しかしながら、特許文献1に記載の空気調和装置では、暖房運転時の室内の温度むらを解消するために送風機の送風量を上げるので、室内にいる利用者に室内機からの風が直接当たって不快に感じる、いわゆるドラフト感を利用者が受けることがある。また、送風機の送風量を上げる際には送風機の回転数を高めるので、それに伴って送風機の音の大きさ、周波数などが変化する。このような音の変化は、室内にいる利用者にとって気になり、場合によっては耳障りになることがある。
そこで、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、暖房運転時においてドラフト感および送風機の音の変化を抑制しつつ室内の温度むらを抑制することができる空気調和装置の室内機およびこれを用いた空気調和装置を提供することにある。
本発明の空気調和装置の室内機は、吸込口(11)および吹出口(13)を有するケーシング(15)と、前記ケーシング(15)の内部に配設され、室内の空気を前記吸込口(11)から前記ケーシング(15)の内部に吸い込み前記吹出口(13)から前記ケーシング(15)の外部に吹き出す送風機(17)と、前記ケーシング(15)の内部に配設され、冷媒と前記空気との間で熱交換する熱交換器(19)と、暖房運転時において、前記熱交換器(19)における前記冷媒の凝縮温度目標値(Tc)として第1目標値(Tc1)とこの第1目標値(Tc1)よりも低い第2目標値(Tc2)とを有し、所定条件が成立したときに前記凝縮温度目標値(Tc)を前記第1目標値(Tc1)から前記第2目標値(Tc2)に切り換える温度むら抑制運転を実行する制御手段と、を備えている。
この構成では、暖房運転時において、凝縮温度目標値(Tc)が第1目標値(Tc1)に設定されて運転された後、所定条件が成立したときに第1目標値(Tc1)よりも設定温度の低い第2目標値(Tc2)に切り換える温度むら抑制運転を実行する。第2目標値(Tc2)に基づいた温度制御により吹出口(13)から吹き出される空気の吹出温度は、第1目標値(Tc1)に基づいた温度制御による空気の吹出温度よりも低いので、吹き出された低温の空気は、第1目標値(Tc1)における運転のときよりも室内のより下方に流れやすくなる。したがって、この温度むら抑制運転を実行することにより、従来のように一定の凝縮温度目標値(Tc)で温度制御される場合と比較して、室内の空気の循環が促進される。このような空気の循環効果(サーキュレーション効果)が得られるので、室内の温度分布のばらつきが低減する。
また、室内機は、通常、室内の比較的高い位置に設置されるので、従来のように一定の凝縮温度目標値(Tc)で温度制御される場合には、床面付近の温度は低くても天井付近の温度は比較的短時間で高くなって温度制御が停止(サーモオフ)してしまうことが起こりやすい。一方、本構成では、第1目標値(Tc1)から設定温度の低い第2目標値(Tc2)に切り換えるので、室内の温度上昇、特に天井付近の温度上昇を緩やかにして上記のような過剰なサーモオフを低減することができる。これにより、温度制御を継続させて床面付近を所望の温度により近づけることができるので、室内の温度分布のばらつきを低減することができる。
以上のことから、本構成によれば、室内の温度分布のばらつきを低減して室内に温度むらが生じるのを抑制することができる。
また、本構成では、従来のように送風機(17)の送風量に頼ることなく、上記したように凝縮温度目標値(Tc)を低温に切り換える温度むら抑制運転を実行することにより室内の温度むらを抑制することができるので、送風量を上げることに起因するドラフト感および送風機(17)の音の変化を抑制することができる。
前記制御手段は、前記温度むら抑制運転において、前記凝縮温度目標値(Tc)を所定時間毎に前記第1目標値(Tc1)と前記第2目標値(Tc2)とに切り換えるのが好ましい。
この構成では、上記所定条件の成立を時間により判断している。この構成によれば、上記したように室内の温度上昇を緩やかにできることに加え、第1目標値(Tc1)と第2目標値(Tc2)を所定時間毎に切り換えるので、予め定められた頻度で温度むら抑制運転を実行して室内の温度上昇をより安定させることができる。これにより、過剰なサーモオフをさらに低減することができるので、温度制御を継続させて床面付近を所望の温度にさらに近づけることができる。
前記制御手段は、前記温度むら抑制運転において、前記凝縮温度目標値(Tc)をサーモオフ毎に前記第1目標値(Tc1)から前記第2目標値(Tc2)に切り換えてもよい。
この構成では、上記所定条件の成立をサーモオフされたか否かにより判断している。この構成によれば、凝縮温度目標値(Tc)をサーモオフ毎に第1目標値(Tc1)から第2目標値(Tc2)に切り換えるので、第1目標値(Tc1)および第2目標値(Tc2)がサーモオフ毎に交互に目標値として設定される。したがって、第2目標値(Tc2)に切り換えられた後は、吸込温度が室内温度の設定値を基準とする所定範囲内よりも低くなったときに再びサーモオンし、次のサーモオフまで第2目標値(Tc2)のままで運転される。第2目標値(Tc2)でのサーモオン時の温度上昇勾配は、第1目標値(Tc1)でのサーモオン時の温度上昇勾配よりも小さくなるので、吹出温度の低い第2目標値(Tc2)でのサーモオン時の運転時間は第1目標値(Tc1)での運転時間よりも長くなる。これにより、サーキュレーション効果が得られる低温の空気を吹き出す時間をより長くできるとともに、この低温空気の吹出しを定期的に行うことができる。これにより、温度むら抑制効果をより高めることができる。
前記制御手段は、前記室内の温度むらがあると判断したときに前記温度むら抑制運転を実行するのが好ましい。
この構成では、所定条件の成立を室内の温度むらがあるか否かで判断している。この構成によれば、室内の温度むらがあると判断したときに温度むら抑制運転を実行するので、温度むらの抑制が必要な適切なタイミングで温度むら抑制運転を実行して空気の循環を促進し、温度むらを効果的に抑制することができる。
本発明の他の空気調和装置の室内機は、吸込口(11)および吹出口(13)を有するケーシング(15)と、前記ケーシング(15)の内部に配設され、室内の空気を前記吸込口(11)から前記ケーシング(15)の内部に吸い込み前記吹出口(13)から前記ケーシング(15)の外部に吹き出す送風機(17)と、前記ケーシング(15)の内部に配設され、冷媒と前記空気との間で熱交換する熱交換器(19)と、前記吸込口(11)付近に設けられ、前記吸込口(11)から前記ケーシング(15)の内部に吸い込まれる前記室内の空気の温度を測定する第1の温度センサ(T1)と、前記第1の温度センサ(T1)よりも前記室内の下方に設けられた第2の温度センサ(T2)と、暖房運転時において、前記熱交換器(19)における前記冷媒の凝縮温度目標値(Tc)として第1目標値(Tc1)とこの第1目標値(Tc1)よりも低い第2目標値(Tc2)とを有し、前記第1の温度センサ(T1)による測定温度と前記第2の温度センサ(T2)による測定温度の差が所定値以上であるときに、前記凝縮温度目標値(Tc)を前記第1目標値(Tc1)から前記第2目標値(Tc2)に切り換える温度むら抑制運転を実行する制御手段と、を備えている。
この構成では、室内の上下2カ所に設けられた第1および第2の温度センサ(T2)による測定温度の差に基づいて室内の実際の温度むらを検出し、その検出結果に基づいて温度むら抑制運転を実行するので、より適切なタイミングで室内の温度ばらつきを低減して室内に温度むらが生じるのを抑制することができる。しかも、従来のように送風機(17)の送風量に頼ることなく、上記した温度むら抑制運転を実行することにより室内の温度むらを抑制することができるので、送風量を上げることに起因するドラフト感および送風機(17)の音の変化を抑制することができる。
前記制御手段は、前記温度むら抑制運転において、前記第1目標値(Tc1)から前記第2目標値(Tc2)への切り換えが複数回行われた後で、かつ、前記室内の温度むらがあると判断したときに、前記吹出口(13)からの前記空気の吹出角度を下方に切り換えてもよい。
この構成では、第1目標値(Tc1)から第2目標値(Tc2)への切り換えが複数回行われても依然として室内の温度むらがあると判断したとき、すなわち温度むらのさらなる抑制が必要なときに、適切なタイミングで空気の吹出角度を下方に切り換えるので、吹出口(13)からの空気を室内のより下方に到達させて室内の空気の循環をさらに促進できる。また、このように空気の吹出角度を下方に切り換えるタイミングを上記判断基準に基づいて行うことにより、吹出角度を下方に切り換える頻度を必要最小限に抑えることができる。これにより、空気の吹出角度を下方に向ける頻度が過度に多くならないので、利用者に室内機からの風が直接当たるのを極力低減しつつ、室内の空気の循環を促進することができる。
また、本発明は、前記送風機(17)がクロスフローファンである場合に特に有効である。クロスフローファンは、室内機を薄型化することができる一方で、回転数を上げても風量の増加は限られているので、クロスフローファンを用いた室内機では、従来のように風量を上げることで室内の温度むらを解消することは困難である。一方、本構成では、薄型化と室内の温度むらの抑制を両立させることができる。
また、室内の天井裏に埋め込まれる天井埋込型、室内の天井から吊り下げられる天井吊り型などのように室内の天井に設置される天井設置型の室内機では、吹出口と床面との距離が長くなるので、暖房運転時の温度むらが特に生じやすい。したがって、本発明は、前記室内の天井に設置される天井設置型である場合に特に有効である。
本発明の空気調和装置は、上記のいずれかに記載の室内機(25)と、室外機(73)とを備えている。
以上説明したように、本発明によれば、室内の温度分布のばらつきを低減して室内に温度むらが生じるのを抑制することができ、しかも、従来のように送風機の送風量に頼ることなく、上記した温度むら抑制運転を実行することにより室内の温度むらを抑制することができるので、送風量を上げることに起因するドラフト感および送風機の音の変化を抑制することができる。
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。図1に示すように本実施形態にかかる空気調和装置71は、室内機25と室外機73とを備えている。この空気調和装置71は、室内機25に配設された熱交換器19と、室外機73に配設された圧縮機75、熱交換器77および膨張弁79とが配管により接続されて冷媒が循環する冷媒回路を構成している。
この空気調和装置71は、冷媒回路の配管の一部に配設された四路切換弁87により冷媒の流れ方向を切り換えることによって、冷房運転と暖房運転を切り換えることができる。室内機25および室外機73は送風機17,81をそれぞれ備えている。この室内機25および室外機73の運転は、制御部75により制御される。この制御部75は、室内機25の運転を制御する室内制御部(制御手段)75aを有している。
図2(a)〜(c)に示すように室内機25は、正面55、背面57、側面59,61、天面63および底面65を有する略直方体形状の箱体からなるケーシング15を備え、このケーシング15の内部に送風機17および熱交換器19を備えている。ケーシング15は、高さ方向(鉛直方向)の寸法が小さく幅方向(水平方向)の寸法が長い扁平な形状を有している。
図2(a)および(b)に示すように、ケーシング15は、正面55にケーシング15の内部の空気をケーシング15の外部に吹き出すための吹出口13を有している。吹出口13は幅方向に長く高さ方向に短い略矩形状である。また、ケーシング15は、背面57に室内の空気をケーシング15の内部に吸い込むための吸込口11を有している。
図2(c)に示すように、吸込口11付近には、吸込口11から吸い込まれる室内の空気の温度を測定するための温度センサT1(第1の温度センサ)が配設されている。具体的には、温度センサT1は、ケーシング15内における熱交換器19と吸込口11との間にあり、かつ、空気が吸込口11から熱交換器19に流れる空気の流路上に配置されている。ケーシング15内には、底面65に沿ってドレンパン20が配設されている。
熱交換器19は、ケーシング15内における吸込口11と送風機17との間に配置されており、冷媒回路内を循環する冷媒と吸込口11からケーシング15内に吸い込まれる空気との間で熱交換を行う。この熱交換器19は、幅方向に長く厚みの小さな扁平な形状を有しており、ケーシング15の前面55側の下方から背面57側に向かって上方に傾斜し、ケーシング15の高さ方向の中央付近で折れ曲がり、天面63側に向かって上方に傾斜して配置されている。
送風機17は、クロスフローファンであり、ケーシング15内の吹出口13と熱交換器19との間に配置されている。この送風機17は、ファン本体17aと、このファン本体17aの外周に沿って配置された舌部17bとを有している。ファン本体17aは、吹出口13の長手方向に沿って前面55および底面65に略平行に配置された図略の回転軸と、この回転軸の周囲に設けられて回転軸を中心に回転可能な図略の複数のブレードと、回転軸を回転させる図略のモータとを有している。このモータを駆動することにより、室内の空気は、吸込口11から吸い込まれ、熱交換器19を通過して冷媒と熱交換された後、ファン本体17aの内部を通って吹出口13から室内に送り出される。
このように本実施形態では、送風機17としてクロスフローファンを用いている。これにより、室内機25を薄型化することができる。一方で、クロスフローファンは、遠心ファンなどの他の送風機と比較して、ファンの回転数を上げても風量があまり上がらないので、従来のように暖房運転時に送風機の風量を上げて室内の温度むらを解消するのは困難である。したがって、送風機17としてクロスフローファンを用いる場合には、後述する本実施形態における温度むら抑制運転は室内の温度むらを解消する手段として特に有効である。
図3(a)〜(c)に示すように、室内機25は、例えば室内の天井から吊り下げて設置する天井吊り型として用いることができる。室内機25は、図略の支持部材によりケーシング15の天面63が天井に固定されており、ケーシング15の背面57が室内の壁面92に対向し、ケーシング15の側面61が室内の壁面98に対向するように室内の上方角部に設置されている。
室内の側壁92には、ユーザーが空気調和装置71の運転、停止、設定温度の変更などを行うリモコン91が取り付けられている。このリモコン91は、室内機25の下方で、ユーザーが操作しやすい適度な高さ(室内の高さ方向の中央付近)に配置されている。リモコン91は、その近傍の空気の温度を測定するための温度センサT2を備えている。
次に、本実施形態にかかる空気調和装置71の運転動作について説明する。室内制御部75aは、暖房運転時において、熱交換器19における冷媒の凝縮温度目標値Tcとして第1目標値Tc1と第2目標値Tc2とを有している。第1目標値Tc1は、ユーザーが設定する室内温度の設定値に基づいて決定され、従来の室内機にも同様に設けられる通常の目標値である。本実施形態の室内機25では、この第1目標値Tc1よりも低い温度の第2目標値Tc2をさらに有している。室内制御部75aは、暖房運転時において、凝縮温度目標値Tcを第1目標値Tc1から第2目標値Tc2に切り換える温度むら抑制運転を実行する。
<制御例1>
図4は、温度むら抑制運転の制御例1を示すフローチャートである。図4に示すように、ステップS1において、ユーザーがリモコン91を用いて空気調和装置71の暖房運転を開始する指示を出したとき(運転ON)、室内制御部75aは、熱交換器19における冷媒の凝縮温度目標値Tcとして第1目標値Tc1を設定するとともに、タイマをリセットして(T1=0)ステップS2に進む。
第1目標値Tc1は、ユーザーがリモコン91を用いて設定する室内温度の設定値に基づいて決定される。また、凝縮温度目標値Tcとして、第1目標値Tc1よりも低い温度の第2目標値Tc2が第1目標値Tc1の値に基づいて決定される。
ステップS2において、室内制御部75aは運転条件について判断する。ここでは、ユーザーが暖房運転を停止する指示を出すなど、暖房運転を停止させる指示(運転条件OFF)が出されているか否かを確認し、暖房運転を停止させる指示が出されていないとき(運転条件ON)にはステップS3に進む。一方、暖房運転を停止させる指示が出されているときにはステップS8に進んで空気調和装置71の運転を停止させる。
ステップS3において、室内制御部75aはサーモ条件について判断する。このステップS3では、室内制御部75aは、室内機25内の送風機17と吸込口11との間に配設された温度センサT1により測定される吸込温度と、ユーザーにより設定された室内温度の設定値とを比較し、この設定値を基準とする所定範囲内に吸込温度が達していないときには、圧縮機75の運転を開始または継続させ(サーモオン)、ステップS4に進む。一方、室内制御部75aは、上記設定値を基準とする所定範囲内に吸込温度が達しているときにはステップS5に進み、圧縮機75の運転を停止させる(サーモオフ)とともに、タイマをリセットし(T1=0)、タイマの計測を再開してステップS2に戻り、上記制御を繰り返す。
ステップS4では、室内制御部75aは、タイマの値T1が5分を超えているときにはステップS6に進む。一方、室内制御部75aは、タイマの値T1が5分以下であるときにはステップS2に戻り、上記制御を繰り返す。
ステップS6では、室内制御部75aは、そのときの冷媒凝縮温度目標値Tcが第1目標値Tc1である場合には、目標値Tcを第1目標値Tc1から第2目標値Tc2に切り換えてステップS7に進み、そのときの冷媒凝縮温度目標値Tcが第2目標値Tc2である場合には、目標値Tcを第2目標値Tc2から第1目標値Tc1に切り換えてステップS7に進む。
ステップS7では、タイマをリセットした後(T1=0)、タイマの計測を再開してステップS2に戻る。
室内制御部75aは、上記のような流れに沿った制御を実行することによって、第1目標値Tc1と第2目標値Tc2を所定時間毎に周期的に切り換える温度むら抑制運転を実行することができる。
図5は、図4に示す制御例1により温度むら抑制運転を実行したときの室内の温度変化および室内機のサーモオン・オフの状態を示すグラフである。図7は、従来の室内機における暖房運転時の室内の温度変化および室内機のサーモオン・オフの状態を示すグラフである。
図5中の「吸込温度」とは、室内機25のケーシング15内に配置された温度センサT1により測定される空気の温度であり、「リモコンサーモ温度」とは、リモコン91に内蔵された温度センサT2により測定される空気の温度であり、「床面温度」とは、室内の床面近傍に設けられた温度センサT3により測定される温度である。なお、この温度センサT3は、図5に示すグラフのデータを測定するために設けたものであり、実際の空気調和装置には設けられていなくてもよい。図7中の「吸込温度」、「リモコンサーモ温度」および「床面温度」についても同様である。
また、図5および図7に示す暖房運転を実施した室内の各寸法は、室内を正面側から見たときの床の幅が3060mm、奥行きが3860mm、天井までの高さが2600mmである。
まず、図7に示すように、従来の暖房運転では、冷媒の凝縮温度目標値Tcは目標値Tc1に固定されているので、室内温度の設定値を基準とする所定範囲内に吸込温度が達するまでは冷媒の凝縮温度が目標値Tc1となるように制御される。したがって、室内機の吹出口から吹き出されるのは、常に、目標値Tc1近傍の温度の冷媒と熱交換された温度の高い空気である。このように常に高温の空気が吹き出され続ける場合には、本実施形態のようなサーキュレーション効果が十分に得られないので、室内の上方には高温の空気が滞留し、室内の下方には低温の空気が滞留しやすくなる。その結果、室内の上方における空気の温度である吸込温度の上昇勾配は大きくなる一方で、床面温度およびリモコンサーモ温度の上昇勾配は小さくなる。これにより、図7に示すように、室内の上方と下方に大きな温度むらが生じることになる。しかも、吸込温度の上昇勾配が大きいことに起因してサーモオンとサーモオフの切り替わる頻度が高くなる。その結果、床面温度およびリモコンサーモ温度が十分に上昇していないにもかかわらず、温度制御が中断されてしまうので、床面温度およびリモコンサーモ温度は一段と上昇しにくくなる。
一方、図5に示すように、本実施形態における暖房運転では、上記した温度むら抑制運転を実行することにより、吸込温度の上昇勾配が従来のように大きくなるのを抑制することができ、サーモオンとサーモオフの切り替わる頻度を低く抑えて運転を継続することができる。しかも、冷媒凝縮温度の目標値Tc1と目標値Tc2とを周期的に切り換えることにより、室内機25の吹出口13から送り出される空気の温度に変化をつけることができるので、室内の空気の循環を促進することができる。したがって、吸込温度の上昇勾配を小さく抑えるとともに、床面温度およびリモコンサーモ温度の上昇勾配を従来よりも大きくすることができる。これにより、室内の上方と下方において生じる温度むらを抑制することができる。
なお、図4には図示していないが、上記した制御例1にさらに次のような制御を加えることもできる。すなわち、室内制御部75aは、温度むら抑制運転において、第1目標値Tc1から第2目標値Tc2への切り換えが複数回行われた後で、かつ、室内の温度むらが依然としてあると判断したときに、吹出口13に設けられた図略のフラップをより下方に向けて吹出口13からの空気の吹出角度を下方に切り換えてもよい。
ここでいう「温度むらがある」と判断する手段としては、例えば温度センサT1と温度センサT2との温度差(または温度センサT1と温度センサT3との温度差)が予め定められた所定値よりも大きいか否かで判断する方法が挙げられる。
<制御例2>
図6は、温度むら抑制運転の制御例2を示すフローチャートである。この制御例2では、冷媒の凝縮温度目標値Tcを第1目標値Tc1から第2目標値Tc2に切り換える判断を室内の上方と下方の実際の温度差に基づいて行う。すなわち、室内制御部75aは、第1の温度センサT1よりも室内の下方に設けられた第2の温度センサを備え、暖房運転時において、第1の温度センサT1による測定温度と第2の温度センサによる測定温度の差が所定値以上であるときに、凝縮温度目標値Tcを第1目標値Tc1から第2目標値Tc2に切り換える温度むら抑制運転を実行する。
第2の温度センサとしては、例えばリモコン91に設けられた温度センサT2を用いてもよく、さらに下方の床面近傍に配置された温度センサT3を用いてもよい。図6に示す制御例2では、第2の温度センサとしてリモコン91に設けた温度センサT2を用いる場合を例に挙げて説明する。
図6に示すように、ステップS11において、ユーザーがリモコン91を用いて空気調和装置71の暖房運転を開始する指示を出したとき(運転ON)、室内制御部75aは、熱交換器19における冷媒の凝縮温度目標値Tcとして第1目標値Tc1を設定してステップS12に進む。第1目標値Tc1および第2目標値Tc2は、制御例1と同様にして決定される。
ステップS12において、室内制御部75aは、暖房運転を停止させる指示(運転条件OFF)が出されているか否かを確認し、暖房運転を停止させる指示が出されていないとき(運転条件ON)にはステップS13に進む。一方、暖房運転を停止させる指示が出されているときにはステップS19に進んで空気調和装置71の運転を停止させる。
ステップS13において、室内制御部75aは、温度センサT1により測定される吸込温度と、ユーザーにより設定された室内温度の設定値とを比較し、この設定値を基準とする所定範囲内に吸込温度が達していないときには、圧縮機75の運転を開始または継続させ(サーモオン)、ステップS14に進む。一方、上記設定値を基準とする所定範囲内に吸込温度が達しているときにはステップS15に進み、圧縮機75の運転を停止させて(サーモオフ)、ステップS12に戻る。
ステップS14において、室内制御部75aは、室内の上方と下方の実際の温度差を算出し、ステップS16に進む。この温度差は、温度センサT1により測定される吸込温度からリモコン91に設けられた温度センサT2により測定される温度を引いた値である。
ステップS16において、室内制御部75aは、ステップS14において算出された温度差を所定値(制御例2では例えば2℃)と比較し、温度差が所定値以上である場合にはステップS17に進む。一方、温度差が所定値未満である場合にはステップS18に進む。
ステップS17において、室内制御部75aは、冷媒凝縮温度目標値Tcを第2目標値Tc2に設定し、ステップS2に戻る。
一方、ステップS18において、室内制御部75aは、冷媒凝縮温度目標値Tcを第1目標値Tc1に設定し、ステップS2に戻る。
室内制御部75aは、上記のような流れに沿った制御を実行することによって、室内の実際の温度むらに基づいた温度むら抑制運転を実行することができる。
なお、図6には図示していないが、上記した制御例2にさらに次のような制御を加えることもできる。すなわち、室内制御部75aは、温度むら抑制運転において、第1目標値Tc1から第2目標値Tc2への切り換えが複数回行われた後で、かつ、室内の温度むらが依然としてあると判断したときに、吹出口13からの空気の吹出角度を下方に切り換えてもよい。
以上説明したように、上記実施形態にかかる空気調和装置71の室内機25は、熱交換器19における冷媒の凝縮温度目標値Tcとして第1目標値Tc1とこの第1目標値Tc1よりも低い第2目標値Tc2とを有し、暖房運転時において、凝縮温度目標値Tcを第1目標値Tc1から第2目標値Tc2に切り換える温度むら抑制運転を実行する室内制御部75aと、を備えている。第2目標値Tc2に基づいた温度制御により吹出口13から吹き出される空気の吹出温度は、第1目標値Tc1に基づいた温度制御による空気の吹出温度よりも低いので、吹き出された低温の空気は、第1目標値Tc1における運転のときよりも室内のより下方に流れやすくなる。したがって、この温度むら抑制運転を実行することにより、従来のように一定の凝縮温度目標値で温度制御される場合と比較して、室内の空気の循環が促進される。このような空気の循環効果(サーキュレーション効果)が得られるので、室内の温度分布のばらつきが低減する。
また、上記実施形態にかかる室内機25では、第1目標値Tc1から設定温度の低い第2目標値Tc2に切り換えるので、室内の温度上昇、特に天井付近の温度上昇を緩やかにして過剰なサーモオフを低減することができる。これにより、温度制御を継続させて床面付近を所望の温度により近づけることができるので、室内の温度分布のばらつきを低減することができる。
また、上記実施形態にかかる室内機25では、従来のように送風機の送風量に頼ることなく、上記したように凝縮温度目標値Tcを低温に切り換える温度むら抑制運転を実行することにより室内の温度むらを抑制することができるので、送風量を上げることに起因するドラフト感および送風機の音の変化を抑制することができる。
また、上記実施形態にかかる室内機25では、冷媒の凝縮温度目標値Tcを第1目標値Tc1からこれよりも低い第2目標値Tc2に下げる温度むら抑制運転を実行するので、運転時の消費電力を従来よりも低減する効果も期待できる。
また、上記制御例1では、室内制御部75aは、温度むら抑制運転において、第1目標値Tc1と第2目標値Tc2を所定時間毎に周期的に切り換えているので、上記したように室内の温度上昇を緩やかにできることに加え、その温度上昇をより安定させることができる。これにより、過剰なサーモオフをさらに低減することができるので、温度制御を継続させて床面付近を所望の温度にさらに近づけることができる。
また、上記制御例2では、暖房運転時において、第1の温度センサによる測定温度と第2の温度センサによる測定温度の差が所定値以上であるときに、凝縮温度目標値Tcを第1目標値Tc1から第2目標値Tc2に切り換える温度むら抑制運転を実行する。この制御例2では、室内の上下2カ所に設けられた第1および第2の温度センサによる測定温度の差に基づいて室内の実際の温度むらを検出し、その検出結果に基づいて温度むら抑制運転を実行するので、より適切なタイミングで室内の温度ばらつきを低減して室内に温度むらが生じるのを抑制することができる。
また、上記実施形態では、送風機17がクロスフローファンであり、ケーシング15が室内の天井に取り付けられている。回転数を上げても風量の増加は限られているクロスフローファンを用いた場合であっても、薄型化と室内の温度むらの抑制を両立させた天井設置タイプの室内機を実現することができる。
なお、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更、改良等が可能である。例えば、上記実施形態では、温度むら抑制運転において第1目標値と第2目標値を所定時間毎に切り換える場合(制御例1)と、第1の温度センサによる測定温度と第2の温度センサによる測定温度の差が所定値以上であるときに凝縮温度目標値を第1目標値から第2目標値に切り換える場合(制御例2)とを例に挙げて説明したが、制御手段は、温度むら抑制運転において、第1目標値と第2目標値を所定時間毎に切り換える制御と、室内の温度むらがあると判断したときに第1目標値から第2目標値に切り換える制御とを併用してもよい。
また、制御手段は、温度むら抑制運転において、例えばサーモオフ毎に第1目標値から第2目標値に切り換えるように制御してもよい。この場合の制御の流れは、図4に示すフローチャートにおいて、ステップS5の後、ステップS6に記載の制御と同じ内容の制御を実行して凝縮温度目標値Tcを第1目標値Tc1から第2目標値Tc2に、または第2目標値Tc2から第1目標値Tc1に切り換えてステップS2に戻る。なお、この制御の場合、図4中のステップS4の後のステップS6は不要となる。また、この制御の場合、タイマによる計測は行っても行わなくてもよい。
上記実施形態では、第1目標値と第2目標値を所定時間毎に切り換える具体例として、5分毎という周期的な切り換えを行う場合を例に挙げて説明したが、例えば第1目標値での運転時間と第2目標値での運転時間を異ならせてもよい。また、第1目標値および第2目標値におけるそれぞれの運転時間を一定時間とはせず、所定範囲の時間内(例えば1〜10分の範囲など)で変動させてもよい。
上記実施形態では、送風機としてクロスフローファンを用いた場合を例に挙げて説明したが、遠心ファンなどの他の送風機を用いることもできる。
上記実施形態では、正面吹出の天井吊り型の室内機を例に挙げて説明したが、本発明の室内機は、例えば4方吹出の天井吊り型、天井埋込型などの他の天井設置型にも適用可能であり、さらに、壁掛型などの他のタイプにも適用できる。
上記実施形態では、吸込温度を測定する第1温度センサが室内機のケーシング内における熱交換器と吸込口との間に設けられている場合を例に挙げて説明したが、この第1温度センサは必ずしもケーシングの内部に設けられていなくてもよく、ケーシングの外部に設けられていてもよい。ケーシングの外部の設置場所としては、例えばケーシングの吸込口の外表面、ケーシングの吸込口に近い室内の壁面(側壁面または天井面)などの吸込口付近が挙げられる。