ところが、このような従来の磁気検知センサ類では、小型・軽量化の点及び感度的な面でまだ十分とはいえず、改良の余地が多分にある。
そこで、本発明は、小型・軽量で高感度な磁気検知素子を提供することを目的とする。
併せて、上記磁気検知素子を利用することで地磁気検知等の精度を向上させることができ、ナビゲーションシステム等に有効な方位検知システムを提供することを目的とする。
請求項1記載の発明は、絶縁性の基板上に順に積層された第1磁性層、絶縁層、第2磁性層を有するトンネル磁気抵抗効果素子又は巨大磁気抵抗効果素子を用い、磁気検知部がその膜面に対して垂直方向に電流を流すことにより磁気を検知する平板状の磁気検知素子であって、前記第2磁性層の上面に配されて抗磁力が前記第2磁性層の抗磁力よりも低く、かつ、その異方性軸が前記第2磁性層の異方性軸とは独立して設定された磁界感知補助用軟磁性膜を備える。
従って、元々薄膜技術等を用いて作製されるトンネル磁気抵抗効果素子(TMR素子)又は巨大磁気抵抗効果素子(GMR素子)を用いることで、小型・軽量化を図ることができる上に、当該素子の一面に配されて抗磁力が磁性層の抗磁力よりも低く、かつ、その異方性軸が磁性層の異方性軸とは独立して設定された磁界感知補助用軟磁性膜を備えることで、抗磁力の差を利用することで磁力検知を機能分離して行なえることから、センサとしての磁界感度を向上させることができる。磁界感知補助用軟磁性膜は当該素子の一面であれば、上面であっても底面であってもよい。
第1の関連発明は、請求項1記載の磁気検知素子において、前記磁界感知補助用軟磁性膜が前記磁気検知部に複数の磁性膜としてアレイ状に個別に形成されるとともに、前記磁性層がこれらの複数の磁性膜と交差する1本の共通電極として形成されている。
従って、請求項1記載の発明を実現する上でアレイ化を簡単に図ることができ、利用用途を広げることができる。
第2の関連発明は、請求項1記載の発明又は第1の関連発明の磁気検知素子において、前記磁気検知部近傍に高透磁率層が配され、前記磁界感知補助用軟磁性膜に接続されている。
従って、磁界感知補助用軟磁性膜に接続された高透磁率層を磁気検知部近傍に有するので、高透磁率層が磁束シンクとして機能し、より一層の高感度化を図ることができる。
第3の関連発明は、請求項1記載の発明、第1又は第2の関連発明の磁気検知素子において、前記磁気検知部近傍にバルク型磁性体が配されている。
従って、磁性薄膜よりはるかに低い透磁率、抗磁率が実現でき、また、扱える磁束量も大きいことから飽和しにくい特性を有するバルク型磁性体を磁気検知部近傍に有するので、より一層の高感度化を図ることができる。
第4の関連発明は、第2の関連発明の磁気検知素子において、前記高透磁率層上にバルク型磁性体が配されていることを特徴とする。
従って、バルク型磁性体を磁気検知部近傍の高透磁率層上に有するので、より一層の高感度化を図ることができる。
第5の関連発明は、請求項1記載の発明又は、第1ないし第4の関連発明の何れか一の磁気検知素子において、前記磁界感知補助用軟磁性膜は、非磁性層上に、複数の軟磁性層の積層構造として形成されている。
従って、請求項1記載の発明又は、第1ないし第4の関連発明の何れか一を実現する上で、非磁性層上に、複数の軟磁性層の積層構造として磁界感知補助用軟磁性膜を形成することで、還流磁区を形成することを防ぐことができ、よって、低ノイズ化と高周波化(高速サンプリング化)を図ることができ、素子能力をより一層向上させることができる。
第6の関連発明は、請求項1記載の発明又は、第1ないし第5の関連発明の何れか一の磁気検知素子において、前記磁界感知補助用軟磁性膜は、平面形状が円形状に形成されている。
従って、請求項1記載の発明又は、第1ないし第5の関連発明の何れか一を実現する上で、磁界感知補助用軟磁性膜を平面形状が円形状(真円形状、楕円形状等)とすることで、静磁エネルギーをより小さくするようにできるので、磁荷の発生が少なくなり、磁区の安定を見込め、よって、低ノイズ化ないしは高感度化を図ることができ、素子能力をより一層向上させることができる。
第7の関連発明は、請求項1記載の発明又は、第1ないし第5の関連発明の何れか一の磁気検知素子において、前記磁界感知補助用軟磁性膜が複数の部分に分割されて形成されている。
従って、請求項1記載の発明又は、第1ないし第5の関連発明の何れか一を実現する上で、磁界感知補助用軟磁性膜を複数の部分に分割して形成することで、個々の大きさを小さくすれば還流磁区の発生を抑制でき、低ノイズ化を実現でき、さらには、異方性を揃えて一層の高感度化を図ることができる。
第8の関連発明は、請求項1記載の発明又は、第1ないし第5の関連発明の何れか一の磁気検知素子において、前記磁界感知補助用軟磁性膜に複数の切り込みが形成されている。
従って、請求項1記載の発明又は、第1ないし第5の関連発明の何れか一の発明を実現する上で、磁界感知補助用軟磁性膜を複数の切り込みにより分割状に形成することで、個々の大きさを小さくすれば還流磁区の発生を抑制でき、低ノイズ化を実現でき、さらには、異方性を揃えて一層の高感度化を図ることができる。
第9の関連発明は、請求項1記載の発明又は、第1ないし第8の関連発明の何れか一の磁気検知素子において、前記磁気検知部の磁化状態を所定の状態に戻すリセット用磁界発生手段を備える。
従って、例えば一時的な強磁界の影響による磁気検知部の着磁で動作点が変化して誤った検知を行なうようなケースでも、リセット用磁界発生手段を利用して磁気検知部の磁化状態を所定の状態に戻すことで、それ以降、正常な検知動作を行わせることができる。
第10の関連発明は、第9の関連発明の磁気検知素子において、前記リセット用磁界発生手段が、前記磁気検知部近傍に一体に形成されたリセット電流用配線部を含む。
従って、磁気検知部近傍に一体に形成されたリセット電流用配線部を利用することで、第9の関連発明を容易に実現できる。
第11の関連発明は、第9の関連発明の磁気検知素子において、前記リセット用磁界発生手段が、前記磁気検知部に対してリセット磁界を発生させる外部コイルを含む。
従って、磁気検知部に対してリセット磁界を発生させる外部コイルを利用することで、第9の関連発明を容易に実現できる。
請求項2記載の発明の方位検知システムは、3軸ベクトル以上の方向に独立して配置されて地磁気を検知対象とする請求項1記載の発明又は、第1ないし第11の関連発明の何れか一の複数の磁気検知素子と、これらの磁気検知素子の検知出力に基づき3軸以上のベクトルを検知する検知手段と、前記磁気検知素子の検知出力の絶対値と予め設定されている閾値とに基づき検知結果に異常があるか否かを判断する異常検知手段と、この異常検知手段により異常が検知された場合にはその旨を報知する報知手段と、を備える。
従って、地磁気を検知対象とする方位検知システムに適用した場合、基本的には、3軸ベクトル以上の方向に独立して配置された高感度な請求項1記載の発明又は、第1ないし第11の関連発明の何れか一の磁気検知素子の検知出力に基づき検知される3軸以上のベクトルが利用されるが、この際、磁気検知素子の検知出力の絶対値を測定済みの地磁気強度に測定マージンを加味した閾値との比較により検知結果に異常があるか否かを判断しており、異常が検知された場合にはその旨を報知させることで、誤った検知結果の利用を未然に防止できる。
第12の関連発明の方位検知システムは、3軸ベクトル以上の方向に独立して配置されて地磁気を検知対象とする第9、第10又は第11の関連発明の複数の磁気検知素子と、これらの磁気検知素子の検知出力に基づき3軸以上のベクトルを検知する検知手段と、前記磁気検知素子の検知出力の絶対値と予め設定されている閾値とに基づき検知結果に異常があるか否かを判断する異常検知手段と、この異常検知手段により異常が検知された場合にはその旨を報知する報知手段と、前記異常検知手段により異常が検知された場合には前記磁気検知部の磁化状態を所定の状態に戻すよう前記リセット用磁界発生手段にリセット電流を流すリセット手段と、を備える。
従って、基本的には請求項2記載の発明と同様であるが、特に、検知結果に異常が検知された場合には、リセット用磁界発生手段にリセット電流を流して磁気検知部の磁化状態を所定の状態に戻してリセットすることで、それ以降の誤った検知動作を回避することができる。
請求項1記載の発明の磁気検知素子によれば、元々薄膜技術等を用いて作製されるトンネル磁気抵抗効果素子(TMR素子)又は巨大磁気抵抗効果素子(GMR素子)を用いるようにしたので、小型・軽量化を図ることができる上に、当該素子の一面に配されて抗磁力が磁性層の抗磁力よりも低く、かつ、その異方性軸が磁性層の異方性軸とは独立して設定された磁界感知補助用軟磁性膜を備えるので、抗磁力の差を利用することで磁力検知を機能分離して行なえることから、センサとしての磁界感度を向上させることができる。
第1の関連発明によれば、請求項1記載の発明を実現する上でアレイ化を簡単に図ることができ、利用用途を広げることができる。
第2の関連発明によれば、請求項1記載の発明又は第1の関連発明の磁気検知素子において、磁界感知補助用軟磁性膜に接続された高透磁率層を磁気検知部近傍に有するので、高透磁率層が磁束シンクとして機能し、より一層の高感度化を図ることができる。
第3の関連発明によれば、請求項1記載の発明、第1又は第2の関連発明の磁気検知素子において、磁性薄膜よりはるかに低い透磁率、抗磁率が実現でき、また、扱える磁束量も大きいことから飽和しにくい特性を有するバルク型磁性体を磁気検知部近傍に有するので、より一層の高感度化を図ることができる。
第4の関連発明によれば、第2の関連発明の磁気検知素子において、バルク型磁性体を磁気検知部近傍の高透磁率層上に有するので、より一層の高感度化を図ることができる。
第5の関連発明によれば、請求項1記載の発明又、は第1ないし第4の関連発明の何れか一を実現する上で、非磁性層上に、複数の軟磁性層の積層構造として磁界感知補助用軟磁性膜を形成するようにしたので、還流磁区を形成することを防ぐことができ、よって、低ノイズ化と高周波化(高速サンプリング化)を図ることができ、素子能力をより一層向上させることができる。
第6の関連発明によれば、請求項1記載の発明又は、第1ないし第5の関連発明の何れか一を実現する上で、磁界感知補助用軟磁性膜を平面形状が円形状としたので、静磁エネルギーをより小さくするようにできるので、磁荷の発生が少なくなり、磁区の安定を見込めることから、低ノイズ化ないしは高感度化を図ることができ、素子能力をより一層向上させることができる。
第7の関連発明によれば、請求項1記載の発明又は、第1ないし第5の関連発明の何れか一を実現する上で、磁界感知補助用軟磁性膜を複数の部分に分割して形成するようにしたので、個々の大きさを小さくすれば還流磁区の発生を抑制でき、低ノイズ化を実現でき、さらには、異方性を揃えて一層の高感度化を図ることができる。
第8の関連発明によれば、請求項1記載の発明又は、第1ないし第5の関連発明の何れか一を実現する上で、磁界感知補助用軟磁性膜を複数の切り込みにより分割状に形成するようにしたので、個々の大きさを小さくすれば還流磁区の発生を抑制でき、低ノイズ化を実現でき、さらには、異方性を揃えて一層の高感度化を図ることができる。
第9の関連発明によれば、請求項1記載の発明又は、第1ないし第8の関連発明の何れか一の磁気検知素子において、例えば一時的な強磁界の影響による磁気検知部の着磁で動作点が変化して誤った検知を行なうようなケースでも、リセット用磁界発生手段を利用して磁気検知部の磁化状態を所定の状態に戻すことができるようにしたので、それ以降、正常な検知動作を行わせることができる。
第10の関連発明によれば、磁気検知部近傍に一体に形成されたリセット電流用配線部を利用することで、第9の関連発明を容易に実現することができる。
第11の関連発明によれば、磁気検知部に対してリセット磁界を発生させる外部コイルを利用することで、第9の関連発明を容易に実現することができる。
請求項2記載の発明の方位検知システムによれば、地磁気を検知対象とする方位検知システムに適用した場合、基本的には、3軸ベクトル以上の方向に独立して配置された高感度な請求項1記載の発明又は、第1ないし第11の関連発明の何れか一の磁気検知素子の検知出力に基づき検知される3軸以上のベクトルが利用されるが、この際、磁気検知素子の検知出力の絶対値を測定済みの地磁気強度に測定マージンを加味した閾値との比較により検知結果に異常があるか否かを判断しており、異常が検知された場合にはその旨を報知させることで、誤った検知結果の利用を未然に防止することができる。
第12の関連発明の方位検知システムによれば、基本的には請求項2記載の発明と同様であるが、特に、検知結果に異常が検知された場合には、リセット用磁界発生手段にリセット電流を流して磁気検知部の磁化状態を所定の状態に戻してリセットすることで、それ以降の誤った検知動作を回避することができる。
本発明の第一の実施の形態を図1ないし図5に基づいて説明する。本実施の形態の磁気検知素子1は、TMR素子(トンネル磁気抵抗効果素子)2を磁気検知部に用いたもので、基本的には、図5に示すように絶縁性の基板3上に積層させた第1層4と、絶縁膜による第2層5と、第3層6と、第4層7との所定のパターンの接合構造により形成されて、第1層4から第2層5を介して第3層6にトンネル電流が流れる構造のTMR素子2を磁気検知部8に備える。ここに、第4層7が磁界感知補助用軟磁性膜及び電極として機能し、第3層6が磁性層として機能し、第1層4が磁性層及び電極として機能する。
本実施の形態で利用するTMR素子は、近年において見出された現象、即ち、強磁性体と絶縁膜と強磁性体との接合構造により形成されて、両強磁性体の磁化の相対角度に依存してトンネル効果が現れる強磁性体トンネル効果という現象を利用したもので、例えば、特開平10−91925号公報、特開平10−255231号公報中にも記載されているように、S.Maeksawa and V.Gafvert等は、IEEE Trans.Magn.,MAG−18,707(1982)において、磁性体/絶縁体/磁性体結合で両磁性層の磁化の相対角度に依存してトンネル効果が現れることが規定されることを理論的、実験的に示している。
このようなTMR素子2を含む磁気検知素子1に関する詳細構成をその作製方法を含めて説明する。まず、図1に示すように、石英、ガラス等の絶縁性の基板、或いは、絶縁層付きのSi基板等の基板3上に第1層4として一般的な無磁歪組成のFe20−Ni80膜をスパッタリング法により0.1μm膜厚で成膜する。Fe20−Ni80膜自体は磁気抵抗効果素子膜であるが、第1層4としては、スピン偏磁率の高い磁性部材であればFe20−Ni80膜以外の膜であってもよい。抗磁力のような磁気特性は、目的とする磁界強度に応じて選択すればよい。また、Fe20−Ni80膜に関しては、メッキ法によっても作製できる。また、第1層4の膜厚を0.1μmとしたが、感度その他必要な条件に応じて、適宜膜厚に設定すればよい。
次に、半導体製造工程に用いられる一般的なフォトリソグラフィ技術とCF4+H2を用いたRIE法(反応性イオンエッチング法)により、第1層4を図2に示すようにパターン化する。ここでは、第1層4をTMR素子2の一方の電極として機能させるため直線状で、かつ、磁気抵抗効果素子として機能できるサイズである幅10μm×長さ1mmのパターン形状とした。もっとも、第1層4の寸法、形状は目的に応じて適宜変更してもよい。また、エッチング処理としてはウェットエッチング法であってもよく、この場合にはエッチング液として王水を用いればよい。
つづいて、図3に示すように、このような第1層4の上に第2層5の絶縁トンネル層としてAl2O3膜をスパッタリング法により成膜する。この成膜にはEB法(電子ビーム法)やCVD法(化学気相成長法)などを用いてもよい。そして、第1層4の場合と同様に、一般的なフォトリソグラフィ技術とCF4+H2を用いたRIE法により第2層5をパターン化する。この第2層5の絶縁材料としては、SiO2等の他の絶縁材料でも機能するが、特性上はAl2O3膜が優れている。Alを成膜した後で、大気中や真空中でプラズマ酸化させる方法であってもよい。絶縁トンネル層である第2層5のエッチングとしては、ウェットエッチングでもよいが、基板3もエッチングされてしまう場合には基板3の裏面側をレジストなどにより保護する必要がある。
また、基板3としては、石英以外の絶縁基板やPET(ポリエチレンテレフタレート)やポリイミドなどを利用したフレキシブル絶縁基板であってもよい。設計ルールによっては、フォトリソグラフィ工程によらず、最初から金属マスクを用いて成膜させる工程によってもよい。
この後、図4に示すように、絶縁トンネル層である第2層5の上に、第3層6としてFe−Co50膜をスパッタ法により成膜し、第1層4の場合と同様にフォトリソグラフィ法により第1層4のパターンに直交するパターンにパターン化する。この第3層6も第1層4の場合と同様にスピン偏極率の高い材料であれば他の材料であってもよく、さらには、他の反強磁性膜を設けて交換相互層構造、即ち、スピンバルブ構造を採るようにしてもよい。
さらに、本実施の形態では、図5に示すように、第3層6上に磁界感知補助用軟磁性膜としての第4層7を形成するものである。この第4層7は第1層4の抗磁力よりも低い抗磁力を有し、かつ、異方性軸も第1層4の異方性軸とは独立するように形成されている。より具体的には、成膜条件を変えて作成したNi−Fe膜や、他の磁性材料であるCuMoパーマロイ膜やCoZrNbアモルファス膜などにより形成され、この際、成膜時の着磁方法を変更し、或いは、焼鈍条件を第1層4から第3層6までの成膜時と第4層7の成膜時とで変えることで、異方性軸を独立させるようにしている。本実施の形態では、第4層7は例えばCoZrNbアモルファス膜により形成されている。
このような構成の磁気検知素子1は第1層4と第4層7とを電極として磁気検知部8に対して膜面に垂直方向に電流を流した場合の電流の変化を微小電流計(図示せず)より検出する検知方式を採る。この検知動作において、当該磁気検知部8に対しては検知対象となる外部磁界が印加される。この場合、当該磁気検知素子1の一面に配されて、かつ成膜条件を変え、抗磁力が第1層4の抗磁力よりも低く設定しており、その異方性軸が第1層4の異方性軸とは、独立して、この場合、90°ずらして設定された第4層7(磁界感知補助用軟磁性膜)を備えているので、元々の抗磁力の差と磁性膜の容易軸と困難軸方向での磁化の差を利用でき、磁界感度が増し、さらに、MR変化に関しては第3層6が大きいことが知られており、センサとして最適な機能分離ができ、磁界感度を向上させることができる。即ち、高感度化を図ることができる。また、本実施の形態の磁気検知素子1によれば、基本的にTMR素子2を磁気検知部8に利用して構成されているので、センサの小型・軽量化を図ることができる上に、上述のように高感度に検知できるので、後述する方位検知システム等に適用すると、極めて効果的となる。
なお、本実施の形態では、磁気検知部8にTMR素子2を備えた構成としたが、TMR素子2に限らず、磁気検知部の膜面に対して垂直方向に電流を流す検知方式のGMR素子(巨大磁気抵抗効果素子)を利用する場合にも同様に構成できる。
本発明の第二の実施の形態を図6及び図7に基づいて説明する。第一の実施の形態で説明した部分と同一部分は同一符号を用いて示し、説明も省略する(以降の各実施の形態でも順次同様とする)。
本実施の形態の磁気検知素子11では、磁界感知補助用軟磁性膜として機能する第4層7を第4層7a〜7fで示す如く複数個(例えば、6個)に分割しつつ並列に配置させることで、磁気検知部8に関して、下層の第1層4を1本の共通電極として交差するアレイ状構成としたものである。第3層6も第4層7に対応してアレイ状構成とされている。結果として、各第4層7a〜7f(各第3層)毎に第1層4との間でTMR素子を構成することとなる。
製造方法としては、第一の実施の形態の場合と同様に第1層4及び第2層5を形成した後、前述の場合と同様に、Fe−Co50膜をスパッタリング法により成膜し、さらに、CoZrNbアモルファス膜を成膜し、かつ、フォトリソグラフィ法により複数に分割するパターン化処理により第4層7a〜7f(第3層も)を形成することにより作製される。
この場合の磁気検知素子11に対する検知回路構成例としては、図7に示すように、各々電極としても機能する各第4層7a〜7fに対して第1層4との間には直流電源13が接続されているとともに、各第4層7a〜7fに対してスイッチング回路14を介して微小電流計15が接続されており、スイッチング回路13のスイッチング動作により各検知点12a〜12f毎に個別に第4層7a〜7fでの磁性変化が個別のTMR素子のMR率の変化として確実かつ高感度に検知される。
従って、本実施の形態の磁気検知素子11によれば、検知点12a〜12fが複数点としてアレイ状に配列されているので、第一の実施の形態の場合と同様の効果が得られる上に、利用用途を適宜広げることができ、より実用的となる。
本発明の第三の実施の形態を図8に基づいて説明する。本実施の形態の磁気検知素子21は、磁気検知部8、ここではTMR素子2の近傍に位置させて高透磁率層22をスパッタ法、CVD法、メッキ法或いはゾルゲル法で形成するようにしたものである。このような高透磁率層22の透磁率は100以上であることが望ましく、具体的には、CoZrNb膜、NiCoFe膜、FeNi膜等により形成される。また、製法としても、フォトリソ法、マスクデポ法、貼り合せ法なども適宜用い得る。そして、このような高透磁率層22は第4層7の磁界感知補助用軟磁性膜に電気的に接続された形で完成する。
本実施の形態の磁気検知素子21によれば、高透磁率層22が磁束シンクとして機能するので、より一層の高感度化を図ることができる。
本発明の第四の実施の形態を図9に基づいて説明する。本実施の形態の磁気検知素子31は、磁気検知部8の近傍に位置する高透磁率層22上にMn−Znフェライトブロックをダイシング加工したものをバルク型磁性体32として形成したものである。バルク型磁性体32としては、Mn−Znフェライトブロックをダイシング加工したものに限られない。
一般に、バルク型磁性体は、磁性薄膜よりはるかに低い透磁率、抗磁率が実現できることが知られており、また、扱える磁束量も大きいことから飽和しにくい特性を有する。従って、本実施の形態の磁気検知素子31によれば、バルク型磁性体32を高透磁率層22上に有することにより、より一層の高感度化を図ることができる。
なお、バルク型磁性体32は必ずしも高透磁率層22上に形成する必要はなく、要は、磁気検知部8の近傍に形成されていればよい。
本発明の第五の実施の形態を図10に基づいて説明する。本実施の形態の磁気検知素子41は、磁界感知補助用軟磁性膜としての第4層42をTi,Ta,SiO2などの非磁性層(図示せず)を介して複数の軟磁性層(例えば、Co−Zr−Nb膜、Fe−Ni膜など)を積層させた積層構造として形成したものである。
本実施の形態の磁気検知素子41によれば、第4層(磁界感知補助用軟磁性膜)42が非磁性層を介して複数の軟磁性層の積層構造として形成されていることにより、還流磁区を形成することを防げるので、低ノイズ化と高周波化(即ち、高速サンプリング化)とを図ることができ、素子機能をより一層向上させることができる。
本発明の第六の実施の形態を図11に基づいて説明する。本実施の形態の磁気検知素子51は、例えば、Co−Zr−Nb膜、Fe−Ni膜などによる磁界感知補助用軟磁性膜としての第4層52の平面形状を楕円状の円形形状に形成したものである。なお、楕円形状に限らず、例えば、真円形状であってもよい。
本実施の形態の磁気検知素子51によれば、第4層(磁界感知補助用軟磁性膜)52が円形形状に形成されていることにより、静磁エネルギーをより小さくするようにできるので、磁荷の発生が少なくなり、磁区が安定化するため、低ノイズ化を実現できる。結果として、素子の高感度化を図ることができる。
本発明の第七の実施の形態を図12に基づいて説明する。本実施の形態の磁気検知素子61は、磁界感知補助用軟磁性膜としての第4層62をその長手方向に複数の部分62a,62b,…,62nに分割形成したものである。より具体的には、例えば、Fe−Ni膜による第4層(磁界感知補助用軟磁性膜)62を0.5μm×0.5μm程度の大きさの部分62a,62b,…,62nにより形成される。各部分62a,62b,…,62nがこの程度の大きさであれば、還流磁区の発生を抑制でき、ほぼ単磁区構成となるので、この結果、低ノイズ化を図ることができる。同時に、異方性も揃えやすくなり、素子の高感度化を図ることができる。
なお、図12に示したような完全分割構成に限らず、例えば、図13に示す磁気検知素子71のように、その長手方向に複数の切り込み71a,71b,…,71nを形成することにより、分割的な形状とした場合でも、還流磁区の発生を抑制でき、低ノイズ化を図ることができる。
本発明の第八の実施の形態を図14に基づいて説明する。本実施の形態の磁気検知素子81は、例えば、図8に示した構成の磁気検知素子21に加えて、その磁気検知部8の各磁性層(第1層4、第3層6、第4層7等)の磁化状態を所定の状態、ここでは、初期の状態に戻すためのリセット用磁界発生手段としてのリセット電流用配線部82が磁気検知部8及び高透磁率層22の近傍の全長以上に亘って形成されている。
このような構成の磁気検知素子81によれば、例えば、後述する方位検知システムに利用してその測定値に異常が生じたことが検知されたような場合に、このリセット電流用配線部82を通じてリセット電流を流し、磁気検知部8の各磁性層(第1層4、第3層6、第4層7等)の磁化状態を初期の状態に戻すことで、以降は正常に検知動作を行わせることが可能となる。即ち、一時的な強磁界の影響によるTMR素子2部分の着磁に伴う動作点の変化をキャンセルでき、キャンセル後は正常に機能させることができる。後述の地磁気検知用の方位検知システムへの適用の場合に限らず、通常の磁気センサとしての適用の場合にも有用となる。
なお、リセット用磁界発生手段としては、素子上に一体に設けたリセット電流用配線部82に限らず、例えば、図15に示すように、当該素子81を通過させることによりリセット用磁界を発生させる外部コイル83を利用するようにしてもよい。
本発明の第九の実施の形態を図16に基づいて説明する。本実施の形態は、前述した各実施の形態のような磁気検知素子を利用して構成した地磁気検知の方位検知システムへの適用例を示す。まず、例えば3つの磁気検知素子91a,91b,91c(前述した磁気検知素子1,11,21,31,41,51,61,71,81の何れの形態でもよい)をxyz3軸ベクトルの方向に独立して配置させた地磁気センサ92が設けられている。これらの磁気検知素子91a,91b,91cの検知出力はデータ取り込み部93を介して検知手段としての3磁気成分検知部94に入力されている。この3磁気成分検知部94は地磁気検知に関して、磁気検知素子91a,91b,91cの検知出力に基づき3軸ベクトル成分を検知する。一方、データ取り込み部93を介して取り込まれた磁気検知素子91a,91b,91cの検知出力に関してその絶対値を算出する絶対値演算部95と、この絶対値演算部95により算出された絶対値の大きさを予め設定されている比較地磁気強度に測定マージンを加味した閾値と比較する比較部96とによる異常検知手段97が設けられている。比較部96では算出された絶対値の大きさが閾値を越えている場合に検知結果に異常があると判断する。この比較部96の出力側には異常検知出力に基づき動作する報知手段としての警報部98が設けられている。
これにより、本実施の形態の方位検知システムによれば、測定済みの地磁気強度に測定マージンを加味して予め設定されている閾値を超えるような大きさの検知結果が得られた場合には、警報部98を通じて測定値に異常がある旨を報知するので、誤った検知結果の利用を未然に防止できる。なお、より実際的には、3磁気成分検知部94から得られる検知結果とともに、この警報部98の出力も通信部99を通じて当該システムの使用者に通信によって通知するシステム構成とすればよい。
さらに、本システムを構築する上で、3つの磁気検知素子91a,91b,91cとして図14や図15に示した磁気検知素子81を利用するようにすれば、比較部96により検知結果に異常が検知された場合には、リセット電流用配線部82又は外部コイル83を利用してリセット手段(図示せず)によりリセット電流を流すことにより、磁気検知部8の磁化状態を初期状態にリセットするようにすれば、リセット以降は正常に地磁気検知動作を行わせることができる。
なお、本実施の形態の方位検知システムでは、3つの磁気検知素子91a,91b,91cを用いたが、3つ以上の磁気検知素子を3軸ベクトル以上の方向に独立に配置させて地磁気の方向検知を3軸以上のベクトル検知として行なうようにしてもよい。