以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の高分子アクチュエータ素子は、金属電極と高分子電解質を含む電解質とを含む高分子アクチュエータ素子であって、
前記金属電極が対を形成することができるように形成され、
前記金属電極が前記電解質と接し、かつ前記金属電極が前記高分子電解質の表面および内部に形成されたものであって、
前記電解質中に常温常圧下で液状の両親媒性ポリエーテル化合物および/または親油性化合物を含み、
前記電解質が前記両親媒性ポリエーテル化合物および/または親油性化合物により膨潤した状態であることを特徴とする。
上記高分子アクチュエータ素子は、上記電解質中に常温常圧下で液状の上記両親媒性ポリエーテル化合物、親油性化合物、またはそれらの混合溶液を含むことによって、常温常圧もしくは0℃以下の開放系であっても、アクチュエータ素子の屈曲量または変位量の経時による変化が生じにくい。そのため、上記高分子アクチュエータ素子は、溶液の外部、すなわち開放系である空気中での駆動も可能であり、しかも、電解質中の媒体(電解質媒)の蒸発がほとんど無いので、長期間の駆動に好適である。さらには、上記高分子アクチュエータ素子駆動させるために6.0Vより高い電圧を金属電極に印加しても、誘電率が低い上記両親媒性ポリエーテル化合物、親油性化合物、またはそれらの混合溶液を用いた場合でも電解質の移動を妨げることなく、溶媒の電気分解が生じることがないため、気泡も発生しない。このため、優れた応答速度(周波数)や変位量を必要とする用途での駆動に好適である。
本発明の高分子アクチュエータ素子に含まれる常温常圧下で液状の上記両親媒性ポリエーテル化合物、親油性化合物、またはそれらの混合溶液は、上記電解質中に含まれる。上記電解質中に上記両親媒性ポリエーテル化合物および/または親油性化合物といった有機化合物が含まれることにより、上記高分子アクチュエータ素子は、常温常圧下で被覆無しでの1日後においても、膨潤状態の変化を少なく保つことができ、ひいては屈曲量または変位量の低下が少ないものとなる。また、従来よりも高耐電圧化(6.0V以上)が可能な高分子アクチュエータ素子となる。また、上記両親媒性ポリエーテル化合物および/または親油性化合物を含むことにより電解質が膨潤した状態となり、上記高分子アクチュエータ素子の屈曲もしくは変位を容易に行うことができる。
上記両親媒性ポリエーテル化合物は、常温常圧下において液状で、両親媒性であれば、特に限定されるものではない。上記両親媒性ポリエーテル化合物は、溶媒としての機能も有することが好ましい。上記両親媒性ポリエーテル化合物はその分子構造に起因して誘電率が低く、その特性が内部抵抗成分の増加につながり、ひいては電導度の低下を招いてしまうため、これまで高分子アクチュエータ素子用途に用いることは困難であった。しかしながら、上記両親媒性ポリエーテル化合物(または親油性化合物との混合溶液)と、上記電解質および上記金属電極とを組み合わせることにより、これらの液体(媒体)と金属電極の特殊な形状、母体高分子の官能基あるいは電解質成分との特異な共同作用などによって、はじめて本発明における優れた効果を奏すると推測される。
前記両親媒性ポリエーテル化合物の凝固点または軟化点は、0℃以下であることが好ましく、より好ましくは−10℃以下である。前記凝固点または軟化点が、0℃を超えると、凍結によりイオン輸送が困難に成り動作不能に至るので、好ましくない。
上記両親媒性ポリエーテル化合物としては、電荷のキャリアとなるイオンを含む塩の溶媒となることができるポリエーテル化合物、または電荷のキャリアとなることができるポリエーテル化合物であればよい。これらのポリエーテル化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
上記両親媒性ポリエーテル化合物は、アルキレンオキシド(オキシアルキレン)ユニットなどのエーテル構造を繰り返し単位として有する両親媒性の化合物であれば、特に限定されるものではないが、分子構造中に極性部と非極性部を合わせもつポリエーテル化合物があげられる。より具体的には、たとえば、ポリアルキレングリコールなどの、ポリエーテル化合物の一方の末端水酸基のみが、エステル化またはエーテル化などによって疎水性に修飾され、他方の末端が水酸基であるものがあげられる。また、なかでも、エチレンオキシド(オキシエチレン)ユニットやプロピレンオキシド(オキシプロピレン)などを繰り返し単位として有する化合物であることがより好ましい。
上記両親媒性ポリエーテル化合物としては、アルキレンオキシド(オキシアルキレン)ユニットなどのオキシアルキレン単位の付加モル数(繰り返し単位数)を3単位以上繰り返す構造を有する両親媒性のものがあげられ、これらを直線状または分岐状に高分子量化したホモポリマーおよびコポリマー、ならびにこれらの高分子構造を含む化合物およびこれらの類縁体やエーテル型界面活性剤、エーテル型可塑剤があげられる。
上記両親媒性ポリエーテル化合物として、より具体的には、たとえば、ポリエチレングリコールモノアルキレート、ポリプロピレングリコールモノアルキレート、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル、および/またはそれらの類縁化合物などをあげることができる。
ポリエチレングリコールモノアルキレートとしては、たとえば、ポリエチレングリコールモノオレエート、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノパルミテートおよびこれらの類縁体などをあげることができる。
ポリプロピレングリコールモノアルキレートとしては、たとえば、ポリプロピレングリコールモノラウレート、ポリプロピレングリコールモノオレアートおよびこれらの類縁体などをあげることができる。
ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルとしては、たとえば、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノラウリルエーテル、トリエチレングリコールモノセチルエーテルおよびこれらの類縁体などをあげることができる。
ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルとしては、たとえば、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノミリスチルエーテルおよびこれらの類縁体などをあげることができる。
また、上記ポリアルキレングリコールとしては、たとえば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールの共重合体(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール)としては、たとえば、ポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールのブロック共重合体、ポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコールのブロック共重合体、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコールのブロック共重合体、ポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコールのランダム共重合体などをあげることができる。また、グリコール鎖の末端は、水酸基のままであっても、アルキル基、フェニル基などで置換されていてもよい。これらの化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
また、上記両親媒性ポリエーテル化合物として、エーテル型界面活性剤を適宜用いてもよい。エーテル型界面活性剤としては、たとえば、ポリオキシエチレンラウリル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウムなどのポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類などをあげることができる。これらの化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
また、上記両親媒性ポリエーテル化合物として、エーテル型可塑剤を適宜用いてもよい。エーテル型可塑剤としては、たとえば、酢酸ポリオキシエチレンラウリルエーテル、酪酸ポリオキシエチレンラノリンエーテルなどをあげることができる。これらの化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
また、上記両親媒性ポリエーテル化合物のオキシアルキレン単位の付加モル数(繰り返し単位数)としては、イオンとの相互作用の観点から、3〜100が好ましく、3〜30がより好ましく、3〜10がより好ましい。オキシアルキレン単位の付加モル数が3未満であると、電解質中の媒体の揮発性が大きくなることや吸湿性が低下することなどから経時による駆動性能の維持が困難となる場合がある。
また、上記両親媒性ポリエーテル化合物の分子量としては、常温常圧下で液状であれば特に限定されないが、数平均分子量が1000以下のものが好適に用いられ、200〜800のものがより好適に用いられ、300〜600のものがさらに好適に用いられる。数平均分子量が1000を超えると、常温常圧下で固化してしまう場合があり好ましくない。数平均分子量はGPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)により測定して得られたものをいう。
また、上記両親媒性ポリエーテル化合物の誘電率は、4〜40であるものが好適に用いられ、4.5〜30であるものがより好適に用いられ、5〜20であるものがさらに好適に用いられる。本発明においては、従来高分子アクチュエータ素子への適用が困難であった誘電率が4〜40である両親媒性ポリエーテル化合物を用いることができる。なお、本発明における誘電率は、静電容量方式の測定手法で得られた値をいう。
上記両親媒性ポリエーテル化合物は単独で用いてもよいし、また2種以上を混合して使用してもよいが、配合量としては、電解質全量100重量部に対して、20〜10000重量部であることが好ましく、50〜3000重量部であることがより好ましく、100〜500重量部であることがさらに好ましい。20重量部未満であると粘性が高すぎて内部抵抗が大きくなる場合があり、10000重量部を超えると外添の電解質が存在しない場合には溶液抵抗が大きくなる場合がある。上記両親媒性ポリエーテル化合物を電解質中に含むことにより、上記高分子アクチュエータ素子を密閉しない状態であっても、1日後に(変位・角度)180°以上の屈曲を行うことができる。なお、本願において、屈曲ないし変位の程度を表す角度(°)は、高分子アクチュエータ素子の先端における屈曲ないし変位凸面の接線方向と重力方向とのなす角(変位角)を測定することにより求められるものである。
上記親油性化合物は、常温常圧下で液状であれば、特に限定されるものではない。上記親油性化合物は、溶媒としての機能も有することが好ましい。上記親油性化合物はその分子構造に起因して誘電率が低く、その特性が内部抵抗成分の増加につながり、ひいては電導度の低下を招いてしまうため、これまで高分子アクチュエータ素子用途に用いることは困難であった。しかしながら、上記親油性化合物(または両親媒性ポリエーテル化合物との混合溶液)と、上記電解質および上記金属電極とを組み合わせることにより、これらの液体(媒体)と金属電極の特殊な形状、母体高分子の官能基あるいは電解質成分との特異な共同作用などによって、はじめて本発明における優れた効果を奏すると推測される。
前記親油性化合物の凝固点または軟化点は、0℃以下であることが好ましく、より好ましくは−10℃以下である。前記凝固点または軟化点が、0℃を超えると、凍結によりイオン輸送が困難と成り動作不能となり、好ましくない。
上記親油性化合物としては、上記両親媒性ポリエーテル化合物と混合することによって電荷のキャリアとなるイオンを含む塩の溶媒となることができる親油性化合物、または電荷のキャリアとなることができる親油性化合物であればよい。これらの親油性化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
本発明においては、上記親油性化合物とは、常温常圧下で液状であって、水に溶けない有機化合物をいい、より具体的には水に対して1.0重量%以上の濃度では溶解できないものをいい、1.0重量%以上の濃度で溶解できないものが好ましい。
上記親油性化合物は、上述の特性を有する有機化合物であれば、特に限定されるものではないが、たとえば、長鎖アルキル基を有するカルボン酸のエステル(カルボン酸アルキルエステル)、長鎖アルキル基を有するカルボン酸のエーテル(カルボン酸アルキルエーテル)などがあげられるが、特にカルボン酸アルキルエステルは電気化学的に安定であるため、好ましい。
上記親油性化合物としては、たとえば、オレイン酸ブチル、アジピン酸オクチル、ラウリン酸エチル、フタル酸ジメチル、安息香酸ジエチル、セバシン酸ジ−2−エチルヘキシル、および/またはそれらの類縁化合物などをあげることができる。
また、上記親油性化合物の分子量としては、常温常圧下で液状であれば特に限定されないが、数平均分子量が60以上であることが好ましく、より好ましくは1000以下であり、特に好ましくは200〜600のものであり、300〜500のものがさらに好ましい。数平均分子量が60未満であると、揮発性となり、1000を超えると、常温常圧下で固化してしまう場合があり好ましくない。数平均分子量はGPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)により測定して得られたものをいう。
また、上記親油性化合物の誘電率は、4〜40であるものが好適に用いられ、4.5〜30であるものがより好適に用いられ、5〜20であるものがさらに好適に用いられる。本発明においては、従来高分子アクチュエータ素子への適用が困難であった誘電率が4〜40である親油性化合物を用いることができる。なお、本発明における誘電率は、静電容量方式の測定手法で得られた値をいう。
上記親油性化合物は単独で用いてもよいし、また2種以上を混合して使用してもよいが、配合量としては、電解質全量100重量部に対して、20〜10000重量部であることが好ましく、50〜3000重量部であることがより好ましく、100〜500重量部であることがさらに好ましい。20重量部未満であると粘性が高すぎて内部抵抗が大きくなる場合があり、10000重量部を超えると外添の電解質が存在しない場合には溶液抵抗が大きくなる場合がある。
さらに、上記両親媒性ポリエーテル化合物および親油性化合物を併用する場合、上記両親媒性ポリエーテル化合物および親油性化合物の総配合量としては、電解質全量100重量部に対して、20〜10000重量部であることが好ましく、50〜3000重量部であることがより好ましく、100〜500重量部であることがさらに好ましい。20重量部未満であると粘性が高すぎて内部抵抗が大きくなる場合があり、10000重量部を超えると外添の電解質が存在しない場合には溶液抵抗が大きくなる場合がある。上記両親媒性ポリエーテル化合物および/または親油性化合物を電解質中に含むことにより、上記高分子アクチュエータ素子を密閉しない状態であっても、1日後に(変位・角度)180°以上の屈曲を行うことができる。また、電圧の印加に対する高分子アクチュエータ素子の応答速度(周波数)や変位量をより向上させた駆動が可能となる。なお、本願において、屈曲ないし変位の程度を表す角度(°)は、高分子アクチュエータ素子の先端における屈曲ないし変位凸面の接線方向と重力方向とのなす角(変位角)を測定することにより求められるものである。
また、上記両親媒性ポリエーテル化合物と親油性化合物を併用する場合、上記両親媒性ポリエーテル化合物および親油性化合物の相対量は、両親媒性ポリエーテル化合物:親油性化合物が体積比5:1〜1:5であることが好ましく、体積比3:1〜1:3であることがより好ましく、体積比2:1〜1:2であることがさらに好ましい。前記範囲内にない場合には、内部抵抗が大となり、好ましくない。
また、上記両親媒性ポリエーテル化合物および親油性化合物を併用する場合、上記両親媒性ポリエーテル化合物および親油性化合物の混合溶液の誘電率は、4〜40であるものが好適に用いられ、4.5〜30であるものがより好適に用いられ、5〜20であるものがさらに好適に用いられる。なお、本発明における誘電率は、静電容量方式の測定手法で得られた値をいう。
一方、本発明においては、上記電解質中にさらにイオン性液体を含むことができる。
上記イオン性液体は、常温溶融塩とも呼ばれるものであり、室温(25℃程度)での蒸気圧がほとんどない。そのため、上記高分子電解質が上記ポリエーテル化合物および/またはイオン性液体で膨潤した状態である本発明の高分子アクチュエータ素子は、1ヶ月程度の長期間でも初期とほぼ同等の屈曲または変位をすることができる。
また、上記イオン性液体は、特に限定されないで用いることができる。なかでも、上記イオン性液体が、テトラアルキルアンモニウムイオンや、ジアルキルイミダゾリウムイオン、トリアルキルイミダゾリウムイオンなどのイミダゾリウムイオン、ピロリウムイオン、ピラゾリウムイオン、ピロリニウムイオン、ピロリジニウムイオン、およびピペリジニウムイオンからなる群より少なくとも一種選ばれたカチオンと、PF6 −、BF4 −、AlCl4 −、ClO4 −、および下記式(I)で示されるスルホニウムイミドアニオンからなる群より少なくとも一種選ばれたアニオンとの組合せからなる塩を含むことが好ましい。これらのイオン性液体は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
(CnF(2n+1)SO3)(CmF(2m+1)SO2)N− (I)
[上記式(I)において、nおよびmは任意の整数である。]
上記テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、たとえば、トリメチルプロピルアンモニウム、トリメチルヘキシルアンモニウム、テトラペンチルアンモニウムなどをあげることができる。
上記イミダゾリウムイオンとしては、たとえば、ジアルキルイミダゾリウムイオンおよび/またはトリアルキルイミダゾリウムイオンなどをあげることができる。より具体的には、上記イミダゾリウムイオンとしては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−へキシル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1−メチル−3−エチルイミダゾリウムイオン、1,2,3−トリメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−エチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオンなどをあげることができる。
上記ピリジニウムイオンとしては、たとえば、N−メチルピリジニウムイオン、N−エチルピリジニウムイオン、N−プロピルピリジニウムイオン、N−ブチルピリジニウムイオン、1−エチル−2−メチルピリジニウムイオン、1−ブチル−4−メチルピリジニウムイオン、1−ブチル−2,4−ジメチルビリジニウムイオンなどをあげることができる。
上記ピロリウムイオンとしては、たとえば、1,1−ジメチルピロリウムイオン、1−エチル−1−メチルピロリウムイオン、1−メチル−1−プロピルピロリウムイオン、1−ブチル−1−メチルピロリウムイオンなどをあげることができる。
上記ピラゾリウムイオンとしては、たとえば、1,2−ジメチルピラゾリウムイオン、1−エチル−2−メチルピラゾリウムイオン、1−プロピル−2−メチルピラゾリウムイオン、1−ブチル−2−メチルピラゾリウムイオンなどをあげることができる。
上記ピロリニウムイオンとしては、たとえば、1,2−ジメチルピロリニウムイオン、1−エチル−2−メチルピロリニウムイオン、1−プロピル−2−メチルピロリニウムイオン、1−ブチル−2−メチルピロリニウムイオンなどをあげることができる。
上記ピロリジニウムイオンとしては、たとえば、1,1−ジメチルピロリジニウムイオン、1−エチル−1−メチルピロリジニウムイオン、1−メチル−1−プロピルピロリジニウムイオン、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムイオンなどをあげることができる。
上記ピペリジニウムイオンとしては、たとえば、1,1−ジメチルピペリジニウムイオン、1−エチル−1−メチルピペリジニウムイオン、1−メチル−1−プロピルピペリジニウムイオン、1−ブチル−1−メチルピペリジニウムイオンなどをあげることができる。
上記イオン性液体は、上記アニオンと上記カチオンとの組み合わせが特に限定されるものではないが、たとえば、1−メチル−3−エチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホイミド(EMITFSI)、1−メチル−3−イミダゾリウムテトラフルオロボレート(EMIBF4)、1−メチル−3−イミダゾリウムヘキサフルオロリン酸(EMIPF6)、トリメチルプロピルアンモニウムトリフルオロメタンスルホイミド、1−へキシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−へキシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸、1−へキシル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホイミドなどを用いることができる。
本発明の高分子アクチュエータ素子において、上記高分子電解質が上記両親媒性ポリエーテル化合物、親油性化合物、またはそれらの混合溶液、ならびに上記イオン性液体を含むことにより、上記高分子電解質が上記両親媒性ポリエーテル化合物、親油性化合物、またはそれらの混合溶液、ならびに上記イオン性液体、ならびに上記イオン性液体で膨潤した状態となったゲル電解質とすることができる。上記高分子電解質を用いることにより、大気圧下(常温常圧下もしくは0℃以下)で1ヶ月程度放置しても上記高分子アクチュエータ素子は駆動することができる。さらに、上記両親媒性ポリエーテル化合物、親油性化合物、またはそれらの混合溶液、ならびに上記イオン性液体を含むゲル電解質は可撓性があり高濃度の電解質を保持することが可能であることから、アクチュエータ素子およびキャパシタの電解質として好適である。
上記イオン交換樹脂と上記両親媒性ポリエーテル化合物、親油性化合物、またはそれらの混合溶液、ならびに上記イオン性液体、ならびに上記イオン性液体とを含む高分子電解質は、その製造方法は特に限定されるものではないが、たとえば、上記両親媒性ポリエーテル化合物、親油性化合物、またはそれらの混合溶液、ならびにイオン性液体全体におけるイオン性液体の割合が、0.001〜10,000重量%であるイオン性液体混合溶液に、イオン交換樹脂を浸漬し、室温にて、寸法もしくは重量の変化がなくなるまで放置することにより得ることができる。
一方、本発明の高分子アクチュエータ素子は、金属電極と高分子電解質とを含み、上記金属電極が対を形成することができるように形成され、上記金属電極が電解質と接し、かつ上記電極が上記高分子電解質の表面および内部に形成されたものであって、上記金属電極を複数備えた構造を有している。また、上記高分子アクチュエータ素子は、上記高分子電解質であるイオン交換樹脂層を挟んで両側に電極層を1つずつ備えても良く、両側もしくは片側に電極層を複数備えていてもよい。上記高分子アクチュエータ素子の具体的な構造としては、たとえば、一対の電極層がイオン交換樹脂層を挟んで金属電極対を形成したアクチュエータ素子を用いることもできるし、管状のイオン交換樹脂の外側面および/または内側面の表面上に複数の金属電極を備えていてもよい。
上述の電極層がイオン交換樹脂を挟んで電極対を形成した高分子アクチュエータ素子としては、公知の方法により得ることができる。たとえば、膜状、板状、もしくは管状の形状を有するイオン交換樹脂有体物に無電解メッキ法をすることによって、上記高分子電解質であるイオン交換樹脂有体物表面またはイオン交換樹脂有体物表面から内側の範囲に金属層を形成させ、上記金属層金属を電極層として用いることで、上記高分子アクチュエータ素子である金属−イオン交換樹脂接合体を得ることもできる。また、金属−イオン交換樹脂接合体の形成方法としては、たとえば、WO2005/013299号公報などに記載の手法を適宜採用することができる。
上記無電解メッキ(法)としては、たとえば、イオン交換樹脂を水中に浸漬して膨潤させた状態で、イオン交換樹脂に白金錯体や金錯体等の金属錯体を吸着させる吸着工程を行い、次いで吸着された金属錯体を還元剤により還元させ金属を析出させる還元工程を行い、さらに上記還元工程後に必要に応じて還元剤を洗浄除去する洗浄工程を行ってもよい。
上述の無電解メッキ法では、電極である金属層を通電や屈曲ないし変位に充分な厚さとするために、吸着工程、還元工程および洗浄工程を1サイクルとして繰り返し行うことができる。このようにして得られた高分子アクチュエータ素子は、イオン交換樹脂の内部方向に電極層が成長して電極が形成され、イオン交換樹脂と電極層との界面において、電極層の断面がフラクタル状の構造等を形成しているので、上記電極層と上記イオン交換樹脂層との界面で大きな電気二重層を持つことができる。さらに、上記電極層がイオン交換樹脂層の内部方向にフラクタル状等の構造を形成していることによりアンカー効果が働くため、上記イオン交換樹脂接合体は繰り返し曲げることに対する耐久性を有する。また、上記両親媒性ポリエーテル化合物および/または親油性化合物はその分子構造に起因して誘電率が低く、その特性が内部抵抗成分の増加につながり、ひいては電導度の低下を招いてしまうため、これまで高分子アクチュエータ素子用途に用いることは困難であった。しかしながら、上記両親媒性ポリエーテル化合物、親油性化合物、またはそれらの混合溶液と、上記電解質および上記金属電極とを組み合わせることにより、これらの液体(媒体)と金属電極の特殊な形状、母体高分子の官能基あるいは電解質成分との特異な共同作用などによってはじめて本発明における優れた効果を奏すると推測される。
また、本発明においては、高分子アクチュエータ素子の厚さ方向(電圧の印加がかかる方向)の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した場合、略並行に存在し、対抗して存在する各金属電極の形状、つまり、上記無電解メッキ法によって上記高分子電解質の内部における上記電極の形状が、フラクタル状、半島状、島状、ツララ形状、ポリープ形状、珊瑚状に首状の狭さく部を備えた形状、樹木形状、茸形状、または不定形の少なくともいずれかの形状であることが好ましい。なお、高分子アクチュエータ素子製造中により生じる外側の金属電極とつながっておらず、金属電極を形成しない粒子状の金属部が存在していてもよい。
本発明の高分子アクチュエータ素子の電解質に含まれるイオン交換樹脂は、特に限定されるものではなく、公知のイオン交換樹脂を用いることができる。たとえば、上記イオン交換樹脂として陽イオン交換樹脂を用いる場合には、ポリエチレン、ポリスチレン、フッ素樹脂などにスルホン酸基、カルボキシル基などの親水性官能基を導入したものを用いることができる。このような樹脂としては.たとえばパーフルオロスルホン酸樹脂(商品名「Nafion」、DuPont社製)、パーフルオロカルボン酸樹脂(商品名「フレミオン」、旭硝子社製)、ACIPLEX(旭化成工業社製)、NEOSEPTA(トクヤマ社製)などを用いることができる。これらのイオン交換樹脂は単独で使用してもよく、また2種以上を併せて使用してもよい。
また、上記イオン交換樹脂の厚み(膨潤時)は、通常0.01〜10mmで用いられるが、0.02〜5mmであることがより好ましく、0.05〜1mmであることがさらに好ましい。上記イオン交換樹脂の厚みが10mm以上となると電極間の距離が広がりすぎてしまう場合があり好ましくない。
また、上述の無電解メッキ法の吸着工程に用いられる金属錯体溶液は、還元により形成される金属層が電極層として機能することができる金属の錯体を含むものであれば、特に限定されない。
上記金属錯体としては、イオン化傾向の小さい金属が電気化学的に安定であることから、金錯体、白金錯体、パラジウム錯体、ロジウム錯体、またはルテニウム錯体等の金属錯体を使用することが好ましい。また、析出した金属が電極として使用されるため、通電性が良好で電気化学的な安定性に富んだ貴金属からなる金属錯体が好ましく、さらに電気分解が比較的起こりにくい金からなる金錯体がより好ましい。
また、上記金属錯体溶液に用いられる溶媒は特に限定されるものではないが、金属塩(金属錯体)の溶解が容易であってかつ取り扱いが容易であることから、上記溶媒として水を主成分とすることが好ましい。より具体的には、上記金属錯体溶液としては、金属錯体水溶液であることが好ましく、特に金錯体水溶液または白金錯体水溶液であることがより好ましく、金錯体水溶液がさらに好ましい。
上述の無電解メッキ法の還元工程に用いられる還元剤としては、イオン交換樹脂に吸着される金属錯体溶液に使用される金属錯体の種類に応じて、その種類を適宜選択して使用することができる。上記還元剤としては、たとえば、亜硫酸ナトリウム、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム等を用いることができる。これらの還元剤は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
また、上記還元剤は析出させる金属種によって、適宜選択することもできる。還元により析出させる金属がニッケルまたはコバルトの場合には、還元剤として、たとえば、ホスフィン酸ナトリウム、ジメチルアミノボラン、ヒドラジン、テトラヒドロホウ酸カリウムなどを用いることができる。還元により析出させる金属がパラジウムの場合には、還元剤として、たとえば、ホスフィン酸ナトリウム、ホスホン酸ナトリウム、テトラヒドロホウ酸カリウムなどを用いることができる。還元により析出させる金属が銅の場合には、還元剤として、たとえば、ホルマリン、ホスホン酸ナトリウム、テトラヒドロホウ酸カリウムなどを用いることができる。還元により析出させる金属が銀または金の場合には、還元剤として、たとえば、ジメチルアミノボラン、テトラヒドロホウ酸カリウムなどを用いることができる。還元により析出させる金属が白金の場合には、還元剤として、たとえば、ヒドラジン、テトラヒドロホウ酸ナトリウムなどを用いることができる。還元により析出させる金属が錫の場合には、還元剤として、たとえば、三塩化チタンを用いることができる。さらに、還元剤は、上記の種類に限られるものではなく、白金黒などの触媒と共に用いられる水素、HgS、HIやI−などの非金属の酸またはイオン、Na(H2PO2)やNa2S2O3などの低級酸素酸塩、COやSO2などの低級酸化物、Li、Na、Cu、Mg、Zn、Fe、Fe(II)、Sn(II)、Ti(III)、Cr(II)などのイオン化傾向の大きい金属またはそれらのアマルガムおよび低原子価金属塩、AlH〔(CH3)2CHCH2〕2や水素化リチウムアルミニウムなどの水素化物、ジイミド、ギ酸、アルデヒド、糖類およびL−アスコルビン酸などを適宜用いることもできる。
上記還元剤は、上述のように還元される金属種に応じて適宜選択することもできるが、さらにはメッキの成長速度、析出した金属の粒子サイズ、フラクタル構造の金属電極とイオン交換樹脂の接触面積、電極構造ならびにメッキ後の樹脂の可撓性を調製するために、適宜還元剤の種類を選択して用いることができる。また、還元工程における還元浴を好ましいpHとするために、上記還元剤の種類を適宜選択してもよい。
また、上記還元剤溶液の濃度は、金属錯体の還元により析出させる金属量を得ることができるのに十分な量の還元剤を含んでいれば特に限定されるものではないが、通常の無電解メッキ法により金属電極を形成する場合に用いられる金属塩溶液と同等の濃度を用いることも可能である。また、還元剤溶液中にはイオン交換樹脂の良溶媒を含むことができる。さらには、金属錯体を還元する際に、必要に応じて酸またはアルカリを添加してもよい。
本発明の高分子アクチュエータ素子は、対を形成することができるように形成された金属電極と接する電解質の内部に溶媒と塩とを含むものである。上記高分子アクチュエータ素子が屈曲ないし変位をすることができるように、上記高分子アクチュエータ素子は柔軟性が有ることが好ましい。本発明においては、上記柔軟性を得るために、上記イオン交換樹脂が常温常圧で液状の上記両親媒性ポリエーテル化合物、親油性化合物、またはそれらの混合溶液により膨潤した状態であることが必要である。
上記膨潤の程度(膨潤度)については、特に限定されるものではないが、上記高分子アクチュエータ素子の膨潤度は、3〜200%であることが好ましく、5〜100%であることがより好ましく、10〜60%であることがさらに好ましい。上記膨潤度が3%未満である場合には、変位屈曲性能が劣る場合がある。一方、上記膨潤度が200%よりも大きい場合にも、変位屈曲性能が劣り、さらには大きく引張り強度が低下する場合がある。なお、上記両親媒性ポリエーテル化合物、親油性化合物、またはそれらの混合溶液は電解質中に含まれるが、電極層が多孔性の電極である場合には、上記溶媒の一部が塩とともに、上記金属電極層に含まれてもよい。
また、上記電解質はイオン交換樹脂層を上記両親媒性ポリエーテル化合物、親油性化合物、またはそれらの混合溶液の液中に浸漬することや、上記溶液をさらに加熱して浸漬することなどにより得ることができる。たとえば、上記高分子アクチュエータ素子がイオン交換樹脂に無電解メッキ法を施すことにより金属電極が形成された素子である場合には、上記イオン交換樹脂を上記両親媒性ポリエーテル化合物、親油性化合物、またはそれらの混合溶液の液中に直接浸漬する手法や溶媒置換する手法などにより、イオン交換樹脂が上記有機化合物により膨潤した状態の素子を得ることができる。
上記両親媒性ポリエーテル化合物、親油性化合物、またはそれらの混合溶液には、両親媒性ポリエーテル化合物および親油性化合物以外の成分が溶媒として含まれていてもよい。上記両親媒性ポリエーテル化合物および親油性化合物以外の成分を含む上記溶液としては、上記両親媒性ポリエーテル化合物および親油性化合物以外の有機溶媒または水等と適宜混合したものがあげられる。上記両親媒性ポリエーテル化合物および/または親油性化合物と混合する溶媒は特に限定されないが、常温常圧下で経時的に揮発しにくい溶媒が好ましい。なかでも、両親媒性ポリエーテル化合物および/または親油性化合物と混合する溶媒としては、親水性ポリエーテル化合物が好ましい。また、たとえば、水等の常温常圧下で経時的に揮発しやすい溶媒を混合溶媒として用いた場合であっても、上記水等の溶媒が揮発後も上記両親媒性ポリエーテル化合物および/または親油性化合物が電解質中の媒体(溶媒)として残存して、電解質媒として機能しうることから、常温常圧の開放系に長時間放置してもその後の初期の屈曲量または変位量とほぼ同等を示すことができると推測される。
親水性ポリエーテル化合物としては、たとえば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール)などのポリアルキレングリコール、ポリオキシエチレンラウリル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンメチルグルコシド、ポリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサエート、テトラエチレングリコールジ−2−エチルヘキサエート、ポリエーテルオールのエステル化合物、グリセロールカーボネートおよびこれらの類縁体があげられる。なかでも特に、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセロールカーボネートおよび/またはそれらの類縁化合物などを用いることが好ましい。
なお、本発明においては、上記親水性ポリエーテル化合物とは、常温常圧下で液状であって、水に溶ける有機化合物をいい、より具体的には水に対して1.0重量%以上の濃度で溶解できるものをいい、10重量%以上の濃度で溶解できるものが好ましい。
また、上記両親媒性ポリエーテル化合物および親油性化合物以外の成分を含む上記溶液を用いる場合には、上記溶液中において上記両親媒性ポリエーテル化合物および/または親油性化合物の総合計量が5〜95重量%であることが好ましく、10〜75重量%含まれることがより好ましく、20〜50重量%含まれることがさらに好ましい。
さらに、上記溶媒置換する手法としては、たとえば、あらかじめ膨潤用溶媒でイオン交換樹脂を膨潤させ、次いで上記両親媒性ポリエーテル化合物、親油性化合物、またはそれらの混合溶液を置換させる手法があり、上記方法により本発明の電解質を得ることができる。また、上記膨潤用溶媒として用いた上記両親媒性ポリエーテル化合物、親油性化合物、またはそれらの混合溶液を素子内に残存させそのまま使用してもよい。この手法は上記両親媒性ポリエーテル化合物、親油性化合物、またはそれらの混合溶液の液中においても上記イオン交換樹脂が膨潤しない場合などに用いることが好ましい。なお、上記膨潤用溶媒は、イオン交換樹脂を膨潤させることが可能であり、次いで上記両親媒性ポリエーテル化合物、親油性化合物、またはそれらの混合溶液と置換が可能な溶媒であれば特に限定されない。また、本発明においては、上述の膨潤には無限膨潤を含まない。
上記電解質の内部に含まれる塩は、上記の常温常圧で液状の上記両親媒性ポリエーテル化合物、親油性化合物、またはそれらの混合溶液に溶解できるものであれば特に限定されるものではない。上記高分子電解質がカチオンと対イオンを形成する場合には、1〜3価のカチオンの塩を用いることができ、なかでも、Na+、K+、Li+等の1価のカチオンを用いることが大きな屈曲もしくは変位をすることができるため好ましい。また、特に上記カチオンの塩を用いる場合、イオン半径の大きなアルキルアンモニウムイオンを用いることが、より大きな屈曲もしくは変位を可能としうるため、より好ましい。
上記アルキルアンモニウムイオンとしては、CH3N+CH3、C2H5N+H3、(CH3)2N+H2、(C2H5)2N+H2、(CH3)3N+H、(C2H5)3N+H、(CH3)4N+、(C2H5)4N+、(C3H7)4N+、(C4H9)4N+、H3N+(CH2)4N+H3、CH2=CHCH2N+HCH3、H3N+(CH2)4N+H2(CH2)4N+H3、CH≡CCH2N+H2、CH3CH(OH)CH2N+H3、H3N+(CH2)5OH、H3N+CH(CH2OH)2、(HOCH2)2C(CH2N+H3)2、C2H5OCH2CH2N+H3、およびその他脂肪族炭化水素を置換基として備えるアンモニウムイオン、ならびに脂環式の環状炭化水素をも有するアンモニウムイオン等をあげることができる。これらのイオンは単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
上記塩としては、たとえば、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウム酢酸塩、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどをあげることができる。これらの化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
また、上記塩の含有濃度としては、イオン交換樹脂の官能基と等量以上の濃度として含まれていれば特に限定されないが、より十分な屈曲ないし変位を得るためには、0.01〜1000mol/lであることが好ましく、0.1〜100mol/lであることがより好ましく、1.00〜50mol/lであることがさらに好ましい。なお、イオン性液体を用いる場合には、上記塩を用いなくてもよいが、適宜併用してもよい。
本発明の高分子アクチュエータ素子は、上記両親媒性ポリエーテル化合物、親油性化合物、またはそれらの混合溶液を含むため、樹脂等による被覆なしに長期間駆動することができるが、さらに可撓性を有する樹脂で電解質等が被覆されてもよい。
上記可撓性を有する樹脂としては、特に限定されるものではないが、たとえば、ポリウレタン樹脂および/またはシリコーン樹脂をあげることができる。
上記ポリウレタン樹脂としては、たとえば、柔軟度が大きく密着性が良好であるため、柔軟性(柔軟度)の高い熱可塑性ポリウレタンが特に好ましい。上記熱可塑性ポリウレタンとしては、商品名「アサフレックス825」(柔軟度200%、旭化成社製)、商品名「ペレセン 2363−80A」(柔軟度550%)、「ペレセン 2363−80AE」(柔軟度650%)、「ペレセン 2363−90A」(柔軟度500%)、「ペレセン 2363−90AE」(柔軟度550%)(以上、ダウ・ケミカル社製)を用いることができる。
上記シリコーン樹脂は、たとえば、柔軟度が50%以上である樹脂が、柔軟度が大きいので密着性が良好であり特に好ましい。上記シリコーン樹脂としては、たとえば、「シラシール3FW」、「シラシールDC738RTV」、「DC3145」、および「DC3140」(以上、ダウコーニング社製)などを用いることができる。
なお、本発明における柔軟度とは、ASTM D412に準拠して測定された引張破断伸び(Ultimate Elongation%)をいう。
また、上記高分子アクチュエータ素子の膨潤時の厚みは、通常0.01〜10mmで用いられるが、0.02〜5mmであることがより好ましく、0.05〜1mmであることがさらに好ましい。上記高分子アクチュエータ素子の厚みが10mm以上となると著しく性能が低下してしまう場合があり好ましくない。
本発明における高分子アクチュエータ素子は上述のような構成を有するものである。
他方、本発明における駆動方法は、上述の高分子アクチュエータ素子に印加して駆動させるものである。本発明の高分子アクチュエータ素子は、上述のような構成を有するので、変位を生じさせるために正または負に3.0Vより高い電圧を印加した場合であっても気泡を発生することなく、さらには電解質媒の蒸発が生じにくいので、樹脂による被覆なしに1週間以上、さらには1ヶ月以上、初期の屈曲量または変位量とほぼ同等の駆動を可能とするものである。また、正または負に3.0Vより高い電圧を金属電極に印加させることにより、電圧の印加に対する高分子アクチュエータ素子の応答速度(周波数)や変位量をより向上させた駆動を可能とするものである。
上記高分子アクチュエータ素子は、その厚みが0.1mm〜1mm程度である場合には、通常0.5〜50Vの電圧を印加することで駆動させることができるが、1〜20Vであることが好ましく、2〜9Vであることがより好ましい。本発明の高分子アクチュエータ素子を用いることにより、従来困難であった6V以上の印加により、駆動が可能となった。
また、上記高分子アクチュエータ素子にたとえば左右に往復する等の連続的な変位運動をさせる場合には、0.01〜10kHz周期で各金属電極に反対電圧が印加されるようにすることが好ましく、0.2〜5kHz周期であることがより好ましい。本発明の高分子アクチュエータ素子を用いることにより、従来困難であった1kHz周期の駆動が可能となった。
本発明の高分子アクチュエータ素子は、たとえば、OA機器、アンテナ、ベッドや椅子等の人を乗せる装置、医療機器、エンジン、光学機器、固定具、サイドトリマ、車両、昇降機械、食品加工装置、清掃装置、測定機器、検査機器、制御機器、工作機械、加工機械、電子機器、電子顕微鏡、電気剃刀、電動歯ブラシ、マニピュレータ、マスト、遊戯装置、アミューズメント機器、乗車用シミュレーション装置、車両乗員の押さえ装置および航空機用付属装備展張装置において、直線的な駆動力を発生する駆動部もしくは円弧部からなるトラック型の軌道を移動するための駆動力を発生する駆動部、直線的な動作もしくは曲線的な動作をする押圧部として好適に用いることができる。
また、本発明の高分子アクチュエータ素子は、たとえば、OA機器や測定機器等の上記機器等を含む機械全般に用いられる弁、ブレーキ、またはロック装置等において、直線的な駆動力を発生する駆動部、円弧部からなるトラック型の軌道を移動するための駆動力を発生する駆動部、または直線的な動作をする押圧部などとして用いることができる。
さらには、上記の装置、機器、器械等以外として、機械機器類全般において、位置決め装置の駆動部、姿勢制御装置の駆動部、昇降装置の駆動部、搬送装置の駆動部、移動装置の駆動部、量や方向等の調節装置の駆動部、軸等の調整装置の駆動部、誘導装置の駆動部、または押圧装置の押圧部などとして好適に用いることができる。
また、本発明の高分子アクチュエータ素子は、回転的な運動をすることができるので、たとえば、切替え装置の駆動部、搬送物等の反転装置の駆動部、ワイヤ一等の巻取り装置の駆動部、牽引装置の駆動部、または首振り等の左右方向への旋回装置の駆動部などとしても用いることができる。
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。
〔実施例1〕
(イオン交換樹脂膜(a)の調製)
イオン交換樹脂膜(フッ素樹脂系イオン交換樹脂:パーフルオロカルボン酸樹脂、旭硝子社製、フレミオン、乾燥時の膜厚:0.14mm、イオン交換容量:1.4meq/g)を用いて下記(1)〜(3)の工程を1サイクル行い、イオン交換樹脂を挟んで形成された一対の金属電極を備えたイオン交換樹脂膜(a)を得た。
(1)吸着工程:ジクロロフフェナントロリン金塩化物水溶液に12時間浸漬し、上記イオン交換樹脂膜内にジクロロフェナントロリン金錯体を吸着させた。
(2)還元工程:亜硫酸ナトリウムを含む水溶液中で.吸着したジクロロフェナントロリン金錯体を還元し、上記膜状高分子電解質(イオン交換樹脂膜)に金電極を形成させた。このとき、水溶液の温度を室温〜80℃とし、亜硫酸ナトリウムを徐々に添加しながら、6時間ジクロロフェナントリン金錯体の還元処理を行った。
(3)洗浄工程:表面に金電極が形成した膜状高分子電解質(イオン交換樹脂膜)を取り出し、70℃の水で1時間洗浄した。上記無電解メッキ法により一対の金属電極が形成されたイオン交換樹脂膜(a)を長さ22mm、幅1.5mmのサイズに切断した。
(高分子アクチュエータ素子の作製)
上記イオン交換樹脂膜(a)を0.2mol/lのテトラエチルアンモニウムクロリド水溶液に浸漬し、水で洗浄し、次いで乾燥させた後に、膨潤度が約35%となるようにポリエチレングリコールモノオレエート(2E.O.、株式会社ワコーケミカル製、SP値:9.4)およびアジピン酸ジ−2−エチルヘキシル(SP値:8.6)を体積比1:2で混合した溶液に、50℃で12時間浸漬した後、乾燥し、実施例1の高分子アクチュエータ素子を得た。なお、SP値は溶解度パラメータを意味する。
〔実施例2〕
(高分子アクチュエータ素子の作製)
上記(1)〜(3)の工程を2サイクル繰り返したこと以外は実施例1と同様の手法で作成したイオン交換樹脂膜(b)を0.2mol/lのエチルメチルイミダゾリルフルオロボレートに浸漬し、次いで乾燥させた後に、膨潤度が約25%となるようにポリエチレングリコールモノオレエート(SP値:9.4)を含む溶液に、50℃で0.5時間浸漬した後、乾燥し、実施例2の高分子アクチュエータ素子を得た。
〔実施例3〕
(高分子アクチュエータ素子の作製)
上記イオン交換樹脂膜(b)を0.2mol/lのテトラメチルアンモニウムクロライドに浸漬し、次いで洗浄、乾燥させた後に、膨潤度が約20%となるようにポリエチレングリコールモノオレエートに、50℃で12時間浸漬した後、乾燥し、実施例3の高分子アクチュエータ素子を得た。
〔実施例4〕
(高分子アクチュエータ素子の作製)
上記イオン交換樹脂膜(a)を0.2mol/lのテトラメチルアンモニウムクロライド塩の水溶液に浸漬して洗浄し、次いで乾燥させた後に、膨潤度が約35%となるようにグリセロールカーボネート(SP値:11.36)およびジエチレングリコールモノブチルエーテル(SP値:10.51)を体積比3:1で混合した溶液に50℃で3時間浸漬した後、乾燥し、実施例4の高分子アクチュエータ素子を得た。
〔比較例1〕
(高分子アクチュエータ素子の作製)
上記イオン交換樹脂膜(a)を0.2mol/lのテトラエチルアンモニウムクロライド塩の水溶液に浸漬し、次いで乾燥させた後に、膨潤度が約25%となるように50℃で2時間浸漬し、乾燥した後、比較例1の高分子アクチュエータ素子を得た。
〔比較例2〕
(高分子アクチュエータ素子の作製)
上記イオン交換樹脂膜(a)を0.2mol/lのテトラエチルアンモニウムクロライド塩の水溶液に浸漬し、次いで乾燥させた後に、膨潤度が約25%となるようにプロピレンカーボネート(SP値:8.1)に、50℃で2時間浸漬し、乾燥した後、比較例2の高分子アクチュエータ素子を得た。
〔比較例3〕
(高分子アクチュエータ素子の作製)
上記イオン交換樹脂膜(a)を1.0mol/lのテトラフルオロスルフォニルイミドのリチウム塩(LiTFSI)の溶液に浸漬し、次いで乾燥させた後に、膨潤度が約10%となるようにジエチレングリコール(SP値:9.92)に40℃で24時間浸漬し、乾燥した後、比較例3の高分子アクチュエータ素子を得た。
<耐電圧の測定>
下記の方法により作製した高分子アクチュエータ素子の耐電圧(V)をサイクリックボルタモグラム(CV)により測定した。
各高分子アクチュエータ素子を長さ15mm、幅15mmの大きさとし、10mV/secの掃引速度で印加電圧を変化させた時の電流値を測定し、横軸に電圧、縦軸に電流密度をプロットしてCVを得た。得られたCVのデータを用い、電流値の急激な立ち上がりを示す電位の差を求める(電位窓を調べる)ことにより、耐電圧を求めた。
<変位角の測定>
作製した各高分子アクチュエータ素子について、一方の端部から2mm内側の位置において、一対の金属電極のそれぞれに通電できるように、白金端子にて高分子アクチュエータ素子の厚さ方向に挟み、膜面が重力方向と平行になるように握持した。
次に、ポテンショスタッタト(DCモード、ボテンショ・ガルバノースタツト HA−501、北斗電工社製)を用いて一対の金属電極の一方が正極、もう一方が負極となるようにして、耐電圧以下の電圧(表1の耐電圧より0.3V低い電圧)を印加し、次いで1.0Hz周期で各金属電極に反対電圧が印加されるように電圧を印加し左右に往復する変位運動をさせた。
この往復変位運動の3往復目における屈曲ないし変位した状態での高分子アクチュエータ素子の先端の変位凸面の接線方向と重力方向とのなす角を右側変位、左側変位とも測定し、これを平均して変位角とした。
また、各高分子アクチュエータ素子について、白金端子による握持したときから、1分後、1時間後、1日後、1週間後、および1ヶ月(30日)後のそれぞれにおいて上記測定を実施した。さらに、上記測定を25℃×20%RH、25℃×80%RH、および−10℃(湿度フリー)の雰囲気下でそれぞれ行った。
上記方法に従い、作製した高分子アクチュエータ素子の耐電圧、変位量(伸縮率)、応答速度(周波数)、変位角およびその経時変化の測定を行った。得られた結果を表1に示す。
上記表1の結果より、本発明によって作製された高分子アクチュエータ素子を用いたいずれの実施例においても、常温常圧の開放系に1ヶ月(30日)放置しても、初期の屈曲量または変位量とほぼ同等の値を示すことができることがわかった。また、本発明の高分子アクチュエータ素子を用いた場合、正または負の各々3V以上の電圧の印加(耐電圧6V以上)が可能となり、さらには上記高分子アクチュエータ素子がより高速に駆動することが可能となった。
これに対して、水を電解質媒として用いた場合(比較例1)、1時間後に変位量が大きく低下し、1.8V以上の電圧の印加もできなかった(耐電圧6.0V未満)。また、上記溶媒に代えてプロピレンカーボネート、ジエチレングリコールを電解質媒として用いた場合(比較例2、3)、5.0V以上の電圧の印加ができなかった(耐電圧6.0V未満)。したがって、いずれの比較例においても、本発明の高分子アクチュエータ素子を用いた場合に比較して常温常圧および0℃以下の開放系での変位量の維持(耐久性)に劣り、さらに6.0V以上の耐電圧の印加ができないことが明らかとなった。
以上により、本発明の高分子アクチュエータ素子は、常温常圧もしくは0℃以下の開放系であっても長期間駆動することができ、また、従来よりも高耐電圧化(6.0V以上)が可能な高分子アクチュエータ素子となることが分かる。