JP2010203973A - 表面増強ラマン散乱の測定方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】再現性の高いSERS活性の測定方法を提案し、安定な測定を可能にする。
【解決手段】少なくとも1種の表面増強ラマン活性機能を有する金属ナノ粒子のコロイド溶液を、コロイド金属の金属電極電位より高い電極電位を有するまたは設定される基板上に被検出試料を含む金属ナノ粒子コロイド溶液を滴下し、金属ナノ粒子の基板上での凝集過程で金属ナノ粒子表面に吸着させた分子に所定のレーザ光を照射し吸着分子から発生するラマン散乱光を測定することを特徴とする。
【選択図】図2
【解決手段】少なくとも1種の表面増強ラマン活性機能を有する金属ナノ粒子のコロイド溶液を、コロイド金属の金属電極電位より高い電極電位を有するまたは設定される基板上に被検出試料を含む金属ナノ粒子コロイド溶液を滴下し、金属ナノ粒子の基板上での凝集過程で金属ナノ粒子表面に吸着させた分子に所定のレーザ光を照射し吸着分子から発生するラマン散乱光を測定することを特徴とする。
【選択図】図2
Description
本発明は、環境用や医療用等の測定に用いるのに好適な、再現性の高い表面増強ラマン散乱(以下、SERSと略す)の測定方法に関する。
近年、ライフサイエンスを中心とするバイオの分野において、細胞上の単一分子(例えばタンパク質)の計測を行い、病気のメカニズムや生命現象を解明したいという需要が高まってきている。それらの需要を満たすためには、細胞を生きたまま、非標識で観察可能な超高感度分析技術が必要不可欠となっている。
現在、バイオの分野の検出法として、主に蛍光や吸光による検出が使用されている。しかし、蛍光検出法は、蛍光物質を細胞に標識させる必要があることや、蛍光退色によりすぐ蛍光強度が低下してしまい、定常的な高感度検出が不可能であることなど様々な問題点がある。また、吸光検出法においても、検出感度が検体を通過する光路長に依存するため、微細な検体を検出する場合は高感度検出が不可能であるなどの問題点がある。さらに、これらの検出法は共にノイズが大きな可視光領域を中心に行う手法であるため、大きな光強度のシグナルが得られたとしても、検出感度の指標となるシグナルとノイズのコントラスト(S/N比)は小さくなってしまう。そのため、これらの検出法は高感度検出法としての限界が感じられており、超高感度検出を行うためには新たな高感度検出技術の発展が必要不可欠である。
現在、バイオの分野の検出法として、主に蛍光や吸光による検出が使用されている。しかし、蛍光検出法は、蛍光物質を細胞に標識させる必要があることや、蛍光退色によりすぐ蛍光強度が低下してしまい、定常的な高感度検出が不可能であることなど様々な問題点がある。また、吸光検出法においても、検出感度が検体を通過する光路長に依存するため、微細な検体を検出する場合は高感度検出が不可能であるなどの問題点がある。さらに、これらの検出法は共にノイズが大きな可視光領域を中心に行う手法であるため、大きな光強度のシグナルが得られたとしても、検出感度の指標となるシグナルとノイズのコントラスト(S/N比)は小さくなってしまう。そのため、これらの検出法は高感度検出法としての限界が感じられており、超高感度検出を行うためには新たな高感度検出技術の発展が必要不可欠である。
そこで、入射光が分子に当たると、その分子固有のエネルギー状態を反映した光に変調される現象を利用して、スペクトルから化学種を同定し、その散乱光強度から目的物質の定量を行うラマン分光法が知られている。しかしながら、ラマン分光法の感度は本質的に低いため、微少量の試料分析には適していない。他方、金属ナノ粒子(主に金と銀)と光との相互作用に起因する表面プラズモンの設計・制御・応用技術を研究するプラズモニクスという分野が注目されている。プラズモンとは金属の表面に存在する自由電子が集合的に振動する現象であり、金属ナノ粒子のプラズモンにおいては、プラズモンが金属表面に存在するので表面プラズモンと呼ばれている。この表面プラズモンは可視〜近赤外領域の光電場とカップリングさせることによって、金属ナノ粒子表面において著しく電場を増強させる特徴を持っている。この現象のことを表面プラズモン共鳴(Surface Plsdmon Resonance:SPR)と呼び、この現象は近年、超高感度検出には欠かせない技術となってきている。そのため、ラマン分光法においても、金属ナノ粒子表面に吸着させた分子にレーザ光を照射し吸着分子から発生するラマン散乱光を飛躍的に増強させる方法で、表面プラズモン共鳴を利用するようになってきた。この増強されたラマン散乱光を用いた分析法は表面増強ラマン分光法と呼ばれ、その一つとして金、銀等の貴金属電極やコロイドの表面に物質を吸着させ、分子単独に比べ振動スペクトルが増強されることを利用したSERS測定が行われている(特許文献1)。
このSERS測定は、微量物質の構造解析に有用な手法である。SERS活性の高い基板を作成するためには、数十〜数百nm程度の大きさを持った銀や金等の貴金属の微粒子を基板上に蓄積する必要があるといわれ、従来は溶液中で銀あるいは金のコロイド粒子を合成し、リジンやシアンで修飾した基板上に固定する必要があり(非特許文献1、2、3、特許文献2)。特に、特許文献2には、凝集防止をしたコロイドをゲル化し、塗布乾燥して基板とすることが提案されている。
S.Nie andS.R.Emory,Science.275,1102(1997)
K.C.Grabar,P.C.Smith,M.D.Musick,J.A.Davis,D.G.Walter,M.A.Jackson,A.P.Guthrie andM.J.Natan,J.Am.Chem,Soc.,118,1148(1996)
R.M.Bright,M.D.Musick and M.H.Natan,Langmuir,14,5695(1998)
しかしながら、測定環境の最適化が実現されてないためか測定に時間を要し、また測定結果の再現性に欠けるなどの問題があり、環境汚染物質のモニタリングや、呼気中に含まれる微量成分の検出による病気の診断等、気相中の極微量の化学種の分析を行うには未だ不十分である。
なぜなら、従来のSERS活性物質においては、分析対象を加えるタイミングや測定環境、活性、安定性、活性領域の大きさ等の制御が困難であった。特に、活性が大きく、報告例の多いコロイドは、測定対象分子を多く加え過ぎると沈殿して活性を失うため、作成に技術が必要である。例えば、銀のコロイド粒子は溶液中では強い活性を持つが、乾燥させるとコロイド粒子の大きさが変化して、活性が下がってしまう。従って、水に溶けない物質や、水に対して不安定な物質の測定は難しい。又、金のコロイド粒子は、大気中でも安定であるが、銀と比べて元々のSERS活性が低い上に、基板の上に固定できる密度が非常に小さい。又、コロイド粒子は正電荷を持っているため、正電荷を持った化学種は接近し難いと報告されている。
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、表面プラズモン共鳴による電場増強効果が顕著に発生する場所(ホットサイト)は主に近接した金属ナノ粒子の粒子間やエッジ形状の先端などで顕著に発生しているとの知見に基づき検討した。その結果、かかるホットサイトとなる金属ナノ粒子の凝集形態やナノサイズの金属エッジ形状構造体を如何に安定的にコントロールしながら測定を行うかということが必要不可欠であることに着目し、気相中及び液相中の両方においてホットサイトの形成をコントロールしながら測定することができる測定方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、銀ナノコロイド溶液がそのコロイド金属と同じ金属銀基板からより卑なる電極電位を有する基板、銅及び黄銅基板上で凝集を開始し始めるとき、その凝集速度が主として基板のイオン化傾向(電極電位)が大きくなるに従って凝集速度が大きくなることに着目し、鋭意研究の結果、基板のコロイド溶液中での電極電位とコロイド溶液中の分散又は凝集防止作用との相互作用により凝集作用の影響を受けるためか、コロイド溶液と凝集基板の関係を特定することにより単位面積の表面プラズモン共鳴の発生するホットサイトを最適化できることを見出した。すなわち、本発明は、少なくとも1種の表面増強ラマン活性機能を有する金属ナノ粒子のコロイド溶液を、コロイド金属の金属電極電位より高い電極電位を有するまたは設定される基板上に被検出試料を含む金属ナノ粒子コロイド溶液を滴下し、金属ナノ粒子の基板上での凝集過程で金属ナノ粒子表面に吸着させた分子に所定のレーザ光を照射し吸着分子から発生するラマン散乱光を測定する(湿式法)か、あるいは少なくとも1種の表面増強ラマン活性機能を有する金属ナノ粒子のコロイド溶液を、コロイド金属の金属電極電位より高い電極電位を有するまたは高い電極電位に設定される基板上で凝集開始後適時凝集停止させ、該金属ナノ粒子凝集域に被検出試料を付着させ、金属ナノ粒子表面に吸着させた分子に所定のレーザ光を照射し吸着分子から発生するラマン散乱光を測定する(乾式法)かにある。
本発明によれば、金属ナノコロイド溶液からの凝集過程で金属ナノ粒子は金属基板上に電着するためか付着強度が強固で凝集過程でコロイド溶液を拭い去っても少なくとも基板上に単一原子膜が形成され、この凝集膜は容易に剥離せず、その時点で凝集はほぼ停止させることができる。したがって、金属コロイド溶液に被検出試料を分散させ、これを金属基板上に滴下凝集させつつレーザ光を照射すると、ホットサイトの形成の最適時に最大の表面増強ラマン光を検出することができ、湿式法でラマン散乱光を測定することができる。他方、金属コロイド溶液のみを金属基板上に滴下し適時凝集過程で拭い去って乾燥させると、ラマン散乱光検出に有効な金属ナノ粒子のホットサイトのための凝集域を形成することができ、これに被検出溶液を滴下することにより最適化されたラマン散乱光の乾式測定が可能となる。
本発明の測定に必要な金属ナノ粒子の凝集は溶液中に分散している金属ナノ粒子がコロイド溶液と接する金属基板との間の電極電位による作用によりコロイド溶液中の分散力に打ち勝って凝集が起こるものと思われる。なぜなら、本発明に係る金属ナノ粒子の凝集は基板がSi、PMMA等のプラスチック板、ガラス基板上では起こらず、金属特有の性質に起因するものであると考えられるからである。
本発明において使用される金属ナノ粒子は表面増強ラマン活性機能を有する金属ナノ粒子である金、銀、銅及びその合金からなる群より選ばれるが、特に銀及び金、並びにその合金が好ましい。
他方、上記金属基板は金属ナノ粒子の種類によって決定され、それより電極電位が卑になるように金、銀、銅およびその合金から選ばれる。基板全体が全て金属である必要はなく、少なくともコロイド溶液中で電位を示す金属表面を有すればよい。金属基板の電位は金合金、銀合金、銅合金など合金化技術を使用し、その組成比を調整することにより調製することができる。また、適度の電圧を負荷して調整することもできる。なお、凝集の速度は検出のタイミング、凝集の程度は粒子間距離に影響を与えるので重要である。なぜなら、40nm径の金粒子の2連球での実験によれば、表面プラズモン同士による共鳴現象が粒子間隔10nm以下で起こり、1nmまでの間隔の減少により増大し得るからである。また、銀コロイドの凝集では時間とともに検出感度が増大し、その後減少することから凝集が始まってから完全に凝集し終わるまでの過渡期に表面プラズモン同士による共鳴現象による最適凝集間隔が現れ、検出ピークが現れるからである。
前記金属ナノ粒子は通常表面増強ラマンで使用するのに有効であるといわれる粒子径よりも小さいのが好ましく、50〜5nmが通常使用されるが、20〜5nmのナノ粒子が最適である。銀ナノ粒子の2連球では粒子径が大きくなるに従ってピークの位置が高くなる現象も見られるが、単位面積当たりのホットサイト数を粒子間やエッジ形状の先端を形成する意味では粒子径の小さい方が有利であると考えられるからである。また、ナノ粒子の形状は通常球形状であるが、粒子寸法に応じて結果的に単位面積当たりのホットサイト数を増大させることができるように変形させることが可能である。
前記金属ナノ粒子コロイド溶液は通常各種分散剤が利用できるが、被検出試料のノイズを形成しないように選択する必要がある。タンパクコロイド溶液も被検出試料を阻害しない限り有効である。分散剤濃度等の凝集防止効果はコロイド金属、金属基板の電極電位との関係を考慮して最適検出タイミングを設定することができるように考慮すべきである。
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本実施形態においては、真空蒸発法で作成された清浄な平均粒径10nmの銀ナノ粒子を、タンパク系分散剤を含む水溶液中に分散させ、1000ppm及び100ppmの銀ナノコロイド溶液(無色透明)を作成する。表面清浄な銀基板、銅板および黄銅基板上に、1滴(10μl)ずつ間隔を置いて滴下し、その凝集過程を観察した。銀基板の上ではほぼ凝集に1夜要したのに対し、銅基板上では数分から、黄銅基板上では数十秒から数分で黒い堆積物が形成された。ここでは凝集の停止は滴下後6分と7分に窒素ブローして水滴を飛散乾燥させることにより行われた。このようにして作成した6分凝集と7分凝集の黄銅基板上での堆積域に4,4‘-ビピリジンを1μM、100nMに純水で希釈して滴下し、株式会社ラマダビジョン測定器を用い、最大出力で波長のレーザを励起光として用いてSERSスペクトルを測定した。
その結果を図1から図4に示す。図1は6分間凝集の基板上に純水を滴下した場合のスペクトルである。図2は7分間凝集の基板上に4,4‘-ビピリジン1mMを滴下したときのSERSスペクトル図を示す。図3及び図4は6分凝集と7分間凝集の基板上に4,4‘-ビピリジン1nMを滴下したときのSERSスペクトル図を示す。
図1と図2〜図4のスペクトルを比較すると、1μM及び100nMの濃度の試料の測定が可能であることがわかる。そして、図3と図4の比較から6分凝集が7分凝集より優れ、最適凝集時間が存在することが理解できる。
かかる乾式法によれば、レーザ光の焦点合わせを完了させておけば、基板上の凝集域に所定の試料を滴化することにより4,4‘−ビピリジンの100nMSERSスペクトルを瞬時に検出できたことは画期的である。
したがって、本発明は、気相中に存在する極微量の分子あるいはクラスタの構造解析に用いて、環境汚染物質のモニタリングや、呼気中に含まれる微量成分の検出による病気の診断等を行う測定基板およびそれに用いるコロイド溶液を提供することができる。
Claims (6)
- 少なくとも1種の表面増強ラマン活性機能を有する金属ナノ粒子のコロイド溶液を、コロイド金属の金属電極電位より高い電極電位を有するまたは設定される基板上に被検出試料を含む金属ナノ粒子コロイド溶液を滴下し、金属ナノ粒子の基板上での凝集過程で金属ナノ粒子表面に吸着させた分子に所定のレーザ光を照射し吸着分子から発生するラマン散乱光を測定することを特徴とする表面増強ラマン散乱光の湿式測定方法。
- 少なくとも1種の表面増強ラマン活性機能を有する金属ナノ粒子のコロイド溶液を、コロイド金属の金属電極電位より高い電極電位を有するまたは高い電極電位に設定される基板上で凝集開始後適時凝集停止させ、該金属ナノ粒子凝集域に被検出試料を付着させ、金属ナノ粒子表面に吸着させた分子に所定のレーザ光を照射し吸着分子から発生するラマン散乱光を測定することを特徴とする表面増強ラマン散乱光の乾式測定方法。
- 前記金属ナノ粒子が金、銀及びその合金からなる群より選ばれる請求項1又は2に記載の測定方法。
- 前記基板が金、銀、銅およびその合金からなる群より選ばれる金属表面を有する請求項1又は2に記載の測定方法。
- 前記金属ナノ粒子が50〜5nmのナノ粒子であることを特徴とする請求項1に記載の測定方法。
- 前記金属ナノ粒子が20〜5nmのナノ粒子であることを特徴とする請求項4に記載の測定方法。
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