JP2010178649A - 抗チロキシン抗体及びそれを用いた免疫測定方法 - Google Patents

抗チロキシン抗体及びそれを用いた免疫測定方法 Download PDF

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Abstract

【課題】チロキシン(T4)の高感度な免疫測定を可能とする新規な抗チロキシン抗体、並びに当該抗体を用いたチロキシンの高感度な免疫測定方法の提供。
【解決手段】重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列として特定のアミノ酸配列を含み、かつ軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列として特定のアミノ酸配列を含む抗チロキシン抗体。該抗体をコードする核酸。該核酸を含む、組み換えベクター。該組換えベクターにより形質転換された形質転換体。該抗体を含む、チロキシン検出試薬。
【選択図】なし

Description

本発明は、甲状腺ホルモンであるチロキシン(T4)の診断技術に関するものである。
現代人の多くは甲状腺ホルモンの異常分泌による体調不良に悩まされており、患者数は700万人、そのうち500万人は病気に気づいていないと推定されている。甲状腺ホルモンが過剰に分泌される疾患として (甲状腺機能亢進症)、バセドウ病があり、手足の振るえ、眼球突出、動悸、甲状腺腫脹、多汗、体重減少、高血糖、高血圧などをおこす。反対に、甲状腺ホルモンの分泌が不足する状態(甲状腺機能低下症)としては、慢性甲状腺炎(橋本病)があり、全身倦怠感、発汗減少、体重増加、便秘などを生じる。甲状腺機能診断のマーカー分子としては、甲状腺ホルモンであるチロキシン(T4)が知られている。血中T4濃度は、甲状腺機能の異常以外でも妊娠、経口避妊薬の内服、先天性TBG増加症などによりT4結合蛋白(TBP)の量が増加しているとき増加し、逆にネフローゼ症候群、強度の肝疾患、先天性TBG減少症などでTBPが減少しているときに減少するが、遊離T4量(総T4量のおよそ0.05%、基準値0.9-1.7 ng/dl) は、TBPの濃度変化には依存せず、甲状腺機能を良く反映する。そのことより、血中遊離T4量の測定がより有用な指標となっている。
T4は分子量800以下の低分子であるために、診断現場では主に競合法による免疫測定法によって行われているが、競合法の感度は低く、また遊離T4基準値の濃度が低いために、検出は電気化学発光法[非特許文献1及び2]や化学発光法、放射性元素標識法[非特許文献3及び4]といった高感度であるが高価な検出装置を必要とする方法が行われてきた。またこれまでは競合法による免疫測定のみが可能であったために、イムノクロマトなど競合法が適当でない技術への応用が困難であることや、測定可能濃度域が狭いなどの欠点があった。
免疫測定法以外の方法として、液体クロマトグラフィーと質量分析法の組み合わせた方法(LC-MS)などによっても計測可能であるが、やはり高価な装置が必要となる。
特開平7−146293号公報 特表2008−534955号公報 特開平6−213898号公報
Clin. Biochem. 1999, 32, 395-403 Clin. Chem. Lab. Med. 1998, 36, 789-796 J. Chromatogr.B 1998, 716, 77-82 J. Radioanal. Nucl. Chem. 1988, 122, 129-135
甲状腺ホルモンであるチロキシン(T4)は甲状腺機能のバイオマーカーとして知られている。T4は分子量777の低分子であり、血中濃度の見積もりには競合法による免疫測定が行われている。しかし競合法は、検出可能範囲が低く、条件の最適化が困難であることや、競合剤として標識抗原が必要となるといった問題を有し、また非競合法に比べて感度が劣るために更なる高感度化が望まれている。また、マイクロ流路系を利用した自動診断装置への応用や、イムノクロマトなどで非競合法での測定系が望まれる場合があるが、T4の非競合測定はこれまで不可能であった。
即ち、本発明は、チロキシン(T4)の高感度な免疫測定を可能とする新規な抗チロキシン抗体、並びに当該抗体を用いたチロキシンの高感度な免疫測定方法を提供することを解決すべき課題とした。
これまで遊離T4検出において、非競合免疫測定法の適用が不可能であったが、今回オープンサンドイッチイムノアッセイ法(OS-IA法)に適した抗T4抗体、D11を単離し、遊離T4の非競合免疫測定に成功した。OS-IA法による免疫測定法では、D11の軽鎖を固定化したマイクロプレートに、VH(抗体重鎖可変領域ドメイン)を提示したファージと遊離T4を添加して三者複合体を形成させて、抗ファージ抗体HRPコンジュゲートを利用した酵素呈色反応を行い、吸光度計を用いて計測した。その結果、0.1 ng/mlという高感度で、遊離T4の非競合的検出が可能であることが明らかとなった。この技術を応用することで、発光測定器など高価な装置も必要することなく簡易迅速診断が可能であり、イムノクロマトやマイクロチップ測定系などでの非競合的測定が可能となる。
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) 重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列として下記(a)のアミノ酸配列を含み、かつ軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列として下記(b)のアミノ酸配列を含む、抗チロキシン抗体。
(a)配列番号2に示すアミノ酸配列、又は配列番号2に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/又は挿入されているアミノ酸配列であって、抗チロキシン抗体の軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列からなるペプチドとともにチロキシンを特異的に認識できるアミノ酸配列;
(b)配列番号4に示すアミノ酸配列、又は配列番号4に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/又は挿入されているアミノ酸配列であって、抗チロキシン抗体の重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列からなるペプチドとともにチロキシンを特異的に認識できるアミノ酸配列;
(2) 重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列として配列番号2に示すアミノ酸配列を含み、かつ軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列として配列番号4に示すアミノ酸配列を含む、(1)に記載の抗チロキシン抗体。
(3) 下記の何れかのペプチド。
(i)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるペプチド;
(ii)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/又は挿入されているアミノ酸配列からなり、かつ抗チロキシン抗体の軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列からなるペプチドとともにチロキシンを特異的に認識できるペプチド。
(4) 下記の何れかのペプチド。
(i)配列番号4に示すアミノ酸配列からなるペプチド;
(ii)配列番号4に示すアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/又は挿入されているアミノ酸配列からなり、かつ抗チロキシン抗体の重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列からなるペプチドとともにチロキシンを特異的に認識できるペプチド。
(5) (1)から(4)の何れかに記載の抗体又はペプチドをコードする核酸。
(6) (5)に記載の核酸を含む、組み換えベクター。
(7) (6)に記載の組換えベクターにより形質転換された形質転換体。
(8) (1)から(5)の何れかに記載の抗体又はペプチドを含む、チロキシン検出試薬。
(9) (1)から(5)の何れかに記載の抗体又はペプチドと被験試料とを接触させることを含む、チロキシンの免疫測定方法。
(10) (3)に記載のペプチドと、(4)に記載のペプチドと、チロキシンを含む被験試料とを接触させて、上記2種のペプチドとチロキシンの複合体を形成させることを含む、(9)に記載のチロキシンの免疫測定方法。
本発明である抗T4抗体であるD11は、オープンサンドイッチイムノアッセイ(OS-IA)に利用された場合、遊離T4の非競合検出が可能となることが明らかとなっている。血中T4量は、甲状腺機能亢進症で上昇、機能低下症では減少するが、甲状腺機能の異常以外でも妊娠、経口避妊薬の内服、先天性TBG増加症などによりT4結合蛋白(TBP)の量が増加しているとき増加し、逆にネフローゼ症候群、強度の肝疾患、先天性TBG減少症などでTBPが減少しているときに減少する。しかし、血中の遊離T4量(総T4量のおよそ0.05%) は、TBPの濃度変化には依存せず、甲状腺機能を良く反映する。そのことより、血中遊離T4量の測定は甲状腺機能診断の有用な指標となっている。競合法に加えて、非競合法によるT4検出が可能となったことで、様々な測定機器や測定方法へと応用を広げることが可能となり、甲状腺機能診断の簡便化、迅速化につながると考えられる。
図1は、ファージミドベクターpDong1/Fabの構造と、pDong1/Fab を用いて調製したFab断片提示ファージを用いたファージELISAの概念図、およびpDong1/FabからpDong1/OSへの変換、pDong1/OS を用いて調製したVH断片提示ファージと軽鎖蛋白質を用いたオープンサンドイッチ・ファージELISAの概念図を示す。 図2は、pDong1/Fab(HEL VH/VL)を基にしたpDong1/Fab(mouse VH/VL)ライブラリー作成のスキームを示す。 図3は。抗体D11の重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列を示す。 図4は、抗体D11及びF11を用いた競合ファージELISAの結果を示す。 図5は、抗体D11及びF11のFab断片を用いた競合ELISAの結果を示す。 図6は、抗体D11及びF11を用いたオープンサンドイッチ・ファージELISAの結果を示す。
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明者らは、T4を注射したマウスから脾臓を抽出し、RT-PCRによって抗体可変領域ドメインVH及びVLの遺伝子を増幅した。続いて、VH/VL遺伝子ライブラリーをファージミドベクターpDong1/Fab(図1、特願2008-152656)に組込み大腸菌TG1に導入した後に、ヘルパーファージを重感染させることで、Fab型断片抗体を提示したファージライブラリーを作製した。このライブラリーを用いて固定化T4に対してバイオパニングを行い、T4特異的クローンD11を単離することに成功した(D11の配列は図3を参照)。さらにD11をコードするpDong1/Fab(D11)を用いて、非サプレッサー株である大腸菌HB2151を形質転換することでFab断片を発現させた(図1)。精製したFabは、固定化T4に対して特異的な結合を示し、さらに遊離T4によるIC50(50%結合阻害濃度)は約2 ng/mlと見積もられ、遊離T4に対しても強い親和性を有することが明らかとなった。また、D11を用いたオープンサンドイッチイムノアッセイ(OS-IA)を以下のように行った。OS-IAとは、VH-VL間の会合が抗原依存的に安定化することを利用した非競合的測定法である(Ueda. et al., Nat.Biotechnol. 1996, 14, 1714)。まず、pDong1/Fab(D11)を制限酵素SgrAIで処理することで、CH1(抗体重鎖定常領域ドメイン)遺伝子を除去したpDong1/OS(D11)を作製し、ヘルパーファージとともにTG1に導入することで、VH提示ファージと軽鎖蛋白質を発現させ、両者を含む培養上清を抗軽鎖抗体固定化プレートに添加し、さらに様々な濃度の遊離T4を添加した。洗浄後、プレート上に形成されたVH提示ファージ/軽鎖蛋白質/T4からなる複合体を抗ファージ抗体HRPコンジュゲートを用いた呈色反応によって検出した。その結果、D11では抗原依存的にシグナル上昇が確認でき、0.1ng/mlの遊離T4を検出することが可能であった。この結果は、D11がOS-IAに非常に適した性質を有し、D11を用いたT4の高感度非競合的検出系の構築が可能となったことを示している。
本発明の抗体は、重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列として下記(a)のアミノ酸配列を含み、かつ軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列として下記(b)のアミノ酸配列を含む、抗チロキシン抗体である。
(a)配列番号2に示すアミノ酸配列、又は配列番号2に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/又は挿入されているアミノ酸配列であって、抗チロキシン抗体の軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列からなるペプチドとともにチロキシンを特異的に認識できるアミノ酸配列;
(b)配列番号4に示すアミノ酸配列、又は配列番号4に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/又は挿入されているアミノ酸配列であって、抗チロキシン抗体の重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列からなるペプチドとともにチロキシンを特異的に認識できるアミノ酸配列;
また、本発明は、下記の何れかの、抗チロキシン抗体の重鎖可変領域(VH)のペプチドに関する。
(i)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるペプチド;
(ii)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/又は挿入されているアミノ酸配列からなり、かつ抗チロキシン抗体の軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列からなるペプチドとともにチロキシンを特異的に認識できるペプチド。
また、本発明は、下記の何れかの、抗チロキシン抗体の軽鎖可変領域(VL)のペプチドに関する。
(i)配列番号4に示すアミノ酸配列からなるペプチド;
(ii)配列番号4に示すアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/又は挿入されているアミノ酸配列からなり、かつ抗チロキシン抗体の重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列からなるペプチドとともにチロキシンを特異的に認識できるペプチド。
本発明において「1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/又は挿入されているアミノ酸配列」における「数個」とは、具体的には1〜20個、好ましくは1〜10個、更に好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜3個、最も好ましく1又は2個である。
本発明のペプチドは、当該ペプチドをコードする核酸を発現ベクターに組み込み、ベクターを適当な宿主細胞に導入し、細胞もしくは細胞の培養上清から回収、精製することにより得ることができる。ベクターとしては、宿主細胞で自律的に増殖できるか、又は宿主細胞の染色体に組み込まれ得るファージ又はプラスミドを使用することができる。プラスミドDNAとしては、大腸菌、枯草菌又は酵母に由来するプラスミドなどを用いることができ、ファージDNAとしてはλファージ等が挙げられる。また、本発明においては、ファージミドベクターを使用することは好適である。ファージミドベクターは繊維状ファージゲノムの一部を含むようにして作製されたプラスミドであるために、ファージミドベクターを用いて大腸菌を形質転換した後、更にヘルパーファージに感染させる必要がある。これによって粒子形成のためのコート蛋白質が供給されて、ヘルパーファージ粒子とファージミド粒子が混合したファージが得られる。またより簡便な方法として、必要なDNA配列を含むファージベクターを利用することもまた可能である。ファージベクターの場合には、当該ファージベクターを大腸菌に感染させることによって直接ファージを得ることが可能であり、ヘルパーファージを使用する必要はない。
形質転換に使用する宿主としては、例えば、細菌(大腸菌など)、酵母、動物細胞(COS細胞、CHO細胞等)、昆虫細胞などを挙げることができるが、本発明のペプチドを発現できるものであれば特に限定されるものではない。宿主の形質転換の方法も特に限定されず、例えば、リン酸カルシウム方法、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法、リポフェクション法などが挙げられ、また各種市販のトランスフェクション試薬を用いて行うこともできる。
形質転換体を培養後、本発明のペプチドが細胞内に生産される場合には、細胞を破砕することにより本発明のペプチドを回収することができる。また、本発明のペプチドが細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により細胞を除去する。その後、通常のタンパク質の単離精製法、即ち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)セファロースなどを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(ファルマシア社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィ一法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を単独あるいは組み合わせて用いることによって、本発明のペプチドを単離精製することができる。
本発明においては、上記した本発明のペプチド(即ち、抗チロキシン抗体の重鎖可変領域(VH)、又は軽鎖可変領域(VL))と被験試料とを接触させることによって、チロキシン(T4)を免疫学的に測定することができる。例えば、抗チロキシン抗体の重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)をコードする遺伝子を有するベクターを宿主細胞に導入し、宿主細胞外に分泌された抗体可変領域のVH断片又はVL断片の一方を含むタンパク質及び抗体可変領域のVH断片又はVL断片の他方を提示するファージを回収し、回収された抗体可変領域のVH断片又はVL断片の一方を含むタンパク質、及び抗体可変領域のVH断片又はVL断片の他方を提示するファージに、T4を接触させて、VH断片、VL断片及び抗原の複合体を検出することによって、T4濃度を見積もることができる。このような免疫学的測定法は、オープンサンドイッチイムノアッセイ(OS-IA)と呼ばれる。OS-IAについて、以下に説明する。
蛋白質性の抗原は、サンドイッチ法と呼ばれる2種類の抗体を使う方法で測定されることが一般的である。サンドイッチ法は、抗原に同時に結合できる2種類の抗体を用意する必要があるが、特異性と感度が高いという利点を有している。しかし、分子量1000以下の小分子は小さすぎて、二種類の抗体でサンドイッチすることが困難である。即ち、分子量1000以下の小分子は抗原決定基が一つしかない単価抗原であるため、二種類の抗体でサンドイッチすることが困難となる。そのためこのような小分子は通常、競合法と呼ばれる方法で測定される。しかし競合法は、条件設定が難しく、感度が低い、測定操作にかなりの注意深さが必要、といった難点を有している。
このような欠点のない、小分子でも非競合的に測定できる方法として、本発明者らは、OS-IAという免疫測定法を報告している。この方法は基本的に、「抗体の可変領域(抗原結合部位)は抗原がないと不安定だが、抗原が結合すると安定化される」という原理を利用した方法である。抗体はH鎖とL鎖の2本の鎖で構成されるが、それぞれの抗原結合部位は VH, VLと呼ばれこれらが抗原を認識できる最小単位である可変領域Fvを構成する。最近ではファージ提示法などを用いて容易にVHとVLをコードする遺伝子断片をクローニングすることができるが、VHとVLの間の結合は非共有的で多くの場合不安定であり、これらをペプチドで結んで一本鎖抗体(scFv)として使われる場合がほとんどである。
本発明者らは、この不安定なFvが、抗原が結合すると安定化する場合があり、それを利用すれば抗原濃度を簡便かつ迅速に、さらに感度よく測定できることを見出した。すなわち、VL断片をプレートに固定化しておき、これにVH断片にファージあるいはアルカリフォスファターゼを結合させたものと抗原を含むサンプルとを混ぜて一回洗浄した後にプレートに固定化されたファージあるいは酵素の量を測定すれば、それば抗原量と非常によい相関を示すことを見いだしている(UEDA, H. et al. Nature Biotechnol. 14, 1714-1718(1996))。
本発明によれば、例えば以下のような測定キットを作製することが可能である。
(1)抗チロキシン抗体のVL断片をビオチン・アビジン相互作用を利用して、または物理的吸着を利用してチューブあるいはマイクロプレートに固定化する。
(2)抗チロキシン抗体のVH断片とレポーター酵素(例えばアルカリフォスファターゼ)との融合蛋白質を作製しておき、これをサンプルと共にVLを固定化した固相と一定時間接触させる。
(3)洗浄後、固相化された酵素活性を測定し、サンプル中の抗原濃度の指標とする。
また、以下の測定キットを作製することも可能である。
(1)抗チロキシン抗体のVH断片とVL断片を互いに吸収・蛍光スペクトル重なる二種類の蛍光色素(例えばフルオレセインとローダミン)で標識しておく。
(2)これらをサンプルと混合し、5分程度おいて短波長側の蛍光色素のみを励起光で励起する。二種類の蛍光色素由来の蛍光強度を測定することで、VH/VLの会合による蛍光エネルギー移動現象を検出することができる。二つの蛍光強度の比をサンプル中の抗原濃度の指標とする。この方法では前の方法に比べて、短時間で洗浄操作なしに抗原濃度が測定できる。
また、以下の測定キットを作製することもまた可能である。
(1)抗チロキシン抗体のVH断片とVL断片を、それぞれ単体では活性がないか、低いが近接させると活性の増大する二種類の酵素断片(例えばLacZ△αおよびLacZ△ω)との融合蛋白質として大腸菌で発現させ、精製しておく。
(2)二種類の融合蛋白質とサンプルを混合し、一定時間おいたのち基質(例えば発光基質Galacton Plus, Tropix, Bedford, MA)と混合し、融合蛋白質複合体の活性を測定することでサンプル中の抗原濃度の指標とする。この方法では、前の2つの方法に比べてはるかに高感度に抗原濃度を測定することが可能であり、また洗浄操作を含まない。
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
以下の実施例で使われる略語は以下の通りである。
VH:抗体重鎖可変領域ドメイン
CH:抗体重鎖定常領域。N末端側からCH1、CH2、CH3の3つのドメインが存在する。
VH-CH1:VHとCH1からなる抗体重鎖断片
VL: 抗体軽鎖可変領域ドメイン
CL: 抗体軽鎖定常領域ドメイン
VL-CL:抗体軽鎖蛋白質
pIII:バクテリオファージコート蛋白質の一つ
gIII:pIIIをコードする遺伝子
Fab: 抗体断片。VH-CH1と、VL-CL(抗体軽鎖)からなるヘテロダイマー蛋白質で、抗原結合能を有する。
LB:1%バクトトリプトン、0.5% イーストエクストラクト、0.5% NaClを含む液体培地
LBA:100 μg/mlアンピシリンを含むLB
LBAG:100 μg/mlアンピシリン及び 1% グルコースを含むLB
LBAGプレート:100 μg/mlアンピシリン及び 1% グルコースを含むLB寒天培地
SOC:2%バクトトリプトン、0.5% イーストエクストラクト、0.05% NaCl、2.5 mM KCl、20 mMグルコース、10 mM MgCl2を含む培地
PBS:137 mM NaClと2.7 mM KClを含む10 mM phosphate buffer(pH 7.2)
2% MPBS:2%(w/v)スキムミルクを含むPBS
1% MPBS:1%(w/v)スキムミルクを含むPBS
PBST:0.1% Triton-X100を含むPBS
TAEバッファー:1 mM EDTAを含む40mM Tris-acetate(pH 8.3)
TALONバッファー:300 mM NaClを含む50 mMリン酸ナトリウム(pH7.0)
TALON溶出液:500 mMイミダゾールを含むTALONバッファー(pH7.0)
IPTG:イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド
PEG/NaCl:20% Polyethylene glycol 6000、2.5 M NaCl
PCIA:フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1)の混合物
すべての実験において、Milli-Q (Millipore Co., Billerica, MA)にて精製した水を用いた。以下、milliQ水と表記する。通常の試薬は特に表記のあるもの以外は、シグマ(St. Louis, MO)、ナカライテスク(京都)、和光純薬(大阪)、関東化学(東京)のものを使用した。オリゴDNAはテキサスジェノミクスジャパン(東京)、またはInvitrogen(東京)にて合成した。
Polymerase chain reaction (PCR)には、MJ mini personal thermal cycler (BIO-RAD Laboratories, Inc., Hercules, CA)を、DNA配列決定には、CEQTM 8000 Genetic Analysis System (Beckman Coulter, Fullerton, CA)を使用した。
大腸菌XL-10 gold、TG-1 BL21(DE3)(pLysS) 及びHB2151の遺伝子型は以下の通り。
XL-10 gold:TetrΔ(mcrA)183, Δ(mcrCB-hsdSMR-mrr)173, endA1, supE44, thi-1, recA1, gyrA96, relA1, lac, Hte[F'proAB, lacIq, ZΔM15, Tn10(Tetr), Tn5(Kanr), Amy]
TG-1: supE, hsd Δ5, thi, Δ(lac-proAB)/F' [traD36, proAB+, lacIq, lacZ ΔM15]
BL21(DE3)(pLysS):F-, ompT, hsdSB(rB - mB -), gal(λcI 857, ind1, Sam7, nin5, lacUV5-T7gene1), dcm(DE3)[pLysS, Camr
HB2151:K12d(lac-pro),thi/F'; pro A+B+, Lac IqZ dM15)
シーケンス反応及びPCRに用いたプライマー配列を以下に示す。
M13RV: 5'-caggaaacagctatgac-3' (配列番号5)
Vlseq For(Fab): 5'-attcagcaggcacacaacag-3'(配列番号6)
VH1 : 5'-ctttctatgcGGCCCAGCCGGCCATGGCCSAGGTYCAGCTBCAGCAGTC-3' (配列番号7)
VH2 : 5'-ctttctatgcGGCCCAGCCGGCCATGGCCCAGGTTCACCTGCAGCARTC-3' (配列番号8)
VH3 : 5'-ctttctatgcGGCCCAGCCGGCCATGGCCCAGGTRCAGCTGAAGGAGTC-3' (配列番号9)
VH4 : 5'-ctttctatgcGGCCCAGCCGGCCATGGCCCAGGTCCAACTVCAGCARCC-3' (配列番号10)
VH5 : 5'-ctttctatgcGGCCCAGCCGGCCATGGCCCAGATCCAGTTGGTVCAGTC-3' (配列番号11)
VH6 : 5'-ctttctatgcGGCCCAGCCGGCCATGGCCCAGGTGCAGCTGAAGSASTC-3' (配列番号12)
VH7 : 5'-ctttctatgcGGCCCAGCCGGCCATGGCCGAGGTGCAGSKGGTGGAGTC-3' (配列番号13)
VH8 : 5'-ctttctatgcGGCCCAGCCGGCCATGGCCGAAGTGAARSTTGAGGAGTC-3' (配列番号14)
VH9 : 5'-ctttctatgcGGCCCAGCCGGCCATGGCCGAKGTSVAGCTTCAGGAGTC-3' (配列番号15)
VH10 : 5'-ctttctatgcGGCCCAGCCGGCCATGGCCGAGGTGAASSTGGTGGAATC-3' (配列番号16)
VH11 : 5'-ctttctatgcGGCCCAGCCGGCCATGGCCGAGGTGAAGCTGRTGGARTC-3' (配列番号17)
VH12 : 5'-ctttctatgcGGCCCAGCCGGCCATGGCCGARGTGAAGCTGRTGGAGTC-3' (配列番号18)
VH13 : 5'-ctttctatgcGGCCCAGCCGGCCATGGCCGAAGTGCAGCTGTTGGAGAC-3' (配列番号19)
VH14 : 5'-ctttctatgcGGCCCAGCCGGCCATGGCCGARGTGAAGCTTCTCSAGTC-3' (配列番号20)
VH15 : 5'-ctttctatgcGGCCCAGCCGGCCATGGCCCARGTTACTCTGAAAGAGT-3' (配列番号21)
JH1 : 5'-ACTGCTCGAGACGGTGACCGTGGTCCC-3' (配列番号22)
JH2 : 5'-ACTGCTCGAGACTGTGAGAGTGGTGCC-3' (配列番号23)
JH3 : 5'-ACTGCTCGAGACAGTGACCAGAGTCCC-3' (配列番号24)
JH4 : 5'-ACTGCTCGAGACGGTGACTGAGGTTCC-3' (配列番号25)
VK1 : 5'-TATTCGTCGACGGATATTGTGATGACBCAGDC-3' (配列番号26)
VK2 : 5'-TATTCGTCGACGGATRTTKTGATGACCCARAC-3' (配列番号27)
VK3 : 5'-TATTCGTCGACGGAAAATGTGCTCACCCAGTC-3' (配列番号28)
VK4 : 5'-TATTCGTCGACGGAYATTGTGATGACACAGTC-3' (配列番号29)
VK5 : 5'-TATTCGTCGACGGACATCCAGATGACACAGAC-3' (配列番号30)
VK6 : 5'-TATTCGTCGACGGAYATTGTGCTSACYCARTC-3' (配列番号31)
VK7 : 5'-TATTCGTCGACGGACATCCAGATGACYCARTC-3' (配列番号32)
VK8 : 5'-TATTCGTCGACGCAAATTGTTCTCACCCAGTC-3' (配列番号33)
JK1/2 : 5'-TTTCTCGTGCGGCCGCACGTTTKATTTCCAGCTTGG-3' (配列番号34)
JK4 : 5'-TTTCTCGTGCGGCCGCACGTTTTATTTCCAACTTTG-3' (配列番号35)
JK5 : 5'-TTTCTCGTGCGGCCGCACGTTTCAGCTCCAGCTTGG-3' (配列番号36)
pHENseq : 5'-ctatgcggccccattca-3' (配列番号37)
Fabライブラリーの作成や、抗チロキシン(T4)抗体のスクリーニングにおいて、ファージミドベクター、pDong1/Fabを用いた(特願2008-152656)。pDong1/Fabは図1に示すように、2つの蛋白質、VH-CH1とpIIIの融合蛋白質、及び軽鎖蛋白質(VL-CL)を発現誘導することができる。2つの蛋白質は、CH1とCL間の相互作用によって強い会合対を形成することができ、ヘルパーファージ感染大腸菌内で発現された場合には、Fab断片提示ファージを生じる。また、CH1遺伝子のN及びC末端側に、制限酵素サイトSgrA Iが挿入されており、制限酵素処理とライゲーション処理を行うことで、CH1遺伝子を除去したpDong1/OSを得ることができる。CH1遺伝子を除去されたpDong1/OSは、ヘルパーファージ感染大腸菌内で発現された場合には、分離したVH提示ファージと可溶性軽鎖(VL-CL)を生じるために、これらを用いて、オープンサンドイッチELISAを行うことができる。
(実施例の実験概要)
まずマウスに、甲状腺ホルモンであるチロキシン(T4)とスカシ貝由来ヘモシアニン(KLH)とのコンジュゲートを注射した。その後、マウスより摘出した脾臓からRNAを抽出し、さらにRT-PCRによって抗体可変領域ドメインVH、VL遺伝子を増幅した。VH、VL遺伝子はファージミドベクターpDong1/Fabに挿入して、Fab提示ファージライブラリーを調製した。ライブラリーから、T4とウシ血清アルブミン(BSA)とのコンジュゲートに対して強い親和性を有するクローン(D11,F11)を選択し、遺伝子配列を決定した。抗T4抗体であるD11及びF11は、Fab型断片として調製し、競合ELISAによって遊離T4にも結合することを明らかとした。また、D11及びF11のVHをファージ提示型として、VLは遊離軽鎖断片(VL-CL)として発現させ、それらを用いたOS-IA原理に基づくELISA(OS-ELISA)を行った。その結果、D11はOS-ELISAに適した性質を持つことが明らかとなり、T4の非競合的検出を行うことが可能となった。
(1)T4コンジュゲート作製
T4 NHS esterの合成
T4カルボン酸誘導体 1.7 mgを200μL DMFに溶解し、EDCを 1.8 mg、NHSを1.1 mg
を加え、NHS活性エステルを作製した。反応追跡は、TLCで行い、原料の消失を確認した。
T4 -BSAの合成
10 mg KLH(和光純薬)を50 mM リン酸緩衝液 pH 7.0 2 mLに溶解し、その溶液に、T4 NHS esterのDMF溶液200μLを添加し、室温で2時間、遮光下で静置した。
T4-BSAのビオチン化は、Amine-PEG2-Biotin(Thermo Fisher Scientific Inc. Rockford, IL)を用いて、説明書に従って行った。反応後、透析を行うことで未反応のビオチン試薬を除去した。
(2)マウスのT4感作
マウス(BALB/c マウス、♀、7-9 週齢)背部皮下に免疫した。初回はアジュバント(FCA)と混合したエマルジョンを投与。2〜4回目はアジュバント(FIA)と混合したエマルジョンを投与した。2週間隔で5回免疫を行った。抗体価の上昇をELISA測定で確認し、5回目免疫を最終免疫とした。最終免疫は抗原をPBS(-)で希釈し、腹腔内へ投与した。最終免疫3日後に脾臓を摘出した。
(3)脾臓摘出とRNA抽出
マウス脾臓は、摘出後すみやかに液体窒素内で凍結し、液体窒素で冷却した乳鉢内で粉砕した。RNAの抽出は、illustra RNAspin Mini RNA Isolation Kit(GE Healthcare UK Ltd., Amersham Place, England)を用い、説明書に記載の通り行った。得られたRNA溶液は、分注して-80℃にて保存した。
(4)RT-PCRによる抗体可変領域ドメインVH、VL遺伝子の増幅
RNAを鋳型とした逆転写反応による一本鎖cDNAの合成は、OmniscriptTM Reverse Transcriptase(Qiagen, Hilden, Germany)を用いて行った。反応条件は以下の通りである。
反応時間:60分
反応温度:37℃
反応液組成:
10x Buffer RT (Qiagen) 2 μl
dNTP mix (各dNTP 5 mM) 2 μl
6-mer Random primer (10 μM) 2 μl
RNase inhibitor (10 units/μl) (東洋紡、大阪) 1 μl
Omniscript Reverse Transcriptase(Qiagen) 1 μl
DEPC処理水(ニッポンジーン社、東京) 7 μl
RNA溶液 5 μl
計 20 μl
6-mer Random primerは、依頼合成オリゴDNAを用いた。RNase inhibitorは東洋紡(大阪)から購入したものを希釈して使用した。DEPC処理水は、ニッポンジーン社(東京)製のものを使用した。反応後、cDNA溶液をDEPC処理液で10倍希釈し、以下のような条件でPCRを行い、VH及びVL遺伝子を増幅した。
反応液組成
cDNA溶液(10倍希釈) 1 μl
フォワードプライマー 1 μl
リバースプライマー 1 μl
10x ExTaq buffer (Mg2+ 20 mM) (Takara bio Inc., 大津) 10 μl
dNTP Mixture (2.5 mM each) (Takara bio Inc.) 8 μl
5 U/μl ExTaq DNA polymerase (Takara bio Inc.) 1 μl
milliQ 水 78 μl
反応サイクル
1、96℃ 2 min
2、94℃ 1 min
3、58℃ 1 min
4、72℃ 1 min
(2から4を5回)
5、94℃ 1 min
6、62℃ 1 min
7、72℃ 1 min
(2から4を25回)
5、72℃ 1 min
6、16℃ ∞
マウス脾臓由来VH遺伝子の増幅は15本のPCRチューブで行い、それぞれに、フォワードプライマーとして、50μMのプライマーJH1及びJH2、JH3、JH4を等量混合した溶液を加え、リバースプライマーとして、VH1〜VH15の15本のうちいずれか1本を加えた。反応後、1.5%アガロースゲル(Agarose S、NIPPON GENE CO., LTD., 富山)で電気泳動(TAEバッファー)を行い、目的DNA断片を確認した。その後、15本のPCR反応液を混合し、Wizard SV Gel and PCR Clean-Up System (Promega Co., Madison, WI)を用いて精製し、300μlのmilliQ水に溶解した。マウス脾臓由来VL遺伝子の増幅は8本のPCRチューブで行い、それぞれに、フォワードプライマーとして、50μMのプライマーJK1/2及びJK4、JK5を等量混合した溶液を加え、リバースプライマーとして、VK1〜VK8の8本のうちいずれか1本を加えた。反応後のアガロースゲル電気泳動と精製は、VH遺伝子の場合と同様に行った。
続いて、マウス脾臓由来VH遺伝子のSfi l I及びXho Iサイトでの切断を行った。
155 μlのVH遺伝子溶液(約3.4 μg)に、5 μl Sfi I (Roche Applied Science, Basel, Switzerland, 50 U)、20 μl 10x BSA溶液、20 μl 10x Hバッファー(Roche Applied Science)を添加し、50℃で約3時間反応させた。Sfi I処理されたマウス脾臓由来VH遺伝子は、Wizard SV Gel and PCR Clean-Up Systemを用いて精製し、100μlのmilliQ水に溶解し、そのうち1 μlを電気泳動(1.5%アガロースゲル(Agarose S)、TAEバッファー)に供し、Sfi Iサイトでの切断を確認した。残りの99 μlのVH遺伝子断片溶液に、4 μl Xho I (Roche Applied Science 10 U)、12 μl 10x Hバッファー(Roche Applied Science)、5 μlのmilliQ水を添加し、37℃で一晩反応させた。反応後、1.5%アガロースゲル(TAEバッファー)で電気泳動した後、400bp付近のバンドを切り出して、Wizard SV Gel and PCR Clean-Up System (Promega Co.)を用いて抽出し、50μlのmilliQ水に溶解した。収量は約1.8 μgであった。
マウス脾臓由来VL遺伝子のSal I及びNot Iサイトでの切断は、以下のように行った。150 μlのVL遺伝子溶液(約4.2 μg)に、5 μl Sal I (Roche Applied Science 50 U)、5 μl Not I (Roche Applied Science 50 U)、20 μl 10x BSA溶液、20 μl 10x Hバッファー(Roche Applied Science)を添加し、37℃で一晩静置した。反応後、1.5%アガロースゲル(TAEバッファー)で電気泳動した後、400bp付近のバンドを切り出して、Wizard SV Gel and PCR Clean-Up System (Promega Co.)を用いて抽出し、100μlのmilliQ水に溶解した。収量は約2.9 μgであった。
(5)マウス脾臓由来VH及びVL遺伝子のpDong1への挿入
得られたマウス脾臓由来VH及びVL遺伝子をファージミドベクターpDong1/Fabにサブクローニングするために、抗リゾチーム抗体のVH及びVL遺伝子を有する、pDong1/Fab(HEL VHVL)から抗リゾチーム抗体VL遺伝子を除去した後に、マウス脾臓由来VL遺伝子を組込み、さらに抗リゾチーム抗体VH遺伝子を除去した後に、マウス脾臓由来VH遺伝子を組込み、pDong1/Fab(mouse VHVL)を得た。詳細を以下に示す。
pDong1/Fab(HEL VHVL)から抗リゾチーム抗体VL遺伝子を除去するために、Sal I及びNot I処理を行った(図2)。また、セルフライゲーションによる寄与を軽減させたる目的で、Sal IとNot I間に含まれるSbf Iサイトでの切断も同時に行った。制限酵素処理は、pDong1/Fab(HEL VHVL)(200 μl、約6 μg)に、5 μl Sal I (Roche Applied Science, 50 U)、5 μl Not I (Roche Applied Science, 50 U)、5 μl Sfb I (New England BioLabs, Inc., Ipswich, MA, 50 U)、30 μl 10x BSA溶液、30 μl 10x Hバッファー(Roche Applied Science)、25 μl milliQ水を添加し、37℃で6時間静置した。処理後は、1.5%アガロースゲル(TAEバッファー)で電気泳動した後、5000bp付近のバンドを切り出して、Wizard SV Gel and PCR Clean-Up System (Promega Co.)を用いて抽出し、pDong1/Fab(HEL VH)(100 μl、収量約2.5 μg)を得た。
マウス脾臓から得られたVL遺伝子(90 μl、約2.5 μg)とpDong1/Fab(HEL VH) (100 μl、約2.5 μg)を混合し、5 μl T4 DNA ligase (Takara bio, 2500 U)、21 μl 10xT4 buffer (Takara bio)を添加して、16℃にて一晩反応させた。制限酵素を完全に失活させるために等量のPCIAと混合した後、DNAを含む上清を回収し、1/10等量の3 M酢酸ナトリウムと2倍等量のエタノールを加えて、11,600 g 4℃ 30分の遠心分離の後、得られた沈殿を70% エタノールで洗浄し、乾燥後4 μlのmilliQ水に懸濁した。続いて、300 μlのエレクトロポレーション用XL10-Goldコンピテントセルに対して4 μlのライゲーション反応液を加えゆるやかに混合した後に、4本のエレクトロポレーション用キュベットに分注し、エレクトロポレーションよってライゲーション産物を大腸菌内に導入した。エレクトロポレーション後は、直ちにキュベット内の大腸菌を取り出し、あらかじめ37℃に暖めていたSOC 3000 μlを添加し、37℃にて30分間インキュベーションを行った。その後、10 μlをサンプリングし、LBAGプレートに塗布し、残りを100 ml LBAGで一晩培養した。培養した大腸菌を遠心分離によって集菌し、Wizard Plus Midipreps (Promega Co.)にてプラスミドDNAを抽出し、pDong1/Fab(HEL VH/mouse VL)を得た(300 μl、約30 μg)。
また、一晩37℃にて培養したLBAGプレートからは約300個のコロニーが得られた。形質転換体を含むSOC培地の容量は300μlであり、サンプリングした10 μlから300クローンが得られたことから、形質転換体は約105クローンと見積もることができた。得られたコロニーから8個を選び、4 mlのLBAGで一晩培養し、集菌した大腸菌からWizard Plus SV Minipreps (Promega Co.)にてプラスミドDNAを抽出し、Beckman Coulter社のプロトコールに従ってシーケンス決定を行った。その結果、それぞれ異なるマウスVL遺伝子が挿入されたことが確認できた。
pDong1/Fab(HEL VH/mouse VL)から抗リゾチーム抗体VH遺伝子を除去するために、Sfi I及びXho I処理を行った(図2)。また、セルフライゲーションによる寄与を軽減させたる目的で、Sfi IとXho I間に含まれるSnaB Iサイトでの切断も同時に行った。制限酵素処理は、pDong1/Fab(HEL VH/mouse VL)(200 μl、約20 μg)に、10 μl Sfi I (Roche Applied Science, Basel, Switzerland, 100 U)、27 μl 10x BSA溶液、27 μl 10x Hバッファー(Roche Applied Science)を添加し、50℃で約3時間反応させた。その後、Wizard SV Gel and PCR Clean-Up Systemを用いて精製し、100μlのmilliQ水に溶解し、そのうち1 μlを電気泳動(1.5%アガロースゲル(Agarose S)、TAEバッファー)に供し、Sfi Iサイトでの切断を確認した。残りの99 μlのVH遺伝子断片溶液に、4 μl Xho I (Roche Applied Science 40 U)、12 μl 10x Hバッファー(Roche Applied Science)、5 μlのmilliQ水を添加し、37℃で一晩反応させた。反応後、同様に精製し、99 μlのVH遺伝子断片溶液に、4 μl SnaB I (New England BioLabs, Inc., Ipswich, MA, 20 U)、12 μl 10x NEB buffer 2(New England BioLabs, Inc.)、5 μl 10x BSA溶液(New England BioLabs, Inc.)を添加し、37℃で3時間反応させた。制限酵素処理後は、1.5%アガロースゲル(TAEバッファー)で電気泳動した後、5000bp付近のバンドを切り出して、Wizard SV Gel and PCR Clean-Up System (Promega Co.)を用いて抽出し、pDong1/Fab(mouse VL)(100 μl、収量約13 μg)を得た。
マウス脾臓から得られたVH遺伝子(40 μl、約1.4 μg)とpDong1/Fab(mouse VL) (100 μl、約1.3 μg)を混合し、5 μl T4 DNA ligase (Takara bio, 2500 U)、20 μl 10xT4 buffer (Takara bio)、35 μl milliQ水を添加して、16℃にて一晩反応させた。反応後は、コンピテントセルとしてエレクトロポレーション用TG-1コンピテントセルを用いた以外は、上記と同様にエレクトロポレーションを行い、形質転換体を50 ml LBAGで一晩培養後、25 mlを分取し200 mlのLBAGに植菌し、残りはグリセロールを終濃度15%となるように添加し、-80℃にて保存した。
また上記と同様に、形質転換体数の見積もりを行い、約3 x 104クローン得られたことが明らかとなった。またいくつかのコロニーを4 mlの2YTAGで一晩培養し、遠心分離によって集菌した大腸菌からQIAquick miniprep kitにてプラスミドDNAを抽出し、シーケンスを決定した。その結果、設計通りにそれぞれ異なるマウスVH/VL遺伝子が挿入されていることが確認された。
(6)Fab提示ファージの調製
上記で、形質転換体を植菌した200 mlのLBAG培養液は、OD600が約0.5になった時点で、KM13 helper phage(約2 x 1011 cfu)を添加した。30℃にて30分間静置した後、3,300 gで菌体を遠心分離して、上清を捨て、320 ml LBAKに再懸濁し、バッフル付フラスコで30℃16時間、200 rpmで攪拌した。さらに、3,300 gの遠心分離によって回収した上清 320 mlに対して、80 mlのPEG/NaClを加えて、氷上で2時間静置した。その後、3,300 g 30分遠心分離によって得たペレットを5 ml PBSにて懸濁し、11,600 g 10分遠心して大腸菌を取り除き、Fab提示ファージライブラリーを含む上清を回収した。900 μlを続くパニングに用いて、残りにグリセロールを終濃度15%となるように添加し、80℃にて保存した。
(7)バイオパニング
Fab提示ファージライブラリーから、T4と強い相互作用を持つクローンをセレクションするために、以下のようなパニングを行った。
まずマグネチックセパレーター(12-Tube Magnet(Qiagen))を用いて、ストレプトアビジン固定化マグネチックビーズDynabeads M280 Streptavidin (Dynal Biotech, Oslo, Norway)懸濁液100 μl (10 mg/ml)からビーズを回収し、PBSに懸濁した。この洗浄操作を3回繰り返した後に、回収したビーズを1 mlのビオチン化T4-BSA溶液 (1 μg/ml) に懸濁し、室温30分間ローテーターで攪拌した。その後、ビーズを2% MPBSに懸濁して、さらに室温30分間攪拌した。その後、上記と同様にPBSTを用いた洗浄操作を4回繰り返した後、ビーズを100 μlのPBSに懸濁し、さらに0.1% BSA を含む1012 pfuの Fab提示ファージライブラリー溶液(900 μl)を加え、室温60分間攪拌した。ビーズは、KingFisher マグネチックビーズ洗浄装置(Thermo Fisher Scientific Inc.)を用いて、0.1% BSA を含むPBSで1回、PBS-Tで6回洗浄した。ビーズに結合したファージは、200 μlの1 mg/ml Trypsin溶液を加えて10 分間攪拌し、Fab断片とファージ粒子の間に存在するリンカーを切断することで溶出させた。ファージ溶出液は900 μlのTG-1培養液(OD600 = 0.5)を加えて、37℃で30分静置し、11,600 gで10分間遠心した。ペレット(ファージ感染TG-1)は、50 ml LBAGに懸濁し、OD600が約0.5になるまで、37℃で培養した。その後上記の通りヘルパーファージを加えてFab提示ファージを調製し、半分はグリセロールストックへ、残りは上記と同様に2ラウンド目のパニングを行い、さらに同様に3ラウンド目のパニングを行った。3ラウンド後のファージ溶出液で感染させたTG-1はLBAGプレートに播種し、多数のコロニーを得た。
(8)モノクローナルファージELISA
3ラウンドのパニングの後に得られたコロニーから96個を選び、それぞれをあらかじめ1ウェルにつき100 μl LBAG を加えた96ウェル丸底マイクロプレート(Corning Inc. Corning, NY)で一晩培養し、そのうち5 μlを1ウェルにつき100 μl LBAGを加えられた新しい96ウェル丸底マイクロプレートに植菌し、残りはグリセロールを添加し-80℃で保存した。新しい96ウェル丸底マイクロプレート内の培養液のOD600が約0.5になった時点で、KM13 helper phage(約4 x 109 cfu)を添加した。30℃30分間静置した後、3,300 gで菌体を遠心分離して、上清を捨て、100 μl LBAKに再懸濁し、30℃で一晩攪拌した。培養後、3,300 gの遠心分離によって、モノクローン化したFab提示ファージを含む培養上清を回収した。
一方、Falcon3912マイクロプレート(Becton Dickinson and Company, Franklin Lakes, NJ)に、10 μg/mlのT4-BSAを含むPBS溶液、もしくは10 μg/mlのBSAを含むPBS溶液を1ウェルあたり50 μlずつ分注し、4℃で一晩静置した。マイクロプレートから溶液を廃棄した後、2% MPBSを200μl加え、室温で2時間置いてブロッキングを行った。次いで、マイクロプレートをPBSTで洗浄した後、上記で得られたモノクローン化したFab提示ファージを含む培養上清と2% MPBSの等量混合液を1ウェルあたり50ずつ加え室温で、1時間静置した。ここまでの操作で固定化されたFab提示ファージを検出するために、マイクロプレートをPBST洗浄後、1% MPBSで1/1000に希釈したHRP/anti-M13 Monoclonal Conjugate(GE Healthcare UK Ltd., Amersham Place, England)を50 μl加え室温で1時間静置した。その後マイクロプレートをPBSTで四回洗浄した後、あらかじめ調製した酵素反応溶液(50 ml 100 mM 酢酸ナトリウム pH6.0、500 μl 10 mg/ml TMBZ(in DMSO)、10 μl H2O2)を各wellへ100μlずつ添加して反応を開始した。暗所で約5分間反応させた後、3.2N H2SO4を50 μlずつ添加して反応を止め、プレートリーダーで450 nmの吸光度を測定した(対照は655 nm)。その結果、対照実験であるBSA固定化プレートと比較して、明らかにT4-BSA固定化プレートにおいて優位に高いシグナルを示した2つのクローン、D11及びF11が得られた。この2つのクローンを4 mlのLBAGで一晩培養し、遠心分離によって集菌した大腸菌からQIAquick miniprep kitにてプラスミドDNA(pDong1/Fab(D11)及びpDong1/Fab(F11))を抽出し、それらの塩基及びアミノ酸配列を決定した(図3)。
図3に記載したD11の重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列を配列番号2に示し、それをコードする塩基配列を配列番号1に示す。図3に記載したD11の軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列を配列表の配列番号4に示し、それをコードする塩基配列を配列番号3に示す。
また、上記と同様にFab提示ファージを調製し、以下のように競合ELISAを行った。
(9)競合ファージELISA
バイオパニングによって単離された抗T4抗体であるD11及びF11は、上記の通りT4-BSAに対する親和性が確認されたが、さらに遊離T4に対する親和性を競合ELISAによって確認した。
Falcon3912マイクロプレート(Becton Dickinson and Company)に、10 μg/mlのT4-BSAを含むPBS溶液、もしくは10 μg/mlのBSAを含むPBS溶液を1ウェルあたり50 μlずつ分注し、4℃で一晩静置した。マイクロプレートから溶液を廃棄した後、そこに2% MPBSを200μl加え、室温で2時間置いてブロッキングを行った。次いで、マイクロプレートをPBSTで洗浄した後、1ウェルあたりD11及びF11のFab提示ファージを5 μl(109 cfu)、25 μlの2% MPBS、12.5 μlの遊離T4溶液(0 - 100 μg/ml)、7.5 μl PBSを加え、室温で1時間静置した。ここまでの操作で固定化されたFab提示ファージは、上記と同様に検出した。その結果、遊離T4濃度の増加に従いシグナルは低下し、IC50値はいずれの場合も5-10 ng/mlであった(図4)。これより、D11とF11ともに遊離T4に対して強い親和性を有していることが示された。
(10)Fab断片の調製と、競合ELISA
pDong1/Fab(D11)もしくはpDong1/Fab(F11)を導入した大腸菌HB2151株を培養し、発現させたFab断片を精製し、競合ELISAを行った。
上記のプラスミド抽出操作によって得られたpDong1/Fab(D11)もしくはpDong1/Fab(F11)溶液1 μlを大腸菌HB2151株のケミカルコンピテントセル50 μlと混合し、氷上30min静置した後、42℃ 45秒ヒートショックしすぐに2分氷上静置した。その後、SOC培地200 μlを加え30分キュアリングし、LBAGプレートに塗布して37℃で一晩培養した。生じたコロニーを20 mlのLBAGに植菌し、30℃で一晩振とう培養を行った後に800 mlのLBAに植え継ぎ、30℃で振とうした。O.D.が0.5〜0.6になったところで1000 mM IPTG 400 μl を加え、さらに16℃で一晩時間振とう培養した。菌体培養液を遠心分離機でそれぞれ上清と大腸菌のペレットに分離した後、上清からは硫安沈殿法で、ペレットからは超音波菌体破砕で、それぞれFab断片を以下のように回収した。
上清約800 mlに硫安370gを加えて、4℃で一晩攪拌した後、遠心分離によってFab断片を含む不溶物を回収し、30 mlのTALON バッファーに溶解した。ペレットは、30 mlのTALONバッファーに懸濁し、ソニケーターで菌体破砕し、遠心分離によってFab断片を含む上清を回収した。Fab断片を含む溶液は、TARON affinity resin (Clontech Laboratories, Inc., Mountain View, CA)をパッキングしたカラム(直径約3センチx 高さ2センチ)に加えた。Fab断片を吸着させたレジンを、約50 mlのTALON バッファーで洗浄した後、溶出バッファーでFab断片を溶出させた。透析でPBSにバッファー交換した後、グリセロールを終濃度15%になるように加えて、−80℃保存した。発現精製したFab断片はSDS-PAGEより確認を行った。
競合ELISAでは、Falcon3912マイクロプレート(Becton Dickinson and Company)に、10 μg/mlのT4-BSAを含むPBS溶液、もしくは10 μg/mlのBSAを含むPBS溶液を1ウェルあたり50 μlずつ分注し、4℃で一晩静置した。マイクロプレートから溶液を廃棄した後、そこに2% MPBSを200μl加え、室温で2時間置いてブロッキングを行った。次いで、マイクロプレートをPBSTで洗浄した後、1ウェルあたりD11及びF11のFab断片(5 μg/ml)を12.5 μl(109 cfu)、25 μlの2% MPBS、12.5 μlの遊離T4溶液(0 - 100 μg/ml)、を加え、室温で1時間静置した。ここまでの操作で固定化されたFab断片は、HRP/anti-M13 Monoclonal Conjugateの代わりにanti-pentaHis antibody(Qiagen)を用いた以外は、上記と同様に検出した。その結果、遊離T4濃度の増加に従いシグナルは低下し、IC50値はいずれの場合も約2 ng/mlであった(図5)。これより、D11とF11のFab断片は、ファージ提示Fabと同様に、遊離T4に対して強い親和性を有していることが明らかになった。
(11)pDong1のOS変換とOS-ELISA
約50 ngのpDong1/Fab(D11)もしくはpDong1/Fab(F11)をSgrAIで37℃3時間処理し、精製した後に、DNA Ligation high ver2(TOYOBO)を加えて、16℃30分間セルフライゲーションをさせ(図6上)、TG-1ケミカルコンピテントセルに加えて形質転換した。形質転換株をLBAGプレートにて37℃一晩培養し、得られたコロニーから、CH1遺伝子が欠失したベクターpDong/OS(D11)もしくはpDong/OS(F11)を有するクローンをコロニーPCRによって選択した。コロニーPCRでは、GoTaq Green Master Mix (Promega Co.)に、プライマーM13RVとpHENseqをそれぞれ5 pmolを加えた後、水を加えて全量を10μlとし、コロニー片の付着した爪楊枝で攪拌後、以下の反応サイクルでPCR反応を行った。
反応サイクル
1、96℃ 2 min
2、94℃ 30 sec
3、55℃ 30 sec
4、72℃ 30 sec
(2から4を25回)
5、72℃ 1 min
6、16℃ ∞
選択されたクローンは、4 ml LBAGにて、37℃にてOD600が約0.5になるまで培養した。そこにKM13ヘルパーファージ(2 x 1011 pfu)を加えて、37℃で30分静置し、遠心分離(3,000 g, 10 min)の後、50 ml LBAK培地(100μg/mlアンピシリン、50μg/mlカナマイシン)に再懸濁した。培養液は、バッフル付三角フラスコに移した後に、200 rpm、30℃で培養した。一晩の培養後、3,000xg, 30 minの遠心分離によって菌体を除去し、VH提示ファージとVL-CL蛋白質を含む上清約40 mlを回収し、以下のようにOS-ELISAを行った。
即ち、約1μg/mlのヤギ抗ヒトκ鎖抗体(AI-3060, Vector Labs.Inc., Burlingame, CA)をFalcon3912マイクロプレートに50μlずつ分注し、4℃で一晩静置した。マイクロプレートから溶液を廃棄した後、そこに2% MPBSを200μl加え、室温で2時間静置しブロッキングを行った。次いで、マイクロプレートをPBSTで洗浄した後、上記で調製した12.5 μlのファージ上清、12.5 μlの濃度既知の遊離T4溶液(0 - 10μg/ml)、25 μlの2% MPBSを加え、室温で60分間静置した。固定化されたVH提示ファージを検出するために、マイクロプレートをPBST洗浄後、1% MPBSで1/1000に希釈したHRP/anti-M13 Monoclonal Conjugateを加え室温で1時間静置した。その後マイクロプレートをPBSTで三回洗浄した後、酵素反応溶液を添加し反応させてからH2SO4で反応を止め、450 nmの吸光度を測定した(対照は655 nm)。結果は図6で示すように、D11については、抗原濃度の増加に従い、顕著なシグナルの変化が得られ、0.1 ng/mlの遊離T4についても非競合検出が可能であることが示された。よって、D11はOS-ELISA実施に適した抗体であることが明らかとなった。一方で、F11については、抗原非存在下においても高いシグナルが観測され、OS-ELISA実施にあまり適していないことが明らかとなった。

Claims (10)

  1. 重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列として下記(a)のアミノ酸配列を含み、かつ軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列として下記(b)のアミノ酸配列を含む、抗チロキシン抗体。
    (a)配列番号2に示すアミノ酸配列、又は配列番号2に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/又は挿入されているアミノ酸配列であって、抗チロキシン抗体の軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列からなるペプチドとともにチロキシンを特異的に認識できるアミノ酸配列;
    (b)配列番号4に示すアミノ酸配列、又は配列番号4に示すアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/又は挿入されているアミノ酸配列であって、抗チロキシン抗体の重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列からなるペプチドとともにチロキシンを特異的に認識できるアミノ酸配列;
  2. 重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列として配列番号2に示すアミノ酸配列を含み、かつ軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列として配列番号4に示すアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の抗チロキシン抗体。
  3. 下記の何れかのペプチド。
    (i)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるペプチド;
    (ii)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/又は挿入されているアミノ酸配列からなり、かつ抗チロキシン抗体の軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列からなるペプチドとともにチロキシンを特異的に認識できるペプチド。
  4. 下記の何れかのペプチド。
    (i)配列番号4に示すアミノ酸配列からなるペプチド;
    (ii)配列番号4に示すアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/又は挿入されているアミノ酸配列からなり、かつ抗チロキシン抗体の重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列からなるペプチドとともにチロキシンを特異的に認識できるペプチド。
  5. 請求項1から4の何れかに記載の抗体又はペプチドをコードする核酸。
  6. 請求項5に記載の核酸を含む、組み換えベクター。
  7. 請求項6に記載の組換えベクターにより形質転換された形質転換体。
  8. 請求項1から5の何れかに記載の抗体又はペプチドを含む、チロキシン検出試薬。
  9. 請求項1から5の何れかに記載の抗体又はペプチドと被験試料とを接触させることを含む、チロキシンの免疫測定方法。
  10. 請求項3に記載のペプチドと、請求項4に記載のペプチドと、チロキシンを含む被験試料とを接触させて、上記2種のペプチドとチロキシンの複合体を形成させることを含む、請求項9に記載のチロキシンの免疫測定方法。
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