JP2010209373A - 水圧鉄管用高張力鋼材およびその製造方法ならびに水圧鉄管 - Google Patents

水圧鉄管用高張力鋼材およびその製造方法ならびに水圧鉄管 Download PDF

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Abstract

【課題】溶接部靱性に優れるとともに高温多湿環境において予熱フリーで溶接しても溶接割れを生じず、さらに、自然環境にも優しい水圧鉄管用高張力鋼材を提供する。
【解決手段】C:0.04〜0.09%、Si:0.05〜0.6%、Mn:1.0〜1.8%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Nb:0.005%未満、Al:0.002〜0.07%、N:0.001〜0.005%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、850℃以上1000℃未満の温度に加熱後熱間加工して製造された水圧鉄管用高張力鋼材。さらに、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Ti、B、Ca、MgおよびREMのうちから選んだ1種以上の元素を含有する化学組成を有するものであってもよい。
【選択図】なし

Description

本発明は、水圧鉄管用高張力鋼材およびその製造方法、ならびに水圧鉄管に関する。詳しくは、溶接部靱性に優れるとともに高温多湿環境において予熱フリー(予熱なし)で溶接しても溶接割れを生じずに「耐溶接割れ性」に優れ、さらに、自然環境にも優しい水圧鉄管用高張力鋼材およびその製造方法、ならびに水圧鉄管に関する。
なお、本発明の高張力鋼材は、板厚10mmを超える板状のもの、つまり、「厚鋼板」を主たる対象とする。このため、以下の説明においては「鋼材」の例として「厚鋼板」と記載することがある。
また、本発明の高張力鋼材の強度クラスとしては、引張強さが610〜750MPaで降伏強度が490MPa以上のものが対象となる。
大型構造物に用いられる厚鋼板は、スラブをオーステナイト温度域、すなわち、Ac3点以上に加熱後、所定の厚みまで圧延を行い、冷却処理することにより製造される。
厚鋼板の特性は、鋼組成、加熱温度条件、圧延条件、冷却条件などにより決定し、これらの条件を適宜調整することにより、付加価値の高い高性能厚鋼板を製造することが可能になる。
厚鋼板の製造における加熱温度は、通常、1150℃程度とオーステナイト温度域でも比較的高い温度で行われてきた。これは、高温加熱によるスラブの軟化作用により、次工程である圧延工程において、圧下の負荷を小さくするためである。
なお、厚鋼板の製造では常にエネルギー原単位の減少が求められるが、近年のエネルギー資源の価格の高騰から、より一層のエネルギー原単位の減少が要求されるようになってきた。また、近年の環境への配慮から二酸化炭素などの温室効果ガスをなるべく出さずに鋼板を製造する技術が求められている。
厚鋼板の製造では、加熱工程として、スラブを加熱し、該スラブの中央部まで温度を均一化することが好ましい。このため、加熱工程では大量のエネルギーを必要とする。よって、加熱温度を低くして、例えば、加熱温度を1000℃未満として、厚鋼板を製造することができれば、上述の要求を満足することができる。
厚鋼板の製造方法が、例えば、特許文献1〜3に開示されている。
すなわち、特許文献1には、加熱温度をAc3点以上と規定し、1000℃未満の温度で加熱した実施例を含む発明が開示されている。
また、特許文献2には、加熱温度をAc3変態点以上、1200℃以下と規定し、950℃で加熱した実施例を含む発明が開示されている。
さらに、特許文献3には、加熱温度を950℃以上と規定し、975℃で加熱した実施例を含む発明が開示されている。
しかし、これらの特許文献1〜3に開示された技術は、その実施例に1000℃以上の加熱温度の記載が多数あることからも明らかなように、積極的に1000℃未満の低い加熱温度で厚鋼板を製造する技術ではない。
一方、特に、本発明が対象とする水圧鉄管用として有用な鋼あるいは鋼板が、例えば、特許文献4〜6に開示されている。
すなわち、特許文献4および特許文献5には、特定の化学組成を有する鋼を950〜1250℃に加熱し、特定の条件で圧延、冷却する60キロ級高張力鋼の製造方法が開示されている。
しかしながら、これらの特許文献に開示された技術は、その実施例に記載された「本発明例」がいずれも1000℃以上の加熱温度で製造されたものであることからも明らかなように、積極的に1000℃未満の加熱温度で厚鋼板を製造する技術ではない。
また、特許文献6には、鋼を鋳造後、Ar3変態点以下に冷却することなく、あるいはAr3変態点以上に再加熱し、特定の条件で圧延、冷却する高張力鋼板の製造方法が開示されている。
しかしながら、この特許文献6に開示された技術もまた、その実施例に記載された「本発明例」がいずれも1000℃以上の加熱温度で製造されたものであることからも明らかなように、積極的に1000℃未満の加熱温度で厚鋼板を製造する技術ではない。
特開平6−299237号公報 特開平8−60239号公報 特開2004−2934号公報 特開2001−64725号公報 特開2001−64728号公報 特開2006−45672号公報
高張力厚鋼板は、巨大な力を支える構造物に使用されることが多いので、一旦破壊が発生すれば市民生活に影響する大事故へと発展する。この破壊は溶接部で起こることが多いため、高張力厚鋼板には優れた「溶接部靱性」が必要とされる。
高張力厚鋼板のうちでも特に、揚水型水力発電所の水圧鉄管に用いられる高張力厚鋼板の場合には、優れた溶接部靱性に加えて、高温多湿環境での良好な「溶接性(耐溶接割れ性)」が求められる。
すなわち、水圧鉄管の現地溶接は、高温多湿という溶接割れの発生しやすい環境で行われるので、通常に比べて高い予熱温度での溶接施工が必要となる。しかしながら、高温での予熱は溶接施工コストが嵩むばかりか工期が長くなることを避けられないし、現場の作業者への負担も大きくなってしまう。
このため、水圧鉄管用として優れた溶接部靱性を有し、しかも、高温多湿環境において予熱フリーで溶接しても溶接割れを生じずに現地溶接が可能で耐溶接割れ性にも優れる高張力厚鋼板を供給できる技術に対する要望が大きくなっている。
一方、前述のようにエネルギー資源の価格高騰および温室効果ガスの排出防止の観点から、圧延素材であるスラブを低温度域で加熱して、厚鋼板を製造する技術が求められている。
そこで、本発明は、高騰するエネルギーコストを抑えて安価に製造できるばかりでなく、高温多湿環境における溶接性に優れるとともに溶接部靱性にも優れる水圧鉄管用高張力鋼材およびその製造方法、ならびに水圧鉄管を提供することを目的とする。
なお、本発明の水圧鉄管用高張力鋼材の具体的な目標は、
〈1〉母材の引張特性:
・引張強さ:610〜750MPa(約62〜約76kgf/mm2以上)、
・降伏強度:490MPa以上(約50kgf/mm2以上)、
〈2〉溶接部靱性:
・−20℃での吸収エネルギー(vE−20):47J以上、
〈3〉耐溶接割れ性:
・予熱フリーで溶接しても溶接割れを生じないこと、
である。
ただし、上記の靱性は、JIS Z 2242(2005)に規定の、幅10mmでノッチ角度45゜、ノッチ深さ2mmおよびノッチ底半径0.25mmのVノッチ試験片(以下、「2mmVノッチシャルピー衝撃試験片」という。)を用いたシャルピー衝撃試験による値を指す。
本発明者らは、前記した課題を解決するために、まず、エネルギー原単位の減少および温室効果ガス発生の抑制の観点から、スラブ加熱温度を低くすることを考えた。
すなわち、既に述べたように、通常、スラブの加熱は1150℃程度で行われるが、この温度を低くすれば、例えば、コークス炉ガス(Cガス)など加熱炉に導入する加熱用ガスの量を必然的に少なくすることができる。
特に、スラブ加熱温度を1000℃未満の低い温度に抑えれば、ガスの使用量を少なくすることができ、同時に温室効果ガスの発生も抑えることができる。
しかしながら、1000℃未満に加熱をして製造した厚鋼板を溶接した場合、溶接熱影響部(以下、「HAZ」という。)の靱性が低下した。そこで、この原因について種々調査したところ、下記(a)および(b)の知見を得た。
(a)厚鋼板を溶接すると、HAZの一部である「溶融線部」は1350℃以上に加熱され、一時的に溶融状態となる。そして、これが凝固するとNb炭化物が析出する。このNb炭化物は非常に硬い析出物であるため、Nb炭化物を起点としたノッチ効果により靱性が低下する。したがって、Nbの含有量を低減すれば、Nb炭化物が形成されることがなく靱性低下を防止することができる。
(b)一方、Nbは厚鋼板の強度上昇に寄与するので、Nbの含有量を低減することで厚鋼板の強度は低下するが、Cu、Ni、Cr、Mo、V、B等他の元素を特定量含有させることで、厚鋼板の強度を補完することができる。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記(1)〜(3)に示す水圧鉄管用高張力鋼材、(4)および(5)に示す水圧鉄管用高張力鋼材の製造方法ならびに(6)に示す水圧鉄管にある。
(1)質量%で、C:0.04〜0.09%、Si:0.05〜0.6%、Mn:1.0〜1.8%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Nb:0.005%未満、Al:0.002〜0.07%、N:0.001〜0.005%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、850℃以上1000℃未満の温度に加熱後熱間加工して製造されたことを特徴とする水圧鉄管用高張力鋼材。
(2)化学組成が、質量%で、さらに、Cu:2.0%以下、Ni:4.0%以下、Cr:2.0%以下、Mo:1.0%以下、V:0.5%以下、Ti:0.05%以下およびB:0.003%以下のうちから選択される1種以上の元素を含有するものであることを特徴とする上記(1)に記載の水圧鉄管用高張力鋼材。
(3)化学組成が、質量%で、さらに、Ca:0.02%以下、Mg:0.02%以下およびREM:0.02%以下のうちから選択される1種以上の元素を含有するものであること特徴とする上記(1)または(2)に記載の水圧鉄管用高張力鋼材。
(4)上記(1)から(3)までのいずれかに記載の水圧鉄管用高張力鋼材の製造方法であって、850℃以上1000℃未満の温度に加熱後の熱間加工を(Ar3点−30℃)以上の温度で終了した後、700℃以上の温度から、5〜80℃/sの平均冷却速度で冷却を開始し、500℃以下の温度で冷却を停止することを特徴とする水圧鉄管用高張力鋼材の製造方法。
(5)500℃以下の温度で冷却を停止した後、さらに、300〜700℃の温度で焼戻しすることを特徴とする上記(4)に記載の水圧鉄管用高張力鋼材の製造方法。
(6)上記(1)から(3)までのいずれかに記載の水圧鉄管用高張力鋼材を用いて製造したことを特徴とする水圧鉄管。
なお、本発明における「REM」は、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素の総称であり、REMの含有量はREMのうちの1種または2種以上の元素の合計含有量を指す。
残部としての「Feおよび不純物」における「不純物」とは、鉄鋼材料を工業的に製造する際に、鉱石あるいはスクラップ等のような原料を始めとして、製造工程の種々の要因によって混入するものを指す。
また、加熱温度は、被熱間加工材の板厚中央部(板厚tの(1/2)部)における温度を指す。板厚中央部の温度を直接測定する手段はないので、伝熱計算を基にした計算温度管理を行い、計算温度を板厚中央部の温度、すなわち加熱温度として採用すればよい。
熱間加工を終了する温度は、被熱間加工材の表面における温度を指す。冷却を開始する温度および停止する温度もまた、熱間加工を完了した鋼材の表面における温度を指す。そして、本発明で規定する平均冷却速度とは、熱間加工を完了した鋼材の表面温度から求めた値を指す。
さらに、Ar3点とは、C、Mn、Cu、Cr、NiおよびMoを、それぞれの元素の質量%での含有量、また、tを鋼材のmm単位での熱間加工終了後の厚み(以下、「仕上厚さ」という。)として、
〔910−310×C−80×Mn−20×Cu−15×Cr−55×Ni−80×Mo+0.35×(t−8)〕
の式によって求めた値を指す。
本発明の水圧鉄管用高張力鋼材は、高騰するエネルギーコストを抑えて工業的な規模で安価に製造することが容易であり、溶接部靱性に優れるとともに高温多湿環境における溶接性にも優れており予熱フリーで溶接しても溶接割れを生じないので、溶接施工コストの低減、工期の短縮、さらには、現場の作業者への負担軽減も可能である。このため、本発明の水圧鉄管用高張力鋼材は、揚水型水力発電所の水圧鉄管の素材として極めて好適に用いることができる。さらに、この水圧鉄管用高張力鋼材の製造時のエネルギー消費量は小さくてもよいので、二酸化炭素など温室効果ガスの放出を抑制することができるという効果も得られる。この水圧鉄管用高張力鋼材は、本発明の方法によって製造することができる。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、以下の説明における各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
(A)化学組成について:
C:0.04〜0.09%
Cは、鋼板の強度を確保するために添加される。Cの含有量が0.04%未満では焼入性不足となり、610MPa以上の引張強さを確保することが難しく、また靱性も十分ではない。一方、0.09%を超えると母材の靱性が低下するだけでなく、HAZの硬さが上昇し、溶接割れ感受性が高くなる。したがって、Cの含有量を0.04〜0.09%とした。Cの含有量は0.05%以上0.07%未満とすることが好ましい。
Si:0.05〜0.6%
Siは、脱酸作用および強度向上作用を有する。しかしながら、Siの含有量が0.05%未満ではこうした効果を確保し難い。一方、0.6%を超えると、母材およびHAZの靱性低下をもたらす。したがって、Siの含有量を0.05〜0.6%とした。なお、Si含有量の望ましい下限は0.1%であり、また、望ましい上限は0.45%である。
Mn:1.0〜1.8%
Mnは、鋼板の焼入性を向上し、強度を高めるために添加する。しかしながら、その含有量が1.0%未満では、強度を確保することが困難である。一方、1.8%を超えると、母材およびHAZともに靱性が低下する。したがって、Mnの含有量を1.0〜1.8%とした。なお、Mn含有量の望ましい下限は1.2%であり、また、望ましい上限は1.7%である。
P:0.02%以下
Pは、不純物として鋼中に不可避的に存在する。Pの含有量が0.02%を超えると、粒界に偏析して靱性を低下させるのみならず、溶接時に割れを招く。したがって、Pの含有量を0.02%以下とした。なお、P含有量の望ましい上限は0.015%である。
S:0.01%以下
Sは、その含有量が多すぎると中心偏析を助長したり、延伸したMnSが多量に生成したりするため、母材およびHAZの機械的性質が劣化する。したがって、Sの含有量を0.01%以下とした。なお、S含有量の望ましい上限は0.005%である。Sの含有量は少ないほど好ましいため、下限は特に規定するものではない。
Nb:0.005%未満
Nbは、母材の強度上昇および組織の細粒化に寄与するものの、溶接施工の際に、溶融線部にNb炭化物として析出し、それを起点としたノッチ効果により溶接部の靱性が低下する。したがって、溶接施工時のNb炭化物の析出を防止し、溶接部の靱性低下を抑止するために、Nbの含有量を0.005%未満とした。好ましいNbの含有量は、0.003%未満である。
Al:0.002〜0.07%
Alは、脱酸作用を有する。AlはNと結合してAlNを形成し、オーステナイト粒を微細にする作用も有する。これらの効果を得るには、Alは0.002%以上の含有量とする必要がある。一方、Alの含有量が0.07%を超えると、粗大なクラスター状のアルミナ系介在物粒子が形成されやすくなるため、特にHAZにおいて靱性が劣化しやすくなる。したがって、Alの含有量を0.002〜0.07%とした。Al含有量の望ましい下限は0.010%であり、また、望ましい上限は0.05%である。なお、本発明におけるAlはいわゆる「sol.Al(酸可溶Al)」を意味する。
N:0.001〜0.005%
Nは、AlやTiと結びついて窒化物を形成しオーステナイト粒を微細化する作用を有するので、0.001%以上含有させる必要がある。しかしながら、Nの含有量が多くなって0.005%を超えると、母材およびHAZの靱性低下が著しくなる。したがって、Nの含有量を0.001〜0.005%とした。
本発明の水圧鉄管用高張力鋼材の一つは、上記元素のほか、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有するものである。なお、既に述べたように、残部としての「Feおよび不純物」における「不純物」とは、鉄鋼材料を工業的に製造する際に、鉱石あるいはスクラップ等のような原料を始めとして、製造工程の種々の要因によって混入するものを指す。
本発明の水圧鉄管用高張力鋼材の他の一つは、上記の元素に加えてさらに、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Ti、B、Ca、MgおよびREMのうちから選んだ1種以上の元素を含有する化学組成を有するものである。以下、これらの任意元素の作用効果と、含有量の限定理由について説明する。
Cu、Ni、Cr、Mo、V、TiおよびBは、焼入性を高める作用を有する。このため、より大きな焼入性を確保したい場合には、これらの元素を含有させてもよい。以下、上記のCu、Ni、Cr、Mo、V、TiおよびBについて詳しく説明する。
Cu:2.0%以下
Cuは、焼入性を向上させる作用を有するので、焼入性向上のためにCuを含有してもよい。しかしながら、Cuの含有量が2.0%を超えると、母材およびHAZの靱性を損なうだけでなく、熱間延性も大きく低下させる。したがって、Cuを含有させる場合の含有量を2.0%以下とした。なお、Cuの含有量は0.7%未満とすることが好ましく、0.5%未満とすれば一層好ましい。
一方、前記したCuの焼入性向上効果を確実に得るためには、Cu含有量の下限を0.02%とすることが好ましく、0.05%とすれば一層好ましい。
Ni:4.0%以下
Niは、焼入性を高める作用を有する。Niには、水圧鉄管用高張力鋼材の靱性および溶接性を高める作用もある。したがって、上記の効果を得るためにNiを含有してもよい。しかしながら、Niの含有量が4.0%を超えると、コスト上昇の割に効果の向上代が小さくなって不経済である。したがって、Niを含有させる場合の含有量を4.0%以下とした。なお、Niの含有量は3.2%未満とすることが好ましく、2.5%未満とすれば一層好ましい。
一方、前記したNiの効果を確実に得るためには、Ni含有量の下限を0.03%とすることが好ましく、0.05%とすれば一層好ましい。
Cr:2.0%以下
Crは、焼入性を高め、また、焼戻しの際に析出して、強度と靱性を向上させる作用を有する。したがって、上記の効果を得るためにCrを含有してもよい。しかしながら、Crの含有量が2.0%を超えると、強度を過度に高めて母材とHAZの靱性を損なう。したがって、Crを含有させる場合の含有量を2.0%以下とした。なお、Crの含有量は1.0%以下とすることが好ましく、0.5%以下とすれば一層好ましい。
一方、前記したCrの効果を確実に得るためには、Cr含有量の下限を0.05%とすることが好ましく、0.10%とすれば一層好ましい。
Mo:1.0%以下
Moは、焼入性を高め、また、焼戻しの際に析出して、強度と靱性を向上させる作用を有する。したがって、上記の効果を得るためにMoを含有してもよい。なお、Moは、同じ量で比較してCrよりも焼入性向上効果および析出硬化作用が大きく、特に、Bと共存した場合、焼入性向上効果が顕著に現れる。しかしながら、Moの含有量が1.0%を超えると、表層部で「焼き」が入りすぎて大きく硬化し、表層部の靱性が劣化する。したがって、Moを含有させる場合の含有量を1.0%以下とした。なお、Moの含有量は0.7%以下とすることが好ましく、0.5%以下とすれば一層好ましい。
一方、前記したMoの効果を確実に得るためには、Mo含有量の下限を0.05%とすることが好ましく、0.07%とすれば一層好ましい。
V:0.5%以下
Vは、焼入性を高める作用を有する。Vには、焼戻し時に析出して、析出硬化により焼戻し軟化抵抗を増加させ、高温での焼戻しを可能として、強度と靱性のバランスを向上させる作用もある。したがって、上記の効果を得るためにVを含有してもよい。しかしながら、Vの含有量が0.5%を超えると、母材とHAZ靱性の著しい劣化をもたらす。したがって、Vを含有させる場合の含有量を0.5%以下とした。なお、Vの含有量は0.4%以下とすることが好ましく、0.3%以下とすれば一層好ましい。
一方、前記したVの効果を確実に得るためには、V含有量の下限を0.005%とすることが好ましく、0.01%とすれば一層好ましい。
Ti:0.05%以下
Tiは、焼入性を高める作用を有する。また、Tiは、脱酸作用を有し、Al、TiおよびMnからなる酸化物相を形成することによって組織を微細化することもできる。したがって、上記の効果を得るためにTiを含有してもよい。しかしながら、Tiの含有量が0.05%を超えると、形成される酸化物がTi酸化物、あるいはTi−Al酸化物となって分散密度が低下し、特に小入熱溶接した際のHAZにおける組織を微細化する作用が失われる。したがって、Tiを含有させる場合の含有量を0.05%以下とした。なお、Tiの含有量は0.04%以下とすることが好ましく、0.03%以下とすれば一層好ましい。
一方、前記したTiの効果を確実に得るためには、Ti含有量の下限を0.005%とすることが好ましく、0.010%とすれば一層好ましい。
B:0.003%以下
Bは、焼入性を向上させて、強度を高める作用がある。したがって、上記の効果を得るためにBを含有してもよい。しかしながら、Bの含有量が0.003%を超えると、焼入性向上に基づく強度を高める効果が飽和するし、母材、HAZともに靱性劣化の傾向が著しくなる。したがって、Bを含有させる場合の含有量を0.003%以下とした。なお、Bの含有量は0.0025%以下とすることが好ましく、0.0020%以下とすれば一層好ましい。
一方、前記したBの効果を確実に得るためには、B含有量の下限を0.0005%とすることが好ましく、0.0007%とすれば一層好ましい。
なお、上記のCu、Ni、Cr、Mo、V、TiおよびBは、そのうちのいずれか1種のみ、または2種以上の複合で含有させることができる。なお、これらの元素の合計含有量は5.0%以下とすることが好ましく、3.0%以下とすれば一層好ましい。
Ca、MgおよびREMは、熱間加工性を高める作用を有する。このため、より大きな熱間加工性を確保したい場合には、これらの元素を含有させてもよい。以下、上記のCa、MgおよびREMについて詳しく説明する。
Ca:0.02%以下
Caは、熱間加工性を高める作用を有する。なお、Caが鋼中のSと反応して溶鋼中で形成する酸・硫化物(オキシサルファイド)は、MnSなどと異なって、熱間加工の一形態である圧延加工で圧延方向に伸びることがなく圧延後も球状であるため、延伸した介在物の先端などを割れの起点とする溶接割れや水素誘起割れを抑制する作用がある。したがって、上記の効果を得るためにCaを含有してもよい。しかしながら、Caの含有量が0.02%を超えると、靱性の劣化を招くことがある。したがって、Caを含有させる場合の含有量を0.02%以下とした。なお、Caの含有量は0.01%以下とすることが好ましく、0.008%以下とすれば一層好ましい。
一方、前記したCaの効果を確実に得るためには、Ca含有量の下限を0.0010%とすることが好ましく、0.0020%とすれば一層好ましい。
Mg:0.02%以下
Mgは、熱間加工性を高める作用を有する。Mgには、Mg含有酸化物を生成してTiNの発生核となり、TiNを微細分散させる作用もある。したがって、上記の効果を得るためにMgを含有してもよい。しかしながら、Mgの含有量が0.02%を超えると、酸化物が多くなりすぎて延性低下をもたらす。したがって、Mgを含有させる場合の含有量を0.02%以下とした。なお、Mgの含有量は0.015%以下とすることが好ましく、0.01%以下とすれば一層好ましい。
一方、前記したMgの効果を確実に得るためには、Mg含有量の下限を0.002%とすることが好ましく、0.003%とすれば一層好ましい。
REM:0.02%以下
REMは、熱間加工性を高める作用を有する。REMには、HAZ組織の微細化作用もある。したがって、上記の効果を得るためにREMを含有してもよい。しかしながら、REMの含有量が多くなると、介在物となって清浄性を低下させるが、REMの添加によって形成される介在物は、比較的靱性劣化への影響が小さいため、0.02%以下であればREMを含有させても母材の靱性の低下は許容できる。したがって、REMを含有させる場合の含有量を0.02%以下とした。なお、REMの含有量は0.01%以下とすることが好ましく、0.009%以下とすれば一層好ましい。
一方、前記したREMの効果を確実に得るためには、REM含有量の下限を0.002%とすることが好ましく、0.003%とすれば一層好ましい。
既に述べたように本発明における「REM」は、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素の総称であり、REMの含有量はREMのうちの1種または2種以上の元素の合計含有量を指す。
なお、上記のCa、MgおよびREMは、そのうちのいずれか1種のみ、または2種以上の複合で含有させることができる。なお、これらの元素の合計含有量は0.05%以下とすることが好ましく、0.03%以下とすれば一層好ましい。
(B)ミクロ組織について:
本発明の水圧鉄管用高張力鋼材は、ミクロ組織を規定するものではないが、ベイナイトが主体の組織であることが好ましい。ベイナイトが主体の組織とは、本発明の高張力鋼材の目標とする特性を満足する範囲で一部フェライト、パーライト等他の相であってもいいことを意味する。
なお、次の(C)項に示すように、熱間加工の際の加熱温度が850℃以上1000℃未満と低い温度であるため、上述したベイナイトが主体の組織の場合には、ベイナイトのラス幅は成長せず1.5μm以下となる。
(C)製造条件について:
(C−1)加熱工程について:
本発明に係る水圧鉄管用高張力鋼材は、(A)項に記載の化学組成を有する鋼を出発材料、つまり、被熱間加工材として、850℃以上1000℃未満の温度に加熱した後、熱間加工して製造されたものである。
被熱間加工材を850℃以上に加熱するのは、オーステナイト変態させて、均一な組織とするためである。一方、加熱温度を1000℃未満とするのは、エネルギー消費の減少および自然環境への配慮のためである。なお、加熱温度を1000℃未満とすることによって、オーステナイトの粗大化が防止できるので、靱性が向上する。加熱温度は、好ましくは975℃未満、より好ましくは950℃未満である。また、加熱温度の下限は、好ましくは875℃、より好ましくは900℃である。
なお、被熱間加工材の中央部まで温度を均一化するために、上記温度域での加熱時間は、2時間以上とすることが好ましい。ただし、本発明の目的から加熱時間の上限は9時間程度とすることが好ましい。
なお、本発明に係る水圧鉄管用高張力鋼材の出発材料としての被熱間加工材の製造については、特に、条件を規定する必要はない。
例えば、「鋼材」の例として「厚鋼板」の場合を挙げると、通常行われる連続鋳造法でスラブを製造し、これを出発材料として用いればよい。ただし、上記のスラブは、予め一定の大きさとしておくことが好ましい。
すなわち、熱間加工工程において加工量が大きい場合には、熱間加工の際に所望の形状に仕上げる加工終了温度が下がってしまうため、スラブは薄手のものであることが好ましい。具体的には、スラブ厚300mm以下のスラブを出発材料とすることが好ましい。なお、このような薄手のスラブを製造するために、厚手のスラブを予め薄く加工して本発明の出発材料としてのスラブとしてもよい。
(C−2)熱間加工工程について:
出発材料としての被熱間加工材は、前記(C−1)項に記載の条件で加熱した後に熱間加工を施されて所望の形状に仕上げられるが、その際の熱間加工は、未再結晶領域での圧下を行い、組織を細粒化するために、(Ar3点−30℃)以上の温度で終了するのが好ましい。より好ましくはAr3点以上の温度で終了することである。なお、熱間加工終了温度の制御は、通常の手法で行えばよいが、(C−1)項に記載のとおり、加熱温度が比較的低いため、出発材料としての被熱間加工材を加熱炉から取り出した後はできるだけ速やかに熱間加工を行うことが好ましい。
(C−3)冷却工程について:
上記(C−2)の熱間加工工程を終了した後は、700℃以上の温度から5〜80℃/s以上の平均冷却速度で冷却を開始し、500℃以下の温度で冷却を停止することが好ましい。
冷却を開始する温度が700℃を下回ると、引張特性の目標値は得られるもののその値は低めなものとなってしまう。
5℃/s未満の平均冷却速度で冷却した場合には、熱間加工終了後の結晶粒の成長を抑えることができず、鋼材の粒径が大きくなり、強度低下の要因となるので好ましくない。一方、80℃/sを超える平均冷却速度で冷却した場合には、「焼き」が入りすぎて、鋼材中の硬質相の量が多くなり、靱性劣化の要因となるので好ましくない。
上記700℃以上の温度から5〜80℃/s以上の平均冷却速度での冷却は500℃以下の温度で停止することが好ましい。冷却を停止すると鋼材には復熱が見られるが、このような冷却を行えば、復熱が起こっても結晶粒の成長を促すような温度まで上昇するようなことはないので、十分な溶接ボンド部靱性が確保され、したがって、水圧鉄管用の鋼材として問題となることはない。
上記した冷却の停止温度は500℃を超えてもよいが、その場合はボンド部の溶接部靱性の目標値は得られるもののその値は低めなものとなってしまう。
冷却停止後は、例えば、室温まで大気中で放冷するなど適宜の手段を講じればよい。もちろん、上記の平均冷却速度で室温まで冷却してもよい。また、その冷却停止温度から直接に次の(C−4)項で述べる温度に昇温させて焼戻しを行ってもよい。
熱間加工工程を終了後、700℃以上の温度から冷却して5〜80℃/sの平均冷却速度を得るための方法としては、例えば、水冷、ミスト冷却等が挙げられる。
なお、前記(C−2)項の熱間加工工程の後、この(C−3)の冷却工程を行う前に、脱スケール、歪矯正、温度均一化加熱などの処理を行ってもよい。
(C−4)焼戻し工程について:
上記(C−3)項の冷却工程を終了した後は、冷却によって生じた歪を取り除き、微細な炭化物を析出させることによって強度と靱性のバランスを改善させるために、300〜700℃の温度で焼戻しを行ってもよい。
焼戻しの温度が300℃未満の場合には、十分な焼戻し効果が得られないことがあり、一方、700℃を超えと、強度低下を生じることがある。上記焼戻しにおける保持時間は、強度と靱性のバランスを考慮して適宜決定すればよい。焼戻し時間の目安としては、例えば、保持時間(分)≧板厚(mm)/2を満たす条件が挙げられる。
なお、前記(c−3)項における冷却停止温度が300℃を下回る場合には、その温度から直接300〜700℃の温度に再加熱して焼戻しを行ってもよいし、冷却停止後、適宜の手段を講じて室温まで冷却してから、300〜700℃の温度に再加熱して焼戻しを行ってもよい。
一方、前記(c−3)項における冷却停止温度が300℃以上の場合には、冷却停止後、適宜の手段を講じて300℃から室温に至る温度まで冷却してから、300〜700℃の温度に再加熱して焼戻しを行ってもよいし、冷却停止後に、例えば、「パイリング」、「カバー掛け」、「保温炉に装入」等の処置を講じて、「500〜300℃」の温度域でいわゆる「自己焼戻し」してもよい。
なお、上記の製造条件は、工業的な規模で本発明の水圧鉄管用高張力鋼材を経済的に要領よく実現するための方法の一つであり、水圧鉄管用高張力鋼材自体の技術的範囲はこの製造条件によって規定されるものではない。
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明する。
表1および表2に示す化学組成を有する鋼1〜23およびx1〜x11を通常の方法で溶製、連続鋳造してスラブを製造した。
表1および表2中の鋼1〜33は、化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼である。一方、表2中の鋼x1〜x11は、化学組成が本発明で規定する条件から外れた比較例の鋼である。なお、表1および表2には、Ar3点の値および後述の表3における鋼材仕上厚さを併記した。
これらの各種の鋼のスラブを用い、表3に示す製造条件に基づいて熱間圧延して仕上厚さ30〜100mmの各種鋼材を製造した。圧延完了後の冷却は水冷によって行い、表3に記載の「冷却停止温度」で水冷を停止し、その後は、室温まで大気中で放冷した。焼戻しは室温から再加熱して行った。なお、表3には、〔Ar3点−30℃〕の値を併記した。
Figure 2010209373
Figure 2010209373
Figure 2010209373
上記のようにして得た各鋼材について、先ず、ミクロ組織を調査した。
すなわち、圧延面に平行な面であるいわゆる「L断面」が被検面になるように、各鋼材の板厚tの(1/4)部(以下、「(1/4)t部」という。)を中心にして試験片を採取し、次いで、その試験片を樹脂に埋め込んで鏡面研磨した後ナイタールによって腐食し、光学顕微鏡を用いて倍率を200倍として観察を行い、得られた像を画像解析してミクロ組織を調査した。その結果、いずれの試験番号においてもベイナイトが主体の組織、つまり、組織の70%以上がベイナイトであり、残部はフェライト等の組織であった。また、ベイナイトのラス幅はいずれの場合も1.5μm以下であった。
次に、得られた各鋼材の母材としての特性を調べるために、L方向の機械的特性としての引張特性の調査を行った。
引張特性は、JIS Z 2201(1998)に準じた引張試験片を、(1/4)t部を中心として採取し、JIS Z 2241(1998)に記載の方法に準じて室温で引張試験を行って降伏強度(以下、「YS」という。)と引張強さ(以下、「TS」という。)を測定した。なお、YSは、10N/(mm・s)の引張試験速度で引張試験を行った際の下降伏点から求め、明確な降伏点が現れない場合は0.2%耐力をもってYSとした。
なお、引張特性の目標値は、TS:610〜750MPa、YS:490MPa以上とした。
溶接性(溶接割れ性)および溶接部靱性の評価のために、(1/4)t部を中心とする鋼材を切り出し、レ型開先にて入熱45kJ/cmにて片面3〜8層のサブマージアーク溶接を行った試験片を作製し、これから2mmVノッチシャルピー衝撃試験片を採取して−20℃でシャルピー衝撃試験を行い、吸収エネルギーを測定した。
なお、上記の2mmVノッチシャルピー衝撃試験片は、ノッチ底を溶接金属とHAZの界面であるいわゆる「ボンド部」に入れた場合と、ボンド部から母材側に3mm入ったHAZに入れた場合の両方を採取した。
シャルピー衝撃特性の目標は、上記いずれの試験片についても−20℃での吸収エネルギーである「vE−20」が47J以上とし、これを満たす場合に、溶接部靱性に優れるとした。
また、JIS Z 3158(1993)に記載の「y開先拘束割れ試験方法」に準じて約598MPa級(60kgf/mm2級)の溶接棒を用いた手溶接を実施して耐溶接割れ性を評価した。具体的には、現地での溶接を考慮して、予熱フリーにて溶接ビードを置き、所定時間経過後に断面を切り出し割れの有無を調査した。なお、上記の溶接ビード置きは、溶接棒を気温30℃、湿度80%の環境下で1時間放置し、加湿させた後、気温30℃、湿度80%の環境下で実施した。
表4に、上記のようにして求めた引張特性、シャルピー衝撃特性および耐溶接割れ性の調査結果を示す。
Figure 2010209373
表4から、試験番号1〜30、32および33の本発明で規定する化学組成を有するスラブを本発明で規定する温度条件で加熱後に熱間圧延した鋼材は、水圧鉄管用高張力鋼材として目標とする母材の引張特性、溶接部靱性および耐溶接割れ性を確保できることが明らかである。
上記の試験番号のうちでも、熱間圧延の終了温度、圧延終了後の冷却条件が本発明で規定する条件を満たす試験番号1〜30の鋼材は、圧延終了後の冷却開始温度が本発明で規定する条件から外れた試験番号32に比べてYSに優れており、また、圧延終了後の冷却停止温度が本発明で規定する条件から外れた試験番号33に比べてボンド部の溶接部靱性に優れていることがわかる。
これに対して、本発明で規定する化学組成を満たさないスラブを用いた試験番号34〜44の鋼材の場合には、本発明で規定する温度条件でスラブを加熱後に熱間圧延しても、水圧鉄管用高張力鋼材としての上記目標特性のうちの少なくとも1つの特性が得られていないことが明らかである。
なお、試験番号31に示すように、本発明に規定する化学組成を有するスラブを1000℃以上に加熱して水圧鉄管用高張力鋼材を製造しても、目標とする母材の引張特性、溶接部靱性および耐溶接割れ性を確保することが可能であるが、エネルギー資源価格および環境保全の観点から好ましいものとはいえない。
本発明の水圧鉄管用高張力鋼材は、高騰するエネルギーコストを抑えて工業的な規模で安価に製造することが容易であり、溶接部靱性に優れるとともに高温多湿環境における溶接性にも優れており予熱フリーで溶接しても溶接割れを生じないので、溶接施工コストの低減、工期の短縮、さらには、現場の作業者への負担軽減も可能である。このため、本発明の水圧鉄管用高張力鋼材は、揚水型水力発電所の水圧鉄管の素材として極めて好適に用いることができる。さらに、この水圧鉄管用高張力鋼材の製造時のエネルギー消費量は小さくてもよいので、二酸化炭素など温室効果ガスの放出を抑制することができるという効果も得られる。この水圧鉄管用高張力鋼材は、本発明の方法によって製造することができる。

Claims (6)

  1. 質量%で、C:0.04〜0.09%、Si:0.05〜0.6%、Mn:1.0〜1.8%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Nb:0.005%未満、Al:0.002〜0.07%、N:0.001〜0.005%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、850℃以上1000℃未満の温度に加熱後熱間加工して製造されたことを特徴とする水圧鉄管用高張力鋼材。
  2. 化学組成が、質量%で、さらに、Cu:2.0%以下、Ni:4.0%以下、Cr:2.0%以下、Mo:1.0%以下、V:0.5%以下、Ti:0.05%以下およびB:0.003%以下のうちから選択される1種以上の元素を含有するものであることを特徴とする請求項1に記載の水圧鉄管用高張力鋼材。
  3. 化学組成が、質量%で、さらに、Ca:0.02%以下、Mg:0.02%以下およびREM:0.02%以下のうちから選択される1種以上の元素を含有するものであること特徴とする請求項1または2に記載の水圧鉄管用高張力鋼材。
  4. 請求項1から3までのいずれかに記載の水圧鉄管用高張力鋼材の製造方法であって、850℃以上1000℃未満の温度に加熱後の熱間加工を(Ar3点−30℃)以上の温度で終了した後、700℃以上の温度から、5〜80℃/sの平均冷却速度で冷却を開始し、500℃以下の温度で冷却を停止することを特徴とする水圧鉄管用高張力鋼材の製造方法。
  5. 500℃以下の温度で冷却を停止した後、さらに、300〜700℃の温度で焼戻しすることを特徴とする請求項4に記載の水圧鉄管用高張力鋼材の製造方法。
  6. 請求項1から3までのいずれかに記載の水圧鉄管用高張力鋼材を用いて製造したことを特徴とする水圧鉄管。
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