以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。転造ダイスは、円柱状の軸状素材として構成された被転造素材の外周面を塑性変形させて、外周面上に凸設されるスプライン歯51(図2参照)及び盛り上げ歯52(図2参照)が形成されたスプライン軸50A(図2参照)を転造加工により転造するための工具であり、一対の転造平ダイス1(図1参照)を備えて構成され、それら一対の転造平ダイス1の内の一方が転造盤(図示せず)に固定され他方がその一方の転造ダイス1に対して平行移動される。
まず、図1を参照して、転造平ダイス1について説明する。図1は、本発明の第1実施の形態における転造平ダイス1を説明する図であり、図1(a)及び図1(b)は、それぞれ転造平ダイス1の正面図および側面図であり、図1(c)は、図1(a)のIc−Ic線における転造平ダイス1の断面図である。
なお、図1(a)では、スプライン加工歯12、第1盛上げ加工歯13及び第2盛上げ加工歯14の山頂線を実線で図示する一方、谷底線を山頂よりも細い実線で図示している。また、図1(a)及び図1(b)では、図面の簡素化のため、第1盛上げ加工歯13及び第2盛上げ加工歯14の間に配設されるスプライン加工歯12の数を省略して図示すると共に、スプライン加工歯12、第1盛上げ加工歯13及び第2盛上げ加工歯14を転造平ダイス1に対して拡大して図示している。また、同様に図面の簡素化のため、第1転造歯形面11上に配設されるスプライン加工歯12、第1盛上げ加工歯13及び第2盛上げ加工歯14の総数を省略して図示している。
転造平ダイス1は、転造に適した合金工具鋼または高速度工具鋼等の金属材料から略直方体状に形成されており、図1(a)及び図1(b)に示すように、その一面側(図1(a)紙面手前側および図1(b)上側)には、被転造素材の外周面にスプライン歯51の転造を行うための転造歯形面11が設けられている。
転造歯形面11には、図1(a)及び図1(b)に示すように、転造平ダイス1の転造方向始端側(図1(a)右側および図1(b)右側)から終端側(図1(a)左側および図1(b)左側)へ向けて、食付き部11a、仕上げ部11bおよび逃げ部11cが順に連続して設けられている。
食付き部11aは、転造平ダイス1の転造歯形面11を被転造素材の外周面に食い付かせる為の部位であり、いわゆる食付き部として用いられる。この食付き部11aは、図1(b)に示すように、転造平ダイス1の転造方向始端側(図1(a)及び図1(b)右側)から仕上げ部11b側(図1(a)及び図1(b)左側)へ向けて所定の傾斜角で上昇傾斜(図示せず)して形成されている。
仕上げ部11bは、食付き部11aによって被転造素材に転造されたスプライン歯51(図2参照)及び盛り上げ歯52(図2参照)を仕上げるための部位であり、図1(b)に示すように、転造平ダイス1の支持面(図1(b)下側面)に対して略平行に形成されている。
逃げ部11cは、仕上げ部11bにより仕上げられた被転造素材を第1ダイス1の転造歯形面11から排出するための部位であり、いわゆる逃げ部として用いられている。この逃げ部11cは、図1(b)に示すように、仕上げ部11bの終端から転造平ダイス1の転造方向終端(図1(b)左側)へ向けて所定の傾斜角で下降傾斜(図示せず)して形成されている。
これら食付き部11a、仕上げ部11b及び逃げ部11cで構成された転造歯形面11には、図1(a)及び図1(b)に示すように、複数のスプライン加工歯12、第1盛上げ加工歯13及び第2盛上げ加工歯14が刻設されている。
また、スプライン加工歯12、第1盛上げ加工歯13及び第2盛上げ加工歯14は、等ピッチに配設されており、隣接される複数(本実施の形態では20個)のスプライン加工歯12と、それら複数のスプライン加工歯12の端に位置するスプライン加工歯12に隣接される1個の第2盛上げ加工歯14と、その第2盛上げ加工歯14に隣接される1個の第1盛上げ加工歯13との組み合わせを1組として、その1組の隣接方向(図1(a)左右方向)の長さが被転造素材の外周1周とほぼ同等の長さに構成され、この組み合わせが第1転造歯形面11上に繰り返し刻設されている。
これら複数のスプライン加工歯12、第1盛上げ加工歯13及び第2盛上げ加工歯14は、一対の転造平ダイス1の間で挟圧される被転造素材をスプライン軸50A(図2参照)へと転造するための加工歯であり、それぞれ食付き部11aの始端(図1(a)右側および図1(b)右側)から逃げ部11cの終端(図1(a)左側および図1(b)左側)へ向けて連続すると共に転造平ダイス1の転造方向(図1(a)右側から左側に向かう方向および図1(b)右側から左側に向かう方向)に対して直交する方向(図1(a)上下方向および図1(b)紙面垂直方向)に延設されている。
スプライン加工歯12は、被転造素材へスプライン歯51(図2参照)を転造する加工歯であり、図1(c)に示すように、加工歯フランク面12aと、加工歯フランク面12bと、歯先12dとを備えている。
加工歯フランク面12aは、スプラインフランク面51a(図2参照)に形状が転写されるフランク面として構成されると共に転造方向始端側(図1(c)右側)に面して配設されている。
加工歯フランク面12bは、スプラインフランク面51b(図2参照)に形状が転写されるフランク面として構成され、加工歯フランク面12aの反対側(図1(c)右側)で且つ転造方向終端側(図1(c)左側)に面して配設されている。
歯先12dは、加工歯フランク面12bと加工歯フランク面12aとを接続する平坦面であり、スプライン加工歯12の歯先を形成している。
第1盛上げ加工歯13は、主に、スプライン歯51(図2参照)の一部および盛り上げ歯52(図2参照)の一部を転造する加工歯であり、図1(c)に示すように、第1フランク面13aと、第1フランク面13bと、第1盛上げフランク面13cと、歯先13dとを備えている。
第1フランク面13aは、スプラインフランク面53b(図2参照)及び盛り上げフランク面53c(図2参照)に対面されたスプラインフランク面51b(図2参照)に形状が転写されるフランク面として構成されると共に、図1(c)に示すように、転造方向終端側(図1(c)左側)に面して配設されている。
第1フランク面13b及び第1盛上げフランク面13cは、盛り上げ歯52(図2参照)のスプラインフランク面53b(図2参照)及び盛り上げフランク面53c(図2参照)に形状が転写されるフランク面として構成されると共に転造方向始端側(図1(c)右側)に面して配設されている。
歯先13dは、第1フランク面13aと第1フランク面13b、及び、第1フランク面13aと、第1盛上げフランク面13cとを接続する平坦面であり、第1盛上げ加工歯13の歯先を形成している。
また、第1盛上げ加工歯13の歯すじ方向視(図1(c)紙面垂直方向視)において、第1盛上げフランク面13cは、第1フランク面13bより第1フランク面13a側(図1(c)左側)に配設されると共に第1フランク面13bに対して平行とされている。
即ち、第1盛上げフランク面13cは、請求項1記載の「基準加工歯のフランク面より後退して形成される部分」に対応し、第1フランク面13bは、請求項1記載の「基準加工歯のフランク面と同等に形成される部分」に対応する。
また、第1盛上げフランク面13cの表面粗さは、加工歯フランク面12a,12b、第1フランク面13a,13b及び第2フランク面14a,14bのそれぞれの表面粗さよりも粗くされている。
また、第1盛上げ加工歯13は、図1(a)に示すように、第1フランク面13b及び第1盛上げフランク面13cを備え、その第1フランク面13b及び第1盛上げフランク面13cは、それぞれ転造方向始端側(図1(c)右側)に面して配設されている。
また、第1盛上げ加工歯13の歯すじ方向視(図1(c)紙面垂直方向視)において、第1盛上げフランク面13cは、第1フランク面13bよりも第1フランク面13a側(図1(c)左側)で且つ第1フランク面13bに対して平行に配設されている。
第2盛上げ加工歯14は、図1(c)に示すように、第2フランク面14aと、第2フランク面14bと、第2盛上げフランク面14cと、歯先14dとを備えている。
第2フランク面14aは、スプラインフランク面54b(図2参照)及び盛り上げフランク面54c(図2参照)に対面されたスプラインフランク面51a(図2参照)に形状が転写されるフランク面として構成されると共に、図1(c)に示すように、転造方向始端側(図1(c)右側)に面して配設されている。
第2フランク面14b及び第2盛上げフランク面14cは、第1フランク面13b及び第1盛上げフランク面13cと同様に、盛り上げ歯52(図2参照)のスプラインフランク面54b(図2参照)及び盛り上げフランク面54c(図2参照)に形状が転写されるフランク面として構成されている。
歯先14dは、第2フランク面14aと第2フランク面14b、及び、第2フランク面14aと、第2盛上げフランク面14cとを接続する平坦面であり、第2盛上げ加工歯14の歯先を形成している。
また、第2盛上げ加工歯14の歯すじ方向視(図1(c)紙面垂直方向視)において、第2盛上げフランク面14cは、第1フランク面13bより第2フランク面14a側(図1(c)右側)に配設されると共に第2フランク面14bに平行とされている。
即ち、第2盛上げフランク面14cは、請求項1記載の「基準加工歯のフランク面より後退して形成される部位」に対応し、第2フランク面14bは、請求項1記載の「基準加工歯のフランク面と同等に形成される部分」に対応する。
また、第2盛上げフランク面14cの表面粗さは、加工歯フランク面12a,12b、第1フランク面13a,13b及び第2フランク面14a,14bの表面粗さよりも粗くされている。
上述したように、第1盛上げフランク面13c及び第2盛上げフランク面14cの表面粗さが加工歯フランク面12a,12b、第1フランク面13a,13b及び第2フランク面14a,14bの表面粗さよりも粗いので、転造平ダイス1にて後述するスプライン軸50A(図2参照)を転造した際には、盛り上げフランク面53c,54c(図2参照)の表面粗さがスプラインフランク面51a,51b(図2参照)、スプラインフランク面53b(図2参照)及びスプラインフランク面54b(図2参照)のそれぞれの表面粗さよりも粗くなるので、盛り上げフランク面53c,54cは、スプラインフランク面51a,51b、スプラインフランク面53b及びスプラインフランク面54bよりも光を散乱反射させて、目視による盛り上げフランク面53c,53cの識別を容易とすることができる。
そのため、後述するスプライン嵌合部材60(図2参照)とスプライン軸50A(図2参照)とを嵌合させる際に、盛り上げ歯52(図2参照)の位置を目視にて確認することを容易として、スプライン嵌合部材60の欠け歯スプライン溝62に対して盛り上げ歯52の位置合わせを円滑に行うことができる。その結果、スプライン軸50Aをスプライン嵌合部材60に円滑に嵌合させることができるので、組み立て時間を短縮して、製品コストの削減を図ることができる。
また、第2盛上げ加工歯14は、図1(a)に示すように、第2フランク面14b及び第2盛上げフランク面14cを備え、その第2フランク面14b及び第2盛上げフランク面14cは、それぞれ第1フランク面13b及び第1盛上げフランク面13cに面して配設されている。
また、第1盛上げ加工歯13の歯すじ方向視(図1(c)紙面垂直方向視)において、第2盛上げフランク面14cは、第2フランク面14bよりも第2フランク面14a側(図1(c)右側)で且つ第2フランク面14bに対して平行に配設されている。
即ち、上述したように、第1盛上げフランク面13cが第1フランク面13bよりも第1フランク面13a側(図1(c)左側)に配設され、第2盛上げフランク面14cが第2フランク面14bよりも第2フランク面14a側(図1(c)右側)に配設されているので、第2盛上げフランク面14cと第1盛上げフランク面13cとの間の寸法値である間隔W2が第2フランク面14bと第1フランク面13bとの間の寸法値である間隔W1よりも大きな寸法値となる(W1<W2)。
よって、第2盛上げフランク面14c及び第1盛上げフランク面13cにて転造される盛り上げフランク面54c(図4参照)と盛り上げフランク面53c(図4参照)との間の寸法値である歯厚T2(図4参照)が第2フランク面14b及び第1フランク面13bにて転造されるスプラインフランク面54b(図4参照)とスプラインフランク面53b(図4参照)との間の寸法値である歯厚T1(図4参照)より大きな寸法値となる(T1<T2)。
その結果、盛り上げ歯52(図2参照)は、第1盛上げフランク面13cの形状が転写される盛り上げフランク面53c(図2参照)が、第1フランク面13bの形状が転写されるスプラインフランク面53b(図2参照)よりも張り出した形状となる。
図1(c)に示すように、第2盛上げ加工歯14と第1盛上げ加工歯13との間には、第2フランク面14bと第1フランク面13bとの間を接続する平面である歯底面15、及び、第2盛上げフランク面14cと第1盛上げフランク面13cとの間を接続する歯底面16が形成されている。
これら歯底面15,16は、同一平面上に且つ連続して形成されている。よって、盛り上げ歯52の歯先52a(図2参照)を連続した平面形状に転造することができる。
また、歯底面15,16から歯先14dまでの寸法値が歯高H2とされており、その第2盛上げ加工歯14の歯高寸法値であるである第2盛上げ加工歯14の歯高H2は、第2盛上げ加工歯14の歯すじ方向(図1(c)紙面垂直方向)に一様な寸法値とされている。
また、第2盛上げ加工歯14と同様に、第1盛上げ加工歯13によれば、歯底面15,16から歯先13dまでの寸法値が歯高H2とされており、その第1盛上げ加工歯13の歯高寸法値である歯高H2は、第1盛上げ加工歯13の歯すじ方向(図1(c)紙面垂直方向)に一様な寸法値とされている。
また、図1(c)に示すように、スプライン加工歯12とそのスプライン加工歯12に隣接するスプライン加工歯12との間、スプライン加工歯12とそのスプライン加工歯12に隣接する第1盛上げ加工歯13との間、及び、スプライン加工歯12とそのスプライン加工歯12に隣接する第2盛上げ加工歯14との間には、加工歯フランク面12aと加工歯フランク面12aとの間を接続する平面である歯底面19、加工歯フランク面12aと第1フランク面13aとの間を接続する歯底面18、及び、加工歯フランク面12bと第2フランク面14aとの間を接続する歯底面17が形成されている。これら歯底面17,18,19は、同一平面上に配設されている。また、歯底面17,18,19が配設される平面は、上述した歯底面15、及び、歯底面16が配設される平面と同一の平面である。
なお、上述した間隔W1及び間隔W2は、歯底面15,16と第1盛上げ加工歯13の歯先13d及び第2盛上げ加工歯14の歯先14dとを結んだ方向(図1(c)上下方向)に歯底面15,16から高さH1の寸法値だけ離間した位置におけるフランク面間の寸法値であり、高さH1は、歯底面15,16から第1盛上げ加工歯13の歯先13dまたは第2盛上げ加工歯14の歯先14dまでの高さ寸法値である歯高H2の約1/2の寸法値とされている。
なお、スプライン加工歯12の歯高は、歯高H2に形成されている。上述したように、スプライン加工歯12の歯高の寸法値、第1盛上げ加工歯13の歯高の寸法値および第2盛上げ加工歯14の歯高の寸法値は、歯高H2とされており、歯底面15,16,17,18,19が同一平面上に配設されているので、歯先12d,13d,14dも、同一平面上に配設される。よって、盛り上げ歯52(図4参照)及びスプライン歯51(図4参照)の歯高は、同一の寸法値となる。加えて、盛り上げ歯52及びスプライン歯51の歯先は、同一円周上に配設される。
ここで、例えば、従来の転造工具のように、正規の加工歯(スプライン加工歯12)と一部の加工歯(第1盛上げ加工歯13又は第2盛上げ加工歯14)との歯高を変化させることで、位相合わせに必要な不規則部分をスプライン軸に転造する構成では、スプライン軸のスプライン歯の歯底とそのスプライン軸に嵌合されるスプライン孔に形成される歯の歯先との間の隙間が大きい。
したがって、その隙間を詰めるために、加工歯の歯先を移動させるべく歯高を変化させて、加工歯の歯先によって転造されるスプライン歯の歯底の位置を移動させると、正規の加工歯と一部の加工歯との食い込み量の差が大きくなる。そのため、転造時の被転造素材に掛かる圧力バランスが崩れるため、転造されるスプライン軸の正規の加工歯の転造精度が悪化するという不具合があった。
これに対し、本実施の形態における転造平ダイス1によれば、第1盛上げ加工歯13及び第2盛上げ加工歯14の歯高の寸法値をスプライン加工歯12の歯高の寸法値と同じ寸法値である歯高H2としつつ、第1盛上げ加工歯13及び第2盛上げ加工歯14の第1盛上げフランク面13c及び第2盛上げフランク面14cをそれぞれ第1フランク面13b及び第2フランク面14bよりも第1フランク面13a側(図1(c)右側)および第2フランク面14a側(図1(c)左側)へ後退させることで、位相合わせに必要な不規則部分が形成された盛り上げ歯52をスプライン軸50Aに転造する構成であるので、第1盛上げ加工歯13及び第2盛上げ加工歯14の被転造素材への食い込み量とスプライン加工歯12の被転造素材への食い込み量との差を小さくすることができる。
即ち、スプライン軸のフランク面は、スプライン軸がスプライン孔へ嵌合される際に、スプライン孔の歯のフランク面へ接触される部位であり、スプライン孔のフランク面との間の隙間が小さく形成されている。
そのため、従来のように、スプライン孔の歯の歯先とスプライン軸のスプライン歯の歯底との隙間を詰めることと比較して、スプライン軸のフランク面とスプライン孔の歯のフランク面との隙間を詰める方が、変形量を小さくすることができる。
その結果、第1盛上げ加工歯13及び第2盛上げ加工歯14の被転造素材への食い込み量と、スプライン加工歯12の被転造素材への食い込み量との差を小さくして、被転造素材へ掛かる転造時の圧力バランスの崩れを抑制することができるので、被転造素材から転造されるスプライン軸50A(図2参照)の転造精度の向上を図ることができる。
また、本実施の形態における転造平ダイス1によれば、第1盛上げフランク面13cと第2盛上げフランク面14cとが対面されているので、これら両フランク面への除去加工(第1フランク面13b及び第2フランク面14bに対して第1フランク面13a側(図1(c)左側)及び第2フランク面14a側(図1(c)右側)へ後退するように第1フランク面13b及び第2フランク面14bの一部を削り取る加工)を例えば、研削砥石や放電電極により一度に行うことができるので、両フランク面の除去加工をそれぞれ行う場合と比較して、作業工程を簡素化することができる。その結果、加工コストを削減して、転造工具全体としての製品コストの削減を図ることができる。
次いで、図2を参照して、スプライン軸50A及びスプライン嵌合部材60の構成について説明する。図2は、スプライン軸50A及びスプライン嵌合部材60の斜視図であり、破線Yで囲んだスプライン軸50Aの一部を拡大して図示している。
スプライン軸50Aは、後述するスプライン嵌合部材60と回転不能に嵌合されることで、スプライン軸50A又はスプライン嵌合部材60から伝達される回転力をスプライン嵌合部材60又はスプライン軸50Aに伝達するための部材であり、図2に示すように、軸状に構成されると共にその外周面上には、複数のスプライン歯51及び1個の盛り上げ歯52が凸設されている。その盛り上げ歯52及びスプライン歯51は、スプライン軸50Aの軸芯方向に沿って延設されている。
スプライン歯51は、図2に示すように、フランク面として構成されるスプラインフランク面51aと、同じくフランク面として構成されるスプラインフランク面51bとを備え、それらスプラインフランク面51b及びスプラインフランク面51aが対になりスプライン歯51の外形の一部を形成している。なお、上述したスプライン歯51は、請求項1記載の「規則的パターンに対応する突条歯」に対応する。
盛り上げ歯52は、図2に示すように、スプラインフランク面53b、スプラインフランク面54b、盛り上げフランク面53c及び盛り上げフランク面54cの4種類のフランク面を備えており、それらスプラインフランク面53b及びスプラインフランク面54bが対になり盛り上げ歯52の外形の一部を形成し、盛り上げフランク面53c及び盛り上げフランク面54cが対になり盛り上げ歯52の外形の一部を形成している。なお、盛り上げ歯52は、請求項1記載の「不規則に対応する突条歯」に対応する。
また、盛り上げ歯52は、盛り上げフランク面53c及びその盛り上げフランク面53cと対をなす盛り上げフランク面54cと、スプラインフランク面53b及びそのスプラインフランク面53bと対をなすスプラインフランク面54bとをそれぞれ備えている。
スプライン軸50Aの先端には、図2に示すように、それぞれ1個の盛り上げフランク面53c及び盛り上げフランク面54cが形成されている。
スプライン嵌合部材60は、図2に示すように、円筒状に構成され、その内周面上に凸設されると共にスプライン嵌合部材60の軸芯方向へ延設される複数のスプライン溝61と、同じくその内周面上に凸設されると共にスプライン嵌合部材60の軸芯方向へ延設される1個の欠け歯スプライン溝62とを備えている。なお、上述した円筒状が備える穴は、請求項1記載の「スプライン穴」に対応する。
スプライン溝61の断面形状(スプライン嵌合部材60をその軸芯方向に直交する平面で切断した断面形状)は、スプライン歯51の断面形状(スプライン軸50Aをその軸芯方向に直交する平面で切断した断面形状)に対応した形状に構成されており、隣接するスプライン溝61の配設間隔は、隣接するスプライン歯51の配設間隔に対応した寸法とされている。なお、スプライン溝61及び欠け歯スプライン溝62の詳細構成については、図4及び図5を用いて後述する。
次いで、図3を参照して、スプライン軸50A(図2参照),50Cの転造方法について説明する。本実施の形態における転造平ダイス1は、スプラインが形成される部位の長さが異なるスプライン軸50A,50Cを転造するものである。図3(a)は、転造平ダイス1に対して配置された被転造素材A,Cの上面図であり、図3(b)は、被転造素材Cを転造して形成されたスプライン軸50Cの部分斜視図である。
なお、図面の簡略化のために、転造ダイス1の端に配設される第1盛上げ加工歯13に関して第1フランク面13b及び第1盛上げフランク面13cの符号を付し、転造ダイス1の端に配設される第2盛上げ加工歯14に関して第2フランク面14b及び第2盛上げフランク面14cの符号を付している。
図3(a)に示すように、被転造素材Aは、その先端部分(図3(a)上側端部)を仮想直線LA上に位置を合わせた状態として配設されており、被転造素材Cは、その先端部分(図3(a)上側端部)を仮想直線LC上に位置を合わせた状態として配設されている。
図3(a)に示すように、被転造素材A,Cの先端の位置をずらして配設して転造することで、被転造素材A,Cの先端それぞれに盛り上げフランク面53c及び盛り上げフランク面54cを有するスプライン軸50A(図2参照),50Cを形成することができる。即ち、1種類の転造ダイス1で異なる種類のスプライン軸を転造することができるので、転造平ダイス1を共通化して、これら複数種類(本実施の形態では2種類)のスプライン軸50A,50Cの製造コストの削減を図ることができる。
また、それぞれ1個の第1盛上げフランク面13c及び第2盛上げフランク面14cが第1盛上げ加工歯13及び第2盛上げ加工歯14へ形成されることで、複数種類のスプライン軸50A,50Cを転造しているので、スプライン軸のスプライン長さに対応するように、第1盛上げ加工歯13及び第2盛上げ加工歯14の長手方向へ複数の第1盛上げフランク面13c及び第2盛上げフランク面14cの形成位置を違えて加工する場合と比較して、転造ダイス1の製造工数を削減して、転造ダイス1の製品コストの削減を図ることができる。
なお、仮想直線LA及び仮想直線LCは、転造ダイス1の転造方向(図3(a)左右方向)に平行な直線として構成されており、仮想直線LAは、転造平ダイス1の両側端部の内の一方の端部側(図3(a)上側)に位置され、仮想直線LCは、仮想直線LAより転造平ダイス1の他方の端部側(図3(a)下側)に位置されている。
次いで、図4及び図5を参照して、スプライン嵌合部材60にスプライン軸50Aが嵌合された状態について説明する。図4は、スプライン軸50Aの断面図であり、図5は、盛り上げ歯52の断面を拡大して示した拡大断面図である。
なお、図4は、スプライン軸50Aの長手方向(図4紙面垂直方向)に直交する面にて切断された断面図であり、その図4では、図面の簡素化のため、スプライン嵌合部材60の断面を二点鎖線にて示すと共にスプライン嵌合部材60のハッチングを省略して図示している。また、図5では、理解を容易とするために、基準円Sを直線として示している。なお、基準円Sとは、歯車のピッチ、歯厚、歯たけ、歯末のたけ、歯元のたけなどを決めるための仮想円である。
また、スプライン嵌合部材60は、隣接するスプライン溝61間の距離が隣接するスプライン歯51間のピッチと同一の寸法値に構成されている。そして、欠け歯スプライン溝62は、3個のスプライン溝61をスプライン嵌合部材60の周方向に削ってつなげた溝形状に構成されている。
そのため、図4に示すように、盛り上げ歯52の両側(図4左右方向両側)に配設される2個のスプライン歯51の内の一方のスプライン歯51のスプラインフランク面51a及び他方のスプライン歯51のスプラインフランク面51bがそれぞれフランク受面62a,62bに対面された状態であれば、フランク受面62a,62bが盛り上げフランク面53c,54cに当接されることを回避することができる。
よって、2個のスプライン歯51と1個の盛り上げ歯52の計3個の歯が欠け歯スプライン溝62に収容されスプライン軸50Aがスプライン嵌合部材60の内部に嵌合される。その結果、スプライン軸50Aのスプライン嵌合部材60に対する嵌合位置が一義的に定められる。
また、図5に示すように、スプライン溝61によれば、基準円S上における溝幅であるフランク受面61aとフランク受面61bとの間の寸法値は、歯溝厚T3とされている。
スプライン嵌合部材60には、複数のスプライン溝61が形成されており、それらスプライン溝61の歯溝厚T3は、加工による誤差でそれぞれ異なる値とされている。また、複数のスプライン嵌合部材60では、同じ位置に成形されたスプライン溝61であっても、歯溝厚T3が異なる。
そのため、複数のスプライン嵌合部材60を製造するにあたっては、それらスプライン溝61の歯溝厚T3の内の製品として許容できる最大の値を最大円弧歯溝厚T3maxとし、それらスプライン溝61の歯溝厚T3の内の製品として許容できる最小の値を最小円弧歯溝厚T3minとし、抜き取り検査などによって、歯溝厚T3が最小円弧歯溝厚T3minから最大円弧歯溝厚T3maxの間に入るものを製品としている。
同様の理由で、図4に示すように、スプライン軸50Aに形成される複数のスプライン歯51のスプラインフランク面51aとスプラインフランク面51bとの間の寸法値である歯厚T4は、製品として許容できる最大の値を最大円弧歯厚T4maxとし、最小の値を最小円弧歯厚T4minとし、抜き取り検査などによって、歯厚T4が最小円弧歯厚T4minから最大円弧歯厚T4maxの間に入るものを製品としている。
よって、スプライン歯51をスプライン溝61に嵌合させるために、最大円弧歯厚T4maxよりも最小円弧歯溝厚T3minを大きく設定している(T4max<T3min)。
また、図4及び図5に示すように、スプライン軸50Aの基準円S上における盛り上げ歯52のスプラインフランク面53bと盛り上げ歯52のスプラインフランク面54bとの間の寸法値は、歯厚T1とされており、その歯厚T1は、歯厚T4と同等の寸法値とされている。
また、スプライン軸50Aの基準円S上における盛り上げ歯52の盛り上げフランク面53cと盛り上げ歯52の盛り上げフランク面54cとの間の寸法値は、歯厚T2とされている。
この歯厚T2は、スプライン嵌合部材60のスプライン溝61と同様に、スプライン軸50Aの製造工程における加工寸法のばらつきを有しており、抜き取り検査などにより、その最大値を歯厚T2maxとし、最小値を歯厚T2minとしている。
この歯厚T2minは、上述したスプライン溝61の最大円弧歯溝厚T3maxよりも大きな値とされている(T3max<T2min)。よって、スプライン軸50A及びスプライン嵌合部材60をそれぞれ複数製造した場合に、スプライン軸50A及びスプライン嵌合部材60の組み合わせによらず盛り上げ歯52がスプライン溝61に嵌合されることを防止することができる。
即ち、スプライン歯51がスプライン溝61(図2参照)に嵌合可能とされ、盛り上げ歯52がスプライン溝61に嵌合不能とされると共に欠け歯スプライン溝62(図2参照)に嵌合可能とされるので、スプライン嵌合部材60(図2参照)に対してスプライン軸50Aの嵌合位置が一義的に決まる。よって、スプライン軸50Aのスプライン嵌合部材60に対する嵌合位置決めを行うことができる。
次いで、図6(a)を参照して、第2実施の形態について説明する。第1実施の形態における転造平ダイス1によれば、第1盛上げフランク面13cが第1フランク面13bに対して平行とされ、同様に、第2盛上げフランク面14cが第2フランク面14bに対して平行とされることで、転造平ダイス1によって転造される盛り上げ歯52の盛り上げフランク面53c,54c全体がスプラインフランク面53b,54bに対して張り出すように構成される場合を説明したが、第2実施の形態における転造平ダイス201によれば、スプラインフランク面に対して盛り上げフランク面の歯底面側のみが張り出したスプラインを転造することができるように構成されている。なお、上記した第1実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。
図6(a)は、第2実施の形態における転造平ダイス201に設けられた第1盛上げ加工歯213および第2盛上げ加工歯214の断面を拡大して示した拡大断面図である。
転造平ダイス201は、図6(a)に示すように、第1盛上げフランク面213cを有する第1盛上げ加工歯213及び、第2盛上げフランク面214cを有する第2盛上げ加工歯214を備えている。
第1盛上げフランク面213c及び第2盛上げフランク面214cは、盛り上げ歯のスプラインフランク面および、盛り上げ歯の盛り上げフランク面に形状が転写されるフランク面として構成される。
第1盛上げフランク面213cは、基準円Sよりも歯先13d側(図6(a)上側)の部位のみが第1フランク面13bに対して第1フランク面13a側(図6(a)左側)に配設されている。同様に、第2盛上げフランク面214cは、基準円Sよりも歯先14d側(図6(a)上側)の部位のみが第1フランク面14bに対して第1フランク面14a側(図6(a)右側)に配設されている。
よって、転造平ダイス201によって転造されるスプライン軸の盛り上げ歯は、基準円Sよりも盛り上げ歯の歯底側において、一対のスプラインフランク面の間の寸法値よりも一対の盛り上げフランク面の間の寸法値の方が大きく設定される。
ここで、フランク受面61a,61b(図2参照)の間隔である歯溝幅が一対のスプラインフランク面の間の寸法値よりも大きく、一対の盛り上げフランク面の間の寸法値よりも小さく設定されることで、スプライン歯がスプライン溝61(図2参照)へ嵌合可能とされ、盛り上げ歯がスプライン溝61へ嵌合不能とされる。
そして、フランク受面62a,62bの間隔である歯溝厚が一対の盛り上げフランク面の間の寸法値より大きく設定されることで、盛り上げ歯が欠け歯スプライン溝62へ嵌合可能とされる。
即ち、転造平ダイス201によって転造された盛り上げ歯は、欠け歯スプライン溝62にのみ嵌合可能とされるので、スプライン嵌合部材60(図2参照)に対してスプライン軸の嵌合位置を一義的に決めることができる。
次いで、図6(b)を参照して、第3実施の形態について説明する。第1実施の形態における転造平ダイス1によれば、第1盛上げフランク面13cが第1フランク面13bに対して平行とされ、同様に、第2盛上げフランク面14cが第2フランク面14bに対して平行とされることで、転造平ダイス1によって転造される盛り上げ歯52の盛り上げフランク面53c,54c全体がスプラインフランク面53b,54bにして張り出すように構成される場合を説明したが、第3実施の形態における転造平ダイス301によれば、スプラインフランク面に対して盛り上げフランク面の歯先側のみが張り出したスプラインを転造することができるように構成されている。なお、上記した第1実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。
図6(b)は、第3実施の形態における転造平ダイス301に設けられた第1盛上げ加工歯313および第2盛上げ加工歯314の断面を拡大して示した拡大断面図である。
転造平ダイス301は、図6(b)に示すように、第1盛上げフランク面313cを有する第1盛上げ加工歯313及び、第2盛上げフランク面314cを有する第2盛上げ加工歯314を備えている。
第1盛上げフランク面313c及び第2盛上げフランク面314cは、盛り上げ歯のスプラインフランク面および、盛り上げ歯の盛り上げフランク面に形状が転写されるフランク面として構成される。
第1盛上げフランク面313cは、基準円Sよりも歯先13d側(図6(b)上側)の部位のみが第1フランク面13bに対して第1フランク面13a側(図6(b)左側)に配設されている。同様に、第2盛上げフランク面214cは、基準円Sよりも歯先14d側(図6(a)上側)の部位のみが第1フランク面14bに対して第1フランク面14a側(図6(a)右側)に配設されている。
よって、転造平ダイス301によって転造されるスプライン軸の盛り上げ歯は、基準円Sよりも盛り上げ歯の歯底側において、一対のスプラインフランク面の間の寸法値よりも一対の盛り上げフランク面の間の寸法値の方が大きく設定される。
ここで、第2実施の形態と同様に、フランク受面61a,61b(図2参照)の間隔である歯溝幅の寸法値と、フランク受面62a,62bの間隔である歯溝厚の寸法値とを設定することで、スプライン歯がスプライン溝61(図2参照)へ嵌合可能とされ、盛り上げ歯がスプライン溝61へ嵌合不能とされ、盛り上げ歯が欠け歯スプライン溝62へ嵌合可能とされる。
即ち、転造平ダイス301によって転造された盛り上げ歯は、欠け歯スプライン溝62にのみ嵌合可能とされるので、スプライン嵌合部材60(図2参照)に対してスプライン軸の嵌合位置を一義的に決めることができる。
次いで、図7(a)及び図7(b)を参照して、第4実施の形態について説明する。第1実施の形態における転造平ダイス1によれば、第1盛上げフランク面13cが第1盛上げ加工歯13のフランク面として構成され、第2盛上げフランク面14cが第2盛上げ加工歯14のフランク面として構成され、第1盛上げフランク面13cが第2盛上げフランク面14cに面して構成される場合を説明したが、第4実施の形態における転造平ダイス401によれば、第1盛上げフランク面413c,414cがそれぞれ第1盛上げ加工歯413の両フランク面の内の一方のフランク面および他方のフランク面として構成されている。なお、上記した第1実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。
図7(a)は、スプライン軸450Aの断面図であり、図7(b)は、転造平ダイス401の断面図である。また、図7(b)は、図1(a)のIc−Ic線における断面図である図1(c)に切断位置が対応する。
図7(b)に示すように、転造ダイス401の転造歯形面には、第1盛上げ加工歯413が刻設されており、その第1盛上げ加工歯413は、第1フランク面413b, 414bと、第1盛上げフランク面413c, 414cと、歯先413dとを備え、主に、スプライン歯452,453の一部を転造する加工歯である。
第1フランク面413b,414bがそれぞれ第1盛上げ加工歯413の両フランク面の内の一方のフランク面および他方のフランク面として構成され、第1盛上げフランク面413c,414cがそれぞれ第1盛上げ加工歯413の両フランク面の内の一方のフランク面および他方のフランク面として構成されている。
また、第1フランク面413b及び第1盛上げフランク面413cは、盛り上げ歯452のスプラインフランク面453b及び盛り上げフランク面453cに形状が転写されると共に、図7(b)に示すように、転造方向始端側(図7(b)右側)に面して配設されている。
第1フランク面414b及び第1盛上げフランク面414cは、盛り上げ歯453のスプラインフランク面454b及び盛り上げフランク面454cに形状が転写されると共に、図7(b)に示すように、転造方向終端側(図7(b)左側)に面して配設されている。歯先413dは、第1フランク面413b,414b及び第1盛上げフランク面413c,414cとを接続する平坦面であり、第1盛上げ加工歯413の歯先を形成している。
また、第1盛上げフランク面413cは、第1盛上げ加工歯413の歯すじ方向視(図7(b)紙面垂直方向視)において、第1フランク面413bより第1盛上げフランク面414c側(図7(b)左側)に配設されると共に第1フランク面413bに対して平行とされており、第1盛上げフランク面414cは、第1盛上げ加工歯413の歯すじ方向視(図7(b)紙面垂直方向視)において、第1フランク面414bより第1盛上げフランク面413c側(図7(b)右側)に配設されると共に第1フランク面414bに対して平行とされている。
図7(b)に示すように、第1盛上げ加工歯13とスプライン加工歯12との間には、第1フランク面414bと加工歯フランク面12bとの間を接続する平面である歯底面417、及び、第1盛上げフランク面414cと加工歯フランク面12bとの間を接続する歯底面418が形成されている。これら歯底面417,418は、同一平面上に且つ連続して形成されている。よって、盛り上げ歯543の歯先453aを連続した平面形状に転造することができる。
また、上述したように、第1盛上げフランク面414cが第1フランク面414bよりも第1フランク面413b側(図7(b)右側)に配設されているので、第1盛上げフランク面414cと加工歯フランク面12aとの間の寸法値である間隔W402が第1フランク面414bと加工歯フランク面12aとの間の寸法値である間隔W401よりも大きな寸法値となる(W401<W402)。
よって、図7(a)に示すように、第1盛上げフランク面414cにて転造される盛り上げフランク面454cと加工歯フランク面12aにて転造されるスプラインフランク面53bとの間の寸法値である歯厚T402が第1フランク面414bにて転造されるスプラインフランク面454bとスプラインフランク面53bとの間の寸法値である歯厚T401より大きな寸法値となる(T401<T402)。
その結果、盛り上げ歯453は、第1盛上げフランク面414cの形状が転写される盛り上げフランク面454cが、第1フランク面414bの形状が転写されるスプラインフランク面454bよりも張り出した形状となる。
なお、上述した間隔W401及び間隔W402は、歯底面417,418と第1盛上げ加工歯13の歯先413dとを結んだ方向(図7(b)上下方向)に歯底面417,418から高さH1の寸法値だけ離間した位置におけるフランク面間の寸法値である。
また、第1盛上げ加工歯413は、転造ダイス401の転造方向視(図7(b)紙面垂直方向視)において左右対称に構成されており、第1盛上げフランク面413cが第1盛上げフランク面414cに対応し、第1盛上げフランク面413bが第1盛上げフランク面414bに対応し、歯底面415,416が歯底面417,418に対応するので、第1盛上げフランク面413c、第1盛上げフランク面413b及び歯底面415,416の説明を省略する。
同様に、盛り上げ歯452は、盛り上げ歯453と面対照の形状に構成されており、スプラインフランク面54bがスプラインフランク面53bに対応し、スプラインフランク面453bがスプラインフランク面454bに対応し、盛り上げフランク面53cが盛り上げフランク面54cに対応するので、スプラインフランク面54b、スプラインフランク面453b及び盛り上げフランク面53cの説明を省略する。
即ち、第1盛上げフランク面414c及び盛り上げフランク面454cが、第1盛上げフランク面413c及び盛り上げフランク面453cと同様に構成されているので、転造ダイス401によって、転造されたスプライン軸450Aでは、第1盛上げフランク面414c,413cの形状が転写される盛り上げフランク面454c,453cが、第1フランク面414b,413bの形状が転写されるスプラインフランク面454b,453bよりも張り出した形状となる。
その結果、盛り上げ歯453,452は、スプライン溝61に対して嵌合不能となり、欠け歯スプライン溝462のみに対して嵌合可能となる。よって、スプライン嵌合部材460に対するスプライン軸450Aの位置決めを行うことができる。
また、スプライン嵌合部材460は、隣接するスプライン溝61間の距離が隣接するスプライン歯51間のピッチと同一の寸法値に構成され、欠け歯スプライン溝462は、2個のスプライン溝61をスプライン嵌合部材460の周方向に削ってつなげた溝形状に構成されているので、図7(a)に示すように、盛り上げ歯452のスプラインフランク面54b及び盛り上げ歯453のスプラインフランク面53bがそれぞれフランク受面462b及びフランク受面462aに対面された状態の場合のみ、フランク受面62a,62bが盛り上げ歯452の盛り上げフランク面453c及び盛り上げ歯452の盛り上げフランク面454cに当接されることを回避することができる。
よって、盛り上げ歯452,453の計2個の歯が欠け歯スプライン溝462に収容されスプライン軸450Aがスプライン嵌合部材460の内部に嵌合される。その結果、スプライン軸450Aのスプライン嵌合部材460に対する嵌合位置が一義的に定められる。なお、第1盛上げフランク面413c,414cは、請求項1記載の「基準加工歯のフランク面より後退して形成される部分」に対応し、第1フランク面413b,414bは、請求項1記載の「基準加工歯のフランク面と同等に形成される部分」に対応する。
次いで、図8(a)及び図8(b)を参照して、第5実施の形態について説明する。第1実施の形態における転造平ダイス1によれば、第1盛上げフランク面13cが第2盛上げフランク面14cに面して構成される場合を説明したが、第5実施の形態における転造平ダイス501によれば、第1盛上げフランク面513c及び第2盛上げフランク面514cが1個のスプライン加工歯12の加工歯フランク面12b及び加工歯フランク面12aに面して構成されている。
なお、上記した第1実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。また、第2盛上げ加工歯514は、スプライン加工歯12を挟んで第1盛上げ加工歯513に対して対称に構成されており、第2フランク面14aが第1フランク面13aに対応し、第2フランク面514bが第1フランク面513bに対応し、第2盛上げフランク面14cが第1盛上げフランク面13cに対応するので、第1盛上げ加工歯513の構成を説明し、第2盛上げ加工歯514の構成の説明を省略する。
図8(a)は、スプライン軸550Aの断面図であり、図8(b)は、転造平ダイス501の断面図である。また、図8(b)は、図1(a)のIc−Ic線における断面図である図1(c)に切断位置が対応する。
図8(b)に示すように、転造ダイス501の転造歯形面には、スプライン加工歯12、第1盛上げ加工歯513及び第2盛上げ加工歯514が刻設されている。ここで、上述したように、第1盛上げ加工歯514の構成の説明を省略する。第1盛上げ加工歯513は、第1フランク面13aと第1フランク面513bと第1盛上げフランク面513cと歯先513dとを備え、主に、スプライン歯553の一部を転造する加工歯である。
また、第1フランク面513b及び第1盛上げフランク面513cは、盛り上げ歯553のスプラインフランク面553b及び盛り上げフランク面553cに形状が転写されると共に、図8(b)に示すように、転造方向始端側(図8(b)右側)に隣接するスプライン加工歯12の加工歯フランク面12bに面して配設されている。歯先513dは、第1フランク面13a,第1フランク面513b及び第1盛上げフランク面513cを接続する平坦面であり、第1盛上げ加工歯513の歯先を形成している。
また、第1盛上げフランク面513cは、第1盛上げ加工歯513の歯すじ方向視(図8(b)紙面垂直方向視)において、第1フランク面513bより第1フランク面13a側(図8(b)左側)に配設されると共に第1フランク面513bに対して平行とされている。
そのため、転造ダイス501によって転造されたスプライン軸550Aでは、第1盛上げフランク面513cの形状が転写される盛り上げフランク面553cが、第1フランク面513bの形状が転写されるスプラインフランク面553bよりも張り出した形状となる。また、上述したように、第2盛上げ加工歯514は、スプライン加工歯12を挟んで第1盛上げ加工歯13と対称に構成されているので、第2盛上げフランク面514cの形状が転写される盛り上げフランク面554cが、第2フランク面514bの形状が転写されるスプラインフランク面554bよりも張り出した形状となる。
その結果、盛り上げ歯553は、スプライン溝61に対して嵌合不能となり、欠け歯スプライン溝562のみに対して嵌合可能となる。よって、スプライン嵌合部材560に対するスプライン軸550Aの位置決めを行うことができる。
即ち、スプライン嵌合部材560が隣接するスプライン溝61間の距離が隣接するスプライン歯51間のピッチと同一の寸法値に構成され、欠け歯スプライン溝562が4個のスプライン溝61をスプライン嵌合部材560の周方向に削ってつなげた溝形状に構成されているので、図8(a)に示すように、盛り上げ歯552,553の両側に隣接する2個のスプライン歯51の内の盛り上げ歯552に隣接するスプライン歯51のスプラインフランク面51bがフランク受面562bに対面された状態とされ、且つ盛り上げ歯552,553の両側に隣接する2個のスプライン歯51の内の盛り上げ歯553に隣接するスプライン歯51のスプラインフランク面51aがフランク受面562aに対面された状態とされる場合のみ、フランク受面562a,562bが盛り上げ歯552の盛り上げフランク面554c及び盛り上げ歯553の盛り上げフランク面553cに当接されることを回避することができる。
よって、2個のスプライン歯51、それぞれ1個の盛り上げ歯552,453の計4個の歯が欠け歯スプライン溝562に収容されスプライン軸550Aがスプライン嵌合部材560の内部に嵌合される。その結果、スプライン軸550Aのスプライン嵌合部材560に対する嵌合位置が一義的に定められる。
なお、第1盛上げフランク面513c及び第2盛上げフランク面514cは、請求項1記載の「基準加工歯のフランク面より後退して形成される部分」に対応し、第1フランク面513b及び第2フランク面514bは、請求項1記載の「基準加工歯のフランク面と同等に形成される部分」に対応する。
次いで、図9及び図10を参照して、第6実施の形態について説明する。第1実施の形態における転造平ダイス1によれば、1個の第1盛上げ加工歯13が1個の第1盛上げフランク面13cを備え、1個の第2盛上げ加工歯14が1個の第2盛上げフランク面14cを備える場合を説明したが、第6実施の形態における転造平ダイス601によれば、1個の第1盛上げ加工歯613が複数(本実施の形態では3個)の第1盛上げフランク面13cを備え、1個の第2盛上げ加工歯614が複数(本実施の形態では3個)の第2盛上げフランク面14cを備える構成とされている。
なお、上記した第1実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。また、図面を簡略化するために、転造ダイス601の端に配設される第1盛上げ加工歯613に関して第1フランク面13b及び第1盛上げフランク面13cの符号を付し、転造ダイス601の端に配設される第2盛上げ加工歯614に関して第2フランク面14b及び第2盛上げフランク面14cの符号を付している。
図9(a)は、転造平ダイス601に対して配置された被転造素材A,B,Cの上面図であり、図9(b)は、被転造素材Cを転造して形成されたスプライン軸650Cの部分斜視図である。図10は、スプライン軸650A及びスプライン嵌合部材60の斜視図であり、破線Zで囲んだスプライン軸650Aの一部を拡大して図示している。なお、図9(a)及び図9(b)は、図3(a)及び図3(b)に対応し、図10は、図2に対応する。
図9(a)に示すように、転造ダイス601は、複数(本実施の形態では3個)の第1盛上げフランク面13cと複数(本実施の形態では3個)の第1フランク面13bとを交互に配設したフランク面を有する第1盛上げ加工歯613と、複数(本実施の形態では3個)の第2盛上げフランク面14cと複数(本実施の形態では3個)の第2フランク面14bとを交互に配設したフランク面を有する第2盛上げ加工歯614とを備えている。
ここで、スプライン軸650A,650C等の転造方法について説明する。本実施の形態における転造平ダイス601は、スプラインが形成される部位の長さが異なるスプライン軸650A,650C等を転造するものである。
図9(a)に示すように、被転造素材Aは、その先端部分(図9(a)上側端部)を転造平ダイス601の両側端部の内の一方の端部側(図9(a)上側)に位置する第1盛上げフランク面13c及び第2盛上げフランク面14cを結んだ仮想直線LA6上に位置を合わせて配設されており、被転造素材Cは、その先端部分(図9(a)上側端部)を転造平ダイス601の他方の端部側(図9(a)下側)に位置する第1盛上げフランク面13c及び第2盛上げフランク面14cを結んだ仮想直線LC6上に位置を合わせて配設されている。
また、被転造素材Bは、その先端部分(図9(a)上側端部)を転造平ダイス601の端部に位置する第1盛上げフランク面13c及び第2盛上げフランク面14cに隣接する第1盛上げフランク面13c及び第2盛上げフランク面14cを結んだ仮想直線LB6上に位置を合わせて配設されている。なお、仮想直線LA6,LB6,LC6は、転造ダイス601の転造方向(図9(a)左右方向)に平行な直線である。
図9(a)に示すように、被転造素材A,B,Cの先端の位置をずらして配設して転造することで、被転造素材A,B,Cの先端それぞれに盛り上げフランク面53c及び盛り上げフランク面54cを有するスプライン軸650A,650C等を形成することができる。
例えば、被転造素材Aを転造することで、図10に示すように、複数(第6実施の形態では3個)の盛り上げフランク面53cと複数(第6実施の形態では3個)のスプラインフランク面53bが交互に配設された盛り上げ歯652Aを外周面上に刻設されるスプライン軸650Aが転造される。
また、被転造素材Bを転造することで、複数(第6実施の形態では2個)の盛り上げフランク面と複数(第6実施の形態では2個)のスプラインフランク面が交互に配設された盛り上げ歯を外周面上に刻設されるスプライン軸が転造され、被転造素材Cを転造することで、図9(b)に示すように、先端に形成された1個の盛り上げフランク面53cとその盛り上げフランク面53cに連設されるスプラインフランク面53bとが配設された盛り上げ歯652Cを外周面上に刻設されるスプライン軸650Cが転造される。
即ち、転造するスプライン軸の種類(スプラインを形成する部位の長さ違い)に応じて、第1盛上げフランク面13c(図9(a)参照)及び第2盛上げフランク面14c(図9(a)参照)の配設位置を設定することで、先端部に盛り上げフランク面53c及び盛り上げフランク面54cを有する複数種類(本実施の形態では3種類)のスプライン軸50A,50C等を転造することができる。その結果、転造平ダイス601を共通化することができるので、これら複数種類(本実施の形態では3種類)のスプライン軸50A,50C等の製造コストの削減を図ることができる。
ここで、スプライン軸50A,50C等は、スプライン嵌合部材60との位相合わせに関し、スプライン軸50A,50C等の先端部(図3(a)上側端部)のみに盛り上げフランク面53c及び盛り上げフランク面54cが形成されていれば足り、先端部を除く盛り上げ歯52の残りの部分は、第1盛上げ加工歯13及び第2盛上げ加工歯14と、スプライン加工歯12との食い込み量の差を小さくするべく、第1盛上げフランク面13c及び第2盛上げフランク面14cが極力少なく形成されていることが好ましい。
即ち、転造平ダイス601の第1盛上げ加工歯13及び第2盛上げ加工歯14は、第1盛上げフランク面13c及び第2盛上げフランク面14cを極力少なくし、加工歯フランク面12a及び加工歯フランク面12bと同等に形成される第1フランク面13b及び第2フランク面14bを多く確保することが好ましい。
そこで、第6実施の形態における転造平ダイス601によれば、上述したように、第1盛上げフランク面13c及び第2盛上げフランク面14cと、第1フランク面13b及び第2フランク面14bとを、第1盛上げ加工歯13及び第2盛上げ加工歯14の歯すじ方向(図9(a)上下方向)に沿って交互に配設する構成とされているので、スプラインの長さの異なる複数種類のスプライン軸の先端部にそれぞれ第1盛上げフランク面13c及び第2盛上げフランク面14cによる転造可能としつつ、スプライン軸50等の先端部(図9(a)上側端部)を除く残りの部分には、第1盛上げフランク面13c及び第2盛上げフランク面14cによる転造を抑制することができる。
その結果、スプライン加工歯612と第1盛上げ加工歯613及び第2盛上げ加工歯614との被転造素材A,B,Cへの食い込み量の差を小さくすることができるので、その分、被転造素材A,B,Cから転造されるスプライン軸50A,50C等の転造精度の向上を図ることができる。
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
上記実施の形態で挙げた数値(例えば、各構成の数量や寸法など)は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
上記第2実施の形態および第3実施の形態では、第1フランク面13bおよび第2フランク面14bの歯形方向(歯底面と歯先とを結ぶ方向)において、第1盛上げフランク面213c,313c及び第2盛上げフランク面214c,314cの一部分を後退させ、歯すじ方向(歯形方向に直交する方向)の部分は、全てを後退させる場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、加えて、第1盛上げフランク面および第2盛上げフランク面の歯すじ方向(歯形方向に直交する方向)の第1盛上げフランク面213c,313c及び第2盛上げフランク面214c,314cの一部分を第1フランク面13bおよび第2フランク面14b対して後退させる構成としても良い。
この場合、さらに,歯すじ方向(歯形方向に直交する方向)の一部分を後退させるので、盛り上げ歯への転造平ダイスの食い込み量を小さくすることができるので、スプライン歯51と、盛り上げ歯との食い込み量の差を小さくすることができる。その結果、転造時の圧力バランスの崩れを抑制することができるので、スプライン軸の転造精度の向上を図ることができる。
上記各実施の形態では、第1盛上げフランク面13cと第2盛上げフランク面14cとを対向させて形成する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、第1盛上げフランク面13c又は第2盛上げフランク面14cの少なくとも一方を加工歯フランク面12a又は加工歯フランク面12bに対向した構成としても良い。
上記各実施の形態では、スプライン加工歯12、第1盛上げ加工歯13および第2盛上げ加工歯14の断面形状であって、その歯すじ方向に直交する面によって切断された断面形状が先細り形状に構成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、スプライン加工歯12、第1盛上げ加工歯13および第2盛上げ加工歯14の断面形状を矩形状に構成しても良い。
即ち、本実施の形態にて記載するスプライン軸50は、嵌合対象部材であるスプライン嵌合部材60と嵌合することで、回転を伝達する機構の一例として記載しており、歯すじ方向に直交する面によって切断された断面形状が異なる構成も含む趣旨であり、例えば、セレーションと称するものを除外する趣旨ではない。