本発明は、モータを構成するステータコイルの形状検査において、コイルエンドの部分の形状の良否判定を行うに際し、光切断法を用いるとともに、判定基準(比較の対象)として、良品形状を有する実際のワークではなく、所定の形状等を有する判定基準用のワークであるマスターワークを用いるものである。そして、このマスターワークに所定の形状部分を含ませることで、マスターワークを光切断法による形状検査における計測器の配置等についての治具として用いようとするものである。以下、本発明の実施の形態を説明する。
図1および図2に示すように、本実施形態に係るステータコイルの形状検査装置(以下単に「形状検査装置」という。)1は、ステータコイル10を検査対象物(ワーク)とする。ステータコイル10は、ステータコア10aとこれに巻き付けられるコイルによって形成されるコイルエンド10bとを有する。ステータコイル10は、全体として略円環形状を有する。本実施形態のステータコイル10は、自動車等に搭載される車両駆動用の三相モータを構成するものである。
ステータコア10aは、円環状の外形を有するとともに、その内側に複数のティース(内歯)を有する。このステータコア10aに対し、コイルが、隣り合うティース間に形成されるスロットに挿入され、ティースに巻き付けられる。本実施形態のステータコイル10は、前記のとおり三相モータを構成するものであるため、U相コイル、V相コイル、およびW相コイルが備えられ、これら各相のコイルが所定のスロットに挿入されてティースに巻き付けられる。このようにして構成されるステータコイル10においては、ステータコア10aの上下(表裏)に、コイル部分であるコイルエンド10bが形成される(図2参照)。そして、ステータコイル10において、そのコイルエンド10bの部分がケース(図示略)によって覆われることにより、モータが構成される。
形状検査装置1は、前記のような構成を備えるモータにおいて、ステータコイル10のコイルエンド10bの部分とそれを覆うケースとの間の絶縁を確保する等の観点から、ステータコイル10について、そのコイルエンド10bの部分の形状の検査を行う。すなわち、形状検査装置1は、所定の形状を有するケースに対するコイルエンド10bの形状(外形)が、ケースとコイルエンド10bとの間の絶縁に必要な間隔が確保されるような形状であるか否かの判定(良否判定)を行う。
形状検査装置1は、ステータコイル10のコイルエンド10bの形状の良否判定に際し、対象物体にスリット光11を照射することで得られる反射光の撮像画像である二次元画像を取得する光切断法を用いる。したがって、形状検査装置1は、光切断法を行うための装置構成を備える。
すなわち、図1に示すように、本実施形態に係る形状検査装置1は、照射手段としてのレーザ投光部2と、撮像手段としてのカメラ3と、演算手段としての演算制御部5を含む制御装置4とを備える。
レーザ投光部2は、検査対象物(ワーク)であるステータコイル10をスリット光11の照射対象物体としており、ステータコイル10に対してスリット光11を照射する。レーザ投光部2は、例えば赤外半導体レーザ等のレーザ光の光源であるレーザ発信器やシリンドリカルレンズ(円筒レンズ)等を有するレーザ出力ユニットとして構成される。
すなわち、レーザ投光部2においては、レーザ発信器から発射されたレーザ光が、シリンドリカルレンズ(図示略)を透過することでスリット光(レーザシート)11に変換される。そして、レーザ投光部2から投光されるスリット光11が、ステータコイル10に照射される。レーザ投光部2からのスリット光11が照射されたステータコイル10の表面には、その断面形状に応じて光切断線(反射光の輝線)12が形成される。
カメラ3は、レーザ投光部2によってステータコイル10にスリット光11が照射されることで得られる反射光を撮像する。つまり、カメラ3は、レーザ投光部2によって照射されるスリット光11によりステータコイル10の表面に形成される光切断線12を撮像する。
カメラ3は、光切断線12、つまりステータコイル10の表面にて反射するレーザ光(反射光)を受光する受光センサであり、CCDイメージセンサやCMOSイメージセンサ等の撮像素子により構成される。そして、カメラ3は、ステータコイル10の表面に形成される光切断線12を受光して撮像することにより、光切断線12についての画像(以下「スリット画像」ともいう。)を、撮像素子の撮像面において二次元画像13(図3参照)として取得する。カメラ3は、撮像面に対する光切断線12の結像に際してステータコイル10の表面からの反射光を受ける受光レンズ(図示略)を有する。
また、カメラ3は、レーザ投光部2からのスリット光11の照射方向(投光軸方向)に対して光軸(受光軸)が所定角度ずらされた状態で配置される。カメラ3により撮像された光切断線12についての画像データは、制御装置4に送られる。
制御装置4に備えられる演算制御部5は、カメラ3によって撮像された光切断線12を含む二次元画像13から光切断線12上の各点の三次元座標を計測する。すなわち、演算制御部5は、カメラ3によって撮像された二次元画像13の画像データに基づいて、レーザ投光部2の位置や、受光レンズのレンズ中心の位置や、ステータコイル10の表面からの反射光のカメラ3に対する入射角度等から、三角測量の原理により、ステータコイル10の表面における光切断線12上の各点(照射点)についての三次元座標を計測する。
つまり、この光切断線12上の各点の三次元座標が、演算制御部5による計測データ(コイルエンド10bの断面形状に対応する位置データ)となる。一つの光切断線12についての計測データにより、コイルエンド10bの輪郭線が計測される。
そして、演算制御部5は、ステータコイル10にスリット光11を照射することで得られる反射光の撮像画像である二次元画像13を取得し、この二次元画像13に基づいて、コイルエンド10bの形状の良否判定(以下「形状良否判定」ともいう。)を行う。すなわち、演算制御部5は、後述するように形状良否判定に際して予め設定される判定基準としてのデータ(基準データ)を、検査対象物であるステータコイル10についての計測データの比較対象とし、これらの比較によって形状良否判定を行う。かかる形状良否判定により、ステータコイル10について良品であるか不良品であるかの判定が行われる。
ステータコイル10に照射されるスリット光11の位置は、走査(スキャニング)され所定間隔ごとに更新される。これにより、ステータコイル10に対するスリット光11の各走査位置(照射位置)に対応する光切断線12を含む二次元画像13が得られる。つまり、演算制御部5は、ステータコイル10に対するスリット光11の各走査位置(照射位置)における計測データを連続的に求める。
ステータコイル10に対するスリット光11の走査に際し、本実施形態の形状検査装置1は、次のような構成を備える。図1に示すように、本実施形態の形状検査装置1においては、レーザ投光部2とカメラ3とが、互いに所定の位置関係となる状態で、ケース6内に収容される。すなわち、レーザ投光部2およびカメラ3は、ケース6内に収容されることで、一体的なユニットである光切断スキャナ7として構成される。
図2に示すように、本実施形態の形状検査装置1は、四つの光切断スキャナ7(7a、7b、7c、7d)を備える。これら四つの光切断スキャナ7は、ステータコイル10においてステータコア10aを介して上下(図2における上下、以下同じ。)に形成されるコイルエンド10bそれぞれに対して二つずつ設けられる。また、上下それぞれのコイルエンド10bに対して設けられる二つの光切断スキャナ7は、略円環形状となるコイルエンド10bに対して、一方の光切断スキャナ7が外側から、他方の光切断スキャナ7が内側からスリット光11を照射する。
具体的には、本実施形態の形状検査装置1は、図2に示すように、光切断スキャナ7として、四つの光切断スキャナ7a、7b、7c、7dを備える。光切断スキャナ7aは、上側のコイルエンド10bに対して外側斜め上方からスリット光11を照射する。光切断スキャナ7bは、同じく上側のコイルエンド10bに対して内側斜め上方からスリット光11を照射する。光切断スキャナ7cは、下側のコイルエンド10bに対して外側斜め下方からスリット光11を照射する。光切断スキャナ7dは、同じく下側のコイルエンド10bに対して内側斜め下方からスリット光11を照射する。
これら四つの光切断スキャナ7によって照射されるスリット光11は、全体として略円環形状を有するステータコイル10に対して、そのステータコイル10の円周方向が走査方向とされる。本実施形態では、ステータコイル10と光切断スキャナ7との関係において、ステータコイル10がその略円環形状における中心軸方向を回転軸方向として回転することにより、スリット光11がステータコイル10に対して走査される。
ステータコイル10に対してスリット光11が照射される部分は、少なくとも形状良否判定が行われるコイルエンド10bの部分を含む部分となる。したがって、四つの光切断スキャナ7によってステータコイル10に対してスリット光11が照射された状態で、ステータコイル10が一回転することにより、少なくともコイルエンド10bの部分の全体に対して順にスリット光11が照射されることとなる。
ステータコイル10および光切断スキャナ7は、支持装置20に対して支持される。支持装置20は、平板状に構成される支持台21を備える。支持台21は、その一側(下側)の板面に対して設けられる柱状の脚部22により、床面等に対して略平行となるように所定の高さ位置に支持される。ステータコイル10は、支持台21に対して回転可能に支持される。ステータコイル10は、支持台21において、例えばモータ等を駆動源とする回転駆動機構によって、前記のとおり中心軸方向を回転軸方向として回転可能に支持される(矢印A参照)。
ステータコイル10は、支持台21に対して、上下のコイルエンド10bが、支持台21の上側および下側にてそれぞれ露出する状態で支持される。つまり、ステータコイル10は、支持台21を上下方向に貫通した状態で、支持台21に対して支持される。そして、支持台21の上側に露出するコイルエンド10bに対して、支持台21の上側に配置される光切断スキャナ7a、7b(以下「上側光切断スキャナ7a、7b」ともいう。)が設けられ、支持台21の下側に露出するコイルエンド10bに対して、支持台21の下側に配置される光切断スキャナ7c、7d(以下「下側光切断スキャナ7c、7d」ともいう。)が設けられる。
上側光切断スキャナ7a、7bは、支持装置20が備える上支持ステー24に支持される。上支持ステー24は、支持台21の上面側に設けられる。上支持ステー24は、例えば図2に示すように、支持台21の上面に対して立設される二本の柱部24aと、これらを各柱部24aの上端部にて連結する梁部24bとを有し、全体として略門状に構成される。この上支持ステー24に対して、上側光切断スキャナ7a、7bが、スリット光11の照射方向に応じて、支持台21に支持されるステータコイル10に対して所定の姿勢となるように、適宜の方法で支持される。
下側光切断スキャナ7c、7dは、支持台21の下側において、上側光切断スキャナ7a、7bの場合と同様の構成によって配置支持される。すなわち、下側光切断スキャナ7c、7dは、支持台21の下側に設けられ二本の柱部25aと梁部25bとを有し全体として略門状に構成される下支持ステー25に、ステータコイル10に対して所定の姿勢となるように支持される。
このように、ステータコイル10および四つの光切断スキャナ7を支持する支持装置20により、各光切断スキャナ7から照射されるスリット光11のステータコイル10に対する走査が行われる。すなわち、支持装置20において所定の姿勢で支持される各光切断スキャナ7からスリット光11が照射されている状態で、支持台21に支持されるステータコイル10が回転させられることにより、スリット光11のステータコイル10に対する走査位置(照射位置)が、ステータコイル10の円周方向に連続的に変化させられる。
これにより、ステータコイル10に対して照射され円周方向に走査されながら所定間隔ごとに更新されるスリット光11の各走査位置についての二次元画像13が取得される。つまり、ステータコイル10の各部の断面形状を反映した光切断線12を含む二次元画像13が、所定の回数(例えば二千回程度)で更新されるスリット光11の各走査位置にて取得される。
なお、ステータコイル10に対するスリット光11の走査のための構成は、本実施形態に限定されるものではない。スリット光11の走査に際しては、例えば、回動可能に設けられスリット光11を反射させるミラーを備える構成が用いられてもよい。かかる構成においては、ミラーによるスリット光11の反射方向が、ミラーの角度によって偏向されることで、スリット光11がステータコイル10に対して走査されることとなる。
また、本実施形態では、ステータコイル10に対するスリット光11の走査のための構成として、ステータコイル10側が移動(回転)する構成が採用されているが、これに限定されるものではない。つまり、ステータコイル10に照射されるスリット光11が、ステータコイル10に対して相対的に走査方向に移動するように、ステータコイル10および光切断スキャナ7の少なくともいずれかが移動可能に設けられる構成であればよい。また、本実施形態では四つ備えられる光切断スキャナ7の台数についても、特に限定されるものではない。つまり、形状検査装置1においては、一台以上の光切断スキャナ7が備えられればよい。
制御装置4は、ステータコイル10の三次元形状を計測する演算制御部5に加え、入力部14と、表示部17とを備える。
演算制御部5は、形状検査装置1の一連の動作を制御する。演算制御部5は、プログラム等を格納する格納部、プログラム等を展開する展開部、プログラム等に従って所定の演算を行う演算部、演算部による演算結果等を保管する保管部等を有する。
演算制御部5としては、具体的には、CPU、ROM、RAM、HDD等がバスで接続される構成や、ワンチップのLSI等からなる構成が用いられる。演算制御部5としては、専用品のほか、市販のパーソナルコンピュータやワークステーション等に上記プログラム等が格納されたものが用いられる。
入力部14は、演算制御部5に接続され、演算制御部5に形状検査装置1の動作に係る種々の情報・指示等を入力する。入力部14としては、専用品のほか、市販のキーボード、マウス、ポインティングデバイス、ボタン、スイッチ等が用いられる。
表示部17は、演算制御部5に接続され、形状検査装置1の動作状況、入力部14から演算制御部5への入力内容、形状検査装置1による検査結果等を表示する。表示部17による表示内容には、光切断線12についての画像であるスリット画像15が含まれる。表示部17としては、専用品のほか、市販のモニターや液晶ディスプレイ等が用いられる。
以上のように、本実施形態の形状検査装置1は、ステータコイル10を検査対象物とし、光切断法を用い、ステータコイル10に対するスリット光11の走査位置を連続的に変化させることでステータコイル10の各部について取得した二次元画像13に基づき、形状良否判定を行う。
以上のような構成を備える形状検査装置1が用いられて行われる本実施形態に係るステータコイルの形状検査方法(以下単に「形状検査方法」という。)について説明する。本実施形態の形状検査方法は、ステータコイル10を検査対象物とし、光切断法を用い、ステータコイル10に対するスリット光11の走査位置を連続的に変化させることでステータコイル10の各部について取得した二次元画像13に基づき、形状良否判定を行うものである。
そして、本実施形態の形状検査方法では、形状良否判定における判定基準となる基準データの取得・作成のため、実際のワークとしてのステータコイル10とは異なるマスターワーク30(図4参照)が用いられる。つまり、マスターワーク30が用いられて取得・作成された基準データと、検査対象物としてのステータコイル10について取得された計測データとが比較されることにより、そのステータコイル10についての形状良否判定が行われる。
図4に示すように、本実施形態におけるマスターワーク30は、全体として、実際のワークであるステータコイル10の外形形状に対する模式的な外形形状を有する。したがって、マスターワーク30は、ステータコイル10のステータコア10aに対応する部分であるステータコア部31と、このステータコア部31に対して上下方向(略円環形状の中心軸方向)の両側に形成される、コイルエンド10bに対応する部分であるコイルエンド部32とを有する。
なお、以下の説明に用いる図4等のマスターワーク30を示す図面においては、マスターワーク30においてステータコア部31の上下両側にそれぞれ形成されるコイルエンド部32のうち、一側(上側)のコイルエンド部32についてのみ詳細に図示する。ただし、上下のコイルエンド部32は、ステータコア部31に対して同様の形状(例えばステータコア部31を介して上下に対称な形状)を有する。
また、ステータコア部31の上側のコイルエンド部32は、上側光切断スキャナ7a、7bに関係し、下側のコイルエンド部32は、下側光切断スキャナ7c、7dに関係する。そして、各光切断スキャナ7のコイルエンド部32に対する関係性も同様である。このため、以下では、一側(上側)に配置される光切断スキャナ7(上側光切断スキャナ7a、7b)を用いて説明し、上下で同じ側に配置される光切断スキャナ7のうちの一方、あるいは他側(下側)に配置される光切断スキャナ7(下側光切断スキャナ7c、7d)については、説明を適宜省略する。
ステータコア部31は、略円筒状の外周面を形成する外周面部31aと、外周面部31aの上下に位置する円環状の平面を形成する端面部31bとから形成される円環状の外形を有する。ステータコア部31は、全体として略円環形状を有するステータコイル10における大径部分である。ステータコア部31における上下の各端面部31bに、コイルエンド部32が形成される。
ステータコア部31においては、外周面部31aに、複数のボルトボス部が設けられる(図17、ボルトボス部31c参照)。ボルトボス部は、ステータコイル10においてステータコア10aに設けられるボルトボス部(図示略)に対応する部分である。ボルトボス部は、ケース取付け用のボルト孔を有する。
また、マスターワーク30が有するボルトボス部は、マスターワーク30がコイルエンド10bの部分の形状の検査が行われるステータコイル10と同様にセットされる際に用いられる。つまり、マスターワーク30は、外周面部31aに設けられるボルトボス部を用いて、回転駆動機構を有する支持台21に対してステータコイル10と同様の位置および姿勢に位置決めされた状態でセットされる。また、マスターワーク30が有するボルトボス部は、マスターワーク30について、例えば二次元画像13における計測点の座標の位置基準等としても用いられる。
ステータコア部31の上下に形成されるコイルエンド部32は、ステータコイル10のコイルエンド10bの部分を模擬する部分である。コイルエンド部32は、ステータコア部31に対して、ステータコア部31が有する上下の端面部31bからの略円環状の突出部分として形成される。各コイルエンド部32は、その一部に、ステータコイル10のコイルエンド10bの外形形状について予め定められる最大外形形状を有する形状部分である限界形状部55を含む。
したがって、マスターワーク30においては、各コイルエンド部32が有する限界形状部55が、コイルエンド10bの部分の外形形状について良品として許容される最大外形形状を形成する形状部分となる。ここで、コイルエンド部32が有する良品として許容される最大外形形状は、ステータコイル10に取り付けられるケースとの関係における絶縁が十分に確保されるように設定される、コイルエンド10bの部分の限界の外形形状に対応する。つまり、限界形状部55は、その断面形状により、コイルエンド10bの部分の限界の外形形状を規定する。
コイルエンド部32の外形形状は、ステータコイル10のコイルエンド10bの外形形状に比して単純である。概略的には、コイルエンド部32は、略円環形状の略平面部である端面部32aと、この端面部32aの内側(内周側)および外側(外周側)それぞれに形成される周面部32bとから、全体として略円環状の外形形状となるように形成される。
図4に示すように、限界形状部55は、周方向に複数の異なる高さの部分を有する。ここで、限界形状部55の高さは、例えばステータコア部31の端面部31bを基準とする上下方向の寸法として規定される。
具体的には、限界形状部55は、周方向に高さの異なる三種類の形状部分として、高さの高い順に、第一形状部55a、第二形状部55b、および第三形状部55cを有する。これら第一形状部55a、第二形状部55b、および第三形状部55cの各部における周方向の断面形状(中心軸方向および径方向に平行となる断面の形状)は、それぞれの部分において同一となる。
なお、本実施形態では、限界形状部55を構成する第一形状部55a、第二形状部55b、および第三形状部55cは、コイルエンド部32において一箇所にまとまって(連続する部分として)存在するが、コイルエンド部32の周方向に別れて存在してもよい。つまり、限界形状部55を構成する各形状部は、間にコイルエンド部32を形成する他の部分を介して存在してもよい。
本実施形態のマスターワーク30は、その外形形状が、前記のとおり限界形状部55について設定される最大外形形状や、ステータコイル10のステータコア10aの外形形状等に基づいて作成されるCAD図面等の設計図面を基準として形成される。マスターワーク30を構成する材料としては、例えば、アルミニウムやセラミックス等が用いられる。ただし、加工のしやすさやコスト面での有利さ等から、アルミニウムが好適に用いられる。
また、マスターワーク30には、二次元画像13の取得に適した表面処理が施されている。二次元画像13の取得に適した表面処理とは、光切断法による光学計測に適した表面処理である。つまり、マスターワーク30の表面が、スリット光11が照射されることで形成される光切断線12の抽出に適した状態となるような表面処理である。
マスターワーク30の表面に形成される光切断線12の抽出は、二次元画像13における光切断線12の部分(スリット画像15)と背景部分との輝度差が大きくなるほど容易となる。したがって、二次元画像13の取得に適した表面処理は、マスターワーク30表面の反射率が、二次元画像13における光切断線12の部分と背景部分との輝度差が相対的に大きくなるような値となるような表面処理といえる。
マスターワーク30に施される表面処理としては、例えばアルマイト処理やショットブラスト等の適宜の表面処理が用いられる。なお、マスターワーク30に施される表面処理は、少なくとも形状検査の対象部分であるコイルエンド10bに対応するコイルエンド部32の部分に施されていればよい。
以上のように、本実施形態の形状検査方法において用いられるマスターワーク30は、二次元画像13の取得に適した表面処理が施され、ステータコア10aに対するコイルエンド10bの形状に倣い所定の基準面となる端面部31bに対して略円環状に突出する部分として形成されるコイルエンド部32を有する形状検査用治具である。そして、本実施形態のマスターワーク30は、コイルエンド10bの部分の外形形状について良品として許容される最大外形形状を形成する形状部分である第五の形状部分として、限界形状部55を有する。
このようなマスターワーク30が用いられることにより、形状良否判定における判定基準となる基準データが取得・作成される。すなわち、本実施形態の形状検査方法においては、マスターワーク30が用いられ、対象物体をマスターワーク30とする光切断法により取得された、限界形状部55の表面に形成される光切断線12を捉えた二次元画像13における計測点の集合である基準計測点群に基づき、形状良否判定における判定基準となる基準データが作成される。
なお、以下では、説明の便宜上、本実施形態の形状検査装置1が備える四つの光切断スキャナ7のうち、一つの光切断スキャナ7(例えば上側のコイルエンド10bに対して外側斜め上方からスリット光11を照射する光切断スキャナ7a)によって取得される計測データである二次元画像13を用いて説明する。ただし、以下に説明する形状検査方法は、形状検査装置1が備える四つの各光切断スキャナ7によって取得される二次元画像13それぞれについて同様にして行われる。
図3は、スリット光11のある走査位置における基準データの一例を示す。つまり、図3は、スリット光11がマスターワーク30の限界形状部55に対してある走査位置にある状態で撮像された二次元画像13の一例である。したがって、図3に示す二次元画像13においては、マスターワーク30における限界形状部55の表面に形成された光切断線12についての画像部分であるスリット画像15が存在する。
二次元画像13におけるスリット画像15は、マスターワーク30(の限界形状部55)の表面に形成された光切断線12、つまりスリット光11の反射光についての計測点の集合である。ここで、計測点は、二次元画像13における画素に対応する。また、本実施形態では、図3に示すように、二次元画像13において、横方向(図3における左右方向)がX軸方向とされ、これに直交する縦方向(図3における上下方向)がZ軸方向とされる。つまり、二次元画像13上に存在する計測点は、X−Z平面におけるX座標およびZ座標により二次元画像13における位置が特定される。
また、スリット光11の照射により形成される光切断線12についての撮像画像は、線状の画像となるが、二次元画像13において有限の幅(線の太さ)を有する。つまり、光切断線12についての撮像画像の幅は、二次元画像13における一つの画素(ピクセル)の長さよりも長く、複数の画素にわたることとなる。そこで、例えば二次元画像13におけるZ軸方向(縦方向)の輝度分布(撮像素子の出力レベルの分布)に基づいて、スリット画像中心線が抽出される。
すなわち、光切断線12についての撮像画像においては、Z軸方向についての輝度分布から、そのZ軸方向についての中心位置に対応する画素(中心点)が所定の方法によって求められ、この中心点の集合が、スリット画像中心線となる。つまり、光切断線12についての撮像画像においては、各X座標についてZ軸方向の中心点が求められ、この中心点が二次元画像13における計測点となる。したがって、二次元画像13における計測点は、各画素に対応する各X座標について一点存在することとなる。そしてこの計測点の集合、つまりスリット画像中心線が、スリット画像15に対応する。このことは、検査対象物としてのステータコイル10について取得される二次元画像13についても同様である。そして、マスターワーク30について得られる計測点の集合(スリット画像15)が、基準計測点群15aとなる。
このように、マスターワーク30が用いられて取得される基準データは、マスターワーク30が有する限界形状部55について得られるスリット画像15に基づくものである。このため、基準データは、二次元画像13において、ステータコイル10のコイルエンド10bの部分の外形形状についての許容範囲を規定する境界を形成するものとなる。
また、マスターワーク30が用いられて取得される基準データとしては、マスターワーク30において限界形状部55が高さの異なる部分として有する第一形状部55a、第二形状部55b、および第三形状部55cのそれぞれの部分について、スリット光11の走査位置によらずに共通のものとすることができる。つまり、前記のとおり第一形状部55a、第二形状部55b、および第三形状部55cは、各部における断面形状が同一であるため、これら各部について用いられる基準データは同一の基準データで対応することができる。このように、基準データが、断面形状が同一の部分についてスリット光11の走査位置によらずに共用されることで、基準データとしてのデータ量の大幅低減が可能となる。
このような基準データの作成が、本実施形態の形状検査装置1において、演算制御部5により行われる(図1参照)。すなわち、演算制御部5は、対象物体をマスターワーク30とする光切断法により取得した、限界形状部55の表面に形成される光切断線12を捉えた二次元画像13における計測点の集合である基準計測点群15aに基づき、形状良否判定における判定基準となる基準データを作成する。具体的には、演算制御部5は、その格納部に格納された所定のプログラムに従って所定の演算等を行うことにより、基準データを作成する。作成された基準データは、演算制御部5における格納部等に予め設定され記憶される。
このような基準データが用いられて、ステータコイル10について取得された計測データとの比較により、形状良否判定が行われる。すなわち、対象物体をステータコイル10とする光切断法により取得された、コイルエンド10bの部分の表面に形成される光切断線12を捉えた二次元画像13における計測点である実計測点が、基準データと比較されることにより、形状良否判定が行われる。
形状良否判定では、ステータコイル10について取得された各実計測点について、基準データとの比較が行われる。具体的には、二次元画像13において、各実計測点が、基準データの外側に位置するか否かの判定が行われる。ここで、基準データについての「外側」とは、二次元画像13において、限界形状部55に対応する領域に対する外側を意味する。つまり、基準データは、スリット光11の各走査位置における限界形状部55の断面形状に対応するものである。このため、二次元画像13においては、基準データを介して、限界形状部55の部分に対応する領域である内側の領域と、この内側の領域に対する外側の領域とが区画される。そこで、このように二次元画像13において基準データによって区画される内側の領域に対する外側が、基準データの外側となる。
実計測点が基準データの外側に位置するか否かの判定は、例えば二次元画像13におけるZ座標が用いられて行われる。すなわち、図3に示すように、二次元画像13において、あるX座標X1における基準データ(計測点MPs参照)のZ座標がZ1である場合とする。この場合、X座標X1について得られた実計測点のZ座標が、Z1よりも大きければ(実計測点MP1参照)、その実計測点は、基準データの外側に位置すると判定される。逆に、X座標X1について得られた実計測点のZ座標が、Z1よりも大きくなければ(Z1以下であれば、実計測点MP2参照)、その実計測点は、基準データの外側に位置しないと判定される。
このような各実計測点についての、基準データの外側に位置するか否かの判定(以下「内外判定」ともいう。)が、ステータコイル10について取得される全ての実計測点、つまりスリット光11の各走査位置にて取得される全ての二次元画像13における全ての実計測点について行われる。
そして、内外判定において、ステータコイル10についての全ての実計測点が、基準データの外側に位置しない(内側に位置する)と判定された場合、そのステータコイル10は良品と判定される。一方、ステータコイル10についての全ての実計測点のうち、基準データの外側に位置すると判定された実計測点は、そのステータコイル10が不良品と判定される根拠となる。
このような形状良否判定が、本実施形態の形状検査装置1においては、演算制御部5により行われる(図1参照)。すなわち、演算制御部5は、対象物体をステータコイル10とする光切断法により取得された実計測点を、前記のとおり作成された基準データと比較することにより、形状良否判定を行う。具体的には、演算制御部5は、その格納部に格納された所定のプログラムに従って所定の演算等を行うことにより、形状良否判定を行う。
以上のような本実施形態のステータコイル10の形状検査によれば、光の多重反射等により生じるノイズ等に起因する検査精度の低下を招くことなく、光切断法による形状計測を用いることができ、コイルエンド10bの形状について、ケースに対する絶縁不良につながる形状不良の有無を、非破壊(非接触)・自動・高速で精度良く検査することが可能となる。
以上のような本実施形態の形状検査方法において用いられるマスターワーク30は、ステータコイル10の形状検査における光切断スキャナ7の配置等についての治具として用いられる。このため、マスターワーク30は、形状良否判定における基準データの作成に用いられる限界形状部55のほか、所定の形状部分を有する。以下、マスターワーク30が有する所定の形状部分(以下「治具形状部分」という。)、および治具形状部分の用い方について説明する。
図4に示すように、本実施形態のマスターワーク30は、治具形状部分として、スリット部51と、頂点形成部52とを有する。本実施形態のマスターワーク30においては、スリット部51および頂点形成部52は、コイルエンド部32に形成される。
スリット部51は、コイルエンド部32について定まる中心線を通る平面に沿うスリット51aを形成する形状部分である。すなわち、コイルエンド部32は、前記のとおりマスターワーク30において略円環状に突出する部分として形成される。このように略円環状に突出する部分については、円環形状の中心位置を通る直線としての中心線C1(図4参照)が定まる。中心線C1の方向は、マスターワーク30が有する略円環形状における中心軸方向に対応する。そして、スリット部51において形成されるスリット51aは、中心線C1を通る平面に沿う。
ここで、スリット51aが沿う中心線C1を通る平面とは、コイルエンド部32における周方向の断面(中心線C1の方向および径方向に平行となる断面)に対応する。つまり、スリット51aは、光切断法によってステータコイル10またはマスターワーク30について取得されるべき断面形状についての断面に沿う。したがって、スリット51aは、マスターワーク30の軸心方向視(中心線C1の方向視)において、マスターワーク30の(コイルエンド部32の)径方向に沿う形状を有する。
スリット51aは、中心線C1を通る平面に略平行であって、わずかな間隔(スリット幅に対応する間隔)を隔てて設けられる互いに平行あるいは略平行に対向する面により形成される。つまり、スリット51aを形成するスリット部51は、コイルエンド部32において円周方向に対して垂直な面に沿う切込み部分である。
以上のように、本実施形態のマスターワーク30は、治具形状部分としての第一の形状部分を、コイルエンド部32について定まる中心線C1を通る平面に沿うスリット51aを形成する形状部分であるスリット部51として有する。
スリット部51は、光切断スキャナ7(のレーザ投光部2)から照射されるスリット光11の照射位置の調整に用いられる。すなわち、スリット部51において形成されるスリット51aがスリット光11の照準として用いられ、設置状態(支持装置20において支持された状態、以下同じ。)の光切断スキャナ7の姿勢(支持装置20における支持姿勢(組付け角度))が調整されることで、光切断スキャナ7において所定の場所に位置決めされた状態で設けられるレーザ投光部2から照射されるスリット光11についての照射位置の調整が行われる。
具体的には、スリット部51は、マスターワーク30がステータコイル10と同様にセットされた状態で用いられる。つまり、スリット部51によるスリット光11の照射位置の調整に際しては、マスターワーク30が、コイルエンド10bの部分の形状の検査(以下「コイルエンド形状検査」という。)が行われるステータコイル10と同様の位置および姿勢にセットされた状態(以下単に「セット状態」という。)とされる。
そして、スリット部51によるスリット光11の照射位置の調整は、マスターワーク30のセット状態において、スリット光11がスリット51aに重なることを基準として行われる。すなわち、スリット光11が照射されることで断面形状に応じて形成される光切断線12に基づいて三次元形状が把握(計測)される光切断法においては、計測範囲(検査範囲)の保証等の観点から、シート状の光(レーザシート)であるスリット光11がステータコイル10の回転方向(円周方向)に対して垂直であることが必要とされる。
そこで、図5に示すように、光切断スキャナ7からのスリット光11が、セット状態のマスターワーク30におけるスリット51aに対して照射される。ここで、スリット光11は、そのシート面の方向が、スリット51aのスリット面の方向(スリット51aを形成する面の方向)に沿うように照射される。そして、スリット光11がスリット51aに重なるように、光切断スキャナ7の姿勢が調整される。
図5に示すように、スリット光11がスリット51aに重なることで、スリット光11は、コイルエンド部32(スリット部51)の表面において光切断線(光切断線12参照)を形成することなく、スリット51a内に入り込む。つまり、スリット光11がスリット51aに重なることとは、スリット光11がコイルエンド部32(スリット部51)の表面において反射されることなく、スリット51aの内部に入り込むことに対応する。
したがって、スリット部51においては、スリット51aは、スリット光11が入り込むことができる程度のスリット幅を有するように形成される。例えば、スリット光11の焦点におけるシート厚さが0.1mm程度である場合、スリット51aのスリット幅は1mm程度に設定される。ここで、スリット51aのスリット幅の設定に際しては、レーザ投光部2からスリット光11の照射位置(コイルエンド部32の表面)までの距離や、スリット光11の焦点からのずれによるシート厚さの広がり等が考慮される。
以上のようにして、マスターワーク30が有する治具形状部分としてのスリット部51が用いられ、光切断スキャナ7から照射されるスリット光11の照射位置の調整が行われる。つまり、スリット部51が用いられることで、光切断スキャナ7の姿勢の調整をともなって、スリット51aとスリット光11との平行度の確認が行われる。
頂点形成部52は、マスターワーク30においてコイルエンド部32を形成する端面部32aの部分と周面部32bの部分との稜線部において角部を形成する部分である。すなわち、コイルエンド部32は、前記のとおり略円環形状の略平面部である端面部32aと、内周側および外周側の周面部32bとから、略円環状の外形形状となるように形成される。このように略円環状の外形形状を有する部分においては、端面部32aと周面部32bとが交わる部分である稜線部が形成される。そして、頂点形成部52においては、端面部32aと両周面部32bとの稜線部が角部として形成される。
ここで、端面部32aと周面部32bとの稜線部について「角部」とは、端面部32aと周面部32bとによって角形状となる部分である。すなわち、頂点形成部52は、コイルエンド部32の端面部32aの一部を形成する平面である端面52aと、コイルエンド部32の内周側および外周側それぞれの周面部32bの少なくともいずれかの一部を形成する曲面である周面52bとにより形成される。
そして、頂点形成部52は、例えば、端面52aの平面の方向と、周面部32bの突出方向(コイルエンド部32の突出方向)とが略垂直となるように形成される。この場合、端面52aと周面52bとによって、端面部32aと両周面部32bとの稜線部において略直角の角部が形成される。このように頂点形成部52によって端面部32aと周面部32bとの稜線部において形成される角部は、コイルエンド部32の周方向の断面形状、つまり中心線C1(図4)を通る平面に沿う断面形状(以下単に「断面形状」ともいう。)における頂点を形成する。
したがって、図6に示すように、セット状態のマスターワーク30に対してスリット光11が頂点形成部52に照射されることによって取得される二次元画像13に写し出されるスリット画像において、頂点が形成される。
具体的には、図7に示すように、頂点形成部52についてのスリット画像16(頂点形成部52の表面に形成される光切断線12についての画像)は、端面52aに対応する直線状の画像部分16aと、周面52bに対応する直線状の画像部分16bとを含む。そして、前記のとおり端面52aと周面52bとによって略直角の角部が形成される場合、画像部分16aと画像部分16bとによって略直角の角部分である頂点16cが形成される。
以上のように、本実施形態のマスターワーク30は、治具形状部分としての第二の形状部分を、コイルエンド部32の突出方向側の端面部32aと突出方向に沿う周面部32bとの稜線部にて中心線C1を通る平面に沿う断面形状における頂点(頂点16c参照)を形成する形状部分である頂点形成部52として有する。
頂点形成部52は、光切断スキャナ7(のカメラ3)による二次元画像13の撮像位置の調整に用いられる。すなわち、頂点形成部52についてのスリット画像16において形成される頂点16cの位置が基準として用いられ、設置状態の光切断スキャナ7の位置(支持装置20における支持位置)が調整されることで、光切断スキャナ7において所定の場所に位置決めされた状態で設けられるカメラ3による二次元画像13の撮像位置の調整が行われる。
具体的には、図6に示すように、頂点形成部52は、ステータコイル10と同様にスリット光11が照射されて二次元画像13が取得されることにより用いられる。つまり、頂点形成部52による二次元画像13の撮像位置の調整に際しては、対象物体をマスターワーク30とする光切断法により頂点形成部52についての画像であるスリット画像16を含む二次元画像13が取得される。
そして、頂点形成部52による二次元画像13の撮像位置の調整は、二次元画像13において、スリット画像16における頂点16cに対応する位置が二次元画像13を取得するための撮像素子の中心(以下「センサ視野中心」という。)の位置に重なることを基準として行われる。すなわち、スリット光11が照射されることで断面形状に応じて形成される光切断線12に基づいて三次元形状が把握(計測)される光切断法においては、計測範囲(検査範囲)の保証等の観点から、光切断線12を撮像するカメラ3の位置(二次元画像13の撮像位置)が、検査対象物に対して所定の位置であることが必要とされる。
そこで、図7に示すように、頂点形成部52についての二次元画像13(スリット画像16を含む二次元画像13)において、スリット画像16の頂点16cの位置が、センサ視野中心C2の位置に重なるように、光切断スキャナ7の位置が調整される。ここで、センサ視野中心C2は、前記のとおりCCDイメージセンサ等の撮像素子により構成されるカメラ3の視野範囲fv(破線で示す長方形)における中心に対応する。つまり、センサ視野中心C2は、カメラ3の光軸(受光軸、図1、直線3a参照)の位置に対応する。
また、カメラ3の視野範囲fvは、カメラ3によって取得される二次元画像13の範囲に対応する。したがって、頂点形成部52による二次元画像13の撮像位置の調整は、スリット画像16を含む二次元画像13において行われる。つまり、マスターワーク30がセット状態で頂点形成部52についての二次元画像13の撮像が行われることで、二次元画像13においてスリット画像16の頂点16cの位置と、センサ視野中心C2の位置との関係が把握される。そして、センサ視野中心C2の位置が頂点16cの位置に重なるように、設置状態の光切断スキャナ7の位置が調整される。
二次元画像13においてスリット画像16の頂点16cの位置がセンサ視野中心C2の位置に重なることは、光切断スキャナ7のカメラ3の光軸とスリット光11の投影面との交点の位置に頂点形成部52の角部(端面52aと周面52bとによって形成される角部)が位置することに対応する。したがって、頂点形成部52については、センサ視野中心C2の位置がスリット画像16の頂点16cの位置に重なることで、光切断スキャナ7の位置が形状良否判定における適した位置となるように、角部の高さ(ステータコア部31の端面部31bからの突出高さ)を含む寸法が設定される。
このように、光切断スキャナ7によって頂点形成部52が計測されることで、カメラ3の光軸の位置(センサ視野中心C2)と、計測された頂点形成部52の角部の位置(頂点16c)との位置のずれ量が計測される。これにより、光切断スキャナ7のカメラ3による実際の計測範囲が設定値からどの程度ずれているかを把握することができる。
例えば、図7に示すように、頂点形成部52についての二次元画像13において、スリット画像16の頂点16cの位置とセンサ視野中心C2の位置とのずれ量が、X軸方向(横方向)にΔX、Z軸方向(縦方向)にΔZであるとする。かかる場合、頂点16cの位置とセンサ視野中心C2の位置とがずれていることから、光切断スキャナ7の組付け位置の誤差の確認が行われる。また、ΔXおよびΔZの値が計測されることで、光切断スキャナ7の組付け位置の誤差の算出が行われる。
そして、光切断スキャナ7が二次元画像13を表すX−Z平面に沿う所定の平面上をΔXおよびΔZ分、平行移動させられることにより、センサ視野中心C2が頂点16cに一致するように、二次元画像13の撮像位置が調整される。図7において、二次元画像13の撮像位置調整後のカメラ3の視野範囲fv1を二点鎖線で示す。
以上のようにして、マスターワーク30が有する治具形状部分としての頂点形成部52が用いられ、光切断スキャナ7による二次元画像13の撮像位置の調整が行われる。つまり、頂点形成部52が用いられることで、光切断スキャナ7の位置の調整をともなって、カメラ3の光軸の位置の確認が行われる。
なお、頂点形成部52の形状は、本実施形態に限定されるものではない。頂点形成部52の形状としては、二次元画像13に写し出されるスリット画像16において、センサ視野中心C2の位置を容易に重ねることができる頂点を形成するような形状であればよい。
ただし、本実施形態においては、頂点形成部52は、スリット画像16の頂点16cとなる部分を、コイルエンド部32の内周側および外周側それぞれの稜線部にて形成する。本実施形態における頂点形成部52の具体的な形状について、図8を用いて説明する。なお、図8において、符号52は、頂点形成部52の断面形状を示す。
図8に示すように、頂点形成部52は、コイルエンド部32の端面部32aの一部を形成する端面52aと、コイルエンド部32の内周側および外周側それぞれの周面部32bの一部を形成する周面52bとにより形成される。そして、本実施形態の頂点形成部52においては、端面52aと外周側(図8において右側)の周面52bとによって、端面部32aと外周側の周面部32bとの稜線部において頂点を形成する角部52Xが形成されるとともに、端面52aと内周側(図8において左側)の周面52bとによって、端面部32aと内周側の周面部32bとの稜線部において頂点を形成する角部52Yが形成される。
したがって、例えば、前記のとおり端面52aと周面52bとによって、端面部32aと両周面部32bとの稜線部において略直角の角部が形成される場合、端面52aと周面52bとによって形成される頂点形成部52の断面形状は、ステータコア部31の端面部31bに対応する辺部52cを含み略長方形となる。そして、かかる頂点形成部52における外周側の角部52Xおよび内周側の角部52Yそれぞれが、二次元画像13においてスリット画像16の頂点16cを形成する(図7参照)。
頂点形成部52が有する外周側の角部52Xは、セット状態のマスターワーク30のコイルエンド部32に対して外側斜め上方からスリット光11を照射する光切断スキャナ7aについての二次元画像13の撮像位置の調整に用いられる。同様に、内周側の角部52Yは、コイルエンド部32に対して内側斜め上方からスリット光11を照射する光切断スキャナ7bについての二次元画像13の撮像位置の調整に用いられる。
すなわち、図8に示すように、コイルエンド部32の外周側に位置する光切断スキャナ7aについては、カメラ3の視野範囲fvにおけるセンサ視野中心C2が、スリット画像16において外周側の角部52Xに対応する頂点16cに一致するように、二次元画像13の撮像位置(光切断スキャナ7の位置)が調整される。同様にして、コイルエンド部32の内周側に位置する光切断スキャナ7bについては、カメラ3の視野範囲fvにおけるセンサ視野中心C2が、スリット画像16において内周側の角部52Yに対応する頂点16cに一致するように、二次元画像13の撮像位置(光切断スキャナ7の位置)が調整される。
このように、頂点形成部52が、スリット画像16の頂点16cとなる部分(角部52Xおよび角部52Y)を内周側および外周側それぞれに有することにより、頂点形成部52という一つの形状部分によって、一回の計測により、同じ側に位置する二つの光切断スキャナ7(例えば上側光切断スキャナ7a、7b)についての位置の誤差確認等を行うことが可能となる。つまり、本実施形態のように、ステータコイル10の内周側および外周側のそれぞれに光切断スキャナ7が配置される構成において、一つの形状部分についての一回の計測により、内外両方の光切断スキャナ7についての二次元画像13の撮像位置の調整を行うことができる。
また、図4に示すように、本実施形態のマスターワーク30は、治具形状部分として、段差部53を有する。本実施形態のマスターワーク30においては、段差部53は、コイルエンド部32に形成される。
段差部53は、光切断スキャナ7からのスリット光11の照射方向(投影方向、図1、直線2a参照)に対して垂直な平面部を複数形成する部分である。また、これら複数の平面部は、隣り合う平面部間の寸法(面間距離、以下同じ。)が既知である。つまり、段差部53は、スリット光11の照射方向に対して面直な既知の寸法の段差を形成する。
図4に示すように、本実施形態では、段差部53は、一つの光切断スキャナ7に対して、光切断スキャナ7に近い側から順に三つの平面部53a、53b、53cを形成する。各平面部53a、53b、53cは、いずれもスリット光11の照射方向に対して垂直である。このため、三つの平面部53a、53b、53cは、互いに平行である。
例えば、光切断スキャナ7によるスリット光11の照射方向が、ステータコア部31の端面部31bに対して45°の角度をなす場合、各平面部53a、53b、53cについては、端面部31bを基準とする傾斜角がいずれも45°となる。同様に、スリット光11の照射方向が30°の角度をなす場合、各平面部53a、53b、53cの傾斜角は60°となる。
また、段差部53が形成する三つの平面部53a、53b、53cについては、平面部53aおよび平面部53b間の寸法、ならびに平面部53bおよび平面部53c間の寸法が、あらかじめ所定の値に設定され既知の寸法となっている。ここで、異なる平面部間の寸法(本実施形態では平面部53a・53b間の寸法および平面部53b・53c間の寸法)は、同じ値であっても異なる値であってもよい。
以上のように、本実施形態のマスターワーク30は、治具形状部分としての第三の形状部分を、スリット光11の照射方向に対して垂直な三つの平面部53a、53b、53cをスリット光11の照射方向に既知の寸法を隔てて形成する形状部分である段差部53として有する。
段差部53は、光切断スキャナ7(のカメラ3)による二次元画像13における寸法の調整に用いられる。すなわち、段差部53についてのスリット画像から計測される平面部53a、53b、53cに対応する画像部分同士の寸法が段差部53における平面部間の既知の寸法と比較されることで、二次元画像13における寸法の調整が行われる。
具体的には、図9に示すように、段差部53は、設置状態の光切断スキャナ7によってステータコイル10と同様にスリット光11が照射されて二次元画像13が取得されることにより用いられる。つまり、図10に示すように、段差部53による二次元画像13における寸法の調整に際しては、対象物体をマスターワーク30とする光切断法により段差部53についての画像であるスリット画像18を含む二次元画像13が取得される。
そして、段差部53による二次元画像13における寸法の調整は、二次元画像13において、スリット画像18における三つの平面部間の寸法と、段差部53における三つの平面部53a、53b、53c間の既知の寸法との比較により行われる。すなわち、段差部53についてのスリット画像18における平面部間に対応する寸法が計測されることで、二次元画像13における寸法の、既知である実際の寸法との誤差が把握され、その寸法の誤差に基づいて、二次元画像13における寸法の調整が行われる。
図10に示すように、段差部53についてのスリット画像18は、平面部53a、53b、53cそれぞれに対応する直線状の画像部分18a、18b、18cを含む。かかるスリット画像18を含む二次元画像13において、画像部分18aと画像部分18bとの寸法(線間距離)ΔS、および画像部分18bと画像部分18cとの寸法(線間距離)ΔTが計測される。
そして、二次元画像13における寸法ΔSは、段差部53において既知である平面部53a・53b間の寸法と比較され、二次元画像13における寸法ΔTは、段差部53において既知である平面部53b・53c間の寸法と比較される。このように、二次元画像13における寸法が、対応する形状部分(段差部53)についての既知の寸法と比較されることで、光切断スキャナ7の設置状態で、光切断スキャナ7(のカメラ3)による二次元画像13における寸法誤差の計測および確認を行うことが可能となる。つまり、二次元画像13における寸法が、実際の寸法との比較において、どの程度ずれているかを把握することができる。
二次元画像13における寸法の調整としては、カメラ3についての再キャリブレーション(校正)や、コイルエンド形状検査に係るプログラムの修正等が行われる。
以上のようにして、マスターワーク30が有する治具形状部分としての段差部53が用いられ、二次元画像13における寸法の調整が行われる。つまり、段差部53が用いられることで、カメラ3の画面上における寸法誤差の確認が行われる。
なお、段差部53の形状は、本実施形態に限定されるものではない。段差部53の形状としては、光切断スキャナ7からのスリット光11の照射方向に対して垂直であって、互いの間の寸法が既知である複数の(少なくとも二つの)平面部を形成するような形状であればよい。
ただし、本実施形態においては、段差部53は、コイルエンド部32の内周側および外周側それぞれについて前述したような三つの平面部53a、53b、53cを形成する。本実施形態における段差部53の具体的な形状について、図11を用いて説明する。なお、図11において、符号53は、段差部53の断面形状を示す。
図11に示すように、段差部53は、内周側(図11において左側)および外周側(同図において右側)の光切断スキャナ7それぞれに対して、スリット光11の照射方向に対して面直で既知の寸法を隔てる三つの平面部53a、53b、53cを形成する。すなわち、段差部53は、セット状態のマスターワーク30のコイルエンド部32に対して外側斜め上方からスリット光11を照射する光切断スキャナ7a用の三つの平面部53a、53b、53cと、同じく内側斜め上方からスリット光11を照射する光切断スキャナ7b用の三つの平面部53a、53b、53cとを有する。
そして、本実施形態では、段差部53は、内周側および外周側それぞれの光切断スキャナ7に対する三つの平面部53a、53b、53c(計六つの平面部)により山切り形状を有する部分として形成される。つまり、段差部53は、外周側の光切断スキャナ7a用の平面部53aと内周側の光切断スキャナ7b用の平面部53cとにより形成される山形状部分53d、同じく外周側用の平面部53bと内周側用の平面部53bとにより形成される山形状部分53e、同じく外周側用の平面部53cと内周側用の平面部53aとにより形成される山形状部分53fの計三つの山形状部分を有する。
したがって、図11に示すように、例えば、内外両側の光切断スキャナ7からのスリット光11の照射方向(直線2a参照)について、図11に示す断面形状の方向視におけるステータコア部31の端面部31bに対する照射角度α1が45°の場合、段差部53を形成する各山形状部分53d、53e、53fの頂角α2は90°となる。同様にして、例えば、スリット光11についての照射角度α1が30°の場合、頂角α2は60°となる。ただし、スリット光11についての照射角度α1は、外周側の光切断スキャナ7aと内周側の光切断スキャナ7bとで異なっていてもよい。
このように、段差部53が、三つの平面部53a、53b、53cを内周側および外周側それぞれに有することにより、段差部53という一つの形状部分によって、一回の計測により、同じ側に位置する二つの光切断スキャナ7(例えば上側光切断スキャナ7a、7b)についての寸法の誤差確認等を行うことが可能となる。つまり、本実施形態のように、ステータコイル10の内周側および外周側のそれぞれに光切断スキャナ7が配置される構成において、一つの形状部分についての一回の計測により、内外両方の光切断スキャナ7についての二次元画像13における寸法の調整を行うことができる。
また、図4に示すように、本実施形態のマスターワーク30は、治具形状部分として、環状部54を有する。本実施形態のマスターワーク30においては、環状部54は、コイルエンド部32に形成される。
環状部54は、略円環状に突出する部分であるコイルエンド部32において、全周にわたって断面形状が一定となる(変化しない)部分である。つまり、環状部54は、中心線C1周りに全周を通じて形状変化のない、中心線C1を中心とする軸回転形状を有する部分である。したがって、環状部54についてのスリット画像は、コイルエンド部32の(マスターワーク30の)全周にわたって同じ形状となる。
図4に示すように、本実施形態では、環状部54は、基準面となるステータコア部31の端面部31bに対して略円環状に突出する部分であるコイルエンド部32において、前述したような他の治具形状部分が含まれない基部側(端面部31b側)の層部分である。そして、環状部54は、コイルエンド部32における基部側の層部分において、外周側の周面部32bの一部を形成する外周面54aを有する。外周面54aにおいては、コイルエンド部32の全周にわたって他の治具形状部分の影響を受けずに中心線C1を中心とする周面形状が確保される。
以上のように、本実施形態のマスターワーク30は、治具形状部分としての第四の形状部分を、中心線C1を通る平面に沿う断面形状がマスターワーク30の全周にわたって一定の形状部分である環状部54として有する。
環状部54は、マスターワーク30の回転についての偏心量(以下「ワーク偏心量」という。)の把握に用いられる。すなわち、マスターワーク30は、マスターワーク30に対するスリット光11の走査位置を連続的に変化させるための移動として、中心線C1に沿う方向を回転軸方向として回転させられる。かかるマスターワーク30の回転についての偏心量が、ワーク偏心量となる。
環状部54は、前述したようにコイルエンド部32の(マスターワーク30の)全周にわたって一定の形状である外周面54aを有する。このため、マスターワーク30が回転させられ環状部54が全周にわたって連続的に計測されることで得られるスリット画像における外周面54aに対応する画像部分については、かかる画像部分を形成する計測点がワーク偏心量に対応してばらつく。
つまり、仮にワーク偏心量が0である場合、環状部54についてのスリット画像を形成する計測点については、外周面54aに沿って直線状となるが、ワーク偏心量が存在することにより、環状部54についてのスリット画像を形成する計測点はばらつく。そこで、環状部54についてのスリット画像を形成する計測点のばらつきから、ワーク偏心量が把握される。
そして、環状部54が計測されることで把握されるワーク偏心量が、マスターワーク30と同様に回転させられながら行われるステータコイル10についてのコイルエンド形状検査に反映させられる。ここで、ワーク偏心量には、ステータコイル10と同様にマスターワーク30を回転させるための回転駆動機構が有する偏心量や、かかる回転駆動機構の回転中心とマスターワーク30における中心線C1とのずれ量や、マスターワーク30自体が有する偏心量等が含まれる。
具体的には、図12に示すように、環状部54は、設置状態の光切断スキャナ7によってステータコイル10と同様にスリット光11が照射されて二次元画像13が取得されることにより用いられる。つまり、図13に示すように、環状部54によるワーク偏心量の把握に際しては、対象物体をマスターワーク30とする光切断法により環状部54についての画像であるスリット画像19を含む二次元画像13が取得される。
そして、環状部54によるワーク偏心量の把握は、スリット画像19を形成する計測点のばらつきに基づいて行われる。すなわち、マスターワーク30についての偏心の度合いが大きくなるほど、スリット画像19を形成する計測点のばらつきの度合いも大きくなる。そこで、環状部54を全周にわたって連続的に計測することで得られるスリット画像19を形成する計測点のばらつき具合から、ワーク偏心量が把握される。
図13に示すように、マスターワーク30が一回転することで環状部54が全周にわたって計測されることによるスリット画像19としては、外周面54aに対応する直線状の画像部分19aが得られる。すなわち、環状部54は、マスターワーク30の回転軸に対応する中心線C1を中心とする周面形状である外周面54aを形成する部分である。このことから、回転するマスターワーク30と光切断スキャナ7との位置関係が一定のもとにおいては、マスターワーク30一周分の環状部54についての計測結果であるスリット画像19としては、二次元画像13における所定の位置に現れる直線状の画像部分19aが得られる。
そして、図14に示すように、マスターワーク30の一周分の計測結果としての直線状の画像部分19aにおいては、画像部分19aを形成する計測点が、ばらつきをもって存在する。かかる計測点のばらつきは、直線状の画像部分19aについての線の太さ(幅)として現れる(符号D参照)。
画像部分19aを形成する計測点のばらつき(以下「計測点ばらつきD」とする。)は、環状部54の外周面54aについての計測点が環状部54の周方向における計測位置によって二次元画像13における異なる位置となるように計測されることに基づく。つまり、ワーク偏心量が存在することにより、二次元画像13において所定の位置に存在するはずの計測点の位置が、環状部54の周方向における計測位置によってずれ、計測点ばらつきDが生じる。そこで、こうした計測点ばらつきDに基づいて、ワーク偏心量が把握される。
以上のようにして、マスターワーク30が有する治具形状部分としての環状部54が用いられ、ワーク偏心量の把握が行われる。つまり、環状部54が用いられることで、マスターワーク30の回転による偏心誤差の確認・評価が行われる。
なお、環状部54の形状は、本実施形態に限定されるものではない。環状部54の形状としては、いずれかの光切断スキャナ7によって計測できる部分において、マスターワーク30の全周にわたって形状変化のない部分を形成するような形状であればよい。したがって、環状部54として計測される部分としては、外周面54aように、セット状態のマスターワーク30のコイルエンド部32に対して外側斜め上方からスリット光11を照射する光切断スキャナ7aによって計測される部分に限らず、内側斜め上方からスリット光11を照射する光切断スキャナ7bによって計測される部分(例えば内周側の周面部32bの一部を形成する部分)であってもよい。
このように環状部54が用いられて行われるワーク偏心量の把握に際しては、検査設備に対するマスターワーク30の着脱、およびマスターワーク30(のコイルエンド部32)に対するスリット光11の走査の少なくともいずれかが複数回行われることにより、計測点ばらつきDが計測されることが好ましい。つまり、計測点ばらつきDの計測に際しては、検査設備に対するマスターワーク30の着脱が繰り返されること、あるいはセット状態のマスターワーク30が複数回回転させられることによって、マスターワーク30が複数回計測されることが好ましい。
環状部54についてのスリット画像19の取得(画像部分19aを形成する計測点の取得)に際しては、マスターワーク30は、検査設備としての支持台21に支持され、セット状態となる。セット状態のマスターワーク30が一回転させられて環状部54が全周にわたって計測されることにより、スリット画像19が取得される。そこで、検査設備に対するマスターワーク30の着脱が複数回行われる場合は、セット状態のマスターワーク30を一回転させることによる計測点の取得が、その都度マスターワーク30をセット状態とすることによって複数回行われる。
すなわち、マスターワーク30が、セット状態で一回転させられて環状部54についてのスリット画像19が取得される。そして、マスターワーク30が検査設備から一旦取り外され、再びセット状態とされ、一回転させられて環状部54についてのスリット画像19が取得される。このようにして、マスターワーク30がセット状態とされることおよびマスターワーク30の検査設備から取り外されること、つまり検査設備に対するマスターワーク30の着脱が、計測点の取得をともなって複数回行われる。そして、検査設備に対するマスターワーク30の着脱ごとに取得された複数回転分の計測点(画像部分19a)から、計測点ばらつきDが計測される。
また、セット状態のマスターワーク30が複数回回転させられる場合は、前記のとおりマスターワーク30が一回転させられて環状部54についてのスリット画像19が取得されることが、複数回転分行われる。つまり、セット状態のマスターワーク30が複数回回転させられることで、マスターワーク30(のコイルエンド部32)に対するスリット光11の走査が複数回行われる。そして、マスターワーク30の一回転ごとに取得された複数回転分の計測点(画像部分19a)から、計測点ばらつきD(図14参照)が計測される。
このように、マスターワーク30がセット状態とされること、およびマスターワーク30に対するスリット光11の走査の少なくともいずれかが、画像部分19aを形成する計測点の取得をともなって複数回行われることにより、計測点ばらつきDが計測される。これにより、ワーク偏心量として、マスターワーク30自体が有する偏心量等のほか、内外判定の判定結果に影響する光切断スキャナ7等の計測器のばらつきや、検査設備に対するワークの位置決め再現性(ワークのセット位置の繰返し誤差)等を含む検査設備による誤差の総合的な把握・評価が可能となる。
このように、環状部54が用いられて把握されたワーク偏心量は、コイルエンド形状検査において、形状良否判定に用いられる基準データの作成に反映させられる。前述したように、形状良否判定においては、マスターワーク30が有する限界形状部55が用いられて、限界形状部55の表面に形成される光切断線12を捉えた二次元画像13における計測点の集合である基準計測点群15aに基づき、形状良否判定における判定基準となる基準データが作成される(図3参照)。そして、この形状良否判定に用いられる基準データが作成される際、基準計測点群15aが、ワーク偏心量を表す計測点ばらつきDに基づいて縮小される。
すなわち、本実施形態のコイルエンド形状検査においては、対象物体をマスターワーク30とする光切断法により取得された限界形状部55の表面に形成される光切断線12を捉えた基準計測点群15aが計測点ばらつきDに基づいてコイルエンド許容形状を縮小させる方向に移動させられたものが、形状良否判定における判定基準となる基準データとして作成される。ここで、コイルエンド許容形状とは、ステータコイル10のコイルエンド10bの部分の外形形状について良品として許容される最大外形形状である。
そして、対象物体をステータコイル10とする光切断法により取得されたコイルエンド10bの部分の表面に形成される光切断線12を捉えた二次元画像13における計測点である実計測点が、計測点ばらつきDを反映した基準データと比較されることにより、形状良否判定が行われる。つまり、コイルエンド形状検査において行われる内外判定において、計測点ばらつきDを反映した基準データが用いられる。
具体的には、図15に示すように、マスターワーク30の限界形状部55が計測されることで取得される基準計測点群15a(スリット画像15、以下同じ。)が、二次元画像13において移動させられることで、破線で示す点群15bに縮小させられる(以下「縮小点群15b」とする。)。つまり、縮小点群15bは、基準計測点群15aが、計測点ばらつきDに基づいて、コイルエンド許容形状を縮小させるように移動させられたものである。
ここで、二次元画像13上における基準計測点群15aの移動について、コイルエンド許容形状を縮小させる方向とは、基準計測点群15aの外側に対する内側方向に対応する。なお、基準計測点群15aの外側とは、前述したように基準データについての「外側」と同様である。つまり、基準計測点群15aについての「外側」とは、二次元画像13において、限界形状部55に対応する領域に対する外側を意味する。
したがって、基準計測点群15aの移動についての内側方向とは、二次元画像13において限界形状部55の部分に対応する領域側に向かう方向となる。このため、基準計測点群15aがコイルエンド許容形状を縮小させる方向に移動させられた縮小点群15bは、例えば、二次元画像13において基準計測点群15aによって描かれる限界形状部55の外形形状に対し、基準計測点群15aの内側において相似的に縮小された形状を描くような態様となる。言い換えると、縮小点群15bは、基準計測点群15aが内側方向(コイルエンド許容形状を縮小させる方向)にオフセットされたものである。
そして、二次元画像13における基準計測点群15aから縮小点群15bへの移動は、前述したように環状部54が用いられて把握されたワーク偏心量を表す計測点ばらつきDに基づいて行われる。つまり、計測点ばらつきDに基づいて、基準計測点群15aから縮小点群15bへの移動量が導かれる。
計測点ばらつきDに基づく基準計測点群15aから縮小点群15bへの移動(基準計測点群15aのオフセット)については、例えば、計測点ばらつきDの計測値分だけ移動させられる。この場合、前述したように例えば内外判定が二次元画像13を表すX−Z平面におけるZ座標が用いられて行われるときは、基準計測点群15aが、Z方向に計測点ばらつきDの計測値に相当する距離(符号E参照)だけ、内側方向(図15において下側方向)に移動させられる。
なお、基準計測点群15aのオフセットは、計測点ばらつきDの計測値が基準計測点群15aの移動距離としてそのまま用いられて行われる場合に限定されない。基準計測点群15aのオフセットは、例えば、基準計測点群15aの各計測点についての二次元画像13における座標値(例えばZ座標の値)に、計測点ばらつきDの計測値から導かれる所定の係数がかけられたりすることにより行われてもよい。
このようにして基準計測点群15aが計測点ばらつきDに基づいて移動させられた縮小点群15bが、内外判定における基準データとして作成される。つまり、縮小点群15bにより、二次元画像13においてステータコイル10のコイルエンド10bの部分の外形形状についての許容範囲を規定する境界が形成される。したがって、図15において、限界形状部55の形状を表す基準計測点群15a(実線)に対し、破線で示される縮小点群15bは、コイルエンド許容形状を表す。
内外判定に用いられる基準データとして作成される点群が、計測点ばらつきDに基づいて基準計測点群15aから縮小点群15bに移動させられる(縮小される)ことは、コイルエンド許容形状がワーク偏心量に基づいて縮小されることに対応する。そして、コイルエンド許容形状が縮小されることは、形状良否判定における判定基準が厳しくなることに対応する。
このように、内外判定に用いられる基準データの作成に際し、計測点ばらつきDに基づいて基準計測点群15aがオフセットされることで、検査設備の機構的要因による判定誤差も考慮したコイルエンド許容形状の定義が可能となる。つまり、基準データの作成に際し、検査設備におけるワーク偏心量が計測点ばらつきDとして反映されるため、基準データによって定義されるコイルエンド許容形状がワーク偏心量を織り込んだサイズのものとなる。これにより、検査設備においてワーク偏心量が存在する場合であっても、コイルエンド形状検査における検査精度を確保することができる。
以上のように、本実施形態のマスターワーク30は、治具形状部分として、第一の形状部分であるスリット部51と、第二の形状部分である頂点形成部52と、第三の形状部分である段差部53と、第四の形状部分である環状部54とを有する。また、本実施形態のマスターワーク30は、コイルエンド許容形状の作成(基準データの作成)に用いられる形状部分として、第五の形状部分である限界形状部55を有する。なお、本実施形態のマスターワーク30においては、これらの各形状部分は、コイルエンド部32に形成されているが、これに限定されるものではない。つまり、マスターワーク30が有する各形状部分は、その一部または全部がマスターワーク30のステータコア部31に形成されてもよい。
本実施形態のマスターワーク30が用いられて行われる、検査設備における精度確認を含むコイルエンド許容形状の作成フローの一例について、図16に示すフロー図を用いて説明する。
図16に示すように、本例においては、まず、マスターワーク30が有するスリット部51によるスリット光11の照射位置の調整が行われる(S110)。つまり、スリット部51が用いられ、光切断スキャナ7の姿勢の確認が行われる。スリット光11の照射位置の調整が行われた後、マスターワーク30の全周計測が行われる(S120)。つまり、マスターワーク30が検査設備に対してセット状態とされ、回転させられることで、光切断法による計測が開始され、マスターワーク30が有する各治具形状部分についての画像データ(スリット画像、以下同じ。)が取得される。
次に、頂点形成部52による二次元画像13の撮像位置の調整が行われる(S130)。つまり、頂点形成部52についての画像データに基づいて、光切断スキャナ7の組付け位置の誤差の確認・算出が行われ、光切断スキャナ7の位置の調整が行われる。次に、段差部53による二次元画像13における寸法の調整が行われる(S140)。つまり、段差部53についての画像データに基づいて、カメラ3の画面上における寸法誤差の確認が行われる。
次に、環状部54によるワーク偏心量の把握が行われる(S150)。つまり、環状部54についての画像データに基づいて、ワーク偏心量が確認され、計測点ばらつきDが計測される。次に、限界形状部55によるデータの取得が行われる(S160)。つまり、限界形状部55についての画像データとして、限界形状部55を構成する各部についての基準計測点群15aが取得される。かかるステップS160において、限界形状部55についての画像データから、縮小される前のコイルエンド許容形状が作成される。
そして、限界形状部55についてのデータの取得が行われた後、ワーク偏心量に基づくデータの縮小が行われる(S170)。つまり、環状部54によって把握されたワーク偏心量を表す計測点ばらつきDに基づいて、基準計測点群15aが縮小点群15bとしてオフセットさせられ、コイルエンド許容形状が縮小させられる。上記ステップS160およびS170により、内外判定に用いられるコイルエンド許容形状、つまり基準データが作成される。なお、上記ステップS110〜S150については、その順序は特に限定されない。ただし、ステップS130〜S150については、ステップS120の後に行われる。
このように、本実施形態のマスターワーク30が用いられることで、計測の寸法誤差および検査設備の機構的要因による計測誤差の定量化、ならびに検査設備の機構的要因による判定誤差を考慮したコイルエンド許容形状の作成が、光切断スキャナ7等の計測器が検査設備に取り付けられた状態で一度に実施可能となる。
以上説明した本実施形態の形状検査方法およびマスターワーク30によれば、光切断法による形状検査において、検査設備からの計測器の取外し等を必要とせず、検査精度に影響する検査設備についての誤差を確認・評価することができる。
すなわち、マスターワーク30が有するスリット部51および頂点形成部52によれば、光切断スキャナ7の設置状態のまま、スリット光11の照射位置の調整および二次元画像13の撮像位置の調整が行われる。つまり、スリット部51により、設置状態の光切断スキャナ7の取付け角度が保証され、頂点形成部52により、設置状態の光切断スキャナ7の組付け位置が確認される。これにより、光切断スキャナ7による計測範囲の保証が可能となる。
また、マスターワーク30が有する段差部53によれば、設置状態の光切断スキャナ7によって段差部53が計測されることで、設置状態の光切断スキャナ7についての寸法誤差が確認される。これにより、光切断スキャナ7の寸法誤差の確認に際し、確認ごとの光切断スキャナ7の検査設備に対する取外しおよび組付け作業が不要となる。
また、マスターワーク30が有する環状部54によれば、設置状態の光切断スキャナ7によって環状部54が計測されることで、検査設備におけるワーク偏心量が把握される。このように環状部54が計測されることで把握されたワーク偏心量に基づいて、限界形状部55が計測されることで作成されたコイルエンド許容形状が縮小される。これにより、検査設備の機構的要因による計測誤差も形状良否判定において考慮することができるため、検査設備による検査の信頼性の向上を図ることができる。
そして、スリット部51、頂点形成部52、段差部53、環状部54、および限界形状部55の全ての形状部分が、一つのマスターワーク30に統合されることで、光切断スキャナ7の精度確認および校正作業の単純化、ならびに工数の低減化を図ることが可能となる。
本発明に係る形状検査用治具の実施例について、図17を用いて説明する。なお、本実施例の説明においては、前述した実施形態に対応する部分については同一の符号を付して適宜説明を省略する。また、図17においては、形状検査用治具としてのマスターワーク30においてステータコア部31の上下両側にそれぞれ形成されるコイルエンド部32のうち、一側(上側)のコイルエンド部32についてのみ図示する。ただし、上下のコイルエンド部32は、ステータコア部31に対して同様の形状(例えばステータコア部31を介して上下に対称な形状)を有する。
図17に示すように、本実施例に係るマスターワーク30は、アルミニウムを材料として構成され、アルマイト処理等の、二次元画像13の取得に適した表面処理が施されている。また、本実施例に係るマスターワーク30は、ステータコア部31において、三個(図示では二個)のボルトボス部31cを有する。三個のボルトボス部31cは、ステータコア部31の外周面部31aにおいて周方向に略等間隔を隔てて形成される。
また、本実施例に係るマスターワーク30は、コイルエンド部32において、四つのスリット部51を有する。四つのスリット部51は、コイルエンド部32において周方向に略等間隔を隔てて形成される。
また、本実施例に係るマスターワーク30は、ステータコア部31において、環状部54を有する。すなわち、本実施例に係るマスターワーク30においては、円環状の外形を有するステータコア部31の内側側面が、円筒状の内周面を形成する。そして、かかるステータコア部31の内側側面の全周部分が、環状部54として用いられる。その他、本実施例に係るマスターワーク30は、治具形状部分である頂点形成部52および段差部53をそれぞれ一つずつ有する。
また、本実施例に係るマスターワーク30は、限界形状部55として、高さの異なる三種類の形状部分である第一形状部55a、第二形状部55b、第三形状部55cを、コイルエンド部32の周方向に別れて(所定の間隔を隔てて)有する。
以上のような各形状部分を有する本実施例に係るマスターワーク30においては、図17に示すように、限界形状部55の第一形状部55aから、時計方向にコイルエンド部32の周方向に沿って順に、頂点形成部52、限界形状部55の第二形状部55b、一つのスリット部51、段差部53、限界形状部55の第三形状部55c、および他の三つのスリット部51が、所定の間隔を隔てて形成されている。そして、ステータコア部31の内側側面に、環状部54が形成されている。
以上のような本実施例に係るマスターワーク30が用いられ、前述した実施形態に係る形状検査方法が実際に行われることで、光切断スキャナ7等の計測器が検査設備に取り付けられた状態において、検査精度に影響する検査設備についての誤差の確認・評価が可能となる。