JP2010138440A - 溶射マスキング装置と同装置に使用する溶射膜除去装置及び溶射膜除去方法 - Google Patents

溶射マスキング装置と同装置に使用する溶射膜除去装置及び溶射膜除去方法 Download PDF

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Abstract

【課題】主要部における溶射膜の除去作業を不要にし、溶射膜が付着した部分でも溶射膜の除去作業が簡便かつ容易にでき、工程の簡素化、サイクルタイムの短縮、量産の円滑化、コストの低減を図ることができる溶射マスキング装置と同装置に使用する溶射膜除去装置及び溶射膜除去方法を提供する。
【解決手段】保護マスク部材10を、放射方向に弾性を有する薄肉円筒状の弾性板15と、弾性板15が収容されるライナー穴14を有する本体部11とから構成し、弾性板15をライナー穴14内に配置した本体部11を製品に密着した状態で溶射ガン30により溶射した後、弾性板15を本体部11から取り外し、溶射膜Mを除去することを特徴とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、例えば、シリンダブロックにおけるシリンダボアの内周面に溶射膜をコーティングする溶射マスキング装置と、この装置に使用する溶射膜除去装置及び溶射膜除去方法に関する。
最近の自動車のエンジン、特に、アルミニウム製シリンダブロックを有するエンジンにおいては、放熱性や圧縮比の向上を図るため、シリンダーライナの代用手段として、シリンダボア内周面に金属(鉄など)の溶射膜を形成した後、この溶射膜をホーニング加工して仕上げている。
溶射膜の形成は、溶射手段からシリンダボア内周面に向って金属の溶射粒子をプラズマ溶射して行うが、噴射される溶射粒子が不必要に飛散乃至付着しないように保護マスク部材が用いられる。
保護マスク部材としては、例えば、下記特許文献1に開示されている金属溶射法に使用されるものがある。この金属溶射法では、筒状製品の内面に溶射層を形成する場合に、円筒上端部に円筒内径より小さい内径を有する小径保護マスク部材を設けた状態で、筒状製品の内面に溶射粒子を溶射し、筒状製品のブラスト処理したところに溶射層を形成するちようにしたので、溶射層の密着強さを確保できるようにしている。
ところが、このような保護マスク部材は、溶射により保護マスク部材に溶射粒子あるいは溶射膜(以下単に、溶射膜)が付着するので、保護マスク部材を再利用する場合には、保護マスク部材から溶射膜を除去する作業が発生し、工程が複雑化し、筒状製品を製造するときのサイクルタイムも長く、量産に支障をきたすという問題がある。また、保護マスク部材を再利用するために保護マスク部材から溶射膜を除去しても、高価な保護マスク部材は消耗品になり、多大なコストが掛かる虞がある。
特開平11−106891号公報(要約、段落番号「0007」参照)
本発明は、上記従来技術に伴う課題を解決するためになされたものであり、主要部における溶射膜の除去作業を不要にし、溶射膜が付着した部分でも溶射膜の除去作業が簡便かつ容易にでき、工程の簡素化、サイクルタイムの短縮、量産の円滑化、コストの低減を図ることを目的とする。
上記目的を達成する第1の発明は、ワークに形成された円筒状部の内周面に向けて溶射手段から溶射粒子を溶射するとき、前記溶射粒子が前記円筒状部の内周面以外の部分への飛散を防止する溶射マスキング装置であって、前記保護マスク部材を、ワーク端面に取付けられる本体部と、この本体部のライナー穴内に嵌合され、放射方向に弾性を有する薄肉円筒状の弾性板と、により構成し、前記本体部を前記ワーク端面に密着取付すると共に、前記弾性板を脱着可能としたことを特徴とする。
上記目的を達成する第2の発明は、前記溶射マスキング装置に使用する溶射膜除去装置であって、前記ライナー穴から取り出された前記弾性板の外周面に当接する複数の外部ローラと、当該弾性板内に配置された少なくとも1つの内部ローラと、前記弾性板の軸線方向全長にわたって形成された開口部から挿入される工具と、を有し、前記外部ローラと内部ローラとにより軸中心に回転する前記弾性板の前記開口部から前記工具を挿入し、前記弾性板の内周面に付着した溶射膜を剥離するようにしたことを特徴とする。
上記目的を達成する第3の発明は、シリンダブロックのシリンダヘッド当接面に前記本体部を載置し、この本体部のライナー穴に保護マスク部材を装着し、溶射手段により噴射して前記シリンダボア内周面に溶射膜を形成した後、前記弾性板に付着した前記溶射粒子若しくは溶射膜を溶射膜除去手段により除去する、前記溶射マスキング装置に使用される溶射膜除去方法であって、前記溶射膜の除去は、放射方向に弾性を有する薄肉円筒状の弾性板により構成された前記保護マスク部材を前記本体部から外した後、この弾性板を複数の外部ローラにより支持すると共に、当該弾性板の内周面を内部ローラにより支持し、前記弾性板の開口部から工具を挿入し、前記弾性板に付着した前記溶射膜を除去することを特徴とする。
第1の発明に係る溶射マスキング装置によれば、保護マスク部材を、薄肉円筒状の弾性板と、ライナー穴を有する本体部とから構成し、前記弾性板を前記ライナー穴内に配置した前記本体部を前記製品に密着した状態で前記溶射手段により溶射するので、溶射膜は、弾性板に付着し、本体部への付着を防止でき、本体部の溶射膜除去作業が不要となる。また、保護マスク部材を取り扱いが簡便な薄肉円筒状の弾性板により構成し、これを前記本体部に対し脱着可能に取付けたので、溶射膜を除去する作業が簡便かつ容易にでき、工程の簡素化、サイクルタイムの短縮、量産の円滑化、コストの低減を図ることができる。
第2の発明及び第3の発明によれば、溶射膜が付着した弾性板を、外部ローラと内部ローラとにより軸中心に回転し、工具を弾性板の開口部から挿入し、溶射膜を弾性板から剥離するので、弾性板から溶射膜を自動的に剥離することができ、溶射膜の除去作業が簡便かつ容易にでき、工程の簡素化、サイクルタイムの短縮、量産の円滑化、コストの低減を図ることができる。
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明の溶射マスキング装置を示す概略断面図、図2は保護マスク部材の概略斜視図、図3(A)は弾性板の概略斜視図、図3(B)は弾性板の取付状態を示す断面図である。
溶射マスキング装置は、図1に示すように、シリンダブロック2上面に設けられる保護マスク部材10と、保護マスク部材10をシリンダブロック2に締め付け固定する固定手段20(図2参照)と、シリンダボア8の内周面に溶融金属の粒子(以下、溶射粒子)を噴射して溶射膜Mを形成する溶射ガン30(溶射手段)と、を有している。
さらに、この加工装置の近傍には、弾性板15を本体部11から脱着するマスク脱着部40(図7参照)と、弾性板15に付着した溶射膜Mを自動的に除去する除去溶射膜除去装置50(図8参照)が設けられている。
溶射は、図1に示すように、溶射用ロボット45により、溶射ガン30が垂下されている回転装置46を昇降させて行う。なお、溶射用ロボット45には、電源、補助ガス、溶射粉末などを供給する供給装置47が連結され、シリンダブロック2には、排気ダクト48及び排気ファン49が連結されている。
保護マスク部材10は、図2に示すように、放射方向に弾性を有する薄肉円筒状の弾性板15と、弾性板15が取り付けられるライナー穴14が複数個開設された本体部11とから構成されている。
弾性板15は、図3(A)に示すように、例えば、バネ鋼などからなる薄肉の金属板を円筒状に形成したもので、本体部11に脱着可能に取付けられており、その一部には、軸線方向全長にわたってスリット状の開口部Kが形成されている。したがって、弾性板15は、放射方向に拡開収縮することが可能で、本体部11に容易に装着でき、取り扱いが容易で、しかも、溶射膜Mが付着すると容易に交換可能である。開口部Kにおける金属板の端部形状は、単純な平坦な破断面ではなく、後述の工具53が挿入し易い、いわゆるテーパ面(図13(A)参照)とすることが好ましい。
弾性板15の軸線方向長さHは、本体部11を溶射粒子の付着から保護するため、本体部11のライナー穴14の深さより若干長くし、図3(B)に示すように、その上端部分は、保護マスク部材10の上面より突出している。このようにすれば、溶射時に外気が導入されるときに、この外気が弾性板15により整流され、溶射膜の形成に外気が悪影響せず、シリンダボア8の内周面に均一な溶射膜Mを形成できる。
弾性板15の下端部分は、本体部11の当接面10aとほぼ同一面となるようにしている。このようにすれば、シリンダボア8の頂部から確実に溶射膜Mを形成できる。
保護マスク部材10のライナー穴14に装着したときの弾性板15の内径D1は、シリンダボア8の内径D2より小さくなるようにしている。このようにすれば、溶射ガン30により溶射膜Mを形成したとき、溶射膜Mは、保護マスク部材10のライナー穴14とシリンダボア8の境目に生じる段差dによりライナー穴14側の溶射膜Mとシリンダボア8側の溶射膜Mが分断され、保護マスク部材10とシリンダブロック2との分離性を良好にする。
固定手段20は、保護マスク部材10をシリンダブロック2に締め付け固定するものであればどのようなものであってもよいが、本実施形態ではボルトbにより構成されている。ただ、本実施形態の固定手段20は、実際のエンジンのようにシリンダヘッドが取付けられている状態を模擬的に生じさせ、シリンダブロック2のシリンダボア8を変形させる機能も有している。この点は後述する。
溶射ガン30による溶射は、シリンダブロック2上面に保護マスク部材10をボルトにより締め付け固定し、シリンダボア8を変形させた状態で行う。
実際にシリンダヘッドをボルト締結すると、その締付力により、あるいはエンジンを実動させたときの熱的影響により、シリンダボアが変形する。したがって、予め製造時に、シリンダブロック2上面に保護マスク部材10をボルトbにより締め付け固定し、シリンダボア8を変形させた状態で、シリンダボア8に溶射膜を形成し、ホーニングにより仕上げると、実働時に円滑に作動するエンジンとなり、好ましい。
図4はシリンダボアの変形状態を示す概略断面図、図5は図4のA−A線に沿う概略断面図である。
ボルト孔24は、図2に示すように、ライナー穴14を取り囲む位置、つまり、ライナー穴14のスラスト−アンチスラスト方向(TH−ATH方向)と、フロント−リヤ方向(FR−RR方向)との間の中間部分に設けられている。
このようにライナー穴14を取り囲む位置にボルトbを設けると、各シリンダボア8の内周面8aを、図4、図5に示すように変形させることができ、シリンダブロック2にシリンダヘッドをボルト締め締結することによる実際のエンジンのようなシリンダボア8の変形状態を模擬的に形成できる。
押圧によるシリンダボア内周面8aの変形は、図4に示すように、シリンダブロック2の上面(シリンダヘッド取付面2a)から所定長Lの部分が最も大きく放射方向外方に膨出変形されるが、この部分の横断面形状は、図5に示すように、ライナー穴14のスラスト−アンチスラスト方向(TH−ATH方向)と、フロント−リヤ方向(FR−RR方向)が外方に膨出変形し、スラスト−アンチスラスト方向(TH−ATH方向)と、フロント−リヤ方向(FR−RR方向)との間の中間部分は、ボルトbの影響によりあまり外方に膨出しない。変形形状は、いわゆる「花びら形状」になり、シリンダブロック2に、シリンダヘッドをボルト締め締結したときに生じるシリンダボアの4次変形状態を完全に模擬的に生じさせることができる。
図6は実際のエンジンにおけるシリンダブロックの平面図である。例えば、3気筒のシリンダブロックは、図6に示すように、ライナー穴14を取り囲む位置にボルト孔24が設けられているが、このライナー穴14の周囲にはウォータージャケット9が設けられ、前述の実施形態のようにボルトの影響によるボアの外方への膨出規制がない。このような場合には、シリンダボア8のフロント−リヤ方向位置(フロント位置FR,リヤ位置RR)と、スラスト−アンチスラスト方向位置(スラスト位置TH,アンチスラスト位置ATH)の4カ所に突起部(斜線で示す部分)を設け、これら突起部によりシリンダブロック2の上面2aを押圧することが好ましい。
図7はシリンダボアの下地処理状態を示す断面図である。下地加工は、前記変形状態を維持して施すが、図7に示すように、例えば、ファインボーリングなどを用いて内周面8aの表面を荒い凹凸面とする。これにより、後に形成される溶射膜Mが、凹凸面となっている下地と強固に結合されることになる。なお、溶射膜Mは、最終的には、図中の最終仕上げ面までホーニング加工される。 図8(A)は弾性板を本体部に装着するマスク脱着部を示す概略平面図、図7(B)はマスク脱着部による弾性板の装着状態を示す概略半断面図である。マスク脱着部40は、図8(A)に示すように、マスク脱着用ロボット41と、3個のマスク支持部材42とを有し、マスク脱着用ロボット41は、各マスク支持部材42を放射方向に移動させるもので、マスク台43上にストックされた弾性板15の1つを把持し、保護マスク部材10のライナー穴14に取り付けたり、ライナー穴14から取り外すようになっている。
弾性板15は、弾性を有し、放射方向に拡開収縮することが可能であることから、3個のマスク支持部材42により外方から縮径させ、簡単に保護マスク部材10のライナー穴14に挿入でき、縮径方向の力を解除すると、図8(B)に示すように、弾性板15自体の弾性によりライナー穴14内面に当接し固定される。
ここにおいて、各マスク支持部材42は、図8(B)に示すように、断面逆L字状をしたものにより構成され、上部内周に段部44が形成されている。段部44は、その腹面42aにより弾性板15である円筒状の薄肉金属板の上部を外方から当接して薄肉金属板を保持する機能と、顎面42bにより薄肉金属板の上端を押圧しライナー穴14内の押し込む機能とを有している。
図9は溶射膜除去装置を示す概略斜視図である。溶射膜除去装置50は、弾性板15に付着した溶射膜Mを除去するもので、剥離された溶射膜Mを弾性板15の内部から下方に落下させるようになっている。溶射膜除去装置50は、溶射マスキング装置とは、別個独立に設けられているが、マスク脱着部40の近傍に配置すると、弾性板15の処理が迅速になり好ましい。
溶射膜除去装置50は、図8に示すように、弾性板15の外周面に当接し保持する3個の外部ローラ51a,51b,51cと、これら外部ローラ51(51a,51b,51cの総称)により保持された弾性板15の内部に配置され、弾性板15の内周面あるいは弾性板15に付着した溶射膜Mに当接する1つの内部ローラ52と、弾性板15の開口部Kから弾性板15と溶射膜Mとの間に挿入される工具53と、を有している。
外部ローラ51と内部ローラ52は、弾性板15を軸中心に回転させるもので、弾性板15の軸線方向長さH以上の軸線方向長さを有し、変形しやすい薄肉の弾性板15であっても、弾性的に当接保持し、軸線方向に滑りを生じることなく円滑に回動させることができるようになっている。
内部ローラ52は、弾性板15の回転と、剥離された溶射膜Mを弾性板15から下方に落下させるようにするため、弾性板15の内周面に当接して弾性板15を軸中心に回転させる当接位置と、弾性板15より離間し、剥離された溶射膜を下方に落下させる後退位置と、を取るように制御部(不図示)により制御される。このようにすれば、1つの内部ローラ52により弾性板15の回転駆動と、剥離された溶射膜Mの排除を行うことができ、装置構成が簡素化される。
特に、内部ローラ52は、剥離された溶射膜Mを下方に落下させた後に、弾性板15を外部ローラ51aと共働して挟圧し、弾性板15を回転させるように制御される。このようにすれば、後に詳述するが、何らの装置を使用せず、弾性板15から溶射膜Mが剥離されたか否かの検査ができる。
なお、外部ローラ51及び内部ローラ52による弾性板15の保持をより確実なものとするには、外部ローラ51や内部ローラ52の下部領域に弾性板15を支持する支持ローラ54を設けることが好ましい。ただし、支持ローラ54は、溶射膜Mの下方落下を邪魔しないように放射方向に移動可能とすることが好ましい。
工具53は、開口部Kから弾性板15と溶射膜Mとの間に挿入され、溶射膜Mあるいは付着した溶融粉末を弾性板15から剥離し除去するもので、例えば、いわゆる糸鋸状のものが好ましい。
次に、マスキング方法と溶射の除去を説明する。
図10(A)〜(F)は弾性板の脱着を工程順に示す要部概略縦断面図、図11(A)は図10(A)に示す状態に対応する平面図、図11(B)は図10(B)に示す状態に対応する平面図、図11(C)は図10(D)(E)に示す状態に対応する平面図、図12は弾性板を保護マスク部材に位置決めする位置決め部を示す概略断面図、図13(A)〜(D)は溶射膜の剥離を工程順に示す概略平断面図、図14(A)(B)(C)はそれぞれ図13の要部を示す拡大図、図15はシリンダボアにおける溶射膜の形成工程を示すフローチャートである。
まず、保護マスク部材10に弾性板15を装着する(図15のステップ1)。マスク脱着用ロボット41は、マスク支持部材42を動作し、マスク台43上に多数立設されている弾性板15の1つを把持させる。このとき、マスク支持部材42は、図10(A)及び図11(A)に示す状態から図10(B)及び図11(B)に示す状態に移動する。この移動により3つのマスク支持部材42は、段部44の腹面42aがマスク台43上に立設している1つの弾性板15の上部外周面に当接して加圧しつつ把持する。この把持により弾性板15は、図11(B)に示すように、開口部Kが狭まりつつ縮径する。
マスク脱着用ロボット41は、この把持状態を保ちつつ、図10(C)に示すように、マスク支持部材42を動作し、弾性板15を保護マスク部材10のライナー穴14まで搬送する。
マスク脱着用ロボット41は、図10(D)に示すように、各マスク支持部材42を下降し、各マスク支持部材42の段部44の顎面42bにより弾性板15の上面を押圧し、ライナー穴14内に弾性板15を挿入する。
ここにおいて、弾性板15のライナー穴14は、上部にテーパ面10tが形成されているので、弾性板15は、テーパ面10tにより縮径されつつ円滑に挿入される。
次に、マスク脱着用ロボット41は、図10(E)に示すように、弾性板15の下端面が保護マスク部材10の下面である当接面10aと一致するまで押し下げる、つまり、弾性板15の下端面が当接面10aに対向する位置となるまで押し下げる。
この場合、保護マスク部材10の下面に、弾性板15の下端面が当接する板材を配置してもよいが、他の手段として、図12に示すように、弾性板15の外周面所定位置に凸部60を形成すると共に、保護マスク部材10のライナー穴14の内周面に凹部61を形成し、両者の凹凸嵌合により弾性板15を位置決めする位置決め部62を形成してもよい。このようにすると、弾性板15の下端面が保護マスク部材10の下面である当接面10aと一致させやすく、シリンダボア8の頂部から確実に溶射膜Mを形成できる。なお、位置決め部62の凹凸関係は、逆であってもよいことはいうまでもない。また、このような凸部60を外周面に有する弾性板15から溶射膜Mを剥離する場合には、凸部60が当らないように外部ローラ51を上下2分割し、その中間に凸部60が位置するようにしてもよい。
弾性板15の縮径によりマスク支持部材42と弾性板15との間に隙間G1が生じることになる(図10E及び図11C参照)。隙間G1の形成により、図10(F)に示すように、何等の障害もなくマスク支持部材42を上方移動させることができ、弾性板15は、それ自体が有する弾性により拡開してライナー穴14に当接し、保護マスク部材10に取り付けられる。
弾性板15の取り付けが完了すると、マスク支持部材42は、マスク脱着用ロボット41によりマスク台43の位置に戻され、次の弾性板15の把持作業を行う。
複数のライナー穴14全てに弾性板15が取り付けられると、シリンダブロック2に保護マスク部材10をボルトbにより固定する(ステップ2)。つまり、シリンダブロック2を支持台3上に載置し、クランプ部材などにより固定保持した後、保護マスク部材10をボルトbによりシリンダブロック2のシリンダヘッド取付面2aに装着する。
ボルトbの締め付けによりシリンダブロック2のシリンダボア8は、その内周面が変形する(ステップ3)。この変形状態を維持して、シリンダボア8の内周面の表面を荒らす下地加工を施す(ステップ4)。
そして、溶射ガン30を回転させつつ弾性板15内から下降し、シリンダボア8の内周面に溶射膜Mを形成する。つまりコーティング処理を行う(ステップ5)。なお、溶射膜Mの形成に当っては、図1に示す排気ファン49を作動し、溶射ガン30の作動により発生する高温のガスを排気ダクト61により吸引しつつ行うことが好ましく、これにより保護マスク部材10のライナー穴14から外気をシリンダブロック2内に取り込み、排気ダクト61より排出つつ、溶射することができる。
このように保護マスク部材10をシリンダブロック2に取り付けるとき、本体部11の当接面10aをシリンダブロック2に密着した状態で取り付け、溶射ガン30を回転させつつ弾性板15内から下降しつつ溶射すると、溶射膜Mは、弾性板15に付着し、保護マスク部材10の本体部11に付着することがないため、本体部11の溶射膜除去作業が不要となる。
溶射膜Mの形成が完了すると、マスク脱着用ロボット41により保護マスク部材10のライナー穴14から弾性板15を取出し(ステップ6)、溶射膜Mの除去処理を行う(ステップ7)。
弾性板15は、図13(A)に示すように弾性板15の内周面に溶射膜Mが付着した状態であるが、開口部Kには、図14(A)に示すように、工具53が挿入可能な隙間G2が存在しているので、これを利用して溶射膜Mの剥離を行う。
溶射膜Mの剥離は、まず、弾性板15を溶射膜除去装置50に装着する。装着は、マスク脱着用ロボット41により弾性板15を保持し、3個の外部ローラ51間に配置する。そして、弾性板15を外部ローラ51間の下方に配置された支持ローラ54上に載置した後、外部ローラ51b、51cを放射方向内方に移動し、弾性板15の外周面に当接させ加圧し、弾性板15を各外部ローラ51により保持する。
図13(B)に示すように、外部ローラ51aと内部ローラ52により弾性板15を挟圧しつつ図中の白抜き矢印方向に少なくとも1回転させる。
弾性板15は、実線矢印方向に回転するが、回転している弾性板15の開口部Kの隙間から工具53を挿入する(図14B参照)。特に、弾性板15は弾性を有しているので、工具53を挿入するとき弾性板15の開口部K近傍も外方に弾性変形し、挿入が容易になる。
工具53の挿入により弾性板15から溶射膜Mが剥離されるが、弾性板15は、その弾性により放射方向外方に拡開し、より溶射膜Mの剥離性を高めることができる。溶射膜Mは、溶接されたものほど強固に付着しているものではなく、弾性板15に機械的に付着しているので、比較的小さな力で剥離できる。
外部ローラ51aと内部ローラ52は、弾性板15を少なくとも1回転させ、弾性板15の内周面に付着した溶射膜Mを剥離した後、内部ローラ52は、外部ローラ51aより離れるように移動する。この結果、弾性板15は、自身が有する弾性力で拡張し、図13(C)に示すように、次位の外部ローラ51b、51cと接触することになり、3つの外部ローラ51それぞれに接触し、安定的に回転する。
このように本実施形態の溶射膜除去装置や溶射膜除去方法によれば、溶射膜Mが付着した弾性板15を、外部ローラ51aと内部ローラ52とにより軸中心に回転し、工具53を弾性板15の開口部Kから挿入し、溶射膜Mを弾性板15から剥離するので、弾性板15から溶射膜Mを自動的に剥離することができ、溶射膜の除去作業が簡便かつ容易にできる。
溶射膜Mが弾性板15から剥離されると、図13(D)に示すように、弾性板15の内周面と溶射膜Mの外周面との間には全体的に隙間G3が形成される。弾性板15は3つの外部ローラ51により保持されるが、溶射膜Mは拡張せず、弾性板15から分離されるので、支持を失い、自重により落下し、何らの手段を要することなく排出できる。
また、工具53は、常時後退方向にバネなどにより付勢していると、弾性板15が回動し、開口部Kの位置が工具53の位置と一致したとき、自動的に弾性板15の外部に引き出される。
図13(E)に示すように、溶射膜Mが剥離された弾性板15が3つの外部ローラ51により保持されている状態で、内部ローラ52を対向する1つの外部ローラ51aに向って移動させる。これにより弾性板15は、再度外部ローラ51aと内部ローラ52との間で挟圧された状態となり、この状態で外部ローラ51aと内部ローラ52とを駆動すると、挟圧された状態で回転することになる。
このとき、弾性板15に残留溶射膜Mが残っていなければ、内部ローラ52の位置は、弾性板15全周にわたり溶射膜Mの厚さ分だけ外方に移動することになるが、残留溶射膜Mが残っていると、残留溶射膜Mが存在している部分に当接し、外方移動しない。したがって、内部ローラ52の位置を、溶射膜Mなどの除去前後で比較すると、溶射膜Mなどの除去不良のある弾性板15か、正常に除去された弾性板15かを、何らの検知手段を使用することなく、この装置自体で検知することができる。つまり、溶射膜Mの剥離の自動化のみでなく、検査まで自動化することができる(ステップ8)。
また、シリンダブロック2のシリンダボア8にホーニング処理である仕上げ加工を施し(ステップ9)、その後、シリンダブロック2から保護マスク部材を取り外す(ステップ10)。
上述したように実施形態は、下記のような効果を奏する。
・保護マスク部材10を、薄肉円筒状の弾性板15と、ライナー穴14を有する本体部11とから構成し、弾性板15をライナー穴14内に配置した本体部11をシリンダブロック2に密着した状態で溶射手段30により溶射するので、溶射膜Mは、弾性板15に付着し、本体部11への付着を防止でき、本体部11の溶射膜除去作業が不要となる。また、保護マスク部材10を取り扱いが簡便な薄肉円筒状の弾性板15により構成し、これを本体部11に対し脱着可能に取付けたので、溶射膜Mを除去する作業が簡便かつ容易にでき、工程の簡素化、サイクルタイムの短縮、量産の円滑化、コストの低減を図ることができる。
・弾性板15に、軸線方向全長にわたってスリット状の開口部Kを形成したので、弾性板15は、放射方向に拡開収縮することが可能で、本体部11に容易に装着でき、取り扱いが容易で、しかも、溶射膜Mが付着すると容易に交換可能である。
・弾性板15が、本体部11に開設されたライナー穴14の深さより長尺な軸線方向長さを有するので、溶射時に導入される外気が弾性板15により整流され、溶射膜の形成に外気が悪影響せず、シリンダボア8の内周面に均一な溶射膜Mを形成できる。
・弾性板15の一端部を、本体部11がシリンダブロック2の当接面10aに対向する位置に配置したので、シリンダボア8の頂部から確実に溶射膜Mを形成できる。
・溶射膜除去装置は、溶射膜Mが付着した弾性板15を、外部ローラ51a,51b,51cと内部ローラ52とにより軸中心に回転し、工具53を弾性板15の開口部Kから挿入し、溶射膜Mを弾性板15から剥離するので、弾性板15から溶射膜Mを自動的に剥離でき、溶射膜Mの除去作業が簡便かつ容易にでき、工程の簡素化、サイクルタイムの短縮、量産の円滑化、コストの低減を図ることができる。
・内部ローラ52は、弾性板15の内周面に付着した溶射膜Mが剥離された後、外部ローラ51aより離れるように移動するので、弾性板15自身がその弾性力で拡張し、次位の外部ローラ51b、51cと接触することになり、3つの外部ローラ51それぞれに接触し、安定的に回転する。
・弾性板15は、本体部11のライナー穴14の内周面14aと凹凸嵌合する位置決め部62を有するので、弾性板15の下端面が保護マスク部材10の下面である当接面10aと一致させやすく、シリンダボア8の頂部から確実に溶射膜Mを形成できる。
・内部ローラ52は、弾性板15の軸線方向全長と等しい長さを有し、剥離された溶射膜Mを下方に落下させた後に、弾性板15を外部ローラ51aと共働して挟圧し、弾性板15を回転させるようにしたので、何らの装置を使用せず、弾性板15から溶射膜Mが剥離されたか否かの検査ができる。
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲内で種々改変することができる。例えば、上述した実施形態では、エンジンのシリンダブロックを成形するものであるが、これのみに限定されるものではなく、少なくとも溶射手段により筒状部分の内周面に溶射膜を形成するものであれば、どのようなものであってもよい。
本発明は、保護マスク部材を用いて円筒状内周面に溶射膜を形成するとき、溶射膜が弾性板に付着し、保護マスク部材の本体部に付着しないようにすることができる。
シリンダボア用加工装置を示す概略断面図である。 保護マスク部材の概略斜視図である。 (A)は弾性板の概略斜視図、(B)は弾性板の取付状態を示す断面図である。 シリンダボアの変形状態を示す概略断面図である。 図4のA−A線に沿う概略断面図である。 実際のエンジンにおけるシリンダブロックの平面図である。 シリンダボアの下地処理状態を示す断面図である。 (A)は同弾性板を保護マスク部材に装着するマスク脱着部を示す概略平面図、(B)は同マスク脱着部による弾性板の装着状態を示す概略断面図である。 溶射膜除去装置を示す概略斜視図である。 (A)〜(F)は弾性板の脱着を工程順に示す概略縦断面図である。 (A)は図9(A)に示す状態に対応する平面図、(B)は図9(B)に示す状態に対応する平面図、(C)は図9(D)(E)に示す状態に対応する平面図である。 弾性板を保護マスク部材に位置決めする位置決め部を示す概略断面図である。 (A)〜(E)は溶射膜の剥離を工程順に示す概略平断面図である。 (A)(B)(C)はそれぞれ図13の要部を示す拡大図である。 シリンダボアにおける溶射膜の形成工程を示すフローチャートである。
符号の説明
2…シリンダブロック(ワーク)、
2a…シリンダブロックの上面(シリンダヘッド取付面)、
8…シリンダボア(内周面)、
10…保護マスク部材、
11…本体部、
11a…本体部の当接面、
13…突起部、
14…ライナー穴、
15…弾性板、
16b…薄肉脚部、
17…連結部、
20…固定手段、
30…溶射ガン(溶射手段)、
51…外部ローラ、
52…内部ローラ、
53…工具、
62…位置決め部
D1…通孔部の内径、
D2…シリンダボアの内径、
H…弾性板の軸線方向長さ、
K…開口部、
M…溶射膜。

Claims (11)

  1. ワークに形成された円筒状部の内周面に向けて溶射手段から溶射粒子を溶射するとき、前記溶射粒子が前記円筒状部の内周面以外の部分への飛散を防止する溶射マスキング装置であって、
    前記保護マスク部材は、前記溶射手段が前記円筒状部に挿入される側のワーク端面に取付けられ、前記円筒状部に対応するライナー穴を有する本体部と、前記ライナー穴内に嵌合され、放射方向に弾性を有する薄肉円筒状の弾性板と、を有し、
    前記ワーク端面に密着するように取付けた前記本体部に前記弾性板を脱着可能に取付けたことを特徴とする溶射マスキング装置。
  2. 前記弾性板は、軸線方向全長にわたってスリット状の開口部を有することを特徴とする請求項1に記載の溶射マスキング装置。
  3. 前記弾性板は、前記本体部に開設されたライナー穴の深さより長尺な軸線方向長さを有することを特徴する請求項1又は2に記載の溶射マスキング装置。
  4. 前記弾性板は、前記本体部が前記ワーク端面に対向する位置に、当該弾性板の一端部を配置したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の溶射マスキング装置。
  5. 前記ワークは、シリンダブロックであり、シリンダブロックのシリンダヘッド取付面に前記本体部を密着して取り付けることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに溶射マスキング装置。
  6. ワークに形成された円筒状部の内周面に向けて溶射手段から溶射粒子を溶射するとき、前記溶射粒子が前記円筒状部の内周面以外の部分への飛散を防止する保護マスク部材と、
    前記溶射手段が前記円筒状部に挿入される側のワーク端面に取付けられ、前記円筒状部に対応するライナー穴を有する本体部と、
    前記溶射手段により溶射される前記円筒状部の内周面への溶融粒子が、前記本体部に付着しないように前記ライナー穴に取付けられる弾性板と、
    を有する溶射マスキング装置に使用される、前記弾性板に付着した前記溶射粒子若しくは溶射膜を除去する溶射膜除去装置であって、
    前記本体部のライナー穴から取り出された前記弾性板の外周面に当接する複数の外部ローラと、
    当該弾性板内に配置された少なくとも1つの内部ローラと、
    前記弾性板の軸線方向全長にわたって形成された開口部から挿入される工具と、を有し、
    前記工具を、前記外部ローラと内部ローラとにより軸中心に回転する前記弾性板の前記開口部から挿入し、前記弾性板の内周面に付着した溶射膜を剥離するようにしたことを特徴とする溶射マスキング装置に使用する溶射膜除去装置。
  7. 前記ワークは、シリンダブロックであり、シリンダブロックのシリンダヘッド取付面に前記本体部を密着して取り付けることを特徴とする請求項6に記載の溶射マスキング装置に使用する溶射膜除去装置。
  8. 前記内部ローラは、前記弾性板の内周面に付着した溶射膜が剥離された後、前記外部ローラより離れるように移動することを特徴とする請求項6に記載の溶射マスキング装置に使用する溶射膜除去装置。
  9. 前記弾性板は、前記本体部のライナー穴の内周面と凹凸嵌合する位置決め部を有することを特徴とする請求項6に記載の溶射マスキング装置に使用する溶射膜除去装置。
  10. 前記内部ローラは、少なくとも前記弾性板の軸線方向全長と等しい長さを有し、剥離された溶射膜を下方に落下させた後に、前記弾性板を前記外部ローラと共働して挟圧し、前記弾性板を回転させるようにしたことを特徴とする請求項6に記載の溶射マスキング装置に使用する溶射膜除去装置。
  11. 溶射手段によりシリンダブロックに形成されたシリンダボアの内周面に溶射粒子を溶射し溶射膜を形成するとき、前記溶射粒子が前記シリンダボア以外の部分への飛散を保護マスク部材により防止する溶射マスキング装置に使用される溶射膜除去方法であって、
    シリンダブロックのシリンダヘッド当接面に、シリンダヘッド状をしかつ前記シリンダブロックのシリンダボアに連通されるライナー穴を有する本体部を載置する工程と、
    溶射手段からの溶射粒子が前記シリンダボア内周面以外の部分への飛散を防止する保護マスク部材を前記ライナー穴の内周面に装着する工程と、
    溶射手段が、前記弾性板内から溶射粒子の噴射を開始し、前記シリンダブロックのシリンダボア内周面に溶射膜を形成する工程と、
    前記弾性板に付着した前記溶射粒子若しくは溶射膜を溶射膜除去手段により除去する除去工程と、
    を有し、
    前記除去工程は、放射方向に弾性を有する薄肉円筒状の弾性板により構成された前記保護マスク部材を前記本体部から外す工程と、
    当該弾性板の外周面を複数の外部ローラにより支持する工程と、
    当該弾性板の内周面を少なくとも1つの内部ローラにより支持する工程と、
    前記弾性板の軸線方向全長にわたって形成された開口部から工具を挿入し、前記弾性板に付着した前記溶射粒子若しくは溶射膜を除去する工程と、からなる溶射マスキング装置に使用される溶射膜除去方法。
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