JP2010235999A - 硫化銅鉱物からの金の濃縮方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 硫化銅鉱物から湿式法で銅を回収する製錬工程において、金を含有する硫化銅鉱物から銅を浸出し、残った浸出残渣中の金を濃縮して効率的に分離回収する方法を提供する。
【解決手段】 金を含有する硫化銅鉱物を、112℃以下で且つ102℃を超える温度にて硫酸で加圧浸出し、得られた浸出残渣を浮遊選鉱して浮鉱と沈鉱とに分離する。この浮遊選鉱で得た浮鉱を不活性雰囲気下にて250〜800℃の温度で加熱して硫黄を除去し、脱硫黄物を酸素又は空気を流した雰囲気下にて600〜800℃の温度で加熱して酸化焙焼する。得られた酸化焙焼物を硫酸溶液で溶解して、銅溶解液から金含有残渣を分離回収する。
【選択図】 なし

Description

本発明は、硫化銅鉱物から湿式法で銅を回収する銅製錬工程において、金を含有する硫化銅鉱物から銅を浸出した浸出残渣中の金を濃縮して回収する方法に関する。
銅製錬の原料である硫化銅鉱物は、黄銅鉱、班銅鉱、輝銅鉱等の含銅成分、黄鉄鉱などの含鉄成分、珪素やカルシウム等からなる脈石成分、及び金などの貴金属成分から構成されている。
通常の乾式銅製錬においては、上記硫化銅鉱物は選鉱されて銅鉱物の品位を高めた銅精鉱となり、銅精鉱は乾式製錬工程で炉に装入されて熔解され、鉄や硫黄がスラグやガスとして分離されて粗銅とされる。粗銅は電解工程でアノードとして電解精製され、金やその他の不純物と銅を分離し、銅はカソード上に電析して電気銅として回収される。
このような乾式の銅製錬工程は生産性が高いが、多額の設備投資を必要とし、発生したガスやスラグの処理に多くの手間とコストを要するうえ、操業調整が難しいなどの課題があった。そこで近年では、上記乾式製錬に比較してコンパクトな設備で操業でき、操業調整も容易な湿式製錬を用いた銅の製錬方法が開発されてきた。
例えば、特表2004−504492号公報(特許文献1)には、銅含有物質を約170℃〜約235℃で加圧浸出して残渣と銅含有溶液を得る工程と、該銅含有溶液を希釈溶液で希釈して希釈銅含有溶液を形成する工程と、該希釈銅含有溶液から銅を溶媒抽出する工程とを備えた湿式の銅製錬方法が記載されている。しかし、銅含有物質に含まれる金は浸出残渣全体に分散するので、この方法で金を回収するには浸出残渣の全量を再度処理する必要があり、多大なコストを要してしまうという問題があった。
また、特表2001−515145号公報(特許文献2)には、硫化物鉱石からの銅の湿式抽出方法として、酸素とハロゲン化物及び硫酸イオンを含む酸性溶液との存在下に鉱石又は精鉱を加圧酸化し、得られるスラリーを濾液と塩基性硫酸金属塩を含む固体残留物とに固液分離して、固体残留物を酸性硫酸塩溶液で浸出することが記載されている。浸出溶液は固体残留物から分離され、金属の濃縮溶液と金属の枯渇したラフィネートとを生成するように溶媒抽出される。しか、この方法で得られる浸出残渣は酸化鉄と硫黄との微細な粒子が混合した状態であるため、これを分離して金を回収することは困難であった。
上記のような銅の浸出残渣に含有される酸化鉄と硫黄を分離する方法として、特開2002−053310号公報(特許文献3)に示す方法が知られている。この方法は、硫黄含有物、例えば、亜鉛精鉱浸出工程からの亜鉛精鉱浸出残査を浮選して得た硫黄が濃縮された浮鉱を、硫黄の融点以上沸点未満の温度に加熱し、生じた硫黄蒸気を含有する気体を硫黄の融点未満の温度で冷却することにより硫黄を凝縮させて回収する方法である。この方法を用いれば、亜鉛精鉱浸出残査から硫黄を効率よく回収することが可能となる。
また、特開2005−042155号公報(特許文献4)には、銅鉱石又は銅鉱物から銅を浸出した残渣から貴金属を濃縮する方法が示されている。この方法では、上記浸出残渣を非酸化性雰囲気下に550℃以上の温度で加熱処理し、得られた焼鉱を酸性水溶液による再浸出処理に付し、硫黄と貴金属などを含む再浸出残渣と鉄浸出生成液とを形成する。しかしながら、銅鉱物や銅精鉱に含有される脈石成分が貴金属と同一の分布となる場合が多いため、脈石成分が多い銅鉱物や銅精鉱を処理する場合、この方法では貴金属と脈石成分の分離に多くの手間が必要になるという問題があった。
特表2004−504492号公報 特表2001−515145号公報 特開2002−053310号公報 特開2005−042155号公報
上述したように、硫化銅鉱物から湿式法で銅を回収する製錬工程においては、硫化銅鉱物から銅を浸出した残渣には金が含まれているが、この浸出残渣中の金を濃縮することが極めて難しいため、浸出残渣から金を効率的に回収することはできなかった。
本発明は、このような従来の事情に鑑み、硫化銅鉱石を硫酸で浸出した残渣に含有されている金を濃縮して分離し、効率的に回収する方法を提供することを目的とするものである。
上記課題を解決するため、本発明者らは、銅精鉱など硫化銅鉱物を硫酸で浸出して得た残渣を観察した結果、鉱物中に含有されていた金は浸出残渣中で疎水度の類似した硫黄の内部に含有されたり、あるいは未反応で残留した硫化物に付随したりして存在し、それ以外の酸化鉄や脈石成分等の中には存在しないことを見出した。金が硫黄の内部に含有されるのは、硫黄の融点が112〜120℃程度と低いために、浸出により鉱物から分離した硫黄が溶融状態となり、その後冷却して凝集し、金を核として包含するためと考えられる。
そこで、硫化銅鉱物を硫黄の融点以下の温度で浸出し、得られた浸出残渣から微細な粒状となった硫黄及び浸出されずに残留した硫化物の粒子を、その他の酸化鉄や脈石成分との疎水性の違いを利用して浮上させる一方、酸化鉄や脈石成分などを沈降、もしくは沈鉱として分離させることにより、浸出残渣中に含まれる金を濃縮できることを見出した。また、濃縮された金を含む成分は、硫黄を除去してから酸化焙焼して鉄成分を酸化鉄とし、その後硫酸を用いて溶解することによって、金が濃縮された残渣を回収する方法を採用した。
即ち、本発明が提供する硫化銅鉱物からの金の濃縮方法は、金を含有する硫化銅鉱物を下記(1)〜(5)の各工程にて順次処理することにより、濃縮された金を含有する金含有残渣を得ることを特徴とするものである。
(1)上記金を含有する硫化銅鉱物を112℃以下で且つ102℃を超える温度において硫酸で加圧浸出する浸出工程
(2)上記浸出工程で得られた浸出残渣を浮鉱と沈鉱とに分離する浮遊選鉱工程
(3)上記浮遊選鉱工程で得られた浮鉱から硫黄を除去する脱硫黄工程
(4)上記脱硫黄工程で得られた脱硫黄物を酸化焙焼する酸化焙焼工程
(5)上記酸化焙焼工程で得られた酸化焙焼物を硫酸溶液で溶解し、得られた銅溶解液と金含有残渣とを分離する分離工程
上記本発明の硫化銅鉱物からの金の濃縮方法においては、前記脱硫黄工程において、前記浮鉱を窒素ガス又はアルゴンガスを流した不活性雰囲気下にて250℃以上800℃以下の温度で加熱することが好ましい。また、前記酸化焙焼工程においては、前記脱硫黄物を酸素又は空気を流した雰囲気下にて600℃以上800℃以下の温度で加熱することが好ましい。
本発明によれば、湿式の銅製錬工程において、金を含む硫化銅鉱物を浸出し、その浸出残渣から金を濃縮して効率よく分離回収することができる。また、金を濃縮して回収できるので、後工程で取り扱う物量が減少し、ハンドリングの手間を削減でき、生産設備の規模も小さくて済む。更に、金を濃縮した金含有残渣物から金を回収する際には、浸出が進みやすいので、シアン、チオ尿素、チオ硫酸塩等の抽出に用いる試薬量が少なくて済み、コストの低減が可能である。
本発明は、銅精鉱などの金を含む硫化銅鉱物を、まず浸出工程にて、硫黄の融点以下の温度において硫酸等の鉱酸の酸性溶液で加圧浸出した後、その浸出残渣から金の濃縮物を得る方法である。上記浸出工程では、金を含有する硫化銅鉱物を、オートクレーブ等の加圧装置を用いて、安定に存在する代表的な硫黄の融点以下の温度で加圧浸出して銅を硫酸で浸出する。
上記浸出工程における温度は、安定な硫黄の融点よりも低い温度、即ち、α硫黄の融点が112.8℃及びβ硫黄の融点が119.0℃であるから、112℃以下の温度とする。ただし、浸出温度が102℃以下になると、銅の浸出効率が低下するため、112℃以下の温度であって且つ102℃を超える温度で浸出することが好ましい。
尚、上記加圧浸出は、オートクレーブ等の加圧装置を用いて、温度以外は通常の加圧浸出と同様に実施することができる。例えば、銅精鉱などの硫化銅鉱物を硫酸溶液と混合してスラリーとし、石英などの容器に入れてオートクレーブに装入し、所定の温度に保持して酸素を充填して、その温度における気相圧力に対し更に0.5〜2MPa相当分だけ昇圧させると共に、酸素の消費がなくなるまで酸素を供給しつつ、銅を浸出すればよい。
この浸出工程で得られる浸出残渣は、硫黄の融点よりも低い温度で浸出して得たものであるから、通常のごとく硫黄の融点以上の温度で浸出した場合の残渣に比べると微細なものとなる。その理由は明らかではないが、硫化銅鉱物から銅が浸出されて離脱する際に、反応温度が硫黄の融点以下であることから、硫黄同士が融着することがなく、また硫化物などとも凝集し難くなって、粗大な硫黄粒子が形成されないためと考えられる。
また、硫化銅鉱物に含有される黄鉄鉱は、浸出温度が硫黄の融点以下では、融点以上の場合に比べて浸出され難い性質がある。このため、得られる浸出残渣の物量が増加し、この残渣を処理した金含有残渣中の金品位も相対的に低下する。しかし、その一方で、本発明により得られる浸出残渣は微細であることから、浮遊選鉱で硫黄及び硫化物を確実に浮上させることができ、従って分離されて廃棄される沈鉱中に含有される金は減少するので、金の系外へのロスを抑制することができる。
上記浸出工程の終了後、スラリーを濾過することにより浸出残渣と浸出液に分離する。得られた浸出残渣は微細なため、篩い分けの必要はなく、そのまま次の浮遊選鉱工程に供給することができる。尚、この浸出残渣には、酸化鉄や脈石成分あるいは未反応の硫化銅鉱物などと共に硫黄や硫化物が含まれ、この硫黄又は硫化物に付随する形で金が含まれている。
浮遊選鉱工程では、上記浸出残渣を公知の浮遊選鉱法に従って浮鉱と沈鉱とに分離する。例えば、浸出残渣を水溶液に投入し、起泡剤や捕集剤などの浮遊選鉱試薬を加え、機械的又は化学的に空気などの気泡を発生させる。この浮遊選鉱により、金が付随しやすい硫黄や硫化物の粒子は気泡に吸着して浮鉱として浮上するが、その他の酸化鉄や脈石成分は沈鉱となる。
次の脱硫黄工程では、上記浮遊選鉱工程で得た浮鉱から、含有されている硫黄を除去する。具体的な方法としては、浮鉱を窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスを流した炉内に入れ、加熱して硫黄を揮発させることにより、揮発しない金と分離する。尚、不活性雰囲気とする代わりに、炉内を減圧しても硫黄を揮発させることができる。しかし、炉内にガスの流れがあれば、揮発した硫黄をガスの流れを利用して移動分離させやすいので、不活性ガスの流れを用いる方法が好ましい。
また、硫黄を揮発させるための加熱温度は、250℃から800℃の範囲が好ましく、300℃から400℃の範囲が更に好ましい。硫黄を揮発させるには250℃以上の温度が必要であり、250℃よりも低いと浸出残渣からの揮発が不充分となるため、硫黄が溶融状態で残留したり、揮発した硫黄が炉内で凝集して閉塞を生じたりする。加熱温度が300℃以上になると、硫黄の揮発が促進されて短時間に処理が進むため更に好ましい。
しかし、加熱温度を400℃より高くしても、硫黄の揮発速度はほとんど増加せず、必要なエネルギーが著しく増加するだけであるため好ましくない。更に加熱温度が800℃を超えると、硫化物の分解が進み、浸出残渣が焼結されたように固結し始めるなど取り扱い上の問題が発生する。残渣が固結すると、後工程でのハンドリングに影響するので好ましくない。尚、揮発した硫黄は、250℃よりも低い温度領域で析出するので、容易に回収することができる。
上記脱硫黄工程で得られた脱硫黄物は、次の酸化焙焼工程において、酸素や空気の存在する雰囲気下で焙焼する。この酸化焙焼によって、脱硫黄物中に含有される黄銅鉱や黄鉄鉱などの硫化物が、易溶性の酸化銅及び難溶性の酸化鉄であるヘマタイトに酸化される。脱硫黄物の焙焼は800℃以下の温度で行うことができるが、実際には600℃以上800℃以下の温度範囲が好ましい。
酸化焙焼時の加熱温度が600℃未満では、酸化反応の進行が遅く且つ不十分であるうえ、浸出残渣中の鉄が易溶性の硫酸鉄を生成し、難溶性のヘマタイトを形成しない。尚、硫酸鉄の生成は金の分離に直接影響しないが、次の分離工程において硫酸鉄も酸化銅と共に酸で溶解されてしまい、溶解液から更に銅と鉄を分離する処理を追加する必要が生じるため、硫酸鉄を生成しないように600℃以上の温度で焙焼することが好ましい。
一方、800℃を越える温度で脱硫黄物を酸化焙焼すると、浸出残渣中に残留して脱硫黄物中に残った銅が酸に溶け難い亜酸化銅を生成し、次工程の分離工程で硫酸に完全に溶解されずに残留するため、金の濃縮が困難になる。また、上述したように800℃を越える温度では浸出残渣同士が焼結されたように固結し始めるが、銅の酸化焙焼物が存在すると更に固結しやすくなるなど取り扱い難くなるため好ましくない。
このような事情を総合的に考慮すると、脱硫黄物を酸化焙焼するための加熱温度としては、銅が酸に溶けやすい酸化銅を生成すると同時に、硫酸鉄が確実に分解し且つ安定で酸に溶け難いヘマタイトが得られる630℃から800℃の温度範囲が好ましく、680℃から700℃の間の温度が最も適している。
上記酸化焙焼工程で得た酸化焙焼物は、次の分離工程で硫酸溶液と混合され、銅を選択的に浸出し溶解する。一方、硫酸に浸出されない金は、ヘマタイトと共に残留するので、金が濃縮された金含有残渣として分離することができる。この分離工程で得られる金含有残渣は、金以外の成分としてはヘマタイトなど化学的に安定な鉄の酸化焙焼物が大部分である。従って、この金含有残渣を別工程に搬送し、従来から知られているシアンやチオ尿素などを用いる化学的な方法で金を浸出することによって、金を精製することができる。
上記分離工程で用いる硫酸溶液の硫酸濃度は、200g/lから500g/lの範囲が好ましい。200g/l未満の硫酸濃度では銅を溶解する能力が不足し、逆に500g/lを超える濃度では銅の溶解度が著しく低下して必要な硫酸溶液量が増加するため好ましくない。また、分離工程での銅浸出時のスラリー濃度は、100g/lから300g/lの範囲とすることが好ましい。100g/l未満では液量が増加し、300g/lを超えると反応性が劣ったり撹拌に要する動力が増加したりするため好ましくない。
尚、上記分離工程において金含有残渣から分離された硫酸銅溶液は、通常の電解採取に供給し、銅を電気銅として回収することができる。また、電解採取によって再生した硫酸は、上述した硫化銅鉱物の浸出に繰り返し、あるいは上記分離工程での銅の溶解に利用することができる。
[実施例1]
金品位が12g/tである銅精鉱を硫酸溶液と混合し、スラリー濃度が200g/l且つ硫酸濃度が30g/l、全体のスラリー量を1リットルとした。このスラリーを内容量3リットルのオートクレーブに装入し、温度105℃にて3時間保持して銅を加圧浸出した。その際、飽和水蒸気分圧相当に酸素を加え、オートクレーブ内の圧力を1.51MPaとした。
加圧浸出の終了後、室温まで冷却し、スラリーを取り出して瀘別した。得られた浸出残渣149.2gに水400mlを加え、3分間撹拌してスラリー化した。このスラリーをセル容量0.5リットルのアジテア型浮遊選鉱試験機に装入し、起泡剤としてメチルイソブチルカルビノール(MIBC)を浸出残渣1kgあたり75mgの割合で添加した。次に、捕収剤として米国Cytec Industries社製のAERO350ザンセート(商品名)を、浸出残渣1kgあたり60mgの割合で添加した。
その後、10分間撹拌した後、撹拌を継続し且つ空気を2リットル/分の流量で吹き込みながら8分間浮遊選鉱し、浮鉱46.6gと沈鉱76.8gとに分離した。尚、本実施例では、1回の浮遊選鉱で浮鉱と沈鉱とに分離できたが、浸出残渣の性状によっては浮遊選鉱を繰り返し行っても良く、その場合の浮遊選鉱の回数は適宜予備試験を実施して決定することができる。
得られた浮鉱は、化学分析、顕微鏡観察並びにX線回折を用いて同定したところ、主に未反応の硫化鉱物の成分と単体硫黄とからなることが分り、ICPで分析した金品位は31g/tであった。また、沈鉱を同様に同定すると、大部分が酸化鉄や脈石成分であり、金は測定下限である2g/t未満とほとんど含有されていなかった。
次に、得られた浮鉱46.6gを乾燥した後、透明石英管を用いた管状炉内に装入した。炉内に窒素ガスを1リットル/分の流量で流しながら400℃まで昇温し、炉外から目視で観察しながら4時間かけて単体硫黄を揮発させて除去することにより、脱硫黄物24.9gを得た。
得られた脱硫黄物をX線回折で同定し、単体硫黄が全て揮発除去していることを確認した。また、脱硫黄物の金品位は63g/tにまで濃縮されていた。その後、脱硫黄物24.9gを再度管状炉に装入し、酸素を1リットル/分の流量で流しながら、680℃で4時間加熱して酸化焙焼することにより、脱硫黄物中の硫化物を酸化焙焼物に転換した。得られた酸化焙焼物中の金品位は、上記と同様に分析したところ77g/tにまで濃縮されていた。
上記酸化焙焼後に回収した酸化焙焼物20.8gに、濃度200g/l濃度の硫酸溶液200mlを加えてスラリー化した。このスラリーを入れたビーカーをウォーターバス中で撹拌しながら、80℃の温度で1時間加熱して浸出した後、濾過して固液分離した。得た残渣を乾燥器に入れ、105℃で12時間乾燥し、金含有残渣12.8gを得た。この金含有残渣の金品位は、上記と同様に分析したところ120g/tまで濃縮されていた。
この実施例において、上記した銅精鉱、浮鉱、沈鉱、脱硫黄物、酸化焙焼物、及び金含有残渣について、それぞれを王水で溶解し、ICPで分析して得られた分析値を、下記表1にまとめて示した。尚、表中のCu、Fe、Sの単位は重量%であり、Auの単位はg/tである。
Figure 2010235999
上記表1に示したとおり、12g/tの品位であった銅精鉱中の金は、浮鉱から硫黄を揮発除去した脱硫黄物では金品位63g/tまで濃縮された。この脱硫黄物を更に680℃に酸化焙焼することで、金品位は77g/tとなった。この酸化焙焼物を硫酸浸出した金含有残渣では、金は120g/tまで濃縮された。一方、廃棄される沈鉱は主に酸化鉄であり、金品位は定量分析下限の2g/t未満にまで減少し、金のロスを削減することができた。
[実施例2]
上記実施例1と同じ銅精鉱の浸出残渣を使用し、脱硫黄工程での加熱温度を230℃、270℃、430℃、590℃、750℃、及び830℃の各温度に設定した以外は上記実施例1と同様にして、それぞれ金含有残渣を分離回収した。
その結果、270℃で脱硫黄した場合には、上記実施例1での脱硫黄物と同じ硫黄品位を得ることができ、X線回折の結果からも単体硫黄は存在しなかったが、硫黄が除去される速度は遅く、上記実施例1と同じ4時間では硫黄を除去しきれず、脱硫黄に6時間以上を要した。また、430℃、590℃及び750℃で脱硫黄した場合は、上記実施例1での脱硫黄物と同じ硫黄品位となり、単体硫黄を全て除去できると共に、硫黄の除去に要する時間も上記実施例1とほとんど同じであった。
しかし、230℃で脱硫黄を行った場合には、揮発した硫黄が浸出残渣の表面を覆い、浸出残渣中に硫黄粒として残留する結果、脱硫黄物の金品位が上記実施例1よりも低下した。また、830℃で脱硫黄を行った場合には、浸出残渣が焼結されたように固結してしまい、以降のハンドリングが不便となり、分離工程での硫酸溶液による溶解も進まなかった。
[実施例3]
上記実施例1と同じ銅精鉱の浸出残渣を使用し、酸化焙焼工程での加熱温度を580℃、620℃、780℃及び830℃の各温度に設定して行った以外は上記実施例1と同様にして、それぞれ金含有残渣を分離回収した。
その結果、加熱温度が620℃及び780℃の場合、いずれも得た酸化焙焼物の品位は上記実施例1と同じであり、X線回折の結果からも銅は酸化銅に及び鉄はヘマタイトとなって存在することが確かめられた。
一方、580℃で酸化焙焼を行った場合は、X線回折の結果から銅は酸化銅になっていたが、鉄は易溶性の硫酸鉄となったことが確かめられた。また、830℃で酸化焙焼した場合には、銅は亜酸化銅の形態となり、得られた酸化焙焼物は固結したように固まって溶解できなくなるなど、取り扱いが難くなった。

Claims (3)

  1. 金を含有する硫化銅鉱物を下記(1)〜(5)の各工程にて順次処理することにより、濃縮された金を含有する金含有残渣を得ることを特徴とする硫化銅鉱物からの金の濃縮方法。
    (1)上記金を含有する硫化銅鉱物を112℃以下で且つ102℃を超える温度にて硫酸で加圧浸出する浸出工程
    (2)上記浸出工程で得られた浸出残渣を浮鉱と沈鉱とに分離する浮遊選鉱工程
    (3)上記浮遊選鉱工程で得られた浮鉱から硫黄を除去する脱硫黄工程
    (4)上記脱硫黄工程で得られた脱硫黄物を酸化焙焼する酸化焙焼工程
    (5)上記酸化焙焼工程で得られた酸化焙焼物を硫酸溶液で溶解し、得られた銅溶解液と金含有残渣とを分離する分離工程
  2. 前記脱硫黄工程において、前記浮鉱を窒素ガス又はアルゴンガスを流した不活性雰囲気下にて250℃以上800℃以下の温度で加熱することを特徴とする、請求項1に記載の硫化銅鉱物からの金の濃縮方法。
  3. 前記酸化焙焼工程において、前記脱硫黄物を酸素又は空気を流した雰囲気下にて600℃以上800℃以下の温度で加熱することを特徴とする、請求項1又は2に記載の硫化銅鉱物からの金の濃縮方法。
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