JP2010220615A - ゲノムが改変されたマウス - Google Patents

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直之 谷口
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Abstract

【課題】N-グリコシド結合複合型糖鎖還元末端の、N-アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素の、生理的役割及び病態との関わりの解明、またN-グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN-アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素を標的とした薬の開発に有用な動物モデルを提供する。
【解決手段】N-グリコシド結合複合型糖鎖還元末端の、N-アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素の活性が、低下または欠失するようにゲノムが改変された、マウスまたはその子孫。
【選択図】なし

Description

本発明は、N-グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN-アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素の活性が低下または欠失するように、ゲノムが改変されたマウスまたはその子孫に関する。
N-グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN-アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素としては、哺乳動物では、α1,6-フコシルトランスフェラーゼが知られている(非特許文献1)。α1,6-フコシルトランスフェラーゼの遺伝子(非特許文献2)の構造は1996年に明らかにされている(非特許文献3;非特許文献4;特許文献1)。α1,6-フコシルトランスフェラーゼの酵素活性は多くの臓器で確認されているが、脳や小腸において比較的高いことが報告されている(非特許文献5;非特許文献6)。生理的な機能としては、網膜形成においてフコース修飾糖鎖が重要な役割を担っていることが指摘されており、網膜形成とα1,6-フコシルトランスフェラーゼの発現調節との関わりが注目されている(非特許文献7)。血液凝固においても血小板由来のα1,6-フコシルトランスフェラーゼの役割が指摘されている(非特許文献8)。また、免疫グロブリンIgG1の糖鎖構造へのフコースの修飾がIgG1とFcγRIIIaとの結合を変化させ、抗体自身の抗体依存性細胞障害活性が変化することも報告されている(非特許文献9、非特許文献10)。病態との関わりに関しても、肝臓癌や嚢胞性繊維症などいくつかの疾病において、α1,6-フコシルトランスフェラーゼ活性の上昇及び該酵素反応生成物の割合の増加が観察されており、これら疾患との関連が指摘されている(非特許文献11、非特許文献12)。α1,6-フコシルトランスフェラーゼの過剰発現トランスジェニックマウスも作製され、作製されたトランスジェニックマウスにおいては肝臓や腎臓で脂肪症様の変性が観察されることが報告されている(非特許文献13)。
しかしながら、N-グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN-アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素が低下または欠失するようにゲノムが改変されたトランスジェニック非ヒト動物については、特許文献2に開示されているが、該ゲノムが改変されたマウスについてはこれまでに実際に作製されたという報告はない。
WO92/27303 WO02/31140
Biochem.Biophys. Res. Commun., 72, 909 (1976) EC 2.4.1,68 J. Biol. Chem., 271, 27810 (1996) J. Biochem., 121, 626, (1997) Int. J. Cancer, 72, 1117 (1997) Biochim. Biophys. Acta., 1473, 9 (1999) Glycobiology, 9, 1171 (1999) Biochem. Soc. Trans., 15, 603 (1987) J. Biol. Chem., 277, 26733 (2002) J. Biol. Chem., 278, 3466 (2003) Hepatology, 13, 683 (1991) Hepatology, 28, 944 (1998) Glycobiology, 11, 165, (2001)
本発明の目的は、N-グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN-アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素(以下、α1,6-フコース修飾酵素と略記する)の活性が低下または欠失するように、ゲノムが改変されたマウス及びその子孫を提供することにある。
本発明のマウス及びその子孫は、α1,6-フコース修飾酵素の生理的役割及び該酵素との病態との関わりの解明に有用である。また、α1,6-フコース修飾酵素を標的とした医薬の開発にも有用である。
本発明は、以下の(1)〜(6)に関する。
(1) N-グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN-アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素の活性が低下または欠失するように、ゲノムが改変されたマウスまたはその子孫。
(2) N-グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN-アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた、上記(1)に記載のマウスまたはその子孫。
(3) N-グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN-アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム上の対立遺伝子のすべてがノックアウトされた、上記(1)または(2)に記載のマウスまたはその子孫。
(4) N-グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN-アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素が、α1,6-フコシルトランスフェラーゼである、上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載のマウスまたはその子孫。
(5) α1,6-フコシルトランスフェラーゼが、以下の (a)または(b)から選ばれるDNAがコードする蛋白質である、上記(4)に記載のマウスまたはその子孫。
(a) 配列番号2で表される塩基配列からなるDNA;
(b) 配列番号2で表される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつα1,6-フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA。
(6) α1,6-フコシルトランスフェラーゼが、以下の (a)、(b)及び(c)からなる群から選ばれる蛋白質である、上記(4)に記載のマウスまたはその子孫。
(a) 配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質;
(b) 配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつα1,6-フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質;
(c) 配列番号1で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつα1,6-フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質。
本発明によれば、α1,6-フコース修飾酵素の活性が低下または欠失するように、ゲノムが改変されたマウス及びその子孫が提供される。
本発明のマウスまたはその子孫とは、α1,6-フコース修飾酵素の活性が低下または欠失するように、ゲノムが改変されたマウスまたはその子孫であれば、いかなるマウスまたはその子孫も包含される。
本発明において、α1,6-フコース修飾酵素としては、N-グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN-アセチルグルコサミンの6位とフコースの1位がα結合する反応に関与する酵素であればいかなる酵素も包含される。α1,6-フコース修飾酵素としては、具体的には、α1,6-フコシルトランスフェラーゼがあげられる。
本発明において、α1,6-フコシルトランスフェラーゼとしては、
下記(a)または(b)のDNAがコードする蛋白質、
(a) 配列番号2で表される塩基配列からなるDNA
(b) 配列番号2で表される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつα1,6-フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNAまたは下記(c)、(d)または(e)の蛋白質があげられる。
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(d)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつα1,6-フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質
(e)配列番号1で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつα1,6-フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質
本発明において、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとは、例えば配列番号2で表される塩基配列を有するDNAなどのDNAまたはその一部の断片をプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAを意味し、具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0Mの塩化ナトリウム存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウムよりなる)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNAをあげることができる。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, ColdSpring Harbor Laboratory Press, 1989(以下、モレキュラー・クローニング第2版と略す)、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons,1987-1997(以下、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジーと略す)、DNA Cloning 1: Core Techniques, A Practical Approach, Second Edition, Oxford University (1995)等に記載されている方法に準じて行うことができる。ハイブリダイズ可能なDNAとして具体的には、配列番号2で表される塩基配列と少なくとも60%以上の相同性を有するDNA、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有するDNAをあげることができる。
本発明において、配列番号1で表されるアミノ酸配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつα1,6-フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質とは、モレキュラー・クローニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、Nucleic Acids Research, 10, 6487 (1982)、Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 79, 6409 (1982)、Gene, 34, 315 (1985)、Nucleic Acids Research, 13, 4431 (1985)、Proc. Natl. Acad. Sci USA, 82, 488 (1985)等に記載の部位特異的変異導入法を用いて、例えば、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質をコードするDNAに部位特異的変異を導入することにより取得することができる蛋白質を意味する。欠失、置換、挿入および/または付加されるアミノ酸の数は1個以上でありその数は特に限定されないが、上記の部位特異的変異導入法等の周知の技術により、欠失、置換もしくは付加できる程度の数であり、例えば、1〜数十個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個である。
また、本発明において、配列番号1で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有し、かつα1,6-フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質とは、BLAST〔J. Mol. Biol., 215, 403 (1990)〕やFASTA〔Methods in Enzymology, 183, 63 (1990)〕等の解析ソフトを用いて計算したときに、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する蛋白質と少なくとも80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上、最も好ましくは99%以上である蛋白質であることを意味する。
本発明において、α1,6-フコース修飾酵素の活性が低下または欠失するようにゲノムが改変されたとは、該酵素の発現を低下または欠失させるように該遺伝子の発現調節領域に変異を導入したり、あるいは該酵素の機能を低下させるように該遺伝子のアミノ酸配列に変異を導入することを意味する。変異を導入するとは、ゲノム上の塩基配列に欠失、置換、挿入および/または付加といった塩基配列の改変を行うことを意味し、改変したゲノム遺伝子の発現または機能を完全に抑制することをノックアウトするという。ゲノム遺伝子をノックアウトする具体的な例としては、標的となる遺伝子のすべてまたは一部がゲノムから削除された例が挙げられる。このようなマウスまたはその子孫を取得する方法としては、目的とするゲノムの改変を行うことができれば、いずれの手法でも用いることができる。具体的には、酵素の遺伝子を標的とした遺伝子破壊の手法、酵素について突然変異を導入する方法、目的とした遺伝子改変を施した細胞の核を用いたクローン個体の作製方法などがあげられる。
以下、本発明のマウス及びその子孫の作出方法と利用方法について詳細に説明する。
1.本発明のマウス及びその子孫の作出方法
(1)酵素の遺伝子を標的とした遺伝子破壊の手法
本発明のマウス及びその子孫は、α1,6-フコース修飾酵素の遺伝子を標的とし、遺伝子破壊の方法を用いることにより作製することができる。α1,6-フコース修飾酵素としては、具体的には、α1,6-フコシルトランスフェラーゼがあげられる。
遺伝子破壊の方法としては、標的とする酵素の遺伝子を破壊することができる方法であればいかなる方法も包含される。その例としては、相同組換え法、RDO法、レトロウイルスを用いた方法、トランスポゾンを用いた方法等があげられる。以下これらを具体的に説明する。
(a)相同組換え法による本発明のマウス及びその子孫の作製本発明のマウス及びその子孫は、α1,6-フコース修飾酵素の遺伝子を標的とし、染色体上の標的遺伝子を相同組換え法を用い改変することによって作製することができる。
染色体上の標的遺伝子の改変は、Manipulating the Mouse Embryo A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1994)(以下、「マニピュレイティング・ザ・マウス・エンブリオ・ア・ラボラトリー・マニュアル」と略す)、Gene Targeting, A Practical Approach, IRL Press at OxfordUniversity Press (1993)、バイオマニュアルシリーズ8 ジーンターゲッティング, ES細胞を用いた変異マウスの作製,羊土社 (1995)(以下、「ES細胞を用いた変異マウスの作製」と略す)等に記載の染色体工学の手法を用い、例えば以下のように行うことができる。
α1,6-フコース修飾酵素のcDNAを取得する。
取得したcDNAの塩基配列に基づき、α1,6-フコース修飾酵素のゲノムDNAを調製する。
該ゲノムDNAの塩基配列にも基づき、改変する標的遺伝子(例えば、α1,6-フコース修飾酵素の構造遺伝子、あるいはプロモーター遺伝子)を相同組換えするためのターゲットベクターを作製する。
作製したターゲットベクターを胚性幹細胞に導入し、標的遺伝子とターゲットベクターの間で相同組換えを起こした細胞を選択する。
選択した胚性幹細胞を公知の注入キメラ法あるいは集合キメラ法に従って、受精卵に導入し、導入した受精卵を偽妊娠雌性マウスの卵管あるいは子宮に移植することで生殖系列キメラを選択する。
選択した生殖系列キメラを交配させ、産まれた仔から、導入したターゲットベクターが、α1,6-フコース修飾酵素をコードするゲノム上の遺伝子領域と相同組換えを起こして挿入された染色体を有する個体を選択する。
選択した個体同士を交配させ、産まれた仔から、両方の相同染色体において、導入したターゲットベクターが、α1,6-フコース修飾酵素をコードするゲノム上の遺伝子領域と相同組換えを起こして挿入された染色体を有するホモ接合体を選択する。
得られたホモ接合体同士を交配させ、その子孫を得ることにより、本発明のマウス及びその子孫を作製することができる。
α1,6-フコース修飾酵素のcDNA及びゲノムDNAを取得する方法としては、例えば、以下に記載の方法があげられる。
cDNAの調製方法
改変を施したいマウスの細胞から全RNA又はmRNAを調製する。
調製した全RNA又はmRNAからcDNAライブラリーを作製する。
α1,6-フコース修飾酵素の既知アミノ酸配列、例えばヒトのアミノ酸配列に基づいて、デジェネレイティブプライマーを作製し、作製したcDNAライブラリーを鋳型としてPCR法にて、α1,6-フコース修飾酵素をコードする遺伝子断片を取得する。
取得した遺伝子断片をプローブとして用い、cDNAライブラリーをスクリーニングし、α1,6-フコース修飾酵素をコードするcDNAを取得することができる。
マウスの細胞のmRNAは、市販のもの(例えばClontech社)を用いてもよいし、以下のごとく全RNAを調製し、これからmRNAを調製してもよい。細胞から全RNAを調製する方法としては、チオシアン酸グアニジン−トリフルオロ酢酸セシウム法[メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology), 154, 3 (1987)]、酸性チオシアン酸グアニジン・フェノール・クロロホルム(AGPC)法[アナリティカル・バイオケミストリー(Analytical Biochemistry),162, 156 (1987); 実験医学、9, 1937 (1991)]などがあげられる。
また、全RNAからpoly(A)+ RNAとしてmRNAを調製する方法としては、オリゴ(dT)固定化セルロースカラム法(モレキュラー・クローニング第2版)等があげられる。
さらに、Fast Track mRNA Isolation Kit(Invitrogen社)、Quick Prep mRNAPurification Kit(Pharmacia社)などのキットを用いることによりmRNAを調製することができる。
調製したマウスの細胞のmRNAからcDNAライブラリーを作製する。cDNAライブラリー作製法としては、モレキュラー・クローニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、A Laboratory Manual, 2 nd Ed.(1989)等に記載された方法、あるいは市販のキット、例えばSuperScript Plasmid System for cDNA Synthesis and Plasmid Cloning(Life Technologies社)、ZAP-cDNA Synthesis Kit(STRATAGENE社)を用いる方法などがあげられる。
cDNAライブラリーを作製するためのクローニングベクターとしては、大腸菌K12株中で自立複製できるものであれば、ファージベクター、プラスミドベクター等いずれでも使用できる。具体的には、ZAP Express[STRATAGENE社、ストラテジーズ(Strategies), 5, 58 (1992)]、pBluescript II SK(+)[ヌクレイック・アシッド・リサーチ(Nucleic Acids Research), 17, 9494 (1989)]、Lambda ZAP II(STRATAGENE社)、λgt10、λgt11[ディーエヌエー・クローニング・ア・プラクティカル・アプローチ(DNA cloning, A Practical Approach),1, 49 (1985)]、λTriplEx(Clontech社)、λExCell(Pharmacia社)、pT7T318U(Pharmacia社)、pcD2[モレキュラー・セルラー・バイオロジー(Mol. Cell. Biol.), 3, 280 (1983)]およびpUC18[ジーン(Gene), 33, 103 (1985)]等をあげることができる。
宿主微生物としては、微生物であればいずれでも用いることができるが、好ましくは大腸菌が用いられる。具体的には、Escherichia coli XL1-Blue MRF'[STRATAGENE社、ストラテジーズ(Strategies), 5, 81 (1992)]、Escherichia coliC600[ジェネティクス(Genetics), 39, 440 (1954)]、Escherichia coliY1088[サイエンス(Science),222, 778 (1983)]、Escherichia coli Y1090[サイエンス(Science), 222, 778 (1983)]、Escherichia coli NM522[ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J. Mol. Biol.), 166, 1 (1983)]、Escherichia coli K802[ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J. Mol. Biol.), 16, 118 (1966)]およびEscherichia coli JM105[ジーン(Gene), 38, 275 (1985)]等が用いられる。
このcDNAライブラリーを、そのまま以降の解析に用いてもよいが、不完全長cDNAの割合を下げ、なるべく完全長cDNAを効率よく取得するために、菅野らが開発したオリゴキャップ法[ジーン(Gene), 138, 171 (1994); ジーン(Gene), 200, 149 (1997); 蛋白質核酸酵素, 41, 603 (1996); 実験医学, 11, 2491 (1993); cDNAクローニング(羊土社 )(1996); 遺伝子ライブラリーの作製法(羊土社) (1994)]を用いて調製したcDNAライブラリーを以下の解析に用いてもよい。
α1,6-フコース修飾酵素のアミノ酸配列に基づいて、該アミノ酸配列をコードすることが予測される塩基配列の5’末端および3’末端の塩基配列に特異的なデジェネレイティブプライマーを作製し、作製したcDNAライブラリーを鋳型としてPCR法[ピーシーアール・プロトコールズ(PCR Protocols), Academic Press (1990)]を用いてDNAの増幅を行うことにより、α1,6-フコース修飾酵素をコードする遺伝子断片を取得することができる。
取得した遺伝子断片がα1,6-フコース修飾酵素をコードするDNAであることは、通常用いられる塩基配列解析方法、例えばサンガー(Sanger)らのジデオキシ法[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.), 74, 5463 (1977)]あるいはABIPRISM377DNAシークエンサー(PE Biosystems社製)等の塩基配列分析装置を用いて分析することにより、確認することができる。
該遺伝子断片をDNAプローブとして、改変を施したいマウスの細胞に含まれるmRNAから合成したcDNAあるいはcDNAライブラリー対してコロニーハイブリダイゼーションやプラークハイブリダイゼーション(モレキュラー・クローニング第2版)を行うことにより、α1,6-フコース修飾酵素のDNAを取得することができる。
また、α1,6-フコース修飾酵素をコードする遺伝子断片を取得するために用いたプライマーを用い、改変を施したいマウスの細胞に含まれるmRNAから合成したcDNAあるいはcDNAライブラリーを鋳型として、PCR法を用いてスクリーニングを行うことにより、α1,6-フコース修飾酵素のDNAを取得することもできる。
取得したα1,6-フコース修飾酵素をコードするDNAの塩基配列を末端から、通常用いられる塩基配列解析方法、例えばサンガー(Sanger)らのジデオキシ法[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl. Acad. Sci. U.S.A.), 74, 5463 (1977)]あるいはABIPRISM377DNAシークエンサー(PE Biosystems社製)等の塩基配列分析装置を用いて分析することにより、該DNAの塩基配列を決定する。
決定したcDNAの塩基配列をもとに、BLAST等の相同性検索プログラムを用いて、GenBank、EMBLおよびDDBJなどの塩基配列データベースを検索することにより、データベース中の遺伝子の中でα1,6-フコース修飾酵素をコードしている遺伝子を決定することもできる。
上記の方法で得られるα1,6-フコース修飾酵素をコードしている遺伝子の塩基配列としては、例えば、配列番号2に記載の塩基配列が挙げられる。
決定されたDNAの塩基配列に基づいて、フォスフォアミダイト法を利用したパーキン・エルマー社のDNA合成機model 392等のDNA合成機で化学合成することにより、α1,6-フコース修飾酵素のcDNAを取得することもできる。
α1,6-フコース修飾酵素のゲノムDNAを調製する方法としては、例えば、以下に記載の方法が挙げられる。
ゲノムDNAの調製方法
ゲノムDNAを調製する方法としては、モレキュラー・クローニング第2版やカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載された公知の方法があげられる。また、ゲノムDNAライブラリースクリーニングシステム(Genome Systems社)やUniversal GenomeWalkerTM Kits(CLONTECH社)などを用いることにより、α1,6-フコース修飾酵素のゲノムDNAを単離することもできる。
上記の方法で得られるα1,6-フコース修飾酵素のゲノムDNAの塩基配列は、上記方法で取得された、α1,6-フコース修飾酵素のcDNA配列が含まれていることから確認できる。
標的遺伝子を相同組換えするためのターゲットベクターは、 Gene Targeting,A Practical Approach, IRL Press at Oxford University Press (1993)、バイオマニュアルシリーズ8 ジーンターゲッティング, ES細胞を用いた変異マウスの作製(羊土社)(1995)等に記載の方法にしたがって作製することができる。ターゲットベクターは、リプレースメント型、インサーション型、ジーントラップ型いずれでも用いることができる。
胚性幹細胞へのターゲットベクターの導入方法としては、動物細胞にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、エレクトロポレーション法[サイトテクノロジー(Cytotechnology), 3, 133 (1990)]、リン酸カルシウム法[特開平2-227075]、リポフェクション法[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.),84, 7413 (1987)]、インジェクション法[Manipulating the Mouse Embryo A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1994)(以下、マニピュレーティング・マウス・エンブリオ第2版と略す)]、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法[特許第2606856、特許第2517813]、DEAE−デキストラン法[バイオマニュアルシリーズ4―遺伝子導入と発現・解析法(羊土社)横田崇・新井賢一編(1994)]、ウイルスベクター法[マニピュレーティング・マウス・エンブリオ第2版]等をあげることができる。
相同組換え体を効率的に選別する方法として、例えば、Gene Targeting, A Practical Approach, IRL Press at Oxford University Press (1993)、バイオマニュアルシリーズ8 ジーンターゲッティング, ES細胞を用いた変異マウスの作製(羊土社)(1995)等に記載のポジティブ選択、プロモーター選択、ネガティブ選択、ポリA選択などの方法を用いることができる。具体的には、hprt遺伝子を含むターゲットベクターの場合は、hprt遺伝子を欠損した胚性幹細胞に導入後、胚性幹細胞をアミノプテリン、ヒポキサンチンおよびチミジンを含む培地で培養し、アミノプテリン耐性の株を選別することにより、hprt遺伝子を含む相同組換え体を選別するポジティブ選択を行なうことができる。ネオマイシン耐性遺伝子を含むターゲットベクターの場合は、ベクターを導入した胚性幹細胞をG418を含む培地で培養し、G418耐性の株を選別することにより、ネオマイシン耐性遺伝子を含む相同組換え体を選別するポジティブ選択を行なうことができる。DT遺伝子を含むターゲットベクターの場合は、ベクターを導入した胚性幹細胞を培養し、生育してきた株を選別する(相同組換え以外のランダムに染色体に挿入された組換え体は、DT遺伝子が染色体に組み込まれて発現するため、DTの毒性により生育できない)ことにより、DT遺伝子を含まない相同組換え体を選別するネガティブ選択を行なうことができる。選別した細胞株の中から目的とする相同組換え体を選択する方法としては、ゲノムDNAに対するサザンハイブリダイゼーション法(モレキュラー・クローニング第2版)やPCR法[ピーシーアール・プロトコールズ(PCR Protocols), Academic Press (1990)]等があげられる。
選択した胚性幹細胞を注入キメラ法あるいは集合キメラ法に従って、受精卵に導入し、導入した受精卵を偽妊娠雌性マウスの卵管あるいは子宮に移植することで生殖系列キメラを選択する。
胚性幹細胞を集合キメラ法を用いて受精卵に取り込ませる場合には、一般に8細胞期以前の発生段階の受精卵を用いることが好ましい。胚性幹細胞を注入キメラ法を用いて受精卵に取り込ませる場合には、一般に8細胞期から胚盤胞の発生段階の受精卵を用いることが好ましい。
雌マウスへ受精卵を移植する場合には、精管結紮雄非ヒト哺乳動物と交配させることにより、受精能を誘起された偽妊娠雌マウスに得られた受精卵を人工的に移植および着床させる方法が好ましく、偽妊娠雌マウスは自然交配によっても得られるが、黄体形成ホルモン放出ホルモン(以下、LHRHと略する)あるいはその類縁体を投与後、雄マウスと交配させることにより、受精能を誘起された偽妊娠雌マウスを得ることもできる。LHRHの類縁体としては、例えば[3,5-Dil-Tyr5]-LHRH、[Gln8]-LHRH、[D-Ala6]-LHRH、des-Gly10-[D-His(Bzl)6]-LHRH ethylamide等があげられる。
選択した生殖系列キメラを交配させ、産まれた仔から、導入したターゲットベクターが、α1,6-フコース修飾酵素をコードするゲノム上の遺伝子領域と相同組換えを起こして挿入された染色体を有する個体を選択する。
選択した個体同士を交配させ、産まれた仔から、両方の相同染色体において、導入したターゲットベクターが、α1,6-フコース修飾酵素に関与する酵素をコードするゲノム上の遺伝子領域と相同組換えを起こして挿入された染色体を有するホモ接合体を選択する。
得られたホモ接合体同士を交配させ、その子孫を得ることにより、本発明のマウス及びその子孫を作製することができる。
(b)RDO方法による本発明のマウス及びその子孫の作製
本発明のマウス及びその子孫は、α1,6-フコース修飾酵素の遺伝子を標的とし、RDO(RNA-DNA oligonucleotide)法を用い、例えば、以下のように作製することができる。
上述のようにして、α1,6-フコース修飾酵素のcDNAあるいはゲノムDNAを調製し、調製したcDNAあるいはゲノムDNAの塩基配列を決定する。
決定したDNAの配列に基づき、α1,6-フコース修飾酵素をコードする部分、非翻訳領域の部分あるいはイントロン部分を含む適当な長さのRDOのコンストラクトを設計し合成する。
合成したRDOを胚性幹細胞に導入し、標的とした酵素、すなわちα1,6-フコース修飾酵素に変異が生じた胚性幹細胞を選択する。
胚性幹細胞へのRDOの導入には、上記1の(1)の(a)に記載のターゲットベクターの導入方法を用いることができる。
RDOは、常法またはDNA合成機を用いることにより調製することができる。
RDOを胚性幹細胞に導入し、α1,6-フコース修飾酵素の遺伝子に変異が生じた細胞を選択する方法としては、モレキュラー・クローニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載された染色体上の遺伝子の変異を直接検出する方法があげられる。
RDOのコンストラクトは、サイエンス(Science), 273, 1386, (1996); ネイチャー・メディシン(Nature Medicine), 4, 285, (1998); へパトロジー(Hepatology), 25, 1462, (1997); ジーン・セラピー(Gene Therapy), 5, 1960, (1999); ジーン・セラピー(Gene Therapy), 5, 1960, (1999); ジャーナル・オブ・モレキュラー・メディシン(J. Mol. Med.), 75, 829, (1997); プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc. Natl. Acad. Sci. USA), 96, 8774, (1999); プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc. Natl. Acad. Sci. USA), 96, 8768, (1999); ヌクレイック・アシッド・リサーチ(Nuc. Acids. Res.), 27, 1323, (1999); インベスティゲーション・オブ・ダーマトロジー(Invest. Dematol.), 111, 1172, (1998);ネイチャー・バイオテクノロジー(Nature Biotech.), 16, 1343, (1998); ネイチャー・バイオテクノロジー(Nature Biotech.), 18, 43, (2000); ネイチャー・バイオテクノロジー(Nature Biotech.), 18, 555, (2000)等の記載に従って設計することができる。
(c)トランスポゾンを用いた方法による、本発明のマウス及びその子孫の作製
本発明のマウス及びその子孫は、ネイチャー・ジェネティク(Nature Genet.),25, 35, (2000)等に記載のトランスポゾンのシステムを用い、α1,6-フコース修飾酵素の突然変異体を選択することで作製することができる。
トランスポゾンのシステムとは、外来遺伝子をランダムに染色体上に挿入させることで突然変異を誘発させるシステムであり、通常、トランスポゾンに挿まれた外来遺伝子を突然変異を誘発させるベクターとして用い、この遺伝子を染色体上にランダムに挿入させるためのトランスポゼースの発現ベクターを同時に細胞の中に導入する。
トランスポゼースは、用いるトランスポゾンの配列に適したものであればいかなるものも用いることができる。
外来遺伝子としては、細胞のDNAに変異を誘起するものであればいかなる遺伝子も用いることができる。
細胞への遺伝子の導入には、上記1の(1)の(a)に記載のターゲットベクターの導入方法を用いることができる。(2)酵素についての突然変異を導入する手法
本発明のマウス及びその子孫は、α1,6-フコース修飾酵素の遺伝子について突然変異を導入し、該酵素に突然変異を生じた所望のマウスを選択する手法を用いることにより作製することができる。
具体的には、突然変異誘発処理で処理した生殖細胞より出産した突然変異体あるいは自然発生的に生じた突然変異体から、α1,6-フコース修飾酵素の遺伝子に変異が生じた所望のマウスを選択する方法が挙げられる。
生殖細胞としては、精子や卵あるいは胚性幹細胞などの個体を形成しうる能力を有する細胞があげられる。
突然変異誘発処理としては、細胞のDNAに点突然変異、欠失あるいはフレームシフト突然変異を誘起するものであればいかなる処理も用いることができる。具体的には、エチルニトロソウレア、ニトロソグアニジン、ベンゾピレン、アクリジン色素による処理、放射線の照射などがあげられる。また、種々のアルキル化剤や発癌物質も突然変異誘発物質として用いることができる。突然変異誘発物質を細胞に作用させる方法としては、例えば、組織培養の技術 第三版(朝倉書店)日本組織培養学会編(1996)、ネイチャー・ジェネティクス(Nature Genet.),24, 314, (2000)等に記載の方法を挙げることができる。
自然発生的に生じた突然変異体としては、特別な突然変異誘発処理を施さないで、通常の飼育を続けることによって自然発生的に生じる突然変異体を挙げることができる。
(3)目的とした遺伝子改変を施した細胞の核を用いたクローン個体の作製方法
本発明のマウス及びその子孫は、文献に記載されたクローンマウス(T. Wakayamaら; Nature, 394, 369, 1998、T. Wakayamaら; Nature Genetics, 22, 127, 1999)の作製方法を用い、例えば以下のように作製することができる。
上記1.の(1)または(2)に記載した方法を用い、マウスの任意の細胞の染色体上の、α1,6-フコース修飾酵素遺伝子に変異を導入する。
次に、得られた細胞の核を初期化(核を再び発生を繰り返すことができるような状態に戻す操作)する。
初期化した細胞の核を除核したマウスの未受精卵に注入することによって発生を開始させる。
発生を開始した卵を雌マウスに人工的に移植および着床させることによって、α1,6-フコース修飾酵素遺伝子に変異が導入されたヘテロ接合体を得る。
得られたヘテロ接合体同士を交配することにより、ホモ接合体を得る。
得られたホモ接合体同士を交配し、その子孫を得ることにより、本発明のマウス及びその子孫を作製することができる。
細胞の核を初期化する方法は、非ヒト哺乳動物の種類によりそれぞれ異なることが知られているが、マウスなどの場合は、同種の非ヒト哺乳動物の除核した未受精卵に、外来性遺伝子を導入した細胞の核を注入し数時間、好ましくは約1〜6時間培養することで初期化することが好ましい。
初期化された核を除核された未受精卵中で発生を開始させる方法も、非ヒト哺乳動物の種類によりそれぞれ異なることが知られているが、マウスなどの場合は、外来性遺伝子を導入した細胞の核を注入した未受精卵を、卵子活性化物質(例えば、ストロンチウムなど)で刺激し細胞分裂の阻害物質(例えば、サイトカラシンBなど)で処理し第二極体の放出を抑制することで発生を開始させることが好ましい。
発生を開始した卵を雌マウスに人工的に移植および着床させる方法としては、上記1.の(1)の(a)に記載の方法などがあげられる。
2.本発明のマウス及びその子孫の利用
(1)本発明のマウス及びその子孫を用いた、α1,6-フコース修飾酵素の生理機能の解析本発明のマウス及びその子孫では、α1,6-フコース修飾酵素の活性が低下または欠失するようにゲノムが改変されているため、1)発生の過程における該酵素の生理的な役割、2)発生後から成体に至る過程での該酵素の生理的な役割、3)成体での該酵素の生理的な役割等を調べることが可能である。また、α1,6-フコース修飾酵素としては、α1,6-フコシルトランスフェラーゼが知られているが、同様な酵素活性を有するアイソザイムが存在しないかを各種臓器レベルで明らかにすることができる。また、正常個体、ヘテロ接合体、ホモ接合体を比較することで、α1,6-フコース修飾酵素の量的な変化が及ぼす生理的な影響を観察することもできる。
(2)本発明のマウスまたはその子孫を用いた物質の薬理評価方法
本発明のマウスまたはその子孫は、α1,6-フコース修飾酵素との関連が疑われている疾患において、該病気との因果関係を明確にし、その対処療法あるいは根本療法を見出すためのツールとして有用である。
具体的には、本発明のマウスまたはその子孫に試験物質を投与し、試験物質を投与しない動物と比較して、該動物の血圧、呼吸数、体重等の種々の身体的パラメーターの測定、外見や行動の観察、病理組織学的検討等の薬理作用を調べることにより、該試験物質の薬理評価を行なうことができる。時に、ヒトの疾患において観察されている症状と同様な症状についての知見は重要であり、治療薬開発への重要なデータをとることができる。
また、本発明のマウス及びその子孫に各種の疾患を誘発させた病態モデル動物を作製し、該病態モデル動物に試験物質を投与し、該病態モデル動物の血圧、呼吸数、体重等の種々の身体的パラメーターの測定、病態や、外見、行動の観察、病理組織学的検討等を、試験物質を投与しない該病態モデル動物と比較して行なうことにより、α1,6-フコース修飾酵素の活性が低下または欠失した動物における、該試験物質の該疾患に対する有効性および副作用等の薬理評価を行なうことができる。また、この評価に基づき、該疾患の治療薬として好ましい物質を選択することができる。
本発明のマウス及びその子孫に誘発させる疾患としては、心疾患(例えば、急性心不全、慢性心不全、心筋炎など)、呼吸器系疾患、関節疾患(例えば、関節リュウマチ、変形性関節症など)、腎疾患(例えば、腎不全、糸球体腎炎、IgA腎症など)、動脈硬化症、乾癬症、高脂血症、アレルギー疾患(例えば、喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎など)、骨疾患(例えば、骨粗鬆症、くる病、骨軟化症、低カルシュウム血症など)、血液疾患、脳血管性傷害、外傷性脳障害、感染症、痴呆症、癌、糖尿病、肝疾患、皮膚疾患、神経変性疾患および慢性炎症性疾患などがあげられる。病態モデル動物の作製は、「マニュアル疾患モデルマウス」〔Molecular Medicine, 31 臨時増刊号, 中山書店
(1994)〕、「図説・薬理学のための病態動物モデル」〔西村書店 (1984)〕、「関節炎モデル動物」〔医歯薬出版 (1985)〕、「神経・筋疾患モデル動物」〔医歯薬出版 (1982)〕、「活性酸素と病態 疾患モデルからベッドサイドへ」〔学会出版センター (1992)〕等に記載の方法を用いることができる。
(3)本発明のマウス及びその子孫から得られる細胞を用いた物質の薬理評価方法
本発明のマウス及びその子孫から得られる種々の細胞と、試験物質とを接触させ、試験物質非存在下での細胞と比較して、細胞内のCa2+濃度の上昇等の種々の細胞の応答や細胞の形態の変化等の薬理作用を調べることにより、試験物質の該細胞に対する薬理評価を行なうことができる。
また、本発明のマウス及びその子孫から得られる胚性幹細胞を分化誘導することにより、さまざまな種類の細胞を得ることができる。分化の誘導方法としては、胚性幹細胞を同種同系統の動物の皮下に移植することにより、様々な組織が混じりあった奇形腫瘍(テラトーマ)を誘導する方法(マニピュレーティング・マウス・エンブリオ第2版)、適当な条件でインビトロ培養することにより、内胚葉細胞、外胚葉細胞、中胚葉細胞、血液細胞、内皮細胞、軟骨細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、神経細胞、グリア細胞、上皮細胞、メラノサイト、ケラチノサイトに分化誘導する方法(Reprod. Fertil. Dev., 10, 31, 1998)をあげることができる。この分化後の細胞と、試験物質とを接触させ、試験物質非存在下での細胞と比較して、細胞内のCa2+濃度の上昇等の種々の細胞の応答や細胞の形態の変化等の薬理作用を調べることにより、試験物質の該細胞に対する薬理評価を行なうことができる。これらの方法によって、ヒト患者の生体から摘出しにくい細胞や少数しか存在しない細胞などに対する薬理評価を行うことができる。
(4)本発明のマウス及びその子孫の胚性幹細胞、卵、精子、核を用いた遺伝子改変動物の作製
本発明のマウス及びその子孫から得られる胚性幹細胞、卵、精子または核を用いて、上記1.に記載の方法により、α1,6-フコース修飾酵素の活性が低下または欠失するようにゲノムが改変され、かつさらなる染色体上の遺伝子の改変を行った遺伝子改変マウスを得ることができる。特に、その遺伝子の機能を破壊することである病態が惹起されることが公知になっている遺伝子を上記1.に記載した相同組換えの手法を利用して欠損させたノックアウトマウスや、該遺伝子の機能を阻害するドミナントネガティブ体の遺伝子を導入し発現させたトランスジェニックマウスは、病態モデル動物として有用である。
(5)本発明のマウスまたはその子孫と同種他系統の動物との交配による遺伝子改変動物の作製と作製された該遺伝子改変動物の利用
本発明のマウスまたはその子孫と同種他系統の動物(例えば、ヒト疾患モデル動物)とを交配させることにより、α1,6-フコース修飾酵素の活性が低下または欠失するようにゲノムが改変され、かつある表現系(例えば、ヒト病態と類似の症状)を示す遺伝子改変マウスを得ることができる。交配するマウスが、ヒト疾患モデル動物であれば、α1,6-フコース修飾酵素の活性が低下または欠失するようにゲノムが改変され、かつヒト病態と類似の症状を表現系として示す病態モデル動物が得られる。交配の方法としては、自然交配以外に体外受精の方法があげられる。疾患モデル動物としては、先天性および後天性を疾患を問わずいかなる疾患モデル動物も用いることができる。例えば後天性の病態モデル動物は、「マニュアル疾患モデルマウス」〔Molecular Medicine, 31 臨時増刊号, 中山書店 (1994)〕、「図説・薬理学のための病態動物モデル」〔西村書店 (1984)〕、「関節炎モデル動物」〔医歯薬出版 (1985)〕、「神経・筋疾患モデル動物」〔医歯薬出版 (1982)〕、「活性酸素と病態 疾患モデルからベッドサイドへ」〔学会出版センター (1992)〕等に記載の方法により作製することができる。
(6)遺伝子改変動物を用いた物質の薬理評価方法
上記(4)および(5)に記載の方法で得られた遺伝子改変病態モデル動物に試験物質を投与し、該病態モデル動物の血圧、呼吸数、体重等の種々の身体的パラメーターの測定、病態や、外見、行動の観察、病理組織学的検討等を、試験物質を投与しない該病態モデル動物と比較して行なうことにより、該試験物質の該疾患に対する有効性および副作用等の薬理評価を行なうことができる。また、この評価に基づき、該病態の治療薬として好ましい物質を選択することができる。
以下の実施例により本発明をより具体的に説明するが、実施例は本発明の単なる例示を示すものにすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
α1,6-フコシルトランスフェラーゼ両対立遺伝子を欠失したトランスジェニックマウスの作出
α1,6-フコシルトランスフェラーゼ(以下、FUT8とも呼ぶ)両対立遺伝子の翻訳開始コドンを含むゲノム領域を欠失したマウスの作出を以下のようにして行った。
1.マウスα1,6-フコシルトランスフェラーゼ(FUT8)遺伝子翻訳開始コドンを含むゲノム領域の単離
ブタFUT8 cDNA全長[ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J. Biol. Chem., 271, 27810 (1996) ]のうち、5’末端側非翻訳領域39bpから翻訳領域373bpを含む断片(412bp)を制限酵素SacI消化により調製した。これをプローブとして、モレキュラー・クローニング 第二版[Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2 nd Ed. (1989) ]に記載の公知の方法に従い、129SVJ系統マウス由来l-ファージゲノムライブラリー(STRATEGENE社)よりマウスFUT8翻訳開始コドンの位置するエクソンを含む13.9Kbのゲノムクローンを単離した(図1)。
次に、取得したゲノムクローンを各種制限酵素を用いて消化した後、上記ブタFUT8 cDNA部分断片412bpをプローブとして、モレキュラー・クローニング 第二版[Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2 nd Ed. (1989) ]に記載の公知の方法に従いサザンブロットを行った。その結果陽性を示した制限酵素断片のうち、翻訳開始コドンの位置するエクソンおよび上流イントロン領域をコードするXbaI-XbaI断片(約2.9Kb)、および翻訳開始コドンの位置するエクソンおよび下流イントロン領域をコードするSacI-SacI断片(約6.6Kb)を選択し、pBluescriptII KS(+)(Strategene社)へ各々挿入した(図1)。
2.マウスα1,6-フコシルトランスフェラーゼFUT8)遺伝子翻訳開始コドンを破壊するためのターゲティングベクタープラスミドの構築
本実施例第1項で得たXbaI-XbaI領域(約2.9Kb)のうち、5’末端側のXbaI-SacI領域(2.6Kb)を5’末端側相同領域とする一方、本実施例第1項で得たSacI-SacI領域(約6.6Kb) のうち、3’末端側のHindIII-XhoI領域(約6.1Kb)を3’末端側相同領域として各々配置することにより、翻訳開始コドンを含むSacI-HindIII領域(184bp)を欠失したターゲティングベクタープラスミドを構築した。以下にその詳細を示す。
まず、プラスミドpMC1DTpA[トランスジェニック・リサーチ(Transgenic Research), 8, 215 (1999) ]を制限酵素XhoIおよびNotIで消化し、得られたジフテリア毒素A鎖(DT-A)遺伝子を含む1.5Kbの断片にNotI-XhoIアダプターを連結することにより、両端をXhoI認識部位に置換した。一方、本実施例第1項で得たFUT83’末端側SacI-SacI領域(約6.6Kb)を含むpBluescriptII KS(+)に対し制限酵素XhoIを反応させ、HindIII-XhoI領域(約6.1Kb)を含む8.3Kbの断片を得た。上記で得たFUT8 3’末端側相同領域を含むXhoI-XhoI断片(8.3Kb)およびDT-A遺伝子を含むXho-Xho断片(1.5Kb)を連結し、プラスミドIを構築した。
次に、pGT1.8IresBgeo[プロシーディングス・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.), 91, 4303 (1994) ]を制限酵素SalIで完全消化した後、さらに制限酵素SacIで部分消化することにより、内部リボソーム翻訳開始部位(IRES)、β‐ガラクトシダーゼ遺伝子(LacZ)、ネオマイシン耐性遺伝子(Neor)およびポリA付加シグナル(pA)を連結させた薬剤選抜用発現ユニット(以下、IRES-LacZ-Neor-pAカセットと称す)を含む4.9Kbの断片を得た。一方、本実施例第1項で得たFUT8 5’末端側XbaI-XbaI領域(約2.9Kb)を含むpBluescriptII KS(+)に対し、制限酵素SacIおよびSalIを反応させ、XbaI-SacI領域(2.6Kb)を含む5.3Kbの断片を得た。上記で得たFUT8 5’末端側相同領域を含むSacI-SalI断片(5.3Kb)およびIRES-LacZ-Neor-pAカセットを含むSacI-SalI断片(4.9Kb)を連結し、プラスミドIIを構築した。
最後に、プラスミドIを制限酵素NotIおよびSalIで消化して得られる9.4Kbの断片へ、プラスミドIIを制限酵素NotIおよびSalIで消化して得られる7.6Kbの断片を連結させることにより、マウスFUT8遺伝子破壊用ターゲティングベクタープラスミド(17.0Kb)を構築した(図2)。
3.マウス胚性幹細胞におけるα1,6-フコシルトランスフェラーゼ(FUT8)遺伝子ゲノム領域の相同組換え
(1)フィーダー細胞の調製
相同組換えに用いるマウス胚幹細胞は、マウス初代繊維芽細胞(EMFI細胞)をフィーダーとして用い培養維持した。胚性幹細胞の培養維持に用いた該フィーダー細胞は以下の記述に従って調製した。
まず、ジーン・ターゲティング[Gene Targeting ,IRL PRESS at Oxford University Press (1993)]の記載に従って、8週齢以上の雌のネオマイシン耐性遺伝子導入マウス(大阪大学遺伝情報実験センター・岡部 勝教授より供与)より受精後13.5日から15.5日の胎児を摘出し、これを材料として初代繊維芽細胞(EMFI細胞)を調製した後、マイトマイシンC処理により増殖能を不活化させた。続いてマイトマイシン処理したEMFI細胞をFM培地[10% ウシ胎児血清(Invitrogen社)、55μmol/l β-メルカプトエタノール(Invitrogen社)、1mmol/l MEMピルビン酸ナトリウム(Invitrogen社)、0.1mmol/l MEM非必須アミノ酸(Invitrogen社)、3mmol/l アデノシン(SIGMA社)、3mmol/l グアノシン(SIGMA社)、3mmol/l シチジン(SIGMA社)、3mmol/l ウリジン(SIGMA社)、1mmol/l チミジン(SIGMA社)、2mmol/l L-グルタミン(Invitrogen社)、100単位/ml ペニシリンおよび100μg/ml ストレプトマイシン(Invitrogen社)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM; Invitrogen社)]に2.5×105個/mlとなるように懸濁した後、0.1% ゼラチンコート処理済み細胞培養用ディッシュ(6cm径、10cm径;旭テクノグラス社)または0.1% ゼラチンコート処理済み平底プレート(96穴、24穴、6穴;旭テクノグラス社)に播種し、5%CO2、37℃の条件下で24時間培養することによりフィーダープレートを作製した。作製したフィーダープレートは作製後1週間以内に用いた。なお、フィーダー細胞としては、上述のフィーダー細胞を用いる他に、例えば、ライフテックオリエンタル株式会社市販のNeo耐性初代培養細胞(カタログ番号YE9284100)を用いることもできる。
(2)胚性幹細胞へのターゲティングベクターの導入
マウス胚性幹細胞D3(名古屋大学医学部・村松 喬教授より供与され、大阪大学遺伝情報実験センターにて維持)の培養は、ESM培地[20% ウシ胎児血清(Invitrogen社)、55μmol/l β-メルカプトエタノール(Invitrogen社)、1mmol/lMEMピルビン酸ナトリウム(Invitrogen社)、0.1mmol/l MEM非必須アミノ酸(Invitrogen社)、3mmol/l アデノシン(SIGMA社)、3mmol/l グアノシン(SIGMA社)、3mmol/l シチジン(SIGMA社)、3mmol/l ウリジン(SIGMA社)、1mmol/l チミジン(SIGMA社)、2mmol/l L-グルタミン(Invitrogen社)、100単位/ml ペニシリンおよび100μg/ml ストレプトマイシン(Invitrogen社)、1000単位/ml ESGROTM(マウス組換え型白血病阻害因子;SIGMA Invitrogen社)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM; Invitrogen社)]を用いて行った。まず、6cm径ディッシュを用いて作製したフィーダープレートへ凍結融解したD3細胞を播種し、5%CO2、37℃の条件下で培養した。24時間後、10cm径ディッシュを用いて作製したフィーダープレート3枚へD3細胞を継代した。
本実施例第2項で得たターゲティングベクタープラスミドのD3細胞への遺伝子導入はエレクトロポレーション法[サイトテクノロジー(Cytotechnology), 3, 133 (1990)]に準じて以下の手順で行った。まず、ターゲティングベクタープラスミド 20μgを制限酵素NotIで消化することにより線状化した後、フェノール/クロロホルム抽出処理およびエタノール沈殿を行い、1μg/μl溶液とした。一方、10cm径ディッシュへの継代培養後48時間経過したD3細胞より培養上清を除去し、新鮮なESM培地へ交換した。D3細胞が70%コンフレントに達したことを確認した後、PBS緩衝液(Invitrogen社)に懸濁して1×107個/mlとした。細胞懸濁液800μl(8.0×106個)を上記線状化プラスミド 20μgと混和した後、細胞−DNA混和液の全量をGene Pulser Cuvette(電極間距離4mm)(BIO-RAD社)へ移し、細胞融合装置Gene Pulser(BIO-RAD社)を用いてパルス電圧250V、電気容量500μFの条件で遺伝子導入を行った。導入後、細胞懸濁液をESM培地 40mlに懸濁し、10cm径ディッシュを用いて作製したフィーダープレート3枚および6cm径ディッシュを用いて作製したフィーダープレート2枚へ播種した。5%CO2、37℃の条件下で16時間以上培養した後、培養上清を除去し、150μg/ml G418(Invitrogen社)を添加したESM培地へ交換した。この培地交換作業をほぼ毎日繰り返しながら8日間の培養を行い、薬剤耐性株を取得した。なお、マウス胚性幹細胞としては、上述のマウス胚性幹細胞のほかに、129系統マウス由来の胚性幹細胞、例えば、ATCCより購入可能なマウス胚性幹細胞D3(CRL-11632)、米国Cell & Technologies社やDNX Transgenic Sciences社製の129系統マウス由来の胚性幹細胞を用いることもできる。
(3)ターゲティングベクター導入株の取得
本項(2)で得た薬剤耐性株より任意の148個のコロニーを以下の手順で採取した。
薬剤耐性クローンが出現したディッシュより培養上清を除去し、リン酸緩衝液を注入した後、実体顕微鏡下に移した。次にピペットマン(GILSON社)を用いてコロニーを掻き取って吸い込み、丸底96穴プレートへ採取した。トリプシン処理を行った後、平底24穴プレートを用いて作製したフィーダープレートへ各クローンを播種し、ESM培地を用いてコンフレントになるまで培養した。培養後、上記プレートの各クローンに対しトリプシン処理を行って総量を350μlとした。このうち300μlを等量の凍結培地[20% DMSO、80% FM培地]と混和してマスタープレートとし、凍結保存に供した。残りの細胞懸濁液50μlはゼラチンコート処理済み平底24穴プレート(旭テクノグラス社)へ播種してレプリカプレートとし、ESM培地を用いて細胞がコンフレントになるまで培養した。
(4)FUT8ゲノム領域5’末端側プローブを用いたゲノムサザンブロットによる相同組換えの診断
本項(3)で取得した148クローンに対し、以下の手順で5’末端側プローブを用いたゲノムサザンブロットによる相同組換えの診断を行った。
まず、本項(3)で作製したレプリカプレートより公知の方法[ヌクレイック・アシッド・リサーチ(Nucleic Acids Research), 3, 2303, (1976)]に従って各クローンのゲノムDNAを調製し、TE緩衝液(pH8.0) [10mmol/l Tris-HCl、1mmol/l EDTA]に溶解した。
一方、本実施例第1項で得た、FUT8翻訳開始コドンを含むゲノムクローン(13.9Kb)より、5’末端部の制限酵素XbaI認識部位から上流約500bpの断片を調製した(図2)。
ゲノムDNAを制限酵素PstIで消化した後、上記のFUT8 5’末端断片(500bp)をプローブとして、モレキュラー・クローニング 第二版[Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2 nd Ed. (1989) ]に記載の公知の方法に従いサザンブロットを行った。
制限酵素PstI処理により、野生型FUT8対立遺伝子から約7.5KbのDNA断片が生じた。一方、同制限酵素処理により、ターゲティングベクターとの相同組換えが起こった対立遺伝子から約11.0KbのDNA断片が生じた(図2)。
本法により、2クローンより調製したゲノムDNAにおいて、約7.5Kbおよび約11.0Kbの特異的断片が見出された。両断片の量比が1:1であったことから、本クローンは、片方のFUT8対立遺伝子がベクター配列に置換された相同組換え体であることが確認された。
(5)FUT8ゲノム領域3’末端側プローブを用いたゲノムサザンブロットによる相同組換えの診断
本項(3)で取得した148クローンに対し、以下の手順で3’末端側プローブを用いたゲノムサザンブロットによる相同組換えの診断を行った。
まず、本実施例第1項で得たSacI-SacI領域(約6.3Kb)より、3’末端部の制限酵素SacI認識部位から上流約500bpに位置する制限酵素EcoRV認識部位を含む断片を調製した。
本項(4)で調製したゲノムDNAを制限酵素SacIで消化した後、上記のFUT8 3’末端断片(500bp)をプローブとして、モレキュラー・クローニング 第二版[Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2 nd Ed. (1989) ]に記載の公知の方法に従いサザンブロットを行った。
制限酵素SacI処理により、野生型FUT8対立遺伝子から約6.6KbのDNA断片が生じた。一方、同制限酵素処理により、ターゲティングベクターとの相同組換えが起こった対立遺伝子から約8.6KbのDNA断片が生じた(図2)。
本法により、本項(4)で陽性を示した2クローンのゲノムDNAにおいて、約6.6Kbおよび約8.6Kbの特異的断片が見出された。両断片の量比が1:1であったことから、本クローンは、片方のFUT8対立遺伝子がベクター配列に置換された相同組換え体であることが確認された。
4.α1,6-フコシルトランスフェラーゼ(FUT8)遺伝子を破壊したマウスの取得
(1)FUT8両対立遺伝子を1コピー破壊した胚性幹細胞を用いたキメラマウスの取得
本実施例第3項で樹立した片方のFUT8対立遺伝子が破壊された胚性幹細胞2クローンに対し、公知の方法[マニュピレーティング・ザ・マウス・エンブリオ(Manupirating the Mouse Embryo), Cold Spring Harbor laboratory Press (1994)]に従い、正常な核型が維持されていることを確認した。次に、ガイド・ツー・テクニックス・イン・マウス・ディベロプメント[Guide to Technuques in Mouse Development ,Methods in Enzymology, Volume 225, Academic Press (1993)]などの記載の注入キメラ法に従って、C57BL/6系統の雌マウスより取得した胚盤胞腔へ上記の胚性幹細胞2クローンをそれぞれ顕微注入し、偽妊娠させたMCH系統の雌マウスの子宮内へ移植し着床させた。
黒色の被毛の中に茶褐色の被毛が顕れた雄のキメラ個体のうちキメラ率が50%を超える個体は、注入した胚性幹細胞が同等のレベルで生殖細胞系列へ寄与しているものと判定し、C57BL/6系統の雄マウスとの交配を行った。その結果、2クローンの胚性幹細胞を用いて作出したキメラ個体の中に生殖系列キメラが存在していることが確認できた。
(2)FUT8対立遺伝子を1コピー破壊したヘテロ接合体マウスの取得
本項(1)で得た生殖系列キメラを8週齢まで飼育した後、性成熟したC57BL/6系統の雌個体と交配し産仔を得た。該産仔のうち、茶褐色の被毛を有する個体の尾より、公知の方法[ヌクレイック・アシッド・リサーチ(Nucleic Acids Research), 3, 2303, (1976)]に従ってゲノムDNAを調製し、本実施例第3項(4)記載の方法に従ってサザンブロットを行った。
ヘテロ接合体のゲノムDNAは、制限酵素PstI処理により、野生型FUT8対立遺伝子特異的な約7.5Kbの断片および相同組換えの起こった対立遺伝子特異的な約11.0Kbの断片を量比1:1で生じた(図2)。サザンブロットの結果、本項(1)において生殖系列への寄与が認められた胚性幹細胞2クローンいずれに由来するキメラ個体からも、上記の判定基準を満たすヘテロ接合体を取得したことを確認した(図3)。このヘテロ接合体マウスは、FUT8の片方の対立遺伝子が破壊されたマウスであった。
(3)FUT8両対立遺伝子を破壊したホモ接合体マウスの取得
本項(2)で得たヘテロ接合の雄個体および雌個体を8週齢まで飼育した後、交配させ産仔を得た。該産仔のうち、茶褐色の被毛を有する個体の尾より、公知の方法[ヌクレイック・アシッド・リサーチ(Nucleic Acids Research), 3, 2303, (1976)]に従って各クローンのゲノムDNAを調製し、実施例第3項(4)記載の方法に従ってサザンブロットを行った。
ホモ接合体のゲノムDNAは、制限酵素PstI処理により野生型FUT8対立遺伝子特異的な約7.5Kbの断片のみを生じる(図2)。サザンブロットの結果、産仔の中に上記基準を満たすホモ接合体が含まれていることを確認した(図3)。このホモ接合体マウスは、FUT8両対立遺伝子が破壊されたダブルノックアウトマウスであった。
α1,6-フコシルトランスフェラーゼ(FUT8)両対立遺伝子を欠失したトランスジェニックマウスにおける該遺伝子の発現解析
1.FUT8ダブルノックアウトマウスにおける該遺伝子発現量解析
実施例1第4項で作製したFUT8ノックアウトホモ接合体マウスおよび野生型マウスより小腸、肺、脳を摘出し、モレキュラー・クローニング 第二版[Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2 nd Ed. (1989) ] などに記載の公知の方法に従って、全RNAを調製した。各臓器より得た全RNA 20μgを用いて、2.2mol/l ホルムアミドを含む1.0%(w/v) アガロースゲル電気泳動を行った後、公知の方法[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl. Acad. Sci. USA), 76, 3683, (1979) ]に従い、Zeta-probe membrane(BIO-RAD社)へRNAを転写した。
一方、ヒトFUT8 cDNA全長[ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(J. Biochem., 121, 626 (1997))を32P標識し、プローブを調製した。モレキュラー・クローニング 第二版[Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2 nd Ed. (1989) ]に記載の公知の方法に従い、上記で調製したプローブおよび膜を55℃で反応することにより、ノーザンハイブリダイゼーションを行った。
ハイブリダイゼーション後、膜を2×SSC−0.1%(w/v) SDSに浸漬し、55℃で30分間加温した。上記の洗浄操作を再度繰り返した後、洗浄した膜をX線フィルムへ-80℃で3日間暴露し現像した。
本法により、マウスFUT8 mRNA全長約3.5Kbの発現を検出することができる。本ノーザンブロットの結果、野生型マウスより得た全臓器について約3.5Kbの単一バンドを検出した。一方、FUT8ダブルノックアウトマウスより得た臓器については、いずれもFUT8 mRNAに該当するバンドを検出することができなかった(図4)。これより、FUT8ダブルノックアウトマウスでは、FUT8 mRNAの発現が消失していることが確認された。
2.FUT8ダブルノックアウトマウスのα1,6-フコシルトランスフェラーゼ活性測定
実施例1第4項で作製したFUT8ノックアウトヘテロ接合体マウス、同ホモ接合体マウスおよび野生型マウスより脳および小腸を摘出し、4倍量の0.25mol/l スクロース−1.0mol/l ベンズアミジン−10mmol/l Tris-HCl緩衝液(pH7.4)中で破砕した。900×gで10分間の遠心分離を行った後、回収した上清を粗酵素とした。酵素反応は、30μgから90μgの粗酵素を含む35μlの反応液〔50mmol/l MES-NaOH緩衝液(pH7.0)、0.3% Triton X-100、0.285mmol/l GDP-フコース、4.2μmol/l 4-(2-pyridylamino)butylamine-labeled (asparagine-linked) agalacto biantennary 糖鎖[ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J. Biol. Chem., 271, 27810 (1996))]を37℃で2時間インキュベーションすることで測定した。反応の停止は、100℃で1分間加熱することで行った。また、FUT8ノックアウトホモ接合体マウスより調製した粗酵素を用いた反応については12時間インキュベーションすることで測定した。加熱により反応を停止した後、5000×gで10分間の遠心分離を行うことで回収した上清10μlを試料として調製した。次に、LC-VP HPLCシステム(島津製作所社製)に装着したTSK-gel ODS-80TMカラム(4.6×150mm, Tosoh社製)へ調製した試料を注入した後、0.15% 1-ブタノール−20mmol/l 酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)を用いて流速1.0ml/分、55℃の条件で展開し、溶出される反応生成物質の蛍光強度(励起波長320nm、検出波長400nm)を測定した。
この酵素活性測定の結果、FUT8ノックアウトホモ接合体マウスの小腸では、野生型マウス由来臓器を供試した反応時間の6倍まで延長しても、α1,6-フコシルトランスフェラーゼ活性は認められなかった。一方、FUT8ノックアウトヘテロ接合体マウスおよび野生型マウスの脳では、FUT8遺伝子の発現量に応じたα1,6-フコシルトランスフェラーゼ活性が検出された(図5)。これより、FUT8ダブルノックアウトマウスでは、α1,6-フコシルトランスフェラーゼ活性が消失していることが確認された。
は、マウスFUT8遺伝子の翻訳開始コドンの位置するエクソンを含むゲノム領域を示した図である。 は、マウスFUT8遺伝子破壊用ターゲティングベクターの構造およびゲノムサザンブロットの判定法を示した図である。 は、FUT8対立遺伝子を破壊したマウスのゲノムサザンブロットを示した図である。 は、FUT8対立遺伝子を破壊したマウスの各臓器を用いたノーザンブロットを示した図である。 は、FUT8対立遺伝子を破壊したマウスにおけるα1,6-フコシルトランスフェラーゼ活性を示した図である。

Claims (6)

  1. N-グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN-アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素の活性が低下または欠失するように、ゲノムが改変されたマウスまたはその子孫。
  2. N-グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN-アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた、請求項1に記載のマウスまたはその子孫。
  3. N-グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN-アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム上の対立遺伝子のすべてがノックアウトされた、請求項1または2に記載のマウスまたはその子孫。
  4. N-グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN-アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素が、α1,6-フコシルトランスフェラーゼである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のマウスまたはその子孫。
  5. α1,6-フコシルトランスフェラーゼが、以下の (a)または(b)から選ばれるDNAがコードする蛋白質である、請求項4に記載のマウスまたはその子孫。
    (a) 配列番号2で表される塩基配列からなるDNA;
    (b) 配列番号2で表される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつα1,6-フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA。
  6. α1,6-フコシルトランスフェラーゼが、以下の (a)、(b)及び(c)からなる群から選ばれる蛋白質である、請求項4に記載のマウスまたはその子孫。
    (a) 配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質;
    (b) 配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、
    置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつα1,6-フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質;
    (c) 配列番号1で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつα1,6-フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質。
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