上記のようにカチオン電着塗面に、第1塗料(第1着色上塗り塗料)と、第2塗料(第2着色上塗り塗料)と、クリヤ塗料とを順次塗装した後、これらを同時に硬化させて複数層の上塗り塗膜を形成する複層塗膜形成方法において、上記第1塗料にりん片状顔料を特定量含有させることにより、従来の中塗り塗料の塗装もしくはその乾燥工程を省略しても、塗膜の平滑性および耐チッピング性を向上させることが可能である。しかし、上記のように中塗り塗料の塗装を省略すると、この中塗り塗料が有していた紫外線遮断機能等が得られない。したがって、上記上塗り塗料が、紫外線の遮断機能が弱い塗料、例えば青色、白色または赤色等の塗料である場合には、車体外板面上に形成された電着塗料からなる下地塗膜に紫外線が到達することが避けられず、その影響を受けて下地塗膜が早期に劣化し易いという問題があった。
上記の弊害を防止するために、紫外線等を反射し、あるいは吸収する機能を有する顔料を上記第1塗料に混入することにより下地塗膜を隠蔽して保護することも考えられるが、この場合には、第1塗料に混入された顔料が車体の内板面上に塗布された塗料に悪影響を与える可能性がある。すなわち、車体の外板面上に塗布される第2塗料により形成される第2皮膜は、車体の外観塗膜色を発色するものであるため、予め取り揃えられた多数種の色彩から選択されて使用され、かつ内板面上に塗布される第3塗料により形成される第3皮膜も、美観の観点から外板面上に塗布される上記第2塗料と同色または近似色とすることが一般的である。これに対して上記第2塗料により形成される第2塗膜の下方に塗布される第1塗料は、上層の塗膜が所望の外観塗膜色を発色し得るのであれば、その色彩を無彩色として汎用性を持たせることが可能であるが、この場合には、車体の外板面上に第1塗料を塗布する際に、そのダストが内板面の第3塗膜上に付着して内板面における塗膜の美観が低下するという問題がある。
なお、上記第1塗料により形成される塗膜の色彩を、外観塗膜色を発色する上記第2塗料からなる塗膜および内板面に塗布される第3塗料からなる塗膜と同色または近似色に設定した場合には、第1塗料のダストが内板面の第3塗膜上に付着しても、内板面における塗膜の美観が顕著に低下することはない。しかし、上記のように下地隠蔽性を有する顔料が混入された上記第1塗料により形成される塗膜を、外観塗膜色に対応させて各種の色彩にそれぞれ設定するためには、上記第1塗料の塗装に要する配管を多数取り揃えてこれを頻繁に交換しなければならない等の弊害がある。
また、上記第1塗料および第2塗料の溶剤として有機溶剤を使用した場合には、これらの塗料により形成された塗膜を乾燥させる際に気化した溶剤が外部に排出されるのを防止するために溶剤回収装置を設ける必要がある。これに対して水溶性塗料の場合には、上記溶剤回収装置を設ける必要がないので、上記第1塗料および第2塗料として水溶性塗料を使用することが望まれている。しかし、水溶性塗料からなる第1,第2塗料を使用した場合において、この第1,第2塗料の塗布後に溶剤型のクリヤ塗膜用塗料を塗布し、あるいは自動車車体の内板面に溶剤型のベース塗膜用塗料を塗布するように構成すると、上記第1,第2塗料が上記溶剤型のクリヤ塗膜用塗料等により被覆されて上記水溶性塗料中の水分を気化させることが困難となり、この水溶性塗料により形成された塗膜を適正に硬化させることができないという不具合が生じる。
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、自動車車体の外板面に塗布される第1,第2塗料として水溶性塗料を使用した自動車車体の塗装方法およびその装置において、簡単な構成で自動車車体の外板面上に塗布された第1塗料のダストが、内板面上に塗布された第3塗膜上に付着することに起因した美観の低下を効果的に防止できるとともに、上記水溶性塗料からなる第1,第2塗料により形成された塗膜を適正に硬化させることができるようにしたものである。
請求項1に係る発明は、下地塗膜が形成された自動車車体の外板面上に水溶性の第1塗料を塗布して下地隠蔽性を有する第1塗膜を形成する第1塗膜形成工程と、この第1塗膜の形成後にその上に水溶性の第2塗料を塗布して上記第1塗膜よりも下地隠蔽性が低く、かつ当該第2塗膜単独または上記第1塗膜とともに外観塗膜色を発色する第2塗膜を形成する第2塗膜形成工程とを備えた自動車車体の塗装方法であって、上記第2塗膜の形成後に第1塗膜および第2塗膜を予備乾燥させて水分を気化させる予備乾燥工程と、この予備乾燥後に溶剤型の第3塗料を内板面上に塗布して外板側の外観塗膜色と同色または近似色の外観塗膜色を発色する第3塗膜を形成する第3塗膜形成工程と、この第3塗膜の形成後に上記第1〜第3塗膜を同時に焼付乾燥させる焼付乾燥工程とを備えたものである。
ここで、下地隠蔽性とは、明度≦60の塗色(照明角度−45°、受光角度0°)の場合に、紫外光(300〜400nm)の透過率0.05%以下と白黒隠蔽性を10μm以下で確保できることを意味し、かつ明度>60の塗色(照明角度−45°、受光角度0°)の場合に、紫外光(300〜400nm)の透過率0.05%以下と白黒隠蔽性を20μm以下で確保できることを意味する(JIS K 5400・7.2(2)f参照)。
また、近似色とは、色差≦2(照明角度−45°、受光角度0°)の関係にあるものを意味する(JIS Z 8730参照)。
請求項2に係る発明は、上記請求項1記載の自動車車体の塗装方法において、上記第1塗膜形成工程で、第2塗膜よりも明度の低い第1塗膜を外板面上に形成するものである。
請求項3に係る発明は、上記請求項1または2に記載の自動車車体の塗装方法において、内板面上に形成された上記第3塗膜上に、クリヤ塗膜を形成するクリヤ塗膜形成工程を備えたものである。
請求項4に係る発明は、上記請求項1〜3のいずれか1項に記載の自動車車体の塗装方法において、外板面上に形成された上記第2塗膜上に、クリヤ塗膜を形成するクリヤ塗膜形成工程を備えたものである。
請求項5に係る発明は、下地塗膜が形成された自動車車体の外板面上に水溶性の第1塗料を塗布して下地隠蔽性を有する第1塗膜を形成する第1塗膜形成部と、この第1塗膜上に水溶性の第2塗料を塗布して、上記第1塗膜よりも下地隠蔽性が低く、かつ当該第2塗膜単独または上記第1塗膜とともに外観塗膜色を発色する第2塗膜を形成する第2塗膜形成部とを有する自動車車体の塗装装置であって、上記第1塗膜および第2塗膜を予備乾燥させて水分を気化させる予備乾燥部と、溶剤型の第3塗料を内板面上に塗布して上記外板側の外観塗膜色と同色または近似色でかつ外観塗膜色を発色する第3塗膜を形成する第3塗膜形成部と、上記第1塗膜〜第3塗膜を焼付乾燥させる焼付乾燥部とを備えたものである。
請求項6に係る発明は、上記請求項5記載の自動車車体の塗装装置において、内板面上に形成された上記第3塗膜上に、クリヤ塗膜を形成するクリヤ塗膜形成部を備えたものである。
請求項7に係る発明は、上記請求項5または6記載の自動車車体の塗装装置において、外板面上に形成された上記第2塗膜上に、クリヤ塗膜を形成するクリヤ塗膜形成部を備えたものである。
請求項1および請求項5に係る発明では、自動車車体の外板面に第2塗膜を形成した後に第1塗膜および第2塗膜を予備乾燥させて水分を気化させる予備乾燥工程と、この予備乾燥後に溶剤型の第3塗料を内板面上に塗布して上記外板側の外観塗膜色と同色または近似色の外観塗膜色を発色する第3塗膜を形成する第3塗膜形成工程を設けた構成としたため、上記第1塗料のダストが内板面に付着することにより形成されたダスト塗膜を上記第3塗膜により隠蔽することにより、内板面の美観を良好状態に維持することができる。しかも、上記第2塗膜により覆われる第1塗膜の色彩を無彩色に設定する等により当該第1塗膜用の第1塗料に汎用性を持たせることができるため、この第1塗料を塗布するために必要な配管を低減して塗装装置を効果的に簡略しつつ、自動車車体の外板面上に塗布された第1塗料のダストが、内板面の第3塗膜上に付着することに起因した美観の低下を効果的に防止できるとともに、第1塗膜を形成する第1塗料に下地隠蔽用の顔料を混入し、あるいは上記第1塗料に対する着色顔料の含有量を通常よりも多く設定することにより、上記第1塗膜が有する下地隠蔽性を効果的に向上させることができる。したがって、上記外板面に形成された下地塗膜上に中塗り塗料を塗装して乾燥させるという作業を省略して塗装作業の工程を簡略化しつつ、外板面に照射された可視光または紫外線等を上記第1塗膜に配合されたカーボンブラックもしくは着色顔料が反射または吸収して、下地塗膜に紫外線等が到達するのを抑制することができ、これにより簡単な構成で下地塗膜が早期に劣化するのを効果的に防止できるという利点がある。そして、上記のように水溶性塗料からなる第1,第2塗料により第1,第2塗膜を形成するように構成したため、上記第1,第2塗料の溶剤として有機溶剤を使用した場合のように塗膜乾燥時に気化した溶剤が外部に排出されることによる問題を生じることはなく、かつ上記水溶性塗料からなる第1,第2塗料の塗布後に第1塗膜および第2塗膜を予備乾燥させるプレヒート工程を設けたため、その後の第3塗膜形成工程において内板面に噴霧された第3塗料が上記第2塗膜上に付着し、あるいは外板クリヤ塗膜形成工程において、上記外板面の第2塗膜上にクリヤ塗膜を形成した場合においても、上記第1,第2塗膜中の水分が気化されずに残される等の不具合が生じることはなく、上記第2,第2塗料からなる第1,第2塗膜を適正に硬化させることができる。
請求項2に係る発明では、上記第1塗料に対する着色顔料の含有量を通常よりも多く設定する等により、第1塗膜形成工程で自動車車体の外板面に形成される第1塗膜の明度が、第2塗膜形成工程で自動車車体の外板面に形成される第2塗膜よりも低くなるように構成したため、より簡単な構成で下地塗膜に紫外線が照射されること等に起因した下地塗膜の早期劣化を効果的に抑制できる等の利点がある。
請求項3および請求項6に係る発明では、内板面上に形成された上記第3塗膜上に、クリヤ塗膜を形成するように構成したため、このクリヤ塗膜により上記第3塗膜を保護してその耐候性および平滑性を効果的に維持することができるという利点がある。
請求項4および請求項7に係る発明では、外板面上に形成された上記第2塗膜上に、クリヤ塗膜を形成するように構成したため、このクリヤ塗膜により上記第2塗膜を保護してその耐候性および平滑性を効果的に維持することができ、上記第3塗膜を形成する際に内板面に向けて噴霧された第3塗料のダストが外板面の第2塗膜上に付着した場合においても、外板面の平滑性を充分に確保することができる。
図1は、本発明に係る自動車車体1の塗装方法およびその装置の実施形態を示す塗装工程図である。この塗装工程は、自動車車体1の外板面2および内板面3上にそれぞれ下地塗膜4を形成する下地塗膜形成工程K0と、外板面2の下地塗膜4上に第1塗膜5を形成する第1塗膜形成工程K1と、この外板面2の第1塗膜5上に第2塗膜6を形成する第2塗膜形成工程K2と、上記第1塗膜5および第2塗膜6を予備乾燥させるプレヒート工程K3と、上記内板面3の下地塗膜4上に第3塗膜7を形成する第3塗膜形成工程K4と、上記内板面3の第3塗膜7上にクリヤ塗膜8を形成する内板クリヤ塗膜形成工程K5と、上記外板面2の第2塗膜6上にクリヤ塗膜9を形成する外板クリヤ塗膜形成工程K6と、上記第1〜第3塗膜5〜7およびクリヤ塗膜8,9を焼付乾燥させる焼付乾燥工程K7とを備えている。
上記下地塗膜形成工程K0では、例えば自動車車体1を電着塗料の入ったタンク内に浸漬した状態で直流電流を通電して電着塗装を施した後、上記タンクから引き上げられた自動車車体1を乾燥炉内に搬送して焼付乾燥させることにより、自動車車体1の防錆機能等を有する下地塗膜4を形成する。上記電着塗装方法には、クロム酸塩等を防錆材として用いたアニオン形と、防錆力に優れたエポキシ樹脂等をアミンで変性したものを用いるカチオン形とがある。
上記第1塗膜形成工程K1では、エアスプレー、エアレススプレーまたは静電霧化塗装機等からなる静電塗装機11を有する第1塗膜形成部12において、自動車のサイドドア等からなる開閉体13を略閉止した状態で、上記自動車車体1の外板面2に対して第1塗料を噴霧塗装することにより、上記外板面2の下地塗膜4上に高い下地隠蔽性を有する第1塗膜5を形成する。上記第1塗料は、下地隠蔽性を有する第1塗膜5を形成するとともに、この第1塗膜5を所定色に発色させるための顔料と、樹脂成分等とを、水からなる溶媒に溶解または分散させることによって得られる水溶性塗料であり、必要に応じて体質顔料、沈降防止剤、塗面調整剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤および付着付与剤等を適宜含有させることができる。
上記第1塗料に含有される顔料としては、例えばカーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄、アルミフレーク、およびそれらの組合せからなる群から選択されたものが使用される。また、必要に応じて、有彩色用の着色顔料、つまり亜鉛華、カドミウムレッド、モリブデンレッド、クロムイエロー、酸化クロム、プルシアンブルー、コバルトブルー、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリン系顔料、スレン系顔料、ペリレン系顔料等の着色顔料から選ばれた一種を使用し、または二種以上を混合して使用することもできる。
上記樹脂成分としては、熱硬化性樹脂組成物を使用することが好ましい。この熱硬化性樹脂組成物としては、例えば、架橋性官能基を有する、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂等の基体樹脂と、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネート化合物(ブロック体も含む)等の架橋剤とからなる組成物、酸基含有樹脂およびエポキシ基含有樹脂を主成分とする酸・エポキシ架橋系樹脂組成物等を挙げることができる。なお、上記樹脂成分として、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基等の架橋性官能基を有する、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂等の基体樹脂と、メラミン樹脂等の架橋剤とからなる熱硬化性樹脂組成物を使用することが、より好ましい。
上記第1塗料に含有される顔料として、例えばカーボンブラックや二酸化チタン等からなるグレー系の着色顔料を使用することにより、上記第1塗膜5上に形成される第2塗膜6に対応した明度を有する無彩色に上記第1塗膜5の色彩が設定される。すなわち、この第1塗膜5の色彩は、例えばダークグレー、グレー、ライドグレー、スーパライトグレーおよびホワイトからなる5段階の明度を有し、かつ優れた下地隠蔽機能を有する無彩色に設定されるようになっている。また、上記着色顔料の含有量を通常よりも多く設定した場合、つまり第2塗膜6に対応した明度よりも第1塗膜5の明度が低くなるように着色顔料の含有量を設定した場合には、上記第1塗膜5が有する下地隠蔽性を充分に確保することができる。
その後、上記第2塗膜形成工程K2では、エアスプレー、エアレススプレーまたは静電霧化塗装機等からなる静電塗装機14を有する第2塗膜形成部15において、上記サイドドア等からなる開閉体13を略閉止状態に維持しつつ、外板面2の第1塗膜5を硬化させずに未硬化の状態で、その上に第2塗料を噴霧塗装することにより第2塗膜6を形成する。上記第2塗料は、第2塗膜6を所定の外観塗膜色に発色させるための着色顔料と、樹脂成分等とを、水からなる溶媒に溶解または分散させることによって得られる水溶性塗料であり、必要に応じて体質顔料、沈降防止剤、塗面調整剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤および付着付与剤等を適宜含有させることができる。
上記第2塗料に含有される着色顔料としては、上記第1塗膜5よりも下地隠蔽性が低く、かつ予め設定された多数の外観塗膜色から選定された特定色に、当該第2塗膜6単独または上記第1塗膜5とともに第2塗膜6を発色させるものが使用される。具体的には、上記着色顔料として、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック、カドミウムレッド、モリブデンレッド、クロムエロー、酸化クロム、プルシアンブルー、コバルトブルー、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリン系顔料、スレン系顔料、ペリレン系顔料等の着色顔料から選ばれた1種を使用し、または2種以上を混合して使用することができる。
また、上記第1,第2塗膜形成工程K1,K2の終了後に行われるプレヒート工程K3では、自動車体をプレヒート部22に搬送し、自動車車体1の外板面2に熱風を吹き付け、赤外線を照射し、あるいはこれらの併用で外板面2を加熱することにより、上記第1,第2塗料中の水分を蒸発させて第1,第2塗膜5,6を半硬化状態とする。
次いで、第3塗膜形成工程K4では、エアスプレー、エアレススプレーまたは静電霧化塗装機等からなる静電塗装機16を有する第3塗膜形成部17に自動車車体1を移送し、上記開閉体13を略平状態から大きく開放した開放状態に変位させた後、自動車車体1内に上記静電塗装機16を導入して上記内板面3に第3塗料を噴霧塗装することにより、内板面3の下地塗膜4上に内板面3の外観塗膜色を発色する第3塗膜7を形成する。上記第3塗料は、外観塗膜色を発色するための着色顔料と、樹脂成分等とを、有機溶剤からなる溶媒に溶解または分散させることによって得られる溶剤型塗料であり、必要に応じて体質顔料、沈降防止剤、塗面調整剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤および付着付与剤等を適宜含有させることができる。上記第3塗料に含有される顔料としては、外板面2の上記第2塗料に含有されるものと同様のものが使用されることにより、この第2塗料により形成される第2塗膜6と同色または近似色に設定された外観塗膜色に、上記第3塗料により形成される第3塗膜7が発色されるようになっている。
その後、内板クリヤ塗膜形成工程K5に移行して開閉体13を開放状態に維持しつつ、内板面3の第3塗膜7上にクリヤ塗膜用塗料をエアスプレー、エアレススプレー、静電方式等の噴霧塗装法により塗布することによりクリヤ塗膜8を形成する。このクリヤ塗膜用塗料としては、例えば熱硬化性樹脂組成物および溶媒を含有する溶剤型塗料が使用され、さらに必要に応じて、光輝性顔料、着色顔料、沈降防止剤、塗面調整剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、付着付与剤等を適宜含有させることができる。上記光輝性顔料および着色顔料は、クリヤ塗膜8の透明性を損なわない程度に配合することが好ましい。
次いで、外板クリヤ塗膜形成工程K6に移行し、開放状態ある開閉体13を略閉止状態に変位させた後、内板クリヤ塗膜形成工程K5と同様にして外板面2の第2塗膜6上に、溶剤型塗料からなるクリヤ塗膜用塗料をエアスプレー、エアレススプレー、静電方式等の噴霧塗装法により塗布することによりクリヤ塗膜9を形成した後、焼付乾燥工程K7において140°C程度の温度で自動車車体1を約30分間に亘り加熱して上記各塗膜を同時に硬化させる。
上記のように下地塗膜4が形成された自動車車体1の外板面2上に水溶性の第1塗料を塗布して下地隠蔽性を有する第1塗膜5を形成する第1塗膜形成工程K1と、この第1塗膜5の形成後にその上に水溶性の第2塗料を塗布して上記第1塗膜5よりも下地隠蔽性が低く、かつ当該第2塗膜6単独または上記第1塗膜5とともに外観塗膜色を発色する第2塗膜6を形成する第2塗膜形成工程K2とを備えた自動車車体1の塗装方法およびその装置において、上記第2塗膜6の形成後に第1,第2塗膜5,6を予備乾燥させて当該塗膜5,6中の水分を気化させる予備乾燥工程K3と、この予備乾燥後に溶剤型の第3塗料を内板面3上に塗布して上記外板2側の外観塗膜色と同色または近似色の外観塗膜色を発色する第3塗膜6を形成する第3塗膜形成工程K4と、この第3塗膜6の形成後に上記第1〜第3塗膜5〜7を同時に焼付乾燥させる焼付乾燥工程K7とを備えた構成としたため、自動車車体1の外板面2上に塗布される第1塗料のダストが、内板面3の第3塗膜7上に付着することに起因した美観の低下を防止しつつ、第1塗料に汎用性を持たせて、設備コストを低減化できるとともに、塗装作業の手間を効果的に簡略化し、かつ上記水溶性の第1,第2塗料からなるベース塗膜用塗料を適正に硬化させることができるという利点がある。
すなわち、従来は、自動車車体1の内板面3上に第3塗膜7を形成する第3塗膜形成工程の終了後に、自動車車体1の外板面2上に第1塗膜5を形成する第1塗膜形成工程が設けられていた。しかし、この構成では、上記外板面2の下地塗膜4上に第1塗膜5を形成するために第1塗膜形成工程で噴霧された第1塗料のダストが車体内に入り込んで、図2に示すように、上記内板面3の周縁部等に付着することが避けられない。
そして、上記により形成される第1塗膜5と、第3塗料により形成される第3塗膜7とが異なる色彩に設定されている場合、例えば上記第1塗膜5が無彩色に設定され、かつ第3塗膜7が上記第2塗膜6と同一または近似の有彩色に設定されている場合には、上記内板面3に付着した第1塗料のダスト塗膜20と、内板面3の外観塗膜色を発色する第3塗膜7とが異なる色合いを呈することにより美観が低下することが避けられなかった。なお、上記ダスト塗膜20および第3塗膜7の上層には、クリヤ塗膜8が形成されるが、このクリヤ塗膜8は下地隠蔽性を有していないので、上記色合いの変化を隠蔽することはできない。
これに対して本発明のように第1,第2塗膜5,6の形成後に上記第3塗膜形成部17を使用した第3塗膜形成工程K4を設け、この第3塗膜形成工程K4で、上記外板2側の塗膜色と同色または近似色の外観塗膜色を発色する第3塗料を内板面3上に塗布して第3塗膜7を形成するように構成した場合には、図3に示すように、上記第1塗料のダストが内板面3に付着することによりダスト塗膜21が形成されたとしても、これを上記第3塗膜7により隠蔽できるため、内板面3の美観を良好状態に維持することができる。
したがって、上記第1塗膜5の色彩を、例えばダークグレー、グレー、ライドグレー、スーパライトグレーおよびホワイトからなる5段階の明度を有する無彩色に設定するとともに、上記第2塗膜6単独で外観塗膜色を発色させ、または上記第1塗膜5と第2塗膜6との両方で外観塗膜色を発色させるように構成すれば、上記第1塗膜5用の第1塗料に汎用性を持たせることができる。このため、第1塗膜5を第2塗膜6と同色に設定するように構成した場合に比して、上記第1塗料を塗布するために必要な配管を低減して塗装装置の構造を効果的に簡略しつつ、自動車車体1の外板面2上に塗布される第1塗料のダストが、内板面3の第3塗膜7上に付着することに起因した美観の低下を効果的に防止できるという利点がある。しかも、各種の色彩を有する外観塗膜色を発色する上記第2,第3塗膜6,7を形成する塗料か変更される度に行われる配管の変更回数に比べ、上記第1塗膜5を形成する際に配管を変更する作業の回数を大幅に低減して塗装作業を効率化できるという利点もある。
そして、上記第1塗膜5の色彩を外観塗膜色と同一または近似色に設定する必要がないので、図4に示すように、第1塗膜5を形成する第1塗料にカーボンブラック18等からなる下地隠蔽性を有する顔料を混入し、あるいは上記第1塗料に対する着色顔料19の含有量を通常よりも多く設定することにより、上記第1塗膜5が有する下地隠蔽性を効果的に向上させることができる。したがって、上記外板面2に形成された下地塗膜4上に中塗り塗料を塗布してこれを乾燥させるという作業を省略することにより、塗装作業の工程を簡略化しつつ、外板面2に照射された可視光または紫外線等を、上記第1塗膜5に配合されたカーボンブラック18もしくは着色顔料19により吸収または反射して下地塗膜4に上記紫外線等が到達するのを抑制することができる。このため、簡単な構成で下地塗膜4に紫外線が照射されること等に起因した下地塗膜4の早期劣化を効果的に防止できるという利点がある。
また、上記のように水溶性塗料からなる第1,第2塗料を使用して第1,第2塗膜5,6を形成したため、上記第1,第2塗料の溶剤として有機溶剤を使用した場合のように塗膜乾燥時に気化した溶剤が外部に排出されることによる問題を生じることはないという利点がある。しかも、上記水溶性塗料からなる第1,第2塗料の塗布後に第1塗膜5および第2塗膜6を予備乾燥させるプレヒート工程K3を設けたため、その後の第3塗膜形成工程K4において内板面3に噴霧された第3塗料が上記第2塗膜6上に付着し、あるいは外板クリヤ塗膜形成工程K6において、上記外板面2の第2塗膜6上にクリヤ塗膜9を形成した場合においても、上記第1,第2塗膜5,6中の水分が気化されずに残される等の不具合が生じることはなく、上記第1,第2塗料からなる第1,第2塗膜5,6を適正に硬化させることができる。
なお、自動車車体1の内板面3に形成される上記第3塗膜7用の第3塗料として水溶性の塗料を使用した場合には、図5に示す比較例のように、第1塗膜形成工程K1において、外板面2の下地塗膜4上に第1塗膜5を形成した後に、略閉止状態にある開閉体13を開放状態として自動車車体1を第3塗膜形成部17に搬送してその内板面3上に第3塗膜7を形成する第3塗膜形成工程K4を設け、かつこの第3塗膜7の形成後に、開放状態にある開閉体13を略閉止状態として自動車車体1を第2塗膜形成部15に搬送してその外板面2上に第2塗膜6を形成する第2塗膜形成工程K2を設けた構成とすることにより、第1塗膜5用の第1塗料が第3塗膜7上に付着するのを防止して自動車車体1の美観を効果的に向上させることが可能である。
すなわち、上記比較例のように第1塗膜形成工程K1と第2塗膜形成工程K2との間に第3塗膜形成工程K4を設けた構成とした場合には、上記第1塗膜形成工程K1で噴霧された第1塗料のダストが、その後に形成される第2塗膜6上に付着する可能性はなく、第1塗膜5用の第1塗料と、第3塗膜7用の第3塗料とが異なる色彩に設定されている場合においても、自動車車体1の美観が低下することはない。また、上記第3塗膜形成工程K4で自動車車体1の内板面3に噴霧された第3塗料のダストが、図6に示すように、外板面2の第1塗膜5上に付着してダスト塗膜21が形成されたとしても、その上に上記第2塗膜6が形成されることにより上記ダスト塗膜21が隠蔽される。このため、上記第2塗膜6と第3塗膜7との色彩が微妙に異なっている場合においても、この第3塗膜7用の第3塗料が外板面2上に露出して車体外面における美観が低下するという事態を生じることもない。
そして、上記第2塗膜形成工程K2における第2塗膜6の形成後に、プレヒート工程K3を設けて水溶性塗料により形成された上記第1〜第3塗料膜5〜7の水分を気化させた後、内板クリヤ塗膜形成工程K5で上記内板面3の第3塗膜7上に溶剤型塗料からなるクリヤ塗膜8を形成するともに、外板クリヤ塗膜形成工程K6で上記外板面2の第2塗膜6上に溶剤型塗料からなるクリヤ塗膜9を形成し、その後に焼付乾燥工程K7で上記第1〜第3塗膜5〜7およびクリヤ塗膜8,9を同時に焼付乾燥させることにより優れた美観および耐候性等を有する塗装を自動車車体1に施すことが可能である。
しかし、図5に示す比較例のように、第1塗膜形成工程K1と第2塗膜形成工程K2との間に第3塗膜形成工程K4を設けた場合には、上記第1塗膜形成工程K1から第3塗膜形成工程K4に移行する際に略閉止状態にある開閉体13を開放状態に変位させ、かつ上記第3塗膜形成工程K4から第2塗膜形成工程K2に移行する際に開放状態にある開閉体13を略閉止状態に変位させ、さらに上記プレヒート工程K3から内板クリヤ塗膜形成工程K5に移行する際に略閉止状態にある開閉体13を開放状態に変位させ、かつ内板クリヤ塗膜形成工程K5から外板クリヤ塗膜形成工程K6に移行する際に開放状態にある開閉体13を略閉止状態に変位させる必要があり、計4回の開閉操作を行わなければならい。したがって、塗装作業が複雑化することが避けられないとともに、上記開閉体13の開閉操作に伴って舞い上がった埃やゴミが塗膜に付着して塗膜の品質が低下し易いという弊害がある。
これに対して図1に示すように、第1,第2塗膜形成工程K1,K2において第1,第2塗膜形成部12,15により自動車車体1の外板面2上に第1,第2塗膜5,6を形成した後に、上記第3塗膜形成工程K3において第3塗膜形成部17により内板面3上に第3塗膜7を形成するように構成した場合には、プレヒート工程K3から第3塗膜形成工程K4に移行する際と、内板クリヤ塗膜形成工程K5から外板クリヤ塗膜形成工程K6に移行する際とで、開閉体13の開閉作業を二回行うだけでよい。したがって、図1に示す本発明に係る自動車車体の塗装方法およびその装置によれば、図5に示すように第1塗膜形成工程K1と第2塗膜形成工程K2との間に第3塗膜形成工程K4を設けた比較例に比べて、自動車のサイドドア等からなる開閉体13の開閉回数を著しく低減し、塗装作業を簡略化することができるとともに、上記開閉体13の開閉操作に伴って舞い上がった埃やゴミが塗膜に付着するという事態の発生を抑制して、塗膜の品質を効果的に向上できるという利点がある。
また、上記実施形態では、第1塗料に対する着色顔料19の含有量を通常よりも多く設定することにより、第1塗膜形成工程K1で形成される第1塗膜5の明度を、第2塗膜形成工程K2で形成される第2塗膜6よりも低く設定するように構成したため、上記カーボンブラック18等からなる下地隠蔽用の顔料を省略し、あるいはその含有量を低減しつつ、上記第1塗膜5の下地隠蔽性を確保することができるため、より簡単な構成で、下地塗膜4に紫外線が照射されることに起因した下地塗膜4の早期劣化を効果的に抑制できるという利点がある。
さらに、上記実施形態に示すように、自動車体1の内板面3に形成された上記第3塗膜7上にクリヤ塗膜8を形成する内板クリヤ塗膜形成工程K5を設けた構成とした場合には、上記内板面2の平滑性および美観を効果的に維持することができるとともに、上記第3塗膜7をクリヤ塗膜8により保護してその耐候性等を効果的に向上させることができる。
また、上記実施形態では、自動車車体1の外板面2上に形成された上記第2塗膜6上にクリヤ塗膜9を形成する外板クリヤ塗膜形成工程K6を設けたため、このクリヤ塗膜9により上記第2塗膜6を保護してその耐候性および平滑性等を効果的に維持することができる。したがって、上記第3塗膜形成工程K4において内板面3に向けて噴霧された第3塗料のダストが外板面2の第2塗膜6上に付着した場合においても、外板面2の平滑性を充分に確保できるという利点がある。