〔発明が解決しようとする課題〕
上記公開公報に記載されている如き従来の駆動トルク制御装置によれば、車両挙動を不安定にする振動に応じて電動発電機がエンジンの負荷として制御されない場合に比して、車両挙動を不安定にする振動を抑制することができる。
しかし車両の駆動源がハイブリッドシステムではなく、エンジン以外に車両の駆動トルクを発生する手段を有しない一般的な車両には、電動発電機が存在しない。そのため電動発電機が存在しない一般的な車両の場合には、上記特許文献1の公開公報に記載されている如き駆動トルク制御装置を採用することができない。
また一般的な車両もエアコンのコンプレッサやオルタネータの如き補機を備えており、補機は駆動トルクを発生することができず、エンジンの駆動トルクにより駆動される。従って上記特許文献1の公開公報に記載されている如き駆動トルク制御装置に於ける電動発電機に代えて、上記特許文献2の公開公報に記載されている如く補機の駆動負荷を制御することが考えられる。
しかし各補機はそれぞれの機能を果たすよう駆動されるので、車両挙動を不安定にする振動の如き外乱を抑制するに必要な制御量の全てが補機に分配されると、外乱の変化に応じて補機の作動状況が大きく変化し、補機がその機能を果たすことが大きく阻害される虞れがある。
本発明は、駆動トルクを発生することができずエンジンの駆動トルクにより駆動される補機を備えた一般的な車両に於いて、車両の駆動トルクを所要の値に制御せんとする場合に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、補機の機能に対する影響をできるだけ抑えつつ車両の駆動トルクが所要の値になるようエンジンの出力トルク及び補機の消費トルクを制御することである。
〔課題を解決するための手段及び発明の効果〕
上述の主要な課題は、本発明によれば、請求項1の構成、即ちエンジンと該エンジンにより駆動される少なくとも一つの補機とを備え、トルク増減制御についての前記エンジンの応答性は前記補機の応答性よりも低い車両の駆動トルク制御装置にして、車両の目標駆動トルクを演算する手段と、前記目標駆動トルクの変化率が高い成分を前記補機の目標制御トルクに分配すると共に、前記変化率が高い成分以外の前記目標駆動トルクの成分を前記エンジンの目標制御トルクに分配し、前記エンジンの出力トルク及び前記補機の消費トルクをそれぞれ対応する前記目標制御トルクに基づいて制御する制御手段とを有することを特徴とする車両の駆動トルク制御装置によって達成される。
上記請求項1の構成によれば、目標駆動トルクの変化率が高い成分が補機の目標制御トルクに分配されると共に、変化率が高い成分以外の目標駆動トルクの成分がエンジンの目標制御トルクに分配され、エンジンの出力トルク及び補機の消費トルクがそれぞれ対応する目標制御トルクに基づいて制御される。
トルク増減制御についてのエンジンの応答性は補機の応答性よりも低いので、目標駆動トルクが補機の目標制御トルクに分配されない場合や、目標駆動トルクの変化率が高い成分がエンジンの目標制御トルクに分配されると共に、変化率が高い成分以外の目標駆動トルクの成分が補機の目標制御トルクに分配される場合に比して、車両の駆動トルクを確実に車両の目標駆動トルクにすることができる。
また上記請求項1の構成によれば、目標駆動トルクの変化率が高い成分しか補機の目標制御トルクに分配されないので、変化率が高い成分以外の成分も補機の目標制御トルクに分配される場合に比して、車両の目標駆動トルクの変化に応じて補機の作動状況が大きく変化することに起因して補機の機能が大きく阻害される虞れを確実に低減することができる。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記制御手段は前記目標駆動トルクの低周波成分を前記エンジンの目標制御トルクに分配すると共に、前記低周波成分以外の前記目標駆動トルクの成分を前記補機の目標制御トルクに分配するよう構成される(請求項2の構成)。
上記請求項2の構成によれば、目標駆動トルクの低周波成分がエンジンの目標制御トルクに分配されると共に、低周波成分以外の目標駆動トルクの成分が補機の目標制御トルクに分配される。従って目標駆動トルクの低周波成分が補機の目標制御トルクに分配されると共に、低周波成分以外の目標駆動トルクの成分がエンジンの目標制御トルクに分配される場合に比して、車両の駆動トルクを確実に所要の値にすることができる。また目標駆動トルクの低周波成分も補機の目標制御トルクに分配される場合に比して、補機の機能が大きく阻害される虞れを確実に低減することができる。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1又は2の構成に於いて、前記制御手段は前記補機の必要消費トルクの情報を取得し、前記エンジンの目標制御トルクと前記補機の必要消費トルクとの和に基づいて前記エンジンの出力トルクを制御し、前記補機の必要消費トルクより前記補機の目標制御トルクを減算した値に基づいて前記補機の消費トルクを制御するよう構成される(請求項3の構成)。
上記請求項3の構成によれば、エンジンの目標制御トルクと補機の必要消費トルクとの和に基づいてエンジンの出力トルクが制御され、補機の必要消費トルクより補機の目標制御トルクを減算した値に基づいて補機の消費トルクが制御される。従って車両の駆動トルクを車両の目標駆動トルクにすることができると共に、補機の消費トルクをできるだけ補機の必要消費トルクに制御し、補機の機能が大きく阻害される虞れを効果的に低減することができる。
また本発明によれば、上記請求項1乃至3の何れか一つの構成に於いて、前記制御手段は前記目標駆動トルクをローパスフィルタにて処理することにより前記エンジンの目標制御トルクを演算し、前記車両の目標駆動トルクより前記エンジンの目標制御トルクを減算することにより前記補機の目標制御トルクを演算するよう構成される(請求項4の構成)。
上記請求項4の構成によれば、目標駆動トルクをローパスフィルタにて処理することによりエンジンの目標制御トルクが演算され、車両の目標駆動トルクよりエンジンの目標制御トルクを減算することにより補機の目標制御トルクが演算される。従って目標駆動トルクの低周波成分をエンジンの目標制御トルクに分配することができると共に、低周波成分以外の目標駆動トルクの成分を補機の目標制御トルクに分配することができる。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項4の構成に於いて、前記ローパスフィルタのカットオフ周波数は前記エンジンの回転数に応じて可変設定されるよう構成される(請求項5の構成)。
エンジンのトルクの増減制御の応答性はエンジンの回転数によって異なる。上記請求項5の構成によれば、ローパスフィルタのカットオフ周波数はエンジンの回転数に応じて可変設定されるので、エンジンの回転数の変動に伴うエンジンのトルクの増減制御の応答性の変動に合わせて対応するローパスフィルタのカットオフ周波数を可変設定することができる。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項4又は5の構成に於いて、前記制御手段は、前記車両の目標駆動トルクが前記エンジンのトルク増減の推定可能範囲を越えるときには、前記車両の目標駆動トルクを前記エンジンのトルク増減の推定可能範囲内の値に制限し、制限後の目標駆動トルクを前記ローパスフィルタにて処理することにより前記エンジンの目標制御トルクを演算するよう構成される(請求項6の構成)。
上記請求項6の構成によれば、車両の目標駆動トルクがエンジンのトルク増減の推定可能範囲を越えるときには、車両の目標駆動トルクがエンジンのトルク増減の推定可能範囲内の値に制限され、制限後の目標駆動トルクをローパスフィルタにて処理することによりエンジンの目標駆動トルクが演算される。従って車両の目標駆動トルクがエンジンのトルク増減の推定可能範囲を越える場合にも、エンジンの目標駆動トルクがエンジンのトルク増減の推定可能範囲を越えることを確実に防止し、これによりエンジンの目標駆動トルクがエンジンのトルク増減可能な範囲を越える値になる虞れを確実に低減することができる。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至6の何れか一つの構成に於いて、前記車両の目標駆動トルクを演算する手段は、運転者の駆動操作量に基づく基本目標駆動トルク及び車両の外乱に対処するための外乱補償目標駆動トルクの和を前記目標駆動トルクとして演算するよう構成される(請求項7の構成)。
上記請求項7の構成によれば、運転者の駆動操作量に基づく基本目標駆動トルク及び車両の外乱に対処するための外乱補償目標駆動トルクの和である車両の目標駆動トルクの変化率が高い成分が補機の目標制御トルクに分配されると共に、変化率が高い成分以外の外乱補償目標駆動トルクの成分がエンジンの目標制御トルクに分配される。
従って運転者の車両駆動の意思に沿うと共に車両の外乱に確実に対処することができるよう車両の駆動トルクを制御することができる。また基本目標駆動トルク又は外乱補償目標駆動トルクのみが補機の目標制御トルク及びエンジンの目標制御トルクに分配される場合に比して、効果的に運転者の車両駆動の意思の変化や車両の外乱に対処することができる。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至6の何れか一つの構成に於いて、前記車両の目標駆動トルクを演算する手段は、前記目標駆動トルクとして運転者の駆動操作量に基づく基本目標駆動トルク及び車両の外乱に対処するための外乱補償目標駆動トルクを演算し、前記制御手段は前記外乱補償目標駆動トルクの変化率が高い成分を前記補機の目標制御トルクに分配すると共に、前記変化率が高い成分以外の前記外乱補償目標駆動トルクの成分を前記エンジンの目標制御トルクに分配し、前記基本目標制御トルク及び前記エンジンの目標制御トルクに基づいて前記エンジンの出力トルクを制御すると共に、前記補機の目標制御トルクに基づいて前記補機の消費トルクを制御するよう構成される(請求項8の構成)。
上記請求項8の構成によれば、目標駆動トルクとして運転者の駆動操作量に基づく基本目標駆動トルク及び車両の外乱に対処するための外乱補償目標駆動トルクが演算される。また外乱補償目標駆動トルクの変化率が高い成分が補機の目標制御トルクに分配されると共に、変化率が高い成分以外の外乱補償目標駆動トルクの成分がエンジンの目標制御トルクに分配される。そして基本目標制御トルク及びエンジンの目標制御トルクに基づいてエンジンの出力トルクが制御されると共に、補機の目標制御トルクに基づいて補機の消費トルクが制御される。
従って外乱補償目標駆動トルクが高い変化率にて変化する状況に於いても、運転者の車両駆動の意思に沿うと共に車両の外乱に確実に対処することができるよう車両の駆動トルクを制御することができる。また基本目標駆動トルクも分配される場合に比して、補機に分配される制御量を低減することができ、これにより補機の機能が阻害される虞れを低減することができる。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至6の何れか一つの構成に於いて、前記車両の目標駆動トルクを演算する手段は、前記目標駆動トルクとして運転者の駆動操作量に基づく基本目標駆動トルク及び車両の外乱に対処するための外乱補償目標駆動トルクを演算し、前記制御手段は前記基本目標駆動トルクの変化率が高い成分を前記補機の目標制御トルクに分配すると共に、前記変化率が高い成分以外の前記基本目標駆動トルクの成分を前記エンジンの目標制御トルクに分配し、前記外乱補償目標駆動トルクの変化率が高い成分を前記補機の目標制御トルクに分配すると共に、前記変化率が高い成分以外の前記外乱補償目標駆動トルクの成分を前記エンジンの目標制御トルクに分配し、前記基本目標制御トルクより分配された前記エンジンの目標制御トルク及び前記外乱補償目標駆動トルクより分配された前記エンジンの目標制御トルクに基づいて前記エンジンの出力トルクを制御すると共に、前記基本目標制御トルクより分配された前記補機の目標制御トルク及び前記外乱補償目標駆動トルクより分配された前記補機の目標制御トルクに基づいて前記補機の消費トルクを制御するよう構成される(請求項9の構成)。
上記請求項9の構成によれば、目標駆動トルクとして運転者の駆動操作量に基づく基本目標駆動トルク及び車両の外乱に対処するための外乱補償目標駆動トルクが演算される。また基本目標駆動トルクの変化率が高い成分が補機の目標制御トルクに分配されると共に、変化率が高い成分以外の基本目標駆動トルクの成分がエンジンの目標制御トルクに分配される。同様に外乱補償目標駆動トルクの変化率が高い成分が補機の目標制御トルクに分配されると共に、変化率が高い成分以外の外乱補償目標駆動トルクの成分がエンジンの目標制御トルクに分配される。そして基本目標制御トルクより分配されたエンジンの目標制御トルク及び外乱補償目標駆動トルクより分配されたエンジンの目標制御トルクに基づいてエンジンの出力トルクが制御される。同様基本目標制御トルクより分配された補機の目標制御トルク及び外乱補償目標駆動トルクより分配された補機の目標制御トルクに基づいて補機の消費トルクが制御される。
従って基本目標駆動トルク及び/又は外乱補償目標駆動トルクが高い変化率にて変化する状況に於いても、運転者の車両駆動の意思に沿うと共に車両の外乱に確実に対処することができるよう車両の駆動トルクを制御することができる。また基本目標駆動トルク又は外乱補償目標駆動トルクのみが補機の目標制御トルク及びエンジンの目標制御トルクに分配される場合に比して、効果的に運転者の車両駆動の意思の変化や車両の外乱に対処することができる。
〔課題解決手段の好ましい態様〕
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至6の何れか一つの構成に於いて、補機はエアコンのコンプレッサ及びオルタネータの少なくとも一方を含むよう構成される(好ましい態様1)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項6の構成に於いて、エンジンのトルク増減の推定可能範囲はエンジンの回転数に応じて可変設定されるよう構成される(好ましい態様2)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項7の構成に於いて、外乱補償目標駆動トルクは、操舵輪のコーナリングドラッグが車両に与える影響を抑制するに必要な駆動トルク及び車両のピッチングを抑制するピッチ制振制御に必要な駆動トルクの少なくとも一方を含むよう構成される(好ましい態様3)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至9の何れか一つの構成に於いて、制御手段は車輪の駆動トルクで見た値として各目標制御トルクを演算し、各目標制御トルクをエンジンの出力トルクで見た値に変換するよう構成される(好ましい態様4)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至9の何れか一つの構成に於いて、制御手段はエンジンの出力トルクで見た値として各目標制御トルクを演算するよう構成される(好ましい態様5)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至9の何れか一つの構成に於いて、エンジンは火花点火式ガソリンエンジンであるよう構成される(好ましい態様6)。
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を好ましい実施例について詳細に説明する。
[第一の実施例]
図1は前輪駆動車に適用された本発明による車両の駆動トルク制御装置の第一の実施例を示す概略構成図である。
図1に於いて、駆動トルク制御装置10は車両12に搭載され、車両12の駆動トルクを制御する。車両12は駆動源としてのエンジン14を有しており、図示の実施例のエンジン14は火花点火式のガソリンエンジンである。エンジン14の駆動トルクはトルクコンバータ16及びトランスミッション18を含む自動変速機20を介してドライブシャフト22へ伝達される。
ドライブシャフト22の駆動トルクはディファレンシャル24により左前輪ドライブシャフト26L及び右前輪ドライブシャフト26Rへ伝達され、更にユニバーサルジョイント28L及び28R等を介して左右前輪のアクスルへ伝達され、これにより駆動輪である左右前輪30RL及び30RRが回転駆動される。
左右の前輪30FL及び30FRは駆動輪であると共に操舵輪であり、図1には示されていないが運転者によるステアリングホイールの操舵操作に応答して駆動される例えばラック・アンド・ピニオン式のパワーステアリング装置によりタイロッドを介して周知の要領にて操舵される。これに対し左右の後輪30RL及び30RRは従動輪であると共に非操舵輪である。
またエンジン14の駆動トルクは、図1には示されていない伝動ベルトを介してエアコン32のコンプレッサ34及びオルタネータ36へ伝達される。コンプレッサ34は吐出容量を連続的に変化可能な連続可変容量型のコンプレッサであり、エンジン14よりの駆動トルクによって駆動されることによりエアコン32の冷媒の吸入、圧縮、吐出を行う。オルタネータ36もエンジン14よりの駆動トルクによって駆動されることにより発電を行い、バッテリ50を充電する。
以上の説明より解る如く、コンプレッサ34及びオルタネータ36はエンジン14よりの駆動トルクによって駆動される補機であり、エンジン14、コンプレッサ34、オルタネータ36は電子制御装置40により制御される。図1には詳細に示されていないが、電子制御装置40はエンジン14の出力トルク及びオルタネータ36の発電電圧を制御するエンジン制御部、自動変速機20の変速段を制御する変速制御部、エアコン32のコンプレッサ34や図1には示されていない電動ファン等を制御するエアコン制御部、車両12の走行運動を制御する運動制御部等を含んでいる。
尚エンジン制御部、変速制御部、エアコン制御部、運動制御部は、実際にはそれぞれCPU、ROM、RAM、入出力ポート装置等を含み、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続された周知の構成のマイクロコンピュータであってよい。またエンジン制御部等は相互に必要な情報の授受を行うと共に、図1には示されていない制動力制御用電子制御装置の如き他の電子制御装置と相互に必要な情報の授受を行う。
電子制御装置40のエンジン制御部には、運転者により操作されるアクセルぺダル42に設けられたアクセル開度センサ44よりアクセルペダル42の踏み込み量であるアクセル開度Apを示す信号が入力される。また電子制御装置40のエンジン制御部には、エンジン14の吸気管に設けられたエアフローメータ46より吸入空気量Raを示す信号が入力され、エンジン14に設けられた回転数センサ48よりエンジン回転数Neを示す信号が入力される。
更に電子制御装置40のエンジン制御部には、オルタネータ36により充電されるバッテリ50よりバッテリの電圧Vbを示す信号が入力され、また図1には示されていない他のセンサよりエンジン14及びオルタネータ36の制御に必要な他の情報を示す信号が入力される。
電子制御装置40の変速制御部には、運転者により操作されるシフトレバーに設けられたシフトポジション(SP)センサ52よりシフトポジションSpを示す信号が入力される。また電子制御装置40の変速制御部には、図1には示されていない他のセンサより自動変速機20の変速段の制御に必要な車速Vの如き他の情報を示す信号が入力される。
電子制御装置40のエアコン制御部には、車両の乗員により操作される温度設定ダイヤル54より設定温度Trtを示す信号が入力され、また図1には示されていない他のセンサよりエアコン32の制御に必要な車室内温度Trの如き他の情報を示す信号が入力される。
電子制御装置40の運動制御部には、ヨーレートセンサ56より車両のヨーレートγを示す信号が入力され、また図1には示されていない他のセンサより車両12の走行運動の制御に必要な操舵角θの如き他の情報を示す信号が入力される。
電子制御装置40のエンジン制御部は、少なくともアクセル開度Apに基づく基本目標駆動トルクTvbtと、運動制御部により演算される車両の外乱に対処するための外乱補償目標駆動トルクTvmtとの和を車両の目標駆動トルクTvt(左右前輪30FL及び30FRの目標駆動トルクの和、即ち車輪駆動トルクの目標値)として演算する。そして電子制御装置40は、車両の駆動トルクTvが目標駆動トルクTvtになるよう、エンジン14の出力トルクTe、コンプレッサ34の消費トルクTc、オルタネータ36の消費トルクTaを制御する。
尚、電子制御装置40のエンジン制御部によるトルク増減制御についてのエンジン14の応答性はコンプレッサ34及びオルタネータ36の何れの応答性よりも低い。またエンジン制御部によるトルク増減制御についてのコンプレッサ34の応答性はオルタネータ36の応答性よりも低い。
電子制御装置40の運動制御部は、左右前輪30FL及び30FRのコーナリングドラッグを補償するコーナリングドラッグ補償制御を行う。即ち運動制御部は、車両のヨーレートγ等に基づいて当技術分野に於いて公知の要領にて車両のスリップ角βを演算すると共に、車両のスリップ角β、操舵角θ等に基づいて左右前輪30FL及び30FRのスリップ角βwfを演算する。そして運動制御部は、スリップ角βwfに基づき左右前輪30FL及び30FRのコーナリングドラッグDwfを演算し、コーナリングドラッグDwfが車両12に与える影響を抑制するに必要な車輪駆動トルクとして、車両の目標駆動トルクTvtについての第一の目標修正量ΔTvt1を演算する。
また電子制御装置40の運動制御部は、左右前輪30FL及び30FRの車輪速度VwFL及びVwFR等に基づいて前輪の車輪加速度Vwfdを演算し、前輪の車輪加速度Vwfdに基づいて当技術分野に於いて公知の要領にて車両のピッチング加速度Gvpを推定する。そして運動制御部は、ピッチング加速度Gvpに基づき車両のピッチングを抑制するピッチ制振制御に必要な車輪駆動トルクとして、車両の目標駆動トルクTvtについての第二の目標修正量ΔTvt2を演算する。
更に電子制御装置40の運動制御部は、第一の目標駆動力修正量ΔTvt1と第二の目標駆動力修正量ΔTvt2との和を車輪駆動トルクで見た外乱補償目標駆動トルクTvmtとして演算し、外乱補償目標駆動トルクTvmtを示す信号をエンジン制御部へ出力する。尚運動制御部は、過剰な制動スリップを抑制するアンチスキッド制御、過剰な駆動スリップを抑制するトラクション制御、車両の走行運動の安定性を確保するための走行運動制御等をも行うようになっていてよい。この場合外乱補償目標駆動トルクTvmtの演算に際し、過剰な制動スリップを抑制するための目標駆動力修正量、過剰な駆動スリップを抑制するための目標駆動力修正量、車両の走行運動の安定性を確保するための目標駆動力修正量が考慮されてもよい。
特に電子制御装置40のエンジン制御部は、基本目標駆動トルクTvbtと外乱補償目標駆動トルクTvmtとの和を車両の目標駆動トルクTvtとして演算する。そしてエンジン制御部は、車両の目標駆動トルクTvtを第一のローパスフィルタにて処理することにより、エンジン14により達成されるべき車輪駆動トルクとして目標制御トルクTvetを演算する。
また電子制御装置40のエンジン制御部は、車両の目標駆動トルクTvtよりエンジン14の目標制御トルクTvetを減算することにより、補正後の車両の目標駆動トルクTvtaを演算する。そしてエンジン制御部は、カットオフ周波数が第一のローパスフィルタよりも高い第二のローパスフィルタにて補正後の車両の目標駆動トルクTvtaを処理することにより、トルク増減制御の応答性が低い方の補機であるコンプレッサ34について車輪駆動トルクで見た目標制御トルクTvctを演算する。更にエンジン制御部は、目標制御トルクTvct及び自動変速機20の変速段(ギヤ比)に基づきエンジンの出力トルクで見たコンプレッサ34の目標制御トルクTctを演算し、目標制御トルクTctを示す信号をエアコン制御部へ出力する。
電子制御装置40のエアコン制御部は、車室内の温度Trを温度設定ダイヤル54により設定された設定温度Trtにするための制御モードを決定し、制御モード、設定温度Trtと温度Trとの偏差、車両の乗員により設定された送風量等に応じてエンジンの出力トルクで見たコンプレッサ34の必要消費トルクTcreqを演算する。そしてエアコン制御部は、必要消費トルクTcreqより目標制御トルクTctを減算することにより、エンジンの出力トルクで見たコンプレッサ34の最終目標消費トルクTcttを演算し、コンプレッサ34の消費トルクTcが最終目標消費トルクTcttになるよう、コンプレッサ34の吐出容量を制御する。
また電子制御装置40のエンジン制御部は、車両の目標駆動トルクTvtよりエンジン14の目標制御トルクTvet及びコンプレッサ34の目標制御トルクTvctを減算した値(Tvt−Tvet−Tvct)を他方の補機であるオルタネータ36についての車輪駆動トルクで見た目標制御トルクTvatとして演算する。そしてエンジン制御部は、目標制御トルクTvat及び自動変速機20の変速段に基づきエンジンの出力トルクで見たオルタネータ36の目標制御トルクTatを演算する。
またエンジン制御部は、バッテリの電圧Vb、車両の走行状態等に基づいてオルタネータ36の必要発電電圧Vgtを演算し、必要発電電圧Vgtに基づいてエンジンの出力トルクで見たオルタネータ36の必要消費トルクTareqを演算する。そしてエンジン制御部は、必要消費トルクTareqより目標制御トルクTatを減算することにより、エンジンの出力トルクで見たオルタネータ36の最終目標消費トルクTattを演算し、オルタネータ36の消費トルクTaが最終目標消費トルクTattになるよう、オルタネータ36の発電電圧を制御する。
更に電子制御装置40のエンジン制御部は、車輪駆動トルクで見たエンジン14の目標制御トルクTvet及び自動変速機20の変速段に基づきエンジンの出力トルクで見た目標出力トルクTetを演算する。そしてエンジン制御部は、エンジン14の目標出力トルクTetとコンプレッサ34の必要消費トルクTcreqとオルタネータ36の必要消費トルクTaeqとの和をエンジン14の最終目標出力トルクTettとして演算し、エンジン14の出力トルクTeが最終目標出力トルクTettになるよう、スロットル開度、燃料噴射量、点火時期の少なくとも何れかを制御する。
次に図2及び図3に示されたブロック図を参照して第一の実施例に於いて電子制御装置40により達成される車両の駆動トルク制御について説明する。
基本目標駆動トルクTvbt及び外乱補償目標駆動トルクTvmtがそれぞれ目標駆動トルク演算ブロック100及び110により演算され、加算器120によって基本目標駆動トルクTvbt及び外乱補償目標駆動トルクTvmtが加算されることにより車両の目標駆動トルクTvtが演算される。
車両の目標駆動トルクTvtは、図3に詳細に示された分配演算ブロック130により、車輪駆動トルクで見たエンジン14の目標制御トルクTvet、コンプレッサ34の目標制御トルクTvct、オルタネータ36の目標制御トルクTvatに分配される。
図3に示された分配演算ブロック130の第一のガード処理ブロック132に於いては、車両の目標駆動トルクTvtがエンジン14のトルク制御により達成可能と推定されるトルク変動範囲を越えているときには、エンジン14のトルク制御により達成可能と推定されるトルク変動範囲内の値になるよう、車両の目標駆動トルクTvtについて第一のガード処理が行われる。尚、エンジン14のトルク制御により達成可能なトルク変動範囲はエンジン回転数Neによって変化するので、エンジン14のトルク制御により達成可能と推定されるトルク変動範囲はエンジン回転数Neに基づいて可変設定される。
ガード処理後の車両の目標駆動トルクTvtは第一のローパスフィルタ処理ブロック134により第一のローパスフィルタにて処理され、これにより車輪駆動トルクで見たエンジン14の目標制御トルクTvetが演算される。
尚、トルク増減制御についてのエンジン14の応答性はエンジン回転数Neによって変化するので、第一のローパスフィルタのカットオフ周波数fc1はトルク増減制御についてのエンジン14の応答性に対応する値になるよう、エンジン回転数Neに応じて可変設定される。
また図3に示された分配演算ブロック130に於いては、加算ブロック136により、ガード処理前の車両の目標駆動トルクTvtよりエンジン14の目標制御トルクTvetが減算され、これにより補正後の車両の目標駆動トルクTvtaが演算され、第二のガード処理ブロック138へ入力される。
第二のガード処理ブロック138に於いては、補正後の車両の目標駆動トルクTvtaがコンプレッサ34のトルク制御により達成可能と推定されるトルク変動範囲を越えているときには、コンプレッサ34のトルク制御により達成可能と推定されるトルク変動範囲内の値になるよう、補正後の車両の目標駆動トルクTvtaについて第二のガード処理が行われる。
尚、コンプレッサ34のトルク制御により達成可能なトルク変動範囲は外気温の如きコンプレッサ34の作動状況によって変化するので、コンプレッサ34のトルク制御により達成可能と推定されるトルク変動範囲はコンプレッサ34の作動状況に基づいて可変設定される。
第二のガード処理後の車両の目標駆動トルクTvtaは第二のローパスフィルタ処理ブロック140により第二のローパスフィルタにて処理され、これにより車輪駆動トルクで見たコンプレッサ34の目標制御トルクTvctが演算される。
尚、トルク増減制御についてのコンプレッサ34の応答性はコンプレッサ34の吐出容量等の作動状況によって変化するので、第二のローパスフィルタのカットオフ周波数fc2はトルク増減制御についてのコンプレッサ34の応答性に対応する値になるよう、コンプレッサ34の作動状況に応じて可変設定される。
コンプレッサ34の目標制御トルクTvctは加算器142によりエンジン14の目標制御トルクTvetと加算される。そして加算器144によって車両の目標駆動トルクTvtよりエンジン14の目標制御トルクTvet及びコンプレッサ34の目標制御トルクTvctの和が減算され、これにより車輪駆動トルクで見たオルタネータ36の目標制御トルクTvatが演算される。
図2に戻って、エンジン14の目標制御トルクTvetはトルク変換ブロック150によりエンジンの出力トルクで見た目標出力トルクTetに変換される。またコンプレッサの必要消費トルク演算ブロック170によりコンプレッサ34の必要消費トルクTcreqが演算され、オルタネータの必要消費トルク演算ブロック180によりオルタネータ36の必要消費トルクTaeqが演算される。そしてエンジン14の目標制御トルクTetは加算器160によりコンプレッサ34の必要消費トルクTcreq及びオルタネータ36の必要消費トルクTaeqと加算され、これによりエンジン14の最終目標出力トルクTettが演算される。
またコンプレッサ34の目標制御トルクTvctはトルク変換ブロック190によりエンジンの出力トルクで見たコンプレッサ34の目標制御トルクTctに変換される。そして加算器200によってコンプレッサ34の必要消費トルクTcreqよりコンプレッサ34の目標制御トルクTctが減算され、これによりエンジンの出力トルクで見たコンプレッサ34の最終目標消費トルクTcttが演算される。
更にオルタネータ36の目標制御トルクTvatはトルク変換ブロック210によりエンジンの出力トルクで見たオルタネータ36の目標制御トルクTatに変換される。そして加算器220によってオルタネータ36の必要消費トルクTareqよりオルタネータ36の目標制御トルクTatが減算され、これによりエンジンの出力トルクで見たオルタネータ36の最終目標消費トルクTattが演算される。
以上の説明より解る如く、第一の実施例によれば、車両の目標駆動トルクTvtが基本目標駆動トルクTvbtと外乱補償目標駆動トルクTvmtとの和として演算される。そして車両の目標駆動トルクTvtが車輪駆動トルクで見たエンジン14の目標制御トルクTvet、コンプレッサ34の目標制御トルクTvct、オルタネータ36の目標制御トルクTvatに分配される。
この場合車両の目標駆動トルクTvtが第一のローパスフィルタにて処理されることにより、エンジン14により達成されるべき車輪駆動トルクとして目標制御トルクTvetが演算され、目標制御トルクTvetがエンジンの出力トルクで見たエンジン14の目標出力トルクTetに変換される。またエンジン14の目標出力トルクTetとコンプレッサ34の必要消費トルクTcreqとオルタネータ36の必要消費トルクTaeqとの和がエンジン14の最終目標出力トルクTettとして演算される。そしてエンジン14の出力トルクTeが最終目標出力トルクTettになるよう、エンジン14の出力が制御される。
また車両の目標駆動トルクTvtよりエンジン14の目標制御トルクTvetが減算された補正後の車両の目標駆動トルクTvtaが第二のローパスフィルタにて処理されることにより、コンプレッサ34について車輪駆動トルクで見た目標制御トルクTvctが演算される。そして目標制御トルクTvctがエンジンの出力トルクで見たコンプレッサ34の目標制御トルクTctに変換される。尚第二のローパスフィルタのカットオフ周波数fc2の値は第一のローパスフィルタのカットオフ周波数fc1の値よりも大きい。
また必要消費トルクTcreqより目標制御トルクTctが減算されることにより、エンジンの出力トルクで見たコンプレッサ34の最終目標消費トルクTcttが演算される。そしてコンプレッサ34の消費トルクTcが最終目標消費トルクTcttになるよう、コンプレッサ34の吐出容量が制御される。
更に車両の目標駆動トルクTvtよりエンジン14の目標制御トルクTvet及びコンプレッサ34の目標制御トルクTvctの和が減算されることにより、車輪駆動トルクで見たオルタネータ36の目標制御トルクTvatが演算される。そして目標制御トルクTvatがエンジンの出力トルクで見たオルタネータ36の目標制御トルクTatに変換される。
また必要消費トルクTareqより目標制御トルクTatが減算されることにより、エンジンの出力トルクで見たオルタネータ36の最終目標消費トルクTattが演算される。そしてオルタネータ36の消費トルクTaが最終目標消費トルクTattになるよう、オルタネータ36の発電電圧が制御される。
従って車両の目標駆動トルクTvtのうち第一のローパスフィルタのカットオフ周波数fc1以下の周波数の成分を目標制御トルクTvetとしてエンジン14に分配し、車両の目標駆動トルクTvtのうちカットオフ周波数fc1よりも高く第二のローパスフィルタのカットオフ周波数fc2以下の周波数の成分を目標制御トルクTvctとしてコンプレッサ34に分配し、車両の目標駆動トルクTvtのうちカットオフ周波数fc2よりも高い周波数の成分を目標制御トルクTvatとしてオルタネータ36に分配することができる。
よって車両の目標駆動トルクTvtのうちの低周波数の成分をトルク増減制御についての応答性が最も低いエンジン14の出力トルクの制御により達成し、車両の目標駆動トルクTvtのうちの高周波数の成分をトルク増減制御についての応答性が最も高いオルタネータ36の消費トルクの制御により達成し、車両の目標駆動トルクTvtのうちの中間周波数の成分をトルク増減制御についての応答性がエンジン14よりも高く且つオルタネータ36よりも低いコンプレッサ34の消費トルクの制御により達成することができる。
従って第一の実施例によれば、外乱補償目標駆動トルクTvmtが高い変化率にて変化し、これにより車両の目標駆動トルクTvtが高い変化率にて変化する状況に於いても、エンジン14の出力トルク、コンプレッサ34の消費トルク、オルタネータ36の消費トルクを最適に制御することができ、これにより車両の駆動トルクを効果的に車両の目標駆動トルクTvtに制御することができる。
また第一の実施例によれば、コンプレッサ34には車両の目標駆動トルクTvtの低周波成分は分配されず、オルタネータ36には車両の目標駆動トルクTvtの高周波成分以外の成分は分配されない。よってコンプレッサ34やオルタネータ36に車両の目標駆動トルクTvtの上記以外の成分が分配される場合に比して、コンプレッサ34の目標制御トルクTctやオルタネータ36の目標制御トルクTatの大きさを低減することができる。従って目標制御トルクによるコンプレッサ34やオルタネータ36の消費トルクが大きく変化され、コンプレッサ34やオルタネータ36の作動状況が大きく変化することに起因してそれらの機能が大きく阻害される虞れを確実に低減することができる。
特に第一の実施例によれば、車両の目標駆動トルクTvtは少なくとも運転者の駆動操作量に基づく基本目標駆動トルクTvbtと外乱補償目標駆動トルクTvmtとの和である。従って基本目標駆動トルクTvbt及び外乱補償目標駆動トルクTvmtのそれぞれが第一及び第二のローパスフィルタにて処理される後述の第二の実施例の場合に比して、基本目標駆動トルクTvbt及び外乱補償目標駆動トルクTvmtを能率よく分配することができる。
また後述の第二の実施例の場合や外乱補償目標駆動トルクTvmtのみがローパスフィルタにて処理される後述の第三の実施例の場合に比して、基本目標駆動トルクTvbt及び外乱補償目標駆動トルクTvmtの全体をエンジン14、コンプレッサ34、オルタネータ36にそれらのトルク増減制御についての応答性に応じて適正に分配することができる。
更に基本目標駆動トルクTvbt及び外乱補償目標駆動トルクTvmtがそれぞれ個別に分配される後述の第三の実施例の場合に比して、目標制御トルクの演算に要する演算量を低減することができる。
尚以上の説明より解る如く、目標駆動トルクはエンジン14、コンプレッサ34、オルタネータ36の制御トルクに分配されるので、目標駆動トルクがコンプレッサ34の制御トルクには分配されない後述の第四乃至第六の実施例の場合に比して、確実に且つ効果的に車両の目標駆動トルクを車両の目標駆動トルクTvtに制御することができると共に、目標制御トルクに起因してオルタネータ36の機能が阻害される程度を確実に低減することができる。
[第二の実施例]
図4は本発明による車両の駆動トルク制御装置の第二の実施例に於ける信号処理を示すブロック図、図5は図4に示された分配演算ブロックに於ける信号処理を示すブロック図である。尚図4に於いて、図2に示されたブロックに対応するブロックには図2に於いて付された符号と同一の符号が付されている。
この第二の実施例に於いては、基本目標駆動トルクTvbt及び外乱補償目標駆動トルクTvmtは加算されず、外乱補償目標駆動トルクTvmtのみが分配演算ブロック230により車輪駆動トルクで見たエンジン14の目標制御トルクTvmet、コンプレッサ34の目標制御トルクTvmct、オルタネータ36の目標制御トルクTvmatに分配される。
エンジン14の目標制御トルクTvmetは加算器250により基本目標駆動トルクTvbtと加算され、これにより車輪駆動トルクで見たエンジン14の目標制御トルクTvetが演算される。エンジン14の目標制御トルクTvet、コンプレッサ34の目標制御トルクTvmct、オルタネータ36の目標制御トルクTvmatはそれぞれトルク変換ブロック150、190、210によりエンジンの出力トルクで見た目標出力トルクTet、コンプレッサ34の目標制御トルクTct、オルタネータ36の目標制御トルクTatに変換される。尚ブロック160乃至180及び加算器200、220による信号の処理は第一の実施例と同一である。
図5に示されている如く、分配演算ブロック230のブロック232乃至244は図3に示されたブロック132乃至144にそれぞれ対応している。ブロック232乃至244に於いては、外乱補償目標駆動トルクTvmtについてブロック132乃至144と同様の処理が行われ、これにより外乱補償目標駆動トルクTvmtがエンジン14の目標制御トルクTvmet、コンプレッサ34の目標制御トルクTvmct、オルタネータ36の目標制御トルクTvmatに分配される。
即ち第一のガード処理ブロック232に於いては、外乱補償目標駆動トルクTvmtがエンジン14のトルク制御により達成可能と推定されるトルク変動範囲を越えているときには、エンジン14のトルク制御により達成可能と推定されるトルク変動範囲内の値になるよう、外乱補償目標駆動トルクTvmtについて第一のガード処理が行われる。
尚この実施例に於いても、エンジン14のトルク制御により達成可能と推定されるトルク変動範囲はエンジン回転数Neに基づいて可変設定される。またこの実施例に於いて推定されるトルク変動範囲は外乱補償目標駆動トルクTvmtについてのエンジン14のトルク制御によるトルク変動範囲であるので、上述の第一の実施例に於いて推定されるトルク変動範囲よりも狭い。
ガード処理後の外乱補償目標駆動トルクTvmtは第一のローパスフィルタ処理ブロック234により第一のローパスフィルタにて処理され、これにより車輪駆動トルクで見たエンジン14の目標制御トルクTvmetが演算される。
尚この実施例に於いても、第一のローパスフィルタのカットオフ周波数fc1はトルク増減制御についてのエンジン14の応答性に対応する値になるよう、エンジン回転数Neに応じて可変設定される。
また図5に示された分配演算ブロック230に於いては、加算ブロック236により、ガード処理前の外乱補償目標駆動トルクTvmtよりエンジン14の目標制御トルクTvmetが減算され、これにより補正後のコンプレッサ34の目標制御トルクTvmtaが演算され、第二のガード処理ブロック238へ入力される。
第二のガード処理ブロック238に於いては、補正後のコンプレッサ34の目標制御トルクTvmtaがコンプレッサ34のトルク制御により達成可能と推定されるトルク変動範囲を越えているときには、コンプレッサ34のトルク制御により達成可能と推定されるトルク変動範囲内の値になるよう、補正後のコンプレッサ34の目標制御トルクTvmtaについて第二のガード処理が行われる。
尚この実施例に於いても、コンプレッサ34のトルク制御により達成可能と推定されるトルク変動範囲は外気温の如きコンプレッサ34の作動状況に基づいて可変設定される。またこの実施例に於いて推定されるトルク変動範囲は外乱補償目標駆動トルクTvmtについてのコンプレッサ34のトルク制御によるトルク変動範囲であるので、上述の第一の実施例に於いて推定されるトルク変動範囲よりも狭い。
第二のガード処理後のコンプレッサ34の目標制御トルクTvmtaは第二のローパスフィルタ処理ブロック240により第二のローパスフィルタにて処理され、これにより車輪駆動トルクで見たコンプレッサ34の目標制御トルクTvmctが演算される。
尚この実施例に於いても、第二のローパスフィルタのカットオフ周波数fc2はトルク増減制御についてのコンプレッサ34の応答性に対応する値になるよう、コンプレッサ34の作動状況に応じて可変設定される。
コンプレッサ34の目標制御トルクTvmctは加算器242によりエンジン14の目標制御トルクTvmetと加算される。そして加算器244によって外乱補償目標駆動トルクTvmtよりエンジン14の目標制御トルクTvmet及びコンプレッサ34の目標制御トルクTvmctの和が減算され、これにより車輪駆動トルクで見たオルタネータ36の目標制御トルクTvmatが演算される。
かくして図示の第二の実施例によれば、上述の第一の実施例に於ける車両の目標駆動トルクTvtの分配と同様の要領にて、外乱補償目標駆動トルクTvmtのみがエンジン14の目標制御トルクTvmet、コンプレッサ34の目標制御トルクTvmct、オルタネータ36の目標制御トルクTvmatに分配される。そして上述の第一の実施例の場合と同様の要領にて、エンジン14の目標制御トルクTvmet、コンプレッサ34の目標制御トルクTvmct、オルタネータ36の目標制御トルクTvmatに基づいてエンジンの出力トルクで見たエンジン14の最終目標出力トルクTett、コンプレッサ34の最終目標消費トルクTctt、オルタネータ36の最終目標消費トルクTattが演算される。
従って車外乱補償目標駆動トルクTvmtのうち第一のローパスフィルタのカットオフ周波数fc1以下の周波数の成分を目標制御トルクTvmetとしてエンジン14に分配し、車外乱補償目標駆動トルクTvmtのうちカットオフ周波数fc1よりも高く第二のローパスフィルタのカットオフ周波数fc2以下の周波数の成分を目標制御トルクTvmctとしてコンプレッサ34に分配し、車外乱補償目標駆動トルクTvmtのうちカットオフ周波数fc2よりも高い周波数の成分を目標制御トルクTvmatとしてオルタネータ36に分配することができる。
よって車外乱補償目標駆動トルクTvmtのうちの低周波数の成分をトルク増減制御についての応答性が最も低いエンジン14の出力トルクの制御により達成し、車外乱補償目標駆動トルクTvmtのうちの高周波数の成分をトルク増減制御についての応答性が最も高いオルタネータ36の消費トルクの制御により達成し、車外乱補償目標駆動トルクTvmtのうちの中間周波数の成分をトルク増減制御についての応答性がエンジン14よりも高く且つオルタネータ36よりも低いコンプレッサ34の消費トルクの制御により達成することができる。
従って第二の実施例によれば、外乱補償目標駆動トルクTvmtが高い変化率にて変化する状況に於いても、上述の第一の実施例の場合と同様に、エンジン14の出力トルク、コンプレッサ34の消費トルク、オルタネータ36の消費トルクを最適に制御することができ、これにより車両の目標駆動トルクを効果的に車両の目標駆動トルクTvtに制御することができる。
また第二の実施例によれば、コンプレッサ34には外乱補償目標駆動トルクTvmtの低周波成分は分配されず、オルタネータ36には外乱補償目標駆動トルクTvmtの高周波成分以外の成分は分配されない。よってコンプレッサ34やオルタネータ36に外乱補償目標駆動トルクTvmtの上記以外の成分が分配される場合に比して、コンプレッサ34の目標制御トルクTctやオルタネータ36の目標制御トルクTatの大きさを低減することができる。従って目標制御トルクによりコンプレッサ34やオルタネータ36の消費トルクが大きく変化され、コンプレッサ34やオルタネータ36の作動状況が大きく変化することに起因してそれらの機能が大きく阻害される虞れを確実に低減することができる。
特に第二の実施例によれば、外乱補償目標駆動トルクTvmtのみがエンジン14、コンプレッサ34、オルタネータ36に分配される。従って基本目標駆動トルクTvbt及び外乱補償目標駆動トルクTvmtがそれぞれ個別に分配される後述の第三の実施例の場合に比して、目標制御量の演算に要する演算量を低減することができる。また基本目標駆動トルクTvbtも分配される第一及び第三の実施例の場合に比して、コンプレッサ34及びオルタネータ36に分配される制御量を低減することができ、これによりコンプレッサ34及びオルタネータ36の機能が阻害される虞れを低減することができる。
[第三の実施例]
図6は本発明による車両の駆動トルク制御装置の第三の実施例に於ける信号処理を示すブロック図、図7は図6に示された第一の分配演算ブロックに於ける信号処理を示すブロック図である。尚図6に於いて、図2又は図4に示されたブロックに対応するブロックには図2又は図4に於いて付された符号と同一の符号が付されている。
この第三の実施例に於いても、基本目標駆動トルクTvbt及び外乱補償目標駆動トルクTvmtは加算されない。基本目標駆動トルクTvbtは第一の分配演算ブロック260により車輪駆動トルクで見たエンジン14の目標制御トルクTvbet、コンプレッサ34の目標制御トルクTvbct、オルタネータ36の目標制御トルクTvbatに分配される。また上述の第二の実施例の場合と同様に、外乱補償目標駆動トルクTvmtは第二の分配演算ブロック230により車輪駆動トルクで見たエンジン14の目標制御トルクTvmet、コンプレッサ34の目標制御トルクTvmct、オルタネータ36の目標制御トルクTvmatに分配される。
尚図5に於いて括弧付の符号にて示されている如く、外乱補償目標駆動トルクTvmtを分配する第二の分配演算ブロック230は第二の実施例に於ける分配演算ブロック230と同様である。
エンジン14の基本目標駆動トルクTvbtは加算器280により目標制御トルクTvmetと加算され、これにより車輪駆動トルクで見たエンジン14の目標制御トルクTvbetが演算される。コンプレッサ34の目標制御トルクTvbctは加算器290により目標制御トルクTvmctと加算され、これにより車輪駆動トルクで見たコンプレッサ34の目標制御トルクTvctが演算される。オルタネータ36の目標制御トルクTvbatは加算器300により目標制御トルクTvmatと加算され、これにより車輪駆動トルクで見たオルタネータ36の目標制御トルクTvatが演算される。尚ブロック150乃至220による信号の処理は第一及び第二の実施例と同一である。
図7に示されている如く、第一の分配演算ブロック260のブロック262乃至274は図3に示されたブロック132乃至144にそれぞれ対応している。ブロック262乃至274に於いては、基本目標駆動トルクTvbtについてブロック132乃至144と同様の処理が行われ、これにより基本目標駆動トルクTvbtがエンジン14の目標制御トルクTvbet、コンプレッサ34の目標制御トルクTvbct、オルタネータ36の目標制御トルクTvbatに分配される。
即ち第一のガード処理ブロック262に於いては、基本目標駆動トルクTvbtがエンジン14のトルク制御により達成可能と推定されるトルク変動範囲を越えているときには、エンジン14のトルク制御により達成可能と推定されるトルク変動範囲内の値になるよう、基本目標駆動トルクTvbtについて第一のガード処理が行われる。
尚この基本目標駆動トルクTvbtの第一のガード処理に於いても、エンジン14のトルク制御により達成可能と推定されるトルク変動範囲はエンジン回転数Neに基づいて可変設定される。
ガード処理後の基本目標駆動トルクTvbtは第一のローパスフィルタ処理ブロック264により第一のローパスフィルタにて処理され、これにより車輪駆動トルクで見たエンジン14の目標制御トルクTvbetが演算される。
尚この基本目標駆動トルクTvbtの第一のローパスフィルタ処理に於いても、カットオフ周波数fc1はトルク増減制御についてのエンジン14の応答性に対応する値になるよう、エンジン回転数Neに応じて可変設定される。
また図7に示された分配演算ブロック260に於いては、加算ブロック266により、ガード処理前の基本目標駆動トルクTvbtよりエンジン14の目標制御トルクTvbetが減算され、これにより補正後のコンプレッサ34の目標制御トルクTvbtaが演算され、第二のガード処理ブロック268へ入力される。
第二のガード処理ブロック268に於いては、補正後のコンプレッサ34の目標制御トルクTvbtaがコンプレッサ34のトルク制御により達成可能と推定されるトルク変動範囲を越えているときには、コンプレッサ34のトルク制御により達成可能と推定されるトルク変動範囲内の値になるよう、補正後のコンプレッサ34の目標制御トルクTvbtaについて第二のガード処理が行われる。
尚この目標制御トルクTvbtaの第二のガード処理に於いても、コンプレッサ34のトルク制御により達成可能と推定されるトルク変動範囲は外気温の如きコンプレッサ34の作動状況に基づいて可変設定される。
第二のガード処理後のコンプレッサ34の目標制御トルクTvbtaは第二のローパスフィルタ処理ブロック270により第二のローパスフィルタにて処理され、これにより車輪駆動トルクで見たコンプレッサ34の目標制御トルクTvbctが演算される。
尚この目標制御トルクTvbtaの第二のローパスフィルタ処理に於いても、カットオフ周波数fc2はトルク増減制御についてのコンプレッサ34の応答性に対応する値になるよう、コンプレッサ34の作動状況に応じて可変設定される。
コンプレッサ34の目標制御トルクTvbctは加算器272によりエンジン14の目標制御トルクTvbetと加算される。そして加算器274によって基本目標駆動トルクTvbtよりエンジン14の目標制御トルクTvbet及びコンプレッサ34の目標制御トルクTvbctの和が減算され、これにより車輪駆動トルクで見たオルタネータ36の目標制御トルクTvbatが演算される。
かくして図示の第三の実施例によれば、上述の第一の実施例に於ける車両の目標駆動トルクTvtの分配と同様の要領にて、基本目標駆動トルクTvbtがエンジン14の目標制御トルクTvbet、コンプレッサ34の目標制御トルクTvbct、オルタネータ36の目標制御トルクTvbatに分配される。また上述の第二の実施例の場合と同様の要領にて、外乱補償目標駆動トルクTvmtがエンジン14の目標制御トルクTvmet、コンプレッサ34の目標制御トルクTvmct、オルタネータ36の目標制御トルクTvmatに分配される。
そして上述の第一の実施例の場合と同様の要領にて、エンジン14の目標制御トルクTvbet及びTvmet、コンプレッサ34の目標制御トルクTvbct及びTvmct、オルタネータ36の目標制御トルクTvbat及びTvmatに基づいてエンジンの出力トルクで見たエンジン14の最終目標出力トルクTett、コンプレッサ34の最終目標消費トルクTctt、オルタネータ36の最終目標消費トルクTattが演算される。
従って基本目標駆動トルクTvbtのうち第一のローパスフィルタのカットオフ周波数fc1以下の周波数の成分を目標制御トルクTvmetとしてエンジン14に分配し、基本目標駆動トルクTvbtのうちカットオフ周波数fc1よりも高く第二のローパスフィルタのカットオフ周波数fc2以下の周波数の成分を目標制御トルクTvmctとしてコンプレッサ34に分配し、基本目標駆動トルクTvbtのうちカットオフ周波数fc2よりも高い周波数の成分を目標制御トルクTvmatとしてオルタネータ36に分配することができる。
また車外乱補償目標駆動トルクTvmtのうち第一のローパスフィルタのカットオフ周波数fc1以下の周波数の成分を目標制御トルクTvmetとしてエンジン14に分配し、車外乱補償目標駆動トルクTvmtのうちカットオフ周波数fc1よりも高く第二のローパスフィルタのカットオフ周波数fc2以下の周波数の成分を目標制御トルクTvmctとしてコンプレッサ34に分配し、車外乱補償目標駆動トルクTvmtのうちカットオフ周波数fc2よりも高い周波数の成分を目標制御トルクTvmatとしてオルタネータ36に分配することができる。
よって基本目標駆動トルクTvbt及び車外乱補償目標駆動トルクTvmtのうちの低周波数の成分をトルク増減制御についての応答性が最も低いエンジン14の出力トルクの制御により達成し、基本目標駆動トルクTvbt及び車外乱補償目標駆動トルクTvmtのうちの高周波数の成分をトルク増減制御についての応答性が最も高いオルタネータ36の消費トルクの制御により達成し、基本目標駆動トルクTvbt及び車外乱補償目標駆動トルクTvmtのうちの中間周波数の成分をトルク増減制御についての応答性がエンジン14よりも高く且つオルタネータ36よりも低いコンプレッサ34の消費トルクの制御により達成することができる。
従って第三の実施例によれば、基本目標駆動トルクTvbt及び/又は外乱補償目標駆動トルクTvmtが高い変化率にて変化する状況に於いても、上述の第一及び第二の実施例の場合と同様に、エンジン14の出力トルク、コンプレッサ34の消費トルク、オルタネータ36の消費トルクを最適に制御することができ、これにより車両の目標駆動トルクを効果的に車両の目標駆動トルクTvtに制御することができる。
また第三の実施例によれば、コンプレッサ34には基本目標駆動トルクTvbt及び外乱補償目標駆動トルクTvmtの低周波成分は分配されず、オルタネータ36には基本目標駆動トルクTvbt及び外乱補償目標駆動トルクTvmtの高周波成分以外の成分は分配されない。よってコンプレッサ34やオルタネータ36に基本目標駆動トルクTvbt及び外乱補償目標駆動トルクTvmtの上記以外の成分が分配される場合に比して、コンプレッサ34の目標制御トルクTctやオルタネータ36の目標制御トルクTatの大きさを低減することができる。従って目標制御トルクによるコンプレッサ34やオルタネータ36の消費トルクが大きく変化され、コンプレッサ34やオルタネータ36の作動状況が大きく変化することに起因してそれらの機能が大きく阻害される虞れを確実に低減することができる。
特に第三の実施例によれば、基本目標駆動トルクTvbt及び外乱補償目標駆動トルクTvmtの両者が分配されるので、外乱補償目標駆動トルクTvmtのみがエンジン14、コンプレッサ34、オルタネータ36に分配される第二の実施例の場合に比して、効果的に基本目標駆動トルクTvbt及び外乱補償目標駆動トルクTvmtの両者について車両の駆動トルクを車両の目標駆動トルクTvtに制御することができる。
[第四の実施例]
図8は第一の実施例の修正例として構成された本発明による車両の駆動トルク制御装置の第四の実施例に於ける信号処理を示すブロック図、図9は図8に示された分配演算ブロックに於ける信号処理を示すブロック図である。尚図8及び図9に於いて、図2及び図3に示されたブロックに対応するブロックには図2及び図3に於いて付された符号と同一の符号が付されている。
この第四の実施例に於いては、図8に示されている如く車両の目標駆動トルクTvtが車輪駆動トルクで見たエンジン14の目標制御トルクTvetとオルタネータ36の目標制御トルクTvatとに分配され、コンプレッサ34の目標制御トルクTvctには分配されない。従って図2に示されたトルク変換ブロック190、加算器200、コンプレッサの必要消費トルク演算ブロック170は設けられていない。また加算器160に於いては、エンジン14の目標制御トルクTetとオルタネータ36の必要消費トルクTaeqとが加算されることによりエンジン14の最終目標出力トルクTettが演算される。
また図9に示された分配演算ブロック330には、加算ブロック136、第二のガード処理ブロック138、第二のローパスフィルタ処理ブロック140、加算器142は設けられていない。また加算器144に於いては、車両の目標駆動トルクTvtよりエンジン14の目標制御トルクTvetのみが減算されることにより車輪駆動トルクで見たオルタネータ36の目標制御トルクTvatが演算される。
[第五の実施例]
図10は第二の実施例の修正例として構成された本発明による車両の駆動トルク制御装置の第五の実施例に於ける信号処理を示すブロック図、図11は図10に示された分配演算ブロックに於ける信号処理を示すブロック図である。尚図10及び図11に於いて、図4及び図5に示されたブロックに対応するブロックには図4及び図5に於いて付された符号と同一の符号が付されている。
この第五の実施例に於いては、図10に示されている如く外乱補償目標駆動トルクTvmtが車輪駆動トルクで見たエンジン14の目標制御トルクTvmetとオルタネータ36の目標制御トルクTvmatとに分配され、コンプレッサ34の目標制御トルクTvmctには分配されない。従って図4に示されたトルク変換ブロック190、加算器200、コンプレッサの必要消費トルク演算ブロック170は設けられていない。また加算器160に於いては、エンジン14の目標制御トルクTetとオルタネータ36の必要消費トルクTaeqとが加算されることによりエンジン14の最終目標出力トルクTettが演算される。
また図11に示された分配演算ブロック430には、加算ブロック236、第二のガード処理ブロック238、第二のローパスフィルタ処理ブロック240、加算器242は設けられていない。また加算器244に於いては、外乱補償目標駆動トルクTvmtよりエンジン14の目標制御トルクTvmetのみが減算されることにより車輪駆動トルクで見たオルタネータ36の目標制御トルクTvmatが演算される。
[第六の実施例]
図12は第三の実施例の修正例として構成された本発明による車両の駆動トルク制御装置の第六の実施例に於ける信号処理を示すブロック図、図13は図12に示された分配演算ブロックに於ける信号処理を示すブロック図である。尚図12及び図13に於いて、図6及び図7に示されたブロックに対応するブロックには図6及び図7に於いて付された符号と同一の符号が付されている。
この第六の実施例に於いては、図12に示されている如く車両の目標駆動トルクTvt及び外乱補償目標駆動トルクTvmtが車輪駆動トルクで見たエンジン14の目標制御トルクTvetとオルタネータ36の目標制御トルクTvatとに分配され、コンプレッサ34の目標制御トルクTvctには分配されない。従って図6に示された加算器290、トルク変換ブロック190、加算器200、コンプレッサの必要消費トルク演算ブロック170は設けられていない。また加算器160に於いては、エンジン14の目標制御トルクTetとオルタネータ36の必要消費トルクTaeqとが加算されることによりエンジン14の最終目標出力トルクTettが演算される。
また図12に示された第一の分配演算ブロック460には、加算ブロック266、第二のガード処理ブロック268、第二のローパスフィルタ処理ブロック270、加算器272は設けられていない。また加算器274に於いては、基本目標駆動トルクTvbtよりエンジン14の目標制御トルクTvbetのみが減算されることにより車輪駆動トルクで見たオルタネータ36の目標制御トルクTvbatが演算される。
尚上述の第二及び第三の実施例の場合と同様に、外乱補償目標駆動トルクTvmtは第二の分配演算ブロック430によって車輪駆動トルクで見たエンジン14の目標制御トルクTvmet、コンプレッサ34の目標制御トルクTvmct、オルタネータ36の目標制御トルクTvmatに分配される。
以上の説明より解る如く、第四乃至第六の実施例によれば、エンジン14の出力トルク及びオルタネータ36の消費トルクの制御により、車両の目標駆動トルクを効果的に車両の目標駆動トルクTvtに制御することができる。また目標制御トルクによりオルタネータ36の消費トルクが大きく変化され、オルタネータ36の作動状況が大きく変化することに起因してそれらの機能が大きく阻害される虞れを確実に低減することができる。
また第四乃至第六の実施例によれば、目標駆動トルクはコンプレッサ34には分配されないので、第一乃至第三の実施例の場合に比してトルクの制御を簡便に実行することができると共に、目標制御トルクに起因してコンプレッサ34の機能が阻害されることを確実に回避することができる。
またトルク増減制御についてのオルタネータ36の応答性はコンプレッサ34の応答性よりも高い。従って第四乃至第六の実施例によれば、目標駆動トルクがコンプレッサ34には分配されるがオルタネータ36には分配されない場合に比して、高応答にて車両の目標駆動トルクを車両の目標駆動トルクTvtに制御することができる。
尚以上の説明より解る如く、上述の各実施例によれば、目標駆動トルクの低周波成分がまずエンジン14に分配され、目標駆動トルクの残余の成分が補機に分配され、これによりトルク増減制御について応答性が高い補機よりも応答性が低いエンジン14を優先して目標駆動トルクが分配される。従って目標駆動トルクの高周波成分がまず補機に分配され、目標駆動トルクの残余の成分がエンジン14に分配される場合に比して、車両の駆動力制御に於ける補機のトルク増減負荷を低減し、これにより補機の機能が阻害される程度を確実に低減することができる。
また上述の各実施例によれば、外乱補償目標駆動トルクTvmtはコーナリングドラッグが車両に与える影響を抑制するに必要な車輪駆動トルクと車両のピッチングを抑制するピッチ制振制御に必要な車輪駆動トルクとの和として演算される。従ってコーナリングドラッグが車両に与える影響を効果的に抑制することができると共に、車両のピッチングを効果的に抑制することができる。
また上述の各実施例によれば、車両の目標駆動トルクTvtがエンジン14のトルク制御により達成可能と推定されるトルク変動範囲を越えているときには、エンジン14のトルク制御により達成可能と推定されるトルク変動範囲内の値になるよう、車両の目標駆動トルクTvtについて第一のガード処理が行われる。そしてガード処理後の車両の目標駆動トルクTvtが第一のローパスフィルタにて処理され、これにより車輪駆動トルクで見たエンジン14の目標制御トルクTvetが演算される。
従って車両の目標駆動トルクTvtがエンジン14のトルク制御により達成可能と推定されるトルク変動範囲を越えている場合にも、エンジン14の目標制御トルクTvetがエンジン14のトルク制御により達成可能なトルク変動範囲を越える値になる虞れを確実に低減することができる。
また上述の各実施例によれば、第一のガード処理に於いては、エンジン14のトルク制御により達成可能と推定されるトルク変動範囲はエンジン回転数Neに基づいて可変設定される。従って例えばエンジン回転数Neに関係なく一定のトルク変動範囲に基づいて第一のガード処理が行われる場合に比して、エンジン14の目標制御トルクTvetがエンジン14のトルク制御により達成可能なトルク変動範囲を越える値になる虞れを効果的に低減することができると共に、エンジン14の目標制御トルクTvetが不必要に過剰にガード処理される虞れを確実に低減することができる。
また上述の第一乃至第三の実施例によれば、補正後の車両の目標駆動トルクTvtaがコンプレッサ34のトルク制御により達成可能と推定されるトルク変動範囲を越えているときには、コンプレッサ34のトルク制御により達成可能と推定されるトルク変動範囲内の値になるよう、補正後の車両の目標駆動トルクTvtaについて第二のガード処理が行われる。そして第二のガード処理後の車両の目標駆動トルクTvtaが第二のローパスフィルタにて処理され、これにより車輪駆動トルクで見たコンプレッサ34の目標制御トルクTvctが演算される。
従って補正後の車両の目標駆動トルクTvtaがコンプレッサ34のトルク制御により達成可能と推定されるトルク変動範囲を越えている場合にも、コンプレッサ34の目標制御トルクTvctがコンプレッサ34のトルク制御により達成可能なトルク変動範囲を越える値になる虞れを確実に低減することができる。
また上述の第一乃至第三の実施例によれば、第二のガード処理に於いては、コンプレッサ34のトルク制御により達成可能と推定されるトルク変動範囲は外気温の如きコンプレッサ34の作動状況に基づいて可変設定される。従って例えばコンプレッサ34の作動状況に関係なく一定のトルク変動範囲に基づいて第二のガード処理が行われる場合に比して、コンプレッサ34の目標制御トルクTvctがコンプレッサ34のトルク制御により達成可能なトルク変動範囲を越える値になる虞れを効果的に低減することができると共に、コンプレッサ34の目標制御トルクTvctが不必要に過剰にガード処理される虞れを確実に低減することができる。
尚第一又は第二のガード処理に於いてトルク制御により達成可能と推定されるトルク変動範囲は、エンジン回転数Neやコンプレッサ34の作動状況に関係なく一定のトルク変動範囲に設定されてもよい。
また上述の各実施例に於いては、ガード処理後にローパスフィルタ処理が行われるようになっているが、例えば第一の実施例の修正例として図14に示されている如く、上述の各実施例に於いて第一のローパスフィルタ処理後に第一のガード処理が行われるよう修正されてもよい。同様に第一乃至第三の実施例に於いて第二のローパスフィルタ処理後に第二のガード処理が行われるよう修正されてもよい。
また上述の各実施例によれば、第一のローパスフィルタのカットオフ周波数fc1はトルク増減制御についてのエンジン14の応答性に対応する値になるよう、エンジン回転数Neに応じて可変設定される。従ってエンジン回転数Neの変化に伴ってトルク増減制御についてのエンジン14の応答性が変化しても、エンジン14の応答性の変化に応じて第一のローパスフィルタ処理を適正に行うことができる。
同様に上述の各実施例によれば、第二のローパスフィルタのカットオフ周波数fc2はトルク増減制御についてのコンプレッサ34の応答性に対応する値になるよう、コンプレッサ34の作動状況に応じて可変設定される。従ってコンプレッサ34の吐出容量等の作動状況の変化に伴ってトルク増減制御についてのコンプレッサ34の応答性が変化しても、コンプレッサ34の応答性の変化に応じて第二のローパスフィルタ処理を適正に行うことができる。
尚第一のローパスフィルタのカットオフ周波数fc1はエンジン回転数Neに関係なく一定の値に設定されてもよく、第二のローパスフィルタのカットオフ周波数fc2もコンプレッサ34の作動状況に関係なく一定の値に設定されてもよい。
以上に於いては本発明を特定の実施例について詳細に説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施例が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
例えば上述の各実施例に於いては、車両の目標駆動トルクTvt等は車輪駆動トルクとして演算され、車輪駆動トルクよりエンジンの出力トルクで見た値へのトルク変換によりエンジン14の目標制御トルクTvet等がエンジンの出力トルクで見たトルクとして演算されるようになっている。しかし車両の目標駆動トルクTvt等もエンジンの出力トルクで見たトルクとして演算されることにより、エンジン14の目標制御トルクTvet等についてのトルク変換が不要であるよう修正されてもよい。
また上述の各実施例に於いては、分配演算ブロック130等により分配演算されたエンジン14の目標制御トルクTvet等がトルク変換ブロック150等によりエンジンの出力トルクで見た目標出力トルクTet等に変換される。しかしエンジンの出力トルクで見た目標出力トルクTet等への変換は加算器160、200、220による加減演算後に行われるよう修正されてもよい。その場合にはコンプレッサ34の必要消費トルクTcreqやオルタネータ36の必要消費トルクTaeqは、それぞれコンプレッサの必要消費トルク演算ブロック170及びオルタネータの必要消費トルク演算ブロック180により車輪駆動トルクとして演算される。
また上述の各実施例に於いては、目標駆動トルクの低周波成分がまずエンジン14に分配され、目標駆動トルクの残余の成分が補機に分配され、これによりトルク増減制御について応答性が高い補機よりも応答性が低いエンジン14を優先して目標駆動トルクが分配される。しかし目標駆動トルクの高周波成分がまず補機に分配され、目標駆動トルクの残余の成分がエンジン14に分配され、これによりトルク増減制御について応答性が低いエンジン14よりも応答性が高い補機を優先して目標駆動トルクが分配されるよう修正されてもよい。
また上述の各実施例に於いては、外乱補償目標駆動トルクTvmtはコーナリングドラッグが車両に与える影響を抑制するに必要な車輪駆動トルクと車両のピッチングを抑制するピッチ制振制御に必要な車輪駆動トルクとの和として演算される。しかし外乱補償目標駆動トルクTvmtは車両の外乱に対処して車両を安定的に走行させるための任意の目標駆動トルクであってよく、例えばコーナリングドラッグが車両に与える影響を抑制するに必要な車輪駆動トルク又は車両のピッチングを抑制するピッチ制振制御に必要な車輪駆動トルクであってもよい。
また上述の第四乃至第六実施例に於いては、第一乃至第三の実施例との比較に於いてコンプレッサ34への目標駆動トルクの分配が省略されているが、オルタネータ36への目標駆動トルクの分配が省略されてもよい。また補機はコンプレッサ34及びオルタネータ36に限定されるものではなく、エンジンにより駆動される補機であり且つトルク増減制御についての応答性がエンジンよりも高い補機である限り、補機としてコンプレッサ34及びオルタネータ36以外の補機が採用されてもよい。
また第一乃至第三の実施例に於いては、目標駆動トルクが常時コンプレッサ34へ分配されるようになっているが、例えばコンプレッサ34の作動状況に基づいてコンプレッサ34への目標駆動トルクの分配の適否が判定され、判定が適であるときには第一乃至第三の実施例の如く目標駆動トルクがコンプレッサ34にも分配されるが、判定が否であるときには第四乃至第六の実施例の如く目標駆動トルクがコンプレッサ34には分配されないよう修正されてもよい。
また一般に、外乱補償目標駆動トルクTvmtは基本目標駆動トルクTvbtよりも小さいので、第二及び第三の実施例に於いて第一及び第二のガード処理が省略されてもよく、第五及び第六の実施例に於いて第二のガード処理が省略されてもよい。