JP2010112962A - 虫垂炎の診断のための方法および装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】急性虫垂炎の存在および重症度を安価に検査する信頼性の高い方法を提供する。
【解決手段】患者の虫垂炎の重症度を判定するイムノアッセイ装置および方法であって、患者の血液サンプル、血清サンプルまたは血漿サンプルについてサンプル中のMRP8/14の含量を検査することと、それを、虫垂炎重症度のスコア評価システムと相関する標準サンプル中に存在するMRP8/14の含量と比較することとを含む、イムノアッセイ装置および方法を提供する。さらに、患者サンプル中に存在するMRP8/14含量を組織学に基づく虫垂炎重症度グレードと関連付ける標準サンプルおよびデータも提供する。本発明の方法ならびにイムノアッセイ装置およびキットは、虫垂炎症状を呈する患者の処置を管理するうえで有用である。
【選択図】図9
【解決手段】患者の虫垂炎の重症度を判定するイムノアッセイ装置および方法であって、患者の血液サンプル、血清サンプルまたは血漿サンプルについてサンプル中のMRP8/14の含量を検査することと、それを、虫垂炎重症度のスコア評価システムと相関する標準サンプル中に存在するMRP8/14の含量と比較することとを含む、イムノアッセイ装置および方法を提供する。さらに、患者サンプル中に存在するMRP8/14含量を組織学に基づく虫垂炎重症度グレードと関連付ける標準サンプルおよびデータも提供する。本発明の方法ならびにイムノアッセイ装置およびキットは、虫垂炎症状を呈する患者の処置を管理するうえで有用である。
【選択図】図9
Description
関連する出願への相互参照
本願は、2007年2月2日に出願された米国特許出願第11/670,882号、米国特許公報第20070249003号に対する優先権を主張する。米国特許出願第11/670,882号、米国特許公報第20070249003号は、矛盾しない範囲で本明細書中に参考として援用される。
本願は、2007年2月2日に出願された米国特許出願第11/670,882号、米国特許公報第20070249003号に対する優先権を主張する。米国特許出願第11/670,882号、米国特許公報第20070249003号は、矛盾しない範囲で本明細書中に参考として援用される。
虫垂炎は、緊急に外科的処置を必要とするありふれた病であり、様々な年齢の人が罹患している。米国での症例は年間約700,000例にのぼる。症例の大部分は、10〜30歳の年齢群で生じている。良好な治療成績を得るには、十分に早い段階で正確な診断を行うことが重要な要素である。
虫垂炎を示唆するものの、ウイルス感染症など他の病気に起因する症状を持つ多くの人が医師を受診している。虫垂炎患者を他の病気に罹患している人と区別することは、医師が日々直面する困難な臨床作業である。医学では虫垂炎およびその処置法が十分に解明されている一方で、この疾患を的確に認識または診断する能力は極めて限られている。
本当の虫垂炎と他の臨床症候とがかなり重複しており、的確な早期診断という目標を困難なものにしている。虫垂炎の信頼できる指標になり得る個々の徴候、症状、検査または手順は存在しないようである。虫垂の同定および特徴付けを行うには、画像技術は不十分であり、処置が最も効果的となる可能性が高い疾患の初期では特にそうである。画像技術の場合、その費用と、研究結果を解釈する高度な訓練を受けた経験豊かな人がいるかどうかに依存していることとが、さらにマイナス材料になっている。こうした制約から、病に対する不正確は診断または的確な診断の遅れにより、毎年何千もの人が影響を受けている。虫垂炎の症例では、診断の遅れは、状態の悪化および疾患に関係する合併症の増加を招く唯一かつ最も重要な要因である。虫垂炎の誤診は、不必要な手術ばかりでなく、実際の基礎疾患に対する治療の遅れにつながる恐れがある。
外科医のジレンマは、虫垂炎が疑われると紹介された患者の穿孔の発生率を上げずに、いかにして陰性虫垂切除率を最小限にとどめるかにある。この極めてありふれた病気をより効果的に処置するために切望されているのが、疾患過程の最も初期の段階を認識できる簡便で信頼性の高い診断テストである。
虫垂炎の典型的な病因は管腔の閉塞から始まるが、閉塞に先立って最初に器官に炎症が生じ、閉塞に至る場合もある。分泌される虫垂の粘液が閉じた管腔を満たし、管腔内圧の上昇および膨満を引き起こす。上昇した管腔内圧が毛細血管の灌流圧のレベルを超えると、正常なリンパドレナージおよび循環性ドレナージが乱れる場合がある。最終的には、虫垂が虚血状態になる恐れもある。虫垂粘膜が傷害され、管腔内の細菌の侵入を許す場合もある。進行症例では、虫垂の穿孔が起こり、膿が腹膜腔に漏出することがある。
現状、虫垂炎の診断は困難であり、その状態の進行には様々な段階があるが、困難であることに変わりはない。以下は、各段階およびそれに関連する臨床像の仮説の描写である。当業者であれば、個々の患者集団において大きなばらつきがあることを認識するであろう。
炎症の最も初期の段階では、患者は、種々の非特異的な徴候および症状を示す可能性がある。閉塞時の症状(presentation)として、臍周囲痛、軽度の痙攣および食欲不振が挙げられる。管腔圧の上昇および膨満に進行すると、右下腹部における痛みの局在、悪心、嘔吐、下痢および微熱などの症状(presentation)が見られることがある。穿孔が生じた場合、患者は、激痛および高熱を呈することもある。こうした非常に進行した段階では、敗血症が重大なリスクになる場合があり、致死的な転帰をとる可能性がある。
開業医は現在、虫垂炎の診断に役立ついくつかのツールを使用している。これらのツールには、理学的検査、臨床検査およびこれ以外の手順がある。通常の臨床検査として、分画を含むあるいは含まない全血球算定(CBC:complete blood count)および尿検査(UA:urinalysis)が挙げられる。他の検査には、腹部のコンピューター断層撮影(CT:computed tomography)スキャンおよび腹部超音波検査がある。手順には、たとえば、腹腔鏡検査(laparoscopic examination)および試験開腹を含めてもよい。
Flumらは、ある種の技法の利用率の上昇にともない、虫垂切除に先立つ誤診の頻度が低下したかどうかの判定を試みた(Flum DR et al.,2001)。これらの技法としては、虫垂炎の曖昧な徴候を呈している患者向けに提案されているコンピューター断層撮影(CT)、超音波検査および腹腔鏡検査が挙げられる。Flumらは、以下のとおり結論した:「予想に反して、コンピューター断層撮影、超音波検査および腹腔鏡検査の導入により、不必要な虫垂切除につながる誤診の頻度に変化はなかったし、穿孔の頻度も低下していなかった。これらのデータから、集団レベルでは、高度の診断テストの利用により虫垂炎の診断は向上しないことが示唆される」。虫垂炎の誤診率は、男性で約9パーセント、女性で約23.2パーセントである(Neary,W.,2001)。
骨髄関連タンパク質複合体8/14(MRP8/14)は、急性炎症状態に関係しているヘテロ二量体複合体である(総説として、Striz and Trebichavsky,2004を参照されたい)。この複合体は、タンパク質のS100スーパーファミリーに属し、S100A8/9、L1、マクロファージ阻害関連タンパク質およびカルプロテクチンとも呼ばれる。このヘテロ二量体は、8キロダルトン(MRP8)および14キロダルトン(MRP14)のサブユニットからなる。MRP8およびMRP14は、それぞれS100A8/カルグラニュリンおよびS100A9/カルグラニュリンbと別称される。MRP8/14は、マクロファージで最初に発見されたカルシウム結合タンパク質である。高濃度のMRP8/14を発現している好中球は、関節リウマチ、炎症性腸疾患および同種移植片拒絶など、種々の炎症状態で認められている(Frosch et al.,2000;Limburg et al.,2000;Burkhardt et al.,2001)。
MRP8/14は、必ずしも炎症の診断基準になるとは限らない。たとえば、MRP8/14は、炎症性憩室の存在を正確に示唆することはできない(Gasche,C.2005)。リンパ球には通常、MRP8/14は含まれておらず(Hycult Biotechnology,Monoclonal Antibody to Human S100A8/A9)、そのため、MRP8/14は、好中球ではなくリンパ球の存在を特徴とする炎症の診断基準にならない。さらに、このタンパク質は、必ずしも日和見感染に関係しているとは限らない(Froland,M.F.,et al.,1994)。
溶血後に遊離ヘモグロビンに結合する急性期タンパク質にハプトグロビンがある。ハプトグロビン−ヘモグロビン複合体は、肝臓で除去される。ハプトグロビンは、2つのαおよび2つのβサブユニットからなるヘテロ四量体である。αユニットおよびβユニットは単一のポリペプチド鎖前駆体に由来するもので、この前駆体が酵素的切断されてサブユニットが生成される。サブユニットの分子量は、それぞれαで約9kd〜18kd、βで38kdである。
ハプトグロビンは、ヘモグロビンスカベンジャーであるとともに、様々な生物学的機能を持っている(Dobryszycka,1997)。ハプトグロビンは、ある種の感染症および炎症状態において上方制御され、おそらくは単球の機能制御することで免疫応答を調節することが分かっている(Arredouani et al.,2005)。αサブユニットについては、卵巣癌の有用な血清マーカーになる可能性があることが明らかにされている(Ye et al.,2003)。
急性虫垂炎の存在および重症度を安価に検査する信頼性の高い方法がないため、医師は、患者に急性虫垂炎および虫垂切除の緊急性が本当にあるか否かを見分けるCTスキャンなどの高価な画像検査に頼らなければならない。さらに、これらの画像検査では、ほとんどの場合、数時間の遅延が生じるが、こうした時間は患者の適切な処置に使用し得るものである。こうした高価なスキャンの数を減らす方法が必要とされている。CTスキャンのかなりの部分を省くことができれば、患者ごとに1スキャン当たり$3,000〜$5,000の節約が可能になる。個人、病院、健康保険会社および医療制度の医療費全体が大幅に削減される可能性がある。さらに、こうした信頼性の高い方法では、医師がより適切かつ効率的に診断し、虫垂炎患者の処置を管理する(management)ことができる。
本発明は、虫垂炎に罹患の疑いがある患者の虫垂炎の重症度をスコア評価する方法であって、患者のサンプル中のMRP8/14の含量について該サンプルを検査し、サンプル中のMRP8/14の含量を、虫垂炎重症度の1つまたは複数のグレードスコアと以前に相関関係にあったMRP8/14の含量を持つ1種または複数種の標準サンプル中のMRP8/14の含量と比較すること、および患者サンプル中に存在するMRP8/14の含量に最も近いMRP8/14の含量を持つ標準サンプルのグレードスコアを患者の虫垂炎の重症度に割り当てることを含む、方法を提供する。
虫垂炎の重症度をスコア評価するとは、たとえば、背景技術のセクションで上述した段階および臨床像により定義したとおり、あるいは、下記のように組織学的に定義するとおり、虫垂炎の重症度の順にランク付けした一連の言葉もしくは数字またはこれ以外の指標を与えることを意味する。本発明の実施形態のAppyScore(商標)分類システムは、組織学的に判定した虫垂炎重症度グレードに基づく。
虫垂炎に罹患の疑いがある患者は、少なくともいくつかの虫垂炎の古典的症状を呈する。こうした虫垂炎の古典的症状として、腹部の痛み;臍の近くから始まり、その後右下腹部に移動する痛み;無食欲症(食欲不振);眠気をともなう摂食困難;痛みの発生後に始まる悪心;痛みの発生後に始まる嘔吐;疲労をともなう嘔吐;便秘;粘液を含む少量の便;下痢;おならが出ないこと;微熱;腹部膨隆;腹部の痛みの悪化;しぶり(便意を催すこと);高熱;および白血球増加症が挙げられる。さらに、血漿粘度の上昇も虫垂炎に関係している。本発明の一実施形態では、虫垂炎の少なくとも2つ以上の症状を同定する。
患者を検査して、患者のサンプル中のMRP8/14の量を定量する。MRP8/14は、発明者が、虫垂炎と示差的な関係にあることを見出した分子である。
本発明の一実施形態では、患者をスクリーニングして「妨害状態」、すなわち、検査対象のサンプルのタイプにMRP8/14分子が存在する別の状態にあるか否かを判定する。患者がそうした妨害状態にない場合、分子の存在について患者を検査してもよい。妨害状態として、行われたばかりの同種移植;敗血症(septicemia);髄膜炎;肺炎;結核;関節リウマチ;胃腸癌;炎症性腸疾患;皮膚癌、歯周炎、子癇前症およびAIDS(acquired immune deficiency syndrome)が挙げられる。
サンプルは、体液でも組織でもよく、全血、血漿、血清、乳汁、尿、唾液および/または細胞が挙げられる。さらに、糞便サンプルを用いても構わない。好ましくは、検査前に組織および糞便サンプルを液化する。ただし、前に分かっている糞便サンプルによる検査では、非常に多くの偽陰性の結果が生じており、血液、血漿および血清の方が正確な結果が得られる。本発明の実施形態では、患者サンプルは血液サンプルであり、当業者であれば理解するように、本明細書で使用する場合、「患者のサンプル」または「患者サンプル」という語は、血漿、血清および該成分の希釈物など、MRP8/14を認めることができる血液由来の他の産物を含む。
本明細書の発明者らは、患者の血液サンプル中のMRP8/14の含量が虫垂炎の重症度と相関することを発見した。MRP8/14の量の定量については、たとえば、1ミリリットル当たりのマイクログラムのような絶対量によって行ってもよいし、既知の重症度の虫垂炎である患者から採取したサンプル中のMRP8/14の解析に基づく基準によって、たとえば、マイクロプレートリーダーからの吸光度測定値などの絶対量以外の測定パラメーターを用いて行ってもよい。
患者サンプル中のMRP8/14の含量を、虫垂炎重症度のグレードスコアがすでに分かっている患者(単数または複数)から採取した標準サンプル中に存在するMRP8/14の含量と比較し、患者サンプルのMRP8/14の含量に最も近いMRP8/14の含量を持つ標準サンプルにすでに割り当ててあるスコアを患者の虫垂炎の重症度に割り当てる。
本発明の実施形態の1つでは、本明細書の発明者らが開発した虫垂炎の重症度分類システムを用いて、患者組織の組織学的状態に虫垂炎重症度のグレードスコアを対応させる。本明細書では、これらのグレードスコアをAppyScore(商標)グレードといい、以下のとおり定義される:
グレード1 虫垂組織において確認できる炎症がない;
グレード2 炎症が虫垂の粘膜から粘膜下組織に拡大している;
グレード3 炎症が虫垂の粘膜下組織から筋レベルに拡大している;
グレード4 漿膜など虫垂のすべての層で炎症が起こり、穿孔が確認される。
グレード1 虫垂組織において確認できる炎症がない;
グレード2 炎症が虫垂の粘膜から粘膜下組織に拡大している;
グレード3 炎症が虫垂の粘膜下組織から筋レベルに拡大している;
グレード4 漿膜など虫垂のすべての層で炎症が起こり、穿孔が確認される。
本発明の実施形態の1つでは、これらの各グレードに相関する標準サンプルを使用する。
当業者であれば理解するように、標準データについては、たとえば、1ミリリットル当たりのマイクログラムのような絶対量によって表してもよいし、虫垂炎重症度のグレードスコアと相関するMRP8/14の絶対量に関係して数学的に割り当てた単位、たとえば、上述の組織学に基づく4つのグレードに相関する、本明細書に記載のAppyScore(商標)の単位によって表してもよい。
本発明の標準は、虫垂炎重症度のスコア評価に有用な範囲になるようにMRP8/14濃度を最適化した希釈物に基づく。
標準データは、上記のような組織学に基づくグレードスコアを持つことが分かっている患者のAppyScore(商標)グレードの平均値を基礎としている。図11に示すように、これらのAppyScore(商標)グレードは、組織学に基づくグレードスコアに対して良好な直線関係を持つことが分かっており、本発明のAppyScore(商標)法の予測力は強力である。当業者であれば理解するように、統計学的には個々の事例において一定の患者のAppyScore(商標)値が、患者の組織学的特徴を正確に反映しない場合もある。それでも、AppyScore(商標)値は、付随的な組織学的特徴をまったく参照せずに虫垂炎重症度を評価する、医師にとって重要なツールになる。
本発明の一実施形態では、虫垂炎と示差的な関係にある2種以上の分子を検査する。追加分子を同定すれば、本方法の正確性が高まる。
虫垂炎と示差的な関係にある1分子としてMRP8/14がある。もう1つはハプトグロビンである。虫垂炎の診断には、これらの分子をともに検査してもよい。虫垂炎でない患者では、MRP8/14レベルは約1〜約11μg/mlの範囲で存在する。これよりも高いレベルでは、虫垂炎の診断における正確性が高まる。約10、11、13、15または20μg/mlのMRP8/14よりも高いレベルにより、虫垂炎を診断してもよい。虫垂炎でない患者では、ハプトグロビンレベルは、約27〜139mg/dLの範囲で認められる。これよりも高いレベル、たとえば、125、130、135、139および150より高いレベルでは、虫垂炎の診断における正確性が高まる。200μg/mlレベルでは、重度の虫垂炎が示唆される。
本発明の方法で検査してもよい、あるいは、前述の分子に加えて検査してもよい他の分子として、胃腸管に特有の構造タンパク質、ストレス関連炎症メディエーター、免疫学的因子、腸内細菌叢のインジケーター、プラスミノーゲン活性化因子インヒビター1、脂肪酸結合タンパク質、核因子κB(NFκB:nuclear factor kappa beta)、特異的虫垂抗原(HLA−DR)、炎症関連抗原;ならびにMRP8/14およびハプトグロビンをコードする核酸など、上記のいずれかをコードする核酸が挙げられる。核酸の存在を検査する方法は、当該技術分野に公知である。
患者サンプル中のMRP8/14の含量および存在の判定については、MRP8/14に特異的な抗体(単数または複数)に対する該サンプル中のMRP8/14の結合量を判定するなどの方法により行う。MRP8/14に特異的な抗体として、この抗原に対して産生されるモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体が挙げられる。「MRP8/14に対する抗体」という語は、当該技術分野で公知のように、MRP8/14に結合できる抗体フラグメントも含む。MRP8/14複合体のサブユニット、すなわちMRP8およびMRP14に対して産生される抗体などのMRP8/14に結合できる他の抗体も同様に、本方法に用いてもよい。ELISA(enzyme−linked immunoassay)型イムノアッセイでは、こうした抗体を、MRP8/14とそれに特異的な抗体との免疫複合体に結合する検出抗体として用いることができる。MRP8/14に結合するモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体に関しては、当該技術分野で公知の方法により調製することができる。MRP8/14、MRP8およびMRP14の抗体は、Cell Sciences,Canton,MAから市販されている。本発明の一実施形態では、MRP8/14に特異的な抗体は、Cell Sciences,Inc.から提供されるモノクローナル抗体27e10であり、MRP8/14二量体におけるMRP8とMRP14の接合部分に結合する。
また、本発明の方法に有用なハプトグロビンに対するモノクローナル抗体も、たとえば、米国特許第5,552,295号に記載されているように、当該技術分野で公知である。
虫垂炎の診断方法は、たとえば、カートリッジ検査装置およびディップスティック検査装置のような検査装置および/またはMRP8/14の有無を判定する他の手段を使用すること、たとえば、ウエスタンブロット、ノーザンブロット、ELISA検査、タンパク質機能検査、PCR(polymerase chain reaction)および当該技術分野で公知の他のアッセイを行うことを含んでもよい。カートリッジイムノアッセイを、本明細書に記載するような分子の相対量に関する情報を与えるように設計してもよい。ELISAおよび病院のアッセイ装置(Beckman CoulterのSynchron LXシステムなど)などの当該技術分野で公知の他のアッセイを用いて、患者サンプル中に存在するMRP8/14の量を得ることもできる。次いでその量を、虫垂炎でない患者に存在する量と比較して患者が虫垂炎であるか否かを判定してもよい。
検査装置は、カートリッジ形態でも、ディップスティック形態でも、当該技術分野で公知の他の構造形態でもよい。また、検査装置は、キットの一部になっていてもよい。キットは、使用説明書と、検査結果と非虫垂炎患者に行った同じ検査の結果との比較に関する説明書と、非虫垂炎患者の細胞または体液などの追加試薬と、当該技術分野で公知の他の試薬とを含んでいても構わない。これらのタイプのアッセイ装置は、当該技術分野で公知であり、たとえば、米国特許出願公開第2003/0224452号に記載されている。
サンプルが血液であるとき、本方法は、アッセイ対象の血漿または血清を分離するため、濾過または遠心分離など、当該技術分野で公知の手段による血液の処理をさらに含んでもよい。
虫垂炎の疑いがある患者の医学的管理方法において、本発明のイムノアッセイおよび手順を用いてもよい。「医学的管理」とは、虫垂炎の状態の重症度を判定し、どの処置計画を患者に用いるかを決定することを意味する。たとえば、処置計画を立てるには、予測される入院期間;抗生物質投与量;抗生物質のタイプ;抗生物質の投与時期;および手術の時期に関して決定する必要がある。
医学的管理方法の第1のステップとして、抗MRP8/14抗体に対するサンプル中のMRP8/14の結合度合いを判定するため、サンプルと、米国特許出願第11/189,120号に記載されているようなイムノアッセイ装置とを接触させて患者サンプルを検査し、患者が虫垂炎であるか否かを示す結合の度合いに応じて、イムノアッセイ装置に視覚的に検出可能なシグナルを生じさせてもよい。
このイムノアッセイ装置により虫垂炎の存在を示すシグナルが発生される場合、MRP8/14の抗体(単数または複数)に対するサンプル中のMRP8/14の結合度合いと、所定の虫垂炎分類カテゴリーに相関するMRP8/14量を含む標準サンプル中のMRP8/14の、抗MRP8/14抗体(単数または複数)に対する結合の度合いとを比較することを含む、第2のイムノアッセイを、患者サンプルに対して行ってもよい。
あるいは、第1のステップを省略して第2のイムノアッセイを行ってもよく、第2のイムノアッセイを用いて患者が虫垂炎であるか否かを診断するとともに、虫垂炎の重症度を評価してもよい。
本発明の一実施形態では、組織学的評価に基づく上述の分類カテゴリーを用いて虫垂炎の重症度をスコア評価してもよい。
第2のイムノアッセイは、サンプル中のMRP8/14を定量的に評価できるのであれば、当該技術分野で公知のどのようなイムノアッセイでも構わない。一実施形態では、第2のイムノアッセイは、ELISAである。
イムノアッセイ(単数または複数)により、患者が虫垂炎でないことが示された場合、患者の症状と一致する症状を持つ他の症候について患者を調べてもよい。
また、本発明は、抗MRP8/14抗体と、MRP8/14および抗体を含有する免疫反応産物を検出する手段とを含む、虫垂炎の重症度グレードを判定するためのイムノアッセイキットも提供する。イムノアッセイキットは、該抗MRP8/14抗体またはMRP8/14に結合することができる特異的結合剤、少なくとも1つの酵素免疫測定法表面、MRP8/14の含量と虫垂炎重症度との相関性を示す標準曲線もしくはデータセットおよび/または少なくとも1つのMRP8/14標準物質をさらに含んでもよい。
本発明は、標準サンプルまたは1セットの標準サンプルであって、既知の虫垂炎グレードにある患者のサンプル中に存在することが分かっている含量のMRP8/14を各々が含み、セット内の各標準サンプルはMRP8/14を異なる含量で含む、標準サンプルをさらに含む。
また、本発明は、電子記憶媒体内のデータセットなど、標準曲線またはデータセットであって、MRP8/14含量が診断基準になる虫垂炎グレードと相関する該含量を表示するデータを含む、標準曲線またはデータセットも提供する。電子記憶媒体は、コンピュータープロセッサーまたはCD、ディスク、テープ、DVDもしくは当該技術分野で公知の他の記憶媒体内にあってもよい。
本発明は、虫垂炎に罹患の疑いがある患者の組織の組織学的状態に応じて、虫垂炎の重症度をスコア評価する方法をさらに提供する。この方法は、患者の虫垂の組織および任意にそれに隣接する組織を調べること、および以下のような組織の状態に応じて患者の虫垂炎の重症度を説明するグレードスコアを割り当てることを含む:グレード1:虫垂組織において確認できる炎症がない;グレード2:炎症が虫垂の粘膜から粘膜下組織に拡大している;グレード3:炎症が虫垂の粘膜下組織から筋レベルに拡大している;グレード4:漿膜など虫垂のすべての層で炎症が起こり、穿孔が確認される。
本発明はまた、以下の項目を提供する。
(項目1)
虫垂炎の重症度グレードを判定するイムノアッセイキットであって、
抗MRP8/14抗体と、MRP8/14および前記抗体を含む免疫反応産物を検出する手段と;
MRP8/14の含量と虫垂炎重症度との相関性を示す標準データ;
既知の虫垂炎グレードにある患者のサンプル中に存在することが分かっている含量のMRP8/14に相当する含量のMRP8/14を含む少なくとも1つの標準サンプル;および
既知の虫垂炎グレードにある患者のサンプル中に存在することが分かっている含量のMRP8/14を含む1セットの標準サンプルであって、前記セット内の各標準サンプルはMRP8/14を異なる含量で含む、1セットの標準サンプル、
からなる群から選択される少なくとも1つの成分
とを含む、イムノアッセイキット。
(項目2)
MRP8/14に対する前記抗体は、
からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して作製される抗体である、項目1に記載のイムノアッセイキット。
(項目3)
MRP8/14に対する前記モノクローナル抗体は27e10である、項目1に記載のイムノアッセイキット。
(項目4)
前記抗MRP8/14抗体またはMRP8/14に結合することができる特異的結合剤をさらに含む、項目1、2または3に記載のイムノアッセイキット。
(項目5)
既知の虫垂炎グレードにある患者のサンプル中に存在することが分かっている含量のMRP8/14を含む少なくとも2つの標準サンプルのセットであって、前記セット内の各標準サンプルはMRP8/14を異なる含量で含む、標準サンプルのセット。
(項目6)
各標準サンプルは、既知の同じ虫垂炎グレードにある患者の複数のプールサンプルを含む、項目4に記載の標準サンプルのセット。
(項目7)
前記標準サンプルは、一組の虫垂炎グレードに相関することが分かっている含量のMRP8/14を含む合成サンプルである、項目4または項目5に記載の標準サンプルのセット。
(項目8)
MRP8/14含量が診断に役立つ虫垂炎グレードと相関する前記含量を表示するデータを含むデータセットを含む、電子記憶媒体。
(項目9)
虫垂炎に罹患の疑いがある患者の組織の組織学的状態に応じて虫垂炎の重症度をスコア評価する方法であって:
虫垂の組織およびそれに隣接する組織を調べること、および
前記組織の
グレード1 虫垂組織において確認できる炎症がない;
グレード2 炎症が虫垂の粘膜から粘膜下組織に拡大している;
グレード3 炎症が虫垂の粘膜下組織から筋レベルに拡大している;
グレード4 漿膜など虫垂のすべての層で炎症が起こり、穿孔が確認される
の状態に応じて、前記患者の虫垂炎の重症度を説明するグレードスコアを割り当てることを含む、方法。
(項目10)
虫垂炎に罹患の疑いがある患者の虫垂炎の重症度をスコア評価する方法であって:
前記患者のサンプルについて前記サンプル中のMRP8/14の含量を検査すること;
前記サンプル中のMRP8/14の含量を、虫垂炎重症度の1つまたは複数のグレードスコアと以前に相関関係にあった含量(単数または複数)のMRP8/14を含む1種または複数種の標準サンプル中のMRP8/14の含量と比較すること;および
前記患者の虫垂炎の重症度に、前記患者の前記サンプル中に存在するMRP8/14の含量に最も近いMRP8/14の含量を持つ前記標準サンプルの前記グレードスコアを割り当てること
を含む、方法。
本発明はまた、以下の項目を提供する。
(項目1)
虫垂炎の重症度グレードを判定するイムノアッセイキットであって、
抗MRP8/14抗体と、MRP8/14および前記抗体を含む免疫反応産物を検出する手段と;
MRP8/14の含量と虫垂炎重症度との相関性を示す標準データ;
既知の虫垂炎グレードにある患者のサンプル中に存在することが分かっている含量のMRP8/14に相当する含量のMRP8/14を含む少なくとも1つの標準サンプル;および
既知の虫垂炎グレードにある患者のサンプル中に存在することが分かっている含量のMRP8/14を含む1セットの標準サンプルであって、前記セット内の各標準サンプルはMRP8/14を異なる含量で含む、1セットの標準サンプル、
からなる群から選択される少なくとも1つの成分
とを含む、イムノアッセイキット。
(項目2)
MRP8/14に対する前記抗体は、
(項目3)
MRP8/14に対する前記モノクローナル抗体は27e10である、項目1に記載のイムノアッセイキット。
(項目4)
前記抗MRP8/14抗体またはMRP8/14に結合することができる特異的結合剤をさらに含む、項目1、2または3に記載のイムノアッセイキット。
(項目5)
既知の虫垂炎グレードにある患者のサンプル中に存在することが分かっている含量のMRP8/14を含む少なくとも2つの標準サンプルのセットであって、前記セット内の各標準サンプルはMRP8/14を異なる含量で含む、標準サンプルのセット。
(項目6)
各標準サンプルは、既知の同じ虫垂炎グレードにある患者の複数のプールサンプルを含む、項目4に記載の標準サンプルのセット。
(項目7)
前記標準サンプルは、一組の虫垂炎グレードに相関することが分かっている含量のMRP8/14を含む合成サンプルである、項目4または項目5に記載の標準サンプルのセット。
(項目8)
MRP8/14含量が診断に役立つ虫垂炎グレードと相関する前記含量を表示するデータを含むデータセットを含む、電子記憶媒体。
(項目9)
虫垂炎に罹患の疑いがある患者の組織の組織学的状態に応じて虫垂炎の重症度をスコア評価する方法であって:
虫垂の組織およびそれに隣接する組織を調べること、および
前記組織の
グレード1 虫垂組織において確認できる炎症がない;
グレード2 炎症が虫垂の粘膜から粘膜下組織に拡大している;
グレード3 炎症が虫垂の粘膜下組織から筋レベルに拡大している;
グレード4 漿膜など虫垂のすべての層で炎症が起こり、穿孔が確認される
の状態に応じて、前記患者の虫垂炎の重症度を説明するグレードスコアを割り当てることを含む、方法。
(項目10)
虫垂炎に罹患の疑いがある患者の虫垂炎の重症度をスコア評価する方法であって:
前記患者のサンプルについて前記サンプル中のMRP8/14の含量を検査すること;
前記サンプル中のMRP8/14の含量を、虫垂炎重症度の1つまたは複数のグレードスコアと以前に相関関係にあった含量(単数または複数)のMRP8/14を含む1種または複数種の標準サンプル中のMRP8/14の含量と比較すること;および
前記患者の虫垂炎の重症度に、前記患者の前記サンプル中に存在するMRP8/14の含量に最も近いMRP8/14の含量を持つ前記標準サンプルの前記グレードスコアを割り当てること
を含む、方法。
虫垂(vermiform appendix)は、大腸および小腸とは別の器官として認められている。虫垂は、盲腸とも呼ばれる上行結腸の基部から指に似た嚢として飛び出している。虫垂は大腸と同様、中空であり、同じ3つの組織層からなる。これら3つの層とは、粘膜、筋層および漿膜である。虫垂管腔は、開口部(os)を介して盲腸の管腔と連絡し、これを通じて虫垂は、その分泌物を便流に加える。これらの分泌物は、虫垂粘膜から産生される過剰の粘液である。虫垂は、粘液を含むだけでなく、右結腸によく見られる多くの細菌も含む。虫垂管腔の閉塞は、急性虫垂炎を引き起こす支配的な要因である。虫垂の閉塞の通常の原因は糞石であるが、肥大したリンパ組織、以前のX線検査のバリウムの濃縮、野菜および果物の種子ならびに回虫のような腸管内寄生虫が虫垂管腔を遮断することもある。
管腔の閉塞後、現象の連鎖の拡大が続いて起こる。虫垂の近位閉塞により、盲腸への虫垂粘液の正常な流れを遮断する腸係蹄閉塞が起こる。虫垂粘液の正常な分泌が継続すれば、虫垂の管腔容積(約0.1cc)は非常に速く満たされる。虫垂の管腔容積に達したならば、閉塞虫垂からの新たな粘液の産生により、器官内の管腔内圧が急速に上昇する。この上昇した管腔内圧は虫垂壁に対して外側にかかり、虫垂の拡張を引き起こす。拡張が起こると内臓求心性痛覚線維の神経終末が刺激され、腹部中央または下方心窩部に漠然としたびまん性の鈍痛が生じる。さらに、このかなり急な拡張により蠕動も刺激を受けるため、虫垂炎経過の初期には内臓痛に重なって若干の痙攣が起こることもある。
虫垂の拡張は、粘膜分泌の継続ばかりでなく、虫垂の常在細菌の急速な増殖によっても持続する。器官内の圧力が上昇すると、虫垂壁内の静脈圧を超える。その後、この管腔内圧の上昇により、毛細管および細静脈が塞がれるが、細動脈の流入が続くため、充血および血管鬱血が引き起こされる。この程度の拡張になると、ほとんどの場合、反射性悪心および嘔吐が起こり、びまん性内臓痛がより重度になる。この炎症プロセスは、まもなく虫垂の漿膜、次いでこの領域の壁側腹膜に及び、痛みが右下腹部(RLQ:right lower quadrant)に移るのが特徴である。痛みがRLQに限局すると、この疾患プロセスはかなり進行している。
虫垂などの胃腸管の粘膜は、血液供給の異常による影響を非常に受けやすい。このため、プロセスの初期に、粘膜の完全性が損なわれ、より深い組織層への細菌の侵入を許容することになる。この細菌の侵入により虫垂の破壊が起こり、様々な細菌毒素が全身に遊離(liberation)する。死んだ組織産物および細菌毒素が全身に遊離した場合には、その結果として発熱、頻脈および白血球増加症が起こる。進行性の虫垂拡張が進み、細動脈圧が限定されると、楕円の梗塞が虫垂漿膜の腸間膜対側縁に発症する。拡張、細菌の侵入、血管供給の低下および梗塞が進行すると、腸間膜対側縁の梗塞領域の1つに穿孔が生じる。その後、この穿孔から、細菌およびトキシンが腹腔に放出される。
虫垂炎は、その症状が他の症候の症状としばしば混同されるため、「偉大なる模倣者」と呼ばれている。こうした混同の原因は、経過初期の痛みの非特異的な性質および虫垂炎の進行の仕方に幅があることにある。虫垂炎の症状と混同される症状を持つ医学的状態は多い。こうした状態として、ウイルス性または細菌性胃腸炎、炎症性腸疾患、腸閉塞、腸重積、細菌性またはウイルス性腸間膜リンパ節炎、メッケル憩室炎、消化性潰瘍、重度の便秘および盲腸炎などの胃腸管の症候;中間痛、骨盤内炎症性疾患、卵巣嚢胞破裂、卵管妊娠破裂、正常な卵巣または卵巣嚢胞もしくは卵巣腫瘍の捻転などの婦人科症候;胆嚢炎/胆石症および膵炎などの肝胆道/膵症候;直筋血腫、実質/管腔臓器損傷などの外傷およびそれまで疑われていなかった腫瘤の外傷(ウィルムス腫瘍、リンパ腫など;膀胱炎、水腎症、腎盂腎炎および腎結石などの尿路の症候;ならびに糖尿病性ケトアシドーシス、蠕虫寄生、溶血性尿毒症症候群、血友病A、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、エリテマトーデス、ポルフィリン症、原発性腹膜炎、右肺炎、鎌状赤血球発症、連鎖球菌感染症、腹膜垂の捻転および網の捻転などの他の症候が挙げられる。
右下腹部痛は虫垂炎の特徴であるが、これは一般に患者が最初に気づくものではない。虫垂管腔が初めて閉塞されたとき、虫垂管腔はまだ粘液で満たされる機会がないため、患者に症状があったとしても、ほとんど認められない。虫垂管腔を満たすのに要する時間は、閉塞後に利用できる管腔の容積に比例する。個々の虫垂の大きさおよび糞石または他の閉塞物がその長さ方向に存在する正確な位置によって、その容積が異なるため、要する時間については、ばらつきがあり予測不可能である。糞石または他の閉塞物が虫垂の先端に近ければ、利用できる容積は比較的小さく、症状または穿孔が認められるまでの時間は短い。一方、糞石または他の閉塞が虫垂の基部に近く、考えられる最大の虫垂容積が確保されるならば、その反対になるであろう。
虫垂炎患者は、虫垂が拡張するようになると、ほとんどの場合、腹部の中央部に非特異的な不快感を経験し始める。この不快感は、消化障害、便秘またはウイルス性疾病などのありふれた病気と混同されやすい場合がある。虫垂拡張が続くと、悪心を併発することもあり、嘔吐を併発することも多い。嘔吐は、重度であったり、長時間続いたりすることが稀であるため、ありふれた病気との混同が助長される。
虫垂炎進行の後期になると、炎症は、虫垂の最外層まで進行する。この最外層は漿膜と呼ばれ、腹膜と呼ばれる腹腔の内膜に触れている。虫垂が腹膜に触れているところはどこでも、この接触により腹膜が刺激を受け、虫垂炎患者が局所の痛みとして知覚する腹膜炎が起こる。これも個人差がある場合がある。虫垂は、ほとんどの場合、マックバーニー点として知られる領域の下の右下腹部(right lower quadrant)にある。マックバーニー点は、上前腸骨棘から臍までの直線の約3分の2の距離にある腹部に位置している。しかしながら、虫垂は他の位置にあることもあり、その場合、虫垂により起こる腹膜炎は、非典型的な位置になる。これもまた、誤診を招く一般的な要因であり、虫垂炎の症例における外科的処置を遅延させる。
虫垂炎の進行が認められる場合、その位置に関係なく、この器官は最終的に穿孔する。このため、穿孔した虫垂の周囲の腹腔が、重度の感染症を引き起こす細菌で汚染される。この感染症は、ほとんどの場合、限局性の腹腔内膿瘍またはフレグモーネに至り、全身性敗血症が発症する恐れもある。
虫垂炎と示差的な関係にある分子の同定には、プロテオミクスアプローチを用いた。急性虫垂炎の患者の虫垂組織に存在するタンパク質複合体、MRP8/14を同定した。この複合体と虫垂炎との相関的性質が高度であったため、見掛け上虫垂炎の患者のMRP8/14の血清レベルおよび血漿レベルを調べた。見掛け上虫垂炎だが、まだ虫垂の炎症がない患者のレベルと比較して、虫垂炎の患者では、MRP8/14が有意に高かった(p<0.02)。血清中のMRP8/14の供給源は、炎症性の虫垂組織である。これは、MRP8/14の既知の機能と整合している。
本発明の作用機序に関するどのような理論にも拘泥するわけではないが、虫垂炎重症度と相関してMRP8/14量の増加が認められることを説明するための試みとして、以下に考察を行う。炎症におけるMRP8/14の役割は、完全には理解されていないとはいえ、微小毛細血管中の白血球の保持に重要な役割を果たしているようである。細胞外MRP8/14は、ヘパリンスルファート、具体的にはカルボキシル化グリカンに結合して内皮細胞と相互作用する(Robinson et al.,2002)。内皮細胞へのMRP8/14の結合により誘導される細胞内シグナル伝達経路およびエフェクター機構は、完全には明らかにされていない。しかしながら、MRP8/14と食細胞との相互作用は、インテグリン受容体CD11b−CD18の結合活性を増強する。これは、血管内皮に対する白血球の主要な接着経路の1つである(Ryckman et al.,2003)。MRP8/14は、終末糖化産物受容体(RAGE:receptor for advanced glycation end product)を利用すると考えられている(Hsieh et al.,2004)。循環血液中から炎症部位に最初に遊走する白血球は、好中球である。好中球内では、全細胞質タンパク質の約40%を構成するのがMRP8/14複合体である。このタンパク質は、マクロファージ系統の細胞にのみ特異的に発現し、血中単球および急性活性化マクロファージを、これらのタンパク質の他の有力な白血球供給源にする。MRP8/14は、ほとんどの場合、リンパ球にも、常在マクロファージまたは慢性炎症に関与するマクロファージにも発現しない。また、これら2つのタンパク質は、急性炎症の特定の状態の粘膜上皮に独立に発現することも知られている。
虫垂炎の症例では、管腔閉塞およびそれによる虫垂壁の拡張が炎症反応を誘発する。次いで、循環好中球が、活性化マクロファージと同様、その領域にリクルートされる。このタンパク質複合体の発現は、炎症におけるマクロファージの活性と関係しているが、MRP8/14と細胞活性との正確な関係は完全には知られていない。分かっているのは、MRP8/14の細胞内分布がマクロファージの活性化状態によって異なることである。正常なマクロファージは、サイトゾルにこの複合体を含んでいるが、刺激を受けたならば、MRP8/14は、サイトゾルから細胞膜に(具体的には細胞骨格のタンパク質とともに)移動する。このことから、MRP8/14が細胞移動、食作用または炎症性シグナル伝達に関係している可能性があることが示唆されるであろう。細胞の移動およびシグナル伝達の役割により、虫垂内の血管を裏打ちしている上皮などの血管上皮からMRP8/14が直接産生される理由も説明することができる。
特定の炎症状態における役割に関係なく、MRP8/14は急性炎症の細胞内に大量に存在するため、急性虫垂炎の優れた検出器およびモニターになる。炎症プロセスの第1のステップでは、好中球およびマクロファージが特定の部位にリクルートされる。我々の研究では、この特定部位は虫垂であり、そこでMRP8/14含有細胞は、原因刺激に関与している。
この関与により、ほとんどの場合、MRP8/14は細胞死に至り、サイトゾルあるいは細胞膜から患者の循環血液に遊離(liberation)される。同時に、虫垂の粘膜層は、MRP8/14を産生および放出して、マクロファージの遊走または炎症の増幅を促進し始める。その後、虫垂炎により大量のMRP8/14細胞がリクルートされ、最終的にMRP8/14をさらに循環血液中に放出するため、このプロセスは加速する。細胞外MRP8/14の増加を引き起こす炎症状態の他の例およびそうしたMRP8/14の増加と炎症の程度とが相関する傾向にある他の例も知られている。具体的には、慢性気管支炎、嚢胞性線維症および関節リウマチはすべて、MRP8/14の血清レベルが高いことと関連しており、これらの疾患の重症度は通常、検出されるMRP8/14の血清レベルに比例する。
MRP8/14の生理的役割から、MRP8/14は、急性虫垂炎の理想的な臨床マーカーになり得ると考えられる。虫垂炎の患者は通常若くて健康であるため、激しい炎症反応が起こるのが一般的である。この激しい反応は、疾患の最も初期の段階でMRP8/14を遊離させ、次いで虫垂炎の進行を加速させると考えられる。加えて、この若い年齢群では、高レベルのMRP8/14と関連していることが知られている疾患はあまり見られず、ほとんどの場合、虫垂炎に似た兆しが現れない。最後に、MRP8/14はリンパ球に存在していないし、リンパ球増殖にも関連していないため、このマーカーはウイルス感染症では増加しないと考えられる。ウイルス感染症が虫垂炎の最もよく見られる模倣者の1つであるため、このことは、虫垂炎の診断にとって特に強力な利点である。
さらに、虫垂炎の有用なマーカーとしてハプトグロビンも同定した。枯渇血清のディファレンシャルプロテオミクススクリーニングにより、虫垂炎のマーカーとしてハプトグロビンを同定した。虫垂組織の二次ディファレンシャルスクリーニングにより、虫垂炎の患者の虫垂組織においてハプトグロビンが上方制御されることが確認された。この知見を、組織タンパク質のウエスタンブロッティングで確認した。特に、αサブユニットアイソフォームは、病変組織中にしか存在しなかった。ハプトグロビンは血漿タンパク質であるため、虫垂炎のバイオマーカーとして非常に役立つ。
上記で論じたように、本発明は、虫垂炎に罹患の疑いがある患者の虫垂炎の重症度をスコア評価する方法であって、患者のサンプル中のMRP8/14の含量について該サンプルを検査し、サンプル中のMRP8/14の含量を、虫垂炎重症度の1つまたは複数のグレードスコアと以前に相関関係にあったMRP8/14の含量を持つ1種または複数種の標準サンプル中のMRP8/14の含量と比較すること、および患者サンプル中に存在するMRP8/14の含量に最も近いMRP8/14の含量を持つ標準サンプルのグレードスコアを患者の虫垂炎の重症度に割り当てることを含む、方法を提供する。本発明の実施形態のAppyScore(商標)分類システムは、組織学的に判定した虫垂炎重症度グレードに基づく。
患者サンプルは、好ましくは血液サンプルであり、当業者であれば理解するように、「患者のサンプル」または「患者サンプル」という語は、本明細書で使用する場合、血漿、血清および前述の成分の希釈物など、MRP8/14を見出せる血液に由来する他の産物を含む。本発明の一実施形態では、サンプルを30歳以下の患者から採取する。
MRP8/14は、本発明者らが虫垂炎と示差的な関係にあることを見出した分子である。本明細書の発明者らはまた、患者の血液サンプル中のMRP8/14の含量が虫垂炎の重症度と相関することも発見した。MRP8/14の量の定量については、たとえば、1ミリリットル当たりのマイクログラムのような絶対量によって行ってもよいし、既知の重症度の虫垂炎である患者から採取したサンプル中のMRP8/14の解析に基づく基準によって、たとえば、マイクロプレートリーダーからの吸光度測定値などの絶対量以外の測定パラメーターを用いて行ってもよい。
検査では、MRP8サブユニットおよびMRP14サブユニットに対する別々の抗体を用いて、サンプル中のMRP8/14の量を検査してもよい。MRP8の含量とMRP14の含量とのモル比が1:1であれば、MRP8およびMRP14はMRP8/14として複合体形態で存在し、サンプル中にMRP8またはMRP14が他に存在しないと想定できる。MRP8:MRP14の比に1:1と比べて大小があっても、これらの成分のうち一方の閾値が虫垂炎の存在を示すのに十分なMRP8/14と整合すれば、サンプル中に等モル量の他方の成分が存在する限り、虫垂炎の診断に用いることができる。
患者サンプル中のMRP8/14の含量を、虫垂炎重症度のグレードスコアがすでに分かっている患者(単数または複数)から採取した標準サンプル中に存在するMRP8/14の含量と比較し、患者サンプルのMRP8/14の含量に最も近いMRP8/14の含量を持つ標準サンプルにすでに割り当ててあるスコアを患者の虫垂炎の重症度に割り当てる。この方法の最も簡便な形態では、患者サンプルを、単一の患者サンプル、たとえば、虫垂炎の患者と虫垂炎でない患者との正確な鑑別に使用できる最小含量であるMRP8/14含量を持つ標準サンプルのみと比較する。この方法の他の形態では、患者サンプルを、複数(2つ以上)標準サンプル、たとえば、虫垂炎の患者と虫垂炎でない患者とを鑑別する1つの標準サンプルおよび虫垂が穿孔を起こした患者を鑑別する第2の標準サンプルと比較する。さらに他の形態では、新たな標準サンプルを用いて虫垂炎重症度の中等度を規定する。
本発明の実施形態の1つでは、本明細書の発明者らが開発した虫垂炎の重症度分類システム、すなわち、上述のAppyScore(商標)システムを用いて、患者組織の組織学的状態に虫垂炎重症度の4つのグレードスコアを対応させる。本発明の好ましい実施形態では、これらの各グレードに相関する標準サンプルを用いる。
標準サンプルは、虫垂炎重症度グレードが分かっている患者の個別サンプルであってもよいし、標準サンプルはそれぞれ、既知の単一グレードの虫垂炎である複数の患者から採取したプールサンプルまたはそのアリコートであってもよい。また、標準サンプルについては、緩衝液、血清、血漿、血液または当該技術分野で公知の他の好適なキャリアなどの好適なキャリアに、既知のグレードの虫垂炎である患者に存在する量に相当する所定の量のMRP8/14を加えて、調製してもよい。MRP8/14に関しては、MRP8/14が存在することが分かっているヒトまたは他の哺乳動物の血液または市販されている血漿などの血液産物から単離したり、組換えMRP8/14を発現させたりするなど、当該技術分野で公知の任意の手段により、得てもよい。さらに、Hessian(2001)に記載された方法により、天然の単離されたMRP8およびMRP14または組換えMRP8およびMRP14からMRP8/14を生成してもよい。
当業者であれば理解するように、サンプルMRP8/14と標準との比較は、患者のサンプルのMRP8/14測定値と、虫垂炎グレードが分かっている患者の標準サンプル中に存在するMRP8/14含量(該標準サンプルの各サンプル中のMRP8/14の含量は、サンプル採取した患者の虫垂炎グレードと相関している)を反映したデータの集積とを比較すると都合がよいかもしれない。こうしたデータは、標準曲線の形をとってもよいし、コンピュータープロセッサーに電子保存されたデータベースの形で編集されていてもよい。さらに、当業者であれば理解するように、標準データについては、たとえば、1ミリリットル当たりのマイクログラムのような絶対量によって表してもよいし、虫垂炎重症度のグレードスコアと相関するMRP8/14の絶対量に関係して数学的に割り当てた単位、たとえば、上述の組織学に基づく4つのグレードに相関する、本明細書に記載のAppyScore(商標)の単位によって表してもよい。
標準データをコンピュータープロセッサーに保存する際、患者の結果と標準との比較については、患者サンプル中のMRP8/14の含量を示すデータをコンピュータープロセッサーに入力すること、および事前にプログラムされたコンピュータープロセッサーに、患者の虫垂炎重症度スコアを計算させ表示させることを含む方法により行う。
本発明のMRP8/14検査を、Abbott Prism(商標)システムなどの自動血液検査システムで解析する一連の血液検査の1つに加えてもよい。この場合、患者サンプル中のMRP8/14の含量を反映した検査結果は、MRP8/14に対する抗体でサンプル中のMRP8/14の結合を検出する検出手段をさらに含む、自動システムにより作成される。
患者サンプル中のMRP8/14の含量および存在の判定については、MRP8/14に特異的な抗体(単数または複数)に対する該サンプル中のMRP8/14の結合量を判定するなどの方法により行う。MRP8/14に特異的な抗体として、この抗原に対して産生されるモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体が挙げられる。「MRP8/14に対する抗体」という語は、当該技術分野で公知のように、MRP8/14に結合できる抗体フラグメントも含む。MRP8/14複合体のサブユニット、すなわちMRP8およびMRP14に対して産生される抗体など、MRP8/14に結合できる他の抗体も同様に、本方法に用いてもよい。ELISA(enzyme−linked immunoassay)型イムノアッセイでは、こうした抗体を、MRP8/14とそれに特異的な抗体との免疫複合体に結合する検出抗体として用いることができる。本発明の一実施形態では、MRP8/14に特異的な抗体は、Cell Sciences,Inc.から提供されるモノクローナル抗体27e10であり、MRP8/14二量体におけるMRP8とMRP14の接合部分に結合し、単独のMRP8またはMRP14を認識しない。また、この抗体は、サンプル中のMRP8/14の一部がヘテロ四量体(2つのMRP8サブユニットと2つのMRP14サブユニット)の形で存在する場合にも有用である。
MRP8/14に結合するモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体は、当該技術分野で公知の方法で調製できる。こうした抗体の調製に使用できる特定のアミノ酸配列として、MRP8の配列:MLTELEKALNSIIDVYHKYSLIKGNFHAVYRDDLKKLLETECPQYIRKKGADVWFKELDINTDGAVNFQEFLILVIKMGVAAHKKSHEESHKE[配列番号1]およびMRP14の配列:MTCKMSQLERNIETIINTFHQYSVKLGHPDTLNQGEFKELVRKDLQNFLKENKNEKVIEHIMEDLDTNADKQLSFEEFIMLMARLTWASHEKMHEGDGPGHHHKPGLGEGTP[配列番号2]が挙げられる。こうした抗体は、MRP8/14または単離されたMRP8/14、組換えMRP8/14または上記で論じたヘテロ二量体の形成を誘導してMRP8とMRP14とから合成したMRP8/14を含む好中球をマウスなどの好適な動物に注射することを含む方法など、当該技術分野で公知の方法で作成できる。
虫垂炎の疑いがある患者の医学的管理方法において、本発明のイムノアッセイおよび手順を用いてもよい。「医学的管理」とは、虫垂炎の状態の重症度を判定し、どの処置計画を患者に用いるかを決定することを意味する。たとえば、処置計画を立てるには、予測される入院期間;抗生物質投与量;抗生物質のタイプ;抗生物質の投与時期;および手術の時期に関して決定する必要がある。一定の時期で患者の虫垂炎の状態の重症度が分かれば、患者をCTスキャンにまわすべきかどうか、単純に一定期間観察しその後本発明の方法で再検査して虫垂炎の状態の重症度を判定すべきかどうか、あるいは、直ちに虫垂切除の手術にまわすべきかどうかを医師が判定するのに役立つこともある。本発明の方法を用いて、虫垂切除後の二次感染のリスクを予測してもよい。たとえば、AppyScore(商標)の結果がグレード2であれば、通常二次感染のリスクは約5%以下にとどまることが示唆される。スコアがグレード3でれば、リスクは約10〜15%に高まる可能性があり、スコアがグレード4であれば、二次感染のリスクはおそらく30%以上になると医師に警告することになろう。その後、医師は、狭域スペクトル抗生剤を指示するか、広域スペクトル抗生剤を指示するかを判断することができる。
万一、患者のAppyScore(商標)の結果がグレード2であり、観察および/またはCTスキャンを延長しても急性虫垂炎を示さない場合、患者は慢性虫垂炎の可能性があり、それを踏まえて処置してもよい。
医学的管理方法の第1のステップとして、抗MRP8/14抗体に対するサンプル中のMRP8/14の結合度合いを判定するため、サンプルと、米国特許出願第11/189,120号に記載されているようなイムノアッセイ装置とを接触させて、患者サンプルを検査し、患者が虫垂炎であるか否かを示す結合の度合いに応じて、イムノアッセイ装置に視覚的に検出可能なシグナルを生じさせてもよい。このイムノアッセイ装置は、簡便な側方流動またはディップスティックでも、虫垂炎の患者を虫垂炎でない患者と迅速に区別するために診察室または救急室で使用できる類似の装置でもよい。
このイムノアッセイ装置により虫垂炎の存在を示すシグナルが発生される場合、MRP8/14の抗体(単数または複数)に対するサンプル中のMRP8/14の結合度合いと、所定の虫垂炎分類カテゴリーに相関するMRP8/14量を含有する標準サンプル中のMRP8/14の、抗MRP8/14抗体(単数または複数)に対する結合の度合いとを比較することを含む、第2のイムノアッセイを、患者サンプルに対して行ってもよい。
あるいは、第1のステップを省略して第2のイムノアッセイを行ってもよく、第2のイムノアッセイを用いて患者が虫垂炎であるか否かを診断するとともに、虫垂炎の重症度を評価してもよい。
本発明の一実施形態では、組織学的評価に基づく上述の分類カテゴリーを用いて虫垂炎の重症度をスコア評価してもよい。
第2のイムノアッセイは、サンプル中のMRP8/14を定量的に評価できるのであれば、当該技術分野で公知のどのようなイムノアッセイでも構わない。一実施形態では、第2のイムノアッセイは、ELISAである。イムノアッセイを行う前に、サンプルおよび標準物質を希釈する必要がある場合もある。一実施形態では、ELISA検査用に患者サンプルを少なくとも約100倍希釈する。ELISAイムノアッセイは、標準サンプルおよび/または対照サンプルを検査する当該技術分野で公知の手段を含んでもよい。ELISAは、標準サンプルおよび対照サンプルを検査する手段をさらに含んでもよい。このイムノアッセイは、できるだけ短時間で終了させるべきである。実施形態の1つでは、本発明のELISAイムノアッセイを60分以内に終了させてもよい。
上記のように、イムノアッセイ(単数または複数)により、患者が虫垂炎ではないことが示された場合、患者の症状と一致する症状を持つ他の症候について患者を調べてもよい。
虫垂炎の重症度グレードを判定する本発明のイムノアッセイキットは、抗MRP8/14抗体と、MRP8/14および抗体を含有する免疫反応産物を検出する手段とを含んでもよい。イムノアッセイキットは、該抗MRP8/14抗体またはMRP8/14に結合することができる特異的結合剤、少なくとも1つの酵素免疫測定法表面、MRP8/14の含量と虫垂炎重症度との相関性を示す標準曲線および/または少なくとも1つのMRP8/14標準物質をさらに含んでもよい。
本発明は、既知の虫垂炎グレードにある患者のサンプルに存在することが分かっている含量のMRP8/14に相当する含量のMRP8/14を含む標準サンプルをさらに提供する。本発明は、1セットの標準サンプルであって、既知の虫垂炎グレードにある患者のサンプル中に存在することが分かっている含量のMRP8/14を各々が含み、セット内の各標準サンプルはMRP8/14を異なる含量で含む、標準サンプルをさらに含む。セット内の各標準サンプルは、既知の同じ虫垂炎グレードにある患者の複数のプールサンプルを含んでもよい。標準サンプルは、患者由来であってもよいし、一連の虫垂炎グレードと相関することが分かっている含量のMRP8/14を含む合成サンプルであってもよい。1セットの標準サンプルは、少なくとも2つのサンプル(言うまでもなく各々が、それぞれの虫垂炎グレードと相関する含量のMRP8/14を含むまたは少なくとも3つもしくは少なくとも4つのそうしたサンプルを含んでも構わない。
また、本発明は、電子記憶媒体内のデータセットなど、標準曲線またはデータセットであって、MRP8/14含量が診断基準になる虫垂炎グレードと相関する該含量を表示するデータを含む、標準曲線またはデータセットも提供する。電子記憶媒体は、コンピュータープロセッサーまたはCD、ディスク、テープ、DVDもしくは当該技術分野で公知の他の記憶媒体内にあってもよい。
本発明は、虫垂炎に罹患の疑いがある患者の組織の組織学的状態に応じて、虫垂炎の重症度をスコア評価する方法をさらに提供する。この方法は、患者の虫垂の組織および任意にそれに隣接する組織を調べること、および以下のような組織の状態に応じて患者の虫垂炎の重症度を説明するグレードスコアを割り当てることを含む。このためには、AppyScore(商標)分類システムは、特に有用である。組織の状態は以下のように定義される:グレード1:虫垂組織において確認できる炎症がない;グレード2:炎症が虫垂の粘膜から粘膜下組織に拡大している;グレード3:炎症が虫垂の粘膜下組織から筋レベルに拡大している;グレード4:漿膜など虫垂のすべての層で炎症が起こり、穿孔が確認される。
抗MRP8/14抗体を用いて、患者サンプル中に存在するMRP8/14を検出および定量化(標準サンプルまたは標準曲線との比較を用いて)してもよい。サンプル中に存在するMRP8/14を、酵素イムノアッセイEIA:enzymatic immunoassay)、酵素免疫測定法(ELISA)、ラジオイムノメトリックアッセイ(RIA:radioimmunometric assay)、免疫比濁アッセイまたは従来技術において既知のアッセイなど、従来のイムノアッセイフォーマットで、抗MRP8/14モノクローナル抗体を用いて簡便な形で、高い特異性により高感度かつ高精度で解析することができる。これらの方法の多くについては、Harlowら(1988)による実験マニュアルに考察されている。このアッセイは、その存在または量がサンプル中のMRP8/14の存在または量と直接的あるいは間接的に関係する免疫反応産物を形成する免疫化学試薬を含む。本明細書には例示的なアッセイ方法を記載しているが、それで本発明が限定されるものではない。本発明のアッセイを行う際には、競合または非競合を問わず、様々な不均一プロトコルおよび均一プロトコルを用いてもよい。
たとえば、患者サンプル中に存在する抗原の直接固相イムノアッセイでは、各種の条件下で抗MRP8/14モノクローナル抗体を用いてもよく、その結果を、既知量の抗原に基づく標準曲線と比較する。さらに、既知量の患者検体に存在する可溶性MRP8/14抗原については、直接あるいは最初の濃縮ステップ後、固定化した抗原に結合する抗体の阻害に必要なこの材料の量を判定することで、検出および定量化してもよい。これらの手順では、患者サンプルを抗MRP8/14抗体と組み合わせ、抗体が可溶性抗原と免疫複合体を形成できる十分な時間をかけてインキュベートする。得られた混合物を、固定化した抗原とインキュベートし、固定化した抗原に結合している抗体の量を判定する。検体に存在する抗原の濃度に関しては、サンプルの1回の測定あるいは段階希釈において既知量のMRP8/14含有可溶性画分による作用と比較して判定する。固定化した抗原に対する結合阻害を禁止レベルまで軽減するのに必要な希釈状態は、サンプルに存在するMRP8/14の濃度に比例すると考えられる。
説明に役立つ他の実施形態では、(a)サンプルを第1の(捕捉)抗体、たとえば、モノクローナル抗体(抗体とサンプル中に存在するMRP8/14とは第1の免疫反応産物を形成できる)と混合して、第1の免疫反応混合物(admixture)を形成するステップ(第1の抗体を固体マトリックスに作動的に連結してもよい);(b)そのように形成された第1の免疫反応混合物(admixture)を、生物学的アッセイ条件下、第1の免疫反応産物の形成に十分な期間維持するステップ(その後、第1の免疫反応産物をサンプルから分離してもよい);(c)第1の免疫反応産物を第2の(検出)抗体(MRP8/14を認識するモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体)と混合して、第2の免疫反応混合物(admixture)を形成するステップ;(d)そのように形成された第2の免疫反応混合物(admixture)を、生物学的アッセイ条件下、第2の免疫反応産物すなわち「サンドイッチ」免疫反応産物の形成に十分な期間維持するステップ;および(e)形成された第2の免疫反応産物の存在および任意にその量を判定し、それによりサンプル中のMRP8/14の存在および量を判定するステップを含む、二重抗体または「サンドイッチ」イムノアッセイフォーマットを用いる。好ましくは、第2の抗体を好ましくは酵素で標識し、それにより形成される第2の免疫反応(imnmunoreaction)産物が標識産物となり、この第2の免疫反応産物は判定しやすくなる。
好ましい二重抗体アッセイ方法では、判定対象の免疫反応産物の量は、同様に形成された免疫反応産物の量と関係があり、患者サンプルの代わりに本発明による既知量のMRP8/14を含む標準サンプルを用いて判定する。あるいは、既知量のMRP8/14を緩衝液、血漿、血清または同種のものなど、好適なキャリアに加えて、第2の合成標準物質を用いてもよい。第2の抗体は、第1の抗体が対象とするMRP8/14の部位と異なる部位を対象とすべきである。
説明に役立つアッセイのいずれにおいても、患者サンプルを、既知または未知含量の血液または血清もしくは血漿などの血液由来産物として提供してもよい。使用する抗体の量は、既知でも不明でもよい。本発明の実施形態では、混合物(admixture)を、生物学的アッセイ条件下、約4℃〜約37℃、最も好ましくは約22℃の温度で1時間以下の所定の時間維持する。
生物学的アッセイ条件とは、本発明の免疫化学試薬およびMRP8/14の生物活性を維持する条件である。こうした条件は通常、約4℃〜約37℃の温度範囲、少なくとも約6.0〜約8.0のpH値範囲(好ましい範囲は7.0〜7.4)および約50mM〜500mMのイオン強度を含んでもよい。通常の実験時は、他の生物学的アッセイ条件を検討してもよい。こうした条件の最適化方法は、当業者によく知られている。
本発明の範囲内にある他の多くのアッセイタイプについても、当業者に容易に明らかになるであろう。
また、抗MRP8/14抗体は、この抗体と、MRP8/14およびこの抗体を含有する免疫反応産物を検出する手段を含む、キットの一部を構成してもよい。一般に、こうしたキットにはパッケージ化された免疫化学試薬の使用説明書をさらに含めてもよい。
本明細書で使用する場合、「パッケージ化された」という語は、本発明の抗体を一定の範囲内に保持できるガラス、プラスチック、紙、繊維、ホイルおよび同種のものなどの固体マトリックスまたは材料の使用を指すこともある。したがって、たとえば、パッケージは、ミリグラム含量の本発明の抗体を入れるのに使用するガラスバイアルであってもよいし、マイクログラム含量の意図した抗体を作動的に固定してあるマイクロタイタープレートウェルでもよい。あるいは、パッケージは、多孔性の膜内に封入された、あるいは、検査用ストリップまたはディップスティックなどに包埋された抗体コーティング微小粒子を含んでも構わない。あるいは、サンプル流体と接触する膜、検査用ストリップまたはディップスティックなどに、抗体を直接コーティングしてもよい。これ以外にも多くの可能性があり、当業者であれば容易に認識できるであろう。
使用説明書は一般に、試薬濃度、あるいは、混合する試薬とサンプルとの相対量、試薬/サンプル混合物(admixture)の維持時間、温度、緩衝液条件および同種のものなどの少なくとも1つのアッセイ方法のパラメーターを説明する、たとえば、紙の、あるいは、好適な媒体に電子的にコード化された具体的な表現物を含む。
好ましい実施形態では、本発明の診断システムは、本発明の抗体を含む複合体の形成を伝達できる標識または指示手段をさらに含む。
「免疫複合体」という語は、本明細書で使用する場合、抗体−抗原または受容体−リガンド反応などの特異的な結合反応の産物をいう。例示的な免疫複合体として、免疫反応産物がある。
本明細書で使用する場合、様々な文法的な形の「標識」および「指示手段」という語は、直接的あるいは間接的に、免疫複合体の存在を示す検出可能なシグナルの発生に関与する単一の原子および分子をいう。本発明の一部である発現タンパク質分子、ペプチド分子または抗体分子には、どのような標識または指示手段を結合させても、組み込んでもよいし、別々に使用してもよい。これらの原子または分子は、単独で使用しても、追加試薬と組み合わせて使用してもよい。こうした標識自体については、診断技術分野でよく知られている。
標識手段は、変性させずに抗体または抗原に化学的に結合し、有用な免疫蛍光トレーサーである蛍光色素(色素)を形成する蛍光標識剤であってもよい。好適な蛍光標識剤として、フルオレセインイソシアナート(FIC:fluorescein isocyanate)、フルオレセインイソチオシアナート(FITC:fluorescein isothiocyanate)、5−ジエチルアミン−1−ナトプタレンスルホニルクロリド(DANSC)、テトラメチルローダミンイソチオシアナート(TRITC:tetramethylrhodamine isothiocyanate)、リサミン、ローダミン8200スルホニルクロリド(RB200SC)および同種のものなどの蛍光色素がある。免疫蛍光法解析技法の説明は、DeLuca(1982)に掲載されている。
また、指示基は、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP:horseradish peroxidase)、グルコースオキシダーゼまたは同種のものなどの酵素でも構わない。原則の指示基がHRPまたはグルコースオキシダーゼなどの酵素である場合、受容体−リガンド複合体(免疫反応物(immunoreacant))が形成されたこと示す追加試薬を必要とする。HRPのこうした追加試薬として、過酸化水素およびジアミノベンジジンなどの酸化色素前駆体が挙げられる。グルコースオキシダーゼの有用な追加試薬には、2,2,−アジノ−ジ−(3−エチル−ベンズチアゾリン−G−スルホン酸)(ABTS)がある。
さらに、放射性元素も有用な標識剤であり、本発明の実施に使用してもよい。例示的な放射標識剤には、γ線を放出する放射性元素がある。124I、125I、128I、132Iおよび51Crなどのそれ自体γ線を放出する元素は、γ線を放出する放射性元素指示基の1つのクラスを代表する。特に好ましいのは、125Iである。有用な標識手段の別の基には、それ自体ポジトロンを放出する11C、18F、15Oおよび13Nなどの元素がある。さらに、111Inまたは3Hなどのβ放射体も有用である。
標識の結合、すなわち、ペプチドおよびタンパク質の標識化は、当該技術分野において周知である。たとえば、ハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体を、培地中の成分として提供される放射性同位元素含有アミノ酸を代謝的に取り込ませることにより、標識することができる。たとえば、Galfreら(1981)を参照されたい。活性化官能基によるタンパク質のコンジュゲーションまたはカップリング技法も適用できる。たとえば、Aurameas et al.(1978);Rodwell et al.(1984);および米国特許第4,493,795号を参照されたい。
さらに、診断テストキットは、抗MRP8/14抗体またはそうした化学種を含む複合体に選択的に結合できる分子的実体であるが、それ自体は本発明の抗体ではない「特異的結合剤」を、好ましくは別のパッケージとして含んでもよい。例示的な特異的結合剤には、抗イディオタイプ抗体、補体、タンパク質またはこれらのフラグメントなどの第2の抗体分子がある。実施形態の1つでは、特異的結合剤は、抗体が複合体の一部として存在しているとき、それに結合する。
好ましい実施形態では、特異的結合剤を標識する。一方、診断システムが標識されていない特異的結合剤を含む場合、一般にこの薬を増幅手段または試薬として使用する。これらの実施形態では、標識特異的結合剤は、増幅手段が複合体に結合している場合、増幅手段に特異的に結合できる。
ELISAフォーマットに本発明の診断キットを用いて、患者サンプル中のMRP8/14の含量を検出してもよい 「ELISA」とは、固相に結合した抗体または抗原と、酵素−抗原または酵素−抗体コンジュゲートとを利用してサンプル中に存在する抗原の量を検出および定量する、上記で論じたような酵素結合免疫吸着測定をいう。ELISA手法の説明は、Harlow et al.(1988)に掲載されている。
したがって、好ましい実施形態では、MRP8/14に対して特異性があるモノクローナル抗体を固体マトリックスに固定して固体支持体を形成してもよい。一般には、水性媒体から吸着により試薬を固体マトリックスに固定するが、当業者によく知られている、タンパク質およびペプチドに適用できる他の固定モードを用いても構わない。
有用な固体マトリックスについても、当該技術分野において周知である。こうした材料は、水不溶性であり、SEPHADEX(Pharmacia Fine Chemicals,Piscataway,N.J.)という商標で入手できる架橋デキストラン;アガロース;直径約1ミクロン〜約5ミリメートルのポリスチレンビーズ;シート、ストリップまたはパドルなどのポリ塩化ビニル、ポリスチレン、架橋ポリアクリルアミド、ニトロセルロース系またはナイロン系ウェブ;またはポリスチレンまたはポリ塩化ビニル製などのチューブ、プレートまたはマイクロタイタープレートのウェルが挙げられる。
本明細書に記載の任意の診断システムの免疫試薬は、液体分散液として溶液で、または実質的な乾燥粉末として、たとえば、凍結乾燥形態で提供してもよい。指示手段が酵素である場合、酵素の基質をさらに別のパッケージで提供してもよい。本発明の診断アッセイシステムには、上述のマイクロタイタープレートのような固体支持体および1種または複数種の緩衝液を、別にパッケージ化された要素としてさらに加えても構わない。
診断システムに関係する本明細書で考察したパッケージング材料は、診断システムにおいて普通に利用されている。こうした材料として、ガラスおよびプラスチック(たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリカルボナート)ビン、バイアル、プラスチックおよびプラスチックホイルの積層エンベロープおよび同種のものが挙げられる。
(実施例1)
MRP8/14。
MRP8/14。
この研究の目的は、初期の急性虫垂炎を診断する判断基盤に寄与し得る組織特異的マーカーを同定することにあった。急性虫垂炎で特異的に上方制御される虫垂中のタンパク質の同定には、プロテオミクススクリーニングを用いた。急性虫垂炎患者の病変虫垂でも血清でも存在するものとして、MRP8/14を同定した。
材料および方法。検体および血清の収集。処置する医師が規定した受け入れられるケア基準に従って、この研究に組み入れた患者をすべて処置した。我々の研究への組み入れを提案する前に、外科医が患者をすべて評価し、虫垂炎であると診断した。これらの虫垂炎患者を処置する外科医の計画には、直ちに虫垂切除を行うことが含まれていた。抗生物質の使用、外科的手法(開腹あるいは腹腔鏡検査)など、すべての処置の詳細については、個々の外科医が判定した。
除外基準:喘息、関節リウマチ、炎症性腸疾患、乾癬または好中球減少などの慢性炎症性疾患にすでに罹患している任意の患者。妊娠も除外判定基準とした。
この研究に関して研究者がすべての患者とカウンセリングを行い、インフォームドコンセントを得た。インフォームドコンセントの際に、被検体に識別番号を割り当て、非個人的な人口統計学的情報および臨床情報(年齢、性別、人種、症状の期間、白血球数(WBC:white blood count)、画像診断の結果など)を入手した。
手術時に、全身麻酔を誘導してから末梢静脈穿刺により全血サンプル(体積5〜10cc)を採取した。次いで、この血液検体を氷上に置いた。炎症虫垂の小サンプル(約1グラム)を病理検体からできるだけ早く採取し、やはり氷上に置いた。次いで、氷冷血液検体を3000rpmで20分間遠心し、分離した血清を単離した。その後、この単離した血清および虫垂組織の小片を別々に−80℃で凍結保存した。
虫垂炎組織の処理。虫垂切除患者の虫垂組織を採取し、処理を行うまで−80℃で保存した。液体窒素下で無菌乳鉢および乳棒を用いて、個々の組織サンプルを粉砕して粉末にした。抽出緩衝液(0.025Mのトリス塩基、200mMの塩化ナトリウム、5mMのEDTA、0.1%アジ化ナトリウム(pH7.5))中で37℃でインキュベートして、組織粉末からタンパク質を抽出した。サンプルを14Krpmで10分間遠心した。上清を解析まで−80℃で保存した。
抽出組織サンプルの2Dゲル解析。枯渇血清サンプルおよび抽出組織サンプルについて2Dゲル解析を行った。2Dゲル解析用のZoom(Invitrogen)プロトコルに従って、等電点電気泳動(IEF:isoelectric focusing)およびSDS−PAGE(sodium dodecyl sulfate−polyacrylamide gel electrophoresis)を行った。各ゲル上で等量のタンパク質を解析した。陰性血清ゲルと陽性血清ゲルとの比較を行い、陽性サンプルにどのタンパク質が存在するか、陰性サンプルにどのタンパク質が存在しないかを判定した。候補ゲルスポットを同定し、MALDI−TOFタンパク質同定解析(Linden Biosciences)に供した。
抽出虫垂組織サンプルのウエスタンブロット解析。サンプル(10μg)を標準的なLaemmliのSDS−PAGEにかけて、タンパク質をニトロセルロース膜にトランスファーし、化学発光検出による標準技法を用いてウエスタンブロット解析を行った。Magic Mark Western Standard(Invitrogen)を用いて分子量を判定した。一次抗体には、MRP8(カルグラニュリンA C−19,Santa Cruz,SC−8112)を、0.5×Uniblock(AspenBio Pharma,Inc)で1:100に希釈して用いた。二次抗体は、Uniblockで1:2000に希釈したペルオキシダーゼ抗ヤギIgG(H+L)、アフィニティー精製(Vector,PI−9500)とした。一次抗体には、MR−14(カルグラニュリンB C−19,Santa Cruz,SC−8114)を、0.5×Uniblockで1:100に希釈して用いた。二次抗体は、Uniblockで1:2000に希釈したペルオキシダーゼ抗ヤギIgG(H+L)、アフィニティー精製(Vector,PI−9500)とした。
血清中のMRP8/14の判定。MRP8/14の血清レベルを、製造者のプロトコルに従い、市販されているELISA(Buhlmann S100−Cellion S100A8/A9)を用いてELISAで判定した。
結果。虫垂炎患者の虫垂組織に存在するタンパク質の同定。急性虫垂炎の患者で増加するタンパク質を同定するため、枯渇血清サンプルについてディファレンシャルプロテオミクス解析を行った。解析では、正常な患者のサンプルと虫垂が穿孔を起こした患者との比較を行った。血液サンプルを手術の直前に採取した。この研究の正常な患者は、腹部の痛みを呈したが、手術を受けて正常な虫垂であると分かった患者であった。手術の過程で正常な虫垂組織および病変虫垂組織を採取した。
プロテオミクスアプローチでは、二次元電気泳動により4個の正常サンプルのプールと4個の虫垂炎サンプルのプールとの比較を行った。図1は、解析を行ったタンパク質の2Dプロファイルを示す。ゲル間の比較を行い、差が最も明確なところを図1BにAP−93として示してある。図1のゲルに基づけば、AP−93の分子量は約14キロダルトンである。そのゲルスライスをMALDI−TOFにより解析し、明確な同定を行った。この同定は、2つのトリプシンペプチド、NIETIINTFHQYSVK[配列番号3]およびLGHPDTLNQGEFKELVR[配列番号4]のスペクトルに基づく。このペプチドは、MRP14(GenBank受託番号P06702)の以下のアミノ酸配列中の下線で示す残基に相当する:
MTCKMSQLERNIETIINTFHQYSVKLGHPDTLNQGEFKELVRKDLQNFLKKENKNEKVIEHIMEDLDTNADKQLSFEEFIMLMARLTWASHEKMHEGDEGPGHHHKPGLGEGTP[配列番号5]。
MTCKMSQLERNIETIINTFHQYSVKLGHPDTLNQGEFKELVRKDLQNFLKKENKNEKVIEHIMEDLDTNADKQLSFEEFIMLMARLTWASHEKMHEGDEGPGHHHKPGLGEGTP[配列番号5]。
MALDI−TOFによりAP−93をMRP14と同定し、これを分子量の一致から確認した。このデータに基づけば、MRP14タンパク質は、正常サンプルプールよりも病変サンプルプールで非常に多く含まれていた。
病変虫垂組織中のMRP14およびMRP8の存在。病変虫垂組織中のMRP14の存在を確認するため、正常虫垂および病変虫垂の各組織抽出物のウエスタンブロッティングにおいて、抗MRP14抗体を用いた。図2は、9個の正常サンプルおよび11個の虫垂炎サンプルからのウエスタンブロットデータを示す。14キロダルトンのバンドは、あらゆる虫垂炎サンプルに存在する。正常サンプルでは、検出可能なシグナルは認められない
。このデータによりプロテオミクススクリーニングデータが確認され、このタンパク質が病変虫垂組織の指標になることが示される。
。このデータによりプロテオミクススクリーニングデータが確認され、このタンパク質が病変虫垂組織の指標になることが示される。
MRP8はMRP14との二量体として存在することが分かっているため、組織検体中のMRP8の存在についても調べた。図3は、抗MRP8抗体を用いた、正常サンプルおよび病変組織サンプルに関するウエスタンブロットデータを示す。予想どおり、MRP8は、病変虫垂サンプルのすべてに存在するが、正常虫垂組織では検出できない。これらのウエスタンブロットデータは、MRP8タンパク質およびMRP14タンパク質が正常虫垂組織よりも虫垂炎で著しく多く含まれていることを示す。
急性虫垂炎のMRP8/14患者の高い血清レベル。虫垂炎と虫垂におけるMRP8/14の存在との相関性が高いことから、虫垂炎患者およびその後この研究に加わった他の患者の血清中のMRP8/14レベルを調べた。手術前に血清を採取し、保存し、疾患の状態が明らかになってから解析した。MRP8/14レベルを、この複合体に特異的なサンドイッチELISAにより測定した。
表1は、Hycult(Netherlands)が製造し、Cell Sciences,Canton,MAから市販されているELISAで判定した患者39例のMRP8/14の血清レベルの一覧表である。量については、この研究の虫垂炎でない患者の平均レベルと比較した割合で示す。虫垂炎の患者はすべて、MRP8/14が正常レベルの平均に対して倍数増加を示している点に注目されたい。この手順については、ELISA製品に添付された説明書に従って行った。サンプル番号を付け替えているため、このサンプル番号は、図2および図3に示すサンプル番号と一致しない。
(実施例2)
ハプトグロビン。
血清および虫垂組織のプロテオミクススクリーニングを用いて、急性虫垂炎の患者においてハプトグロビンが上方制御されることを判定した。ハプトグロビンのαサブユニットは、この疾患のスクリーニングにおいて特に有用なマーカーである。
材料および方法。ウエスタンブロットで、一次抗体には親和性精製抗ヒトハプトグロビン(Rockland,600−401−272)を0.5×uniblockで1:5000に希釈して用いたこと;および二次抗体はuniblockで1:5000に希釈したペルオキシダーゼ抗ウサギIgG(h+l)、アフィニティー精製(ベクター、pi−1000)としたこと以外は、検体および血清の収集、虫垂炎組織の処理、抽出組織サンプルの2Dゲル解析および抽出虫垂組織サンプルのウエスタンブロット解析を実施例1と同様にした。
結果。虫垂炎患者の虫垂組織に存在するタンパク質の同定。急性虫垂炎の患者で増加するタンパク質を同定するため、枯渇血清サンプルについてディファレンシャルプロテオミクス解析を行った。解析では、正常な患者のサンプルと虫垂が穿孔を起こした患者のサンプルとの比較を行った。血液サンプルを手術の直前に採取した。この研究の正常な患者は、腹部の痛みを呈したが、手術を受けて正常な虫垂であると分かった患者である。手術の過程で正常な虫垂組織および病変虫垂組織を採取した。
プロテオミクスアプローチでは、二次元電気泳動により4個の正常サンプルのプールと4個の虫垂炎サンプルのプールとの比較を行った。図5は、IgGおよびアルブミンを除去した血清から解析されたタンパク質の2Dプロファイルを示す。ゲル間の比較を行い、差が最も明確なところを図5BにAP−77として示してある。ゲルスポットAP−77のタンパク質をトリプシンで消化し、MALDI−TOFで解析した。得られた2種のペプチドは以下の配列を持っている:TEGDGVYTLNNEKQWINK[配列番号6]および
AVGDKLPECEADDGCPKPPEIAHGYVEHSVR[配列番号7]。各配列をハプトグロビンのαサブユニットと整列させた。ハプトグロビン前駆体(GenBank受託番号NP005134)の配列を以下に示し、トリプシンフラグメントを下線で示す。
AVGDKLPECEADDGCPKPPEIAHGYVEHSVR[配列番号7]。各配列をハプトグロビンのαサブユニットと整列させた。ハプトグロビン前駆体(GenBank受託番号NP005134)の配列を以下に示し、トリプシンフラグメントを下線で示す。
病変虫垂組織におけるハプトグロビンの増加。病変組織におけるハプトグロビンの存在を確認するため、正常虫垂および病変虫垂の各組織抽出物のウエスタンブロッティングに、抗ハプトグロビン抗体を用いた。図7は、6個の正常サンプルおよび6個の虫垂炎サンプルからのウエスタンブロットデータを示す。38kdのβサブユニットは、ほぼすべてのサンプルにある程度含まれていたが、虫垂炎の症例ではレベルの上昇が見られた。>20キロダルトンのバンドについては、あらゆる虫垂炎サンプルに存在したが、正常組織サンプルでは存在しなかった。このデータによりプロテオミクススクリーニングデータが確認され、このタンパク質が病変虫垂組織の指標になることが示される。βサブユニットよりもαサブユニットの方が特異性が高い。
(実施例3)
体液サンプルを用いた分子の同定方法。
この実施例の変形形態では、体液サンプルは、全血でも、血清でも、血漿でも構わない。本サンプルは、虫垂切除の直前にヒト患者から採取した全血であった。この検体を氷上に置き、研究室に運んだ。次いで、この血液を、3000rpmで15分間遠心分離により処理した。次いで血漿を他の容器に注いで分離した。
虫垂切除の実施時に、患者を虫垂炎(AP:appendicitis)または非虫垂炎(NAP:non−appendicitis)に分類した。この分類は、当該技術分野において公知の臨床評価、病態またはその両方に基づくものであった。虫垂炎の症例では、穿孔を起こしているかあるいはいないかでも臨床症候について特徴付けを行った。
虫垂切除の実施時に、患者を虫垂炎(AP:appendicitis)または非虫垂炎(NAP:non−appendicitis)に分類した。この分類は、当該技術分野において公知の臨床評価、病態またはその両方に基づくものであった。虫垂炎の症例では、穿孔を起こしているかあるいはいないかでも臨床症候について特徴付けを行った。
AP患者のサンプルをプールし、アリコートに分けた。プールしたアリコートを処理して、抗体および血清アルブミンなどの選択成分を除去した。同様に、NAP患者のサンプルをプールし、アリコートに分けて同じ選択成分を除去する処理を行った。APサンプルおよびNAPサンプルを同様の要領で処理した。
次に、APサンプルおよびNAPサンプルのプールしたアリコートをそれぞれ当該技術分野において公知の二次元ゲル電気泳動にかけた。各サンプルタイプの結果を、タンパク質の有無および相対的な発現レベルに関して比較した。APサンプルから得られるタンパク質に対応するシグナルを検出した。このタンパク質はNAPサンプルでは認められないか、あるいは、発現レベルが相対的に低かった。こうしたAPタンパク質についてさらに特徴付けを行った。
このさらなる特徴付けには、部分的アミノ酸シーケンシング、質量分析法および当該技術分野において公知の他の解析技法が含まれる。部分的アミノ酸配列の全長クローンに対応する遺伝子を単離して、組換えタンパク質として発現させることができる。検出には、組換えタンパク質を抗原として用いた。あるいは、部分的または完全な組換えタンパク質を用いて、特異的(ポリクローナルまたはモノクローナル)抗体試薬を誘導したり、あるいは、作製したりしてもよい。患者の抗原の検出には、虫垂炎の診断に役立つように抗体試薬を用いた。虫垂炎の診断には、抗原分子の組み合わせを用いてもよい。
(実施例4)
患者組織サンプル中のタンパク質を同定するための遺伝子チップスクリーニング。
(実施例4)
患者組織サンプル中のタンパク質を同定するための遺伝子チップスクリーニング。
この実施例では、遺伝子チップスクリーニングを用いて、虫垂炎の状態と示差的な関係にある候補分子を同定した。
組織の説明。虫垂炎診断が陽性であったため、虫垂切除術を受けているヒトドナーから虫垂を除去した(外科的に切除した虫垂の病態は未決定)。ドナーを病態の知見に基づき2つ群、「正常」および「虫垂炎」に分けた。虫垂炎群は7歳から13歳の患者で構成され、正常群は8歳から19歳の患者で構成された。
RNAの抽出。処理を行うまで組織を−80℃で保存した。8例のドナーそれぞれの凍結ヒト虫垂組織約2グラムを、乳鉢と乳棒を用いて液体窒素下で粉砕した。各患者の虫垂粉末約100mgを診断(正常および虫垂炎)に応じてプールした。製造者の指示に従いRNeasyキット(Qiagen Inc.,Valencia,California)を用いて、約100mgのプールした組織粉末から全RNAを抽出した。
差次的発現解析。University of Colorado Health Sciences Center Microarray Core Facility(httlp://microarray.uchsc.edu)が提供するサービスで、全RNAからcDNAを差次的に発現させた。スクリーニングにはAffymetrix Chip、HG−U133 Plus2(Affymetrix,Santa Clara,California;http://www.affymetrix.com)を用いた。発現レベルが正常組織に対して虫垂炎組織で著しく高い転写産物を次の研究用に選択した。
次のスクリーニングでは、上記の遺伝子チップアプローチを繰り返し、結果を評価して、変動倍率値の一定の範囲内で、個々の分子または1セットの分子の変動倍率値に関する遺伝子チップの結果の間に相関性があるかどうかを判定する。変動倍率値の上昇と正の相関性を持つ分子については、虫垂炎の診断アッセイ用に選択するのが好ましい。
(実施例5)
組織サンプルからのタンパク質の同定(サブトラクションライブラリー)。
(実施例5)
組織サンプルからのタンパク質の同定(サブトラクションライブラリー)。
組織サンプルを虫垂炎(AP)および非虫垂炎(NAP)患者から採取する。好ましくは、組織は虫垂である。AP組織サンプルまたはNAP組織サンプルを任意にプールしてAP組織プールまたはNAP組織プールを作製する。AP組織サンプルおよびNAP組織サンプルをそれぞれ全RNAおよび/またはmRNAの単離源として使用する。単離時に、AP−RNAおよびNAP−RNAを別々に維持し、cDNAの調製に使用する。
実施例4の手順の代替手順では、当該技術分野において利用可能な技法を用いてサブトラクションライブラリーを作成する。cDNAライブラリーを任意に増幅させる。cDNAライブラリーについては、重複度の高い種および病変サンプルと正常サンプルとの両方で発現する種など、望ましくない構成要素を除去するように処理する。この技法の例として、Bonaldo et al.(1996)およびDeichmann M et al.(2001)が記載したものが挙げられる。
サブトラクションライブラリーを作成したら、疾患の状態で差次的に発現する配列に応じて選択したクローンの解析、単離および配列決定を行う。分子生物学技法を用いて、部分タンパク質または完全なタンパク質の組換え発現の候補を選択する。次いで、こうしたタンパク質を検出用の抗原として用いる。あるいは、部分組換えタンパク質または完全な組換えタンパク質を用いて、特異的(ポリクローナルまたはモノクローナル)抗体試薬を誘導したり、あるいは、作製したりしてもよい。抗体試薬を患者の抗原の検出に使用すれば、虫垂炎の診断に役立つ。虫垂炎の診断には、抗原分子の組み合わせを用いてもよいことが想定される。
(実施例6)
血漿サンプルの粘度評価による虫垂炎の診断方法。
(実施例6)
血漿サンプルの粘度評価による虫垂炎の診断方法。
虫垂炎の疑いがある患者から虫垂切除の直前に全血を採取した。検体を氷上に置き、臨床検査室に運んだ。血液を、3000rpmで15分間遠心分離により処理し、続いて他の容器に注いでサンプルから血漿を分離した。
注ぎのステップの過程で、粘度に関してサンプルを評価した。高粘度からは虫垂炎が示唆される。虫垂炎症例に対応するサンプルの約80%が高粘度を示したのに対し、非虫垂炎症例に対応するサンプルでは高粘度を示したのは約0〜5%未満であった。高粘度の度合いは、虫垂炎の重症度に相関することに留意されたい。
粘度測定については目視観察で行っても、当該技術分野において公知の技法で行ってもよい。たとえば、Coulter Harkness毛細管粘度計(Harkness J.,1963)を用いてもよいし、他の技法(Haidekker MA,et al.,2002)を用いてもよい。
血漿中に粘度上昇が見られれば、他の診断技法、たとえば、理学的検査、分画を含むあるいは含まない全血球算定(CBC)、尿検査(UA)、コンピューター断層撮影(CT)、腹部超音波検査および腹腔鏡検査の1つまたは複数と組み合わせて用いてもよい。
(実施例7)
MRP8/14の濃度。
(実施例7)
MRP8/14の濃度。
サンプルの取得。本研究は、参加病院を代表する施設内審査委員会によって承認され、その監督下で実施された。選択した患者は、コロラド州デンバー都市圏にある5つの地域病院の救急室の1つから組み入れた。患者はすべて右下腹部痛を訴えており、すべての症例の処置救急室の患者の医師は、その鑑別で虫垂炎の診断を検討していた。患者に、好中球減少または関節リウマチ、炎症性腸疾患および乾癬などの慢性炎症性疾患を含めた既存の病歴があれば、参加から除外した。
選択基準に適合したら、主任研究者またはその代行者が、インフォームドコンセントを得る前に、患者に話を持ちかけ、カウンセリングを行った。同意を得た後、患者の人口統計学的データ、病歴および身体的情報ならびに関連する任意の臨床研究または画像診断の結果を収集し、電子データベースに保存した。次いで、血清および血漿の全血サンプルを、標準的な無菌手法を用いて末梢静脈穿刺により採取した。全血サンプルを直ちに氷上に置き、遠心分離のため研究室に運んだ。サンプルをすべて3000rpmで15分間遠心し、細胞塊と血清および血漿とを分離した。得られた血清または血漿を別の試験管に注いでから−80℃で凍結させた。虫垂切除を行った症例では、通常の病理調査を妨げないやり方で患者の虫垂のサンプルを採取し、その後、−80℃で凍結保存した。
虫垂炎の重症度の病理組織学的分類システム
虫垂炎患者の虫垂組織中の炎症の重症度を説明する新規な分類システムを確立した。グレード1は、虫垂内で炎症を同定できないことを示す。また、グレード1を用いて、虫垂炎でなくて虫垂切除術を受けたことがない患者も同定する。グレード2〜4は、虫垂内で同定される炎症が最も高レベルであることを説明する。炎症のレベルがもっぱら虫垂の粘膜内にとどまる場合、グレード2に分類されるが、慢性的なこのレベルの炎症は、急性虫垂炎と一致する炎症とは見なされない。グレード2の虫垂炎では、炎症のレベルが粘膜から拡大し、粘膜下に到達している。炎症のレベルが粘膜下を超えて虫垂の筋レベルに拡大すると、虫垂炎グレードは3になる。最後に、漿膜を含む虫垂のすべての層が病変し穿孔が認められると、グレード4になる。
虫垂炎患者の虫垂組織中の炎症の重症度を説明する新規な分類システムを確立した。グレード1は、虫垂内で炎症を同定できないことを示す。また、グレード1を用いて、虫垂炎でなくて虫垂切除術を受けたことがない患者も同定する。グレード2〜4は、虫垂内で同定される炎症が最も高レベルであることを説明する。炎症のレベルがもっぱら虫垂の粘膜内にとどまる場合、グレード2に分類されるが、慢性的なこのレベルの炎症は、急性虫垂炎と一致する炎症とは見なされない。グレード2の虫垂炎では、炎症のレベルが粘膜から拡大し、粘膜下に到達している。炎症のレベルが粘膜下を超えて虫垂の筋レベルに拡大すると、虫垂炎グレードは3になる。最後に、漿膜を含む虫垂のすべての層が病変し穿孔が認められると、グレード4になる。
ELISAアッセイ(4時間アッセイ)によるMRP8/14濃度
サンドイッチELISAを用いて、血清サンプルおよび血漿サンプル中のMRP8/14の解析を行った。サンドイッチELISAでは、96ウェルプレート(Nunc,VWR,West Chester,PA)上でMRP8/14に対するモノクローナル抗体27E10(Cell Sciences,Inc.,Canton,MA)ニワトリポリクローナル抗MRP8/14抗体およびヤギポリクローナル抗ニワトリ西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)抗体を用いた。プレートを、10μg/mlに希釈した100μlのモノクローナル27e10でコートし、4℃で一晩インキュベートした。リン酸塩緩衝生理食塩水(1×、pH7.4)でウェルを2回洗浄し、0.05%トウィーン−20(PBST)および200μlの5%ウシ血清アルブミンを含むPBST(BSA−PBST)ブロックを加え、プレートを37℃で1時間インキュベートした。
サンドイッチELISAを用いて、血清サンプルおよび血漿サンプル中のMRP8/14の解析を行った。サンドイッチELISAでは、96ウェルプレート(Nunc,VWR,West Chester,PA)上でMRP8/14に対するモノクローナル抗体27E10(Cell Sciences,Inc.,Canton,MA)ニワトリポリクローナル抗MRP8/14抗体およびヤギポリクローナル抗ニワトリ西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)抗体を用いた。プレートを、10μg/mlに希釈した100μlのモノクローナル27e10でコートし、4℃で一晩インキュベートした。リン酸塩緩衝生理食塩水(1×、pH7.4)でウェルを2回洗浄し、0.05%トウィーン−20(PBST)および200μlの5%ウシ血清アルブミンを含むPBST(BSA−PBST)ブロックを加え、プレートを37℃で1時間インキュベートした。
生物学的血清標準品を、0.1%BSA−PBSTで1:100に希釈し、2倍希釈して1:6400に希釈した。生物学的血漿標準品も0.1%BSA−PBSTで1:25に希釈し、2倍希釈して1:1600に希釈した。MRP8/14サンプルおよび対照を、0.1%BSA−PBSTで血漿に対して1:100に希釈し、血清に対して1:200に希釈し、100μlの希釈サンプル、標準物質および対照をそれぞれプレートに3回加えた。
37℃で1時間のインキュベーション後、ウェルを4回洗浄し、100μlの二次抗体(ニワトリポリクローナル抗MRP8/14、Bachem,San Carlos,CA)を、0.3125μg/mlの濃度で各ウェル加えた。37℃で1時間のインキュベーション後、ウェルを再び洗浄し、100μlの1:4000希釈検出抗体(ヤギポリクローナル抗ニワトリHRP,Abcam,Cambridge,MA)を、各ウェルに加えた。37℃で1時間のインキュベーション後、ウェルに最後の洗浄を行い、100μlの3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMB)基質(TMB基質,Sigma,St,Louis,MO)を加え、室温で1〜5分インキュベートした。0.18Mの硫酸100μlで反応を止めた。
反応の強度を、マイクロプレートリーダーを用いて450nmで測定した。MRP8/14レベルを判定するため、標準物質、サンプル、ブランクおよび対照の吸光度の測定値を平均した。次に、標準物質、サンプルおよび対照の平均値をブランクの平均値から差し引き、補正吸光度を得た。標準曲線の各希釈を任意単位として、任意単位それぞれの自然対数を判定した。任意単位の自然対数に対して補正吸光度(450nm)をプロットして、標準曲線の勾配を確定した。補正吸光度を標準曲線で補間してから指数関数を用いて、各サンプルのMRP8/14レベルを定量した。濃度については、任意単位(AppyScore(商標)値)で表した。生の血清値を0.4倍してAppyScore(商標)値に変換した。
ELISAアッセイ(60分アッセイ)によるMRP8/14濃度
MRP8/14のELISAの総検査時間を、各インキュベーションステップを15分まで短縮して、1時間に最小化した。血漿サンプル用のELISAを、サンドイッチELISAを用いて最適化した。サンドイッチELISAでは、96−ウェルプレート(Nunc,VWR,West Chester,PA)上でモノクローナル27E10、ニワトリポリクローナル抗MRP8/14およびヤギポリクローナル抗ニワトリHRPを用いる。プレートを、10μg/mlに希釈した100μlのモノクローナル27E10でコートし、4℃で一晩インキュベートした。ウェルを、0.05%の1×PBSTで2回洗浄し、200μlの5%BSA−PBSTブロックを加え、プレートをシェーカー上で37℃で15分間インキュベートした。
MRP8/14のELISAの総検査時間を、各インキュベーションステップを15分まで短縮して、1時間に最小化した。血漿サンプル用のELISAを、サンドイッチELISAを用いて最適化した。サンドイッチELISAでは、96−ウェルプレート(Nunc,VWR,West Chester,PA)上でモノクローナル27E10、ニワトリポリクローナル抗MRP8/14およびヤギポリクローナル抗ニワトリHRPを用いる。プレートを、10μg/mlに希釈した100μlのモノクローナル27E10でコートし、4℃で一晩インキュベートした。ウェルを、0.05%の1×PBSTで2回洗浄し、200μlの5%BSA−PBSTブロックを加え、プレートをシェーカー上で37℃で15分間インキュベートした。
生物学的血漿標準品を0.1%BSA−PBSTで1:25に希釈し、さらに2倍希釈して1:1600に希釈した。検査時間の短縮がMRP8/14レベルに影響するかどうかを判定するため、MRP8/14値が分かっている血漿サンプルを選択した。血漿サンプルおよび対照を0.1%BSA−PBSTで1:100に希釈し、100μlの希釈サンプル、標準物質および対照をそれぞれプレートに3回加えた。
37℃で15分間の振盪後、ウェルを4回洗浄し、100μlの二次抗体(ニワトリポリクローナル抗MRP8/14,Bachem,San Carlos,CA)を、0.3125μg/mlの濃度で各ウェルに加えた。シェーカー上で37℃で15分インキュベートした後、ウェルを再び洗浄し、100μlの1:4000希釈検出抗体(ヤギポリクローナル抗ニワトリHRP,Abcam,Cambridge,MA)を、各ウェルに加えた。37℃で15分間の振盪後、ウェルに最後の洗浄を行い、100μlのTMB基質(TMB基質,Sigma,St.Louis,MO)を加え、室温で1〜5分間インキュベートした。この反応を0.18Mの硫酸100μlで止めた。
反応の強度を、マイクロプレートリーダーを用いて450nmで測定した。MRP8/14レベルを判定するため、上記のように標準物質、サンプル、ブランクおよび対照のMRP8/14濃度を得た)。濃度値を、ELISAにより以前に得た値と比較した。このデータから、総検査時間が1時間まで短縮されていても標準物質、サンプル値および対照値に影響しないことが確認された。この60分のアッセイで得られた結果の例を表3に示
す。
す。
参照標準曲線、AppyScore(商標)値および標準バンクの構築。
血清標準品は、虫垂炎の病理組織学的グレードが高い虫垂炎患者サンプルで構成された。これらの選択サンプルをプールし、アリコートを作製し、−80℃で保存した。使用に適した希釈スキームを構築し、1:100希釈から始めて1:6400希釈まで2倍段階希釈を続けた。第1の希釈(1:100)を任意単位6400とし、2倍刻みで7回目の希釈(1:6400)の100までその後の希釈に番号を付けた。MRP8/14濃度を判定する上述の手順に従って、チェッカーボードフォーマットで標準希釈物を全体に注入して、2枚のELISAプレートを展開した。吸光度値を平均し、ブランクの平均値から差し引いて450nmの補正吸光度を得て、標準曲線を作成した。任意単位を、Log10、Log2および自然対数に変換して解析した。各解析方法を補正吸光度(450nm)に対してプロットした。直線性が得られ、補正吸光度値が約0.2〜2.0の範囲内に収まるため、自然対数への任意単位の変換が標準曲線の解析の最適選択であった。この手順を数回繰り返し再現性を判定した。
下記のように細部変更して、同じ解析を行い血漿標準品を構築した。この血漿標準品は、虫垂炎の病理組織学的グレードが高い虫垂炎患者サンプルで構成される。希釈スキームを1:25希釈から始めて、2倍段階希釈で1:1600希釈まで続けた。第1の希釈(1:25)を任意単位1600とし、2倍刻みで7回目の希釈(1:1600)の25までその後の希釈に番号を付けた。血漿標準曲線の解析にも、自然対数への任意単位の変換が最も好適な選択であった。この手順を、血清標準品の構築と同様、数回繰り返して血漿参照標準曲線の再現性を判定した。
(実施例9)
サンプル希釈物の構築。
(実施例9)
サンプル希釈物の構築。
血漿サンプルおよび血清サンプルに対して同じ方法を行い、ELISAに適した希釈を判定した。虫垂炎グレードが分かっているサンプルを選択し、それに対応する標準品として希釈した。標準希釈物およびサンプル希釈物のすべてをプレートに注入し、上記のようにELISAで解析した。サンプル補正吸光度値がどれだけ標準曲線の0.2〜2.0の範囲の中位内に収まるかによって、血漿サンプルおよび血清サンプルの希釈物を選択した。血漿サンプルには1:100希釈を、血清サンプルには1:200希釈を選択した。
(実施例10)
新しい標準バンクの曲線の較正および作成。
(実施例10)
新しい標準バンクの曲線の較正および作成。
現在の標準品に類似した虫垂炎の病理組織学的グレードおよびMRP8/14値に基づき、新しい標準品のサンプルを選択した。選択したこれらのサンプルをプールし、アリコートを作製し、−80℃で保存した。ELISAを用いて、新しい標準品の有効性を現在の標準品に対して較正して判定した。MRP8/14の濃度を判定する上述の手順に従って、2枚のプレート(1枚は現在の標準品、もう1枚は新しい標準品)をアッセイした。各プレート上で同一の対照およびサンプルをアッセイして両プレートを同様に処理し、標準物質間のデータの一貫性を判定した。この手順を行い、6枚のELISAプレートのデータを得た。上記のような6枚のプレートすべてに対して標準物質、対照およびサンプルのMRP8/14値を得た。現在の参照標準曲線値を平均し、標準偏差、変動係数、勾配、相関性、最大および最小吸光度値を判定した。さらに、サンプル値および対照値についても算出した。較正を行うため、同じ解析を新しい参照標準曲線値にも適用した。2つの標準曲線の成分を比較したところ、統計学的に区別できなかった(図8)。2つの標準間では、サンプル値および対照値も統計学的に区別できず、ELISAにより以前に得た値と一致していた。
(実施例11)
パイロット臨床試験の結果。
(実施例11)
パイロット臨床試験の結果。
最終診断が行われる前に、評価可能な救急搬入症例75例からヘパリン加血漿サンプルを採取した。ELISAによりAppyScore(商標)(MRP8/14)値を判定した。それを、表4および表5に示す。75例のうち39名を虫垂炎でない(グレード1)と判定した。残りの36例の虫垂炎患者にAppyGrade(商標)スコアを割り当てた(病理組織学的分類により判定)。6例がグレード2、23例がグレード3、7例がグレード4であった。図2および図3にAppyScore(商標)平均値(±SEM:standard error of the mean)を示す。虫垂炎と診断された患者のAppyScore(商標)平均値は、87(±12.6)であった。1例の患者、N−116のAppyScore(商標)値は1586であり、この群における次の高値のほぼ7倍にあたる。このため、患者N−116のAppyScore(商標)値を平均から除外した。虫垂炎でないと診断された患者のAppyScore(商標)平均値は、36(±8.6)であった。図2は、AppyScore(商標)値と虫垂炎の重症度との関係を示す。グレード1、2、3および4のAppyScore(商標)値は、それぞれ36、61、84および125である。このデータによれば、AppyScore(商標)値は、疾患の重症度に相関する。
正常ドナーのヘパリン加血漿の特徴付け
AppyScore(商標)検査により、外見上健康なドナー100例のヘパリン加血漿を評価した。検査の結果を表6に示す。正常ドナー群のAppyScore(商標)平均値は、25(±3.4)であった。
AppyScore(商標)値の閾値範囲およびトリアージ検査概念の構築
AppyScore(商標)データの調査後、2つのAppyScore(商標)閾値を解析した。虫垂炎患者の97パーセント(97%)(35/36)では、AppyScore(商標)値が20以上であった。非虫垂炎患者の52%(20/39)では、AppyScore(商標)値が20以下であった。虫垂炎患者の92%(33/36)では、AppyScore(商標)値が25以上であった。非虫垂炎患者の77パーセント(77%)(30/39)では、AppyScore(商標)値が25未満であった。値が25未満の虫垂炎患者N−49(AppyScore(商標)値=11)は、最初期の検出可能な病理組織所見があると判定されたが、正常に極めて近いと考えられる点に留意しなければならない。閾値判定においてその患者を正常と考えれば、閾値は25となり、感度は94%、特異性は77%、全体的な正確性は85%になる。
AppyScore(商標)値を用いて、虫垂炎のさらなる精密検査を必要としない患者を同定してもよい。そうした患者は、この値に基づき除外されるからである。本発明の検査の決定的な利点は、不必要で高価なコンピューター断層撮影(CT)スキャンの数が減少することにある。本データに基づけば、AppyScore(商標)検査により、高感度(92〜97%)で虫垂炎の患者を同定することができる。この研究の患者75例では(閾値は20とする)、20例の患者が虫垂炎でないと正しく同定され、虫垂炎のさらなる精密検査を必要としないと考えられる。閾値を25にすると、30例の患者が虫垂炎の診断から排除されていたと考えられる。CTスキャンに現在$3000〜$5000の費用がかかることを考慮すると、この75例の患者の集団単独でCTの総費用が、使用する閾値に応じて$60,000〜$150,000節約される可能性がある。
我々は、右下腹部痛にともない虫垂炎が疑われる症例の救急室の現場で実際に役立つ血液検査のプラットフォームを構築した。血液マーカー(MRP8/14、AppyScore(商標)値)のレベル は、虫垂炎の患者で高い。さらに、虫垂炎の重症度がMRP8/14のレベルと一致する傾向も観察された。AppyScore(商標)検査を用いれば、虫垂炎の同定患者およびさらなる虫垂炎精密検査を必要としない非虫垂炎患者が可能になる。
種々の具体的で好ましい実施形態および技法を参照しながら、本発明について記載してきた。しかしながら、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、多くの変更形態および変形形態が可能であることを理解すべきである。本明細書に具体的に記載した以外の組成物、方法、装置、装置構成要素、材料、手順、技法および実施形態ならびにそのそれぞれの変更形態も、過度の実験を行わずに、本明細書に広く開示されている本発明の実施に適用できることが当業者には明らかであろう。当該技術分野で公知の機能的等価物はすべて、本発明に包含されることを意図している。範囲を開示するときは、下位の範囲および個々の値が包含されることを意図している。本発明は、図面に示したり、本明細書に例示したりする任意の実施形態など、開示した実施形態により限定されるものではない。そうした実施形態は例示として示すもので、限定として示すものではない。
たとえば、刊行物、特許および特許文書など、本出願の参考文献についてはすべて、各参照が本出願の開示と矛盾しない範囲で、参照によって個々に援用しているように参照によってその全体を本明細書に援用する。
本明細書で「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、「含む(comprised)」または「含む(comprising)」を使用する場合、言及し記載した特徴、整数、ステップまたは成分の存在を特定するものとして解釈すべきであるが、1つまたは複数の他の特徴、整数、ステップ、成分またはその群の存在または付加を排除しないものとして解釈すべきである。
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- 明細書中に記載の発明。
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