JP2010090486A - セルロース不織布およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】セルロースミクロフィブリルから成るセルロース不織布であって、水溶性多糖及び水溶性多糖誘導体からなる群から選択される単数または複数の水溶性高分子を合計0.5重量%以上20重量%以下含有し、目付が3g/m2以上80g/m2以下、かつ目付10g/m2相当の透気抵抗度が10s/100ml以上500s/100ml以下であるセルロース不織布。
【選択図】図1
Description
本発明者らは、上述の微細なセルロース繊維からなる通気性を有するセルロース不織布を提供する技術を検討してきた(特許文献1参照)。
一方で、材料としてのセルロースの特徴の一つとして、高い耐熱特性がある(特許文献2、および特許文献3参照)。これは、セルロース固体の内部で形成されている分子鎖内の水素結合と分子鎖間の水素結合の双方による、極めて剛直かつ安定な分子鎖の充填構造に起因している。セルロース繊維からなるセルロース不織布の強度向上のためには、セルロース繊維による接触点でのバインダーポリマーによる補強技術を考案することができるものの、セルロース材料のもつ高い耐熱特性を損ねない範囲でバインダーポリマーを混在させるためには、バインダーポリマー自体が高い耐熱性を保有するという制約があった。
本発明は、微細なセルロース繊維からなる通気性かつ高強度のセルロース不織布を提供することを目的とする。
[1]セルロースミクロフィブリルから成るセルロース不織布であって、水溶性多糖及び水溶性多糖誘導体からなる群から選択される単数または複数の水溶性高分子を合計0.5重量%以上20重量%以下含有し、目付が3g/m2以上80g/m2以下、かつ目付10g/m2相当の透気抵抗度が10s/100ml以上500s/100ml以下であるセルロース不織布。
[2]セルロース不織布を構成する繊維の数平均繊維径が300nm以下である[1]に記載のセルロース不織布。
[3]トルエン中に浸液した状態で、850nmの波長の光を不織布に対して垂直に走査して得られる、下記式(1)で定義される平均透過率Tr,avを目付10g/m2相当の値に換算した値が0.70以上であることを特徴とする[1]または[2]に記載のセルロース不織布。
(ただし、Tr,avは、試験管の内面に不織布が貼り付いた状態でトルエンを満たし、不織布に対し垂直な方向から試験管に対して850nmの波長の光を照射し、試験管に沿って長さ方向に40μmごとに合計30000μm(データ点数;750)の長さ分を走査した際に各々得られる透過率の平均値Tr,1と、不織布を除いてトルエンのみ注入された状態で同じ測定を行って得られる透過率の平均値Tr,2の比によって、次式で定義される。)
Tr,av=Tr,1/Tr,2 (1)
[5]水溶性高分子が水溶性セルロース誘導体である[1]〜[4]のいずれかに記載のセルロース不織布。
[6]複数の層が積層されてなる多層化シートであって、[1]〜[5]のいずれかに記載のセルロース不織布の層を含み、目付が8g/m2以上100g/m2以下、かつ透気抵抗度が10s/100ml以上1000s/100ml以下である多層化シート。
(1)セルロースミクロフィブリル0.05重量%以上0.5重量%以下、大気圧下での沸点範囲が50℃以上200℃以下の油性化合物0.15重量%以上10重量%以下、水溶性多糖及び水溶性多糖誘導体からなる群から選択される単数または複数の水溶性高分子を合計0.003重量%以上0.1重量%以下、及び水85重量%以上99.5重量%以下を含む水系分散液であって、該油性化合物が水相に分散したエマルジョンである水系分散液を調製する調製工程、(2)水系分散液を構成する水の一部を抄紙機で脱水することによって、セルロースミクロフィブリルの濃度および油性化合物の濃度を該水系分散液より増加させた濃縮組成物を得る抄紙工程、(3)濃縮組成物を加熱することによって、該濃縮組成物から油性化合物および水の一部を蒸発させて除去する乾燥工程、
の3つの工程を含むセルロース不織布の製造方法。
[9]セルロースミクロフィブリルが、α−セルロース含有率が95重量%以上である原料パルプの中から選ばれる少なくとも1種を原料として得られるミクロフィブリル化セルロースである[8]に記載のセルロース不織布の製造方法。
[10]油性化合物が炭素数5〜炭素数9の範囲であり一価かつ一級のアルコールを含む、[7]〜[9]のいずれかに記載のセルロース不織布の製造方法。
[11]油性化合物が、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、及び1−ヘプタノールからなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物を含む、[10]に記載のセルロース不織布の製造方法。
[12]乾燥工程の後に、乾燥後に得られたセルロース不織布にカレンダー装置によって平滑化処理を施す平滑化工程を有することを特徴とする[7]〜[11]のいずれかに記載のセルロース不織布の製造方法。
(1)セルロースミクロフィブリル0.05重量%以上0.5重量%以下、大気圧下での沸点範囲が50℃以上200℃以下の油性化合物0.15重量%以上10重量%以下、水溶性多糖及び水溶性多糖誘導体からなる群から選択される単数または複数の水溶性高分子を合計0.003重量%以上0.1重量%以下、及び水85重量%以上99.5重量%以下を含む水系分散液であって、該油性化合物が水相に分散したエマルジョンである水系分散液を調製する調製工程、(2)抄紙機に通水性のあるシート状の支持体をのせて、水系分散液を構成する水の一部を該支持体上で脱水することによって、該支持体上にセルロースミクロフィブリルの濃度および油性化合物の濃度を該水系分散液より増加させた濃縮組成物からなる層を積層一体化させる抄紙工程(3)濃縮組成物と一体化された支持体を加熱することによって、該濃縮組成物から油性化合物および水の一部を蒸発させて除去する乾燥工程、
の3つの工程を含む多層化シートの製造方法。
[15]セルロースミクロフィブリルが、α−セルロース含有率が95重量%以上である原料パルプの中から選ばれる少なくとも1種を原料として得られるミクロフィブリル化セルロースである[14]に記載の多層化シートの製造方法。
[16]油性化合物が炭素数5〜炭素数9の範囲であり一価かつ一級のアルコールを含む、[13]〜[15]のいずれか1項に記載の多層化シートの製造方法。
[17]油性化合物が、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、及び1−ヘプタノールからなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物を含む、[16]に記載の多層化シートの製造方法。
[18]乾燥工程の後に、乾燥後に得られた多層化シートにカレンダー装置によって平滑化処理を施す平滑化工程を有することを特徴とする[13]〜[17]のいずれかに記載の多層化シートの製造方法。
本発明は、セルロース不織布およびその製造方法に関する。ここで、本発明では、「繊維を織ったり編んだりすることなく、繊維どうしを化学的方法、機械的方法または、それらの組み合わせにより、結合や組み合わせを行った構造物」という不織布の一般的定義に従い、本発明の構造体を湿式不織布の範疇と見なしてセルロース不織布と呼ぶ。敢えて紙と呼ばないのは、本発明の不織布を構成する主要なセルロース繊維が、従来の紙の原料としてのセルロース繊維よりも約2桁のオーダー細いセルロース繊維である点で大きく異なる材料であり、用途としてもいわゆる紙の用途ではなく、不織布が使われている用途分野で、より好適にその機能を発現するためである。
ここで、セルロースミクロフィブリルとは、ミクロフィブリルと呼ばれる数nm〜200nmの繊維径のセルロース繊維ないしはその集束体を意味する。より具体的には、バクテリアセルロースと呼ばれる、酢酸菌やバクテリア類の産生するセルロースか、あるいはミクロフィブリル化セルロースと呼ばれる、パルプ等の植物由来あるいはホヤセルロースのような動物由来のセルロースを高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、グラインダー等の高度にせん断力の加わる装置で微細化処理することにより得られる、繊維表面から引き剥がれた独立したミクロフィブリルあるいはそれらが収束した微細繊維(非特許文献1;A.F.Turbak, F.W.Snyder and K.R.Sandberg, ” Microfibrilated Cellulose, A New Cellulose Product: Properties, Uses, and Commercial Potential” J.Appl.Polym.Sci.: Appl. Polym. Symp., 37, 815 (1983))を意味する。このうち、本発明では、コストや品質管理の面からミクロフィブリル化セルロースを原料として使用することがより好ましい。
好ましい叩解処理の程度は以下のように定められる。水中に分散させたセルロースをJIS P 8121で定義されるパルプのカナダ標準ろ水度試験方法(以下、CSF法)のCSF値で評価したところ、叩解処理を行うにつれCSF値は経時的に減少していき、一旦、ゼロ近くとなった後、さらに叩解処理を続けると増大していく傾向が確認された。
ミクロフィブリル化セルロースの繊維径は、高圧ホモジナイザー等による微細化処理の条件(装置の選定や操作圧力およびパス回数)あるいは該微細化処理前の前処理の条件(例えば、オートクレーブ処理、酵素処理、叩解処理等)によって制御することができる。
さらに好ましくは、目付が5g/m2以上30g/m2以下の範囲にあり、かつ目付10g/m2相当の透気抵抗度が20s/100ml以上300s/100ml以下のセルロース不織布である。
10×z/w (s/100ml) (2)
で定義されるものである。ここでzは、一つの不織布サンプルに対して種々の異なる位置について5点の測定を行い、その平均値である。
ここで、個々の試料の引張り強度の評価は、JIS P 8113にて定義される方法に従い、熊谷理機工業(株)の卓上型横型引張試験機(No.2000)を用い、幅15mmのサンプル10点について測定し、その平均値を引張り強度とした。また、バッチ式製膜に対し、不織布の縦横に強度の異方性が現れ易い連続製膜により作られたサンプルの場合は、本発明における引張り強度とは、走行方向(MD)に関する引張り強度を意味するものとする。
Tr,av=Tr,1/Tr,2 (1)
れる平均透過率Tr,avを目付10g/m2相当の値に換算した値、すなわち、目付wg/m2のサンプルの測定値Tr,avに対し、下記式(3)で定義される値
1−(1−Tr,av)×10/w (3)
が0.70以上、さらに好ましくは0.75以上であるとより明確に本発明の主張する種々の機能を発現させることが可能となる。
次に、上述したセルロース不織布の層を含む複数の層が積層されてなる多層化シートであって、目付が8g/m2以上100g/m2以下、かつ透気抵抗度が10s/100ml以上1000s/100ml以下である多層化シートについて説明する。
本発明のセルロース不織布の製造方法について記載する。基本的に、本発明のセルロース不織布は、ナノファイバーであるセルロースミクロフィブリルからなる不織布を製膜する際に、本発明で限定する目付範囲で、規定された透気抵抗度を有するように、しかも水溶性多糖および水溶性多糖誘導体からなる群から選択される単数または複数の水溶性高分子(以下「特定の水溶性高分子」ともいう。)を所定の含有率に制御すればよい。その製膜方法としては、大きく分けて塗布法と抄紙法により製造することが可能である。
まず、上述した3つの工程の詳細について説明する。本発明の製造方法は、所定のセルロースミクロフィブリルの水系分散液から抄紙法により湿紙を製膜し、該湿紙を乾燥させるシンプルなものである。
調製工程で調整する水系分散液は、セルロースミクロフィブリル0.05重量%以上0.5重量%以下、大気圧下での沸点範囲が50℃以上200℃以下の油性化合物0.5重量%以上10重量%以下、水溶性多糖および水溶性多糖誘導体からなる群から選択される単数または複数の水溶性高分子を合計0.003重量%以上0.1重量%以下、及び水85重量%以上99.5重量%以下を含む水系分散液であることが必要である。
例えば、炭素数6〜炭素数14の範囲の炭化水素、具体的には、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−デカン、n−ウンデカンやそれらの異性体(例えば、イソヘキサン、イソオクタン、イソデカン)に代表される鎖状飽和炭化水素類、シクロヘキサン、シクロヘキセンのような環状炭化水素類、ジイソブチレンやシクロヘキセンのような鎖状または環状の不飽和炭化水素類、及びベンゼン、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素類、次に、炭素数5〜炭素数9の範囲であり一価かつ一級のアルコール、具体的には、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、n−ヘプタノール、n−オクタノール、イソヘキサノール、イソヘプタノール、(Z)−3−ヘキセン−1−オール、2−メチル−1−ペンタノール、2−エチル−1−ブタノール、4−メチル−1−ペンタノール、3,3−ジメチル−1−ブタノール、(2E,4E)−2,4−ヘキサジエン−1−オール、2−メチル−2−ヘキサノール、イソヘプタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、イソオクタノール、1,3−ベンゾジオキソール−5−メタノール等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。一級のアルコールではないが、4−メチル−2−ペンタノール、3−メチル−3−ペンタノール、2−メチル−2−ヘキサノール、2−ヘプタノール、シクロヘプタノール、4−ヘプタノール、1−メチルシクロヘキサノール、1−エチニルシクロペンタノール、2−オクタノール、(S)−2−オクタノール、シクロオクタノール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、1−エチニルシクロヘキサノール、1−オクチン−3−オール等の炭素数5〜炭素数9の範囲である一価のアルコールも油性化合物として好適に使用できる。
これらの油性化合物は単体として配合してもよいし、複数の混合物を配合してもよい。さらには、エマルジョン特性を適当な状態に制御するために、これら油性化合物中に例えば、水溶性のアルコール類、例えばエチルセロソルブ等の水溶性の有機溶剤を少量溶解させて使用してもよい。この際の水溶性の有機溶媒は、油性化合物に対し25重量%以下であることが好ましい。これ以上の添加量とすると油性化合物のエマルジョンの形成能が低下するため、好ましくない。
上述した油性化合物は、調整工程における水系分散液中にエマルジョンとして分散していることが重要である。この場合、油滴が水相に分散しているO/W型のエマルジョンである。油滴サイズに該当した網目構造が乾燥後の構造体に反映されるため、油滴サイズは小さく、安定に分散していることが好ましい。
上述したように、本発明のエマルジョン抄紙用の水系分散液中には、前述した特定の水溶性高分子が水相中に溶解していることが必要であるが、該特定の水溶性高分子の濃度は、0.003重量%以上0.1重量%以下、より好ましくは、0.005重量%以上0.08重量%以下、さらに好ましくは、0.006重量%以上0.07重量%以下の量であると、本発明のセルロース不織布が得られ易いと同時に、水系分散液の状態が安定化することが多いので好ましい。該濃度が0.003重量%よりも小さいと、上記特定の水溶性高分子の添加効果が現れ難いので好ましくなく、また、該濃度が0.1重量%を超えると泡立ち等の添加量増大に伴う負の効果が現れ易くなるため好ましくない。エマルジョンを安定化させる目的で、水系分散液中に上記特定の水溶性高分子以外に界面活性剤およびその他の水溶性高分子のうちの少なくとも一種が、上記特定の水溶性高分子との合計量が上記濃度範囲で含まれていても構わない。
調製工程で調製する水系分散液は、上述した化合物群から成るエマルジョン組成物であるが、エマルジョンの形成においては、乳化方法のあらゆる方法を採用することができる。すなわち、機械的乳化、転相乳化、液晶乳化、転相温度乳化、D相乳化、可溶化領域を利用した超微細乳化(マイクロエマルジョン乳化)等の方法によりO/W型エマルジョンを調製する。
水系分散液の調製は、一切の添加物を水中へ混入し、適当な乳化方法により水系エマルジョン分散液とするか、あるいは予め油性化合物と乳化剤からなる水系エマルジョンを上述したような適当な乳化方法で調製しておき、別途調製したセルロースミクロフィブリルおよびその他の添加物からなる水系分散液と混合して水系分散液とすればよい。
ミクロフィブリル化セルロース等を使用して調製した水系分散液を抄紙する方法は、基本的には、本発明者らによる特許文献1に記載されている技術に準じる。特許文献1と本発明の差異は、抄紙用の水系分散液中に油性化合物と水から成るエマルジョンが含まれている点であるが、特許文献1で開示されている抄紙の条件により良好に抄紙を実施できる。その理由は、調整工程で調製する水系分散液中でエマルジョン成分がミクロフィブリル化セルロースから成る会合体中(軟凝集体)に取り込まれて存在している点にあると考えられる。
すなわち、乾燥後の本発明のセルロース不織布に対し、さらにカレンダー装置による平滑化処理を施す工程を含むことにより、薄膜化が可能となり、広範囲の、膜厚/通気度/強度の組み合わせの本発明のセルロース不織布を提供することが可能となる。例えば、10g/m2以下の目付の設定下で20μm以下(下限は3μm程度)の膜厚のセルロース不織布を容易に製造することが可能である。カレンダー装置としては単一プレスロールによる通常のカレンダー装置の他に、これらが多段式に設置された構造をもつスーパーカレンダー装置を用いてもよい。これらの装置、およびカレンダー処理時におけるロール両側それぞれの材質(材質硬度)や線圧を目的に応じて選定することにより多種の物性バランスをもつ本発明のセルロース不織布を得ることができる。
さらに、本発明では、抄紙機による抄紙工程において、抄紙機に通水性を有するシート状の支持体をのせて、水系分散液を構成する水の一部を該支持体上で脱水(抄紙)を行い、該支持体上に本発明のセルロース不織布の湿紙を積層化させ、一体化させることにより、少なくとも2層以上の積層構造を有する多層化シートを製造することができる。
セルロース原料としてコットンリンターパルプ(日本紙パルプ商事(株))を使用し、該パルプを固形分10重量%となるように水中に浸漬させて130℃、4時間のオートクレーブ処理をした後、得られた膨潤パルプを何度も水洗し、水を含浸した状態の膨潤パルプを得た。該膨潤パルプの乾燥体について、α−セルロース含有率を測定したところ98.0重量%(全セルロース含有率は100重量%)であった。
該水系分散液に対しミクロフィブリル化セルロースを大気圧下25℃における濾過で99%以上濾別する能力を有するPET/ナイロン混紡製の平織物(敷島カンバス社製、NT20、大気下25℃での水透過量:0.03ml/cm2・s)を、以下で使用する角型金属製ワイヤーのサイズ(25cm×25cm)に揃えて裁断したものを濾布として、バッチ式抄紙機(熊谷理機工業社製、自動角型シートマシーン)を用いて抄紙(脱水)を行った。同抄紙機に組み込まれている角形金属製ワイヤー(25cm×25cm,80メッシュ)上に上述したPET製織物を設置し、その上から所定量の抄紙用分散液を抄紙機へ注入し、サクション(減圧装置)大気圧に対する減圧度を4KPaとして抄紙を実施した。
さらに空孔率は、サンプルの膜厚d(μm)と目付w(g/m2)から、以下の(4)により算出した。
Pr(%)=(1−w×0.94/(1.5×d))×100 (4)
以上のことからS1〜S5はいずれも本発明のセルロース不織布であった。抄紙用の水系分散液の散乱式粒度分布測定による結果から、実施例1における抄紙用の水系分散液中のエマルジョンの油滴径はおよそ0.2μmであり、極めて小さな油滴がセルロースミクロフィブリルからなる湿紙に取り込まれ、これを乾燥させることにより、図1に見られるような微細なネットワーク構造が形成されているものと推定された。
実施例1で調製したミクロフィブリル化セルロースの水分散体M1を用い、表1に示した組成の抄紙用水系分散液を、連続式抄紙機を用いて本発明のセルロース不織布を連続的に製膜した。但し、乳化操作は、実施例1で叩解装置として用いたディスクレファイナーを用い、所定の組成に配合した該水系分散液の混合物330Kgを、連続的に335L/minの速度で循環させ、徐々にディスク間のクリアランスを低減していき、ほぼゼロとなった時点から17分間処理を続けて、得られた白色のエマルジョンを抄紙用の水系分散液とした。
次に、実施例1〜7で本発明のセルロースに含有される特定の水溶性高分子として用いたヒドロキシプロピルメチルセルロース以外の該当する水溶性高分子の効果を示す。
抄紙用の水系分散液の調製方法は実施例1と同様に行い、用いる特定の水溶性高分子を、でんぷん(溶性)(和光純薬工業(株)製、コード:191−03985)(実施例8)およびヒドロキシエチルセルロース(東京化成工業(株)製、4,500〜6,500 cps 2% in water at 25℃、コード:H0392)(実施例9)として表1に示した配合組成として抄紙を行った。
抄紙方法および乾燥方法は実施例1と同様に行い、白色で均一な本発明のセルロース不織布を得た。実施例8および実施例9で得られたサンプルをそれぞれ、S8およびS9とした。各々のサンプルの物性等を表2に示した。S8の強度はS1〜S9の実施例で得られたサンプルの中では強度は低いものの、同じM1分散液から作製した、水溶性高分子を含有しないセルロース不織布である比較例2や比較例4のサンプルH2およびH4と比べると明らかに高強度化されており、これらのバインダーによる補強効果が確認された。S8およびS9は、共に、後述する耐熱性テストの結果、180℃、70時間の高温履歴後でも変色程度は小さく、耐熱性に優れたシートであることが確認された。
実施例1で得られた叩解処理のみ行った水分散体M0を用い、表1に示した組成の抄紙用分散液を実施例1と同じ乳化、分散方法で調製した。得られた水系分散液を用い、実施例1と同様のバッチ式抄紙の条件にて抄紙を行った。抄紙後、得られた湿紙を直ちに、実施例1の要領で乾燥させ、均一性に乏しい白色のシート状サンプルH1を得た(比較例1)。
H1の表面のSEM画像から、H1の表面には、数μm〜10μm程度の繊維がかなりの量含まれており、表3に示した物性表からも分かるように、水溶性多糖誘導体であるヒドロキシプロピルメチルセルロースの含有量も0.4重量%と少なく、本発明のセルロース不織布とは言えないものであった。膜の均一性も乏しく、強度も低く、高度に叩解したフィブリル化セルロースを用いても本発明のセルロース不織布は作製できないことが判明した。目付10g/m2相当のTr,avの値も0.68と、実施例の各サンプルよりも低い値を示していた。不織布中の水溶性多糖誘導体の含有量が少なかったのは、セルロース繊維の表面積が低いため、エマルジョンの油滴を有効に湿紙中に捕捉できなかったことによると推定される。
実施例1で調製したミクロフィブリル化セルロースの水分散体M1を用い、表1に示したように水溶性多糖または水溶性多糖誘導体を配合しない組成の抄紙用水系分散液を、実施例1と同じ乳化、分散方法で調製した。得られた水系分散液の表面には若干の油滴が浮遊していたが、全体としては白色のエマルジョンとなっていた。
該抄紙用水系分散液を用い、調製後速やかに実施例1と同様のバッチ式抄紙の条件にて抄紙を行った。抄紙後、得られた湿紙を直ちに、実施例1の要領で乾燥させ、均一な白色のシート状サンプルH2を得た(比較例2)。
H2の物性等を表3に示した。H2はセルロースミクロフィブリルのみからなる本発明のセルロース不織布ではないものであるが、実施例1〜7で得たいずれのサンプルよりも大幅に10g/m2相当の強度が低く、本発明で、水溶性多糖または水溶性多糖誘導体が含有される効果が確認された。
実施例1で調製したミクロフィブリル化セルロースの水分散体M1を用い、表1に示した組成の抄紙用水系分散液を実施例1と同じ方法で調製した。但し、水溶性高分子として、本発明で特定した水溶性多糖または水溶性多糖誘導体ではないポリビニルアルコール系樹脂(クラレケミカル(株)製PVA−224C(R))を予め5wt%の水溶液としてから適量、混合し、乳化、分散を行った。該抄紙用水系分散液を所定量用いて、実施例1と同様の抄紙、乾燥の各工程を経て、白色の均一性の高いシート状サンプルH3を得た。H3の物性等を表3に示した。
セルロースミクロフィブリルからなる通気性のセルロース不織布を得る方法として特許文献1等にて開示されている、水系分散液から抄紙法で製膜して得た湿紙を有機溶媒で置換して得る方法により得られるセルロース不織布との比較を行った。
それぞれの条件で調製した水系分散液を用いて、実施例1と同じ方法でバッチ式抄紙を行い、固形分率が約11重量%の湿紙を得た。それぞれで得られた湿紙について以下の方法により、溶剤置換、乾燥を行った。得られた濾布上に乗った湿紙上にさらに同じ濾布をかぶせたものを、熊谷理機工業社製角型シートマシンプレスを用いて0.5MPaの圧力で1分間プレス処理し、湿紙の固形分をおよそ15重量%とした。次に、濾布/湿紙/濾布の3層の状態のままバット内に1Kgのイソブチルアルコールが混入された置換浴中に15分間浸漬(置換処理)し、一旦、上述のシートマシーンプレスで0.5MPaの圧力で1分間プレス処理を行った。さらにもう一度、新たにイソブチルアルコール1Kgをバット内に混入した置換浴中に浸漬させ、15分間静置した。次に、置換浴から取り出した濾布/湿紙/濾布の3層体をシートマシンプレスで0.5MPaの圧力で1分間プレス処理した後、3層体をそのまま表面温度が105℃に設定されたドラムドライヤーに貼り付けて約120秒間乾燥させた。得られた3層体の濾布からセルロース不織布を剥離させて、白色の均一なセルロース不織布H4(比較例4)およびH5(比較例5)を得た。
これは、比較例5では、抄紙の工程でかなりの量の水溶性多糖誘導体が濾液として排出されること、さらに続く溶剤置換の工程で溶剤中に拡散し、セルロース表面に留まらないことの2点によると考察された。
セルロース原料としてアバカA’パルプ(東邦特殊パルプ(株))を使用し、該パルプを固形分1.5重量%の水分散体(400L)とし、上述のディスクリファイナー装置を用い、ディスク間のクリアランスを1mmとして400Lのスラリーに対して、10分間叩解処理を進めた後、引き続いてクリアランスをほとんどゼロに近いレベルにまで低減させた条件下で叩解処理を続け、経時的にサンプリングを行い、サンプリングスラリーに対して、CSF法によるCSF値を評価したところ、実施例1と同様、CSF値は経時的に減少していき、一旦、ゼロ近くとなった後、さらに叩解処理を続けると、増大していく傾向が確認された。クリアランスをゼロ近くとしてから20分間、上記条件で叩解処理を続け、CSF値で60↑mlの叩解スラリーを得た。得られた叩解スラリーを、そのまま高圧ホモジナイザーを用いて操作圧力100MPa下で5回の微細化処理を実施し、ミクロフィブリル化セルロースの水分散体(固形分濃度:1.5重量%)、M2を得た。なお、原料であるアバカA‘パルプのα−セルロース含有率を測定したところ、85.2重量%(全セルロース含有率は94.3重量%)であった。
比較例4と同様の抄紙、プレス処理、溶剤置換、乾燥の各工程を経て、白色の均一性の高いシート状サンプルR1を得た。R1の物性等を表3に示した。R1の表面SEM画像を含む画像の解析から、R1を構成するミクロフィブリル化セルロースの数平均繊維径は78nmであった。R1は本発明のセルロース不織布が含有する特定の水溶性高分子を含まないため本発明のセルロース不織布ではないが、実施例のサンプル群に匹敵する高い強度を保有していた。
Claims (18)
- セルロースミクロフィブリルから成るセルロース不織布であって、水溶性多糖及び水溶性多糖誘導体からなる群から選択される単数または複数の水溶性高分子を合計0.5重量%以上20重量%以下含有し、目付が3g/m2以上80g/m2以下、かつ目付10g/m2相当の透気抵抗度が10s/100ml以上500s/100ml以下であるセルロース不織布。
- セルロース不織布を構成する繊維の数平均繊維径が300nm以下である請求項1に記載のセルロース不織布。
- トルエン中に浸液した状態で、850nmの波長の光を不織布に対して垂直に走査して得られる、下記式(1)で定義される平均透過率Tr,avを目付10g/m2相当の値に換算した値が0.70以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のセルロース不織布。
(ただし、Tr,avは、試験管の内面に不織布が貼り付いた状態でトルエンを満たし、不織布に対し垂直な方向から試験管に対して850nmの波長の光を照射し、試験管に沿って長さ方向に40μmごとに合計30000μm(データ点数;750)の長さ分を走査した際に各々得られる透過率の平均値Tr,1と、不織布を除いてトルエンのみ注入された状態で同じ測定を行って得られる透過率の平均値Tr,2の比によって、次式で定義される。)
Tr,av=Tr,1/Tr,2 (1) - 目付が5g/m2以上30g/m2以下、かつ目付10g/m2相当の透気抵抗度が20s/100ml以上300s/100ml以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルロース不織布。
- 水溶性高分子が水溶性セルロース誘導体である請求項1〜4のいずれか1項に記載のセルロース不織布。
- 複数の層が積層されてなる多層化シートであって、請求項1〜5のいずれか1項に記載のセルロース不織布の層を含み、目付が8g/m2以上100g/m2以下、かつ透気抵抗度が10s/100ml以上1000s/100ml以下である多層化シート。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載のセルロース不織布の製造方法であって、
(1)セルロースミクロフィブリル0.05重量%以上0.5重量%以下、大気圧下での沸点範囲が50℃以上200℃以下の油性化合物0.15重量%以上10重量%以下、水溶性多糖及び水溶性多糖誘導体からなる群から選択される単数または複数の水溶性高分子を合計0.003重量%以上0.1重量%以下、及び水85重量%以上99.5重量%以下を含む水系分散液であって、該油性化合物が水相に分散したエマルジョンである水系分散液を調製する調製工程、(2)水系分散液を構成する水の一部を抄紙機で脱水することによって、セルロースミクロフィブリルの濃度および油性化合物の濃度を該水系分散液より増加させた濃縮組成物を得る抄紙工程、(3)濃縮組成物を加熱することによって、該濃縮組成物から油性化合物および水の一部を蒸発させて除去する乾燥工程、
の3つの工程を含むセルロース不織布の製造方法。 - セルロースミクロフィブリルが、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ、コットン由来パルプ、麻由来パルプ、バガス由来パルプ、ケナフ由来パルプ、竹由来パルプ、及びワラ由来パルプからなる群より選ばれる少なくとも1種を原料として得られるミクロフィブリル化セルロースである請求項7に記載のセルロース不織布の製造方法。
- セルロースミクロフィブリルが、α−セルロース含有率が95重量%以上である原料パルプの中から選ばれる少なくとも1種を原料として得られるミクロフィブリル化セルロースである請求項8に記載のセルロース不織布の製造方法。
- 油性化合物が炭素数5〜炭素数9の範囲であり一価かつ一級のアルコールを含む、請求項7〜9のいずれか1項に記載のセルロース不織布の製造方法。
- 油性化合物が、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、及び1−ヘプタノールからなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物を含む、請求項10に記載のセルロース不織布の製造方法。
- 乾燥工程の後に、乾燥後に得られたセルロース不織布にカレンダー装置によって平滑化処理を施す平滑化工程を有することを特徴とする請求項7〜11のいずれか1項に記載のセルロース不織布の製造方法。
- 請求項6に記載の多層化シートの製造方法であって、
(1)セルロースミクロフィブリル0.05重量%以上0.5重量%以下、大気圧下での沸点範囲が50℃以上200℃以下の油性化合物0.15重量%以上10重量%以下、水溶性多糖及び水溶性多糖誘導体からなる群から選択される単数または複数の水溶性高分子を合計0.003重量%以上0.1重量%以下、及び水85重量%以上99.5重量%以下を含む水系分散液であって、該油性化合物が水相に分散したエマルジョンである水系分散液を調製する調製工程、(2)抄紙機に通水性のあるシート状の支持体をのせて、水系分散液を構成する水の一部を該支持体上で脱水することによって、該支持体上にセルロースミクロフィブリルの濃度および油性化合物の濃度を該水系分散液より増加させた濃縮組成物からなる層を積層一体化させる抄紙工程(3)濃縮組成物と一体化された支持体を加熱することによって、該濃縮組成物から油性化合物および水の一部を蒸発させて除去する乾燥工程、
の3つの工程を含む多層化シートの製造方法。 - セルロースミクロフィブリルが、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ、コットン由来パルプ、麻由来パルプ、バガス由来パルプ、ケナフ由来パルプ、竹由来パルプ、及びワラ由来パルプからなる群より選ばれる少なくとも1種を原料として得られるミクロフィブリル化セルロースである請求項13に記載の多層化シートの製造方法。
- セルロースミクロフィブリルが、α−セルロース含有率が95重量%以上である原料パルプの中から選ばれる少なくとも1種を原料として得られるミクロフィブリル化セルロースである請求項14に記載の多層化シートの製造方法。
- 油性化合物が炭素数5〜炭素数9の範囲であり一価かつ一級のアルコールを含む、請求項13〜15のいずれか1項に記載の多層化シートの製造方法。
- 油性化合物が、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、及び1−ヘプタノールからなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物を含む、請求項16に記載の多層化シートの製造方法。
- 乾燥工程の後に、乾燥後に得られた多層化シートにカレンダー装置によって平滑化処理を施す平滑化工程を有することを特徴とする請求項13〜17のいずれか1項に記載の多層化シートの製造方法。
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