しかしながら、発明者は、上記機関においてもアルコール混合燃料を適切に微粒化することができない場合が生じ、同機関の始動性能等を改善できない場合があることを見出した。以下、この点について述べる。
上述した従来の機関に用いられる「可変バルブタイミング制御装置」の一例として、吸気弁及び排気弁の開閉時期を調整する部材を油圧によって駆動する「油圧式可変バルブタイミング制御装置」を挙げることができる(例えば、特開2007−303423号公報を参照。)。この油圧式可変バルブタイミング制御装置は、吸気弁を開閉作動させる吸気カムシャフト、この吸気カムシャフトの端部に設けられた吸気タイミング変更機構、排気弁を開閉作動させる排気カムシャフト、及び、この排気カムシャフトの端部に設けられた排気タイミング変更機構を備えている。
上記吸気タイミング変更機構は、作動油の給排によって吸気カムシャフトの位相を所望の角度だけ進角及び遅角させることができる機構である。この吸気カムシャフトの位相の進角及び遅角に伴い、吸気弁の開閉時期も同様の角度だけ進角及び遅角する。この作動油は、吸気タイミング変更機構の外部に設けられた油圧ポンプ及び作動油供給制御弁により、吸気タイミング変更機構に給排される。上記排気タイミング変更機構も上述した吸気タイミング変更機構と同様の構造を有しており、排気弁の開閉時期を所望の角度だけ進角及び遅角させることができるようになっている。即ち、上述した「油圧式可変バルブタイミング制御装置」は、吸気タイミング変更機構及び排気タイミング変更機構に対する作動油の給排により、吸気弁及び排気弁の開閉時期を調整している。
上記従来の機関は、先ず、機関の運転状態に基づいて吸気弁及び排気弁の開閉時期にそれぞれ対応する目標時期を決定する。次いで、従来の機関は、吸気弁及び排気弁の実際の開閉時期がそれぞれに対応する目標時期に一致するように吸気タイミング変更機構及び排気タイミング変更機構に対する作動油の給排を実行する。
ところが、「吸気タイミング変更機構及び排気タイミング変更機構に対して作動油の給排が実行され始めた時点」から「吸気カムシャフト及び排気カムシャフトが所定の位置(上記目標時期に対応する回転位置)に到達する時点」までには、作動油の粘性、油圧ポンプの出力及び各部材間の摩擦抵抗力等に応じた時間を要する。即ち、吸気弁及び排気弁の実際の開閉時期がそれぞれに対応する目標時期に到達するには、時間を要する。
一方、上述した従来の機関に用いられる「可変バルブタイミング制御装置」の他の一例として、吸気弁及び排気弁の開閉時期を調整する部材を電動機によって駆動する「電動式可変バルブタイミング制御装置」を挙げることもできる(例えば、特開2004−150397号公報を参照。)。この電動式可変バルブタイミング制御装置は、吸気カムシャフト及び排気カムシャフトの位相を電動機及び複数の歯車を用いて進角及び遅角させる点において、上述した油圧式可変バルブタイミング制御装置と相違している。ただし、この「電動式可変バルブタイミング制御装置」を用いたとしても、吸気弁及び排気弁の実際の開閉時期がそれぞれに対応する目標時期に到達するには、歯車の慣性モーメント、電動機の出力及び各部材間の摩擦抵抗力等に応じた時間を要する。以下、「吸気弁の実際の開弁時期がその目標開弁時期に到達するまでの機関」及び「排気弁の実際の閉弁時期がその目標閉弁時期に到達するまでの期間」を「応答遅れ期間」と総称する。
ところで、上述したように、上記従来の機関は、可変バルブタイミング制御装置を用いて吸気弁の開弁時期及び/又は排気弁の閉弁時期を調整することにより、冷間始動時におけるアルコール混合燃料の微粒化を促進するようになっている。しかしながら、上述した「応答遅れ期間」においては、吸気弁及び排気弁の開閉時期が十分に調整されていないので、アルコール混合燃料が予定される程度にまで微粒化されない(即ち、上述したように、混合気に含まれる燃料の量が小さくなる。)。そのため、応答遅れ期間中、混合気に対して点火がなされても混合気が燃焼しない場合がある。換言すると、応答遅れ期間が実質的に経過するまで機関の始動が遅れ、機関を始動(特に、冷間始動)するために必要な時間が長くなる場合が生じる。
更に、上述したように、応答遅れ期間中に燃焼しなかった混合気(未燃混合気)は、排気行程において機関の排気通路へと排出される。そのため、機関が始動する(即ち、燃焼が開始する)までの間、排気通路へと未燃混合気が排出され続ける。この結果、機関が始動するまでの間、機関の作動に貢献しない燃料(以下、「無効燃料」とも称呼する。)が消費されるという問題もある。この無効燃料の量は、機関を始動するために必要な時間が長くなるほど大きくなる。
本発明は、上記課題に対処するためになされたものである。即ち、本発明の目的は、例えば、低温環境下において微粒化し難い燃料成分(例えば、アルコール等)を含む燃料を用いた場合であっても早期に機関を始動することができ、その結果として無効燃料の消費量を低減することができる内燃機関の制御装置を提供することにある。
上記目標を達成するための本発明による内燃機関の制御装置は、吸気通路内に燃料を噴射する燃料噴射手段を備えた機関に適用され、燃料噴射量決定手段と、バルブタイミング制御手段と、微粒化指標値取得手段と、バルブタイミング決定手段と、を備える。
前記燃料噴射量決定手段は、
「前記燃料噴射手段から噴射される燃料の基礎となる量」である「基礎燃料量」を、「前記機関の運転状態を表す第1の運転パラメータ」に基づいて決定するようになっている。
第1の運転パラメータは、機関の現時点における運転状態を表すパラメータであり、例えば、「冷却水温、吸気温度、機関負荷(吸入空気流量、機関回転速度、負荷率、筒内吸入空気量、スロットル弁開度及びアクセルペダル操作量等)、機関を搭載した車両の速度(車速)、並びに、その車両に搭載された変速装置のシフト位置等」のうちの少なくとも一つを含む。更に、第1の運転パラメータは、前記機関に使用されている燃料の少なくとも一つの成分の含有割合(例えば、アルコール濃度)を含んでいてもよい。
例えば、前記燃料噴射量決定手段は、冷却水温、車速及びシフト位置等から目標空燃比を定め、筒内吸入空気量と目標空燃比とから基礎燃料量を決定する。アルコール濃度により理論空燃比の値が変化するから、前記燃料噴射量決定手段は、第1の運転パラメータとしてアルコール濃度を取得していれば、そのアルコール濃度にも応じて基礎燃料量を決定するように構成され得る。
前記バルブタイミング制御手段は、
前記機関の吸気弁の開弁時期及び前記機関の排気弁の閉弁時期のうちの少なくとも一方である弁開閉時期を目標弁開閉時期に一致させるように制御するようになっている。
即ち、前記バルブタイミング制御手段は、吸気弁開弁時期及び排気弁閉弁時期のうちの少なくとも一方を変更(調整・制御)することができる。前記バルブタイミング制御手段は、上記油圧式可変バルブタイミング制御装置であってもよく、上記電動式可変バルブタイミング制御装置であってもよい。
前記バルブタイミング制御手段が吸気弁開弁時期を制御することができ且つ排気弁閉弁時期を制御することができない構成を備える場合、前記弁開閉時期は「吸気弁開弁時期」を意味し、前記目標弁開閉時期は「吸気弁開弁時期の目標時期」を意味する。
前記バルブタイミング制御手段が排気弁閉弁時期を制御することができ且つ吸気弁開弁時期を制御することができない構成を備える場合、前記弁開閉時期は「排気弁閉弁時期」を意味し、前記目標弁開閉時期は「排気弁閉弁時期の目標時期」を意味する。
更に、前記バルブタイミング制御手段が吸気弁開弁時期及び排気弁閉弁時期の双方を制御することができる構成を備える場合、前記弁開閉時期は「吸気弁開弁時期及び排気弁閉弁時期」の双方を意味し、前記目標弁開閉時期は「吸気弁開弁時期の目標時期及び排気弁閉弁時期の目標時期」の双方を意味する。
前記微粒化指標値取得手段は、
「前記機関の運転状態を表す第2の運転パラメータ」に基づいて、「前記燃料噴射手段から噴射される燃料の微粒化のし易さの程度」を表す「微粒化指標値」を取得するようになっている。「燃料の微粒化のし易さの程度」は、燃料そのものの性状(例えば、揮発性)のみでなく、燃料を微粒子化する程度を決定する機関の運転状態(例えば、吸気通路の壁面の温度を表す冷却水温及び吸気温度等)によっても変化する。
従って、第2の運転パラメータは、「前記機関の現時点における運転状態を表すパラメータ」及び/又は「前記機関に使用されている燃料の少なくとも一つの成分の含有割合」を含む。特に、第2の運転パラメータは「燃料の微粒化のし易さの程度」に大きな影響を与えるパラメータのうちの一つを含むことが好ましい。即ち、第2の運転パラメータは、前記運転状態を表すパラメータとしての「冷却水温及び/又は吸気温度」と、前記燃料の少なくとも一つの成分の含有割合としての「揮発性がガソリンに比べて良好でないアルコールの濃度(例えば、エタノール濃度)」と、を含むことが望ましい。
前記バルブタイミング決定手段は、
排気行程の開始時期に前記機関の燃焼室内に存在するガスの少なくとも一部が同燃焼室から前記吸気通路に吹き返されるように前記目標弁開閉時期を決定するようになっている。換言すると、前記バルブタイミング決定手段は、実際の弁開閉時期が目標弁開閉時期に一致している場合、燃焼室から吸気通路へとガスが吹き返され、その吹き返されたガスによって燃料が微粒化させられるように、その目標弁開閉時期を決定する。
この「吹き返されるガス及びそのガスによる燃料の微粒化」について、具体例を挙げて説明する。
(1)負のバルブオーバーラップ期間が設けられる場合
例えば、図3の(a)に示したように、排気行程において開弁していた排気弁が吸気上死点よりも前の排気弁閉弁時期EXcにて閉じると、その後、図4の(a)及び(b)に示したように、排気行程の開始時に燃焼室25内に存在していたガスの一部であって燃焼室25内に残存しているガス(排気通路へと排出されなかったガス)が燃焼室25内にて圧縮される。
次いで、図3の(a)に示したように、吸気弁が吸気上死点より前の吸気弁開弁時期INoにて開くと、図4の(c)に示したように、燃焼室25内において圧縮されることにより「吸気通路INP内のガスの圧力よりも高圧且つ高温となっているガス」が燃焼室25から吸気通路INPへと高い流速をもって吹き返される。
この場合、吸気通路INPに設けられている燃料噴射装置39から上記「吹き返されるガス」に向かって燃料を噴射すると、その噴射された燃料は「吹き返されるガス」により飛散・攪拌され、且つ、加熱される。その結果、燃料の微粒化が促進される。
一方、燃料が、上記「吹き返されるガス」が発生する前の時点において燃料噴射装置39から吸気通路INPに噴射されると、その燃料の一部は微粒化することなく吸気通路INPの壁面及び吸気弁の背面等に付着する。そして、その微粒化していない燃料は、上記「吹き返されるガス」により飛散し(吹き飛ばされ)且つ加熱される。その結果、燃料の微粒化が促進される。なお、この場合における排気弁閉弁時期EXcから吸気弁開弁時期INoまでの期間が「負のオーバーラップ期間」である。
以上から明らかなように、前記バルブタイミング決定手段は、目標弁開閉時期を「負のオーバーラップ期間が生じ、且つ、その負のオーバーラップ期間の終了後において燃焼室25から吸気通路INPに吹き返されるガスが発生することにより、吸気通路INP内における燃料の微粒化が発生する(微粒化が促進される)ような時期」に決定することができる。なお、この場合の吸気弁開弁時期INoは、燃焼室25内のガスの圧力が吸気通路INP内のガスの圧力よりも高い時期であれば、吸気上死点後であってもよい。更に、吸気通路INPに吹き返されるガスが燃料を微粒化し得る程度(微粒化能力)は、「その吹き返されるガスの流速、温度及び総量(特に、流速が支配的であると考えられる。)により変化する。
(2)正のバルブオーバーラップ期間が設けられる場合
図5の(a)に示したように、排気行程において排気弁が開き且つ吸気弁が閉じている期間においては、燃焼室25内のガスが排気通路EXPに排出される。その後、図3の(b)及び図5の(b)に示したように、排気弁が依然として開いている期間内の所定の時期である吸気弁開弁時期INoにて吸気弁が開くと、図5の(c)に示したように、排気行程の開始時に燃焼室25内に存在していたガスの一部であって燃焼室25内に残存しているガス(排気通路EXPへと排出されなかったガス)が吸気通路INPへも押し出される。即ち、この場合にも「燃焼室25から吸気通路INPへと吹き返されるガス」が発生する。
従って、この場合においても、吸気通路に設けられている燃料噴射装置39から上記「吹き返されるガス」に向かって燃料を噴射すると、その噴射された燃料は「吹き返されるガス」により飛散・攪拌される。その結果、燃料の微粒化が促進される。一方、上記「吹き返されるガス」が発生する前の時点において燃料が燃料噴射装置39から吸気通路INPに噴射される場合、吸気通路INPの壁面及び吸気弁の背面等に付着する燃料は、上記「吹き返されるガス」により飛散する(吹き飛ばされる)。その結果、燃料の微粒化が促進される。なお、この場合における吸気弁開弁時期INoから排気弁閉弁時期EXcまでの期間が「正のオーバーラップ期間」である。
以上から明らかなように、前記バルブタイミング決定手段は、目標弁開閉時期を「正のオーバーラップ期間が生じ、且つ、その正のオーバーラップ期間おいて吸気通路INPに吹き返されるガスが発生することにより、吸気通路INP内における燃料の微粒化が発生する(促進される)ような時期」に決定することができる。なお、この場合の吸気弁開弁時期INoは吸気上死点前である。更に、吸気通路INPに吹き返されるガスが燃料を微粒化し得る程度(微粒化能力)は、「その吹き返されるガスの総量及び流速」により変化する。
更に、前記バルブタイミング決定手段は、
前記微粒化指標値により示される「前記燃料の微粒化のし易さの程度」が小さくなるほど、前記吸気通路に吹き返されるガスによって前記吸気通路内にて前記燃料がより多く微粒化されるように、即ち、前記吹き返されるガスによる燃料の微粒化能力が向上するように前記目標弁開閉時期を決定するようになっている。換言すると、前記バルブタイミング決定手段は、燃料が微粒化し難い状態であるほど、吹き返されるガスの総量、流速及び温度等のうちの少なくとも一つを上昇させるように、目標弁開閉時期を決定する。
ところで、上述したように、実際の弁開閉時期(実弁開閉時期)が目標弁開閉時期に到達するには、時間を要する(即ち、応答遅れ期間が生じる。)。この応答遅れ期間中、上述した「吸気通路へのガスの吹き返し」は微粒化指標値に対して十分に適したものではないので、燃料は適切に微粒化されない。
そこで、前記燃料噴射量決定手段は、
「前記弁開閉時期の実際の時期である実弁開閉時期と前記目標弁開閉時期との差」を表す「弁開閉時期遅れ量」に基づいて「前記基礎燃料量を補正(増大)する」ことにより、前記燃料噴射手段から実際に噴射される「最終的な燃料の量」を決定するように構成されている。
これにより、前記吹き返されるガスによる燃料の微粒化能力が不十分になる期間(即ち、前記応答遅れ期間)において、その微粒化能力の不足分を補償するように燃料噴射量が増大させられる。従って、燃焼室内に「十分な量の微粒化された燃料」を含む混合気が供給されるので、微粒化し難い燃料が使用されている場合であっても、機関の冷間始動性を改善することができる。更に、その結果、無効燃料の消費量を低減することができる。
このように、上記燃料噴射量決定手段は、弁開閉時期遅れ量が「大きい」ほど燃料噴射量が「増大」するように燃料噴射量を補正する。このため、弁開閉時期遅れ量が非常に大きい場合、燃料噴射量は極めて大きな量だけ増大させられる。その結果、「機関が早期に冷間始動することによって低減される無効燃料の総量」よりも「上記補正により増量されることにより増大する無効燃料の総量」が大きくなる虞がある。換言すると、上述した燃料噴射量の補正を行うことにより、機関が冷間始動するまでに消費される燃料の量が却って増大する虞がある。
そこで、本発明による制御装置は、
前記弁開閉時期遅れ量が所定の応答遅れ閾値以上であるとき、前記燃料噴射手段から燃料が噴射されることを停止する燃料噴射停止手段を備えることが好適である。
これによれば、燃料噴射量が過度に増大される可能性が高い場合(即ち、弁開閉時期遅れ量が過度に大きい場合)、燃料の噴射が停止される。そして、時間の経過に伴って弁開閉時期遅れ量が徐々に小さくなり(実弁開閉時期が目標弁開閉時期に徐々に近づき)、弁開閉時期遅れ量が応答遅れ閾値より小さくなったとき、燃料の噴射が開始される。この時点にて噴射される燃料の量は、「この時点における弁開閉時期遅れ量に応じて補正された燃料噴射量」であり、「弁開閉時期遅れ量が応答遅れ閾値以上である場合に補正された燃料噴射量」よりも小さい。この結果、燃料噴射量が過度に増量補正されることを回避することができるので、機関が冷間始動するまでに消費される燃料の量を更に低減することができる。
この場合、前記燃料噴射停止手段は、
「前記機関の冷却水温が低いほど又は前記燃料に含まれるアルコールの含有割合が大きいほど前記応答遅れ閾値が小さくなるように同応答遅れ閾値を決定する応答遅れ閾値決定手段」を含むことが好適である。
代替として、前記燃料噴射停止手段は、
「前記微粒化指標値によって示される前記燃料の微粒化のし易さの程度」が小さくなるほど、即ち、燃料が微粒子化し難いほど、前記応答遅れ閾値が小さくなるように、同応答遅れ閾値を決定する応答遅れ閾値決定手段、を含むことが好適である。即ち、応答遅れ閾値は、例えば、機関の冷却水温が低いほど小さい値となるように、燃料に含まれるアルコールの含有割合が大きいほど小さい値となるように、決定することができる。
これらによれば、燃料が微粒子化し難い状況であるほど弁開閉時期遅れ量がより小さい量に到達するまで燃料の噴射は停止される。これは、燃料が微粒子化し難いほど、同じ弁開閉時期遅れ量であっても燃料噴射量の増量分が大きくなるからである。この結果、燃料噴射量が過度に増量補正されることをより確実に回避することができるので、機関が冷間始動するまでに消費される燃料の量を更に確実に低減することができる。
更に、本発明の制御装置は、「前記燃料噴射停止手段によって前記燃料の噴射が停止されている期間中において、前記機関のクランキングを禁止(停止)するクランキング禁止手段」を備えていてもよい。これによれば、燃料噴射が停止されている最中に無駄なクランキングが実行されないので、その無駄なクランキングに消費する電力を節約することができる。加えて、本発明の制御装置は、「前記クランキング禁止手段によって機関のクランキングが禁止されているとき、機関の操作者に対してクランキングが停止されていることを通知する手段(例えば、点灯・消灯によってクランキングの停止・実行を表す表示ランプ等)」を備えるように構成されてもよい。
以下、本発明による内燃機関の制御装置の各実施形態について、図面を参照しながら説明する。
(第1実施形態)
<装置の概要>
図1は、本発明の第1実施形態に係る制御装置(以下、「第1制御装置」とも称呼する。)を内燃機関10に適用したシステムの概略構成を示している。機関10は、4サイクル火花点火式多気筒(4気筒)機関である。なお、図1は、機関10の特定気筒の断面のみを示しているが、他の気筒も同様な構成を備えている。
この機関10は、シリンダブロック、シリンダブロックロワーケース及びオイルパン等を含むシリンダブロック部20と、シリンダブロック部20の上に固定されるシリンダヘッド部30と、シリンダブロック部20にガソリン混合気を供給するための吸気系統40と、シリンダブロック部20からの排ガスを外部に放出するための排気系統50と、吸気系統40に燃料を供給するための燃料系統60と、を含んでいる。
シリンダブロック部20は、シリンダ21、ピストン22、コンロッド23、及び、クランク軸24を含んでいる。ピストン22はシリンダ21内を往復動し、ピストン22の往復動がコンロッド23を介してクランク軸24に伝達され、これにより同クランク軸24が回転するようになっている。シリンダ21の壁面及びピストン22の上面は、シリンダヘッド部30の下面とともに燃焼室25を形成している。
シリンダヘッド部30は、燃焼室25に連通した吸気ポート31、吸気ポート31を開閉する吸気弁32、吸気弁32を駆動するインテークカムシャフト(図示省略)を含むとともに同インテークカムシャフトの位相角を連続的に変更する可変吸気タイミング制御装置33、可変吸気タイミング制御装置33のアクチュエータ33a、燃焼室25に連通した排気ポート34、排気ポート34を開閉する排気弁35、排気弁35を駆動するエキゾーストカムシャフト(図示省略)を含むとともに同エキゾーストカムシャフトの位相角を連続的に変更する可変排気タイミング制御装置36、可変排気タイミング制御装置36のアクチュエータ36a、点火プラグ37、点火プラグ37に与える高電圧を発生するイグニッションコイルを含むイグナイタ38、及び、燃料を吸気ポート31内に噴射するインジェクタ(燃料噴射手段)39を備えている。
可変吸気タイミング制御装置33(可変バルブタイミング機構)は、例えば、特開2007−303423号公報等に記載されているように周知の装置である。以下、可変吸気タイミング制御装置33の概略断面図である図2を参照しながら可変吸気タイミング制御装置33について簡単に説明する。
可変吸気タイミング制御装置33は、タイミングプーリ33b1、円筒状ハウジング33b2、回転軸33b3、複数個の仕切壁33b4、及び、複数個のベーン33b5を備えている。
タイミングプーリ33b1は、図示しないタイミングベルトを介し、機関10のクランク軸24によって矢印Rの方向に回転せしめられるようになっている。円筒状ハウジング33b2は、タイミングプーリ33b1と一体的に回転するようになっている。回転軸33b3は、インテークカムシャフトと一体的に回転し且つ円筒状ハウジング33b2に対して相対回転可能となっている。仕切壁33b4は、円筒状ハウジング33b2の内周面から回転軸33b3の外周面まで延びている。ベーン33b5は、互いに隣接する二つの仕切壁33b4の間において回転軸33b3の外周面から円筒状ハウジング33b2の内周面まで延びている。このような構造により、各ベーン33b5の両側には、進角用油圧室33b6と遅角用油圧室33b7とが形成されている。進角用油圧室33b6及び遅角用油圧室33b7は、一方に作動油が供給されたとき他方から作動油が排出されるようになっている。
進角用油圧室33b6及び遅角用油圧室33b7への作動油の供給制御(給排)は、作動油供給制御弁を含む図1にも示したアクチュエータ33aと、図示しない油圧ポンプと、によって行われる。アクチュエータ33aは、電磁駆動式であって指示信号(駆動信号)に応答して前記作動油の供給制御を行う。即ち、インテークカムシャフトのカムの位相を進角すべきとき、アクチュエータ33aは、進角用油圧室33b6に作動油を供給するとともに遅角用油圧室33b7内の作動油を排出する。このとき、回転軸33b3は、円筒状ハウジング33b2に対して矢印Rの方向に相対回転せしめられる。これに対し、インテークカムシャフトのカムの位相を遅角すべきとき、アクチュエータ33aは、遅角用油圧室33b7に作動油を供給するとともに進角用油圧室33b6内の作動油を排出する。このとき、回転軸33b3は、円筒状ハウジング33b2に対して矢印Rと反対の方向に相対回転せしめられる。
更に、アクチュエータ33aが進角用油圧室33b6及び遅角用油圧室33b7への作動油の給排を停止すると、円筒状ハウジング33b2に対する回転軸33b3の相対回転動作は停止せしめられ、回転軸33b3は、その時点での相対回転位置に保持される。このように、可変吸気タイミング制御装置33は、インテークカムシャフトのカムの位相を所望の量だけ進角及び遅角させることができる。更に、可変吸気タイミング制御装置33は、吸気弁32が開弁している期間(開弁クランク角度幅)が一定となるように構成されている。従って、可変吸気タイミング制御装置33により吸気弁開弁時期が所定角度だけ進角又は遅角させられると、吸気弁32の閉弁時期も、同所定角度だけ進角又は遅角させられる。
なお、上述した可変吸気タイミング制御装置33は、例えば、特開2004−150397号公報等に開示されている「電動式可変吸気タイミング制御装置」に置換されてもよい。この電動式可変吸気タイミング制御装置は、電磁コイルと複数の歯車とを備える。この装置は、指示信号(駆動信号)に応じて電磁コイルが発生する磁力により、その複数の歯車の相対回転位置を変化させ、もって、インテークカムシャフトのカムの位相を所望の量だけ進角又は遅角することができるようになっている。
一方、可変排気タイミング制御装置36は、エキゾーストカムシャフトの端部に取り付けられている。この可変排気タイミング制御装置36は、上述した油圧式の可変吸気タイミング制御装置33と同様の構成を有している。更に、可変吸気タイミング制御装置33及び可変排気タイミング制御装置36は、互いに独立して吸気弁32及び排気弁35の開閉時期を制御することができる。なお、この可変排気弁タイミング制御装置36も、上記同様、電動式の可変排気タイミング制御装置に置換されてもよい。
再び、図1を参照すると、吸気系統40は、吸気ポート31に連通し同吸気ポート31とともに吸気通路を形成するインテークマニホールドを含む吸気管41、吸気管41の端部に設けられたエアフィルタ42、及び、吸気管41内にあって吸気通路の開口断面積を可変とするスロットルバルブ43を備えている。スロットルバルブ43は、DCモータからなるスロットルバルブアクチュエータ43aにより吸気管41内で回転駆動されるようになっている。
排気系統50は、各気筒の排気ポート34に一端が接続された複数の枝部を含むエキゾーストマニホールド51、各エキゾーストマニホールド51の枝部の他端であって総ての枝部が集合している集合部に接続されたエキゾーストパイプ52、エキゾーストパイプ52に配設された周知の三元触媒(触媒)53を備えている。排気ポート34、エキゾーストマニホールド51、及び、エキゾーストパイプ52は、排気通路を構成している。
燃料系統60は、燃料タンク61、燃料供給管62、及び、燃料加熱装置63を備えている。
燃料タンク61は、「ガソリンとエタノールとを混合した燃料」を貯蔵するようになっている。なお、燃料タンク61には、エタノールを全く含まないガソリンのみからなる燃料、及び、ガソリンを全く含まないエタノールのみからなる燃料が充填されてもよい。
燃料供給管62は、燃料タンク61とインジェクタ39とを接続するパイプである。燃料タンク61内の燃料は、燃料タンク61内に配設された図示しない燃料ポンプにより燃料供給管62を介してインジェクタ39に圧送される。
燃料加熱装置63は、例えば、特開2007−198308号公報等に記載されているような周知の燃料加熱装置(例えば、電気ヒータ)である。燃料加熱装置63は、指示信号に基づいて作動状態及び停止状態へと切り換えられるようになっている。更に、燃料加熱装置63は、指示信号に基づいて「作動時において発生する熱量の大きさ」を調整し得るようになっている。これにより、燃料加熱装置63は、燃料供給管62を流れる燃料を加熱し、インジェクタ39に供給される燃料の温度を調整する(上昇させる)ことができるようになっている。
第1制御装置は、熱線式エアフローメータ71、吸気温度センサ72、スロットルポジションセンサ73、インテークカムポジションセンサ74、エキゾーストカムポジションセンサ75、クランクポジションセンサ76、水温センサ77、上流側空燃比センサ78、下流側空燃比センサ79、アクセル開度センサ81、車速センサ82、及び、変速装置のシフト位置センサ83、及び、アルコール濃度センサ84を備えている。
エアフローメータ71は、吸気管41内を流れる吸入空気の質量流量(機関10に単位時間あたりに吸入される空気の質量。本発明においては、「吸入空気流量」とも称呼する。)Gaに応じた信号を出力するようになっている。
吸気温度センサ72は、吸気管41内を流れる吸入空気の温度THAに応じた信号を出力するようになっている。
スロットルポジションセンサ73は、スロットルバルブ43の開度(スロットルバルブ開度)を検出し、スロットルバルブ開度TAに応じた信号を出力するようになっている。
インテークカムポジションセンサ74は、インテークカムシャフトの近傍に配設されている。インテークカムポジションセンサ74は、インテークカムシャフトが90°回転する毎に(即ち、クランク軸24が180°回転する毎に)一つのパルスを有する信号を発生するようになっている
エキゾーストカムポジションセンサ75は、エキゾーストカムシャフトの近傍に配設されている。エキゾーストカムポジションセンサ75は、エキゾーストカムシャフトが90°回転する毎に(即ち、クランク軸24が180°回転する毎に)一つのパルスを有する信号を発生するようになっている。
クランクポジションセンサ76は、クランク軸24が10°回転する毎に幅狭のパルスを有するとともに同クランク軸24が360°回転する毎に幅広のパルスを有する信号を出力するようになっている。
水温センサ77は、機関10の冷却水の温度を検出し、冷却水温THWに応じた信号を出力するようになっている。
上流側空燃比センサ78は、排気通路であって触媒53よりも上流側且つエキゾーストマニホールド51の枝部の集合部の下流側に配設されている。上流側空燃比センサ78は、周知の限界電流式の酸素濃度センサであり、上流側空燃比センサ78が配設された排気通路内の部位を流れる排ガス(被検出ガス)の空燃比に応じた出力値を出力するようになっている。
下流側空燃比センサ79は、排気通路であって触媒53よりも下流側に配設されている。下流側空燃比センサ79は、周知の起電力式の酸素濃度センサであり、下流側空燃比センサ79が配設された部位を流れる排ガスの空燃比に応じた出力値を出力するようになっている。
アクセル開度センサ81は、運転者によって操作されるアクセルペダルAPの開度Accpに応じた信号を出力するようになっている。
車速センサ82は、駆動輪が一定角度回転する毎に発生するパルスに基づき、車速SPDに応じた信号を出力するようになっている。
変速装置のシフト位置センサ83は、機関10の出力を駆動輪に伝達する自動変速機のシフトレバー位置(シフト位置)Pに応じた信号を出力するようになっている。
アルコール濃度センサ84は、例えば、特開平6−27073号公報等に記載されているような周知の静電容量型のセンサ(一対の電極を用いて測定対象の比誘電率を測定可能なセンサ)である。アルコール濃度センサ84は、アルコール混合燃料の比誘電率がそのアルコール濃度に応じて変化することを利用し、アルコール濃度センサ84が配設された燃料供給管62内の部位を流れる燃料のアルコール濃度(この機関10においては、エタノール濃度Cetha)に応じた出力値を出力するようになっている。
電気制御装置90は、互いにバスで接続されたCPU91、ROM92、RAM93、バックアップRAM94、及び、ADコンバータを含むインターフェース95等からなるマイクロコンピュータである。
インターフェース95は、上記各センサ等と接続され、CPU91に上記各センサ等からの信号を供給するようになっている。更に、インターフェース95は、CPU91の指示に応じて各アクチュエータ(可変吸気タイミング制御装置33のアクチュエータ33a、及び、可変排気タイミング制御装置36のアクチュエータ36a等)、インジェクタ39、及び、燃料加熱装置63等に駆動信号(指示信号)を送出するようになっている。
次に、第1制御装置の作動について説明する。第1制御装置は、機関10の運転状態等に基づいて燃料の微粒化のし易さの程度(燃料の微粒化の度合い)を示す「微粒化指標値」を取得し、その微粒化指標値に基づいて「目標弁開閉時期」を決定する。より具体的に述べると、第1制御装置は、微粒化指標値により示される「燃料の微粒化のし易さの程度」が小さくなるほど(即ち、燃料が微粒化し難いほど)、吸気通路に吹き返されるガスによって前記吸気通路内にて前記燃料がより多く微粒化されるように(即ち、吸気通路に吹き返されるガスによる燃料の微粒化が「より促進」されるように)、「排気弁の目標閉弁時期」を決定する。
そして、第1制御装置は、「排気弁の実際の閉弁時期」が「排気弁の目標閉弁時期」に一致するように排気弁の閉弁時期を制御する。更に、第1制御装置は、排気弁の実際の閉弁時期と排気弁の目標閉弁時期との差(弁開閉時期遅れ量)を取得し、その差に応じて燃料噴射量を補正(増大補正)する。これにより、排気弁の実際の閉弁時期が排気弁の目標閉弁時期と乖離している場合においても、十分な量の「微粒化した燃料(燃料滴)」を燃焼室25内に吸入させることができる。従って、第1制御装置は、機関10の始動性能を向上することができる。
以下、第1制御装置の実際の作動の説明を行う前に、第1制御装置及び後述する本発明の他の実施形態に係る制御装置が採用した「吸気通路への吹き返しガスによる燃料の微粒化促進制御」の概要について説明する。以下では、本発明の各実施形態に係る制御装置を、単に「制御装置」と称呼する。
<吹き返しガスによる燃料の微粒化促進制御>
制御装置は、微粒化指標値に応じ、「吸気弁の開弁時期」及び「排気弁の閉弁時期」のうちの少なくとも一方を変更する。後述するように、「吸気弁の開弁時期」及び「排気弁の閉弁時期」の何れを変更しても「吸気通路に吹き返されるガスによる燃料の微粒化の促進の程度(即ち、吸気通路に吹き返されるガスが燃料を微粒化し得る程度であり、単に、「微粒化能力」と称呼する。)」が変化する。
従って、制御装置は、「吸気弁の開弁時期」を変更することによって微粒化能力を変更しようとする場合、「吸気弁の開弁時期」の目標値である「吸気弁目標開弁時期」を決定し、実際の吸気弁開弁時期(実吸気弁開弁時期)がこの吸気弁目標開弁時期に一致するように可変吸気タイミング制御装置33を駆動する。或いは、制御装置は、「排気弁の閉弁時期」を変更することによって微粒化能力を変更しようとする場合、「排気弁の閉弁時期」の目標値である「排気弁目標閉弁時期」を決定し、実際の排気弁閉弁時期(実排気弁閉弁時期)が排気弁目標閉弁時期に一致するように可変排気タイミング制御装置36を駆動する。
これまでの説明から明らかなように、制御装置は、「吸気弁目標開弁時期」及び「排気弁目標閉弁時期」の「双方」を微粒化指標値に応じて決定し、実吸気弁開弁時期が吸気弁目標開弁時期に一致するように可変吸気タイミング制御装置33を駆動し、且つ、実排気弁閉弁時期が排気弁目標閉弁時期に一致するように可変排気タイミング制御装置36を駆動してもよい。
これに対し、制御装置は、「吸気弁目標開弁時期」及び「排気弁目標閉弁時期」のうちの「何れか一方のみ」を微粒化指標値に応じて決定してもよい。制御装置は、これら二つの目標時期のうちの「吸気弁目標開弁時期」のみを決定するように構成されていれば、実吸気弁開弁時期が吸気弁目標開弁時期に一致するように可変吸気タイミング制御装置33を駆動し、且つ、排気弁閉弁時期を固定する。従って、この場合、機関10は可変排気タイミング制御装置36を備えていなくてもよい。制御装置は、これら二つの目標時期のうちの「排気弁目標閉弁時期」のみを決定するように構成されていれば、実排気弁閉弁時期が排気弁目標閉弁時期に一致するように可変排気タイミング制御装置36を駆動し、且つ、吸気弁開弁時期を固定する。従って、この場合、機関10は可変吸気タイミング制御装置33を備えていなくてもよい。
なお、本明細書及び添付の特許請求の範囲において、微粒化能力を変更することを目的として変更される「吸気弁の開弁時期及び排気弁の閉弁時期」は、「弁開閉時期」と総称される。同様に、弁開閉時期の目標値となる「吸気弁目標開弁時期及び排気弁目標閉弁時期」は、「目標弁開閉時期」と総称される。
制御装置は、目標弁開閉時期を、微粒化指標値によって示される「燃料の微粒化のし易さの程度」が小さくなるほど(即ち、燃料が微粒化し難いほど)、吸気通路に吹き返されるガスによって前記吸気通路内にて前記燃料がより多く微粒化されるように(即ち、吸気通路に吹き返されるガスによる燃料の微粒化が「より促進」されるように)決定する。「吸気通路に吹き返されるガスによる燃料の微粒化がより促進される」ことは、「吹き返しガスの微粒化能力が大きくなる」ことと同義である。
制御装置は、所謂「負のオーバーラップ期間(負のバルブオーバーラップ期間)」、及び、所謂「正のオーバーラップ期間(正のバルブオーバーラップ期間)」の何れかを制御することにより、微粒化能力を制御する。負のオーバーラップ期間は、排気行程から吸気行程へと移行する際に吸気弁32及び排気弁35が共に「閉弁」している期間である。正のオーバーラップ期間は、排気行程から吸気行程へと移行する際に吸気弁32及び排気弁35が共に「開弁」している期間である。
以下、この点につき、図3〜図5を参照しながら更に詳細に説明する。図3の(a)は、負のオーバーラップ期間が設定された場合の「吸気弁32及び排気弁35のリフト量のクランク角に対する変化」を示す。図3の(b)は、正のオーバーラップ期間が設定された場合の「吸気弁32及び排気弁35のリフト量のクランク角に対する変化」を示す。図4は、「負のオーバーラップ期間」が設定された場合における「機関10のピストン22、吸気弁32及び排気弁35の作動状態」を示す模式図である。図5は、「正のオーバーラップ期間」が設定された場合における「機関10のピストン22、吸気弁32及び排気弁35の作動状態」を示す模式図である。
・負のオーバーラップ期間による燃料の微粒化
制御装置は、図3(a)に示したように、負のオーバーラップ期間OLnを設定することができる。具体的に述べると、制御装置は、吸気弁開弁時期INoを吸気上死点(吸気TDC)よりも「第1角度Din」だけ進角させた時期に設定し、排気弁閉弁時期Excを吸気上死点よりも「第1角度Dinよりも大きい第2角度Dex」だけ進角させた時期に設定する。負のオーバーラップ期間OLnは、第2角度Dexと第1角度Dinとの「差」に相当する。
吸気弁32が閉弁状態にあり且つ排気弁35が開弁状態にある排気行程中において排気弁35が排気弁閉弁時期EXcにて開弁状態から閉弁状態へと変化させられると、図4の(a)に示したように、機関10の燃焼室25内にはガスが閉じ込められた状態となる。即ち、排気弁閉弁時期EXcは、負のオーバーラップ期間OLnの始点となる。そして、図4の(b)に示したように、機関10のクランク角の増大に伴ってピストンが吸気上死点に向けて上昇すると、燃焼室25内(筒内)のガスは圧縮される。このとき、燃焼室25内のガスは実質的に断熱圧縮されると考えられるので、燃焼室25内のガスが圧縮されるに従ってその圧力及び温度は上昇する。
吸気通路INP内の空気の圧力は、最大でも大気圧である。吸気通路INP内の空気の圧力は、機関を冷間始動させるとき、一般に大気圧に一致する。一方、燃焼室25内において圧縮されたガスの圧力は、通常、大気圧よりも大きくなる。そのため、負のオーバーラップ期間OLnの終点(即ち、吸気弁の開弁時期INo)にて吸気弁32が開かれたとき、図4(c)に矢印Gにて示したように、燃焼室25内のガスは吸気通路INPに向かって吹き出す。燃焼室25内のガスが吸気通路INPに向かって吹き出されることを、「吹き返し」と称呼する。
一方、燃料は、インジェクタ39から吸気通路INP内に噴射される。従って、上述した「吹き返されたガス」に向かって燃料が噴射されると、その燃料は、「燃焼室25内において圧縮されたことによって高温となっている吹き返されたガス」に衝突する。この結果、噴射された燃料は加熱及び攪拌によって吸気通路INP内において微粒化される。
他方、例えば、特に、吸気通路INPにガスが吹き返される「前」に燃料が噴射されると、その燃料の一部は吸気通路INPの壁面(例えば、吸気ポート31の壁面)及び吸気弁32の周辺等に付着する。この場合であっても、上述した「吹き返されたガス」によってこの付着した燃料を吹き飛ばすことができる。吹き飛ばされた燃料は、更に、吹き返されたガスによって加熱される。この結果、噴射され且つ吸気通路INPの壁面等に付着していた燃料は吸気通路INP内において微粒化される。
以上に説明したように、排気弁閉弁時期を吸気上死点前に設定し且つ吸気上死点近傍において「負のオーバーラップ」を生じさせると、燃焼室25内のガスは圧縮され、そのガスの温度及び圧力が上昇する。そして、吸気弁開弁時期を「燃焼室25内のガスの圧力が吸気通路INP内のガスの圧力より高い時期」に設定することにより、燃焼室25内のガスが吸気通路INPに吹き返される。この結果、燃料の微粒化を促進することができる。
この吹き返されるガスの温度及び流速は、吸気弁開弁時期INoにおける燃焼室25内のガスの圧力が大きいほど大きくなる。従って、負のオーバーラップ期間OLnを設けることにより燃料の微粒化を促進する場合、「吸気弁開弁時期INo(負のオーバーラップ期間OLnの終点)における燃焼室25の容積VinO」に対する「排気弁閉弁時期Exc(負のオーバーラップ期間OLnの始点)における燃焼室25の容積VexC」の比(VexC/VinO)が大きいほど、吹き返しガスの微粒化能力は大きくなる。
一般に、吸気弁開弁時期INoは吸気上死点前に設定される。従って、仮に、吸気弁開弁時期INoが吸気上死点よりも僅かな所定角度だけ進角された時期に固定されているならば、負のオーバーラップ期間OLnが大きくなるほど(つまり、排気弁閉弁時期Excが吸気上死点から離れて排気下死点(膨張下死点)に近づくように進角するほど)、吹き返しガスの微粒化能力は大きくなる。また、排気弁閉弁時期Excが吸気上死点前の所定角度に固定されているとするならば、吸気弁開弁時期INoが吸気上死点に近づくほど、吹き返しガスの微粒化能力は大きくなる。
以上に述べた観点に基づき、制御装置は、燃料の「微粒化指標値」に応じて「目標弁開閉時期」を決定し、もって、負のオーバーラップ期間の長さ及び負のオーバーラップ期間が存在する時期を変更することにより「吹き返しガスの微粒化能力」を変更する。換言すると、制御装置は、燃料が微粒化し難いほど、吹き返しガスの微粒化能力を増大する。従って、実際の「弁開閉時期」が「目標弁開閉時期」と一致していれば、燃料は適切に微粒化されるので、燃焼室25内において燃焼に供される微粒化された燃料の量が適量となる。その結果、例えば、機関10の冷間始動時における始動性能が改善される。なお、この場合の吸気弁開弁時期INoは、燃焼室25内のガスの圧力が吸気通路INP内のガスの圧力よりも高い時期であれば、吸気上死点後であってもよい。
・正のオーバーラップ期間による燃料の微粒化
制御装置は、図3(b)に示したように、正のオーバーラップ期間OLpを変更することによって「吹き返しガスの微粒化能力」を変更することもできる。具体的に述べると、制御装置は、吸気弁開弁時期INoを吸気上死点(吸気TDC)よりも「第1角度Din」だけ進角させた時期に設定し、排気弁閉弁時期Excを吸気上死点よりも「第1角度Dinよりも小さい第2角度Dex」だけ進角させた時期に設定する。正のオーバーラップ期間OLpは、第1角度Dinと第2角度Dexとの「差」に相当する。
吸気弁32及び排気弁35の両者が閉弁状態にあるとき、図5の(a)に示したように、排気弁35が閉弁状態から開弁状態へと変化させられると、排気通路EXPが燃焼室25と連通する。そして、図5(b)に矢印Gにて示したように、燃焼室25内のガスが排気通路EXPに排出される。その後、図5の(b)に示したように、吸気弁32が吸気弁開弁時期INo(即ち、正のオーバーラップ期間OLpの始点)にて閉弁状態から開弁状態へと変化させられると、吸気通路INPも燃焼室25と連通する。そして、図5の(c)に示したように、機関のクランク角の増大に伴ってピストンが上昇すると、燃焼室25内のガスは吸気通路INP及び排気通路EXPの双方に向かって吹き出される(押し出される)。
ここで、上述した「負のオーバーラップ」が生じる場合と同様、ガスが吸気通路INPに吹き返されている期間においてインジェクタ39から吸気通路INP内に燃料が噴射されると、その噴射された燃料は、吸気通路INPに吹き返されたガスと衝突する。この結果、噴射された燃料は、飛散・攪拌によって吸気通路INP内において微粒化される。
また、吸気通路INPにガスが吹き返される「前」に燃料が噴射される場合、吸気通路INPの壁面等に付着した燃料は、上述した「吹き返されたガス」によって吹き飛ばされる。この結果、噴射され且つ吸気通路INPの壁面等に付着していた燃料は、吸気通路INP内において微粒化される。
以上に説明したように、吸気上死点近傍において「正のオーバーラップ」を生じさせると、「負のオーバーラップ」を生じさせる場合と同様、吸気通路INPに吹き返されたガスによって燃料の微粒化を促進することができる。この吹き返されるガスの量は、吸気上死点よりも前の時期に存在する正のオーバーラップ期間OLpが大きくなるほど増大する。即ち、吸気上死点よりも前の時期に存在する正のオーバーラップ期間OLpを長くすることにより、吹き返しガスの微粒化能力を増大することができる。また、吹き返されるガスの量は、正のオーバーラップ期間が存在する時期によっても変化する。
以上に述べた観点に基づき、制御装置は、燃料の「微粒化指標値」に応じて「目標弁開閉時期」を決定し、もって、正のオーバーラップ期間の長さ及び正のオーバーラップ期間が存在する時期を変更することにより「吹き返しガスの微粒化能力」を変更する。換言すると、制御装置は、燃料が微粒化し難いほど、吹き返しガスの微粒化能力を増大する。従って、実際の「弁開閉時期」が「目標弁開閉時期」と一致していれば、燃料は適切に微粒化されるので、燃焼室25内において燃焼に供される微粒化された燃料の量が適量となる。その結果、例えば、機関10の冷間始動時における始動性能が改善される。
ただし、「正のオーバーラップ」を生じさせる場合、上述した「負のオーバーラップ」を生じさせる場合と異なり、燃焼室25内のガスは吸気弁開弁時期INoまでに圧縮されない。そのため、吹き返されるガスの温度は、実質的に上昇していない。また、正のオーバーラップ期間において吹き返されるガスの流速は、「負のオーバーラップ」を生じさせた場合に吹き返されるガスの流速に比べて小さくなる場合が多い。従って、機関10を冷間始動させる場合、吸気上死点近傍において「正のオーバーラップ」を生じさせるように目標弁開閉時期を決定するよりも、吸気上死点近傍において「負のオーバーラップ」を生じさせるように目標弁開閉時期を決定する方が好ましい。
一方、一旦、機関10が始動すると(即ち、最初の燃焼後である初爆後)、燃焼室25内には燃焼により生成された既燃ガスが生じる。そのため、膨張下死点における燃焼室25内のガスの圧力及び温度は極めて高い。従って、正のオーバーラップ期間OLpにおいて吸気通路INPに吹き返されるガスの温度は吸気通路INP内のガス(大気等)に比べて極めて高く、且つ、その吹き返されるガスの流速も大きい。その結果、機関が一旦始動した後においては、吸気上死点近傍において「正のオーバーラップ」を生じさせるように目標弁開閉時期を決定することによっても、燃料の微粒化をより効果的に促進することができる。
以上に説明したように、制御装置は、目標弁開閉時期(即ち、正のオーバーラップ期間の長さ及び存在時期を決定する目標弁開閉時期、又は、負のオーバーラップ期間の長さ及び存在時期を決定する目標弁開閉時期)を、微粒化指標値により示される「前記燃料の微粒化のし易さの程度」が小さくなるほど、吸気通路INPに吹き返されるガスによる微粒化能力が大きくなるように決定する。微粒化能力は、吸気通路に吹き返されるガスの流速、温度及び総量に依存して変化する。従って、目標弁開閉時期は、それらを考慮の上、予め実験によって定めておくことができる。
<第1制御装置の吹き返しガスによる燃料の微粒化促進制御>
第1制御装置は、「負のオーバーラップ期間」を調整することにより、燃料の微粒化を促進する。より具体的に述べると、第1制御装置は、負のオーバーラップ期間OLnの始点である「排気弁閉弁時期Exc」を微粒化指標値に応じて変更することにより燃料の微粒化を適正化する。ここで、第1制御装置は、負のオーバーラップ期間OLnの終点である「吸気弁開弁時期INo」を「吸気上死点よりも僅かな所定角度だけ進角された時期」に固定する。
<微粒化指標値の取得>
前述したように、第1制御装置は、機関10の運転状態に基づき、燃料の微粒化指標値を取得する。以下、第1制御装置が採用した微粒化指標値の取得方法を、図6を参照しながら説明する。上述したように、燃料の微粒化指標値は、燃料の微粒化のし易さの程度を表す値であって、その値が大きいほど燃料が微粒化し易いことを示す値である。
第1制御装置は、図6(a)に示した微粒化指標値テーブルMapAtmz(THW,Cetha,THA)をROM92内に記憶している。この微粒化指標値テーブルMapAtmz(THW,Cetha,THA)は、「冷却水温THW、エタノール濃度Cetha及び吸気温度THAと、微粒化指標値Atmzと、の関係」を実験によるデータに基づいて予め定めたルックアップテーブル(3入力1出力型)である。第1制御装置は、センサの出力値から取得された実際の「冷却水温THW、エタノール濃度Cetha及び吸気温度THA」を微粒化指標値テーブルMapAtmz(THW,Cetha,THA)に適用することにより、微粒化指標値Atmzを取得するようになっている。
図6(a)において、実線A1low及び破線A1highは、何れも微粒化指標値Atmzが「第1の値(最大値A1)」をとる「等値線」である。但し、実線A1lowは吸気温度THAが「第1吸気温度」である場合の等値線であり、破線A1highは吸気温度THAが「第1吸気温度よりも高い第2吸気温度」である場合の等値線である。
実線A2low及び破線A2highは、何れも微粒化指標値Atmzが「第1の値よりも小さい第2の値A2」をとる等値線である。但し、実線A2lowは吸気温度THAが第1吸気温度である場合の等値線であり、破線A2highは吸気温度THAが第2吸気温度である場合の等値線である。
実線A3low及び破線A3highは、何れも微粒化指標値Atmzが「第2の値よりも小さい第3の値A3」をとる等値線である。但し、実線A3lowは吸気温度THAが第1吸気温度である場合の等値線であり、破線A3highは吸気温度THAが第2吸気温度である場合の等値線である。
更に、「一の等値線」と「その一の等値線に隣接する他の等値線」との間における微粒化指標値Atmzの値は、その一の等値線の示す微粒化指標値と他の等値線の示す微粒化指標値とに基づいて補間(例えば、周知の直線補間)されることにより求められる。
微粒化指標値Atmzは、その値が大きいほど燃料が微粒化し易いことを示す値であるから、図6(a)に示すように、冷却水温THWが高いほど大きくなるとともに、エタノール濃度Cethaが小さいほど大きくなるように決定される。更に、微粒化指標値Atmzは、吸気温度THAが高いほど大きくなるように決定される。以下、この点につき、図6(b)を参照しながらより詳細に説明する。
図6(b)は、図6(a)においてエタノール濃度Cethaを固定値C1(Cetha=C1)とした場合に得られる「冷却水温THW及び吸気温度THAと、微粒化指標値Atmzと、の関係」を示したグラフである。図6(b)においても、実線は吸気温度THAが第1吸気温度である場合の微粒化指標値Atmzを示し、破線は吸気温度THAが第1吸気温度よりも高い第2吸気温度である場合の微粒化指標値Atmzを示す。
図6(b)の「実線」によって示すように、吸気温度THAが「相対的に低い第1吸気温度」である場合、微粒化指標値Atmzは、冷却水温THWが温度T1よりも低いとき、冷却水温THWが高くなるにつれて大きくなり、冷却水温THWが温度T1に到達するときに最大値A1に到達する。更に、微粒化指標値Atmzは、冷却水温THWがその温度T1以上であるときに最大値A1を維持する。
加えて、図6(b)の「破線」によって示すように、吸気温度THAが「相対的に高い第2吸気温度」である場合、微粒化指標値Atmzは、冷却水温THWが「温度T1よりも低い温度T2」よりも低いとき、冷却水温THWが高くなるにつれて大きくなり、冷却水温THWが温度T2に到達するときに最大値A1に到達する。更に、微粒化指標値Atmzは、冷却水温THWがその温度T2以上であるときに最大値A1を維持する。
即ち、冷却水温THWが温度T1よりも低い範囲においては、冷却水温THWが同じであっても、吸気温度THAが高くなるほど微粒化指標値Atmzは大きくなる(図6(b)において温度T3にて示した例を参照。)。換言すると、微粒化指標値Atmzは、冷却水温THWが温度T1よりも低い範囲において、吸気温度THAが高くなるほど大きくなる。この結果、微粒化指標値テーブルMapAtmz(THW,Cetha,THA)の傾向を示した図6(a)において、吸気温度THAが高いほど等値線の全体が「微粒化指標値Atmzが小さくなる方向(左上方向)」へ移動している。このように、微粒化指標値テーブルMapAtmz(THW,Cetha,THA)によれば、上述した傾向を持つように微粒化指標値Atmzが求められる。
<燃料噴射量の算出(補正)>
前述したように、第1制御装置は、実際の排気弁閉弁時期(実弁開閉時期)と排気弁の目標閉弁時期(目標弁開閉時期)との差である「弁開閉時期遅れ量」を取得し、弁開閉時期遅れ量に応じて燃料噴射量を補正する。以下、この第1制御装置が採用した燃料噴射量の算出(補正)方法について、図7及び図8を参照しながら説明する。
第1制御装置は、先ず、補正される前の燃料噴射量(基礎燃料量TAUbase)を、機関10の運転状態を表す第1の運転パラメータに基づいて決定する。基礎燃料量TAUbaseは、燃料の微粒化が予め想定された程度であるとの仮定(例えば、冷却水温THWが暖機完了を示す温度であり且つエタノール濃度が0%である等)の下で機関10の運転状態に応じた適切な空燃比が得られるよう、予め定められたルックアップテーブル及び補正係数等を用いて決定される。
第1の運転パラメータは、機関10の現時点における運転状態を表すパラメータであり、例えば、「冷却水温THW、吸気温度THA、機関負荷(吸入空気流量Ga、機関回転速度NE、負荷率KL、筒内吸入空気量Mc、スロットル弁開度TA及びアクセルペダル操作量Accp等)、機関を搭載した車両の速度(車速SPD)、並びに、その車両に搭載された変速装置のシフト位置P等」のうちの少なくとも一つを含む。更に、第1の運転パラメータは、機関10に使用されている燃料の少なくとも一つの成分の含有割合を含む。
「燃料の少なくとも一つの成分」は、燃料に含まれる燃料成分のうちの「低温環境下において微粒化し難い燃料成分」とすることができる。この「低温環境下において微粒化し難い燃料成分」として、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール及びプロパノール等のアルコールを挙げることができる。第1制御装置が適用される機関10は、「ガソリンとエタノールとを混合した燃料」を使用する。従って、第1制御装置は、「燃料に含まれる少なくとも一つの燃料成分の含有割合」として、燃料のエタノール濃度Cethaを採用する。
上述したように、第1制御装置は、負のオーバーラップ期間OLnの始点である「排気弁閉弁時期Exc」を、微粒化指標値に応じて変更することにより燃料の微粒化を適正化する。即ち、第1制御装置は、「排気弁目標閉弁時期」を微粒化指標値に基づいて決定し、実排気弁閉弁時期が排気弁目標閉弁時期に一致するように可変排気タイミング制御装置36を駆動する。しかしながら、可変排気タイミング装置36が使用する作動油の粘性、油圧ポンプの出力及び各部材間の摩擦抵抗力等に起因し、実排気弁閉弁時期は、直ちに排気弁目標閉弁時期に一致せず、所定の「応答遅れ期間」が経過した後に排気弁目標閉弁時期に一致する。従って、この応答遅れ期間中、燃料は予定される程度にまで微粒化されない。このため、この応答遅れ期間中、燃焼室25に微粒子の形態にて供給され且つ燃焼に寄与できる「微粒化燃料」の量は不足することになる。そこで、第1制御装置は、この微粒化燃料の不足分を、基礎燃料量TAUbaseを増大補正することにより補償する。即ち、第1制御装置は、実排気弁閉弁時期と排気弁目標閉弁時期との差を弁開閉時期遅れ量ΔTexcとして取得し、その差に応じて基礎燃料量TAUbaseを補正する。
より具体的に述べると、第1制御装置は、基礎燃料量TAUbaseを冷却水温THW及び弁開閉時期遅れ量ΔTexcに基づいて補正し、補正された基礎燃料量TAUbaseを更にエタノール濃度Cethaに基づいて補正することにより、最終的な燃料噴射量TAUを算出する。以下、この点について更に説明する。
・冷却水温THW及び弁開閉時期遅れ量ΔTexcに基づく補正
第1制御装置は、図7に示した第1補正係数テーブルMapk1(THW,ΔTexc)を用いて第1補正係数k1を決定し、その第1補正係数k1を基礎燃料量TAUbaseに「乗算する」ことにより基礎燃料量TAUbaseを補正して「一次補正燃料噴射量TAUint(=k1・TAUbase)」を取得する。
第1制御装置は、図7に示した第1補正係数テーブルMapk1(THW,ΔTexc)をROM92内に記憶している。この第1補正係数テーブルMapk1(THW,ΔTexc)は、「冷却水温THW及び弁開閉時期遅れ量ΔTexcと、第1補正係数k1と、の関係」を実験によるデータに基づいて予め定めたルックアップテーブル(2入力1出力型)である。第1制御装置は、センサの出力値等から取得された実際の「冷却水温THW及び弁開閉時期遅れ量ΔTexc」を第1補正係数テーブルMapk1(THW,ΔTexc)に適用することにより、第1補正係数k1を取得するようになっている。
図7において、数値「1.00」が付された実線は、第1補正係数k1が「1.00」(最大値)をとる「等値線」である。同様に、数値「α(=1.05、1.10、1.15)」が付された実線は第1補正係数k1が「α」をとる等値線である。更に、図7において、数値「1.00」が付された実線よりも右側の領域における第1補正係数k1は、全て「1.00」である。
更に、「一の等値線」と「その一の等値線に隣接する他の等値線」との間における第1補正係数k1の値は、その一の等値線の示す値と他の等値線の示す値とに基づいて補間(例えば、周知の直線補間)されることにより求められる。
第1補正係数テーブルMapk1(THW,ΔTexc)によれば、弁開閉時期遅れ量ΔTexcが小さくなるほど第1補正係数k1は1.00に向けて小さくなるように求められる。即ち、弁開閉時期遅れ量ΔTexcが大きいほど「微粒化燃料の不足量」が大きくなるので、基礎燃料量TAUbaseは弁開閉時期遅れ量ΔTexcが大きいほど大きくなるように補正される。更に、弁開閉時期遅れ量ΔTexcがゼロであるとき(つまり、実排気弁閉弁時期が排気弁目標閉弁時期に一致しているとき)、微粒化燃料は不足しないので、第1補正係数k1は冷却水温THWに関わらず「1.00」に維持される。その結果、一次補正燃料噴射量TAUint(=k1・TAUbase)は基礎燃料量TAUbaseと同一となる。換言すると、このとき、基礎燃料量TAUbaseは補正されない。
第1補正係数テーブルMapk1(THW,ΔTexc)によれば、冷却水温THWが高くなるほど第1補正係数k1は1.00に向けて小さくなるように求められる。即ち、弁開閉時期遅れ量ΔTexcが「0」でない場合、冷却水温THWが低いほど「微粒化燃料の不足量」が大きくなるので、基礎燃料量TAUbaseは冷却水温THWが低いほど大きくなるように補正される。更に、冷却水温THWが所定の値よりも高いとき(つまり、吸気通路等の燃料が付着する可能性のある部材及び吹き返されるガスの温度が高くなっているとき)、弁開閉時期遅れ量ΔTexcが「0」でない場合であっても、応答遅れ期間中に燃料は十分に微粒化される。従って、第1補正係数k1は「1.00」に維持される。その結果、一次補正燃料噴射量TAUintは基礎燃料量TAUbaseと同一となる。このように、第1補正係数k1は、「微粒化燃料の不足量」が大きいほど大きい値に設定される。
・エタノール濃度Cethaに基づく補正
次いで、第1制御装置は、上記一次補正燃料噴射量TAUintをエタノール濃度Cethaに基づいて更に補正する。即ち、第1制御装置は、図8に示した第2補正係数テーブルMapk2(Cetha,ΔTexc)を用いて第2補正係数k2を決定し、その第2補正係数k2を一次補正燃料噴射量TAUintに「乗算する」ことにより一次補正燃料噴射量TAUintを補正して「最終的な燃料噴射量TAU(=k2・TAUint)」を算出する。
第1制御装置は、図8に示した第2補正係数テーブルMapk2(Cetha,ΔTexc)をROM92内に記憶している。この第2補正係数テーブルMapk2(Cetha,ΔTexc)は、「エタノール濃度Cetha及び弁開閉時期遅れ量ΔTexcと、第2補正係数k2と、の関係」を実験によるデータに基づいて予め定めたルックアップテーブル(2入力1出力型)である。第1制御装置は、センサの出力値等から取得された実際の「エタノール濃度Cetha及び弁開閉時期遅れ量ΔTexc」を第2補正係数テーブルMapk2(Cetha,ΔTexc)に適用することにより、第2補正係数k2を取得するようになっている。
図8において、実線は、弁開閉時期遅れ量ΔTexcがゼロでない場合(即ち、応答遅れ期間中)におけるエタノール濃度Cethaと第2補正係数k2との関係を示す。一方、破線は、弁開閉時期遅れ量ΔTexcがゼロである場合(即ち、実排気弁閉弁時期と排気弁目標閉弁時期とが一致している場合)におけるエタノール濃度Cethaと第2補正係数k2との関係を示す。
弁開閉時期遅れ量ΔTexcがゼロであるとき、微粒化燃料は不足しない。従って、第2補正係数テーブルMapk2(Cetha,ΔTexc)によれば、図8に「破線」にて示すように、第2補正係数k2は「1.00」に維持される。その結果、第2補正係数k2に基づいて補正された後の燃料噴射量TAUは一次補正燃料噴射量TAUintと同一となる。換言すると、このとき、一次補正燃料噴射量TAUintは補正されない。
更に、弁開閉時期遅れ量ΔTexcがゼロでないとき、微粒化燃料の不足量はエタノール濃度Cethaが大きいほど大きくなる。従って、第2補正係数テーブルMapk2(Cetha,ΔTexc)によれば、図8に「実線」にて示すように、第2補正係数k2はエタノール濃度Cethaが大きくなるほど大きくなるように決定される。エタノール濃度Cethaがゼロである場合(つまり、燃料がエタノールを全く含まないガソリンのみからなる場合)、微粒化燃料は不足しない。従って、この場合、第2補正係数テーブルMapk2(Cetha,ΔTexc)によれば、第2補正係数k2は「1.00」に設定される。このとき、一次補正燃料噴射量TAUintは補正されない。このように、第2補正係数k2も、第1補正係数k1と同様、「微粒化燃料の不足量」が大きいほど大きい値に設定される。
以上に説明したように、第1制御装置は、第1の運転パラメータに基づき、基礎燃料量TAUbaseを決定する。そして、第1制御装置は、この基礎燃料量TAUbaseに第1補正係数k1及び第2補正係数k2を順次乗算し、最終的な燃料噴射量TAUを算出する。このようにして、第1制御装置は、弁開閉時期遅れ量に応じて燃料噴射量を補正する。
<実際の作動>
以下、第1制御装置の実際の作動について説明する。CPU91は、図9乃至図11にフローチャートにより示した各ルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行するようになっている。以下、「現時点にて、機関10の操作者が機関10を始動するための操作を行った(図示しないイグニッション・キー・スイッチが始動位置へと回動され、機関10に冷間始動が要求された)」と仮定して説明を続ける。
CPU91は、所定時間が経過する毎に図9にフローチャートによって示した「バルブタイミング制御ルーチン」を実行するようになっている。CPU71は、このルーチンにより、燃料の微粒化指標値Atmzに応じて排気弁目標閉弁時期Texcを決定するとともに、実際の排気弁閉弁時期(実排気弁閉弁時期Texcact)が排気弁目標閉弁時期Texcに一致するように可変排気タイミング制御装置36を制御する。
従って、所定のタイミングになると、CPU91は、図9のステップ900から処理を開始してステップ910に進み、機関回転速度NEが閾値回転速度NEth以下であるか否かを判定する。ここで、閾値回転速度NEthは、「機関回転速度NEがその閾値回転速度NEth以下であるときに機関10が始動していない(燃焼により回転していない)と判断できる値」であればよい。閾値回転速度NEthは、例えば、500回転/分とすることができる。
上記仮定に従えば、現時点は機関10に対して冷間始動が要求された直後であるので、図示しないスタータによってクランキングが開始された直後である。従って、機関10は未だ始動していない。即ち、機関回転速度NEは閾値回転速度NEth以下である。従って、CPU91は、そのステップ910にて「Yes」と判定してステップ920に進み、機関始動フラグXESの値を「0」に設定する。機関始動フラグXESは、その値が「0」であるとき機関10の状態が始動前であることを表し、その値が「1」であるとき機関10の状態が始動後であることを表す。なお、機関始動フラグXESの値は、図示しないイグニッション・キー・スイッチがオフからオンに変更されたときに実行されるイニシャルルーチンにおいて「0」に設定されようになっている。
次いで、CPU91は、ステップ930に進んで、水温センサ77の出力値に基づいて冷却水温THWを取得し、アルコール濃度センサ84の出力値に基づいてエタノール濃度Cethaを取得し、吸気温度センサ72の出力値に基づいて吸気温度THAを取得する。そして、CPU91は、取得したそれらのパラメータを上述した微粒化指標値テーブルMapAtmz(THW,Cetha,THA)に適用することにより、現時点における微粒化指標値Atmzを取得する。
更に、CPU91は、ステップ940に進み、「微粒化指標値Atmzと、排気弁目標閉弁時期Texcと、の関係」を予め定めた排気弁目標閉弁時期テーブルMapTexc(Atmz)に上記ステップ930にて取得した微粒化指標値Atmzを適用することにより、排気弁目標閉弁時期Texcを取得する。この排気弁目標閉弁時期テーブルMapTexc(Atmz)において、排気弁目標閉弁時期Texcは、吸気上死点を基準とした進角角度(°BTDC)にて表わされている。以下、このステップ940につき、より詳細に説明する。
上述したように、第1制御装置は、吸気弁開弁時期を「吸気上死点よりも僅かな所定角度だけ進角された時期」に固定するとともに排気弁目標閉弁時期Texcを「微粒化指標値に応じて変更する」ことにより、吸気通路に吹き返されるガスによる微粒化能力を変更する。このとき、上述したように、排気弁目標閉弁時期Texcを吸気上死点から排気下死点に向かって進角させるほど、負のオーバーラップ期間が長くなるので、「吹き返しガスの微粒化能力」を大きくすることができる。
燃料の微粒化指標値Atmzが小さいほど、その燃料は微粒化し難い。そこで、第1制御装置は、微粒化指標値Atmzが小さいほど「吹き返しガスの微粒化能力」が大きくなるように排気弁目標閉弁時期Texcを決定する。一方、微粒化指標値Atmzが十分に大きいとき、吹き返しガスによって微粒化を促進しなくとも燃料は適正に微粒化する。そこで、第1制御装置は、微粒化指標値Atmzが所定の値A1よりも大きいとき、吹き返しガスが実質的に生じないように排気弁目標閉弁時期Texcを決定する。
具体的には、ステップ940の排気弁目標閉弁時期テーブルMapTexc(Atmz)に示すように、排気弁目標閉弁時期Texcは、微粒化指標値Atmzが所定値A1よりも小さいとき、微粒化指標値Atmzが小さくなるにつれて大きくなるように決定される。更に、排気弁目標閉弁時期Texcは、微粒化指標値Atmzが所定値A1以上であるとき、ゼロとなるように決定される。ここで、上記所定値A1は、図6(b)に示した微粒化指標値Atmzの最大値A1と一致するように設定されている。このように、所定値A1を微粒化指標値Atmzの最大値に一致させることにより、「微粒化指標値Atmzが最大値となるとき、吹き返しガスによる微粒化促進を行わない」制御を行うことができる。
上述したように微粒化指標値Atmzを取得した後、CPU91は、ステップ950に進み、実排気弁閉弁時期Texcactが排気弁目標閉弁時期Texcに一致するように可変排気タイミング制御装置36を制御する。即ち、CPU91は、可変排気タイミング制御装置36のアクチュエータ36aに対して作動油の給排を指示する。その後、CPU91は、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
更に、CPU91は、所定時間が経過する毎に図10にフローチャートによって示した「補正係数決定ルーチン」を実行することにより、上述した第1補正係数k1及び第2補正係数k2を決定するようになっている。
従って、所定のタイミングになると、CPU91は、図10のステップ1000から処理を開始してステップ1010に進み、機関始動フラグXESの値が「0」であるか否かを判定する。上述したように、現時点での機関始動フラグXESの値は「0」であるので、CPU91はそのステップ1010にて「Yes」と判定してステップ1020に進む。
CPU91は、そのステップ1020にて、エキゾーストカムポジションセンサ75からの出力値に基づいて現時点における実排気弁閉弁時期Texcactを取得するとともに、図9のステップ940にて取得した排気弁目標閉弁時期Texcと、実排気弁閉弁時期Texcactと、の差である「弁開閉時期遅れ量ΔTexc」を算出する。なお、ここで、実排気弁閉弁時期Texcactは、上記同様、吸気上死点からの進角角度(°BTDC)にて表わされる。
次いで、CPU91は、ステップ1030に進み、現時点での冷却水温THWと、上記ステップ1020にて取得した弁開閉時期遅れ量ΔTexcと、を上述した第1補正係数テーブルMapk1(THW,ΔTexc)に適用することにより、第1補正係数k1を取得する。
次いで、CPU91は、ステップ1040に進み、燃料のエタノール濃度Cetha及び弁開閉時期遅れ量ΔTexcを上述した第2補正係数テーブルMapk2(Cetha,ΔTexc)に適用することにより、第2補正係数k2を取得する。その後、CPU91は、ステップ1095に進んで本ルーチンを一旦終了する。
更に、CPU91は、図11にフローチャートによって示した「燃料噴射制御ルーチン」を、任意の気筒のクランク角が吸気上死点前の所定クランク角度(例えば、吸気上死点前90度クランク角)θfに一致する毎に繰り返し実行するようになっている。これにより、CPU91は、最終燃料噴射量TAUの計算及び燃料噴射の指示を行う。このクランク角が吸気上死点前の所定クランク角θfに一致して吸気行程を迎える気筒は、以下「燃料噴射気筒」とも称呼される。なお、このクランク角θfは、クランク角θfから噴射される燃料が上記吹き返されるガスに衝突するような角度であることが好ましい。
従って、任意の気筒のクランク角度が上記所定クランク角θfになると、CPU91は、図11のステップ1100から処理を開始し、ステップ1110に進む。CPU91は、そのステップ1110にて、エアフローメータ71の出力値に基づいて吸入空気流量Gaを取得し、クランクポジションセンサ76の出力値に基づいて機関回転速度NEを取得し、上記と同様に冷却水温THW、吸気温度THA、及び、エタノール濃度Cethaを取得する。そして、CPU91は、取得されたそれらのパラメータを「それらのパラメータと燃料噴射量TAUとの関係」を予め定めた燃料噴射量テーブルMapTAU(Ga,NE,THW,THA,Cetha)に適用することにより、基礎燃料量TAUbaseを取得する。
次いで、CPU91は、ステップ1120に進み、機関始動フラグXESの値が「0」であるか否かを判定する。上述したように、現時点での機関始動フラグXESの値は「0」であるので、CPU91は、そのステップ1120にて「Yes」と判定してステップ1130に進む。
CPU91は、そのステップ1130にて、上記ステップ1110にて取得した燃料噴射量TAUbaseに、図10のステップ1030にて取得した第1補正係数k1及び図10のステップ1040にて取得した第2補正係数k2を乗算し、最終燃料噴射量TAUを取得する。これにより、燃料噴射量TAUbaseが弁開閉時期遅れ量ΔTexc及びエタノール濃度Cethaに応じて補正される。
次いで、CPU91は、ステップ1140に進み、最終燃料噴射量TAUの燃料を燃料噴射気筒に対応して設けられているインジェクタ39から噴射するよう、そのインジェクタ39に指示を与える。その後、CPU91は、ステップ1195に進んで本ルーチンを一旦終了する。
ここで、現時点にて、上述したように制御されている機関10が始動したと仮定する。このとき、CPU91は、所定のタイミングにて図9のステップ900から処理を開始すると、ステップ910に進む。上記仮定に従えば、現時点では機関10が始動しているので、機関回転速度NEは閾値回転速度NEthよりも大きい。従って、CPU91は、そのステップ910にて「No」と判定してステップ960に進み、機関始動フラグXESの値を「1」に設定する。次いで、CPU91は、ステップ995に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。即ち、このとき、ステップ930乃至ステップ950による可変吸気タイミング制御装置33の制御は実行されない。但し、実際には、CPU91は、排気弁目標閉弁時期Texcとして「微粒化指標値Atmzに無関係な所定の値」を設定し、ステップ950と同様な処理によって実排気弁閉弁時期Texcactと排気弁目標閉弁時期Texcとを一致させておく。
更に、このとき、CPU91は、所定のタイミングにて図10のステップ1000から処理を開始すると、ステップ1010に進む。上述したように、現時点での機関始動フラグXESの値は「1」であるので、CPU91は、そのステップ1010にて「No」と判定し、ステップ1095に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。即ち、このとき、ステップ1020乃至ステップ1040による補正係数の取得は実行されない。
更に、このとき、CPU91は、所定のタイミングにて図11のステップ1100から処理を開始すると、ステップ1110を経てステップ1120に進む。上記同様、現時点での機関始動フラグXESの値は「1」であるので、CPU91は、そのステップ1120にて「No」と判定してステップ1150に進む。CPU91は、そのステップ1150にて、最終燃料噴射量TAUに基礎燃料量TAUbaseを格納してステップ1140に進む。そして、CPU91は、最終燃料噴射量TAUの燃料を燃料噴射気筒に対応して設けられているインジェクタ39から噴射するよう、そのインジェクタ39に指示を与える。その後、CPU91は、ステップ1195に進んで本ルーチンを一旦終了する。即ち、このとき、基礎燃料量TAUbaseが最終燃料噴射量TAUとなる。
以上に説明したように、第1制御装置は、機関10に対して冷間始動が要求されてから機関10が始動するまでの期間、燃料の微粒化指標値Atmzに応じた排気弁目標閉弁時期Texcを決定する。更に、第1制御装置は、排気弁35の実排気弁閉弁時期Texcactが排気弁目標閉弁時期Texcと一致するように、可変吸気タイミング制御装置33を制御する。加えて、第1制御装置は、排気弁の弁開閉時期遅れ量ΔTexc(排気弁目標閉弁時期Texcと実排気弁閉弁時期Texcactとの差)及び燃料のエタノール濃度Cetha等に応じ、燃料噴射量(基礎燃料量TAUbase)を補正する。そして、第1制御装置は、機関10が始動した後、上述した排気弁閉弁時期の制御及び燃料噴射量の補正を中止する。
即ち、第1制御装置は、
内燃機関10の吸気通路内に燃料を噴射する燃料噴射手段(インジェクタ39)を備えた内燃機関に適用される。
第1制御装置は、
前記燃料噴射手段39から噴射される燃料の基礎となる量である基礎燃料量TAUbaseを前記機関10の運転状態を表す第1の運転パラメータに基づいて決定する燃料噴射量決定手段(図11のステップ1110)と、
前記機関10の吸気弁32の開弁時期及び前記機関10の排気弁35の閉弁時期のうちの少なくとも一方である弁開閉時期を目標弁開閉時期(本例においては、排気弁目標閉弁時期Texc)に一致させるように制御するバルブタイミング制御手段(図9のルーチンを参照。)と、
前記機関10の運転状態を表す第2の運転パラメータに基づいて前記燃料噴射手段39から噴射される燃料の微粒化のし易さの程度を表す微粒化指標値Atmzを取得する微粒化指標値取得手段(図9のステップ930)と、
排気行程の開始時期に前記機関10の燃焼室25内に存在するガスの少なくとも一部が同燃焼室25から前記吸気通路41に吹き返されるように前記目標弁開閉時期(排気弁目標閉弁時期Texc)を決定するバルブタイミング決定手段(図9のステップ940)と、
を備える。
第1制御装置において、
前記バルブタイミング決定手段は、
前記微粒化指標値Atmzによって示される前記燃料の微粒化のし易さの程度が小さくなるほど前記吸気通路41に吹き返されるガスによって前記吸気通路41内にて前記燃料がより多く微粒化されるように前記目標弁開閉時期(排気弁目標閉弁時期Texc)を決定し(図9のステップ940)、
前記燃料噴射量決定手段は、
前記弁開閉時期の実際の時期である実弁開閉時期(本例においては、実排気弁閉弁時期Texcact)と前記目標弁開閉時期との差を表す弁開閉時期遅れ量ΔTexcに基づいて前記基礎燃料量TAUbaseを補正することによって前記燃料噴射手段39から実際に噴射される最終的な燃料の量TAUを決定するように構成される(図10のステップ1020及びステップ1030、並びに、図11のステップ1130)。
このように、第1制御装置は、弁開閉時期遅れ量に応じて燃料噴射量を補正(増量補正)することにより、応答遅れ期間中に混合気に含まれる燃料の量が不足することを回避することができる。従って、第1制御装置は、機関10を早期に冷間始動することができる。更に、機関10が早期に始動するので、無効燃料の消費量を低減することができる。
(第2実施形態)
以下、本発明の第2実施形態に係る制御装置(以下、「第2制御装置」とも称呼する。)について説明する。第2制御装置は、第1制御装置が適用される機関10と同様の内燃機関に適用される。従って、第2制御装置が適用される内燃機関についての詳細な説明は、省略する。
次に、第2制御装置の作動について説明する。第2制御装置は、第1制御装置と同様の「吸気通路への吹き返しガスによる燃料の微粒化促進制御」を採用する。即ち、第2制御装置は、先ず、機関10の運転状態に基づいて燃料の微粒化のし易さの程度を表す「微粒化指標値Atmz」を取得する。そして、第2制御装置は、その微粒化指標値Atmzに応じて負のオーバーラップ期間OLnを調整することにより(即ち、微粒化能力を変更することにより)燃料の微粒化を適正化する。より具体的には、第2制御装置は、第1制御装置と同様、吸気弁開弁時期を「吸気上死点よりも僅かな所定角度だけ進角された時期」に固定するとともに、「排気弁閉弁時期」を変更する。更に、第2制御装置は、第1制御装置と同様、「弁開閉時期遅れ量ΔTexc」に応じて基礎燃料量TAUbaseを補正することによって最終的な燃料噴射量TAUを取得(算出)する。
更に、第2制御装置は、この取得(算出)された燃料噴射量TAUが過度に大きくなる可能性が高い場合(即ち、弁開閉時期遅れ量ΔTexcが過度に大きい場合)、燃料の噴射を「停止」する。より具体的には、第2制御装置は、機関10の運転状態に基づいて「燃料噴射量TAUが過度に増大すると判断することができる弁開閉時期遅れ量ΔTexcの値」である「応答遅れ閾値ΔTexcth」を決定するとともに、この応答遅れ閾値ΔTexcthよりも弁開閉時期遅れ量ΔTexcが大きい場合には燃料の噴射を停止する。これにより、過度に増量された燃料が噴射されることを回避することができる。従って、第2制御装置は、機関が冷間始動するまでに消費される燃料の量を更に低減することができる。以下、第2制御装置の実際の作動の説明を行う前に、第2制御装置が採用した「応答遅れ閾値ΔTexcthの決定方法」について説明する。
<応答遅れ閾値の決定>
第2制御装置は、図12に示した応答遅れ閾値テーブルMapΔTexcth(THW,Cetha)を用いて応答遅れ閾値ΔTexcthを決定する。より具体的に述べると、第2制御装置は、図12に示した応答遅れ閾値テーブルMapΔTexcth(THW,Cetha)をROM92内に記憶している。この応答遅れ閾値テーブルMapΔTexcth(THW,Cetha)は、「冷却水温THW及びエタノール濃度Cethaと、応答遅れ閾値ΔTexcthと、の関係」を実験によるデータに基づいて予め定めたルックアップテーブル(2入力1出力型)である。第2制御装置は、センサの出力値等から取得された実際の「冷却水温THW及びエタノール濃度Cetha」を応答遅れ閾値テーブルMapΔTexcth(THW,Cetha)に適用することにより、応答遅れ閾値ΔTexcthを取得するようになっている。なお、この応答遅れ閾値テーブルMapΔTexcth(THW,Cetha)においては、応答遅れ閾値ΔTexcthは、「排気弁目標閉弁時期Texcと実排気弁閉弁時期Texcactとの角度差(°CA)」にて表されている。
図12において、数値「100」が付された実線は、エタノール濃度Cethaが100%である場合(即ち、燃料がガソリンを全く含まないエタノールのみからなる場合)における冷却水温THWと応答遅れ閾値ΔTexcthとの関係を示す。同様に、数値「β(=80、50、0)」が付された実線はエタノール濃度Cethaがβ%である場合における冷却水温THWと応答遅れ閾値ΔTexcthとの関係を示す。なお、「エタノール濃度Cethaが0%である」ことは、「燃料がエタノールを全く含まないガソリンのみからなる」ことを意味する。
更に、「一のエタノール濃度を表す実線」と「その一の実線に隣接する他のエタノール濃度を表す実線」との間における「冷却水温THWと応答遅れ閾値ΔTexcthとの関係」は、その一の実線の値の示すそれらの関係と他の実線の示すそれらの関係とに基づいて補間(例えば、周知の直線補間)されることにより求められる。
応答遅れ閾値テーブルMapΔTexcth(THW,Cetha)によれば、冷却水温THWが小さくなるほど応答遅れ閾値ΔTexcthは小さくなるように求められる。これは、燃料が微粒子化し難い状況であるほど、同じ弁開閉時期遅れ量であっても燃料噴射量の増量分が大きくなるからである。同様の理由により、応答遅れ閾値テーブルMapΔTexcth(THW,Cetha)によれば、エタノール濃度Cethaが小さくなるほど応答遅れ閾値ΔTexcthは大きくなるように求められる。
<実際の作動>
以下、第2制御装置の実際の作動について説明する。第2制御装置は、そのCPU91が、図11に示すフローチャートに代わる図13のフローチャートに示す処理を実行する点についてのみ、第1制御装置と相違している。従って、以下、「現時点にて、機関10の操作者が機関10を始動するための操作を行った(図示しないイグニッション・キー・スイッチが始動位置へと回動され、機関10に冷間始動が要求された)」と仮定するとともに、第1制御装置と第2制御装置との相違点を中心として説明を続ける。
第2制御装置は、第1制御装置と同様、図9及び図10にフローチャートにより示した各ルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行する。即ち、第2制御装置は、現時点における冷却水温THW、エタノール濃度Cetha及び吸気温度THAに基づき、微粒化指標値Atmzを取得する。そして、第2制御装置は、この微粒化指標値Atmzに基づいて排気弁目標閉弁時期Texcを取得し、この排気弁目標閉弁時期Texcと実排気弁閉弁時期Texcactが一致するように可変吸気タイミング制御装置を制御する。更に、第2制御装置は、この排気弁目標閉弁時期Texcと実排気弁閉弁時期Texcactとの差(弁開閉時期遅れ量ΔTexc)及びエタノール濃度Cethaに基づき、燃料噴射量TAUbaseを補正するための第1補正係数k1及び第2補正係数k2を取得する。なお、上記仮定に従えば、CPU91は、図9のステップ910にて「Yes」と判定してステップ920に進み、同ステップ920の処理を実行する。即ち、現時点において、機関始動フラグXESの値は「0」である。
更に、CPU91は、図13にフローチャートによって示した「燃料噴射制御ルーチン」を、任意の気筒のクランク角が吸気上死点前の所定クランク角度(例えば、吸気上死点前90度クランク角)θfに一致する毎に繰り返し実行するようになっている。これにより、CPU91は、最終燃料噴射量TAUの計算及び燃料噴射の指示を行う。図13に示したルーチンは、ステップ1310及びステップ1320が追加されている点のみにおいて図11に示したルーチンと相違している。そこで、図13において図11に示したステップと同一の処理を行うためのステップには、図11のそのようなステップに付された符号と同一の符号が付されている。これらのステップについての詳細な説明は適宜省略される。
即ち、任意の気筒のクランク角度が上記所定クランク角θfになると、CPU91は、図13のステップ1300から処理を開始してステップ1110に進み、現時点での吸入空気流量Ga、機関回転速度NE、冷却水温THW、吸気温度THA、及び、エタノール濃度Cethaを取得するとともに、それらを上述した燃料噴射量テーブルMapTAU(Ga,NE,THW,THA,Cetha)に適用することにより、基礎燃料量TAUbaseを取得する。次いで、CPU91は、ステップ1120に進む。上述したように、現時点での機関始動フラグXESの値は「0」であるので、CPU91はそのステップ1120にて「Yes」と判定してステップ1130に進む。
CPU91は、そのステップ1130にて、第1補正係数k1及び第2補正係数k2によって基礎燃料量TAUbaseを補正して最終燃料噴射量TAUを取得する。次いで、CPU91は、ステップ1310に進む。
CPU91は、そのステップ1310にて、現時点での冷却水温THW及びエタノール濃度Cethaを取得するとともに、それらを上述した応答遅れ閾値テーブルMapΔTexcth(THW,Cetha)に適用することにより、応答遅れ閾値ΔTexcthを取得する。次いで、CPU91は、ステップ1320に進み、現時点での弁開閉時期遅れ量ΔTexcが上記ステップ1310にて取得した応答遅れ閾値ΔTexcthよりも小さいか否かを判定する。
ここで、現時点は上述した「実排気弁閉弁時期Texcactと排気弁目標閉弁時期Texcとを一致させる制御(図9のステップ950を参照。)」が開始された直後であり、弁開閉時期遅れ量ΔTexcが応答遅れ閾値ΔTexcth以上であると仮定する。本仮定に従えば、CPU91は、そのステップ1320にて「No」と判定し、ステップ1395に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。即ち、このとき、ステップ1140による燃料噴射が実行されない。
その後、時間の経過に伴って弁開閉時期遅れ量ΔTexcが小さくなり、弁開閉時期遅れ量ΔTexcが応答遅れ閾値ΔTexcthよりも小さくなったと仮定する。このとき、CPU91は、図13のステップ1300から処理を開始すると、ステップ1110乃至ステップ1130、及び、ステップ1310を経てステップ1320に進む。上記仮定に従えば、CPU91は、そのステップ1320にて「Yes」と判定し、ステップ1140に進む。そして、最終燃料噴射量TAUの燃料を燃料噴射気筒に対応して設けられているインジェクタ39から噴射するよう、そのインジェクタ39に指示を与える。その後、CPU91は、ステップ1395に進んで本ルーチンを一旦終了する。
以上、説明したように、第2制御装置は、第1制御装置と同様、機関10に対して冷間始動が要求されてから機関10が始動するまでの期間、燃料の微粒化指標値Atmzに応じ排気弁目標閉弁時期Texcを決定する。そして、第2制御装置は、排気弁35の実排気弁閉弁時期Texcactが排気弁目標閉弁時期Texcと一致するように、可変吸気タイミング制御装置33を制御する。更に、第2制御装置は、排気弁の弁開閉時期遅れ量ΔTexc(排気弁目標閉弁時期Texcと実排気弁閉弁時期Texcactとの差)及び燃料のエタノール濃度Cethaに応じ、燃料噴射量(基礎燃料量TAUbase)を補正する。加えて、第2制御装置は、弁開閉時期遅れ量ΔTexcが所定の応答遅れ閾値ΔTexcthより小さい場合にのみ、燃料噴射を実行する。
即ち、第2制御装置は、
上記第1制御装置の構成に加え、
前記弁開閉時期遅れ量ΔTexcが所定の応答遅れ閾値ΔTexcth以上であるとき(図13のステップ1320にて「No」と判定されているとき)、前記燃料噴射手段39から燃料が噴射されることを停止する燃料噴射停止手段(図13のステップ1320)を備える。
更に、この燃料噴射停止手段は、
「前記機関10の冷却水温THWが低いほど」又は「前記燃料に含まれるアルコールの含有割合Cethaが大きいほど」前記応答遅れ閾値ΔTexcthが小さくなるように同応答遅れ閾値ΔTexcthを決定するように構成されている(図12の応答遅れ閾値テーブルMapΔTexcth(THW,Cetha)、及び、図13のステップ1310を参照。)。
これにより、燃料噴射量が過度に増量補正されることを回避することができるので、機関が冷間始動するまでに消費される燃料の量を更に低減することができる。
第2制御装置は、冷却水温THW及びエタノール濃度Cethaに基づいて応答遅れ閾値ΔTexcthを取得している。しかし、本発明の制御装置は、前記微粒化指標値Atmzによって示される前記燃料の微粒化のし易さの程度が小さくなるほど前記応答遅れ閾値ΔTexcthが小さくなるように同応答遅れ閾値ΔTexcthを決定するように構成されてもよい。また、応答遅れ閾値ΔTexcthは一定値であってもよい。更に、第2制御装置は、上述したように決定された応答遅れ閾値ΔTexcthを機関の運転パラメータ(例えば、吸気温度及び燃料温度等)に応じた補正係数にて補正するように構成されてもよい。
(第3制御装置)
以下、本発明の第3実施形態に係る制御装置(以下、「第3制御装置」とも称呼する。)について説明する。第3制御装置は、第1制御装置が適用される機関10と同様の機関に適用される。従って、第3制御装置が適用される機関についての詳細な説明は、省略する。
次に、第3制御装置の作動について説明する。第3制御装置は、先ず、第1制御装置と同様に機関10の運転状態に基づいて燃料の微粒化のし易さの程度を表す「微粒化指標値Atmz」を取得する。そして、第3制御装置は、その微粒化指標値Atmzに基づいて「燃料の噴射を実行し得る燃料温度の範囲の下限値」である「燃料温度閾値Tfuelth」を決定する。この燃料温度閾値Tfuelthは、微粒化指標値Atmzにより示される「燃料の微粒化のし易さの程度」が小さくなるほど(即ち、燃料が微粒化し難いほど)大きくなるように決定される。
第3制御装置は、この燃料温度閾値Tfuelthよりも実際の燃料温度Tfuelが低い場合、燃料の噴射を「停止」するとともに燃料を「加熱」する。そして、第3制御装置は、この加熱によって燃料温度Tfuelが燃料温度閾値Tfuelthにまで上昇した後、燃料の噴射を実行する。これにより、低温環境下において微粒化し難い燃料成分を含む燃料を用いた場合であっても、燃料を加熱してその温度を上昇させることにより燃料の微粒化を適正化することができるので、機関10を速やかに冷間始動させることができる。従って、第3制御装置は、機関10の始動性能を向上することができる。
<実際の作動>
以下、第3制御装置の実際の作動について説明する。CPU91は、図14及び図15にフローチャートにより示した各ルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行するようになっている。以下、「現時点にて、機関10の操作者が機関10を始動するための操作を行った(図示しないイグニッション・キー・スイッチが始動位置へと回動され、機関10に冷間始動が要求された)」と仮定して説明を続ける。
CPU91は、所定時間が経過する毎に図14にフローチャートによって示した「燃料加熱制御ルーチン」を実行するようになっている。CPU71は、このルーチンにより、燃料を加熱する必要があるか否かを判定するとともに、燃料を加熱する必要があると判定した場合には燃料の加熱を実行する。図14に示したルーチンは、機関回転速度NEに基づいて機関10が始動しているか否かを判定する点、及び、機関の運転状態に基づいて微粒化指標値Atmzを決定する点について、図9と同様の処理を行う。そこで、図14において図9に示したステップと同一の処理を行うためのステップには、図9のそのようなステップに付された符号と同一の符号が付されている。これらのステップについての詳細な説明は適宜省略される。
従って、所定のタイミングになると、CPU91は、図14のステップ1400から処理を開始してステップ910に進む。上記仮定に従えば、現時点は機関10に対して冷間始動が要求された直後であるので、図示しないスタータによってクランキングが開始された直後である。従って、機関10は未だ始動していない。即ち、機関回転速度NEは閾値回転速度NEth以下である。従って、CPU91は、そのステップ910にて「Yes」と判定してステップ920に進んで、機関始動フラグXESの値を「0」に設定する。
次いで、CPU91は、ステップ930に進んで、冷却水温THW及びエタノール濃度Cethaを上述した微粒化指標値テーブルMapAtmz(THW,Cetha,THA)に適用することにより、現時点における微粒化指標値Atmzを取得する。
そして、CPU91は、ステップ1420に進み、「微粒化指標値Atmzと燃料温度閾値Tfuelthとの関係」を予め定めた燃料温度閾値テーブルMapTfuelth(Atmz)に上記ステップ930にて取得した微粒化指標値Atmzを適用することにより、燃料温度閾値Tfuelthを取得する。以下、このステップ1420につき、より詳細に説明する。
上述したように、第3制御装置は、燃料を加熱することによって燃料の微粒化を適正化する。そこで、第3制御装置は、微粒化指標値Atmzが小さいほど(即ち、燃料が微粒化し難いほど)燃料がより高い温度にまで加熱されるように燃料温度閾値Tfuelthを決定する。具体的には、ステップ1420の燃料温度閾値テーブルMapTfuelth(Atmz)に示すように、燃料温度閾値Tfuelthは、微粒化指標値Atmzが小さくなるにつれて大きくなるように決定される。
上述したように燃料温度閾値Tfuelthを取得した後、CPU91は、ステップ1425に進んで現時点での実際の燃料温度Tfuelが上記ステップ1420にて取得した燃料温度閾値Tfuelthよりも小さいか否かを判定する。実際の燃料温度Tfuelは、燃料供給管62に備えられた図示しない燃料温度センサの出力値に基づいて取得される。ここで、現時点では実際の燃料温度Tfuelが燃料温度閾値Tfuelthよりも小さいと仮定する。本仮定に従えば、CPU91は、そのステップ1425にて「Yes」と判定してステップ1430に進み、燃料の加熱を実行する。即ち、CPU91は、燃料加熱装置63に燃料を加熱するよう指示を与える。
次いで、CPU91は、ステップ1435に進み、燃料加熱フラグXFHの値を「1」に設定する。燃料加熱フラグXFHは、その値が「1」であるとき燃料の加熱が実行されていることを表し、その値が「0」であるとき燃料の加熱が実行されていないことを表す。なお、燃料加熱フラグXFHの値は、上記イニシャルルーチンにおいて「0」に設定されようになっている。その後、CPU91は、ステップ1495に進んで本ルーチンを一旦終了する。
更に、CPU91は、図15にフローチャートによって示した「燃料噴射制御ルーチン」を、任意の気筒のクランク角が吸気上死点前の所定クランク角度(例えば、吸気上死点前90度クランク角)θfに一致する毎に繰り返し実行するようになっている。これにより、CPU91は、燃料噴射量TAUの計算及び燃料噴射の指示を行う。
従って、任意の気筒のクランク角度が上記所定クランク角θfになると、CPU91は、図15のステップ1500から処理を開始し、ステップ1510に進む。CPU91は、そのステップ1510にて、第1制御装置と同様に取得した吸入空気流量Ga、機関回転速度NE、冷却水温THW、吸気温度THA、及び、エタノール濃度Cethaを、それらに対する燃料噴射量TAUの関係を予め定めた燃料噴射量テーブルMapTAU(Ga,NE,THW,THA,Cetha)に適用することにより、燃料噴射量TAUを取得する。
次いで、CPU91は、ステップ1520に進み、機関始動フラグXESの値が「0」であるか否かを判定する。上述したように、現時点での機関始動フラグXESの値は「0」であるので、CPU91は、そのステップ1520にて「Yes」と判定してステップ1530に進む。
CPU91は、ステップ1530にて、燃料加熱フラグXFHの値が「0」であるか否かを判定する。上述したように、現時点での燃料加熱フラグXFHの値は「1」であるので、CPU91は、そのステップ1530にて「No」と判定してステップ1595に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。即ち、このとき、ステップ1540の処理が実行されないので、燃料は噴射されない。
ここで、燃料の加熱が継続され、時間の経過に伴って実際の燃料温度Tfuelが燃料温度閾値Tfuelth以上になったと仮定する。このとき、CPU91は、図14のステップ1400から処理を開始すると、ステップ910乃至ステップ930、及び、ステップ1420を経てステップ1425に進む。上記仮定に従えば、CPU91は、そのステップ1425にて「No」と判定してステップ1440に進み、燃料の加熱を停止する。即ち、CPU91は、燃料加熱装置63に燃料の加熱を停止するよう指示を与える。次いで、CPU91は、ステップ1445に進んで燃料加熱フラグXFHの値を「0」に設定する。その後、CPU91は、ステップ1495に進んで本ルーチンを一旦終了する。
このとき、CPU91は、図15のステップ1500から処理を開始すると、ステップ1510及びステップ1520を経てステップ1530に進む。上述したように、現時点での燃料加熱フラグXFHの値は「0」であるので、CPU91は、そのステップ1530にて「Yes」と判定してステップ1540に進む。次いで、CPU91は、そのステップ1540にて、燃料噴射量TAUの燃料を燃料噴射気筒に対応して設けられているインジェクタ39から噴射するよう、そのインジェクタ39に指示を与える。この指示に応じて燃料の噴射が開始される。その後、CPU91は、ステップ1595に進んで本ルーチンを一旦終了する。
ここで、上述したように燃料が噴射され、機関10が始動したと仮定する。このとき、CPU91は、所定のタイミングにて図14のステップ1400から処理を開始してステップ910に進む。上記仮定に従えば、現時点では機関10が始動しているので、機関回転速度NEは閾値回転速度NEthよりも大きい。従って、CPU91は、そのステップ910にて「No」と判定してステップ960に進み、機関始動フラグXESの値を「1」に設定する。次いで、CPU91は、ステップ1495に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。即ち、このとき、ステップ1415乃至ステップ1430に示す処理は実行されないので、燃料の加熱が停止された状態が維持される。
更に、このとき、CPU91は、所定のタイミングにて図15のステップ1500から処理を開始すると、ステップ1510を経てステップ1520に進む。上述したように、現時点での機関始動フラグXESの値は「1」であるので、CPU91は、そのステップ1520にて「No」と判定し、ステップ1540に進んで燃料噴射量TAUの燃料を燃料噴射気筒に対応して設けられているインジェクタ39から噴射するよう、そのインジェクタ39に指示を与える。その後、CPU91は、ステップ1595に進んで本ルーチンを一旦終了する。即ち、このとき、ステップ1530に示す処理が実行されないので、燃料噴射量TAUの燃料が必ず噴射される。
以上に説明したように、第3制御装置は、機関10に対して冷間始動が要求されてから機関10が始動するまでの期間、燃料の微粒化指標値Atmzに応じた燃料温度閾値Tfuelthを決定する。そして、第3制御装置は、実際の燃料温度Tfuelが燃料温度閾値Tfuelthよりも低いとき、燃料を加熱するとともに燃料の噴射を停止する。更に、第3制御装置は、この加熱によって燃料温度Tfuelが燃料温度閾値Tfuelth以上となったとき、燃料の加熱を停止するとともに、燃料の噴射を開始する。加えて、第3制御装置は、機関10が始動した後、上述した燃料の加熱を実行しない。
即ち、第3制御装置は、
内燃機関10の吸気通路内に燃料を噴射する燃料噴射手段(インジェクタ39)を備えた内燃機関に適用される。
第3制御装置は、
前記燃料噴射手段39から噴射される燃料の量である燃料噴射量TAUを前記機関10の運転状態を表す(上記第1の運転パラメータと同様の)第3の運転パラメータに基づいて決定する燃料噴射量決定手段(図15のステップ1510)と、
前記機関10の運転状態を表す第4の運転パラメータに基づいて前記燃料噴射手段39から噴射される燃料の温度の閾値である燃料温度閾値Tfuelthを取得する燃料温度閾値取得手段(図14のステップ1420)と、
前記燃料の温度を調整する燃料温度調整手段(図14のステップ1425、ステップ1430及びステップ1440)と、
を備える。
第3制御装置において、
前記燃料温度調整手段は、
前記燃料温度閾値Tfuelthよりも実際の燃料温度Tfuelが小さいとき(図14のステップ1425にて「Yes」と判定されたとき)、燃料を加熱し(図14のステップ1430)、
前記燃料噴射手段は、
前記燃料温度閾値Tfuelthよりも実際の燃料温度Tfuelが小さいとき(図14のステップ1425にて「Yes」と判定され、ステップ1435にて燃料加熱フラグXFHの値が「1」に設定されているとき)、燃料の噴射を停止する(図15のステップ1530及びステップ1540を参照。)ように構成される。
このように、第3制御装置は、燃料温度が所定の燃料温度閾値よりも小さいとき、燃料の噴射を停止するとともに燃料を加熱する。これにより、燃料の温度が上昇するので、その燃料の微粒化が適正化される。更に、燃料の噴射を停止して燃料の加熱を行うので、燃料の温度を速やか上昇させることができる。従って、機関を早期に冷間始動することができる。その結果、無効燃料の消費量を低減することができる。
上述したように、第3制御装置は、燃料供給管62上に設けられた燃料加熱装置63によって燃料を加熱している。しかし、本発明の制御装置は、燃料噴射装置(インジェクタ39)を加熱することによって燃料を加熱するように構成されてもよい。
本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、可変吸気タイミング制御装置33は、吸気弁32の開閉時期に加え、吸気弁32のリフト量を連続的に変更可能に構成されてもよい。同様に、可変排気タイミング制御装置36は、排気弁35の開閉時期に加え、排気弁35のリフト量を連続的に変更可能に構成されてもよい。
更に、本発明の制御装置は、例えば、冷却水温THW及び吸気温度THA等から目標空燃比afrを定め、吸入空気流量Ga及び機関回転速度NEから筒内吸入空気量Mc(一つの気筒が一回の吸気行程において吸入する吸入空気量)を求め、その筒内吸入空気量Mcを目標空燃比afrにより除することによって基礎となる燃料噴射量(第1制御装置及び第2制御装置における基礎燃料量TAUbase、並びに、第3制御装置における燃料噴射量TAU)を求めるように構成されてもよい。この場合、エタノール濃度Cethaにより理論空燃比の値が変化するから、この基礎となる燃料噴射量をエタノール濃度Cethaに応じて補正してもよい。
加えて、上述した各制御装置は、燃料噴射量を、所定の運転パラメータ(即ち、吸入空気流量Ga、機関回転速度NE、冷却水温THW、吸気温度THA、及び、エタノール濃度Cetha)に基づいて決定している。しかし、本発明の制御装置は、燃料噴射量を「この運転パラメータと、スロットルポジションセンサ73の出力値に基づいて取得されるスロットル弁開度TA、アクセル開度センサ81の出力値に基づいて取得されるアクセルペダル開度Accp、車速センサ82の出力値に基づいて取得される車速SPDシフト位置センサ83の出力値に基づいて取得されるシフト位置P、並びに、機関の負荷(例えば、ある気筒の一回の吸気行程にてその気筒に吸入される空気量である筒内吸入空気量Mc、スロットル弁開度TA、アクセルペダル操作量Accp及び充填率KL等)と、からなるパラメータ群」のうちの一つ又は複数に基づいて決定するように構成されてもよい。
更に、上述した各制御装置は、吸気弁の開弁時期を「吸気上死点よりも僅かな所定角度だけ進角された時期」に固定するとともに、排気弁の目標閉弁時期を微粒化指標値に基づいて決定している。しかし、本発明の制御装置は、排気弁の閉弁時期を所定の時期に固定するとともに、吸気弁の開弁時期を微粒化指標値Atmzに基づいて決定するように構成されてもよい。更に、本発明の制御装置は、微粒化指標値に応じて「吸気弁の目標開弁時期」及び「排気弁の目標閉弁時期」の双方を決定するように構成されてもよい。「吸気弁の目標開弁時期」及び「排気弁の目標閉弁時期」のうちのいずれか一方を固定する場合、その固定値は、「吸気上死点よりも僅かな所定角度だけ進角された時期」に限られず、例えば「吸気上死点−10°」から「吸気上死点+10°」までの範囲内の値とすることができる。
更に、本発明の制御装置は、上述したように、正のオーバーラップ期間の長さ及び正のオーバーラップ期間が存在する時期、並びに、負のオーバーラップ期間の長さ及び負のオーバーラップ期間が存在する時期、のいずれかを制御することにより、吹き返されたガスによる微粒化能力を変更するように構成されてもよい。