JP2010174279A - 熱間打ち抜き性に優れたダイクエンチ用鋼板及びダイクエンチ工法による部材の製造方法 - Google Patents

熱間打ち抜き性に優れたダイクエンチ用鋼板及びダイクエンチ工法による部材の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】ダイクエンチ工法において熱間で行われる打ち抜きの際に発生するバリの高さが低い、打ち抜き性に優れた鋼板およびダイクエンチ工法で製造された部材を提供すること。
【解決手段】質量%で、C:0.35〜0.45%、Si:0.05〜0.5%、Mn:1.0〜1.8%、P:0.03%以下、S:0.002%以上、0.020%未満、Al:0.015〜0.07%、N:0.0025〜0.010%、Ti:0.02〜0.06%を含み、さらに質量%で、Cr:0.15〜1%、Mo:0.1〜0.5%の1種以上を含み、残部が鉄および不可避不純物よりなる組成を有する鋼板であって、該鋼板をオーステナイト単相域まで加熱した後の、前記鋼板の少なくとも最表面から深さ100μmまでの範囲にTiNが散在し、該TiNの最も長い辺の長さの平均が0.1〜1μmであることを特徴とする熱間打ち抜き性に優れたダイクエンチ用鋼板を用いる。
【選択図】なし

Description

本発明は、ダイクエンチ工法を用いて熱間プレスを行なう際に好適な、打ち抜き性に優れたダイクエンチ用鋼板及び該鋼板を用いたダイクエンチ工法による部材の製造方法に関する。なお、ダイクエンチ後の鋼板の引張強さは2GPa級(1.9〜2.2GPa近傍)である。
自動車の軽量化では、高強度鋼板の使用量の増加および、さらなる高強度の鋼板の使用が検討されている。しかしながら、複雑形状への鋼板のプレス加工や980MPa級を超える高強度鋼板の冷間プレス加工では、形状凍結性やプレス割れなどの種種の問題が生じやすく、高強度化したい部品が必ずしも高強度化できていないのが現状である。こうした状況を解決する方法の一つとしてダイクエンチ工法があげられる。ダイクエンチ工法は、加工される鋼板をオーステナイト単相域まで加熱して軟質化した後、水冷した常温の金型で成形すると当時に急速に冷却し、鋼板に焼きを入れて成形品の強度を確保する工法である。このダイクエンチ工法においては、焼き入れ(クエンチ)後の鋼板強度は980MPaを超えるため、成形品に部品取り付けのための穴をあけることが困難となってくる。また、あけることができたとしても、残留応力が大きいため、遅れ破壊の原因ともなる。そのため、一般にダイクエンチ工法ではクエンチ後にレーザーで穴をあけることがおこなわれている。ところが、最近、ダイクエンチ工法が普及するにつれて高価なレーザー設備に頼らず穴をあける方法が検討され始めている。ダイクエンチ工法により部品に穴をあける場合、鋼板(ブランク材)を加熱した後、クエンチ前に穴を打ち抜いてしまい、穴をあけたブランク材をダイクエンチする方法が考えられる。このとき、熱間で柔らかくした鋼板を打ち抜くため、打ち抜き端面にバリが大きくでてしまう。このバリは、クエンチ後にも硬質化して残留するため、部品形状を劣化させるとともに、搬送時に引っかかりやすく搬送のじゃまになるだけではなく、場合によっては、プレス型を傷めてしまうことになる。
特許文献1には、Vを0.002〜0.5%、Mgを0.0002〜0.01%含み、平均粒径0.01〜5μmのMg酸化物、硫化物、複合晶出物および複合析出物のいずれかを1平方mm当たり、102〜107個含むことを特徴とする打ち抜き性にすぐれた熱間プレス用高強度鋼板が開示されている。この技術は、Mg酸化物を核に分散させて、打ち抜き時の粗大クラック発生を抑制するとともに水素のトラップサイトとすることで遅れ破壊も抑制するものである。すなわち、この技術における打ち抜き性とは、焼き入れ後の高強度化した材料の打ち抜き端面の遅れ破壊の生じやすさを言うものであり、打ち抜き後の形状については問題にしていない。また、マルテンサイトと結晶系の異なる、高温でのオーステナイトでの打ち抜き性を改善するために用いることはできない技術である。
打ち抜き性に言及するものではないが、特許文献2では、Ceを0.002〜0.02%含み、2μm以下のCe酸化物の個数を4個/mm2以上とすることで、疲労強度を上げる技術が開示されている。この技術では、Ce-Ti-Oの微粒子にMnSを付着させることで、ダイクエンチ後の疲労特性を向上させるものである。この技術におけるCe-Ti-Oの微粒子にMnSを付着させたものは、高温でのオーステナイトの打ち抜き性を何ら左右するものではない。また、ダイクエンチ前にこのような微粒子が存在してもダイクエンチの加熱中では溶解分散してしまうことから、ダイクエンチ工法を用いる際にはその効果は認められない。
特許文献3では、Siを多量に添加して溶接部の強度を上げ、Si添加による熱間加工性の低下をB添加で補い、かつ、TiをNよりも原子濃度で多量に添加することで、BNの生成を抑制して焼き入れ性を確保する技術が開示されている。この技術では、Si添加で鋼に高温での粘りを与えて熱間成形できるようにすることができるが、それにより高温では逆に打ち抜き時にバリが発生してしまい、打ち抜き性は低下するという問題がある。
特開2006−9116号公報 特開2007−247001号公報 特開2007−169679号公報
以上のように、上記の従来技術では、ダイクエンチ工法により部品に穴をあける場合、鋼板を加熱した後、クエンチ前に穴を打ち抜いてからダイクエンチする際に、打ち抜き端面に大きなバリが発生する問題を解決することは困難である。
本発明は、こうした状況下でなされたものであって、ダイクエンチ工法において熱間で行われる打ち抜きの際に発生するバリの高さが低い、打ち抜き性に優れたダイクエンチ用鋼板およびダイクエンチ工法による部材の製造方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するためには、高温で安定で、かつオーステナイトの打ち抜き性を良好とする析出物を見いだす必要があると考えられる。本発明者らは、TiNが高温で、ある程度の大きさまで成長することから、ダイクエンチ工法での打ち抜きで、TiNを用いた場合の最適な大きさと量と分散状態を実現できれば、打ち抜き性の良好なダイクエンチ用鋼板ができると着想した。通常の鋼板の加工とは異なり、ダイクエンチでは加工を行なうブランク材を加熱する。そのため、空気中のNが通常の鋼板よりも鋼板表面に入りやすい。通常これらのTiNは表面傷の原因となることから、従来は加熱雰囲気制御あるいは酸化防止剤やめっきによる大気とブランクの遮断が行われている。しかし本発明者らは、TiNの生成を防止するのではなく、逆にTiNを利用することができないか鋭意研究をかさねた結果、表層に粗大なTiNを配置することで、打ち抜き性が向上しバリ発生の問題を解決できることを知見して、本発明を完成した。
上記課題を解決した本発明の特徴は以下の通りである。
(1)質量%で、C:0.35〜0.45%、Si:0.05〜0.5%、Mn:1.0〜1.8%、P:0.03%以下、S:0.002%以上、0.020%未満、Al:0.015〜0.07%、N:0.0025〜0.010%、Ti:0.02〜0.06%を含み、さらに質量%で、Cr:0.15〜1%、Mo:0.1〜0.5%の1種以上を含み、残部が鉄および不可避不純物よりなる組成を有する鋼板であって、該鋼板をオーステナイト単相域まで加熱した後の、前記鋼板の少なくとも最表面から深さ100μmまでの範囲にTiNが散在し、該TiNの最も長い辺の長さの平均が0.1〜1μmであることを特徴とする熱間打ち抜き性に優れたダイクエンチ用鋼板。
(2)鋼板が、さらに質量%で、B:0.0008〜0.0030%、およびW:0.05〜1%の1種または2種の元素を含有することを特徴とする(1)に記載の熱間打ち抜き性に優れたダイクエンチ用鋼板。
(3)前記加熱した後の鋼板厚さ方向断面において、最表面から深さ100μmまで、かつ板面に平行な5mmの長さの範囲内の表層部のTiNの個数が10個以上であることを特徴とする(1)または(2)に記載の熱間打ち抜き性に優れたダイクエンチ用鋼板。
(4)鋼板中のTiNの密度が30個/mm2以上であることを特徴とする(1)ないし(3)のいずれかに記載の熱間打ち抜き性に優れたダイクエンチ用鋼板。
(5)少なくともオーステナイト単相域まで鋼板を加熱した後、熱間打ち抜きを施し、次いで金型で成形することで焼き入れる工程を有するダイクエンチ工法による部材の製造方法において、質量%で、C:0.35〜0.45%、Si:0.05〜0.5%、Mn:1.0〜1.8%、P:0.03%以下、S:0.002%以上、0.020%未満、Al:0.015〜0.07%、N:0.0025〜0.01%、Ti:0.02〜0.06%を含み、さらに質量%で、Cr:0.15〜1%、Mo:0.1〜0.5%の1種以上を含み残部が鉄および不可避不純物よりなる組成を有する鋼板を素材とし、熱間打ち抜きを施す際に、少なくとも該鋼板表面から深さ100μmまでの範囲にTiNが散在し、該TiNの最も長い辺の長さの平均が0.1〜1μmとなるようにすることを特徴とするダイクエンチ工法による部材の製造方法。
(6)鋼板が、さらに質量%で、B:0.0008〜0.0030%、およびW:0.05〜1%の1種または2種の元素を含有することを特徴とする(5)に記載のダイクエンチ工法による部材の製造方法。
(7)前記加熱した後の鋼板厚さ方向断面において、最表面から深さ100μmまで、かつ板面に平行な5mmの長さの範囲内の表層部のTiNの個数が10個以上であることを特徴とする(5)または(6)に記載のダイクエンチ工法による部材の製造方法。
(8)鋼板中のTiNの密度が30個/mm2以上であることを特徴とする(5)ないし(7)のいずれかに記載のダイクエンチ工法による部材の製造方法。
本発明によれば、TiNの大きさと分散状態を制御することで、ダイクエンチ工法においてダイクエンチ直前に熱間で行われる打ち抜きの際に発生するバリの高さが低い、打ち抜き性に優れた鋼板を得て、形状の良好な打ち抜き部材を得ることができる。
これにより高価なレーザー設備を用いることなく穴あけ加工が可能となり、ダイクエンチ工法を用いた熱間プレス加工のコストを削減できる。
高温のオーステナイトは、析出物を溶解するため、高温のオーステナイトに溶解しない析出物でなければ、ダイクエンチ工程での打ち抜き性改善効果は得られない。そこで本発明者らは、高温でも安定な窒化物に着目した。ただし、従来の鋼板で窒化物に着目する際には、冷間プレスの成形性を重視してN量を下げ、TiNを低減する、もしくはフェライト中のTiNを活用するのが目的であった。このため、オーステナイトで打ち抜き性を向上させるTiNの状態を新たに研究した。オーステナイト中では、フェライトよりも塑性変形時に活動するすべり系が少ないため、直方体のTiNの大きさが塑性変形に大きな影響を及ぼし、TiNの大きさを制御することで、熱間打ち抜き性が良好となることを見いだした。
以下に本発明の各構成要件を説明する。
まず本発明に用いる鋼板の化学成分について説明する。なお、以下の説明において、成分元素の含有量%は全て質量%を意味するものである。
C:0.35〜0.45%
Cは焼入後に強度を出すために最も重要な元素である。0.35%を下回ると引張強さが低くなりすぎ2GPa級を満足することが困難となる。そのため、下限を0.35%とした。また、0.45%を超えると焼き入れ後の強度が目標よりも高くなりすぎることから、C量の上限を0.45%とした。
Si:0.05〜0.5%
Siは焼戻軟化抵抗を高める元素であり、ダイクエンチ直後のマルテンサイト中に型から離れた後の余熱で炭化物が析出し、強度が低下することを防止する。0.05%未満では耐焼戻軟化抵抗が低く、マルテンサイトが焼き戻されやすくなり、生じた粗大な炭化物でマルテンサイトも脆くなる。そのため、Si添加の下限を0.05%とした。また、0.5%を超えて添加すると、冷却中にフェライトが析出開始して焼きが入りにくくなることから、上限を0.5%とした。
Mn:1.0〜1.8%
Mnは鋼の焼き入れ性向上に効果的な元素である。1.0%未満では焼き入れ性が乏しく、焼き入れ時にパーライトが生じて引張強さが著しく低下する。そのため、添加の下限を1.0%とした。一方、1.8%を超えて添加すると偏析しやすくなり、偏析した中央部で鋼板が2枚に分離してプレス欠陥となる。このため、Mnの上限を1.8%とした。
P:0.03%以下
Pは、オーステナイト粒界に偏析して打ち抜き端面で亀裂の進展を促進し、顕著な時には割れに発展する。そのため、Pの添加量の上限を0.03%とする。
S:0.002%以上、0.020%未満
SはMnSを形成して打ち抜きでのボイドの発生を促進し、本発明のTiNの効果を顕著な物とする。このため、ボイドの連結で破断が進行する打ち抜きではバリ高さが低減するので、S添加量の下限を0.002%とした。また、Sが0.020%以上となると熱間での延性が劣化して打ち抜き部周辺表面に割れが生じ、脱スケール性が劣化したり、疲労強度や、衝突吸収エネルギーが低下したりすることから、Sの上限を0.020%未満とした。好ましくは0.019%以下である。
Al:0.015〜0.07%
Alは脱酸剤として用いられる。脱酸作用を得るには0.015%以上の添加が必要であることから、Al量の下限を0.015%とした。また、0.07%を超えて含有すると、微細なAlNが多数析出するようになり焼き入れ性が低下する。このため、Al量の上限を0.07%とした。
N:0.0025〜0.01%
NはTiNを形成してその周りからの亀裂により打ち抜き性を向上させる働きがある。含有量が0.0025%を下回るとオーステナイト中で溶解または凝集粗大化して打ち抜き性が劣化するため、添加量の下限を0.0025%とした。一方、0.01%を超えると破断面の亀裂が大きくなりすぎて割れを誘発することから、添加量の上限を0.01%とした。
Ti:0.02〜0.06%
Ti含有量が0.02%を下回ると、十分な大きさにTiNが成長しないため、打ち抜き性の改善は期待できない。そのためTi含有量の下限を0.02%とした。また、0.06%を超えるとTiNが凝集粗大化し密度が散漫になることから破断面の亀裂が大きくなりすぎて割れを誘発することから、添加量の上限を0.06%とした。
本発明では、上記に加えて、さらにCr、Moの中から選ばれる1種以上を含有する。
Cr:0.15〜1%
Crは高温からの冷却時にフェライト変態を遅らせて、焼き入れ性を向上する。このため、Crは0.15%以上添加することが好ましい。添加する場合、1%を超えて添加するとダイクエンチ工法における加熱時に析出したCr炭化物が溶解しなくなるため、Crの添加量は1%以下とした。
Mo:0.1〜0.5%
Moは焼き入れ性を向上させる元素であることから添加することが好ましい。Mo添加による焼き入れ性の向上のために、添加量の下限は0.1%とする。一方、0.5%を超えると溶解しにくいMo炭化物が析出し焼き入れ性が低下することから、添加量の上限は0.5%以下とした。
本発明では、BおよびWの1種または2種の元素を添加することができる。
B:0.0008〜0.0030%
Bはフェライト変態を劇的に遅延させて焼き入れ性を確保できる元素であることから、ダイクエンチ工法の工程に応じて添加することが好ましい。0.0008%未満では焼き入れ性が不十分となるため、0.0008%を下限とした。一方、0.0030%を超えるとダイクエンチ工法における加熱の際に溶解しにくいFe23(CB)6が析出しやすくなるため、B添加量の上限を0.0030%とした。
W:0.05〜1%
Wは焼き入れ性を向上させる元素であることから添加することができる。W添加による焼き入れ性の向上のために、添加量の下限は0.05%とする。一方、1%を超えると溶解しにくいW炭化物が析出し焼き入れ性が低下することから、添加量の上限は1%とすることが好ましい。
上記以外の成分は、鉄および不可避不純物からなる。Nb、Vが合計で0.3%程度まで混入しても本発明の効果に変化はない。また、Cu、Ni、Snなどのスクラップ原料などから混入する元素については、合計で0.2%以下程度までであれば、本発明効果に影響を及ぼすものではない。
本発明の部材は、上記本発明のダイクエンチ用鋼板を用いて、ダイクエンチ工法により製造される。本発明の鋼板はダイクエンチ工法における熱処理を経ることにより、所定のTiNの分布を形成し、上記したようなバリの抑制等、うち抜きなどに対する効果を有するものとなる。
すなわち、本発明の鋼板は、上記の組成を有する鋼板をダイクエンチ工法における熱処理である、オーステナイト単相域までの加熱を施した際に、下記のようにTiNが散在する。オーステナイト単相域までの加熱は、大気中、又は窒素を含む雰囲気中で行なえばよく、例えば900℃で15分程度とし、大気中で行えばよい。
鋼板表面のTiNの最も長い辺の長さの平均:0.1〜1μm
TiNは概ね直方体形状で析出する。その直方体形状の最も長い辺の長さを測定する。なお、析出物の観察を、鋼板断面で行なう場合、直方体ではない多角形形状で観察される場合がある。この場合は、観察される多角形形状のTiNの最も長い辺の長さをもって、TiNの最も長い辺の長さとする。TiNの最も長い辺の長さが平均値で0.1μmに満たない場合、打ち抜き時のボイドの発生が期待できず、打ち抜き性の向上効果が小さい。一方、TiNの最も長い辺の長さの平均が1μmを超えると、密度が散漫になることから破断面の亀裂が大きくなりすぎて割れを誘発するため、TiNの最も長い辺の長さの平均を1μm以下とした。また、0.1〜1μmのTiNを散在させるのは、少なくとも鋼板表面において最表面から深さ100μmまでの範囲であれば効果がある。前記範囲以外の部分にTiNが散在してもよく、鋼板全体に散在させれば打ち抜き性はより向上する。
最表面から深さ100μmまで、かつ板面に平行な長さ5mmの範囲内のTiNの個数が10個以上
上記の表面のTiNのサイズに加えて、その数も多いことが好ましい。バリ高さを基準とする打ち抜き性では、鋼板表面に存在するボイドの起点が重要な役割を示す。特に、深さ100μmまでの間にTiNが分布していることでバリ高さは低くなることから、100μm×5mmの範囲の表層でのTiN個数を10個以上とすることが好ましい。なお、個数の測定は下記と同様に鋼板の断面方向で行なうことになる。
鋼板中のTiNの密度:30個/mm2以上
鋼板中のTiNはボイドの起点となり鋼板自体の打ち抜き性を向上させる。ただし、TiNが数少なく散在しているだけでは打ち抜き性は改善されない。本発明では、素材である鋼板中のTiNの密度が30個/mm2を下回ると打ち抜き性が低下することから、鋼板中のTiNの密度を30個/mm2以上とすることが好ましい。TiNの個数の測定は、鋼板の断面での観察により求め、断面1mm2当たりの個数で評価する。
本発明では上記の組成を有する鋼板をダイクエンチ工法で加工し、熱間打ち抜き穴を有する部材を製造する。ダイクエンチ工法では、鋼板をオーステナイト単相域まで加熱した後打ち抜き穴をあけ、ダイクエンチ(加工と焼き入れ)を行ない、オーステナイト単相域における加熱後熱間打ち抜き加工の際の鋼板中に上記のようにTiN析出物を散在させる。尚、加熱状態で上記のように存在しているTiNは、ダイクエンチ工法で製造された部材にも同様の状態で存在する。
TiNを上記のような析出状態とするには、鋼板の組成を上記範囲内として、熱処理前の鋼板のTi量、N量を調整すると共に、ダイクエンチ工法における焼入れ前の加熱雰囲気(窒素量)を調整することで、所望の状態にすることができる。
表1に示す素材の鋼板を溶製後、加熱温度1200℃、仕上圧延温度850℃、巻取温度600℃で熱間圧延して製造した。得られた熱延板を酸洗後冷間圧延し、板厚1.4mmの冷間圧延まま材を作製した。
Figure 2010174279
これらの鋼No.1〜25を900℃で大気雰囲気で15分間加熱後、直径10mmのポンチで熱間で打ち抜いた。打ち抜く温度は750℃〜500℃の間に制御した。打ち抜きのクリアランスは板厚の12%とした。打ち抜き後、そのまま放冷を行い、バリ高さを測定した。バリの高さは、穴から2mm離れた位置の表面を基準にバリの一番高い頂点の高さとした。
また、打ち抜き後の材料の断面を研磨し、電子顕微鏡(SEM)でTiNを観察した。表面から深さ100μmの範囲でのTiNの長さは、倍率1000倍〜5000倍にて10視野観察してTiNの長さ(最大長さ)を測定し、その平均値を求めた。なお、ここでTiNの長さは観察される多角形形状の最も長い辺の長さとした。また、表層でのTiNの個数は、SEMにて倍率5000倍で、表面から深さ100μm×長さ5mmの範囲を観察し、観察されたTiNの個数を数えた。また鋼板中のTiNの密度については、加熱前の鋼板の断面を研磨し、SEMで倍率1000倍にて板厚の1/4位置〜3/4位置で合計10視野観察して、面積換算を行い鋼板中のTiNの密度を測定した。
さらに、打ち抜き後の鋼板の表層100μm部分のN量も測定した。測定結果を表1に併せて示す。なお、ここで鋼板表層のN量の測定にあたっては、表層100μm部分を削り、この削った部分を分析した。
鋼No.1〜4は、S量が変化した場合の実施例である。S含有量が本発明範囲より低い鋼No.1は、バリ高さが高い。一方で、S含有量が本発明範囲内の鋼No.2〜4はバリ高さが40μm以下と低く、良好な打ち抜き性を示している。
鋼No.5〜9は、鋼中のN含有量を変化させた実施例である。鋼No.5はTiNの長さが短く微細であり、表層の個数も少なく、密度も低く打ち抜き性が劣位にある。鋼No.9はN含有量が多く、TiN長さが長く、打ち抜き部で割れが生じてしまい本発明の効果は得られていない。化学成分が本発明範囲内の鋼No.6〜8はバリ高さが低く、良好な打ち抜き性を示している。
鋼No.10〜12はほぼ同一組成の鋼板について焼き入れ前の加熱で雰囲気(N2量)を変え、熱処理後のN量を特に変化させたものである。鋼No.10はAr90体積%+窒素10体積%のもの、鋼No.11はAr50体積%+窒素50体積%のもの、鋼No.12はAr15体積%+窒素85体積%のものである。加熱雰囲気中の窒素量の増大により、表層のTiNの個数が増加し、バリ高さが低くなることがわかる。いずれの場合も表層でのTiN長さは本発明範囲内であり、本発明例である。
鋼No.13〜19は、Ti含有量を変化させた場合の実施例である。Ti含有量の低い鋼No.13、14はTiNの長さが短く微細で、TiN密度も低く、バリ高さが高い。鋼No.19はTiNの長さが長く粗大であり、バリ高さが高く、打ち抜き部で割れが生じている。鋼No.15〜18は化学成分が本発明範囲内であり、TiNの長さが本発明範囲内であり、良好な打ち抜き性を示した。
鋼No.20〜25は、Cr、Mo含有量を変化させた場合の実施例である。いずれも化学成分が本発明範囲内で、TiNの長さが本発明範囲内であり、良好な打ち抜き性を示した。
なお、別途ダイクエンチ工法を適用し、ダイクエンチ後の本発明の鋼板の引張り強さが2GPa級を満足することを確認している。

Claims (8)

  1. 質量%で、C:0.35〜0.45%、Si:0.05〜0.5%、Mn:1.0〜1.8%、P:0.03%以下、S:0.002%以上、0.020%未満、Al:0.015〜0.07%、N:0.0025〜0.010%、Ti:0.02〜0.06%を含み、さらに質量%で、Cr:0.15〜1%、Mo:0.1〜0.5%の1種以上を含み、残部が鉄および不可避不純物よりなる組成を有する鋼板であって、該鋼板をオーステナイト単相域まで加熱した後の、前記鋼板の少なくとも最表面から深さ100μmまでの範囲にTiNが散在し、該TiNの最も長い辺の長さの平均が0.1〜1μmであることを特徴とする熱間打ち抜き性に優れたダイクエンチ用鋼板。
  2. 鋼板が、さらに質量%で、B:0.0008〜0.0030%、およびW:0.05〜1%の1種または2種の元素を含有することを特徴とする請求項1に記載の熱間打ち抜き性に優れたダイクエンチ用鋼板。
  3. 前記加熱した後の鋼板厚さ方向断面において、最表面から深さ100μmまで、かつ板面に平行な5mmの長さの範囲内の表層部のTiNの個数が10個以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱間打ち抜き性に優れたダイクエンチ用鋼板。
  4. 鋼板中のTiNの密度が30個/mm2以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の熱間打ち抜き性に優れたダイクエンチ用鋼板。
  5. 少なくともオーステナイト単相域まで鋼板を加熱した後、熱間打ち抜きを施し、次いで金型で成形することで焼き入れる工程を有するダイクエンチ工法による部材の製造方法において、質量%で、C:0.35〜0.45%、Si:0.05〜0.5%、Mn:1.0〜1.8%、P:0.03%以下、S:0.002%以上、0.020%未満、Al:0.015〜0.07%、N:0.0025〜0.01%、Ti:0.02〜0.06%を含み、さらに質量%で、Cr:0.15〜1%、Mo:0.1〜0.5%の1種以上を含み残部が鉄および不可避不純物よりなる組成を有する鋼板を素材とし、熱間打ち抜きを施す際に、少なくとも該鋼板表面から深さ100μmまでの範囲にTiNが散在し、該TiNの最も長い辺の長さの平均が0.1〜1μmとなるようにすることを特徴とするダイクエンチ工法による部材の製造方法。
  6. 鋼板が、さらに質量%で、B:0.0008〜0.0030%、およびW:0.05〜1%の1種または2種の元素を含有することを特徴とする請求項5に記載のダイクエンチ工法による部材の製造方法。
  7. 前記加熱した後の鋼板厚さ方向断面において、最表面から深さ100μmまで、かつ板面に平行な5mmの長さの範囲内の表層部のTiNの個数が10個以上であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載のダイクエンチ工法による部材の製造方法。
  8. 鋼板中のTiNの密度が30個/mm2以上であることを特徴とする請求項5ないし請求項7のいずれかに記載のダイクエンチ工法による部材の製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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WO2019003447A1 (ja) * 2017-06-30 2019-01-03 Jfeスチール株式会社 熱間プレス部材およびその製造方法ならびに熱間プレス用冷延鋼板

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