以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態における車両の傾斜状態を示す図、図2は本発明の第1の実施の形態における車両システムの構成を示すブロック図である。
図1において、10は、本実施の形態における車両であり、車体の本体部11、駆動輪12、支持部13及び乗員15が搭乗する搭乗部14を有し、前記車両10は、車体を前後左右に傾斜させることができるようになっている。そして、倒立振り子の姿勢制御と同様に車体の姿勢を制御する。また、車両10は前進及び後退することができる。
前記駆動輪12は、車体の一部である支持部13に対して回転可能に支持され、駆動アクチュエータとしての駆動モータ52によって駆動される。なお、駆動輪12の回転軸は車体が直立した状態において水平な方向に存在し、駆動輪12はその回転軸を中心に回転する。また、前記駆動輪12は、単数であっても複数であってもよいが、複数である場合、同軸上に並列に配設される。本実施の形態においては、駆動輪12が2つであるものとして説明する。この場合、各駆動輪12は個別の駆動モータ52によって独立して駆動される。なお、駆動アクチュエータとしては、例えば、油圧モータ、内燃機関等を使用することもできるが、ここでは、電気モータである駆動モータ52を使用するものとして説明する。
また、車体の一部である本体部11は、支持部13によって下方から支持され、駆動輪12の上方に位置する。そして、本体部11には、車両10の運転者である乗員15が搭乗する搭乗部14が取り付けられている。
本実施の形態においては、説明の都合上、搭乗部14には乗員15が搭乗する例について説明するが、搭乗部14には必ずしも乗員15が搭乗している必要はなく、例えば、車両10がリモートコントロールによって操縦される場合には、搭乗部14に乗員15が搭乗していなくてもよいし、乗員15に代えて、貨物等の搭載物が積載されていてもよい。なお、前記搭乗部14は、乗用車、バス等の自動車に使用されるシートと同様のものであり、座面部、背もたれ部及びヘッドレストを備える。
また、前記車両10は、車体を左右に傾斜させる車体傾斜リンク機構としてのリンク機構60を有し、旋回時には、図1に示されるように、左右の駆動輪12の路面に対する角度、すなわち、キャンバー角を変化させるとともに、搭乗部14及び本体部11を含む車体を旋回内輪側へ傾斜させることによって、旋回性能の向上と乗員15の快適性の確保とを図ることができるようになっている。すなわち、前記車両10は車体を横方向(左右方向)にも傾斜させることができる。
前記リンク機構60は、左右の駆動輪12に駆動力を付与する駆動モータ52を支持するモータ支持部材としても機能する左右の縦リンクユニット65と、該左右の縦リンクユニット65の上端同士を連結する上側横リンクユニット63と、左右の縦リンクユニット65の下端同士を連結する下側横リンクユニット64とを有する。また、左右の縦リンクユニット65と上側横リンクユニット63及び下側横リンクユニット64とは回転可能に連結されている。さらに、上側横リンクユニット63の中央及び下側横リンクユニット64の中央には、上下方向に延在する支持部13が回転可能に連結されている。
そして、61は、リンクトルクを発生する車体傾斜用のアクチュエータとしてのリンクモータであって、固定子としての円筒状のボディと、該ボディに回転可能に取り付けられた回転子としての回転軸とを備えるものであり、ボディが上側横リンクユニット63に固定され、回転軸が支持部13に固定されている。なお、前記ボディが支持部13に固定され、回転軸が上側横リンクユニット63に固定されていてもよい。そして、リンクモータ61を駆動して回転軸をボディに対して回転させると、上側横リンクユニット63に対して支持部13が回転し、リンク機構60が屈伸する。なお、前記リンクモータ61の回転軸は、支持部13と上側横リンクユニット63との連結部分の回転軸と同軸になっている。これにより、リンク機構60を屈伸させて本体部11を傾斜させることが可能となる。
前記搭乗部14の脇(わき)には、目標走行状態取得装置としてのジョイスティック31を備える入力装置30が配設されている。乗員15は、操縦装置であるジョイスティック31を操作することによって、車両10を操縦する、すなわち、車両10の加速、減速、旋回、その場回転、停止、制動等の走行指令を入力するようになっている。なお、乗員15が操作して走行指令を入力することができる装置であれば、ジョイスティック31に代えて他の装置、例えば、ペダル、ハンドル、ジョグダイヤル、タッチパネル、押しボタン等の装置を目標走行状態取得装置として使用することもできる。
さらに、車両10がリモートコントロールによって操縦される場合には、前記ジョイスティック31が図示されないリモートコントローラに配設され、ジョイスティック31の操作量は、リモートコントローラから、有線又は無線によって車両10に配設される受信装置に送信される。この場合、ジョイスティック31の操縦者は乗員15以外の者である。
なお、本実施の形態における以降の説明は、搭乗部14の座面が水平であるときに、駆動輪12の回転軸に垂直な方向にx軸、平行な方向にy軸、鉛直上向きにz軸を採る座標系に基づくものとする。
車両システムは、図2に示されるように、車両制御装置としての制御ECU(Electronic Control Unit)20を有し、該制御ECU20は、主制御ECU21、駆動輪制御ECU22及びリンク制御ECU23を備える。前記制御ECU20並びに主制御ECU21、駆動輪制御ECU22及びリンク制御ECU23は、CPU、MPU等の演算手段、磁気ディスク、半導体メモリ等の記憶手段、入出力インターフェイス等を備え、車両10の各部の動作を制御するコンピュータシステムであり、例えば、本体部11に配設されるが、支持部13や搭乗部14に配設されていてもよい。また、前記主制御ECU21、駆動輪制御ECU22及びリンク制御ECU23は、それぞれ、別個に構成されていてもよいし、一体に構成されていてもよい。
そして、主制御ECU21は、駆動輪制御ECU22、駆動輪センサ51及び駆動モータ52とともに、駆動輪12の動作を制御する駆動輪制御システム50の一部として機能する。前記駆動輪センサ51は、レゾルバ、エンコーダ等から成り、駆動輪回転状態計測装置として機能し、駆動輪12の回転状態を示す駆動輪回転角及び/又は回転角速度を検出し、主制御ECU21に送信する。また、該主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信し、該駆動輪制御ECU22は、受信した駆動トルク指令値に相当する入力電圧を駆動モータ52に供給する。そして、該駆動モータ52は、入力電圧に従って駆動輪12に駆動トルクを付与し、これにより、駆動アクチュエータとして機能する。
また、主制御ECU21は、駆動輪制御ECU22、車体傾斜センサ41、駆動モータ52及びリンクモータ61とともに、車体の姿勢を制御する車体制御システム40の一部として機能する。前記車体傾斜センサ41は、加速度センサ、ジャイロセンサ等から成り、車体傾斜状態計測装置として機能し、車体の傾斜状態を示す車体傾斜角及び/又は傾斜角速度を検出し、主制御ECU21に送信する。そして、該主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信する。また、前記主制御ECU21は、リンクトルク指令値をリンク制御ECU23に送信し、該リンク制御ECU23は、受信したリンクトルク指令値に相当する入力電圧をリンクモータ61に供給する。そして、該リンクモータ61は、入力電圧に従ってリンク機構60に駆動トルクを付与し、これにより、傾斜用のアクチュエータとして機能する。
なお、各センサは、複数の状態量を取得するものであってもよい。例えば、車体傾斜センサ41として加速度センサとジャイロセンサとを併用し、両者の計測値から車体傾斜角と車体傾斜角速度とを決定してもよい。
また、主制御ECU21には、入力装置30のジョイスティック31から走行指令として、操作量が入力される。そして、前記主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信し、リンクトルク指令値をリンク制御ECU23に送信する。
なお、前記制御ECU20は、機能の観点から、車体の左右傾斜状態及び旋回走行状態の計測値と、目標走行状態によって決定される車体の左右傾斜状態及び旋回走行状態の目標値との差に応じて駆動トルク差及びリンクトルクを決定する第1出力決定手段、車体の左右傾斜状態及び旋回走行状態に応じて駆動トルク差及びリンクトルクを決定する第2出力決定手段、車体の前後傾斜状態及び駆動輪12の左右平均回転角速度に応じて総駆動トルクを決定する第3出力決定手段、車体の左右傾斜状態を推定する傾斜推定手段、並びに、外的傾斜状態を推定する外的傾斜取得手段を有する。そして、前記制御ECU20によって姿勢制御が行われることで、車両10は、旋回走行時には、図1に示されるように、車体を旋回円内側へ適切な角度だけ傾けた状態で旋回する。
次に、前記構成の車両10の動作について詳細に説明する。まず、走行及び姿勢制御処理について説明する。
図3は本発明の第1の実施の形態における走行及び姿勢制御処理の動作を示すフローチャートである。
本実施の形態においては、状態量、パラメータ等を次のような記号によって表す。
θWR:右駆動輪回転角〔rad〕
θWL:左駆動輪回転角〔rad〕
θW :平均駆動輪回転角〔rad〕;θW =(θWR+θWL)/2
ΔθW :駆動輪回転角左右差〔rad〕;ΔθW =θWR−θWL
θ1 :車体傾斜ピッチ角(鉛直軸基準)〔rad〕
φ1 :車体傾斜ロール角(鉛直軸基準)〔rad〕
τL :リンクトルク〔Nm〕
τWR:右駆動トルク〔Nm〕
τWL:左駆動トルク〔Nm〕
τW :総駆動トルク〔Nm〕;τW =τWR+τWL
ΔτW :駆動トルク左右差〔Nm〕;ΔτW =τWR−τWL
g:重力加速度〔m/s2 〕
RW :駆動輪接地半径〔m〕
D:2輪間距離〔m〕
m1 :車体質量(搭乗部を含む)〔kg〕
mW :駆動輪質量(2輪合計)〔kg〕
l1 :車体重心距離(車軸から)〔m〕
IW :駆動輪慣性モーメント(2輪合計)〔kgm2 〕
αX :車両前後加速度〔m/s2 〕
αY :車両左右加速度〔m/s2 〕
走行及び姿勢制御処理において、主制御ECU21は、まず、センサから各状態量を取得する(ステップS1)。具体的には、駆動輪センサ51から左右の駆動輪回転角又は回転角速度を取得し、車体傾斜センサ41から車体傾斜ピッチ角又はピッチ角速度及び車体傾斜ロール角又はロール角速度を取得する。
続いて、主制御ECU21は、残りの状態量を算出する(ステップS2)。この場合、取得した状態量を時間微分又は時間積分することによって、残りの状態量を算出する。例えば、取得した状態量が駆動輪回転角、車体傾斜ピッチ角及び車体傾斜ロール角である場合には、これらを時間微分することによって、回転角速度、ピッチ角速度及びロール角速度を得ることができる。また、例えば、取得した状態量が回転角速度、ピッチ角速度及びロール角速度である場合には、これらを時間積分することによって、駆動輪回転角、車体傾斜ピッチ角及び車体傾斜ロール角を得ることができる。
続いて、主制御ECU21は、操縦者の操縦操作量を取得する(ステップS3)。この場合、操縦者が、車両10の加速、減速、旋回、その場回転、停止、制動等の走行指令を入力するために操作したジョイスティック31の操作量を取得する。
続いて、主制御ECU21は、車両加速度の目標値を決定する(ステップS4)。この場合、取得したジョイスティック31の操作量に基づいて、車両加速度の目標値、例えば、前後及び左右の操作量に比例した値を前後加速度及び左右加速度の目標値とする。
続いて、主制御ECU21は、車両加速度の目標値から、駆動輪回転角速度の目標値を算出する(ステップS5)。具体的には、下記の式によって平均駆動輪回転角速度の目標値を決定する。
ここで、Δtは制御処理周期(データ取得間隔)であり、所定値である。なお、本実施の形態における説明において、上付き添字*は目標値であることを表し、上付き添字(n)は時系列のn番目のデータであることを表し、記号上の1ドットは1階時間微分した値、すなわち、速度であることを表し、記号上の2ドットは2階時間微分した値、すなわち、加速度であることを表すものとする。下付き添字Xは前後(x軸方向)であることを表し、下付き添字Yは左右(y軸方向)であることを表し、下付き添字dは操縦指令値であることを表すものとする。
また、下記の式によって駆動輪回転角速度左右差の目標値を決定する。
このように、走行状態目標値に相当する駆動輪回転角速度の目標値を決定する。つまり、車両前後加速度目標値を時間積分することにより、左右駆動輪の回転角速度の平均値の目標である平均駆動輪回転角速度目標値を決定する。また、車両左右加速度目標値と平均駆動輪回転角速度目標値から左右駆動輪の回転角速度の差の目標である駆動輪回転角速度左右差目標値を決定する。
なお、本実施の形態においては、操縦装置であるジョイスティック31の操作量を前後及び左右の加速度と対応させているが、車両速度やヨーレート等に対応させてもよい。また、その車両速度やヨーレート自体を状態量として、フィードバック制御を実行してもよい。
また、本実施の形態においては、駆動輪接地点と路面との間に滑りが存在しないという仮定の下で、車両速度やヨーレートを駆動輪12の回転角速度に換算しているが、滑りを考慮して駆動輪回転角速度の目標値を決定してもよい。
続いて、主制御ECU21は、車体傾斜角の目標値を決定する(ステップS6)。具体的には、車両加速度の目標値と車体パラメータとから、下記の式によって車体傾斜ピッチ角の目標値を決定する。
また、下記の式によって車体傾斜ロール角の目標値を決定する。
このように、車両加速度の目標値に応じて車体傾斜角の目標値を決定する。つまり、車体傾斜ピッチ角については、前後の車体姿勢と走行状態に関する倒立振り子車両の力学的構造を考慮して、前後加速度で与えられる走行目標を達成できる車体姿勢を目標値として与える。また、車体傾斜ロール角については、接地荷重中心が2つの駆動輪12の接地点間である安定領域に存在する範囲で、自由に目標姿勢を設定できるが、本実施の形態では乗員15の負荷が最も少ない姿勢を目標値として与える。
なお、車体傾斜ロール角の目標値として他の値を与えてもよい。例えば、目標左右加速度の絶対値が所定の閾値よりも小さい場合には目標車体傾斜ロール角を零として、小さな左右加速度に対しては直立姿勢を維持させてもよい。
続いて、主制御ECU21は、残りの目標値を算出する(ステップS7)。すなわち、各目標値を時間微分又は時間積分することによって、駆動輪回転角及び車体傾斜角速度の目標値をそれぞれ算出する。
続いて、主制御ECU21は、各目標値から各アクチュエータのフィードフォワード出力を決定する(ステップS8)。具体的には、下記の式によってフィードフォワード出力として、総駆動トルクのフィードフォワード量τW,FF、駆動トルク左右差のフィードフォワード量ΔτW,FF及びリンクトルクのフィードフォワード量τL,FFを決定する。
このように、目標とする走行状態や車体姿勢を実現するのに必要なアクチュエータ出力を力学モデルより予測し、その分をフィードフォワード的に付加することで、車両10の走行及び姿勢制御を高精度に実行する。つまり、前後方向の走行目標を達成できるように、総駆動トルクのフィードフォワード量を決定する。具体的には、車両前後加速度に応じて発生する慣性力と、車両速度に相当する平均駆動輪回転角速度に応じて発生する走行抵抗を予測し、それを打ち消すような総駆動トルクを与えることで、目標とする前後走行状態を実現する。
また、旋回走行の目標を実現できるように、駆動トルク左右差のフィードフォワード量を決定する。具体的には、接地荷重中心位置の移動に伴って発生するヨーモーメントを予測し、それを打ち消すような駆動トルク左右差を与えることで、目標とする旋回走行目標を実現する。また、車体傾斜ロール角と車両左右加速度に基づいて、接地荷重中心位置の移動率を予測する。
さらに、左右車体傾斜の目標を実現できるように、リンクトルクのフィードフォワード量を決定する。具体的には、車体傾斜ロール角に応じて発生する重力のトルクと、車両左右加速度に応じて発生する遠心力のトルクを予測し、それを打ち消すようなリンクトルクを与えることで、目標とする左右車体傾斜状態を実現する。
なお、本実施の形態においては、力学モデルにおける主な要素をすべて考慮して、必要な出力をフィードフォワード量として与えているが、これらの要素の中で影響が小さいものを無視し、より簡素なモデルによってフィードフォワード量を決定してもよい。また、本実施の形態では考慮していない要素をあらたに考慮してもよい。例えば、駆動輪12の転がり抵抗やリンク機構60での乾性摩擦等を考慮してもよい。
さらに、本実施の形態においては、走行状態や車体姿勢の目標値に応じて必要な出力をフィードフォワード量として与えているが、計測値に基づく準フィードバック量として与えてもよい。これにより、目標値と実値に大きな隔たりがある場合でも、適切に制御を行うことができる。
続いて、主制御ECU21は、各目標値と状態量との偏差から各アクチュエータのフィードバック出力を決定する(ステップS9)。具体的には、下記の式によってフィードバック出力として、総駆動トルクのフィードバック量τW,FB、駆動トルク左右差のフィードバック量ΔτW,FB及びリンクトルクのフィードバック量τL,FBを決定する。
なお、各フィードバックゲインK**の値は、例えば、極配置法等により決定される値をあらかじめ設定しておく。また、スライディングモード制御等の非線形のフィードバック制御を導入してもよい。さらに、より簡単な制御として、KW2、KW3、Kd2及びKL3を除くゲインのいくつかを零にしてもよい。さらに、定常偏差をなくすために、積分ゲインを導入してもよい。
このように、状態フィードバック制御により、実際の状態を目標とする状態に近付けるようにフィードバック出力を与える。具体的には、前後走行状態に相当する平均駆動輪回転状態と、車体の倒立状態に相当する車体傾斜ピッチ角について、計測値と目標値の差に比例する総駆動トルクを与えることで、車両10の前後走行状態と車体の倒立姿勢を目標とする状態で安定に維持する。
また、旋回走行状態に相当する駆動輪回転状態左右差と、車体の左右傾斜に相当する車体傾斜ロール角について、計測値と目標値の差に比例する駆動トルク左右差を与えることで、車両10の旋回走行状態を目標とする状態で安定に維持する。このように、車体の左右傾斜状態を考慮することで、より安定かつ高精度に旋回走行状態を制御できる。
さらに、左右傾斜状態に相当する車体傾斜ロール角と、旋回走行状態に相当する駆動輪回転状態左右差について、計測値と目標値の差に比例するリンクトルクを与えることで、車体の左右傾斜状態を目標とする状態で安定に維持する。このように、車両10の旋回走行状態を考慮することで、より安定かつ高精度に車体左右傾斜状態を制御できる。
さらに、旋回走行状態に相当する状態量として、駆動輪回転角速度左右差を用いる。このように、駆動輪12の回転状態を制御することで、駆動輪12がロックや空転の状態に至る可能性を低減できる。
最後に、主制御ECU21は、各要素制御システムに指令値を与えて(ステップS10)、走行及び姿勢制御処理を終了する。なお、走行及び姿勢制御処理は、所定の時間間隔(例えば、100〔μs〕毎)で繰り返し実行される。また、主制御ECU21は、駆動輪制御ECU22及びリンク制御ECU23に、下記の式によって決定される指令値として、右駆動トルク指令値τWR、左駆動トルク指令値τWL、総駆動トルク指令値τW 、駆動トルク左右差指令値ΔτW 及びリンクトルク指令値τL を与える。
このように、各フィードフォワード出力と各フィードバック出力の和を指令値として与える。また、総駆動トルクと駆動トルク左右差が要求する値になるように、右駆動トルクと左駆動トルクの指令値を与える。
そして、接地荷重の偏心状態に応じて、駆動トルク左右差の値を補正する。具体的には、総駆動トルク指令値に接地荷重移動率を乗じた値を駆動トルク左右差として付加する。このように、接地荷重の移動に伴って発生するヨーモーメントを打ち消すように駆動トルク左右差を与えることで、旋回走行状態をより高精度に制御することができる。
また、車体傾斜ロール角と車両左右加速度に基づいて、接地荷重移動率を推定する。これにより、車体傾斜状態や旋回走行状態によって変化する接地荷重中心位置の移動を適切に考慮することができる。
さらに、左右の駆動輪12の回転速度に基づいて、車両左右加速度を推定する。これにより、車両10の左右加速度を計測するセンサがなくても、走行及び姿勢制御を実行できる。
なお、本実施の形態においては、接地荷重移動率を、車体傾斜状態と旋回走行状態の計測値に基づいて推定しているが、目標値に基づいて推定してもよい。これにより、制御の安定性がより高くなる場合がある。
また、本実施の形態においては、接地荷重移動率の推定に必要な車両左右加速度の値を左右の駆動輪12の回転角速度から推定しているが、左右加速度を計測する計測手段を備え、その計測値を用いてもよい。また、ヨーレート等の計測値から車両10の左右加速度を決定してもよい。
このように、本実施の形態においては、車体の左右傾斜状態に応じた駆動トルク差を左右の駆動輪に与え、旋回走行状態に応じたリンクトルクを車体傾斜リンク機構に与える。具体的には、計測手段によって取得した車体の左右傾斜状態及び旋回走行状態の計測値と、目標走行状態によって決定される車体の左右傾斜状態及び旋回走行状態の目標値との差に応じて駆動トルク差及びリンクトルクを決定する第1出力決定手段を備える。そして、計測値と目標値の差に所定の係数を乗じた値の駆動トルク差とリンクトルクを与える。
また、車体の左右傾斜状態及び旋回走行状態に応じて、駆動トルク差及びリンクトルクを決定する第2出力決定手段を備え、両出力決定値の和の駆動トルク差とリンクトルクを与える。この場合、車体の左右傾斜状態及び旋回走行状態の目標値に応じて、駆動トルク差とリンクトルクを決定する。そして、旋回走行状態の駆動輪12の接地荷重移動率の推定値に応じて、駆動トルク差を決定する。また、旋回走行状態の車体に作用する重力と遠心力の推定値に応じて、リンクトルクを決定する。
さらに、車体の前後傾斜状態と駆動輪12の左右平均回転角速度に応じて総駆動トルクを決定する第3出力決定手段を備え、総駆動トルクと接地荷重移動率に応じた駆動トルク差を更に与える。この場合、総駆動トルクは車体の倒立制御に必要なトルクである。そして、総駆動トルクに接地荷重移動率を乗じた値の駆動トルクを左右の駆動輪12に加える。なお、旋回走行状態は、右輪回転角速度と左輪回転角速度の差である。
これにより、より適切に車両10の旋回走行状態と車体の傾斜姿勢を制御できる。その結果、操縦性や快適性のより高い車両10を提供できる。
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図4は本発明の第2の実施の形態における車両の構成を示す概略図、図5は本発明の第2の実施の形態における車両システムの構成を示すブロック図である。
前記第1の実施の形態においては、車体傾斜センサ41による車体傾斜ロール角の計測値を必要とするが、車体傾斜センサ41が高価である場合、より安価な車両10を実現するためには、比較的安価なセンサ、例えば、リンク機構60の各リンクユニットの回転角を計測するセンサで代用できることが望ましい。また、車体傾斜センサ41を備える場合でも、該車体傾斜センサ41の故障時に備えて、別のセンサ又は制御手法を備えることが望ましい。
そこで、本実施の形態においては、車体傾斜ロール角の計測値を用いずに、旋回走行状態と車体姿勢を適切に制御する。そのため、車体傾斜センサ41に代えて、車体を傾斜させる機構であるリンク機構60の幾何学的状態を計測するセンサを備え、該センサの計測値から幾何学的条件に基づいて、車体傾斜ロール角を推定する。また、図4に示されるように、車体傾斜ロール角は、路面勾配や駆動輪12の変形に影響されるので、これらの影響を推定して補正する必要がある。そこで、本実施の形態においては、左右方向の路面勾配による傾斜角及び/又は左右の駆動輪12の変形量の差による傾斜角である外的傾斜角を取得し、その値によって車体傾斜ロール角の推定値を補正する。さらに、リンク機構60の幾何学的状態及び駆動輪回転角速度の計測値によって、外的傾斜角を推定する。
本実施の形態における車両システムは、図5に示されるように、車体制御システム40の一部として機能するリンクセンサ42を有する。該リンクセンサ42は、レゾルバ、エンコーダ等から成り、リンク機構60に配設され、該リンク機構60の相互に回転するリンクユニットの角度、例えば、支持部13と上側横リンクユニット63との角度、すなわち、リンク回転角及び/又は回転角速度を検出して主制御ECU21に送信する。なお、車体傾斜センサ41は省略されている。
その他の点の構成については、前記第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
なお、本実施の形態においては、リンク機構60の幾何学的状態を決定する状態量として、リンク回転角及び/又は回転角速度を計測しているが、リンク機構60の幾何学的状態を唯一に決定する状態量であれば、他の状態量を計測してもよい。また、リンク機構60と異なる構造のリンク機構についても、その状態を唯一に決定する状態量を計測することで、本実施の形態と同様の制御を実施できる。
次に、本実施の形態における走行及び姿勢制御処理について説明する。
図6は本発明の第2の実施の形態における走行及び姿勢制御処理の動作を示すフローチャートである。
走行及び姿勢制御処理において、主制御ECU21は、まず、センサから各状態量を取得する(ステップS11)。具体的には、駆動輪センサ51から左右の駆動輪回転角又は回転角速度を取得し、リンクセンサ42からリンク回転角又は回転角速度を取得する。
続いて、主制御ECU21は、残りの状態量を算出する(ステップS12)。この場合、取得した状態量を時間微分又は時間積分することによって、残りの状態量を算出する。例えば、取得した状態量が駆動輪回転角及びリンク回転角である場合には、これらを時間微分することによって、駆動輪回転角速度及びリンク回転角速度を得ることができる。また、例えば、取得した状態量が駆動輪回転角速度及びリンク回転角速度である場合には、これらを時間積分することによって、駆動輪回転角及びリンク回転角を得ることができる。
続いて、主制御ECU21は、車体傾斜ロール角を推定する(ステップS13)。具体的には、下記の式によって車体傾斜ロール角を推定する。
φ1 =φ1L+η(n)
ここで、φ1Lはリンク回転角基準車体傾斜ロール角であり、φ1L=f(φL )である。なお、φL はリンク回転角、fはリンク機構60の幾何学的条件に基づいてリンク回転角を車体傾斜ロール角に変換する関数である。
なお、本実施の形態においては、駆動トルクの値として1つ前の制御ステップにおいて決定された値を用いる。また、車体傾斜ロール角加速度の値は、車体傾斜ロール角の計測値を2階時間微分(差分)することで得られる。
このように、リンク機構60のリンク回転角を計測し、その計測値から車体傾斜ロール角を推定する。つまり、リンク回転角と車体傾斜ロール角の幾何学的対応関係から、車体傾斜ロール角を推定する。これにより、車体傾斜状態を計測するセンサである車体傾斜センサ41がなくても、又は、車体傾斜センサ41が故障しても、車体傾斜ロール角に基づく旋回走行状態と車体傾斜姿勢の制御を実行できる。
また、左右方向の路面勾配による車体傾斜ロール角及び/又は左右の駆動輪12の変形量の差によって生じる車体傾斜ロール角である外的傾斜角の推定値を取得し、その値によって車体傾斜ロール角の推定値を補正する。これにより、バンク角を有する路面上の走行時や内圧の低いタイヤの装着時においても、妥当な車体傾斜ロール角の推定値を取得できる。
さらに、リンク回転角、駆動輪回転角速度及びリンクトルクの時間履歴から、車体傾斜ロール運動の力学モデルに基づいて、車体傾斜ロール角を推定する。この場合、車体の回転慣性、粘性抵抗、重力トルク、旋回走行に伴う遠心力及びリンクトルクを考慮する。そして、考慮していない作用が外的傾斜角によるものであると仮定して、外的傾斜角を推定する。これにより、該外的傾斜角を計測するセンサを追加することなく、高精度に車体傾斜ロール角を推定し、旋回走行状態と車体傾斜姿勢を適切な状態に制御できる。
さらに、ローパスフィルタによって、外乱による影響を除去する。例えば、乗員15の一時的な動作、路面の凹凸、センサ信号のノイズ等の影響を除去する。なお、これを実現するために、本実施の形態においては、車体重心ずれ推定のローパスフィルタ時定数を5秒程度に設定する。
なお、本実施の形態においては、接地荷重移動率の推定に必要な車両左右加速度の値を各駆動輪12の回転角速度から推定しているが、左右加速度を計測する計測手段を備え、その計測値を用いてもよい。また、ヨーレート等の計測値から車両10の左右加速度を決定してもよい。
また、本実施の形態においては、車体の傾斜運動に関する力学モデルに基づき、重力、粘性摩擦力、慣性力等を考慮しているが、その一部を省略してもよい。また、乾性摩擦等の他の要素を考慮して、より厳密に外的傾斜角及び車体傾斜ロール角を推定してもよい。さらに、旋回走行運動に関する力学モデルに基づいて推定してもよい。
さらに、本実施の形態においては、線形化した関数によって外的傾斜角を推定しているが、より厳密な非線形の関数によって推定してもよい。また、非線形の関数をマップとして具備し、それを用いて決定してもよい。
さらに、本実施の形態においては、1次のローパスフィルタによって外乱による影響を除いているが、より高次のフィルタを用いてもよい。
さらに、本実施の形態においては、外的傾斜角を推定によって取得しているが、計測によって取得してもよい。例えば、路面形状を計測する路面センサを備え、その計測値から路面勾配を決定してもよい。また、駆動輪12のタイヤの内圧を計測する内圧センサを備え、各駆動輪12のタイヤの内圧の計測値及び推定される接地荷重に基づいて、タイヤの変形量及びそれに起因する外的傾斜角の大きさを決定してもよい。
さらに、本実施の形態においては、リンク回転角から推定された車体傾斜ロール角の推定値をフィードバック制御しているが、リンク回転角自体をフィードバック制御してもよい。このとき、リンク傾斜角の目標値を推定した外的傾斜角によって補正することで、実質的に本実施の形態における制御と同様の効果を得ることができる。
さらに、本実施の形態においては、常時、リンク回転角の計測値に基づく車体傾斜ロール角の推定を実行しているが、車体傾斜ロール角を計測するセンサの故障等によって、車体傾斜ロール角の取得が不可能になった時にのみ車体傾斜ロール角の推定を実行してもよい。
続いて、主制御ECU21は、操縦者の操縦操作量を取得する(ステップS14)。なお、以降の動作、すなわち、ステップS14〜S21の動作は、前記第1の実施の形態における図3に示されるステップS3〜S10の動作と同様であるので、説明を省略する。
このように、本実施の形態においては、車体傾斜ロール角の計測値を用いずに、車体傾斜ロール角を推定するので、車体傾斜センサ41を用いなくても、旋回走行状態と車体傾斜状態を適切に制御することができ、操縦性や快適性が高く、かつ、安価な車両10を提供することができる。
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。なお、第1及び第2の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1及び第2の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図7は本発明の第3の実施の形態における車両の姿勢変化を示す概略図である。なお、図7において、(a)は正常時を示し、(b)は異常時を示す。
ところで、前記第1及び第2の実施の形態おける車両10では、左右の駆動輪12に各々駆動トルクを付与する手段の一方が故障して、一方の駆動輪12に駆動トルクを付与することができなくなると、旋回走行状態を制御できなくなる可能性がある。
操舵(だ)輪を具備しない同軸2輪タイプの車両10では、左右の駆動輪12に等しい駆動トルクを付与して前後に加減速すると同時に、左右の駆動輪12に駆動トルク差を付与して旋回走行状態を制御する。そのため、故障等により、片方の駆動輪12に駆動トルクを付与できなくなると、前後加減速状態及び旋回走行状態を同時に制御することができない。この結果、車両10を緊急停止させる必要がある。
また、倒立型の車両10においては、駆動トルクを車体の姿勢制御にも用いているため、車両10の緊急停止と同時に車体の姿勢制御も停止する必要がある。この結果、緊急時に使用可能な環境が制限されるとともに、姿勢制御緊急停止時の対応策を必要とする。したがって、安全に利用できるモビリティとして、使い勝手が悪い。
そこで、本実施の形態においては、一方の駆動輪12への駆動トルクの付与が不可能であるときに、車両重心位置移動手段によって車両10の重心位置を他方の駆動輪12の方向へ移動させる。これにより、例えば、駆動モータ52が故障したときのように、片方の駆動輪12への駆動トルクの付与が不可能になったときでも、旋回走行状態を制御でき、安全な場所まで容易に走行させることができる。
なお、本実施の形態において、制御ECU20は、機能の観点から、車体の前後傾斜状態と左右の駆動輪12の左右平均回転角速度とに応じた駆動トルクを正常な駆動輪12に付与することを決定する駆動トルク決定手段を備える。さらに、リンク機構60は車両重心位置を左右に移動させる車両重心位置移動手段として機能する。
前記制御ECU20によって姿勢制御が行われることで、通常の状態での直進走行時には、図7(a)に示されるように、車体が直立状態を維持し、乗員15も含む車両10の重心17を通る鉛直線が左右の駆動輪12の接地点間を通過し、かつ、矢印で示されるように、左右の駆動輪12に接地荷重が均等にかかる。しかし、故障によっていずれか一方の駆動輪12、すなわち、第1駆動輪121への駆動トルクの付与が不可能になった場合には、図7(b)に示されるように、リンク機構60によって車体を正常な他方の駆動輪12、すなわち、第2駆動輪122の側に傾け、重心17を通る鉛直線が第2駆動輪122の接地点を通過し、第2駆動輪122に接地荷重が集中する。
次に、前記構成の車両10の動作について詳細に説明する。まず、車両制御処理の概要について説明する。
図8は本発明の第3の実施の形態における車両制御処理の動作を示すフローチャートである。
車両制御処理において、制御ECU20は、まず、異常判定を行い、片輪が異常であるか否かを判定する(ステップS31)。この場合、駆動モータ52の一方が駆動トルク発生不可能であるか否かを判定する。具体的には、駆動輪制御ECU22がモータ診断手段を備え、所定の駆動モータ52が駆動トルクを発生不能、すなわち、異常と診断した場合に所定の信号を主制御ECU21に送信する。すると、該主制御ECU21は、その信号を受信した場合に、所定の駆動モータ52が駆動トルク発生不可能である、すなわち、異常と判定する。
そして、片輪が異常でない、すなわち、いずれの駆動モータ52も駆動トルクを発生可能であると判定すると、制御ECU20は、通常走行・姿勢制御処理を実行し(ステップS32)、図7(a)に示されるような直立状態を基準の姿勢として車体姿勢と走行状態を制御し、乗員15からの走行指令を実現して車両制御処理を終了する。なお、該車両制御処理は、所定の時間間隔(例えば、100〔μs〕毎)で繰り返し実行される。
一方、片輪が異常であるか否かを判定して異常である場合、制御ECU20は、非常走行・姿勢制御処理を実行し(ステップS33)、図7(b)に示されるような車体を傾けた状態を基準の姿勢として車体姿勢と走行状態を制御し、乗員15からの走行指令を実現して車両制御処理を終了する。
次に、通常走行・姿勢制御処理について説明する。
図9は本発明の第3の実施の形態における通常走行・姿勢制御処理の動作を示すフローチャートである。
通常走行・姿勢制御処理において、主制御ECU21は、まず、センサから各状態量を取得する(ステップS32−1)。具体的には、駆動輪センサ51から駆動輪回転角又は回転角速度を取得し、車体傾斜センサ41から車体傾斜ピッチ角又はピッチ角速度及び車体傾斜ロール角又はロール角速度を取得する。
続いて、主制御ECU21は、残りの状態量を算出する(ステップS32−2)。この場合、取得した状態量を時間微分又は時間積分することによって、残りの状態量を算出する。例えば、取得した状態量が駆動輪回転角、車体傾斜ピッチ角及び車体傾斜ロール角である場合には、これらを時間微分することによって、回転角速度、ピッチ角速度及びロール角速度を得ることができる。また、例えば、取得した状態量が回転角速度、ピッチ角速度及びロール角速度である場合には、これらを時間積分することによって、駆動輪回転角、車体傾斜ピッチ角及び車体傾斜ロール角を得ることができる。
続いて、主制御ECU21は、操縦者の操縦操作量を取得する(ステップS32−3)。この場合、操縦者が、車両10の加速、減速、旋回、その場回転、停止、制動等の走行指令を入力するために操作したジョイスティック31の操作量を取得する。
続いて、主制御ECU21は、車両加速度の目標値を決定する(ステップS32−4)。この場合、取得したジョイスティック31の操作量に基づいて、車両加速度の目標値、例えば、前後及び左右の操作量に比例した値を前後加速度及び左右加速度の目標値とする。なお、ジョイスティック31の操作量は、前後については、前方への操作を正の値、後方への操作を負の値で表し、左右については、車両10の後方から見て左方への操作を正の値、右方への操作を負の値で表すものとする。
続いて、主制御ECU21は、車両加速度の目標値から、駆動輪回転角速度の目標値を算出する(ステップS32−5)。具体的には、下記の式によって平均駆動輪回転角速度の目標値を決定する。
ここで、Δtは制御処理周期(データ取得間隔)であり、所定値である。なお、本実施の形態における説明において、上付き添字*は目標値であることを表し、上付き添字(n)は時系列のn番目のデータであることを表し、記号上の1ドットは1階時間微分した値、すなわち、速度であることを表し、記号上の2ドットは2階時間微分した値、すなわち、加速度であることを表すものとする。下付き添字Xは前後(x軸方向)であることを表し、下付き添字Yは左右(y軸方向)であることを表し、下付き添字dは操縦指令値であることを表すものとする。
また、下記の式によって駆動輪回転角速度左右差の目標値を決定する。
このように、走行状態目標値に相当する駆動輪回転角速度の目標値を決定する。つまり、車両前後加速度目標値を時間積分することによって、左右駆動輪の回転角速度の平均値の目標である平均駆動輪回転角速度目標値を決定する。また、車両左右加速度目標値と平均駆動輪回転角速度目標値から左右駆動輪の回転角速度の差の目標である駆動輪回転角速度左右差目標値を決定する。
なお、本実施の形態においては、操縦装置であるジョイスティック31の操作量を前後及び左右の加速度と対応させているが、車両速度やヨーレート等に対応させてもよい。また、その車両速度やヨーレート自体を状態量として、フィードバック制御を実行してもよい。
また、本実施の形態においては、駆動輪接地点と路面との間に滑りが存在しないという仮定の下で、車両速度やヨーレートを駆動輪12の回転角速度に換算しているが、滑りを考慮して駆動輪回転角速度の目標値を決定してもよい。
続いて、主制御ECU21は、車体傾斜角の目標値を決定する(ステップS32−6)。具体的には、車両加速度の目標値と車体パラメータとから、下記の式によって車体傾斜ピッチ角の目標値を決定する。
また、下記の式によって車体傾斜ロール角の目標値を決定する。
このように、車両加速度の目標値に応じて車体傾斜角の目標値を決定する。つまり、車体傾斜ピッチ角については、前後の車体姿勢と走行状態に関する倒立振り子の力学的構造を考慮して、前後加速度で与えられる走行目標を達成できる車体姿勢を目標値として与える。また、車体傾斜ロール角については、接地荷重中心が2つの駆動輪12の接地点間である安定領域に存在する範囲で、自由に目標姿勢を設定できるが、本実施の形態では乗員15の負荷が最も少ない姿勢を目標値として与える。
なお、車体傾斜ロール角の目標値として他の値を与えてもよい。例えば、目標左右加速度の絶対値が所定の閾値よりも小さい場合には目標車体傾斜ロール角を零として、小さな左右加速度に対しては直立姿勢を維持させてもよい。
続いて、主制御ECU21は、残りの目標値を算出する(ステップS32−7)。すなわち、各目標値を時間微分又は時間積分することによって、駆動輪回転角及び車体傾斜角速度の目標値をそれぞれ算出する。
続いて、主制御ECU21は、各目標値から各アクチュエータのフィードフォワード出力を決定する(ステップS32−8)。具体的には、下記の式によってフィードフォワード出力として、総駆動トルクのフィードフォワード量τW,FF、駆動トルク左右差のフィードフォワード量ΔτW,FF及びリンクトルクのフィードフォワード量τL,FFを決定する。
このように、目標とする走行状態や車体姿勢を実現するのに必要なアクチュエータ出力を力学モデルより予測し、その分をフィードフォワード的に付加することで、車両10の走行及び姿勢制御を高精度に実行する。つまり、前後方向の走行目標を達成できるように、総駆動トルクのフィードフォワード量を決定する。具体的には、車両前後加速度に応じて発生する慣性力と、車両速度に相当する平均駆動輪回転角速度に応じて発生する走行抵抗を予測し、それを打ち消すような総駆動トルクを与えることで、目標とする前後走行状態を実現する。
また、左右車体傾斜の目標を実現できるように、リンクトルクのフィードフォワード量を決定する。具体的には、車体傾斜ロール角に応じて発生する重力のトルクと、車両左右加速度に応じて発生する遠心力のトルクを予測し、それを打ち消すようなリンクトルクを与えることで、目標とする左右車体傾斜状態を実現する。
なお、本実施の形態においては、力学モデルにおける主な要素をすべて考慮して、必要な出力をフィードフォワード量として与えているが、これらの要素の中で影響が小さいものを無視し、より簡素なモデルによってフィードフォワード量を決定してもよい。また、本実施の形態では考慮していない要素をあらたに考慮してもよい。例えば、駆動輪12の転がり抵抗やリンク機構60での乾性摩擦等を考慮してもよい。
さらに、本実施の形態においては、走行状態や車体姿勢の目標値に応じて必要な出力をフィードフォワード量として与えているが、計測値に基づく準フィードバック量として与えてもよい。これにより、目標値と実値に大きな隔たりがある場合でも、適切に制御を行うことができる。
続いて、主制御ECU21は、各目標値と状態量との偏差から各アクチュエータのフィードバック出力を決定する(ステップS32−9)。具体的には、下記の式によってフィードバック出力として、総駆動トルクのフィードバック量τW,FB、駆動トルク左右差のフィードバック量ΔτW,FB及びリンクトルクのフィードバック量τL,FBを決定する。
なお、各フィードバックゲインK**の値は、例えば、極配置法等により決定される値をあらかじめ設定しておく。また、スライディングモード制御等の非線形のフィードバック制御を導入してもよい。さらに、より簡単な制御として、KW2、KW3、Kd2及びKL3を除くゲインのいくつかを零にしてもよい。さらに、定常偏差をなくすために、積分ゲインを導入してもよい。
このように、状態フィードバック制御により、実際の状態を目標とする状態に近付けるようにフィードバック出力を与える。具体的には、前後走行状態に相当する平均駆動輪回転状態と、車体の倒立状態に相当する車体傾斜ピッチ角について、計測値と目標値の差に比例する総駆動トルクを与えることで、車両10の前後走行状態と車体の倒立姿勢を目標とする状態で安定に維持する。
また、旋回走行状態に相当する駆動輪回転状態左右差について、計測値と目標値の差に比例する駆動トルク左右差を与えることで、車両10の旋回走行状態を目標とする状態で安定に維持する。
さらに、左右傾斜状態に相当する車体傾斜ロール角について、計測値と目標値の差に比例するリンクトルクを与えることで、車体の左右傾斜状態を目標とする状態で安定に維持する。
さらに、旋回走行状態に相当する状態量として、駆動輪回転角速度左右差を用いる。このように、駆動輪12の回転状態を制御することで、駆動輪12がロックや空転の状態に至る可能性を低減できる。
最後に、主制御ECU21は、各要素制御システムに指令値を与えて(ステップS32−10)、通常走行・姿勢制御処理を終了する。主制御ECU21は、駆動輪制御ECU22及びリンク制御ECU23に、下記の式によって決定される指令値として、右駆動トルク指令値τWR、左駆動トルク指令値τWL、総駆動トルク指令値τW 、駆動トルク左右差指令値ΔτW 及びリンクトルク指令値τL を与える。
なお、ξは接地荷重移動率である。
このように、各フィードフォワード出力と各フィードバック出力の和を指令値として与える。また、総駆動トルクと駆動トルク左右差が要求する値になるように、右駆動トルクと左駆動トルクの指令値を与える。
次に、非常走行・姿勢制御処理について説明する。
図10は本発明の第3の実施の形態における非常走行・姿勢制御処理の動作を示すフローチャートである。
非常走行・姿勢制御処理において、主制御ECU21は、まず、センサから各状態量を取得する(ステップS33−1)。具体的には、駆動輪センサ51から駆動輪回転角又は回転角速度を取得し、車体傾斜センサ41から車体傾斜ピッチ角又はピッチ角速度及び車体傾斜ロール角又はロール角速度を取得する。
続いて、主制御ECU21は、残りの状態量を算出する(ステップS33−2)。この場合、取得した状態量を時間微分又は時間積分することによって、残りの状態量を算出する。
続いて、主制御ECU21は、操縦者の操縦操作量を取得する(ステップS33−3)。この場合、操縦者が、車両10の加速、減速、旋回、その場回転、停止、制動等の走行指令を入力するために操作したジョイスティック31の操作量を取得する。
続いて、主制御ECU21は、車両加速度の目標値を決定する(ステップS33−4)。この場合、取得したジョイスティック31の操作量に基づいて、車両加速度の目標値、例えば、前後及び左右の操作量に比例した値を前後加速度及び左右加速度の目標値とする。
続いて、主制御ECU21は、車両加速度の目標値から、駆動輪回転角速度の目標値を算出する(ステップS33−5)。具体的には、下記の式によって平均駆動輪回転角速度の目標値を決定する。
また、下記の式によって駆動輪回転角速度左右差の目標値を決定する。
続いて、主制御ECU21は、車体傾斜角の目標値を決定する(ステップS33−6)。具体的には、車両加速度の目標値と車体パラメータとから、下記の式によって車体傾斜ピッチ角の目標値を決定する。
また、下記の式によって車体傾斜ロール角の目標値を決定する。
なお、式中の正負の符号は、左側の駆動輪12が異常であるときには正、右側の駆動輪12が異常であるときには負であるものとする。
このように、第2駆動輪122、すなわち、駆動モータ52が正常な駆動輪12の方へ車体を傾斜させるように、車体傾斜ロール角目標値を決定する。つまり、図7(b)に示されるように、接地荷重が第2駆動輪122に集中するように、車体を正常な駆動輪12側に傾斜させる。この場合、直進走行時において、駆動モータ52が正常な駆動輪12の接地点を通る鉛直線上に車両10の重心17が位置する状態に車体が傾斜するような車体傾斜ロール角目標値を決定する。このように、駆動力の作用点と車両重心位置とのずれに起因して発生するヨーモーメントを減少させることで、一方の駆動モータ52が異常である場合でも、適切に車両10の旋回走行状態を制御できる。
また、車両左右加速度目標値に応じて、車体傾斜ロール角目標値を補正する。具体的には、旋回走行時において、車両左右加速度に伴う遠心力と重力との合力ベクトルに平行で車両10の重心17を通る直線が正常な駆動輪12の接地点を通過するような車体傾斜ロール角目標値を決定する。このように、車体傾斜角の補正によって、遠心力による接地荷重中心位置のずれを補償することができ、片輪、すなわち、第2駆動輪122による旋回走行時においても、旋回走行状態と車体姿勢を安定に保つことができる。
続いて、主制御ECU21は、残りの目標値を算出する(ステップS33−7)。すなわち、各目標値を時間微分又は時間積分することによって、駆動輪回転角及び車体傾斜角速度の目標値をそれぞれ算出する。
続いて、主制御ECU21は、各目標値から各アクチュエータのフィードフォワード出力を決定する(ステップS33−8)。具体的には、下記の式によってフィードフォワード出力として、総駆動トルクのフィードフォワード量τW,FF及びリンクトルクのフィードフォワード量τL,FFを決定する。
続いて、主制御ECU21は、各目標値と状態量との偏差から各アクチュエータのフィードバック出力を決定する(ステップS33−9)。具体的には、下記の式によってフィードバック出力として、総駆動トルクのフィードバック量τW,FB及びリンクトルクのフィードバック量τL,FBを決定する。
このように、状態フィードバック制御により、実際の状態を目標とする状態に近付けるようにフィードバック出力を与える。具体的には、左右傾斜状態に相当する車体傾斜ロール角と、旋回走行状態に相当する駆動輪回転状態左右差について、計測値と目標値の差に比例するリンクトルクを与えることで、車体の左右傾斜状態と車両10の旋回走行状態を目標とする状態に制御する。このように、車両10の旋回走行状態をフィードバック状態量に加え、旋回走行状態と車体傾斜姿勢を同時に制御することで、車体の傾斜姿勢を維持しつつ、所望の旋回走行状態を実現できる。
また、正常時と異常時では、異なるフィードバックゲインの値を用いる。これにより、考慮する状態量が増加しても、適切な制御を実行することができる。
なお、各フィードバックゲインK**の値は、例えば、極配置法等により決定される値をあらかじめ設定しておく。また、スライディングモード制御等の非線形のフィードバック制御を導入してもよい。さらに、より簡単な制御として、KW2、KW3、KL2及びKL3を除くゲインのいくつかを零にしてもよい。さらに、定常偏差をなくすために、積分ゲインを導入してもよい。
最後に、主制御ECU21は、各要素制御システムに指令値を与えて(ステップS33−10)、非常走行・姿勢制御処理を終了する。主制御ECU21は、駆動輪制御ECU22及びリンク制御ECU23に、下記の式によって決定される指令値として、右駆動トルク指令値τWR、左駆動トルク指令値τWL、総駆動トルク指令値τW 及びリンクトルク指令値τL を与える。
このように、正常な駆動輪12が総駆動トルクのすべてを担うように、駆動トルク指令値を決定する。すなわち、両輪正常時の駆動トルクに対して、2倍の駆動トルクを正常な駆動モータ52側の駆動輪12に付与する。これにより、車両10の前後加減速や車体の倒立姿勢についても、正常時と全く同様に、安定に制御することができる。
このように、本実施の形態においては、第1駆動輪121への駆動トルク付与が不可能であるときに、リンク機構60により、車両10の重心位置を第2駆動輪122の方向へ移動させる。具体的には、第2駆動輪122の接地点を通る鉛直線上に重心17が位置するように、車両10の重心位置を移動させる。
また、車両左右加速度に応じて、車両10の重心位置を補正する。具体的には、車両左右加速度に伴う遠心力と重力との合力ベクトルに平行で重心17を通る直線が第2駆動輪122の接地点を通過するように車両10の重心位置を制御する。
さらに、車体傾斜センサ41によって取得した旋回走行状態の計測値と、ジョイスティック31の入力によって決定される旋回走行状態の目標値との差に応じた力又はトルクをリンクモータ61に付与して車両10の重心位置を移動させる。具体的には、計測値と目標値の差に所定の係数を乗じた値の力又はトルクをリンクモータ61に付与する。なお、旋回走行状態は、第1駆動輪121と第2駆動輪122の回転角速度の差である。
さらに、車体の前後傾斜状態と駆動輪12の左右平均回転角速度に応じた前後駆動トルクを第2駆動輪122に付与する。そして、第1駆動輪121への前後駆動トルクの付与が不可能であるときに、第2駆動輪122に付与する駆動トルクを2倍にする。
さらに、車体を左右に傾斜させることで、車両10の重心位置を移動させる。
これにより、例えば、駆動モータ52が故障したときのように、片方の駆動輪12への駆動トルクの付与が不可能になったときでも、走行状態を制御でき、安全な場所まで容易に走行させることができる。
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。なお、第1〜第3の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1〜第3の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図11は本発明の第4の実施の形態における車両システムの構成を示すブロック図である。
前記第3の実施の形態においては、片輪の駆動モータ52に異常が発生した場合、常に車体を大きく傾ける必要があるが、必要な場合にのみ、車体を傾ける方が望ましい。
そこで、本実施の形態においては、前後加速度が零及び/又は負である場合には、車両10の重心位置を第2駆動輪122の方向へ移動させる制御を禁止する。そのために、第1駆動輪121に作用する制動トルクに応じて、車両前後加速度目標値を決定する。この場合、ジョイスティック31によって入力される車両前後加速度の目標値を複数の所定値に限定する。また、第1駆動輪121に作用する制動トルクと等しいトルクを第2駆動輪122に付与する。さらに、旋回走行状態の計測値と目標値の差に応じた駆動トルクを第2駆動輪122に付与する。さらに、各駆動輪12は、制動トルクを付与する制動手段を備える。
本実施の形態における車両システムは、図11に示されるように、制動手段としての駆動輪ブレーキ53を有する。該駆動輪ブレーキ53は、駆動モータ52と同様に、左右の駆動輪12の各々に配設され、主制御ECU21から供給される作動電圧に従って各駆動輪12を個別に制動する。また、前記駆動輪ブレーキ53は、電力遮断時に解除されるもの、例えば、励磁作動型の電磁ブレーキである。
なお、本実施の形態においては、主制御ECU21から駆動輪ブレーキ53に作動電圧を直接入力しているが、主制御ECU21が駆動輪制御ECU22にブレーキ動作信号を送信し、駆動輪制御ECU22が同信号の受信に応じて、駆動輪ブレーキ53に作動電圧を与えるようにしてもよい。
また、制御ECU20は、機能の観点から、駆動輪12に作用する制動トルクを推定する制動トルク推定手段を更に備える。
その他の点の構成については、前記第3の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
次に、本実施の形態における車両10の動作について詳細に説明する。なお、車両制御処理の概要、及び、通常走行・姿勢制御処理については、前記第1の実施の形態と同様であるので説明を省略し、非常走行・姿勢制御処理について説明する。
図12は本発明の第4の実施の形態における非常走行・姿勢制御処理の動作を示すフローチャートである。
なお、本実施の形態において、センサから各状態量を取得してから操縦者の操縦操作量を取得するまでの動作、すなわち、ステップS33−11〜S33−13の動作は、前記第3の実施の形態における図10に示されるステップS33−1〜S33−3の動作と同様であるので、説明を省略する。
そして、主制御ECU21は、車両加速度の目標値を補正する(ステップS33−14)。この場合、取得したジョイスティック31の操作量に基づいて決定した車両前後加速度の目標値を下記の式によって補正する。
なお、τW,D0は、駆動輪ブレーキ53による制動トルク(所定値)である。
このように、加速走行時を除いて、車両前後加速度目標値を補正する。具体的には、車両前後加速度目標値が零以下である場合に限り、目標値を目標限定値に変更する。このように、加速に必要な駆動トルクを付与できない加速時には、車体を大きく傾けることで旋回走行状態を制御し、それ以外の場合には、異常な駆動モータ52側の駆動輪12に作用する制動トルクに適応することで、車体を大きく傾けることなく走行状態を制御できる。
また、車両10の前後走行運動に関する力学モデルに基づく推定により、車両前後加速度目標限定値を決定する。この場合、異常側の駆動輪12に作用するブレーキトルクを考慮し、同量の制動トルクを正常側の駆動輪12に付与した場合における車両減速度を推定し、その値を限定値とする。加えて、走行抵抗による減速度を考慮し、限定値を補正する。このように、一方の駆動輪12への駆動トルク付与が不可能になった車両10において、両方の駆動輪12に作用するトルクを等しくすることが可能な状況に限り、その状況下で予測される車両減速度を限定値とすることで、車体を大きく傾けることなく旋回走行状態を制御できるような車両前後加速度目標値を適切に設定することができる。
さらに、車両前後加速度目標値が負である場合、その目標値を所定値に限定する。すなわち、駆動輪ブレーキ53を作動させたときの所定の制動トルク値を、ブレーキトルクの値とする。このように、定量的なトルク制御が比較的困難なブレーキトルクを所定値とすることで、より高い精度での車両前後加速度目標値の設定、及び、より安定な旋回走行状態の制御が可能となる。
なお、本実施の形態においては、駆動輪ブレーキ53による制動トルクを所定値としているが、制動トルクの定量的な調整が可能である駆動輪ブレーキを用いる場合には、車両減速度の目標値に応じた値を制動トルクとしてもよい。また、駆動輪ブレーキを作動させる強弱の程度に応じた複数の離散的な代表値を制動トルクとしてもよい。これにより、操縦者が減速状態を調整することが可能になり、非常時の操縦性が更に向上する。
続いて、主制御ECU21は、車両加速度の目標値から、駆動輪回転角速度の目標値を算出する(ステップS33−15)。具体的には、下記の式によって平均駆動輪回転角速度の目標値を決定する。
また、下記の式によって駆動輪回転角速度左右差の目標値を決定する。
続いて、主制御ECU21は、車体傾斜角の目標値を決定する(ステップS33−16)。具体的には、車両加速度の目標値と車体パラメータとから、下記の式によって車体傾斜ピッチ角の目標値を決定する。
また、下記の式によって車体傾斜ロール角の目標値を決定する。
なお、式中の正負の符号は、左側の駆動輪12が異常であるときには正、右側の駆動輪12が異常であるときには負であるものとする。
このように、車両10の加速時に限って、正常な駆動輪12側へ大きく傾斜するような車体傾斜ロール角目標値を与える。具体的には、操縦操作量に基づく車両前後加速度目標値が正である場合、接地荷重が正常な駆動輪12に集中するように、車体を正常な駆動輪12側に傾斜させる。また、操縦操作量に基づく車両前後加速度目標値が零又は負である場合、正常時と同様に、直立姿勢を基準とする車体傾斜ロール角目標値を与える。このように、緊急時の退避走行において最も使用頻度が低いと想定される加速動作時を除いて、正常時と同様な車体姿勢を維持することで、退避走行時の乗り心地や操縦性が大幅に向上する。
続いて、主制御ECU21は、残りの目標値を算出する(ステップS33−17)。すなわち、各目標値を時間微分又は時間積分することによって、駆動輪回転角及び車体傾斜角速度の目標値をそれぞれ算出する。
続いて、主制御ECU21は、各目標値から各アクチュエータのフィードフォワード出力を決定する(ステップS33−18)。具体的には、下記の式によってフィードフォワード出力として、総駆動トルクのフィードフォワード量τW,FF及びリンクトルクのフィードフォワード量τL,FFを決定する。
なお、車両10の加速時を除き、総駆動トルクのフィードフォワード量τW,FFは、実質的に次式で表される。
したがって、車両10の加速時を除いて、上記の式によって総駆動トルクのフィードフォワード量τW,FFを与えてもよい。
続いて、主制御ECU21は、各目標値と状態量との偏差から各アクチュエータのフィードバック出力を決定する(ステップS33−19)。具体的には、下記の式によってフィードバック出力として、総駆動トルクのフィードバック量τW,FB、駆動トルク左右差のフィードバック量ΔτW,FB及びリンクトルクのフィードバック量τL,FBを決定する。
なお、各フィードバックゲインK**の値は、例えば、極配置法等により決定される値をあらかじめ設定しておく。また、スライディングモード制御等の非線形のフィードバック制御を導入してもよい。さらに、より簡単な制御として、KW2、KW3、Kd2及びKL3を除くゲインのいくつかを零にしてもよい。さらに、定常偏差をなくすために、積分ゲインを導入してもよい。
このように、加速走行時とそれ以外の時で、旋回走行状態のフィードバック制御を切り替える。具体的には、操縦操作量に基づく車両前後加速度目標値が正である場合、旋回走行状態としての駆動輪回転角速度左右差のフィードバック制御をリンクトルク、すなわち、車体重心位置の左右移動に伴うヨーモーメントによって実行する。また、操縦操作量に基づく車両前後加速度目標値が零又は負である場合、旋回走行状態としての駆動輪回転角速度左右差のフィードバック制御を駆動トルク左右差、すなわち、正常な駆動輪12の駆動トルクによって実行する。このように、旋回走行制御の影響を前後走行状態と車体左右傾斜状態のどちらが被るかを切り替えることで、車両10の状況に応じた適切な制御を実行できる。
最後に、主制御ECU21は、各要素制御システムに指令値を与えて(ステップS33−20)、非常走行・姿勢制御処理を終了する。主制御ECU21は、駆動輪制御ECU22及びリンク制御ECU23に、下記の式によって決定される指令値として、右駆動トルク指令値τWR、左駆動トルク指令値τWL及びリンクトルク指令値τL を与える。
このように、異常な駆動輪12の制動トルクを考慮して、要求される総駆動トルク指令値と駆動トルク左右差指令値を左右両輪で満足するように正常な駆動輪12に付与する駆動トルクを決定する。具体的には、操縦操作量に基づく車両前後加速度目標値が正である場合、すなわち、車両10の加速時においては、異常な駆動輪12への駆動トルク付与が不可能であるため、要求される駆動トルクのすべてを正常な駆動輪12が請け負う。また、操縦操作量に基づく車両前後加速度目標値が零又は負である場合、すなわち、車両10の定速走行時、静止時又は制動時においては、異常な駆動輪12に作用する制動トルクを利用して、残りの必要な駆動トルクを正常な駆動輪12が請け負う。このように、前後走行に関する駆動トルクを実質的に両輪に等分配して、駆動トルクによる過度なヨーモーメントの発生を防ぐことで、車両10の重心17を大きく移動させることなく、旋回走行状態を制御できる。
このように、本実施の形態においては、前後加速度が零及び/又は負である場合には、車両10の重心位置を第2駆動輪122の方向へ移動させる制御を禁止することにより、定速走行時及び減速時に限り、車体を大きく傾けることなく、旋回走行状態を適切に制御できる。例えば、走行中に駆動モータ52の故障により、近辺の安全な場所への退避が必要となった場合、一度も車体を大きく傾けることなく、車両10を退避させて停止させることができる可能性がある。したがって、操縦性や快適性が高く、かつ、安価な車両10を提供することができる。
次に、本発明の第5の実施の形態について説明する。なお、第1〜第4の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1〜第4の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図13は本発明の第5の実施の形態における車両の姿勢変化を示す概略図である。なお、図13において、(a)は正常時を示し、(b)は異常時を示す。
本実施の形態において、車両10は、車両重心位置を左右に移動させる車両重心位置移動手段としての能動重量部である乗員15を含む搭乗部14を左右方向に相対平行移動させる能動重量部スライド手段を備える。具体的には、本体部11には、能動重量部として機能する搭乗部14が、車両10の左右方向に本体部11に対して相対的にスライド可能となるように取り付けられている。
そして、通常の状態での直進走行時には、図13(a)に示されるように、車体が直立状態を維持し、乗員15も含む車両10の重心17を通る鉛直線が左右の駆動輪12の接地点間を通過し、かつ、矢印で示されるように、左右の駆動輪12に接地荷重が均等にかかる。しかし、故障によっていずれか一方の駆動輪12、すなわち、第1駆動輪121への駆動トルクの付与が不可能になった場合には、図13(b)に示されるように、能動重量部としての搭乗部14を正常な駆動輪12、すなわち、第2駆動輪122の側に移動させ、重心17を通る鉛直線が第2駆動輪122の接地点を通過し、かつ、第2駆動輪122に接地荷重が集中するようにする。
これにより、車体を大きく傾けることなく、片輪故障時の旋回走行状態と車体傾斜姿勢の制御を実行できる。
なお、その他の点の構成及び動作については、前記第3及び第4の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
次に、本発明の第6の実施の形態について説明する。なお、第1〜第5の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1〜第5の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図14は本発明の第6の実施の形態における車両の傾斜状態を示す図、図15は本発明の第6の実施の形態における車両システムの構成を示すブロック図である。
本実施の形態においては、車両10が3輪以上の車輪を有するものである場合について説明する。つまり、前記車両10は、例えば、前輪が1輪であり後輪が2輪である3輪車、前輪が2輪であり後輪が1輪である3輪車、前輪及び後輪が2輪である4輪車等であるが、3輪以上の車輪を有するものであれば、いかなる種類のものであってもよい。
ここでは、説明の都合上、前記車両10が、車体の前方に配設され、操舵輪として機能する1つの前輪と、車体の後方に配設され、駆動輪12として機能する左右2つの後輪とを有する3輪車であるものとして説明する。この場合、車両10は、前記第1〜第5の実施の形態と同様に、リンク機構60によって左右の後輪のキャンバー角を変化させるとともに、搭乗部14及び本体部11を含む車体を旋回内輪側へ傾斜させることによって、旋回性能の向上と乗員15の快適性の確保とを図ることができるようになっている。すなわち、前記車両10は車体を横方向(左右方向)にも傾斜させることができる。なお、倒立振り子の姿勢制御のような姿勢制御は行わないものとする。すなわち、車体の前後方向の姿勢制御は行わないものとする。
また、本実施の形態における車両10の入力装置30は、図に示されるように、ジョイスティック31を備えておらず、その代わりに、操舵角センサ32、スロットルグリップ34及びブレーキレバー35を操縦装置として備える。
前記車両10は操舵装置としてのハンドル33を有する。該ハンドル33は、一般的なオートバイ、自転車等において使用されている棒状の部材である。そして、乗員15がハンドル33を操作すると、それに応じて操舵輪としての前輪は舵角を変化させ、これにより、車両10の進行方向が変化する。また、操舵量検出器としての操舵角センサ32は、操舵装置の操舵量としての前記舵角を検出して主制御ECU21に送信する。
また、前記スロットルグリップ34は、一般的なオートバイ等において使用されているスロットルグリップと同様の部材であり、棒状のハンドル33の一端に回転可能に取り付けられ、その回転角度、すなわち、スロットル開度に応じて、車両10を加速するような走行指令を入力する装置である。
さらに、前記ブレーキレバー35は、一般的なオートバイ、自転車等において使用されているブレーキレバーと同様の部材であり、棒状のハンドル33の一端に揺動可能に取り付けられ、その操作量、すなわち、ブレーキ操作量に応じて、車両10を減速するような走行指令を入力する装置である。
そして、前記制御ECU20によって姿勢制御が行われることで、車両10は、旋回走行時には、図14に示されるように、車体を旋回円内側に傾けた状態で旋回する。
なお、その他の点の構成については、前記第1の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
次に、本実施の形態における車両10の動作について詳細に説明する。ここでは、走行及び姿勢制御処理について説明する。
走行及び姿勢制御処理において、主制御ECU21は、まず、センサから各状態量を取得する。本実施の形態においては、ホイールベースL〔m〕を取得する。なお、車体重心距離、及び、車体傾斜ピッチ角又はピッチ角速度は、不要なので取得しない。
続いて、主制御ECU21は、残りの状態量を算出するが、ピッチ角速度又は車体傾斜ピッチ角は、不要なので算出しない。
なお、次に行われる操縦者の操縦操作量を取得する動作、及び、車両加速度の目標値を決定する動作については、前記第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
続いて、主制御ECU21は、車両加速度の目標値から、駆動輪回転角速度の目標値を算出する。ここで、平均駆動輪回転角速度の目標値を決定する動作については、前記第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
また、本実施の形態において、主制御ECU21は、駆動輪回転角速度左右差の目標値を下記の式によって決定する。
このように、本実施の形態においては、操舵角と平均駆動輪回転角速度目標値から左右の駆動輪12の回転角速度の差の目標である駆動輪回転角速度左右差目標値を決定する。
続いて、主制御ECU21は、車体傾斜角の目標値を決定する。なお、本実施の形態においては前後方向の姿勢制御は行わないので、主制御ECU21は、車体傾斜角の目標値を決定する際に、車体傾斜ピッチ角の目標値は算出せずに、車体傾斜ロール角の目標値のみを決定する。
車体傾斜ロール角については、接地荷重中心が2つの駆動輪12の接地点間である安定領域に存在する範囲で、自由に目標姿勢を設定できるが、本実施の形態では乗員15の負荷が最も少ない姿勢を目標値として与える。
なお、次に行われる残りの目標値を算出する動作、及び、各目標値から各アクチュエータのフィードフォワード出力を決定する動作については、前記第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
続いて、主制御ECU21は、各目標値と状態量との偏差から各アクチュエータのフィードバック出力を決定する。具体的には、下記の式によってフィードバック出力として、総駆動トルクのフィードバック量τW,FB、駆動トルク左右差のフィードバック量ΔτW,FB及びリンクトルクのフィードバック量τL,FBを決定する。
このように、状態フィードバック制御により、旋回走行状態に相当する駆動輪回転状態左右差と、車体の左右傾斜に相当する車体傾斜ロール角について、計測値と目標値の差に比例する駆動トルク左右差を与えることで、車両10の旋回走行状態を目標とする状態で安定に維持する。このように、車体の左右傾斜状態を考慮することで、より安定かつ高精度に旋回走行状態を制御できる。
さらに、左右傾斜状態に相当する車体傾斜ロール角と、旋回走行状態に相当する駆動輪回転状態左右差について、計測値と目標値の差に比例するリンクトルクを与えることで、車体の左右傾斜状態を目標とする状態で安定に維持する。このように、車両10の旋回走行状態を考慮することで、より安定かつ高精度に車体左右傾斜状態を制御できる。
さらに、旋回走行状態に相当する状態量として、駆動輪回転角速度左右差を用いる。このように、駆動輪12の回転状態を制御することで、駆動輪12がロックや空転の状態に至る可能性を低減できる。
最後に、主制御ECU21は、各要素制御システムに指令値を与えて、走行及び姿勢制御処理を終了するが、各要素制御システムに指令値を与える動作については、前記第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
このように、本実施の形態においては、車体の左右傾斜状態に応じた駆動トルク差を左右の駆動輪に与え、旋回走行状態に応じたリンクトルクを車体傾斜リンク機構に与える。具体的には、計測手段によって取得した車体の左右傾斜状態及び旋回走行状態の計測値と、目標走行状態によって決定される車体の左右傾斜状態及び旋回走行状態の目標値との差に応じて駆動トルク差及びリンクトルクを決定する。そして、計測値と目標値の差に所定の係数を乗じた値の駆動トルク差とリンクトルクを与える。
また、車体の左右傾斜状態及び旋回走行状態に応じて、駆動トルク差及びリンクトルクを決定し、両出力決定値の和の駆動トルク差とリンクトルクを与える。この場合、車体の左右傾斜状態及び旋回走行状態の目標値に応じて、駆動トルク差とリンクトルクを決定する。そして、旋回走行状態の駆動輪12の接地荷重移動率の推定値に応じて、駆動トルク差を決定する。また、旋回走行状態の車体に作用する重力と遠心力の推定値に応じて、リンクトルクを決定する。
さらに、駆動輪12の左右平均回転角速度に応じて総駆動トルクを決定し、総駆動トルクと接地荷重移動率に応じた駆動トルク差を更に与える。そして、総駆動トルクに接地荷重移動率を乗じた値の駆動トルクを左右の駆動輪12に加える。なお、旋回走行状態は、右輪回転角速度と左輪回転角速度の差である。
これにより、より適切に車両10の旋回走行状態と車体の傾斜姿勢を制御できる。その結果、操縦性や快適性のより高い車両10を提供できる。
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。