JP2010101848A - 高クロム鋼材の損傷評価方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】クリープボイドを生じる所定の温度範囲及び所定の圧力範囲で使用される高クロム鋼材の損傷評価方法であって、高クロム鋼材外表面にレプリカ膜を作成し、レプリカ膜を高クロム鋼材外表面から剥離するレプリカ膜作成工程(S2)と、測定を行う所定面積内のレプリカ膜に転写されたM23C6(Mは金属元素、Cは炭素)で表される複数の粒界炭化物の大きさを測り、粒界炭化物のうち少なくとも最大のものを基準寸法と比較する粒界炭化物評価工程(S3)とを有する。
【選択図】図1
Description
配管の外表面と内表面の間の配管内部の損傷を検出する方法として、従来超音波法が一般的に使用されていた(例えば、特許文献1参照)。
この方法によれば、超音波センサを回転させながら被検体に照射し、被検体の組織方位と超音波センサの角度による超音波の音速の変化から、被検体の劣化を評価することができる。
また、高温・高圧下で使用される配管の損傷はクリープボイドによるものが支配的であり、特に高温強度を改善させた高クロム鋼材では、配管を使用するに従って配管の粒界にクリープボイドが成長し、き裂がほとんど成長することなく一気に配管が破断に至るという傾向が強くなってきている。
本発明の高クロム鋼材の損傷評価方法は、クリープボイドを生じる所定の温度範囲及び所定の圧力範囲で使用される高クロム鋼材の損傷評価方法であって、高クロム鋼材外表面にレプリカ膜を作成し、該レプリカ膜を前記高クロム鋼材外表面から剥離するレプリカ膜作成工程と、前記レプリカ膜に転写されたM23C6(Mは金属元素、Cは炭素)で表される複数の粒界炭化物の大きさを測定し、測定した複数の前記粒界炭化物の大きさの平均値を基準寸法と比較する粒界炭化物評価工程とを有することを特徴としている。
なお、ここで言う高クロム鋼材とは、鋼材中のクロムの含有量が重量パーセントで9%以上のフェライト鋼のことを意味する。
また、ここで言う高クロム鋼材がクリープボイドを生じる所定の温度範囲及び所定の圧力範囲とは、一般的に500℃以上700℃以下の温度範囲、10MPa以上200MPa以下の圧力範囲のことを意味する。
また、ここで言う粒界炭化物の大きさとは、レプリカ膜に転写された粒界炭化物の面積と等しい面積を有する円の直径の長さのことである。
すなわち、高クロム鋼材の外表面に析出した粒界炭化物の大きさを測定することで、鋼材内部の粒界に析出したクリープボイドの状態を推測することができ、高クロム鋼材の損傷を評価することが可能となる。
このように本発明による高クロム鋼材の損傷評価方法では、超音波法で用いられる超音波送受信器や超音波データ処理装置が不要になり、超音波法に比較して容易かつ安価に高クロム鋼材の損傷を評価することができる。
この発明によれば、高クロム鋼材外表面の酸化物膜やゴミを取り除くことで高クロム鋼材外表面に粒界炭化物を明瞭に露出させ、レプリカ膜に粒界炭化物をより鮮明に転写させることができる。
この発明によれば、改良9クロム1モリブデン鋼材の鋼材内部のクリープ損傷を、レプリカ膜に転写された鋼材外表面の粒界炭化物の大きさの平均値と基準寸法である200nmを比較するだけで、改良9クロム1モリブデン鋼材の寿命を容易に評価することができる。
この発明によれば、12クロム鋼材の鋼材内部のクリープ損傷を、レプリカ膜に転写された鋼材外表面の粒界炭化物の大きさの平均値と基準寸法である300nmを比較するだけで、12クロム鋼材の寿命を容易に評価することができる。
なお、ここで言う高クロム鋼材とは、鋼材中のクロムの含有量が重量パーセントで9%以上のフェライト鋼のことを意味する。
また、本実施形態では、高クロム鋼材が改良9クロム1モリブデン鋼材の場合について説明する。なお、表1に改良9クロム1モリブデン鋼材の化学組成(重量%)を示す。
改良9クロム1モリブデン鋼材が使用される配管1は発電用ボイラや化学プラントの耐熱用に用いられ、配管1の肉厚は0.01mから0.1mのものが主に用いられている。
また、ここで言う改良9クロム1モリブデン鋼材等の高クロム鋼材がクリープボイドを生じる所定の温度範囲及び所定の圧力範囲とは、一般的に500℃以上700℃以下の温度範囲、10MPa以上200MPa以下の圧力範囲のことを意味する。
なお、配管1への影響を最小限とするため、配管1から微小なサンプル2を取り出すことなく、後述する各工程を配管1の外表面に対して直接行ってもよい。
図7に示すレプリカ膜6を走査型電子顕微鏡で観察し、レプリカ膜6には転写された粒界炭化物の跡7が3カ所あり、それぞれの大きさを図7の上方から、200nm、100nm、150nmと測定したとする。なお、ここで言う粒界炭化物4の大きさとは、レプリカ膜6に転写された粒界炭化物4の面積と等しい面積を有する円の直径の長さのことである。
この時、粒界炭化物4の大きさの平均値は150nmとなり、この値を基準寸法である200nmと比較して、改良9クロム1モリブデン鋼材の寿命を評価する。粒界炭化物4の大きさの平均値の基準寸法200nmに対する比率は75%となる。これにより、本サンプル2はまだ寿命には達していないが、改良9クロム1モリブデン鋼材の寿命の75%に当たる時間まで既に使用されたと評価される。
すなわち、改良9クロム1モリブデン鋼材の外表面に析出した粒界炭化物4の大きさを測定することで、鋼材内部の粒界に析出したクリープボイドの状態を推測することができ、改良9クロム1モリブデン鋼材の損傷を評価することが可能となる。
このように本発明による高クロム鋼材の損傷評価方法では、超音波法で用いられる超音波送受信器や超音波データ処理装置が不要になり、超音波法に比較して容易かつ安価に改良9クロム1モリブデン鋼材の損傷を評価することができる。
また、前処理工程においてサンプル2の外表面の酸化物膜やゴミを取り除くことで、サンプル2の外表面に粒界炭化物4を明瞭に露出させ、レプリカ膜6に粒界炭化物4をより鮮明に転写させることができる。
このクリープ試験に用いた改良9クロム1モリブデン鋼材は、1050℃で1時間焼きならしした後で780℃で1時間焼き戻しされている。改良9クロム1モリブデン鋼材の鋼板が有するV型溝(溝の角度は25°)をアーク溶接で覆い隠すように溶接し、その後740℃で2時間溶接後の熱処理を行った。V型溝を溶接で覆い隠した跡には、溶接による複数の線が表れていた。
そしてこの鋼板を用いて、溶接の線と引張り軸が垂直になるように機械加工して試験片を作成した。大気中、650℃、そして所定の応力を負荷してクリープ破断試験を行い微細構造の分析を行った。
溶接して接続した試験片でクリープ試験を行うと、溶接の熱影響を受けた領域(以下、「HAZ」と称する)内のみで破断して、全ての試験片が破断した。そして、溶接して接続した試験片の破断寿命は、V型溝を設けたり溶接を行ったりしていない改良9クロム1モリブデン鋼材の母材の寿命より短かった。
析出物の大きさは走査型電子顕微鏡で測定した。改良9クロム1モリブデン鋼材における主な析出物は、M23C6で表される炭化物と、MXで表される炭化窒化物である。なお、これらの析出物は、主に粒界に析出するので、それぞれ上述したように粒界炭化物及び粒界炭化窒化物とも称される。また、最も数多く測定される析出物の大きさを以下で「析出物の大きさの平均値」と称し、測定結果を比較した。
図9中の2本の点線は、2つの析出物の分布をそれぞれ示し、実線は2本の点線の合計を示す。析出物の大きさの最頻値が63(nm)のものがMXであり、析出物の大きさの平均値が235(nm)のものがM23C6である。
この結果から、クリープ試験で破断した改良9クロム1モリブデン鋼材には、60(nm)から1(μm)程度の大きさのM23C6炭化物が析出していることが分かった。
この結果により、改良9クロム1モリブデン鋼材のHAZ及び母材において、いずれの場合にもクリープ試験を行うことにより、鋼材中のM23C6炭化物の大きさの最頻値が増加することが分かった。特にHAZ範囲の右側の母材によるクリープ試験では、破断時の粒界炭化物の大きさの平均値は200nmであった。
例えば、上記実施形態では、高クロム鋼材の損傷評価方法を改良9クロム1モリブデン鋼材に適用した例を説明したが、本発明の高クロム鋼材の損傷評価方法は12クロム鋼材にも適用することができる。
なお表2に、12クロム鋼材の化学組成(重量%)を示す。
2 サンプル
3 酸化物膜
4 粒界炭化物
5 アセチルセルロース膜
6 レプリカ膜
7 粒界炭化物の跡
Claims (4)
- クリープボイドを生じる所定の温度範囲及び所定の圧力範囲で使用される高クロム鋼材の損傷評価方法であって、
高クロム鋼材外表面にレプリカ膜を作成し、該レプリカ膜を前記高クロム鋼材外表面から剥離するレプリカ膜作成工程と、
前記レプリカ膜に転写されたM23C6(Mは金属元素、Cは炭素)で表される複数の粒界炭化物の大きさを測定し、測定した複数の前記粒界炭化物の大きさの平均値を基準寸法と比較する粒界炭化物評価工程と
を有することを特徴とする高クロム鋼材の損傷評価方法。 - 請求項1に記載の高クロム鋼材の損傷評価方法において、
前記レプリカ膜作成工程の前に、前記高クロム鋼材外表面を研磨してエッチングする前処理工程を行うことを特徴とする高クロム鋼材の損傷評価方法。 - 請求項1又は請求項2に記載の高クロム鋼材の損傷評価方法において、
前記高クロム鋼材が改良9クロム1モリブデン鋼材であり、
前記粒界炭化物評価工程において、測定した複数の前記粒界炭化物の大きさの平均値が前記基準寸法である200nmに達したときに前記改良9クロム1モリブデン鋼材が寿命に達したと評価することを特徴とする高クロム鋼材の損傷評価方法。 - 請求項1又は請求項2に記載の高クロム鋼材の損傷評価方法において、
前記高クロム鋼材が12クロム鋼材であり、
前記粒界炭化物評価工程において、測定した複数の前記粒界炭化物の大きさの平均値が前記基準寸法である300nmに達したときに前記12クロム鋼材が寿命に達したと評価することを特徴とする高クロム鋼材の損傷評価方法。
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