JP2010036867A - 車両用動力伝達装置の制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】エンジンと、電気式差動部と、前記駆動輪に動力伝達可能に連結された第2電動機とを、備えた車両用動力伝達装置の制御装置において、電気走行中に機械式動力伝達部に滑りが発生したとき、車両の走行を可能にする車両用動力伝達装置の制御装置を提供する。
【解決手段】モータ走行(電気走行)中に、油圧系部品の故障に起因して自動変速機20に滑りが発生した場合、動力分配機構16の入力軸14に動力伝達可能に連結された第3電動機M3によってエンジン8を始動させるエンジン始動手段90を備えるため、例えば油圧系部品の故障が電動オイルポンプ74であった場合、エンジン8を始動させるに伴って機械式オイルポンプ72が起動されて、自動変速機20に必要な油圧を供給することができる。これにより、自動変速機20が動力伝達可能状態となるので、車両の走行が可能となる。
【選択図】図7
【解決手段】モータ走行(電気走行)中に、油圧系部品の故障に起因して自動変速機20に滑りが発生した場合、動力分配機構16の入力軸14に動力伝達可能に連結された第3電動機M3によってエンジン8を始動させるエンジン始動手段90を備えるため、例えば油圧系部品の故障が電動オイルポンプ74であった場合、エンジン8を始動させるに伴って機械式オイルポンプ72が起動されて、自動変速機20に必要な油圧を供給することができる。これにより、自動変速機20が動力伝達可能状態となるので、車両の走行が可能となる。
【選択図】図7
Description
本発明は、車両用動力伝達装置の制御装置に係り、特に、電動機によって差動状態が制御される電気式差動部を備える車両用動力伝達装置の制御装置に関するものである。
エンジンと駆動輪との間に連結された差動機構と、その差動機構に動力伝達可能に連結された第1電動機とを有し、その第1電動機の運転状態が制御されることによりその差動機構の差動状態が制御される電気式差動部と、前記駆動輪に動力伝達可能に連結された第2電動機と、油圧によって動力伝達状態が制御される機械式動力伝達部とを、備えた車両用動力伝達装置が従来からよく知られている。この車両用動力伝達装置は、ハイブリッド車両に好適に用いられ、例えば、特許文献1の車両用動力伝達装置がその一例である。
上記特許文献1をはじめとするハイブリッド車両では、エンジン効率が比較的低下するとされる低車速、低負荷走行領域において、電動機による電気走行が実行される。このとき、エンジンは通常停止されるので、エンジンによって駆動される機械式オイルポンプに代わって、電動オイルポンプが駆動される。これにより、エンジンが停止されても油圧を発生させることが可能となり、変速機などの機械式動力伝達部に走行状態に応じた必要な油圧が供給されることとなる。
ところで、例えば電動走行中に電動オイルポンプが故障するなどして機械式動力伝達部に必要な油圧が供給されなくなると、機械式動力伝達部に滑りが発生すると共に、機械式動力伝達部が動力伝達不能となり、車両の走行が困難となる可能性があった。
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、エンジンと、電気式差動部と、前記駆動輪に動力伝達可能に連結された第2電動機と、油圧によって動力伝達状態が制御される機械式動力伝達部とを、備えた車両用動力伝達装置の制御装置において、電気走行中に機械式動力伝達部に滑りが発生したとき、車両の走行を可能にする車両用動力伝達装置の制御装置を提供することにある。
上記目的を達成するための、請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(a)エンジンと駆動輪との間に連結された差動機構と、その差動機構に動力伝達可能に連結された第1電動機とを有し、その第1電動機の運転状態が制御されることにより、その差動機構の前記エンジンに連結された入力軸の回転速度および出力軸の回転速度の差動状態が制御される電気式差動部と、前記駆動輪に動力伝達可能に連結された第2電動機と、電動オイルポンプおよび前記エンジンにより駆動される機械式オイルポンプによって発生させられる油圧を元圧とする油圧によって動力伝達状態が制御される機械式動力伝達部とを備えた車両用動力伝達装置の制御装置において、(b)電気走行中において、油圧系部品の故障に起因して前記機械式動力伝達部に滑りが発生した場合、前記差動機構の入力軸に動力伝達可能に連結された第3電動機によって前記エンジンを始動させるエンジン始動手段を備えることを特徴とする。
また、請求項2にかかる発明の要旨とするところは、請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記滑りの発生は、前記機械式動力伝達部の機械的に設定された変速比とその機械式動力伝達部の出力軸回転速度とから算出される機械式動力伝達部の入力軸回転速度と、実際の入力軸回転速度との偏差に基づいて判定されることを特徴とする。
また、請求項3にかかる発明の要旨とするところは、請求項1または2の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記機械式動力伝達部は有段変速機であることを特徴とする。
請求項1にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、電気走行中に、油圧系部品の故障に起因して前記機械式動力伝達部に滑りが発生した場合、前記差動機構の入力軸に動力伝達可能に連結された第3電動機によって前記エンジンを始動させるエンジン始動手段を備えるため、例えば油圧系部品の故障が電動オイルポンプであった場合、エンジンを始動させるに伴って機械式オイルポンプが起動されて、機械式動力伝達部に必要な油圧を供給することができる。これにより、機械式動力伝達部が動力伝達可能状態となるので、車両の走行が可能となる。
また、第2電動機が機械式動力伝達部を介して電気式差動部に連結されている場合、機械式動力伝達部のトルク容量の低下によって、第2電動機の動力が電気式差動部に伝達できなくなり、第2電動機の駆動を伴うエンジン始動が不可能となるが、エンジンに動力伝達可能に連結された第3電動機によってエンジンを始動させるため、第2電動機が動力伝達不能となってもエンジン始動を実施することができる。
また、請求項2にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記滑りの発生は、前記機械式動力伝達部の機械的に設定された変速比とその機械式動力伝達部の出力軸回転速度とから算出される機械式動力伝達部の入力軸回転速度と、実際の入力軸回転速度との偏差に基づいて判定される。このようにすれば、機械式動力伝達部に発生した滑りを容易に判断することができる。
また、請求項3にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記機械式動力伝達部は有段変速機であるため、有段変速機の変速段に応じて予め機械的に設定された変速比に基づいて偏差を算出することができる。
ここで、好適には、エンジンが始動される伴って機械式オイルポンプが駆動されることで、機械式動力伝達部の滑りがなくなる場合、エンジンの間欠運転を禁止し、エンジンの駆動を継続させるものである。このようにすれば、機械式動力伝達部に必要な油圧が常時供給されるので、通常の走行が可能となる。
また、好適には、エンジンが始動されることで機械式オイルポンプが起動されても機械式動力伝達部の滑りがなくならない場合、言い換えれば、電動オイルポンプ以外の油圧系部品の故障により油圧が供給されない場合、エンジンの駆動力制限を実施するものである。このようにすれば、機械式動力伝達部へ入力される入力トルクに対する機械式動力伝達部のトルク容量不足に伴う滑りの増大を抑制することができ、機械式動力伝達部の耐久性低下を抑制することができる。
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明の制御装置が適用される車両用動力伝達装置10(以下、「動力伝達装置10」と表す)を説明する骨子図であり、この動力伝達装置10はハイブリッド車両に好適に用いられる。図1において、動力伝達装置10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、「ケース12」と表す)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介して間接に連結された無段変速部としての差動部11(電気式差動部)と、その差動部11と駆動輪34(図7参照)との間の動力伝達経路で伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている機械式動力伝達部としての自動変速部20と、この自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この動力伝達装置10は、例えば車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の駆動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪34との間に設けられて、エンジン8からの動力を動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)32(図7参照)および一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪34へ伝達する。
このように、本実施例の動力伝達装置10においてはエンジン8と差動部11とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパーなどを介する連結はこの直結に含まれる。なお、動力伝達装置10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。以下の各実施例についても同様である。
本発明の電気式差動部に対応する差動部11は、動力分配機構16の差動状態を制御するための差動用電動機として機能する第1電動機M1と、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構であってエンジン8の出力を第1電動機M1および伝達部材18に分配する差動機構としての動力分配機構16と、伝達部材18と一体的に回転するように作動的に連結されている第2電動機M2と、入力軸14を介しエンジン8に連結されたエンジン連結電動機である第3電動機M3とを備えている。本実施例の第1電動機M1、第2電動機M2および第3電動機M3は発電機能をも有する所謂モータジェネレータであるが、第1電動機M1および第3電動機M3は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2は走行用の駆動力源として
駆動力を出力する走行用電動機として機能するためモータ(電動機)機能を少なくとも備える。また、第1電動機M1、第2電動機M2および第3電動機M3は、動力伝達装置10の筐体であるケース12内に備えられ、動力伝達装置10の作動流体である自動変速部20の作動油により冷却される。なお、本実施例では図1のように第3電動機M3はエンジン8に直結されているが、両者が同軸に配置される必要はなく両者の連結関係はこれに限定されるものではない。また、第3電動機M3はエンジン8に入力軸14を介して連結されているが、省スペース化のため第3電動機M3がエンジン8に付属し両者が一体的に構成されていてもよい。
駆動力を出力する走行用電動機として機能するためモータ(電動機)機能を少なくとも備える。また、第1電動機M1、第2電動機M2および第3電動機M3は、動力伝達装置10の筐体であるケース12内に備えられ、動力伝達装置10の作動流体である自動変速部20の作動油により冷却される。なお、本実施例では図1のように第3電動機M3はエンジン8に直結されているが、両者が同軸に配置される必要はなく両者の連結関係はこれに限定されるものではない。また、第3電動機M3はエンジン8に入力軸14を介して連結されているが、省スペース化のため第3電動機M3がエンジン8に付属し両者が一体的に構成されていてもよい。
本発明の差動機構に対応する動力分配機構16は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ0を有するシングルピニオン型の差動部遊星歯車装置24を主体として構成されている。この差動部遊星歯車装置24は、差動部サンギヤS0、差動部遊星歯車P0、その差動部遊星歯車P0を自転および公転可能に支持する差動部キャリヤCA0、差動部遊星歯車P0を介して差動部サンギヤS0と噛み合う差動部リングギヤR0を回転要素(要素)として備えている。差動部サンギヤS0の歯数をZS0、差動部リングギヤR0の歯数をZR0とすると、上記ギヤ比ρ0はZS0/ZR0である。
この動力分配機構16においては、差動部キャリヤCA0は入力軸14すなわちエンジン8および第3電動機M3に連結され、差動部サンギヤS0は第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0は伝達部材18に連結されている。このように構成された動力分配機構16は、差動部遊星歯車装置24の3要素である差動部サンギヤS0、差動部キャリヤCA0、差動部リングギヤR0がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動状態とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されるとともに、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、差動部11(動力分配機構16)は電気的な差動装置として機能させられて例えば差動部11は所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、差動部11はその変速比γ0(入力軸14の回転速度NIN/伝達部材18の回転速度N18)が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する。このように、動力分配機構16(差動部11)に動力伝達可能に連結された第1電動機M1及び第2電動機M2の一方または両方の運転状態が制御されることにより、動力分配機構16の差動状態、すなわち入力軸14の回転速度と伝達部材18の回転速度の差動状態が制御される。
自動変速部20は、差動部11から駆動輪34への動力伝達経路の一部を構成しており、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置28、およびシングルピニオン型の第3遊星歯車装置30を備え、有段式の自動変速機として機能する遊星歯車式の多段変速機(有段変速機)である。第1遊星歯車装置26は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ1を有している。第2遊星歯車装置28は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第3遊星歯車装置30は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転および公転可能に支持する第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1、第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3である。なお、自動変速部20が、本発明の機械式動力伝達部、並びに有段変速機に対応している。
自動変速部20では、第1サンギヤS1と第2サンギヤS2とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第1キャリヤCA1は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第3リングギヤR3は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第1リングギヤR1と第2キャリヤCA2と第3キャリヤCA3とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
このように、自動変速部20内と差動部11(伝達部材18)とは自動変速部20の変速段を成立させるために用いられる第1クラッチC1または第2クラッチC2を介して選択的に連結されている。言い換えれば、第1クラッチC1および第2クラッチC2は、動力分配機構16(差動部11)と駆動輪34との間の動力伝達経路の一部に設けられた動力伝達を選択的に遮断可能な係合装置であり、すなわち、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、その動力伝達経路の動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態とに選択的に切り換える係合装置として機能している。つまり、第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとの一方が係合されることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、或いは第1クラッチC1および第2クラッチC2が解放されることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
また、この自動変速部20は、解放側係合装置の解放と係合側係合装置の係合とによりクラッチツウクラッチ変速が実行されて各ギヤ段(変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する変速比γ(=伝達部材18の回転速度N18/出力軸22の回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られる。例えば、図2の係合作動表に示されるように、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により変速比γ1が最大値例えば「3.357」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.180」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.424」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第4速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2および第3ブレーキB3の係合により変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「3.209」程度である後進ギヤ段(後進変速段)が成立させられる。また、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3の解放によりニュートラル「N」状態とされる。
前記第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3(以下、特に区別しない場合はクラッチC、ブレーキBと表す)は、従来の車両用自動変速機においてよく用いられている係合装置すなわち油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
以上のように構成された動力伝達装置10において、無段変速機として機能する差動部11と自動変速部20とで全体として無段変速機が構成される。また、差動部11の変速比を一定となるように制御することにより、差動部11と自動変速部20とで有段変速機と同等の状態を構成することが可能とされる。
具体的には、差動部11が無段変速機として機能し、且つ差動部11に直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の少なくとも1つの変速段Mに対して自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度N18(以下、「伝達部材回転速度N18」と表す)が無段的に変化させられてその変速段Mにおいて無段的な変速比幅が得られる。したがって、動力伝達装置10の総合変速比γT(=入力軸14の回転速度NIN/出力軸22の回転速度NOUT)が無段階に得られ、動力伝達装置10において無段変速機が構成される。この動力伝達装置10の総合変速比γTは、差動部11の変速比γ0と自動変速部20の変速比γとに基づいて形成される動力伝達装置10全体としてのトータル変速比γTである。
例えば、図2の係合作動表に示される自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段や後進ギヤ段の各ギヤ段に対し伝達部材回転速度N18が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって、動力伝達装置10全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られる。
また、差動部11の変速比が一定となるように制御され、且つクラッチCおよびブレーキBが選択的に係合作動させられて第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する動力伝達装置10のトータル変速比γTが各ギヤ段毎に得られる。したがって、動力伝達装置10において有段変速機と同等の状態が構成される。
例えば、差動部11の変速比γ0が「1」に固定されるように制御されると、図2の係合作動表に示されるように自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段や後進ギヤ段の各ギヤ段に対応する動力伝達装置10のトータル変速比γTが各ギヤ段毎に得られる。また、自動変速部20の第4速ギヤ段において差動部11の変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定されるように制御されると、第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.7」程度であるトータル変速比γTが得られる。
図3は、差動部11と自動変速部20とから構成される動力伝達装置10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28、30のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、横線X1が回転速度零を示し、横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度NEを示し、横線XGが伝達部材18の回転速度を示している。
また、差動部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する差動部サンギヤS0、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する差動部キャリヤCA0、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する差動部リングギヤR0の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は差動部遊星歯車装置24のギヤ比ρ0に応じて定められている。さらに、自動変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第1サンギヤS1および第2サンギヤS2を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第1キャリヤCA1を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する第3リングギヤR3を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応し且つ相互に連結された第1リングギヤR1、第2キャリヤCA2、第3キャリヤCA3を、第8回転要素(第8要素)RE8に対応し且つ相互に連結された第2リングギヤR2、第3サンギヤS3をそれぞれ表し、それらの間隔は第1、第2、第3遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρ1、ρ2、ρ3に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、差動部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ0に対応する間隔に設定される。また、自動変速部20では各第1、第2、第3遊星歯車装置26、28、30毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の動力伝達装置10は、動力分配機構16(差動部11)において、差動部遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(差動部キャリヤCA0)が入力軸14すなわちエンジン8および第3電動機M3に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結され、第3回転要素(差動部リングギヤR0)RE3が伝達部材18および第2電動機M2に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により差動部サンギヤS0の回転速度と差動部リングギヤR0の回転速度との関係が示される。
例えば、差動部11においては、第1回転要素RE1乃至第3回転要素RE3が相互に相対回転可能とされる差動状態とされており、直線L0と縦線Y3との交点で示される差動部リングギヤR0の回転速度が車速Vに拘束されて略一定である場合には、エンジン回転速度NEを制御することによって直線L0と縦線Y2との交点で示される差動部キャリヤCA0の回転速度が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y1との交点で示される差動部サンギヤS0の回転速度すなわち第1電動機M1の回転速度が上昇或いは下降させられる。なお、正常動作では第2電動機M2は一方向にしか回転せず第1電動機M1は正逆両方向に回転し得るので、第2電動機M2の回転方向と同じ第1電動機M1の回転方向を第1電動機M1の正回転方向とする。従って、第1電動機M1が逆回転方向(負回転方向)に回転している場合にその回転速度NM1が零に近付けられることは回転方向(符号の正負)をも考慮すればその値は大きくなるので、第1電動機回転速度NM1が引き上げられるということである。
また、差動部11の変速比γ0が「1」に固定されるように第1電動機M1の回転速度を制御することによって差動部サンギヤS0の回転がエンジン回転速度NEと同じ回転とされると、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度NEと同じ回転で差動部リングギヤR0の回転速度すなわち伝達部材18が回転させられる。或いは、差動部11の変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定されるように第1電動機M1の回転速度を制御することによって差動部サンギヤS0の回転が零とされると、エンジン回転速度NEよりも増速された回転で伝達部材回転速度N18が回転させられる。
また、自動変速部20において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は出力軸22に連結され、第8回転要素RE8は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
自動変速部20では、差動部11において出力回転部材である伝達部材18(第3回転要素RE3)の回転が第1クラッチC1が係合されることで第8回転要素RE8に入力されると、図3に示すように、第1クラッチC1と第3ブレーキB3とが係合させられることにより、第8回転要素RE8の回転速度を示す縦線Y8と横線XGとの交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第1速(1st)の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第2速(2nd)の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L3と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第3速(3rd)の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第4速(4th)の出力軸22の回転速度が示される。
図4は、本実施例の動力伝達装置10を制御するための制御装置である電子制御装置80に入力される信号及びその電子制御装置80から出力される信号を例示している。この電子制御装置80は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8、第1、第2、第3電動機M1、M2、M3に関するハイブリッド駆動制御、自動変速部20の変速制御等の駆動制御を実行するものである。
電子制御装置80には、図4に示すような各センサやスイッチなどから、エンジン8の冷却流体の温度であるエンジン水温TEMPWを表す信号、シフトレバー52(図6参照)のシフトポジションPSHや「M」ポジションにおける操作回数等を表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、ギヤ比列設定値を表す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を表す信号、車速センサ46により検出される出力軸22の回転速度NOUTに対応する車速V及び車両の進行方向を表す信号、自動変速部20の作動油温TOILを表す信号、サイドブレーキ操作を表す信号、フットブレーキ操作を表す信号、触媒温度を表す信号、運転者の出力要求量に対応するアクセルペダルの操作量であるアクセル開度Accを表す信号、カム角を表す信号、スノーモード設定を表す信号、車両の前後加速度Gを表す信号、オートクルーズ走行を表す信号、車両の重量(車重)を表す信号、各車輪の車輪速を表す信号、レゾルバなどの回転速度センサにより検出される第1電動機M1の回転速度NM1(以下、「第1電動機回転速度NM1」と表す)及びその回転方向を表す信号、レゾルバなどの回転速度センサ44により検出される第2電動機M2の回転速度NM2(以下、「第2電動機回転速度NM2」と表す)及びその回転方向を表す信号、レゾルバなどの回転速度センサにより検出される第3電動機M3の回転速度NM3(以下、「第3電動機回転速度NM3」と表す)及びその回転方向を表す信号、各電動機M1,M2,M3との間でインバータ54を介して充放電を行う蓄電装置56(図7参照)の充電残量(充電状態)SOCを表す信号などが、それぞれ供給される。なお、上記回転速度センサ及び車速センサ46は回転速度だけでなく回転方向をも検出できるセンサであり、車両走行中に自動変速部20が中立ポジションである場合には車速センサ46によって車両の進行方向が検出される。
また、上記電子制御装置80からは、エンジン8の出力PE(単位は例えば「kW」。以下、「エンジン出力PE」と表す。)を制御するエンジン出力制御装置58(図7参照)への制御信号例えばエンジン8の吸気管60に備えられた電子スロットル弁62のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ64への駆動信号や燃料噴射装置66による吸気管60或いはエンジン8の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置68によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、電動機M1、M2およびM3の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、差動部11や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路70(図7参照)に含まれる電磁弁(リニアソレノイドバルブ)を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路70に設けられたレギュレータバルブ(調圧弁)によりライン油圧PLを調圧するための信号、そのライン油圧PLが調圧されるための元圧の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
図5は、油圧制御回路70のうちクラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)AC1、AC2、AB1、AB2、AB3の作動を制御するリニアソレノイドバルブSL1〜SL5に関する回路図、並びにこれらの各リニアソレノイドバブルSL1〜SL5にライン圧PLを供給するための機械式オイルポンプ72、電動オイルポンプ74、レギュレータバルブ76、およびリニアソレノイドバブルSLTに関する回路図である。
図5において、各油圧アクチュエータAC1、AC2、AB1、AB2、AB3には、ライン油圧PLがそれぞれリニアソレノイドバルブSL1〜SL5により電子制御装置80からの指令信号に応じた係合圧PC1、PC2、PB1、PB2、PB3に調圧されてそれぞれ直接的に供給されるようになっている。
リニアソレノイドバルブSL1〜SL5は、基本的には何れも同じ構成で、電子制御装置80により独立に励磁、非励磁され、各油圧アクチュエータAC1、AC2、AB1、AB2、AB3の油圧が独立に調圧制御されてクラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2の係合圧PC1、PC2、PB1、PB2、PB3が制御される。そして、自動変速部20は、例えば図2の係合作動表に示すように予め定められた係合装置が係合されることによって各変速段が成立させられる。また、自動変速部20の変速制御においては、例えば変速に関与するクラッチCやブレーキBの解放と係合とが同時に制御される所謂クラッチツウクラッチ変速が実行される。
油圧制御回路70は、エンジン8に連結されることでエンジン8に連動して駆動される機械式オイルポンプ72および電力により駆動する電動オイルポンプ74の2つのオイルポンプを備えている。機械式オイルポンプ72は、図示しないドリブンギヤとドライブギヤとにより構成されるギヤ式オイルポンプとして構成されている。機械式オイルポンプ72はエンジン8の出力軸に接続されており、エンジン8の回転により駆動される。これより、エンジン8の駆動中(回転中)は機械式オイルポンプ72は駆動されており、エンジン8が停止しているときは機械式オイルポンプ72は停止されている。電動オイルポンプ74は、定容積型のギヤ式ポンプからなり、駆動源として機能する回転速度制御可能な図示しないオイルポンプモータによって駆動される。そして、オイルポンプモータの回転速度が制御されることにより電動式オイルポンプ74の吐出量が制御される。
機械式オイルポンプ72および電動式オイルポンプ74は並列に配設されており、機械式オイルポンプ72および電動式オイルポンプ74のいずれか一方または両方を駆動させることで、図示しないオイルパンに貯留された作動油がストレーナ78を通って汲み上げられる。そして、この作動油は、これらのオイルポンプの下流側に配設されたレギュレータバルブ76によってライン圧PLに調圧される。レギュレータバルブ76はリリーフ型の調圧弁であり、図示しないモジュレータバルブから出力されるモジュレータ圧PMを元圧として、リニアソレノイドバブルSLTから出力される信号圧PSLTに基づいて、アクセル開度Acc或いはスロットル弁開度θTHで表されるエンジン負荷等に応じた油圧に調圧するようになっている。なお、リニアソレノイドバルブSLTも同様に、電子制御装置80により独立に励磁、非励磁されることにより信号圧PSLTを制御する。
図6は複数種類のシフトポジションPSHを人為的操作により切り換える切換装置としてのシフト操作装置50の一例を示す図である。このシフト操作装置50は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションPSHを選択するために操作されるシフトレバー52を備えている。
そのシフトレバー52は、動力伝達装置10内つまり自動変速部20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ自動変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、動力伝達装置10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とするための中立ポジション「N(ニュートラル)」、自動変速モードを成立させて差動部11の無段的な変速比幅と自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の範囲で自動変速制御される各ギヤ段とで得られる動力伝達装置10の変速可能なトータル変速比γTの変化範囲内で自動変速制御を実行させる前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、または手動変速走行モード(手動モード)を成立させて自動変速部20における高速側の変速段を制限する所謂変速レンジを設定するための前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。
上記シフトレバー52の各シフトポジションPSHへの手動操作に連動して図2の係合作動表に示す後進ギヤ段「R」、ニュートラル「N」、前進ギヤ段「D」における各変速段等が成立するように、例えば油圧制御回路70が電気的に切り換えられる。
上記「P」乃至「M」ポジションに示す各シフトポジションPSHにおいて、「P」ポジションおよび「N」ポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1および第2クラッチC2のいずれもが解放されるような自動変速部20内の動力伝達経路が遮断された車両を駆動不能とする第1クラッチC1および第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達遮断状態へ切換えを選択するための非駆動ポジションである。また、「R」ポジション、「D」ポジションおよび「M」ポジションは、車両を走行させるときに選択される走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとも一方が係合されるような自動変速部20内の動力伝達経路が連結された車両を駆動可能とする第1クラッチC1および/または第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達可能状態への切換えを選択するための駆動ポジションでもある。
具体的には、シフトレバー52が「P」ポジション或いは「N」ポジションから「R」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされ、シフトレバー52が「N」ポジションから「D」ポジションへ手動操作されることで、少なくとも第1クラッチC1が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされる。また、シフトレバー52が「R」ポジションから「P」ポジション或いは「N」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされ、シフトレバー52が「D」ポジションから「N」ポジションへ手動操作されることで、第1クラッチC1および第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされる。
図7は、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図7において、有段変速制御手段82は、図8に示すような車速Vと自動変速部20の出力トルクTOUTとを変数として予め記憶されたアップシフト線(実線)およびダウンシフト線(一点鎖線)を有する関係(変速線図、変速マップ)から実際の車速Vおよび自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、自動変速部20の変速を実行すべきか否かを判断しすなわち自動変速部20の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速部20の自動変速制御を実行する。
このとき、有段変速制御手段82は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように、自動変速部20の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合および/または解放させる指令(変速出力指令、油圧指令)を、すなわち自動変速部20の変速に関与する解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合することによりクラッチツウクラッチ変速を実行させる指令を油圧制御回路70へ出力する。油圧制御回路70は、その指令に従って、例えば解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合して自動変速部20の変速が実行されるように、油圧制御回路70内のリニアソレノイドバルブを作動させてその変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを作動させる。
ハイブリッド制御手段84は、エンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて差動部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速Vにおいて、運転者の出力要求量としてのアクセル開度Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、その車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力(要求エンジン出力)PERを算出し、その目標エンジン出力PERが得られるエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとなるようにエンジン8を制御するとともに第1電動機M1の発電量を制御する。
例えば、ハイブリッド制御手段84は、その制御を動力性能や燃費向上などのために自動変速部20の変速段を考慮して実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度NEと車速Vおよび自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、差動部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段84は、エンジン回転速度NEとエンジン8の出力トルク(エンジントルク)TEとで構成される二次元座標内において無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に求められた図9の破線に示すようなエンジン8の動作曲線の一種である最適燃費率曲線(燃費マップ、関係)を予め記憶しており、その最適燃費率曲線にエンジン8の動作点(以下、「エンジン動作点」と表す)が沿わされつつエンジン8が作動させられるように、例えば目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力PEを発生するためのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとなるように、動力伝達装置10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように自動変速部20の変速段を考慮して差動部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内で制御する。ここで、上記エンジン動作点とは、エンジン回転速度NE及びエンジントルクTEなどで例示されるエンジン8の動作状態を示す状態量を座標軸とした二次元座標においてエンジン8の動作状態を示す動作点である。
このとき、ハイブリッド制御手段84は、第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ54を通して蓄電装置56や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は第1電動機M1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ54を通してその電気エネルギが第2電動機M2へ供給され、その第2電動機M2が駆動されて第2電動機M2から伝達部材18へ伝達される。この電気エネルギの発生から第2電動機M2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。また必要に応じてハイブリッド制御手段84は、エンジン8の出力軸に連結された第3電動機M3を発電機として機能させてエンジン8の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギはインバータ54に供給される。
また、ハイブリッド制御手段84は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によって第1電動機回転速度NM1および/または第2電動機回転速度NM2を制御してエンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に回転制御する。言い換えれば、ハイブリッド制御手段84は、エンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に制御しつつ第1電動機回転速度NM1および/または第2電動機回転速度NM2を任意の回転速度に回転制御することができる。
例えば、図3の共線図からもわかるようにハイブリッド制御手段84は車両走行中にエンジン回転速度NEを引き上げる場合には、車速V(駆動輪34)に拘束される第2電動機回転速度NM2を略一定に維持しつつ第1電動機回転速度NM1の引き上げを実行する。このときハイブリッド制御手段84は、第1電動機回転速度NM1の引き上げに替えて又はこれと並行して、第3電動機回転速度NM3の引き上げを実行してエンジン回転速度NEを引き上げてもよい。また、ハイブリッド制御手段84は自動変速部20の変速中にエンジン回転速度NEを略一定に維持する場合には、エンジン回転速度NEを略一定に維持しつつ自動変速部20の変速に伴う第2電動機回転速度NM2の変化とは反対方向に第1電動機回転速度NM1を変化させる。
また、ハイブリッド制御手段84は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置58に出力して、必要なエンジン出力PEを発生するようにエンジン8の出力制御を実行するエンジン出力制御手段92を備えている。
例えば、エンジン出力制御手段92(ハイブリッド制御手段84)は、基本的には図示しない予め記憶された関係からアクセル開度Accに基づいてスロットルアクチュエータ64を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。また、このエンジン出力制御装置58は、エンジン出力制御手段92(ハイブリッド制御手段84)による指令に従って、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御する他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御するなどしてエンジントルク制御を実行する。
また、ハイブリッド制御手段84は、エンジン8の停止又はアイドル状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によって、第2電動機M2を走行用の駆動力源とするモータ走行(電気走行)をさせることができる。例えば、ハイブリッド制御手段84は、一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルクTOUT域すなわち低エンジントルクTE域、或いは車速Vの比較的低車速域すなわち低負荷域において、モータ走行を実行する。また、ハイブリッド制御手段84は、このモータ走行時には、停止しているエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、第1電動機回転速度NM1を負の回転速度で制御して例えば第1電動機M1を無負荷状態とすることにより空転させて、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)により必要に応じてエンジン回転速度NEを零乃至略零に維持する。
また、ハイブリッド制御手段84は、エンジン8を走行用の駆動力源とするエンジン走行を行うエンジン走行領域であっても、上述した電気パスによる第1電動機M1からの電気エネルギおよび/または蓄電装置56からの電気エネルギを第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動して駆動輪34にトルクを付与することにより、エンジン8の動力を補助するための所謂トルクアシストが可能である。よって、本実施例のエンジン走行にはエンジン8を走行用の駆動力源とする場合と、エンジン8及び第2電動機M2の両方を走行用の駆動力源とする場合とがある。そして、本実施例のモータ走行とはエンジン8を停止して第2電動機M2を走行用の駆動力源とする走行である。
また、ハイブリッド制御手段84は、第1電動機M1を無負荷状態として自由回転すなわち空転させることにより、差動部11がトルクの伝達を不能な状態すなわち差動部11内の動力伝達経路が遮断された状態と同等の状態であって、且つ差動部11からの出力が発生されない状態とすることが可能である。すなわち、ハイブリッド制御手段84は、第1電動機M1を無負荷状態とすることにより差動部11をその動力伝達経路が電気的に遮断される中立状態(ニュートラル状態)とすることが可能である。
また、ハイブリッド制御手段84は、アクセルオフの惰性走行時(コースト走行時)やフットブレーキによる制動時などには、燃費を向上(燃料消費率を低減)させるためにエンジン8を非駆動状態にして、駆動輪34から伝達される車両の運動エネルギを差動部11で電気エネルギに変換する回生制御、具体的には、上記車両の運動エネルギすなわち駆動輪34からエンジン8側へ伝達される逆駆動力により第2電動機M2を回転駆動させて発電機として作動させ、その電気エネルギすなわち第2電動機発電電流をインバータ54を介して蓄電装置56へ充電する回生制御を実行する。すなわち、ハイブリッド制御手段84は上記回生制御を実行する回生制御手段としての機能を含んでおり、アクセル開度Acc、車速V、ブレーキペダル操作量、蓄電装置56の充電残量SOC、自動変速部20の変速段などで例示される車両状態を示す状態量に基づいて定まる動力伝達装置10の動作点が、予め実験的に定められた上記回生制御を実行すべき回生領域に属する場合には、上記回生制御を実行する。この回生制御では、上記第2電動機M2により回生される電気エネルギすなわちこの回生制御における回生量が、蓄電装置56の充電残量SOCやブレーキペダル操作量に応じた制動力を得るために油圧ブレーキによる制動力の制動力配分等に基づいて決定された必要とされる回生量である回生要求量となるように制御される。
ところで、動力伝達装置10は、図5に示したように機械式オイルポンプ72と電動オイルポンプ74とが並列に配設されており、車両の走行状態に応じて適宜作動が切り換えられるなどして駆動される。例えば、エンジン走行中では、エンジン8が駆動されるに伴い機械式オイルポンプ72が駆動されるため、電動オイルポンプ74は停止される。一方、モータ走行に切り換えられると、エンジン8が停止されることで機械式オイルポンプ72が停止されるので、電動オイルポンプ74が駆動されることとなる。したがって、モータ走行中であっても自動変速部20に必要な油圧を供給することが可能となり、自動変速部20の変速制御が可能となる。
ここで、モータ走行中において、例えば電動オイルポンプ74の故障などに起因して自動変速部20に必要な油圧を供給することが出来なくなると、自動変速部20の油圧式摩擦係合装置(クラッチC、ブレーキB)の回転要素間に滑りが生じ、車両の走行が困難となる可能性があった。そこで、本実施例では、モータ走行中に自動変速部20の滑りが検出されると、エンジン8を始動させて機械式オイルポンプ72を駆動させる制御を実施する。以下、上記制御について説明する。
図7に戻り、滑り発生判断手段86は、自動変速部20に供給される油圧の低下に伴って、自動変速部20に滑りが発生したか否かを判断する。自動変速部20に正常な油圧が供給される場合、車速センサ46によって検出される出力軸回転速度NOUTとそのときの変速段に対応する変速比γ(図2参照)との積(=NOUT×γ)で算出される入力軸回転速度NINCと、実際の入力軸回転速度NINFとの偏差ΔNINが略零となる。ところが、例えば電動オイルポンプ74が故障すると、自動変速部20に供給されるべき元圧(並びにライン圧PL)が低下するため、自動変速部20の油圧式摩擦係合装置(クラッチC、ブレーキB)の係合力が低下し、自動変速部20のトルク容量が低下する。これに伴い、油圧式摩擦係合装置(クラッチC、ブレーキB)の回転要素間において滑りが発生するため、自動変速部20の変速比γと出力軸回転速度NOUTに基づいて算出される入力軸回転速度NINC(=NOUT×γ)と、実際の入力軸回転速度NINFとの偏差ΔNINが正常時よりも大きくなる。
上記より、滑り発生判断手段86は、自動変速部20の機械的に設定された変速比γと出力軸回転速度NOUTとの積から算出される自動変速部20の入力軸回転速度NINCと、実際の入力軸回転速度NINFとの偏差ΔNINを検出し、その偏差ΔNINが所定の値Xを越えるとき、自動変速部20に滑りが発生したものと判断する。上記所定の値Xは、予め実験的もしくは解析的に求められ、自動変速部20が正常に作動するものと判断できる境界値に設定される。具体的には、所定の値Xは、略零程度の低い値に設定される。なお、通常、自動変速部20のトルク容量が低下すると、第2電動機M2の入力トルクが自動変速部20の伝達可能なトルク量よりも相対的に大きくなることから、第2電動機M2の回転速度上昇(吹き)が発生する。
モータ走行判定手段88は、現在の車両の走行がモータ走行状態であるか否かを判定する。具体的には、モータ走行判定手段88は、車両の走行状態が図8の太実線Aで示すモータ走行領域内にあるか否かを判定する。ここで、車両の走行状態が、エンジン走行領域から太実線Aを跨いで、モータ走行領域内に入ると、エンジン8の停止制御が開始され、第2電動機M2によるモータ走行が開始される。なお、モータ走行判定手段88は、モータ走行を判定する手段であると共に、現在の油圧制御回路70への油圧供給源が電動オイルポンプ74であるか否かを判定する手段でもある。
そして、滑り発生判断手段86によって、自動変速機20の滑り発生が判断されると共に、モータ走行判定手段88によってモータ走行状態と判定されると、エンジン始動手段90が実施される。エンジン始動手段90は、動力分配機構16の入力軸14に連結された第3電動機M3によってエンジン8を始動させる。ここで、第3電動機M3は、上述したように、エンジン8に連結された入力軸14に直接連結されているので、第3電動機M3のみによってエンジン8を始動させることができる。
ここで、従来では第1電動機M1および第2電動機M2の回転制御によるエンジン始動が実施されているが、例えば第2電動機M2が自動変速部20の出力軸22に連結されている場合、自動変速部20が動力伝達不能となると、第2電動機M2の動力が差動部11に伝達されず、エンジン8の始動が困難となる。これに対して、第3電動機M3はエンジン8に直接的に連結されているので、エンジン8を確実に始動させることが可能となる。
そして、エンジン8が始動されるに伴い、機械式オイルポンプ72が駆動され、油圧制御回路70に必要となる元圧(並びにライン圧PL)が供給されることとなる。そして、油圧制御回路70に必要となる元圧が供給されて自動変速機20の滑りがなくなると、エンジン出力制御手段92は、フェールセーフ手段として、油圧の供給が停止されないように、エンジン8の間欠運転を禁止し、エンジン回転を継続させる。なお、このとき、速やかに油圧制御回路70に必要な油圧を供給するため、エンジン回転速度NEを通常よりも上昇させる制御を実施しても構わない。
また、機械式オイルポンプ72が駆動されて必要な元圧が供給される場合であっても、例えばライン圧PLを調圧するレギュレータバルブ76の異物の噛み込みやリニアソレノイドバブルSLTの故障等が発生すると、ライン圧PLが低下し、自動変速部20のトルク容量が不足して滑りが発生することがある。そこで、エンジン出力制御手段92は、フェールセーフ手段として、機械式オイルポンプ72が駆動されても滑りが検出される場合、エンジン8の駆動力制限を実施する。エンジン8の駆動力が制限(抑制)されると、自動変速部20に入力される入力トルクと自動変速機20が伝達可能なトルクとのトルク差が小さくなるので、自動変速部20で発生する滑りが抑制され、自動変速部20の油圧式摩擦係合要素(クラッチC、ブレーキB)の摩擦材等の耐久性低下が抑制される。なお、エンジン8の駆動力制限量は、例えば滑りの発生量、すなわち偏差ΔNINの大きさ応じて変更され、具体的には、偏差ΔNINが大きくなるに従って、制限量(抑制量)が大きくなるように変更される。
図10は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわちモータ走行中に自動変速部20に滑りが発生したとき、油圧の供給源を切り換えることで自動変速部20を正常に作動させる制御作動を説明するフローチャートであって、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
先ず、滑り発生判断手段86に対応するステップSA1(以下、ステップを省略)において、自動変速部20に滑りが発生したか否かが判定される。SA1が否定されると、自動変速部20(油圧制御回路70)に必要な油圧が供給されているものと判定され、本ルーチンは終了させられる。SA1が肯定されると、モータ走行判定手段88に対応するSA2において、車両の走行がモータ走行であるか否かが判定される。SA2が否定されると、ハイブリッド制御手段84(エンジン出力制御手段92)に対応するSA4において、フェールセーフ制御が実施される。具体的には、エンジン走行中すなわち機械式オイルポンプ72駆動中に自動変速部20に滑りが発生したことから、元圧は正常に供給されているものと推測される。したがって、滑りが発生した原因として、例えばレギュレータバルブ76の異物の噛み込みやリニアソレノイドバブルSLTの電気的な故障等が発生したものと推測される。そこで、スロットル弁開度θTHの上限設定やエンジン8の遅角制御等を実施することにより、自動変速部20に入力される入力トルクを抑制(駆動力制限)する。これにより、自動変速部20で発生する滑りが抑制されることとなる。
一方、SA2が否定されると、エンジン始動手段90並びにエンジン出力制御手段92に対応するSA3において、第3電動機M3によるエンジン始動が実施される。エンジン8が駆動されると、機械式オイルポンプ72が駆動され、自動変速部20(油圧制御回路70)に必要な元圧が供給される。そして、フェールセーフ制御が実施される。具体的には、機械式オイルポンプ72が駆動されることにより、自動変速部20の滑りがなくなると、上記滑りが電動オイルポンプ74の故障に起因するものと判断され、エンジン8の間欠運転を禁止し、エンジン8を継続して駆動させる。また、機械式オイルポンプ72が駆動されても自動変速部20に滑りが発生する場合、上記滑りが電動オイルポンプ74の故障に起因するものではなく、例えばレギュレータバルブ76の異物の噛み込みやリニアソレノイドバブルSLTの電気的故障等に起因すると判断される。このようなとき、エンジン8の駆動力制限が実施され、自動変速部20の入力トルクが抑制(制限)される。これにより、自動変速機20へ伝達される入力トルクが低下されるので、自動変速部20の滑りが抑制される。
上述のように、本実施例によれば、モータ走行(電気走行)中に、油圧系部品の故障に起因して自動変速機20に滑りが発生した場合、動力分配機構16の入力軸14に動力伝達可能に連結された第3電動機M3によってエンジン8を始動させるエンジン始動手段90を備えるため、例えば油圧系部品の故障が電動オイルポンプ74であった場合、エンジン8を始動させるに伴って機械式オイルポンプ72が起動されて、自動変速機20に必要な油圧を供給することができる。これにより、自動変速機20が動力伝達可能状態となるので、車両の走行が可能となる。
また、本実施例によれば、第2電動機M2が自動変速機20を介して差動部11に連結されている場合、自動変速機20のトルク容量の低下によって、第2電動機M2の動力が差動部11に伝達できなくなり、第2電動機M2の駆動を伴うエンジン始動が不可能となるが、エンジン8に動力伝達可能に連結された第3電動機M3によってエンジン8を始動させるため、第2電動機M2が動力伝達不能となってもエンジン始動を実施することができる。
また、本実施例によれば、滑りの発生は、自動変速機20の機械的に設定された変速比γとその自動変速機20の出力軸回転速度NOUTとから算出される自動変速機20の入力軸回転速度NINCと、実際の入力軸回転速度NINFとの偏差ΔNINに基づいて判定される。このようにすれば、自動変速機20に発生した滑りを容易に判断することができる。
また、本実施例によれば、自動変速機20の変速段に応じて予め機械的に設定された変速比γに基づいて偏差ΔNINを算出することができる。
また、本実施例によれば、エンジン8が始動される伴って機械式オイルポンプ72が駆動されることで、自動変速機20の滑りがなくなる場合、エンジン8の間欠運転を禁止し、エンジン8の駆動を継続させるため、自動変速機20に必要な油圧が常時供給されて、通常の走行が可能となる。
また、本実施例によればエンジン8が始動されることで機械式オイルポンプ72が起動されても自動変速機20の滑りがなくならない場合、言い換えれば、電動オイルポンプ74以外の油圧系部品の故障により油圧が供給されない場合、エンジン8の駆動力制限を実施するため、自動変速機20へ入力される入力トルクに対する自動変速機20のトルク容量不足に伴う滑りの増大を抑制することができ、自動変速機20の耐久性低下を抑制することができる。
つぎに、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
図11は、本発明の他の実施例である車両用動力伝達装置150の構成を説明する骨子図である。動力伝達装置150を前述した動力伝達装置10と比較すると、第2電動機M2の連結位置が差動部11の出力軸(伝達部材18)から自動変速部20の出力軸22に変更されただけであり、他の構成は動力伝達装置10と同様となっている。上記の構成である場合、例えば電動オイルポンプ74が故障すると、自動変速部20が動力伝達不能となり、第2電動機M2の動力が差動部11に伝達されなくなる。したがって、従来実施されていた第1電動機M1および第2電動機M2によるエンジン始動が困難となる。そこで、エンジン始動手段90は、第3電動機M3によってエンジン8を始動させることで、第2電動機M2の動力が差動部11に伝達されなくなってもエンジン始動が可能となる。これにより、前述の実施例と同様の効果が得られ、しかも、動力伝達装置150のように、第2電動機M2の動力が差動部11に伝達されなくなってもエンジン始動が可能となる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、第2電動機M2が差動部11の出力軸(伝達部材18)或いは、自動変速部20の出力軸22に連結されるものであったが、第2電動機M2の連結位置は上記に限定されず、エンジン8又は伝達部材18から駆動輪34までの間の動力伝達経路に直接的或いは変速機、遊星歯車装置、係合装置等を介して動力伝達可能に連結されていてもよい。
また、前述の実施例では、自動変速機20の滑りの発生は、入力軸回転速度NINの偏差ΔNINに基づいて判断されたが、入力軸回転速度NINの瞬間的な回転速度上昇(吹き)を検出することで判断することもできる。或いは、自動変速機20の予め機械的に設定されている変速比と、実際の入力軸回転速度NINおよび出力軸回転速度NOUTから算出される実際の変速比とを、比較することで判断することもできる。したがって、自動変速機20の滑りの検出は、上記方法やライン圧PLを直接検出するなど、他の方法によって検出しても構わない。
また、前述の実施例では、第1電動機M1の運転状態が制御されることにより、差動部11はその変速比γ0が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能するものであったが、たとえば差動部11の変速比γ0を連続的ではなく差動作用を利用して敢えて段階的に変化させるものであっても本発明は適用することができる。
また、前述の実施例において、差動部11は、動力分配機構16に設けられて差動作用を制限することにより少なくとも前進2段の有段変速機としても作動させられる差動制限装置を備えたものであってもよい。
また、前述の実施例では、エンジン8は入力軸14と直結されていたが、たとえばギヤ、ベルト等を介して作動的に連結されておればよく、共通の軸心上に配置される必要もない。
また、前述の実施例では、第1電動機M1、第2電動機M2及び第3電動機M3は、入力軸14に同心に配置されて第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され第2電動機M2は伝達部材18に連結され第3電動機M3は差動部キャリヤCA0に連結されていたが、必ずしもそのように配置される必要はなく、たとえばギヤ、ベルト、減速機等を介して作動的に第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結され、第3電動機M3は差動部キャリヤCA0又はエンジン8に連結されていてもよい。
また、前述の実施例では、自動変速部20は伝達部材18を介して差動部11と直列に連結されていたが、入力軸14と平行にカウンタ軸が設けられてそのカウンタ軸上に同心に自動変速部20が配列されていてもよい。この場合には、差動部11と自動変速部20とは、たとえば伝達部材18としてカウンタギヤ対、スプロケットおよびチェーンで構成される1組の伝達部材などを介して動力伝達可能に連結される。
また、前述の実施例ではエンジン8と差動部11とが直接連結されているが、必ずしも直接連結される必要はなく、エンジン8と差動部11とがそれらの間にクラッチを介して連結されていてもよい。
また、前述の実施例では、差動部11と自動変速部20とが直列接続されたような構成となっているが、特にこのような構成に限定されず、動力伝達装置10全体として電気式差動を行う機能と、動力伝達装置10全体として電気式差動による変速とは異なる原理で変速を行う機能とを、備えた構成であれば本発明は適用可能であり、機械的に独立している必要はない。また、これらの配設位置や配設順序も特に限定されない。要するに、自動変速部20は、エンジン8から駆動輪34への動力伝達経路の一部を構成するように設けられておればよい。
また、前述の実施例の動力分配機構16は、1組の遊星歯車装置(差動部遊星歯車装置24)から構成されていたが2以上の遊星歯車装置から構成されて、非差動状態(定変速状態)では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。また、差動部遊星歯車装置24はシングルピニオン型に限られたものではなくダブルピニオン型の遊星歯車装置であってもよい。また、このような2以上の遊星歯車装置から構成された場合においても、これらの遊星歯車装置の各回転要素にエンジン8、第1および第2電動機M1、M2、伝達部材18、構成によっては出力軸22が動力伝達可能に連結され、さらに遊星歯車装置の各回転要素に接続されたクラッチCおよびブレーキBの制御により有段変速と無段変速とが切り換えられるような構成であっも構わない。
また、前述の実施例の動力伝達装置10において第1電動機M1と第2回転要素RE2とは直結されており、第2電動機M2と第3回転要素RE3とは直結されており、第3電動機M3と第1回転要素RE1とは直結されているが、第1電動機M1が第2回転要素RE2にクラッチ等の係合要素を介して連結され、第2電動機M2が第3回転要素RE3にクラッチ等の係合要素を介して連結され、第3電動機M3が第1回転要素RE1にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
また、前述の実施例において、第2電動機M2はエンジン8から駆動輪34までの動力伝達経路の一部を構成する伝達部材18に連結されているが、第2電動機M2がその動力伝達経路に連結されていることに加え、クラッチ等の係合要素を介して動力分配機構16にも連結可能とされており、第1電動機M1の代わりに第2電動機M2によって動力分配機構16の差動状態を制御可能とする動力伝達装置10の構成であってもよい。
また、前述の実施例において自動変速部20は有段の自動変速部として機能する変速部であるが、無段のCVTであってもよい。
また前述の実施例において、差動部11が、第1電動機M1、第2電動機M2及び第3電動機M3を備えているが、第1電動機M1、第2電動機M2及び第3電動機M3は差動部11とはそれぞれ別個に動力伝達装置10に備えられていてもよい。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
8:エンジン
10、150:車両用動力伝達装置
11:差動部(電気式差動部)
14:入力軸(差動機構の入力軸)
16:動力分配機構(差動機構)
18:伝達部材(出力軸)
20:自動変速部(有段変速機、機械式動力伝達部)
34:駆動輪
72:機械式オイルポンプ
74:電動オイルポンプ
90:エンジン始動手段
M1:第1電動機
M2:第2電動機
M3:第3電動機
10、150:車両用動力伝達装置
11:差動部(電気式差動部)
14:入力軸(差動機構の入力軸)
16:動力分配機構(差動機構)
18:伝達部材(出力軸)
20:自動変速部(有段変速機、機械式動力伝達部)
34:駆動輪
72:機械式オイルポンプ
74:電動オイルポンプ
90:エンジン始動手段
M1:第1電動機
M2:第2電動機
M3:第3電動機
Claims (3)
- エンジンと駆動輪との間に連結された差動機構と、該差動機構に動力伝達可能に連結された第1電動機とを有し、該第1電動機の運転状態が制御されることにより該差動機構の前記エンジンに連結された入力軸の回転速度および出力軸の回転速度の差動状態が制御される電気式差動部と、前記駆動輪に動力伝達可能に連結された第2電動機と、電動オイルポンプおよび前記エンジンにより駆動される機械式オイルポンプによって発生させられる油圧を元圧とする油圧によって動力伝達状態が制御される機械式動力伝達部とを備えた車両用動力伝達装置の制御装置であって、
電気走行中において、油圧系部品の故障に起因して前記機械式動力伝達部に滑りが発生した場合、前記差動機構の入力軸に動力伝達可能に連結された第3電動機によって前記エンジンを始動させるエンジン始動手段を備えることを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。 - 前記滑りの発生は、前記機械式動力伝達部の機械的に設定された変速比と該機械式動力伝達部の出力軸回転速度とから算出される機械式動力伝達部の入力軸回転速度と、実際の入力軸回転速度との偏差に基づいて判定されることを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置。
- 前記機械式動力伝達部は有段変速機であることを特徴とする請求項1または2の車両用動力伝達装置の制御装置。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2008205750A JP2010036867A (ja) | 2008-08-08 | 2008-08-08 | 車両用動力伝達装置の制御装置 |
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Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
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Cited By (4)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
WO2012057130A1 (ja) * | 2010-10-26 | 2012-05-03 | 日産自動車株式会社 | 車輌の制御装置及び制御方法 |
JP2013035415A (ja) * | 2011-08-08 | 2013-02-21 | Aisin Aw Co Ltd | 制御装置 |
JP2013121819A (ja) * | 2011-12-09 | 2013-06-20 | Hyundai Motor Co Ltd | ハイブリッド車両用変速機の油圧異常診断および制御方法 |
JP2013170626A (ja) * | 2012-02-21 | 2013-09-02 | Toyota Motor Corp | 異常判定装置 |
-
2008
- 2008-08-08 JP JP2008205750A patent/JP2010036867A/ja active Pending
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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WO2012057130A1 (ja) * | 2010-10-26 | 2012-05-03 | 日産自動車株式会社 | 車輌の制御装置及び制御方法 |
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