〔発明が解決しようとする課題〕
上記公開公報に記載された減衰力制御装置に於いて、ばね下部材の共振周波数を見掛け上高めるように減衰力を変更しても、ばね下部材が路面より受けた衝撃荷重がサスペンションを介してばね上部材へ伝達される度合を低減することができず、車両の乗り心地性を向上させることができない。
また車両の乗り心地性を向上させるべく、減衰力発生装置の減衰係数を低下させると、ばね下部材とばね上部材との相対変位により発生される減衰力が低下してしまう。そのため車体の上下振動に対する減衰効果が低下し、これにより車両の操縦安定性が低下してしまうという問題がある。
本発明は、減衰力可変式減衰力発生装置を備えた自動車等の車両の減衰力制御装置に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、ばね上とばね下との間の見掛けのばね定数が低下するよう減衰力を制御することにより、ばね下が路面より受けた衝撃荷重がサスペンションを介してばね上へ伝達される度合を低減し、これにより車両の操縦安定性を低下させることなく車両の乗り心地性を向上させることである。
〔課題を解決するための手段及び発明の効果〕
上述の主要な課題は、本発明によれば、請求項1の構成、即ち減衰力可変式の減衰力発生手段と、前記減衰力発生手段により発生される減衰力を制御する制御手段とを有し、前記制御手段はばね下がバウンド、リバウンドの中立位置にあるときの前記ばね下に対するばね上の相対ストロークを0として、前記相対ストロークの大きさが増大する過程に於いては減衰力を低減修正し、前記相対ストロークの大きさが減少する過程に於いては減衰力を増大修正する減衰力修正制御量を演算し、前記減衰力発生手段により発生される減衰力が前記減衰力修正制御量にて修正されるよう前記減衰力発生手段を制御することを特徴とする車両の減衰力制御装置によって達成される。
図28に示されている如く、ばね上とばね下との間に配設されたサスペンションスプリングのばね力Fsは相対ストロークXに比例して変動し、減衰力発生手段により発生される減衰力Fdは相対ストロークXの変化率Xd、即ち相対ストローク速度に比例して変動する。
従って図28に於いてばね力について一点鎖線にて示されている如く、ばね上とばね下との間に作用する力Fpの大きさをサスペンションスプリングのばね力Fsの大きさよりも小さくすれば、ばね上とばね下との間の見掛けのばね定数、即ち相対ストロークXの変化量に対する力Fpの変化量の比を低下させることができる。
そのためには図28に於いて減衰力について一点鎖線にて示されている如く、サスペンションスプリングのばね力Fsと力Fpとの差の力が減衰力の修正により達成されればよい。即ち相対ストロークの大きさが増大する過程に於いては減衰力が低減修正され、相対ストロークの大きさが減少する過程に於いては減衰力が増大修正されればよい。
尚減衰力Fdの大きさは相対ストロークXの変化率Xdの大きさが減少するにつれて減少し、相対ストロークXの変化率Xdが0であるときには、換言すれば相対ストロークXの大きさが最大であるときには減衰力Fdも0になる。よって上記減衰力の修正により発生される減衰力は図28に於いて減衰力について例えば二点鎖線にて示されている如く変化する。
上記請求項1の構成によれば、減衰力修正制御量が演算され、減衰力発生手段により発生される減衰力が減衰力修正制御量にて修正されるが、減衰力修正制御量は相対ストロークの大きさが増大する過程に於いては減衰力を低減修正し、相対ストロークの大きさが減少する過程に於いては減衰力を増大修正する値に演算される。
従って相対ストロークの大きさが増大する過程に於いては相対ストロークの大きさの増大を抑制する力が小さくなり、相対ストロークの大きさが減少する過程に於いては相対ストロークの大きさの減少を抑制する力が大きくなる。よって減衰力修正制御量による減衰力の修正変化はあたかも相対ストロークXの変化に伴う力Fpの変化を低減するように作用する。
よって相対ストロークXの変化量に対する力Fpの変化量の比が小さくなり、ばね上とばね下との間の見掛けのばね定数が低下する。従ってばね下が路面より受けた衝撃荷重がサスペンションを介してばね上へ伝達される度合を低減し、これにより車両の乗り心地性を向上させることができる。
また上記請求項1の構成によれば、相対ストロークの大きさが増大する過程に於いては減衰力が低減されるが、相対ストロークの大きさが減少する過程に於いては減衰力が増大される。従って車体の上下振動に対する減衰効果は、例えば減衰係数が低下されることにより相対ストロークの大きさが増大する過程及び減少する過程の両方に於いて減衰力が低減される場合ほどには低下しないので、減衰効果の低下に起因する車両の操縦安定性の低下を回避することができる。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記相対ストロークの大きさが0に近づくにつれて前記減衰力修正制御量の大きさが小さくなるよう構成される(請求項2の構成)。
上記請求項2の構成によれば、減衰力修正制御量の大きさは相対ストロークの大きさが0に近づくにつれて小さくなる。よって相対ストロークの大きさが0に近づくにつれて減衰力発生手段により発生される減衰力が小さくなることに対応して減衰力修正制御量の大きさを変化させることができる。
また上述の如く減衰力修正制御量は相対ストロークの大きさが増大する過程に於いては減衰力を低減修正し、相対ストロークの大きさが減少する過程に於いては減衰力を増大修正する値に演算される。従って相対ストロークがその大きさが減少して0になった後増大する際に減衰力発生手段の減衰係数が高い値と低い値との間に変化する。
上記請求項2の構成によれば、減衰力修正制御量の大きさは相対ストロークの大きさが0に近づくにつれて小さくなる。よって相対ストロークの大きさが0に近づくにつれて減衰力修正制御量の大きさが小さくならない場合に比して、相対ストロークがその大きさが減少して0になった後増大する際に於ける減衰力発生手段の減衰係数の変化を穏かにすることができ、減衰力発生手段の耐久性を向上させることができる。
また上記請求項2の構成によれば、減衰力修正制御量の大きさは相対ストロークの大きさが0に近づくにつれて小さくなるので、相対ストロークの大きさが0より大きくなるにつれて大きくなる。よって相対ストロークの大きさが0より大きくなる過程に於いて相対ストロークXの変化量に対する力Fpの変化量の比を確実に小さくすることができ、これによりばね上とばね下との間の見掛けのばね定数を確実に低下させることができる。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項2の構成に於いて、前記相対ストロークの大きさが0であるときには前記減衰力修正制御量は0であるよう構成される(請求項3の構成)。
上記請求項3の構成によれば、相対ストロークの大きさが0であるときには減衰力修正制御量は0であるので、相対ストロークがその大きさが減少して0になった後増大する際に減衰力発生手段の減衰係数を高い値と低い値との間の中間値を経て変化させることができる。よって相対ストロークがその大きさが減少して0になった後増大する際に於ける減衰力発生手段の減衰係数の変化を確実に穏かにすることができ、減衰力発生手段の耐久性を確実に向上させることができる。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至3の何れか一つの構成に於いて、前記相対ストロークの大きさが所定の変動範囲の最大値に近づくにつれて前記減衰力修正制御量の大きさが小さくなるよう構成される(請求項4の構成)。
上記請求項4の構成によれば、減衰力修正制御量の大きさは相対ストロークの大きさが所定の変動範囲の最大値に近づくにつれて小さくなる。よって相対ストロークの大きさが所定の変動範囲の最大値に近づく過程に於いて減衰力発生手段の減衰係数を高い値と低い値との間の中間値に近づけることができる。従って相対ストロークの大きさが所定の変動範囲の最大値に近づくにつれて減衰力修正制御量の大きさが小さくならない場合に比して、相対ストロークがその大きさが所定の変動範囲の最大値になった後低下するよう変化する際に於ける減衰力発生手段の減衰係数の変化を穏かにすることができ、減衰力発生手段の耐久性を向上させることができる。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項4の構成に於いて、前記相対ストロークの大きさが前記最大値以上であるときには前記減衰力修正制御量は0であるよう構成される(請求項5の構成)。
上記請求項5の構成によれば、減衰力修正制御量は相対ストロークの大きさが所定の変動範囲の最大値以上であるときには0であるので、相対ストロークがその大きさが所定の変動範囲の最大値になった後低下するよう変化する際に減衰力発生手段の減衰係数を高い値と低い値との間の中間値を経て変化させることができる。よって相対ストロークがその大きさが所定の変動範囲の最大値になった後低下するよう変化する際に於ける減衰力発生手段の減衰係数の変化を確実に穏かにすることができ、減衰力発生手段の耐久性を確実に向上させることができる。
上記請求項5の構成によれば、減衰力修正制御量は相対ストロークの大きさが所定の変動範囲の最大値よりも大きいときには0であるので、相対ストロークがその大きさが所定の変動範囲の最大値よりも大きくなるよう変動する場合に、ばね上とばね下との間の見掛けのばね定数が不自然に変化すること及びこれに起因する車両の乗り心地性の悪化を防止することができる。
また本発明によれば、上記請求項1乃至5の何れか一つの構成に於いて、前記所定の変動範囲は予め設定された範囲であるよう構成される(請求項6の構成)。
上記請求項6の構成によれば、所定の変動範囲は予め設定された範囲であるので、所定の変動範囲が例えば相対ストロークの変動状況に応じて可変設定される場合に比して、減衰力の修正制御を簡便に行うことができる。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至6の何れか一つの構成に於いて、前記制御手段は現在までの予め設定された時間内の前記ばね上の共振周波数域に於ける前記相対ストロークの変動範囲に基づいて前記所定の変動範囲を可変設定するよう構成される(請求項7の構成)。
上記請求項7の構成によれば、所定の変動範囲は現在までの予め設定された時間内のばね上の共振周波数域に於ける相対ストロークの変動範囲に基づいて可変設定される。従って所定の変動範囲が予め設定された範囲である場合に比して、相対ストロークの変動状況に応じて減衰力の修正制御を適切に行うことができる。
また上記請求項7の構成によれば、車両の乗員がばね上の振動を敏感に感じ易いばね上の共振周波数域に於けるばね上とばね下との間の見掛けのばね定数を低下させることができるので、車両の乗り心地性を効果的に向上させることができると共に、ばね上の共振周波数域以外の周波数域についても見掛けのばね定数が低下される場合に比して、見掛けのばね定数の不必要な低下に起因する車両の操縦安定性の低下を効果的に回避することができる。
また本発明によれば、上記請求項求項1乃至7の何れか一つの構成に於いて、前記制御手段は前記相対ストロークの関数として前記減衰力修正制御量を演算するための演算式を記憶しており、前記相対ストロークに基づいて前記演算式により前記減衰力修正制御量を演算するよう構成される(請求項8の構成)。
上記請求項8の構成によれば、相対ストロークの関数として減衰力修正制御量を演算するための演算式が記憶されており、相対ストロークに基づいて演算式により減衰力修正制御量が演算される。従って相対ストロークを検出又は推定することにより、減衰力修正制御量を容易に且つ正確に求めることができる。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至8の何れか一つの構成に於いて、前記相対ストロークの変動量に対するサスペンション荷重の変動量の比を見掛けのばね定数として、前記制御手段は前輪の見掛けのばね定数が後輪の見掛けのばね定数よりも大きくなるよう、前輪及び後輪の前記減衰力修正制御量を演算するよう構成される(請求項9の構成)。
上記請求項9の構成によれば、前輪の見掛けのばね定数が後輪の見掛けのばね定数よりも大きくなるよう、前輪及び後輪の減衰力修正制御量が演算されるので、前輪のロール剛性を後輪のロール剛性よりも高くすることができる。よって車両の横方向の荷重移動が大きい状況に於いて旋回外側後輪の横力が旋回外側前輪の横力よりも早く飽和することに起因して車両がスピン状態になることを効果的に防止することができる。
また本発明によれば、上記請求項1乃至9の何れか一つの構成に於いて、前記制御手段は車両横方向の荷重移動量の変化率が高いときには車両横方向の荷重移動量の変化率が低いときに比して前記減衰力修正制御量の大きさが小さくなるよう前記減衰力修正制御量を演算するよう構成される(請求項10の構成)。
上記請求項10の構成によれば、車両横方向の荷重移動量の変化率が高いときには車両横方向の荷重移動量の変化率が低いときに比して減衰力修正制御量の大きさが小さくなるよう減衰力修正制御量が演算される。従って定常的な旋回が行われる場合の車両の良好な乗り心地性を確保しつつ、過渡的な旋回が行われる場合に於ける車体の姿勢変化を効果的に抑制することができる。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至9の何れか一つの構成に於いて、前記制御手段は車両前後方向の荷重移動量の変化率が高いときには車両前後方向の荷重移動量の変化率が低いときに比して前記減衰力修正制御量の大きさが小さくなるよう前記減衰力修正制御量を演算するよう構成される(請求項11の構成)。
上記請求項11の構成によれば、車両前後方向の荷重移動量の変化率が高いときには車両前後方向の荷重移動量の変化率が低いときに比して減衰力修正制御量の大きさが小さくなるよう減衰力修正制御量が演算される。従って定常的な加減速が行われる場合の車両の良好な乗り心地性を確保しつつ、過渡的な加減速が行われる場合に於ける車体の姿勢変化を効果的に抑制することができる。
〔課題解決手段の好ましい態様〕
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至11の何れか一つの構成に於いて、制御手段は減衰力発生手段の基本の減衰力と減衰力修正制御量との和に基づいて目標減衰係数を演算し、減衰力発生手段の減衰係数が目標減衰係数になるよう減衰力発生手段を制御するよう構成される(好ましい態様1)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至11の何れか一つの構成に於いて、車両の横方向の荷重移動量が大きい旋回時又は車両の前後方向の荷重移動量が大きい加減速時には、減衰力発生手段により発生される減衰力は減衰力修正制御量にて修正されないよう構成される(好ましい態様2)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至11の何れか一つの構成に於いて、相対ストロークの変動周波数がばね上の共振周波数に近いほど減衰力修正制御量の大きさが大きくなるよう、減衰力修正制御量の大きさは相対ストロークの変動周波数に応じて可変設定されるよう構成される(好ましい態様3)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項6の構成に於いて、所定の変動範囲はばね上の共振周波数域に於ける相対ストロークの変動範囲に基づいて予め設定された範囲であるよう構成される(好ましい態様4)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項7の構成に於いて、制御手段は現在までの予め設定された時間内のばね上の共振周波数域に於ける相対ストロークのPSDを演算し、相対ストロークのPSDに基づいてばね上の共振周波数に於けるパワーを演算し、該パワーに基づいて相対ストロークの所定の変動範囲を設定するよう構成される(好ましい態様5)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項8の構成に於いて、演算式は一次の項を含むが二次の項及び定数の項を含まない相対ストロークの三次関数であり、一次の項の係数は負の値であるよう構成される(好ましい態様6)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様6の構成に於いて、一次の項の係数の絶対値は車速が高いほど小さいよう構成される(好ましい態様7)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項8の構成に於いて、演算式は相対ストロークと相対ストロークの指数関数との積に比例する関数であり、比例係数は負の値であるよう構成される(好ましい態様8)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様8の構成に於いて、比例係数の絶対値は車速が高いほど小さいよう構成される(好ましい態様9)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項10又は11の構成に於いて、制御手段は車両横方向の荷重移動量の変化率の大きさ及び車両前後方向の荷重移動量の変化率の大きさの線形和が大きいほど減衰力修正制御量の大きさが小さくなるよう減衰力修正制御量を演算するよう構成される(好ましい態様10)。
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を好ましい実施例について詳細に説明する。
[第一の実施例]
図1は本発明による車両の減衰力制御装置の第一の実施例を一つの車輪について示す概略構成図である。
図1に於いて、10はばね下を構成する車輪を示しており、12はばね上を構成する車体を示している。車輪10を回転可能に支持する車輪支持部材又はサスペンションアームと車体12との間には、互いに並列の関係をなすようサスペンションスプリング14及び減衰力可変式のショックアブソーバ16が配設されている。尚サスペンションスプリング14はばね定数がK0(正の定数)のスプリングである。
ショックアブソーバ16は互いに共働して容積可変のシリンダ上室18及びシリンダ下室20を郭定するシリンダ22及びピストン24を有し、シリンダ上室18及びシリンダ下室20にはオイルの如き粘性を有する液体が充填されている。図示の実施例に於いては、ショックアブソーバ16はシリンダ22の下端にて車輪支持部材又はサスペンションアームに連結され、ピストン24のロッド部の上端にて車体12に連結されている。
図1には示されていないが、ピストン24はシリンダ上室18とシリンダ下室20とを連通接続する通路の実効断面積を増減する伸び側及び縮み側の減衰力制御弁を内蔵している。これらの減衰力制御弁はピストン24に組み込まれたアクチュエータ26によって制御され、アクチュエータ26は電子制御装置28により後に詳細に説明する如く制御されるようになっている。
電子制御装置28は例えば左前輪、右前輪、左後輪、右後輪の順に各車輪についてアクチュエータ26を介して伸び側及び縮み側の減衰力制御弁の開度を多段階に制御し、従ってショックアブソーバ16は減衰力可変式の減衰力発生装置として機能する。特に電子制御装置28は、シリンダ22に対するピストン24の相対速度をストローク速度Xdとして、図2に示されている如く、減衰係数C、即ちストローク速度Xdに対する減衰力Fdの比が最も小さくなる制御段S1(ソフト)から減衰係数Cが最も大きくなる制御段Sn(ハード)まで制御段Sをn(正の整数)段階に制御する。
尚電子制御装置28は図2に示されたストローク速度Xdと減衰力Fdとの関係と同一の関係としてストローク速度Xdと目標減衰力Fdtとの関係のマップを記憶装置に記憶している。
電子制御装置28にはストロークセンサ30よりサスペンションストローク、即ち車輪10に対する車体12のストロークX(図1のX2−X1)を示す信号、操舵角センサ32より操舵角θを示す信号、前後加速度センサ34より車両の前後加速度Gxを示す信号が入力される。ストロークセンサ30は車輪10がバウンドもリバウンドもしていない中立位置にあるときを0とし、バウンドストロークを正とし、リバウンドストロークを負としてストロークXを検出する。
尚電子制御装置28は、実際にはそれぞれCPU、ROM、RAM、入出力ポート装置等を含み、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続された周知の構成のマイクロコンピュータであってよい。
電子制御装置28は、車両が旋回状態又は加減速状態にあるときには、目標減衰係数Ctを予め設定された高い目標減衰係数Chに設定し、減衰係数Cが目標減衰係数Ctになるようショックアブソーバ16を制御する。これに対し車両が旋回状態及び加減速状態にないときには、電子制御装置28は後に詳細に説明する如くばね上とばね下との間の見掛けのばね定数Kaをサスペンションスプリング14のばね定数K0よりも低くするための減衰力修正制御量Faを演算する。そして電子制御装置28はショックアブソーバ16により発生される減衰力Fdが減衰力修正制御量Faにて修正されるよう目標減衰係数Ctを演算し、減衰係数Cが目標減衰係数Ctになるようショックアブソーバ16を制御する。
特に第一の実施例に於いては、電子制御装置28はストロークXに基づき下記の数1に従って減衰力修正制御量Faを演算する。
Fa=BX3+AX ……(1)
尚、上記式1に於いて、Aは図4に示されている如く見掛けのばね定数Kaの最大低減量を示す負の一定の係数である。またBはストロークXが予め設定された値(所定のストローク)Xeであるときに減衰力修正制御量Faが0になるよう所定のストロークXe及び係数Aにより決定される係数であり、下記の式2に従って演算される。尚所定のストロークXeは、ストロークXの変動周波数がばね上の共振周波数f0であるときのストロークXに基づいて予め設定されている。
B=−A/Xe2 ……(2)
次に図3に示されたフローチャートを参照して第一の実施例に於ける減衰力制御ルーチンについて説明する。尚図3に示されたフローチャートによる制御は図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。
まずステップ110に於いては操舵角θ及び車両の前後加速度Gxに基づき車両が旋回中又は加減速中であるか否かの判別、即ち見掛けのばね定数Kaを低下させるための減衰力修正制御を行わない方がよいか否かの判別が行われる。肯定判別が行われたときにはステップ120に於いて目標減衰係数Ctが予め設定された高い目標減衰係数Chに設定された後ステップ180へ進み、否定判別が行われたときにはステップ150へ進む。
ステップ150に於いては現在のストロークXに基づき上記式1に従って減衰力修正制御量Faが演算される。
ステップ160に於いては例えばストロークXの時間微分値としてストローク速度Xdが演算されると共に、C0を標準の減衰係数としてストローク速度Xdに基づき下記の式3に従って目標減衰力Ftが演算される。
Ft=C0Xd+Fa ……(3)
ステップ170に於いては目標減衰力Ft及びストローク速度Xdに基づき図2に対応するマップより減衰力の目標制御段Stが演算され、ステップ180に於いてはショックアブソーバ16の制御段Sが目標制御段Stになるようアクチュエータ26が制御され、これによりショックアブソーバ16の減衰力Fdが目標減衰力Ftに制御される。
以上の如く構成された第一の実施例に於いて、車両が旋回中でも加減速中でもないときには、ステップ110に於いて否定判別が行われることによりステップ150〜180が実行される。即ちステップ150に於いて現在のストロークXに基づき上記式1に従って減衰力修正制御量Faが演算される。そしてステップ160に於いて基本の減衰力C0Xdが減衰力修正制御量Faにて修正された値(基本の減衰力C0Xdと減衰力修正制御量Faとの和)として目標減衰力Ftが演算され、ステップ170及び180に於いてショックアブソーバ16の減衰力Fdが目標減衰力Ftに制御される。
制御される。
従って第一の実施例によれば、バウンドストロークXがXeでありリバウンドストロークXが−Xeであるよう車輪10がバウンド、リバウンドする状況に於いては、減衰力Fdはストローク速度Xdの変化に対し図5に示されている如く変化する。尚図5に於いて、一点鎖線は基本の減衰力C0Xdを示している。
即ちストロークXが0からバウンド方向の最大値Xeまで増大する過程に於いては、減衰力修正制御量Faは0より負の値にて絶対値が増大した後0になる。またストローク速度Xdは最大値より0まで減少する。よって減衰力Fdは図5の第一象限に於いて標準の減衰力C0Xdの線よりも下方の線を描く。
またストロークXがバウンド方向の最大値Xeから0まで減少する過程に於いても、減衰力修正制御量Faは0より負の値にて絶対値が増大した後0になる。ストローク速度Xdは0より最小値まで減少する。よって減衰力Fdは図5の第三象限に於いて標準の減衰力C0Xdの線よりも下方の線を描く。
またストロークXが0よりリバウンド方向の最小値−Xeまで減少する過程に於いては、減衰力修正制御量Faは0より正の値にて増大した後0になる。またストローク速度Xdは最小値より0まで増大する。よって減衰力Fdは図5の第三象限に於いて標準の減衰力C0Xdの線よりも上方の線を描く。
更にストロークXがリバウンド方向の最小値−Xeから0まで増大する過程に於いても、減衰力修正制御量Faは0より正の値にて絶対値が増大した後0になる。ストローク速度Xdは0より最大値まで増大する。よって減衰力Fdは図5の第一象限に於いて標準の減衰力C0Xdの線よりも上方の線を描く。
車輪10と車体12との間に上下方向に作用する荷重をサスペンション荷重Pとする。図6に於いて実線にて示されている如く、ストロークXに対するサスペンション荷重Pの比は、ストロークXの変動範囲全体に亘りストロークXに対するサスペンションスプリング14のばね力K0X(図6に於いて一点鎖線にて示されている)以下の値になる。
またストロークXの変化量に対するサスペンション荷重Pの変化量の比である見掛けのばね定数Ka(図6の実線の傾き)は、少なくともストロークXの大きさが小さい範囲に於いては、図6に於いて一点鎖線にて示されたサスペンションスプリング14のばね定数K0(図6の一点鎖線の傾き)よりも小さくなる。尚図6に於いて、二点鎖線は目標の見掛けのばね定数Ka(=K0+A)の線を示している。
従って第一の実施例によれば、少なくともストロークXの大きさが小さい範囲に於いて見掛けのばね定数Kaが低下するようショックアブソーバ16の減衰力Fdを制御することができる。よってストロークXの大きさが小さい範囲にあるときに車輪10が路面より受け易い衝撃が車体12へ伝達される度合を低減し、車両の乗り心地性を向上させることができる。
特に第一の実施例によれば、車両が旋回中又は加減速中であるときには、ステップ110に於いて肯定判別が行われ、ステップ150〜170が実行されることなくステップ120が実行され、目標減衰係数Ctが予め設定された高い目標減衰係数Chに設定される。
よって車両の旋回又は加減速時にも見掛けのばね定数Kaが低下されることに起因して荷重移動に伴う車体の姿勢変化が大きくなることを確実に防止することができる。尚この作用効果は後述の第二乃至第四の実施例に於いても同様に得られる。
また第一の実施例によれば、ストロークXの大きさが0又は所定のストロークXeに近づくにつれて減衰力修正制御量Faの大きさが小さくなり、ストロークXの大きさが0又は所定のストロークXeであるときには、減衰力修正制御量Faは0になる。よってストロークXの大きさが0又は所定のストロークXeに近づくにつれてショックアブソーバ16の制御段Sが漸次標準の制御段S0に近づき、ストロークXの大きさが0又は所定のストロークXeになると制御段Sが標準の制御段S0になる。
よってストロークXの大きさが減少して0になった後に増大する場合や、ストロークXの大きさが増大して所定のストロークXeになった後に減少する場合に、制御段Sは標準の制御段S0を経由して変化する。従って制御段Sがソフト側の制御段とハード側の制御段との間にて大きく段飛びすることを防止することができ、これによりショックアブソーバ16及びアクチュエータ26の耐久性を向上させることができる。尚この作用効果は後述の第二乃至第六の実施例に於いても同様に得られる。
[第二の実施例]
図7は本発明による車両の減衰力制御装置の第二の実施例に於ける減衰力制御ルーチンを示すフローチャートである。
この第二の実施例に於いては、ステップ110に於いて否定判別が行われると、ステップ130に於いてストロークXの絶対値が所定のストロークXeを越えているか否かの判別が行われる。肯定判別が行われたときにはステップ135に於いて目標減衰係数Ctが標準の減衰係数C0に設定された後ステップ170へ進み、否定判別が行われたときにはステップ150へ進む。
上述の第一の実施例に於いては、ストロークXの絶対値が所定のストロークXeを越えると、ストロークXの変化に伴って減衰力修正制御量Faが正から負又は負から正へ変化する。そのため見掛けのばね定数Kaが不自然に変化し、それに起因して車両の乗り心地性を必ずしも良好に向上させることができない場合がある。
この点について図8を参照して更に説明する。ストロークXがその絶対値が所定のストロークXeを通過して増減する場合には、目標減衰力Fdtはストローク速度Xdに対し例えば図8に於いて実線及び二点鎖線にて示されている如く変化する。しかし図8に於いて二点鎖線にて示された目標減衰力Fdtはショックアブソーバ16が発生することができない力である。そのため図8に於いて二点鎖線にて示された目標減衰力Fdtに対応する領域の減衰力Fdは、図8に於いて破線にて示されている如く、制御段Sを減衰係数Cが最小の制御段S1又は減衰係数Cが最大の制御段Snに制御することによって発生される。
この場合減衰力修正制御量Faが正から負又は負から正へ変化することに対応して、減衰力Fdはストローク速度Xdの大きさが大きい領域に於いて標準の減衰力C0Xdよりも低い値と標準の減衰力C0Xdよりも高い値との間に比較的急激に変化する。そのため図9に於いて実線にて示されている如く、ストロークXがその絶対値が所定のストロークXeを通過して増減する際に、見掛けのばね定数Kaがサスペンションスプリング14のばね定数K0よりも低い高い値とばね定数K0よりも低い値との間に急激に変化し、これに起因してジャークが発生する場合がある。
これに対し第二の実施例によれば、ストロークXの絶対値が所定のストロークXeを越えているときには、ステップ130に於いて肯定判別が行われるので、ステップ135に於いて目標減衰係数Ctが標準の減衰係数C0に設定される。
従ってストロークXがその絶対値が所定のストロークXeを通過して増減する場合には、目標減衰力Fdtはストローク速度Xdの変化に対し例えば図10に於いて実線にて示されている如く変化する。図10に示されている如く、ストロークXのバウンドストローク又はリバウンドストロークについて見ると、減衰力Fdはストローク速度Xdの大きさが大きい領域に於いては標準の減衰力C0Xdよりも低い値又は標準の減衰力C0Xdよりも高い値でのみ変化する。またストローク速度Xdの大きさが小さい領域に於いては、ストロークXのバウンドストローク又はリバウンドストロークの何れの場合にも、減衰力Fdは標準の減衰力C0Xdになる。
よってサスペンション荷重PはストロークXの変化に対し図11に於いて実線にて示されている如く変化する。図示の如くストロークXの大きさが所定のストロークXeよりも大きい範囲に於いては、見掛けのばね定数Kaは一点鎖線にて示されたサスペンションスプリング14のばね定数K0と同一になる。従ってストロークXがその絶対値が所定のストロークXeを通過して増減する際に、見掛けのばね定数Kaが急激に増減することを防止することができ、これにより第一の実施例の場合よりも車両の乗り心地性を良好に向上させることができる。
[第三の実施例]
図12は本発明による車両の減衰力制御装置の第三の実施例に於ける減衰力制御ルーチンを示すフローチャートである。
この第三の実施例に於いては、ステップ110に於いて否定判別が行われた場合に実行されるステップ150に於いて、現在のストロークXに基づき下記の式4に従って減衰力修正制御量Faが演算される。尚下記の式4に於いて、Aは図13に示されている如く見掛けのばね定数Kaの最大低減量を示す負の一定の係数である。またBは正の一定の係数である。
Fa=AXexp(−B|X|N) ……(4)
図13に示されている如く、ストロークXの大きさが大きい領域に於いては、ストロークXの大きさの増大につれて減衰力修正制御量Faの大きさが漸次0に近づくと共に、上記式4の曲線の傾きも漸次0に近づく。
従って上記式4の曲線の変曲点のうちストロークXの大きさが最も大きい変曲点Pp、PnのストロークXの大きさをXpとすると、ストロークXがその絶対値がXpを通過して増減する場合には、目標減衰力Fdtはストローク速度Xdに対し例えば図14に於いて実線にて示されている如く変化する。
よってサスペンション荷重PはストロークXの変化に対し図15に於いて実線にて示されている如く変化する。即ちストロークXの大きさがXpよりも小さい値からXpよりも大きい値に変化する際には、見掛けのばね定数Kaは漸次減少して一点鎖線にて示されたサスペンションスプリング14のばね定数K0に漸次近づき、ばね定数K0になる。また逆にストロークXの大きさがXpよりも大きい値からXpよりも小さい値に変化する際には、見掛けのばね定数Kaはサスペンションスプリング14のばね定数K0より漸次増大する。
従ってストロークXの大きさがストロークの大きさXpを通過して増減する際に、見掛けのばね定数Kaを穏やかに変化させることができ、これにより第二の実施例の場合よりも車両の乗り心地性を良好に向上させることができる。
尚上述の第一乃至第三の実施例に於いて、ストロークXがその絶対値が所定のストロークXe又はXpよりも小さい範囲にて増減する場合には、目標減衰力Fdtはストローク速度Xdに対し例えば図16に於いて実線及び二点鎖線にて示されている如く変化する。しかし図16に於いて二点鎖線にて示された目標減衰力Fdtはショックアブソーバ16が発生することができない力である。そのため図16に於いて二点鎖線にて示された目標減衰力Fdtに対応する領域の減衰力Fdは、図16に於いて破線にて示されている如く、減衰係数Cが最小の制御段S1又は減衰係数Cが最大の制御段Snに制御段Sを制御することによって発生される。
かかる状況に於いては、サスペンション荷重PはストロークXの変化に対し図17に於いて実線にて示されている如く変化する。よってこの場合にもストロークXの絶対値が小さい範囲に於いては、見掛けのばね定数Kaを一点鎖線にて示されたサスペンションスプリング14のばね定数K0よりも小さい値にすることができ、これにより車両の乗り心地性を向上させることができる。
[第四の実施例]
図18は本発明による車両の減衰力制御装置の第四の実施例に於ける減衰力制御ルーチンを示すフローチャートである。
この第四の実施例に於いては、ステップ110に於いて否定判別が行われた場合に実行されるステップ140に於いて、図19に示されたフローチャートに従って所定のストロークXeがばね上の共振周波数の振動成分の振幅の2分の1の値に演算される。
上記式4の曲線の変曲点のうちストロークXが最も大きい変曲点PpのストロークXpは下記の式5により表される。
よってステップ140の次に実行されるステップ145に於いては、上記式5のストロークXpに所定のストロークXeを代入することにより、係数Bが下記の式6の通り演算される。
図19に示されたフローチャートのステップ141に於いては、PSD(パワースペクトル密度)の演算に供されるストロークXの時間的範囲をTe時間として、Te時間前から現在までのストロークXのデータが記憶装置より読み込まれる。
ステップ142に於いては、ばね上の共振周波数f0の信号を通過させるバンドパスフィルタにてストロークXのデータが処理されると共に、バンドパスフィルタ処理されたストロークXのPSDが演算される。
ステップ143に於いては、パワーP0を演算する周波数範囲をΔfとして、f0−Δf/2よりf0+Δf/2までの周波数範囲についてストロークXのPSDの面積がパワーP0として演算される。
ステップ144に於いては下記の式7に従って所定のストロークXeがばね上の共振周波数f0に於けるばね上の振動振幅の2分の1の値に演算される。
この第四の実施例によれば、所定のストロークXeは予め設定された定数ではなく、図19に示されたフローチャートに従ってばね上の共振周波数f0に於けるストロークXの値に演算される。
そして図18に示されたフローチャートのステップ145に於いて係数Bが所定のストロークXeに応じて可変設定される。よって図20に示されている如く、所定のストロークXeの大きさの変動に拘らず、上記式4の曲線の変曲点のうちストロークXの大きさが最も大きい変曲点Pp、PnのストロークXの値がそれぞれ所定のストロークに対応するXe、−Xeに設定される。
従って第四の実施例によれば、見掛けのばね定数Kaは所定のストロークXeの大きさに応じてサスペンション荷重PはストロークXの変化に対し例えば図21に於いて実線、破線、一点鎖線にて示されている如く変化する。即ち所定のストロークXeの大きさの変動に拘らず、ストロークXの大きさが小さい範囲に於いては見掛けのばね定数Kaはサスペンションスプリング14のばね定数K0よりも小さい値になる。
また所定のストロークXeの大きさの変動に拘らず、見掛けのばね定数KaはストロークXの大きさが所定のストロークXeの大きさを通過して変動する際にサスペンションスプリング14のばね定数K0とそれよりも大きい値との間に徐々に変化する。
よって所定のストロークXeの大きさの変動に拘らず、ストロークXの変化に対し見掛けのばね定数Kaを良好に変化させることができ、これにより第一乃至第三の実施例の場合よりも車両の乗り心地性を良好に向上させることができる。
また図22に示されている如く、路面よりストロークXへの伝達関数のゲインは、1〜2Hzのばね上共振周波数f1及び10数Hzのばね下共振周波数f2に於いて高いが、車両の乗員はばね上共振周波数f1付近の振動に敏感である。よって車両の乗り心地性を向上させるためには、ばね上共振周波数f1に於ける振動伝達関数のゲインを低下させることが有効である。
上述の第四の実施例によれば、ばね上共振周波数f1に於ける見掛けのばね定数Kaを低下させることができるので、図22に於いて破線にて示されている如く、ばね上共振周波数域のゲインを低下させることができ、これにより第一乃至第三の実施例の場合に比して効果的に且つ確実に車両の乗り心地性を良好に向上させることができる。またばね上共振周波数f1以外の周波数に於ける見掛けのばね定数Kaを不必要に低下させないので、車両の旋回時や加減速時等に於いて見掛けのばね定数Kaが低いことに起因して車体の姿勢変化が大きくなって車両の操縦安定性が低下することを確実に回避することができる。
また上述の第一乃至第三の実施例に於いては、ストロークXがその絶対値が所定のストロークXe又はXpよりも小さい範囲にて増減する場合には、目標減衰力Fdtはストローク速度Xdに対し例えば図16に於いて実線及び二点鎖線にて示されている如く変化する。図示の如くストローク速度Xdが0を通過して正負の間に変化する際に、換言すればストロークXがその大きさが最大値を通過して変化する前後に於いて、減衰係数Cが最小の制御段S1と減衰係数Cが最大の制御段Snとの間に制御段Sが切り替えられなければならない。そのためショックアブソーバ16の耐久性が悪化し易い。
これに対し第四の実施例によれば、所定のストロークXeの大きさの変動に拘らず、ストロークXが0又はその大きさ最大値に近づくにつれて、減衰力修正制御量Faの大きさが漸次0に近づくので、制御段Sが切り替えをゆっくりと行うことができる。従って上述の第一乃至第三の実施例の場合に比して、ショックアブソーバ16の耐久性を向上させることができ、またアクチュエータ26による制御段Sの急激な切り替え作動に起因する騒音や発熱等の問題の発生の虞れを確実に低減することができる。
[第五の実施例]
図23は本発明による車両の減衰力制御装置の第五の実施例に於ける減衰力制御ルーチンを示すフローチャートである。
この第五の実施例に於いては、ステップ200及び300に於いてそれぞれ左前輪及び右前輪について上述の第四の実施例によるショックアブソーバ16の減衰力の制御が行われる。
この場合式4の係数A及び指数Nはそれぞれ前輪の係数Af及び指数Nfとされ、所定のストロークXeは図19に示されたフローチャートに従ってそれぞれ左前輪及び右前輪についての所定のストロークXefl、Xefrとして演算される。また式4の係数Bは式6のXeにそれぞれ所定のストロークXefl、Xefrが代入されることにより、それぞれ左前輪及び右前輪についてBfl、Bfrとして演算される。
ステップ300が完了すると、ステップ400に於いて左前輪及び右前輪の所定のストロークXefl、Xefrの平均値として前輪の所定のストロークXefが演算され、ステップ500に於いて左前輪及び右前輪の係数Bfl、Bfrの平均値として前輪の係数Bfが演算される。
見掛けのばね定数はサスペンションスプリング14のばね定数K0、ストロークX、係数A及びB、指数Nの関数f(K0,X,A,B,N)であり、減衰力修正制御量Faは上記式4により表されるので、見掛けのばね定数は下記の式8により表される。
f(K0,X,A,B,N)
=K0+Aexp(−BXN)−ABXNNexp(−BXN) ……(8)
よってステップ500の次に実行されるステップ600に於いては、式8により表される前輪及び後輪の見掛けのばね定数が互いに等しくなるときの後輪の係数Br、即ち下記の式9成立するときの後輪の係数Brが、後輪の係数Brの基準値Brbとして下記の式10に従って演算される。尚式10のLambertW(Z)は変数Zについて下記の式11を満たす関数である。
f(K0,Xf,Af,Bf,Nf)=f(K0,Xr,Ar,Br,Nr) ……(9)
LambertW(Z)・exp(LambertW(Z))=Z ……(11)
図24に示されている如く、後輪の見掛けのばね定数Kar=f(K0,Xr,Ar,Br,Nr)は後輪の係数Brが大きいほど大きくなり、後輪の係数Brが基準値Brbよりも大きいときには前輪の見掛けのばね定数Kaf=f(K0,Xf,Af,Bf,Nf)よりも大きくなる。
よってステップ600の次に実行されるステップ700に於いてはKaf>Karとするための値をBr0(正の定数)として、後輪の係数Brが基準値BrbよりBr0を減算した値に演算される。
ステップ800及び900に於いてはそれぞれ左後輪及び右後輪について上述の第四の実施例によるショックアブソーバ16の減衰力の制御が行われる。
この場合式4の係数A及び指数Nはそれぞれ後輪の係数Ar及び指数Nrとされ、係数Bはステップ700に於いて演算されたBrに設定される。また所定のストロークXeは図19に示されたフローチャートに従ってそれぞれ左後輪及び右後輪についての所定のストロークXerl、Xerrとして演算される。
図21のグラフの傾きである見掛けのばね定数Kaは、ストロークXの変化に対し図25に示されている如く変化する。特に見掛けのばね定数Kaは、ストロークXの絶対値が大きい領域に於いてサスペンションスプリング14のばね定数K0よりも大きくなり、ストロークXの絶対値が更に大きい領域に於いてはストロークXの絶対値が増大するにつれて漸次低下しサスペンションスプリング14のばね定数K0に近づく。
上記ストロークXの変化に対する見掛けのばね定数Kaの変化は、前輪のみならず後輪に於いても生じる。そのため図26に示されている如く、前輪及び後輪に於けるストロークXの変化に対する見掛けのばね定数Kaの変化によっては、後輪の見掛けのばね定数Karが前輪の見掛けのばね定数Kafよりも大きくなることがある。
後輪の見掛けのばね定数Karが前輪の見掛けのばね定数Kafよりも大きくなると、後輪のロール剛性配分が前輪のロール剛性配分よりも高くなる。そのため車両が高い旋回横力を受け車両横方向の荷重移動が大きくなるような旋回運動をする際に、旋回外側後輪の横力が飽和し易くなるので、車両がスピン状態になる虞れがある。
これに対し第五の実施例によれば、ステップ500〜700に於いて後輪の見掛けのばね定数Karが前輪の見掛けのばね定数Kafよりも小さくなるよう後輪の係数Brが演算される。従って後輪のロール剛性配分が前輪のロール剛性配分よりも高くなることを確実に防止することができ、これにより車両が高い旋回横力を受けるような旋回運動をする場合にも車両の運動が不安定になることを効果的に防止することができる。
尚上述の第一乃至第五の実施例によれば、車両が旋回状態又は加減速状態にあるときにはステップ110に於いて肯定判別が行われ、ステップ120に於いて目標減衰係数Ctが予め設定された高い目標減衰係数Chに設定され、減衰力の制御による見掛けのばね定数の低下は行われない。
従って車両が旋回状態又は加減速状態にあるか否かに関係なく減衰力の制御による見掛けのばね定数の低下が行われる場合に比して、旋回又は加減速時の荷重移動に起因して生じる車体の姿勢変化、即ちロールやピッチングを確実に低減することができる。
[第六の実施例]
図27は本発明による車両の減衰力制御装置の第六の実施例に於ける減衰力制御ルーチンを示すフローチャートである。
この第六の実施例に於いては、上述の第一乃至第五の実施例に於いて実行されるステップ110及び120は実行されず、ステップ115に於いて下記の式12に従って上記式4の係数Aが演算される。
尚上記式12に於いて、K1及びK2はそれぞれ正の定数であり、A0は上記式4の係数Aの標準値(負の定数)であり、θd及びGxdはそれぞれ操舵角θ及び車両の前後加速度Gxの時間微分値、即ち操舵角速度及び車両の前後加加速度である。
ステップ115が完了すると、ステップ140へ進み、ステップ150に於ける減衰力修正制御量Faの演算に於いてステップ115にて演算された係数Aが使用される点を除き、ステップ140〜180による減衰力の制御による見掛けのばね定数の低下制御が上述の第四の実施例の場合と同様に実行される。
この第六の実施例によれば、上記式4の係数Aは予め設定された定数ではなく、操舵角速度θd若しくは車両の前後加加速度Gxdの大きさが大きいほど小さくなるよう、操舵角速度θd若しくは車両の前後加加速度Gxdの大きさに応じて可変設定される。従って定常的な旋回や加減速が行われる場合の車両の良好な乗り心地性を確保しつつ、過渡的な旋回や加減速が行われる場合に車両の乗員が感じ易い車体の姿勢変化を効果的に抑制することができる。
またこの第六の実施例によれば、ステップ140〜180による減衰力の制御による見掛けのばね定数の低下制御が上述の第四の実施例の場合と同様に実行されるので、第四の実施例の作用効果と同様の作用効果を得ることができる。
尚操舵角速度θdは車両横方向の荷重移動量の変化の度合を示す指標値である。よって操舵角速度θdは車両横方向の荷重移動量の変化の度合を示す他の指標値、例えば車両の横加加速度や車両のヨーレートと車速との積の変化率に置き換えられてもよい。同様に車両の前後加加速度Gxdは車両前後方向の荷重移動量の変化の度合を示す指標値である。よって車両の前後加加速度Gxdは車両前後方向の荷重移動量の変化の度合を示す他の指標値、例えば運転者の加減速操作量の変化率に置き換えられてもよい。
以上に於いては本発明を特定の実施例について詳細に説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施例が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
例えば上述の第一乃至第五の実施例に於ける係数A及び第六の実施例に於ける係数Aの標準値A0は負の定数であるが、一般に車速が高いほど路面の凹凸が少なく車両の操縦安定性が高いことが重要になるので、係数A及び標準値A0は車速が高いほど小さくなるよう車速に応じて可変設定されるよう修正されてよい。
また上述の第一乃至第五の実施例に於いては、ステップ110及び120により、車両が旋回中又は加減速中であるときには、減衰力の修正制御による見掛けのばね定数の低下制御が実行されることなく、目標減衰係数Ctが予め設定された高い目標減衰係数Chに設定されるようになっているが、ステップ110及び120は省略されてもよい。
特に第一及び第二の実施例に於いてステップ110及び120が省略される場合には、上記式1の係数Aが第六の実施例に於ける係数Aと同様に車両横方向の荷重移動量の変化の度合を示す指標値及び車両前後方向の荷重移動量の変化の度合を示す指標値に基づいて可変設定されることが好ましい。
また上述の第五の実施例に於いては、後輪の見掛けのばね定数Karが前輪の見掛けのばね定数Kafよりも小さくなるよう後輪の減衰力の修正制御が行われるようになっているが、上述の第五の実施例以外の実施例に於いても、後輪の見掛けのばね定数Karが前輪の見掛けのばね定数Kafよりも小さくなるよう後輪の減衰力の修正制御が行われるよう修正されてもよい。
また上述の第五の実施例に於いては、前輪の見掛けのばね定数Kafを後輪の見掛けのばね定数Karよりも大きくするための値Br0は正の定数である。しかし後輪のロール剛性が全輪のロール豪勢よりも高いことに起因して車両が不安定になる虞れは、車両の旋回横力が高いほど大きくなる。よってBr0は例えば車両の横加速度の絶対値の如き車両横方向の荷重移動量を示す指標値が高いほど大きくなるよう車両横方向の荷重移動量を示す指標値に応じて可変設定されるよう修正されてもよい。
また上述の第六の実施例に於いては、係数Aが式12に従って演算されることにより車両横方向の荷重移動量の変化の度合を示す他の指標値及び車両前後方向の荷重移動量の変化の度合を示す指標値に応じて可変設定されるようになっている。しかし車両横方向の荷重移動量の変化の度合を示す他の指標値及び車両前後方向の荷重移動量の変化の度合を示す指標値の何れか一方が省略されてもよい。また式12の係数K1及びK2fそれぞれ正の定数であるが、車速が高いほど大きくなるよう車速に応じて可変設定されるよう修正されてもよい。