JP2010270390A - 鍛鋼品及びクランク軸 - Google Patents

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Abstract

【課題】炭素鋼からなる鍛鋼品の耐水素割れ性を、合金元素添加という手段によらずに、組織設計によって向上させること。
【解決手段】C:0.15〜0.50%、Si:0.6%以下、Mn:0.5〜1.4%、Ni:0.1〜2.5%、Cr:0.1〜1.1%、Mo:0.1〜0.7%、V:0.01〜0.3%、S:0.0002〜0.01%、及びO:0.002%以下を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、深さD/4(D:鍛鋼品の直径)の鋼断面において観察される組織が、フェライト組織またはフェライト−パーライト混合組織が90面積%以上であり、且つベイナイト組織が0.008〜5面積%であり、ベイナイト組織の平均粒径が10μm以下であり、ベイナイト組織の最大粒径が50μm以下であり、ベイナイト組織のラス間隔が1.0μm以下である鍛鋼品。
【選択図】なし

Description

本発明は、機械、船舶、発電機等の産業分野で広く利用されている鍛鋼品、特にクランクジャーナル及びクランクスロー、並びにこれらから得られる組立型クランク軸に関するものである。
船舶や発電機等に使用されているディーゼル機関の駆動源の伝達部材であるクランク軸には、一体型クランク軸と組立型クランク軸がある。その中でも大型のディーゼル機関には組立型クランク軸が用いられ、そのクランクジャーナル及びクランクスローには、主に鍛鋼品が用いられる。
低コストで、且つ同製品に必要な500MPa以上の引張強度と鍛造性を得るために、従来では、低Cで、Mn、Cr等を微量添加した炭素鋼を用い、焼入れまたは焼ならし処理を行い、焼戻し処理を行って、フェライト−パーライト混合組織を主体とする鍛鋼品が用いられている。本来、引張強度が800MPaにも満たない炭素鋼では水素割れは生じにくいとされているが、熱処理等の温度低下時に常温付近の温度にて水素割れが発生することがある。
一般に、水素割れは、高強度化および高疲労度化に伴って発生しやすくなるとされている。そのため高疲労強度の低合金鋼では、鋼の精錬技術、熱履歴、成分組成の各面から様々な技術が提案されている。
精錬技術の面からは、溶鋼の精錬時における水素量の上限値を規制し、それを超えるときには脱水素処理することが実操業にて実施されている。例えば、特許文献1のように、2次精錬にて介在物を低減させ、RH真空脱ガス時、取鍋と脱ガス槽間にて溶鋼を還流して介在物を除去する方法が提案されている。
熱履歴の面からは、例えば高温に長時間保持することによって、水素を拡散・逃散させ、水素含有量を低減することが実作業的に実施される。
成分組成の面からは、特許文献2のように、鋼中のS含有量を増加させることにより、MnS系介在物を鋼中に導入し、水素の濃化を防ぐことにより、耐水素割れ性を向上させる方法が提案されている。また特許文献3では、鋼中のTi、Zr、Hf、Nb含有量を増加させ、20μm以上の介在物の個数、円形度、1〜10μmの介在物の個数を規定することが提案されている。その結果、Ti、Zr、Hf、Nb化合物を鋼中に導入し、水素の濃化を防ぐことにより、耐水素割れ性が向上する。
なお鋼線の分野における水素脆化の抑制法として、腐食等の外的要因による水素の侵入の抑制、又は焼戻しによる析出炭窒化物を利用した水素拡散の抑制が知られている。しかしこれらは、冷却中又は常温放置中のように、腐食が生ずる場合よりも短時間に発生する水素割れとは、水素の挙動が相異する。
特開2003−183722号公報 特開2003−268438号公報 特開2006−336092号公報
上記のような脱水素処理は、処理時間およびコストの点で、水素量の低減化に限界がある。一般的には1〜数ppmレベルの水素量で製造管理しているが、水素割れは微量の水素で発生するため、この程度の管理では水素割れを完全に防止できない。特に大型製品の場合、高温での長時間保持による水素含有量の低下速度は遅く、時間およびコストがかかることに比べて、水素割れの防止効果は少ない。またS濃度の増加による手段は、炭素鋼では、耐水素割れ性の向上にあまりつながらない。またTi、Zr、Hf、Nb濃度を増加させる手段では、確かに耐水素割れ性が向上するが、これらの濃度増加は製品のコストアップを招くわりには、耐水素割れ性を充分に防止できない。
本発明は上記のような事情に着目してなされたものであって、その目的は、炭素鋼からなる鍛鋼品の耐水素割れ性を、合金成分添加という手段によらずに、組織設計によって向上させることである。
上記目的を達成するため、本発明者らが鋭意研究した結果、鍛鋼品(特に大型の鍛鋼品)では、合金元素のマクロ偏析部が存在し、この偏析部を起点として水素割れが生じること、特に偏析部がベイナイト組織となった際に水素が濃化して水素割れが生じやすいことを見出した。そのためベイナイト組織の偏析を防ぐことが水素割れの解決法の一つとして考えられる。しかし大型鍛鋼品の場合は特に、全ての部分で冷却速度を均一にしてマクロ偏析部を低減させることには限界があり、またベイナイト組織ではなく、フェライト−パーライト混合組織であっても、偏析部が水素割れの起点となってしまう場合がある。
そこで本発明者らは、(1)逆にベイナイト組織を積極的に活用し、ベイナイト組織に水素を濃化させて、フェライト組織またはフェライト−パーライト混合組織の水素量を低減し、それらの組織では水素割れが発生しないようにすること、及び(2)ベイナイト組織の構造を制御することによりベイナイト組織での水素割れを抑制することによって、優れた耐水素割れ性を有する鍛鋼品が得られることを見出し、本発明を完成した。
上記目的を達成し得た本発明の鍛鋼品とは、
C:0.15〜0.50%(質量%の意味。成分組成について以下同じ。)、
Si:0.6%以下(0%を含まない)、
Mn:0.5〜1.4%、
Ni:0.1〜2.5%、
Cr:0.1〜1.1%、
Mo:0.1〜0.7%、
V:0.01〜0.3%、
S:0.0002〜0.01%、及び
O:0.002%以下(0%を含まない)、
を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、
深さD/4(D:鍛鋼品の直径)の鋼断面において観察される組織が、フェライト組織またはフェライト−パーライト混合組織が90面積%以上であり、且つベイナイト組織が0.008〜5面積%であり、ベイナイト組織の平均粒径が10μm以下であり、ベイナイト組織の最大粒径が50μm以下であり、ベイナイト組織のラス間隔が1.0μm以下であることを特徴とする。
本発明の鍛鋼品は、さらにCu:0.2%以下(0%を含まない)を含有していても良い。
本発明の鍛鋼品は、さらにCa:0.1%以下(0%を含まない)を含有していても良い。
本発明の鍛鋼品は、さらにTi、Zr、Hfよりなる群から選択されるいずれか1種以上:合計0.1%以下(0%を含まない)を含有していても良い。
上記鍛鋼品において、ベイナイト組織で観察される最長介在物の長径が20μm以下であり、ベイナイト組織で観察される長径1〜10μmの介在物の密度が5〜500個/cmであることが好ましい。
もしくは、上記鍛鋼品において、ベイナイト組織で観察される最長介在物の長径が20μm以下であり、ベイナイト組織で観察され、Ti、Zr、Hfよりなる群から選択されるいずれか1種以上の元素を含有しかつ長径が0.005〜1μmの介在物の密度が10個/μm以上であることが望ましい。
本発明の鍛鋼品は、好ましくはクランクジャーナルまたはクランクスローである。本発明は、前記クランクジャーナルまたはクランクスローを有する組立型クランク軸も提供する。
本発明によれば、適正量のベイナイト組織を存在させることによって、鍛鋼品中の水素をベイナイト組織に拡散させて、フェライト組織またはフェライト−パーライト混合組織の水素量を低減し、これらの組織での水素割れを抑制できる。またベイナイト組織の粒径およびラス間隔を適切に制御することによって、ベイナイト組織自体の水素割れも抑制できる。
本発明の鍛鋼品を、以下で詳しく説明する。なお以下で用いられる「大型鍛鋼品」とは、20t以上の重さの鍛鋼品を意味する。
本発明者らは、水素割れの原因を解明することを目標として、鋼組織が鍛鋼品(特に大型鍛鋼品)の水素割れに及ぼす影響を、水素割れ発生の起点や冷却中の水素挙動との相関から検討を進めた。その結果、鍛鋼品(特に大型鍛鋼品)では連鋳材と異なり、合金元素のマクロ偏析部が存在し、偏析部を起点として水素割れが生じること、特に偏析部がベイナイト組織となった際に、水素が濃化して水素割れが生じやすいことを見出した。この現象は以下のように生じると推定される。すなわち、冷却時のフェライト変態後に、鋼組織はフェライト−オーステナイトの混合状態となる。フェライトとオーステナイトとでは水素固溶度及び水素拡散速度に差異があるため、オーステナイト部に水素が濃化する。そしてオーステナイトがベイナイトに変態する際に、変態に伴う歪み部に水素が濃化して、その結果、水素割れが生じると推定される。
そのためベイナイト組織の偏析を防ぐことが解決法の一つとして考えられるが、特に大型鍛鋼品では、全ての箇所で冷却速度を均一にしてマクロ偏析部を低減させることには限界がある。またベイナイト組織の偏析を防ぎ、鋼組織を全てフェライト−パーライト混合組織としても、フェライト組織とパーライト組織との分率が偏析部で異なり、各組織の粒径も異なるために、上記と同様に歪みが形成され、偏析部が水素割れの起点となる場合がある。
そこで本発明者らは、発想を転換して、逆にオーステナイトおよびベイナイト組織を積極的に活用することに着目した。即ちオーステナイトに水素を濃化させて、フェライト組織またはフェライト−パーライト混合組織の水素量を低減することによって、フェライト組織またはフェライト−パーライト混合組織の偏析部において水素割れが発生しないようにした。これに加えてさらにベイナイト組織の構造を制御することによって、ベイナイト組織に形成する歪み部への水素濃化を防ぎ、ベイナイト組織自体の水素割れを抑制するようにした。こうすることによって鍛鋼品全体で、良好な耐水素割れ性を確保できる。
以下、本発明で規定する鍛鋼品の化学成分、組織および介在物について順に説明する。
[鋼の化学成分]
(C:0.15〜0.50%)
Cは強度向上に寄与する元素であり、鍛鋼品に充分な強度を確保するには、0.15%以上、好ましくは0.20%以上、より好ましくは0.30%以上含有させるのがよい。しかしC量が多過ぎると鍛鋼品の靭性を劣化させるので、0.50%以下、好ましくは0.45%以下、より好ましくは0.42%以下、更に好ましくは0.40%以下に抑える。
(Si:0.6%以下(0%を含まない))
Siは脱酸元素であるとともに、強度向上元素として作用するため添加が許容される。しかしSiが多過ぎると逆V偏析が著しくなり、粗大介在物が形成するので、0.6%以下、好ましくは0.35%以下とする。
(Mn:0.5〜1.4%)
Mnは、焼入れ性を高めると共に、強度向上に寄与する元素であり、充分な強度と焼入れ性を確保するには0.5%以上、好ましくは0.7%以上、より好ましくは0.9%以上含有するものが望ましい。さらにMnはパーライト変態抑制元素としても知られており、ベイナイト形成に有効な元素である。しかしMnが多過ぎると逆V偏析を助長するので、1.4%以下、好ましくは1.35%以下とすることが望ましい。
(Ni:0.1〜2.5%)
Niは、靭性向上元素として有用な元素であり、0.1%以上、好ましくは0.2%以上含有させる。一方、Ni量が過剰になるとコストアップとなるので、2.5%以下、好ましくは1.5%以下とする。
(Cr:0.1〜1.1%)
Crは、焼入れ性を高めると共に、靭性を向上させる元素であり、それらの作用は0.1%以上、好ましくは0.2%以上含有させることによって有効に発揮される。さらにCrは、パーライト変態抑制元素としても知られており、ベイナイト形成に有効な元素である。しかしCrが多過ぎると逆V偏析を助長して粗大介在物が形成するので、1.1%以下、好ましくは1.0%以下とすることが望ましい。
(Mo:0.1〜0.7%)
Moは、焼入れ性、強度および靭性の向上に有効に作用する元素であり、それらの作用を有効に発揮させるには0.1%以上、好ましくは0.2%以上含有させることが望ましい。しかしMoは平衡分配係数が小さいので、その量が過剰になると、ミクロ偏析(正常偏析)を生じ易くなる。またMo量が過剰になると、コストアップにつながる。そこでMo量は、0.7%以下、好ましくは0.5%以下とすることが望ましい。
(V:0.01〜0.3%)
Vは、析出強化及び組織微細化の作用を有し、高強度化に有用な元素である。この様な作用を有効に発揮させるには、Vを0.01%以上、好ましくは0.02%以上含有させることが推奨される。但しVを過剰に含有させても、上記作用は飽和し、経済的に無駄であるので、その量を0.3%以下、好ましくは0.15%以下とすることが望ましい。
(S:0.0002〜0.01%)
Sは、鋼中のMn、Mg、Ca等と結合し、逆V偏析を助長してS系介在物を形成する。細長い形状をしたS系介在物は、長径が大きな粗大介在物となり易く、水素割れの起点となり得る。従って粗大なS系介在物を減少させるために、S含有量は0.01%以下、好ましくは0.0015%以下とする。一方、ベイナイト組織中の微細なS系介在物は、多数の応力場を形成し、余剰水素を捕捉しやすく、ベイナイト組織の耐水素割れ性を改善する効果がある。このような微細S系介在物を確保するために、S含有量を、0.0002%以上、好ましくは0.0004%以上、より好ましくは0.0006%以上とする。
(O:0.002%以下(0%を含まない))
O(酸素)は、SiO、Al、MgO、CaO等の酸化物系介在物を形成する元素である。Oは極力低減することによって、粗大介在物を抑制し、微細な介在物を析出させることができる。そのためO量を、0.002%以下、好ましくは0.001%以下とする。但し工業生産上、O(酸素)を0%とすることは困難である。
本発明で使用される鍛鋼品(鋼)の基本成分は上記の通りであり、残部成分は実質的に鉄であるが、不可避的不純物の混入はもちろん許容される。さらに本発明の鍛鋼品には、前記本発明の効果に悪影響を与えない範囲で、更に他の元素を積極的に含有させても良い。
(Cu:0.2%以下(0%を含まない))
Cuは、靭性向上及び組織微細化の作用を有し、これらの作用を発揮させるために鋼に含有させても良い。しかしCu量が過剰になるとコストアップとなるので、0.2%以下、好ましくは0.15%以下とする。
(Ca:0.1%以下(0%を含まない))
Caは、硫化物の延伸性を抑制できる作用を有し、この作用を有効に発揮させるために鋼に含有させても良い。しかしCa量が過剰になってもこの作用は飽和するため、0.1%以下とする。
(Ti、Zr、Hf:0.1%以下(0%を含まない))
Ti、Zr、Hfは、靭性向上及び組織微細化の作用を有し、これらの作用を有効に発揮させるためにいずれか1種以上を鋼に含有させても良い。しかしTi、Zr、Hf量が過剰になると粗大な炭化物が析出するため、合計で0.1%以下、好ましくは0.01%以下とする。
積極添加が許容される他の元素の例としては、製鋼工程における脱酸および鋼の耐割れ性にも有効であるAl;焼入れ性改善効果を有するB;固溶強化元素または析出強化元素であるW、Nb、Ta、Ce、Zr及びTe;などが挙げられ、これらを、単独で又は2種以上を組み合わせて含有させることができる。これらの添加元素は、例えば、合計で1%程度以下とすることが望ましい。
なお、後述するように、微細介在物を導入するために、不可避的不純物であるNも制御することが望ましい。
[鋼の組織分率]
本発明の鍛鋼品における鋼組織は、フェライト組織またはフェライト−パーライト混合組織が90面積%以上であって、ベイナイト組織が0.008〜5面積%であることが必要である。その他の組織として、残留オーステナイト組織などが存在しても良い。
本発明における鋼の組織分率は、水素割れが生じやすい表面から深さD/4(D:鍛鋼品の直径)の位置で観察される値である。なお鍛鋼品の直径Dは、円相当径(鍛鋼品断面と同じ面積を有する円の直径)を意味する。また鋼の組織分率は、下記実施例で示す方法によって測定できる。
ベイナイト組織が少なすぎると、フェライト組織またはフェライト−パーライト混合組織の水素吸蔵量が多く、これらの偏析部で水素割れが生じる場合がある。そこでベイナイト組織に水素を濃化させてフェライト組織等での水素割れを抑制するために、ベイナイト組織の面積率は、0.008面積%以上、好ましくは0.010面積%以上、より好ましくは0.10面積%以上、さらに好ましくは1.0面積%以上とすることが望ましい。一方、ベイナイト組織が過剰に存在すると、鍛鋼品の硬度が高く、加工が困難になる場合があるため、その量は、5面積%以下、好ましくは3面積%以下、より好ましくは2面積%以下とすることが望ましい。
ベイナイト組織は、フェライト組織またはフェライト−パーライト混合組織に微細分散していることが好ましい。
[ベイナイト組織の構造]
鍛鋼品の水素割れは、偏析部にて発生するが、水素割れの伝播は偏析界面を経由せず、偏析内を経由することが多い。水素割れの発生・伝播は偏析部の組織に依存していると推定されるため、水素割れを抑制するためには、偏析部の組織構造を制御することが重要である。
水素割れの発生・伝播を詳細に観察すると、鍛鋼品の偏析部がベイナイト組織である場合、その結晶粒界で水素割れが発生し、そのラス界面・結晶粒界に沿って水素割れが伝播していると推察された。このような推察から、ベイナイト組織における水素割れの発生を抑制するには、特にその最大粒径を制御することが必要であり、水素割れの伝播を抑制するには、その平均粒径・ラス間隔を制御することが必要であると考えられる。
水素割れの発生についての上記推察を、より詳しく説明する。ベイナイトの結晶粒界には、粗大なセメンタイト、不純物偏析、歪み欠陥濃化があるため、水素割れが発生し、この傾向は、ベイナイトが粗大なほど大きくなると考えられる。そこで水素割れの発生を抑制するためには、ベイナイトの最大粒径を制限することが必要である。
なお粗大なベイナイトを抑制して、水素割れの発生を抑制するためには、最大粒径と共に、平均粒径も制限することが必要である。またベイナイトの結晶粒界で割れが発生しにくい場合、ラスで割れが発生する可能性がある。そこで水素割れの発生を抑制するためには、ベイナイトの最大粒径だけでなく、ベイナイトの平均粒径およびラス間隔を制限することも必要である。
次に水素割れの伝播についての上記推察を、より詳しく説明する。ベイナイトの結晶粒界およびラス界面は、歪み欠陥が多く、すべりやすいため、水素割れが伝播しやすいと考えられる。またベイナイトの結晶粒が細かいと、水素割れの伝播が分断されるが、結晶粒が大きいと、粒界が直線的となるため水素割れが伝播しやすいと考えられる。またベイナイトのラス間隔が狭いほど応力が分散され、割れの伝播経路も複数となるため、割れ伝播が抑制されると考えられる。そこで水素割れの伝播を抑制するためには、ベイナイトの平均粒径およびラス間隔を制限することが必要である。
水素割れの発生を抑制するために、ベイナイト組織の最大粒径は、50μm以下に、好ましくは30μm以下に制御すると良い。
またベイナイト組織の平均粒径が大きいと、応力下で歪みに水素が濃化するため、水素割れが発生しやすく、且つ伝播しやすい。そのためベイナイト組織の平均粒径は、10μm以下、好ましくは9μm以下、より好ましくは7μm以下に抑制すると良い。
ベイナイト組織のラス間隔が大きいと、応力下で歪みに水素が濃化するため、水素割れが発生しやすく、且つ伝播しやすい。そのためベイナイト組織のラス間隔は、1.0μm以下、好ましくは0.8μm以下に制御すると良い。
またベイナイト組織中の介在物のサイズおよびその量が同等である場合、ベイナイト組織の結晶粒径が細かく、ラス間隔が小さいほど、応力をかけた際の水素拡散係数が大きく、水素拡散しやすく、水素割れが発生しにくいことが分かった。逆に結晶粒径が大きく、ラス間隔が大きいと、応力がかかった際に歪みが集中して水素が拡散しにくいため、水素割れが生じやすいと考えられる。
本発明におけるベイナイト組織の最大粒径、平均粒径およびラス間隔は、表面から深さD/4(D:鍛鋼品の直径)の位置で観察される値である。またこれらの値は、下記実施例で示す方法によって測定できる。
[ベイナイト組織中の介在物]
粗大介在物は、水素割れの起点や伝播経路となって、耐水素割れ性に悪影響を及ぼす。長径が20μmを超える粗大介在物が存在すると、結晶粒界よりも、その介在物と鋼組織との界面で水素割れが発生しやすい。そこでベイナイト組織中の最長介在物の長径を、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下に制御することが推奨される。
逆に、長径が10μm以下である微細介在物がベイナイト組織中に存在すると、多数の応力場が形成され、固溶限を超えた鋼中の余剰水素を捕捉しやすく、歪み部への水素濃化を抑制できるため、耐水素割れ性が改善される。そこでベイナイト組織中の長径1〜10μmの介在物の密度を、5個/cm以上、好ましくは10個/cm以上、より好ましくは20個/cm以上とすることが望ましい。しかし長径1〜10μmの介在物の密度が過剰になると、靭性等の機械的特性に悪影響を及ぼすため、この密度は、好ましくは500個/cm以下、より好ましくは200個/cm以下、さらに好ましくは100個/cm以下とすることが望ましい。
上記介在物の種類は限定されず、例えばS系介在物;Ti系介在物;Al、Si、Ca、Mg及びMn等の酸化物系介在物;などが挙げられる。
一方、長径が1μm未満であって、Ti、Zr、Hfからなる群より選択される一種以上の元素を含む微細介在物(以下、「Ti系微細介在物」と記載する。)がベイナイト組織中に存在すると、固溶限を超えた鋼中の余剰水素が強く捕捉される。そのため水素の拡散が防止され、歪み部への水素濃化が抑制され、耐水素割れ性が改善される。そこで、Ti系微細介在物の密度を、10個/μm以上、好ましくは20個/μm以上とすることが望ましい。これらのTi系微細介在物は、靭性等の機械的特性に悪影響を及ぼさないから密度の上限は特に定めないが、Ti、Zr、Hfの添加量が増加するほど、これらの窒化物の長径が大きくなる傾向にあるため、最長介在物が20μmを超えないようにすることが望ましい。なお、上記「Ti系微細介在物」とは、EDX測定を行い、GIF形式のマッピングによって介在物の組成分析を実施した結果、最も多く検出される金属元素がTi等(Ti、Zr、Hfのいずれか)であることをいうものとする。また、通常は、0.005μm未満の極微細の介在物は観察しきれないため、カウントの対象にはしていないが、この程度の極微細介在物はカウントされなくても無視できる程度に影響は小さい。
なお、S系介在物、Al、Si、Ca、Mg及びMn等の酸化物系介在物は、長径が1〜10μmの微細介在物だけでなく、1μm未満の微細介在物も耐水素割れ性を向上させる作用を有する。しかし1μm未満の微細介在物は、1〜10μmの微細介在物とほぼ同様の分布特性を有する。そのため1〜10μmの微細介在物の密度を制御すれば、耐水素割れ性を充分に向上させることができる。そこで測定の利便性を向上させるために、長径が1μm未満のS系介在物、Al、Si、Ca、Mg及びMn等の酸化物系の微細介在物は、対象から除外した。
一方、Ti系の介在物は、溶湯が凝固する前に形成した介在物は主に窒化物であり、長径が大きく、殆どが1μm以上の長径となるが、凝固後に固溶限を越えて析出してきた介在物は主に炭化物や炭化物+硫化物であり、その殆どが1μm未満の小さい長径となる傾向にある(Ti系微細介在物)。したがって、長径1μm以上のTi系の介在物とは分布が異なり、水素や機械的特性に及ぼす作用も上述のように長径1μm以上のTi系の介在物とは異なる。
本発明における最長介在物の長径および長径10μm以下の介在物の密度は、表面から深さD/4(D:鍛鋼品の直径)の位置で観察される値である。またこれらの値は、下記実施例で示す方法によって測定できる。
[鍛鋼品の製造方法]
本発明の鍛鋼品は、例えば以下のように鋼組織および介在物を制御して、製造することができる。
(鋼組織の制御方法)
Ac点以上の温度からの焼入れ又は焼ならし処理と製品形状への成形(例えば熱間鍛造または冷間鍛造)とを1回または2〜5回繰り返すことによって、或いは高加工率で成形することによって、オーステナイト粒径を低減し、その結果、ベイナイト組織の結晶粒径を微細化できる。また、焼入れ又は焼ならし等の熱処理中に成形することによっても、ベイナイト組織の結晶粒径を微細化できる。
その後、フェライト組織またはフェライト−パーライト混合組織からオーステナイト組織に水素を拡散させるため(即ちフェライト組織またはフェライト−パーライト混合組織の水素量を低減させ、ベイナイト組織に水素を濃化させるため)、Ac点以上または「Ac〜Ac点(オーステナイト−フェライト二相温度域)」から冷却する際、「Fs点(フェライト変態開始温度)」から「Bs点(ベイナイト変態開始温度)+10〜50℃」までは、自然冷却などにより5℃/分以下の低い速度にて冷却する。さらにベイナイト組織のラス間隔の増大を防ぐために、「Bs点+10〜50℃」から「Bf点(ベイナイト変態終了温度)+10〜50℃」までは、ファンなどを用いた空冷などにより1℃/分以上の高い速度で冷却する。さらにはベイナイト組織のラス間隔を小さくするために、「Bf点+10〜50℃」の温度にて10分以上、望ましくは1時間以上保持する。
以上のような熱処理の後、最終的には、鍛鋼品の均質化を約600℃で行うと共に、焼戻処理を行う。
以上のような熱処理は、表面から深さD/4(D:鍛鋼品直径)付近で温度制御を行えばよいが、大型鋼塊ではこの位置での温度実測は困難である。そのため例えば表面温度を基準に温度制御して鍛鋼品を製造し、その組織観察の結果をフィードバックして、温度制御を適宜調整すれば良い。
また鋼組織を制御するために、成分偏析を利用することも可能である。Mn成分が多いとベイナイト変態しやすくなるため、Mn偏析部をベイナイト組織、それ以外をフェライト組織またはフェライト−パーライト混合組織とすることもできる。Mn偏析の割合は、造塊方法や鍛鋼品サイズ等に依存するが、通常5〜20%の濃化度にて偏析部が形成する。このような偏析成分のベイナイト生成挙動を予め調査し、偏析成分の上部ベイナイト組織形成温度での冷却速度を高め、下部ベイナイト組織形成温度での冷却速度を低下させる、又はその温度で保持することによって、ラス間隔の低減したベイナイト組織を偏析部に形成することが可能である。
(ベイナイト組織中の介在物の制御方法)
本発明において、介在物を制御する方法は問わないが、本発明の成分範囲とすること、特にSi、Cr、S、O量を制御することが重要である。また水素割れを防止するために、微細な介在物を形成する元素を積極的に添加し、凝固時に晶析出する介在物を増加させると良いが、その添加量は、粗大介在物が形成されない程度の量に抑制することが望ましい。さらには以下のような方法で、S系介在物、Ti系介在物の制御を行うと良い。
例えばS系介在物を球状化させる効果のあるCaを添加することによって、長径の小さいCaS介在物の存在比率を増大させて、S系介在物の平均サイズを小さくし、微細介在物の数を増大させることができる。またTiを添加して析出物を形成する場合、鋼中のN量に応じてTi添加量を制御することにより、TiN介在物の量(密度)、サイズ(長径)を制御でき、また、焼き入れ温度や時間、冷却速度に応じてTi添加量を制御することにより、微小なTi炭化物、Ti硫化物、或いはこれらの複合物の量(密度)、サイズ(長径)を制御できる。
なお介在物は、ベイナイト組織だけでなく、フェライト組織およびパーライト組織(即ち鍛鋼品全体)に存在させても良い。しかし鍛鋼品の機械的特性を考慮した場合、フェライト組織またはフェライト−パーライト混合組織中の1μm以上の介在物は少ないほうが良い。マクロ偏析部にベイナイト組織を形成する場合、介在物形成元素もそこに偏析するので、ベイナイト組織のみの介在物数を増加させることが可能である。また介在物の粗大化は偏析部で生じやすいため、最大介在物の制御に留意する必要がある。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
実施例1(予備試験)
まずは、ベイナイト組織がほぼ100面積%である予備試験品を使用する予備試験で、ベイナイト組織の耐水素割れ性を評価した。
(1)予備試験品の製造
真空誘導溶解で下記表1のa〜c、fの組成を有するインゴットを150kg溶製した後、10kgずつ分断した。これを冷間鍛造(室温、加工率20%、加工率=(h1−h2)×100/h1、h1:鍛造前の厚さ、h2:鍛造後の厚さ)し、次いで50℃/時間で870℃まで加熱して2時間保持し、次いで400℃または500℃まで油冷して、その温度で1時間保持し、その後、室温まで空冷(1〜2℃/分)する工程1(「工程1」=「冷間鍛造→加熱・870℃で保持→油冷・保持→空冷」)を1〜2回実施することによって、結晶粒径を制御した。この工程1を1〜2回実施した後に、50℃/時間にて640℃まで加熱して、その温度で10時間保持してから、放冷することによって、ベイナイト組織がほぼ100面積%である予備試験品を得た。各予備試験品の製造条件を表2に記載する。
Figure 2010270390
Figure 2010270390
(2)組織構造の測定
予備試験品の組織構造は、後述する方法によって求めた。結果を表2に示す。
(3)予備試験品の耐水素割れ性評価
各予備試験品の耐水素割れ性を、以下のようにして、水素割れ破断が発生するまでの時間(以下「水素割れ時間」と略称する。)で評価した。なお大型品では、元々存在する水素により割れが発生するが、予備試験品のような小型品では水素が抜けきってしまうので、この耐水素割れ性は、水素チャージして評価した。
各予備試験品を、長さ150mm、標線間距離を10mmのダンベル状に加工し、中央部分を直径4mmに、両端のつかみ具部分を直径8mmにして長さ15mmにわたってねじを設け、耐水素割れ性評価用の試験片を作製した。この試験片が2.5mol/LのHSO+0.01mol/LのKSCN水溶液に囲まれるように、前記水溶液中に完全に浸漬させた。
各試験片を前記水溶液に浸漬し、電流密度0.5A/dmにて陰極電解し、水素を添加しつつ、降伏点以下となる350MPaの引張荷重を長軸方向に負荷し、水素割れ時間を測定した。各予備試験品についてこの試験を3回行い、水素割れ時間の平均値を求めた。結果を表2に示す。なお試験は100時間まで行い、それでも破断しなかったものは、表2で「>100」と記載する。水素割れ時間が50時間以下であるものを耐水素割れ性に劣ると評価し、この時間が50時間を超えるものを耐水素割れ性に優れると評価した。
(4)予備試験品の評価結果
予備試験品の製造条件、ベイナイト組織及び耐水素割れ性の評価を表2にまとめて記載する。
本発明のベイナイト組織の要件(平均粒径、最大粒径またはラス間隔)を満たさない予備試験品No.2、6、8〜10及び12は、水素割れ時間が50時間以下であり、耐水素割れ性に劣っている。これに対して予備試験品No.1、3〜5、7、11及び13〜16の水素割れ時間は50時間を大きく超えている。これらの結果から、本発明のベイナイト組織の要件を満たせば、ベイナイト組織の耐水素割れ性が向上することが分かる。
実施例2(本試験)
予備試験鋼の結果を参考として、大型鋼塊から本試験品を製造し、評価した。
(1)本試験品の製造
電極アーク加熱機能を備える溶鋼処理設備によって、上記表1のa、d又はeに示す化学成分の鋼をそれぞれ溶製し、40トンクラス(全高3m、直径1.5m)の鋳型に鋳造した。なお溶湯段階での水素量は、ハイドリス測定で3ppmであった。凝固した鋼塊を1000℃付近で脱型した後、約1200℃まで加熱し、同温度で熱間鍛造を施し、断面直径150mm(本試験品No.1〜6)又は断面直径700mm(本試験品No.7)の鍛造品に仕上げた。熱間鍛造は、鋼塊本体をプレス機により伸ばした後、専用工具を用いて丸断面に成形した。
それぞれの鍛造品を、約900℃の表面温度から、フェライト変態開始温度にあたる約650℃までファンにて急速冷却(2〜5℃/分)し、その後、Bs点+10〜50℃となるまで、ファンを止めてゆっくりと自然冷却(約0.5℃/分)した。その後、2つの冷却工程(A工程またはB工程)で冷却した。A工程では、室温まで、引き続きゆっくりと自然冷却(約0.5℃/分)した。一方、B工程では、ベイナイト変態終了温度よりやや高い約350℃までファンにて急速冷却(2〜5℃/分)し、約350℃で10時間保持した後、室温までゆっくりと自然冷却(約0.5℃/分)した。
以上のようにして本試験品を製造した。なお表面から深さD/4の位置におけるベイナイト組織以外の残部は、全ての本試験品で、実質的にフェライト−パーライト混合組織であった。また鋼種d又はeを用いた本試験品では、ベイナイト組織で成分偏析が生じているところが認められた。
(2)組織および介在物の測定
本試験品の端部で、表面から深さD/4の位置から試料を採取し、残留オーステナイトの変態を防ぐため電解研磨を行った後、EBSP(Electron Back Scatter diffraction Pattern)検出器を備えたFE−SEM(Field Emission type Scanning Electron Microscope)で、組織の構造および面積率を測定した。なおEBSPは、試料表面に電子線を入射させ、このときに発生する反射電子から得られた菊池パターンを解析することにより、電子線入射位置の結晶方位を決定するものであり、電子線を試料表面に2次元で走査させ、所定のピッチごとに結晶方位を測定すれば、試料表面の方位分布を測定できる。
上記SEM装置の鏡筒内にセットした試料について、150μm×150μmの測定範囲にて0.1μm間隔で電子線を照射し、スクリーン上に投影されるEBSP画像を高感度カメラで撮影し、コンピューターに画像として取込んでコンピューターで画像解析を行い、既知の結晶系を用いたシミュレーションによるパターンとの比較によって、各相をカラーマップした。このようにしてマッピングされた各組織(領域)の面積率を求めた。また、各組織の視野内にある全ての結晶粒から、結晶粒分布を得て、平均粒径、最大粒径を算出した。尚、平均粒径とは、観察視野における粒径(円相当径)の算術平均(相加平均)値を意味し、最大粒径とは、観察視野における粒径の最大値を意味する。また、上記解析に係るハードウェアおよびソフトとして、TexSEM LaboratoriesInc.のOIM(Orientation Imaging MicroscopyTM)システムを用いることができる。これらの結果を表3に示す。
また上記SEM装置を用いて、20mm×20mmの測定範囲を100倍〜200倍の倍率で鋼断面の観察を行い、ベイナイト組織における介在物の最大長径を測定した。同様に20mm×20mmの測定範囲を100倍〜200倍の倍率で観察し、長径1〜10μmの介在物の数を測定し、その密度を算出した。さらに上記SEM装置を用いて、100μm×100μmの測定範囲を1000倍〜5000倍の倍率で観察し、無作為に10箇所のベイナイト組織のラス間隔を測定し、その算術平均(相加平均)値を求めた。
さらに、Ti、Zr、Hfよりなる群から選択される1種以上の元素を含有し長径が0.005〜1μmの介在物(Ti系微細介在物)数の測定は以下のように実施した。まず、上記SEM装置を用いて、100μm×100μmの測定範囲を1000倍の倍率で任意の5箇所で観察し、EDX法による測定結果を画像としてマッピングすることによって各介在物の組成分析を実施し、Ti、Zr、Hfよりなる群から選択される1種以上の元素を含有し長径が0.1〜1μmである介在物の数を測定し、任意の5箇所の平均密度を算出した。
次に、別途、抽出レプリカ法により抽出した介在物を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて加速電圧200kVにて、倍率10万倍で写真撮影をした。写真撮影は1サンプルにつき任意の5箇所にて1μm四方のサイズ分とし、その視野中で観察される長径が0.1μm未満のTi系微細介在物について、EDX測定を行い、GIF形式のマッピングによって各介在物の組成分析を実施し、Ti系微細介在物の数を測定し、5箇所の平均密度を算出した。ただし、TEMでも観察されない極微細(通常、長径0.005μm未満)のTi系微細介在物はカウントの対象にはしていない。
以上の方法により得られた、SEM観察による長径が0.1〜1μmであるTi系微細介在物の密度、TEM観察による長径が0.005〜0.1μmのTi系微細介在物の密度を足し合わせて、長径が0.005〜1μmのTi系微細介在物の密度とした。これらの結果を表3に示す。
(3)本試験品の耐水素割れ性評価
上記SEM装置にて、150μm×150μmの測定範囲および1000倍の倍率でフェライト−パーライト組織、ベイナイト組織の微細割れの有無をそれぞれ調べ、下記基準で評価した。結果を表3に示す。
○:長さ1μm以上の割れが存在しない。
△:長さ1μm以上の割れが1つでも存在する。
×:長さ10μm以上の割れが1つでも存在する。
(4)本試験品の評価結果
本試験品の鋼種、冷却工程、組織観察の結果および水素割れの評価結果を、表3にまとめて示す。
Figure 2010270390
本発明で規定するベイナイト組織の要件を満たす本試験品No.2、4及び6は、フェライト−パーライト混合組織およびベイナイト組織のいずれにも、長さ10μm以上の割れが存在せず、耐水素割れ性に優れることが分かる。

Claims (8)

  1. C:0.15〜0.50%(質量%の意味。成分組成について以下同じ。)、
    Si:0.6%以下(0%を含まない)、
    Mn:0.5〜1.4%、
    Ni:0.1〜2.5%、
    Cr:0.1〜1.1%、
    Mo:0.1〜0.7%、
    V:0.01〜0.3%、
    S:0.0002〜0.01%、及び
    O:0.002%以下(0%を含まない)、
    を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、
    深さD/4(D:鍛鋼品の直径)の鋼断面において観察される組織が、フェライト組織またはフェライト−パーライト混合組織が90面積%以上であり、且つベイナイト組織が0.008〜5面積%であり、ベイナイト組織の平均粒径が10μm以下であり、ベイナイト組織の最大粒径が50μm以下であり、ベイナイト組織のラス間隔が1.0μm以下であることを特徴とする鍛鋼品。
  2. さらにCu:0.2%以下(0%を含まない)を含有する請求項1に記載の鍛鋼品。
  3. さらにCa:0.1%以下(0%を含まない)を含有する請求項1または2に記載の鍛鋼品。
  4. さらにTi、Zr、Hfよりなる群から選択されるいずれか1種以上:合計0.1%以下(0%を含まない)を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の鍛鋼品。
  5. ベイナイト組織で観察される最長介在物の長径が20μm以下であり、ベイナイト組織で観察される長径1〜10μmの介在物の密度が5〜500個/cmである請求項1〜4のいずれかに記載の鍛鋼品。
  6. ベイナイト組織で観察される最長介在物の長径が20μm以下であり、ベイナイト組織で観察され、Ti、Zr、Hfよりなる群から選択されるいずれか1種以上の元素を含有しかつ長径が0.005〜1μmの介在物の密度が10個/μm以上である請求項4に記載の鍛鋼品。
  7. クランクジャーナルまたはクランクスローである請求項1〜6のいずれかに記載の鍛鋼品。
  8. 請求項7に記載のクランクジャーナルまたはクランクスローを有する組立型クランク軸。
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