDSサンプル緩衝液を添加し、この混合物を5分間沸騰させ、上澄液をSDS−PAGEに供した。次に免疫ブロットを、上記のとおり実施した。
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により検出されたCAの脳内への転位。CNSへの薬物の浸透を試験する実験に関して、我々は、22〜26gの体重の成体オスC57BL/6マウス(チャールズリバー(Charles River))を用いた。このマウスをケージ内で、標準的な飼育条件(自然の明暗サイクル、23±3℃の温度、50±10%の相対湿度)下、飼料と水に自由に摂取させた。実験条件に対して7日の順応後、マウスを各実験群(各々、n=10のマウス)に無作為に割り当てた。18時間固定された4匹のC57 BL/6マウスの各々に、0.3mlのオリーブ油中3mgのCAを経口投与した。注入1時間後と3時間後に、エーテル麻酔下で血清および脳を、化学分析のために単離した。組織からアセトニトリルおよびエタノールによりCAを抽出した。CA濃度は、HPLC(カラム、μBondasphere C18;温度、40℃;HPLCシステム、島津(Shimadzu)[京都、日本国]LC10Avp;検出器、UV 230nm;流出溶媒、2%酢酸またはアセトニトリル、1ml/分での30%Bの定組成)により得られた。
脳GSHの測定。エーテル麻酔下、心臓穿刺による放血後、マウスの脳を取り出し、液体窒素中で素早く凍結させた。脳溶解物中の血液成分のHPLC分析により血管からの不純物としてGSHを除いた。これらのラインに沿って、我々は、CA注入マウスの血清中に主要な未知のピーク(保持時間12.5分、恐らくCAの分解産物を示す)を我々は観察した;しかしながら、このピークは、脳溶解物中には検出されず、血液からの不純物は我々の条件下で生じないことを示した。
凍結脳を、氷上で1%のスルホサリチル酸により10分間溶解し、総グルタチオン(還元型および酸化型)を、以前に記載されたとおりに測定した(サガラ(Sagara)ら、2002年)。手短に言うと、この溶解物を、氷上で10分間インキュベートした後、エッペンドルフ(Eppendorf)微量遠心管中での遠心分離後に上澄液を採取した。各上澄液をトリエタノールアミンで中和したら、総グルタチオン(還元型および酸化型)濃度を測定した。純粋なGSHを用いて検量線を得た。酸化型GSHの測定に関しては、2−ビニルピリジンを用いるグリフィス(Griffith)の方法を用いて還元型GSHを除去した。
限局性大脳虚血および再灌流。CA(1mg/kg)を、PBS中10%のDMSO(10μl/g体重)の媒体中で腹腔内に注入し;対照は、媒体単独を注入した。本研究者は、処置群に対して盲検した。以前に記載されたとおり、中大脳動脈閉塞(MCAO)/再灌流の腔内フィラメントモデルを利用した(ワング(Wang)ら、Nat.Med.4:228−231頁、1998年;グ(Gu)ら、Science 297:1186−1190頁、2002年;グ(Gu)ら、J.Neurosci.25:6401−6408頁、2005年;サトウ(Satoh)ら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 103:768−773頁、2006年)。6〜8週齢の20〜30g体重のオスC57/BL/6マウスを、12時間の明/12時間の暗サイクルのケージに入れ、飼料と水を自由に摂取させた。一晩絶食させた後、動物をイソフルランで麻酔にかけ、70%の酸化窒素/30%の酸素混合物をノーズコーンを通して送達された。麻酔は、外科手法の継続時間に維持され、我々の管理下で典型的に10分間持続した。閉塞およびその後の再灌流のために腔内縫合位置の成功を確保するために、全ての動物において右中大脳動脈の領域で局所大脳血流(rCBF)をモニターした。以前に記載されたとおり、頭蓋骨表面(正中線に対して3mm側方および十字縫合に対して2mm後方)に固定され、中大脳動脈の遠位動脈供給に位置決めされたプローブを有するレーザドップラー血流計(ペリムド(Perimed)、ノースロイヤルトン、オハイオ州)により、rCBFを測定した(ワング(Wang)ら、Nat.Med.4:228−231頁、1998年;グ(Gu)ら、Science 297:1186−1190頁、2002年;グ(Gu)ら、J.Neurosci.25:6401−6408頁、2005年)。2時間の右MCAOに供された全てのマウスは、rCBFが虚血時のベースラインの<25%に減じた評価基準に合致し、再灌流の開始後2時間以内にベースラインの>50%に回復した。核心温度は、サーボ制御加熱ブランケットにより37±1°Cに維持した。我々は、動脈血圧、血中ガスおよびグルコースなど他の生理学的変数をモニターし、これらのパラメータは、媒体処置とCA処置との間で有意差はなかった。右大腿動脈には、カニューレを挿入して血圧およびサンプルの動脈血中ガスならびにグルコースをモニターした。虚血前、虚血時、再灌流時に、血圧トランスデューサ、ブリッジ増幅器、およびコンピュータ化データ獲得システム(MacLabs 8s;ADインスツルメンツ(ADInstruments)、キャッスルヒル、ニューサウスウェールズ、豪州国)により血圧を継続して記録した。動脈血中ガスは、虚血前および再灌流15分後に血中ガスおよびグルコースの分析装置(Stat Profile Ultra C;ノババイオメディカル、ワルサム、マサチューセッツ州)により測定した。
マウスが、2時間のMCAOに次いで24時間の再灌流を受けた後、殺処理し、脳を1−mm厚さの切片にスライスした。各スライスを、TTCの2.5%溶液中、37°Cで10分間インキュベートし、次いで保存のために4%緩衝ホルムアルデヒド溶液中に固定化した。脳浮腫の作用を最少にするために、同側性半球(右)から対側性非梗塞半球(左)の容量を差し引くことによって梗塞容量を測定した。梗塞は右MCA領域で生じ、以前に記載されているコンピュータ化画像分析システム(NIH画像、バージョン1.62)により定量化した(ワング(Wang)ら、Nat.Med.4:228−231頁、1998年;グ(Gu)ら、Science 297:1186−1190頁、2002年;グ(Gu)ら、J.Neurosci.25:6401−6408頁、2005年)。
統計解析。各実験を、四通り中少なくとも3回繰り返した。データは、平均±SEMとして表した。統計的有意は、分散分析(ANOVA)に次いでポストホックシェッフェ(post hoc Scheffe)の検定により判定した。
結果
CAはGSHおよびタンパク質チオールに結合する。
CAは、TBHQの場合に示唆されたように、酸素および他の酸素ラジカルにプロトンおよび電子を供与すると提案されている(ナカムラ(Nakamura)ら、Biochem.15:4300−4309頁、2003年)。同時に、CAはキノンへと酸化される。核磁気共鳴(NMR)を用い、我々は、CAの炭素(14)がGSHチオールによる求核的攻撃の単一の標的であると結論づけた。CAのカテコール環の容易な酸化により、そのキノン誘導体への変換がもたらされる。GSHなどのチオール含有化合物は、求電子性炭素上に求核的攻撃を誘導することができ、したがって、GS−CA付加体を形成することができる。
次に我々は、GS−CA付加体形成の速度を評価した。GS−CA付加体は安定性が高いため、カテコールからキノンへの酸化は、これら化学反応の律速段階であると提案されていた。該反応液は過剰モルのCAおよびGSHを含有していたが、GS−CA付加体はきわめてゆっくりと現れた。18時間のインキュベーション後であっても、反応して付加体を形成したCAは、わずか17.5%であった。この結果により、CAのカテコールからキノン体への変換(酸化)は、無細胞系においてきわめてゆっくりした過程であることが示唆される。
次に、他のチオール、この場合はウシ血清アルブミン(BSA)に対するCAの結合を評価した。システイン34上の単一の遊離チオール基のため、BSAは求電子性化合物との付加体形成のインビトロ証明に使用されてきた(サトー(Satoh)ら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 103:768−773頁、2006年)。この反応をモニターするために、ビオチンが化学リンカーによってCAのカルボン酸部位に結合しているCA−ビオチン(CAB)を合成した。ペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジンをプローブとして用い、BSAとCABの付加体形成を検出することができた。この目的のため、BSAを、PBS中、媒体またはCABと、室温で5時間混合し、電気泳動させ、次いでストレプトアビジンにより探索した。CABに曝露した後、BSAとCABの複合体に相当する単一バンド(68kDa)を検出した。この様式で我々は、CABが用量依存的な様式でBSAと付加体を形成できることを実証した。
さらに、システインチオールが該複合体の形成にとって必須であるかどうかを調べた。もしCAの炭素#14がBSAの遊離システインに結合するならば、不可逆的なチオールアルキル化剤であるNEMによる前処理により、この結合はなくなるはずであると考えた。我々は、ゲルのクーマシーブリリアントブルー染色から判断して、NEMによる前処理により、用量依存的な様式でストレプトアビジンのシグナルが低下した一方、総タンパク質は事実上同じままであったことを見出した。これらの結果は、システインチオールがCAの標的であることを示唆している。
CAは、Keap1/Nrf2/ARE経路を活性化する。
求電子性化合物の神経保護効果は、Keap1/Nrf2経路の活性化を介して、現れることが多い(サトー(Satoh)ら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 103:768−773頁、2006年;クラフト(Kraft)ら、J.Neurosci.24:1101−1112頁、2004年;シー(Sie)ら、J.Neurosci.10321−10335頁、2005年)。この活性化カスケードにおける最初の反応は、Keap1タンパク質上の特定のシステインに対する求電子性化合物の結合である(ホング(Hong)ら、Chem.Res.Toxicol.18:1917−1926頁、2005年;エグラー(Eggler)ら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 102:10070−10075頁、2005年;ツァング(Zhang)ら、Mol.Cell.Biol.10941−10953頁、2004年)。このような結合により、細胞の転写経路が開始され、第二相酵素の誘導に至る(タラレイ(Talalay)、Biofactors 12:5−11頁、2000年;パドマナブハム(Padmanabham)ら、Mol.Cell 21:689−700頁、2006年;イトー(Itoh)ら、Free Radic.Biol.Med.36:1208−1213頁、2004年)。したがって、CAに対する結合にとって不可欠な要素を判定するために、Keap1のドメイン(BTB、IVR、およびDGRと称される)を調べた。したがって、免疫共沈降実験のために、COS7細胞に、HAタグ化野生型Keap1タンパク質(HA−WT Keap1)またはタグ化Keap1タンパク質の種々の欠失変異体(HA−ΔBTB Keap1、HA−ΔIVR Keap1、およびHA−ΔDGR Keap1)を発現するDNAをトランスフェクトした。次いで、トランスフェクトしたCOS7細胞を、媒体または10μMのCABによって処理し、溶解させた。我々は、抗HA抗体により、総細胞ライセート中のKeap1タンパク質の発現レベルを定量化した。各々のKeap1変異タンパク質は、予想分子量(HA−ΔBTB Keap1は57kDa、HA−ΔIVR Keap1は53kDa、およびHA−ΔDGR Keap1は37kDa)の同様なレベルで発現した。次に、Keap1/CAB複合体を検出するために、細胞ライセートをストレプトアビジンにより免疫沈降させ、抗HA抗体によって探索した。CABに結合したKeap1−WTに相当する73kDaのタンパク質が、CABによって処理した細胞内に見られた。ΔDGR Keap1もまた、CABに対する強い結合を顕した。対照的に、ΔIVR Keap1は、CABに対してきわめてわずかな結合しか示さず、一方、ΔBTB Keap1は、全く結合を示さなかった。まとめると、これらの結果は、最高のCA結合には、Keap1タンパク質のBTBドメインおよびIVRドメインが必要であるという考えと一致する(ホソヤ(Hosoya)ら、J.Biol.Chem.29:27244−27250頁、2005年;コバヤシ(Kobayashi)ら、Mol.Cell.Biol.26:221−229頁、2006年)。CA結合に関するBTBドメインの要件は、以前の結果と一致する(ホング(Hong)ら、Chem.Res.Toxicol.18:1917−1926頁、2005年;エグラー(Eggler)ら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 102:10070−10075頁、2005年;ツァング(Zhang)ら、Mol.Cell.Biol.24:10941−10953頁、2004年)。
Keap1タンパク質に対するCAの求電子性キノン体の結合後、Keap1/Nrf2経路の活性化には、Nrf2の核転位が必要である(タラレイ(Talalay)、Biofactors 12:5−11頁、2000年;パドマナブハム(Padmanabham)ら、Mol.Cell 21:689−700頁、2006年;イトー(Itoh)ら、Free Radic.Biol.Med.36:1208−1213頁、2004年)。したがって、次に我々は、免疫蛍光法により、COS7細胞内のNrf2タンパク質の細胞内分布を調べた。基礎的条件下で、Nrf2タンパク質は、細胞質に主に局在化していたが、10μMのCAに曝露させると核内に転位したことは、Nrf2が、Keap1タンパク質に対するCAの結合に応じて核内に転位することを示唆している。COS7細胞と同様に、Keap1(非HAタグ化)発現ベクターをトランスフェクトし、CAに曝露した神経PC12h細胞は、CA/Keap1複合体を形成した。
第二相酵素は、Keap1/Nrf2経路の求電子性誘導により活性化される重要なエフェクターである。第二相酵素のγ−GCL軽鎖(GCL−L)、γ−GCL重鎖(GCL−H)、HO−1、およびNQO1の誘導を検出するために、10μMのCAで前処理したPC12h細胞のmRNAを用いて、RT−PCRを実施した。内部陽性対照として、シクロフィリンA(CYPA)遺伝子を用いた。6〜24時間のインキュベーション後、CAにより、全ての第二相遺伝子が誘導された。これらの結果は、以前、他の求電子体に関して示された、CAが恐らくKeap1/Nrf2経路の活性化を介して、1組の第二相遺伝子を誘導したという考えに一致する。
次に我々は、AREの活性化を試験することによって、Keap1/Nrf2経路の関与をより正確に調べた。この転写要素は、Keap1/Nrf2経路に応答するため、我々は、Nrf2のドミナントネガティブ(DN)またはKeap1発現ベクターの存在下または非存在下、ARE(GSTYa)−ルシフェラーゼをトランスフェクトしたPC12h細胞を用いて、ルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイを実施することにより、AREの活性化をモニターした(アラム(Alam)ら、J.Biol.Chem.274:26071−26077頁、1999年)。ルシフェラーゼ活性に基づくと、CA(10μM)は、AREベースの転写発現を>10倍刺激した。対照的に、AREのCA刺激活性化は、Nrf2−DNまたはKeap1の同時トランスフェクションによって有意に抑えられた。この連続実験により、CAが、Keap1/Nrf2経路を介してAREを活性化することが示唆される。
CABもまた、AREを有意に活性化したが、その効力は、CAよりも実質的に低かった。例えば、20μMのCABがAREを活性化したのは、10μMのCAよりもはるかに低い程度だった。同様に、酸化的なグルターメート毒性に対してPC12h細胞を保護するのに、CAよりも高いレベルのCABが必要であった。このように、Keap1/Nrf2経路を活性化するために、CAよりも数倍の用量のCABが必要であると考えられる。CAは、Keap1/Nrf2経路の活性化によってPC12h細胞を保護する。
多数の第二相酵素が、細胞のレドックス調節に関与しているため、これらの酵素の誘導はしばしば、酸化的ストレスに対する抵抗性をもたらす(タラレイ(Talalay)、Biofactors 12:5−11頁2000年;パドマナブハム(Padmanabham)ら、Moll.Cell 21:689−700頁、2006年;イトー(Itoh)ら、Free Rad.Biol.Med.36:1208−1213頁、2004年)。したがって、CAがこのような傷害からPC12h細胞を保護できるかどうかを調べた。我々は、未処置のPC12h細胞、Nrf2WTを発現するPC12h細胞(PC12hW1B)、およびNrf2DNを発現するPC12h細胞(PC12hD5D)を調製した。酸化的ストレスに遭遇した細胞の生存に及ぼすKeap1/Nrf2経路効果を調べるために、該細胞を高濃度のグルタメートに曝露した。PC12h細胞においては、高(ミリモル)濃度のグルタメートにより、主にシスチン流入阻害による細胞内GSHの欠失によって、酸化的細胞死が誘導される(ペレイラおよびオリベイラ(Pereira and Oliveira)、Free Rad.Biol.Med.23:637−647頁、1997年)。生存細胞と死細胞を視覚化するために、培養物をそれぞれ、フルオレセインジアセテート(FDA)とヨウ化プロピジウム(PI)で染色した。また、細胞の生存率を3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロマイド(MTT)アッセイによって定量化した(図4A)。グルタメート(1〜10mM)は20時間以内にPC12h細胞の死を誘導し、他方、Nrf2WTを過剰発現しているPC12hW1B細胞は、この形態の酸化的ストレスに対して抵抗性が高いことを我々は見出した。Nrf2DNを過剰発現しているPC12hD5D細胞は、細胞死に対する感受性の増大を示した。これらの結果は、Nrf2タンパク質が、細胞を保護することができることを示唆しているのみならず、内因性のNrf2が酸化的ストレスに対する細胞保護的な応答に関与していることを示唆している。
次に、植物によって産生され、Keap1/Nrf2経路を強力に活性化することが以前示されている(クラフト(Kraft)ら、J.Neurosci.24:1101〜1112頁、2004年;ホング(Hong)ら、Chem.Res.Toxicol.18:1917−1926頁、2005年)求電子性化合物であるスルホラファンに比較して、CAによるAREの活性化を調べた。驚くべきことに、等モルベースで、CAは、スルホラファンよりはるかに高い程度までAREを活性化した(図4B)。我々のアッセイにおいて、スルホラファンは、酸化的グルタメート毒性に対して、PC12h細胞を保護しなかったため、ARE活性化におけるこの違いは重要であると考えられる。この結果は、AREを活性化するCAの能力が下記に見られるその神経保護効果と一致するという考えにも一致する。
次に我々は、CA誘導神経保護が、Keap1/Nrf2経路によって媒介されているという仮説を試験した。0.1〜1μMのCAが、酸化的グルタメート毒性に対して、PC12h細胞を用量依存的に保護したことを我々は見出した(図4C)。対照的に、PC12hWIBは、酸化的グルタメート傷害後、より少ない細胞死を顕した。これらの結果は、CAが、酸化的ストレスに対して、Nrf2依存的様式でPC12h細胞を保護したことを示唆している。
CAは、Keap1/Nrf2経路の活性化を介して皮質ニューロンを保護する。
我々はまた、CAが、一次培養物における未成熟の皮質ニューロンを、酸化的グルタメート傷害から保護できたかどうかを評価した。これらの細胞は、機能的グルタメート/NMDA受容体をまだ発現しておらず、その結果、PC12h細胞と同様に、シスチン流入の阻害による非受容体媒介酸化的細胞死を受ける。CAが、グルタメートまたはロテノンへの曝露からこれらの皮質ニューロンを保護したことを我々は見出した。グルタメート(2mM)およびロテノン(300nM)は、MAP2およびNeuN陽性細胞の数をそれぞれ、対照値の30.8±2.5%と25.8±1.9%に減少させた。対照的に、CA(3μM)は、これらの傷害に遭遇した細胞の生存率を、それぞれ、73.8±3.7%と80.4±3.4%に増加させた。これらの結果は、CAが、酸化的ストレスに対して、初期のCNSニューロンを保護することを示唆している。
次に、興奮毒性(NMDA受容体媒介)神経細胞死に及ぼすCAの作用を調べた。この場合、NMDA受容体を発現する一次培養物中のより多くの成熟大脳皮質ニューロンを用いた。NMDAは、生存細胞数を15±1.6%に減少させたが、3μMのCAは、生存率を36±2.3%に増加させた。まとめると、これらの結果により、CAが、非受容体媒介酸化的ストレスに対するのと同様に、NMDA受容体媒介興奮毒性からも培養初期ニューロンを保護したことが示唆される。
これらの皮質培養物中で、CAがAREを活性化したかどうかを確認するために、ルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイを実施した。ARE媒介転写は、3μMのCAの存在下で2.3倍増加し、この効果がNrf2−DNによって消失したことにより、CAがNrf2依存的様式でAREを活性化したことが示唆された。CAは、ニューロンと非ニューロン細胞との双方に蓄積する(図5)。
CAの作用部位を判定するために、混合ニューロン/グリア皮質培養物(E17、DIV21)を、CABで処理し、次いで、それらを固定後にローダミン結合ストレプトアビジンで染色した。同時に該培養物を、ニューロンマーカーであるMAP2または非神経細胞マーカーであるS100βに対する抗体によって染色した。低濃度のCAB(例えば3μM)では、ニューロンは、強く標識化されなかったが、非神経細胞はCAB−ストレプトアビジンに対して強い陽性であり、CABがニューロンではなく、非神経細胞に蓄積したことを示した。高濃度のCAB(例えば10μM)では、ニューロンも標識化された。これらの結果は、CAが、低濃度では非神経細胞に蓄積するが、高濃度ではニューロンにも蓄積することを示唆している。
脳内のCA蓄積
神経変性疾患に対する保護剤としてのCAの開発に関して、脳内への通過が必須要件である。この態様を調べるために、CAをマウスに経口投与し(25gのマウス当たり3mg)血清および脳実質におけるCA(カテコール体)のレベルを、HPLCによって測定した。1時間以内に、CAは脳内で有意なレベルに達し、CAが血液−脳関門を通過できたことを示唆した。
次に、CAが脳内で活性を示すかどうかを調べた。マウスに0.03%のCAを含有した食餌を1週間自由に取らせた。次いで該マウスの脳を取り出し、抽出物を調製し、GSHおよびGSSGのレベルを測定した。これらの条件下、CAは、総GSH+GSSGとGSH/GSSGの比率の双方を増加させた(図6)。これらの実験の間に、総RNAもまた脳から抽出し、RT−PCRに供し、第二相酵素であるHO−1およびγ−GCSの有意な誘導を見出したが、これはCAがAREを活性化し、したがって、第二相酵素を誘導し、GSHレベルを増加させるという考えに一致する。したがって、経口投与されたCAは、脳に到達できただけでなく、神経保護的になり得る経路の活性化にも有効であったと我々は結論づけた。また、CAの投与によって脳内の第二相酵素の誘導がもたらされたため、通常カテコールまたは「プロドラッグ」形態で求電子性ではないCAを、求電子性(キノン)化合物へと変換するインビボでの化学反応が生じることが、これらの実験によって示唆される。
この機序の解明によって、この求電子性の前駆体化合物によるインビボでの神経保護的有効性試験のための研究の舞台が設定されることは最も重要なことである。
CAはインビボでMCAO/再潅流傷害から脳を保護する。
次に、MCAO/再潅流傷害後に、CAが脳梗塞の体積を減少させることができたかどうかを試験した。MCAOの1時間前に、CAまたは媒体(PBS中10%のDMSO)を腹腔内注射した。再潅流の開始24時間後に、冠状切片のTTC染色によって脳梗塞の体積(可能な浮腫に関して補正)を評価した。媒体を注射したマウスでは、MCAOは重篤な脳損傷を誘導し、脳梗塞の体積は、以前の報告(グー(Gu)ら、Science 297:1186−1190頁、2002年;(グー(Gu)ら、J.Neurosci.25:6401−6408頁、2005年;サトー(Satoh)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 103:768−773頁、2006年)と同様に、同側半球の51.2±2.4%であった。対照的に、CAは、脳梗塞の体積を有意に減少させ(34.5±3.6%に)(図7)、CAがインビボで神経保護的であるという考えと一致する。
考察
本実験において、CAが、インビトロとインビボの双方で、グルタメート/酸化的ストレスおよび脳虚血から神経保護的であることを我々は見出した。この保護を可能にする化学物質に関して、真のエフェクターはCAのカテコール型であるのか、それともキノン型であるのかという疑問が生じる。もし、カテコール型のCAがエフェクターであるならば、それは抗酸化活性によってニューロンを保護するはずである。対照的に、キノン型がエフェクターであるならば、それはKeap1/Nrf2経路の活性化によってニューロンを保護すると考えられる。本試験において我々は、エフェクターは、キノン型分子であって、カテコール型分子ではないことを見出した。この結論は、以下の結果に基づいている:(1)カテコール型ではなく、キノン型のCAがKeap1/Nrf2経路を活性化させた;(2)WT Nrf2の安定な発現によるKeap1/Nrf2経路の活性化によって、酸化的ストレスに対してPC12h細胞が保護された;(3)DN Nrf2の安定な発現によるKeap1/Nrf2経路の阻害によって、酸化的ストレスに誘導された細胞死が増加し、CAによる保護が減少した。したがって、カテコール型CAは、酸素ラジカルへの電子対供与によって抗酸化活性を発揮する可能性はあり得るが、この機序は、ここで見られた神経保護においては限られた役割しか果たしていないと思われる。
我々が用いた無細胞系において、カテコールCAからキノンCAへの変換の時間経過はかなり遅かった。次に、CAのキノン型はいかにして神経保護的であり得るのだろうか。1つの妥当な説明は、ここで用いられた無細胞実験と細胞培養実験との間の違いにある。細胞は、例えば、GSHおよびシステイン担持のタンパク質上に多くのチオールを有するため、キノンはこれらのチオールと速やかに反応して、付加体を形成し;付加体形成によるキノン型CAの除去によって、遊離カテコールと遊離キノンとの間の平衡が、キノンの方へシフトする。したがって、無細胞系よりも細胞ベースでの変換がはるかに速いはずである。また、GSHとタンパク質における種々のシステイン残基との間のチオール反応性の違いがある。例えば、いくつかのタンパク質は、塩基性アミノ酸のモチーフに位置している場合にチオレートアニオンへと容易に変換され得る反応性となり得るシステインを有する。システイン(151)は、そのような活性システインの典型的な一例である。このシステインは、求電子性化合物のセンサーと考えられる。したがって、Keap1のシステイン(151)は、求電子性化合物との反応性がGSHよりも高い。したがって、持続的に存在する低濃度のキノン型CAは、GSHではなくてKeap1と優先的に反応し、それによって、細胞防御系の活性化に寄与し得る。これが、それ自体求電子性化合物であるNEPP11よりもCAがはるかに毒性が低い理由の1つであり得ると推測される。
当該の連続インビトロ実験において、酸化的ストレスに対してCAがニューロンを保護した化学的および分子的機序を示した。CAは、求電子性前駆体(またはプロ求電子性)化合物から求電子性形態へと変換され、それによって、神経保護的なKeap1/Nrf2経路を活性化する(図8)。その化学的機序は、キノン型へと酸化されるカテコール型CAを含み、14位の炭素[C(14)]が求電子性となる。このキノン型CAが、GSHまたは種々の他のタンパク質のシステインチオールによる求核性攻撃に供されて、付加体を形成する。この化学反応によって、Keap1タンパク質のシステインチオールがKeap1−CA付加体を形成し、その結果、Keap1/Nrf2複合体からNrf2タンパク質の遊離をもたらすことは重要である。次いで、Nrf2が核内に転位でき、そこで、ARE転写要素を介して第二相酵素の転写を活性化する。これらの第二相酵素はニューロンのレドックス状態を改善し、抗酸化防御系に寄与する。
求電子性化合物はsh受容体の化学構造を有し得るが、エノン型(例えばNEPP11)およびカテコール型(例えば、CAおよびTBHQ)が主要な群である。我々の以前の発見および他のグループの発見(サトー(Satoh)ら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 103:768−773頁、2006年;クラフト(Kraft)ら、J.Neurosci.24:1101−1112頁、2004年;シー(Shih)ら、J.Neurosci.25:10321−10335頁、2005年)から、エノン型およびキノン型の求電子性化合物の脳内細胞分布が異なっている可能性があることを我々は提案する。NEPP11が、星状細胞とは対照的に、ニューロンに蓄積し、その結果、ニューロンHO−1を誘導するという我々の以前の発見(サトー(Satoh)ら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 103:768−773頁、2006年)に基づくと、NEPP11などのジエノンを含むエノン型の求電子体は、ニューロンにおいて優先的に作用すると思われる。対照的に、TBHQなどのカテコール型求電子体は、TBHQがニューロンではなく星状細胞におけるAREを活性化するという事実から証明されるように、星状細胞に優先的に作用する(クラフト(Kraft)ら、J.Neurosci.24:1101−1112頁、2004年;シー(Shih)ら、J.Neurosci.25:10321−10335頁、2005年)。これらの発見を鑑みて、エノン型の求電子性NEPP11は直接的な神経保護作用を及ぼし、一方、カテコール型のTBHQはパラクリン型の神経保護作用を及ぼすと我々は提案する(サトーおよびリプトン(Satoh and Lipton)Trends Neurosci.30:38−45頁、2007年)。興味深いことにCAは、以下に考察するように、直接的およびパラクリン双方の(したがって、「混合された」)神経保護作用をもたらすと思われる。
CABを用いて我々が行なった免疫組織化学的実験において、CAのこの標識形態は、低濃度(3μM)では非神経細胞に、より高濃度(10μM)ではニューロンに蓄積した。しかし、CABによってもたらされたARE活性化およびその結果の神経保護は、CAによるものよりもはるかに弱かった。この違いは、CABに対する細胞膜のより低い透過性、またはKeap1タンパク質に対するCABのより低い結合親和性によるものであったと言える。この違いに鑑みて、<10μMのCAが、非神経細胞と神経細胞双方に蓄積すると我々は予想する。したがって、CAは、TBHQに関して以前見られた星状細胞媒介の神経保護作用およびNEPP1に関して以前見られたニューロン媒介神経保護と同様の双方の細胞型に作用を及ぼすことを提案するのは妥当である。
NEPP11およびCAなどの求電子体の神経保護化合物としての重要な利点は、抗酸化的第二相酵素の転写活性化である。このタイプの神経保護は、パーキンソン病およびアルツハイマー病などの慢性神経変性疾患において有益である可能性があり得る。NEPP11は以前、求電子性の化学反応によってニューロンを保護することが示されている(サトー(Satoh)ら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 103:768−773頁、2006年;サトーおよびリプトン(Satoh and Lipton)Trends Neurosci.30:38−45頁、2007年)。しかし、全身投与が、脳内の意図された標的に到達する前にチオール基質との反応をもたらし得るため、NEPP11は可能な治療薬として重大な問題を有する。意図された作用の病的部位における酸化的傷害によって求電子体へと返還されるまでは非反応性のまま留まるプロ求電子性化合物を有することがはるかに良いと考えられる。このような薬剤が「病的活性化治療薬」と称されていたもの(リプトン(Lipton)、Nature 428:473頁、2004年)と思われ、CAはこのような薬剤を構成できると考えられる。CAは、NEPP11および類似化合物よりも2つの明白な利点を有すると思われる:(i)病的部位における酸化的傷害によってプロドラッグから求電子体へ変換されることによる潜在毒性の低さ、および(ii)脳組織への効果的な浸透。これらの特徴はCAの化学的構造から生じる。したがって、カテコールがキノンへ酸化されると、それはより疎水性となり、傷害組織に留まる傾向となる。
さらに、CAは、インビトロでNEPP11よりも毒性が少ない。CAは高い治療指数を顕す。すなわち、100μMのCAは神経細胞に対して毒性でない一方、1〜3μMという少ないCAが神経保護的である。CAの低毒性はまた、CAが、NEPP11とは異なり、傷害の近辺でのみ求電子性になるという事実によっても説明できる。酸化的ストレスは、神経変性疾患の進行において重要な役割を果たしている(コイレおよびパットファーケン(Coyle and Puttfarchen)、Science 262:689−695頁、1993年)。標的部位においてプロ求電子性化合物を活性化し、必要な場所に神経保護を提供するためにこの病的酸化レベルを用いることができることを、本明細書において我々は実証した。したがって、闘うべき病的活性そのものを介して神経保護的プロ求電子性薬剤を活性化することにより、このアプローチは神経変性障害に対して新規な戦略となる。さらに我々の知見では、この研究は、チオール(S−)アルキル化によりニューロンを保護し、Keap1/Nrf2経路の活性化をもたらす天然産物の最初の実証である。したがって、植物によって産生される天然プロ求電子性化合物は、神経変性疾患治療のための神経保護的薬剤候補である。
(参照)
全ての刊行物、特許および特許出願は、参照として本明細書中に援用される。上述の明細書において、本発明は、その特定の好ましい実施形態に関して記載され、多くの詳細が、例示の目的のために示されているが、本発明がさらなる実施形態を許容することができ、本明細書中の特定の詳細が本発明の基本原理から逸脱せずに相当に変更できることは、当業者には明らかであろう。