JP2010150667A - 電磁鋼板とその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】使用時に抗張力TSが60kg/mm2 以上の高強度となり、耐変形性、耐疲労性、耐摩耗性等を有し、通常の軟質な電磁鋼板と同等のすぐれた磁気特性を兼ね備えた高強度無方向性電磁鋼板を、例えば冷間圧延性など通常の電磁鋼板と変わることなく、安定してオンラインで製造することを目的とする。
【解決手段】質量%で、C:0.0400%以下、Si:0.2〜6.5%、Mn:0.05〜10.0%、P:0.30%以下、S:0.020%以下、Al:15%以下、N:0.0400%以下、さらにNi、Mo、Ti、Nb、Co、Wの1種または2種以上を各元素について15.0%以下を含有し、鋼材内部に直径0.050μm以下、数密度20個/μm3以上の金属間化合物を含有し、鋼組織は主としてフェライト相からなりマルテンサイト相の体積率が50%以下であることを特徴とする高強度電磁鋼板。
【選択図】図1

Description

本発明は、高強度電磁鋼板、特に高強度無方向性電磁鋼板に係わり、高速回転機用の低鉄損、かつ高磁束密度で強度の高い磁性材料および電磁開閉器用の耐摩耗性に優れた高い強度が必要とされる用途向けの磁性材料とその製造方法に関する。
従来、回転機器に要求されていた回転数は、高々10万rpm 程度であり、ローター(回転子)用材料には積層された電磁鋼板が用いられてきた。最近、20〜30万rpm もの超高速回転が要求されるようになり、ローターに加わる遠心力が、電磁鋼板の強度を上回る可能性が出てきた。さらにローターに磁石を組み込む構造のモーターも多くなっており、ローターの回転中にローター材料自身に加わる荷重は大きなものとなっており、疲労強度やクリープ強度の面でも材料の強さが問題となることが多くなっている。
また、電磁開閉器はその用途上、使用するにつれて接触面が摩耗するため、電磁特性だけでなく耐摩耗性の優れた磁性材料が望まれる。
このようなニーズに対応した強度が高い無方向性電磁鋼板について、いくつか提案されている。例えば、特許文献1、2では、Fe−Ni−Alをベースとしたマルエージ鋼に、Mo,Crなどを添加し組織強化、固溶体強化に加え金属間化合物の析出強化を活用した鋼が提案されている。マルエージ鋼は鋼板の強度は十分であるがマルテンサイト変態による組織強化、つまり変態時に鋼中に大量に導入される転位による強化を用いているため通常の珪素鋼板と比較した場合、磁気特性の低下は避けられない。またNi等の元素の少なからざる部分は固溶元素として残存してしまうためこれらの元素を多量に含有させたにも関わらず合金コストに見合うだけの強度上昇が図られておらず、コストパフォーマンスが低い。また、この技術は比較的古い時期に確立されているため、その後進展した鋼成分の高純度化に対応した技術とはなっていない。
また、マルエージ鋼のような少なからず固溶元素による強化を活用するものでは、磁気特性の面からは本質的に飽和磁束密度が低下してしまうため製品板の磁束密度も低くならざるを得ない。
また、特許文献3のようにSi含有量を高め、C量を比較的多くした上にTi,Nb,Zrなどの炭窒化物形成元素の1種または2種以上を含有させ析出強化を用いると共にNi等の固溶体強化を用い、さらに微細な析出物による強化を活用するため焼鈍温度を低くして結晶粒の微細化による強化も用いる技術が実用化されている。
しかし、炭、窒、硫化物等はそれ自身の影響により、また結晶組織の微細化によっても磁束密度や鉄損といった磁気特性が劣化してしまう。さらに、このように多量の合金に加え多量の炭化物、窒化物、硫化物が形成されると鋼板が顕著に脆化してしまい、製造工程で板破断しやすくなり生産性を顕著に阻害してしまうだけでなく、高強度電磁鋼板では本来必要とされるはずの磁気特性が顕著に劣化してしまうことが本質的な問題となっている。また、結晶組織の微細化は、高強度化の点では好ましい反面、鉄損が上昇してしまうという問題がある。
また、このように結晶組織の微細化や析出物により強化した材料では、モーターなどの電気部材として加工する際に鋼板に導入される加工歪を除去するための歪取り焼鈍(SRA)工程で、その高温保持中に起きる結晶組織の粗大化や、析出物の粗大化を避けることができず、強度の低下が起きてしまう。
また、これらの高強度材の使用は電気部材への加工時、特に剪断工程において金型の磨耗を早めることにもなるため、電気部材の製造コストを上昇させる要因にもなる。
特公昭58−18424号公報 特開昭61−84360号公報 特開平2−8346号公報
上述したように、高強度の電磁鋼板について多くの提案がなされているが、必要な磁気特性を確保しつつ、通常の電磁鋼板製造設備を用いて、工業的に安定して製造できるには到っていないというのが実情である。また、電気部材への加工後に行なわれる歪取り焼鈍工程での軟質化や、電気部材への加工金型の磨耗などの残された課題も多い。
本発明は、電気製品の部品としての最終的な使用時に抗張力(TS)が60kg/mm2 以上の高強度で、耐摩耗性を有するとともに、磁束密度や鉄損が優れた磁気特性を兼ね備えた高強度無方向性電磁鋼板、例えば冷間圧延性など通常の電磁鋼板と変わることなく、安定してオンラインで製造することを目的とする。
さらに、電気部材の加工が完了するまでは比較的軟質で、電気部材への加工後の熱処理により硬質化し、電気部材として使用する際には高強度および耐摩耗性などの特性を示すとともに、良好な磁気特性を兼ね備えた電磁鋼板を製造することを目的とする。
本発明者は上記課題を解決するために主としてCuからなる微細な金属相を鋼中に分散し、そのサイズ等を適正に制御することで従来ではなしえなかった高強度と良好な磁性を両立できることを知見し、さらに微細なCu金属相を部品への加工後の熱処理により形成させることで加工金型の磨耗等の問題も回避できることを発案し、特願2002−345999号等で技術開示した。この技術のポイントを簡単に述べれば、転位移動の障害となるが磁壁移動の障害にはならないような物質を好ましい時期に鋼中に分散させることである。本発明はこの技術ポイントについて従来の高強度電磁鋼板の問題点を考慮した上でさらに詳細に検討しなされたものであり、その技術のポイントは以下のとおりである。
1)鋼板中にサイズ、密度を適当に制御した金属間化合物を分散させる。
2)鋼板および製品の熱処理過程においてマルテンサイト変態を抑制するような構成分および熱履歴とする。
3)製造工程の途中で金属間化合物が多量に形成されると圧延等に支障をきたす場合があるので、その生成時期を成分、熱履歴により好ましく制御する。
4)鋼板を利用したモーター部品等への加工後の熱処理により金属間化合物が生成するように制御する。
本発明は、上記技術を具現化するもので以下の内容を要旨とする。
(1)質量%で、C:0.0400%以下、Si:0.2〜4.0%、Mn:0.05〜5.0%、P:0.30%以下、S:0.020%以下、Al:8.0%以下、N:0.0400%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、組織が体積率でフェライト相:50%以上、マルテンサイト相:50%以下を満足する範囲で主としてフェライト相からなり、かつ、鋼材内部に直径0.050μm以下の金属間化合物を数密度で20個/μm 以上含有することを特徴とする電磁鋼板。
(2)質量%で、Fe:70%以上およびNi、Mo、Ti、Nb、Co、Wの1種または2種以上を各元素について10.0%以下含有することを特徴とする(1)に記載の電磁鋼板。
(3)質量%で、Zr、Cr、B、Cu、Znの1種または2種以上を各元素について10.0% 以下含有することを特徴とする(1)又は(2)に記載の電磁鋼板。
(4)質量%で、V、Taの1種または2種以上を各元素について5.0%以下含有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかの項に記載の電磁鋼板。
(5)前記鋼板の結晶粒の平均直径が400μm以下である(1)〜(4)のいずれかの項に記載の電磁鋼板。
(6)(1)〜(5)のいずれかの項に記載の成分からなる鋼材から製品板を製造する過程において、熱延仕上げ後の300℃までの平均冷却速度を50℃/秒以上とし、冷間圧延の直前までは金属間化合物の形成を回避するような熱履歴を経て、かつ、冷間圧延の後の工程において金属間化合物が形成される熱履歴である300〜900℃での滞在時間を10秒以上とする熱履歴を経ることを特徴とする電磁鋼板の製造方法。
(7)マルテンサイト変態が起きないような熱履歴を経ることを特徴とする(6)に記載の電磁鋼板の製造方法。
(8)前記金属間化合物が形成される熱履歴後、900℃を超える温度域に20秒以上保持しないことを特徴とする(6)又は(7)に記載の電磁鋼板の製造方法。
本発明は硬質で磁気特性のすぐれた高強度電磁鋼板を安定して製造することができる。これにより磁気特性を劣化させず、強度、疲労強度、耐磨耗性の確保が可能となるため超高速回転モーターやローターに磁石を組み込んだモーターおよび電磁開閉器用材料の高効率化、小型化、超寿命化などが達成される。
本発明鋼板のSi含有量と引っ張り強度の関係を示す概念図。 本発明鋼板の引っ張り強度と鉄損の関係を示す概念図。
本発明者らは、前記目的を達成すべく種々実験し検討を重ねてきた。即ち本発明は、Feを70%以上含有する鋼材であって、成分、製造工程条件の適正な制御により微細な金属間化合物を好ましい時期に電磁鋼板内に生成させることにより、板破断などのトラブルを起こすことなく安定した製造方法により高強度かつ良好な磁気特性を示す電磁鋼板を得るものである。
また、本発明は、結晶組織を微細化させずかつ板破断などのトラブルを生じない安定した工程条件を経て、電磁鋼板の製造過程では金属間化合物を鋼板内にほとんど生成させず、電気部品への加工後の熱処理過程で微細な金属間化合物を電磁鋼板内に生成させることにより、電気部品への加工時に良好な加工性を有し、かつ電気部品としての使用時に硬質かつ磁気特性が良好となる電磁鋼板を得るものである。
先ず、本発明による高強度電磁鋼板の成分組成について説明する。
Cは磁気特性を劣化させるばかりでなく、熱処理においてマルテンサイト変態を誘起し磁気特性を劣化させる場合があるので0.0400%以下とする。高強度化、特に降伏応力の上昇や温間強度、クリープ強度の向上、温間での疲労特性を向上させる観点からは有効な元素である。また集合組織改善に有効に働き、磁性にとって好ましくない{111}方位の発達を抑制し、好ましい{110}や{100}、{114}等の方位の発達を促進する効果もある。この観点からは好ましくは0.0031〜0.0301%、さらに好ましくは0.0051〜0.0221%、さらに好ましくは0.0071〜0.0181%、さらに好ましくは0.0081〜0.0151%である。発明範囲内であれば緩冷却、低温保持等の熱履歴等により磁気時効もそれほど大きな問題とはならない程度に抑制することも可能である。また特に磁気時効に対する要求が非常に厳しい場合はスラブの段階までは脱酸効率の観点からより高いCを含有させておき、コイルとした後の脱炭焼鈍により0.0040%以下までCを減じることも可能である。製造コストの観点からは溶鋼段階で脱ガス設備によりC量を低減しておくことが有利で、0.0030%以下とすれば磁気時効抑制の効果およびマルテンサイト変態回避の効果が著しく、高強度化の主たる手段として炭化物等の非金属析出物を用いない本発明鋼においては0.0020%以下とすることがさらに好ましく、0.0015%以下がさらに好ましい。0%であっても構わない。
Siは鋼の固有抵抗を高めて渦電流を減らし、鉄損を低下せしめるとともに、抗張力を高めるが、添加量が0.2%未満ではその効果が小さい。低Si鋼では鋼の脆化もほとんどなく、Si含有量を増大させれば鉄損を低減しつつ強度を高めることが可能であるが、本発明による金属間化合物による強化鋼は従来の高Si等の固溶体強化鋼のような磁束密度への悪影響をほとんど及ぼさず、固溶体強化鋼以上の高強度化を可能にする。とは言え、特に高周波用途等においてSi等の固溶元素による渦電流損失の低減効果を考えると、好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは2.0%以上Siを含有する鋼を対象とすることで従来ではなしえなかったレベルで本発明の効果を享受することが可能となる。
また、Si量を高めることは本発明で制御すべきマルテンサイト変態を回避するためにも都合がよい。本発明鋼では金属間化合物を構成する元素としてSiを用いる場合もあるため鋼種によっては通常より多量な添加を行うことが好ましい。一般には3.2%以上では鋼が顕著に脆化してしまうが、マルテンサイト変態の回避および金属間化合物の形成を目的として添加したSiの少なからざる量が製造工程の途中でも金属間化合物として存在する本発明鋼では脆化の程度は通常の鋼よりは軽減される。しかし4.5%を超えると鋼を脆化させ、さらに製品の磁束密度を低下させるため4.5%以下とする。好ましくは4.0%以下、さらに好ましくは3.5%以下である。
Mnは鋼の強度を高めるため積極的に添加してもよいが、高強度化の主たる手段として微細金属間化合物を活用する本発明鋼ではこの目的のためには特に必要としない。本発明においては主として金属間化合物の構成元素として添加することが可能である。また、良く知られているように固有抵抗を高めまたは硫化物を粗大化させ結晶粒成長を促進することで鉄損を低減させる目的で添加することも可能である。しかし、過剰な添加は磁束密度を低下させるばかりでなく本発明で避けるべきマルテンサイト変態を起きやすくする場合があるので、0.05〜5.0%とする。好ましくは0.6〜3.5%である。
Pは固溶体強化により抗張力を高める効果の著しい元素であるが、この目的ではあえて添加する必要はない。0%であっても構わない。一方、0.3%を超えると脆化が激しく、工業的規模での熱延、冷延等の処理が困難になるため、上限を0.30%とする。好ましくは0.10%以下である。
Sは硫化物を形成し磁気特性、特に鉄損を劣化させる場合があるので、Sの含有量はできるだけ低いことが好ましく0%であっても構わない。本発明では0.020%以下と限定する。好ましくは0.0040%以下、さらに好ましくは0.0020%以下、さらに好ましくは0.0010%以下である。
Alは通常、脱酸剤として添加されるが、Alの添加を抑えSiにより脱酸を図ることも可能である。Al量が0.005%程度以下のSi脱酸鋼ではAlNが生成しないため鉄損を低減する効果もある。逆に積極的に添加しAlNの粗大化を促進するとともに固有抵抗増加により鉄損を低減させることもできる。本発明では金属間化合物の構成元素として積極的に添加される特に重要な元素であるとともに本発明で回避すべきマルテンサイト変態を抑制する効果も有するが、8.0%を超えると脆化が問題になるため、上限を8.0%以下とする。また金属間化合物の種類にもよるが効果を得るためには少なくとも0.1%は添加する。上限は好ましくは6.0%、さらに好ましくは5.0%、さらに好ましくは4.0%、さらに好ましくは3.0%である。下限は好ましくは0.3%、さらに好ましくは0.5%、さらに好ましくは0.8%、さらに好ましくは1.0%である。
NはCと同様に磁気特性を劣化させるので0.0400%以下とする。特にAlが0.005%程度以下のSi脱酸鋼ではCと同様に高強度化、特に降伏応力の上昇や温間強度、クリープ強度の向上、温間での疲労特性を向上させる他に、集合組織改善の観点から有効な元素である。この観点からは好ましくは0.0031〜0.0301%、さらに好ましくは0.0051〜0.0221%、さらに好ましくは0.0071〜0.0181%、さらに好ましくは0.0081〜0.0151%である。ただしAlが0.010%程度以上含有する場合に多量のNを含有させると微細な窒化物を多量に形成し磁気特性を顕著に劣化させることがあるため避けることが好ましい。
特に本発明鋼で特徴的な金属間化合物としてAl、Ti等の強い窒化物生成元素を含有する相を形成する場合はNを添加してまで含有量を高めるべきではない。理想的には窒化物形成元素がすべて金属間化合物になれば窒化物は形成されないが、少なからざる量の窒化物が形成し含有するほとんどのNは窒化物となってしまうからである。
金属間化合物の構成元素として強い窒化物形成元素を使わない場合でもAl脱酸鋼においては0.0040%以下とすべきで、窒化物による強度上昇を期待しない本発明鋼では低いほど好ましく、0.0027%以下とすれば磁気時効や微細な窒化物形成による特性劣化の抑制効果は顕著で、さらに好ましくは0.0022%、さらに好ましくは0.0015%以下、0%であっても構わない。
これまでの高強度電磁鋼板で高強度化のために利用されている殆どの元素は添加コストが問題視されるだけではなく磁気特性に少なからず悪影響を及ぼす割に、高強度化効果が小さくコストパフォーマンスに問題があった。本発明でも高強度化の目的のためにこれらの元素を多量に添加する場合があるが、その技術的効果および技術的目的は従来の技術とは全く異なる。つまり、従来の技術ではこれらの元素は主として固溶体強化元素または炭化物、窒化物等による析出強化元素として利用されていたのに対し、本発明ではこれらの元素は金属間化合物を形成し、金属間化合物による析出強化効果を発現させるために添加されるのであり、添加された元素の多くの部分は金属間化合物の構成元素として鋼中で存在する。これらの元素としてはNi、Mo、Ti、Nb、Co、W等があげられる。
Ni、Mo、Ti、Nb、Co、Wは本発明鋼では金属間化合物の構成元素として必要に応じ少なくとも1種以上を積極的に添加する。しかし過剰な添加は鋼板の延性を劣化させ通板性が低下する他、磁束密度を低下させるとともに後述のような製造工程中間段階での金属間化合物の好ましい形成抑制が制御不能にし通常の工程では生産そのものが困難になる場合がある。特にNiについてはオーステナイト安定化元素であり本発明で避けるべきマルテンサイト変態を起きやすくするため、添加コストも考え各元素について上限を10.0%とする。また金属間化合物の種類にもよるが効果を得るためには少なくとも0.1%は添加する。上限は好ましくは8.0%、さらに好ましくは6.0%、さらに好ましくは5.0%、さらに好ましくは4.0%である。下限は好ましくは0.3%、さらに好ましくは0.5%、さらに好ましくは0.8%、さらに好ましくは1.0%である。
上記の元素に次いで重要な元素はZr、Cr、B、Cu、Zn、Mg、Snである。これらの元素は本発明が対象とする電磁鋼板および本発明が関連する加工用および構造用薄鋼板において比較的一般的に使用される元素と金属間化合物を形成する元素として知られており、必要に応じ少なくとも1種以上を添加する。しかし、過剰な添加は鋼板の延性を劣化させ通板性が低下する他、後述のような製造工程中間段階での金属間化合物の好ましい形成抑制が制御不能にし通常の工程では生産そのものが困難になる場合があることと、添加コストを考え各元素について上限を10.0%とする。また金属間化合物の種類にもよるが効果を得るためには少なくとも0.1%は添加する。上限は好ましくは8.0%、さらに好ましくは6.0%、さらに好ましくは5.0%、さらに好ましくは4.0%である。下限は好ましくは0.3%、さらに好ましくは0.5%、さらに好ましくは0.8%、さらに好ましくは1.0%である。
上記の元素に次いで重要な元素はAg、Pt、Ga、Ge、In、V、Pd、Ir、Rh、Cd、Taである。これらの元素は鉄鋼材料での使用はあまり一般的ではない特殊元素であるが金属間化合物の構成元素として知られており、必要に応じ少なくとも1種以上を添加することができる。しかし過剰な添加は鋼板の延性を劣化させ通板性が低下する他、後述のような製造工程中間段階での金属間化合物の好ましい形成抑制が制御不能にし通常の工程では生産そのものが困難になる場合があることと、添加コストを考え各元素について上限を5.0%とする。また、金属間化合物の種類にもよるが効果を得るためには少なくとも0.1%は添加する。上限は好ましくは4.0%、さらに好ましくは3.0%、さらに好ましくは2.5%、さらに好ましくは2.0%である。下限は好ましくは0.3%、さらに好ましくは0.4%、さらに好ましくは0.5%、さらに好ましくは0.8%である。
注意を要するのはNb、Ti、V、B等は鋼板中で炭化物、窒化物または硫化物等の微細な析出物による高強度化に有効な元素ではあるが、この析出物が形成されると同時に磁気特性、特に鉄損を顕著に劣化させることである。高強度化の主たる手段として微細な炭、窒化物等を利用しない本発明鋼ではむしろ有害な元素となることもある。これを避けるにはC,N,S量を十分に低くしておく必要がある。また、適当な回数の試行によりこのような炭化物、窒化物、硫化物等の非金属介在物の生成を抑制するような熱履歴を決定することは等業者であればそれほど困難なことではない。
また、その他のSb,Ca等の元素については、鉱石やスクラップなどから不可避的に含まれる程度の量に加え、様々な目的で添加しても本発明の効果は何ら損なわれるものではない。これらの微量元素についての不可避的な含有量は通常、各元素とも0.005%以下程度であるが、様々な目的で0.01%程度以上に添加することが可能である。この場合もコストや磁気特性の兼ね合いから1種または2種以上を合計で0.5%以下含有することができる。
本発明の特徴は、金属間化合物形成元素について通常の電磁鋼板と比較し多くの量を添加し、金属間化合物を形成するように熱処理を制御することである。このためFe以外の元素量が多くなる場合がある。従来技術で記述したマルエージ鋼の他、例えばNiであれば30数%以上含有するパーマロイ等が特殊な用途で実用化されているが、本発明鋼はこれらの高合金磁性材料とは用途や技術的因子が異なるものであり、あくまでも通常のモーター等に用いられる軟磁性材料の範疇に分類されるものである。このためFe以外の元素の総含有量は30%以下とする。好ましくは20%以下、さらに好ましくは15%以下、また形成される金属間化合物の種類や目的とする特性によっては10%以下でも十分な効果を得ることが可能である。
さらに本発明鋼の特徴は、上述のマルエージ鋼とは異なり強化機構としてマルテンサイト変態を活用しないことである。これは前述のようにマルテンサイト変態においては鋼中に多量の転位が導入され磁気特性、特に鉄損が劣化してしまうためである。本発明は通常の珪素鋼板と同等の磁気特性を有することを目的としているため、磁気特性を顕著に劣化させる転位強化機構は用いない。とは言え、成分によっては、またはミクロな観察を行えばわずかなマルテンサイト変態の発生が観察される場合もある。マルテンサイト変態が起きる可能性の目安としては高温でのオーステナイト相とフェライト相の比率がある。オーステナイト相の生成量が多いことはオーステナイト相が安定であることを意味し、冷却時にマルテンサイト変態がおきやすいと考えることができる。ただし、熱履歴を考慮すれば高温でオーステナイト相が存在する場合に必ずしも冷却時にマルテンサイト変態が起きるものではないことは言うまでもない。
本発明では目安として高温でのオーステナイト相の存在量を記述する。高温でのオーステナイト相の生成量が50%以下であれば本発明が対象としている極低C材では数100℃/秒というような超急速冷却を行わない限り、また、CやNを0.005〜0.04%程度含む低炭素鋼の場合でも冷却速度を比較的緩冷却に制御すればマルテンサイト変態を回避することは十分に可能で、もし相当量のマルテンサイト変態が起きたとしても問題になるほどの転位量の導入は回避することができる。高温でのマルテンサイト生成量は好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下で、完全フェライト鋼であれば全く問題ないことは言うまでもない。大体の目安は各元素の質量%で、
1.5*Si+3.5Al−1.2*(Mn+Ni)
が2.5以上、好ましくは3.0以上、さらに好ましくは3.5以上である。
しかしながら、高温で完全オーステナイト相となる場合でも高温での保持温度、冷却速度等の熱履歴によってはマルテンサイト変態を回避することは十分に可能であるため上記の式により本発明が限定されるものでないことは明白である。マルテンサイト変態が相当量起きたかどうかは最終的には通常の鋼の変態制御メタラジーで行われるように得られた鋼板の組織を観察することで判断が可能なものである。
そして、最終的な組織は主としてフェライト相からなるものとする。なお、厳密には鋼中の組織としては本発明で必須である金属間化合物やC、N、S、Oの化合物等も存在するが、ここで述べる組織とはこれらの微細なものではなく、鉄の変態により形成されるフェライト、オーステナイト、マルテンサイト、パーライト、ベイナイト等を指すものとする。本発明では体積率でフェライト相が50%以上であるものとする。好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上であり、意識的に鉄の変態を制御するような中間温度での保持や急速冷却等を行わなければ通常、95%以上はフェライト相となるものである。同時に、磁気特性に非常に好ましくないマルテンサイト相の体積率は50%以下とする。好ましくは40%以下、さらに好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下である。オーステナイト、フェライトおよびマルテンサイトの変態については多くの知見があり、成分や熱処理条件の検討により制御することは等業者であれば適当に制御することは通常の制御操作であり、本発明鋼でも適当な回数の試行の後、5%以下、さらには2%以下、実質的に0%近くに制御することも困難なことではなく、このようにすることで本発明の効果は一層好ましいものとなる。
前記成分を含む鋼は、通常の電磁鋼板と同様に転炉で溶製され、連続鋳造でスラブとされ、ついで熱間圧延、熱延板焼鈍、冷間圧延、仕上焼鈍などの工程で製造される。これらの工程に加え絶縁皮膜の形成や脱炭工程などを経ることも本発明の効果を何ら損なうものではない。また、通常の工程ではなく急冷凝固法による薄帯の製造や熱延工程を省略する薄スラブ、連続鋳造法などの工程によって製造しても問題ない。
本発明で特徴的な特異な金属間化合物を鋼板内に形成するには熱履歴の制御も重要となる。特に、製造工程の途中で過剰の金属間化合物が形成すると、材料が硬質化し、場合によっては脆化してしまい熱間圧延、冷間圧延が困難になるばかりでなく、極端な場合には通板中のロール等での曲げによっても板が破断し正常な通板が困難となることもある。これを避けるには金属間化合物は鋼板製造の最終工程以降で形成させるようにすることが好ましい。さらに、鋼板の打抜き加工等の鋼板使用者におけるモーター部品等の製造を考えると、これらの加工を終えた後に硬化することが好ましい。
また、本発明においては硬質化のための熱処理は比較的単純なものであり、後述の一般的な化合物形成の技術的なポイントさえ理解していれば、通常のモーター部品等に用いられる軟磁性電磁鋼板の製造で適用される程度の加熱、冷却および特定温度域での保持といった単純な熱処理だけで本発明の効果を得ることができるものである。成分等を調整すれば保持温度は非常な短時間でも十分な高強度化が達成できるため、実質的には高温での熱処理から単純な冷却を行っただけで発明の効果を得ることも可能である。
また、金属間化合物の生成を促進するために行う熱処理は特にC、N含有量が高く金属間化合物が存在しない場合には炭化物、窒化物等の析出物が多く磁気特性が良好でない材料において強度が低下しないばかりか強度が上昇する場合もあり、さらに鉄損や磁束密度を改善する場合がある。これらの特性変化は金属間化合物を形成するための熱によると単純に考えられるが、単に熱を加えた以上に金属間化合物が生成することによる相乗効果として好ましい効果が顕著になるものである。
単純に強度に及ぼす影響を考えても通常の析出強化鋼に熱を加えれば軟化して強化能が低下してしまうが、この時に析出物による強化能が低下する以上に金属間化合物が形成することに起因する強化能が大きければ強度は低下せずむしろ硬質化することになる。さらに本発明鋼では鉄損および磁束密度の向上効果も見られる理由は明確ではないが金属間化合物が形成する過程で析出物の無害化が起きるものと思われる。現象的には析出物の形態変化による歪場の開放、微細析出物の溶解または成長効果に伴う結晶粒成長促進効果によるものと思われる。
金属間化合物の形成抑制および形成促進は主として鋼成分および熱履歴で行うことが好ましいのは言うこともないことである。しかし、本発明においては金属間化合物として様々な種類のものを想定し、また特定の種類に分類される金属間化合物においても元素の濃度やサイズ、量などが異なり、目的とする強度、磁気特性が異なればこの熱履歴も異なることは当然である。このため本発明では温度、時間等は特定の範囲に限定しない。以下に詳細に記述される本発明の要点を理解していれば、特定の金属間化合物についてその生成挙動を制御することは当業者であれば適当な回数の試行の後に好ましく制御することは困難ではない。
つまり、本発明では現時点で未知の金属間化合物について制御をするものではなく、鉄鋼材料中で生成することや熱的な溶解、生成挙動が公知である金属間化合物について制御を行うものであり、その特定の金属間化合物に関しては様々な情報を得ることが可能なものである。当業者が目的とする材質に調整された鋼について、公知の情報を得ている特定の金属間化合物について適当な回数の試行を経た後に好ましい制御が可能となることは当然のことではある。また技術的なポイントも特殊なものではなく、通常、当業者で行われる鋼の変態、炭化物、窒化物、硫化物等の析出物生成に関する制御と同様のものである。
本発明における金属間化合物の制御の考え方は、製造工程の途中において金属間化合物の形成が好ましくない局面においては、その金属間化合物が生成しやすい温度域での保持時間を極力短くするために、例えば加熱速度や冷却速度を制御して形成を抑制し、金属間化合物の形成による高強度化が必要な局面で、適当な熱処理を行い金属間化合物を形成させるものである。金属間化合物の形成挙動は特殊なものを除き、一般の炭化物、窒化物、硫化物、酸化物等の非金属化合物や変態等の相形成と同様に、十分な高温では溶解し、構成元素の拡散および反応が起きる程度の適当な温度域で形成が進行し、構成元素の拡散が起き難くなる十分な低温では形成が停滞するものである。
また、構成元素の拡散および反応が起き形成が進行する温度域においては、通常、高温であれば形成される化合物は粗大であり低温であるほど微細になる。急速加熱または急速冷却を駆使して過飽和状態で金属間化合物の形成を進行させれば平衡状態における以上に化合物の微細化が図られ、さらに、何らかの核形成サイト、粒界や相界面、転位、歪、応力等の影響で形成が促進される場合があることも非金属化合物等と同様である。このような通常知られているメタラジーを使って本発明で必要とする金属間化合物の量、サイズ、密度等の分布状態を制御することは本発明でのみ行われる特別な操作ではなく、通常の当業者が様々な組織制御で行っているものと同様の操作である。
一例として600〜700℃の温度域で微細な化合物の形成が促進される金属間化合物Xを想定する。通常の熱延工程では仕上げ熱延が終了し800〜500℃程度の温度域でコイルとして巻き取られ、この温度域で数分〜数時間程度保持されるが、この温度域で金属間化合物Xが多量に形成し硬化してしまうとその後の冷延が困難となる場合がある。この場合には仕上げ熱延後の冷却を強化し十分に低い温度で巻き取り、金属間化合物Xの形成を抑制する必要がある。または逆に高めの温度域で巻き取り金属間化合物Xを十分に粗大化させ硬化量を小さくしておき、冷間圧延したのち焼鈍工程で再溶解させその後の冷却過程で微細に形成させ硬化させるか、または焼鈍工程の冷却過程では化合物が形成しないように急速冷却し、固溶状態にある特定元素をモーター等の部品に加工した後、600〜700℃での適当な熱処理を行うことで金属間化合物Xを微細に形成させ高強度化を図ることもできる。この熱処理工程は通常行われる歪取り焼鈍(SRA)等の熱処理の一部で併用してもよい。
また、例えば、熱延巻き取り工程で600〜700℃での巻き取りが避けられない場合は、金属間化合物を構成する元素の種類、量のみならず、化合物の形成に影響を及ぼす成分を調整して、化合物の形成が促進される温度域を高温側または低温側にずらすことで問題を解決することも可能である。このような調整も等業者にとっては何ら困難なことではなく、通常の鉄鋼材料に関するメタラジーを習得している技術者であれば適当な数回の試行の後に可能となる程度のことである。
以上のような製造上の要点を理解し適当な工程を経ることで成分、サイズおよび数密度において特徴的な金属間化合物が効率的に形成され磁気特性を殆ど損なわず高強度化を図ることができる。
この工程を経ることで好ましい工程で成分、サイズおよび数密度において特徴的な金属間化合物が効率的に形成され磁気特性をほとんど損なわず硬質化を図ることができる。本発明鋼は硬質化のための熱処理により引張強度が30MPa 以上上昇、または硬度が1.1倍以上増加するものを対象とする。強度または硬度上昇がこれ以下のものは熱処理前にすでに硬質化されているか、または熱処理による強化能がもともと具備されていないことが考えられる。熱処理前にすでに硬質化されている場合には、モーター部品への打抜き加工が硬い材料に対して行なわれることになるため、金型の磨耗の点で好ましくない。
また、熱処理をしても硬質化しない場合はその後のモーターとしての使用中の強度が不足することとなり本発明の目的が達成されない。より好ましい効果を得るには熱処理による引張強度の上昇で60MPa 以上、さらに好ましくは100MPa 以上、さらに好ましくは150MPa 以上、さらに好ましくは200MPa 以上、さらに好ましくは300MPa 以上、さらに好ましくは400MPa 以上であり、成分や熱処理条件を適当に選ぶことで500MPa 以上の硬質化も可能である。また、硬度増加については好ましくは1.2倍以上、さらに好ましくは1.3倍以上、さらに好ましくは1.5倍以上であり、成分や熱処理条件を適当に選ぶことで2.0倍以上の硬質化も可能である。
硬質化熱処理後の最終的な強度(硬度)は600MPa以上となるものを本発明の対象とするが、本発明の特徴は主として金属間化合物を構成する元素の量および金属間化合物を形成する熱処理条件により金属間化合物のサイズおよび量を制御することで、非常に広い範囲で造り分けることが可能なことである。
注意を要するのは本発明鋼において比較的低強度の範囲に材質を制御する際に、金属間化合物を構成する元素の量が多い場合、金属間化合物のサイズを大きくすることになるが、比較的粗大な化合物が多量に生成すると磁気特性を顕著に劣化させることがある。本発明ではサイズは比較的細かく保ったまま化合物の量を減らす、すなわち添加元素の量を減らすことで低強度の範囲に制御するほうが、合金コストばかりでなく磁気特性を良好に保つには都合がよい。
一方、本発明で制御している金属間化合物の生成を意識せず元素を添加し熱処理した場合、鋼成分によっては効果を検知できるだけの金属間化合物の生成が起きる場合もあるが、添加した元素の大半は強化能が低く磁気特性の劣化効果が大きい固溶状態、または本発明において強化機構としては好ましくない炭化物、窒化物、硫化物、酸化物等の非金属化合物、または金属間化合物であっても強化能が小さく磁気特性への悪影響が大きい比較的粗大な金属間化合物として存在することになる。
なお、鉄鋼材料中に形成することが通常知られている金属間化合物としては、NiAl、Ni3Al、Ni3(Al,Ti)、Ni2TiAl、Ni3Ti、Ni3Mo、Ni4Mo、Ni3Nb、Co3W、Fe2Mo、Fe2Ti、Fe2(Ni、Co)、があり、その他一般的に金属間化合物として、NiMn、Ni3Ge、Ni3Ga、Ni3Si、Ni40Cr18Mo42、Co3Ti、Co2Ti、CoTi、CoZr、Co16Nb6Si7、Co20Mn53Si27、Cu3Ti、Cu3Au、CuZn、PtMn、Pt3Mn、Pt3Sn、Pt3Al、Pt3Ga、Pt3In、FeCo、Fe3Ti、FeAl、Fe3Al、Fe3(Al,Si)、FeCr、Fe3Zr、Fe3Ga、Fe3Ge、(Fe,Co)3V、(Fe、Ni)3V、Fe14Nd2B、Fe36Cr12Mo10、Fe76、Fe3Si、Fe5Si13、FeSi、FeSi12、TiAl、Ti(Ni,Cu)2、Ti3Sn、Ag2MgZn、Pd3Mn、Ir3Cr、Ir3Ti、Rh3Ti、Rh3V、Rh3Nb、MoSi2、WSi2、Mg3Cd、Mn3Sn、VSi2、TaSi2、Zr3In、Zr3Al、(Nb,Mo)Si2、(Nb,W)Si2、NbSi2、等も知られており、これらを適当な状態で鋼板中に形成させることで本発明鋼となる。
これらの化合物の元素比は相当に変動することは知られており、また何らかの不純物元素を含んだものも本発明に相当するものとする。
もちろんここに記述されていないものも金属間化合物として存在し、鋼材の強度を上昇させるものは本発明に含まれる。
以上のように形成される金属間化合物の種類は特に問わない。成分や熱処理条件により様々なものを形成可能である。その種類は現時点で鉄鋼材料中に形成することが知られていないものも含むものとする。本発明で形成される金属間化合物は電子顕微鏡などの回折パターンや付設されたX線分析機器などで同定が可能である。もちろん化学分析などこれ以外の方法によっても同定が可能なものである。もちろん観察方法は限定されるものでなく、今後開発が進展するあらゆる装置で妥当と判断できる方法で同定されればよい。
本発明ではこの金属間化合物の直径は0.050μm以下とする。これ以上では高強度化の効率が低下し、多量の金属間化合物が必要となるだけでなく磁気特性への悪影響が大きくなる。高強度化効率と磁気特性の観点から、この直径は0.020μm以下とすることが好ましく、さらに好ましくは0.010μm以下、さらに好ましくは0.005μm以下、さらに好ましくは0.002μm以下である。あまりに微細であると強化能が小さくなるとともに現状の最高精度の分析機器をもってしても金属間化合物サイズおよび金属間化合物の量を定量化が困難になるが、機械的特性や硬度などによりその存在は間接的に説明できるものである。
また、これほど微細になると存在そのものの定量・定性的な存在は確定されておらず、原子が数個まとまっただけのクラスター的なものであるとか、通常知られていない何らかの原子も偏析・混在するものであるとか、金属間化合物と記述されるものかどうかという議論も出てくる面は否めないが、本発明は本発明で金属間化合物と記述してはいるもののその形態や種類で限定されるものではないことは言うまでもない。存在している異相が特定できない場合でも、成分や熱処理条件等を内挿または外挿、さらにはさまざまな知見から存在している異相が金属間化合物またはその前駆体であると妥当な説明ができる場合には、本発明に含まれるものとする。本発明はこのような金属間化合物を相当量含有し、かつ本発明で記述されるように、熱処理に伴うその異相の形成により明らかに硬質化する電磁鋼板に限定されるものである。
金属間化合物の数密度は構成元素の含有量と金属間化合物のサイズとの関係で取りうる範囲に制限はあるが、20個/μm3以上とすることが好ましく、さらに好ましくは200個/μm3以上であり、2000個/μm3以上とすれば高強度化の点で非常に有効となる。さらに好ましくは20000個/μm3、さらに好ましくは200000個/μm3、さらに好ましくは2000000個/μm3である。
この金属間化合物サイズと数密度の制御は、高強度化と磁気特性保持を両立する観点から非常に重要である。その理由は、これらが強度および磁気特性にそれぞれ影響するのみならず、これらを変化させたときの強度または磁気特性が変化する挙動が異なるためでる。すなわち、強度上昇効果が高く、磁気特性劣化効率の低い領域に制御する必要がある。このためには前述のように成分および熱処理条件を適切に制御することが有効である。
また、本発明では高強度化の主要な手段として結晶組織の微細化を利用しないため、結晶粒径は磁気特性の観点から最適な範囲に調整が可能である。高強度化に寄与する金属間化合物のサイズや密度は成分のみならず、最終的な熱処理により制御が可能であるため結晶粒径はこの熱処理以前の、例えば再結晶焼鈍の最高到達温度およびその温度域での保持時間等により金属間化合物の制御とは独立に制御が可能となる。結晶粒径は通常は300μm以下であり、好ましくは30〜250μmに制御される。さらに好ましくは60〜200μmである。一般的には鋼板を使用する際の励磁電流の周波数が高い場合には結晶粒は微細にしておくことが好ましい。また、方向性電磁鋼板のように二次再結晶等を利用して数cmにまで結晶粒径を粗大化させても本発明の効果は何ら損なわれるものではない。
本発明は電磁鋼板で従来開発されてきた材料とは全く異なる特性を有するものとなる。
図1および図2は電磁鋼板について成分、強度および磁気特性の観点から本発明の特徴を示したものである。図1に示すように通常、電磁鋼板は主としてSi含有量により磁気特性を造り分けている。磁気特性の観点からはSiは材料の電気抵抗を増大させ鉄損を低減するために添加されるが、同時に大きな固溶強化能を有するため高Siである高級グレード材では強度も高くなっている。しかし、通常の材料では3%を超えるSi量、またはSi,Al,Mnなどの強化元素を合わせても6%を超えるようになると圧延性が顕著に劣化するため、通常の製造工程では鋼板の製造が困難となる。
圧延を回避する手段として急冷凝固で溶融状態の鋼から直接、薄膜を得る方法も考案されているが、コストや特性の点で実用化には限界がある。このため3%Si鋼相当以上の高強度材はNbなどの添加に伴う炭窒化物を主とする析出物および低温焼鈍も合わせた結晶組織の微細化により高強度化を図っている。しかし、このような炭窒化物や微細な結晶組織は磁気特性、特に鉄損の点からは好ましいものではなく、図2のように鉄損の大幅な上昇は避けられない。
本発明は、従来高強度鋼とは異なる金属間化合物を鋼板内に分散させることで高強度化を図るものである。この金属間化合物は結晶粒径とは独立に制御が可能であるため、言い換えれば結晶粒成長が起こる温度域とは異なる、温度域で形成を制御することも可能なため、強度と磁気特性の各々の制御という観点からの自由度が大きく、図2のように磁気特性をそれほど劣化させずに高強度化が可能となる。
また、図1に示すように低Si鋼に本技術を適用することで、従来鋼より磁束密度の高い材料を得ることも可能となる。これは通常使用されるSi,Al,Mnなどの殆どの固溶強化元素が、鋼の飽和磁束密度を低下させるなどのため、特定磁場での磁束密度の低下が避けられないのに対し、本発明で高強度化のために利用する金属間化合物は飽和磁束密度の低下への効果が非常に小さいことによると思われる。また、金属間化合物は炭窒化物などの非金属化合物に比較し磁壁移動の障害となりにくいことも原因と思われる。これは特に低磁場での磁気特性向上に有効である。
なお、本発明の効果は通常電磁鋼板の表面に形成されている表面皮膜の有無および種類によらず、さらに製造工程にはよらないため無方向性または方向性の電磁鋼板に適用できる。
用途も特に限定されるものではなく、家電または自動車等で用いられるモーターのローター用途の他、強度と磁気特性が求められる全ての用途に適用される。
表1、表2(表1のつづき)に成分を示す鋼を250mm厚のスラブとし以下の工程を基本的なものとし製品板を製造した。基本工程条件は、スラブ加熱温度1150℃、仕上板厚2.0mm、仕上げ熱延後、巻き取りまでの平均冷却速度:50℃/秒、巻取り温度300℃以下の熱延工程、熱延板焼鈍:1050℃30秒(冷却速度50℃/秒)、仕上板厚0.2〜0.5mmの冷間圧延工程、再結晶温度以上での再結晶焼鈍工程である。その後、サンプルを切り出し、熱処理により金属間化合物析出制御を行なった。ただし、従来技術による析出強化型および固溶体強化型の鋼板については析出熱処理は行っていない。熱処理前後の板についてJIS5号試験片により機械的特性、および55mm角のSST試験により鉄損と磁束密度を測定した。機械的特性および磁気特性ともコイルの圧延方向、幅方向、および圧延方向から45°方向について
X=(X0+X90+2*X45)/4
0:コイル圧延方向の特性
90:コイル幅方向の特性
45:コイル圧延方向から45°方向の特性
により平均値を求めた。硬度は板厚断面において荷重50gでのビッカース硬度を用いた。
また、打抜き金型の磨耗については新しく製造した打抜き金型で鋼板を打抜き、打抜き回数に応じて鋼板に発生するカエリの大きさの変化から評価した。金型の磨耗が大きいものは比較的少ない打抜き回数で鋼板のカエリが大きくなる。本発明鋼では前述の通り、熱処理前の軟質な状態で打抜きを行い評価したが、注意すべきは、マルエージ型の鋼板については、従来技術に従い、打抜き金型の磨耗テストは熱処理後の板について行った。結果を表3、表4(表3のつづき)に示す。
表3、表4に示された結果から明らかなように、本発明の条件にて製造した試料析出熱処理前は軟質であるため冷間圧延工程での圧延性が良好かつ打抜き金型の磨耗が小さく、析出処理後に硬質となりかつ磁気特性も優れている。
Figure 2010150667
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本発明は硬質で磁気特性のすぐれた高強度電磁鋼板を安定して製造することができる。これにより磁気特性を劣化させず、強度、疲労強度、耐磨耗性の確保が可能となるため超高速回転モーターやローターに磁石を組み込んだモーターおよび電磁開閉器用材料の高効率化、小型化、超寿命化などが達成され、産業上の利用可能性が高い。

Claims (8)

  1. 質量%で、C:0.0400%以下、Si:0.2〜4.0%、Mn:0.05〜5.0%、P:0.30%以下、S:0.020%以下、Al:8.0%以下、N:0.0400%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、組織が体積率でフェライト相:50%以上、マルテンサイト相:50%以下を満足する範囲で主としてフェライト相からなり、かつ、鋼材内部に直径0.050μm以下の金属間化合物を数密度で20個/μm 以上含有することを特徴とする電磁鋼板。
  2. 質量%で、Fe:70%以上およびNi、Mo、Ti、Nb、Co、Wの1種または2種以上を各元素について10.0%以下含有することを特徴とする請求項1に記載の電磁鋼板。
  3. 質量%で、Zr、Cr、B、Cu、Znの1種または2種以上を各元素について10.0% 以下含有することを特徴とする請求項1または2に記載の電磁鋼板。
  4. 質量%で、V、Taの1種または2種以上を各元素について5.0%以下含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の電磁鋼板。
  5. 前記鋼板の結晶粒の平均直径が400μm以下である請求項1〜4のいずれかの項に記載の電磁鋼板。
  6. 請求項1〜5のいずれかの項に記載の成分からなる鋼材から製品板を製造する過程において、熱延仕上げ後の300℃までの平均冷却速度を50℃/秒以上とし、冷間圧延の直前までは金属間化合物の形成を回避するような熱履歴を経て、かつ、冷間圧延の後の工程において金属間化合物が形成される熱履歴である300〜900℃での滞在時間を10秒以上とする熱履歴を経ることを特徴とする電磁鋼板の製造方法。
  7. マルテンサイト変態が起きないような熱履歴を経ることを特徴とする請求項6に記載の電磁鋼板の製造方法。
  8. 前記金属間化合物が形成される熱履歴後、900℃を超える温度域に20秒以上保持しないことを特徴とする請求項6又は7に記載の電磁鋼板の製造方法。
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