以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
以下に、本発明の好適な実施の形態に係る連続鋳造方法及び連続鋳造装置について詳細に説明する。なお、説明は以下の順で行うものとする。
1.用語の定義
2.第1の実施形態に係る多段テーパ短辺鋳型板を用いた連続鋳造方法の概要
3.操業条件と上下テーパ比率との関係
4.鋳造速度に応じた連続鋳造方法
5.溶融金属の炭素濃度に応じた連続鋳造方法
6.連続鋳造装置(多段テーパ短辺)の構成
7.第2の実施形態に係る曲面テーパ短辺鋳型板を用いた連続鋳造方法の概要
8.連続鋳造装置(曲面テーパ短辺)の構成
9.効果
[1.用語の定義]
まず、本明細書で使用する用語を定義する。
メニスカス位置とは、鋳型内における溶融金属(例えば溶鋼)のメニスカス(湯面)の高さ位置である。
鋳造方向とは、鋳型から鋳片を引き抜く方向であり、例えば鉛直方向(上下方向)である。
多段テーパ短辺鋳型板とは、鋳造方向に相異なる2以上のテーパを有する短辺鋳型板である。例えば、2段テーパ短辺鋳型板とは、鋳造方向に相異なる2つのテーパを有する短辺鋳型板であり(図1(a)参照)、3段テーパ短辺鋳型板とは、鋳造方向に相異なる3つのテーパを有する短辺鋳型板である(図1(a)参照)。
テーパ変化点Pとは、多段テーパ短辺鋳型板においてテーパが変化する箇所である。図1(a)に示す2段テーパ短辺鋳型板2であれば、テーパ変化点Pは1点であり、図1(b)に示す3段以上のテーパ短辺鋳型板であれば、テーパ変化点PU、PLは2点以上である。
変化点位置(mm)とは、メニスカス位置から、多段テーパ短辺鋳型板の最初のテーパ変化点Pまでの距離(即ち、メニスカス位置とテーパ変化点の相対高さ)である。図1(a)に示す2段テーパ短辺鋳型板2では、変化点位置xはメニスカス位置11からテーパ変化点Pまでの距離であり、図1(b)に示す3段テーパ短辺鋳型板では、変化点位置xはメニスカス位置11から上部テーパ変化点PUまでの距離である。また、連続鋳造における最高鋳造速度をVM(m/min)とし、鋳造速度をV(m/min)とする。
また、短辺鋳型板が多段テーパ短辺鋳型板2である場合のトータルテーパ率TT、上テーパ率TU、下テーパ率TL、上下テーパ比率Rを以下のように定義する。なお、上テーパ率TU(%/m)は、メニスカス側の上テーパ面6Uにおけるテーパ率であり、下テーパ率TL(%/m)は、鋳型下端側の下テーパ面6Lにおけるテーパ率である。上下テーパ比率Rは、上テーパ率TUと下テーパ率TLとの比である。また、上テーパ面6Uと下テーパ面6Lとがなす角度をΔθとする。
図1(a)及び(b)に示すように、両短辺間の距離を、メニスカス位置11においてWM(m)、鋳型下端においてWB(m)、メニスカス位置11から鋳型下端までの距離をL(m)とおいたとき、トータルテーパ率TT(%/m)を
TT(%/m)={(WM−WB)/W0/L}×100 (3)
と定義する。W0は、所定の高さ位置における両短辺間の距離であり、W0として例えば、メニスカス幅(WM)、鋳型上端幅、鋳型下端幅(WB)等を用いることができる。
多段テーパ短辺鋳型板2の鋳造方向最上部の上テーパ面6Uにおいて、上方位置と下方位置を任意に定め、両短辺間の距離を、上方位置においてW1(m)、下方位置においてW2(m)、上方位置から下方位置までの距離をΔL(m)とおいたとき(図1(a)(b))、上テーパ率TU(%/m)を
TU(%/m)={(W1−W2)/W0/ΔL}×100 (4)
と定義する。
図1(a)及び(b)に示すように、多段テーパ短辺鋳型板2の鋳造方向最下部の下テーパ面6Lにおいて、上方位置と下方位置を任意に定め、両短辺間の距離を、上方位置においてW3(m)、下方位置においてW4(m)、上方位置から下方位置までの距離をΔL(m)とおいたとき、下テーパ率TL(%/m)を
TL(%/m)={(W3−W4)/W0/ΔL}×100 (5)
と定義する。
上下テーパ比率Rは、
上下テーパ比率R=上テーパ率/下テーパ率=TU/TL (6)
と定義する。
曲面テーパ短辺鋳型板とは、鋳造方向に湾曲した曲面テーパを有する短辺鋳型板である(図17参照)。
また、短辺鋳型板が曲面テーパ短辺鋳型板である場合のトータルテーパ率TT、上テーパ率TU、下テーパ率TL、上下テーパ比率Rを以下のように定義する(図17参照)。
トータルテーパ率TTは、上記(3)と同様に定義される。
上テーパ率TU(%/m)は、曲面テーパ短辺鋳型板のテーパ面のメニスカス位置における接線勾配である。
下テーパ率TL(%/m)は、曲面テーパ短辺鋳型板のテーパ面の鋳型下端における接線勾配である。
上下テーパ比率Rは、
上下テーパ比率R=上テーパ率/下テーパ率=TU/TL (7)
と定義する。
凝固均一度とは、鋳型1内で溶融金属が凝固して形成される凝固シェルの凝固状態の均一度を表すパラメータである。例えば、図2に示すように、凝固シェル10の長辺側における厚さの最大値Aと最小値Bの比B/Aを、凝固均一度(無次元量)とすることができる。
摩擦拘束力とは、連続鋳造時に鋳型と凝固シェルとの間の摩擦により生じる拘束力の大きさを表すパラメータである。例えば、後述する計算により求めた鋳型の各幅における摩擦拘束力を、各幅での基準値(1段テーパでテーパ率1.0%/mの場合の摩擦拘束力)で正規化した値を、摩擦拘束力(無次元量)として使用できる。
溶鋼金属の炭素濃度は、溶融金属(例えば溶鋼)中に占める炭素の濃度(質量%)である。
屈曲は、短辺鋳型板を鋳片に向かって曲げることを意味する。屈曲は、折り曲げと湾曲の総称である。折り曲げは、鋳造方向に対して垂直な所定の折り曲げ線に沿って短辺鋳型板を折るようにして曲げることを意味し、湾曲は、テーパ面が湾曲面となるように短辺鋳型板を曲げることを意味する。
「鋳造中」とは、連続鋳造装置において鋳型が設置されて、溶融金属を当該鋳型に注入可能となっている状態を意味する。例えば、一対の短辺鋳型板と一対の長辺鋳型板を組み立てることによって鋳型が設置された時点から、当該短辺鋳型板と長辺鋳型板を分解する時点までの期間は、「鋳造中」に含まれる。従って、「鋳造中」は、鋳型内に溶融金属が注入されて鋳片が鋳造されている実際の鋳造期間のみならず、当該実際の鋳造期間前に鋳型内に溶融金属を注入していない期間や、当該実際の鋳造期間後に鋳型内に溶融金属を注入していない期間も含む。一方、連続鋳造装置において鋳型を分解した後、短辺鋳型板と長辺鋳型板を再度組み立てて鋳型を再設置するまでの期間は、鋳型内に溶融金属を注入できないので、「鋳造中」に含まれない。
[2.第1の実施形態に係る連続鋳造方法の概要]
本発明の第1の実施形態に係る連続鋳造方法は、図3と同様に、鋳造方向に相異なる2以上のテーパを有する一対の多段テーパ短辺鋳型板2と、多段テーパ短辺鋳型板2を幅方向両側から挟む一対の長辺鋳型板3とからなる連続鋳造鋳型1を用いた連続鋳造方法である。そして、本実施形態に係る連続鋳造方法では、鋳型1による連続鋳造中に、連続鋳造の操業条件の変更の前後で、凝固シェルの凝固均一度及び摩擦拘束力が所定範囲内で変化する(例えば、ほぼ一定となる)ように、連続鋳造の操業条件に応じて多段テーパ短辺鋳型板2を屈曲させる(例えば、多段テーパ短辺鋳型板2をテーパ変化点Pで折り曲げる)ことにより、多段テーパ短辺鋳型板2の上下テーパ比率Rを変更することを特徴としている。このとき、多段テーパ短辺鋳型板2のトータルテーパ率TTを変更せずに、上下テーパ比率Rを変更する。
上記の操業条件は、鋳型1内で溶融金属が凝固して形成された凝固シェルの凝固均一度、及び、凝固シェルと短辺鋳型板2との間の摩擦拘束力の双方に影響を及ぼす操業条件であり、例えば、鋳造速度や、溶融金属の種類(例えば鋼種)、短辺鋳型板2の面平均抜熱流束などである。溶融金属の種類は、例えば、溶融金属の炭素濃度Cなどである。
上記のように、本実施形態では、操業条件の変更の前後で凝固均一度及び摩擦拘束力がほぼ一定となるように、操業条件に応じて鋳造中に多段テーパ短辺鋳型板2の屈曲度合いを変えることで、上下テーパ比率Rを変更する。これにより、短辺鋳型板2の上下テーパ比率Rを操業条件に適した位置に調整することができる。例えば、鋳造速度の増加に応じて、鋳造中に短辺鋳型板2の屈曲度合い(折り曲げ量)を小さくすることにより、短辺鋳型板2の上下テーパ比率Rを小さくする。これによって、鋳造速度の増加前後で、鋳造される凝固シェルの凝固均一度及び摩擦拘束力をほぼ一定にできる。一方、鋳造速度の減少に応じて、鋳造中に短辺鋳型板2の屈曲度合い(折り曲げ量)を大きくすることにより、短辺鋳型板2の上下テーパ比率Rを大きくする。これによって、鋳造速度の減少前後で、鋳造される凝固シェルの凝固均一度及び摩擦拘束力をほぼ一定にできる。
以上のように短辺鋳型板2の屈曲を制御することで、多段テーパ短辺鋳型板2の上下テーパ比率Rを、操業条件に応じた適切な比率に制御できるので、操業条件の変更前後で、相反関係にある凝固均一度と摩擦拘束力をほぼ一定値に維持することができる。従って、凝固均一度と摩擦拘束力の双方の制約を満足させつつ、連続鋳造の操業条件の変更に対応することができる。よって、鋳造速度等の操業条件が変更されても、表面割れ及び内部割れのない高品質の鋳片を安定して鋳造することができるようになる。
このように本実施形態に係る連続鋳造方法では、操業条件に応じて、鋳造中に多段テーパ短辺鋳型板2の屈曲度合いを変更して、上下テーパ比率Rを変更することによって、操業条件の変更前後で凝固均一度と摩擦拘束力をほぼ一定値に維持することを特徴としている。
[3.鋳造速度と上下テーパ比率との関係]
ここでは、本実施形態に係る連続鋳造方法の詳細説明に先立ち、まず、該連続鋳造方法の基礎となる、鋳造条件(鋳片幅W、鋳造速度Vなど)と上下テーパ比率との関係について詳述する。
特許文献6、7には、鋳型内での鋳片の凝固挙動を計算により推定する方法が記載されている。鋳型の鋳造方向の傾き、あるいは鋳造速度を任意の値に設定した際に、鋳型四周各部位における凝固シェル10の厚さが図2のように算出される。この結果に基づき、鋳型下端における凝固シェル厚の最大値Aと最小値Bの比B/A、凝固シェルと鋳型間の摩擦拘束力、ギャップ量を求めることができる。
上記特許文献6、7に記載の計算方法を用い、多段テーパ短辺鋳型板を使用する連続鋳造について、鋳型下端における凝固シェル10の形状、凝固シェル10と鋳型間の摩擦拘束力を求めた。鋳型下端における凝固シェル10の形状は、計算によって図2のように導出される。鋳片コーナー近傍における凝固シェル10の長辺側に、凝固シェル厚が薄い部位12が形成されることがあり、この部位12の凝固シェル厚をシェル厚の最小値Bとする。そして、本実施形態では、凝固シェル厚の最大値Aと最小値Bの比B/Aを、「凝固均一度」と称する。凝固均一度が良好な鋳造を行った場合には、コーナー近傍の長辺側におけるシェル厚の薄い部位のシェル厚みBが、その他の厚い部位のシェル厚Aに近づくこととなる。
実際に溶鋼の連続鋳造を行い、鋳造中に鋳型内の溶鋼にSを添加し、凝固後鋳片のサルファープリントによって鋳型下端位置での凝固シェルの厚み分布を評価したところ、上記計算で求めた凝固均一度と、サルファープリントから求めた鋳型下端凝固シェル厚みの最大と最小の比とが、よく一致することがわかった。従って、上記特許文献6、7に記載の計算方法で求めた凝固均一度を指標として、好適な連続鋳造方法を見出すことが可能である。
当該計算方法で求めた凝固均一度(B/A)の値が0.7以上であれば、実鋳造においても良好な凝固均一度を確保することができる。凝固均一度(B/A)の値が0.7未満となると、凝固シェル10が破断してブレークアウトする恐れがある。また、計算で求めた摩擦拘束力(各幅での基準値(1段テーパでテーパ率1.0%/mの場合の摩擦拘束力で正規化した値))が2.0以下であれば、実鋳造においても拘束の少ない良好な鋳造を行うことができる。また、凝固均一度(B/A)及び摩擦拘束力を上記好ましい範囲とすることにより、連続鋳造を行ったときにブレークアウトが起こらないことを、実際の連続鋳造の結果によって確認している。
以下、上述の特許文献6、7に基づく計算方法(以下「本実施形態に係る計算方法」ともいう。)により、凝固均一度と摩擦拘束力を計算し、多段テーパ短辺鋳型板2の最適な形状を検討することとする。
例えば、図1(a)に示した2段テーパ短辺鋳型板2の形状について検討する。短辺鋳型板2の凝固シェル10に面するテーパ面6(上テーパ面6U、下テーパ面6L)について、鋳型上端からテーパ変化点Pまでの距離をY、下段テーパ(下テーパ面6L)を鋳型上端まで延長した線と、上段テーパの鋳型上端での差(即ち、鋳型上端での当該線と上テーパ面6Uとの水平距離)をXとおくと、X、Yの値を定めれば、2段テーパ短辺鋳型板2の表面形状を定めることができる。
2段テーパ短辺鋳型板2を想定し、前記図1のXの値を数種類変更し、トータルテーパ率TTを1.0〜2.0%/mの範囲、鋳片幅W(鋳造幅)を800〜2200mmの範囲で変更して、本実施形態に係る計算手法によって凝固均一度と摩擦拘束力を計算した。鋳片厚みは240mmとした。この計算結果を図4A及び図4Bに示す。図4A及び図4Bには、鋳片幅Wが(a)800mm、(b)1100mm、(c)1500mm、(d)2200mmのそれぞれについて、トータルテーパ率TTをそれぞれ1.0%/m(◆)、1.6%/m(●)の2種類とし、上下テーパ比率Rを変化させたときの摩擦拘束力の計算結果を示している。摩擦拘束力は、本実施形態に係る計算方法で計算された摩擦拘束力を各鋳片幅Wでの基準値(1段テーパでテーパ率1.0%/mの場合の摩擦拘束力)で正規化した値としている。本発明者の別途調査により知見している摩擦拘束力の限界値は2.0であり、摩擦拘束力が2.0より大であると、凝固シェル10の破断、およびシェル破断に伴うブレークアウトが発生するおそれがある。
図4のグラフより、各鋳片幅Wにおいて、摩擦拘束力が限界の2.0となる上下テーパ比率Rとトータルテーパ率TTとの関係を求めることができる。そこで、摩擦拘束力の限界値が2.0になり、かつ、上下テーパ比率Rが一定となる線を、横軸−鋳片幅、縦軸−トータルテーパ率のグラフにプロットしたものが、図5である。例えば図5において、鋳片幅Wが1000mm、トータルテーパ率TTが1.3%/mの場合を例にとると、上下テーパ比率Rが約6.0以下であれば、摩擦拘束力が2.0以下であるが、上下テーパ比率Rが約6.0を超えると、摩擦拘束力が2.0を超える結果となる。同じ幅1000mmでトータルテーパ率TTが1.52%/mである場合、上下テーパ比率Rが約5.0を超えると、摩擦拘束力が2.0を超える結果となる。
図5のグラフに基づき、限界の上下テーパ比率(RM)を鋳片幅Wとトータルテーパ率TTで定式化したのが次式(8)である。なお、限界の上下テーパ比率(RM)は、摩擦拘束力を所定の上限値(例えば0.2)以下にするための上限の上下テーパ比率Rである。従って、鋳片幅Wとトータルテーパ率TTが与えられたときに、上下テーパ比率Rを下記式(8)で求められる限界の上下テーパ比率RM以下に設定すれば、摩擦拘束力を上限値以下に制御でき、高品質の鋳片を安定鋳造可能である。 RM=−3.1×ln(W×TT 2)+29 (8) (RM(−)、TT(%/m)、W(mm))
前記計算結果より下記の2点の相関関係を新たに見出した。
第1に、トータルテーパ率TTが一定の場合は、鋳片幅Wが大きくなるほど、限界の上下テーパ比率RMが小さくなる。即ち、短辺鋳型板2のテーパ量を下記式(9)のように定義したとき、トータルテーパ率TT一定にすると、鋳片幅Wが大きい場合の方が、鋳片幅Wが小さい場合よりもテーパ量が大きくなり、テーパ面6と凝固シェル10との接触量の絶対値が大きくなり、上部の強テーパ化(上下テーパ比率大)で拘束しやすくなるからだと考えられる。
第2に、鋳片幅Wが一定の場合、トータルテーパ率TTが大きくなるほど、限界の上下テーパ比率RMが小さくなる。即ち、トータルテーパ率TTが大きくなるほど、テーパ量が増加し、凝固シェル10との接触量の絶対値が大きくなるため、上記第1と同様の理由で拘束しやすくなるためと考えられる。
ちなみに、テーパ量は、 テーパ量(m)=TT(%/m)×W0(m)×L(m) (9)と定義する。
図6に、一定のテーパ形状を有する2段テーパ短辺鋳型板2を用い、例えばトータルテーパ率を1.2%/m一定として鋳片幅を変更した場合の上下テーパ比率R、摩擦拘束力、凝固均一度の状況を示す。図6に示すように、トータルテーパ率TTを一定にして鋳片幅Wを変更した場合、上下テーパ比率Rは鋳片幅Wに応じて変化し、鋳片幅Wが狭くなるほど上下テーパ比率Rが大きくなる。そして、凝固均一度及び摩擦拘束力は、鋳片幅Wが800〜2200mmの範囲内でいずれも良好な値で推移することがわかった。即ち、多段テーパ短辺鋳型板2を用いて鋳片幅Wを変更しつつ連続鋳造を行うに際し、トータルテーパ率TTを一定に保持しつつ鋳片幅Wを変更する方法でも、前述の上下テーパ比率Rを限界値RM以下にしておけば、凝固均一度と拘束力をともに良好に保持できることがわかった。
ちなみに、トータルテーパ率TTが0.5〜2.0%/mでも、図6と同様の傾向を示すことも確認している。
次に、鋳片幅Wが1500mm、トータルテーパ率TTが2.0%/mで上下テーパ比率Rが2.0となる2段テーパ短辺鋳型板2を用い、鋳片幅Wを1500mmで固定し、トータルテーパ率TTを変化させて凝固均一度と摩擦拘束力を計算で求めた。鋳片厚みは240mmとした。その結果を図7に示す。図7から明らかなように、トータルテーパ率TTを0.5以上とすれば凝固均一度を、ほぼ0.7以上の良好な値に保持することができる。また、トータルテーパ率TTを2.0%/m以下とすれば摩擦拘束力が2.0より小さく、良好な値に保持することができる。
なお、トータルテーパ率TTが大きいほど、凝固均一度を良好にできるため、トータルテーパ率の下限値は1.0%/m以上が好ましく、1.3%/m超がより好ましい。さらに好ましくは1.35%/m以上である。
トータルテーパ率TTは、鋳片幅Wに応じて変更することも有効である。同一のトータルテーパ率TTでは、鋳片幅Wが狭い時の方が広い時よりも摩擦拘束力が小さい。また、凝固均一度は同一のトータルテーパ率TTなら、鋳片幅Wが狭い時のほうが小さいので、鋳片幅Wが狭い時ほどトータルテーパ率TTを大きくすることも有効である。
本実施形態に係る連続鋳造方法において、鋳造する鋳片厚みは、好ましくは220mm以上350mm以下である。また、より好ましくは230mm超350mm以下、さらにより好ましくは240mm以上350mm以下である。鋳片厚みが350mmを超える場合は、鋳造中に幅を変更する連続鋳造鋳型としては過大な設備を必要とし、実質的に実現困難である。また、鋳造厚みが220mm未満であると、タンディッシュから溶融金属を注入するための浸漬ノズルの直径を小さくしなければならなくなるか、大きなノズルを使う場合は鋳型との隙間が小さくなり、均一な溶融金属の注入がやや困難になる。鋳造厚みが230mm超になると均一な注入が行い易くなり、240mm以上になると均一な注入がより一層行い易くなる。
以上、短辺鋳型板2の鋳片幅Wと上下テーパ比率Rについて検討した結果について説明した。上述したように、連続鋳造における多段テーパ短辺鋳型板2の最適形状は、上下テーパ比率Rの範囲として表すことができることが判明した。
即ち、摩擦拘束力が限界値(例えば2.0)以下となるための限界の上下テーパ比率(RM)は、鋳片幅Wとトータルテーパ率TTを用いて上記式(8)で表される(図5参照)。そこで、トータルテーパ率TTが一定であれば、鋳造する鋳片幅Wに応じて、短辺鋳型板2の上下テーパ比率Rを上記式(8)で表される上下テーパ比率(RM)以下に制御すれば、鋳片幅Wに合わせて短辺鋳型板2の形状を最適化して、鋳造時の摩擦拘束力が限界値以下となるように制御できる。これにより、いずれの鋳片幅Wにおいても、鋳片幅Wに適した形状の短辺鋳型板2を用いることで、鋳型1内における凝固シェルの凝固均一度を良好に保持し、かつ、鋳型1による凝固シェルの摩擦拘束を低減しつつ、良好な鋳造が可能になる。
以上の説明は、連続鋳造の操業条件の一例である鋳片幅Wについて考察した例であるが、鋳造速度、鋼種等の他の操業条件についても、同様なことがいえる。つまり、鋳造速度等の操業条件が変更されると、短辺鋳型板2の最適なテーパ形状が変化することとなる。そこで、当該鋳造速度等の操業条件の変更に対応するために、操業条件の変更に応じて上下テーパ比率Rを制御すれば、短辺鋳型板2の形状を、変更後の操業条件に適した形状に最適化できる。これよって、操業条件の変動にかかわらず、高品質の鋳片を安定鋳造可能である。以下に、鋳造速度に応じて上下テーパ比率Rを変更する際の概要について説明する。
従来の多段テーパ短辺鋳型板、特に2段テーパ短辺鋳型板2(図1(a)参照。)において、メニスカス位置11から鋳型下端までの距離Lは概ね900mm程度であり、メニスカス位置11からテーパ変化点までの距離(変化点位置x)は300mm程度であった。そして、最高鋳造速度VMが2.5m/min程度までの鋳造速度Vを採用する場合、上下テーパ比率Rが4.0程度のテーパを採用し、凝固均一度及び摩擦拘束力の両方とも良好な鋳造を実現することができた。この点については、上記本実施形態に係る計算方法によって確認することができる。
鋳造幅Wを1100mm(狭幅)、トータルテーパ率TTを1.6%/m、2段テーパ短辺鋳型板の変化点位置xを300mm一定とし、鋳造速度Vを1.0〜3.0m/minで変化させ、2段テーパ短辺鋳型板2を屈曲させることにより上下テーパ比率Rを変化させる場合に、本実施形態に係る計算方法によって凝固均一度と摩擦拘束力を計算した。
図8に示すように、同じ上下テーパ比率Rであれば鋳造速度Vが速くなるに従って凝固均一度が改善するものの摩擦拘束力も増大する。凝固均一度と摩擦拘束力をともに良好範囲に保つためには、鋳造速度が速くなるに従って、上下テーパ比率Rを低くすることが好ましいことがわかる。凝固均一度と摩擦拘束力をともに良好に保持できる上下テーパ比率Rの範囲を鋳造速度Vごとに調べてみると、鋳造速度Vが2.0m/minでは上下テーパ比率Rの好適範囲が5.0以下、鋳造速度Vが2.5m/minでは上下テーパ比率Rの好適範囲が4.0以下、鋳造速度Vが3.0m/minでは上下テーパ比率Rの好適範囲が3.0以下という結果となった。
次に、鋳片幅Wが1100mmで凝固均一度と摩擦拘束力が良好であった短辺鋳型板形状(鋳造速度が3.0m/minの範囲までで最適化した上下テーパ比率3.0の鋳型形状)を用い、鋳片幅Wを2200mmと広幅にした。幅Wを変更するに際し、トータルテーパ率TTを1.6%/mのまま保持したところ、幅2200mmで上下テーパ比率Rは1.7となった。
図9に示すように、鋳片幅2200mm(広幅)について本実施形態に係る計算方法によって凝固均一度と摩擦拘束力を計算したところ、トータルテーパ率TTを一定で保持したまま、鋳片幅Wを広げた場合は、鋳造速度が3.0m/minでは上下テーパ比率Rの好適範囲が低下して、1.7未満となり、凝固均一度も低下することがわかった。即ち、鋳片幅Wが1100mmにおいて鋳造速度Vが3.0m/minまでの高速鋳造について最適化した鋳型において、鋳造幅Wを2200mmの広幅とすると、最適範囲から外れることがわかった。
以下の検討結果を踏まえ、本実施形態に係る連続鋳造方法では、以下に詳述するように、短辺駆動機構を用いて、操業条件の変更に応じて鋳造中に短辺鋳型板2を屈曲させることにより、短辺鋳型板2の上下テーパ比率Rを、変更後の操業条件に適した最適な値に変更して、高品質の鋳片を安定的に鋳造しようとするものである。
さらに、本実施形態では、上下テーパ比率Rを変更するに際し、操業条件の変更の前後で、鋳型1内の凝固シェルの凝固均一度の変動量と、当該凝固シェルに対する摩擦拘束力の変動量が所定範囲内(例えば双方の変動量が1%以下)となるように、上下テーパ比率Rを変更する。これにより、操業条件を変動させても、凝固均一度及び摩擦拘束力をほぼ一定に維持できるため、凝固均一度及び摩擦拘束力が各々の限界値を超えることがない。よって、操業条件の変動にかかわらず、鋳片の割れ、ブレークアウト等を起こすことなく、高品質の鋳片を安定して連続鋳造できる。
[4.鋳造速度に応じた連続鋳造方法]
次に、図10を参照して、本実施形態に係る連続鋳造方法において、鋳造速度に応じて鋳造中に短辺鋳型板2を屈曲させて上下テーパ比率Rを変更する手法について詳細に説明する。図10は、鋳片幅W=1150mm、変化点位置x=200mm、トータルテーパ率TT=1.2%/mにおいて、上下テーパ比率Rと鋳造速度Vを変更したときの凝固均一度、摩擦拘束力の変化を示す図である。なお、凝固均一度、摩擦拘束力は、上記本実施形態に係る計算方法で求めた値である。
図10に示すように、鋳造速度Vに応じて、摩擦拘束力及び凝固均一度は変化する。従って、鋳造速度Vは、連続鋳造における凝固シェル10(図2参照。)の摩擦拘束力及び凝固均一度の双方に影響を及ぼす操業条件であることが分かる。しかも、この鋳造速度Vは、高品質の鋳片を安定鋳造する観点からは、摩擦拘束力と凝固均一度に相反する影響を及ぼす操業条件である。
即ち、例えば、図10の波線楕円で示すように、上下テーパ比率Rを例えば1.54に固定した鋳型で操業したときに、鋳造速度Vを増加させると、凝固均一度は増加するが、摩擦拘束力も増加してしまうので、高品質の鋳片を安定鋳造する観点からは、望ましくない。一方、同様な条件で、鋳造速度Vを低下させると、摩擦拘束力は低下するが、凝固均一度も低下してしまうので、高品質の鋳片を安定鋳造する観点からは、望ましくない。このように鋳造速度Vを変更すると、凝固均一度と摩擦拘束力とが、高品質の鋳片を安定鋳造する上で相反する関係になるため、操業中に鋳造速度Vを安易に変更することはできない。
そこで、本件発明者が鋭意研究したところ、上記鋳造速度Vの増減にかかわらず、上記相反する関係にある摩擦拘束力及び凝固均一度を、極力一定になるように制御することができれば、過度に優れた摩擦拘束力又は凝固均一度は得られないものの、摩擦拘束力及び凝固均一度のいずれもが悪い値にならないため、凝固シェル10の割れやブレークアウト等を防止でき、高品質の鋳片を安定鋳造できることを見出した。そのためには、鋳造速度Vに応じて鋳造中に、短辺鋳型板2をテーパ変化点Pで折り曲げることで、上下テーパ比率Rを適切な値に変更すれば、十分に高品質の鋳片を鋳造できることが判明した。
例えば、図10に示すように、上下テーパ比率R0=1.54、鋳造速度V0=1.5(m/min)の条件で連続鋳造を操業しているときは、凝固均一度は約0.8668、摩擦拘束力は約1.7である。かかる操業中に、鋳造速度Vを1.5から2.0(m/min)に増加させたときには、図10の実線楕円で示すように、上下テーパ比率Rを元の1.54から1.38まで低下させれば、凝固均一度は、元の約0.8668のままで高レベルを維持できるとともに、摩擦拘束力は、元の約1.7から約1.75まで微増する程度であり、依然として低レベルを維持できる。また、同様に鋳造速度Vを1.5から2.0(m/min)に増加させたときに、上下テーパ比率Rを元の1.54から1.25まで低下させれば、摩擦拘束力は、元の約1.7のままで低レベルを維持できるとともに、凝固均一度は、元の約0.8668から約0.8553まで微減する程度であり、依然として高レベルを維持できる。
一方、これとは逆に、上記条件での操業中に、鋳造速度Vを1.5から1.0(m/min)に減少させたときには、図10の実線楕円で示すように、上下テーパ比率Rを元の1.54から1.75まで上昇させれば、凝固均一度は、元の約0.8668のままで高レベルを維持できるとともに、摩擦拘束力は、元の約1.7から約1.67まで低下させて、更に低レベルにすることができる。また、同様に鋳造速度Vを1.5から1.0(m/min)に減少させたときに、上下テーパ比率Rを元の1.54から1.85まで上昇させれば、摩擦拘束力は、元の約1.7のままで低レベルを維持できるとともに、凝固均一度は、元の約0.8668から約0.8722まで増加させて更に高レベルにすることができる。
このように、鋳造速度Vを変更した場合であっても、その鋳造速度Vの増減に応じて鋳造中に上下テーパ比率Rを減増させることで、摩擦拘束力及び凝固均一度をほぼ一定に維持できることが分かる。そこで、本実施形態に係る連続鋳造方法では、鋳造速度Vが増加したときには、鋳造中に短辺鋳型板2の屈曲を緩めて、テーパ変化点Pでの折り曲げ度合いを小さくすることで、上下テーパ比率Rを減少させる。これによって、凝固均一度を高レベルに維持しつつ、摩擦拘束力の増加も抑制できる。一方、鋳造速度Vが減少したときには、鋳造中に短辺鋳型板2を屈曲させて、テーパ変化点Pでの折り曲げ度合いを大きくすることで、上下テーパ比率Rを増加させる。これによって、摩擦拘束力を低レベルに維持しつつ、凝固均一度の低下も抑制できる。
鋳造速度Vの増加に応じて短辺鋳型板2の上下テーパ比率Rを減少させる理由は、次の通りである。連続鋳造中に鋳造速度Vが増加する場合、鋳型1内の凝固シェル10の鋳片幅方向の収縮量が低鋳造速度時に対して小さくなる。このため、元の上下テーパ比率Rのままでは、テーパ変化点Pの近傍で、凝固シェル10に対する短辺鋳型板2の当たりが強くなり、摩擦拘束力が増大する。そこで、本実施形態では、連続鋳造中に、鋳造速度Vの増加に応じて、上下テーパ比率Rを減少させる。これにより、凝固シェル10に対する短辺鋳型板2の当たりを弱めて、摩擦拘束力の増加を抑制できるので、凝固シェル10の割れやブレークアウトを防止できるようになる。
一方、鋳造速度Vの減少に応じて短辺鋳型板2の上下テーパ比率Rを増加させる理由は、次の通りである。連続鋳造中に鋳造速度Vが減少する場合、鋳型1内で凝固シェル10の鋳片幅方向の収縮量が増加し、この幅方向の収縮量の増加は、短辺中央部よりも鋳型コーナー部の方が激しい。このため、特に、当該コーナー部において、凝固シェル10と短辺鋳型板2との間にギャップが生じる。当該ギャップが熱抵抗層となることで、短辺鋳型板2による凝固シェル10の抜熱が阻害されるため、凝固均一度が低下してしまう。そこで、本実施形態では、連続鋳造中に、鋳造速度Vの減少に応じて、上下テーパ比率Rを増加させる。これにより、特にテーパ変化点P付近で、凝固シェル10に対して短辺鋳型板2を好適に接触させて、熱抵抗層であるギャップを狭めることができる。従って、短辺鋳型板2により凝固シェル10が好適に抜熱されて、凝固シェル10の凝固が促進されるため、凝固均一度が高まり、凝固シェルの割れやブレークアウトを防止できるようになる。
ここで、鋳造速度Vの変動に応じて鋳造中に上下テーパ比率Rを好適な値に制御するときのRの制御量について説明する。図10の結果から分かるように、鋳造速度Vが0.5(m/min)増減に対して、上下テーパ比率Rを最大で0.3程度、減増させればよく、このときの鋳造速度Vの単位変化当たりの上下テーパ比率Rの変化量は、R/V=0.3/0.5=0.6(min/m)以下となる。つまり、鋳造速度V0、上下テーパ比率R0で連続鋳造している状態から、鋳造速度Vを減少させる場合は下記(10)式を満たし、鋳造速度Vを増加させる場合は下記(11)式を満たすように、短辺鋳型板2を屈曲させて上下テーパ比率Rを変更すればよい。
R0<R≦−0.6(V−V0)+R0 :V<V0 (10)
R0>R≧−0.6(V−V0)+R0 :V>V0 (11)
ただし、上述した理由から、以下の(14)式のように、上下テーパ比率Rの最大値は、上記式(8)で得られるRM、Rの最小値は1.0(即ち、1段テーパ)とすることが好ましい。
1≦R≦RM=−3.1×ln(W×TT 2)+29 (12)
(RM(−)、TT(%/m)、W(mm))
例えば、図10に示したように、上下テーパ比率R0=1.54、鋳造速度V0=1.5(m/min)の条件で連続鋳造を操業している状態から、鋳造速度をV0からVに増加又は減少させる場合は、上記(10)及び(11)式にR0=1.54、V0=1.5を代入すると、それぞれ以下の(13)及び(14)式が得られる。また、上記(12)式に、鋳片幅W=1150(mm)、トータルテーパ率TT=1.2(%/m)を代入すると、RM=となり、以下の(15)式が得られる。
1.54<R≦2.44−0.6V :V<1.5 (13)
1.54>R≧2.44−0.6V :V>1.5 (14) 1≦R≦RM≒6.0 (15)
(RM(−)、V(m/min))
図11は、上記(13)、(14)及び(15)式に従った上下テーパ比率Rと鋳造速度Vの関係を示す図である。図11に示すように、上下テーパ比率R0=1.54(、鋳造速度V0=1.5(m/min)で連続鋳造している状態から、鋳造速度Vを増加又は減少させる場合には、図11の斜線範囲内に含まれるように上下テーパ比率Rを減少又は増加させる。これにより、上下テーパ比率Rを変化させない場合よりも、摩擦拘束力、凝固均一度の変動幅を抑えることができる。特に、変更後の鋳造速度Vに応じて鋳造中に、上下テーパ比率Rを、図11の直線(R=2.44−0.6V)上若しくはその近傍の値に変更することで、鋳造速度V変更前と比べてほぼ一定の摩擦拘束力、凝固均一度を得ることが可能になる。なお、図11においても、(15)式に従い、上下テーパ比率Rの最大値を6.0、最小値を1としている。また、連続鋳造における現実的な鋳造速度Vの範囲は、例えば0.5〜3.75(m/min)である。
また、上記のように鋳造速度Vに応じて短辺鋳型板2を屈曲させるタイミングは、次の通りである。本実施形態では、鋳造速度Vに応じた短辺鋳型板2の屈曲は、鋳型1内への溶鋼の注入中断中でも、再注入後に鋳造速度Vが定常速度になったときでも実行可能である。
例えば、まず、短辺鋳型板2と長辺鋳型板3を組み立てて鋳型1を設置した後、当該鋳型1内に溶鋼を注入開始する前に、該当チャージで予定されている平均鋳造速度に適した上下テーパ比率Rとなるように短辺鋳型板2を屈曲させる。次いで、鋳型1内への溶鋼の注入開始後に、鋳型1を用いて実際に鋳片を鋳造する鋳造期間において、鋳型1を用いた実際の鋳造速度Vに応じて、短辺鋳型板2を屈曲させて、上下テーパ比率Rを微調整する。これにより、鋳造速度Vが定常速度になってから、鋳造速度Vの変動に追従して、上下テーパ比率Rをリアルタイムで適正値に変更できる。従って、鋳造速度Vの変動に柔軟に対応できるので、実際の鋳造期間において、意図した或いは不測の鋳造速度Vの変動が生じても、上下テーパ比率Rを最適化して、高品質の鋳片を鋳造できる。
以上のように、鋳造速度Vを変更した場合であっても、その鋳造速度Vに応じて短辺鋳型板2の屈曲度合いを変更して上下テーパ比率Rを増減させることで、摩擦拘束力及び凝固均一度をほぼ一定(例えば1%程度の変動量)に維持することができる。従って、鋳造速度Vの変動にかかわらず、摩擦拘束力及び凝固均一度の双方を適正範囲内に維持することができるので、鋳造中に凝固シェル100の割れやブレークアウトを発生させることなく、高品質の鋳片を安定して鋳造できる。
なお、上記図10及び図11を用いた説明では、鋳片幅W=1150mm、変化点位置x=200mm、トータルテーパ率TT=1.2%/mの例を挙げて説明したが、上下テーパ比率Rと摩擦拘束力や凝固均一度との関係は、他の条件でも同様である。
[5.溶融金属の炭素濃度に応じた連続鋳造方法]
次に、図12を参照して、本実施形態に係る連続鋳造方法において、溶融金属の炭素濃度に応じて、鋳造速度に応じて鋳造中に短辺鋳型板2を屈曲させて上下テーパ比率Rを変更する手法について詳細に説明する。図12は、鋳片幅W=1150mm、変化点位置x=200mm、トータルテーパ率TT=1.2%/mにおいて、上下テーパ比率Rと、溶融金属(例えば溶鋼)の炭素濃度Cを変更したときの凝固均一度、摩擦拘束力の変化を示す図である。
図12に示すように、鋳造される溶鋼の種別、例えば、溶鋼中の炭素濃度Cに応じて、摩擦拘束力及び凝固均一度は変化する。従って、炭素濃度Cは、連続鋳造における凝固シェル10(図2参照)の摩擦拘束力及び凝固均一度の双方に影響を及ぼす操業条件であることが分かる。しかも、上記鋳造速度Vと同様に、この炭素濃度Cは、高品質の鋳片を安定鋳造する観点からは、摩擦拘束力と凝固均一度に相反する影響を及ぼす操業条件である。
即ち、例えば、図12の波線楕円で示すように、上下テーパ比率Rを例えば1.54に固定した鋳型で操業したときに、炭素濃度Cが0.12(質量%)であるときには、摩擦拘束力及び凝固均一度は最低値となり、炭素濃度Cが0.05及び0.2で摩擦拘束力及び凝固均一度が最大値となる。
図13に、上下テーパ比率Rを4.0、変化点位置xを200mmとしたときの凝固均一度と炭素濃度Cの関係を示す。図13に示すように、炭素濃度Cが0.12(質量%)近傍で、凝固均一度が最小値(例えば0.8925)となる。これは、炭素濃度Cが0.12のときに、溶鋼のδ→γ変態による収縮量が最も多いからと考えられる。また、炭素濃度Cが0.12から離れるにつれて凝固均一度は徐々に増加し、炭素濃度Cが0.05以下又は0.2以上となると、摩擦拘束力及び凝固均一度が最大値(例えば0.9025)でほぼ一定となる。
以上のように、溶鋼中の炭素濃度Cに応じて、摩擦拘束力及び凝固均一度はともに増減する。このため炭素濃度Cを変更すると、凝固均一度と摩擦拘束力とが、高品質の鋳片を安定鋳造する上で相反する関係になるため、操業中に炭素濃度Cを安易に変更することはできない。
そこで、本実施形態では、上記鋳造速度Vと同様に、鋳造される溶鋼の炭素濃度Cに応じて、短辺鋳型板2をテーパ変化点Pで折り曲げることで、上下テーパ比率Rを適切な値に変更することにより、上記相反する関係にある摩擦拘束力及び凝固均一度の双方を、極力一定になるように制御することができるので、十分に高品質の鋳片を鋳造できることが判明した。
例えば、図12に示すように、上下テーパ比率R0=1.54で、炭素濃度C0=0.05(質量%)の溶鋼を連続鋳造中に、供給される溶鋼の炭素濃度Cが0.05から0.12に増加する場合、図12の実線楕円で示すように、上下テーパ比率Rを元の1.54から1.73又は1.85まで増加させれば、変更前後で摩擦拘束力及び凝固均一度をほぼ同一レベルに維持することができる。また、これとは逆に、上下テーパ比率R0=1.85で、炭素濃度C0=0.12(質量%)の溶鋼を連続鋳造中に、供給される溶鋼の炭素濃度Cが0.12から0.05に減少する場合、又は、Cが0.12から0.2に増加する場合、図12の実線楕円で示すように、上下テーパ比率Rを元の1.85から1.54まで減少させれば、変更前後で摩擦拘束力をほぼ一定に維持しつつ、凝固均一度を大幅に低下させることなく高レベルに維持することができる。
以上から、炭素濃度Cを変更した場合であっても、その炭素濃度Cに応じて鋳造中に上下テーパ比率Rを増減させることで、摩擦拘束力及び凝固均一度をほぼ一定に維持できることが分かる。このため、本実施形態に係る連続鋳造方法では、炭素濃度Cの増減に応じて鋳造中に、鋳造中に短辺鋳型板2の屈曲度合いを制御することで、上下テーパ比率Rを変更する。
具体的には、例えば、炭素濃度Cが0.05質量%超〜0.2質量%未満の範囲内であるときに、C=0.12をピークとして、鋳造中に短辺鋳型板2を屈曲させて、テーパ変化点Pでの折り曲げ度合いを大きくすることで、上下テーパ比率Rを増加させる。このとき、炭素濃度Cが0.12質量%の時に、短辺鋳型板2を大きく屈曲させて屈曲度合いを最大にし、短辺鋳型板2の上下テーパ比率Rを最大値とする。この上下テーパ比率Rは、上記(8)式で得られる限界値RM以下の値に設定される。また、炭素濃度Cが0.09、0.15質量%の時には、短辺鋳型板2をある程度屈曲させて、上下テーパ比率Rを上記最大値以下の所定まで増加させる。一方、炭素濃度Cが0.05質量%以下、又は、0.2質量%以上であるときには、短辺鋳型板2の屈曲度合いを緩めて、短辺鋳型板2の上下テーパ比率Rを通常値(例えば1.54)に維持する。
また、上記のように鋼種(例えば溶鋼の炭素濃度C)に応じて短辺鋳型板2を屈曲させるタイミングは、次の通りである。一般に、鋳型1内へ溶鋼を注入しながら当該鋳型1を用いて実際に鋳片を鋳造する鋳造期間に、注入される鋼種が突然変更されることはない。そこで本実施形態では、鋼種に応じた短辺鋳型板2の屈曲は、鋳型1内への溶鋼の注入開始前、又は、注入中断中に実行される。
例えば、まず、短辺鋳型板2と長辺鋳型板3を組み立てて鋳型1を設置した後、当該鋳型1内に溶鋼を注入開始する前に、該当チャージの鋼種に適した上下テーパ比率Rとなるように短辺鋳型板2を屈曲させる。次いで、短辺鋳型板2を当該適した上下テーパ比率Rに固定した状態で、該当チャージを連続鋳造する。その後、次のチャージを連続鋳造するに際し、当該次のチャージの鋼種が前回の鋼種から変更される場合、一旦、鋳型1内への溶鋼の注入を中断し、成分の異なる溶鋼が混合しないようにするための処置を実施する。この注入中断時に、次のチャージの鋼種に適した新たな上下テーパ比率Rとなるように短辺鋳型板2を屈曲させる。その後、変更後の鋼種の溶鋼を鋳型1に再注入開始して、当該次のチャージを、当該新たな上下テーパ比率Rのままで連続鋳造する。
このように鋼種に応じた短辺鋳型板2の屈曲は、上記「鋳造中」のうち溶鋼を鋳型1内に注入しない期間(即ち、実際の鋳造期間以外の期間)に実行される。なお、以上のように溶鋼の鋼種を変更する場合、溶鋼の注入中断中であっても、再注入後に鋳造速度Vが定常速度になった後でも、上述した鋳造速度Vに応じた短辺鋳型板2の屈曲を実行することは可能である。
以上のように、溶鋼の炭素濃度Cが変化する場合であっても、その炭素濃度Cに応じて鋳造中に、短辺鋳型板2を屈曲させる、或いは屈曲を緩めることにより、上下テーパ比率Rを増減させることで、摩擦拘束力及び凝固均一度をほぼ一定に維持することができる。従って、炭素濃度Cの変動にかかわらず、摩擦拘束力及び凝固均一度の双方を適正範囲内に維持することができるので、鋳造中に凝固シェル100の割れやブレークアウトを発生させることなく、高品質の鋳片を安定して鋳造できる。
[6.短辺鋳型板の面平均抜熱流束に応じた連続鋳造方法]
次に、図14を参照して、本実施形態に係る連続鋳造方法において、短辺鋳型板2の面平均抜熱流束に応じて、鋳造中に短辺鋳型板2を屈曲させて上下テーパ比率Rを変更する手法について詳細に説明する。図14は、鋳片幅W=1150mm、変化点位置x=200mm、トータルテーパ率TT=1.2%/m、鋳造速度V=1.5m/minにおいて、上下テーパ比率Rと面平均抜熱流束qを変更したときの凝固均一度、摩擦拘束力の変化を示す図である。図14中の凝固均一度、摩擦拘束力は、上記本実施形態に係る計算方法で求めた値である。
なお、短辺鋳型板2の面平均抜熱流束qは、連続鋳造中に鋳型1内の溶融金属及び凝固シェル10から、短辺鋳型板2を通じて、鋳型1を冷却する冷却水に抜熱される熱量を、短辺鋳型板2のメニスカス位置から鋳型1下端までの面積Aで除した値を意味する。当該面平均抜熱流束qは、冷却水が鋳型1に入る時の温度Tinと出る時の温度Toutの差と、該冷却水の流量Qwから、下記の式(16)で計算することができる。
q=ρ×(Tout−Tin)×Qw×Cp/A (16)
q:短辺鋳型板の面平均抜熱流束(W/m2)
ρ:冷却水の密度(kg/m3)
Tin:冷却水の入側温度(K)
Tout:冷却水の出側温度(K)
Qw:冷却水流量(鋳型短辺)(m3/s)
Cp:冷却水の比熱(J/kg/K)
A:短辺鋳型板のメニスカス位置から鋳型下端までの面積(m2)
A=鋳片厚みD(m)×メニスカス位置から鋳型下端までの距離L(m)
なお、鋳片厚みDは短辺鋳型板2の幅に相当する。
図14に示すように、短辺鋳型板2の面平均抜熱流束qに応じて、摩擦拘束力及び凝固均一度は変化する。従って、面平均抜熱流束qは、連続鋳造における凝固シェル10(図2参照。)の摩擦拘束力及び凝固均一度の双方に影響を及ぼす操業条件であることが分かる。しかも、この面平均抜熱流束qは、高品質の鋳片を安定鋳造する観点からは、摩擦拘束力と凝固均一度とに相反する影響を及ぼす操業条件である。
即ち、例えば、図14の波線楕円で示すように、変化点位置xを例えば200mmに固定した鋳型で操業したときに、面平均抜熱流束qが増加すると、凝固均一度は増加するが、摩擦拘束力も増加してしまうので、高品質の鋳片を安定鋳造する観点からは、望ましくない。一方、同様な条件で、面平均抜熱流束qが低下すると、摩擦拘束力は低下するが、凝固均一度も低下してしまうので、高品質の鋳片を安定鋳造する観点からは、望ましくない。このように面平均抜熱流束qが変化すると、凝固均一度と摩擦拘束力とが、高品質の鋳片を安定鋳造する上で相反する関係になるため、操業中に面平均抜熱流束qの変化に応じて対策を講じることが好ましい。
そこで、本件発明者が鋭意研究したところ、上記面平均抜熱流束qの増減にかかわらず、上記相反する関係にある摩擦拘束力及び凝固均一度を、極力一定になるように制御することができれば、過度に優れた摩擦拘束力又は凝固均一度は得られないものの、摩擦拘束力及び凝固均一度のいずれもが悪い値にならないため、凝固シェル10の割れやブレークアウト等を防止でき、高品質の鋳片を安定鋳造できることを見出した。そのためには、面平均抜熱流束qに応じて鋳造中に、短辺鋳型板2をテーパ変化点Pで折り曲げることで、上下テーパ比率Rを適切な値に変更すれば、十分に高品質の鋳片を鋳造できることが判明した。
例えば、図14に示すように、上下テーパ比率R0=1.54、面平均抜熱流束qが基準値q0(例えば、q0=1.2×106(W/m2))の条件で連続鋳造を操業しているときは、凝固均一度は約0.8668、摩擦拘束力は約1.7である。ここで、メニスカス位置から鋳型1下端までの距離L=0.8m、鋳造速度V=1.5m/minのときは、面平均抜熱流束qの基準値q0は、下記(17)式により、概略次の値になる。
q0=1.0×106×(0.8/1.5)−0.344=1.2×106(W/m2)
かかる操業中に、面平均抜熱流束qがq0からq1に増加したときには(例えば、q1=1.3×106(W/m2)、q1/q0=1.1)、図14の実線楕円で示すように、上下テーパ比率Rを元の1.54から1.38まで低下させれば、凝固均一度は、元の約0.8668のままで高レベルを維持できるとともに、摩擦拘束力は、元の約1.7から約1.75まで微増する程度であり、依然として低レベルを維持できる。また、同様に面平均抜熱流束qがq0からq1に増加したときに、上下テーパ比率Rを元の1.54から1.25まで低下させれば、摩擦拘束力は、元の約1.7のままで低レベルを維持できるとともに、凝固均一度は、元の約0.8668から約0.8553まで微減する程度であり、依然として高レベルを維持できる。
一方、これとは逆に、上記条件での操業中に、面平均抜熱流束qがq0からq2に減少したときには(例えば、q2=1.0×106(W/m2)、q2/q0=0.87)、図14の実線楕円で示すように、上下テーパ比率Rを元の1.54から1.75まで上昇させれば、凝固均一度は、元の約0.8668のままで高レベルを維持できるとともに、摩擦拘束力は、元の約1.7から約1.67まで低下させて、更に低レベルにすることができる。また、同様に面平均抜熱流束qがq0からq2に減少したときに、上下テーパ比率Rを元の1.54から1.85まで上昇させれば、摩擦拘束力は、元の約1.7のままで低レベルを維持できるとともに、凝固均一度は、元の約0.8668から約0.8722まで増加させて更に高レベルにすることができる。
このように、短辺鋳型板2の面平均抜熱流束qが変化した場合であっても、その面平均抜熱流束qの増減に応じて鋳造中に上下テーパ比率Rを減増させることで、摩擦拘束力及び凝固均一度をほぼ一定に維持できることが分かる。そこで、本実施形態に係る連続鋳造方法では、面平均抜熱流束qが増加したときには、鋳造中に短辺鋳型板2の屈曲を緩めて、テーパ変化点Pでの折り曲げ度合いを小さくすることで、上下テーパ比率Rを減少させる。これによって、凝固均一度を高レベルに維持しつつ、摩擦拘束力の増加も抑制できる。一方、面平均抜熱流束qが減少したときには、鋳造中に短辺鋳型板2を屈曲させて、テーパ変化点Pでの折り曲げ度合いを大きくすることで、上下テーパ比率Rを増加させる。これによって、摩擦拘束力を低レベルに維持しつつ、凝固均一度の低下も抑制できる。
ここで、短辺鋳型板2の面平均抜熱流束qの変動に応じて、鋳造中に上下テーパ比率Rを好適な値に制御するときのRの制御量について説明する。図14の結果から分かるように、例えば、面平均抜熱流束qが基準値q0に対して10%増減に対して、上下テーパ比率Rを最大で0.3程度、減増させればよい。ただし、上述した理由から、上下テーパ比率Rの最大値は、上記式(8)で得られるRM、Rの最小値は1.0(即ち、1段テーパ)とすることが好ましい。
また、短辺鋳型板2を通じた面平均抜熱流束q(W/m2)は、短辺鋳型板2を冷却するための冷却水の入側と出側の温度差、又は、短辺鋳型板2に設けられた温度差センサ(例えば熱電対)の検出値から計算することができる。また、面平均抜熱流束q(W/m2)は、鋼種や鋳造条件によっても異なるが、例えば、鋳造速度V(m/min)と、メニスカス位置から鋳型下端までの距離L(m)をパラメータとして以下の式(17)で求められる。
q=1.0*106*(L/V)−0.344 (17)
さらに、面平均抜熱流束qは鋳造速度Vに応じて増減し、例えば、鋳造速度Vが減少すれば、面平均抜熱流束qは減少する。しかし、鋳造速度Vが一定である定常状態においても、面平均抜熱流束qが変化するときがある。例えば、鋳型1と凝固シェル10(鋳片)との間の潤滑のために投入されるパウダーの流入状態が変わると、パウダーの厚みによって面平均抜熱流束qが変動する。また、鋳型1の短辺鋳型板2と凝固シェル10(鋳片)との間の接触状態によっても、面平均抜熱流束qが変動する。このように、非定常的な要因によって、鋳造速度Vが一定であっても、面平均抜熱流束qが変動することがある。かかる場合に、上述したように面平均抜熱流束qの増減に応じて鋳造中に上下テーパ比率Rを制御すれば、摩擦拘束力を増加させることなく、凝固均一度を維持できる。
また、上記のように面平均抜熱流束qに応じて短辺鋳型板2を屈曲させるタイミングは、次の通りである。本実施形態では、面平均抜熱流束qに応じた短辺鋳型板2の屈曲は、鋳型1内への溶鋼の注入中断中でも、再注入後に面平均抜熱流束qが定常状態になったときでも実行可能である。
まず、連続鋳造装置において、それぞれの鋼種、鋳造条件ごとに、鋳造中の冷却水の温度差、熱電対の検出値等を測定して、短辺鋳型板2の面平均抜熱流束qの基準値q0を予め設定しておく。次いで、短辺鋳型板2と長辺鋳型板3を組み立てて鋳型1を設置した後、当該鋳型1内に溶鋼を注入開始する前に、該当チャージで予定されている鋼種や鋳造条件に応じて、最適な面平均抜熱流束qを求め、当該面平均抜熱流束qに適した上下テーパ比率Rとなるように短辺鋳型板2を屈曲させる。次いで、鋳型1内への溶鋼の注入開始後に、鋳型1を用いて実際に鋳片を鋳造する鋳造期間において、実際に短辺鋳型板2の面平均抜熱流束qを測定しながら、該測定された面平均抜熱流束qに応じて、短辺鋳型板2を屈曲させて、上下テーパ比率Rを微調整する。これにより、面平均抜熱流束qが定常速度になってから、面平均抜熱流束qの変動に追従して、上下テーパ比率Rをリアルタイムで適正値に変更できる。従って、面平均抜熱流束qの変動に柔軟に対応できるので、実際の鋳造期間において、上記非定常要因による面平均抜熱流束qの変動が生じても、上下テーパ比率Rを最適化して、高品質の鋳片を鋳造できる。
以上のように、面平均抜熱流束qを変更した場合であっても、その面平均抜熱流束qに応じて短辺鋳型板2の屈曲度合いを変更して上下テーパ比率Rを増減させることで、摩擦拘束力及び凝固均一度をほぼ一定(例えば1%程度の変動量)に維持することができる。従って、面平均抜熱流束qの変動にかかわらず、摩擦拘束力及び凝固均一度の双方を適正範囲内に維持することができるので、鋳造中に凝固シェル100の割れやブレークアウトを発生させることなく、高品質の鋳片を安定して鋳造できる。
なお、上記図14を用いた説明では、鋳片幅W=1150mm、変化点位置x=200mm、トータルテーパ率TT=1.2%/m、鋳造速度V=1.5m/minの例を挙げて説明したが、上下テーパ比率Rと摩擦拘束力や凝固均一度との関係は、他の条件でも同様である。
[7.連続鋳造装置(多段テーパ短辺)の構成]
次に、上述した本実施形態に係る連続鋳造方法を実行する連続鋳造装置について説明する。図15は、本実施形態に係る連続鋳造装置の構成を示す図である。なお、図15では、説明の便宜上、連続鋳造装置の一側の短辺鋳型板2周辺の構成のみを示しているが、他側にも対称な構成を具備しているものとする。
図15に示すように、本実施形態に係る連続鋳造装置は、連続鋳造鋳型1(以下「鋳型1」ともいう。)と、短辺駆動機構4とを備える。鋳型1は、鋳造方向に相異なる2以上の短辺テーパ率(単位:%/m)を有する一対の多段テーパ短辺鋳型板2と、当該一対の短辺鋳型板2をその幅方向両側から挟み込む一対の長辺鋳型板3(図15では図示せず。図3参照。)とからなる。長辺鋳型板3及び短辺鋳型板2は、それぞれ2枚で1組を構成し、凝固シェル10に面する側(テーパ面6側)が水冷銅板21、その反対面を鋼製のバックフレーム22とすると良い。短辺鋳型板2の幅が鋳造する鋳片の厚みにほぼ等しく、一対の短辺鋳型板2の下端部の間隔が鋳造する鋳片の幅(鋳片幅W)にほぼ等しい。短辺鋳型板2のテーパ面6は、テーパ率が大きい上テーパ面6Uと、テーパ率が小さい下テーパ面6Lとからなり(上テーパ率TU>下テーパ率TL)、上テーパ面6Uと下テーパ面6Lの境界がテーパ変化点Pとなる。かかる一対の短辺鋳型板2を対向配置して一対の長辺鋳型板3で挟み込むことにより、矩形の鋳造空間を有する鋳型1が形成される。
本実施形態に係る短辺鋳型板2は、上下テーパ比率Rを可変とするために上下分割式の構造となっている。即ち、短辺鋳型板2の水冷銅板21は、上側銅板21aと下側銅板21bとに分割されており、該短辺鋳型板2のバックフレーム22も、上側バックフレーム22aと下側バックフレーム22bとに分割されている。上側銅板21aと下側銅板21bとの合わせ面は、半円弧断面となっており、上側銅板21aは下側銅板21bに対して回動可能に接合されている。例えば、上側銅板21aの下端面は、断面半円弧状の凹曲面となっており、下側銅板21bの上端面は、断面半円弧状の凸曲面となっており、これら両端面は、スラスト力を受けて隙間なく接合する。かかる構造により、上側銅板21aと下側銅板21bの接合部を、可変テーパの折れ支点として、上側銅板21aを下側銅板21bに対して回動できる。これにより、上側銅板21aの上テーパ面6Uの傾きを変えて、上テーパ率TUを変化させることができる。また、上側バックフレーム22aと下側バックフレーム22bは、上側銅板21a、下側銅板21bの背面側にそれぞれ取り付けられている。かかる上側バックフレーム22aと下側バックフレーム22bの間には、上記銅板21a、21bの接合部に対応する高さ位置に、隙間23が形成されている。
以上のような構成の短辺鋳型板2は、上側銅板21aが下側銅板21bに対して回動自在な構造であるので、上側銅板21aの傾斜量(上テーパ量)と下側銅板21bの傾斜量(下テーパ量)を、個別に変えることができる。従って、短辺鋳型板2をテーパ変化点Pで折り曲げて、上下テーパ比率Rを自在に変更することができる。
短辺駆動機構4は、短辺鋳型板2を鋳片幅方向に進退、傾動、屈曲させるための機構である。この短辺駆動機構4は、鋳片幅Wを変えるために短辺鋳型板2を水平移動(鋳片幅方向に移動)させる短辺移動機構と、短辺鋳型板2のトータルテーパ率TTを変えるために短辺鋳型板2を傾動させる短辺傾動機構と、短辺鋳型板2の上下テーパ比率Rを変えるために短辺鋳型板2を屈曲させる短辺屈曲機構と、これら機構を制御する制御装置5を備える。
詳細には、短辺駆動機構4は、例えば、短辺鋳型板2を水平移動させるための1つのアクチュエータ7と、短辺鋳型板2を傾動及び屈曲させるための2つのアクチュエータ8、9と、これらアクチュエータ7、8、9を制御する制御装置5と、を備える。アクチュエータ7、8、9は、例えば図示のように、電動シリンダ、油圧シリンダなどを用いることができるが、かかる例に限定されず、短辺駆動機構は電動モータ等の任意の駆動装置を用いてもよい。
水平移動用のアクチュエータ7は、短辺鋳型板2を水平方向に移動させるための駆動力を発生するように水平姿勢で設置される。当該アクチュエータ7の先端部は、可動基台30の後端部にヒンジ部31を介して回動可能に連結されている。可動基台30は、ヒンジ部32を介して第1連結部材33の下部側に回動可能に連結されており、当該第1連結部材33は、短辺鋳型板2の下側バックフレーム22bに連結されている。これにより、アクチュエータ7を駆動させることで、可動基台30及び第1連結部材33を介して短辺鋳型板2を水平方向に移動(鋳片幅方向に進退)させることができる。
また、第1連結部材33の後部側には第2連結部材34が設けられている。第2連結部材34は、水平部34aと垂直部34bとからなり、逆L字形の断面形状を有する。アクチュエータ8は、可動基台30と第2連結部材34との間に、ほぼ垂直姿勢で配設される。アクチュエータ8の上端は第2連結部材34の水平部34aの下面側に対して、ヒンジ部35により回動可能に連結され、アクチュエータ8の下端は可動基台30の上面に対して、ヒンジ部36により回動可能に連結される。
さらに、短辺鋳型板2の上側バックフレーム22aには、背面方向に延設される第3連結部材37が連結されている。第3連結部材37と第1連結部材により、短辺鋳型板2が支持される。アクチュエータ9は、第1連結部材33と第3連結部材37との間に、ほぼ垂直姿勢で配設される。アクチュエータ9の上端は第3連結部材37の下面側に対して、ヒンジ部38により回動可能に連結され、アクチュエータ8の下端は第1連結部材33の上面に対して、ヒンジ部39により回動可能に連結される。
また、第1連結部材33の上面に設置されたリブ40と、第3連結部材37の間には、スプリング41が設けられている。このスプリング41は、リブ40と第3連結部材37の間に略垂直方向の弾性力を付与し、アクチュエータ9による短辺鋳型板2の屈曲動作を円滑にする機能を有する。
制御装置5は、上記アクチュエータ7、8、9に接続されており、当該アクチュエータ7、8、9の駆動を制御する。この制御装置5は、図16に示すように、入力部51と、最適値演算部52と、駆動制御部53とを備える。入力部51は、オペレータが操作するコンピュータ装置などで構成され、オペレータや各種のセンサから、連続鋳造に関する各種の操業条件(例えば、鋳片幅W、鋳造速度V、鋼種など)の設定値が入力される。入力部51は、上記入力された操業条件の設定値を最適値演算部52に送る。最適値演算部52は、入力部51からの操業条件の設定値に基づいて、上記操業条件に応じた短辺鋳型板2の配置に関する最適値を計算する。この最適値は、例えば、2つの短辺鋳型板2間の幅(鋳片幅Wに相当)、短辺鋳型板2の高さ位置(変化点位置xに相当)、短辺鋳型板2の傾斜量(トータルテーパ率TTに相当)、短辺鋳型板2の屈曲量(上下テーパ比率Rに相当)などである。最適値演算部52は、計算した最適値を駆動制御部53に送る。駆動制御部53は、最適値演算部52からの最適値に基づいて、アクチュエータ7、8、9を駆動させるための制御量を計算し、その制御量をアクチュエータ7、8、9に出力する。アクチュエータ7、8、9は、制御装置5からの制御量に基づいて駆動する。
上記のように、本実施形態に係る連続鋳造方法は、短辺鋳型板2を用いた鋳造中に、短辺駆動機構4を用いて、操業条件に応じて短辺鋳型板2を屈曲させることによって、上下テーパ比率Rを適正値に制御することを特徴としている。このように鋳造中に上下テーパ比率Rを適正値に制御するために、鋳造中に変更され得る操業条件(鋳造速度V等)の値ごとに、当該操業条件の各値に適した上下テーパ比率R等の設定値を予め求めておき、制御装置5の記憶部(図示せず。)に保持しておいてもよい。これにより、制御装置5は、当該記憶部内の上下テーパ比率Rの設定値に基づいて、鋳造中に操業条件に応じた上下テーパ比率R等の適正値を得て、上下テーパ比率Rが当該適正値となるように、短辺鋳型板2の屈曲を制御することができる
次に、上記構成の短辺駆動機構4の動作について説明する。短辺駆動機構4の制御装置5は、上記入力された操業条件に基づいて短辺鋳型板2が適切な配置(短辺間の幅、高さ、傾き、屈曲量)となるように、アクチュエータ7、8、9を駆動させる。
例えば、制御装置5は、アクチュエータ7を適切な量だけ駆動させることで、短辺鋳型板2を水平方向に移動させて、2つの短辺鋳型板2間の幅を制御する。また、制御装置5は、アクチュエータ8を適切な量だけ駆動させることで、第2連結部材34及び第1連結部材33を介して、短辺鋳型板2を傾動させて、短辺鋳型板2の傾き(トータルテーパ率TT)を制御する。このようにアクチュエータ8によって短辺鋳型板2の傾斜量を定めることにより、設定された鋳片幅Wに応じて、短辺鋳型板2のトータルテーパ率TTを所定の値に定めることができる。本実施形態では、現実的な操業形態の観点からは、鋳造中いずれの鋳片幅Wにおいても同一のトータルテーパ率TTとなるように、短辺鋳型板2の水平位置及び傾きを制御することが好ましい。
また、本実施形態に係る短辺駆動機構4は、短辺鋳型板2の移動機構、傾動機構のみならず、短辺鋳型板2の屈曲機構を備えることを特徴としている。即ち、短辺駆動機構4の制御装置5は、アクチュエータ8、9それぞれを操業条件に応じた適切な量だけ駆動させることで、短辺鋳型板2を屈曲させて(つまり、テーパ変化点Pで折り曲げて)、短辺鋳型板2の上下テーパ比率Rを制御することができる。
詳細には、短辺駆動機構4の制御装置5は、上述した鋳造速度Vや溶鋼の種類(例えば炭素濃度C)、短辺鋳型板2の面平均抜熱流束q等の操業条件に応じた適正な上下テーパ比率Rを計算し、上下テーパ比率Rが当該適正値となるような上側銅板21aと下側銅板21bの傾きをそれぞれ求め、さらに、上側銅板21aと下側銅板21bが当該傾きとなるように、アクチュエータ8、9を駆動制御する。この結果、アクチュエータ8の駆動により、第1連結部材33及び短辺鋳型板2がヒンジ部32を中心として回動して、下側銅板21bの傾き(下テーパ率TL)が適正値に調整される。さらに、アクチュエータ8の駆動により、第3連結部材37及び上側銅板21aが、上側銅板21aと下側銅板21bの接合部を中心として回動して、上側銅板21aの傾き(上テーパ率TU)が適正値に調整される。つまり、アクチュエータ8の駆動により、上側銅板21aが下側銅板21bに対して回動し、短辺鋳型板2がテーパ変化点Pで折れ曲がる。この結果、上側銅板21aの傾き(上テーパ率TU)と下側銅板21bの傾き(下テーパ率TL)の比である上下テーパ比率Rが、変更後の操業条件に応じた適切な比率に変更される。
以上のようにして、本実施形態に係る短辺駆動機構4は、連続鋳造中に、鋳造速度Vや溶鋼の種類、短辺鋳型板2の面平均抜熱流束qなどといった連続鋳造の操業条件に応じて、鋳造中に短辺鋳型板2を屈曲させて、上下テーパ比率Rを変更できる。よって、図示の連続鋳造装置を用いることで、上述した本実施形態に係る連続鋳造方法を好適に実現できる。
本実施形態に係る多段テーパ短辺鋳型板2を用いた連続鋳造装置は、短辺駆動機構4によって、短辺鋳型板60をテーパ変化点P(屈曲部)で折り曲げることにより、当該屈曲部の曲率を比較的小さくでき、屈曲部以外のテーパ面6が平面となる多段テーパを提供できる構造である。
[8.第2の実施形態に係る連続鋳造方法の概要]
次に、本発明の第2の実施形態に係る連続鋳造方法について説明する。第2の実施形態に係る連続鋳造方法では、上述した第1の実施形態に係る多段テーパ短辺鋳型板2に代えて、図17に示すような、鋳造方向に湾曲した曲面テーパを有する曲面テーパ短辺鋳型板60を使用し、操業条件に応じて、鋳造中に当該曲面テーパ短辺鋳型板60を湾曲させることにより、上下テーパ比率Rを変更することを特徴としている。
ここで、図17を参照して、曲面テーパ短辺鋳型板60の上下テーパ比率Rについて説明する。図17(a)に示すように、曲面テーパ短辺鋳型板60は、鋳型内の凝固シェル(図示せず。)と接触する銅板61と、当該銅板61の背面に取り付けられたバックフレーム62とからなる。かかる曲面テーパ短辺鋳型板60に対して後述の短辺駆動機構を用いて外力を加えることで、図17(b)に示すように、曲面テーパ短辺鋳型板60を内側(凝固シェル側)に凸となるように湾曲させる。
このようにして湾曲された曲面テーパ短辺鋳型板60(以下、「短辺鋳型板60」ともいう。)の上下テーパ比率Rは、短辺鋳型板60のメニスカス位置11での接線Aの勾配と、短辺鋳型板60の下端13での接線Bの勾配との比率である。即ち、短辺鋳型板60の上下テーパ比率Rは、当該短辺鋳型板60の上テーパ率TUと下テーパ率TLとの比率である(上下テーパ比率R=TU/TL)。上テーパ率TU(%/m)は、短辺鋳型板60のテーパ面65のメニスカス位置における接線Aの勾配であり、下テーパ率TL(%/m)は、該テーパ面65の下端13における接線Bの勾配である。また、短辺鋳型板60のトータルテーパ率TTは、上述した(3)式で表される。W0は例えば、メニスカス幅(WM)、鋳型下端幅(WB)など、任意の幅値である。
TT(%/m)={(WM−WB)/W0/L}×100 (3)
第2の実施形態に係る連続鋳造方法は、上記のような一対の曲面テーパ短辺鋳型板60と、当該短辺鋳型板60を幅方向両側から挟む一対の長辺鋳型板とからなる連続鋳造鋳型1を用いる。そして、第2の実施形態に係る連続鋳造方法では、当該鋳型1による連続鋳造中に、連続鋳造の操業条件の変更の前後で、凝固シェルの凝固均一度及び摩擦拘束力が所定範囲内で変化する(例えば、ほぼ一定となる)ように、連続鋳造の操業条件に応じて曲面テーパ短辺鋳型板60を湾曲させることにより、短辺鋳型板60の上下テーパ比率Rを変更することを特徴としている。このとき、短辺鋳型板60のトータルテーパ率TTを変更せずに、上下テーパ比率Rを変更する。
操業条件は、第1の実施形態と同様に、鋳型1内で溶融金属が凝固して形成された凝固シェルの凝固均一度、及び、凝固シェルと短辺鋳型板60との間の摩擦拘束力の双方に影響を及ぼす操業条件であり、例えば、鋳造速度Vや溶融金属の炭素濃度C、短辺鋳型板2の面平均抜熱流束q、鋳片幅Wなどである。
上記のように、本実施形態では、操業条件の変更の前後で凝固均一度及び摩擦拘束力がほぼ一定となるように、操業条件に応じて鋳造中に曲面テーパ短辺鋳型板60の湾曲度合いを変えることで、上下テーパ比率Rを変更する。これにより、短辺鋳型板60の上下テーパ比率Rを操業条件に適した位置に調整することができる。例えば、鋳造速度Vの増加に応じて、鋳造中に短辺鋳型板60の湾曲を緩めることにより、短辺鋳型板60の上下テーパ比率Rを小さくする。一方、鋳造速度Vの減少に応じて、鋳造中に短辺鋳型板60を湾曲させることにより、短辺鋳型板60の上下テーパ比率Rを大きくする。これによって、鋳造速度Vの変更前後で、鋳造される凝固シェル10の凝固均一度及び摩擦拘束力をほぼ一定にできる。
かかる鋳造速度Vに応じた上下テーパ比率Rの変更手法は、上記第1の実施形態と同様であるので、詳細説明は省略する(図10、11参照。)また、操業条件が溶鋼の炭素濃度Cである場合についても、第1の実施形態と同様な手法により、炭素濃度Cに応じて曲面テーパ短辺鋳型板60の湾曲度合いを変えることで、上下テーパ比率Rを変更する(図12、13参照。)。これによって、炭素濃度Cの変更前後で、鋳造される凝固シェル10の凝固均一度及び摩擦拘束力をほぼ一定にできる。また、操業条件が短辺鋳型板2の面平均抜熱流束qについても、第1の実施形態と同様な手法により、面平均抜熱流束qの増減に応じて上下テーパ比率Rを減増変更することで(図14参照。)、鋳造される凝固シェル10の凝固均一度及び摩擦拘束力をほぼ一定にできる。
以上のよう曲面テーパ短辺鋳型板60の湾曲を制御することで、上下テーパ比率Rを操業条件に応じた適切な比率に制御できるので、操業条件の変更前後で、相反関係にある凝固均一度と摩擦拘束力をほぼ一定値に維持することができる。従って、凝固均一度と摩擦拘束力の双方の制約を満足させつつ、連続鋳造の操業条件の変更に対応することができる。よって、鋳造速度等の操業条件が変更されても、表面割れ及び内部割れのない高品質の鋳片を安定して鋳造することができるようになる。
[9.連続鋳造装置(曲面テーパ短辺)の構成]
次に、図18を参照して、第2の実施形態に係る連続鋳造方法を実行する連続鋳造装置について説明する。図18は、第2の実施形態に係る連続鋳造装置の構成を示す図である。なお、図18では、説明の便宜上、連続鋳造装置の一側の曲面テーパ短辺鋳型板60周辺の構成のみを示しているが、他側にも対称な構成を具備しているものとする。
図18に示すように、第2の実施形態に係る連続鋳造装置は、連続鋳造鋳型1(以下「鋳型1」ともいう。)と、短辺駆動機構4とを備える。鋳型1は、上記の曲面テーパ短辺鋳型板60と、当該一対の短辺鋳型板60をその幅方向両側から挟み込む一対の長辺鋳型板(図示せず。図3参照。)とからなる。短辺鋳型板60及び長辺鋳型板は、それぞれ2枚で1組を構成し、凝固シェル10に面する側(テーパ面65側)が水冷銅板61、その反対面を鋼製のバックフレーム62からなる。
短辺鋳型板60のバックフレーム62は、上側バックフレーム62aと下側バックフレーム62bとに分割されている。かかる上側バックフレーム62aと下側バックフレーム62bの間には、所定の隙間63が形成されている。かかる構造により、短辺鋳型板60を湾曲させるときに、高硬度のバックフレーム62を湾曲させなくとも、当該隙間63の近傍で低硬度の銅板61のみを容易に湾曲させることができる。また、十分な隙間63を設けることで、上側バックフレーム62aと下側バックフレーム62bを接触しないようにして、銅板61の湾曲を妨げないようにできる。
以上のような構成の曲面テーパ短辺鋳型板60は、銅板61を湾曲可能な構造であるので、銅板61のメニスカス位置での傾斜量(上テーパ量)と鋳型下端での傾斜量(下テーパ量)を個別変えることができる。従って、短辺鋳型板60を湾曲させることで、上下テーパ比率Rを自在に変更することができる。
短辺駆動機構4は、鋳片幅Wを変えるために短辺鋳型板60を水平移動(鋳片幅方向に移動)させる短辺移動機構と、短辺鋳型板60のトータルテーパ率TTを変えるために短辺鋳型板60を傾動させる短辺傾動機構と、短辺鋳型板60の上下テーパ比率Rを変えるために短辺鋳型板60を湾曲させる短辺湾曲機構と、これら機構を制御する制御装置5を備える。かかる短辺駆動機構4の構成は、上記第1の実施形態の短辺駆動機構4(図15、図16参照)と略同一であるので、その詳細説明は省略する。
次に、上記構成の短辺駆動機構4の動作について説明する。短辺駆動機構4の制御装置5は、上記入力された操業条件に基づいて、曲面テーパ短辺鋳型板60が適切な配置(短辺間の幅、高さ、傾き、屈曲量)となるように、アクチュエータ7、8、9を駆動させる。例えば、制御装置5は、アクチュエータ7を適切な量だけ駆動させることで、短辺鋳型板60を水平方向に移動させて、2つの短辺鋳型板60間の幅を制御する。また、制御装置5は、アクチュエータ8を適切な量だけ駆動させることで、第2連結部材34及び第1連結部材33を介して、短辺鋳型板60を傾動させて、短辺鋳型板60の傾き(トータルテーパ率TT)を制御する。
また、本実施形態に係る短辺駆動機構4は、短辺鋳型板60の移動機構、傾動機構のみならず、短辺鋳型板60の湾曲機構を備えることを特徴としている。即ち、短辺駆動機構4の制御装置5は、アクチュエータ8、9それぞれを操業条件に応じた適切な量だけ駆動させることで、短辺鋳型板60を湾曲させて、短辺鋳型板60の上下テーパ比率Rを制御することができる。
詳細には、短辺駆動機構4の制御装置5は、上述した鋳造速度Vや溶鋼の種類(例えば炭素濃度C)、短辺鋳型板2の面平均抜熱流束q等の操業条件に応じた適正な上下テーパ比率Rを計算し、上下テーパ比率Rが当該適正値となるような短辺鋳型板60の湾曲量を求め、さらに、短辺鋳型板60が当該湾曲量で湾曲するように、アクチュエータ8、9を駆動制御する。この結果、アクチュエータ8、9の駆動により、第3連結部材37及び上側バックフレーム62aを介して銅板61の上部に力が加わるとともに、第1連結部材33及び下側バックプレート62bを介して銅板61の下部に別の力が加わる。これにより、短辺鋳型板60の銅板61が、主に隙間63の周辺で、上記湾曲量だけ湾曲する。この結果、短辺鋳型板60のメニスカス位置11での接線勾配(上テーパ率TU)と鋳型下端13での接線勾配(下テーパ率TL)の比である上下テーパ比率Rが、変更後の操業条件に応じた適切な比率に変更される。
以上のようにして、第2の実施形態に係る短辺駆動機構4は、連続鋳造中に、鋳造速度Vや溶鋼の種類、短辺鋳型板2の面平均抜熱流束qなどといった連続鋳造の操業条件に応じて、短辺鋳型板60を湾曲させて、上下テーパ比率Rを変更できる。よって、図示の連続鋳造装置を用いることで、上述した本実施形態に係る連続鋳造方法を好適に実現できる。
第2の実施形態に係る曲面テーパ短辺鋳型板60を用いた連続鋳造装置は、短辺鋳型板60を湾曲させることにより、屈曲部(湾曲部)の曲率を大きく、なだらかにできる構造である。第2の実施形態において、短辺鋳型板60の屈曲部の曲率は、モールド銅板61の厚みや、曲げ力を印可する位置などで調整可能である。
[10.効果]
以上、本発明の好適な実施の形態に係る連続鋳造方法とそれを実現する連続鋳造装置について説明した。上記実施形態によれば、鋳造速度V又は溶融金属の種類(例えば炭素濃度C)、短辺鋳型板2の面平均抜熱流束q等の操業条件に応じて、連続鋳造中に短辺鋳型板2、60を屈曲(折り曲げ、湾曲)させることにより、上下テーパ比率Rを変更させる。このとき、操業条件の変更の前後で、凝固均一度と摩擦拘束力が所定の微笑範囲内(例えば変化量が1%以内)で変化するように、上下テーパ比率Rを変更する。これにより、操業条件の変更の前後で、凝固均一度と摩擦拘束力をほぼ一定に維持したままで、短辺鋳型板2、60のテーパ形状を、変更後の操業条件に適した形状に変えることができる。
従って、当該操業条件の変更前後で、相反関係にある凝固均一度及び摩擦拘束力の双方がほぼ一定値となるように制御できるので、上述した相反関係にある凝固均一度と摩擦拘束力の双方の制約を満足させつつ、鋳造速度V等の操業条件の変更に対応することができる。よって、鋳造速度V等の鋳造条件にかかわらず、鋳片の凝固不均一を解消して、凝固シェル厚をブレークアウトの限界厚み以上に確保しつつ、表面割れ、内部割れのない高品質の鋳片を安定して鋳造することができる。
上述した特許文献2、3、5記載の従来技術でも、鋳造速度等の変更に応じて、短辺鋳型板を湾曲又は折曲させてはいるが、これら従来技術では、短辺鋳型板のテーパ形状を、予測した凝固シェルの自由収縮プロフィールに一致させようとするものである。これに対し、本実施形態は、予め予測した凝固均一度及び摩擦拘束力を考慮して決定された制御方法により、短辺鋳型板2、60の上下テーパ比率Rを制御するものであり、必ずしも従来技術のような凝固シェルの自由収縮プロフィールに沿っていない点で、上記従来技術と相違する。
従来技術のように凝固シェルの自由収縮プロフィールを正確に予測することは非常に困難であるので、その予測した自由収縮プロフィールに短辺鋳型板のテーパ形状を合わせたとしても、現実の凝固シェルに適合するどうかは定かではない。ましてや、短辺鋳型板のテーパ形状が変われば、当然ながら凝固シェルの自由収縮プロフィールも変化する。そこで、本実施形態では、別途シミュレーション(上記本実施形態に係る計算方法)により、短辺鋳型板のテーパ形状ごとの凝固均一度を評価し、その評価値に基づいて、短辺鋳型板2、60のテーパ形状を制御している。
以上説明したように、特許文献2、3、5記載の従来技術では、予測した凝固シェルの自由収縮プロフィールに合わせてテーパ形状を制御しているのに対し、本実施形態では、凝固シェルの自由収縮プロフィールのみならず、予め鋳片の変形までを考慮したシミュレーションを実施して、最適なテーパ形状を求めており、この最適形状に合うように短辺鋳型板2、60の上下テーパ比率Rを制御する。ここで、鋳片の変形とは、上述したように、(1)上記凝固シェルの自由収縮のみならず、(2)鋳片に対する外力(鋳型との接触)による鋳片の変形や、(3)鋳型内の溶融金属の静圧による鋳片の変形などを含むものである。本実施形態では、このような実際の鋳型内における鋳片(凝固シェル)の変形までをも考慮して、テーパ形状を制御する点に特徴を有する。この結果、本実施形態に係る短辺鋳型板2、60のテーパ形状は、従来技術に係る自由収縮プロフィールに従うテーパ形状とは異なる形状になる。
さらに、上記従来技術では、かかる鋳片の変形を考慮していないばかりか、実際の鋳造時に生じる凝固均一度や摩擦拘束力の影響を考慮していなかった。詳細には、上記従来技術では、理論的な凝固シェルの自由収縮プロフィールのみを考慮し、現実の鋳型内のコーナー部分で生じるギャップによる凝固均一度の低下や、摩擦拘束力の上昇については何ら考慮していなかった。そのため、実際の鋳造時の鋳片の変形に適した短辺制御を行っておらず、高品質の鋳片を安定鋳造する観点からは、依然として改善の余地があった。
これに対し、本実施形態では、上述したように実際の鋳型内における凝固シェルの挙動に合わせて短辺テーパ形状を制御するため、上記本実施形態に係る計算方法により凝固均一度と摩擦拘束力をシミュレーションし、これにより得られる凝固均一度と摩擦拘束力とがほぼ一定となるように短辺鋳型板2、60のテーパ形状を制御する。これにより、実際の鋳造時の鋳片の変形に合わせて、短辺テーパ形状を最適化できるので、割れやブレークアウトをより的確に防止して、高品質の鋳片を安定的に鋳造できる
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、上記第1の実施形態では、多段テーパ短辺鋳型板として、2段テーパ短辺鋳型板2の例を挙げて説明したが、3段テーパ以上の短辺鋳型板にも適用できる。3段テーパ以上の短辺鋳型板にて、屈曲部(テーパ変化点)の数を2つ以上に増やす場合は、アクチュエータ等の駆動装置の設置数を増やすることで対応可能である。
また、上記実施形態では、凝固シェル10の凝固均一度及び摩擦拘束力の双方に影響を及ぼす操業条件として、鋳造速度Vと溶鋼金属の炭素濃度C、短辺鋳型板2の面平均抜熱流束qの例を挙げ、鋳造速度V、炭素濃度C又は面平均抜熱流束qに応じて鋳造中に、短辺鋳型板2、60を屈曲させて上下テーパ比率Rを変更する例について説明したが、本発明は、かかる例に限定されない。例えば、当該操業条件として、スーパーヒート(溶鋼の加熱温度)、鋳片幅Wなどに応じて、鋳造中に短辺鋳型板を屈曲させて、上下テーパ比率Rを変更してもよい。スーパーヒートが高いと、連続鋳造時の凝固シェルのシェル厚が薄くなる。そこで、スーパーヒートに応じて鋳造中に短辺鋳型板のテーパ変化点を上下させることで、鋳造限界の溶融金属の温度を上昇させることも可能となる。