本発明に至る過程
まず本発明に至る過程を説明する。中塗り塗料組成物、ベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物を、順次ウェットオンウェットで塗装する3コート1ベーク方法によって得られる積層塗膜の塗膜外観を向上させる手法として、各塗料組成物の硬化速度を制御する検討がなされている。例えば、中塗り塗料組成物、ベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物の焼付け時における硬化速度を、中塗り塗料組成物が最も速くそしてクリヤー塗料組成物が最も遅く硬化するように塗料組成を組み立てることによって、より下層の塗膜から硬化が生じることとなり、これにより、焼付け後の塗膜に無数の微小な穴が生じる「ワキ」の発生を防ぐことができると考えられる。
しかしながら、本発明のように、アクリル樹脂およびメラミン樹脂を含む溶剤型ベース塗料組成物と、カルボキシル基含有アクリル樹脂、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂およびエポキシ基含有アクリル樹脂を含むクリヤー塗料組成物を用いる場合においては、上記のようにより下層の塗膜を構成するベース塗料組成物から硬化するように塗料組成を組み立てた場合であっても、ワキが発生するという不具合が生じることが判明した。そしてこのワキの発生について、本発明者らは、上記特定の溶剤型ベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物を用いる場合において特徴的に生じる現象であることを見いだした。
詳しくは、本発明において用いられる、アクリル樹脂およびメラミン樹脂を含む溶剤型ベース塗料組成物と、カルボキシル基含有アクリル樹脂、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂およびエポキシ基含有アクリル樹脂を含むクリヤー塗料組成物とは、それらの塗料硬化系が大きく異なっている。ここで3コート1ベーク方法においては、溶剤型ベース塗料組成物によって構成された未硬化のベース塗膜と、クリヤー塗料組成物によって構成された未硬化のクリヤー塗膜とが接触することとなる。そして、塗料硬化系が大きく異なる未硬化のベース塗膜とクリヤー塗膜とが接触することにより、溶剤型ベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物の混合層が生じることとなる。こうして生じる、上記溶剤型ベース塗料組成物および上記クリヤー塗料組成物の混合層は、それらの塗料硬化系が大きく異なることに起因して、この混合層独自の硬化速度を有すること、そしてこの混合層の硬化速度は下層となる溶剤型ベース塗料組成物の硬化速度を上回ることがあることが、本発明者らの実験により判明した。
このような硬化速度を有する混合層が発生する上記溶剤型ベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物を用いる3コート1ベーク方法においては、クリヤー塗料組成物の硬化速度を、ベース塗料組成物の硬化速度より遅くなるように塗料設計を行っても、混合層が速く硬化してしまうことにより、ワキの発生を防ぐことが困難となる。一方で、溶剤型ベース塗料組成物の硬化系を大きく変更すると、中塗り塗膜との密着性および/または相溶性などに悪影響が生じることとなるおそれがある。このような問題に対して、本発明者らは、上記溶剤型ベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物を用いる3コート1ベーク方法において、溶剤型ベース塗料組成物に特定の成分を加えることによって、ワキの発生の問題を解決することができることを見いだした。
本発明の積層塗膜形成方法においては、特定の中塗り塗料組成物、溶剤型ベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物が用いられる。以下、各塗料組成物について記載する。
中塗り塗料組成物
本発明の積層塗膜形成方法において、中塗り塗膜の形成には溶剤型中塗り塗料組成物が用いられる。この中塗り塗料組成物は、ウレタン変性ポリエステル樹脂(a)、メラミン樹脂(b)、ブロックイソシアネート化合物(c)、コアシェル構造を有する非水ディスパージョン樹脂(d)、および扁平顔料(e)を含有する。この中塗り塗料組成物は、更に、有機系もしくは無機系の各種着色顔料および体質顔料等を含有してもよい。
ウレタン変性ポリエステル樹脂(a)
ウレタン変性ポリエステル樹脂(a)は、水酸基含有ポリエステル樹脂と、脂肪族ジイソシアネート化合物とを反応させて得ることができる。
ポリエステル樹脂は一般に、多価カルボン酸および/または酸無水物のような酸成分と多価アルコールを重縮合することによって製造することができる。ウレタン変性ポリエステル樹脂(a)の調製に用いられる水酸基含有ポリエステル樹脂は、酸成分中にイソフタル酸を、酸成分の全モル数を基準にして80モル%以上含有する酸成分を用いて製造される。酸成分中のイソフタル酸の量が80モル%を下回ると、得られる水酸基含有ポリエステル樹脂のガラス転移点(Tg)が低くなり、使用に好ましくない。
水酸基含有ポリエステル樹脂は、40〜80℃、好ましくは45〜75℃のガラス転移点(Tg)を有する。上記ガラス転移点(Tg)が下限を下回ると塗膜硬度が低下し、上限を上回ると耐チッピング性能が低下する恐れがある。
水酸基含有ポリエステル樹脂の調製に用いられる酸成分に含まれる、イソフタル酸以外の多価カルボン酸および/または酸無水物は、特に限定されず、例えば、フタル酸、無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水ハイミック酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、テレフタル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、コハク酸、無水コハク酸、ドデセニルコハク酸、ドデセニル無水コハク酸等が挙げられる。
水酸基含有ポリエステル樹脂の調製に用いられる多価アルコールとしては、特に限定されず、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピオネート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリカプロラクトンポリオール、グリセリン、ソルビトール、アンニトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
水酸基含有ポリエステル樹脂の調製において、上記の多価カルボン酸および/または酸無水物、および多価アルコール成分、に加えて、他の反応成分を用いてもよい。このような他の反応成分として、例えば、モノカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等が挙げられる。また、乾性油、半乾性油およびそれらの脂肪酸を用いてもよい。例えば、具体的には、カージュラE(シェル化学社製)等のモノエポキサイド化合物、ラクトン類がある。上記ラクトン類は、多価カルボン酸および多価アルコールのポリエステル類へ開環付加してグラフト鎖を形成し得るものであり、例えば、β−プロピオラクロン、ジメチルプロピオラクトン、ブチルラクトン、γ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、γ−カプロラクトン、γ−カプリロラクトン、クロトラクトン、δ−バレロラクトン、δ−カプロラクトン等が挙げられるが、なかでもε−カプロラクトンが最も好ましい。
こうして得られた水酸基含有ポリエステル樹脂と脂肪族ジイソシアネート化合物とを反応させることによって、ウレタン変性ポリエステル樹脂(a)が調製される。このような脂肪族ジイソシアネート化合物としては、具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネートなどを挙げることができる。なかでも、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートおよびこれらのビュレット体、ヌレート体、アダクト体を用いることが、耐チッピング性能、耐候性の観点から好ましい。
ウレタン変性ポリエステル樹脂(a)の調製においては、水酸基含有ポリエステル樹脂100質量部に対して脂肪族ジイソシアネート化合物5〜15質量部を反応させるのが好ましい。ウレタン変性ポリエステル樹脂(a)の数平均分子量は、1200〜3000であるのが好ましく、1500〜2500であるのがさらに好ましい。下限を下回ると塗装作業性および硬化性が十分でなくなる恐れがある。また、上限を上回ると塗装時の不揮発分が低くなりすぎ、かえって作業性が悪くなる。なお、本明細書では、数平均分子量は、スチレンポリマーを標準とするGPC法により決定される。
また上記ウレタン変性ポリエステル樹脂(a)は、30〜180の水酸基価(固形分)を有することが好ましく、40〜160の水酸基価(固形分)であるのが更に好ましい。上限を上回ると塗膜にした場合の耐水性が低下する恐れがあり、下限を下回ると塗膜の硬化性が低下する恐れがある。また、ウレタン変性ポリエステル樹脂(a)の酸価は、3〜30mgKOH/g(固形分)であるのが好ましく、更に好ましくは5〜25mgKOH/gである。上限を上回ると塗膜の耐水性が低下する恐れがあり、下限を下回ると塗膜の硬化性が低下する恐れがある。
本発明の中塗り塗料組成物中における、上記ウレタン変性ポリエステル樹脂(a)の含有量は、塗料樹脂固形分質量を基準にして40〜56質量%である。ウレタン変性ポリエステル樹脂(a)の含有量が40質量%を下回ると塗膜にした場合の耐チッピング性能が不十分となる恐れがある。また、含有量が56質量%を上回ると塗膜にした場合に硬度が低下する恐れがある。含有量は、好ましくは43〜50質量%である。
メラミン樹脂(b)
メラミン樹脂としては、特に限定されるものではなく、メチル化メラミン樹脂、ブチル化メラミン樹脂あるいはメチル・ブチル混合型メラミン樹脂を用いることができる。例えば、日本サイテック株式会社から市販されている「サイメル303」、「サイメル254」、三井化学株式会社から市販されている「ユーバン128」、「ユーバン20N60」、住友化学工業株式会社から市販されている「スミマールシリーズ」等が挙げられる。
上記メラミン樹脂(b)は、塗料樹脂固形分質量を基準にして10〜30質量%含まれる。含有量が下限を下回ると硬化性が不十分となる恐れがあり、上限を上回ると硬化膜が堅くなりすぎ脆くなる恐れがある。メラミン樹脂(b)の含有量は、好ましくは15〜25質量%である。
ブロックイソシアネート化合物(c)
上記ブロックイソシアネート化合物(c)としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、あるいはヘキサメチレンジイソシアネートとこれと反応する化合物と反応して得られるイソシアネート化合物、例えばそのヌレート体等の多量体など、に、活性メチレン基を有する化合物を付加させることによって得られるものが挙げられる。このブロックイソシアネート化合物(c)は、加熱によりブロック剤が解離してイソシアネート基が発生し、上記ウレタン変性ポリエステル樹脂中の官能基と反応し硬化する。上記活性メチレン基を有する化合物としては、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル、マロン酸エチルなどの活性メチレン化合物が挙げられる。
上記ブロックイソシアネート化合物の含有量は、塗料樹脂固形分質量を基準にして、15〜30質量%である。17〜25質量%であることが更に好ましい。上記範囲外では、硬化が不足するおそれがある。例えば、具体的には旭化成社製活性メチレン型ブロックイソシアネート「デュラネートMF−K60X」等が挙げられる。
非水ディスパージョン樹脂(d)
上記コアシェル構造を有する非水ディスパージョン樹脂(d)は、分散安定樹脂と有機溶剤との混合液中で、重合性単量体を共重合させることにより、この混合液に不溶な樹脂粒子として調製することができる。なお「非水ディスパージョン」とは、非水分散型樹脂を意味し、有機溶媒を媒体として樹脂を分散安定化させたものである。
非水ディスパージョン樹脂(d)における樹脂粒子は、非架橋樹脂粒子として調製することが好ましい。また、非架橋樹脂粒子を得るため分散安定樹脂の存在下で共重合させる単量体は、ラジカル重合性の不飽和単量体であれば特に制限されない。
但し、上記分散安定樹脂および非水ディスパージョン樹脂(d)の合成において、官能基を有する重合性単量体を用いることが好ましい。官能基を有する非水ディスパージョン樹脂(d)は官能基を含有せしめた分散安定樹脂と共に後記硬化剤と反応して三次元に架橋した塗膜を形成することができるからである。
分散安定樹脂は、非水ディスパージョン樹脂(d)を有機溶剤中で安定に合成できるものであれば特に限定されるものではない。分散安定樹脂として、具体的には、水酸基価(固形分)が10〜250、好ましくは20〜180であり、酸価(固形分)が0〜100mgKOH/g、好ましくは0〜50mgKOH/g、数平均分子量が800〜100000、好ましくは1000〜20000である、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂またはポリウレタン樹脂等を用いることが好ましい。これらの上限を上回ると樹脂のハンドリング性が低下し、非水ディスパージョン自身のハンドリングも低下する恐れがある。下限を下回ると塗膜にした場合に樹脂が脱離したり、粒子の安定性が低下したりする恐れがある。
分散安定樹脂の合成方法は、特に限定されるものではないが、ラジカル重合開始剤の存在下でラジカル重合により得る方法、縮合反応や付加反応により得る方法等が好ましいものとして挙げられる。更に、上記分散安定樹脂を得るために用いられる単量体としては、樹脂の特性に応じて適宜選択され得るが、後述する非水ディスパージョンを合成するために用いられる重合性単量体が有するような、水酸基、酸基等の官能基を有するものを用いることが好ましく、更に必要に応じて、グリシジル基、イソシアネート基等の官能基を有するものを用いてもよい。
非水ディスパージョン樹脂(d)は、分散安定樹脂および有機溶媒の混合液中で重合性単量体を重合させることによって得ることができる。重合性単量体として、ラジカル重合性の単量体を用いることができる。この有機溶媒は、分散安定樹脂は溶解するが、重合性単量体を重合して得られる樹脂粒子は溶解しないものであり、各種有機溶媒から適宜選択することができる。
非水ディスパージョン樹脂(d)の合成に用いられる重合性単量体は、官能基を有するものを用いるのが好ましい。官能基を有する重合性単量体としてその代表的なものは以下のとおりである。水酸基を有する重合性単量体として、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、メタクリル酸ヒドロキシメチル、アリルアルコール、(メタ)メタクリル酸ヒドロキシエチルとε−カプロラクトンとの付加物等が挙げられる。
一方、酸性基を有する重合性単量体としては、カルボキシル基、スルホン酸基等を有する重合性単量体が挙げられる。カルボキシル基を有するものの例としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、エタアクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、フマール酸等が挙げられる。スルホン酸基を有する重合性単量体の例としては、t−ブチルアクリルアミドスルホン酸等が挙げられる。酸性基を有する重合性単量体を用いる場合は、酸性基の一部はカルボキシル基であることが好ましい。
そのほかにも、(メタ)アクリル酸グリシジル等のグリシジル基含有不飽和単量体、m−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート、アクリル酸イソシアナトエチル等のイソシアネート基含有不飽和単量体等が、官能基を有する重合性単量体として挙げられる。
この他の重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、メタクリル酸トリデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、油脂肪酸とオキシラン構造を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマーとの付加反応物(例えば、ステアリン酸とグリシジルメタクリレートの付加反応物等)、炭素数3以上のアルキル基を含むオキシラン化合物とアクリル酸またはメタクリル酸との付加反応物、スチレン、α−メチルスチレン、ο−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、(メタ)アクリル酸ベンジル、イタコン酸エステル(イタコン酸ジメチルなど)、マレイン酸エステル(マイレン酸ジメチルなど)、フマール酸エステル(フマール酸ジメチルなど)、その他に、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メチルイソプロペニルケトン、酢酸ビニル、ベオバモノマー(シェル化学社製、商品名)、ビニルプロピオネート、ビニルピバレート、エチレン、プロピレン、ブタジエン、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、アクリルアミド、ビニルピリジン等の重合性単量体が挙げられる。
非水ディスパージョン樹脂(d)の調製において、分散安定樹脂と重合性単量体との構成比率は目的に応じて任意に選択できるが、例えば、これら両成分の合計質量に基いて分散安定樹脂は3〜80質量%、特に5〜60質量%、重合性単量体は97〜20質量%、特に95〜40質量%が好ましい。さらに有機溶剤中における分散安定樹脂と重合性単量体との合計濃度は合計質量を基準に、30〜80質量%、特に40〜60質量%が好ましい。
上記非水ディスパージョンを得るための重合反応は、ラジカル重合開始剤の存在下で行うことが好ましい。ラジカル重合開始剤としては、例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系開始剤、ベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、t−ブチルパーオクトエート等が挙げられる。これらの開始剤の使用量は重合性単量体合計100質量部あたり0.2〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部が望ましい。分散安定樹脂を含有する有機溶剤中での非水ディスパージョンを得るための重合反応は、一般に60〜160℃程度の温度範囲で約1〜15時間行うことが好ましい。
こうして得られる非水ディスパージョン樹脂(d)は、水酸基価(固形分)が50〜400、好ましくは100〜300であり、酸価(固形分)が0〜200mgKOH/g、好ましくは0〜50mgKOH/g、平均粒径(D50)が0.05〜10μm、好ましくは0.1〜2μmであるものが好ましい。下限を下回ると粒子形状を維持できず、上限を上回ると塗料組成物に分散した場合の安定性が低下する。なお平均粒径(D50)は、動的光散乱法によって測定することができる。具体的には、ナノトラック粒度分布測定装置 UPA(日機装社製)を用いて測定することができる。
また、上記非水ディスパージョンは架橋重合体微粒子と異なり、塗料組成物中においては粒子成分であるが、塗膜においては粒子構造を形成しない特徴を有する。つまり非水ディスパージョンは粒子内に架橋部位が存在しないため、焼き付け過程で粒子形状が変化し、樹脂成分となり得る点が架橋重合体微粒子とは異なる。
更に、例えば色材、48巻(1975)第28頁〜第34頁中に記載されているNAD塗料に用いられるNAD(Non Aqueous Dispersion、非水系重合体分散液)と言われる樹脂粒子も使用することができる。
本発明の中塗り塗料組成物中における、非水ディスパージョン樹脂(d)の含有量は、塗料樹脂固形分質量を基準にして4〜15質量%である。含有量が下限を下回ると総合塗膜外観が不十分となる恐れがあり、また上限を上回ると耐チッピング性能が低下する恐れがある。この含有量は、好ましくは5〜12質量%である。
扁平顔料(e)
扁平顔料(e)は、顔料の少なくとも一面が扁平状の形状を有する顔料である。扁平顔料(e)として、例えばマイカ、アルミナ、タルクおよびシリカ等を挙げることができる。この中でもタルクを用いるのが好ましい。塗膜のチッピング性能を向上させることができるからである。
上記扁平顔料は、長径が1〜10μmであり、個数平均粒径が2〜6μmであることが好ましい。ここで長径とは、扁平顔料の扁平面における径の長さである。また数平均粒径とは、走査型電子顕微鏡写真から所定数の粒子を選び出して画像解析を行い、円相当径の平均値とその分布を求めることにより得られる平均粒径である。ここで円相当径とは、顔料を、面積が等しい真円の直径に換算した場合のその直径の値をいう。これらの直径および数平均粒径は、走査型電子顕微鏡などを用いることによって測定することができる。扁平顔料の長径が上記範囲外である場合は、塗膜外観が劣ったり、十分な耐チッピング性能を発現させることが困難となる恐れがある。また、数平均粒径が上記範囲外である場合は、同様に塗膜外観が劣ったり、十分な耐チッピング性能を発現させることが困難となる恐れがある。
上記扁平顔料(e)の含有量は、塗料中の樹脂固形分質量を100質量部として、0.4〜2質量部である。この含有量は0.5〜1.5質量部であることがより好ましい。上記範囲外では、下地塗膜との付着性が低下する恐れがあり、またそれにより十分なチッピング性能が得られない恐れがある。
中塗り塗料組成物は、上記成分(a)〜(e)に加えて、更に他の成分を含んでもよい。他の成分として、例えば樹脂成分などが挙げられる。用いることができる樹脂成分としては、特に限定されるものではなく、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。これらは1種のみを用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。
他の成分として、着色顔料などを用いることもできる。着色顔料としては、有機系のアゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料などが挙げられ、無機系では黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、二酸化チタンなどが挙げられる。更に、体質顔料として、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミニウム粉、カオリン等を用いることができる。
一般に中塗り塗料組成物には、カーボンブラックと二酸化チタンとを主要顔料としたグレー系のものなどが用いられる。このほかにも、上塗りとの色相を合わせたものや各種の着色顔料を組み合わせたものを用いることもできる。
さらに中塗り塗料組成物には、粘性制御剤を添加することができる。これによって、上塗り塗膜とのなじみを防いだり、塗装作業性を確保することなどができる。粘性制御剤としては、一般にチクソトロピー性を示すものを含有でき、例えば、脂肪酸アマイドの膨潤分散体、アマイド系脂肪酸、長鎖ポリアミノアマイドの燐酸塩等のポリアマイド系のもの、酸化ポリエチレンのコロイド状膨潤分散体等のポリエチレン系等のもの、有機酸スメクタイト粘土、モンモリロナイト等の有機ベントナイト系のもの、ケイ酸アルミ、硫酸バリウム等の無機顔料、顔料の形状により粘性が発現する扁平顔料、架橋樹脂粒子等を粘性制御剤として挙げることができる。
本発明で用いられる中塗り塗料組成物の塗装時の全固形分量は、30〜80質量%であり、好ましくは35〜65質量%である。この範囲外では塗料安定性が低下する恐れがある。また上限を上回ると粘性が高すぎて塗膜外観が低下し、下限を下回ると粘性が低すぎてなじみやムラ等の外観不良が発生する恐れがある。本発明に用いられる中塗り塗料組成物中には、上記成分の他に塗料に通常添加される添加剤、例えば、表面調整剤、酸化防止剤、消泡剤等を配合してもよい。これらの配合量は当業者の公知の範囲である。
本発明に用いられる塗料組成物の製造方法は、後述するものを含めて、特に限定されず、顔料等の配合物をニーダーまたはロール、サンドグラインダーミル等を用いて混練、分散する等の当業者に周知の全ての方法を用いることができる。
ベース塗料組成物
本発明の積層塗膜形成方法に用いられるベース塗料組成物は、アクリル樹脂(ア)、メラミン樹脂(イ)、有機ベントナイト(ウ)、マレイン酸モノアルキルエステル(エ)および光輝性顔料(オ)を含有する、溶剤型のメタリックベース塗料組成物である。
本発明のベース塗料組成物は、アクリル樹脂(ア)を含む。アクリル樹脂(ア)を含むことにより、堅牢度を高める等、ベース塗膜の物性を向上させることができる。上記アクリル樹脂は、水酸基価(固形分)が10〜200である。10未満であると、硬化不充分となって、塗膜物性が劣る恐れがある。また200を超えると、塗膜の可撓性や耐水性が低下する恐れがある。
本発明におけるアクリル樹脂(ア)は、アクリル酸、メタクリル酸、及び/又はこれらの誘導体等のアクリル樹脂を得るために通常使用される不飽和モノマーを1種又は2種以上用いて調製される。そしてアクリル樹脂(ア)の調製に用いられるモノマー成分として、水酸基含有モノマーも用いられる。
上記アクリル酸やメタクリル酸の誘導体としては特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n、i又はt−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等のアルキルエステル類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキルエステル類;(メタ)アクリルアミド等のアミド類;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル類等が挙げられる。上記モノマー成分としては、更に、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン類;酢酸ビニル等のビニル化合物等を含むこともできる。水酸基含有モノマーとして、例えばヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有不飽和モノマーが挙げられる。
上記アクリル樹脂(ア)は、数平均分子量が1000〜20000である。1000未満であると、耐候性等の塗膜物性に劣るおそれがある。また20000を超えると、樹脂の粘度が高くなり、多量の溶剤が必要となるおそれがある。なお、本明細書において、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量である。
上記アクリル樹脂(ア)は、酸価が1〜80mgKOH/g(固形分)であることが好ましい。1mgKOH/g未満であると、塗膜物性に劣る場合があり、80mgKOH/gを超えると、塗膜の耐水性が後退しやすくなるおそれがある。より好ましくは、10〜45mgKOH/gである。
上記アクリル樹脂(ア)の製造方法としては特に限定されず、例えば、通常のラジカル重合等の溶液重合等により行うことができる。
ベース塗料組成物中におけるアクリル樹脂(ア)の含有量は、ベース塗料組成物のアクリル樹脂(A)、メラミン樹脂(イ)、有機ベントナイト(ウ)およびマレイン酸モノアルキルエステル(エ)などの総固形分に対して10〜90質量%であるのが好ましい。10質量%未満であると、堅牢度が低下する等、塗膜物性に劣ることがあり、90質量%を超えると、塗膜が硬く脆くなり、耐チッピング性等の塗膜物性が劣ることがある。
本発明のベース塗料組成物に含まれるメラミン樹脂(イ)は、特に限定されるものではなく、上記中塗り塗料に含有されるメラミン樹脂(b)と同じものであっても、違うものであってもよい。メラミン樹脂(イ)として、例えばメチル化メラミン樹脂、ブチル化メラミン樹脂あるいはメチル・ブチル混合型メラミン樹脂などを用いることができる。市販のメラミン樹脂として、例えば日本サイテック社製の「サイメル−303」、「サイメル254」、三井化学社製の「ユーバン20N60」、「ユーバン128」、住友化学工業社製の「スミマールシリーズ」等が挙げられる。
ベース塗料組成物中におけるメラミン樹脂(イ)の含有量は、ベース塗料組成物のアクリル樹脂(A)、メラミン樹脂(イ)有機ベントナイト(ウ)およびマレイン酸モノアルキルエステル(エ)などの総固形分に対して5〜60質量部であるのが好ましく、15〜45質量%であるのが更に好ましい。使用量が下限を下回ると硬化性が不十分となるおそれがあり、上限を上回ると硬化膜が堅くなり、塗膜にした場合にチッピング性が低下する恐れがある。
本発明におけるベース塗料組成物中に含まれる有機ベントナイト(ウ)は、結晶層を有するベントナイトの層間に、有機アンモニウム塩をインターカレートした構造を有する成分である。この有機ベントナイトは、水系では膨潤しない一方で、有機溶剤等で膨潤し増粘性を示すという性質を有する。ベントナイトの層間にインターカレートされる有機アンモニウム塩として、例えば、炭素数C1〜C30のアルキル基、より好ましくは炭素数C1〜C20のアルキル基を有する第4級アンモニウムが挙げられる。このような有機ベントナイト(ウ)の具体例として、例えば、商品名「ベントン34」(ジメチル・ジオクタデシルアンモニウムベントナイト/第4級アンモニア−18ベントナイト、ナショナルレッド社製)、商品名「ベントン38」(マグネシウムモンモリロナイト/第4級アンモニア−18ヘクトライト、ナショナルレッド社製)、商品名「オルガナイトA」(モンモリナイトとトリアルキルベンジルアンモニウム塩の複合体、日本有機粘土社製)、及び商品名「ニューDオルベン」(ベントナイトのジメチルC18H37N+、白石工業社製)などが挙げられる。
ベース塗料組成物中に有機ベントナイト(ウ)が含まれることによって、ベース塗料組成物に構造粘性がもたらされると考えられる。ベース塗料組成物に構造粘性がもたらされることによって、噴霧装置における塗料の微粒化にともなう緻密なメタリック感が付与され、塗膜外観が向上することとなる。さらに、メタリックベース塗膜とクリヤー塗膜との微少な混じりあい(混層)による色戻りが抑制されることとなる。
有機ベントナイト(ウ)の配合量は、ベース塗料組成物のアクリル樹脂(A)、メラミン樹脂(イ)、有機ベントナイト(ウ)およびマレイン酸モノアルキルエステル(エ)などの総固形分に対して0.1〜10質量%である。有機ベントナイト(ウ)の含有量が0.1質量%未満である場合は、構造粘性が発現せず、得られる積層塗膜の平滑性が劣ることとなる。一方で、有機ベントナイト(ウ)の含有量が10質量%を超える場合は、中塗り塗膜およびクリヤー塗膜との密着性が悪くなる。
本発明におけるベース塗料組成物中に含まれるマレイン酸モノアルキルエステル(エ)は、ジカルボン酸であるマレイン酸のカルボン酸基の1つがアルキルエステルとなった構造を有する。マレイン酸モノアルキルエステル(エ)を構成するアルキル基として、例えば炭素数C1〜C10のアルキル基が挙げられ、より好ましくは炭素数C1〜C5のアルキル基が挙げられる。マレイン酸モノアルキルエステル(エ)が上記アルキル基を有することによって、塗料への相溶性が向上し、得られる積層塗膜の耐水性低下を防ぐことができるという利点がある。
本発明におけるベース塗料組成物中に、マレイン酸モノアルキルエステル(エ)が含まれることによって、積層塗膜におけるワキの発生を防止することができ、これにより良好な塗膜外観を有する積層塗膜が得られることとなる。なおベース塗料組成物中にマレイン酸モノアルキルエステル(エ)が含まれることによって、積層塗膜におけるワキの発生を防ぐことができる理由として、本発明者らは以下の理由によると考えている。ベース塗料組成物は、アクリル樹脂(ア)に含まれる水酸基とメラミン樹脂(イ)との反応によって硬化する系である。この硬化系では一般にアクリル樹脂にカルボキシル基を持たせることで、このカルボキシル基を硬化触媒として利用している。本発明の積層塗膜形成方法は、ベース塗料組成物中にマレイン酸モノアルキルエステル(エ)を含むことによって、特異的にベース塗料組成物の硬化開始温度が低温化することができる。積層塗膜を形成する際、ベース塗膜の硬化開始がマレイン酸モノアルキルエステル(エ)の存在によって低温化するため、ベース塗膜中に含まれる溶剤の揮散がスムーズに行われ、積層塗膜におけるワキの発生が低減されたと考える。
さらに、ベース塗料組成物中にマレイン酸モノアルキルエステル(エ)が含まれることによって、得られるベース塗膜とクリヤー塗膜との境界部分に形成される両塗膜の混合層の生成によるワキの問題を解決することができる。クリヤー塗料組成物は、カルボキシル基含有アクリル樹脂(A)とカルボキシル基含有ポリエステル樹脂(B)に含まれるカルボキシル基と、エポキシ基含有アクリル樹脂(C)に含まれるエポキシ基との反応によって硬化する系である。ここで、上記混合層ではクリヤー塗料組成物に含まれる多量のカルボキシル基を有する樹脂の浸入によって硬化開始温度が低温化し、下層であるベース塗膜中に含まれる溶剤が充分に揮散する前に硬化が開始するために積層塗膜におけるワキの発生がみられた。しかしながら、ベース塗料組成物にマレイン酸モノアルキルエステル(エ)が含まれるので、ベース塗料組成物の硬化開始温度が低温化し、上述と同様、上記混合層が生成してもベース塗膜中に含まれる溶剤の揮散がスムーズに行われた後に硬化するので、積層塗膜におけるワキの発生が低減されたと考える。
ベース塗料組成物中におけるマレイン酸モノアルキルエステル(エ)の含有量は、ベース塗料組成物のアクリル樹脂(A)、メラミン樹脂(イ)、有機ベントナイト(ウ)およびマレイン酸モノアルキルエステル(エ)などの塗料固形分中0.2〜4質量%である。マレイン酸モノアルキルエステル(エ)の含有量が4質量%を超える場合は、ベース塗料組成物の硬化開始温度が低温化されすぎることとなり、粘度上昇が急激に生じることにより、ワキの発生が生じたり、外観が低下したりする。一方でマレイン酸モノアルキルエステル(エ)の含有量が0.2質量%未満である場合は、ベース塗料組成物の硬化速度の向上が十分ではなく、ワキの発生を有効に防ぐことができない。
上記ベース塗料組成物に含有される光輝性顔料(オ)としては、形状は特に限定されず、更に着色されていても良いが、例えば、平均粒径(D50)が2〜50μmであり、且つ厚さが0.1〜5μmである鱗片状のものが好ましい。また、平均粒径が10〜35μmの範囲のものは光輝感に優れるという利点を有し、更に好適に用いられる。上記光輝性顔料の塗料中の顔料濃度(PWC)は、一般に23.0質量%以下である。上限を超えると塗膜外観が低下する恐れがある。好ましくは、1〜20.0質量%であり、より好ましくは、1〜18.0質量%である。なお、この顔料濃度は、樹脂固形分質量を基準にした顔料の含有量(質量%)を示すものである。
上記光輝性顔料としては、金属または合金等の無着色あるいは着色された金属性光輝材及びその混合物、干渉マイカ粉、着色マイカ粉、ホワイトマイカ粉、グラファイトあるいは無色有色偏平顔料等を挙げることができる。金属または合金等の無着色あるいは着色された金属性光輝材及びその混合物が好ましい。金属の具体例としては、アルミニウム、酸化アルミニウム、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ等を挙げることができる。これらは分散性に優れており、またこれらを用いることによって透明感の高い塗膜を形成することができる。
本発明のベース塗料組成物は、さらに着色顔料および/または体質顔料を含んでもよい。着色顔料としては、有機系のアゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料などが挙げられ、無機系では黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、二酸化チタンなどが挙げられる。また更に、体質顔料として、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク等を併用しても良い。
上記光輝性顔料およびその他の全ての顔料を含めたベース塗料組成物中の全顔料濃度(PWC)としては、1〜50%であり、好ましくは、1%〜40%であり、より好ましくは、1%〜30%である。上限を超えると塗膜外観が低下する恐れがある。
また、上記ベース塗料組成物に含有される塗膜形成性樹脂としては、上記以外の樹脂をさらに含んでもよく、例えばポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の塗膜形成性樹脂などが含まれてもよい。なお、顔料分散性あるいは作業性の点から、アクリル樹脂(ア)および/またはポリエステル樹脂とメラミン樹脂(イ)との組み合わせが好ましい。
本発明で用いられるベース塗料組成物の塗装時の固形分量は、15〜70質量%であり、好ましくは20〜50質量%である。上限を超えると、粘性が高すぎて塗膜外観が低下する恐れがある、また下限を下回ると、粘性が低すぎてなじみやムラ等の外観不良が発生する恐れがある。さらに上記範囲外では、塗料安定性が低下する傾向がある。
上記ベース塗料組成物は、溶液型であり、例えば有機溶剤型、非水分散型などを挙げることができる。
本発明に用いられる塗料組成物の製造には、後述するものを含めて、特に限定されず、顔料等の配合物をニーダーまたはロール等を用いて混練、分散する等の当業者に周知の全ての方法を用いることができる。
クリヤー塗料組成物
本発明の積層塗膜形成方法においてクリヤー塗膜を形成するために用いるクリヤー塗料組成物は、カルボキシル基含有アクリル樹脂(A)、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(B)およびエポキシ基含有アクリル樹脂(C)を含む。このクリヤー塗料組成物は、加熱によって、カルボキシル基とエポキシ基との反応によりエステル結合を形成して架橋する。
上記クリヤー塗料組成物に含有されるカルボキシル基含有アクリル樹脂(A)としては、1分子中に平均2個以上のカルボキシル基を有し、酸価5〜300mgKOH/g(固形分)および数平均分子量(Mn)500〜8000であるものが挙げられる。
上記カルボキシル基含有アクリル樹脂として、(1)アクリル系ポリ酸無水物と(2)モノアルコールとを反応させることにより得られる、カルボキシル基とカルボン酸エステル基とが隣接した炭素に結合するカルボキシル基含有アクリル樹脂を用いるのが更に望ましい。
上記(1)アクリル系ポリ酸無水物は、酸無水物基含有エチレン性不飽和モノマー15〜40質量%、好ましくは15〜35質量%と、酸無水物基を有しないエチレン性不飽和モノマー60〜85質量%、好ましくは65〜85質量%とを共重合させることにより、得ることができる。酸無水物基含有エチレン性不飽和モノマーの量が下限を下回ると硬化性が不足する恐れがあり、上限を上回ると塗膜が固く脆くなりすぎて耐候性が不足する恐れがある。
上記酸無水物基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、無水イタコン酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸などが例示される。
また酸無水物基を有しないエチレン性不飽和モノマーは、酸無水物基に悪影響を与えないエチレン性不飽和モノマーであれば特に制限されないが、エチレン性不飽和結合を一つ有する炭素数3〜15、特に3〜12のモノマーを用いることが好ましい。酸無水物基を有しないエチレン性不飽和モノマーは、樹脂どうしの相溶性を向上させるために、2種以上を併用することも好ましい。
このような酸無水物基を有しないエチレン性不飽和モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、各種の(メタ)アクリル酸エステル、シェル社製のVeoVa−9およびVeoVa−10などのバーサティック酸グリシジルエステル等が挙げられる。スチレンまたはスチレン誘導体を用いる場合には、全モノマー中に5〜40質量%の範囲で用いることが望ましい。
更に、酸無水物基を有しないエチレン性不飽和モノマーとして、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸のようなカルボキシル基を有するモノマー、および水酸基を有するエチレン性不飽和モノマーと酸無水物基含有化合物との付加物等を用いることもできる。中でも、エチレン性不飽和基とカルボキシル基との間に炭素数5〜20個程度分のスペーサー部分を有する長鎖のカルボキシル基含有モノマーを用いれば、塗膜の耐擦傷性が向上するため特に好ましい。
上記酸無水物基含有エチレン性不飽和モノマーと、酸無水物基を有しないエチレン性不飽和モノマーとの共重合により得られる(1)アクリル系ポリ酸無水物の数平均分子量は、500〜8000、また800〜6000、特に1500〜4000とすることが好ましい。数平均分子量が上限を上回ると樹脂同士の相溶性が低下して塗膜の外観品質が低下する恐れがあり、下限を下回ると硬化性が不充分となる恐れがある。また得られるポリマーは、1分子中に平均で少なくとも2個、好ましくは2〜15個の酸無水物基を有することが望ましい。酸無水物基が下限を下回ると硬化性が不足する恐れがあり、上限を上回ると塗膜が固く脆くなりすぎて耐候性が不足する恐れがある。
上記(2)モノアルコールとしては、炭素数が1〜12個、特に1〜8個のものを用いることが好ましい。これにより、上記したアクリル系ポリ酸無水物との反応時にアルコールが揮発しやすく、酸無水物基を再生するのに好適となるからである。このような(2)モノアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、n−ヘキシルアルコール、ラウリルアルコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メトキシプロパノール、エトキシプロパノール、フルフリルアルコール、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、アセトール、アリルアルコール、プロパルギルアルコールなどが例示される。
上記(1)アクリル系ポリ酸無水物と(2)モノアルコールとを反応させてカルボキシル基含有アクリル樹脂(A)を合成する場合、酸無水物基と水酸基とがモル比で1/10〜1/1、好ましくは1/5〜1/1、より好ましくは1/2〜1/1となる割合の量とする。モル比が下限を下回ると過剰のアルコールによって硬化時のワキの原因となる恐れがあり、上限を上回ると未反応の酸無水物基の残存により貯蔵安定性が悪くなる恐れがある。
上記反応により得られるカルボキシル基とカルボン酸エステル基とを有するカルボキシル基含有アクリル樹脂(A)は、固形分酸価が5〜300mgKOH/g、特に50〜250mgKOH/gであることが好ましい。酸価が下限を下回ると硬化性が不足する恐れがあり、上限を上回ると貯蔵安定性が不良となる恐れがある。
上記カルボキシル基含有アクリル樹脂(A)は、樹脂組成物中の全不揮発分を基準として10〜70質量%、好ましくは15〜50質量%、より好ましくは20〜45質量%の量で用いられる。この配合量が下限を下回ると得られる塗膜の耐候性が低下する恐れがあり、上限を上回ると塗膜が固くなりすぎる恐れがある。
上記クリヤー塗料組成物に含有されるカルボキシル基含有ポリエステル樹脂(B)としては、(1)3個以上の水酸基を有するポリエステルポリオールと(2)酸無水物とを反応させて得られる、酸価50〜350mgKOH/g(固形分)、数平均分子量400〜3500、および重量平均分子量/数平均分子量が1.8以下のものが挙げられる。
上記カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(B)は、(1)3個以上の水酸基を有するポリエステルポリオールと(2)酸無水物とをハーフエステル化反応させることにより得ることができる。なお、ポリエステルポリオールとはエステル結合鎖を2個以上有する多価アルコールをいい、酸無水物基と反応して一分子あたり2個以上の酸官能性および下記の特性を有するものである。
このような(1)ポリエステルポリオールは、少なくとも3個の水酸基を有する炭素数3〜16までの低分子多価アルコール、あるいはこの低分子多価アルコールにε−カプロラクトンなどのラクトン化合物を付加させて鎖延長することで合成することもできる。低分子多価アルコールに線状の脂肪族基を導入することにより、得られる塗膜に可撓性が付与され耐衝撃性が向上する。
用いられる低分子多価アルコールとしては、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,4−ブタントリオール、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、グリセリンおよびこれらの混合物が例示される。
好ましく用いられる低分子多価アルコールとしては、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールおよびこれらとラクトン化合物との付加物等が例示される。またラクトン化合物としては、ε−カプロラクトン、γ−カプロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトンおよびγ−ブチロラクトンなどが挙げられるが、ε−カプロラクトン、γ−バレロラクトンおよびγ−ブチロラクトンが好適である。
上記(2)酸無水物としては、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水コハク酸などが例示される。
上記(1)ポリエステルポリオールと(2)酸無水物とのハーフエステル化反応は、室温〜150℃、常圧のような通常の反応条件において行うことができる。但し、ポリエステルポリオールの水酸基の全てをカルボキシル基に変性する必要はなく、水酸基を残してもよい。上述の方法によれば、分子量分布がシャープとなるので、さらなるハイソリッド化が可能となり、耐候性および耐水性に優れた塗膜を形成することができる。
上記した反応により得られるカルボキシル基含有ポリエステル樹脂(B)は、酸価が50〜350mgKOH/g(固形分)、好ましくは100〜300mgKOH/g(固形分)、より好ましくは150〜250mgKOH/g(固形分)であり、数平均分子量は400〜3500、好ましくは500〜2500、より好ましくは700〜2000、であり、重量平均分子量/数平均分子量が1.8以下、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.35以下である。
上記酸価が上限を上回ると樹脂粘度が高くなりすぎて塗料不揮発分濃度の低下を招く恐れがあり、酸価が下限を下回ると塗料の硬化性が不足する恐れがある。また分子量が上限を上回ると樹脂粘度が高くなりすぎて塗装粘度に希釈された希釈塗料の不揮発分の低下を招く恐れがあり、下限を下回ると硬化性が不足する恐れがある。さらに重量平均分子量/数平均分子量が上限を上回ると塗膜の耐水性および耐候性が低下する恐れがある。
上記カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(B)は、分子中に水酸基を有することで、塗膜表面にカルボキシル基と水酸基が同時に提供されるため、例えばリコート時の密着性が向上する。この場合カルボキシル基含有ポリエステル樹脂の水酸基価を150(固形分)以下、好ましくは5〜100(固形分)、より好ましくは10〜80(固形分)とするのがよい。水酸基価が上限を上回ると耐水性が低下するようになる。
上記水酸基とカルボキシル基とを有するカルボキシル基含有ポリエステル樹脂(B)は、後述するエポキシ基含有アクリル樹脂(C)およびカルボキシル基含有アクリル樹脂(A)の両方と反応するため、より強固な塗膜を形成することができる。したがってカルボキシル基含有ポリエステル樹脂(B)は、1分子中に平均0.1個以上の水酸基を有することが望ましい。
このようなカルボキシル基含有ポリエステル樹脂とするには、(1)ポリエステルポリオールの水酸基のモル量に対する(2)酸無水物の酸無水物基のモル量を0.2〜1.0倍、特に0.5〜0.9倍とすることが好ましい。この比率が下限を下回ると塗料の硬化性が不足する恐れがある。
上記カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(B)成分は、塗料中の全不揮発分の質量を基準として5〜70質量%、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜40質量%の量で配合することができる。カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(B)の量が下限を下回ると塗料の不揮発分濃度が低くなる恐れがあり、上限を上回ると塗膜の耐候性が低下する恐れがある。
本発明に用いられるクリヤー塗料組成物に含まれる、エポキシ基含有アクリル樹脂(C)は、1分子中にエポキシ基を平均で2個以上、好ましくは2〜10個、より好ましくは3〜8個有するエポキシ基含有アクリル樹脂である。
上記エポキシ基含有アクリル樹脂(C)として好ましいものは、(1)エポキシ基含有エチレン性不飽和モノマー10〜60質量%、好ましくは15〜50質量%と、(2)エポキシ基を有しないエチレン性不飽和モノマー40〜90質量%、好ましくは10〜60質量%とを共重合することで得られるエポキシ基含有アクリル樹脂である。エポキシ基含有エチレン性不飽和モノマーが下限を下回ると硬化性が不足し、上限を上回ると固くなりすぎて耐候性が不足する。
上記(1)エポキシ基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えばグリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキサニル(メタ)アクリレートなどが例示される。バランスのとれた硬化性と貯蔵安定性を確保するためには、グリシジル(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。
上記(2)エポキシ基を有しないエチレン性不飽和モノマーとしては、上述の酸無水物基を有しないエチレン性不飽和モノマーのうちエポキシ基に影響を及ぼさないものを同様に用いることができる。
また(2)エポキシ基を有しないエチレン性不飽和モノマーとして、下記式(I)に示す水酸基含有エチレン性不飽和モノマーを用いることもできる。
(式中、Rは水素原子またはメチル基、Xは下記式(II)または式(III)で示す有機鎖である。)
(式中、Yは炭素数2〜8の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、nは3〜7の整数であり、qは0〜4の整数である。)
(式中、R'は水素原子またはメチル基であり、mは2〜50の整数である。)
式(I)に示す水酸基含有エチレン性不飽和モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、およびこれらのε−カプロラクトンとの反応物、(メタ)アクリル酸と大過剰のジオール(例えば1,4ブタンジオール、1,6ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール)をエステル化した化合物などが例示される。
ここで用いる水酸基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、炭素数が5〜23、特に5〜13のものを好ましく用いることができる。このモノマーの鎖長が短すぎると架橋点近傍のフレキシビリティがなくなるため固くなりすぎ、長すぎると架橋点間分子量が大きくなりすぎるからである。
上記水酸基含有エチレン性不飽和モノマーを用いると、得られる塗膜の密着性およびリコート性が向上する。また水酸基とカルボキシル基とを有するエポキシ基含有アクリル樹脂は、後述するように、カルボキシル基とカルボン酸エステル基とを有するカルボキシル基含有アクリル樹脂(A)と、水酸基およびエポキシ基の両方の官能基において反応し結合するので、より強固な塗膜を得ることができる。
上記エポキシ基含有アクリル樹脂(C)の水酸基価は5〜300(固形分)、好ましくは10〜200(固形分)、より好ましくは15〜150(固形分)である。水酸基価が上限を上回ると塗料不揮発分が低下したり塗膜の耐水性が不足する恐れがある。下限を下回ると密着性に劣る恐れがある。
上記エポキシ基含有アクリル樹脂(C)は、上述の式(I)で示した構造の水酸基含有エチレン性不飽和モノマー5〜70質量%と、(1)エポキシ基含有エチレン性不飽和モノマー10〜60質量%と、必要に応じて水酸基およびエポキシ基いずれも有しないエチレン性不飽和モノマー0〜85質量%とを共重合することによって得ることができる。この場合、得られるエポキシ基含有アクリル樹脂(C)は、1分子中にエポキシ基を平均で2〜12個、より好ましくは3〜10個、水酸基を平均で0.5〜10個、より好ましくは1〜8個有する。
エポキシ基含有アクリル樹脂(C)の数平均分子量は、500〜10000であるのが好ましく、1000〜8000であるのがより好ましく、1500〜5000であるのがさらに好ましい。数平均分子量が下限を下回ると塗料の硬化性が不足する恐れがあり、上限を上回ると塗装粘度に希釈された希釈塗料の不揮発分が低下する恐れがある。またエポキシ当量は50〜700であるのが好ましく、80〜600であるのがより好ましく、100〜500であるのがさらに好ましい。エポキシ当量が上限を上回ると塗料の硬化性が不充分となる恐れがあり、また下限を下回ると固くなりすぎて塗膜が脆くなるので好ましくない。
上記エポキシ基含有アクリル樹脂(C)成分は、硬化性樹脂組成物中の全固形分の質量を基準として10〜80質量%、好ましくは20〜70質量%、より好ましくは30〜65質量%の量で配合することができる。エポキシ基含有アクリル樹脂の量が下限を下回ると硬化性が低下する恐れがあり、上限を上回ると耐黄変性が悪化する恐れがある。
本発明に用いるクリヤー塗料組成物は、カルボキシル基含有アクリル樹脂(A)と、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(B)と、エポキシ基含有アクリル樹脂(C)とを混合することにより製造することができる。特にカルボキシル基とカルボン酸エステル基とを有するカルボキシル基含有アクリル樹脂(A)を用い、水酸基とエポキシ基とを有するエポキシ基含有アクリル樹脂(C)を用いた場合には、耐酸性に特に優れた塗膜を形成するクリヤー塗料組成物が得られる。
この場合、カルボキシル基含有アクリル樹脂(A)およびカルボキシル基含有ポリエステル樹脂(B)に含有されるカルボキシル基と、エポキシ基含有アクリル樹脂(C)に含有されるエポキシ基とのモル比が、1/1.4〜1/0.6、好ましくは1/1.2〜1/0.8となり、かつカルボキシル基含有アクリル樹脂(A)に含有されるカルボキシル基またはカルボキシル基結合炭素に隣接する炭素に結合するカルボン酸エステル基とカルボキシル基含有ポリエステル樹脂(B)およびエポキシ基含有アクリル樹脂(C)に含有される水酸基とのモル比が1/2.0〜1/0.5、より好ましくは1/1.5〜1/0.7となるような量で配合することが好ましい。
カルボキシル基含有アクリル樹脂(A)およびカルボキシル基含有ポリエステル樹脂(B)に含有されるカルボキシル基と、エポキシ基含有アクリル樹脂(C)に含有されるエポキシ基とのモル比が上限を上回る場合は、得られる塗料の硬化性が低下する恐れがあり、また下限を下回る場合は、塗膜が黄変する恐れがある。また、カルボキシル基含有アクリル樹脂(A)に含有されるカルボキシル基またはカルボキシル基結合炭素に隣接する炭素に結合するカルボン酸エステル基とカルボキシル基含有ポリエステル樹脂(B)およびエポキシ基含有アクリル樹脂(C)に含有される水酸基とのモル比が、上限を上回る場合は、得られる塗料の硬化性が低下する恐れがあり、下限を下回る場合は水酸基が過剰となるため耐水性が低下する恐れがある。
このようにして得られるクリヤー塗料組成物の硬化機構は、先ず加熱によりカルボキシル基含有アクリル樹脂(A)中のカルボキシル基とカルボン酸エステル基とが反応してカルボキシル基含有アクリル樹脂(A)中に酸無水物基が生成し、遊離のモノアルコールが生成する。生成したモノアルコールは蒸発して系外へ除去される。そしてカルボキシル基含有アクリル樹脂(A)中に生成した酸無水物基はカルボキシル基含有ポリエステル樹脂(B)およびエポキシ基含有アクリル樹脂(C)に含有される水酸基と反応することにより架橋点を形成し、再度カルボキシル基を形成する。このカルボキシル基およびカルボキシル基含有ポリエステル樹脂(B)中に存在するカルボキシル基は、エポキシ基含有アクリル樹脂(C)中に存在するエポキシ基と反応することにより架橋点を形成する。このように3種類のポリマーが相互に反応することにより硬化が進行し、高い密度で架橋した塗膜が形成される。
本発明に用いるクリヤー塗料組成物中には、例えば4級アンモニウム塩などのような酸とエポキシとのエステル化反応に通常用いられる硬化触媒を含んでもよい。この硬化触媒としては、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリドまたはブロミド、テトラブチルアンモニウムクロリドまたはブロミド、サリチレートまたはグリコレート、パラトルエンスルホネートなどが例示される。
この硬化触媒の添加量は、樹脂組成物の固形分に対して一般に0.01〜3.0質量%、好ましくは0.1〜1.5質量%、より好ましくは0.4〜1.2質量%である。硬化触媒の量が下限を下回ると添加した効果が得られない恐れがあり、上限を上回ると貯蔵安定性が低下する恐れがある。
また本発明に用いるクリヤー塗料組成物中には、特開平2−151651号公報などに記載される公知のスズ系の化合物を混合することもできる。このようなスズ系触媒としては、例えばジメチルスズビス(メチルマレート)、ジメチルスズビス(エチルマレート)、ジメチルスズビス(ブチルマレート)、ジブチルスズビス(ブチルマレート)などが挙げられる。
このスズ系触媒の添加量は、樹脂組成物の固形分に対して一般に0.05〜6.0質量%、好ましくは0.1〜4.0質量%、より好ましくは0.2〜2.0質量%である。スズ系触媒の量が0.05質量%より少ないと貯蔵安定性が低下する恐れがあり、6.0質量%を超えて添加すると耐候性が低下する恐れがある。なお硬化触媒とスズ系触媒とを併用する場合には、硬化触媒とスズ系触媒の質量比は1/4〜1/0.2とすることが好ましい。
本発明に用いるクリヤー塗料組成物には、架橋密度を上げ、耐水性の向上を計るために、ブロック化イソシアネートを加えることもできる。また公知の紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤などを添加してもよい。さらに公知のレオロジーコントロール剤、その他の表面調整剤などを添加してもよいし、粘度調整などの目的でアルコール系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤などの溶剤を用いることもできる。
基材
本発明の積層塗膜形成方法は、種々の基材、例えば金属、プラスチック、発泡体等、特に金属表面、および鋳造物に有利に用いることができる。中でも、カチオン電着塗装可能な金属製品に対し、特に好適に用いることができる。
上記金属製品としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛等およびこれらの金属を含む合金が挙げられる。具体的には、乗用車、トラック、オートバイ、バス等の自動車車体および部品が挙げられる。これらの金属は予めリン酸塩、クロム酸塩等で化成処理されたものが特に好ましい。
また、本発明の積層塗膜形成方法に用いられる基材には、化成処理された鋼板上に電着塗膜が形成されていても良い。電着塗膜を形成する電着塗料としては、カチオン型およびアニオン型を使用できるが、カチオン型電着塗料組成物が防食性において優れた積層塗膜を与えるため好ましい。
積層塗膜形成方法
本発明の積層塗膜形成方法は、基材上に、中塗り塗料組成物により中塗り塗膜、ベース塗料組成物によりベース塗膜およびクリヤー塗料組成物によりクリヤー塗膜を、順次ウェットオンウェットで形成し、その後これらの3種の塗膜を一度に焼付け硬化させる方法である。
本発明において、中塗り塗料組成物を、自動車車体などの被塗物に塗装する際は、エアー静電スプレー塗装による多ステージ塗装、好ましくは2ステージで塗装するか、或いは、エアー静電スプレー塗装と、通称「μμ(マイクロマイクロ)ベル」、「μ(マイクロ)ベル」あるいは「メタベル」等と言われる回転霧化式の静電塗装機とを組み合わせた塗装方法等により塗膜を形成することができる。これらの塗装方法によって、塗膜外観に優れた塗膜を得ることができる。
本発明における、中塗り塗料組成物による乾燥塗膜の膜厚は、所望の用途により変化するが、多くの場合10〜60μmが有用である。上限を超えると、鮮映性が低下したり、塗装時にムラあるいは流れ等の不具合が起こることがあり、下限を下回ると、下地が隠蔽できず膜切れが発生することがある。
本発明の積層塗膜形成方法では更に、未硬化の中塗り塗膜の上に、ベース塗料組成物、およびクリヤー塗料組成物を順次ウェットオンウェットで塗布し、ベース塗膜およびクリヤー塗膜を形成する。
本発明のベース塗料組成物は、上記中塗り塗料組成物と同様に、エアー静電スプレー塗装あるいはメタベル、μμベル、μベル等の回転霧化式の静電塗装機により塗装することができる。ベース塗膜の乾燥膜厚は5〜35μmに設定することができ、好ましくは7〜25μmである。ベース塗膜の膜厚が35μmを超えると、鮮映性が低下したり、塗膜にムラまたは流れが生じることがあり、5μm未満であると、下地隠蔽性が不充分となり、膜切れ(塗膜が不連続な状態)が生じることがあるため、いずれも好ましくない。
本発明の積層塗膜形成方法において、上記ベース塗膜を形成した後に塗装されるクリヤー塗膜は、上記ベース塗膜に起因する凹凸、光輝性顔料が含まれる場合に起こるチカチカ等を平滑にし、保護するために形成される。塗装方法として具体的には、先に述べたμμベル、μベル等の回転霧化式の静電塗装機により塗膜形成することが好ましい。
上記クリヤー塗料組成物により形成されるクリヤー塗膜の乾燥膜厚は、一般に10〜80μm程度が好ましく、より好ましくは20〜60μm程度である。上限を超えると、ワキあるいはタレ等の不具合が起こることがある。また下限を下回ると、下地の凹凸が隠蔽できないことがある。
こうして得られる3種の塗膜は、同時に焼付け硬化させる、いわゆる3コート1ベークによって硬化する。この方法は、中塗り塗膜およびベース塗膜の焼き付け乾燥炉を省略することができ、経済性および環境保全の面からも好ましい。
上記積層塗膜を硬化させる硬化温度を例えば120〜160℃に設定することで高い架橋度の硬化塗膜が得られる。上限を上回ると塗膜が固く脆くなる恐れがあり、下限を下回ると十分な硬化が得られない恐れがある。硬化時間は硬化温度により変化するが、120℃〜160℃で例えば10〜60分である。
本発明で形成される積層塗膜の膜厚は、多くの場合30〜300μmであり、好ましくは50〜250μmである。上限を超えると、冷熱サイクル等の膜物性が低下し、下限を下回ると膜自体の強度が低下するおそれがある。
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。尚、以下に於いて「部」とあるのは「質量部」を意味する。
製造例1 中塗り塗料組成物用ウレタン変性ポリエステル樹脂の製造
窒素導入管、撹拌機、温度調節機、滴下ロートおよびデカンターを備えた冷却管を取り付けた2Lの反応容器にイソフタル酸440部、ヘキサヒドロフタル酸20部、アゼライン酸40部、トリメチロールプロパン300部およびネオペンチルグリコール200部とを仕込み、加熱により原料が溶解し撹拌可能となったところで、ジブチル錫オキサイド0.2部を投入し、撹拌を開始し、反応層温度を180から220℃まで3時間かけて徐々に昇温した。生成する縮合水は系外へ留去した。220℃に達したところで、1時間保温し、反応層内にキシレン20部を徐々に添加し、溶剤存在化で縮合反応を進行させた。樹脂酸価が10mgKOH/g(固形分)に達したところで、100℃に冷却し、ヘキサメチレンジイソシアネート100部を30分間かけて徐々に添加した。更に、1時間保持後、キシレン200部および酢酸ブチル200部を加え、固形分70%、数平均分子量2000、酸価8mgKOH/g(固形分)、水酸基価120(固形分)、樹脂Tg60℃のウレタン変性ポリエステル樹脂を得た。
製造例2 非水ディスパージョンの製造
(2−1)分散安定樹脂の製造
攪拌機、温度制御装置、還流冷却器を備えた容器に酢酸ブチル90部を仕込んだ。次に、メチルメタクリレート38.9部、ステアリルメタクリレート38.8部、2−ヒドロキシエチルアクリレート22.3部およびアゾビスイソブチロニトリル5.0部からなる組成の溶液の内20部を加え、攪拌しながら加熱し、温度を上昇させた。110℃で上記混合溶液の残り85部を3時間で滴下し、次いでアゾビスイソブチロニトリル0.5部と酢酸ブチル10部からなる溶液を30分間で滴下した。反応溶液をさらに2時間攪拌還流させて樹脂への変化率を上昇させた後、反応を終了させ、固形分50%、数平均分子量5600およびSP値9.5のアクリル樹脂を得た。
(2−2)非水ディスパージョンの製造
攪拌機、冷却器、温度制御装置を備えた容器に酢酸ブチル90部、上記の(2−1)分散安定樹脂の製造で得たアクリル樹脂120部(固形分として60部)を仕込んだ。次に、スチレン7.0部、メタクリル酸1.8部、メチルメタクリレート12.0部、エチルアクリレート8.5部、2−ヒドロキシエチルアクリレート40.7部およびアゾビスイソブチロニトリル1.4部からなる組成の溶液を100℃で3時間で滴下し、次いでアゾビスイソブチロニトリル0.1部と酢酸ブチル1部からなる溶液を30分間で滴下した。反応溶液をさらに1時間攪拌を続けたところ、固形分60%、粒子径180nmのエマルションを得た。このエマルションを酢酸ブチルで希釈し、粘度300cps(25℃)、粒子径180nmの非水ディスパージョン含量40質量%のコアシェル型酢酸ブチル分散体を得た。この非水ディスパージョン樹脂のTgは23℃、水酸基価(固形分)は162であった。
製造例3 中塗り塗料組成物の製造
1Lのベッセルに、先の製造例1で得られた中塗り塗料組成物用ウレタン変性ポリエステル樹脂ワニス107部、CR−97(石原産業社製酸化チタン)280部、MA−100(三菱化学社製カーボンブラック顔料)13部、LMS−100(富士タルク社製鱗片状タルク)7部、酢酸ブチル47部およびキシレン47部を仕込み、仕込み質量と同量のGB503M(粒径1.6mmガラスビーズ)を投入し、卓上サンドグラインダーミルを用いて室温で3時間分散し、灰色の顔料ペーストとした。グラインドゲージによる分散終了時の粒度は5μm以下であった。ガラスビーズを濾過して顔料ペーストを得た。
上記顔料ペースト100部に、上記中塗り塗料組成物用ウレタン変性ポリエステル樹脂130部、上記製造例の中塗り塗料組成物用非水ディスパージョン53部、ユーバン128(三井化学社製メラミン樹脂、固形分60%)71部、デュラネートMF−K60X(旭化成社製活性メチレン型ブロックイソシアネート、固形分60%)71部を混合して中塗り塗料組成物を調製した。
更に、エトキシエチルプロピオネート/S−100(エクソン社製芳香族炭化水素溶剤)=1/1の混合溶剤で、No.4フォードカップを用いて19秒/20℃に希釈調整した。塗布時の不揮発分は49%であった。
製造例4 アクリル樹脂(ア)の製造
攪拌機、温度制御装置、還流冷却器を備えた容器にキシレン50部、n−ブタノール25部を仕込んだ。次に下記組成の溶液スチレン5.0部、メタクリル酸1.5部、メタクリル酸メチル20.0部、エチルアクリレート45.0部、2−ヒドロキシエチルアクリレート6.6部、ブトキシメチルアクリルアミド5.0部、プラクセルFM−2 17.6部(ダイセル化学工業水酸基含有モノマー)、アゾビスイソブチロニトリル7.0部の内20部を加え、攪拌しながら加熱し、温度を上昇させた。還流させながら上記混合溶液の残り87.7部を3時間で滴下し、次いでアゾビスイソブチロニトリル0.2部とキシロール8部からなる溶液を30分間で滴下した。反応溶液をさらに1時間攪拌還流させて樹脂への変化率を上昇させた後、反応を終了させ、固形分55%、数平均分子量3800、酸価9.8mgKOH/g(固形分)、水酸基価59.5(固形分)のアクリル樹脂ワニスを得た。
製造例5 有機ベントナイト分散ペースト(ウ−1)の製造
2Lのベッセルに、製造例4より得られたアクリル樹脂(ア)512.7部、ベントン38(RHEOX社製)70.5部および酢酸ブチル416.8部を仕込み、仕込み重量と同量のGB503M(粒径1.6mmガラスビーズ)を投入し、卓上サンドグラインダーミルを用いて室温で1時間分散した。グラインドゲージによる分散終了時の粒度は5μm以下であった。ガラスビーズをろ過して、有機ベントナイト分散ペースト(ウ−1)を得た。
製造例6 有機ベントナイト分散ペースト(ウ−2)の製造
製造例5で用いたベントン38の代わりに、ベントン27(RHEOX社製)70.5部を用いたこと以外は、製造例5と同様にして、有機ベントナイト分散ペースト(ウ−2)を調製した。
比較製造例1 架橋重合体微粒子の製造
(比較製造例1−1)両イオン性基を有するポリエステル樹脂の製造
攪拌機、窒素導入管、温度制御装置、コンデンサー、デカンターを備えた2Lコルベンに、ビスヒドロキシエチルタウリン134部、ネオペンチルグリコール130部、アゼライン酸236部、無水フタル酸186部およびキシレン27部を仕込み、昇温した。反応により生成する水をキシレンと共沸させ除去した。還流開始より約2時間をかけて温度を190℃にし、カルボン酸相当の酸価が145mgKOH/g(固形分)になるまで攪拌と脱水を継続し、次に140℃まで冷却した。次いで140℃の温度を保持し、「カージュラE−10」(シェル社製のバーサティック酸グリシジルエステル)314部を30分で滴下し、その後2時間攪拌を継続し、反応を終了した。このようにして得られたポリエステル樹脂は、酸価59mgKOH/g(固形分)、水酸基価90(固形分)、数平均分子量1054であった。
(比較製造例1−2)架橋重合体微粒子の製造
攪拌機、冷却器、温度制御装置を備えた1Lの反応容器に、脱イオン水232部、上記の両イオン性基を有するポリエステル樹脂の製造で得たポリエステル樹脂10部およびジメチルエタノールアミン0.75部を仕込み、攪拌下温度を80℃に保持しながら溶解し、これにアゾビスシアノ吉草酸4.5部を脱イオン水45部とジメチルエタノールアミン4.3部に溶解した液を添加した。次いでメチルメタクリレート130部、スチレン40部およびエチレングリコールジメタクリレート140部からなる混合溶液を60分間を要して滴下した。滴下後、さらにアゾビスシアノ吉草酸1.5部を脱イオン水15部とジメチルエタノールアミン1.4部に溶かしたものを添加して80℃で60分間攪拌を続けたところ、固形分45%、pH7.2、粘度92cps(25℃)、粒子径0.1μmのエマルションが得られた。このエマルションを共沸を利用してキシロール溶液に置換し、架橋重合体微粒子粒径0.07μmで架橋重合体微粒子含量20質量%のキシロール分散体を得た。
実施例1
ベース塗料組成物の製造
ステンレス容器に、製造例4のアクリル樹脂(ア)127.3部、メラミン樹脂(イ)であるユーバン20N60(三井化学社製、固形分60%)50.0部、有機ベントナイト(ウ)である製造例5の有機ベントナイト分散ペースト(ウ−1)14.2部、マレイン酸モノアルキルエステル(エ)であるマレイン酸モノブチル1部、光輝性顔料(オ)であるアルミペースト91−0562(東洋アルミニウム社製アルミニウム顔料)21.1部、を秤量し、卓上攪拌機で攪拌してメタリックベース塗料組成物を調製した。
積層塗膜の形成
りん酸亜鉛化成処理を施した厚さ0.8mmのダル鋼板上にカチオン電着塗料「V−50」(日本ペイント社製)を硬化膜厚が約20μmになるように電着塗装し、160℃で30分加熱し硬化させてから、製造例3により得られた中塗り塗料組成物を、硬化膜厚が約25μmになるようにメタベル(ABB社製回転霧化型静電塗装機)にて塗装した。
中塗り塗料組成物を塗装してから7分後、未硬化の中塗り塗料組成物が塗装された上記被塗物板を垂直に立てた。上記より得られたベース塗料組成物を、ソルベッソ150(エクソン石油社製炭化水素系溶剤)50部、酢酸エチル25部、トルエン25部からなる希釈シンナーにて、No.4フォードカップで12.5秒/20℃に希釈調整した。得られた希釈ベース塗料組成物を、乾燥膜厚で15μmとなるように、1.5分間隔の2ステージで、メタベル(ABB社製回転霧化型静電塗装機)により塗装した。室温で10分間放置し、メタリックベース塗膜を作成した。
ついで、予め、No.4フォードカップで25秒/20℃に希釈調整されたクリヤー塗料「マックフローO−600」(日本ペイント社製)を、垂直に設置した未硬化の中塗りおよびベース塗膜が形成された被塗物に、ウェットオンウェットにより、クリヤー塗膜の乾燥塗膜が35μmになるように、メタベルにより1回塗りで塗装した。
3層の未硬化の塗膜が形成された被塗物を、室温にて、垂直状態で7分間放置した後、垂直の状態のままで、160℃の乾燥器で20分間焼付けることにより、3コート1ベークによる積層塗膜が得られた。なお通常は、焼付け温度は140℃を中心値として設定することが多い。本実施例においては、積層塗膜の外観評価においてより厳しい条件で行うため、160℃で焼付けを行った。
実施例2
製造例5の有機ベントナイト分散ペースト(ウ−1)14.2部の代わりに製造例6の有機ベントナイト分散ペースト(ウ−2)14.2部を用いたこと以外は、実施例1と同様にベース塗料組成物を調製し、実施例1と同様に塗装した。
実施例3
製造例5の有機ベントナイト分散ペースト(ウ−1)の量を7.1部に変更し、さらに製造例6の有機ベントナイト分散ペースト(ウ−2)を7.1部用いたこと以外は、実施例1と同様にベース塗料組成物を調製し、実施例1と同様に塗装した。
実施例4
マレイン酸モノブチル1部の代わりにマレイン酸モノエチル1部を用いたこと以外は、実施例3と同様にベース塗料組成物を調製し、実施例1と同様に塗装した。
比較例1
有機ベントナイト分散ペースト(ウ−1)およびマレイン酸モノブチルを用いず、一方で比較製造例1の架橋重合体微粒子を25部用いたこと以外は、実施例1と同様にベース塗料組成物を調製し、実施例1と同様に塗装した。
比較例2
有機ベントナイト分散ペースト(ウ−1)を用いず、一方で比較製造例1の架橋重合体微粒子を25部用いたこと以外は、実施例1と同様にベース塗料組成物を調製し、実施例1と同様に塗装した。
比較例3
マレイン酸モノブチルの量を0.1部に変更したこと以外は、実施例3と同様にベース塗料組成物を調製し、実施例1と同様に塗装した。
比較例4
マレイン酸モノブチルの量を5部に変更したこと以外は、実施例3と同様にベース塗料組成物を調製し、実施例1と同様に塗装した。
比較例5
マレイン酸モノブチルを用いないこと以外は、実施例1と同様にベース塗料組成物を調製し、実施例1と同様に塗装した。
比較例6
マレイン酸モノブチルを用いないこと以外は、実施例2と同様にベース塗料組成物を調製し、実施例1と同様に塗装した。
比較例7
マレイン酸モノブチル1部の代わりにコハク酸1部を用いたこと以外は、実施例3と同様にベース塗料組成物を調製し、実施例1と同様に塗装した。
比較例8
マレイン酸モノブチル1部の代わりにフタル酸モノメチル1部を用いたこと以外は、実施例3と同様にベース塗料組成物を調製し、実施例1と同様に塗装した。
上記実施例および比較例について、以下の評価試験を行った。
ワキ発生の評価
りん酸亜鉛化成処理を施した10×30cmのダル鋼板上に、カチオン電着塗料「V−50」(日本ペイント社製)を硬化膜厚が約20μmになるように電着塗装し、160℃で30分加熱し硬化させてから、製造例3により得られた中塗り塗料組成物を、硬化膜厚が約25μmになるようにメタベルによって塗装した。中塗り塗料組成物を塗装してから7分後、未硬化の中塗り塗料組成物が塗装された上記被塗物板を垂直に立てた。実施例または比較例のベース塗料組成物を、ソルベッソ150(エクソン石油社製炭化水素系溶剤)50部、酢酸エチル25部、トルエン25部からなる希釈シンナーにて、No.4フォードカップで12.5秒/20℃に希釈調整した。得られた希釈ベース塗料組成物を、乾燥膜厚で15μmとなるように、1.5分間隔の2ステージでメタベルにより塗装した。
ベース塗料組成物を塗装してから1分後、予めNo.4フォードカップで25秒/20℃に希釈調整されたクリヤー塗料「マックフローO−600」(日本ペイント社製)を、塗装板から5m離れた場所から約10秒間スプレー噴霧した。室温で5分静置した後、上記クリヤー塗料を、クリヤー塗膜の乾燥塗膜が35μmになるように、メタベルにより1回塗りで塗装した。
3層の未硬化の塗膜が形成された塗装板を、室温にて、垂直状態で7分間放置した後、垂直の状態のままで、160℃の乾燥器で20分間焼付けた。こうして得られた積層塗膜上に存在するワキの数を数え、下記基準により評価した。なお通常は、焼付け温度は140℃を中心値として設定することが多い。本評価においては、積層塗膜の外観評価においてより厳しい条件で行うため、160℃で焼付けを行った。
5:ワキなし
4:ワキが5点以内
3:ワキが10点以内
2:ワキが20点以内
1:ワキが20点以上
外観評価
上記実施例および比較例より得られた積層塗膜の表面について、BYK−Gardner GmbH社製「ウエーブスキャン」を用いて、W1値およびW4値を測定することにより、仕上がり外観を評価した。尚、W1値は、塗膜の肌のうねり(ラウンド)を評価する指標であり、この値が低い程、仕上がり外観が良好であることを示す。W4値は、塗膜の艶感及び微小な肌を評価する指標であり、この値が低い程、仕上がり外観が良好であることを示す。
上記実施例および比較例の配合および評価結果を下記表にまとめる。なお下記表中の各成分配合量は、各成分の固形分質量を示す。
上記結果から分かるように、実施例によって得られた積層塗膜は、ワキの発生がなく、かつW1およびW4も小さく仕上がり外観が良好であることが確認された。
一方、マレイン酸アルキルエステルを含まず、かつ有機ベントナイトの代わりに架橋重合体微粒子を用いた比較例1は、ワキの発生が多く、かつW1およびW4も大きく仕上がり外観が劣るものであった。
有機ベントナイトの代わりに架橋重合体微粒子を用いた比較例2は、ワキが存在し、かつW1およびW4も大きく仕上がり外観が劣るものであった。
マレイン酸モノアルキルエステルの量が少ない比較例3およびマレイン酸モノアルキルエステルの量が多い比較例4は、いずれもワキが存在し、かつW1およびW4も大きく仕上がり外観が劣るものであった。
マレイン酸アルキルエステルを含まない比較例5、6はいずれも、ワキの発生が多く、かつW1およびW4も大きく仕上がり外観が劣るものであった。
マレイン酸モノアルキルエステルの代わりにコハク酸を用いた比較例7およびフタル酸モノメチルを用いた比較例8もまた、ワキが存在し、かつW1およびW4も大きく仕上がり外観が劣るものであった。