JP2010256208A - 電気機器中絶縁油に対する経年劣化診断方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】油入変圧器中の絶縁油の酸化劣化による電気的特性低下の危険度を信頼性高く、総合的に評価することを可能にする、電気機器中絶縁油の経年劣化診断方法を提供する。
【解決手段】油入電気機器中の絶縁油の劣化度合を、電気機器から採取した試料油のけん化価から判定するステップ1と、体積抵抗率と誘電正接の測定値を、経年絶縁油を用いてあらかじめ設定しておいた、絶縁油の解離性の度合を表す体積抵抗率と誘電正接との相関直線と比較して判定するステップ2と、カルボニル価から判定するステップ3と、水分量から判定するステップ4、の4つのステップで判定することを特徴とする電気機器中絶縁油の経年劣化診断方法である。
【選択図】図7
【解決手段】油入電気機器中の絶縁油の劣化度合を、電気機器から採取した試料油のけん化価から判定するステップ1と、体積抵抗率と誘電正接の測定値を、経年絶縁油を用いてあらかじめ設定しておいた、絶縁油の解離性の度合を表す体積抵抗率と誘電正接との相関直線と比較して判定するステップ2と、カルボニル価から判定するステップ3と、水分量から判定するステップ4、の4つのステップで判定することを特徴とする電気機器中絶縁油の経年劣化診断方法である。
【選択図】図7
Description
本発明は、電気機器中の絶縁油に対する経年劣化診断方法に関し、詳細には油入電気機器中の絶縁油の経年劣化による危険度の度合を総合的に評価することができる経年劣化診断方法に関する。
油入変圧器や油入リアクトル等の油入電気機器は、タンク内に鉄心及び巻線が収容され、巻線部分は導体表面が絶縁紙等の固体絶縁物で絶縁された構成であり、タンク内には絶縁耐力の確保と巻線、鉄心の冷却を目的として絶縁油が充填され、タンク内部の発熱源である鉄心及び巻線と冷却器との間を強制的に絶縁油を循環させることで冷却し、各部の温度が規定の範囲内に抑えられる構成となっている。
このような構成の油入電気機器においては、機器内部で局部加熱あるいは放電等の異常現象が発生すると、内部に使用されている絶縁油、絶縁紙等の絶縁材料が徐々に分解して絶縁耐力が低下し、ついには絶縁破壊事故に至ることが懸念される。
こうした油入電気機器内部での局部加熱、部分放電等により、機器内の絶縁油、絶縁紙、その他の絶縁材料の熱分解が生じた場合には、その分解生成物は絶縁油中に溶解した状態で存在する。そこで、この絶縁油中に溶解した分解生成物を定期的に分析して、内部異常の有無、異常個所の特定、異常程度を診断し、診断結果に基づいて事故に至る前に対策を実施すれば、油入電気機器の信頼性が確保されることになる。
油入電気機器の異常を監視するために従来から行われている方法としては、絶縁油中に浸漬された絶縁紙が劣化することにより生成した、油中に溶け込んでいる二酸化炭素や一酸化炭素等のガス成分を分析して経年劣化状態を診断する方法(ガス法)、絶縁紙の劣化で生じるフルフラールを検出して絶縁紙の劣化状態を診断する方法(フルフラール法)などがあり、これらの方法により、異常の有無、異常の程度をある程度推定することができる。しかし、ガス法では、油面上の空間容積が大きい変圧器では、油面上へのガス放出が多くなり、油中のガス濃度が低下するため、変圧器の余寿命を長く推定してしまう危険性がある。また、フルフラール法では、高速液体クロマトグラフを用いてフルフラールを定量する場合、その取扱いに熟練を要するとともに、装置自体が高価であるという問題がある。さらに、絶縁油を浄油するために活性アルミナ等が添加されている場合、分解生成物であるフルフラールが活性アルミナ等に吸着されてしまうため、やはり変圧器の余寿命を長く推定してしまう危険性がある。
一方で油入変圧器の性能を維持する上で絶縁油は多くの役割を担っており、絶縁油性能の低下は変圧器の各種異常モードに繋がる。絶縁油の特性は、密度、動粘度等の「物理的特性」、絶縁破壊電圧、体積抵抗率等の「電気的特性」、全酸価、水分等の「化学的特性」に大別され、これらの特性の評価試験法はJIS、IEC、ASTM等の規格で規定されている。
一般に、物理的特性に対しては、経年劣化による影響は小さいと考えられる。というのは、この特性は絶縁油の主成分である炭化水素の組成に起因しており、変圧器の場合は、局所加熱や部分放電等が起こり得るとはいえ、相対的には比較的温和な状態で使用されるため、主成分の組成が大きく変化する程の劣化の進行は起こりにくいためである。
しかし、電気的特性は、化学的特性である全酸価や水分の影響を顕著に受けると考えられ、経年的な化学的特性の変化は電気的特性の低下に繋がると推定される。そこで、既存設備の調査結果をもとに、あらかじめ油入変圧器の絶縁油の絶縁機能の劣化特性と化学的特性の劣化度(水分量、溶存ガス成分など)との関係を求めたマスターカーブを作成しておき、マスターカーブとの比較から余寿命を推定する方法もある。しかしながら、絶縁油や絶縁材料の劣化により生成する分解生成物は、多種類にわたっており、絶縁油の絶縁機能の低下は、これらの多種類の分解生成物の影響が複合化した結果として現われると推定される。したがって、特定の分解生成物に着目したこの方法は、余寿命を大雑把に推定することはできるが、絶縁油の劣化を信頼性高く総合的に判定するための評価指標にはなり得ない。
このように、絶縁油の経年劣化による変質やその電気的特性への影響に関する知見はいくつかあるが、経年劣化により生成する各種生成物が、それぞれ電気的特性に及ぼす影響を検討した事例はほとんどないのが現状であり、その背景には、変圧器に使用されている絶縁油中には多種多様な分解生成物が混在しており、個々の生成物の特定が困難であったという事情がある。
例えば、特許文献1には、絶縁油中から分解生成物であるアルデヒド類、アルコール類、ケトン類等を抽出し、抽出した分解生成物の総量をガスクロマトグラフ装置等で求め、予め求めておいた、分解生成物の量と絶縁材料の重合度等の劣化指標特性との相関関係から、絶縁材料の劣化度合を推定する方法が提案されている。該方法は、絶縁油中の分解生成物量とセルロース系絶縁材料の劣化度合を相関付けようとするものであり、変圧器の油面上空間の大小に拘わらず精度高く、簡便に診断できる利点はあるが、絶縁紙のみに着目した方法であり、経年絶縁油に対する劣化診断をフロー化して実施し、電気特性低下の危険度を信頼性高く、総合的に評価することは困難である。
特許文献2には、絶縁油中より抽出されるアルデヒド、ケトン類等と特異的に反応する、2,4−ジニトロフェニルヒドラジンを用いた診断方法が提案されている。2,4−ジニトロフェニルヒドラジンをシリカゲル等の粒子表面にコーティングした充填剤を封入した検知管に、絶縁油中より抽出したアルデヒド、ケトン類等からなる揮発性成分を反応させ、その呈色域の呈色値と予め設定した絶縁紙の劣化度合を表す平均重合度との相関より、絶縁紙の平均重合度を判断して、油入電気機器の劣化度を診断している。この方法も、絶縁油中の分解生成物量と絶縁紙の劣化度合を相関させようとする方法である。しかし、該方法は、呈色域の読み取り値を揮発性成分の平均重合度に換算し、換算した平均重合度の数値を、絶縁紙の劣化度合を表す平均重合度との相関グラフに転記し、試料油を採取した変圧器の寿命予測を行う方法であるため、絶縁油の電気特性低下の危険度を信頼性高く、総合的に評価することは困難である。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、油入変圧器中の絶縁油の経年劣化による電気的特性低下の危険度を信頼性高く、総合的に評価することを可能にする、電気機器中絶縁油の経年劣化診断方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した。そして、変圧器の経年使用により絶縁油中に生じる、アルデヒド類、アルコール類、ケトン類、有機酸類、エステル類等の分解生成物の生成を、これらの分解生成物を含有することによる絶縁油基油の変質という側面で捉え、これらの生成状態と絶縁油電気特性との関係を検討した結果、本発明に到達したものである。
すなわち、本発明は、
(1)油入電気機器から絶縁油を採取して試料油とし、該試料油のけん化価、体積抵抗率、誘電正接、カルボニル価及び水分量を測定し、絶縁油の劣化度合を、
けん化価から判定するステップ1、
体積抵抗率と誘電正接の測定値を、多数の経年絶縁油を用いてあらかじめ設定しておいた体積抵抗率と誘電正接との相関直線と比較して判定するステップ2、
カルボニル価から判定するステップ3、
水分量から判定するステップ4、
から判定することを特徴とする電気機器中絶縁油の経年劣化診断方法、
(2)前記ステップ1において、けん化価と併せて、全酸価の測定値を用いて絶縁油の劣化度合を判定する(1)に記載の電気機器中絶縁油の経年劣化診断方法、
(3)前記絶縁油が、炭化水素を基油とする絶縁油である(1)又は(2)に記載の電気機器中絶縁油の経年劣化診断方法、
を提供する。
(1)油入電気機器から絶縁油を採取して試料油とし、該試料油のけん化価、体積抵抗率、誘電正接、カルボニル価及び水分量を測定し、絶縁油の劣化度合を、
けん化価から判定するステップ1、
体積抵抗率と誘電正接の測定値を、多数の経年絶縁油を用いてあらかじめ設定しておいた体積抵抗率と誘電正接との相関直線と比較して判定するステップ2、
カルボニル価から判定するステップ3、
水分量から判定するステップ4、
から判定することを特徴とする電気機器中絶縁油の経年劣化診断方法、
(2)前記ステップ1において、けん化価と併せて、全酸価の測定値を用いて絶縁油の劣化度合を判定する(1)に記載の電気機器中絶縁油の経年劣化診断方法、
(3)前記絶縁油が、炭化水素を基油とする絶縁油である(1)又は(2)に記載の電気機器中絶縁油の経年劣化診断方法、
を提供する。
本発明によれば、油入電気機器中の絶縁油の経年による酸化劣化等の度合を、簡便かつ正確に診断することが可能になるとともに、絶縁油の電気的特性低下の危険度を信頼性高く、総合的に評価することが可能になる。
本発明による、油入変圧器中の絶縁油の経年劣化診断フローは、4つの判定ステップから構成される。すなわち、経年絶縁油のけん化価の測定値から劣化度合を判定するステップ1、経年劣化した絶縁油の体積抵抗率と誘電正接との相関直線と比較して劣化度合を判定するステップ2、カルボニル価の測定値より劣化度合を判定するステップ3、水分量の測定値より劣化度合を判定するステップ4である。本発明は、これらのステップ順に測定を実施することを意味している訳ではなく、けん化価、体積抵抗率と誘電正接、カルボニル価、水分量の4つの測定値を用いて、絶縁油の劣化度合を総合的に判定して行くステップを提供するものである。
図1は、経年による絶縁油の劣化現象の要因を説明する推定図である。絶縁油の特性は、絶縁油中に含まれる各種成分に影響されると考えられる。すなわち、新品の油(以下、「新油」という)が示す電気的特性が経年的に低下する原因は、絶縁油の主成分の炭化水素や酸化防止剤等の添加成分が、電気機器運転中の熱及び酸素等の影響により、絶縁油に悪影響を及ぼす成分に変質したためであると考えられる。また、この変質成分が水分及び油中粒子と共存することによっても、複合的に絶縁特性を低下させる要因になることが考えられる。これらの要因と、経年による絶縁油劣化を整理した概念図が図1である。
すなわち、絶縁油基油である炭化水素(RH)が、熱及び酸素の影響を受けることにより酸化され、アルコール(ROH)、アルデヒド(R´CHO)、有機酸であるカルボン酸(R´COOH)、エステル(R´COOR´)等が生成する。また絶縁油に酸化防止剤として添加されるチオール化合物(RSH)等からは、有機酸であるスルホン酸(RSO3H)やスルホン酸エステル(RSO3R)が生成する。電気機器によっては、該機器中に設置された銅製コイルが触媒的な役割をして酸化劣化が促進されることもある。この酸化劣化は、フリーラジカルが連鎖的に反応することで進行すると考えられる。
図2は炭化水素からアルコール等に至るまでのフリーラジカル連鎖反応機構を推定したものであり、図3は生成物の発生フローを示したものである。最初に炭化水素がフリーラジカル化する。このフリーラジカルが酸化され、それが連鎖反応を起こしてアルコール、水が生成する。さらに、フリーラジカル同士が結合し、不活性物質になると連鎖が停止する。これらの反応過程において、アルコール(ROH)、水(H2O)が生成するが、アルコールがさらに酸化されることでアルデヒド、有機酸、エステル等が生成する。
図3に示す各種生成物については、夫々、公知の分析指標が存在する。表1は、図3に示す各種生成物の分析方法例を示したものである。過酸化物は、酸化劣化の初期状態を把握するのに有効な物質であるが、不安定な物質であるため定量分析には向かない。アルコール及びアルデヒドは、経年劣化の中期に生成すると推定される、水との親和性が高い極性物質であり、表1に示す方法等で定量することができる。
また、有機酸は、解離性が高くイオンになりやすい性質を有する極性物質であり、JISで規定された方法により定量することができる。エステルは、水により加水分解されると有機酸に分解する。有機酸は全酸価として、エステルはエステル価として、定量することも可能であるが、有機酸とエステルの総量をけん化価として測定して解離性物質の総含有量とすると解離性を把握し易い。
表1の分析指標を基に、各種劣化生成物が、絶縁油の絶縁破壊特性に及ぼす影響を把握するために、モデル実験を行った結果を図4に示した。図4のモデル実験の詳細は以下の通りである。炭化水素系の絶縁油新油(主炭素鎖長:10)に、アルコールとしてデカノール(C10H21OH)、アルデヒドとしてデカナール(C9H19CHO)、有機酸としてデカン酸(C9H19COOH)を、各々1000ppm(対新油)を添加し、電極間隙2.5mm、3kV/秒連続昇圧の条件で添加絶縁油の絶縁破壊電圧(kV/2.5mm)を測定した。また、オクチルスルホン酸(C8H17SO3H)を、500ppm(対新油)添加し、同じ試験方法で添加絶縁油の絶縁破壊電圧(kv/2.5mm)を測定した。これらの測定結果を無添加絶縁油における測定結果と比較して示した。各劣化生成物のモデル化合物は市販の試薬を用いた。
図4から明らかなように、経年劣化の終期に生成すると推定されるデカン酸やオクチルスルホン酸の有機酸は、解離性が高いためと想定されるが、これらを添加した絶縁油では絶縁破壊電圧が低下する結果が得られている。特にオクチルスルホン酸については、他のモデル物質の半分の添加量にも関わらず絶縁破壊電圧が著しく低下していた。このように、絶縁油酸化劣化の終期段階で生成する有機酸が絶縁油中に含まれている場合、絶縁油がイオン化しやすいために、絶縁破壊特性を低下させる要因となることが考えられる。また、エステルも、加水分解により容易に有機酸を生成するため、絶縁破壊特性を低下させる要因になるものと推定される。
一方、経年劣化の中期に生成すると推定されるアルコール及びアルデヒドは、絶縁油の絶縁破壊電圧を低下させるには至らないことがわかる。
上記の知見より、本発明の絶縁油の経年劣化の診断のステップ1では、絶縁破壊電圧を低下させる劣化生成物である有機酸とエステルの含有量の測定値を用いて劣化度合を判定する。この有機酸とエステルの含有量は、試料油のけん化価を測定することにより、有機酸とエステルの総量として求められるので、けん化価が大きい場合は絶縁油の劣化度合が高い(すなわち、異常あり)、一方、けん化価が低い場合は絶縁油の劣化度合が小さい(すなわち、異常なし)、と推定することが可能になる。
なお、油のけん化価は、1gの油をけん化するのに必要な水酸化カリウムの質量(mg)であり、以下の方法にて測定することができる。
[油のけん化価測定方法]:
試料油に2−ブタノンを加えて溶解し、次に水酸化カリウム−エタノール溶液の既知量を加えて加熱・還流して試料油をけん化した後、塩酸標準液にて滴定する。消費された水酸化カリウムの量から、次式により試料油のけん化価を算出する。
[油のけん化価測定方法]:
試料油に2−ブタノンを加えて溶解し、次に水酸化カリウム−エタノール溶液の既知量を加えて加熱・還流して試料油をけん化した後、塩酸標準液にて滴定する。消費された水酸化カリウムの量から、次式により試料油のけん化価を算出する。
次いで、ステップ2では、体積抵抗率と誘電正接の測定値から絶縁油の解離性の度合を求め、絶縁油の劣化度合が電気的特性に影響を与える可能性があるかどうかを判定する。絶縁油の解離性の度合は、あらかじめ製造年が1956年〜1999年の範囲、経年数として5年〜48年(採油年は2004年)の範囲にある多数の油入変圧器から採取した絶縁油に対して、体積抵抗率(常温0分値、Ωcm)と誘電正接(80℃、%)を測定し、体積抵抗率と誘電正接との関係を、図5に示すようにプロットして、経年絶縁油の体積抵抗率と誘電正接との相関関係を示す直線を求めておき、この直線と対比して評価する。試料油の体積抵抗率と誘電正接の値が相関直線よりも上に位置している場合は、全体からみて比較的解離性が高い(イオン化し易い)と推定されるので、絶縁破壊し易い絶縁油であると判定する。
ここで、誘電正接及び体積抵抗率を測定するのは次の理由による。つまり、上記に記載したように酸化劣化の終期で生成される解離性の高い有機酸等の物質は、解離することで、絶縁油の絶縁特性を低下させるが、絶縁破壊電圧の測定は試験用変圧器を用いた試験となり、簡便ではないので、絶縁破壊電圧の代用指標としてより簡易に測定出来る誘電正接と体積抵抗率の値を用いるものである。例えば、絶縁油の誘電正接は、オクチルスルホン酸のようなイオン解離性の高い物質を添加して加熱すると値が増大し(0.2%→0.8%)、絶縁特性の低下に繋がることが判っている。
なお、上記の体積抵抗率及び誘電正接は、JIS C 2101「電気絶縁油試験方法」に基づいて測定することができる。
[誘電正接測定]:
電極間ギャップ1mmの同心円筒形構造の電極に試料油を入れ、シェーリングブリッジ等の静電容量測定器によって交流電圧(500〜1000V)を印加し、規定温度(80℃)で測定する。
[体積抵抗率]:
試料油温度80℃で絶縁油に250kV/mmの直流電圧を印加し、1分後の電流値から体積抵抗率を求める。
[誘電正接測定]:
電極間ギャップ1mmの同心円筒形構造の電極に試料油を入れ、シェーリングブリッジ等の静電容量測定器によって交流電圧(500〜1000V)を印加し、規定温度(80℃)で測定する。
[体積抵抗率]:
試料油温度80℃で絶縁油に250kV/mmの直流電圧を印加し、1分後の電流値から体積抵抗率を求める。
次に、ステップ3では、油のカルボニル価の測定値から劣化度合を判定する。図2に示すフリーラジカル連鎖反応機構によると、アルコール、アルデヒド又は有機酸が生成すると同時に、水が生成する。絶縁油中の水分量が、油の飽和水分量を超過した場合は、水が析出して絶縁油とは異なる相として存在することになる。絶縁油中に、水による異相が存在すると、誘電率の違いにより水分の相に電界が集中し、絶縁破壊特性低下の要因となる。すなわち、絶縁油中の水分量が同じであっても、飽和水分量が低い状態であるほど水が析出しやすく、絶縁破壊特性が低下しやすいことになる。
そこで、各種分解生成物である、(a)アルコール(デカノール)、(b)アルデヒド(デカナール)及び(c)有機酸(デカン酸)について、油中濃度(ppm)と飽和水分量(ppm)との関係を求めた結果を、図6に示した。実験は、新油に所定量の分解生成物を添加した油を調製し、該油に水を添加して攪拌後、所定の温度で平衡に到達したときの油中の水分濃度を測定したものである。水分量は後記の方法で測定することができる。
図6の結果から、油中における各種分解生成物の濃度が高くなるほど、飽和水分量は高くなる傾向であるが、特にアルデヒド類においてその傾向は顕著である。アルコールが酸化されてアルデヒドに変化すると、アルデヒド含有油の方がアルコール含有油よりも油の飽和水分量が高いため、アルデヒドの含有量が多い絶縁油では水の析出が抑えられることが推定される。そして、水の析出が抑えられることによって、絶縁油の電気特性の低下は緩和される。しかし、さらに酸化が進行してアルデヒドが有機酸に変化すると、油の飽和水分量が低くなるため、余剰の水が油の中に析出して異相として存在するようになり、その結果、絶縁油の電気特性が低下することが推定される。
したがって、試料油のカルボニル価を測定してアルデヒド類の量を把握することで、絶縁油の絶縁特性の低下の危険度は次のように診断することができる。すなわち、カルボニル価が高い試料油は、水分保持力が高いので、至近に絶縁特性が悪化することはないが、基本的に絶縁油の経時劣化は進行しており、また経時によりアルデヒドが酸化され有機酸に変化することで水の影響が大きくなるので、ある程度危険度が高い要管理の絶縁油と診断される。
なお、カルボニル価の測定方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法で測定すれば良いが、例えば以下の2,4−ジニトロフェニルヒドラジン法で測定することができる。
[カルボニル価測定法]:
過酸化物価の低い絶縁油の場合はそのまま試料油とし、試料溶液を調整し,過酸化物価が高い絶縁油の場合には、必要に応じて過酸化物の分解処理を施してから試料油とし、試料溶液を調整する。具体的には、50ml全量フラスコに試料油約0.5gを精秤してはかり取り、ベンゼンを標線まで満たして溶解し、試料溶液(Sa)とする。この試料溶液について、カルボニル価の測定を以下の手順に基づいて行う。
50ml全量フラスコに4.3%トリクロロ酢酸−ベンゼン溶液3ml、0.05%2,4−ジニトロフェニルヒドラジン−ベンゼン溶液5ml、及び試料溶液(Sa)5mlを正確にはかり取る。全量フラスコに栓をし、60±1 ℃の恒温水槽で30分加熱した後、常温に1時間放置する。次いで、4%水酸化カリウム−エタノール溶液10mlを加えて振り混ぜ、5分間静置した後、エタノールを標線まで満たし、よく混合する。
分光光度計の吸収セルに上記の液を採り、4%水酸化カリウム−エタノール溶液を加えた時点から正確に10分後、空試験溶液を対照として、440nmにおける吸光度を測定する。このとき、吸光度が0.2〜0.8の範囲に入るように調整する。
測定した吸光度(A)を、試料溶液(Sa)5ml中の試料重量(B)で除算し、カルボニル価(A/B)を計算する。
なお、空試験溶液は、試料油を用いずに同様の操作をしたものである。
[カルボニル価測定法]:
過酸化物価の低い絶縁油の場合はそのまま試料油とし、試料溶液を調整し,過酸化物価が高い絶縁油の場合には、必要に応じて過酸化物の分解処理を施してから試料油とし、試料溶液を調整する。具体的には、50ml全量フラスコに試料油約0.5gを精秤してはかり取り、ベンゼンを標線まで満たして溶解し、試料溶液(Sa)とする。この試料溶液について、カルボニル価の測定を以下の手順に基づいて行う。
50ml全量フラスコに4.3%トリクロロ酢酸−ベンゼン溶液3ml、0.05%2,4−ジニトロフェニルヒドラジン−ベンゼン溶液5ml、及び試料溶液(Sa)5mlを正確にはかり取る。全量フラスコに栓をし、60±1 ℃の恒温水槽で30分加熱した後、常温に1時間放置する。次いで、4%水酸化カリウム−エタノール溶液10mlを加えて振り混ぜ、5分間静置した後、エタノールを標線まで満たし、よく混合する。
分光光度計の吸収セルに上記の液を採り、4%水酸化カリウム−エタノール溶液を加えた時点から正確に10分後、空試験溶液を対照として、440nmにおける吸光度を測定する。このとき、吸光度が0.2〜0.8の範囲に入るように調整する。
測定した吸光度(A)を、試料溶液(Sa)5ml中の試料重量(B)で除算し、カルボニル価(A/B)を計算する。
なお、空試験溶液は、試料油を用いずに同様の操作をしたものである。
一方、試料油のルボニル価が低い場合は、劣化の初期段階でアルデヒドの生成が未だ少ない場合と、劣化が進行してアルデヒドが酸化されて有機酸に変化したためにカルボニル価が低くなっている場合の2つの場合が存在する。そのため、カルボニル価が低い場合であっても、アルデヒドが有機酸に変化した後の状態である場合は、絶縁油中に水が析出している可能性がある。
したがって、ステップ4では、絶縁油中の水分量の測定値から劣化度合を判定する。水分量の測定は、常法に従えば良いが、例えば以下の方法で測定することができる。
[水分量測定法]:
JIS C 2101「電気絶縁油試験方法」に基づき、カールフィッシャー法で測定する。カールフィッシャー試薬のファクター(1mlの試薬と反応する水のmg数)は、0.7〜1.0または、2.5〜3.0mgH2O/mlのものを用い、次式により試料油の水分量を算出する。
JIS C 2101「電気絶縁油試験方法」に基づき、カールフィッシャー法で測定する。カールフィッシャー試薬のファクター(1mlの試薬と反応する水のmg数)は、0.7〜1.0または、2.5〜3.0mgH2O/mlのものを用い、次式により試料油の水分量を算出する。
(式中、W :試料油の水分量(mg/kg)、
f :カールフィッシャー試薬のファクター(mgH2O/ml)、
V :滴定に要した試薬の量(ml)、
S :試料質量(g)
B :空試験の滴定に要した試薬の量(ml))
f :カールフィッシャー試薬のファクター(mgH2O/ml)、
V :滴定に要した試薬の量(ml)、
S :試料質量(g)
B :空試験の滴定に要した試薬の量(ml))
上記のように、ステップ1〜ステップ4を実施することにより、絶縁油の経年劣化度合を総合的に評価することが可能になる。図7は、本発明の経年劣化絶縁油の劣化診断フローの好ましい一例を示したものである。
すなわち、ステップ1では、試料油のけん化価の測定値を用いて、けん化価が低い試料油は、経年的劣化は見られない油であると診断する。けん化価が高い油は、次のステップ2の判定で、熱解離性が低ければ特性への影響は見られない油であると診断する。熱解離性の高い油は、ステップ3の判定で、カルボニル価が高ければ要管理の油であると診断し、カルボニル価が低い場合は、油中水分量の結果を踏まえたステップ4の判定で、油中水分量が低ければ要管理の油であると診断し、一方、油中水分量が高ければ、至近に電気特性が悪化する可能性のある油であると診断する。
本発明の経年劣化診断方法では、ステップ1として、けん化価に加えて、絶縁油中の有機酸の含量測定値を用いることにより、絶縁油の絶縁特性低下の可能性をより正確に診断することができる。絶縁油中の有機酸は、劣化生成物の中でも特にイオン性が高い物質であり、解離したイオンが絶縁破壊のトリガとなる可能性が高いからである。
なお、全酸価の測定は、公知の方法に準ずれば良いが、例えば以下の方法で測定することができる。
[全酸価測定法]:
試料油をトルエン・エタノールの混合溶液に溶かし、アルカリブルー6Bを指示薬として水酸化カリウムの標準エタノール溶液で滴定する。全酸価は、絶縁油1g中に含まれる全酸性成分を中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数である。次式により試料油の全酸価を算出する。
[全酸価測定法]:
試料油をトルエン・エタノールの混合溶液に溶かし、アルカリブルー6Bを指示薬として水酸化カリウムの標準エタノール溶液で滴定する。全酸価は、絶縁油1g中に含まれる全酸性成分を中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数である。次式により試料油の全酸価を算出する。
(式中、TVA :全酸価(mgKOH/g)
N :0.05mol/LKOH標準溶液規定度
A :滴定に要した0.05mol/LKOH標準溶液の量(ml)
B :空試験に要した0.05mol/LKOH標準溶液の量(ml))
W :試料質量(g)
N :0.05mol/LKOH標準溶液規定度
A :滴定に要した0.05mol/LKOH標準溶液の量(ml)
B :空試験に要した0.05mol/LKOH標準溶液の量(ml))
W :試料質量(g)
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
(実施例1)
図8に、フィールド変圧器油を対象として、本発明の経年劣化診断方法により、劣化診断を行った診断結果例をヒストグラムで示した。ヒストグラムでは、これまでに調査した経年油全てにおける各測定値の最大値を1として規格化している。なお、過酸化物価及びエステル価は、表1に示す方法で測定した。
図8に、フィールド変圧器油を対象として、本発明の経年劣化診断方法により、劣化診断を行った診断結果例をヒストグラムで示した。ヒストグラムでは、これまでに調査した経年油全てにおける各測定値の最大値を1として規格化している。なお、過酸化物価及びエステル価は、表1に示す方法で測定した。
図8に示した絶縁油はけん化価が高いことから、酸化劣化が進行していると考えられる。また、電気特性も平均線より上に位置しており、解離性の高い成分の生成による電気特性の低下が見受けられる。さらに、カルボニル価が0.2meq/kg(これまでの調査における最大値1.62meq/kgに対する比は0.12。これがヒストグラムに示されている値である。)と低く、水分が析出しやすい油であると考えられるが、油中水分量自体は2ppm(平均的な数値は5ppm)と低濃度であるため、至近に電気特性が悪化する可能性は低いが、要管理となる。緊急性は低いが、有機酸等の影響により絶縁破壊特性が低下する可能性があると評価できる。
本発明によれば、電気機器中の絶縁油の経年劣化度合を総合的に診断することができる。
Claims (3)
- 油入電気機器から絶縁油を採取して試料油とし、該試料油のけん化価、体積抵抗率、誘電正接、カルボニル価及び水分量を測定し、絶縁油の劣化度合を、
けん化価から判定するステップ1、
体積抵抗率と誘電正接の測定値を、多数の経年絶縁油を用いてあらかじめ設定しておいた体積抵抗率と誘電正接との相関直線と比較して判定するステップ2、
カルボニル価から判定するステップ3、
水分量から判定するステップ4
から判定することを特徴とする電気機器中絶縁油の経年劣化診断方法。 - 前記ステップ1において、けん化価と併せて、全酸価の測定値を用いて絶縁油の劣化度合を判定する請求項1に記載の電気機器中絶縁油の経年劣化診断方法。
- 前記絶縁油が、炭化水素を基油とする絶縁油である請求項1又は2に記載の電気機器中絶縁油の経年劣化診断方法。
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---|---|---|---|---|
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CN113670987A (zh) * | 2021-07-14 | 2021-11-19 | 深圳供电局有限公司 | 油纸绝缘老化状态的识别方法、装置、设备和存储介质 |
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-
2009
- 2009-04-27 JP JP2009107514A patent/JP2010256208A/ja active Pending
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