JP2010280962A - 超高強度鋼製加工品及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】C:0.1〜0.4%、Si:2.5%以下(0%を含まない)、Mn:0.5〜2%、Al:0.05%以下、Nb、Ti、Vの内1種類又は2種類以上を合計で0.01〜0.3%、Cr:2.0%以下、Mo:0.5%以下、Ni:1.0%以下、Cr、Mo、Niを合計で2.0%以下、Bを0.005%以下(0%を含まない)を含有し、炭素当量からC量を除いた値(Ceq*)が0.3%以上0.6%以下で、残部Fe及び不可避的不純物からなり、金属組織は、母相組織がマルテンサイトを85%以上と、第2相組織が残留オーステナイトを1%以上15%以下、ポリゴナルフェライト及びグラニュラーベイニティックフェライトを合計で5%以下、を満たす超高強度鋼製加工品。
【選択図】図5
Description
例えば、特許文献1には、概ねフェライトとオーステナイトの2相域温度にて焼鈍と鍛造の両方を行った後、所定温度でオーステンパ処理するという独自の熱処理を採用することによって、引張強度が600MPa級以上の高強度域において、伸び及び強度−絞り特性のバランスに優れた高強度鍛造品の製造方法に関する技術が、又、特許文献2には、焼戻しベイナイト又はマルテンサイトを作り分けた後、概ねフェライトとオーステナイトの2相域温度で焼鈍と鍛造の両方を行い、その後、所定温度でオーステンパ処理する方法を採用することにより、伸び、及び、強度−絞り特性のバランスに優れた高強度鍛造品を製造し得る技術が、更に、特許文献3には、2相域の温度範囲に加熱した後、該2相域で鍛造加工を行い、その後、規定のオーステンパ処理を施すことで、鍛造加工時の温度を低下できると共に、優れた伸びフランジ性と加工性を備えた高強度鍛造品を製造し得る技術が、開示されている。
鍛造品は、その加工率に応じて発熱するため、鍛造時の部品温度が部位によって変化する場合がある。例えば、高温(Ac3点付近)で鍛造を行った場合には、加工率が高いと発熱量も大きくなり、オーステナイト同士の合体・成長が発生するため、熱処理後に粗大な残留オーステナイトが生成し、衝撃特性を劣化させることが考えられる(高温鍛造時の問題点)。一方、低温側(Ac1点付近)で鍛造を行った場合には、加工率が低いと十分な発熱量が確保できないので、不安定な残留オーステナイトが大量に生成し、熱処理後、破壊の起点となる硬質なマルテンサイトが生成して衝撃特性を劣化させることが考えられる(低温鍛造時の問題点)。従って、鍛造品の温度や加工率が異なると、部分的に粗大な残留オーステナイトや不安定なオーステナイトが発生し易く、鍛造品全体として安定かつ優れた耐衝撃特性を得ることが難しい。
この特許文献4に開示されている発明は、前記特許文献1〜3に開示されている技術では得られない格別の効果を奏する点で優れ、その超高強度低合金TRIP鋼(TBF鋼)は自動車の車体の軽量化と衝突安全性の確保により大きく寄与し得ることが期待される。しかしながら、この超高強度低合金TRIP鋼(TBF鋼)は、微粒状ベイナイトフェライトとポリゴナルフェライトが、マトリックスの中で、ベイナイトフェライトのラス構造と共に共存することから、更なる高い降伏強度と引張強度を達成するための完全なTBF鋼を得るためには、高い焼入れ性が必要である。これまで、この高い焼入れ性を有する超高強度低合金TRIP鋼(TBF鋼)は、研究段階の状況にあるのが現状である。
又、残留オーステナイトの変態誘起塑性(TRIP)を利用した低合金TRIP鋼は、超高強度及び高い成形性、高い遅れ破壊強度を有する次世代型高強度材料として期待されている。鋼を超高強度とするための方法の一つとして母相組織をマルテンサイトとすることが有効であるが、母相組織をマルテンサイトとしたTRIP型マルテンサイト鋼(TM鋼)は未開発の状況にある。
その結果、Si−Mn系TM鋼において、焼入れとその後の炭素濃化処理(Quenching and Partitioning処理;QP処理)によって鋼中のγR の炭素濃度が大幅に濃化する(安定化する)ことを知見し、超高強度及び高い成形性、高い遅れ破壊強度を有するTRIP型マルテンサイト鋼(TM鋼)が得られることを見出した。
ここで、Bは残留オーステナイトの炭素濃度を低くしない効果があることを考慮して、Bを含有させない場合には、前記炭素当量(Ceq)からC量を除いた値(Ceq*)を0.4%以上0.6%以下とする。すなわち、Bを含有させない場合には、C:0.1〜0.4%、Si:2.5%以下(0%を含まない)、Mn:0.5〜2%、Al:0.05%以下、Nb、Ti、Vの内1種類又は2種類以上を合計で0.01〜0.3%、Cr:2.0%以下、Mo:0.5%以下、Ni:1.0%以下、Cr、Mo、Niを合計で2.0%以下、を含有し、かつ下記式1により規定される、炭素当量(Ceq)からC量を除いた値(Ceq*)が0.4%以上0.6%以下で、残部Fe及び不可避的不純物からなり、金属組織は、母相組織がマルテンサイトを85%以上(全組織に対する体積率、組織について以下同じ)と、第2相組織が残留オーステナイトを1%以上15%以下、ポリゴナルフェライト及びグラニュラーベイニティックフェライトを合計で5%以下、を満たすことを特徴とするものである。
Ceq*=Ceq−C=Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14
すなわち、Cr、Mo、Niは、鋼の強化元素として有用であると共に、残留オーステナイト(γR)の安定化や所定量の確保に有効な元素であるのみならず、鋼の焼入れ性の向上にも有効な元素であるが、焼入れ性の向上効果を十分に発揮させるためにはCr:2.0%以下、Mo:0.5%以下、Ni:1.0%以下を合計で2.0%以下含有させる必要がある。その理由は、Cr、Mo、Niの合計含有量が2.0%を超えると焼入れ性は高くなるが、残留オーステナイトの炭素濃度が0.6mass%より低くなり、不安定となるためである。
超高強度を有するマルテンサイト鋼にTRIP効果を付加したTRIP型マルテンサイト鋼を得るためには、マルテンサイトの体積率を85%以上とする必要がある。
本発明の超高強度鋼製加工品は、母相組織として前記マルテンサイトを85%以上を有すると共に、第2相組織として残留オーステナイト、ポリゴナルフェライト及びグラニュラーベイニティックフェライトを金属組織として含む。この第2相組織の中で、残留オーステナイトは全伸びの向上に有効であり、又、塑性誘起マルテンサイト変態によるき裂抵抗となることで耐衝撃特性の向上にも有効であるが、該残留オーステナイトの体積率が15%を超えると残留オーステナイト中のC濃度が低くなり、不安定な残留オーステナイトとなり前記効果を十分発揮することができないため、残留オーステナイトの体積率を15%以下とした。なお、残留オーステナイトの体積率を1%以上としたのは、TRIP効果を有効に発揮させるためである。又、ポリゴナルフェライト及びグラニュラーベイニティックフェライトを合計で5%以下としたのは、高い引張強度を確保するためである。
Cは高強度を確保し、かつ、残留オーステナイトを確保するために必須の元素である。より詳しくは、オーステナイト中のCを確保し、室温でも安定した残留オーステナイトを残存させて、延性及び耐衝撃特性を高めるのに有効であるが、0.1%未満ではその効果が十分に得られず、他方、添加量を増すと残留オーステナイト量が増加すると共に、残留オーステナイトにCが濃化し易くなるので、高い延性及び耐衝撃特性が得られる。しかし、0.4%を超えると、その効果が飽和するのみならず、中心偏析等による欠陥等が発生し、耐衝撃特性を劣化するため、上限を0.4%に限定した。
Siは酸化物生成元素であるので、過剰に含まれると耐衝撃特性を劣化させるため添加量を2.5%以下とした。
Mnは、オーステナイトを安定化し、規定量の残留オーステナイトを得るために必要な元素である。この様な作用を有効に発揮させるためには、0.5%以上(好ましくは0.7%以上、より好ましくは1%以上)添加することが必要である。しかし、過剰に添加すると、鋳片割れが生じるなどの悪影響が出るので、2%以下とした。
AlはSiと同様に炭化物の析出を抑制する元素であるが、AlはSiよりもフェライト安定能が強いので、Al添加の場合には変態開始がSi添加の場合よりも速くなり、極短時間の保持(鍛造等)においてもオーステナイト中にCが濃化されやすい。そのため、Al添加を行った場合には、オーステナイトをより安定化させることができ、結果として生成したオーステナイトのC濃度分布が高濃度側にシフトする上、生成する残留オーステナイト量が多くなって、高い衝撃特性を示すようになる。しかしながら、0.05%を超える添加は、鋼のAc3変態点を上昇させ、実操業上好ましくないので、上限を0.05%に規定した。
BはCr、Mo等と同様に鋼の焼入れ性の向上に有効な元素であるが、残留オーステナイトの炭素濃度を低くしない効果がある。又、遅れ破壊強度を低下させずに焼入れ性を高め、コストを低く抑えるためには、0.005%以下が好ましい。
エンジン用コネクティングロッド又は等速ジョイントを製造する方法しては、前記の成分組成を満たす鋼材を使用し、該鋼材をAc3点以上の温度域で所定時間保持し、該温度域で鍛造加工を施した後、所定の平均冷却速度でMf点以下まで冷却し、次いで該鋼材を250〜400℃に加熱し、該温度域で200〜10000秒保持する工程を経た後、常温まで冷却し、その後、トリミング、オースフォーミング処理、表面処理、及び、切削加工を行う方法を採用することができる。
引張試験は前記引張試験片を用い、試験機にはハードタイプ万能試験機(株式会社島津製作製 島津オートグラフ AG−10TD)を使用し、初期降伏挙動(0.2%耐力)を詳細に調査するため試験片平行部にひずみゲージ(ゲージ長さ10mm、共和電業株式会社製)を貼付した。試験温度は25℃、クロスヘッド速度は1mm/minとした。その結果、引張強さ(TS)及び降伏強度(YS)に及ぼす保持温度の影響)を図3に、引張強度(TS)及び降伏強度(YS)を表2に、それぞれ示す。
・残留オーステナイトγR 特性:
各熱処理材の残留オーステナイト初期体積率(fγ0)、残留オーステナイト初期炭素濃度(Cγ0)は、下記X線回折法により測定した。その結果(残留オーステナイト初期体積率(fγO)及び残留オーステナイト初期炭素濃度(CγO)に及ぼす保持温度の影響)を図4に示す。
記
〈残留オーステナイト初期体積率(fγ0)〉
5ピーク法(200)γ、(220)γ、(311)γ
(200)α、(211)α
〈残留オーステナイト初期炭素濃度(Cγ0)〉
(200)γ、(220)γ、(311)γ回折面ピークから、γの格子定数測定
Cγ=(aγ−3.578−0.000Siγ−0.00095Mnγ−0.0006Cr−0.0056Alγ−0.0051Nbγ−0.0220Nγ)/0.033
・組織の観察:
各鍛造材中の組織の体積率(占積率)は、試験片をナイタール、及びレペラ腐食による光学顕微鏡(倍率400倍もしくは1000倍)、及び走査型電子顕微鏡(SEM:倍率1000倍もしくは4000倍)観察、X線回折法による残留オーステナイト量測定、X線によるオーステナイト中のC濃度測定、透過型電子顕微鏡(TEM:倍率10000倍)、ステップ間隔100nmによるFE/SEM−EBSPによる組織解析を実施し、組織を同定した。このようにして得られた各鍛造材について調べた組織の体積率を表2に併せて示す。更に、代表例として表2中の鋼種No.1の1番目(本発明鋼)の熱間鍛造熱処理後の金属組織(顕微鏡写真)を図5に示す。図中、αmはマルテンサイト、αbfはベイニティックフェライトをそれぞれ示す。なお、残留オーステナイトは判別できない。表2に各相の体積率を示す。
(1).引張特性及びγR 特性に及ぼす保持温度の影響を示す図3において、本発明鋼のTS、YSは比較例よりも50〜200MPa高くなり、NbとMoの炭化物による析出強化を有していると考えられる。又、本発明と比較例は共に保持温度の上昇に伴いTS、YSが低下するが、本発明鋼の低下量は比較例よりも小さい。これは、本発明鋼に含まれるCrとMoが炭素の拡散速度を小さくし、再加熱によるセメンタイト(Fe3C)の析出と残留オーステナイトγR の分解を抑制することでTRIP効果が発揮され、高いTSとYSを維持したためと考えられる。
(2).残留オーステナイト初期体積率(fγO)及び残留オーステナイト初期炭素濃度(CγO)に及ぼす保持温度の影響を示す図4において、本発明鋼の残留オーステナイトγR の初期体積率(fγO)は比較例よりも高く、高温側でも残留オーステナイトγR が消滅しなかった。又、比較例に対し本発明鋼は、残留オーステナイトγR の初期炭素濃度(CγO)が保持温度の上昇に伴い緩やかに増加した。これらの要因は、CrとMoによる炭素拡散速度の低下であると考えられる。
こういった元素を添加することで鋼中に多くの残留オーステナイトγR を存在させ、CγOを高めることができ、優れたTRIP効果が期待できることが判明した。
(3).鋼種No.1、2に示す本発明鋼(マルテンサイト鋼)は、例えば表2中の鋼種No.1の1番目(本発明鋼)の金属組織(顕微鏡写真)を図5に示すように、85%以上のマルテンサイトを母相とし、1%以上15%以下の残留オーステナイトと5%以内のポリゴナルフェライト及びグラニュラーベイニティックフェライトを有し、残留オーステナイトの安定化のために焼入れ後に施される炭素濃化処理により炭素濃度が高められる。このような炭素濃化処理が施された本発明のマルテンサイト鋼(TM鋼)は、高靭性と遅れ破壊強度が大幅に改善された超高強度鋼であり、その鍛造品は全て高靭性及び高い疲労特性に優れている。ただし、炭素濃化処理の時間が100秒以下、50000秒以上では残留オーステナイトの安定性が低くなる炭素濃度0.6質量%より低くなっている。
まず、比較例のNo.4は基本鋼(0.2%C−1.50%Si−1.50%Mn)であり、初析フェライトが析出し、ベイナイト変態が十分でなく、Crが含有されていないため焼入れ性が低下した。
No.3はNo.1の本発明鋼よりNiが1.52%高いだけで、本発明で規定する成分組成をほぼ満足するCr−Mo鋼であるが、炭素当量からC量を除いた値(Ceq*)が本発明の範囲の上限を上回っているため、焼入れ性は十分に高いが、残留オーステナイトの初期炭素濃度が0.6質量%以下となり、靭性の改善効果が得られなかった。
Claims (6)
- C:0.1〜0.4%、Si:2.5%以下(0%を含まない)、Mn:0.5〜2%、Al:0.05%以下、Nb、Ti、Vの内1種類又は2種類以上を合計で0.01〜0.3%、Cr:2.0%以下、Mo:0.5%以下、Ni:1.0%以下、Cr、Mo、Niを合計で2.0%以下、B:0.005%以下(0%を含まない)、を含有し、かつ下記式により規定される、炭素当量(Ceq)からC量を除いた値(Ceq*)が0.3%以上0.6%以下で、残部Fe及び不可避的不純物からなり、金属組織は、母相組織がマルテンサイトを85%以上(全組織に対する体積率、組織について以下同じ)と、第2相組織が残留オーステナイトを1%以上15%以下、ポリゴナルフェライト及びグラニュラーベイニティックフェライトを合計で5%以下、を満たすことを特徴とする超高強度鋼製加工品。
記
Ceq*=Ceq−C=Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14 - C:0.1〜0.4%、Si:2.5%以下(0%を含まない)、Mn:0.5〜2%、Al:0.05%以下、Nb、Ti、Vの内1種類又は2種類以上を合計で0.01〜0.3%、Cr:2.0%以下、Mo:0.5%以下、Ni:1.0%以下、Cr、Mo、Niを合計で2.0%以下、を含有し、かつ下記式により規定される、炭素当量(Ceq)からC量を除いた値(Ceq*)が0.4%以上0.6%以下で、残部Fe及び不可避的不純物からなり、金属組織は、母相組織がマルテンサイトを85%以上(全組織に対する体積率、組織について以下同じ)と、第2相組織が残留オーステナイトを1%以上15%以下、ポリゴナルフェライト及びグラニュラーベイニティックフェライトを合計で5%以下、を満たすことを特徴とする超高強度鋼製加工品。
記
Ceq*=Ceq−C=Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14 - 前記加工品が鍛造品である請求項1又は2に記載の超高強度鋼製加工品。
- 前記加工品がエンジン用コネクティングロッド又は等速ジョイントである請求項1又は2に記載の超高強度鋼製加工品。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の超高強度鋼製加工品を製造する方法であって、請求項1又は2に記載の成分組成を満たす鋼材を使用し、該鋼材をAc3点以上の温度域で所定時間保持し、該温度域で塑性加工を施した後、所定の平均冷却速度でMf点以下まで冷却し、次いで該鋼材を250〜400℃に加熱し、該温度域で200〜10000秒保持する工程を含むことを特徴とする超高強度鋼製加工品の製造方法。
- 請求項4に記載のエンジン用コネクティングロッド又は等速ジョイントを製造する方法であって、請求項1又は2に記載の成分組成を満たす鋼材を使用し、該鋼材をAc3点以上の温度域で所定時間保持し、該温度域で鍛造加工を施した後、所定の平均冷却速度でMf点以下まで冷却し、次いで該鋼材を250〜400℃に加熱し、該温度域で200〜10000秒保持する工程を経た後、常温まで冷却し、その後、トリミング、オースフォーミング処理、表面処理、及び、切削加工を行うことを特徴とするエンジン用コネクティングロッド又は等速ジョイントの製造方法。
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