JP2010231173A - 光学物品およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】帯電防止性に優れ、ごみの付着を抑制できるフィルター層を備えた光学物品を提供する。
【解決手段】基材1と、この基材1の上に形成された透光性のフィルター層2とを有する光学多層膜フィルター10を提供する。フィルター層2の1つの層21の表面にシリコンを蒸着することにより低抵抗の導電層23を含むフィルター層2を形成できる。この光学多層膜フィルターのサンプルでは、シート抵抗が、ごみの付着が懸念される1×1012Ω/□よりも十分に低くなり、優れた帯電防止性を示し、ごみの付着の少ない光学物品を提供できる。
【選択図】図1

Description

本発明は、フィルタリング機能を備えた光学物品およびその製造方法に関するものである。
特許文献1には、光学的性質を劣化させずに長期間に渡って帯電防止効果を保つことができる光学多層膜フィルターと、該フィルターを簡便に製造する光学多層膜フィルターの製造方法、さらに、このような光学多層膜フィルターを組み込んだ電子機器装置を提供するために、光学多層膜フィルターの、基板上に形成された複数層からなる無機薄膜の最表層を構成する酸化ケイ素層の密度を1.9〜2.2g/cm3にすることが記載されている。
特開2007−298951号公報
特許文献1の光学多層膜フィルターは、蒸着時の真空度を変化させ、最表層のSiO2膜の密度を低下させることによりシート抵抗を低下させ、帯電防止性を有する光学多層膜フィルターを提供している。しかしながら、さらにゴミが付着する可能性を低減するためには、さらに、低抵抗にすることが要望されている。ここで「低抵抗にする」とは、シート抵抗を小さくすることである。
光学物品において、透明電極であるITO膜を用いて低抵抗にすることが提案されている。しかしながら、ITO膜は用途によっては、耐久性、特に、汗などに相当する酸やアルカリなどの薬品に対する耐久性に懸念がある場合がある。貴金属の薄膜を積層することも提案されるが、製造コストに問題がある場合がある。
本発明の一態様は、光学基材の上に直にまたは他の層を介して形成されたフィルター層であって、所定の波長域の光を透過し、所定の波長域よりも長波長および/または短波長の光を遮断するフィルター層を有する光学物品の製造方法である。この製造方法は、フィルター層に含まれる第1の層を形成することと、第1の層の表面に、炭素、シリコン(ケイ素)およびゲルマニウムの少なくともいずれかを主成分とする金属、および/または、炭素、シリコンおよびゲルマニウムの少なくともいずれかと遷移金属との化合物を備えた透光性の導電層を形成することとを有する。炭素、シリコンおよびゲルマニウムは身近な製品の素材、半導体基板の素材などとして使用されており、比較的低コストで入手可能な素材である。また、これらの素材(組成)を主成分とする金属、および/または、炭素、シリコンおよびゲルマニウムの少なくともいずれかと遷移金属との化合物はシート抵抗が低く、導電性があり、蒸着(イオンアシスト蒸着)、スパッタリングなどの比較的簡単な方法で薄く成膜することが可能である。このため、フィルター層に透光性の導電層を含めることが可能となる。
したがって、この製造方法を採用することにより、フィルター層の光学的性能に与える影響を最小限に止めながら、貴金属あるいはITOに匹敵する、あるいはそれに近いレベルまでシート抵抗を下げ、帯電防止効果の優れた光学物品を経済的に提供することが可能となる。
導電層を形成することは、炭素、シリコン、ゲルマニウム、化合物を形成する遷移金属および化合物の少なくともいずれかを第1の層の表面に蒸着することを含む。
第1の層が、炭素、シリコンおよびゲルマニウムの少なくともいずれかと化合物を形成可能な遷移金属を含む酸化物層であれば、導電層を形成することは、第1の層の表面に、炭素、シリコンおよびゲルマニウムの少なくともいずれかを打ち込むことにより、第1の層の上に、第1の層に含まれる遷移金属との化合物を含む導電層を形成できる。また、第1の層が、炭素、シリコンおよびゲルマニウムの少なくともいずれかと化合物を形成可能な遷移金属を含む酸化物層であれば、同じまたは類似の遷移金属を含む導電層と第1の層とは機械的および/または化学的な相違は小さい可能性が高く、機械的および/または化学的により安定したフィルター層を備えた光学物品を製造し易い。
フィルター層の典型的なものの1つは第1の層を含む多層膜である。本発明の製造方法は、さらに、導電層に重ねて多層膜の他の層を形成することを含んでもよい。
本発明の他の態様の1つは、光学基材と、光学基材の上に直にまたは他の層を介して形成されたフィルター層とを有する光学物品である。フィルター層は、所定の波長域の光を透過し、所定の波長域よりも長波長および/または短波長の光を遮断するものである。このフィルター層は、第1の層の表面に形成された透光性の導電層を含み、この導電層は、炭素、シリコンおよびゲルマニウムの少なくともいずれかを主成分とする金属、および/または、炭素、シリコンおよびゲルマニウムの少なくともいずれかと遷移金属との化合物を含む。この光学物品においては、第1の層の表面に透光性の導電層を備えているので、フィルター層の光学的性能に与える影響を抑制しながら、帯電防止、ゴミ着防止などの機能を付与できる。
フィルター層の典型的なものの1つは、可視光を透過させ、紫外光および/または赤外光を遮断するものである。光学物品は、可視光をハンドリングするシステム、たとえば、カメラ、プロジェクタなどのシステムに用いられる光学多層膜フィルターを含む。フィルター層は、紫外光を透過するもの、赤外光を透過するものであってもよく、さらに波長域の狭い光または波長域の広い光を透過するものであってもよい。
フィルター層の典型的なものの1つは、多層膜であり、第1の層は、多層膜を構成する1つの層である。第1の層は、炭素、シリコンおよびゲルマニウムの少なくともいずれかと化合物を形成可能な遷移金属を含む酸化物層であることが好ましい。
光学基材の典型的なものは、ガラス板または水晶板である。ガラス板あるいは水晶板を振動板として使用でき、振動機能付きの光学物品を提供できる。光学基材は、レンズ、フィルムであってもよい。
本発明のさらに異なる他の態様の1つは、上述した光学物品と、光学物品を通して画像を取得する撮像装置とを有するシステムである。このシステムの1つは、レンズ鏡筒が取り外し可能な一眼レフカメラであり、光学物品を撮像素子のカバーガラスとして使用できる。また、光学物品は、反射防止膜、ハーフミラー、ローパスフィルター等の機能部材として利用でき、システムは、そのような機能部材を含む電子機器装置、光学機器装置を含む。
多層構造のフィルター層を含むレンズの構造を示す断面図。 設計波長が550nmのUV−IRフィルター用の多層膜の構成を示す表。 設計波長が550nmのUV−IRフィルターの透過率を示す図。 サンプルS1〜S4およびR1の評価を示す表。 (A)は、シート抵抗を測定する様子を示す断面図、(B)は平面図。 一眼レフデジタルカメラの概要を示す図。
本発明の幾つかの実施形態を説明する。図1に、本発明を適用した光学多層膜フィルター10の構成の一例を、基材1を中心とした一方の面の側の断面図により示している。光学多層膜フィルター10は、透光性(透明)な基材(光学基材)1と、基材1の上に直にまたは他の層を介して形成されたフィルター層2とを有する光学物品の一例である。図1に示した光学多層膜フィルター10は、基材1の上に直にフィルター層2が形成されている。フィルター層2は、所定の波長域(周波数帯)の光を透過し、所定の波長域(周波数帯)よりも長波長および/または短波長の波長域(周波数帯)の光を遮断するものである。この実施形態の光学多層膜フィルター10は、可視光を透過し、紫外線(紫外光、UV)および赤外線(赤外光、IR)を遮断する(カットする)機能を備えたフィルター層2を備えている。
光学多層膜フィルター10の典型的な基材1は、ガラス、水晶、プラスチックなどの透光性の素材からなる板材である。基材1は、透光性の素材からなるプリズム、レンズなどの所定の光学的性能を備えた部材であってもよい。また、基材1は、透光性の素材からなる可撓性のフィルムであってもよい。
所定の波長域よりも長波長および/または短波長の光を遮断するフィルター層2は、無機系の組成からなる多層膜で構成される。典型的な多層膜は、屈折率が1.3〜1.6である低屈折率層と、屈折率が1.8〜2.6である高屈折率層とを交互に積層した構成を備えている。無機多層膜の各層の例としては、SiO2、SiO、TiO2、TiO、Ti23、Ti25、Al23、TaO2、Ta25、NdO2、NbO、Nb23、NbO2、Nb25、CeO2、MgO、Y23、SnO2、MgF2、WO3、HfO2、ZrO2などが挙げられる。各層は、これらの無機物の単独もしくは2種以上の混合組成で構成できる。
所定の波長域よりも長波長および/または短波長の光を遮断するフィルター層2は、典型的には数10層の多層膜で構成される。図1に示すように、フィルター層2は、基材1の側から高屈折率層(H)21(TiO2層21ともいう)と、低屈折率層(L)22(SiO2層22ともいう)とを組み合わせて積層された構成を備えている。設計波長λが550nmのフィルター層2の基本構成は60層である。ただし、本例においては、以下で説明するように、第60層として導電層を導入しており、フィルター層2の構成は61層になっている。
まず、第1層の高屈折率材料のTiO2層21の膜厚が0.60H、第2層の低屈折率材料のSiO2層22の膜厚が0.20L、以下、順次、1.05H、0.37L、(0.68H、0.53L)4、0.69H、0.42L、0.59H、1.92L、(1.38H、1.38L)6、1.48H、1.52L、1.65H、1.71L、1.54H、1.59L、1.42H、1.58L、1.51H、1.72L、1.84H、1.80L、1.67H、1.77L、(1.87H、1.87L)7、1.89H、1.90L、最上層(59層目)の高屈折率層21が1.90Hある。そして、60層目の導電層23を挟んで、61層目の最表層(最表面)の低屈折率材料のSiO2層22が0.96Lである。
なお、膜厚は、光学膜厚nd=1/4λを「1」として記載しており、高屈折率層(H、21)の膜厚については「H」を付記し、低屈折率層(L、22)の膜厚については「L」を付記している。また、(xH、yL)Sは、括弧内の構成を周期的に繰り返すことを表しており、「S」はスタック数と呼ばれる繰り返しの回数である。
図2に設計波長λが550nmのフィルター層2の各層の具体的な厚みを示しており、これらの厚さは上記膜構造を基本として最適化した膜厚である。フィルター層2の高屈折率層21は、酸化チタン(TiO2)層であり屈折率nは2.40である。低屈折率層22は二酸化ケイ素(SiO2)層であり屈折率nは1.46である。
図3に、フィルター層2を含む光学多層膜フィルター10の透過率特性を示している。この光学多層膜フィルター10は、可視光の波長域(この例では390−660nm)をほぼ透過し、それより下の紫外域および上の赤色および赤外域の波長を遮断する特性を備えている。設計波長を変えたり、フィルター層2の構成を変えたりすることにより、フィルター層2の透過特性を制御することができる。
フィルター層2を形成する方法としては、乾式法、たとえば、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などが挙げられる。真空蒸着法においては、蒸着中にイオンビームを同時に照射するイオンビームアシスト法を用いてもよい。
さらに、本発明の実施形態の光学多層膜フィルター10においては、フィルター層2に含まれる少なくとも1つの層の表面に、炭素(カーボン)、ケイ素(シリコン)およびゲルマニウムの少なくともいずれかを主成分とするアモルファス金属、および/または、炭素、シリコンおよびゲルマニウムの少なくともいずれかと遷移金属との化合物を備えた透光性の導電層23が形成されている。図1に示す光学多層膜フィルター10においては、最上層の低屈折率層22の下の高屈折率層21、すなわち、最上層の高屈折率層21の表面に導電層23が形成されている。
導電層23の一例は、炭素(カーボン)、ケイ素(シリコン)、またはゲルマニウムの金属の薄膜層である。導電層23は、炭素、ケイ素およびゲルマニウムの少なくともいずれかを含む化合物の薄膜層であっても良い。積層の対象となる層、この例では高屈折率層21が炭素、シリコンおよびゲルマニウムの少なくともいずれかと化合物を形成可能な遷移金属を含む場合は、炭素、ケイ素およびゲルマニウムを、積層の下地となる高屈折率層21の表面に打ち込むことにより、化合物を含む導電層23を形成することができる。
炭素、ケイ素およびゲルマニウムの少なくともいずれかを含む化合物の1つは、シリサイドなどと称される遷移金属ケイ化物(金属間化合物)である。シリサイドの例としては、ZrSi、CoSi、WSi、MoSi、NiSi、TaSi、NdSi、Ti3Si、Ti5Si3、Ti5Si4、TiSi、TiSi2、Zr3Si、Zr2Si、Zr5Si3、Zr3Si2、Zr5Si4、Zr6Si5、ZrSi2、Hf2Si、Hf5Si3、Hf3Si2、Hf4Si3、Hf5Si4、HfSi、HfSi2、V3Si、V5Si3、V5Si4、VSi2、Nb4Si、Nb3Si、Nb5Si3、NbSi2、Ta4.5Si、Ta4Si、Ta3Si、Ta2Si、Ta5Si3、TaSi2、Cr3Si、Cr2Si、Cr5Si3、Cr3Si2、CrSi、CrSi2、Mo3Si、Mo5Si3、Mo3Si2、MoSi2、W3Si、W5Si3、W3Si2、WSi2、Mn6Si、Mn3Si、Mn5Si2、Mn5Si3、MnSi、Mn11Si19、Mn4Si7、MnSi2、Tc4Si、Tc3Si、Tc5Si3、TcSi、TcSi2、Re3Si、Re5Si3、ReSi、ReSi2、Fe3Si、Fe5Si3、FeSi、FeSi2、Ru2Si、RuSi、Ru2Si3、OsSi、Os2Si3、OsSi2、OsSi1.8、OsSi3、Co3Si、Co2Si、CoSi2、Rh2Si、Rh5Si3、Rh3Si2、RhSi、Rh4Si5、Rh3Si4、RhSi2、Ir3Si、Ir2Si、Ir3Si2、IrSi、Ir2Si3、IrSi1.75、IrSi2、IrSi3、Ni3Si、Ni5Si2、Ni2Si、Ni3Si2、NiSi2、Pd5Si、Pd9Si2、Pd4Si、Pd3Si、Pd9Si4、Pd2Si、PdSi、Pt4Si、Pt3Si、Pt5Si2、Pt12Si5、Pt7Si3、Pt2Si、Pt6Si5、PtSiを挙げることができる。
炭素、ケイ素およびゲルマニウムの少なくともいずれかを含む化合物の他の1つは、ゲルマニドなどと称される遷移金属ゲルマニウム化物(金属間化合物)である。ゲルマニドの例としては、NaGe、AlGe、KGe4、TiGe2、TiGe、Ti6Ge5、Ti5Ge3、V3Ge、CrGe2、Cr3Ge2、CrGe、Cr3Ge、Cr5Ge3、Cr11Ge8、MnGe、Mn5Ge3、CoGe、CoGe2、Co5Ge7、NiGe、CuGe、Cu3Ge、ZrGe2、ZrGe、RbGe4、NbGe2、Nb2Ge、Nb3Ge、Nb5Ge3、Nb3Ge2、NbGe2、Mo3Ge、Mo3Ge2、Mo5Ge3、Mo2Ge3、MoGe2、CeGe4、RhGe、PdGe、AgGe、Hf5Ge3、HfGe、HfGe2、TaGe2、PtGeを挙げることができる。
炭素、ケイ素およびゲルマニウムの少なくともいずれかを含む化合物のさらに異なる他の1つは、カーバイドなどと称される有機遷移金属である。有機遷移金属の例としては、SiC、TiC、ZrC、HfC、VC、NbC、TaC、Mo2C、W2C、WC、NdC2、LaC2、CeC2、PrC2、SmC2が挙げられる。
(光学多層膜フィルターの製造)
(サンプルS1)
基材1は、光を透過させるガラス基板であり、実施例1では、屈折率1.52の白板ガラス(B270)を用いた。さらに、一般的なイオンアシストを用いた電子ビーム蒸着(いわゆるIAD法)により基材1の上に無機薄膜のフィルター層2を形成して光学多層膜フィルター10を製造した。実施例1において、フィルター層2の高屈折率層21は、酸化チタン(TiO2)層であり、低屈折率層22は二酸化ケイ素(SiO2)層である。具体的には、基材1を真空蒸着チャンバー(図示せず)内に取り付けた後、真空蒸着チャンバー内の下部に蒸着材料を充填したるつぼを配置し、電子ビームにより蒸発させた。同時にイオン銃によりイオン化した酸素(TiO2の成膜時はArを付加する)を加速照射することにより、図2に示す膜厚構成で交互に成膜した。
TiO2膜とSiO2膜との成膜条件は以下の通りである。
<SiO2膜の成膜条件>
成膜速度:0.8nm/sec
加速電圧:1000V
加速電流:1200mA
2流量:70sccm
成膜温度:150℃
<TiO2膜の成膜条件>
成膜速度:0.3nm/sec
加速電圧:1000V
加速電流:1200mA
2流量:60sccm
Ar流量:20sccm
成膜温度:150℃
最表層(最上層)の高屈折率層(59層)21を成膜後、最表層(最上層)の低屈折率層22を成膜する前に、蒸着装置内において、Si(金属シリコン、ケイ素)を、アルゴンイオンを用いたイオンアシスト蒸着により最上層の高屈折率層(59層)21の表面に打ち込み、導電層23を形成した。これにより、第59層の表面に第60層として低抵抗の導電層23を形成できた。導電層23の成膜条件は以下の通りである。なお、第60層として導電層23を形成した後に、導電層23に重ねて最表層(最上層)の低屈折率層22を第61層として成膜した。
<導電層の成膜条件(サンプルS1)>
下地層:TiO2
蒸着組成:ケイ素
処理時間:10秒
イオン照射条件
加速電圧:1000V
加速電流:150mA
Ar流量:20sccm
処理温度:150℃
(サンプルS2)
実施例1と同様の製造方法により、実施例1と同じ構成のフィルター層2を含む光学多層膜フィルター10を製造した。ただし、導電層23の成膜条件は以下の通りである。
<導電層の成膜条件(サンプルS2)>
下地層:TiO2
蒸着組成:ケイ素
処理時間:10秒
イオン照射条件
加速電圧:500V
加速電流:150mA
Ar流量:20sccm
処理温度:150℃
さらに、フィルター層2を形成した後、酸素プラズマ処理を施し、蒸着装置内で分子量の大きなフッ素含有有機ケイ素化合物を含む「KY−130」(商品名、信越化学工業(株)製)を蒸着し、フィルター層2の上に防汚層を成膜した。具体的には、フッ素含有有機ケイ素化合物を含有させたペレット材料を蒸着源として、約500℃で加熱し、防汚層を成膜した。蒸着時間は、3分間程度とした。
(サンプルS3)
実施例1と同様の製造方法により、実施例1と同じ構成のフィルター層2を含む光学多層膜フィルター10を製造した。ただし、導電層23の成膜条件は以下の通りである。
<導電層の成膜条件(サンプルS3)>
下地層:TiO2
蒸着組成:ゲルマニウム
処理時間:10秒
イオン照射条件
加速電圧:800V
加速電流:150mA
Ar流量:20sccm
処理温度:150℃
(サンプルS4)
実施例1と同様の製造方法により、実施例1と同じ構成のフィルター層2を含む光学多層膜フィルター10を製造した。ただし、導電層23の成膜条件は以下の通りである。
<導電層の成膜条件(サンプルS4)>
下地層:TiO2
蒸着組成:ゲルマニウム
処理時間:10秒
イオン照射条件
加速電圧:500V
加速電流:150mA
Ar流量:20sccm
処理温度:150℃
比較例1(サンプルR1)
実施例1と同様の製造方法により、実施例1と同じ構成のフィルター層2を含む光学多層膜フィルター10を製造した。ただし、導電層は成膜しなかった。したがって、比較例1により製造された光学多層膜フィルターのフィルター層は60層の構成である。
(サンプルの評価)
上記により製造された実施例のサンプルS1〜S4および比較例のサンプルR1について、シート抵抗、ごみの付着試験を用いて評価した。評価結果を図4にまとめて示している。
(1)シート抵抗
図5(A)および(B)に、シート抵抗の測定方法を示している。上記にて製造したサンプルS1〜S4およびR1の光学多層膜フィルター10の表面10Aにリングプローブ61を接触し、光学多層膜フィルター10のシート抵抗を測定した。測定装置60は、三菱化学(株)製高抵抗抵抗率計ハイレスタUP MCP−HT450型を使用した。使用したリングプローブ61は、URSタイプであり、2つの電極を有し、外側のリング電極61Aは外径18mm、内径10mmであり、内側の円形電極61Bは直径7mmである。それらの電極間に1000V〜10Vの電圧を印加し、各サンプルのシート抵抗を測定した。
図4に測定結果を示している。フィルター層2に導電層23を含めたサンプルS1〜S4においては、シート抵抗の測定値がそれぞれ、5×107Ω/□〜5×109Ω/□となり、ごみの付着が懸念されるシート抵抗1×1012Ω/□より十分に低い値となっている。
(2)ごみの付着試験
上記にて製造したサンプルS1〜S4およびR1の光学多層膜フィルター10の表面10Aの上で、眼鏡レンズ用拭き布を1kgの垂直加重にて10往復こすりつけ、このときに発生した静電気によるごみの付着の有無を調べた。ごみとしては、発泡スチロールを約5mmの大きさに砕いたものを使用した。判断基準は、以下の通りである。
○:ごみの付着が認められなかった。
△:ごみが数個付着していることが認められた。
×:数多くのごみが付着していることが認められた。
図4に示すように、フィルター層2に導電層23を含めた光学多層膜フィルター10のサンプルS1〜S4の評価はすべて○である。したがって、ケイ素またはゲルマニウムを蒸着することにより導電層23を形成した光学多層膜フィルター10は優れた帯電防止効果を備えており、ごみの付着を抑制できることがわかった。
(3)評価結果
実施例1〜4により得られたサンプルS1〜S4は、シート抵抗が低く、ごみの付着が見られない。したがって、ケイ素またはゲルマニウムを蒸着して導電層23を形成することにより、帯電防止効果に優れた光学多層膜フィルターを得られることがわかった。
ケイ素(シリコン)を例に説明すると、高屈折率層であるTiO2層21の表面にSi(金属シリコン、金属ケイ素)を適当なエネルギーでイオンアシスト蒸着することにより、TiO2層21の表面に薄い、たとえば、サブナノから1nmあるいはそれ以上の厚みの導電層23が形成される。この導電層23には、シリコンの領域あるいは部分が含まれている可能性がある。シリコンは半導体なのでシート抵抗が低く、帯電防止性能が得られる。
さらに、TiO2層21の表面にSi(金属シリコン、金属ケイ素)を適当なエネルギーでイオンアシスト蒸着することにより、表面から、サブナノから1nm前後程度あるいはそれ以上の厚みの部分にSi原子が打ち込まれた状態となり、下地層を構成しているTiO2とミキシングされ、化学反応を起こしている可能性がある。すなわち、TiO2層21にSi原子が叩き込まれ(打ち込まれ)、下地の材料であるTiO2層と化学反応を起こし、その表面にTiO2層のTi原子とSi原子との化合物であるTiSi、TiSi2などのチタンシリサイドが形成されている可能性がある。チタンシリサイド(たとえば、TiSi2)の抵抗率は15〜20μΩ・cm(シート抵抗(20nm)は12〜18Ω/□)と低く、導電性を向上でき、優れた帯電防止性能が得られる。
さらに、シリコンおよびシリサイドは、酸やアルカリに対しての耐腐食性に優れ化学的に安定性が高い。また、シリコンおよびシリサイドは、導電層23に積層されるSiO2層22と同系統の組成なので、多層膜であるフィルター層2の機械的な安定性も損なわれにくい。TiO2層21とSiO2層22と間に、両方の組成を含むシリサイドの導電層23を形成することにより、TiO2層21とSiO2層22との密着性をさらに向上できる可能性もある。
このように、TiO2層21の表面にシリコン(ケイ素)を蒸着することにより、TiO2層21の表面に、シリコン、または、チタンシリサイド、さらにはチタンシリサイドの酸化物の少なくともいずれかを含む導電層23を形成することができる。導電層23を形成することによりフィルター層2のシート抵抗を低減でき、フィルター層2の導電性を向上できると考えられる。シリコン(ケイ素)を蒸着する層は、フィルター層2を構成する59層目のTiO2層21に限定されることなく、いずれかの層でよく、さらに、複数の層の表面にシリコンを蒸着しても良い。
シリコンの蒸着方法も、イオンアシスト蒸着に限らず、他の方法、たとえば、通常の真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等を用いて、下地層の上にシリサイド層を形成し、導電層23としてもよい。
さらに、この方式では、TiO2層21の表面にサブナノから1nm前後程度の厚さ、あるいは数nmの厚さの部分にシリコンを打ち込むことにより薄膜の導電層23を形成でき、十分な帯電防止性能を発揮できる程度に低抵抗の層をフィルター層2に導入できる。このため、導電層23の組成自体は光吸収率が高い場合であっても、導電層23を薄膜化することにより、光学多層膜フィルター10の光学的性能にほとんど影響を与えずに表面の低効率を下げることができる。さらに、導電層23が非常に薄く、光学的な性能に与える影響が小さいので、フィルター層2の膜設計を変える必要も生じないであろう。
シリコンに代わり、ゲルマニウムおよび炭素を蒸着して導電層23を形成する場合も同様に考えることができる。シリコン、ゲルマニウム、炭素のみを蒸着する代わりに、これらを混合した組成を蒸着しても良い。さらに、これらの金属と、シリサイドなどの化合物を形成する遷移金属とを共に蒸着してもよい。ゲルマニウムおよび炭素は、シリコンと同じ第IV族元素であり、同様の電子構造を持ち、周期律表のシリコンの上下に位置する組成である。また、ゲルマニウム、炭素は単体で、シリコンと同様にシート抵抗が小さく、さらに、シリコンと同様に遷移金属と低抵抗の化合物を形成する。したがって、シリコンに代わり、ゲルマニウムあるいは炭素を蒸着することにより低抵抗の導電層23を形成することが可能であり、化学的および機械的に安定で、帯電防止性能に優れ、ごみの付着を抑制でき、さらに、光学的性質の低下もほとんどない光学多層膜フィルターを提供できる。
また、炭素およびケイ素(シリコン)は、身近な製品に多用されている低コストの素材である。また、ゲルマニウムも、シリコンとともに半導体基板などの工業材料として多く用いられている。したがって、炭素、ケイ素(シリコン)、または、ゲルマニウムを用いて低抵抗化することにより、低コストで帯電防止性能に優れた光学多層膜フィルターを提供できる。
図6に、実施例1〜4の光学多層膜フィルター10を含んで構成される電子機器装置を示している。この実施例は、電子機器装置として、例えば、静止画の撮影を行うレンズ鏡筒が取り外し可能なデジタルスチルカメラの撮像装置に適用した例である。図6の撮像装置400は、撮像モジュール100を含む。撮像モジュール100は、光学多層膜フィルター10と、光学ローパスフィルター110と、光学像を電気的に変換する撮像素子のCCD(電荷結合素子)120と、このCCD120を駆動する駆動部130を含む。
光学多層膜フィルター10は、本発明の実施例において説明したように、ガラス基板1と、高屈折率層21と低屈折率層22とが交互に積層された無機薄膜のフィルター層2とを含み、UV−IRカットフィルター機能を有する。この光学多層膜フィルター10は、前記したCCD120の前面に、固定治具140によってCCD120と一体的に構成され、CCD120の防塵ガラス機能を併せて有している。この固定治具140は金属によって構成されており、光学多層膜フィルター10の最表層と電気的に接続されている。そして、固定治具140は、アースケーブル150によってアース(地落)されている。光学多層膜フィルター10は、塵除去のために圧電素子などにより振動が加えられるようになっていてもよい。
撮像装置400は、撮像モジュール100に加え、光入射側に配置されるレンズ200と、撮像モジュール100から出力される撮像信号の記録・再生等を行う本体部300とを含む。なお、図示しないが、本体部300には、撮像信号の補正等を行う信号処理部と、撮像信号を磁気テープ等の記録媒体に記録する記録部と、この撮像信号を再生する再生部と、再生された映像を表示する表示部などの構成要素が含まれる。撮像装置400の一例はレンズ鏡筒が取り外し可能なデジタルスチルカメラであり、CCD120と防塵ガラス機能とUV−IRカットフィルター機能とを一体的に備えた光学多層膜フィルター10の搭載により、貼り合わせ精度がよく、良好な光学特性のデジタルスチルカメラを提供することができる。なお、実施例の撮像モジュール100は、レンズ200を分離して配置した構造で説明したが、レンズ200も含めて撮像モジュールが構成されていてもよい。
光学多層膜フィルターは、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラなどの撮像装置にかぎらず、いわゆるカメラ付携帯電話、いわゆるカメラ付携帯型パソコン(パーソナルコンピューター)などに適応でき、ほこりがつきにくく、光透過率が高い帯電防止性光学素子としての性能を維持できる。したがって、撮像機能を備えた多くのシステムに本発明を適用できる。
多層膜を備えた本発明の異なる実施形態の1つは、光学ローパスフィルター(OLPF)である。OLPFの構成の一例は、水晶複屈折板と、帯電防止機能を備えたフィルター層2を含むIRカットガラスと、位相差フィルムと、水晶複屈折板とが順次積層されている構成のものである。
このように、本発明に係る光学物品は、種々の波長帯域の光を選択的に透過させたり、光の透過率を確保したりすることが要求されるシステムに好適なものである。光学基材は、白板ガラスを用いて説明したが、これに限定せず、BK7、サファイアガラス、ホウケイ酸ガラス、青板ガラス、SF3、及びSF7等の透明基板であってもよいし、一般に市販されている光学ガラスであってもよい。さらに、光学基材として上述した水晶板を用いてもよく、また、プラスチック製の光学基材を用いてもよい。
また、フィルター層2を構成する高屈折率層21と低屈折率層22との組み合わせは、TiO2/SiO2に限定されることはない。フィルター層2は、ZrO2/SiO2、Ta25/SiO2、NdO2/SiO2、HfO2/SiO2、Al23/SiO2を含むさまざまな系で構成でき、それらのいずれかの層に炭素、ケイ素および/またはゲルマニウムを添加して表面処理し、低抵抗化および/または帯電防止機能を付加することが可能である。さらに、本発明の光学物品は、多層のフィルター層2に加えて、上述した防汚層などの他の機能層を含んでいてもよい。たとえば、光学基材がプラスチックなどの場合は、ハードコート層、プライマー層などの機能層を含んでいてもよい。
1 基材、2 フィルター層、21 高屈折率層、22 低屈折率層、23 導電層、10 光学多層膜フィルター。

Claims (10)

  1. 光学基材の上に直にまたは他の層を介して形成されたフィルター層であって、所定の波長域の光を透過し、前記所定の波長域よりも長波長および/または短波長の光を遮断するフィルター層を有する光学物品の製造方法であって、
    前記フィルター層に含まれる第1の層を形成することと、
    前記第1の層の表面に、炭素、シリコンおよびゲルマニウムの少なくともいずれかを主成分とする金属、および/または、炭素、シリコンおよびゲルマニウムの少なくともいずれかと遷移金属との化合物を備えた透光性の導電層を形成することとを有する、光学物品の製造方法。
  2. 請求項1において、前記導電層を形成することは、炭素、シリコン、ゲルマニウム、前記化合物を形成する遷移金属および前記化合物の少なくともいずれかを前記第1の層の表面に蒸着することを含む、光学物品の製造方法。
  3. 請求項1において、前記第1の層は、炭素、シリコンおよびゲルマニウムの少なくともいずれかと前記化合物を形成可能な遷移金属を含む酸化物層であり、
    前記導電層を形成することは、前記第1の層の表面に、炭素、シリコンおよびゲルマニウムの少なくともいずれかを打ち込むことを含む、光学物品の製造方法。
  4. 請求項1ないし3のいずれかにおいて、前記フィルター層は、前記第1の層を含む多層膜であり、
    さらに、前記導電層に重ねて前記多層膜の他の層を形成することを含む、光学物品の製造方法。
  5. 光学基材と、
    前記光学基材の上に直にまたは他の層を介して形成されたフィルター層であって、所定の波長域の光を透過し、前記所定の波長域よりも長波長および/または短波長の光を遮断するフィルター層と、
    前記フィルター層に含まれる第1の層の表面に形成された透光性の導電層であって、炭素、シリコンおよびゲルマニウムの少なくともいずれかを主成分とする金属、および/または、炭素、シリコンおよびゲルマニウムの少なくともいずれかと遷移金属との化合物を備えた導電層とを有する光学物品。
  6. 請求項5において、前記フィルター層は、可視光を透過し、紫外光および/または赤外光を遮断するフィルターである、光学物品。
  7. 請求項5または6において、前記フィルター層は多層膜であり、前記第1の層は、前記多層膜を構成する1つの層である、光学物品。
  8. 請求項7において、前記第1の層は、炭素、シリコンおよびゲルマニウムの少なくともいずれかと前記化合物を形成可能な遷移金属を含む酸化物層である、光学物品。
  9. 請求項5ないし8のいずれかにおいて、前記光学基材は、ガラス板または水晶板である、光学物品。
  10. 請求項5ないし9のいずれかに記載の光学物品と、
    前記光学物品を通して画像を取得する撮像装置とを有するシステム。
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