JP2010163139A - 車両用運動制御装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】車両の安定性を確保しながら的確に障害物を回避する。
【解決手段】各タイヤの実際のタイヤ力を検出するタイヤ力検出手段(20)と、障害物との衝突を回避するために各タイヤの目標制動力を設定する制動制御目標制動力設定手段(S105)と、目標制動力の下で各タイヤの制動力を制御する制動制御手段(S110)と、各タイヤの制動力を制御した後に、該制動力の制御に続いて左右のタイヤの制動力の差によって車両を旋回させる回頭制御手段(S112-S122)と、車両の旋回方向を決定する障害物回避方向決定手段(S113,S121,S122)と、回頭制御手段(S112-S122)による各タイヤの制動制御の目標制動力を設定する回頭制御目標制動力設定手段(S118,S115)とを有する。
【選択図】図6

Description

本発明は、一般的には車両用運動制御装置に関し、より詳しくは衝突回避技術に関するものである。
車両の走行中、自車両よりも前方に存在する他の車両や歩行者などの障害物との衝突を回避するための衝突回避技術が開発されている。引用文献1、2はその例である。
引用文献1の発明は、制動制御及び操舵制御によって前方障害物との衝突を回避する従来例の問題点として、急制動及び急な操舵制御が行われる可能性を指摘し、自車両のタイヤのグリップ力の最大値を越える力を車両に作用させることなく、制度制御及び操舵制御によって衝突回避する制御を提案している。引用文献1は、この目的の下で、カメラ、車速センサ、ヨーレートセンサ、加速度センサとで自車情報を検出し、そして、タイヤのグリップ力の限界の範囲内で減速度を設定すると共に、予測軌跡と回避目標位置を算出して、これにより減速操作量と操舵量を設定することを提案している。
引用文献2は、減速による回避ができない場合に、車両の旋回による回避制御を行うことを提案している。具体的には、車両に旋回力を発生させるために車輪を選択して制動制御を行うものであり、ハンドル角センサ、横加速度センサ、車速センサからの信号及び目標ヨーレートを取り込んで目標ヨーモーメントを演算して、この目標ヨーモーメントを発生させるように制動輪を選択して制動力を付与することを提案している。
特開2007−253746号公報 特開2001−247023号公報
ところで、障害物を緊急に回避しなければならない状況に陥ったとき、急制動や急激な車両の旋回(回頭)に伴って車両の姿勢が不安定化する危険性がある。したがって、車両を緊急に障害物から回避させなければならない車両の限界付近では車両の姿勢の安定性を確保しながら障害物との衝突を的確に回避することのできる制御が重要となる。
したがって、障害物回避制御が必要となる車両の限界付近では、車両の姿勢が急激に不安定にならないように運動制御することが望まれることになる。このような観点から、一部のタイヤのタイヤ力がほぼ飽和状態となる飽和タイヤとなったときは、飽和タイヤによる車両のコントロールをそれ以上は期待できないことから、車両が急激に不安定にならないように各タイヤのタイヤ力に注目することが重要となる。ここに、タイヤ力とは、当該タイヤに作用している前後方向の力(前後力)と横方向の力(横力)とを合成した力であると定義される。
本発明の目的は、車両の安定性を確保しながら的確に障害物を回避することのできる車両用運動制御装置を提供することにある。
上記の技術的課題は、本発明によれば、
車両の前方に位置する障害物との衝突を回避するために、各タイヤの制動力を制御する車両用運動制御装置であって、
車両前方の障害物を検出する障害物検出手段と、
走行路の路面状態を検出する路面状態検出手段と、
車両の走行状態を検出する走行状態検出手段と、
各タイヤの実際のタイヤ力を検出するタイヤ力検出手段と、
前記路面状態検出手段、前記走行状態検出手段、前記タイヤ力検出手段からの情報に基づいて、前記障害物検出手段により検出した障害物との衝突を回避するために各タイヤの目標制動力を設定する制動制御目標制動力設定手段と、
該制動制御目標制動力設定手段が設定した目標制動力の下で各タイヤの制動力を制御する制動制御手段と、
該制動制御手段による各タイヤの制動力を制御した後に、該制動力の制御に続いて左右のタイヤの制動力の差によって車両を旋回させる回頭制御手段と、
該回頭制御手段による車両の旋回方向を決定する障害物回避方向決定手段と、
前記回頭制御手段による各タイヤの制動制御の目標制動力を設定する回頭制御目標制動力設定手段とを有する車両用運動制御装置を提供することにより達成される。
すなわち、本発明によれば、衝突回避のための制御を行う直前の各タイヤの実際のタイヤ力を直接的に検出し、このタイヤ力や路面μなどのパラメータを取り込んで制動制御の目標値を設定すると共に制動制御に続いて左右タイヤの制動力の差によって障害物との衝突を回避するための回頭制御を行うようにしてある。このようにタイヤに作用する直接的な力に基づいて目標制動力を設定すると共に、ブレーキ力だけに依存した一連の運転制御によることから、障害物を回避するための運転制御をシームレスに且つ車両の安定性を確保しながら的確に障害物を回避することができる。
本発明の好ましい実施の形態によれば、
前記障害物検出手段と前記走行状態検出手段との信号を受けて、障害物までの到達時間である車頭時間を算出する車頭時間算出手段と、
該車頭時間算出手段が求めた車頭時間が到来したときに、前記路面状態検出手段と前記走行状態検出手段からの情報に基づいて各タイヤの最大タイヤ力を算出する最大タイヤ力算出手段と、
前記制動制御手段により設定された前記目標制動力で前記制動制御手段による制動制御を開始したとしたときの各タイヤの予想タイヤ負荷率を算出するタイヤ負荷率算出手段とを有し、
該タイヤ負荷率算出手段により求めた全ての予想タイヤ負荷率のうち、所定のしきい値を越えた予想タイヤ負荷率のタイヤが存在するときに、前記制動制御手段による制動制御を開始するタイミングを所定時間早めて、前記制動制御目標制動力設定手段が設定した目標制動力を再度算出する。これにより、制動制御手段による制動制御を最適化することができる。
また、本発明の好ましい実施の形態によれば、
前記障害物回避方向決定手段は、前記回頭制御目標制動力設定手段により設定された目標制動力により各タイヤの予想タイヤ負荷率を算出して該予想タイヤ負荷率が所定の負荷率よりも大きいタイヤが存在するときに、該予想タイヤ負荷率が所定の負荷率よりも大きいタイヤとは反対方向を回頭制御方向として決定する。これにより、回頭制御を実行したときにタイヤ負荷率が飽和(100%)してしまうタイヤの出現を抑えることができ、回頭制御によって車両の姿勢が不安定になるのを防止するこができる。
また、本発明の好ましい実施の形態によれば、
前記障害物回避方向決定手段は、前記回頭制御目標制動力設定手段により設定された目標制動力により各タイヤの予想タイヤ負荷率を算出して該予想タイヤ負荷率が所定の負荷率よりも大きいタイヤが存在しないときに、障害物を回避するのに必要な横方向移動量が相対的に小さい方向を回頭制御方向として決定する。これにより、回頭制御の左右のタイヤの制動力の差が小さくてもよいため、回頭制御によって車両の姿勢が不安定になるのを抑制することができる。
また、本発明の好ましい実施の形態によれば、
前記回頭制御による回頭制御方向が左右のいずれであってもよい場合に、前記回頭制御目標制動力設定手段は、左右の夫々の方向に回頭させて前記障害物との衝突を回避するのに必要な左右のタイヤ制動力差を実現するための各タイヤの目標制動力を算出する際に、該目標制動力で制動したときに最も大きなタイヤ負荷率となるタイヤの予想タイヤ負荷率が所定値となる前記各タイヤの目標制動力を設定する。この所定値を適切な値に設定することで、回頭制御における各タイヤの目標制動力を適切に設定することができ、これにより回頭制御での車両の姿勢を安定化することができる。
また、本発明の好ましい実施の形態によれば、
車両のサスペンションを制御するサスペンション制御手段を更に有し、
該サスペンション制御手段により、前記制動制御手段による制動制御の際に車体前後の荷重を均等化させるアンチピッチ制御が実行され、前記回頭制御手段による左右の制動力差の制御の際に車両が左右に傾くのを抑制するアンチロール制御が実行される。車体の前端が沈み込む傾向になる制動制御及びこれに続いて、車体が左右に傾く傾向になる回頭制御に際して、制動制御に付加してアンチピッチ制御を実行し、回頭制御に付加してアンチロール制御を実行することで車両の姿勢の安定化を一層確かなものにすることができ、ひいては、衝突回避制御での車両の姿勢の安定性を更に確かなものにすることができる。
本発明が適用された車両の一例を示す簡略斜視図である。 本発明の制御系統例をブロック図的に示す図である。 最大タイヤ力と横力と前後力とタイヤ負荷率との関係を示す図である。 実施例の衝突回避制御の一連の制御及びこれに伴うタイヤ負荷率の変遷の説明図である。 図4に図示の制御において第2工程の制動制御の目標制動力の設定の際に一つの設定基準とされるタイヤ負荷率D及び第3工程の回頭制御の目標制動力の設定の際に一つの設定基準とされるタイヤ負荷率Eを説明するための図である。 実施例の衝突回避制御の一つの具体例を示すフローチャートである。 衝突を回避するのに右方向への回頭制御しか選択できない例を示す図である。 衝突を回避するのに右方向及び左方向のどちらに回頭制御してもよい例を示す図である。 変形例の衝突回避制御の一連の制御及びこれに伴うタイヤ負荷率の変遷の説明図である。 図9に図示の変形例の制御において第2工程の制動制御の目標制動力の設定の際に一つの設定基準とされるタイヤ負荷率D及び第3工程の回頭制御の目標制動力の設定の際に一つの設定基準とされるタイヤ負荷率Eを説明するための図である。 アンチピッチ制御及びアンチロール制御を付加する例をドライバが衝突回避のためにブレーキ操作、これに続くステアリング操作との関係で説明する図である。 アンチロール制御における前輪及び後輪の制御ゲインの好ましい設定を説明するための図である。
以下に、添付の図面に基づいて本発明の好ましい実施例を説明する。
図1において、車両としての自動車VCは、左前輪1FLと、右前輪1FRと、左後輪1RLと、右後輪1RRとを有し、各車輪を特に区別する必要のないときは、車輪1として総称することとする。また、車輪について使用した符号を、そのタイヤについての符号として用いることもある。各車輪1は、車体に対して、サスペンションアーム等を介して上下方向に揺動可能に保持されている。各車輪1は、個々独立して、その転舵角度、制動力および駆動力が変更可能となっている他、接地荷重も変更可能となっている。このため、各車輪1には、舵角制御装置10、制動力制御装置11、駆動力制御装置12、サスペンション制御装置13が個々独立して設けられている。
前記舵角制御装置10は、例えば各車輪1を転舵させる力を付与する油圧式や電気式のアクチュエータを利用して構成することができる。前記制動力制御装置11は、例えば車輪1に付与するブレーキ力を調整する油圧式あるいは電気式のアクチュエータを利用して構成することができ、特に最近の車両において搭載されていることの多いABS制御装置やトラクション制御装置を利用することができる。
前記駆動力制御装置12は、各車輪共通用のエンジンやモータからの駆動力をトルク配分制御するものとして構成することができる。勿論、各車輪1毎に個々独立して駆動モータを有する場合は、この各駆動モータの発生トルクを制御するものとして構成してもよいことは言うまでもない。前記サスペンション制御手段13は、いわゆるアクティブサスペンション制御装置において用いられている車高調整用のシリンダ装置を制御するものとして構成することができる。
各車輪1には、個々独立して、そのタイヤ力等を検出するタイヤ力センサ20が設けられている。「タイヤ力」は、タイヤ1に作用している横力と前後力とを合成した力を意味する。タイヤ力センサ20としては、例えば、各車輪1が保持されるハブに組み込まれた6分力センサを用いることができる。この6分力センサによって、左右、前後、上下の各方向において車輪(つまりタイヤ)に作用している力を検出することが可能となっている。
図1において、Uは、マイクロコンピュータを利用して構成されたコントローラ(制御ユニット)であり、このコントローラUは、後述するように、各車輪1の制動力による衝突回避のための制御手段を構成している。コントローラUを含む制御系統の全体が、ブロック図的に図2に示される。
図2において、コントローラUによって、前述した各制御装置10〜13が制御される。このため、コントローラUには、前述のタイヤ力センサ20からの信号の他、各種センサS1〜S5からの信号が入力される。センサS1は、ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキセンサである。センサS2は、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を検出するアクセルセンサである。センサS3は、ハンドル15(図1)の操作量を検出するハンドルセンサである。センサS4は、路面μ(摩擦係数)を検出するμセンサであり、このμセンサS4は路面状態検出手段を構成する。S5は、前方に向けて配設されたカメラであり、このカメラS5は、実施例では、障害物の検出手段と障害物までの距離を計測する距離計測検出手段とを兼用するものであるが、距離計測手段に関してレーザーなど既知の手段を採用してもよい。カメラS5は、検出した障害物との相対位置(距離)や相対速度を検出する車両走行状態検出手段の一部を構成する。なお、この他のセンサとして、車両に一般的に搭載されている車速センサを含んでおり、この車速センサは車両の走行状態検出手段の一部を構成している。
ここで、タイヤ力は、前述したように、タイヤ1に作用している横力と前後力とを合成した力である。このタイヤ力について、図3を参照しつつ説明する。まず、Fmaxで示す円が摩擦円であり、このFmaxが最大タイヤ力となる。この最大タイヤ力Fmaxは、主として接地加重と路面μとによって決定される。タイヤに作用している前後力をFyで示し、横力をFxで示すと、前後力Fyと横力Fxの合成力Fxyが実際のタイヤ力であり、タイヤ力Fxyは、「(Fxの2乗+Fyの2乗)の1/2乗」となる。そして、最大タイヤ力Fmaxに対するタイヤ力Fxyの割合がタイヤ負荷率ηとなる。また、最大タイヤ力Fmaxからタイヤ力Fxyを差し引いた差分値Δfは、さらに発揮できるタイヤ力の余裕力である。したがって最大タイヤ力に対する上記差分値Δfの割合がタイヤ余裕率となる。
障害物回避における運動制御で重要なことは、各タイヤについて、そのタイヤ力Fxyがその最大タイヤ力Fmaxを越えないようにすることである(負荷率を100%未満にする)。特に、全ての車輪1がほぼ同時に負荷率100%を越えないようにすることが、車両の急激な姿勢変化を防止あるいは抑制する上で重要となる。
以上のことを前提して、図4〜図8を参照して、実施例に関連した衝突回避制御について説明する。図4は前方障害物を検知してから障害物回避制御を完了するまでの一連の工程を示すものであるが、各工程で図示した各タイヤの二重円は図3で説明したタイヤ力を説明するのであって、外側の円は最大タイヤ力Fxymaxであり、内側の円は実際の又は予想されるタイヤ力Fxyである。なお、後に説明する図9も同様である。
時系列で説明すると、第1工程では、障害物回避の制御を実行した際のタイヤ負荷率の予測が行われる。各タイヤの予測タイヤ負荷率が100%を越えないように目標制動力が設定され、この目標制動力に基づいて次の第2工程である制動制御が実行される。そして、この制動制御だけでは障害物を回避できないときに左右の制動力の差によって車両を旋回させる回頭制御が実行される。
第1工程である予測工程では、第2工程の制動制御を実行するタイミングである車頭時間Bの設定及びこの制動制御を開始する際の目標制動力の設定が行われる。そして、この目標制動力の下で制動制御を実行したとしたときに予測される各タイヤのタイヤ負荷率ηi(i=1〜4)を算出し、もし、予測タイヤ負荷率ηi(i=1〜4)が所定のしきい値Dよりも大きいタイヤが存在しそうであれば、車頭時間Bを所定の延長時間ΔBだけ延長する車頭時間Bの再設定を行って各タイヤの目標制動力の再設定が行われる。この目標制動力の再設定は、全てのタイヤの予測タイヤ負荷率ηi(i=1〜4)が所定のしきい値D以下になるまで行われる。ここに車頭時間とは「自車両が障害物に到達するまでの時間」として定義される。したがって、車頭時間Bの延長は、第2工程の制動制御を開始するタイミングを所定の時間ΔBだけ早めることを意味する。上記しきい値Dは、第2工程の制動制御及び/又は第3工程の回頭制御を実行してもタイヤ負荷率が100%を越えることのない、一定の余裕度を有するしきい値が設定される。
第2工程の制動制御における各タイヤの目標制動力の算出に関して、好ましくは、対角線上に位置する(平面視において対角線上に位置する)対となる車輪を想定した制動制御が行われる。すなわち、左前輪1FLと右後輪1RRとを一方の対の車輪(タイヤ)として想定し、同様に、右前輪1FRと左後輪1RLとを他方の対となる車輪(タイヤ)として想定して、一方の対を構成する左前輪(タイヤ)1FLの負荷率η1と、右後輪1RR(タイヤ)の負荷率η4とが互いに均等となるように制動制御における各タイヤの目標制動力を設定し、他の対となる右前輪(タイヤ)1FRの負荷率η2と、左後輪1RL(タイヤ)の負荷率η3とが互いに均等となるように制動制御における目標制動力を設定するのが好ましい。このような目標制動力の設定方法を採用することにより、第2工程での制動制御によって車両の急激な姿勢変化の発生を防止することができる。
回頭時間Bの位置まで車両が進むと第2工程の制動制御が実行される。この制動制御は、各タイヤに上記目標制動力が作用するように実行される。次いで、回頭時間Cの位置まで車両が進むと回頭制御が実行される。なお、回頭時間Bの初期値は、予め記憶されたデータが読み出され、上記予測タイヤ負荷率が所定しきい値以下となるように調整され、回頭時間Cも予めデータ化されて記憶されている。
第3工程の回頭制御は左右輪の制動差によって行われる。障害物を回避するための車両の旋回方向に関しては、例えば三車線道路の中央車線を走行中であるとすると、左車線に向けて回頭すると例えば左車線を走行中の他の車両と衝突する危険性があるような場合には、相対的に安全性を確保することのできる右車線に向けて車両が回頭動作するように左右輪の制動差の制御を実行するのがよい。また、左右のどちらの車線に回頭しても安全性が確保できるような場合には、障害物を回避するのに横方向に移動する移動量が小さい方向に車両を回頭させるように左右輪の制動差の制御を実行するのがよい。
上述した第1〜第3の工程の制御に関し、その具体例を図6のフローチャートを参照して説明する。先ずステップS100で、各センサS1〜5及びタイヤ力センサ20などからの信号(車速信号を含む)の入力処理が行われる。次いでステップS101で車頭時間が算出される。車頭時間とは、前述したように、障害物に到達するまでの時間をいい、このステップS101での車頭時間の算出は、障害物と衝突する危険性が有ると判定して第1工程の予測工程を開始する時間Aに関して行われる。この車頭時間Aは、自車両の車速、障害物との相対速度、障害物の位置や障害物の距離などによって決定される。
ステップS102で車頭時間Aの位置に車両があると、第1工程の予測工程が実行される。必要であれば、この段階で警報を鳴らしてドライバに注意を促すようにしてもよい。次のステップS103では、後に説明する第2工程の制動制御を開始するタイミングである車頭時間Bの読み出しが実行される(ステップS103)。この車頭時間Bは、自車両の車速、障害物との相対速度、障害物との距離によって予めデータ化されている。勿論、前述したステップS101の車頭時間算出の工程において、前記車頭時間Aに加えて車頭時間Bを算出するようにしてもよい。
次のステップS104では、各タイヤの最大タイヤ力Fmaxi(i=1〜4)の算出が行われる。各タイヤの最大タイヤ力Fmaxi(i=1〜4)は、実際の各タイヤの接地荷重、路面μを取り込んで、これらのデータに基づいて算出される。次のステップS105では、次の制動制御で使用する各タイヤの目標制動力が算出される。ここに各タイヤの「目標制動力」は、以下により算出される。
v=現車速、vc=第2工程終了時(=第3工程開始時)の目標車速、Tb=車頭時間B、Tc=車頭時間Cとすると、第2工程における目標減速度atは、下記の式より算出される。
at=(v−vc)/(Tb−Tc)
これより、第2工程における全目標制動力はF=m×atとなり、これより各輪の目標制動力を、夫々、次の式で表すことができる。
FR=FFL=(α×m×at)/2;
RR=FRL=((1−α)×m×a)/2
ここに、αは前輪のブレーキ配分率である。
次のステップS106では、目標制動力に基づいて制動したときに予測される各タイヤの予測負荷率ηi(i=1〜4)が算出される。このタイヤ負荷率ηiは、制動力を与えたときに発生するであろう前後力及び横力を演算し、これにより得られた前後力と横力との合成力(タイヤ力Fxy)と最大タイヤ力Fmaxとの関係から求めることができる。
各タイヤの予測負荷率ηi(i=1〜4)のなかで所定の負荷率D(しきい値)よりも大きい予測負荷率ηiのタイヤが存在するようであれば、ステップS107からステップS108に移行して、車頭時間Bに延長時間ΔBを加算した車頭時間Bの再設定が行われ、この再設定した車頭時間Bに基づいて各タイヤの目標制動力の再度の算出が実行される。このように予測負荷率ηiを監視したなかで目標制動力を設定することで第2工程での制動制御に用いる目標制動力の値を最適化することができる。
ステップS107において、全てのタイヤの予測負荷率ηi(i=1〜4)がしきい値D以下であると判定したときにはステップS109に進む。
ここに、各タイヤの目標制動力を決定に影響を及ぼす上記しきい値(ステップS107のしきい値としての負荷率D)は、図5から分かるように、飽和負荷率よりも小さな値である。更に詳しくは、後の回頭制御において左右のタイヤ間に制動差を与えるために制動力を更に付加したときに車両旋回内側に位置するタイヤ、特に内側前輪のタイヤの負荷率が上昇することになるが、この旋回内側の前輪タイヤの負荷率が100%を越えないような値を上記しきい値Dとして設定するのがよい。このしきい値Dの設定に関し、障害物の大きさや車線の幅の大小、衝突回避のために必要となる自車両の横方向の移動量の大小に応じた値を設定するのが好ましい。
車頭時間Bが到来すると、ステップS109からステップS110に進んで第2工程の制動制御が行われる。制動制御では、各車輪の制動力が目標制動力となるように制御される。
そして、車頭時間Cが到来すると、ステップS111からステップS112に進んで第3工程の回頭制御が行われる。回頭制御では、先ず、ステップS112において、障害物を回避するための車両の旋回方向の検出及び当該障害物を回避するのに必要な車両の横方向への移動量の検出が行われる。
図7は、走行中の中央車線の左前方に車両が停止しており、右の車線が空いている状況を図示している。このような場合、右方向を旋回方向とする必要がある。
すなわち、図6のステップS114に関して、図7の例で説明すれば障害物との衝突を回避するのに必要とされる右方向への移動量を実現するための左右タイヤの目標制動差の算出が行われる。この目標制動差の算出は前輪に関してだけであってもよいが、後輪に関しても左右のタイヤの目標制動差を算出するようにしてもよい。次のステップS115では、上記の目標制動差に基づいて各タイヤの目標制動力が算出される。この目標制動力の算出の際に、予想される各タイヤの負荷率ηiを算出し、最もタイヤ負荷率ηiが大きくなるタイヤの予想負荷率ηiが所定の負荷率Eとなるように回頭制御における各タイヤの目標制動力が算出されて、この目標制動力が設定される。ここに、所定の負荷率Eは、図5に例示するように負荷率が100%よりも小さく且つ100%に近い値であるのがよい。この所定の負荷率Eとして適切な値に設定することで、回頭制御における各タイヤの目標制動力を適切に設定することができ、これにより回頭制御での車両の姿勢を安定化することができる。
前述したステップS113において、左右のいずれにも回避することができると判定されたときには、ステップS117に進んで、左右の各々に回避する場合に、障害物を回避するのに必要とされる横移動量を実現するために必要な左右タイヤの制動力の差が算出される。この左右のタイヤの制動差は前輪だけでなく後輪も含めてもよい。
そして、次のステップS118において、そして、左方向又は右方向への各々の衝突回避運転を実現するための各タイヤの目標制動力の算出が行われ、そして、次のステップS119で、各タイヤに目標制動力を与えたときに予想される各タイヤの負荷率ηiを算出が行われる。
次のステップS120において各タイヤの予想負荷率ηiの中に所定値D(前述した図5を参照)を越える負荷率のタイヤが存在するか否かの判定が行われ、もし予想負荷率ηiが所定のしきい値Dを越えるタイヤが存在していれば、ステップS121に進んで、当該所定のしきい値Dを越える予想負荷率ηiが存在する側とは反対の側に回避する制御が選択されて回頭制御が実行される。すなわち、予想負荷率ηiがしきい値Dを越えるタイヤに注目して、このタイヤが車両旋回の外側輪となる方向に車両を旋回させる回頭制御が実行される。
上記ステップS120において、左右の旋回方向のいずれも予想タイヤ負荷率ηiがしきい値Dを越えるタイヤが存在していなければ、ステップS122に進んで、上記ステップS117で求めた横移動量が相対的に小さい旋回方向が選択されて回頭制御が実行される。すなわち、車両を左方向に旋回させるよりも右方向に旋回させた方が、障害物を回避するために必要とされる横方向の移動量が小さいのであれば、この横移動量が小さい右方向への回頭制御が実行される。
上述した衝突回避制御を実行することにより、第2工程の制動制御から第3工程の回頭制御に至る衝突回避のための運転制御をシームレスに実現することができる。また、制動制御及びこれに続く回頭制御において全てのタイヤの負荷率が100%を越えてしまうのを的確に防止できるため、車両の制御不能な姿勢変化の発生を未然に防止することができる。
前述した実施例では、第3工程の回頭制御において左右のタイヤの制動力の差を設定するために旋回内側のタイヤの制動力を増大する方向に制御したが、変形例として、図9、図10に例示するように、第2工程の制動制御では限界に近い目標制動力を設定し、次の第3工程の回頭制御では、制動力を弱めことで左右の制動力差を実現するようにしてもよい。
上述した実施例及び変形例において、第2工程の制動制御に伴って車体前端が沈み込むのを抑制するためにサスペンション制御装置13のアンチピッチ制御によって前後の荷重を均等化させるようにしてもよい。また、第3工程の回頭制御に伴って車両が左右に傾くのを抑制するために第3工程にサスペンション制御装置13によるアンチロール制御を加えてもよい。このようなアンチピッチ及び/又はアンチロール制御を加えることで車両の前後方向及び左右方向の姿勢変化を抑制しつつ衝突回避運転を実現することができる。
なお、図11及び図12は、ドライバのブレーキ操作及びこれに続くステアリング操作によって衝突回避運転を行った場合に、ドライバのブレーキ操作の最中はアンチピッチ制御を行い、ステアリング操作の最中ではアンチロール制御を加える例によって図示してあるが、このブレーキ操作が上述した第2工程の制動制御に相当し、ステアリング操作が上述した第3工程の回頭制御に相当することは言うまでもない。
アンチロール制御においては、回頭制御が完了するまでの時間経過に応じて前輪に関しては制御ゲインを徐々に小さくし、後輪に関しては制御ゲインを徐々に大きくすることで、旋回中の車両の姿勢を一層安定化することができる。
なお、図6のフローチャートに示すステップあるいはステップ群は、コントローラUの有する機能として把握することができ、またその機能を示す総称に「手段」の名称を付して表現することもできる。
U:コントローラ(衝突回避制御手段)
11:制動力制御装置
20:タイヤ力センサ
S1:ブレーキセンサ
S4:路面μセンサ
S5:カメラ
fmax:最大タイヤ力
Fx:横力
Fy:前後力
η:タイヤ負荷率

Claims (6)

  1. 車両の前方に位置する障害物との衝突を回避するために、各タイヤの制動力を制御する車両用運動制御装置であって、
    車両前方の障害物を検出する障害物検出手段と、
    走行路の路面状態を検出する路面状態検出手段と、
    車両の走行状態を検出する走行状態検出手段と、
    各タイヤの実際のタイヤ力を検出するタイヤ力検出手段と、
    前記路面状態検出手段、前記走行状態検出手段、前記タイヤ力検出手段からの情報に基づいて、前記障害物検出手段により検出した障害物との衝突を回避するために各タイヤの目標制動力を設定する制動制御目標制動力設定手段と、
    該制動制御目標制動力設定手段が設定した目標制動力の下で各タイヤの制動力を制御する制動制御手段と、
    該制動制御手段による各タイヤの制動力を制御した後に、該制動力の制御に続いて左右のタイヤの制動力の差によって車両を旋回させる回頭制御手段と、
    該回頭制御手段による車両の旋回方向を決定する障害物回避方向決定手段と、
    前記回頭制御手段による各タイヤの制動制御の目標制動力を設定する回頭制御目標制動力設定手段とを有する車両用運動制御装置。
  2. 前記障害物検出手段と前記走行状態検出手段との信号を受けて、障害物までの到達時間である車頭時間を算出する車頭時間算出手段と、
    該車頭時間算出手段が求めた車頭時間が到来したときに、前記路面状態検出手段と前記走行状態検出手段からの情報に基づいて各タイヤの最大タイヤ力を算出する最大タイヤ力算出手段と、
    前記制動制御手段により設定された前記目標制動力で前記制動制御手段による制動制御を開始したとしたときの各タイヤの予想タイヤ負荷率を算出するタイヤ負荷率算出手段とを有し、
    該タイヤ負荷率算出手段により求めた全ての予想タイヤ負荷率のうち、所定のしきい値を越えた予想タイヤ負荷率のタイヤが存在するときに、前記制動制御手段による制動制御を開始するタイミングを所定時間早めて、前記制動制御目標制動力設定手段が設定した目標制動力を再度算出する、請求項2に記載の車両用運動制御装置。
  3. 前記障害物回避方向決定手段は、前記回頭制御目標制動力設定手段により設定された目標制動力により各タイヤの予想タイヤ負荷率を算出して該予想タイヤ負荷率が所定の負荷率よりも大きいタイヤが存在するときに、該予想タイヤ負荷率が所定の負荷率よりも大きいタイヤとは反対方向を回頭制御方向として決定する、請求項1又は2に記載の車両用運転制御装置。
  4. 前記障害物回避方向決定手段は、前記回頭制御目標制動力設定手段により設定された目標制動力により各タイヤの予想タイヤ負荷率を算出して該予想タイヤ負荷率が所定の負荷率よりも大きいタイヤが存在しないときに、障害物を回避するのに必要な横方向移動量が相対的に小さい方向を回頭制御方向として決定する、1又は2に記載の車両用運動制御装置。
  5. 前記回頭制御による回頭制御方向が左右のいずれであってもよい場合に、前記回頭制御目標制動力設定手段は、左右の夫々の方向に回頭させて前記障害物との衝突を回避するのに必要な左右のタイヤ制動力差を実現するための各タイヤの目標制動力を算出する際に、該目標制動力で制動したときに最も大きなタイヤ負荷率となるタイヤの予想タイヤ負荷率が所定値となる前記各タイヤの目標制動力を設定する、請求項1又は2に記載の車両用運動制御装置。
  6. 車両のサスペンションを制御するサスペンション制御手段を更に有し、
    該サスペンション制御手段により、前記制動制御手段による制動制御の際に車体前後の荷重を均等化させるアンチピッチ制御が実行され、前記回頭制御手段による左右の制動力差の制御の際に車両が左右に傾くのを抑制するアンチロール制御が実行される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の車両用運動制御装置。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2017200792A (ja) * 2016-05-02 2017-11-09 いすゞ自動車株式会社 車両制御装置及び車両制御方法

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