JP2010215782A - 低溶融粘度化ポリグリコール酸の製造方法 - Google Patents

低溶融粘度化ポリグリコール酸の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】溶融流動性に優れ、溶融成形時にガス成分を発生し難く、計量性、他材への密着性、微細なパターンの精密成形性、耐めっき性、アルカリ水溶液に対する溶解性などに優れた低溶融粘度化ポリグリコール酸を、効率的に製造する方法を提供すること。
【解決手段】高溶融粘度ポリグリコール酸を、固体形状で60〜100℃の温水中に浸漬して、その固体形状を保持させながら吸湿させることにより、含水率が1,000ppm以上の吸湿ポリグリコール酸を得る温水浸漬処理工程;並びに、該吸湿ポリグリコール酸を、その固体形状を保持させながら加熱乾燥して、低溶融粘度化ポリグリコール酸を得る加熱乾燥処理工程を含む低溶融粘度化ポリグリコール酸の製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、低溶融粘度化ポリグリコール酸の効率的な製造方法に関する。本発明の製造方法によれば、低溶融粘度化ポリグリコール酸を常温でペレットなどの固体形状で得ることができる。このため、低溶融粘度化ポリグリコール酸は、取扱性や計量性が良好で、溶融成形時にガス成分を発生し難く、かつ、溶融流動性、溶融安定性、成形性、他材への密着性などに優れている。
ポリグリコール酸は、生分解性脂肪族ポリエステル樹脂の一種であり、グリコリドの開環重合またはグリコール酸の縮重合により合成されている。グリコリドの開環重合によれば、高分子量で高溶融粘度のポリグリコール酸を得ることができる。ポリグリコール酸は、単独重合体の融点が215〜225℃の範囲内にあり、耐熱性に優れている。その上、ポリグリコール酸は、ガスバリア性に優れている。
ポリグリコール酸は、その溶融粘度が高いことが、新たな用途展開の妨げになる場合がある。新たな用途として、例えば、ポリグリコール酸を、金型内に配置した他の合成樹脂成形品の存在下に射出成形して、該合成樹脂成形品とポリグリコール酸層とが一体化した複合成形品を製造する用途がある。ポリグリコール酸は、その溶融粘度が高いと、高温・高圧で射出成形する必要があるため、射出成形時の溶融したポリグリコール酸の流れによって、金型内に配置した他の合成樹脂成形品が変形し易い。
特殊な射出成形品として、射出成形によって成形された回路基板がある。射出成形による回路基板の成形方法として、2回成形法(「2ショット法」ともいう)により、合成樹脂成形品の表面に回路パターンを形成する技術が開発されている。射出成形の1ショット目に、めっき触媒を含有する第一の合成樹脂(易めっき性樹脂)を用いて一次成形品を成形する。該一次成形品を、別の金型または同じ金型の別のキャビティに移動する。2ショット目に、金型内に配置した一次成形品の存在下に、めっき触媒を含有しない第二の合成樹脂(難めっき性樹脂)をパターン状に射出して、回路を形成する部分以外の一次成形品の表面を被覆する。第二の合成樹脂によって被覆されずに露出した一次成形品の表面に、無電解めっきにより導体回路層を形成する。無電解めっき層は、一般に薄いため、それに続く電気めっきにより、導体回路に適した厚みに成長させる。めっき工程後、第二の合成樹脂の被覆層は、一体化した状態で残しておくことができるが、除去してもよい。第二の合成樹脂は、難めっき性樹脂であるため、その被覆層は、めっきに対するマスクまたはレジストとしての役割を果たす。
他の方法として、1ショット目の射出成形で得られた第一の合成樹脂からなる一次成形品の全面に、無電解めっきを施して薄いめっき層を形成した後、2ショット目に第二の合成樹脂をパターン状に射出して一体化し、回路を形成する部分以外の無電解めっき層表面に第二の合成樹脂の被覆層を形成する方法がある。第二の合成樹脂によって被覆されずに露出した一次成形品の無電解めっき層部分の厚みを、電気めっきにより厚くする。電気めっき工程後、第二の合成樹脂の被覆層を、その下の薄い無電解めっき層と共に除去する。その結果、第一の合成樹脂の一次成形品の表面に、回路パターン状のめっき層が残る。
2回成形法によって得られる回路基板としては、射出成形品の表面に立体的に導体回路を形成したMID(Molded Interconnect Device)と呼ばれる三次元射出成形回路部品が代表的なものである。MIDは、合成樹脂の射出成形品と配線部品とを一体化した立体配線基板であり、配線の合理化、電子デバイス部品の小型化、組立性の向上、機器内の合理化、省スペース化などに寄与することができる。MIDは、発光ダイオード等の半導体パッケージ、三次元プリント配線板、携帯電話のアンテナ部品などに応用されている。
射出成形による回路基板に用いられる第一の合成樹脂としては、例えば、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルフィドなどのスーパーエンジニアリングプラスチック;ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートなどの熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂;ポリアミド樹脂;環状オレフィン樹脂などが用いられている。
2回成形法により得られたMIDなどの回路基板は、難めっき性樹脂の被覆層が製品にそのまま残ると、更なる薄型化、小型化、軽量化が困難となる上、難めっき性樹脂として、耐熱性、絶縁性、強度、耐薬品性、耐久性などに優れた樹脂材料を用いる必要がある。難めっき性樹脂として、エンジニアリングプラスチックなどの高性能樹脂を用いると、高温・高圧で射出成形する必要があるため、一次成形品が変形しないように、その回路部の高さを高くしたり、回路部の幅を広くしたりする必要がある。このため、難めっき性樹脂被覆層は、めっき工程後に除去できるものであることが望まれている。
難めっき性樹脂自体にも、様々な性能を有することが求められる。難めっき性樹脂は、めっきに対するマスクまたはレジストとして用いられることから、射出成形により精密なパターン形状の被覆層を成形できること、他の合成樹脂成形品の表面または無電解めっき層に対する密着性に優れること、無電解めっきと電気めっきに用いられるめっき液に対する耐性を有すること、めっき工程後に容易に剥離除去できることなどが求められている。
特開2002−344116号公報(特許文献1)及び特開2004−247354号公報(特許文献2)には、難めっき性樹脂として、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル樹脂を用いることが提案されている。脂肪族ポリエステル樹脂は、他の材料に対する密着性が良好であり、後処理工程で被覆層をアルカリ水溶液により除去することができる。しかし、脂肪族ポリエステル樹脂は、融点が比較的高いことに加えて、溶融粘度が高いため、射出成形時に高温・高圧で射出する必要がある。このため、脂肪族ポリエステル樹脂は、射出成形時に、予め金型内に配置した回路基板形成用の一次成形品を変形させ易い。
このような技術水準の下で、射出成形時の溶融流動性に優れたポリグリコール酸の開発が期待されている。ポリグリコール酸の融点を低下させれば、通常のポリグリコール酸の成形温度での溶融流動性を向上させることができる。ポリグリコール酸の融点は、他のモノマーと共重合させる方法により低下させることができる。しかし、ポリグリコール酸の融点を大幅に低下させるために、他のモノマーの共重合割合を大きくすると、ポリグリコール酸自体の優れた特性を保持することが困難となる。
特開2003−20344号公報(特許文献3)には、ポリグリコール酸の合成時に、重合度を調節して、低溶融粘度ポリグリコール酸を得る方法が開示されている。低溶融粘度ポリグリコール酸は、通常のポリグリコール酸の成形温度での溶融流動性が高いため、低圧での射出成形が可能である。
しかし、合成時に重合度の調節により得られた低溶融粘度ポリグリコール酸は、3%熱重量減少温度が著しく低いことに見られるように、低分子量物の含有量が多く、溶融成形温度に加熱すると、その中に含まれる低分子量物がガス化して揮散し易い。低溶融粘度ポリグリコール酸が高温でガス成分を発生し易いものであると、これを難めっき性樹脂として一次成形品の表面に射出成形したときに、発生したガス成分によって、一次成形品表面に対するポリグリコール酸被覆層の密着性が低下したり、回路基板が汚染されたりする。
さらに、難めっき性樹脂に適した低溶融粘度ポリグリコール酸は、ペレット化が困難である。ペレットを作製するには、押出機を用いて合成樹脂を溶融して、溶融物をストランド状に押出す必要がある。溶融押出したストランドは、冷却後に切断するコールドカット、ダイの出口で切断するホットカット、水中で切断するアンダウォーターカットなどの方式によりペレット化される。合成樹脂をペレット化することにより、計量性や成形性、取扱性、搬送性などを向上させることができる。
低溶融粘度ポリグリコール酸は、溶融流動性が著しく高いため、押出機からストランド状に溶融押出しても、均一な径のストランドに成形することが困難である。溶融粘度が特に低いポリグリコール酸は、押出機を用いて溶融して、孔を有するダイスから連続的にストランド状に押出成形しても、ストランドが垂れてしまうため、ペレットの製造が実質的に不可能である。このように、低溶融粘度ポリグリコール酸は、ペレット化が困難である。ペレット化していない低溶融粘度ポリグリコール酸は、計量性や成形性に劣るため、難めっき性樹脂として射出成形すると、一次成形品の表面に精密なパターンを有する被覆層を形成することが困難である。
特開2002−344116号公報 特開2004−247354号公報 特開2003−20344号公報
本発明の課題は、溶融流動性に優れ、溶融成形時にガス成分を発生し難く、計量性、他材への密着性、微細なパターンの精密成形性、耐めっき性、アルカリ水溶液に対する溶解性などに優れた低溶融粘度化ポリグリコール酸を、効率的に製造する方法を提供することにある。
本発明の更なる課題は、前記諸特性を有する低溶融粘度化ポリグリコール酸を、再現性良く安定的に製造する方法を提供することにある。本発明の他の課題は、低溶融粘度化ポリグリコール酸の溶融粘度を任意に制御することができる新たな製造方法を提供することにある。
本発明者らは、溶融流動性に優れ、かつ、溶融成形時にガス成分を発生し難い低溶融粘度ポリグリコール酸を得る方法について鋭意研究を行った。その研究過程において、合成時に溶融粘度が低いポリグリコール酸を製造するという従来の発想を根本的に転換した方法に想到した。本発明者らは、ペレット化が可能な高溶融粘度のポリグリコール酸を合成し、得られたポリグリコール酸からペレットを成形し、次いで、該ペレットを吸湿させてから加熱乾燥処理する方法により、溶融粘度が大幅に低減したポリグリコール酸をペレットの形状で得られることを見出し、先に、特許出願を行った(PCT/JP2008/066162)。この方法によれば、ペレットなどの固体形状を有する低溶融粘度化ポリグリコール酸を得ることができる。
ポリグリコール酸をペレットなどの固体状態で吸湿処理した後、加熱乾燥処理を行うと、固体状態のポリグリコール酸の内部で加水分解が進行し、溶融粘度が大きく低下する。この方法により得られた低溶融粘度化ポリグリコール酸は、3%熱重量減少温度の低下が少ないことに見られるように、ガス化する低分子量成分の含有量が少なく、溶融加工温度でのガス成分の発生が抑制されている。低溶融粘度化ポリグリコール酸は、ペレットの形状が保持されているため、計量性や成形性などに優れている。
しかし、前記製造方法によれば、ポリグリコール酸のペレットを恒温恒湿機内に48〜72時間という長時間にわたって保持するか、55℃以下の温水中に24〜36時間という長時間にわたって浸漬することにより、吸湿処理を行う必要があった。そのため、前記製造方法は、生産効率が不十分であった。
さらに、前記製造方法において、実質的に同じ条件で吸湿処理工程と加熱乾燥処理工程を行っても、同一ロット内で得られる低溶融粘度化ポリグリコール酸の溶融粘度に大きなバラツキの生じることが判明した。2回成形法によるMIDなどの回路基板の成形には、難めっき性樹脂として、所定の溶融粘度値を有するポリグリコール酸が強く要求されている。低溶融粘度化ポリグリコール酸の溶融粘度値にバラツキがあると、射出成形により精密なパターン状に被覆することが困難となる。
そこで、本発明者らは、前記課題を解決すべく研究を行った結果、ペレットまたは粒子などの所定の固体形状での高溶融粘度ポリグリコール酸の吸湿工程を、温水への浸漬処理によって実施すると共に、該温水の温度を特定の範囲内で高めることによって、吸湿処理時間を大幅に短縮しても、十分に低溶融粘度化されたポリグリコール酸を、当初の固体形状を実質的に保持したままで得られることを見出した。
また、本発明者らは、温水中での固体形状のポリグリコール酸の撹拌条件を改善することにより、その後の加熱乾燥により均質な加水分解が生じ、それによって、同一ロット内で溶融粘度値のバラツキが顕著に抑制された低溶融粘度化ポリグリコール酸の得られることを見出した。さらに、本発明者らは、加熱乾燥処理に先立って、固体形状の吸湿ポリグリコール酸に水分を添加して、付着水を含む全水分量を調節することにより、低溶融粘度化ポリグリコール酸の溶融粘度を精密に制御できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
本発明によれば、下記工程1及び2
(1)ポリグリコール酸の融点Tmより50℃高い温度(Tm+50℃)及び剪断速度122sec−1で測定した溶融粘度が100Pa・s超過のポリグリコール酸を、所定の固体形状で60〜100℃の温水中に浸漬して、その固体形状を保持させながら吸湿させることにより、含水率が1,000ppm以上の吸湿ポリグリコール酸を得る温水浸漬処理工程1;並びに、
(2)該吸湿ポリグリコール酸を、その固体形状を保持させながら、60℃からポリグリコール酸の融点より5℃低い温度(Tm−5℃)までの範囲内の温度で加熱乾燥して、ポリグリコール酸の融点より10℃高い温度(Tm+10℃)及び剪断速度1,200sec−1で測定した溶融粘度が150Pa・s以下で、3%熱重量減少温度が280℃以上、かつ、含水率が500ppm以下の低溶融粘度化ポリグリコール酸を得る加熱乾燥処理工程2;
を含む低溶融粘度化ポリグリコール酸の製造方法が提供される。
本発明の製造方法によれば、溶融流動性に優れ、溶融成形時にガス成分を発生し難く、計量性、他材への密着性、微細なパターンの精密成形性、耐めっき性、アルカリ水溶液に対する溶解性などに優れた低溶融粘度化ポリグリコール酸を、ペレットなどの固体形状で、効率的に製造することができる。
本発明によれば、前記諸特性を有する低溶融粘度化ポリグリコール酸を、再現性良く安定的に製造する方法を提供することができる。さらに、本発明によれば、加熱乾燥処理工程に先立って、吸湿ポリグリコール酸の全水分量を調節することにより、得られる低溶融粘度化ポリグリコール酸の溶融粘度を更に精密に制御することができる。
本発明の製造方法により得られた低溶融粘度化ポリグリコール酸は、2回成形法による回路基板の難めっき性樹脂(マスク用樹脂)として使用すると、微細なパターンの被覆成形が可能である上、その射出成形時に回路基板を構成する一次成形品の変形やガス成分の揮散による回路基板の汚染を防ぐことができる。低溶融粘度化ポリグリコール酸の被覆層は、電解めっき液や無電解めっき液に対する耐性に優れ、金属めっき粒子が析出し難く、かつ、めっき工程後にアルカリ水溶液によって除去することができる。
ポリグリコール酸は、式−[−O−CH−CO−]−で表わされる繰り返し単位を含有する単独重合体または共重合体である。ポリグリコール酸中の上記式で表わされる繰り返し単位の含有割合は、通常60重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上であり、その上限は、100重量%である。上記式で表わされる繰り返し単位の含有割合が低すぎると、ポリグリコール酸が本来有する結晶性、ガスバリア性、耐熱性、耐薬品性などの特性が低下する。
ポリグリコール酸は、グリコール酸の脱水重縮合、グリコール酸アルキルエステルの脱アルコール重縮合、グリコリドの開環重合などにより合成することができる。これらの中でも、グリコリドの開環重合法によれば、高分子量かつ高溶融粘度のポリグリコール酸(「ポリグリコリド」ともいう)を容易に製造することができる。開環重合法では、グリコリドを、少量の触媒(例えば、有機カルボン酸錫、ハロゲン化錫、ハロゲン化アンチモン等のカチオン触媒)の存在下に、約120℃から約250℃の範囲内の温度に加熱して、開環重合を行う。開環重合は、塊状重合または溶液重合により行うことが好ましい。
ポリグリコール酸共重合体を合成するには、コモノマーとして、例えば、シュウ酸エチレン、ラクチド、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなど)、トリメチレンカーボネート、及び1,3−ジオキサンなどの環状モノマー;乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル;エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族ジオールと、こはく酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸またはそのアルキルエステルとの実質的に等モルの混合物;またはこれらの2種以上を用いて、共重合すればよい。これらのコモノマーの中でも、前記環状モノマーが好ましい。これらの環状モノマーは、グリコリドの開環重合条件下に開環共重合させることができる。
コモノマーは、全仕込みモノマー量を基準として、通常40重量%以下、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下の割合で使用する。これらのコモノマー中でも、共重合させ易く、物性に優れた共重合体が得られやすい点で、ラクチド、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート、p−ジオキサノン、5,5−ジメチル−1,3−ジオキサン−2−オンなどの環状モノマー;及び乳酸などのヒドロキシカルボン酸が好ましい。
ポリグリコール酸の重合装置としては、押出機型、パドル翼を持った縦型、ヘリカルリボン翼を持った縦型、押出機型やニーダー型の横型、アンプル型、管状型、平板型(四角形、特に長方形)など様々な装置の中から、適宜選択することができる。
重合温度は、実質的な重合開始温度である120℃から300℃までの範囲内で目的に応じて設定することができる。重合温度は、好ましくは130〜250℃、より好ましくは140〜220℃、特に好ましくは150〜200℃である。重合温度が高くなりすぎると、生成したポリグリコール酸が熱分解を受け易くなる。重合時間は、通常2分間から50時間、好ましくは3分間から30時間、より好ましくは5分間から18時間の範囲内である。重合時間が短すぎると、重合が十分に進行し難く、長すぎると、生成ポリグリコール酸が着色しやすくなる。
本発明で原料として使用するポリグリコール酸の溶融粘度は、ポリグリコール酸の融点Tmより50℃高い温度(Tm+50℃)及び剪断速度122sec−1で測定したとき、通常100Pa・s超過、好ましくは100Pa・s超過3,000Pa・s以下、より好ましくは200〜2,000Pa・s以上、特に好ましくは300〜1,500Pa・sの範囲内である。ポリグリコール酸単独重合体の融点が220℃である場合、Tm+50℃は、270℃になる。
ポリグリコール酸の重量平均分子量(Mw)は、通常50,000〜800,000、好ましくは100,000〜500,000、より好ましくは150,000〜300,000の範囲内である。重量平均分子量は、ヘキサフルオロイソプロパノールを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)測定において、標準ポリメチルメタクリレート換算値として得られる値である。ポリグリコール酸の溶融粘度または重量平均分子量が低すぎると、ペレット化が困難となる。ポリグリコール酸の溶融粘度または重量平均分子量が高すぎると、低溶融粘度化に長時間を必要とし、効率的ではない。
原料のポリグリコール酸には、所望により、他の熱可塑性樹脂、充填剤、熱安定剤、光安定剤、防水剤、撥水剤、滑剤、離型剤、カップリング剤、顔料、染料などの各種添加剤を含有させることができる。これら各種添加剤は、それぞれの使用目的に応じて有効量が使用される。
原料のポリグリコール酸には、熱安定化効果を発揮し得る化合物を熱安定剤として添加することができる。ポリグリコール酸に熱安定剤を含有させると、ポリグリコール酸の熱分解が生じ難くなり、また、低溶融粘度化ポリグリコール酸の溶融安定性が向上する。熱安定剤としては、−CO−NHNH−CO−単位を有するヒドラジン系化合物などの重金属不活性化剤;ペンタエリスリトール骨格構造を有するリン酸エステル;少なくとも1つの水酸基と少なくとも1つの長鎖アルキルエステル基とを持つリン化合物;トリアゾール化合物;ヒンダードフェノール化合物;及び炭酸金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を挙げることができる。
重金属不活性化剤としては、例えば、2−ヒドロキシ−N−1H−1,2,4−トリアゾール−3−イル−ベンズアミド、及びビス〔2−(2−ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジン〕ドデカン二酸が挙げられる。ペンタエリスリトール骨格構造を有するリン酸エステルとしては、例えば、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、及びサイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが挙げられる。少なくとも1つの水酸基と少なくとも1つの長鎖アルキルエステル基とを持つリン化合物としては、例えば、モノまたはジ−ステアリルアシッドホスフェートが挙げられる。炭酸金属塩としては、例えば、炭酸カルシウム、及び炭酸ストロンチウムが挙げられる。
熱安定剤の配合割合は、ポリグリコール酸100重量部に対して、通常0.001〜5重量部、好ましくは0.003〜3重量部、より好ましくは0.005〜1重量部である。熱安定剤の配合割合が小さすぎると、熱安定化効果が得られ難くなり、大きくなりすぎると、効果が飽和したり、諸特性が低下したりする。
溶融粘度が高いポリグリコール酸は、加熱時の重量減少率が3%に達するときの温度(「3%熱重量減少温度」という)が350℃前後であり、溶融加工時にガス成分を発生する傾向が比較的低い。これに対して、合成時に重合度を調節して得られた低溶融粘度ポリグリコール酸は、低分子量成分の含有量が増大するため、溶融粘度の程度にもよるが、3%熱重量減少温度が250℃前後にまで低下することがある。このように、ポリグリコール酸は、溶融粘度が低くなると、溶融加工時にガス成分を発生し易い傾向を有している。
本発明の製造方法により得られた低溶融粘度化ポリグリコール酸は、3%熱重量減少温度が比較的高水準に保持されているという特徴を有している。熱安定性をさらに向上させるには、原料として使用する高溶融粘度ポリグリコール酸に熱安定剤を添加しておくことが好ましい。合成時に重合度を調節して得られた低溶融粘度ポリグリコール酸は、ペレット化が困難であるため、該低溶融粘度ポリグリコール酸に熱安定剤を添加してペレット化することも困難である。
本発明で原料として使用する高溶融粘度ポリグリコール酸は、溶融粘度と融点が高いため、常温(20±15℃)で固体状態であり、融点未満の比較的高温下でも固体状態を保持するため、ペレットまたは粒子などの所定の固体形状とすることができる。目的物の低溶融粘度化ポリグリコール酸の計量性や成形性などを向上させるには、原料の高溶融粘度ポリグリコール酸として、ペレット形状のポリグリコール酸を使用することが好ましい。原料としてペレット形状を有する高溶融粘度ポリグリコール酸を用いると、温水浸漬処理工程及び加熱乾燥処理工程でペレット形状が維持されるため、低溶融粘度化ポリグリコール酸をペレット形状で得ることができる。
ペレットの作製は、ポリグリコール酸単独またはポリグリコール酸と熱安定剤などの添加剤成分とを押出機に供給し、シリンダー温度をポリグリコール酸の融点(Tm)から260℃の範囲内の温度で溶融混練し、ダイからストランド状に押出し、冷却、カットする方法を採用して行うことができる。ペレットの大きさは、その径及び長さ共に、通常1〜10mm、好ましくは1.5〜8mm、より好ましくは2〜6mmの範囲内であるが、これらに限定されず、必要に応じて、それより大きな形状であってもよい。
ポリグリコール酸の粒子としては、標準フルイを用いたフルイ分け法により測定した平均粒径が好ましくは100μm以上、より好ましくは500μm以上、特に好ましくは1,000μm以上の顆粒であることが好ましい。
本発明の低溶融粘度化ポリグリコール酸の製造方法は、下記工程1及び2を含んでいる。
(1)ポリグリコール酸の融点Tmより50℃高い温度(Tm+50℃)及び剪断速度122sec−1で測定した溶融粘度が100Pa・s超過のポリグリコール酸を、所定の固体形状で60〜100℃の温水中に浸漬して、その固体形状を保持させながら吸湿させることにより、含水率が1,000ppm以上の吸湿ポリグリコール酸を得る温水浸漬処理工程1;並びに、
(2)該吸湿ポリグリコール酸を、その固体形状を保持させながら、60℃からポリグリコール酸の融点より5℃低い温度(Tm−5℃)までの範囲内の温度で加熱乾燥して、ポリグリコール酸の融点より10℃高い温度(Tm+10℃)及び剪断速度1,200sec−1で測定した溶融粘度が150Pa・s以下で、3%熱重量減少温度が280℃以上、かつ、含水率が500ppm以下の低溶融粘度化ポリグリコール酸を得る加熱乾燥処理工程2。
本発明の温水浸漬処理工程1では、ポリグリコール酸の融点Tmより50℃高い温度(Tm+50℃)及び剪断速度122sec−1で測定した溶融粘度が100Pa・s超過のポリグリコール酸(「高溶融粘度ポリグリコール酸」という)を使用する。高溶融粘度ポリグリコール酸の形状は、粒子であってもよいが、得られる低溶融粘度化ポリグリコール酸の計量性や成形性、取扱性、搬送性などの観点から、ペレットであることが好ましい。
高溶融粘度ポリグリコール酸と水(温水)との混合比率は、重量比で、通常1:10〜10:5、好ましくは3:10〜10:7、より好ましくは5:10〜10:8の範囲内である。水の量比が小さすぎると、固体形状の高溶融粘度ポリグリコール酸を温水中に均等に浸漬して、均質に吸湿させることが困難となる。水の量比が大きすぎると、熱効率や撹拌効率が低下する。
本発明では、温水浸漬処理工程を撹拌槽内で行うことが好ましい。撹拌槽としては、オートクレーブ、円筒型タンクなどの形状を有し、耐熱性のある容器であればよく、特に限定されない。撹拌槽の内容積は、処理効率や生産規模の観点から、好ましくは5〜500リットル、より好ましくは8〜100リットル、特に好ましくは10〜50リットルである。撹拌機としては、特に限定されないが、例えば、平板パドル、傾斜パドル、ブルマージン翼とその変形翼、フルゾーン翼、ウォールウエッター翼などの撹拌翼を備えた撹拌機が好ましい。撹拌翼は、一組であっても、あるいは撹拌機の撹拌軸に沿って二組以上配置されていてもよい。撹拌翼は、技術常識に従って、撹拌槽の規模に応じて、撹拌槽内の内容物を均一に撹拌混合し得る強度と長さを有するものとする。
温水は、予め所定温度に加熱したものであっても、あるいは、仕込み時に低温または常温の水を用いて、撹拌槽内で加熱することによって温水にしたものであってもよい。通常は、常温以下の温度の水を撹拌槽内に仕込み、加熱手段によって加熱することにより所定の範囲内の温度に上昇させ、かつ、温水浸漬処理工程の間、所定温度に保持する。加熱手段としては、撹拌槽の底部や側壁部に設けたジャケットに熱媒を流したり、ヒーターを用いたりすることができる。
温水の温度は、60〜100℃の範囲内に制御する。温水の温度を、この所定の範囲内に制御することによって、温水浸漬処理(吸湿処理)工程を短時間で効率的に実施することができる。温水浸漬処理工程を短時間で効率的に実施することができ、かつ、最終的に得られる低溶融粘度化ポリグリコール酸に含まれる低分子量物の含有量を抑制する観点からは、温水の温度を、好ましくは60〜95℃、より好ましくは60〜90℃、特に好ましくは65〜85℃の範囲内に制御することが望ましい。温水浸漬処理中、温水の温度は、上記範囲内で変動させることができるが、所定の溶融粘度を有する低溶融粘度化ポリグリコール酸を再現性良く安定的に得るには、温水浸漬処理工程の間、所定の温度に維持することが望ましい。
温水の温度が低すぎると、温水浸漬処理によるポリグリコール酸の吸湿に長時間を要し、生産効率が低下する。温水の温度が高すぎると、温水浸漬処理工程でペレットなどの固体の表面で部分的な加水分解反応が進行して、得られる吸湿ポリグリコール酸の分散度がブロードとなり、低分子量成分の割合が増大する。その結果、最終的に得られる低溶融粘度化ポリグリコール酸は、低分子量物の含有量が大きなものとなり、溶融加工時にガス成分を揮散し易くなる。低分子量物の含有量が大きくなることは、低溶融粘度化ポリグリコール酸の3%熱重量減少温度が大幅に低下することによって確認することができる。
温水浸漬処理工程において、温水の温度と処理時間を調節することにより、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比で表わされる分散度(Mw/Mn)が好ましくは2.15以下、より好ましくは2.10以下の吸湿ポリグリコール酸を得ることが、低分子量物の含有量が少ない低溶融粘度化ポリグリコール酸を得る上で好ましい。
ポリグリコール酸は、その比重が約1.60g/cmであり、温水中で沈降し易い。このため、温水浸漬処理工程で、固体形状の高溶融粘度ポリグリコール酸と温水との混合物を撹拌しても、該固定形状の高溶融粘度ポリグリコール酸を温水と均一に接触させることが困難である。これに対して、撹拌機の撹拌翼の回転数を100〜500rpm、好ましくは150〜300rpm、より好ましくは180〜250rpmの範囲内に制御することにより、温水浸漬処理工程において固体形状の高溶融粘度ポリグリコール酸を温水と均一に接触させることができ、それによって、均質に吸湿させることができることが判明した。このため、その後の加熱乾燥工程において、同一ロット内で溶融粘度値のバラツキが十分に抑制された低溶融粘度化ポリグリコール酸を得ることができる。
温水浸漬処理工程で、前記混合物の撹拌を行わない場合や、撹拌翼の回転数が少ない場合には、低溶融粘度化ポリグリコール酸の同一ロット内での溶融粘度値のバラツキが大きくなる傾向を示す。温水浸漬処理工程での処理時間を長くしても、同一ロット内での溶融粘度値のバラツキを解消することが困難である。同一ロット内での溶融粘度値のバラツキが大きいと、低溶融粘度化ポリグリコール酸の品質管理が煩雑になる上、安定的な加工を行うことが困難になるなど、所定の溶融粘度値を有するポリグリコール酸が強く要求されている技術分野での要求に十分に応えることができなくなる。
撹拌翼の回転数が少なくなるに従って、同一ロット内での溶融粘度値のバラツキが大きくなり、所望の溶融粘度値を有する低溶融粘度化ポリグリコール酸を再現性良く得ることが困難となる。撹拌翼の回転数を上げるに従って、同一ロット内での溶融粘度のバラツキが小さくなる傾向を示す。しかし、撹拌翼の回転数を多くしすぎても、同一ロット内での溶融粘度値のバラツキ抑制効果が飽和するため、効率的ではない。その上、撹拌翼の回転数を多くしすぎると、ペレットなどの所定の固体形状が損壊される虞が生じる。
温水浸漬処理工程での処理時間は、通常1〜15時間、好ましくは1.5〜10時間、多くの場合2〜8時間の範囲内である。該処理時間は、温水の温度や目的とする含水率に応じて、適宜選択することができる。該処理時間が長すぎると、生産効率が低下することに加えて、好ましくない変質や不均一な加水分解を生じるおそれがある。一般に、温水の温度を低くするに従って撹拌時間を長くし、温水の温度を高くするに従って撹拌時間を短くすることができる。
温水浸漬処理工程での温水の温度を、例えば55℃以下の低い温度に設定すると、固体形状の高溶融粘度ポリグリコール酸を十分に吸湿させるのに通常30時間以上の長時間を必要とする。撹拌翼の回転数を100〜300rpmの範囲内に設定し、かつ、温水の温度を60〜90℃の範囲内に設定することにより、効率的に同一ロット内での溶融粘度のバラツキを防ぐことができるので、特に好ましい。
温水浸漬処理工程において、ポリグリコール酸の含水率が1,000ppm以上、好ましくは3,000ppm以上、より好ましくは5,000ppm以上の吸湿ポリグリコール酸を、当初の固体形状を保持したままで取得する。含水率の上限値は、通常50,000ppm、好ましくは30,000ppm、より好ましくは20,000ppmである。含水率が低すぎると、加熱乾燥処理工程で均質かつ十分な低溶融粘度化が困難となり、高すぎると、ペレットなどの固体形状を保持することが困難となったり、低分子量成分の含有量が増大したり、加熱乾燥処理に長時間を要したりする。
温水浸漬処理工程では、ペレットなどの固体形状のポリグリコール酸を、当初の固体形状を実質的に保持させながら温水浸漬処理を行う。温水浸漬処理工程後、通常、フィルターによる濾過または傾斜によって、水を除去する。この際、回収した固体形状の吸湿ポリグリコール酸の表面には、付着した水が残留する。また、堆積したペレットなどの固体形状のポリグリコール酸相互間の隙間に水が残留する。これらの残留水は、正確に区別することが困難なため、一括して付着水と呼ぶこととする。本発明において、含水率とは、ペレットなどの固体形状の吸湿ポリグリコール酸の内部に含有される水分の量を意味するものとする。本発明において、ペレットなどの固体形状の吸湿ポリグリコール酸の内部に含有されている水分量と付着水の量とを合わせた水の量を全水分量と呼ぶこととする。全水分量は、通常15重量%以下、多くの場合2〜10重量%の範囲内である。
本発明の加熱乾燥処理工程2では、前記工程1で得られた吸湿ポリグリコール酸を、その固体形状を維持させながら、60℃からポリグリコール酸の融点より5℃低い温度(Tm−5℃)までの範囲内の温度で加熱乾燥して、ポリグリコール酸の融点より10℃高い温度(Tm+10℃)及び剪断速度1,200sec−1で測定した溶融粘度が150Pa・s以下、3%熱重量減少温度が280℃以上、かつ、含水率が500ppm以下の低溶融粘度化ポリグリコール酸を回収する。低溶融粘度化ポリグリコール酸は、当然のことながら、常温でペレットなどの固体形状を維持している。
加熱乾燥処理温度は、60℃からポリグリコール酸の融点より5℃低い温度(Tm−5℃)までの範囲内の温度とする。加熱乾燥処理温度は、好ましくは70〜200℃、より好ましくは80〜190℃、さらに好ましくは90〜180℃である。加熱乾燥処理温度が低すぎると、吸湿ポリグリコール酸の溶融粘度を所望の水準にまで低下させるのに非常な長時間を要することになる。他方、加熱乾燥処理温度が高すぎると、吸湿ポリグリコール酸の固体状態を維持させることが困難になる。
加熱乾燥処理時間は、吸湿ポリグリコール酸の溶融粘度が、所望の水準にまで低下するまで行う。加熱乾燥処理時間は、好ましくは1〜200時間、より好ましくは2〜150時間、特に好ましくは3〜100時間である。加熱した窒素や空気などの熱風を流しながら加熱乾燥処理を行う方法を採用すると、処理時間を好ましくは3〜15時間、より好ましくは4〜10時間の範囲内にまで短縮することができる。所望の溶融粘度の水準になるまで加熱乾燥処理する時間は、加熱乾燥処理温度によっても変動する。一般に、加熱乾燥処理温度が高いほど、比較的短時間で所望の溶融粘度の水準に到達することができる。
本発明の製造方法では、加熱と同時に乾燥する方法を採用することにより、効率良く高品質の低溶融粘度化ポリグリコール酸を得ることができる。加熱乾燥処理を行うには、乾燥した不活性ガスや空気の雰囲気中で加熱することが望ましい。乾燥した不活性ガスとしては、例えば、露点が通常−60℃から−10℃、好ましくは−50℃から−30℃、多くの場合−40℃の乾燥窒素を使用することが望ましい。乾燥した空気は、フィルターを通して塵埃を除去し、除湿して乾燥した空気が好ましい。加熱乾燥処理は、オーブンなどの乾熱条件下での高温処理機中に、固体形状の吸湿ポリグリコール酸を入れて実施することができるが、効率的に加熱しながら乾燥するには、乾燥した不活性ガスまたは空気を流しながら実施することが望ましい。乾燥窒素や乾燥空気は、所定の加熱処理温度に加熱した熱風として供給することもできる。
不活性ガス及び空気の流量は、吸湿ポリグリコール酸の量や全水分量などにもよるが、通常0.1〜30,000リットル/分、好ましくは1〜10,000リットル/分、より好ましくは5〜5,000リットル/分、特に好ましくは10〜1,000リットル/分の範囲内である。
本発明の製造方法によれば、ポリグリコール酸の融点より10℃高い温度(Tm+10℃)及び剪断速度1,200sec−1で測定した溶融粘度が150Pa・s以下の低溶融粘度化ポリグリコール酸を得ることができる。低溶融粘度化ポリグリコール酸は、溶融粘度が低いため、その溶融粘度をポリグリコール酸の融点より10℃高い温度(Tm+10℃)及び剪断速度1,200sec−1で測定する。
ポリグリコール酸の融点が220℃の場合、測定温度を230℃とする。低溶融粘度ポリグリコール酸の溶融粘度の下限値は、通常1Pa・sである。ただし、本発明において、常温(20±15℃)でポリグリコール酸がペレットなどの固体形状を保持している限り、ポリグリコール酸の融点より10℃高い温度(Tm+10℃)及び剪断速度1,200sec−1の条件で測定した溶融粘度が測定できないほどの低溶融粘度化されたものである場合も、その溶融粘度が150Pa・s以下であると評価する。
低溶融粘度化ポリグリコール酸を2回成形法による回路基板の難めっき性樹脂(マスク用樹脂)として使用する場合、2ショット目の射出成形時における一次成形品の変形を避けるために、その溶融粘度を130Pa・s以下、さらには100Pa・s以下、多くの場合80Pa・s以下にまで低減させることが望ましい。低溶融粘度化ポリグリコール酸は、その溶融粘度が低いほど、射出成形時の溶融流動性が良好となり、射出時の圧力を低下させることができる。一次成形品を、耐熱性が十分に高くない合成樹脂を用いて成形した場合、マスク用樹脂として使用するポリグリコール酸の溶融粘度をできるだけ低くすることが好ましい。他方、低溶融粘度化ポリグリコール酸がペレットなどの固体状態を維持できない場合には、取扱性、計量性、成形性などが低下する。
本発明の製造方法により、ポリグリコール酸の溶融粘度が低下する理由は、加熱乾燥処理工程において、吸湿した固体状態のポリグリコール酸の内部で加水分解反応が進行するためであると推定される。温水浸漬処理条件及び固体状態での加熱乾燥処理条件を前記の如く制御することによって、ペレットのような固体状態を維持したまま、均質かつ適度な加水分解反応を生じさせることができ、低分子量成分の生成を抑制しながら、高品質の低溶融粘度化ポリグリコール酸を固体状態で得ることができる。
本発明の製造方法により得られた低溶融粘度化ポリグリコール酸の3%熱重量減少温度は、280℃以上、好ましくは290℃以上、より好ましくは300℃以上、特に好ましくは320℃以上である。3%熱重量減少温度の上限値は、通常355℃である。本発明の低溶融粘度化ポリグリコール酸の3%熱重量減少温度は、前記特定の熱安定剤を少量含有させることにより、向上させることが好ましいが、熱安定剤の使用は必ずしも必要ではない。
これに対して、合成時に重合度を調節して得られた低溶融粘度ポリグリコール酸は、低分子量成分の含有率が高く、その3%熱重量減少温度は、通常260℃以下、多くの場合250℃前後になる。ポリグリコール酸の3%熱重量減少温度が低いことは、射出成形などの溶融加工時に低分子量成分がガス化し易いことを意味している。合成時に重合度を調節して得られた低溶融粘度ポリグリコール酸は、低分子量成分の含有量が多いため、前記特定の熱安定剤を含有させても、その3%熱重量減少温度を大幅に向上させることは困難である。
低溶融粘度化ポリグリコール酸は、含水率が500ppm以下、好ましくは300ppm以下、より好ましくは200ppm以下、特に好ましくは100ppm以下の乾燥ポリマーである。含水率の下限値は、2ppm程度である。低溶融粘度化ポリグリコール酸の含水率が高すぎると、保存安定性が低下したり、成形時に水分がガス化したりし易くなる。含水率が低い低溶融粘度化ポリグリコール酸は、加熱処理を乾燥条件下に実施することにより得ることができる。
本発明の製造方法によれば、温水浸漬処理工程の処理条件を制御することにより、低溶融粘度化ポリグリコール酸の溶融粘度を制御することができる。これに加えて、本発明の製造方法の加熱乾燥処理工程2において、吸湿ポリグリコール酸に水を加えて、そのペレットなどの固体の内部に含まれる水分量と付着水の量とを含む全水分量を調節してから加熱乾燥する方法によって、低溶融粘度化ポリグリコール酸の溶融粘度の精密な制御を行うことができる。
具体的には、温水浸漬処理工程1の後、フィルターによる濾過または傾斜によって水を除去する。湿潤状態の吸湿ポリグリコール酸は、ペレットなどの固体形状であるため、そ内部に含まれる水分に加えて、表面に付着する残留水などの付着水を含んでいる。これらの全水分量を調節すると、得られる低溶融粘度化ポリグリコール酸の溶融粘度を制御することができる。
より具体的には、濾過または傾斜によって取り出した湿潤状態にある吸湿ポリグリコール酸に、水を加えて全水分量を調節し、しかる後、加熱乾燥処理を行う。全水分量と溶融粘度値との間には、一定の比例関係が存在する。全水分量と加熱乾燥処理後の溶融粘度との関係を予め調べておけば、所望の溶融粘度値を有する低溶融粘度化ポリグリコール酸を得るための追加の水分量を正確に調節することができる。加熱乾燥処理工程での処理効率を上げるには、全水分量を20重量%以下、好ましくは15重量%以下の範囲内で調節することが望ましい。この場合の全水分量の下限値は、3重量%程度である。
本発明の低溶融粘度化ポリグリコール酸は、常温(20±15℃)で固体形状であり、好ましくはペレット形状である。この固体形状は、原料として使用する高溶融粘度ポリグリコール酸の固体形状と実質的に同じである。本発明の低溶融粘度化ポリグリコール酸は、主鎖中にエステル結合を有し、さらに、両末端には、合成時及び加水分解時に形成されたカルボキシル基が存在するため、他の合成樹脂成形品の表面や無電解めっき層の表面に対する密着性に優れている。
低溶融粘度化ポリグリコール酸は、溶融流動性と他材に対する密着性に優れる上、ガス成分の発生が抑制されたポリマーであるため、射出成形により、他の合成樹脂から形成された一次成形品の表面に、微細なパターンを含む薄い被覆層を精密成形することができる。微細なパターンは、微細な溝の形状として形成されるが、低溶融粘度化ポリグリコール酸は、結晶性を有するため、該溝の断面を観察すると、溝の壁が垂直に形成されている。そのため、めっき処理によって、精密なパターンの導体回路を形成することができる。低溶融粘度化ポリグリコール酸は、結晶化による固化時間が短いため、射出成形サイクルを向上させることができる。
低溶融粘度化ポリグリコール酸の被覆層は、めっき処理時に、無電解めっき液や電解めっき液によって溶解することがない。該被覆層は、難めっき性であり、めっき金属粒子が堆積し難い。低溶融粘度化ポリグリコール酸は、アルカリ水溶液に対して分解性を示すため、その被覆層は、アルカリ水溶液で処理することによって除去することができる。該被覆層の除去に有機溶剤を使用する必要がなく、機械的な剥離作業も必要としない。このため、該被覆層の除去に際し、めっき処理により形成した導体回路を損傷することがない。
本発明の製造方法により得られた低溶融粘度化ポリグリコール酸は、2回成形法による回路基板の難めっき性樹脂(マスク用樹脂)として好適である。2回成形法において使用する一次成形品は、液晶ポリマー、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、環状オレフィン樹脂などを例示することができるが、これらに限定されない。
低溶融粘度化ポリグリコール酸は、他の合成樹脂成形品を配置した金型内に射出して、該合成樹脂成形品とポリグリコール酸層とが一体化した複合成形品を製造するために使用する樹脂材料として好適である。低溶融粘度化ポリグリコール酸は、溶融流動性及び溶融安定性に優れるため、他の合成樹脂と共押出したり、他の合成樹脂製フィルムや紙などの基材上に押出コーティングしたりすることによって、各種複合材料を成形する用途にも利用することができる。
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。本発明における物性及び特性の測定方法は、以下に示すとおりである。
(1)水分量の測定法
a)全水分量の測定法
水中に浸漬した固体状態のポリマー試料をフィルターで濾過し、フィルター上に残った湿潤ポリマー試料の重量Aを測定した。湿潤ポリマー試料を乾燥して、乾燥ポリマー試料を調製し、該乾燥ポリマー試料の重量Bを測定した。式〔(A−B)/B〕×100により全水分量を測定した。
b)含水率の測定法
気化装置付きカールフィッシャー水分測定器〔三菱化学社製CA−100;付属の気化装置VA−100〕を用いて、ポリマーの含水率の測定を行った。具体的には、湿潤ポリマーの表面に付着した水分を拭き取った後、精密に秤量した約2gのポリマー試料を、220℃の温度に加熱した気化装置に入れた。気化装置からカールフィッシャー水分測定器に乾燥窒素ガスを流した。該ポリマー試料を気化装置に入れた後、該ポリマー試料から気化した水分を、乾燥窒素ガスに随伴させてカールフィッシャー水分測定器内のカールフィッシャー液に導入した。電量滴定法により、カールフィッシャー液の電気伝導度がバックグランドより+0.1μg/Sまで下がった時点を終点とした。
c)付着水
全水分量から含水率を差し引いた値を、付着水という。
(2)融点の測定法
メトラー社製示差走査熱量計TC10Aを用いて、ポリマーの融点Tmを測定した。乾燥窒素ガスを50ml/分の速度で流しながら、窒素雰囲気中で測定を行った。約10mgのポリマー試料をアルミニウムパンに入れ、50℃から10℃/分の昇温速度で加熱して、融点Tmを測定した。
(3)平均分子量及び分散度の測定法
重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分散度(Mw/Mn)は、ゲルパーミーションクロマトグラフィ(GPC)により測定した。GPC測定装置として昭和電工株式会社製「SHODEX−104」(登録商標)、カラムとして昭和電工株式会社製「HFIP606M」を2本、溶離液として5mMトリフルオロ酢酸ナトリウム塩ヘキサフルオロイソプロパノール溶液、及び検出計として示差屈折率(RI)検出計を使用した。分子量の校正は、ポリメタクリル酸標準分子量試料を用いて行った。
(4)溶融粘度測定法
溶融粘度の測定装置として、キャピラリー(0.5mmφ×10mmL)を装着した東洋精機製キャピログラフ1−Cを用いて、ポリマーの溶融粘度を測定した。より具体的に、ポリマー試料の融点より10℃高い温度(Tm+10℃)に加熱した測定装置に、約20gのポリマー試料を導入し、該ポリマー試料を該温度で5分間保持した後、剪断速度1,200sec−1で溶融粘度を測定した。出発原料のポリグリコール酸の溶融粘度は、温度(Tm+50℃)と剪断速度122sec−1で測定した。
(5)3%熱重量減少温度の測定法
メトラー社製の熱重量分析器TC11を用いて、ポリマーの3%熱重量減少温度を測定した。具体的には、20mgのポリマー試料を白金パンに入れ、乾燥窒素10ml/分の雰囲気中、50℃から400℃まで10℃/分の昇温速度で昇温し、その間の重量減少率を測定した。測定開始時のポリマー試料の重量から3%減少したときの温度を、3%熱重量減少温度とした。
[比較例1]
出発原料として、融点(Tm)が220℃、270℃(Tm+50℃=270℃)及び剪断速度122sec−1で測定した溶融粘度が506Pa・s、重量平均分子量(Mw)が19.2万、含水率が30ppmのポリグリコール酸を用いた。該ポリグリコール酸を押出機からストランド状に溶融押出し、水中で冷却して切断する方法により、平均径が2.8mm、平均長さが2.7mmの均一な形状を有するペレットを作製した。このペレットを用いて測定したポリグリコール酸の3%熱重量減少温度は、352℃であった。
内容積25リットルの撹拌機付きオートクレーブに、該ペレット10kg及びイオン交換水10リットルを投入した。オートクレーブを加熱して温水の温度を55℃に保持しながら、撹拌機の撹拌翼の回転数を50rpmに維持して、36時間撹拌することにより、温水浸漬処理を行った。
温水浸漬処理工程後、濾過して、全水分量5.8重量%、含水率7,726ppmの湿潤状態にある吸湿ポリグリコール酸のペレットを回収した。このペレットを乾燥機内に入れて、150℃に加熱した乾燥窒素を流量300リットル/分で流しながら、6時間かけて加熱乾燥処理を行った。得られたペレットについて、溶融粘度の測定を合計3回(n=3)実施した。結果を表1に示す。
[実施例1〜5]
温水浸漬処理条件及び加熱乾燥処理条件を表1に示すように変更したこと以外は、比較例1と実質的に同様に操作した。ただし、実施例1〜4では、原料ポリグリコール酸として、融点(Tm)が220℃、270℃(Tm+50℃=270℃)及び剪断速度122sec−1で測定した溶融粘度が465Pa・s、重量平均分子量(Mw)が18.7万、含水率が30ppmのポリグリコール酸を用いた。また、実施例1〜5では、乾燥窒素(N)に代えて、乾燥空気(AI)を用いた。結果を表1に示す。
Figure 2010215782
(脚注)
(1)PGA:ポリグリコール酸
(2)Mw:重量平均分子量
(3)N:乾燥窒素
(4)AI:乾燥空気
<考察>
表1の結果から明らかなように、温水の温度が55℃の場合(比較例1)には、温水浸漬処理工程を36時間にわたって行う必要がある。また、撹拌翼の回転数が50rpmと少ない場合(比較例1)には、低溶融粘度化ポリグリコール酸の同一ロット内での溶融粘度のバラツキが大きくなり、その最大値と最小値との差が大きくなる。
これに対して、温水の温度を60℃以上、さらには70℃以上とすることにより、温水浸漬処理工程での処理時間を大幅に短縮できることが分かる(実施例1〜5)。撹拌翼の回転数を100rpm以上、好ましくは150rpm以上に増加させると、低溶融粘度化ポリグリコール酸の同一ロット内での溶融粘度のバラツキが小さくなることが分かる(実施例1〜5)。さらに、本発明の製造方法(実施例1〜5)によれば、3%熱重量減少温度が高水準に保持され、かつ、含水率が低く、十分に乾燥した低溶融粘度化ポリグリコール酸を効率的に得ることができる。
[実施例6〜8、及び比較例2]
比較例1で調製したのと同じペレットを用いて、温水の温度を表2に示すように100℃(実施例6)、80℃(実施例7)、70℃(実施例8)、及び55℃(比較例2)と変化させ、撹拌翼の回転数を200rpmに設定して、温水浸漬処理を行った。処理時間と重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及び分散度(Mw/Mn)の測定結果を表2に示す。
温水浸漬処理工程後、濾過して、湿潤状態にある吸湿ポリグリコール酸のペレットを回収した。これらのペレットを各々乾燥機内に入れて、150℃に加熱した乾燥空気を流量300リットル/分で流しながら、6時間かけて加熱乾燥処理を行った。結果を表3に示す。
[比較例3]
オートクレーブに、グリコール酸〔和光純薬(株)〕500gを仕込み、常圧で撹拌しながら170℃から200℃まで2時間かけて昇温加熱し、生成水を溜出させながら重縮合反応させた。次いで、缶内圧力を5.0kPaに減圧し、210℃で4時間加熱して、未反応原料等の低沸点成分を溜去した。縮重合生成物を、冷却により結晶固化させてオートクレーブから取り出し、粉砕して、粉末状のポリグリコール酸を得た。このポリグリコール酸の融点Tmは、218℃であった。該ポリグリコール酸を用いて、温度(Tm+10℃=228℃)及び剪断速度1,200sec−1でのポリグリコール酸の溶融粘度を測定したところ、10Pa・sであった。該ポリグリコール酸の3%熱重量減少温度を測定したところ、252℃であった。結果を表3に示す。
Figure 2010215782
<考察>
表2の結果から明らかなように、温水の温度を100℃に設定した場合(実施例6)には、温水浸漬処理工程でペレットの表面から加水分解反応が進行するためと推定されるが、ポリグリコール酸の重量平均分子量(Mw)が著しく低下すると共に、その分散度(Mw/Mn)がブロードになる傾向を示す。これに対して、温水の温度を80℃(実施例7)、70℃(実施例8)、及び55℃(比較例2)に設定すると、温水浸漬処理工程での加水分解の程度が小さく、かつ、分散度がシャープな吸湿ポリグリコール酸のペレットを得ることができる。ただし、温水の温度を55℃に設定した場合(比較例2)には、ペレット内部を十分に吸湿させるのに長時間を必要とするため、効率的ではない。
Figure 2010215782
<考察>
表3の結果から明らかなように、100℃の温水中で浸漬処理した吸湿ポリグリコール酸は、表面部分での加水分解反応の進行が急速に進むため、分散度が大きくなり、それを加熱乾燥処理して得られた低溶融粘度化ポリグリコール酸の3%熱重量減少温度が低下することが分かる(実施例6)。
合成時に低重合度のポリグリコール酸を製造する方法により得られた低溶融粘度のポリグリコール酸は、3%熱重量減少温度が252℃であり、低分子量物の含有量が多く、溶融加工時に多量のガス成分を揮散し易いものである(比較例3)。
これに対して、温水の温度を55〜80℃に設定した場合(実施例7〜8、及び比較例2)には、3%熱重量減少温度が高水準で保持されている低溶融粘度化ポリグリコール酸を得ることができる。ただし、比較例2は、前述の通り温水浸漬処理に長時間を要するため、効率的ではない。
[実施例9]
比較例1で調製したポリグリコール酸のペレットを用いて、温水の温度を70℃、撹拌翼の回転数を200rpm、処理時間を5時間に設定して、温水浸漬処理工程を行った。これにより、含水率が8,910ppmで、全水分量が4.12重量%の湿潤状態にある吸湿ポリグリコール酸ペレットを回収した。この吸湿ポリグリコール酸ペレットを、乾燥機内に入れ、150℃に加熱した乾燥空気を300リットル/分の流量で流しながら、6時間かけて加熱乾燥処理を行った。その結果、含水率が46.5重量%で、溶融粘度が24Pa・sの低溶融粘度化ポリグリコール酸が得られた。結果を表4に示す。
[実施例10及び11]
実施例9において、湿潤状態にある吸湿ポリグリコール酸のペレットに水を添加して、全水分量を調節した。その後、実施例9と同じ操作で加熱乾燥処理を行った。結果を表4に示す。
Figure 2010215782
(*1)実施例9の温水浸漬処理工程の後、湿潤状態のペレットに水を添加して、全水分量を調節した。
<考察>
表4の結果から明らかなように、温水浸漬処理工程後、湿潤状態にある吸湿ポリグリコール酸のペレットに水を添加して全水分量を調節することにより、加熱乾燥処理工程後に溶融粘度が更に低下した低溶融粘度化ポリグリコール酸ペレットの得られることが分かる。溶融粘度の低下の度合いは、全水分量にほぼ比例している。そのため、予め全水分量と溶融粘度値との関係を調べておけば、単に水を添加してペレットの全水分量を調節することにより、低溶融粘度化ポリグリコール酸の溶融粘度値を精密に制御することができる。
本発明の低溶融粘度化ポリグリコール酸は、他の合成樹脂成形品の表面に、射出成形により微細なパターン状の薄膜を精密成形することが可能であり、耐めっき性に優れ、アルカリ水溶液に可溶性であるため、例えば、MID(三次元射出成形回路部品)のマスク用樹脂として利用することができる。本発明の低溶融粘度化ポリグリコール酸は、成形時の溶融流動性、精密成形性、他材との密着性、ガスバリア性などに優れることが要求される広範な技術分野で利用することができる。

Claims (8)

  1. 下記工程1及び2
    (1)ポリグリコール酸の融点Tmより50℃高い温度(Tm+50℃)及び剪断速度122sec−1で測定した溶融粘度が100Pa・s超過のポリグリコール酸を、所定の固体形状で60〜100℃の温水中に浸漬して、その固体形状を保持させながら吸湿させることにより、含水率が1,000ppm以上の吸湿ポリグリコール酸を得る温水浸漬処理工程1;並びに、
    (2)該吸湿ポリグリコール酸を、その固体形状を保持させながら、60℃からポリグリコール酸の融点より5℃低い温度(Tm−5℃)までの範囲内の温度で加熱乾燥して、ポリグリコール酸の融点より10℃高い温度(Tm+10℃)及び剪断速度1,200sec−1で測定した溶融粘度が150Pa・s以下で、3%熱重量減少温度が280℃以上、かつ、含水率が500ppm以下の低溶融粘度化ポリグリコール酸を得る加熱乾燥処理工程2;
    を含む低溶融粘度化ポリグリコール酸の製造方法。
  2. 該工程1において、該ポリグリコール酸を、所定の固体形状で60〜90℃の温水中に浸漬して、その固体形状を保持させながら吸湿させる請求項1記載の製造方法。
  3. 前記所定の固体形状が、ペレットまたは粒子の形状である請求項1記載の製造方法。
  4. 該工程1において、該ポリグリコール酸を、ペレット形状で温水中に浸漬して、そのペレット形状を保持させながら吸湿させることにより、吸湿ポリグリコール酸を得、次いで、該工程2において、該吸湿ポリグリコール酸を、そのペレット形状を保持させながら加熱乾燥して、低溶融粘度化ポリグリコール酸を得る請求項1乃至3のいずれか1項に記載の製造方法。
  5. 該工程1において、該ポリグリコール酸を、ペレット形状で、撹拌機を配置した撹拌槽内に投入すると共に、温水中に浸漬して、該撹拌機の撹拌翼の回転数100〜500rpmで1〜15時間撹拌し、そのペレット形状を保持させながら吸湿させることにより、吸湿ポリグリコール酸を得、次いで、該工程2において、該吸湿ポリグリコール酸を、そのペレット形状を保持させながら加熱乾燥して、低溶融粘度化ポリグリコール酸を得る請求項1乃至3のいずれか1項に記載の製造方法。
  6. 該工程1において、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比で表わされる分散度(Mw/Mn)が2.15以下の吸湿ポリグリコール酸を得る請求項1乃至5のいずれか1項に記載の製造方法。
  7. 該工程2において、該吸湿ポリグリコール酸に水を加えて、固体形状のポリグリコール酸の内部に含まれる水分量と表面に付着する水分量とを含む全水分量を調節してから加熱乾燥し、それによって、低溶融粘度化ポリグリコール酸の溶融粘度の制御を行う請求項1乃至6のいずれか1項に記載の製造方法。
  8. 該工程2において、該吸湿ポリグリコール酸を、60℃からポリグリコール酸の融点より5℃低い温度(Tm−5℃)までの範囲内の温度に加熱した不活性ガスまたは空気を流す方法により加熱乾燥する請求項1乃至7のいずれか1項に記載の製造方法。
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