ところで、上記特許文献1に記載された積層体の割断方法を利用して製造するデバイスがMEMSデバイスのような3次元構造を有するデバイスの場合、ガイド溝形成工程においてダイサまたはスクライバによりSi基板にガイド溝を形成する際に生じる機械的ストレスなどによって3次元構造が破壊されてしまう恐れがある。
また、上記特許文献1に記載された積層体の割断方法では、割断工程よりも前に、Si基板とガラス基板との互いの接合面それぞれに格子状のガイド溝をダイサまたはスクライバにより形成するガイド溝形成工程と、ガイド溝形成工程の後でSi基板とガラス基板とを陽極接合法などにより直接接合する接合工程と、接合工程の後でガラス基板におけるSi基板との接合面側とは反対側の表面に格子状の切削溝を形成する切削溝形成工程とを順次行う必要があり、Si基板に形成されたガイド溝とガラス基板に形成されたガイド溝とガラス基板に形成された切削溝とのアライメント精度に起因して歩留まりが低下してしまう恐れがあり、工程数の削減が望まれている。
これに対して、上記特許文献2に記載された積層体の割断方法では、割断工程の前に、Si基板の内部に第1の改質部を形成する第1の改質部形成工程と、ガラス基板の内部に第2の改質部を形成する第2の改質部形成工程とを順次行う必要があり、割断工程の前の工程数が多くなり、コストが高くなってしまう。
また、上記特許文献2に記載された積層体の割断方法では、Si基板とガラス基板とが接着層を介して接合された積層体を割断するようにしているが、本願発明者らは、Si基板とガラス基板とを直接接合した積層体の割断方法として、上記特許文献2に記載の割断方法のようにSi基板とガラス基板とのそれぞれに改質部を形成してから、積層体に曲げ応力を与えた場合、ガラス基板の割断面が粗く、しかも平面視におけるガラス基板の外周線の各辺が蛇行しており、まっすぐにならないという知見を得た。このため、上記特許文献2に記載の割断方法では、割断時や割断後のチップ(Si基板の小片とガラス基板の小片との積層体)の取り扱い時などに屑が発生しやすく、歩留まり低下の要因となってしまい、しかも、割断予定ラインを含むストリートの幅を広くする必要があり(つまり、切代を広くする必要があり)、1つの積層体を格子状の割断予定ラインに沿って割断することにより得られるチップの数が減少して収率が低下してしまい、結果的にチップのコストアップに要因となってしまうので、割断面の平滑性の向上が望まれる。
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、本発明の目的は、Si基板とガラス基板とを直接接合して形成した積層体をより簡単に割断でき且つガラス基板の割断面の平滑性を向上できる積層体の割断方法を提供することにある。
請求項1の発明は、Si基板とガラス基板とを直接接合して形成した積層体を割断する積層体の割断方法であって、所望の割断予定ラインに沿って積層体におけるSi基板に対してレーザビームを照射する若しくはドライエッチングを行うことによりSi基板におけるガラス基板側に応力集中部を形成する応力集中部形成工程と、当該応力集中部形成工程の後で積層体の応力集中部に応力を与えることにより積層体を割断する割断工程とを備えることを特徴とする。
この発明によれば、所望の割断予定ラインに沿ってレーザビームを照射する若しくはドライエッチングを行うことにより積層体におけるSi基板のガラス基板側に応力集中部を形成してから、積層体の応力集中部に応力を与えることにより積層体を割断するので、Si基板とガラス基板とを直接接合して形成した積層体をより簡単に割断でき且つガラス基板の割断面の平滑性を向上できる。
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記応力集中部形成工程では、前記応力集中部を形成するにあたって、前記Si基板にレーザビームを照射して前記割断予定ラインに沿って改質部を形成することで前記応力集中部を形成することを特徴とする。
この発明によれば、前記応力集中部形成工程において、前記Si基板にレーザビームを照射して改質部を形成することにより前記応力集中部を形成することができるので、前記Si基板をドライエッチングすることにより前記応力集中部を形成する場合に比べて、前記応力集中部形成工程のタクトタイムを短縮することができる。
請求項3の発明は、請求項1の発明において、前記応力集中部形成工程では、前記応力集中部を形成するにあたって、前記Si基板において前記割断予定ラインに沿った部位をドライエッチングして前記Si基板の厚み方向に貫通するスリットを形成することで前記応力集中部を形成することを特徴とする。
この発明によれば、前記応力集中部形成工程では、前記Si基板において前記割断予定ラインに沿った部位をドライエッチングして前記Si基板の厚み方向に貫通するスリットを形成することで前記応力集中部を形成するので、レーザを用いることなく前記応力集中部を形成することができ、スリットを形成するためのドライエッチング装置は積層体の3次元構造を形成する際に用いるドライエッチング装置を流用することができるので、設備投資を抑えることによる低コスト化を図れる。
請求項4の発明は、請求項1の発明において、前記応力集中部形成工程では、前記応力集中部を形成するにあたって、前記Si基板において前記割断予定ラインに沿った部位をドライエッチングして薄肉化し且つ当該部位の両側をドライエッチングして前記ガラス基板を露出させることで前記応力集中部を形成することを特徴とする。
この発明によれば、前記応力集中部形成工程では、前記Si基板において前記割断予定ラインに沿った部位をドライエッチングして薄肉化し且つ当該部位の両側をドライエッチングして前記ガラス基板を露出させることで前記応力集中部を形成するので、レーザを用いることなく前記応力集中部を形成することができ、前記Si基板をドライエッチングするためのドライエッチング装置は積層体の3次元構造を形成する際に用いるドライエッチング装置を流用することができるので、設備投資を抑えることによる低コスト化を図れる。
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項4の発明において、前記割断工程は、遠赤外レーザからのレーザビームを前記応力集中部に沿って照射することで前記応力集中部に温度変化を与えるレーザ照射工程と、前記積層体を貼り付けた粘着性樹脂テープを引き伸ばすエキスパンド工程との少なくとも一方を含むことを特徴とする。
この発明によれば、前記割断工程を自動化することができ、手作業に比べて作業効率が向上するとともに割断面の品質が安定する。
請求項1の発明では、Si基板とガラス基板とを直接接合して形成した積層体をより簡単に割断でき且つガラス基板の割断面の平滑性を向上できるという効果がある。
本実施形態では、図1に示すように、単結晶のSi基板11とガラス基板11との積層構造を有する積層体10を割断する割断方法を例示する。ここで、本実施形態では、Si基板11とガラス基板12とを陽極接合法により直接接合することによって積層体10を形成している。また、本実施形態における積層体10としては、例えば、MEMSデバイス(例えば、加速度センサ、圧力センサ、ジャイロセンサ、マイクロリレー、マイクロバルブなど)が多数形成されたものを採用することができる。
ガラス基板12のガラス材料としては、硼珪酸ガラスであるパイレックス(登録商標)を採用しているが、硼珪酸ガラスに限らず、例えば、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、石英ガラスなどを採用してもよい。なお、本実施形態では、Si基板11の厚さを300μm、ガラス基板12の厚さを300μmとしてあるが、これらの厚さは一例であって特に限定するものではない。
本実施形態の積層体10の割断方法では、図1(a)に示すように割断予定ラインLに沿ってSi基板11におけるガラス基板12側に応力集中部20を形成する応力集中部形成工程を行い、その後、図1(b)に示すように遠赤外レーザ(図示せず)からのレーザビームLBbを応力集中部20に沿って照射する(図1(b)中の矢印はレーザビームLBbの走査方向を示している)ことで応力集中部20に温度変化を与えるレーザ照射工程を行い、続いて、積層体10を貼り付けた粘着性樹脂テープ(図示せず)を引き伸ばすエキスパンド工程を行うようにしている。ここで、本実施形態では、レーザ照射工程とエキスパンド工程とで、積層体10の応力集中部20に応力を与えることにより積層体10を割断する割断工程を構成している。本実施形態では、割断工程が、レーザ照射工程とエキスパンド工程とを備えているが、レーザ照射工程とエキスパンド工程との少なくとも一方を備えていればよい。なお、割断工程では、手作業で積層体10に曲げ応力を与えることにより積層体10を割断するようにしてもよい。
ここにおいて、応力集中部形成工程では、応力集中部20を形成するにあたって、Si基板11にレーザビームLBaを照射して割断予定ラインLに沿って改質部13を形成することで応力集中部20を形成するようにしている。すなわち、応力集中部形成工程では、所望の割断予定ラインLに沿ってレーザビームLBaを照射する(図1(a)中の矢印はレーザビームLBaの走査方向を示している)ことによりSi基板11に改質部13を形成することで応力集中部20を形成している。ここで、改質部13は、アブレーションが起こらないような照射条件で形成されており、Si基板11における周辺部位に比べて熱伝導率が小さくなるように改質されている。
本実施形態では、割断前のSi基板11として主表面が(100)面のウェハ状のものを用いており、割断前のガラス基板12の外周形状をSi基板11と同じウェハ状の形状に設定してある。また、割断予定ラインLは、ウェハ状のSi基板11のオリエンテーションフラットを基準としてオリエンテーションフラットに平行な直線状の割断予定ラインLと、オリエンテーションフラットに直交する直線状の割断予定ラインLとがあり、Si基板11に多数の割断予定ラインLが全体として格子状に形成されている。しかして、本実施形態の積層体10の割断方法によれば、積層体10から多数の矩形状のチップ(Si基板11の小片とガラス基板12の小片との積層体)を切り出すことができる。なお、Si基板11としては主表面が(100)面のものを用いているが、Si基板11の主表面は、(100)面に限らず、(110)面でも、(111)面でもよい。
ところで、本実施形態では、Si基板11の内部に上述の改質部13を形成するにあたって、図1(a)および図2に示すように積層体10の厚み方向において異なる複数の位置に改質部13を形成するようにしており、改質部13をSi基板11におけるガラス基板12側の1箇所のみに形成する場合に比べて、積層体10をより精度良く割断予定ラインLに沿って割断することが可能となる。
ここにおいて、各割断予定ラインLごとに複数の改質部13を形成する場合には、レーザビームLBaをSi基板11の内部に集光照射してスキャンニングする過程を、Si基板11の厚み方向における形成位置(Si基板11におけるガラス基板12側とは反対の表面からの深さ)を変えながら繰り返すようにすればよい。
上述のように、積層体10の一部であるSi基板11の厚み方向において異なる複数の位置に改質部13を形成するようにすれば、積層体10を精度良く割断予定ラインLに沿って割断することが可能となる。
ここで、本実施形態では、レーザビームLBaを単方向へ走査することにより、つまり、レーザビームLBaを割断予定ラインLに沿って単方向へ走査することにより改質部13を始点から終点まで形成する度に、デフォーカス量(デフォーカス距離)を変えてレーザビームLBaを割断予定ラインLに沿って走査することにより改質部13を始点から終点まで形成するようにしている。したがって、例えば、上述のようにSi基板11の厚さを300μmとした場合、Siの屈折率およびレーザビームLBaの入射角を考慮して図2に示すようにデフォーカス量を10μm〜70μmの範囲で5μmずつ変化させるようにすれば、1つの割断予定ラインLに対して13箇所に改質部13を形成することができる。各割断予定ラインLに対して形成される複数の改質部13のうちガラス基板12におけるSi基板11側の表面に最も近い改質部13は、応力集中部20の応力を大きくする観点から、ガラス基板12におけるSi基板11側の表面により近い位置に形成することが好ましい。なお、レーザビームLBaの走査方向は、単方向に限らず、双方向でもよい。
上述の応力集中部形成工程の後の割断工程では、割断予定ラインLに沿って応力集中部20にレーザビームLBbを照射することによりガラス基板10にレーザビームLBbを吸収させて積層体10を溶融させることなく積層体10に局所的に温度変化を与えるようにしている。
ここで、上述の積層体10の割断方法に用いる割断処理システムについて図3に基づいて簡単に説明する。
図3に示す構成の割断処理システムは、応力集中部形成工程で改質部13を形成するために用いるレーザ(以下、第1のレーザと称す)1aと、第1のレーザ1aから出射されたレーザビームLBaのビーム径およびプロファイルを調整する第1のビーム調整光学系2aと、割断工程のレーザ照射工程にて用いるレーザ(以下、第2のレーザと称す)2aと、第2のレーザ2aから出射されたレーザビームLBbのビーム径およびプロファイルを調整する第2のビーム調整光学系2bと、各ビーム調整光学系2a,2bにて調整されたレーザビームLBa,LBb(図1(a)、(b)参照)の一方を積層体10へ集光する集光光学系3と、積層体10が載置され3軸方向(X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向)に移動可能なステージ4と、各レーザ1a,1b、各ビーム調整光学系2a,2b、集光光学系3およびステージ4を制御する適宜のプログラムが搭載されたマイクロコンピュータなどからなる制御装置(図示せず)とを備えている。
ここにおいて、第1のビーム調整光学系2aは、第1のレーザ1aから出射されたレーザビームLBaのプロファイルをガウシアン分布に調整し、第2のビーム調整光学系2bは、第2のレーザ1bから出射されたレーザビームLBbのプロファイルをリング状に調整するように光学設計されている。ステージ4は、集光光学系3の光軸に交差する面内で互いに直交するX軸方向、Y軸方向と、集光光学系3の光軸方向に沿ったZ軸方向との3軸方向に移動可能となっている。なお、積層体10は、ガラス基板12におけるSi基板11側とは反対の裏面側がダイシングテープ(粘着剤の付いたプラスチックフィルム)にフラットリングとともに接着固定された状態でステージ4上に載置する。
また、上述の割断処理システムは、積層体10を撮像するCCDカメラからなる撮像装置(図示せず)を備えており、上記制御装置は、上記撮像装置の出力に基づいて、Si基板12を構成するSi基板におけるガラス基板11側の表面に予め設けられているアライメント用マーク(図示せず)を認識して積層体10における仮想の割断予定ラインLの位置を認識する割断予定ライン認識手段を有し、当該割断予定ライン認識手段にて認識された割断予定ラインLに沿ってレーザビームLBa,LBbが各別に照射されるように、各レーザ1a,1b、各ビーム調整光学系2a,2b、集光光学系3およびステージ4を制御する。ここにおいて、上記制御装置は、割断予定ラインLに沿ってレーザビームLBa,LBbが照射されるようにステージ4を各軸方向に適宜移動させる。なお、割断予定ライン認識手段は、上記マイクロコンピュータに適宜のプログラムを搭載することにより実現される。
ここにおいて、応力集中部形成工程で用いる第1のレーザ1aとしては、パルス赤外レーザとして、中心波長が1μm、パルス幅が48ns〜200ns、パルスの繰り返し周波数が100〜200kHzのNd:YVO4レーザを用い、集光光学系3において第1のレーザ1aからのレーザビームLBaを積層体10に集光する集光レンズ(以下、第1の集光レンズと称す)3aとして、開口数(NA)が0.8の対物レンズを用いている。なお、本実施形態では、レーザビームLBaのエネルギを3〜5μJ、走査速度を100〜300mm/secとしてあるが、これらの数値は一例であって特に限定するものではない。また、応力集中部形成工程において用いる第1のレーザ1aは、改質部13の形成が可能なものであればよく、Nd:YVO4レーザに限定するものではない。また、改質部13の幅(Si基板11の表面に平行な面内で割断予定ラインLに直交する方向の幅)は例えば3〜5μm程度の範囲で適宜設定すればよい。
第1のレーザ1aのパルス幅は、48ns〜200nsに限らないが、この範囲で適宜設定すれば、割断予定ラインLに沿って改質部13を形成する際に改質部13がSi基板11の表面に平行な面内で割断予定ラインLに交差する方向へ不要に広がるのを防止することができ、後の割断工程において積層体10を割断予定ラインLに沿ってより精度良く割断することが可能となって割断工程の歩留まりを高めることが可能になるとともに、割断に必要なエリアであるストリートの幅を狭くすることが可能になる。また、パルス幅をnsオーダとすることにより、集光スポット径よりもストリートの幅を狭くすることが可能になるとともに、周辺部位への熱損傷の発生を防止することができ、積層体10へ熱ストレスがかかるのを防止することができる。
また、割断工程で用いる第2のレーザ2bとしては、中心波長が10.6μm、出力が100W、発振形態がCW発振のCO2レーザを用い、集光光学系3において第2のレーザ2aからのレーザビームLBbを積層体10に集光する集光レンズ(以下、第2の集光レンズと称す)3bとして、焦点距離が250mmのレンズを用いている。なお、本実施形態では、レーザビームLBbにより積層体10が溶融されないようにレーザビームLBbのパワーを37.8〜54.6W、走査速度を90mm/secとしてあるが、これらの数値は一例であって特に限定するものではない。なお、レーザビームLBbの集光スポット径は、例えば100μm〜2mmの範囲で適宜設定すればよい。また、割断工程において用いる第2のレーザ2bは、CO2レーザに限らず、例えば、波長が3μm以上の他の遠赤外レーザを用いてもよい。
ここで、主表面が(100)面で厚さが300μmのSi基板11と厚さが300μmのパイレックス(登録商標)製のガラス基板12との積層体10を割断するために、応力集中部形成工程において、Si基板11の割断予定ラインLごとに13個の改質部13を形成する際の赤外パルスレーザからのレーザビームLBaの照射条件として、パルス幅を95ns、エネルギを3μJ、走査速度を100mm/sec、デフォーカス量を10〜70μm(5μmピッチ)とし、割断工程において、エキスパンド工程にてエキスパンド装置(図示せず)により約13MPaの曲げ応力を与えることにより積層体10を割断するようにした実施例1に関して、積層体10を割断して得られたチップをSEM(走査型電子顕微鏡)により観察したSEM像図を図4に示す。
また、同様の積層体10を割断するために、応力集中部形成工程において、Si基板11の割断予定ラインLごとに13個の改質部13を形成する際の赤外パルスレーザからのレーザビームLBaの照射条件として、パルス幅を48ns、エネルギを3μJ、走査速度を100mm/sec、デフォーカス量を10〜70μm(5μmピッチ)とし、割断工程において、手作業で約22MPaの曲げ応力を与えることにより積層体10を割断するようにした実施例2に関して、積層体10を割断して得られたチップをSEMにより観察したSEM像図を図5に示す。
また、同様の積層体10を割断するために、応力集中部形成工程において、Si基板11の割断予定ラインLごとに13個の改質部13を形成する際の赤外パルスレーザからのレーザビームLBaの照射条件として、パルス幅を48ns、エネルギを3μJ、走査速度を100mm/sec、デフォーカス量を10〜70μm(5μmピッチ)とし、割断工程において、レーザ照射工程、エキスパンド工程を順次行うようにし、レーザ照射工程でCO2レーザからのレーザビームLBbの照射条件として、出力を54.6W、走査速度を90mm/sec、走査回数を1回として熱応力を与え、4.6MPaの曲げ応力を与えることにより積層体10を割断するようにした実施例3に関して、積層体10を割断して得られたチップをSEMにより観察したSEM像図を図6に示す。
また、同様の積層体10を割断するために、Si基板11とガラス基板12とのそれぞれに割断予定ラインLごとに複数の改質部13を形成してから、上記エキスパンド装置により14MPaの曲げ応力を与えることにより積層体10を割断するようにした比較例に関して、積層体10を割断して得られたチップのSEM像図を図7に示す。なお、比較例では、ガラス基板12側からレーザビームを照射するように、Si基板11の割断予定ラインLごとに7個の改質部13を形成する際のNd:YVO4レーザからのレーザビームの照射条件として、パルス幅を18ns、パルスの繰り返し周波数を100kHz、エネルギを27μJ、走査速度を100mm/sec、デフォーカス量のピッチを10μmとし、ガラス基板12に6個の改質部13を形成する際のNd:YVO4レーザからのレーザビームの照射条件として、パルス幅を18ns、パルスの繰り返し周波数を20kHz、エネルギを135μJ、走査速度を500mm/sec、デフォーカス量のピッチを20μmとした。
図4,5,6と図7とを比較することにより、比較例では、積層体10に曲げ応力を与えた場合、ガラス基板12の割断面が粗く、しかも平面視におけるガラス基板11の外周線の各辺が蛇行しており、まっすぐにならないのに対して、実施例1,2,3では、積層体10に曲げ応力を与えることにより、平滑性が良く、しかも平面視におけるガラス基板11の外周線の各辺がまっすぐになっていることが分かる。
以上説明した本実施形態の積層体10の割断方法によれば、所望の割断予定ラインLに沿ってレーザビームLBaを照射することにより積層体10におけるSi基板11のガラス基板12側に応力集中部20を形成してから、積層体10の応力集中部20に応力を与えることにより積層体10を割断予定ラインLに沿って割断するので、Si基板11とガラス基板12とを直接接合して形成した積層体10をより簡単に割断でき且つガラス基板12の割断面の平滑性を向上できる。
なお、図1(a)および図2に示した例では、Si基板11の割断予定ラインLごとに複数の改質部13を形成するにあたって、Si基板11の厚み方向の全範囲に形成してあるが、図8に示すように、ガラス基板12に近い側でSi基板11の厚みの1/2〜1/3程度の範囲に形成するようにしてもよい。
また、本実施形態の積層体10の割断方法によれば、割断工程が、遠赤外レーザからのレーザビームLBbを応力集中部20に沿って照射することで応力集中部20に温度変化を与えるレーザ照射工程と、積層体10を貼り付けた粘着性樹脂テープを引き伸ばすエキスパンド工程との少なくとも一方を含むようにすれば、割断工程を自動化することができ、手作業に比べて作業効率が向上するとともに割断面の品質が安定する。
ところで、上述の実施形態では、Si基板11と1枚のガラス基板12との2層の積層構造を有する積層体10について例示したが、積層体10は、図9(a)に示すようにSi基板11と2枚のガラス基板12との3層の積層構造を有する(Si基板11の厚み方向の両側にガラス基板12が直接接合された)ものでもよい。この場合は、第2のレーザ2aのレーザビームLBbが、各ガラス基板12を透過できないので、各ガラス基板12に厚み方向に貫通する直線状のスリット14を形成すればよい。ここで、一方のガラス基板12(図9(a)における上側のガラス基板12)のスリット14は、当該一方のガラス基板12(図9(a),(b)参照)をSi基板12のオリエンテーションフラットに平行な方向に沿って形成し、他方のガラス基板12(図9(a)における下側のガラス基板12)のスリット14は、当該他方のガラス基板12(図9(a),(c)参照)をSi基板12のオリエンテーションフラットに直交する方向に沿って形成すればよい。このようにSi基板11を挟む2枚のガラス基板11に互いに交差する方向に沿って形成された多数のスリット14を形成しておくことにより、図9(a)に示すようにSi基板11に改質部13を形成することで応力集中部(図示せず)を形成した後で、第2のレーザ2aのレーザビームLBbを当該応力集中部に照射することができる。なお、各ガラス基板12のスリット14は、例えば、サンドブラスト法により形成すればよい。
また、応力集中部形成工程は、上述のようにSi基板11にレーザビームを照射して改質部13を形成することで応力集中部20を形成する工程に限らず、例えば、図10に示すように、Si基板11において割断予定ラインL(図1(a)参照)に沿った部位をドライエッチングしてSi基板11の厚み方向に貫通するスリット15を形成することで応力集中部20を形成するようにしてもよく、その後、割断工程において、例えば、レーザビームLBbを照射して応力を与えるようにしてもよい。ここにおいて、Si基板11の上記部位をドライエッチングする際のドライエッチング装置としては、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)型のドライエッチング装置を用いればよく、このようなICP型のドライエッチング装置を用いることにより、スリット15を図10に示すようなガラス基板11から離れるにつれて開口幅が徐々に広くなる断面テーパ状に形成することができるとともに、ガラス基板11側でのスリット11の開口幅を2〜5μm程度にすることができる。
上述のように応力集中部形成工程で、Si基板11において割断予定ラインLに沿った部位をドライエッチングしてSi基板11の厚み方向に貫通するスリット15を形成することで応力集中部20を形成するようにすれば、レーザを用いることなく応力集中部20を形成することができ、スリット15を形成するためのドライエッチング装置は積層体10の3次元構造(MEMSデバイスの3次元構造)を形成する際に用いるドライエッチング装置であるICP型のドライエッチング装置を流用することができるので、設備投資を抑えることによる低コスト化を図れる。
また、応力集中部形成工程は、図11に示すように、Si基板11において割断予定ラインL(図1(a)参照)に沿った部位をドライエッチングして薄肉化することで薄肉部11aを形成し且つ当該部位の両側をドライエッチングしてガラス基板12を露出させることで応力集中部20を形成するようにしてもよく、その後、割断工程において、例えば、レーザビームLBbを照射して応力を与えるようにしてもよい。なお、薄肉部11aの幅は例えば1〜5μm程度の範囲で設定すればよい。
この場合も、レーザを用いることなく応力集中部20を形成することができ、Si基板11をドライエッチングするためのドライエッチング装置は積層体10の3次元構造を形成する際に用いるドライエッチング装置を流用することができるので、設備投資を抑えることによる低コスト化を図れる。
ただし、上述のように、応力集中部形成工程において、Si基板11にレーザビームLBaを照射して改質部13を形成することにより応力集中部20を形成するようにすれば、Si基板11をドライエッチングすることにより応力集中部20を形成する場合に比べて、応力集中部形成工程のタクトタイムを短縮することができる。